説明

水溶性、カチオン性および両親媒性の薬学的に活性な物質を投与するためのドラッグ・デリバリー・システム

水溶性、カチオン性および両親媒性の薬学的に活性な物質(API)を投与するためのドラッグ・デリバリー・システム(DDS)。上記DDSは、N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸メチルエステルのナトリウム塩および/またはN−13−シス−レチノイルシステイン酸メチルエステルのナトリウム塩とAPIの水に難溶性の複合体の<100nmの非晶質粒子を含み、上記粒子は、N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸メチルエステルのナトリウム塩および/またはN−13−シス−レチノイルシステイン酸メチルエステルのナトリウム塩で形成されたナノ粒子中に捕捉されており、N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸メチルエステルのナトリウム塩および/またはN−13−シス−レチノイルシステイン酸メチルエステルのナトリウム塩対複合体の重量/重量比は約0.5:1〜約20:1である。かかるDDSを含む医薬組成物。かかるDDSおよびかかる医薬組成物を調製するための方法。癌の治療用のかかるDDSおよび医薬組成物の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬学的に活性な物質を投与するためのドラッグ・デリバリー・システム、かかるドラッグ・デリバリー・システムを含む医薬組成物およびかかるドラッグ・デリバリー・システムを調製するための方法に関する。さらに、本発明はまた、癌の治療用の医薬品を調製するためのかかるドラッグ・デリバリー・システムの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
狭い治療係数を有する薬物は、用量の小さな変化が毒性作用を引き起こし得るという欠点を伴う。薬剤のレベルが均一かつ安全な結果を確保するように調整することができるように、かかる薬物を服用する患者は広範なモニタリングをしばしば必要とする。均一かつ安全な結果を損なわずにかかるモニタリングの必要をなくす強い要望がある。かかる必要性は、かかる薬物が併用療法で用いられるときに顕著になっている。
【0003】
併用療法、すなわち単一の疾患を治療するための2つ以上の薬剤の同時投与は、たとえば、結核、ハンセン病、癌、マラリア、およびHIV/AIDSなどの多数の状態の治療で用いられる。
【0004】
多くの場合、併用療法は、治療不成功率の低下、致命率の低下、抵抗性のよりゆっくりとした発生、また新規な薬物の開発の必要性の低減など、いくつかの利点を伴う。しかし、併用療法は、薬物の個々の活性の低減をもたらす併用した薬物間の拮抗作用;有害な薬物間相互作用のリスクの増加;単独療法と比較したコストの増加;および薬物関連毒性の可能性の増加などいくつかの潜在的な欠点をも有する。
【0005】
併用化学療法は、単独療法に比べて生存プロファイルを改善するため、異なるタイプの癌の治療に広範囲に用いられる。より良好な転帰は、治療中に相乗効果または相加効果をもたらす異なる作用機序を有する抗新生物薬を併用することによって得ることができる。
【0006】
併用化学療法に関連する主な問題は、単一の薬剤の逐次投与と比較した毒性の増加である。これは治療量を下回る用量になるため、用量を制限することによって均衡することができない。異なる薬剤はまた、異なる薬物動態学的な特性を有し、こうしたことから標的組織中で最適な相乗的レベルですべての薬剤の濃度を維持することが難しい。
【0007】
ドキソルビシンは、併用化学療法で一般的に用いられる薬物である。ドキソルビシンは、優れた抗腫瘍活性を有するが、遺憾ながら、比較的低い治療係数ならびにその使用を制限する広域の副作用をも有する。かかる1つの副作用は心毒性であり、これは通常、急性または亜急性の症候群として発生する。より多くの薬物曝露で、心筋損傷が起こることもあり、ドキソルビシンの累積生涯投与量は、450〜550mg/m2を超えないことが推奨されている。この心毒性は、ドキソルビシンを高齢の患者におよび既存の心疾患を有する患者に使用しないようにする主な原因である。
【0008】
従来の製剤を用いて、たとえば、ドキソルビシンおよびドセタキセルなどのアントラサイクリン/タキサン合剤を提供するためのいくつかの試みがなされてきた。これらの化合物は、異なる作用機序を有する単独療法の高い活性を証明している。すなわち、ドキソルビシンは、全細胞周期中酵素トポイソメラーゼIIの進行を阻害し、一方、ドセタキセルは生理的な微小管の解重合/分解を防止することにより有糸分裂の中期と後期の間の細胞分裂を邪魔する。提供される合剤は、対応する単独療法よりも有効であるが、より高い毒性を伴うことも示されている。これは、特に発熱性好中球減少症などのある種の状態の場合で、この治療が異なるタイプの癌を治療する標準的な方法にならないようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
狭い治療係数を有する薬物を服用する患者の広範なモニタリングの必要性を減らすドラッグ・デリバリー・システムを創出できることが望ましいはずである。
【0010】
本発明の一目的は、かかるドラッグ・デリバリー・システムを提供することである。
【0011】
本発明の他の目的は、併用療法に伴う薬物関連毒性を低減するまたは除去するドラッグ・デリバリー・システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
したがって、本発明の一実施形態は、単独でカチオン性両親媒性物質である少なくとも1種の薬学的に活性な物質を投与するためのドラッグ・デリバリー・システムであって、薬学的に活性な物質が、前記薬学的に活性な物質とN−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せとの間の複合体の粒子でドラッグ・デリバリー・システム中に存在し、前記複合体の前記粒子が約100nm未満の有効平均粒子サイズを有し、
−前記複合体の粒子が本質的に非晶質であり;
−前記複合体の粒子がN−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のナトリウム塩もしくはメチルエステルまたはそれらの組合せから形成されたナノ粒子中に捕捉されており;
−前記N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のナトリウム塩もしくはメチルエステル、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のナトリウム塩もしくはメチルエステルまたはそれらの組合せ対前記複合体の重量の重量対重量比が約0.5:1〜約20:1の範囲であるドラッグ・デリバリー・システムに関する。
