説明

水溶性アゾ化合物、インク組成物および着色体

【課題】インクジェット記録に適する高い鮮明性をもつ色相を有し、且つ記録物の各種堅牢性が高く、又インク組成物を調製した時のインク組成物の保存安定性に優れたイエロー色素、及びこれを含有するインク組成物を提供する。
【解決手段】遊離酸として、下記式(1)
【化1】


(式(1)中、Aはヒドロキシル基、モルホリノ基、アミノ基、置換基を有していてもよい脂肪族アミン残基、置換基を有していてもよい芳香族アミン残基、置換基を有していてもよいフェノキシ基又は置換基を有していてもよいアルコキシ基を、R1は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を、R2は水素原子、ニトロ基又はヒドロキシル基を、nは1〜3の整数をそれぞれ表す。)で示される水溶性アゾ化合物及びこれを含有するインク組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアゾ化合物及びその用途に関する。更に詳しくは、本発明は水溶性のアゾ化合物、これを含有するインク組成物及びこれにより着色された着色体に関する。
【背景技術】
【0002】
各種カラー記録法の中で、その代表的方法の一つであるインクジェットプリンタによる記録方法においては、インクの吐出方式が各種開発されているが、いずれもインクの小滴を発生させ、これを種々の被記録材料(紙、フィルム、布帛等)に付着させ記録を行うものとなっている。この方法では、記録ヘッドと被記録材料とが直接接触しない為、音の発生がなく静かであり、また小型化、高速化、カラー化が容易という特長の為、近年急速に普及しつつあり、今後とも大きな伸長が期待されている。従来、万年筆、フェルトペン等のインク及びインクジェット記録用インクとしては、水溶性の染料を水性媒体に溶解したインクが使用されており、これらの水性インクにおいてはペン先やインク吐出ノズルでのインクの目詰まりを防止すべく、一般に水溶性の有機溶剤が添加されている。これらのインクにおいては、十分な濃度の記録画像を与えること、ペン先やノズルの目詰まりを生じないこと、被記録材上での乾燥性がよいこと、滲みが少ないこと、インクの保存安定性に優れること等が要求され、また形成される記録画像には、優れた耐水性、耐湿性、耐光性、耐ガス性等の堅牢度が求められている。
【0003】
ところで、コンピューターのカラーディスプレー上の画像又は文字情報をインクジェットプリンタによりカラーで記録するには、一般的にはイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の4色のインクによる減法混色で表現される。CRT(ブラウン管)ディスプレー等におけるレッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)による加法混色画像を減法混色画像で出来るだけ忠実に再現するには、インクに使用される各色素、中でもY、M、Cのそれぞれが、標準に近い色相を有し且つ鮮明であることが望まれる。又、インクは長期の保存に対して安定であり、また前記のようにプリントした画像の濃度が高く、しかも耐水性、耐湿性、耐光性及び耐ガス性等の堅牢度に優れている事が求められる。ここで耐ガス性とは、空気中に存在する酸化作用を持つ酸化窒素ガス、オゾンガス等の酸化性ガスが記録画像のある記録紙上又は記録紙中で色素(染料)と反応し、印刷された画像を変退色させるという現象に対する耐性のことである。特に、オゾンガスは、インクジェット記録画像の退色現象を促進させる主要な原因物質とされている。この変退色現象はインクジェット画像に特徴的なものであるため、耐オゾンガス性の向上はこの分野における重要な技術的課題となっている。特に、写真画質を得る為のインクジェット専用紙の表面に設けられるインク受容層には、インクの乾燥を早め、また高画質での滲みを少なくする為に、多孔性白色無機物が用いられているものが多く、このような記録紙上ではオゾンガスによる変退色が顕著に見られる。最近のデジタルカメラ及びカラ−プリンタ−の普及と共に、家庭でもデジタルカメラ等で得られた画像をプリントする機会が増しており、得られたプリント物を保管する時に、空気中の酸化性ガスによる画像の変色が問題視されることが多い。
【0004】
水溶性及び鮮明性に優れ、インクジェット用のイエロー色素として、従来から用いられている化合物の例として、C.I.(カラーインデックス)ダイレクト・イエロー132が挙げられる(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平11−70729
【特許文献2】特開2000−154344 実施例A1〜5
【特許文献3】特開2003−34763 11ページ 実施例4
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
C.I.(カラーインデックス)ダイレクト・イエロー132については、その色相、鮮明性、耐光性、耐水性、耐湿性、耐ガス性及び溶解安定性のすべてにおいて満足して用いられているわけではなく、これらの諸耐性に関して一層の向上が図られた黄色色素の開発が求められていた。
本発明は水に対する溶解性が高く、インクジェット記録に適する色相と鮮明性を有し、且つ記録物の耐水性、耐湿性、耐光性、耐ガス堅牢性に優れた水溶性の黄色色素(化合物)及びそれを含有するインク組成物を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は前記課題を解決すべく、鋭意検討の結果、特定の式で示される水溶性ジスアゾ化合物及びそれを含有するインク組成物が前記課題を解決するものであることを見出し、本発明を完成させたものである。
即ち、本発明は
(1)遊離酸として、下記式(1)
【0008】
【化1】

