説明

水溶液系リチウム二次電池用電極合材、水溶液系リチウム二次電池用電極ペースト、水溶液系リチウム二次電池用電極及び水溶液系リチウム二次電池

【課題】水溶液系リチウム二次電池の出力特性をより高める。
【解決手段】水溶液系リチウム二次電池20は、正極活物質を有する正極22と、正極22に対してセパレータ24を介して対向する位置に設けられた負極23と、を備えている。この水溶液系リチウム二次電池20は、正極22と負極23との空間にリチウムを溶解した水溶液系電解液27が満たされている。また、この正極22及び負極23のうちの少なくとも一方は、電極活物質と、導電材と、ガラス転移点Tgが20℃以上40℃以下である水系高分子のエマルションからなる結着材と、水系分散増粘材と、を含む水溶液系リチウム二次電池用電極合材を用いたものである。結着材としては、水系ブタジエン共重合体を含むものが好ましく、水系分散増粘材としては、セルロース誘導体が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶液系リチウム二次電池用電極合材、水溶液系リチウム二次電池用電極ペースト、水溶液系リチウム二次電池用電極及び水溶液系リチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電解液として水溶液を用いた水溶液系リチウム二次電池が知られている(例えば特許文献1参照)。一般的に、水溶液系リチウム二次電池は、非水溶液系リチウム二次電池が有する問題に対して以下の利点がある。即ち、水溶液系リチウム二次電池は、電解液に有機溶媒を用いていないため、基本的には燃えることはない。また、製造工程においてドライ環境を必要としないため、製造にかかるコストを大幅に削減することができる。さらに、一般的に水溶液系電解液は非水系電解液に比べて導電性が高いため、水溶液系リチウム二次電池は、非水溶液系リチウム二次電池に比べて内部抵抗が低くなる。このような利点を持つ反面、水溶液系リチウム二次電池は、水の電気分解反応が起こらない電位範囲での使用が求められるため、非水溶液系リチウム二次電池と比較して起電力が小さくなる。現在、正極活物質としては、リン酸鉄リチウムや各種層状遷移金属酸化物が提案され、負極活物質としては、バナジウム酸化物やリン酸チタン化合物などが提案されている。例えば、特許文献1では、リチウム化合物とバナジウム化合物と炭素材料とを混合して焼成しリチウムバナジウム複合酸化物を作製することにより、放電容量やサイクル特性を向上している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−17057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1の水溶液系リチウム二次電池のように、負極活物質の作製方法を工夫して電池特性を向上しているが、それでもまだ十分でなく、それ以外の方法によっても電池特性の向上を図ることが望まれていた。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、出力特性をより高めることができる水溶液系リチウム二次電池用電極合材、水溶液系リチウム二次電池用電極ペースト、水溶液系リチウム二次電池用電極及び水溶液系リチウム二次電池を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、電極活物質と導電材と、ガラス転移点Tgが20℃以上40℃以下である水系高分子のエマルションからなる結着材と、水系分散増粘材と、を含む電極合材を電極に用いると、水溶液系リチウム二次電池の出力特性をより高めることができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の水溶液系リチウム二次電池用電極合材は、リチウムを吸蔵放出可能な電極活物質と、導電材と、ガラス転移点Tgが20℃以上40℃以下である水系高分子のエマルションからなる結着材と、水系分散増粘材と、を含むものである。
【0008】
本発明の水溶液系リチウム二次電池用電極ペーストは、上述の水溶液系リチウム二次電池用電極合材と、水と、を含むものである。
【0009】
本発明の水溶液系リチウム二次電池用電極は、集電体と、前記集電体上に形成された上述の水溶液系リチウム二次電池用電極合材と、を備えたものである。
【0010】