【0013】
様々な医薬品治療係数は、本ドラッグ・デリバリー・システムによってかなり改善される。注入直後に高濃度の薬物によって主に引き起こされる副作用は、長期の注入を模倣するため、本ドラッグ・デリバリー・システムの使用によってかなり低減される。封入された物質は代謝されないようにされ、これらは粒子の溶解/侵食によって徐々に放出され、薬物濃度を治療域の範囲内で維持するのに役立つ。有毒な濃度は別として、そうでない場合、薬物抵抗性の発生をもたらし得る治療量以下の濃度はまた、本発明により避けられることに留意されたい。
【0014】
異なるタイプの医薬品を本ドラッグ・デリバリー・システムによって得られたナノ粒子中に封入することにより、これらの物質を作用の標的に同時に移動させ、それらの他の点で異なる薬物動態学的なプロファイル(たとえば、ドセタキセルの半減期はドキソルビシンよりも5倍高い)を同調させ、したがって、合剤の構成物の相乗作用の発生を刺激する。
【0015】
本発明は、たとえば、抗新生物物質などの、2つ以上の種類の薬学的に活性な物質の併用製剤の創出に適用可能である。
【0016】
薬物の中でも、本ドラッグ・デリバリー・システムに用いることができるのは、たとえば、1種または複数のアミノ基、たとえば、アントラサイクリン塩酸塩などを含むかかる薬剤などの水溶性抗新生物薬である。本発明の一態様によれば、かかるアントラサイクリン塩の溶解性は、塩素アニオンをN−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステル、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルまたはそれらの組合せのアニオンで置換することによってかなり低減される。得られた不溶性複合体は、本ドラッグ・デリバリー・システムのナノ粒子中にこれらのアントラサイクリン誘導体を負荷することを可能にし、薬物の緩徐放出を保証する。かかるアントラサイクリンの例は、ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ミトキサントロンならびに天然、合成および半合成のそれらの類似体である。
【0017】
本発明で提供される合剤で用いることができる他の種類の物質には、
−タキサン、たとえば、パクリタキセル、ドセタキセルおよび天然、合成および半合成のその類似体などの水に不溶性の抗新生物薬;
−たとえば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、ビンデシンおよび天然、合成および半合成のその類似体などのビンカアルカロイド;
−たとえば、イリノテカン、トポテカン、エトポシド、テニポシドならびに天然、合成および半合成のその類似体などのトポイソメラーゼ阻害薬;ならびに
−たとえば、アムサクリン、プロカルバジン、ビスクロロニトロソ尿素およびその類似体などのアルキル化剤
が含まれる。
【0018】
本発明の併用製剤は、様々な水溶液の形態で提供することができる。これらは、直接投与することも将来使用するために凍結乾燥することもできる。
【0019】
得られた本発明のドラッグ・デリバリー・システムにおける粒子のサイズは、約8〜100nmの範囲にある。
【0020】
低温透過型電子顕微鏡では、タキサンおよびドキソルビシンを含む本発明のドラッグ・デリバリー・システムが、約20nmのサイズを有する糸状粒子からなり、時折より大きな凝集物にからまることが示されている。製剤を希釈すると、凝集物のサイズは縮小する。
【0021】
本発明は、以下の説明、実施例および添付図面により詳細に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】異なる希釈でドキソルビシン、ドセタキセル、N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩およびN−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩(重量/重量/重量1:1:1.65:1.65)によって形成される粒子のサイズを示す図である。溶媒:NaCl(5.9mg/mL)、KCl(0.3mg/mL)、CaCl2(0.295mg/mL)、MgCl2六水和物(0.2mg/mL)、酢酸ナトリウム(4.1mg/mL)の水溶液。
【図2】ドキソルビシン、ドセタキセル、N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩およびN−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩(重量/重量/重量1:1:1.65:1.65)の凍結乾燥した混合物を再構成することによって得られた製剤の体積による粒子サイズ分布を示す図である。溶媒:NaCl(5.9mg/mL)、KCl(0.3mg/mL)、CaCl2(0.295mg/mL)、MgCl2六水和物(0.2mg/mL)、酢酸ナトリウム(4.1mg/mL)の水溶液。ドキソルビシン濃度0.5mg/mL。
【図3】ドキソルビシン、パクリタキセル、N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩およびN−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩(重量/重量/重量1:2.5:3:3)の凍結乾燥した混合物を再構成することによって得られた製剤の体積による粒子サイズ分布を示す図である。溶媒:NaCl(5.9mg/mL)、KCl(0.3mg/mL)、CaCl2(0.295mg/mL)、MgCl2六水和物(0.2mg/mL)、酢酸ナトリウム(4.1mg/mL)の水溶液。パクリタキセル濃度1mg/mL。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明が開示され記載される前に、本発明は、本明細書に開示される特定の構成、プロセスステップおよび物質限定されず、したがって、構成、プロセスステップおよび物質はいくらか変わり得ることが理解されるべきである。本明細書で使用される専門用語は、個々の実施形態を記載する目的のために使用され、本発明の範囲は添付した特許請求の範囲およびその均等物によってのみ限定されるため、限定的でないことも理解される。
【0024】
本明細書および特許請求の範囲で使用される場合、別段文脈で明確に指示しない限り、単数形(「a」、「an」および「the」)は、複数の対象を含むことに留意しなければならない。
【0025】