【0009】
(式(1)中、Aはヒドロキシル基、アミノ基、モルホリノ基、置換基を有していてもよい脂肪族アミン残基、置換基を有していてもよい芳香族アミン残基、置換基を有していてもよいフェノキシ基又は置換基を有していてもよいアルコキシ基を、R1は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を、R2は水素原子、ニトロ基又はヒドロキシル基を、nは1〜3の整数をそれぞれ表す。)で示される水溶性アゾ化合物、
(2)式(1)におけるR1が水素原子である(1)に記載の水溶性アゾ化合物、
(3)式(1)におけるR2が水素原子である(1)又は(2)に記載の水溶性アゾ化合物、
(4)式(1)におけるAが下記式(2)若しくは(3)で示される基又はヒドロキシル基
【0010】
【化2】

【0011】
である(1)乃至(3)のいずれか一項に記載の水溶性アゾ化合物、
(5)(1)乃至(4)のいずれか一項に記載の水溶性アゾ化合物を含有することを特徴とするインク組成物、
(6)水溶性有機溶剤を含有する(5)に記載のインク組成物、
(7)インクジェット記録用である(5)又は(6)に記載のインク組成物、
(8)インク滴を記録信号に応じて吐出させて被記録材に記録を行うインクジェット記録方法において、インクとして(5)乃至(7)のいずれか一項に記載のインク組成物を用いることを特徴とするインクジェット記録方法、
(9)被記録材が情報伝達用シートである(8)に記載のインクジェット記録方法、
(10)情報伝達用シートが多孔性白色無機物を含有したインク受容層を有するシ−トである(9)に記載のインクジェット記録方法、
(11)(1)乃至(4)のいずれか一項に記載の水溶性アゾ化合物、又は(5)乃至7のいずれか一項に記載のインク組成物で着色された着色体、
(12)着色がインクジェットプリンタによりなされた(11)に記載の着色体、
(13)(5)乃至(7)のいずれか一項に記載のインク組成物を含む容器が装填されたインクジェットプリンタ、
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の式(1)で示される水溶性アゾ化合物又はその塩(以下塩を含め単に水溶性アゾ化合物という)は水に対する溶解性に優れ、インク組成物を製造する過程での、例えばメンブランフィルターに対するろ過性が良好という特徴を有し、インクジェット記録紙上で非常に鮮明で、明度の高い黄色色相を与える。又、この化合物を含有するインク組成物は長期間保存後の結晶析出、物性変化、色相変化等もなく、貯蔵安定性が良好である。そしてこのインク組成物をインクジェット記録用のインクとして使用した印刷物は被記録材(紙、フィルム等)を選択することなく黄色色相として理想的な色相であり、写真調のカラー画像を紙の上に忠実に再現させることも可能である。更に写真画質用インクジェット専用紙(フィルム)のような多孔性白色無機物を表面に塗工した被記録材に記録しても各種堅牢性、すなわち耐水性、耐湿性、耐光性、耐ガス性が良好であり、写真調の記録画像の長期保存安定性に優れている。このように、式(1)の水溶性アゾ化合物はインク用、特にインクジェット記録用のインク用の黄色色素として極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明を詳細に説明する。尚、以下において断りがない限り、スルホ基及びカルボキシル基は遊離酸の形で表すものとする。
本発明の水溶性アゾ化合物は下記式(1)で表される。
【0014】
【化3】

【0015】
式(1)中、Aはヒドロキシル基、アミノ基、モルホリノ基、置換基を有していてもよい脂肪族アミン残基、置換基を有していてもよい芳香族アミン残基、置換基を有していてもよいフェノキシ基、又は置換基を有していてもよいアルコキシ基を示す。
上記置換基を有していてもよい脂肪族アミン残基の置換基として好ましいものはスルホ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基である。
置換基を有していてもよい脂肪族アミン残基の具体例としては、例えば2−スルホエチルアミノ基、カルボキシメチルアミノ基、2−ヒドロキシエチルアミノ基、2−カルボキシエチルアミノ基、1−カルボキシエチルアミノ基、1,2−ジカルボキシエチルアミノ基、ジ(カルボキシメチル)アミノ基等が挙げられる。
また、上記置換基を有していてもよい芳香族アミン残基の置換基として好ましいものはカルボキシル基及びスルホ基である。置換基を有していてもよい芳香族アミン残基の具体例としては、アニリノ基、3,5−ジカルボキシアニリノ基、4−スルホアニリノ基等が挙げられる。
更に、置換基を有していてもよいフェノキシ基の置換基として好ましいものはスルホ基、カルボキシル基、C1−C4アシル基、ヒドロキシル基である。置換基を有していてもよいフェノキシ基の具体例としては、フェノキシ基、4−スルホフェノキシ基、4−カルボキシフェノキシ基、4−アセチルアミノフェノキシ基、4−ヒドロキシフェノキシ基等が挙げられる。
更に、置換基を有していてもよいアルコキシ基の置換基として好ましいものはヒドロキシル基及びカルボキシル基である。置換基を有していてもよいアルコキシ基の具体例としては、メトキシエトキシ基、ヒドロキシエトキシ基、3−カルボキシプロポキシ基等がそれぞれ挙げられる。
これらのうち、Aとしては、モルホリノ基、ヒドロキシル基又はスルホ基、カルボキシル基及びヒドロキシル基からなる群から選択される置換基を有していてもよい脂肪族アミン残基が好ましく、特にスルホエチルアミノ基、カルボキシメチルアミノ基、モルホリノ基、及びヒドロキシル基が好ましい。
1は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、炭素数1〜4のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。これらのうち、R1としては水素原子が好ましい。
2は水素原子、ニトロ基、ハロゲン原子又はヒドロキシル基を示す。これらのうち、R2としては、水素原子が好ましい。
置換基R1を有するベンゼン環上のスルホプロピルオキシ基の置換位置は、このベンゼン環上のアゾ基の置換位置に対して2位又は3位が好ましく、3位がより好ましい。
nは1〜3の整数を表し、1又は2が好ましい。尚、ベンゼン環上のカルボキシ基の置換位置は、このベンゼン環上のアゾ基の位置に対してn=1の場合には2位、3位、4位が、n=2の場合には3位及び5位が好ましい。
【0016】
本発明の式(1)で示される水溶性アゾ化合物のうち、下記式(4)で示される化合物が好ましい化合物として挙げられる。式(4)において、A1は2−スルホエチルアミノ基、カルボキシメチルアミノ基又はヒドロキシ基を、mは1又は2をそれぞれ示す。また式(4)において、ベンゼン環上のカルボキシ基は、3位(n=1のとき)又は3、5位(n=2のとき)にそれぞれ結合する。
【0017】
【化4】

