説明

水素を主成分とするガスの製造方法及び製造装置

【課題】炭素系燃料及び酸化剤から水素及び一酸化炭素の混合ガス又は水素リッチガスを製造するとともに、炭素系燃料に含まれる炭素を二酸化炭素として回収する場合において、シフト反応に必要な水蒸気の量を低減し、シフト反応に必要な水蒸気を製造する設備を不要として低コスト化するとともに、熱効率を向上し、二酸化炭素の回収率を向上させる。
【解決手段】炭素系燃料を酸化剤により反応させて生成ガスを発生させるガス化部と、前記生成ガスに含まれる煤塵を回収する脱塵部と、前記生成ガスに含まれる一酸化炭素及び水蒸気を反応させて水素及び二酸化炭素に変換するシフト反応部とを含み、前記ガス化部又は前記ガス化部の下流側に水を供給する水供給部及び微粉砕した鉄鉱石又は石灰石である触媒を供給する触媒供給部を設け、前記脱塵部にて前記煤塵とともに前記触媒を回収して前記ガス化部に還流する煤塵還流部を設けた水素を主成分とするガスの製造装置を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素を主成分とするガスの製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化対策のため、炭素系燃料から水素と一酸化炭素との混合ガスを製造するガス化システムに関しても、炭素系燃料に含まれる炭素を回収することが求められている。
【0003】
炭素系燃料をガス化した生成ガスの主成分は、一酸化炭素及び水素である。生成ガスに含まれる炭素を除去するために一酸化炭素を除去すると、生成ガスの発熱量が大きく低下する。このため、下記反応式(1)に示すシフト反応を用いて、一酸化炭素を水蒸気と反応させて水素及び二酸化炭素とし、この二酸化炭素を生成ガスから除去することにより、生成ガスの発熱量の低下を最小限に抑えながら生成ガスに含まれる炭素を回収する方式が一般的に用いられている。
【0004】
CO+HO→CO+H …反応式(1)
このようなシフト反応プロセスを含む炭素系燃料のガス化システムは、例えば、特許文献1に記載されている。
【0005】
特許文献1には、シフト反応を進めるためのシフト反応器(シフトコンバータ)を設置し、このシフト反応器へ水蒸気を供給するCO除去石炭ガス化複合発電システムが開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、ガス化炉にスチームや炭層ガスを供給し、ガス化炉でシフト反応を進めることにより、シフト反応器を不要とする水素・一酸化炭素混合ガスの製造方法が開示されている。ただし、特許文献2は、下流の燃料合成に適したガス組成にするためにシフト反応を進めることを目的としており、生成ガス中の一酸化炭素の一部を水蒸気と反応させれば十分であるため、シフト反応器なしでシステムが成立するものである。
【0007】
また、特許文献3には、ガス化炉に鉄鉱石や石灰石を供給し、鉄鉱石や石灰石が保有する顕熱を利用して石炭を熱分解、及び燃焼することにより、水素・一酸化炭素混合ガスを取り出す方法が開示されている。
【0008】
さらに、非特許文献1には、ガス化炉にチャー(未燃炭素)を供給し、チャー中の鉄やカルシウムの触媒効果によってシフト反応が促進されることが記載されている。
【0009】
非特許文献2には、天然ソーダ灰とリモナイトより調製したNa/Fe複合触媒を用いることにより、チャー転化率が向上することが記載されている。
【0010】
このほか、シフト反応によって生成した二酸化炭素を除去する方法としては、アミンなどの吸収液を用いる方法、ゼオライトなどの吸着剤を用いる方法など、多くの方法が公知となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平9−279163号公報
