説明

水系塗料組成物

【課題】新規な構成の多彩模様形成用の水系塗料組成物を提供すること。
【解決手段】水系ベース(地色)塗料12の水分散媒中にカプセル塗料14を含有する塗料組成物。カプセル塗料14は、カプセル膜14a内に着色塗料14bが封入されカプセル膜14aが塗布作業時の外力により破損する強度を有する。カプセル膜14aが破損して封入着色塗料14bが流出ないし多彩色模様を塗膜面に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な水系多彩模様を形成するのに好適な水系塗料組成物及びそれを使用した多彩模様塗装方法に関する。
【0002】
ここで、多彩模様塗料とは、一回の塗装で多数の色合いが複合した多彩な意匠塗膜を形成する塗料のことである(JIS K 5667参照)。
【0003】
本発明の多彩模様塗料は、主として、建築内外装材(屋根材)を仕上げ塗料として好適なものであるが、車両、橋梁、家具、木工等の仕上げ塗料としての適用も可能なものである。
【背景技術】
【0004】
従来の多彩色模様塗料に関する技術として、下記のよう技術がある。
【0005】
1)溶剤系塗料と水系塗料とを塗装(施工)直前に強制攪拌して調製した使用する塗料(特許文献1・2等参照)。
【0006】
2)着色骨材を2種類以上混合分散させた塗料(特許文献2・3・4・5・6等参照)。
【特許文献1】特開昭57−105464号公報(特許請求の範囲の欄等)
【特許文献2】特開昭57−195168号公報(特許請求の範囲の欄等)
【特許文献3】特開平7−247450号公報(要約等)
【特許文献4】特開平9−208862号公報(要約等)
【特許文献5】特開平9−221613号公報(要約等)
【特許文献6】特開昭64−16879号公報(要約等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記特許文献等に記載されていない、新規な構成の水系塗料組成物及びそれを使用する多彩模様形成塗装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、下記新規な構成の水系多彩模様塗料に想到した。
【0009】
水系ベース(地色)塗料の水分散媒中にカプセル塗料を含有する塗料組成物であって、カプセル塗料は、カプセル膜内に着色塗料が封入され(以下、当該封入塗料を「封入着色塗料」という。)、カプセル膜が塗布作業時の外力により破損する強度を有するものであることを特徴とする。
【0010】
本構成とすることにより、塗布作業時に塗布圧等の外力(例えば塗布圧)によりカプセル塗料のカプセル膜が破損して内部の封入着色塗料が流出ないし飛散してベース塗膜上に多彩色の模様を形成することが可能である。
【0011】
ここで、各カプセル膜の破損外力を異なるものとすることが望ましい。カプセル塗料の破損外力が異なることにより、同一の塗料を用いて、塗布圧等の塗布作業条件を変えることにより異なる多彩色模様を形成することが可能となる。
【0012】
前記封入着色塗料は少なくとも2色以上を使用することが望ましい。多彩色模様を色彩豊かなものにすることができる。
【0013】
封入着色塗料は、通常、顔料と塗膜形成樹脂(結合剤)が水分散媒に分散されてなる水系塗料を使用する。
【0014】
カプセル膜は、通常、親水性高分子コロイドのゲル化膜とする。塗布圧等の塗布作業時の外力により破損可能なものを得やすい。
【0015】
水系ベース塗料としては、体質顔料ないし無機充填剤を含有するものを使用することが望ましい。体質顔料や無機充填剤を含有させることにより、塗布時にカプセル塗料のカプセル膜が破損しやすくなる。
【0016】
上記各構成の水系塗料組成物を用いての多彩色模様形成塗装方法は、下記構成となる。
【0017】
被塗布面に水系多彩模様塗料を塗布時、塗料カプセルを外力を作用させることにより破損させて、封入着色塗料を流出ないし飛散させることを特徴とする。
【0018】
なお、本発明は、下記構成の塗料カプセル単独でも、取引の対象となり、本発明の技術的範囲に属する。