【0018】
式(1)の化合物は無機又は有機の陽イオンとの塩の構造を取りうる。無機イオンとの塩の例としてはリチウムイオンとの塩、ナトリウムイオンとの塩又はカリウムイオンとの塩等が挙げられる。更に、有機の陽イオンとの塩の例として、式(5)で表されるアンモニウムイオンとの塩等が挙げられる。
【0019】
【化5】

【0020】
(式(5)中、X1〜X4はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、ヒドロキシアルキル基又はヒドロキシアルコキシアルキル基を表わす。)
ここで、X1〜X4におけるアルキル基の例としてはメチル基、エチル基等があげられ、同じくヒドロキシアルキル基の例としてはヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシプロピル基、4−ヒドロキシブチル基、3−ヒドロキシブチル基、2−ヒドロキシブチル基等があげられ、更にヒドロキシアルコキシアルキル基の例としては、ヒドロキシエトキシメチル基、2−ヒドロキシエトキシエチル基、3−(ヒドロキシエトキシ)プロピル基、3−(ヒドロキシエトキシ)ブチル基、2−(ヒドロキシエトキシ)ブチル基等が挙げられる。
【0021】
前記塩のうち好ましい塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、モノイソプロパノールアミン塩、ジイソプロパノールアミン塩、トリイソプロパノールアミン塩、アンモニウム塩等が挙げられる。これらのうち、特に好ましいものは、リチウム塩及びナトリウム塩である。
【0022】
当業者においては明らかなように、上記したような式(1)の化合物の塩は以下の方法等により容易に得ることができる。
例えば、後述する実施例1におけるようなメタノールを加える前の反応液、式(1)の化合物を含むウェットケーキ又は乾燥品などを水に溶解したものに食塩を加えて、塩析、濾過することにより、式(1)の化合物のナトリウム塩をウェットケーキとして得ることができる。
又、得られたナトリウム塩のウェットケーキを水に溶解後、塩酸を加えてそのpHを適宜調整することにより得られる固体を濾過すると、式(1)の化合物の遊離酸を、あるいは式(1)の化合物の一部がナトリウム塩で、一部が遊離酸である混合物を得ることができる。
更に、式(1)の化合物の遊離酸のウェットケーキを水と共に撹拌しながら、例えば、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニア水又は式(5)の水酸化物等を添加してアルカリ性にすれば、各々相当するカリウム塩、リチウム塩、アンモニウム塩、4級アンモニウム塩を得ることができる。
これらの塩のうち、特に好ましいものは、前記の通りリチウム塩及びナトリウム塩である。
【0023】
本発明の式(1)で示される水溶性アゾ化合物は、例えば次のようにして製造することができる。
すなわち、例えば特開2004−75719号公報に記載の例を参考にして得られる下記式(A)の化合物を重亜硫酸ナトリウム及びホルマリンを用いてメチル‐ω‐スルホン酸誘導体(B)に変える。次いで、常法により、下記式(C)で示される芳香族アミン類をジアゾ化し、先に得られた式(B)のメチル‐ω‐スルホン酸誘導体と0〜5℃、pH0〜2でカップリング反応を行い、引き続き、60〜80℃、pH10.5〜11.0で加水分解反応を行うことにより、下記式(D)で示されるアミノ基を有するアゾ化合物を得る。
次に得られた式(D)で示されるアゾ化合物の2当量とハロゲン化シアヌル、例えば塩化シアヌルとを、温度20〜25℃、弱酸性(通常pH5〜6)で縮合することにより、下記式(E)で示される縮合体を得る。
さらに得られた式(E)中の、式(1)におけるAに対応する位置に置換した塩素原子を、水酸化物イオン、アンモニア、モルホリン、置換基を有していてもよい脂肪族アミン、置換基を有していてもよい芳香族アミン、置換基を有していてもよいフェノ−ル又は置換基を有していてもよいアルコ−ル等で置換すべく、温度75〜80℃、pH7〜8の条件下で縮合することにより、本発明の式(1)で示される水溶性アゾ化合物を得ることができる。
下記式(A)の化合物としては、例えば2−スルホプロポキシアニリン(式(A)においてR1=水素原子の化合物)、2−スルホプロポキシ−5−メチルアニリン(式(A)においてR1=メチルの化合物)などが具体例として挙げられる。
また下記式(C)の化合物としては、例えば市販品として入手可能な3−アミノ安息香酸(式(C)においてR2=水素原子、n=1、カルボキシ基の置換位置がアミノ基に対して3位の化合物)、4−アミノ安息香酸(式(C)においてR2=水素原子、n=1、カルボキシ基の置換位置がアミノ基に対して4位の化合物)、5−アミノイソフタル酸(式(C)においてR2=水素原子、n=2、カルボキシ基の置換位置がアミノ基に対して3位および5位の化合物)、2−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸(式(C)においてR2=ヒドロキシ、n=1、アミノ基の置換位置がカルボキシル基に対して2位、ヒドロキシル基の置換位置が同様に5位の化合物)、4−アミノ−5−ニトロ安息香酸(式(C)においてR2=ニトロ、n=1、アミノ基の置換位置がカルボキシル基に対して2位、ニトロ基の置換位置が同様に5位の化合物)などが具体例として挙げられる。
具体例として挙げた上記の式(A)および式(C)の化合物を適宜組合わせ前記に準じて製造を行うことにより、後述する表1の水溶性アゾ化合物を得ることができる。
【0024】
【化6】