【特許文献2】特開2001−139303号公報
【特許文献3】特開平6−145673号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】石炭科学会議発表論文集(46)、66−67、2009−11−26
【非特許文献2】石炭科学会議発表論文集(46)、74−75、2009−11−26
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1に開示されたシステムにおいては、シフト反応設備に水蒸気を供給する必要があり、この水蒸気を製造するための設備が必要となることからプラント建設コストが高い点、及び、水蒸気の製造がガスと水との間接熱交換によるため効率が低い点で改善の余地があった。
【0014】
また、特許文献2に開示された方法は、生成ガス中の水素/一酸化炭素の比を調整することを目的としており、シフト反応器が必要な条件において生成ガス中の水蒸気/一酸化炭素の比を調整する方法は示されていない。
【0015】
また、特許文献3に開示された方法においては、鉄鉱石は部分還元し、石灰石は焼成して生石灰になるため、シフト反応が十分促進されない。
【0016】
また、非特許文献1の方式においては、チャー中の鉄やカルシウムの量が炭種によって異なっているため、シフト反応が十分促進されない場合がある。
【0017】
本発明の目的は、炭素系燃料及び酸化剤から水素及び一酸化炭素の混合ガス又は水素リッチガスを製造するとともに、炭素系燃料に含まれる炭素を二酸化炭素として回収する場合において、シフト反応に必要な水蒸気の量を低減し、シフト反応に必要な水蒸気を製造する設備を不要として低コスト化するとともに、熱効率を向上し、二酸化炭素の回収率を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の水素を主成分とするガスの製造方法は、炭素系燃料を酸化剤により反応させてガス化し、このガス化により生成された生成ガスを水と接触させて前記生成ガスに含まれる水蒸気の濃度を増加させ、前記生成ガスに含まれる前記炭素系燃料の未反応の可燃分を含む煤塵を回収し、前記生成ガスに含まれる一酸化炭素及び水蒸気を水素及び二酸化炭素に変換し、少なくとも前記生成ガスに含まれる二酸化炭素を除去して水素を主成分とするガスを製造する方法であって、前記炭素系燃料及び前記酸化剤若しくは前記炭素系燃料、前記酸化剤及び水の混合物又は前記生成ガスに微粉砕した鉄鉱石又は石灰石である触媒を供給し、前記生成ガスに含まれる一酸化炭素の一部及び水蒸気の一部を反応させて水素及び二酸化炭素とし、前記触媒を前記煤塵とともに回収し、回収した前記触媒及び前記煤塵を前記混合物又は前記生成ガスと混合することを特徴とする。
【0019】
本発明の水素を主成分とするガスの製造装置は、炭素系燃料を酸化剤により反応させて生成ガスを発生させるガス化部と、前記生成ガスに含まれる煤塵を回収する脱塵部と、前記生成ガスに含まれる一酸化炭素及び水蒸気を反応させて水素及び二酸化炭素に変換するシフト反応部とを含み、前記ガス化部又は前記ガス化部の下流側に水を供給する水供給部及び微粉砕した鉄鉱石又は石灰石である触媒を供給する触媒供給部を設け、前記脱塵部にて前記煤塵とともに前記触媒を回収して前記ガス化部に還流する煤塵還流部を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、炭素系燃料及び酸化剤から製造される生成ガスをシフト反応器に導入する前に、生成ガスに含まれる一酸化炭素を二酸化炭素に変換するシフト反応を進行させ、シフト反応器で必要となる水蒸気の量を低減することができる。このため、水蒸気を製造するための間接熱交換設備を不要とすることができ、プラント建設費を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例の水素を主成分とするガスの製造装置を示す概略構成図である。