本明細書において、別段の記載がない限り、ドラッグ・デリバリー・システムの成分または本発明のもしくは本発明の方法で使用される組成物の量を修飾する「約(about)」という用語は、たとえば、濃縮物を作製するために使用されるまたは現実世界で溶液を使用する典型的な測定および液体処理手順によって; これらの手順で不注意な誤りによって; ドラッグ・デリバリー・システムもしくは組成物を作製するためまたはこれらの方法を行うために使用される成分の製造、供給源または純度における相違などによって起こり得る、数量における変動を意味する。「約」という用語はまた、特定の初期の混合物から生じる組成物の異なる平衡条件によって異なる量を包含する。「約」という用語によって修飾されるか否かにかかわらず、特許請求の範囲にはそれらの量に相当する量が含まれる。
【0026】
本明細書において、別段の記載がない限り、「ドラッグ・デリバリー・システム」という用語は、1種(または複数)の治療薬を1箇所(または複数箇所)の所望の身体の部位にデリバリーするおよび/または適切な時機に1種(または複数)の治療薬の放出をもたらす製剤またはデバイスを意味する。
【0027】
本明細書において、別段の記載がない限り、「粒子サイズ」という用語は、633nmの波長を有する赤色レーザーを用いて動的光散乱によって測定されたZ−平均直径を意味する。「約100nm未満の有効平均粒子サイズ」に関しては、上記の技法によって測定されたとき、粒子の少なくとも90%が約100nm未満のサイズを有することを意味する。
【0028】
本明細書において、別段の記載がない限り、「ナノ粒子」という用語は、サイズがナノメートルで測定される顕微鏡的粒子を意味する。本発明のナノ粒子は、通常直径約1〜約999nmにわたり、捕捉された、封入された、または密閉された生物学的活性分子を含むことができる。
【0029】
本明細書において、別段の記載がない限り、物質の「溶解性」という用語は、指定された溶媒に、約室温(約15℃〜約38℃の間を意味する)で溶解しようとする物質の能力を意味する。
【0030】
本明細書において、別段の記載がない限り、「非晶質の」という用語は、非結晶であるまたは約10nm以下の粒子サイズを有する非常に小さな結晶からなる固体構造を示すものとする。
【0031】
本明細書において、別段の記載がない限り、「細胞毒性化合物」という用語は、細胞の成長を停止させるまたは細胞を死滅させる能力を有する化合物を意味する。
【0032】
本明細書において、別段の記載がない限り、「細胞分裂阻害化合物」という用語は、細胞を、必ずしも溶解させないまたは死滅させないが、永続的な非増殖性状態にする能力を有する化合物を意味する。
【0033】
本明細書において、別段の記載がない限り、「誘導体」という用語は、元の構造の化学反応によって直接、または元の構造の部分置換である「修飾」によって、または設計および新規の合成によって元の構造から形成された化合物を意味する。誘導体は、合成であっても、細胞の代謝産物でもin vitro酵素反応でもよい。
【0034】
本発明のドラッグ・デリバリー・システムの一実施形態では、薬学的に活性な物質は、水へのそれ自体の溶解性が少なくとも4mg/mlであり、前記複合体は、0.1mg/ml未満の水への溶解性を有する非共有結合性の複合体である。
【0035】
本発明のドラッグ・デリバリー・システムの他の実施形態では、前記複合体は、約50nm未満の有効平均粒子サイズを有する。より小型の粒子は、ウイルスおよび細菌のような微生物の侵入から体を保護する細網内皮系によって検出されにくい。
【0036】
本発明のドラッグ・デリバリー・システムのさらなる実施形態では、前記N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せ対前記複合体の重量の重量対重量比は、約1:1〜約10:1の範囲である。
【0037】
本発明の他の実施形態では、ドラッグ・デリバリー・システムは、水へのそれ自体の溶解性が約100μg/ml未満である少なくとも1種の他の薬学的に活性な物質を含み、前記他の薬学的に活性な物質は、約100nm未満の有効平均粒子サイズを有する粒子形態にあり、前記他の薬学的に活性な物質の粒子は、本質的に非晶質であり;前記他の薬学的に活性な物質の粒子は、前記複合体の粒子と共に前記ナノ粒子中に捕捉されており;前記N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のナトリウム塩もしくはメチルエステル、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のナトリウム塩もしくはメチルエステルまたはそれらの組合せ対前記他の薬学的に活性な物質および前記複合体の総合重量の重量対重量比は、約0.5:1〜約20:1の範囲である。この実施形態の一態様では、前記複合体は約50nm未満の有効平均粒子サイズを有する。この実施形態の他の態様では、前記N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せ対前記複合体の重量の重量対重量比は、約1:1〜約10:1の範囲である。この実施形態のさらなる態様によれば、前記他の薬学的に活性な物質は、約50nm未満の有効平均粒子サイズを有し、かつ/または前記複合体は約50nm未満の有効平均粒子サイズを有する。この実施形態のさらなる態様では、前記N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せ対前記他の薬学的に活性な物質および前記複合体の総合重量の重量対重量比は、約1:1〜約10:1の範囲である。
【0038】
本発明の他の実施形態では、前記薬学的に活性な物質の少なくとも1種は細胞毒性化合物または細胞分裂阻害化合物である。
【0039】
本発明のさらなる実施形態では、前記少なくとも1種の薬学的に活性な物質は、細胞毒性化合物または細胞分裂阻害化合物である。この実施形態の一態様では、前記細胞毒性化合物または細胞分裂阻害化合物は、プロトン化型のドキソルビシン、ミトキサントロン、エピルビシン、ダウノルビシン、イダルビシン、トポテカン、イリノテカン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビノレルビン、アムサクリン、プロカルバジン、メクロレタミンまたはそれらの組合せである。この実施形態のより具体的な態様では、前記化合物は、プロトン化型のドキソルビシンであり;この実施形態の他のより具体的な態様では、前記化合物は、プロトン化型のミトキサントロンである。
【0040】