本発明の水溶液系リチウム二次電池は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に介在しリチウムを溶解した水溶液である電解液と、を備え、前記正極および前記負極の少なくとも一方が、上述の水溶液系リチウム二次電池用電極合材を備えたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水溶液系リチウム二次電池用電極合材、水溶液系リチウム二次電池用電極ペースト、水溶液系リチウム二次電池用電極及び水溶液系リチウム二次電池は、出力特性をより高めることができる。このような効果が得られる理由は明らかではないが、以下のように推測される。例えば、結着材が水系であり、水溶液である電解液との親和性が高く、電極活物質や導電材などを集電体上に安定に固定することができるためと考えられる。また、結着材のガラス転移点Tgが20℃以上40℃以下で、結着材の存在形態や硬さが適切であることにより、結着材によるイオン伝導の阻害を抑制したり、結着強度を高めたりすることができるためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の水溶液系リチウム二次電池20の一例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の水溶液系リチウム二次電池用電極合材は、リチウムを吸蔵放出可能な電極活物質と、導電材と、ガラス転移点Tgが20℃以上40℃以下である水系高分子のエマルションからなる結着材と、水系分散増粘材と、を含むものである。
【0014】
電極活物質は、正極活物質であってもよいし、負極活物質であってもよい。正極活物質としては、例えば、スピネル構造のリチウムマンガン複合酸化物や層状構造のリチウムマンガン複合酸化物、欠損型層状構造のリチウムマンガン複合酸化物、オリビン構造のリチウムリン酸化合物等を正極活物質とすることが好ましい。正極活物質は、水の電気分解による酸素が生じない電位範囲において、可逆的にできるだけ大量のリチウムイオンの吸蔵・放出が可能であることが好ましい。こうした観点から、正極活物質としては、オリビン構造のリチウムリン酸化合物が好ましく、Li及びFeを金属元素の主成分とするオリビン構造のリチウムリン酸化合物がより好ましく、LiFePO4が更に好ましい。また、正極活物質は、その表面が導電層によりコーティングされていることが好ましい。オリビン構造のリチウムリン酸化合物などの正極活物質は絶縁体であることが多く、導電性を高めることが好ましい。この導電層は、導電性を高めることができるものであればよく、例えば、カーボン、金属、窒化物、ホウ化物、酸化物、導電性高分子などのうち1以上を用いることができる。負極活物質としては、リチウム、リチウム合金、リン化合物やスズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質材料、導電性ポリマーなどが挙げられる。このうち、リン化合物が好ましく、チタン及びリンを含む複合化合物がより好ましく、チタン及びリン酸を含む複合化合物とすることが更に好ましい。この負極活物質は、チタン及びリン酸を含む複合化合物として、例えばAxTi2(PO43(Aはアルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる1種以上であり、Xは0以上3以下である)を含むものがより好ましい。このAは、リチウムであることが好ましい。例えば、負極活物質は、複合化合物として組成式LiTi2(PO43を含むものが更に好ましい。また、負極活物質は、その表面が導電層によりコーティングされていることが好ましい。チタン及びリンを含む複合化合物、特に、チタン及びリン酸を含む複合化合物は、絶縁体であることが多く、導電性を高めることが好ましい。この導電層は、導電性を高めることができるものであればよく、例えば、カーボン、金属、窒化物、ホウ化物、酸化物、導電性高分子などのうち1以上を用いることができる。この負極活物質は、複合酸化物や複合化合物などを2種類以上混合して用いてもよい。また、この負極活物質は、LiM1-xTix(PO43(Mは遷移金属、Xは正数)のように1つの遷移金属を他の遷移金属で置換したものを含むものとしてもよい。
【0015】
導電材は、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック系の材料が好ましく、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック及びケッチェンブラックなどが好ましい。この導電材は、親水性の低いもの、即ち疎水性を有する炭素材料であることがより好ましい。導電材において親水性が高いと、粒子間に水が入りやすくなり、導電パスが形成されにくくなることから、疎水性の炭素材料がより好ましい。