【図2】実施例のガス化設備を示す概略構成図である。
【図3】実施例の制御器で行われる鉄噴霧量、水噴霧量、及び炭素系燃料に対する酸化剤配分の制御を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、炭素系燃料をガス化し、燃料に含まれる炭素は二酸化炭素として排ガスから回収し、水素を主成分とするガスを製造するシステムに関するものであり、二酸化炭素による地球温暖化防止に寄与する技術である。
【0023】
本発明の水素を主成分とするガスの製造方法は、炭素系燃料を酸化剤によりガス化し、生成ガスを水と接触させて生成ガス中の水蒸気濃度を増加させ、ガス化炉(ガス化部の中央部)あるいはガス化炉出口(ガス化部のガス冷却部を含む。)に微粉砕した鉄鉱石または石灰石を噴霧して生成ガス中の一酸化炭素の一部と水蒸気の一部とを反応させて水素及び二酸化炭素とする。生成ガスに同伴された鉄鉱石を未反応の可燃分を含む煤塵とともに回収する。回収した鉄鉱石または石灰石を含む煤塵をガス化炉へ供給する。
【0024】
ガス化炉あるいはガス化炉出口に微粉砕した鉄鉱石または石灰石を噴霧すると、鉄またはカルシウムの触媒効果によってガス温度が低下することなく一酸化炭素と水蒸気とのシフト反応が促進される。噴霧した鉄鉱石または石灰石は、ガス化炉の下流側に設けた煤塵回収設備(脱塵部)によって回収され、煤塵とともにガス化炉に投入されるため、最終的にガス化炉の内部で溶融スラグとともに回収される。
【0025】
また、本発明の水素を主成分とするガスの製造装置(水素を主成分とするガスの製造装置)は、バーナの設置位置よりも下流となるガス化炉壁面あるいはガス化炉出口に水を噴霧するノズルを配置し、水を噴霧するノズルの下流側(上方)となるガス化炉壁面あるいはガス化炉出口に、微粉砕した鉄鉱石または石灰石を噴霧するノズルを配置し、生成ガスに同伴された鉄鉱石または石灰石を未反応の可燃分を含む煤塵とともに回収し、回収した鉄鉱石または石灰石を含む煤塵をガス化炉に供給する。微粉砕した鉄鉱石または石灰石を噴霧するノズルは、鉄鉱石の還元や石灰石の焼成がガス化炉の内部で噴霧直後に生じないように、ガス温度が鉄鉱石の還元温度、または石灰石の焼成温度より低い箇所に設置する。
【0026】
また、鉄鉱石または石灰石を噴霧するノズルは、ガス化炉周方向に複数本設置してもよい。このようにノズルを設置すると、ガス化炉へ鉄鉱石または石灰石が効率よく分散するため、シフト反応を促進することができる。
【0027】
また、本発明の水素を主成分とするガスの製造装置は、バーナに供給する炭素系燃料流量に基づいて、微粉砕した鉄鉱石または石灰石(触媒)を噴霧するノズルから噴霧される鉄鉱石または石灰石粉体量を調整する制御器(制御部)を設ける。
【0028】
また、本発明の水素を主成分とするガスの製造装置は、微粉砕した鉄鉱石または石灰石を噴霧するノズルに搬送される鉄鉱石または石灰石の粉体量を調整する機構と、水を噴霧するノズルに供給する水量を調整する機構を流路にそれぞれ設置し、ガス化炉に噴霧する量を調整できるようにする。噴霧される鉄鉱石または石灰石の粉体量は、生成ガス中の一酸化炭素濃度に基づいて計算され、制御器によって供給量が制御される。
【0029】
