説明

水溶性中子の造型方法及び造形装置

【課題】 流動性、充填性に優れ、強度を向上させた水溶性中子の造型方法と造型装置を提供する。
【解決手段】 鋳物砂に水溶性バインダを混合してスラリー状とし、該スラリーを鋳型内に充填し、その後該充填物を乾燥させて成型する鋳物砂中子の造型方法において、該スラリーを鋳型内に充填する際に、(a)鋳型のキャビティー内を減圧にする及び/又は(b)該スラリーを加圧して鋳型内に充填する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動性と充填性を低下させずに、強度を向上させた水溶性中子バインダを用いた水溶性中子の造型方法に関する。又、水溶性中子を用いたアルミ合金の鋳造方法に関する。更に、本発明は、水溶性中子の造型装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳型に溶湯を圧入し,急冷凝固させて鋳物を製造することができる。このような、精密鋳造技術においては、機械部品等の精密鋳造品の内部に空間を設けるために、中子が広く利用されている。例えば、アルミ合金を使ったシリンダの内部空間、エグゾースト内部の冷却媒体通路の作製に中子は不可欠なものである。
【0003】
中子の強度を増加させるためには、樹脂、無機塩等のバインダが使用されている。特に、中子バインダとして無機塩を用いることにより、鋳造時のガス発生量を低減させ、鋳造後は中子砂落しを水で行うことのできる水溶性中子が考えられている。しかしながら、実用化・量産化されたものはない。その理由は、バインダの結合力がないため、必要な中子強度を得ることが困難なことによる。
【0004】
即ち、中子用鋳物砂に無機塩等のバインダを添加する場合、
1)バインダ量を増加すれば、中子強度が向上する。
2)バインダは、水に溶かして(飽和濃度にして)鋳物砂に添加する。よって、バインダ量の増加は、水の量の増加となる。
3)水の増加は、鋳物砂の流動性低下となり、中子型への鋳物砂の充填性を阻害する。
【0005】
このように、鋳物砂に、バインダだけの添加だと、中子強度と鋳物砂の流動性を両立させることができない。そこで、バインダ量を増加させずに、中子強度を向上させる技術が必要となっている。
【0006】
下記特許文献1には、流動性、充填性、成形性の改善を目的として、無機粒子に黒鉛をバインダで被覆してなる無機複合粒子であって、黒鉛の被覆量が無機粒子100重量部に対して0.1〜50重量部であり、かつ黒鉛に対するバインダの重量比が0.002〜2である無機複合粒子からなる鋳物用砂の発明が開示されている。しかし、用いられているバインダは、フェノール樹脂、フラン樹脂、ピッチであり、本発明のように、水溶性中子を得るものではない。
【0007】
ところで、従来水溶性無機中子砂による造型はあまり報告されていない。これは、水溶性バインダを混練した鋳物砂を型内にブローイングする際、非常に流動性が悪いため、十分に鋳物砂を充填した中子が造型できないことによるものである。従来技術で水溶性バインダを用いて砂中子を造型した場合の問題点としては、
1.ウエットサンド状態の砂を吹き込むため、流動性が悪く複雑形状の充填は難しい
2.ブローイング前の砂ホッパー等は自然乾燥を防ぐ密閉等の構造が必要で設備が複雑になる
3.ブローイング後ブローヘッド内残砂が次第に乾燥するので、砂量制御が重要で複雑になる
4.これら湿砂がふれる設備内で次第に砂が乾燥付着するので、清掃が必要
が挙げられる。
【0008】
そこで、下記非特許文献1には、鋳型チャンバー内に乾燥砂を充填し、充填後に前記鋳型内を減圧して液状バインダを注入させ、しかる後に前記鋳型内に乾燥空気やガスを吹き込み、加熱して鋳型を造型する鋳型造型法が開示されている。
【0009】
しかし、下記非特許文献1に記載の鋳型造型法では、上記造型法では鋳型内に乾燥砂を充填させているため、後工程において液状無機バインダを注入しても浸透性が悪く、温間強度(取り出し強度)が低く実用上問題が残る。
【0010】