【0016】
結着材は、ガラス転移点Tgが20℃以上40℃以下である水系高分子のエマルションからなるものであればとくに限定されない。ここで、水系高分子とは、水溶性及び/又は水分散性を有する高分子であることをいうものとする(以下同様とする)。水系高分子であれば、水溶液系電解液との親和性に優れ、例えば、集電体との結着性が高く、出力特性をより高めることができる。例えば、水系高分子は、水系ブタジエン共重合体を含むものとしてもよい。水系ブタジエン共重合体を含むものであれば、電極活物質および導電材との親和性、集電体に対する密着性、塗布・乾燥後の電極の耐水性を高めることができ好ましい。水系ブタジエン共重合体としては、スチレンブタジエンゴム(SBR)水分散体などが挙げられる。このほか、水系高分子としては、天然ゴム、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタンエポキシ樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、などを水溶性変性したものや水分散体としたものが挙げられる。このような水系高分子において、ガラス転移点Tgは、20℃以上40℃以下であればよい。こうすれば、電極の抵抗が高くなりすぎず、良好な出力特性が得られるからである。また、このような範囲では、電池の耐久性をより高めることができる。このような効果が得られる理由は、Tgが20℃以上であれば電極形成(プレスなど)時などに結着材が柔らかくなりすぎず、電極活物質や導電材の表面全体を結着材が覆うなどしてリチウムの伝導を阻害することを抑制可能なためと推察される。また、Tgが40℃以下であれば、結着材がある程度の弾力を有しており、電極活物質,導電材,集電体の接着力を高めることができるためと推察される。このうち、ガラス転移点Tgは、25℃以上35℃以下であることがより好ましい。Tgは、原料の配合比を変えることなどによって適宜調整することができる。例えば、スチレンブタジエンゴムの場合、Tgが100℃程度のスチレンを多くすればTgを高めることができ、Tgが−40℃程度のブタジエンを多くすればTgを下げることができる。水系高分子のエマルションは、分散媒として水を用いることができ、例えば、後述する水系分散増粘材を溶かして粘度を高めた水に水系高分子を分散させたものとしてもよい。なお、ここでいうガラス転移点Tgは、粘弾性により測定した値をいうものとする。また、高分子とは、重量平均分子量が1000以上100万以下のものをいうものとする。
【0017】
水系分散増粘材としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロースなどのセルロース誘導体(多糖類)、ポリアクリル酸、などの高粘性を呈する水溶性高分子を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。このうち、電極活物質および導電材との親和性、集電体への電極ペーストの塗布しやすさ、塗布・乾燥後の電極の耐水性等から、カルボキシメチルセルロース(CMC)が好ましい。
【0018】
本発明の水溶液系リチウム二次電池用電極ペーストは、上述したいずれかに記載の水溶液系リチウム二次電池用電極合材と、水と、を含むものである。また、必要に応じて、エチルアルコールなどの水溶性有機溶剤を含んでもよい。このような水溶液系リチウム二次電池用電極ペーストでは、集電体へ均一に塗布することができ、電極をより容易に作製することができる。また、得られた電極では、電極での抵抗が高くなりすぎず、良好な出力特性が得られる。
【0019】
本発明の水溶液系リチウム二次電池用電極は、集電体と、集電体上に形成された上述したいずれかに記載の水溶液系リチウム二次電池用電極合材、を用いたものである。この水溶液系リチウム二次電池用電極は、例えば、上述した水溶液系リチウム二次電池用電極ペーストを集電体表面に塗布乾燥して、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。また、例えば、上述した水溶液系リチウム二次電池用電極合材を集電体表面に圧着し、乾燥してもよい。乾燥などにより、水系高分子エマルションが水分を失って水系高分子となる。すなわち、本発明の水溶液系リチウム二次電池用電極は、集電体と、集電体上に形成された、リチウムを吸蔵放出可能な電極活物質と、導電材と、ガラス転移点Tgが20℃以上40℃以下である水系高分子と、水系分散増粘材を含む水溶液系リチウム二次電池用電極材を備えたものであるともいえる。