一酸化炭素濃度が高い場合は噴霧する粉体量を多くし、一酸化炭素濃度が低い場合は粉体量を少なくする。また、噴霧される水量は、生成ガス中の一酸化炭素濃度と鉄鉱石または石灰石を噴霧する量に基づいて、制御器によって供給量が制御される。一酸化炭素濃度が高い場合は噴霧する水量を多くし、一酸化炭素濃度が低い場合は水量を少なくする。これにより、ガス温度の低下が抑制され、シフト反応の促進効果が高まり、下流のシフト反応器(シフト反応部)で必要とする水蒸気を削減できる。
【0030】
また、本発明の水素を主成分とするガスの製造装置は、バーナへ供給する炭素系燃料の流量を制御する機構と、バーナへ供給する酸化剤の流量を制御する機構を流路に設置する。炭素系燃料及び酸化剤の供給量は、生成ガス中の一酸化炭素濃度から計算された鉄鉱石または石灰石の粉体供給量に基づいて調整され、制御器で配分が決定される。
【0031】
鉄鉱石や石灰石は、スラグの融点を下げる効果があるため、供給量からスラグの融点を推定し、その値から炭素系燃料に対する酸化剤の量を調整する。鉄鉱石または石灰石の供給量が多いときには炭素系燃料に対する酸化剤の量を少なくし、ガス化炉内の温度を下げ、鉄鉱石または石灰石の供給量が少ないときには炭素系燃料に対する酸化剤の量を多くし、ガス化炉内の温度をスラグ溶融温度以上に設定する。このように炭素系燃料に対する酸化剤の量を調整することによって、ガス化炉の効率を高めることができる。
【0032】
さらに、必要に応じて、生成ガスに含まれる硫黄化合物を除去して水素リッチガスとする。
【0033】
以下、実施例を用いて説明する。
【実施例1】
【0034】
本実施例においては、ガス化炉出口に微粉砕した鉄鉱石を噴霧することにより、生成ガスに含まれる一酸化炭素及び水蒸気を水素及び二酸化炭素に変換する方法及び装置構成について図1及び図2を用いて説明する。
【0035】
図1は、水素を主成分とするガスの製造装置を示す構成図である。
【0036】
本図において、炭素系燃料1及び酸化剤2は、ガス化設備26(ガス化部)に供給され、炭素系燃料1がガス化されて一酸化炭素及び水素を主成分とする生成ガスになる。ガス化設備26は、炭素系燃料1及び酸化剤2をバーナ3から投入してガス化するガス化炉16、ガス化炉16の下方に設けられたスラグ回収部15、及びガス化炉16の上方に設けられたガス冷却部17で構成されている。
【0037】
生成ガスは、熱回収設備27(熱回収部)に送られて冷却される。つぎに、生成ガスは、脱塵設備28(脱塵部)に送られ、生成ガスに含まれる炭素系燃料1の未反応の可燃分を含む煤塵が回収される。
【0038】
脱塵後の生成ガスは、水洗塔29に送られ、塩化水素等を除去した後、硫化カルボニル転化器30(COS転化器)に送られる。硫化カルボニル転化器30は、チタニア系やアルミナ系の触媒を用い、生成ガスに含まれる硫化カルボニル(COS)と水蒸気を反応させ、硫化水素及び二酸化炭素に変換する。
【0039】
硫化水素除去設備33(硫黄化合物除去部)は、硫黄化合物を除去するためのものである。硫化水素除去設備33で用いるアミン系の吸収液は、COSを吸収しないため、硫化カルボニル転化器30(硫化カルボニル転化部)においてCOSを硫化水素として脱硫率を向上する。
【0040】
つぎに、生成ガスは、シフト反応器31に送られる。シフト反応器31には、鉄−クロム系や銅−亜鉛系の触媒が内蔵されており、シフト反応が進行するようになっている。これにより、生成ガスは、水素濃度が高くなった水素リッチガス(シフトガス)に変換される。
【0041】
つぎに、水素リッチガスは、ガス精製設備41(ガス精製部)に導かれる。ガス精製設備41の水洗塔32においては、水素リッチガスから塩化水素等が除去され、ガス精製設備41の硫化水素除去設備33においては、硫化水素等が除去される。
【0042】