又、乾燥砂(新砂)充填型内にバインダ液を注入しても、温間強度(取り出し強度)が通常混練砂の1/2ほどしかなく、実用上問題であった。新砂に液体バインダを注入した場合の低強度の理由は、ブロー後の砂粒問をバインダが通過するだけで混練(コーティング)工程がないので、砂粒接触部の微小空間に注入バインダが入りにくいことによる。一般にも、良く混練した方がバインダが均一にコーティングされ強度がでることと同様の理由による。
【0011】
【特許文献1】特開2002−263782号公報
【非特許文献1】トヨタ技術公開集No.14526(2003年3月31日)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記問題に鑑み、本発明は、流動性、充填性に優れ、強度を向上させた水溶性中子の造型方法を提供し、水溶性中子を実用性のあるものとすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋳物砂を従来の乾燥砂に代えて水溶性無機バインダのスラリーとすることで上記課題が解決されることを見出し、本発明に到達した。
【0014】
即ち、第1に、本発明は、鋳物砂中子の造型方法の発明であり、鋳物砂に水溶性バインダを混合してスラリー状とし、該スラリーを鋳型内に充填し、その後該充填物を乾燥させて成型する鋳物砂中子の造型方法において、該スラリーを鋳型内に充填する際に、(a)鋳型のキャビティー内を減圧にする及び/又は(b)該スラリーを加圧して鋳型内に充填する。鋳物砂と水溶性バインダを混合してスラリー状にして、これを鋳型内に充填させるため、鋳物型へのスラリーの浸透性が向上し、温間強度を上げることができる。
【0015】
本発明において、前記鋳物砂に水溶性バインダを混合したスラリーの粘度としては、4〜12cpが好ましい。
【0016】
水溶性バインダとしては水溶性無機塩バインダや有機バインダを用い得ることができるが、加熱時に焦げ付きがないことから水溶性無機塩バインダが好ましい。
【0017】
混練される鋳物砂及び水溶性バインダの量の目安としては、鋳物砂と水溶性バインダの重量比が1:0.1〜1:5であることが好ましく、1:0.5〜1:1であることがより好ましい。
【0018】
本発明では、前記鋳物砂を乾燥させて成型する工程は、(1)鋳型内への乾燥用熱風の吹き込み、(2)鋳型の加熱、(3)マイクロウェーブでの鋳物砂の加熱の1種又はこれらの併用によって行うことができる。この中で、鋳型内への乾燥用熱風の吹き込みが好ましい。
【0019】
本発明の鋳物砂中子の造型方法に用いられる水溶性バインダとしては無機、有機であり、特に限定されないが、マグネシウムイオン(Mg2+)、ナトリウムイオン(Na)、カルシウムイオン(Ca2+)から選択されるカチオンと、SO2−、CO2−、HCO2−、Bから選択されるアニオンとの組み合わせからなる水溶性無機塩の1種以上から成る水溶性中子バインダが好ましく例示される。これら特定のカチオンとアニオンの組み合わせからなる無機塩は、バインダとしての強度、可溶性、充填性等を満たす。より具体的には、硫酸マグネシウム(MgSO)、炭酸ナトリウム(NaCO)、4ホウ酸ナトリウム(Na)、硫酸ナトリウム(NaSO)から選択される1種以上が挙げられる。
【0020】
本発明では、水溶性無機塩バインダに、珪砂(珪粉)、アルミナ、チタン酸カリウム、炭化珪素、珪酸ジルコン、繊維状チタン酸カリウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化マグネシウムから選択される無機フィラーの1種以上が添加することができる。無機フィラーを添加することで水溶性中子の高温強度が更に向上し、造型された中子のハンドリングに優れるという実用性が生じる。
【0021】
本発明で用いられる特定の無機フィラーは、表面が無機塩バインダで被覆された鋳物砂粒子の接点付近に存在して、鋳物砂粒子の結合力を高めるものである。その平均粒径は、数μm〜数10μm程度が鋳物砂の接点付近に存在するのに好ましい。
【0022】
