説明

水溶性樹脂組成物、及びそれを用いた水性塗料

【課題】水性塗料に使用する水溶性樹脂組成物の長寿命化、及び上述した樹脂層と充填剤層とに分離した劣化を防止するとともに、前記水溶性樹脂組成物を用いた水性塗料を提供する。
【解決方法】(A)30質量部〜70質量部の水溶性エポキシエステル樹脂と、(B)10質量部〜50質量部の顔料と、(C)1質量部〜20質量部のシリカ粉と、(D)1質量部〜20質量部の水酸化アルミニウムと、(E)1質量部〜20質量部の炭酸カルシウムとを含むようにして水溶性樹脂組成物を得、この水溶性樹脂組成物を含むようにして水性塗料を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性樹脂組成物、及びそれを用いた水性塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
防錆等を目的とした塗料としては、従来、油性塗料が多く使用されている。しかしながら、油性塗料中に含まれる有機溶剤は、労働衛生や作業性の面で好ましくないばかりか、環境保全の面からも削減が必要である。このような観点から、近年においては、上述した油性塗料に代わる水性塗料の研究が盛んに行われるようになってきている。
【0003】
例えば、特許文献1においては、エポキシ樹脂、脂肪酸、及びこれらと反応可能な他の化合物とを特定の割合で反応させた酸価15〜35のビニル変性エポキシエステル系樹脂を含む水性塗料組成物が開示されている。なお、上記化合物としては、(メタ)アクリレート類、スチレン類などのエチレン性不飽和単量体類、安息香酸などの一塩基酸、フタル酸、マレイン酸、ダイマー酸などの多塩基酸、又はこれらの酸無水物、ポリオール類、或はポリエチレングリコール(メタ)アクリレート類などが挙げられている。
【0004】
また、低温硬化性と耐食性に優れた塗膜を与えることなどを目的として、特許文献2には、エポキシ樹脂、不飽和脂肪酸、必要に応じて1価〜3価の有機酸および1価〜4価のアルコールを付加ないし縮合して得られるエポキシ樹脂エステル中間体に、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどの特定の3級アミノ基含有(メタ)アクリレートを特定量含んだエチレン性不飽和単量体をグラフト重合させた生成物を中和し、水中に分散させた低温乾燥塗料用樹脂組成物が開示されている。なお、上記1価〜3価の有機酸としては、安息香酸、フタル酸、マレイン酸、ダイマー酸などが例示されている。また、グラフト重合に際しては、スチレン、(メタ)アクリル酸エステルなどのその他のモノマーを使用できることが開示されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、耐食性、塗膜形成直後の硬度などを向上することを目的として、エポキシ樹脂(a)と脂肪酸(b)とを必須成分として反応させた縮合物(c)の存在下で、これらと反応し得る酸基含有単量体を含むビニル化合物の混合物(d)をグラフト重合させ、グラフト重合体中の酸基を中和し、水中に分散させたビニル変性エポキシエステル系樹脂の水分散体であって、エポキシ樹脂のエポキシ基と脂肪酸のカルボキシル基の当量比がエポキシ基過剰であり、かつ、混合物(d)の使用量が、成分(c)と(d)の総量に対して5重量部以上であるようなビニル変性エポキシエステル樹脂の水分散体が開示されている。
【0006】
上述した樹脂成分は水性塗料のマトリックス部分を構成するものであって、実際に水性塗料として使用する場合は、水中に分散させて使用するとともに、前記樹脂成分に対して塗料としての色を特徴づけるための顔料、及び樹脂自体の強度を向上させるべく、充填剤を加えることが通常である。一方、上述のような樹脂組成物を水中に分散させて水性塗料とする場合、樹脂組成物の沈降を防止すべく、通常はアルキルナフタレンスルホン、ポリアマイドのような有機系の沈降防止剤を用いる。
【0007】
しかしながら、このような沈降防止剤を用いると、水性塗料としての寿命が短くなるとともに、貯蔵時あるいは塗膜形成後の乾燥時において、樹脂層と充填剤層との2層に分かれて劣化してしまい、塗料として機能しなくなってしまう場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4−292666号公報
【特許文献2】特開平7−292314号公報
【特許文献3】特開2000−63440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、水性塗料に使用する水溶性樹脂組成物の長寿命化、及び上述した樹脂層と充填剤層とに分離した劣化を防止するとともに、前記水溶性樹脂組成物を用いた水性塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成すべく、本発明は、