【0020】
集電体は、水溶液系電解液に対して安定であるものであれば特に限定されず、例えば、アルミニウム、ニッケル、チタン及び貴金属から選ばれる少なくとも1種を含むものとしてもよい。貴金属としては、例えば白金、金、パラジウム、銀などが挙げられる。また、これらの合金としてもよい。このうち、化学的に安定であり、軽量で資源量が多いことから、アルミニウムが好ましい。また、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムなどの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1〜500μmとすることができる。
【0021】
本発明の水溶液系リチウム二次電池は、正極と、負極と、正極と負極との間に介在しリチウムを溶解した水溶液である電解液と、を備え、正極および負極の少なくとも一方が、上述したいずれかに記載の水溶液系リチウム二次電池用電極合材を備えたものである。正極及び負極の少なくとも一方に用いる電極は、上述した水溶液系リチウム二次電池用電極、すなわち、集電体と、上述したいずれかに記載の水溶液系リチウム二次電池用電極合材とを備えたものとしてもよい。
【0022】
本発明の水溶液系リチウム二次電池の正極及び負極は、少なくとも一方が、上述したいずれかに記載の水溶液系リチウム二次電池用電極合材を備えたものであればよい。こうすれば、出力特性をより高めることができるからである。なお、電極は、乾燥などにより、水系高分子エマルションが水分を失って水系高分子となっていてもよい。他方の電極は、上述したいずれかに記載の水溶液系リチウム二次電池用電極合材を用いたものでなくてもよい。他方の電極は、例えば、電極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の電極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。他方の電極において、電極活物質や導電材、集電体はそれぞれ上述したものを適宜用いることができる。他の電極において、結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであればよく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンマー(EPDM)、スルホン化EPDM、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。電極活物質、導電材、結着材を分散させる溶剤としては、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。
【0023】
本発明の水溶液系リチウム二次電池において、水溶液系の電解液は、溶媒を水とし、リチウム塩を主電解質とするものであれば、特に限定されない。リチウム塩としては、例えばLiNO3、Li2SO4、LiCl、及びCH3COOLi等が挙げられ、このうちLiNO3、Li2SO4が溶解性の観点から好ましい。これらのリチウム塩は、それぞれ単独で用いることもできるが、2種以上を併用することもできる。この電解液は、1mol/L以上のリチウムを含有することが好ましい。電極反応の交換電流密度を高め、出力特性をより高めることができるからである。また、電解液のpHは、3以上11以下であることが好ましい。電解液のpHが3以上では、一般に正極活物質や負極活物質の化学酸化が起こりにくく、プロトンによるLi吸蔵放出の阻害も起こりにくく、電池の容量や充放電サイクル特性が向上する。一方、pHが11以下では、水の電気分解電位、即ち酸素発生がほとんど起きない電位で正極活物質の充放電反応が進行するため、正極での酸素の発生をより抑制することができる。
【0024】
本発明の水溶液系リチウム二次電池は、正極と負極との間にセパレータを備えていてもよい。このセパレータには、水溶液系の電解液が浸透してイオンが透過しやすいように、親水処理を施したり微多孔化を施すのが好ましい。セパレータとしては、水溶液系リチウム二次電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0025】