ドラッグ・デリバリー・システムが、水へのそれ自体の溶解性が約100μg/ml未満である少なくとも1種の他の薬学的に活性な物質を含む、本発明の実施形態の他の態様では、前記他の薬学的に活性な物質は、細胞毒性化合物または細胞分裂阻害化合物である。この実施形態のさらなる態様では、前記細胞毒性化合物または細胞分裂阻害化合物はタキサンである。この実施形態のさらなる態様では、前記タキサンは、パクリタキセル、ドセタキセル、およびそれらの誘導体の中から選択される。この実施形態の他の態様では、前記少なくとも1種の薬学的に活性な物質および前記他の薬学的に活性な物質は、細胞毒性化合物または細胞分裂阻害化合物であり;この実施形態の一態様では、前記少なくとも1種の薬学的に活性な物質は、プロトン化型のドキソルビシン、ミトキサントロン、エピルビシン、ダウノルビシン、イダルビシン、トポテカン、イリノテカン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビノレルビン、アムサクリン、プロカルバジン、メクロレタミンまたはそれらの組合せであり;この実施形態の具体的な態様では、前記化合物はプロトン化型のドキソルビシンであり;この実施形態のさらなる具体的な態様では、前記化合物はプロトン化型のミトキサントロンであり;この実施形態の他の具体的な態様では、前記他の薬学的に活性な物質はタキサンであり;この実施形態のさらなる具体的な態様では、前記タキサンは、パクリタキセル、ドセタキセル、およびそれらの誘導体の中から選択される。
【0041】
本発明の他の実施形態は、癌の治療で使用するための前記ドラッグ・デリバリー・システムに関する。
【0042】
本発明の他の実施形態は、薬学的に許容される担体および前記種類のドラッグ・デリバリー・システムを含む医薬組成物に関する。この実施形態の一態様では、医薬組成物は、水溶液、ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤、錠剤、カプセル剤、または軟質ゲルの形態である。
【0043】
本発明の他の実施形態は、本発明によるドラッグ・デリバリー・システムの調製における、N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せの使用に関する。
【0044】
本発明のさらなる他の実施形態は、本発明の種類のドラッグ・デリバリー・システムを調製するための方法であって、前記複合体のサイズが、前記N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せ対前記複合体の重量の重量対重量比を約0.5:1〜約20:1の範囲になるように調整することにより約100nm未満の有効平均粒子サイズを有するように制御される方法に関する。
【0045】
本発明のさらなる他の実施形態は、少なくとも1種の他の薬学的に活性な物質を含む本発明の種類のドラッグ・デリバリー・システムを調製するための方法であって、前記他の薬学的に活性な物質および前記複合体の粒子のサイズが、前記N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せ対前記他の薬学的に活性な物質および前記複合体の総合重量の重量対重量比を約0.5:1〜約20:1の範囲になるように調整することにより約100nm未満の有効平均粒子サイズを有するように制御される方法に関する。
【0046】
本発明の他の実施形態は、本発明の種類のドラッグ・デリバリー・システムを調製するための方法であって、前記少なくとも1種の薬学的に活性な物質が、N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せの第1の水溶液で処理されて前記複合体の粒子を形成し;前記複合体の形成された粒子が、N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せの第2の水溶液中で、前記複合体の前記粒子が前記第2の水溶液に溶解されるまでさらに処理される方法に関する。この実施形態の一態様では、前記第1の水溶液および前記第2の水溶液が同じ水溶液であり、上記水溶液でN−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せの総量が、前記複合体の粒子を形成するおよび前記複合体を溶解するのに十分である。
【0047】
本発明の他の実施形態は、少なくとも1種の他の薬学的に活性な物質を含む本発明の種類のドラッグ・デリバリー・システムを調製するための方法であって、前記他の薬学的に活性な物質が、N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せの第1の水溶液で、前記他の薬学的に活性な物質が前記第1の水溶液に溶解されるまで処理され;前記少なくとも1種の薬学的に活性な物質が、N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せの第2の水溶液で処理されて前記複合体の粒子を形成し;前記複合体の形成された粒子が、前記第2の水溶液中でN−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せで、前記複合体の前記粒子が前記第2の水溶液に溶解されるまで処理される方法に関する。この実施形態の一態様では、前記第1の水溶液および前記第2の水溶液は同じ水溶液であり、上記水溶液でN−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せの総量が、前記他の薬学的に活性な物質を溶解する;前記複合体の粒子を形成する;および前記複合体を溶解するのに十分である。
【0048】
本発明の他の実施形態は、前記本発明の方法のいずれかによって得られるドラッグ・デリバリー・システムに関する。本発明のさらなる実施形態は、薬学的に許容される担体およびかかるドラッグ・デリバリー・システムを含む医薬組成物に関し;この実施形態の態様では、医薬組成物は、水溶液、ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤、錠剤、カプセル剤、または軟質ゲルの形態である。
【0049】
本発明の他の実施形態は、癌の治療用の医薬品を調製するための本発明の種類のドラッグ・デリバリー・システムの使用に関する。
【0050】
本発明のさらなる実施形態は、癌の治療方法であって、本発明の医薬組成物が、かかる治療を必要とする患者に治療有効量で投与される方法に関する。
【0051】
本発明のさらなる実施形態は、癌の治療用の医薬品を調製するための、本発明の医薬組成物の使用に関する。
【0052】
本発明のさらなる実施形態は、癌の治療方法であって、本発明のドラッグ・デリバリー・システムが、かかる治療を必要とする患者に治療有効量で投与される方法に関する。
【0053】
本発明は、以下の限定しない実施例においてより詳細に例示される。
【実施例】
【0054】
材料および方法
使用した製剤は、N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せを伴った、凍結乾燥した薬学的に活性な物質を、再構成のために指定された溶液によって再構成することによって、新たに調製または取得された。
【0055】