【0025】
(式(A)〜式(E)において、n、R1及びR2は前式(1)におけるのと同様の意味を表す。)
【0026】
次に本発明の式(1)で示される水溶性アゾ化合物の具体例を下記式(6)に基づき表1に示す。表1において、スルホ基、カルボキシル基及びヒドロキシ基は遊離酸の形で表す。
【0027】
【化7】

【0028】
【表1】

【0029】
本発明の水溶性アゾ化合物は、天然及び合成繊維材料又は混紡品の染色に適しており、さらにこれらの化合物は、筆記用インク及びインクジェット記録用インク組成物の製造に適している。
本発明の式(1)の水溶性アゾ化合物を含む反応液(例えば後述する実施例1における、メタノールを投入する前の反応液など)は、本発明のインク組成物の製造に直接使用する事が出来る。しかし、反応液から該化合物を単離し、乾燥、例えばスプレー乾燥させ、次にインク組成物に加工することもできる。本発明の記録用インク組成物は、本発明の式(1)の水溶性アゾ化合物を水溶液中に通常0.1〜20質量%、より好ましくは1〜15質量%、更に好ましくは2〜10質量%含有する。本発明のインク組成物中、下記する水溶性有機溶剤は通常0〜30質量%、同じくインク調製剤は通常0〜10質量%含有する。
インク組成物を調製するのに供する式(1)の水溶性アゾ化合物は、金属陽イオンの塩化物、硫酸塩等の無機物の含有量が少ないものを用いるのが好ましく、その含有量の目安は例えば塩化ナトリウムと硫酸ナトリウムの総含有量として色素成分中に1質量%以下程度である。無機物の少ない色素を製造するには、例えばそれ自体公知の逆浸透膜による方法等で、色素原末の溶液を脱塩処理すればよい。
【0030】
本発明のインク組成物に用いうる水溶性有機溶剤の具体例としては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、第二ブタノール、第三ブタノール等のC1〜C4アルカノール、N,N−ジメチルホルムアミド又はN,N−ジメチルアセトアミド等のカルボン酸アミド、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン等のラクタム、1,3−ジメチルイミダゾリジン−2−オン又は1,3−ジメチルヘキサヒドロピリミド−2−オン等の環式尿素類、アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オン等のケトン又はケトアルコール、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル、エチレングリコール、1,2−又は1,3−プロピレングリコール、1,2−又は1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、チオジグリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の(C2〜C6)アルキレン単位を有するモノマー、オリゴマー又はポリアルキレングリコール又はチオグリコール、グリセリン、ヘキサン−1,2,6−トリオール等のポリオール(トリオール)、エチレングリコールモノメチルエーテル又はエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル又はジエチレングリコールモノエチルエーテル又はジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)又はトリエチレングリコールモノメチルエーテル又はトリエチレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールの(C1〜C4)アルキルエーテル、γ−ブチロラクトン又はジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらの水溶性有機溶剤は、単独もしくは混合して用いられる。これらのうち好ましいものは2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、モノ、ジ又はトリエチレングリコール、ジプロピレングリコールであり、より好ましくは2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン及びジエチレングリコールである。
【0031】
本発明のインク組成物を調製するに当たり、必要により用いられるインク調製剤としては、例えば防腐防黴剤、pH調整剤、キレート試薬、防錆剤、水溶性紫外線吸収剤、水溶性高分子化合物、染料溶解剤、界面活性剤等が挙げられる。
用いうる餅防腐防黴剤の例としては、例えば、有機硫黄系、有機窒素硫黄系、有機ハロゲン系、ハロアリルスルホン系、ヨードプロパギル系、N−ハロアルキルチオ系、ニトリル系、ピリジン系、8−オキシキノリン系、ベンゾチアゾール系、イソチアゾリン系、ジチオール系、ピリジンオキシド系、ニトロプロパン系、有機スズ系、フェノール系、第4アンモニウム塩系、トリアジン系、チアジアジン系、アニリド系、アダマンタン系、ジチオカーバメイト系、ブロム化インダノン系、ベンジルブロムアセテート系、無機塩系等の各化合物が挙げられる。有機ハロゲン系化合物としては、例えばペンタクロロフェノールナトリウムが、ピリジンオキシド系化合物としては、例えば2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウムが、イソチアゾリン系化合物としては、例えば1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンマグネシウムクロライド、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド等がそれぞれ挙げられる。その他の防腐防黴剤としてソルビン酸ソーダ、安息香酸ナトリウム等が挙げられる。