水洗塔32における塩化水素の除去率を上げるためには、水酸化ナトリウムなどを用いて水洗塔32に供給する水のpHを高くすればよい(アルカリ性にすればよい)。
【0043】
硫化水素除去設備33における硫化水素の除去には、アミン水溶液などの吸収液が用いられる。硫化水素を吸収した吸収液は、再生塔(図示していない)に送られ、吸収液に含まれる硫化水素を分離して循環利用される。
【0044】
硫化水素が除去された精製ガス34は、更に下流側に設置された二酸化炭素除去設備(図示していない)に送られる。二酸化炭素除去設備においては、精製ガス34に含まれる二酸化炭素が除去され、水素を主成分とするガスとなる。
【0045】
硫化カルボニル転化器30とシフト反応器31との間(シフト反応器31の上流側)には、一酸化炭素濃度計19が設置してある。
【0046】
一酸化炭素は可燃性ガスであり、一酸化炭素を直接除去すると生成ガスの発熱量が低下するため、シフト反応器31で一酸化炭素を二酸化炭素に変換する必要がある。
【0047】
本実施例においては、シフト反応器31の上流側でシフト反応を進行させるため、ガス化設備26の水供給管6から水を噴霧(供給)して生成ガス中の水蒸気濃度を高めるとともに、鉄鉱石タンク12から微粉砕した鉄鉱石(触媒)をガス化設備26に供給する。
【0048】
このようにガス化設備26に鉄鉱石及び水を供給すると、鉄の触媒作用によって一酸化炭素及び水蒸気のシフト反応が促進される。これにより、下流側のシフト反応器31で消費する水蒸気を低減することができる。
【0049】
微粉砕した鉄鉱石は、不活性ガス供給管9から導入される窒素などの不活性ガスにより搬送され、鉄鉱石流量調整機構11(触媒流量調整部)によって鉄鉱石の微粒子の供給量が調整される。
【0050】
鉄鉱石の供給量(鉄噴霧量)は、一酸化炭素濃度計19で測定した一酸化炭素濃度20によって制御器18で調整される。一酸化炭素濃度20が高いときは鉄鉱石の供給量を多くし、一酸化炭素濃度20が低いときは鉄鉱石の供給量を少なくする。また、鉄鉱石の供給量によってガス化設備26に供給される炭素系燃料1と酸化剤2との配分を調整する。鉄鉱石の供給によってスラグの融点が変動するため、供給量と燃料中の灰組成からスラグの融点を推定する。スラグの融点が低いときには炭素系燃料1に対する酸化剤2の量を少なくし、ガス化炉16の内部の温度を下げ、スラグの融点が高いときには炭素系燃料1に対する酸化剤2の量を多くし、ガス化炉16の内部の温度をスラグ溶融温度以上に上げる。このように炭素系燃料1に対する酸化剤2の量を調整することによって、ガス化炉16の効率を高めることができる。
【0051】
すなわち、制御部は、ガス化部に供給する炭素系燃料1の流量に基づいて微粒子の供給量を調整する。
【0052】
また、制御部は、生成ガスに含まれる一酸化炭素の濃度に基づいて、鉄鉱石の供給量、及び水の供給量を調整する。
【0053】
さらに、制御部は、生成ガスに含まれる一酸化炭素の濃度から計算された鉄鉱石の供給量及び灰中組成に基づいて、ガス化部で溶融したスラグの融点を推定し、スラグの融点に基づいて炭素系燃料及び酸化剤の配分を調整する。
【0054】
水供給管6から供給される水は、一酸化炭素濃度計19で測定した一酸化炭素濃度20によって制御器18で流量が計算される。そして、水量調整機構8によって流量が調整される。一酸化炭素濃度20が高いときは水の噴霧量(供給量)を多くし、一酸化炭素濃度20が低いときは水の噴霧量(水噴霧量)を少なくする。水を噴霧すると生成ガス中の水蒸気濃度が高まり、シフト反応が進行しやすくなる一方で、ガス温度低下によるシフト反応速度の低下も生じるため、水の噴霧量を多くする場合は、鉄鉱石の供給量を多くしてから水の噴霧量を調整するようにする。水の噴霧量を少なくする場合は、水の噴霧量を少なくしてから鉄鉱石の供給量を調整するようにする。