更に、本発明では、表面が水溶性無機塩バインダで被覆された鋳物用砂の隙間を無機微粉末が充填されていることが好ましい。ここで、無機微粉末は、表面が無機塩バインダで被覆された鋳物砂粒子の隙間に充填されて、鋳物砂粒子の結合力を高めるものである。具体的には、カオリナイト、デッカイト、ハロサイト等のカオリン、タルクから選択される1種以上が好ましく例示される。その平均粒径は、数μm〜数10μm程度が鋳物砂の隙間に充填するのに好ましい。
【0023】
本発明で用いられる鋳物砂粒子は、従来知られたものを用いることができる。具体的には、SiC,アルミナ,ムライト,シリカ,ジルコンを用いることが好ましい。これらは,優れた強度,低熱膨張率を有するとともに入手が比較的容易であり、強度,寸法精度等に優れた水溶性中子を製造することができる。
【0024】
本発明で造型される水溶性中子は、鋳物砂粒子の表面が水溶性無機塩バインダで被覆された水溶性中子であり、十分な中子強度と流動性(充填性)を兼ね備えている。
【0025】
第2に、本発明は上記鋳物砂中子造型に用いられる鋳物砂中子造型装置の発明であり、鋳物砂に水溶性バインダを混合してスラリー状とし、該スラリーを鋳型内に充填し、その後該充填物を乾燥させて成型する鋳物砂中子の造型方法に用いる造形装置であって、該スラリーの鋳型内への充填を行うための、(c)鋳型のキャビティー内を負圧にする減圧機構及び/又は(d)該スラリーを加圧して鋳型内に充填する加圧機構を備えている。
【0026】
本発明の鋳物砂中子造型装置では、前記鋳型がキャビティー内のエア抜き及び/又は乾燥時の熱風抜きのための排気ベントを1個以上備えていることが好ましい。
【0027】
また、本発明の鋳物砂中子の造型装置では、前記(d)スラリーを加圧して鋳型内に充填する加圧機構が、充填物を乾燥させて成型する際に、(e)熱風送風機構に置換可能とすることができる。
【0028】
本発明の鋳物砂中子の造型装置では、スラリーに対する加圧及び/又は減圧を効率よく行うために、以下に示すように幾つかの配置が考えられる。
1.前記(d)スラリーを加圧して鋳型内に充填する加圧機構を、スラリーを鋳型本体へ落とし込む方式とする。
2.前記(d)スラリーを加圧して鋳型内に充填する加圧機構を、スラリーを鋳型本体へ押し上げる方式とする。
3.前記(c)鋳型のキャビティ内の減圧機構を、スラリーを鋳型本体へ吸い上げる方式とする。
4.前記(c)鋳型のキャビティ内の減圧機構を、スラリーを鋳型本体から吸い落とす方式とする。
【0029】
第3に、本発明は、上記の鋳物砂中子の造型方法によって造型された水溶性中子を用いたアルミ合金の鋳造方法である。水溶性中子を用いているため、鋳造後の砂落としが容易である。本発明により、例えば、アルミ合金シリンダ等の精密鋳造品を製造することが出来る。
【0030】
なお、本発明では、水溶性中子バインダを砂落とし後に回収してリユースすることで、環境問題に対処することができる。鋳物砂と水溶性バインダのスラリー状の混合物を用いて、該スラリーを鋳型内に充填し、該スラリーを乾燥させて成型して鋳物砂中子を造型した後、鋳造工程、砂落とし工程を経た後、該水溶性バインダを水溶液として回収し、得られた水溶液から水分を蒸発等で分離させて、水溶性バインダを回収する。回収された水溶性バインダは上記の鋳物砂中子の造型方法に再利用される。水溶性無機塩バインダを繰り返し再利用することにより、環境負荷の少ない鋳物砂中子の造型方法となる。水溶性無機塩バインダを水溶液として回収した後、イオン交換膜を用いた透析により該水溶性無機塩を濃縮することも可能である好ましい。
【0031】
水溶性中子バインダの回収・再利用(リユース)方法により、従来大量の産業廃棄物として、水溶性中子バインダを含む廃液の処置が困難であったものが、ほぼ全量回収することが可能となり、再度水溶性中子バインダとして利用できることとなった。これにより、環境問題が解決されたのみならず、アルミ合金シリンダ等の製造コストを大幅に削減することが出来る。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、鋳物砂と水溶性バインダのスラリー状の混合物を用いて、該スラリーを鋳型内に充填し、該スラリーを乾燥させて成型して鋳物砂中子を造型するため、鋳型への鋳物砂と水溶性バインダのスラリーの浸透性が向上し、鋳物砂中子の温間強度を上げることができる。特に、水溶性無機塩から成る水溶性中子バインダを用いることで、十分な中子強度と水溶性を併せ持つ水溶性中子を得ることができる。また、この水溶性中子を用いることで、鋳造時に型崩れせず、鋳造後の除去が容易な鋳造を行うことができる。