【0032】
pH調整剤としては、調製されるインク組成物に悪影響を及ぼさずに、インクのpHを通常7.0〜11.0の範囲に制御できるものであれば任意の物質を使用することができる。使用しうるpH調整剤の具体例としては、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、水酸化アンモニウム、あるいは炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩等が挙げられる。
使用しうるキレート試薬の例としては、例えばエチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラシル二酢酸ナトリウム等が挙げられる。使用しうる防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグリコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト等が挙げられる。
【0033】
使用しうる水溶性紫外線吸収剤の例としては、例えばスルホン化されたベンゾフェノン又はスルホン化されたベンゾトリアゾール等が挙げられる。
使用しうる水溶性高分子化合物の例としては、例えばポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリアミン、ポリイミン等が挙げられる。
使用しうる染料溶解剤の例としては、例えば尿素、ε−カプロラクタム、エチレンカーボネート等が挙げられる。
使用しうる界面活性剤の例としては、例えばアニオン界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤等が挙げられる。ここでアニオン界面活性剤としてはアルキルスルホカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、N−アシルアミノ酸及びその塩、N−アシルメチルタウリン塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリルスルホン酸塩、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキシルスルホ琥珀酸、ジオクチルスルホ琥珀酸塩等が挙げられる。又カチオン界面活性剤としては2−ビニルピリジン誘導体、ポリ−4−ビニルピリジン誘導体等が挙げられる。
【0034】
更に両性界面活性剤としては、例えばラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシンその他イミダゾリン誘導体等がある。更にノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル等のエーテル系、ポリオキシエチレンオレイン酸、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール等のアセチレングリコール系(例えば、日信化学社製サーフィノール104、104PG50、82、465、オルフィンSTG等)、等が挙げられる。
これらのインク調製剤のそれぞれは、単独で又は混合して用いられる。
【0035】
本発明のインク組成物は、式(1)で表される水溶性アゾ化合物を水に、必要により水溶性有機溶剤及び上記インク調製剤等と共に溶解させることによって製造できる。式(1)の水溶性アゾ化合物を含む反応液を直接インク組成物の製造に使用する際には、金属陽イオンの塩化物、硫酸塩等の無機物の含有量が少ないものを用いるのが好ましく、その含有量の目安は前記したとおり反応液に含有される色素原末当たり1質量%以下含有される程度である。無機物の少ない色素を製造するには、例えばそれ自体公知の逆浸透膜による方法等で、反応液を脱塩処理すればよい。
【0036】
前記製造方法において、各成分を溶解させる順序には特に制限はない。あらかじめ水及び/又は水溶性有機溶剤に式(1)で表される水溶性アゾ化合物を溶解させ、インク調製剤を添加して溶解させてもよいし、式(1)で表される水溶性アゾ化合物を水に溶解させたのち、水溶性有機溶剤、インク調製剤を添加して溶解させてもよい。またこれと順序が異なっていてもよいし、式(1)で表される水溶性アゾ化合物の反応液又は逆浸透膜による脱塩処理を行った液に、水溶性有機溶剤、インク調製剤を添加してインク組成物を製造してもよい。本発明のインク組成物を調製するにあたり、用いられる水はイオン交換水又は蒸留水等不純物が少ないものが好ましい。さらに、インク組成物を調製した後、必要に応じメンブランフィルター等を用いて精密濾過を行って夾雑物を除いてもよく、殊にインクジェットプリンタ用のインク組成物として使用する場合は精密濾過を行うことが好ましい。精密濾過を行うフィルターの孔径は通常1ミクロン〜0.1ミクロン、好ましくは、0.8ミクロン〜0.2ミクロンである。
【0037】
本発明のインク組成物は、印捺、複写、マーキング、筆記、製図、スタンピング、記録(印刷)等に適し、特にインクジェット記録における使用に適する。これらの場合において、水、日光、オゾン及び摩擦に対する良好な耐性を有する高品質の黄色の印捺物等を与える。
【0038】
本発明の着色体は本発明の化合物で着色されたものである。着色されるべきものとしては、特に制限はなく、例えば紙、繊維や布(セルロース、ナイロン、羊毛等)、皮革、カラーフィルター用基材等があげられるがこれらに限定されない。着色法としては、例えば浸染法、捺染法、スクリーン印刷等の印刷法、インクジェットプリンタによる方法等があげられるが、インクジェットプリンタによる方法が好ましい。
【0039】