【0019】
粒径0.5〜5mmであり、カプセル膜内に着色塗料が封入され、カプセル膜が塗布時の外力により破損する強度を有するものであることを特徴とする。
【0020】
上記カプセル膜が破損可能な外力は、通常、挟持破損荷重(粒子3個):2〜500gに対応するものとする。
【0021】
本発明に使用するカプセル塗料について説明をする。以下の説明で配合部数を示す「%」、「部」及び「混合比」は、特に断らない限り、それぞれ質量単位とする。
【0022】
本カプセル塗料は、基本的には、カプセル膜14a内に着色塗料14bが封入され、カプセル膜が塗布時の外力により破損する強度を有するものである(図1参照)。
【0023】
ここで塗布時の外力とは、塗布時の塗布圧ばかりでなく、塗布後処理として、塗膜面の押圧等により発生する外力も意味する。
【0024】
ここで、カプセル膜は、通常、親水性高分子コロイドのゲル化膜とする。即ち、親水性コロイドにゲル化剤を添加して形成させるものである。
【0025】
上記親水性高分子(コロイド形成物質)及びゲル化材の具体例ならびにその組合せとしては、塗布圧等の塗布時外力により破損する強度を有するものなら特に限定されず、表1に示すものを好適に使用できる(特許文献6第3頁表参照)。
【0026】
【表1】

特に、親水性高分子(コロイド形成物質)がカルボン酸含有多糖類であり、ゲル化剤が多価陽イオン供与塩である組合せが塗布圧により破損容易なものが調製しやすくて望ましい。
【0027】
より具体的には、カルボン酸含有多糖類としては、アルギン酸、カルボキシメチルセルロース、ペクチン及びそれらの塩類等を挙げることができ、多価陽イオン供与塩としては、塩化カルシウム、ほう砂、硫酸アルミニウム等を挙げることができる。
【0028】
ここで封入着色塗料は、着色剤のみでもよいが、通常、水系塗料(液状塗料)とする。作業環境保全上望ましく、また、カプセル膜の破損時における封入着色塗料の流出ないし飛散が円滑となるためである。水系塗料は、通常、顔料と塗膜形成樹脂(結合剤)が水分散媒に分散されてなるものを使用する。
【0029】
ここで、塗膜形成樹脂(結合剤)の形態は、水分散系、水溶系、溶剤可溶系、非水分散系、粉末系等特に限定されない。
【0030】
そして、これらのうちで水分散系エマルションが好ましく、それらに好適に使用できる樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、シリコーン樹脂フッ素樹脂エマルション、アクリル・酢酸ビニル樹脂、アクリル・ウレタン樹脂アクリル・シリコーン樹脂、エチルセルロース、ニトロセルロース等を挙げることができる。
【0031】
また、着色剤としては、例えば、チタン白、亜鉛華、リトポン、鉛白(以上白顔料);カドニウム赤、べんがら、トルイジンレッド(以上赤顔料);黄鉛、鉄黄、チタン黄、ファストイエロー、アントラキノンイエロー、ベンジジンイエロー(以上黄顔料);酸化クロム、フタロシアニングリーン(以上緑顔料);紺青、群青、フタロンシアニンブルー(以上青顔料);カーボンブラック、鉄墨、黒鉛(以上黒顔料)等の無機・有機顔料を、単独又は組み合わせて適宜使用可能である。(日本化学会編「第5版化学便覧 応用化学編I」(平7−3−15)丸善、p1136表15.4から引用)。
【0032】
ここで、塗膜形成要素(バインダー)と着色剤(顔料)との混合比率は、前者/後者=95/5〜5/95、好ましくは67/33〜33/67の範囲で適宜選定することができる。
【0033】
次に、カプセル塗料の調製は、具体的には、特許文献6に記載の方法により行うことができる(第3頁上段左右欄参照)。
【0034】
まず、親水性高分子のコロイド溶液に水系着色塗料を混合して分散系(エマルション又はサスペンション)としたものを、ゲル化剤を含有させた水性分散液に加えて適当な分散機(ex.高速ディゾルバー)で分散させる、又は、ゲル化剤含有水性分散液に滴下して製造する。
【0035】