ドキソルビシンをメルシャン株式会社、日本から購入した。パクリタキセルをSigma−Aldrich Sweden ABから購入した。ドセタキセルをScinoPharm Taiwan,Ltdから購入した。ミトキサントロンおよびトポテカンをChemtronica KB、Swedenから購入した。アドリアマイシンを薬局から購入し製造業者の添付文書に従って再構成した。
【0056】
製剤の粒子サイズを赤色レーザー(633nm、Nano−ZS、Malvern Instruments Ltd)を用いる動的光散乱法によって測定した。粒子サイズをプロットするために3つの独立した測定値の平均値を算出した。Y誤差棒は測定値の+/−標準偏差によって構成される。
【0057】
in vitroで細胞毒性を評価するため、異なるヒトの腫瘍細胞系の細胞をATCC(American Type Culture Collection)(Rockville、Md.、USA)から購入した。すなわち、ヒト乳腺癌細胞系MDA−MB−231(ATCC−HTB−26、ロット番号3576799)、ヒト卵巣腺癌細胞系SKOV−3(ATCC−HTB−77、ロット番号3038337)およびヒト非小細胞肺癌細胞系A549(ATCC−CCL−185、ロット番号3244171)である。MDA−MB−231細胞を2mM L−グルタミン、10%ウシ胎児血清(FBS)および抗生物質添加MEM培養培地で増殖した。SKOV−3細胞を1.5mM L−グルタミン、10%FBSおよび抗生物質を補充したマッコイの5A培養培地中で培養した。すべての培地およびサプリメントをSigma−Aldrich Co.(St. Louis、Mi.、USA)から購入した。すべての系の細胞増殖をBD Falcon(商標)25もしくは75cm2培養フラスコ(Becton Dickinson Labware)中で実施した。A549細胞を1mM L−グルタミン、10%FBSおよび抗生物質添加HamのF−12培養培地中で培養した。すべての系の細胞増殖をBD Falcon(商標)25もしくは75cm2培養フラスコ中で実施した。
【0058】
薬物細胞毒性試験を接着細胞用のBD Falcon(商標)96ウェル培養プレート(Becton Dickinson Labware)を用いて実施した。これらのプレートを1ウェル当たりの体積200μl中でMDA−MB−231が1ウェル当たり8×103細胞、SKOV−3が1ウェル当たり10×103細胞、またはA549が1ウェル当たり6×103細胞で細胞ごとに播種した。フラスコおよび培養プレートを細胞増殖のために空気95%およびCO25%の加湿された雰囲気中で37℃でインキュベートした。
【0059】
培養プレート中の細胞培養物を24時間インキュベートして、接着させた。細胞播種後1日目に、適当な溶媒中で異なる濃度で試験しようとする製剤の4μl溶液を、培養液を含むウェルに加えた(用量反応実験)。対照培養物では、溶媒4μlを溶媒対照として加えた。細胞を連続2〜4日以内にインキュベートした。インキュベーション期間の終了時に、接着細胞をトリプシン処理によって解離し、生細胞数をトリパンブルー排除試験および血球計算盤を用いてカウントした。すべての実験を少なくとも3回実施し、それぞれ4重複の3回の測定の平均値からデータを導き出した。結果を平均細胞数±標準誤差およびスチューデントのt検定によって評価した対照と試験系との差として表した。薬物の細胞毒性を細胞増殖阻害の程度に基づいて評価した。被験薬物による細胞増殖阻害を以下のように算出した。
【0060】
【数1】

【0061】
対照系列では、薬物試験に用いる異なる溶媒4μlを加えて陰性溶媒対照として培養した。これらの対照系列の間の差は小さく、したがって、陰性対照の平均値を算出に適用した。
【0062】
ADRIAMYCIN(登録商標)(ドキソルビシン塩酸塩)の水溶液およびドセタキセルのメタノール溶液を陽性対照として用いた。異なる溶媒中のこれらの薬物による増殖阻害における差は小さく、したがって、陽性対照の平均的な阻害を算出に適用した。
【0063】
平均IC50±標準誤差を少なくとも3つの別々の実験を基準にして算出した。
【0064】
対照比較薬物のIC50を本発明の製剤のIC50と分けて増強因子(EF)を算出した。
【0065】
(実施例1)
ドキソルビシンおよびN−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルの水に不溶性の塩の製剤
N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩の水溶液(2ml、5mg/mL)およびドキソルビシン塩酸塩の水溶液(6ml、2mg/ml)を10ml試験管中で混合することによって調製した。混合中、微細な沈殿物が出現した。試験管を3000rpmで10分間遠心してその沈殿物を分離した。上澄みを除去し、沈殿物を水10mlで振盪し、その後新たに遠心した。上記の3回の追加の洗浄手順の後、上澄みを0.2μmフィルターでろ過して生成物の有り得る大型の凝集物を除去した。ドキソルビシン複合体の溶解性をUV法で350nmの波長で測定し、0.0002mg/mlであることが判明した。
【0066】
(実施例2)
重量/重量/重量比1:2.5:7のドキソルビシン、パクリタキセルおよびN−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩の製剤
パクリタキセル(200ml、1.2mg/ml)およびN−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩(134.4ml、5mg/ml)のメタノール溶液を1000ml丸底フラスコ中で混合することによって調製し、得られた溶液を真空中で蒸発させた。残留物を水(120ml)に溶解し、ドキソルビシン塩酸塩の水溶液(48ml、2mg/mL)を得られた溶液に撹拌しながら滴下した。合わせた溶液を30分追加して撹拌し、0.2μmフィルターでろ過し凍結乾燥した。
【0067】
(実施例3)
重量/重量/重量比1:1:4のドキソルビシン、ドセタキセルおよびN−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩の製剤
ドセタキセル(100ml、1mg/ml)およびN−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩(80ml、5mg/ml)のメタノール溶液を1000ml丸底フラスコ中で混合することによって調製し、得られた溶液を真空中で蒸発させた。残留物を水(100ml)に溶解し、ドキソルビシン塩酸塩の水溶液(50ml、2mg/mL)を得られた溶液に撹拌しながら滴下した。合わせた溶液を30分追加して撹拌し、0.2μmフィルターでろ過し凍結乾燥した。
【0068】
(実施例4)