【0055】
鉄鉱石を含む生成ガスは、熱回収設備27で熱回収され、脱塵設備28に供給される。脱塵設備28においては、生成ガスに含まれるチャーなどの微粒子とともに、鉄鉱石の微粒子が回収される。チャー及び鉄鉱石の混合粉体13は、ガス化設備26にリサイクル(還流)され、スラグ回収部15で溶融スラグとして回収される。
【0056】
図2は、実施例のガス化設備を示す構成図である。
【0057】
ガス化設備26は、炭素系燃料1及び酸化剤2をバーナ3から投入してガス化するガス化炉16、ガス化炉16の下方に設けられたスラグ回収部15、及びガス化炉16の上方に設けられたガス冷却部17で構成されている。
【0058】
バーナ3は、ガス化炉16の上段及び下段にそれぞれ設置してある。チャーバーナ14(煤塵還流部)はガス化炉16の下段に設置してある。水噴霧ノズル7(水供給部)は、上段のバーナ3より下流側に設置してある。
【0059】
本図においては、鉄鉱石供給ノズル10(触媒供給部)は、水噴霧ノズル7より下流側(上方)に配置し、鉄鉱石がガス化炉16の内部で供給直後に溶融しないようにしている。鉄鉱石供給ノズル10は、ガス化炉16の温度が鉄の溶融温度より低い部位、又はガス冷却部17に設置することが望ましい。本図においては、ガス冷却部17に水噴霧ノズル7及び鉄鉱石供給ノズル10を配置している。
【0060】
ガス化炉16に供給した鉄鉱石のうち、ガス化炉16の内部で溶融したものの一部は、スラグ回収部15に流下して回収される。また、生成ガス及びチャーとともにガス化炉16の下流に送られた鉄鉱石は、脱塵設備28にて回収され、チャーと鉄鉱石との混合粉体13となってチャーバーナ14を介してガス化炉16に投入される。
【0061】
チャーバーナ14は、ガス化炉16下段の高温部に設置してある。チャーと鉄鉱石との混合粉体13は、ガス化炉16の内部で溶融してスラグとして回収される。
【実施例2】
【0062】
本実施例においては、鉄噴霧量、水噴霧量、及び炭素系燃料に対する酸化剤の配分を制御する方法について図3を用いて説明する。
【0063】
図3は、実施例の制御装置で行われる水噴霧量、鉄噴霧量、及び炭素系燃料に対する酸化剤の配分の制御例を示すブロック図である。
【0064】
燃料流量調整機構4は、炭素系燃料流量21(燃料流量)を測定できるようになっている。また、酸化剤流量調整機構5は、酸化剤流量22を測定できるようになっている。
【0065】
水噴霧量は、バーナ3に供給される炭素系燃料流量21、及びシフト反応器入口(シフト反応器31の上流側)の一酸化炭素濃度計19によって測定された一酸化炭素濃度20が制御器18に入力されることにより、炭素系燃料流量21に対する配分が決定される。
【0066】
制御器18からの信号によって水量調整機構開度指令24が水量調整機構8(水量調整部)に送られ、ガス化炉16の内部に噴霧する水噴霧量が制御される。
【0067】
鉄噴霧量は、バーナ3に供給される炭素系燃料流量21、及びシフト反応器入口の一酸化炭素濃度計19により測定された一酸化炭素濃度20が制御器18に入力されることにより、燃料流量に対する配分が計算される。制御器18からの信号により鉄鉱石流量調整機構開度指令25が鉄鉱石流量調整機構11に送られ、ガス化炉16の内部に噴霧する鉄噴霧量が制御される。
【0068】
炭素系燃料に対する酸化剤の配分は、以下の手順により決定される。
【0069】
バーナ3へ供給される炭素系燃料流量21及び一酸化炭素濃度20から計算された燃料に対する鉄噴霧量と、燃料中の灰組成とに基づいて、ガス化炉16の内部のスラグ溶融温度を推定する。