(A)30質量部〜70質量部の水溶性エポキシエステル樹脂と、(B)10質量部〜50質量部の顔料と、(C)1質量部〜20質量部のシリカ粉と、(D)1質量部〜20質量部の水酸化アルミニウムと、(E)1質量部〜20質量部の炭酸カルシウムとを含むことを特徴とする、水溶性樹脂組成物に関する。
【0011】
また、本発明は、上記水溶性樹脂組成物を含むことを特徴とする、水性塗料に関する。
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべき鋭意検討を実施した。その結果、水性塗料のマトリックス部分を構成する水溶性エポキシエステル樹脂に対して、所定量の顔料に加え、所定量のシリカ粉、水酸化アルミニウム及び炭酸カルシウムを加えることによって、沈降防止剤を用いなくても、得られた水溶性樹脂組成物を水中に分散させた場合において、沈降することなく、また樹脂層及び充填剤層に分離するような劣化を生ぜしめることなく、長寿命化させた、水性塗料として使用可能な水溶性樹脂組成物を得ることができることを見出した。
【0013】
この理由については明確ではないが、本発明者らは以下のように考えている。すなわち、沈降防止剤は、主にスルホン酸塩やポリアマイドなどが使用されているが、このような沈降防止剤は、内部にカルボキシル基(COOH)を有しており、このカルボキシル基が水溶性エポキシエステル樹脂の水酸基(OH基)と反応してしまう。この結果、上記水溶性樹脂組成物の構造が変化して寿命が短くなってしまうものと考えている。
【0014】
また、上述した水溶性樹脂組成物の構造変化に伴い、水溶性樹脂組成物中に含まれていた顔料やシリカ粉等の充填剤が、樹脂成分から分離してしまい、その結果、水中に分散させた場合において、樹脂層と充填剤層とに分離してしまうものと考えている。
【0015】
このような考察に基づき、本発明者らは、上記沈降防止剤に代わる新たな添加剤を見出すべく鋭意検討を実施した。その結果、水溶性エポキシエステル樹脂に含有させる添加剤として、シリカ粉、水酸化アルミニウム及び炭酸カルシウムを用いることにより、上述した水溶性樹脂組成物を沈降させることなく、また、構造変化に基づく樹脂層及び充填剤層との分離を抑制し、長寿命化を達成することが可能な水溶性樹脂組成物を見出すに至った。
【0016】
なお、シリカ粉、水酸化アルミニウム及び炭酸カルシウムを用いることによって、上述した作用効果が得られる理由については以下のように考えることができる。すなわち、水溶性エポキシエステル樹脂中に含まれる顔料は“+”に帯電する。一方、前記水溶性エポキシエステル樹脂中に含まれるシリカ粉、水酸化アルミニウム及び炭酸カルシウムも“+”に帯電する。したがって、このようなシリカ粉等が含有されることによって、顔料及びシリカ等の間で静電的に反発しあい、その結果、凝集及び沈降しなくなるものと考えている。結果として、シリカ粉、水酸化アルミニウム及び炭酸カルシウムの組み合わせによって、水溶性樹脂組成物の沈降を防止し、これら組み合わせが従来の沈降防止剤と同様の機能を奏すると考えている。
【0017】
また、シリカ粉等は、上述したカルボキシル基を含まないので、水溶性エポキシエステル樹脂の水酸基と反応することがなく、上述のように、水溶性樹脂組成物の構造を変化させてしまうことがない。したがって、得られる水溶性樹脂組成物の長寿命化を達成することができるとともに、樹脂層及び充填剤層の分離による水溶性樹脂組成物の劣化を防止できるものと考えられる。
【0018】
但し、本発明では、上記沈降防止剤の添加を全く排除するものではなく、シリカ粉、水酸化アルミニウム及び炭酸カルシウムによる上述した作用効果を劣化させない限りにおいて、上記沈降防止剤を含有させてもよい。
【発明の効果】
【0019】
以上より、本発明によれば、従来のような沈降防止剤を使用しないので、水性塗料に使用する水溶性樹脂組成物の長寿命化、及び上述した樹脂層と充填剤層とに分離する、水溶性樹脂組成物の劣化を防止するとともに、前記水溶性樹脂組成物を用いた水性塗料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のその他の特徴及び利点について、発明を実施するための形態に基づいて詳細に説明する。
【0021】
(水溶性エポキシエステル樹脂)
本発明で使用する水溶性エポキシエステル樹脂は、公知の水溶性エポキシエステル樹脂、例えばビニル変性エポキシエステル樹脂から構成することができる。このようなビニル変性エポキシエステル樹脂は、エポキシ樹脂に脂肪酸を反応させてエポキシエステル樹脂とした後、この樹脂に対してカルボキシル基含有ビニルモノマーをグラフト重合し、中和分散して得ることができる。