インクジェットプリンタにおいて、高精細な画像を供給することを目的に、同一色で高濃度インクと低濃度インクの2種類のインクが1台のプリンタに装填されたものもある。その場合、本発明の式(1)で表される水溶性アゾ化合物を用いて高濃度のインク組成物と、低濃度のインク組成物をそれぞれ作製し、それらをインクセットとして使用してもよい。またどちらか一方だけに式(1)で表される水溶性アゾ化合物を含有するインク組成物を用いてもよい。また本発明の式(1)で表される水溶性アゾ化合物と公知のイエロー色素とを併用してもよい。また他の色、例えばブラックインクの色相を調整する為、あるいはマゼンタ色素やシアン色素と混合して、レッドインクやグリーンインクを調製する目的で式(1)で表される水溶性アゾ化合物を用いることもできる。
【0040】
本発明のインクジェット記録方法を適用しうる被記録材(メディア)としては、例えば、普通紙、情報伝達用シート、繊維及び皮革等が挙げられる。これらのうち、情報伝達用シートについては、表面処理されたもの、具体的には紙、フィルム等の基材にインク受容層を設けたものが好ましい。インク受容層は、例えばこれらの基材にカチオン系ポリマーを含浸あるいは塗工することにより、また多孔質シリカ、アルミナゾルや特殊セラミックス等インク中の色素を吸収し得る多孔性白色無機物をポリビニルアルコールやポリビニルピロリドン等の親水性ポリマーと共に上記基材表面に塗工することにより設けられる。このようなインク受容層を設けたものは通常インクジェット専用紙(フィルム)あるいは光沢紙(フィルム)と呼ばれ、例えばピクトリコ(旭硝子(株)製)、プロフェッショナルフォトペーパー、スーパーフォトペーパー、マットフォトペーパー(いずれもキヤノン(株)製)、写真用紙〈光沢〉、フォトマット紙、スーパーファイン専用光沢フィルム(いずれもエプソン(株)製)、プレミアムプラスフォト用紙、プレミアム光沢フィルム、フォト用紙、(いずれも日本ヒューレットパッカード(株)製)、フォトライクQP(コニカ(株)製)等として市販されている。
【0041】
これらのうち、特に多孔性白色無機物を表面に塗工した被記録材に記録した画像において、オゾンガスによる色素の変退色が大きくなることが知られているが、本発明のインク組成物はガス耐性が優れているため、このような被記録材への記録においても変退色の小さい優れた記録画像を与える。
【0042】
本発明のインクジェット記録方法で、被記録材に記録するには、例えば上記のインク組成物が充填された容器をインクジェットプリンタの所定位置にセットし、通常の方法で、被記録材に記録すればよい。
本発明のインクジェット記録方法では、黄色の本発明のインク組成物と共に、マゼンタインク組成物、シアンインク組成物、必要に応じて、グリーンインク組成物、ブルー(又はバイオレット)インク組成物、レッドインク組成物、及びブラックインク組成物等と併用して使用しうる。この場合、各色のインク組成物は、それぞれの容器に注入され、それらの容器を、インクジェットプリンタの所定位置に装填して使用する。使用しうるインクジェットプリンタの例としては、例えば機械的振動を利用したピエゾ方式のプリンタや加熱により生ずる泡を利用したバブルジェット(登録商標)方式のプリンタ等が挙げられる。
【0043】
本発明のインク組成物は、鮮明な黄色であり、特にインクジェット用専用紙又は光沢紙において鮮明度が高く、インクジェット記録法に適した色相を有する。また、その記録画像の堅牢度が非常に高いことを特徴とする。本発明のインク組成物は貯蔵中に沈澱、分離することがない。また、本発明のインク組成物をインクジェット記録に使用した場合、噴射器(インクヘッド)を閉塞することもない。本発明のインク組成物は連続式インクジェットプリンタによる比較的長い時間間隔の再循環下においても、又はオンデマンド式インクジェットプリンタによる断続的な使用においても、物理的性質の変化を起こさない。
【実施例】
【0044】
以下に本発明を実施例により、更に具体的に説明する。尚、本文中「部」及び「%」とあるのは、特別の記載のない限り質量基準である。
なお、合成した各化合物のλmaxは、pH7〜8の水溶液中での測定値を示した。また得られた式(7)〜式(10)の化合物は便宜上、遊離酸の形で示したが、以下の実施例においては、式(7)〜式(10)の各化合物をナトリウム塩として得た。
【0045】
実施例1
5−アミノイソフタル酸36.2部を水酸化ナトリウムでpH6に調整しながら水210部に溶解し、亜硝酸ナトリウム14.8部を加えた。この溶液を5〜10℃の5%塩酸510部中に30分間かけて滴下した後、10℃以下で1時間攪拌し、ジアゾ化反応を行った。次に2−スルホプロポキシアニリン46.2部を、水酸化ナトリウムでpH5に調整しながら水130部に溶解し、21.8部の重亜硫酸ナトリウム及び18.0部の35%ホルマリンを用いて、常法によりメチル−ω−スルホン酸誘導体とした後に、先に合成したジアゾニウム塩中に投入し、0〜5℃、pH0〜2で2時間攪拌した。反応液を水酸化ナトリウムでpH11とした後、同pHを維持しながら65〜70℃で5時間攪拌し、さらに240部の塩化ナトリウムで塩析することにより160部のアミノ基を有するアゾ化合物をウエットケーキとして得た。次に250部の氷水中にレオコールTD90(界面活性剤、ライオン社製)0.14部を加え激しく攪拌し、その中に塩化シアヌル13.8部を添加し0〜5℃で30分間攪拌した。続いてこの懸濁液を、先にウエットケーキで得た160部のアミノ基を有するアゾ化合物と水400部で得られた溶液中に30分間かけて滴下し、滴下終了後pH5〜6、20〜25℃で2時間撹拌した後、タウリン11.2部を投入し、pH7〜8、75〜80℃で3時間攪拌した。得られた反応液を20〜25℃まで冷却後、この反応液にメタノール800部を投入し、20〜25℃で1時間攪拌し、ろ過することによりウエットケーキ95.0部を得た。このウエットケーキを熱風乾燥機(80℃)で乾燥することにより、下記式(7)で示される本発明の水溶性アゾ化合物(λmax 390nm)56.0部を得た。
【0046】
【化8】