【0033】
即ち、本発明の効果を列挙すれば以下のようになる。
1.無機バインダを用いても複雑な形状の鋳型も砂充填でき、鋳型、中子の造型が可能となる。
2.スラリー状の砂の準備は所定の濃度のバインダをスラリー状になるように砂に加えるだけでよく、乾燥の心配も少なく取り扱いが簡単である。(余分なバインダはエアとともに排出されるのでコントロール不要)
3.中子のバインダ量は液濃度、吸引圧/加圧条件でコントロールできるため、造型後の中子強度は広範囲に調整可能となる(高強度中子の作製が可能)。また過剰に注入しても粒子間隙間の残存量は一定にできるため、液量のコントロールはラフでも問題ない。
4.減圧により水の沸点が下がり、より低温で水が蒸発・硬化するので金型温度を低下できる。
5.中子内の温度差により、塩濃度の分布は金型面(中子では外側)が密となる。鋳物砂粒子間隙が塩で満たされることにより中子表面が平滑になり、鋳物表面粗度が向上する。
6.スラリーの乾燥・硬化は加熱金型の熱伝導により促進されるため中子に温度差が生じる。この現象を利用して内部が硬化するまえにスラリーを排出することにより中空中子の作製が可能となる。
7.鋳物を水に浸すことにより硬化バインダが溶解し中子が崩壊するから、砂分離(砂落とし)が可能である。この際バインダ溶液そのものを用いれば、取り出された鋳物砂は造型前に近い組成のスラリーとなる。本発明によれば少しの水を加えてバインダ濃度を調整するだけでそのままスラリー状鋳物砂とて扱えるので、いわゆる砂再生工程が不用となる。即ち、新砂相当にする必要もなく又焙焼や研磨等のあらゆる再生工程を省略できる。
8.所定比で混合された鋳物砂と水溶性バインダのスラリーをブローイングするので、スラリーの取り扱い、計量が容易で乾燥の心配も少なく、取り扱いが容易である。
9.鋳物砂を工程内で再使用する場合、砂にバインダが付着しているが、本発明によればそのまま事前混練砂として扱えるので、いわゆる砂再生工程が不用となる。新砂相当にするための、焙焼や研磨等も不用である。
【0034】
本発明によって、中子の温間強度を上げることができることの作用原理は必ずしも解明されないが、鋳物砂の表面の水溶性無機塩の結晶が、滑らかに、均一に被覆されることにより、結晶強度を発揮させ、造型された中子の温間強度を上げるものと推定される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
図1に、本発明の鋳物砂中子の各造型工程を示す。図1(a)は、スラリー砂充填工程であり、鋳物砂と水溶性バインダの混合物からなるスラリー状鋳物砂1を、ノズル6を介して、スラリーボックス2に入れ、加圧エア3及び排気ベント8からの減圧吸引4よって、鋳物型5内のキャビティー7に充填される。
【0036】
図1(b)は、乾燥・成型工程であり、キャビティー7に充填されたスラリー状鋳物砂に熱風挿入ヘッド9より乾燥用熱風10を吹き込み、該スラリー状鋳物砂を乾燥・造型させて成型中子11とする。
【0037】
なお、図1において排気ベント8は1箇所設けられているが、所望により複数個設けても良い。また、排気ベント8の隙間を小さく、例えば0.1mm程度に、すると鋳物砂の詰まりが少なくなる。一方、該隙間が水溶性バインダによって目詰まりした時は、本発明の操作後に水洗することで容易に流すことができる。
【0038】
図2(a)〜(d)に、本発明の鋳物砂中子造型に用いられる鋳物砂中子造型装置の幾つかの類型を示す。これらは、スラリーに対する加圧機構及び/又は減圧機構の組み合わせである。図2(a)は、スラリーを加圧して鋳型内に充填する加圧機構を、スラリーを鋳型本体へ落とし込む方式とする図であり、図2(b)は、スラリーを加圧して鋳型内に充填する加圧機構を、スラリーを鋳型本体へ落とし込む方式とするとともに、鋳型のキャビティー内の減圧機構を、スラリーを鋳型本体へ吸い上げる方式とする図であり、図2(c)は、鋳型のキャビティー内の減圧機構を、スラリーを鋳型本体から吸い落とす方式とする図であり、図2(d)は、スラリーを加圧して鋳型内に充填する加圧機構を、スラリーを鋳型本体へ押し上げる方式とするとともに、鋳型のキャビティー内の減圧機構を、スラリーを鋳型本体から吸い落とす方式とする図である。