本発明の水溶液系リチウム二次電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。図1は、本発明の水溶液系リチウム二次電池20の一例を示す模式図である。この水溶液系リチウム二次電池20は、カップ形状の電池ケース21と、正極活物質を有しこの電池ケース21の下部に設けられた正極22と、負極活物質を有し正極22に対してセパレータ24を介して対向する位置に設けられた負極23と、絶縁材により形成されたガスケット25と、電池ケース21の開口部に配設されガスケット25を介して電池ケース21を密封する封口板26と、を備えている。この水溶液系リチウム二次電池20は、正極22と負極23との空間にリチウム塩を溶解した水溶液系電解液27が満たされている。また、この正極22及び負極23のうちの少なくとも一方は、電極活物質と、導電材と、水系分散増粘材と、ガラス転移点Tgが20℃以上40℃以下である水系高分子エマルションからなる結着材とを含む水溶液系リチウム二次電池用電極合材を用いたものである。なお、正極22、セパレータ24及び水溶液系電解液27などは、公知のものを用いることができる。
【0026】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0027】
例えば、上述した実施形態では、水溶液系リチウム二次電池用電極は、集電体を用いたものとしたが、これに限定されない。例えば、上述したいずれかに記載の水溶液系リチウム二次電池用電極合材を加圧成形したものとしてもよい。こうしても、出力特性を高めることができる。
【実施例】
【0028】
以下には、本発明の水溶液系リチウム二次電池用電極を具体的に作製した例を実施例として説明する。
【0029】
[実施例1]
電極活物質として、一般に負極活物質として用いられるLiTi2(PO43を用いて以下のように電極ペーストを作製した。まず、チタンイソプロポキシドをプロパノールで希釈した溶液と酢酸リチウムとリン酸二水素アンモニウムを水に溶解した溶液とをLiTi2(PO43の組成になるように混合し、チタンイソプロポキシドを加水分解した。得られた白濁溶液を真空乾燥し、白色の粉末を得た。得られた粉末を400℃で12時間熱処理したあと、700℃で16時間空気中で焼成し、LiTi2(PO43の粉末を得た。次に、電極活物質としてのLiTi2(PO43を70重量部、導電材としてのアセチレンブラック(電気化学工業(株)製HS−100)を20重量部、分散増粘材としてのカルボキシメチルセルロース(和光純薬製,試薬)を2重量部、結着材としてのスチレンブタジエンゴム(以下SBRとも称する)を8重量部として水を分散媒に用いて、混練し、スラリー状の負極ペーストを作製した。この電極ペーストを20μm厚のアルミニウム箔集電体の両面に塗布、乾燥させた後、ロールプレスで高密度化し、所定の形状に切り出したものを実施例1の電極とした。SBRとしては、ガラス転移点Tg(以下単にTgとも称する)が20℃のものを用いた。Tgの調整は、スチレンとブタジエンの割合を調整することにより行った。
【0030】
[実施例2,3]
Tgが25℃のSBRを用いた以外は、実施例1と同様の工程により実施例2の電極を作製した。また、Tgが40℃のSBRを用いた以外は、実施例1と同様の工程により実施例3の電極を作製した。
【0031】
[比較例1〜4]
Tgが15℃のSBRを用いた以外は、実施例1と同様の工程により比較例1の電極を作製した。また、Tgが5℃のSBRを用いた以外は、実施例1と同様の工程により比較例2の電極を作製した。また、Tgが−10℃のSBRを用いた以外は、実施例1と同様の工程により比較例3の電極を作製した。また、Tgが60℃のSBRを用いた以外は、実施例1と同様の工程により比較例4の電極を作製した。
【0032】
[実施例4]
電極活物質として、一般に正極活物質として用いられるLiFePO4を用いて以下のように電極ペーストを作製した。まず、フマル酸鉄とLiH2PO4とを1:1のモル比で混合・乾燥した粉末をAr雰囲気下、700℃で12時間焼成することによりLiFePO4を合成した。次に、電極活物質としてのLiFePO4を85重量部、導電材としてのアセチレンブラック(電気化学工業(株)製HS−100)を10重量部、分散増粘材としてのカルボキシメチルセルロースを2重量部、結着材としてのSBRを3重量部として、水を分散媒に用いて、混練し、スラリー状の正極ペーストを作製した。この正極ペーストを20 μm厚のアルミニウム箔集電体の両面に塗布、乾燥させた後、ロールプレスで高密度化し、所定の形状に切り出したものを実施例4の電極とした。SBRとしては、Tgが20℃のものを用いた。