ここで、親水性高分子(膜形成材)の水溶液と水系着色塗料を混合比率は前者/後者=約1/9〜9/1、好ましくは約3/7〜7/3の範囲で、要求されるカプセル膜強度に応じて、適宜設定する。一般的には、親水性高分子の比率が高い程膜強度は高くなるが、親水性高分子の種類によっても、また、径の大きさによって異なる。
【0036】
ここで、カプセル径は、カプセル膜が破損して塗膜中に流れ又は飛散模様を形成可能な着色能を有すれば特に限定されない。そのような着色能を有するためには、通常、約0.5mm以上であることが望ましい。また、カプセル径の上限は、カプセル生産容易性及びカプセル強度の見地から、通常、約5mm以下とする。製造上及び破損圧との関係から、通常、1〜3mmが望ましい。
【0037】
こうして製造したカプセル塗料は、単独使用も可能であるが、通常、水系ベース(地色)塗料に添加して塗料組成物として使用する。当然、ベース塗料の着色色彩とカプセル塗料の着色色彩とは異なるものとする。ベース塗料は、通常、白色等の淡色系を使用するが、ベース塗料を濃色系(黒色を含む。)として、カプセル塗料の封入着色塗料を淡色系(白色を含む。)としてもよい。
【0038】
このベース塗料(固形分)100部に対するカプセル塗料の添加量は、通常、0.1〜10部、望ましくは0.5〜5部とする。カプセル塗料が過少では多彩模様を得難く、過多では、多彩ではあるがカプセル塗料の連続模様となり着色塗料の破壊による混合色部分が増え、多彩感に乏しくなる。
【0039】
なお、これらのベース塗料には、体質顔料や無機充填剤が含まれていることが望ましい。それらにより、カプセル膜の破損が促進されやすいためである。
【0040】
こうして調製した塗料組成物は、液状の場合は吹付けた後、適宜、コテ等で押圧して、ペースト状の場合は、コテ塗りにより被塗布面に塗布する。このとき、カプセル塗料は、吹付圧又はコテの押圧によりカプセル膜が破損して、封入着色塗料が流出して多彩色仕上となる。
【0041】
図2(A)、(B)にモデル的に塗膜形成及びカプセル塗料破損の態様を、それぞれ断面図及び平面図として示す。
【0042】
塗装直後は、カプセル塗料14A、14B、14Cがベース塗料12中に、露出、部分露出ないし埋設状態で分散している。そして、押厚によりカプセル塗料14A、14B、14Cの各色のカプセル膜14aが破損して(破れて)、封入着色塗料14bが流出する。このとき、カプセル塗料14A、14B、14Cは、それぞれ異色であり、かつ、破損強度も異なるため(14A<14B<14C)、流出時間(流出量)も異なり多彩色模様が形成される。即ち、破損強度が小さい程、図例の如く、流出量(流れ長・流れ面積)が大きくなり易い。さらには、カプセル塗料の粒径が異なれば、多彩色模様の多彩性がさらに増大する。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明をする。
【0044】
<カプセル塗料の調製>
アルギン酸ナトリウム1%水溶液に対してアクリル系エマルション着色塗料(黒・黄・茶)を表2に示す質量比で混合したもの10mLを、注射器(針内径0.2mm)を用いて、塩化カルシウム20%水溶液に滴下してカプセル塗料試料を調製した。
【0045】
こうして調製した各カプセル塗料試料を3粒ずつ、プラスチック板(30mm角)の上に正三角形(一辺15mm)の各頂点にくるように載置して、同一プラスチック板を載せ、プラスチック板状に錘を押せて行き、破損される強度を測定した。
【0046】
その結果を、表2に示すが、アルギン酸ナトリウム1%水溶液に対する着色塗料との質量比は、約3/7〜7/3の範囲が好適なことが分かる。
【0047】
【表2】

<実施例1>
上記で調製した各試料のカプセル塗料を用いて下記組成の内装用珪藻土仕上げ塗料100g(水分30%)に、それぞれ表3に示す表示量を添加混合して各実施例の塗料組成物を調製した後
木質繊維板(18×10cm)上にコテ塗りを行った。
【0048】
ベース塗料組成
珪藻土 5.0部
セメントプラスター 44.6部
再乳化形粉末樹脂 5.0部