重量/重量/重量比2:1:20:40のミトキサントロン、トポテカン、パクリタキセルおよびN−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩の製剤
パクリタキセル(200ml、1.2mg/ml)およびN−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩(96ml、5mg/ml)のメタノール溶液を1000ml丸底フラスコ中で混合することによって調製し、得られた溶液を真空中で蒸発させた。残留物を水(120ml)に溶解し、ミトキサントロン二塩酸塩(12ml、2mg/mL)の水溶液およびトポテカン塩酸塩(6ml、2mg/ml)の水溶液を得られた溶液に撹拌しながら滴下した。合わせた溶液を30分追加して撹拌し、0.2μmフィルターでろ過し凍結乾燥した。
【0069】
(実施例5)
ドキソルビシン、ドセタキセル、N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩およびN−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩(重量/重量/重量1:1:1.65:1.65)によって形成された製剤中における粒子サイズのドキソルビシンの濃度への依存の調査
溶液を、NaCl(5.9mg/mL)、KCl(0.3mg/mL)、CaCl2(0.295mg/mL)、MgCl2六水和物(0.2mg/mL)、酢酸ナトリウム(4.1mg/mL)を含む水溶液中で、ドキソルビシン、ドセタキセル、N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩およびN−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩(重量/重量/重量1:1:1.65:1.65)の混合物の凍結乾燥したサンプルを再構成することによって調製した。
【0070】
【表1】

【0071】
表1および図1に示すように、ドキソルビシン濃度の低下によって0.25〜1mg/mlの濃度範囲で粒子サイズがより小さくなる。さらに、希釈は粒子サイズに有意に影響を与えない。
【0072】
(実施例6)
ヒト卵巣腺癌SKOV−3細胞系の培地中でのドキソルビシンおよびドセタキセルの作用の相乗作用の調査
等モル量のドキソルビシンおよびドセタキセルを含むドキソルビシン/ドセタキセル/N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステル/N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルの凍結乾燥した製剤(重量/重量/重量/重量1:1.4:2:2)を用いた。EFをADRIAMYCIN(登録商標)に対して算出した。ドセタキセル−ドキソルビシン混合物のIC50は細胞分裂阻害量の和に基づいている。結果を下記の表2に記載する。
【0073】
【表2】

【0074】
ドキソルビシンおよびドセタキセルの強力な相乗効果は、ドキソルビシンおよびドセタキセルの連続的な添加についてのEFが>1であるという事実によって示される。ナノ粒子製剤の創出によって、合剤の効力がさらに増大する。
【0075】
(実施例7)
ヒト乳腺癌MDA−MB−231細胞系の培地中での製剤の細胞毒性の評価
N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルおよびN−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルの複合体の混合物を含む製剤を、凍結乾燥した粉末を溶解することによって調製した。IC50はドキソルビシン濃度に基づいた。増強因子をドキソルビシンに対して算出した。結果を以下の表3に記載する。
【0076】
【表3】

【0077】
(実施例8)
ヒト卵巣腺癌SKOV−3細胞系の培地中での製剤の細胞毒性の評価
N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルおよびN−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルの複合体の混合物を含む製剤を、凍結乾燥した粉末を溶解することによって調製した。IC50はドキソルビシン濃度に基づいた。増強因子をドキソルビシンに対して算出した。結果を以下の表4に記載する。
【0078】
【表4】

【0079】
(実施例9)
ヒト非小細胞肺癌細胞系A549の培地中での製剤の細胞毒性の評価
N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルおよびN−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルの複合体の混合物を含む製剤を、凍結乾燥した粉末を溶解することによって調製した。IC50はドキソルビシン濃度に基づいた。増強因子をドキソルビシンに対して算出した。結果を以下の表5に記載する。
【0080】
【表5】

【0081】
本発明は、本発明者らに現在知られている最良の形態を含めた、いくつかの実施形態に関して記載しているが、当業者に明らかなはずである様々な変更および修正が、本明細書に添付した特許請求の範囲に記載される本発明の範囲から逸脱することなく、なされ得ることを理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単独でカチオン性両親媒性物質である少なくとも1種の薬学的に活性な物質を投与するためのドラッグ・デリバリー・システムであって、薬学的に活性な物質が、前記薬学的に活性な物質とN−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せとの間の複合体の粒子でドラッグ・デリバリー・システム中に存在し、前記複合体の前記粒子が約100nm未満の有効平均粒子サイズを有し、
−前記複合体の粒子が本質的に非晶質であり;
−前記複合体の粒子がN−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のナトリウム塩もしくはメチルエステルまたはそれらの組合せから形成されたナノ粒子中に捕捉されており;
−前記N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のナトリウム塩もしくはメチルエステル、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のナトリウム塩もしくはメチルエステルまたはそれらの組合せ対前記複合体の重量の重量対重量比が約0.5:1〜約20:1の範囲であるドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項2】