【0047】
実施例2
実施例1のタウリン11.2部をグリシン6.8部とする以外は実施例1と同様の方法で本発明の下記式(8)で示される水溶性アゾ化合物(λmax 393nm)52.0部を得た。
【0048】
【化9】

【0049】
実施例3
実施例1の5−アミノイソフタル酸36.2部を3−アミノ安息香酸27.4部とする以外は実施例1と同様の方法で本発明の式(9)で示される本発明の水溶性アゾ化合物(λmax 383nm)50.0部を得た。
【0050】
【化10】

【0051】
実施例4
5−アミノイソフタル酸18.1部を水酸化ナトリウムでpH6に調整しながら水100部に溶解し、亜硝酸ナトリウム7.2部を加えた。この溶液を5〜10℃の5%塩酸255部中に1時間かけて滴下した後、10℃以下で1時間攪拌し、ジアゾ化反応を行った。次に2−スルホプロポキシアニリン23.1部を水酸化ナトリウムでpH5に調整しながら水70部に溶解し、重亜硫酸ナトリウムおよびホルマリンを用いて、常法によりメチル−ω−スルホン酸誘導体とした後に、先に合成したジアゾニウム塩を投入し、pH5〜6、10〜15℃で3時間攪拌した。反応液を水酸化ナトリウムでpH12とした後に80〜90℃で2時間攪拌した後、得られた反応液をろ過後、ろ液を熱風乾燥機(80℃)で全乾燥し、アミノ基含有アゾ化合物を40.1部を得た。次に塩化シアヌル9.3部を200部の氷水中で激しく攪拌懸濁し、この中へ水400部で溶解させたアミノ基含有アゾ化合物を40.1部を1時間かけて滴下し、滴下後pH3〜3.5、5〜10℃で1時間、続いてpH5〜6、30〜40℃で3時間攪拌した後、pH9〜10、80〜90℃で4時間攪拌した。得られた反応液をろ過後、ろ液を熱風乾燥機(80℃)で全乾燥し、色素粉末54.0部を得た。この色素粉末を水300部、メタノール700部中に投入し、1時間攪拌後、ろ過分取した。得られたウエットケーキを熱風乾燥機(80℃)で全乾燥することにより、下記式(10)で示される化合物(λmax 383nm)45.0部を得た。
【0052】
【化11】