【0022】
その他、背景技術において例示した、特開平4−292666号公報に開示されているような、エポキシ樹脂に脂肪酸を反応させてエポキシエステル樹脂とした後、この樹脂に(メタ)アクリレート類、スチレン類などのエチレン性不飽和単量体類、安息香酸などの一塩基酸、フタル酸、マレイン酸、ダイマー酸などの多塩基酸、又はこれらの酸無水物、ポリオール類、或はポリエチレングリコール(メタ)アクリレート類を反応させることによって得ることもできる。
【0023】
また、特開平7−292314号公報に開示されているような、エポキシ樹脂に不飽和脂肪酸を反応させてエポキシエステル樹脂とした後、この樹脂にジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどの特定の3級アミノ基含有(メタ)アクリレートを特定量含んだエチレン性不飽和単量体をグラフト重合させることによって得ることもできる。
【0024】
なお、ビニル変性エポキシエステル樹脂を製造する方法は、上記に限られるものではなく、任意の方法で製造することができる。
【0025】
また、本発明では、上述したビニル変性エポキシエステル樹脂に代えて、エポキシ樹脂を無水トリメリット酸又はトリメリット酸で変性してなるエポキシエステル樹脂を用いることが好ましい。このようなトリメリット酸変性のエポキシエステル樹脂は、上述したビニル変性エポキシエステル樹脂に比較して水溶性に優れ、水性塗料のマトリックス部分として好適に用いることができる。
【0026】
上記エポキシ樹脂は特に限定されるものではなく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ダイマー酸グリシジルエステル型エポキシ樹脂、ポリアルキレンエーテル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環含有エポキシ樹脂、ジグリシジルエポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂等、任意のものを用いることができる。
【0027】
なお、エポキシ樹脂の分子量は、例えば重量平均分子量で400〜1500とすることができる。重量平均分子量が400よりも小さいと、以下に説明する顔料やシリカ粉等を十分に含有することができず、上述した本発明の水溶性樹脂組成物における長寿命化や劣化抑制等の作用効果を十分に奏することができない。また、塗料化した場合において、その粘度を極度に増大させてしまい、塗布性が著しく劣化してしまう場合がある。一方、重量平均分子量が1500よりも大きいと、水溶性樹脂組成物が巨大化して分散性が低下してしまい、この水溶性樹脂組成物を含む水性塗料から塗膜を形成した場合に、塗膜表面が粗くなって外観が劣化してしまう場合がある。
【0028】
本発明において、水溶性樹脂組成物に占める水溶性エポキシエステル樹脂の割合は、30質量部〜70質量部である。
【0029】
(顔料)
本発明における顔料は、目的とする水溶性樹脂組成物の色、すなわちこの水溶性樹脂組成物から水性塗料を形成した場合に、その色を画定する添加剤である。したがって、得ようとする色に応じて任意に選択することができる。例えば、二酸化チタン、アルミナ、クレー、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等の白色顔料、銅−鉄−マンガン系酸化物、酸化亜鉛、酸化クロム、黒色酸化チタンなどの黒色顔料、酸化鉄、カドニウムレッドなどの赤色顔料、コバルトブルー、群青などの青色顔料、カドニウムイエロー、硫化亜鉛などの黄色顔料等を例示することができる。これらは単独で用いることもできるが、2以上を混合して用いることもできる。
【0030】
また、顔料の大きさは特に限定されるものではないが、例えば、体積平均粒径で0.1μm〜50μmとすることができ、好ましくは0.5μm〜30μmとすることができる。顔料の体積平均粒径が0.1μm未満であると、上述のように塗料化した場合において、その粘度を極度に増大させてしまい、塗布性を著しく劣化させてしまう場合がある。顔料の体積平均粒径が50μmを超えると、水溶性樹脂組成物が巨大化して分散性が低下してしまい、この水溶性樹脂組成物を含む水性塗料から塗膜を形成した場合に、塗膜表面が粗くなって外観が劣化してしまう場合がある。
【0031】
体積平均粒径は、例えばSKレーザー粒度分布測定器(セイシン企業社製)を用いて測定されるものであり、具体的には分散媒(イオン交換水)100gに顔料を50〜100mg加え、超音波を60秒間照射して顔料を分散させた後、SKレーザー粒度分布測定器を用いて測定する。
【0032】