【0033】
[比較例5]
Tgが5℃のSBRを用いた以外は、実施例4と同様の工程により比較例5の電極を作製した。
【0034】
[電極特性評価]
各電極は、サイクリック・ボルタンメトリー(CV)により評価した。水溶液電解液に6mol/Lの硝酸リチウムを用い、対極にPt、参照極にAg|AgCl、温度20℃、走査速度2mV/sで充放電を行った。充放電は10サイクル行った。評価は、1サイクル目と10サイクル目の放電時の電極活物質重量当たりの放電容量と、充放電時のピーク電位の差により行った。
【0035】
[測定結果]
表1に実施例1〜4及び比較例1〜5の測定結果を示した。表1に示すようにTgが20℃以上で40℃以下の水系高分子のエマルションを結着材に用いた実施例1〜3は、Tgがそれ未満の水系高分子のエマルションを結着材に用いた比較例1〜3と比べて、1サイクル目の容量が大きかった。これは、比較例1〜3では、Tgが低かったため、電極の抵抗が高く、測定時の走査速度では、十分な容量がでなかったものと考えられる。また、同様に、実施例1〜3に対して、比較例1〜3は、ピーク電位差が大きかった。ピーク電位差は、分極の大きさの尺度となるものであるが、比較例1〜3では、電極の抵抗が高かったために分極が大きくなり、ピーク電位差が大きくなるとともに、サイクルにともないピーク電位差も大きく増大したものと考えられる。さらに、Tgが40℃を越えた水系高分子のエマルションを結着材に用いた比較例4では、結着性が不十分となり、サイクルにともなう容量の低下およびピーク電位差の増大が大きかった。同様に正極においても、実施例4は比較例5に比べて、1サイクル目の容量が大きく、ピーク電位差が小さく、さらに、サイクルにともなう容量低下が小さく、ピーク電位差の増大がなかった。このように、Tgが20℃以上で40℃以下の水系高分子のエマルションを結着材に用いることによって、十分に抵抗が低く、耐久性に優れる電極を提供できることが確認された。したがって、この電極を用いた電池では、電池抵抗が低くなり、出力特性に優れるとともに耐久性能に優れたものとなることがわかった。
【0036】
【表1】

【符号の説明】
【0037】
20 水溶液系リチウム二次電池、21 電池ケース、22 正極、23 負極、24 セパレータ、25 ガスケット、26 封口板、27 水溶液系電解液。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムを吸蔵放出可能な電極活物質と、
導電材と、
ガラス転移点Tgが20℃以上40℃以下である水系高分子のエマルションからなる結着材と、
水系分散増粘材と、
を含む、水溶液系リチウム二次電池用電極合材。
【請求項2】
前記水系高分子は、水系ブタジエン共重合体を含むものである、請求項1に記載の水溶液系リチウム二次電池用電極合材。
【請求項3】
前記水系分散増粘材は、セルロース誘導体である、請求項1又は2に記載の水溶液系リチウム二次電池用電極合材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の水溶液系リチウム二次電池用電極合材と、水と、を含む水溶液系リチウム二次電池用電極ペースト。
【請求項5】
集電体と、
前記集電体上に形成された請求項1〜3のいずれか1項に記載の水溶液系リチウム二次電池用電極合材と、
を備えた水溶液系リチウム二次電池用電極。
【請求項6】
正極と、
負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しリチウムを溶解した水溶液である電解液と、を備え、
前記正極および前記負極の少なくとも一方が、請求項1〜3のいずれか1項に記載の水溶液系リチウム二次電池用電極合材を備えたものである、水溶液系リチウム二次電池。

【図1】
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【公開番号】特開2011−216197(P2011−216197A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80379(P2010−80379)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】