前記薬学的に活性な物質が、水へのそれ自体の溶解性が少なくとも4mg/mlであり、前記複合体が0.1mg/ml未満の水への溶解性を有する非共有結合性の複合体であることを特徴とする、請求項1に記載のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項3】
前記複合体が約50nm未満の有効平均粒子サイズを有することを特徴とする、請求項1または2に記載のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項4】
前記N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せ対前記複合体の重量の重量対重量比が約1:1〜約10:1の範囲であることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項5】
水へのそれ自体の溶解性が約100μg/ml未満である少なくとも1種の他の薬学的に活性な物質を含む請求項1または2に記載のドラッグ・デリバリー・システムであって、前記他の薬学的に活性な物質が約100nm未満の有効平均粒子サイズを有する粒子形態にあり、
−前記他の薬学的に活性な物質の粒子が本質的に非晶質であり;
−前記他の薬学的に活性な物質の粒子が前記複合体の粒子と共に前記ナノ粒子中に捕捉されており;
−前記N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のナトリウム塩もしくはメチルエステル、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のナトリウム塩もしくはメチルエステルまたはそれらの組合せ対前記他の薬学的に活性な物質および前記複合体の総合重量の重量対重量比が約0.5:1〜約20:1の範囲である、請求項1または2に記載のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項6】
前記複合体が約50nm未満の有効平均粒子サイズを有することを特徴とする、請求項5に記載のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項7】
前記N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せ対前記複合体の重量の重量対重量比が約1:1〜約10:1の範囲であることを特徴とする、請求項5または6に記載のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項8】
前記他の薬学的に活性な物質が約50nm未満の有効平均粒子サイズを有する、および/または前記複合体が約50nm未満の有効平均粒子サイズを有することを特徴とする、請求項5から7のいずれかに記載のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項9】
前記N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せ対前記他の薬学的に活性な物質および前記複合体の総合重量の重量対重量比が約1:1〜約10:1の範囲であることを特徴とする、請求項5から8のいずれかに記載のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項10】
前記薬学的に活性な物質の少なくとも1種が細胞毒性化合物または細胞分裂阻害化合物であることを特徴とする、請求項1から9のいずれかに記載のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項11】
前記少なくとも1種の薬学的に活性な物質が細胞毒性化合物または細胞分裂阻害化合物であることを特徴とする、請求項1から10のいずれかに記載のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項12】
前記細胞毒性化合物または細胞分裂阻害化合物が、プロトン化型のドキソルビシン、ミトキサントロン、エピルビシン、ダウノルビシン、イダルビシン、トポテカン、イリノテカン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビノレルビン、アムサクリン、プロカルバジン、メクロレタミンまたはそれらの組合せであることを特徴とする、請求項11に記載のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項13】
前記化合物がプロトン化型のドキソルビシンであることを特徴とする、請求項12に記載のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項14】
前記化合物がプロトン化型のミトキサントロンであることを特徴とする、請求項12に記載のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項15】
前記他の薬学的に活性な物質が細胞毒性化合物または細胞分裂阻害化合物であることを特徴とする、請求項5から14のいずれかに記載のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項16】
前記細胞毒性化合物または細胞分裂阻害化合物がタキサンであることを特徴とする、請求項15に記載のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項17】
前記タキサンがパクリタキセル、ドセタキセル、およびそれらの誘導体の中から選択される、請求項16に記載のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項18】
前記少なくとも1種の薬学的に活性な物質および前記他の薬学的に活性な物質が細胞毒性化合物または細胞分裂阻害化合物であることを特徴とする、請求項5に記載のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項19】
前記少なくとも1種の薬学的に活性な物質が、プロトン化型のドキソルビシン、ミトキサントロン、エピルビシン、ダウノルビシン、イダルビシン、トポテカン、イリノテカン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビノレルビン、アムサクリン、プロカルバジン、メクロレタミンまたはそれらの組合せである、請求項18に記載のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項20】
前記化合物がプロトン化型のドキソルビシンである、請求項19に記載のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項21】
前記化合物がプロトン化型のミトキサントロンである、請求項19に記載のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項22】