骨材(ケイ砂) 45.0部
その他 0.4部
<実施例2>
実施例1と同様にして下記組成のコテ塗り用合成樹脂エマルション系薄付け仕上げ塗料100gに、それぞれ表3に示す表示量を添加して、各実施例の塗料組成物を調製した。
【0049】
ベース塗料組成
アクリル系樹脂 12.8部
添加剤※ 5.1部
水 18.1部
白色・体質顔料 64.0部
※添加剤には、分散剤、湿潤剤、消泡剤、造膜助剤、防腐・防黴剤を含む。
【0050】
<塗膜の調製>
実施例1・2の各塗料組成物を、被塗布材(木質繊維板:18cm×10cm×0.5cm)にコテ塗り(実施例1は吹付後コテ押圧)をおこなって仕上げ外観を観察した。
【0051】
それらの結果を表3に示す。これらから、カプセル形成材/封入着色塗料の比は3/7前後が好適であり、また、ベース塗料100gに対するカプセル塗料の添加量は、2g前後が好適であることが分かる。
【0052】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】カプセルの構成を示す断面図。
【図2】(A)(B)はモデル的に塗膜形成及びカプセル塗料破損の態様をそれぞれ示す断面図及び平面図。
【符号の説明】
【0054】
12 ベース塗料
14A、14B、14C カプセル塗料
14a カプセル膜
14b 封入着色塗料
16 被塗布基材



【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系ベース(地色)塗料の水分散媒中にカプセル塗料を含有する塗料組成物であって、前記カプセル塗料は、カプセル膜内に着色塗料が封入され(以下、当該封入塗料を「封入着色塗料」という。)、前記カプセル膜が塗布時の外力により破損する強度を有するものであることを特徴とする水系塗料組成物。
【請求項2】
前記各カプセル膜の破損外力が異なることを特徴とする請求項1記載の水系塗料組成物。
【請求項3】
前記封入着色塗料が少なくとも2色以上であることを特徴とする請求項2記載の水系塗料組成物。
【請求項4】
前記封入着色塗料が、顔料と塗膜形成樹脂(結合剤)が水分散媒に分散されてなる水系塗料であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水系塗料組成物。
【請求項5】
前記カプセル膜が、親水性高分子コロイドのゲル化膜であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の水系塗料組成物。
【請求項6】
前記水系ベース(地色)塗料が、体質顔料ないし無機充填剤を含有するものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の水系塗料組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の水系塗料組成物を用いた多彩色模様形成塗装方法であって、被塗布面に前記水系塗料組成物を塗布後、前記塗料カプセルが破損可能な塗布圧の1つ又は複数を選択して押圧することを特徴とする多彩色模様形成塗装方法。
【請求項8】
粒径が0.5〜5mmであり、カプセル膜内に着色塗料が封入され、前記カプセル膜が塗布時の外力より破損する強度を有するものであることを特徴とする特徴とするカプセル塗料。
【請求項9】
前記カプセル膜の破損可能な外力が、挟持破損荷重(粒子3個):2〜500gに対応するものであることを特徴とする請求項8記載のカプセル塗料。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−63213(P2006−63213A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−248392(P2004−248392)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000159032)菊水化学工業株式会社 (121)
【Fターム(参考)】