【0070】
さらに、推定したスラグ溶融温度、及びバーナ3に供給される酸化剤流量22に基づいて、炭素系燃料に対する酸化剤の配分を計算する。
【0071】
計算された炭素系燃料に対する酸化剤の配分に基づいて、酸化剤流量調整機構開度指令23が酸化剤流量調整機構5に送られ、ガス化炉16の内部に供給する酸素量を制御する。
【0072】
シフト反応器入口の一酸化炭素濃度20が高い場合は、鉄噴霧量を多くしてシフト反応速度を高めるように制御器18で調整する。鉄噴霧量を増加しても一酸化炭素濃度が高い場合は、水噴霧量を多くしてシフト反応を進行させる。一酸化炭素濃度が低い場合は、水噴霧量を少なくして鉄噴霧量を調整することにより一酸化炭素濃度20が増加しないように調整する。
【0073】
本制御方法を用いれば、水噴霧によるガス温度の低下を最小限にしてシフト反応を促進することができるため、効果的である。
【0074】
一方、鉄は、灰の融点を変化させる作用があるため、灰の溶融に必要なガス化炉温度を調節する必要がある。灰の融点が低下したときは、バーナ3から供給する炭素系燃料に対する酸化剤の配分を少なくし、ガス温度を下げるように酸化剤の供給量を少なくするように調整する。鉄噴霧によって灰の融点が増加した場合は、バーナ3から供給する炭素系燃料に対する酸化剤の配分を多くし、ガス温度が灰の溶融温度以上になるように酸化剤の供給量を調整する。
【0075】
本制御方法を用いれば、シフト反応を促進し、かつガス化炉の運転状況に応じて少ない酸素で高効率なガス化運転が可能となる。
【0076】
なお、鉄噴霧量は、Feの量で、通常の炭素系燃料の場合、重量基準で炭素系燃料の1%以上とする。また、望ましくは3%以上、更に望ましくは5%以上である。
【実施例3】
【0077】
ガス化炉出口に微粉砕した石灰石を噴霧して、生成ガスに含まれる一酸化炭素及び水蒸気を水素及び二酸化炭素に変換する場合、図1〜3に示す鉄鉱石の代わりに石灰石を用いる。それ以外の構成は、実施例1及び2と同様である。
【0078】
本発明によれば、炭素系燃料に含まれる炭素を二酸化炭素として回収するとともに、水素及び一酸化炭素の混合ガス又は水素リッチガスを製造する場合において、シフト反応に必要な水蒸気の量を低減し、シフト反応器に供給する水蒸気を発生させる設備を不要として低コスト化するとともに、熱効率を向上し、二酸化炭素の回収率を向上させることができる。
【符号の説明】
【0079】
1:炭素系燃料、2:酸化剤、3:バーナ、4:燃料流量調整機構、5:酸化剤流量調整機構、6:水供給管、7:水噴霧ノズル、8:水量調整機構、9:不活性ガス供給管、10:鉄鉱石供給ノズル、11:鉄鉱石流量調整機構、12:鉄鉱石タンク、13:混合粉体、14:チャーバーナ、15:スラグ回収部、16:ガス化炉、17:ガス冷却部、18:制御器、19:一酸化炭素濃度計、20:一酸化炭素濃度、21:燃料流量、22:酸化剤流量、23:酸化剤流量調整機構開度指令、24:水量調整機構開度指令、25:鉄鉱石流量調整機構開度指令、26:ガス化設備、27:熱回収設備、28:脱塵設備、29:水洗塔、30:COS転化器、31:シフト反応器、32:水洗塔、33:硫化水素除去設備、34:精製ガス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素系燃料を酸化剤により反応させてガス化し、このガス化により生成された生成ガスを水と接触させて前記生成ガスに含まれる水蒸気の濃度を増加させ、前記生成ガスに含まれる前記炭素系燃料の未反応の可燃分を含む煤塵を回収し、前記生成ガスに含まれる一酸化炭素及び水蒸気を水素及び二酸化炭素に変換し、少なくとも前記生成ガスに含まれる二酸化炭素を除去して水素を主成分とするガスを製造する方法であって、前記炭素系燃料及び前記酸化剤若しくは前記炭素系燃料、前記酸化剤及び水の混合物又は前記生成ガスに微粉砕した鉄鉱石又は石灰石である触媒を供給し、前記生成ガスに含まれる一酸化炭素の一部及び水蒸気の一部を反応させて水素及び二酸化炭素とし、前記触媒を前記煤塵とともに回収し、回収した前記触媒及び前記煤塵を前記混合物又は前記生成ガスと混合することを特徴とする水素を主成分とするガスの製造方法。