なお、顔料の含有量は、上述した本発明の作用効果を奏する限り特に限定されるものではないが、水溶性エポキシエステル樹脂の30質量部〜70質量部に対して、1質量部〜50質量部とすることが好ましい。これによって、水溶性樹脂組成物、すなわち塗料の色の画定と、シリカ粉、水酸化カルシウム及び炭酸カルシウムとの静電的効果に起因すると推定される沈降防止効果とを、本発明の目的である水溶性樹脂組成物の長寿命化、及び樹脂層と充填剤層とへの分離による劣化を防止しながら良好に実現させることができる。
【0033】
また、特に理由は明らかではないが、顔料として、酸化鉄、銅−鉄−マンガン系酸化物及び黒色酸化チタンの少なくとも1つの顔料と、以下に説明するシリカ粉、水酸化アルミニウム及び炭酸カルシウム(添加剤)との合計量に対し、顔料の割合を40質量%〜90質量%とすることによって、本発明の作用効果である、水性塗料に使用する水溶性樹脂組成物の長寿命化、及び上述した樹脂層と充填剤層とに分離した劣化の防止を、より効果的に達成することができる。
【0034】
(シリカ粉、水酸化アルミニウム及び炭酸カルシウム)
本発明において、シリカ粉、水酸化アルミニウム及び炭酸カルシウムは、上述したように、これら添加剤同士、及びこれら添加剤と顔料との静電的相互作用による反発力によって、沈降防止剤として機能するものである。
【0035】
シリカ粉は、コロイダルシリカ等のように合成シリカ粉とすることもできるし、結晶シリカ、溶融シリカ等のように天然シリカ粉とすることもできる。これらは単独で用いることもできるし、2以上を混合して用いることもできる。なお、いずれの場合も市販のものを用いることができる。
【0036】
シリカ粉の大きさは特に限定されるものではないが、例えば、体積平均粒径で0.02μm〜10μmとすることができ、好ましくは0.1μm〜5μmとすることができる。シリカ粉の体積平均粒径が0.02μm未満であると、上述のように塗料化した場合において、その粘度を極度に増大させてしまい、塗布性を著しく劣化させてしまう場合がある。また、シリカ粉の体積平均粒径が10μmを超えると、水溶性樹脂組成物が巨大化して分散性が低下してしまい、この水溶性樹脂組成物を含む水性塗料から塗膜を形成した場合に、塗膜表面が粗くなって外観が劣化してしまう場合がある。
【0037】
体積平均粒径は、例えばSKレーザー粒度分布測定器(セイシン企業社製)を用いて測定されるものであり、具体的には分散媒(イオン交換水)100gに顔料を50〜100mg加え、超音波を60秒間照射して顔料を分散させた後、SKレーザー粒度分布測定器を用いて測定する。
【0038】
なお、シリカ粉の含有量は、上述した本発明の作用効果を奏する限り特に限定されるものではないが、水溶性エポキシエステル樹脂の30質量部〜70質量部に対して、1質量部〜20質量部とすることが好ましい。これによって、水溶性樹脂組成物、すなわち塗料の色の画定と、シリカ粉、水酸化カルシウム及び炭酸カルシウムとの静電的効果に起因すると推定される沈降防止効果とを、本発明の目的である水溶性樹脂組成物の長寿命化、及び樹脂層と充填剤層とへの分離による劣化を防止しながら良好に実現させることができる。
【0039】
水酸化アルミニウムは市販のものを用いることができる。水酸化アルミニウムの大きさは特に限定されるものではないが、例えば、体積平均粒径で0.2μm〜10μmとすることができ、好ましくは1μm〜5μmとすることができる。水酸化アルミニウムの体積平均粒径が0.2μm未満であると、上述のように塗料化した場合において、その粘度を極度に増大させてしまい、塗布性を著しく劣化させてしまう場合がある。また、水酸化アルミニウムの体積平均粒径が10μmを超えると、水溶性樹脂組成物が巨大化して分散性が低下してしまい、この水溶性樹脂組成物を含む水性塗料から塗膜を形成した場合に、塗膜表面が粗くなって外観が劣化してしまう場合がある。なお、体積平均粒径は、シリカ粉と同様にして測定する。
【0040】
なお、水酸化アルミニウムの含有量は、上述した本発明の作用効果を奏する限り特に限定されるものではないが、水溶性エポキシエステル樹脂の30質量部〜70質量部に対して、1質量部〜20質量部とすることが好ましい。これによって、上述したように、水溶性樹脂組成物、すなわち塗料の色の画定と、シリカ粉、水酸化カルシウム及び炭酸カルシウムとの静電的効果に起因すると推定される沈降防止効果とを、本発明の目的である水溶性樹脂組成物の長寿命化、及び樹脂層と充填剤層とへの分離による劣化を防止しながら良好に実現させることができる。
【0041】