前記他の薬学的に活性な物質がタキサンである、請求項18に記載のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項23】
前記タキサンがパクリタキセル、ドセタキセル、およびそれらの誘導体の中から選択される、請求項22に記載のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項24】
癌治療に使用するための、請求項1から23のいずれか一項に記載のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項25】
薬学的に許容される担体および請求項1から24のいずれか一項に記載のドラッグ・デリバリー・システムを含む医薬組成物。
【請求項26】
水溶液、ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤、錠剤、カプセル剤、または軟質ゲルの形態である、請求項25に記載の医薬組成物。
【請求項27】
請求項1から24のいずれか一項に記載のドラッグ・デリバリー・システムの調製における、N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せの使用。
【請求項28】
請求項1または2に記載のドラッグ・デリバリー・システムを調製するための方法であって、前記複合体のサイズが、前記N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せ対前記複合体の重量の重量対重量比を約0.5:1〜約20:1の範囲になるように調整することにより約100nm未満の有効平均粒子サイズを有するように制御される方法。
【請求項29】
請求項5に記載のドラッグ・デリバリー・システムを調製するための方法であって、前記他の薬学的に活性な物質および前記複合体の粒子のサイズが、前記N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せ対前記他の薬学的に活性な物質と前記複合体の総合重量の重量対重量比を約0.5:1〜約20:1の範囲になるように調整することにより約100nm未満の有効平均粒子サイズを有するように制御される方法。
【請求項30】
請求項1または2に記載のドラッグ・デリバリー・システムを調製するための方法であって、
−前記少なくとも1種の薬学的に活性な物質が、N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せの第1の水溶液で処理されて前記複合体の粒子を形成し;
−前記複合体の形成された粒子が、N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せの第2の水溶液中で、前記複合体の前記粒子が前記第2の水溶液に溶解されるまでさらに処理される方法。
【請求項31】
前記第1の水溶液および前記第2の水溶液が同じ水溶液であり、前記水溶液でN−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せの総量が、
−前記複合体の粒子を形成する;
および
−前記複合体を溶解する
のに十分である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
請求項5に記載のドラッグ・デリバリー・システムを調製するための方法であって、
−前記他の薬学的に活性な物質が、N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せの第1の水溶液で、前記他の薬学的に活性な物質が前記第1の水溶液に溶解されるまで処理され;
−前記少なくとも1種の薬学的に活性な物質が、N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せの第2の水溶液で処理されて前記複合体の粒子を形成し;
−前記複合体の形成された粒子が、前記第2の水溶液中でN−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せで、前記複合体の前記粒子が前記第2の水溶液に溶解されるまで処理される方法。
【請求項33】
前記第1の水溶液および前記第2の水溶液が同じ水溶液であり、前記水溶液でN−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せの総量が、
−前記他の薬学的に活性な物質を溶解する;
−前記複合体の粒子を形成する;
および
−前記複合体を溶解する
のに十分である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
請求項28から33のいずれか一項に記載の方法によって得られるドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項35】
薬学的に許容される担体および請求項28から33のいずれか一項に記載のドラッグ・デリバリー・システムを含む医薬組成物。
【請求項36】
水溶液、ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤、錠剤、カプセル剤、または軟質ゲルの形態である、請求項35に記載の医薬組成物。
【請求項37】
癌の治療用の医薬品を調製するための、請求項1から24のいずれか一項または34に記載のドラッグ・デリバリー・システムの使用。
【請求項38】
癌の治療方法であって、請求項25から26または35から36のいずれか一項に記載の医薬組成物が、かかる治療を必要とする患者に治療有効量で投与されることを特徴とする方法。
【請求項39】
癌の治療用の医薬品を調製するための、請求項25から26または35から36のいずれか一項に記載の医薬組成物の使用。
【請求項40】
癌の治療方法であって、請求項1から24のいずれか一項または34に記載のドラッグ・デリバリー・システムが、かかる治療を必要とする患者に治療有効量で投与されることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−507840(P2011−507840A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−539387(P2010−539387)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際出願番号】PCT/SE2008/051517
【国際公開番号】WO2009/078804
【国際公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(510172893)アーデニア・インベストメンツ・リミテッド (3)
【Fターム(参考)】