【請求項2】
前記触媒は、不活性ガスを用いて搬送して前記混合物又は前記生成ガスに噴霧することを特徴とする請求項1記載の水素を主成分とするガスの製造方法。
【請求項3】
前記生成ガスに含まれる硫黄化合物は、除去することを特徴とする請求項1又は2に記載の水素を主成分とするガスの製造方法。
【請求項4】
炭素系燃料を酸化剤により反応させて生成ガスを発生させるガス化部と、前記生成ガスに含まれる煤塵を回収する脱塵部と、前記生成ガスに含まれる一酸化炭素及び水蒸気を反応させて水素及び二酸化炭素に変換するシフト反応部とを含み、前記ガス化部又は前記ガス化部の下流側に水を供給する水供給部及び微粉砕した鉄鉱石又は石灰石である触媒を供給する触媒供給部を設け、前記脱塵部にて前記煤塵とともに前記触媒を回収して前記ガス化部に還流する煤塵還流部を設けたことを特徴とする水素を主成分とするガスの製造装置。
【請求項5】
前記生成ガスに含まれる硫黄化合物を除去する硫黄化合物除去部を設けたことを特徴とする請求項4記載の水素を主成分とするガスの製造装置。
【請求項6】
前記触媒供給部は、前記水供給部の下流側に設けたことを特徴とする請求項4又は5に記載の水素を主成分とするガスの製造装置。
【請求項7】
前記ガス化部の下部には、スラグ回収部を設け、前記ガス化部の上部には、ガス冷却部を設け、前記触媒供給部は、前記ガス冷却部に設けたことを特徴とする請求項4〜6のいずれか一項に記載の水素を主成分とするガスの製造装置。
【請求項8】
前記煤塵還流部は、前記ガス化部の中央部であるガス化炉に設けたことを特徴とする請求項4〜7のいずれか一項に記載の水素を主成分とするガスの製造装置。
【請求項9】
前記触媒供給部に搬送される前記触媒の量を調整する触媒流量調整部と、前記水供給部に供給する水の量を調整する水量調整部とを設けたことを特徴とする請求項4〜8のいずれか一項に記載の水素を主成分とするガスの製造装置。
【請求項10】
前記ガス化部に供給する前記炭素系燃料の流量に基づいて前記触媒の供給量を調整する制御部を設けたことを特徴とする請求項4〜9のいずれか一項に記載の水素を主成分とするガスの製造装置。
【請求項11】
前記制御部は、前記生成ガスに含まれる一酸化炭素の濃度に基づいて、前記触媒の供給量、及び前記水の供給量を調整することを特徴とする請求項10記載の水素を主成分とするガスの製造装置。
【請求項12】
前記制御部は、前記生成ガスに含まれる一酸化炭素の濃度から計算された前記触媒の供給量に基づいて、前記ガス化部で溶融したスラグの融点を推定し、前記スラグの融点に基づいて炭素系燃料及び酸化剤の配分を調整することを特徴とする請求項10又は11に記載の水素を主成分とするガスの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−106894(P2012−106894A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258430(P2010−258430)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)
【Fターム(参考)】