炭酸カルシウムも市販のものを用いることができる。炭酸カルシウムの大きさは特に限定されるものではないが、例えば、体積平均粒径で0.02μm〜10μmとすることができ、好ましくは0.1μm〜5μmとすることができる。炭酸カルシウムの体積平均粒径が0.02μm未満であると、上述のように塗料化した場合において、その粘度を極度に増大させてしまい、塗布性を著しく劣化させてしまう場合がある。また、炭酸カルシウムの体積平均粒径が10μmを超えると、水溶性樹脂組成物が巨大化して分散性が低下してしまい、この水溶性樹脂組成物を含む水性塗料から塗膜を形成した場合に、塗膜表面が粗くなって外観が劣化してしまう場合がある。なお、体積平均粒径は、シリカ粉と同様にして測定する。
【0042】
なお、炭酸カルシウムの含有量は、上述した本発明の作用効果を奏する限り特に限定されるものではないが、水溶性エポキシエステル樹脂の30質量部〜70質量部に対して、1質量部〜20質量部とすることが好ましい。これによって、上述したように、水溶性樹脂組成物、すなわち塗料の色の画定と、シリカ粉、水酸化カルシウム及び炭酸カルシウムとの静電的効果に起因すると推定される沈降防止効果とを、本発明の目的である水溶性樹脂組成物の長寿命化、及び樹脂層と充填剤層とへの分離による劣化を防止しながら良好に実現させることができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0044】
水溶性樹脂組成物の製造
(実施例1)
最初に、無水トリメリット酸変性のエポキシエステル樹脂(DIC540P、DIC株式会社製)56重量部に対し、体積平均粒径1μmの結晶シリカ(クリストライト5X、(株)龍森社製)1.5質量部、体積平均粒径1μmの水酸化アルミニウム(クリスタライトVX-SR、(株)龍森社製)1.5質量部、体積平均粒径1μmの炭酸カルシウム(ソフトン2200、(株)白石社製)、及び酸化鉄(バイロフェロックス130M、ランクセス社製)23質量部を加え、室温で混合攪拌して水溶性樹脂組成物を得た。
【0045】
(実施例2)
酸化鉄の含有量を23質量部から18質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして水溶性樹脂組成物を得た。
【0046】
(実施例3)
体積平均粒径1μmの結晶シリカに代えて、体積平均粒径0.014μmの微細シリカ(RY-200S、日本アエロジル(株)社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして水溶性樹脂組成物を得た。
【0047】
(実施例4)
酸化鉄に代えて、銅−鉄−マンガンの酸化物(タイピロキサイド9550、大日工業精化(株)社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして水溶性樹脂組成物を得た。
【0048】
(実施例5)
酸化鉄に代えて、酸化チタン(ティラックD TM-F、赤穂化成(株)社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして水溶性樹脂組成物を得た。
【0049】
(比較例1)
炭酸カルシウム(ソフトン2200、(株)白石社製)を含有させない以外は、実施例1と同様にして水溶性樹脂組成物を得た。
【0050】
(比較例2)
水酸化アルミニウム(クリスタライトVX-SR、(株)龍森社製)を含有させない以外は、実施例1と同様にして水溶性樹脂組成物を得た。
【0051】
(比較例3)
結晶シリカ(クリストライト5X、(株)龍森社製)を含有させない以外は、実施例1と同様にして水溶性樹脂組成物を得た。
【0052】
(比較例4)
結晶シリカ(クリストライト5X、(株)龍森社製)を含有させない以外は、実施例4と同様にして水溶性樹脂組成物を得た。
【0053】
(比較例5)
結晶シリカ(クリストライト5X、(株)龍森社製)を含有させない以外は、実施例5と同様にして水溶性樹脂組成物を得た。
【0054】
(比較例6)
沈降防止剤として、1質量部のアルキルナフタレンジスルホン(NACURE155、King社製)を追加で含有させた以外は、実施例1と同様にして水溶性樹脂組成物を得た。
【0055】
(比較例7)
沈降防止剤として、2質量部のアルキルナフタレンジスルホン(NACURE155、King社製)及び1質量部のポリアマイド(ディスパロンAQ870、楠本化成(株)社製)を追加で含有させた以外は、実施例1と同様にして水溶性樹脂組成物を得た。
【0056】
(比較例8)
沈降防止剤として、2質量部のアルキルナフタレンジスルホン(NACURE155、King社製)及び1質量部のポリアマイド(ディスパロンAQ600、楠本化成(株)社製)を追加で含有させた以外は、実施例1と同様にして水溶性樹脂組成物を得た。
【0057】
評価
次いで、上記水溶性樹脂組成物の製品としての実用特性を評価した。
【0058】