【0039】
これらの加圧機構及び/又は減圧機構の組み合わせの中で、加圧と減圧の両者を組み合わせた鋳物砂中子造型装置が好ましい。
【0040】
以下、図1に準じて、本発明の実施例を説明する。
鋳物砂として乾燥したムライト系人工砂を用い、水溶性無機塩バインダとして硫酸マグネシウム(MgSO)10g(10%)と炭酸ナトリウム(NaCO)10g(10%)を水100cc当たりに溶かした水溶液を用いた。これら鋳物砂と水溶性無機塩バインダ水溶液を1:0.5の割合で混合した。得られた無機水溶性バインダ溶液でスラリー状にした鋳物砂1をスラリーボックス2に入れた状態から、加圧エア3を吹込むと同時に減圧吸引4する。前記スラリーボックス2と鋳物型5は吹き込みスラリー中に開口部が達するようにしたパイプと結合しているノズル6を介して連通かつ密着しているので鋳物砂1は鋳物型内のキャビティー7に充填される。この際、鋳物砂は多量のバインダ溶液でスラリー状になっているので、液体に近い状態で隅々まで充填する。(以上、スラリー砂充填工程)
【0041】
次に、スラリーボックスに代え、熱風挿入ヘッド9をセットし、所定の熱風待ち保持時間待機後、下部から乾燥用熱風10を入れ、鋳物型内で前記スラリー状態の鋳物砂を乾燥し成形する。乾燥を熱風で行う以外に型の加熱も有効であり、また型加熱の代わりにマイクロウェーブで鋳物砂を加熱する方法もある。最後に、成形完了後、型を開き、成形中子11を取り出す。(以上、乾燥・成形工程)
【0042】
[性能比較]
本発明のスラリー状の鋳物砂を鋳物型に充填し、その後水分を乾燥する造型法(実施例)と、水分3%程度の湿砂をエアブローする造型法(比較例)で、φ30×H195の丸棒の中子を作製した。比較例の中子の充填性を100とした時の実施例の中子の充填性は101.6とやや向上した。また、比較例の中子の冷間強度を100とした時の実施例の中子の冷間強度は138と大幅に向上した。更に、比較例の中子の温間強度を100とした時の実施例の中子の温間強度は136と大幅に向上した。
【0043】
バインダ濃度が34%の時の冷間強度を100とすると、バインダ濃度が28%の時の冷間強度は70であり、バインダ濃度が23%の時の冷間強度は45であり、バインダ濃度が17%の時の冷間強度は35であり、バインダ濃度が5%の時の冷間強度は15であった。これより、スラリーのバインダ濃度を調整することにより、冷間強度と温間強度を制御することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
鋳物砂と水溶性バインダのスラリー状の混合物を用いることによって、該スラリーを鋳型内に充填し、該スラリーを乾燥させて成型して鋳物砂中子を造型することができる。これにより、水溶性中子バインダを用いて十分な中子強度と水溶性を併せ持つ水溶性中子を得ることができる。また、水溶性バインダ及び鋳物砂は繰り返し再利用できる。これにより、本発明は水溶性中子を用いた鋳造の普及に貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の鋳物砂中子の各造型工程を示す。
【図2】本発明の鋳物砂中子造型に用いられる鋳物砂中子造型装置の幾つかの類型を示す。
【符号の説明】
【0046】
1:スラリー状鋳物砂、2:スラリーボックス、3:加圧エア、4:減圧吸引、5:鋳物型、6:ノズル、7:キャビティー、8:排気ベント、9熱風挿入ヘッド、10:乾燥用熱風、11:成型中子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳物砂に水溶性バインダを混合してスラリー状とし、該スラリーを鋳型内に充填し、その後該充填物を乾燥させて成型する鋳物砂中子の造型方法において、該スラリーを鋳型内に充填する際に、(a)鋳型のキャビティー内を減圧にする及び/又は(b)該スラリーを加圧して鋳型内に充填することを特徴とする鋳物砂中子の造型方法。