【0053】
実施例4〜7
(A)インクの調製
上記実施例1、2、3及び4で得られた本発明の各アゾ化合物を用いて表2に示した組成比で混合して本発明のインク組成物を得、それぞれ0.45μmのメンブランフィルターで濾過する事により夾雑物を除いた。尚、水はイオン交換水を使用し、インク組成物のpHがpH=7〜9となるように28%アンモニア水で調整後、総量が100部になるように水を加えた。実施例1、実施例2、実施例3及び実施例4で得られた各アゾ化合物を用いた試験をそれぞれ実施例4、実施例5、実施例6及び実施例7とする。
【0054】
表2(インク組成物の組成比)
実施例1〜実施例4で得られた各アゾ化合物 5.0部
グリセリン 5.0部
尿素 5.0部
N−メチル−2−ピロリドン 4.0部
イソプロピルアルコール 3.0部
ブチルカルビトール 2.0部
サーフィノール104PG50(注) 0.1部
28%アンモニア水+水 75.9部
計 100.0部
(注)アセチレングリコ−ル系ノニオン界面活性剤、日信化学社製
【0055】
比較対象として、インクジェット用黄色色素として広く用いられているC.I.ダイレクトイエロー132を用いて表3の組成比で比較用のインク組成物を調製した(比較例1)。
【0056】
表3(比較用インク組成物の組成比)
C.I.ダイレクトイエロー132 3.0部
グリセリン 5.0部
尿素 5.0部
N−メチル−2−ピロリドン 4.0部
イソプロピルアルコール 3.0部
ブチルカルビトール 2.0部
サーフィノール104PG50(前記) 0.1部
28%アンモニア水+水 77.9部
計 100.0部
【0057】
(B)インクジェットプリント
インクジェットプリンタ(キヤノン社製 Pixus 860i)を用いて、多孔性白色無機物を含有したインク受容層を有する光沢紙1(キヤノン社製 プロフェッショナルフォトペーパー PR−101)及び光沢紙2(エプソン社製 写真用紙<光沢> KA450PSK)の2種にインクジェット記録を行った。インクジェット記録の際、反射濃度が数段階の階調が得られるように画像パターンを作り、黄色の印字物を得た。
耐湿性試験は未印字部と印字部を有する印刷物を用いて行い、又耐光性試験及び耐オゾンガス性試験は試験前の印字物の反射濃度D値が1に最も近い部分について反射濃度の測定を行った。また、反射濃度は測色システム「GRETAG SPM50:GRETAG社製」を用いて測定した。
【0058】
(C)記録画像の耐湿性試験
光沢紙1と光沢紙2にプリントした試験片を恒温恒湿器(応用技研産業(株)製)を用いて50℃、湿度90%RH(相対湿度)で7日間放置し、試験前後の印字部の色素(染料)の未印字部への滲みを目視により判定した。結果を表4に示す。評価基準は以下のようである。
○ 色素の未印字部への滲みがほとんど見られない。
△ 色素の未印字部への滲みがやや見られる。
× 色素の未印字部への滲みがかなり見られる。
【0059】
(D)記録画像のキセノン耐光性試験
光沢紙1と光沢紙2にプリントした試験片を空気層を介して2mm厚のガラス板と共にホルダ−に設置して、キセノンウェザオメータCi4000(ATLAS社製)を用い、0.36W/平方メートル照度で50時間照射した。試験後、反射濃度を測色システムを用いて測色した。測定後、色素残存率を(試験後の反射濃度/試験前の反射濃度)×100(%)で計算して求め、3段階で評価した。
色素残存率が85%以上・・・・・・・・○
色素残存率が75%以上85%未満・・・△
色素残存率が75%未満・・・・・・・・×
結果を表4に示す。
【0060】
(E)記録画像の耐オゾンガス性試験
光沢紙1と光沢紙2にプリントした試験片をオゾンウェザーメーター(スガ試験機社製)を用いてオゾン濃度40ppm、湿度60%RH、温度24℃の環境下に3時間放置した後、反射濃度を前記の測色システムを用いて測色した。測定後、色素残存率を(試験後の反射濃度/試験前の反射濃度)×100(%)で計算して求め、3段階で評価した。
色素残存率が65%以上 ○
色素残存率が55%以上65%未満 △
色素残存率が55%未満 ×
結果を表4に示す。
【0061】
(F)溶解性試験
実施例1乃至実施例4で得られた各アゾ化合物(Na塩)について、 水に対する溶解性を試験した。水はイオン交換水を用い、pH8付近、室温(約25℃)で試験を行った。溶解性は以下の評価基準で評価した。
C.I.ダイレクトイエロー132に比べ溶解度が高い ○
C.I.ダイレクトイエロー132と同等の溶解度 △
C.I.ダイレクトイエロー132に比べ溶解度が低い ×
結果を表4に示す。
【0062】
表4 各種試験結果
溶解性 耐湿性 耐オゾンガス性 耐光性
実施例4 ○ (光沢紙1) ○ ○ ○
(光沢紙2) ○ ○ ○
実施例5 ○ (光沢紙1) ○ ○ ○
(光沢紙2) ○ ○ ○
実施例6 ○ (光沢紙1) ○ ○ ○
(光沢紙2) ○ ○ ○
実施例7 ○ (光沢紙1) ○ ○ ○
(光沢紙2) ○ ○ ○
比較例1 − (光沢紙1) ○ △ △
(光沢紙2) × ○ ○
【0063】
表4の結果より明らかなように、比較例1の化合物(C.I.ダイレクトイエロー132)は光沢紙1を用いた耐オゾンガス性試験において色素残存率が55%以上65%未満の範囲、耐光性試験においても75%以上85%未満の範囲であり、これらの堅牢性において問題があった。さらに光沢紙2を用いた耐湿性試験においては未印字部分への色素の滲みがかなり認められ、耐湿堅牢性においても難点がある。これと比較し実施例4乃至実施例7のインク組成物(本発明のインク組成物)は、いずれの光沢紙を用いた場合でも、耐オゾンガス性試験においては色素残存率が65%以上、耐光性試験においても色素残存率が85%以上、耐湿性試験においても未印字部分への色素の滲みがほとんど見られず、各試験の全てにおいて高い堅牢性を示した。また溶解性試験においても比較例1の化合物を上回る結果を示した。
【0064】
以上の結果から、本発明の水溶性アゾ化合物は特にインクジェット記録用のインク組成物を調製するのに適し、インクジェットインク用の黄色色素として非常に有用な化合物であることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離酸として、下記式(1)
【化1】

(式(1)中、Aはヒドロキシル基、アミノ基、モルホリノ基、置換基を有していてもよい脂肪族アミン残基、置換基を有していてもよい芳香族アミン残基、置換基を有していてもよいフェノキシ基又は置換基を有していてもよいアルコキシ基を、R1は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を、R2は水素原子、ニトロ基又はヒドロキシル基を、nは1〜3の整数をそれぞれ表す。)で示される水溶性アゾ化合物
【請求項2】
式(1)におけるR1が水素原子である請求項1に記載の水溶性アゾ化合物
【請求項3】
式(1)におけるR2が水素原子である請求項1又は請求項2に記載の水溶性アゾ化合物
【請求項4】
式(1)におけるAが下記式(2)若しくは(3)で示される基又はヒドロキシル基
【化2】

である請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の水溶性アゾ化合物
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の水溶性アゾ化合物を含有することを特徴とするインク組成物
【請求項6】
水溶性有機溶剤を含有する請求項5に記載のインク組成物
【請求項7】
インクジェット記録用である請求項5又は請求項6に記載のインク組成物
【請求項8】
インク滴を記録信号に応じて吐出させて被記録材に記録を行うインクジェット記録方法において、インクとして請求項5乃至請求項7のいずれか一項に記載のインク組成物を用いることを特徴とするインクジェット記録方法
【請求項9】
被記録材が情報伝達用シートである請求項8に記載のインクジェット記録方法
【請求項10】
情報伝達用シートが多孔性白色無機物を含有したインク受容層を有するシ−トである請求項9に記載のインクジェット記録方法
【請求項11】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の水溶性アゾ化合物、又は請求項5乃至請求項7のいずれか一項に記載のインク組成物で着色された着色体
【請求項12】
着色がインクジェットプリンタによりなされた請求項11に記載の着色体
【請求項13】
請求項5乃至請求項7のいずれか一項に記載のインク組成物を含む容器が装填されたインクジェットプリンタ

【公開番号】特開2006−152264(P2006−152264A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−310471(P2005−310471)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】