なお、各試験は以下のような条件で実施した。
・沈降性:500mlの缶に400gの水溶性樹脂組成物を入れ、60℃で静置した後、缶の底に水溶性樹脂組成物が0.5cm堆積するまでの日数を目視で観察した。
・粘度:B型粘度計を使用し、25℃で測定した。
・寿命:初期粘度に対して、粘度が2倍になるまでの日数によって評価した。
・特性劣化:水溶性樹脂組成物100gに対して100gの水を添加し、2分攪拌後において、水溶性樹脂組成物の状態を観察した。この場合、均一溶液となっている場合を○とし、樹脂とシリカ粉等とが分離している場合を×とした。
・塗布性:ブリキプレートに乾燥後の膜厚が50μmとなるように塗膜形成し、その塗膜の外観を目視によって評価した。均一な表面となっている場合を○、色むらがある場合を△、塗膜にはじきが見られるものを×によって評価した。
【0059】
以上、水溶性樹脂組成物の作製条件及び評価結果を表1(実施例)及び表2(比較例)に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
表1及び表2から明らかなように、本発明に従った実施例においては、30日経過後も水溶性樹脂組成物の沈降が見られず、水溶性エポキシエステル樹脂に添加した、シリカ粉、水酸化アルミニウム及び炭酸カルシウムが沈降防止剤として機能していることが確認された。
【0063】
一方、表1及び表2から明らかなように、本発明と異なり、シリカ粉、水酸化アルミニウム及び炭酸カルシウムのいずれか1つが含まれていない場合、及び1質量部以上の沈降防止剤が含まれた水溶性樹脂組成物においては、沈降性が劣化し、前者の場合では10日〜14日程度で沈降が確認され、後者の場合では20日程度で沈降が確認された。
【0064】
また、表1及び表2から明らかなように、沈降防止剤を用いた比較例6〜8に比較して、このような沈降防止剤を用いない実施例及び比較例1〜5においては、水溶性樹脂組成物の長寿命化が達成され、特性劣化及び塗布性も優れていることが判明した。
【0065】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいて、あらゆる変形や変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)30質量部〜70質量部の水溶性エポキシエステル樹脂と、(B)10質量部〜50質量部の顔料と、(C)1質量部〜20質量部のシリカ粉と、(D)1質量部〜20質量部の水酸化アルミニウムと、(E)1質量部〜20質量部の炭酸カルシウムとを含むことを特徴とする、水溶性樹脂組成物。
【請求項2】
(A)水溶性エポキシエステル樹脂の100重量部に対して、(B)顔料、(C)シリカ粉、(D)水酸化アルミニウム及び(E)炭酸カルシウムの合計量が10質量部〜40質量部であることを特徴とする、請求項1に記載の水溶性樹脂組成物。
【請求項3】
(A)水溶性エポキシエステル樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂に対して無水トリメリット酸を反応させて得たことを特徴とする、請求項1又は2に記載の水溶性樹脂組成物。
【請求項4】
(C)シリカ粉の体積平均粒径が0.02μm〜10μmであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載の水溶性樹脂組成物。
【請求項5】
(D)水酸化アルミニウムの体積平均粒径が0.2μm〜10μmであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一に記載の水溶性樹脂組成物。
【請求項6】
(E)炭酸カルシウムの体積平均粒径が0.02μm〜10μmであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一に記載の水溶性樹脂組成物。
【請求項7】
前記水溶性樹脂組成物は、沈降防止剤を含まないことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一に記載の水溶性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一に記載の水溶性樹脂組成物を含むことを特徴とする、水性塗料。

【公開番号】特開2011−148957(P2011−148957A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−13502(P2010−13502)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【出願人】(390022415)京セラケミカル株式会社 (424)
【Fターム(参考)】