【請求項2】
前記鋳物砂に水溶性バインダを混合したスラリーの粘度が、4〜12cpであることを特徴とする請求項1に記載の鋳物砂中子の造型方法。
【請求項3】
前記水溶性バインダが水溶性無機塩バインダであることを特徴とする請求項1又は2に記載の鋳物砂中子の造型方法。
【請求項4】
前記鋳物砂と水溶性バインダの重量比が1:0.1〜1:5であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の鋳物砂中子の造型方法。
【請求項5】
前記鋳物砂を乾燥させて成型する工程は、鋳型内への乾燥用熱風の吹き込み及び/又は鋳型の加熱によって行うことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の鋳物砂中子の造型方法。
【請求項6】
前記水溶性バインダが、マグネシウムイオン(Mg2+)、ナトリウムイオン(Na)、カルシウムイオン(Ca2+)から選択されるカチオンと、SO2−、CO2−、HCO2−、Bから選択されるアニオンとの組み合わせからなる水溶性無機塩の1種以上から成る水溶性中子バインダであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の鋳物砂中子の造型方法。
【請求項7】
前記水溶性バインダが、硫酸マグネシウム(MgSO)、炭酸ナトリウム(NaCO)、4ホウ酸ナトリウム(Na)、硫酸ナトリウム(NaSO)から選択される水溶性無機塩の1種以上であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の鋳物砂中子の造型方法。
【請求項8】
前記水溶性バインダに、珪砂(珪粉)、アルミナ、チタン酸カリウム、炭化珪素、珪酸ジルコン、繊維状チタン酸カリウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化マグネシウムから選択される無機フィラーの1種以上が添加されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の鋳物砂中子の造型方法。
【請求項9】
前記鋳物砂と水溶性バインダを混合する際に、鋳物砂粒子と水溶性バインダに加えて、無機微粉末を配合・混練することを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の鋳物砂中子の造型方法。
【請求項10】
前記無機微粉末がカオリン、タルクから選択される1種以上であることを特徴とする請求項9に記載の鋳物砂中子の造型方法。
【請求項11】
鋳物砂に水溶性バインダを混合してスラリー状とし、該スラリーを鋳型内に充填し、その後該充填物を乾燥させて成型する鋳物砂中子の造型方法に用いる造形装置であって、該スラリーの鋳型内への充填を行うための、(c)鋳型のキャビティー内を負圧にする減圧機構及び/又は(d)該スラリーを加圧して鋳型内に充填する加圧機構を備えたことを特徴とする鋳物砂中子の造型装置。
【請求項12】
前記鋳型がキャビティー内のエア抜き及び/又は乾燥時の熱風抜きのための排気ベントを1個以上備えていることを特徴とする請求項11に記載の鋳物砂中子の造型装置。
【請求項13】
前記(d)スラリーを加圧して鋳型内に充填する加圧機構が、充填物を乾燥させて成型する際に、(e)熱風送風機構に置換可能であることを特徴とする請求項11または12に記載の鋳物砂中子の造型装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−175510(P2006−175510A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−374082(P2004−374082)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(591205097)株式会社三栄シリカ (4)
【Fターム(参考)】