説明

水素ガスセンサ

【課題】水素ガスが少量で濃度が薄くても検知可能で、応答時間も速い水素ガスセンサを提供する。
【課題の解決手段】水素ガスセンサ1は、シリコン基板2表面のメンブレン3に対応してキャビティ4を形成し、メンブレン3上にはサーモパイルを設け、サーモパイルは、その温接点部をキャビティ4及びメンブレン3の上方に対応位置するよう配置するとともに、その冷接点部を前記キャビティ4及びメンブレン3の外側に対応位置するよう配置し、温接点部を覆うように黒化させた白金触媒層10を形成したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガスを検出する水素ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の水素ガスセンサとしては、シリコン基板上に、熱電部材を設け、この熱電部材上に白金系の触媒材を設けた構成が知られている(特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−163192号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上述の従来例では、熱容量が大きいため、検出すべき水素ガスの濃度が薄いと、熱電部材における発生温度差が少なく、出力電圧が小さくなってしまうという不都合がある。また、応答速度が数秒から数十秒と遅いため、危険防止用センサとしては十分に目的を達成できないという不都合がある。本発明は、このような不都合を解消した水素ガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る水素ガスセンサは、シリコン基板表面のメンブレンに対応して前記シリコン基板にキャビティを形成し、前記メンブレン上にはサーモパイルを設け、前記サーモパイルは、その温接点部を前記キャビティの上方に対応位置するよう配置するとともに、その冷接点部を前記キャビティの外側に対応位置するよう配置し、前記温接点部を覆うように黒化させた白金による触媒層を形成したものである。
【0006】
上述の黒化させた白金触媒層は蒸着により形成すると好適である。また、上述のキャビティはシリコン基板表面側から形成して、有底状にすると好適であり、この際、白金触媒層を黒化させた白金で形成するとより好適である。
【0007】
さらに、上述した各構成の水素ガスセンサを、サーモパイルの出力を増幅するアンプと同一の半導体チップ上に設けると好適である。
【0008】
白金触媒層を黒化させた白金で形成した構成においては、水素ガスセンサを周囲温度検出用の赤外線センサと同一の半導体チップ上や同一のケース内に設けると好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る水素ガスセンサによれば、次のような各効果を奏する。第1に、サーモパイルの熱容量が小さくなり、熱電変換の反応が敏感となる。第2に、白金触媒層を黒化させた白金で形成しているので、触媒としての表面積が増え、熱電変換の反応がより敏感になって、希薄な水素ガスの検出が容易となる。第3に、キャビティをシリコン基板表面側から形成した場合は、メンブレンを薄くできるので、高速応答、高感度が可能となり小型化も可能となる。また、キャビティを有底状に形成した場合は、半導体チップ裏面への制約がないため、ダイボンド(チップ接着)はふつうの半導体チップと同じ扱いが可能となる。第4に、水素ガスセンサを、サーモパイルの出力を増幅するアンプと同一の半導体チップ上に設けた場合は、外的要因によるノイズの影響を最小限に抑えることができるので、誤作動が減るほか、微少出力の検出が可能になり、低濃度ガスであっても高速応答検知が可能となる。第5に、水素ガスセンサを、周囲温度検出用の赤外線センサと同一の半導体チップ上に設けた場合は、周囲温度が水素ガスセンサの出力に与える影響を補正することができる。第6に、水素ガスセンサを、周囲温度検出用の赤外線センサと同一ケース内に配置した場合にも、周囲温度が水素ガスセンサの出力に与える影響を補正することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施形態を図1〜図4に基づいて説明する。ここにおいて、図1は水素ガスセンサの基本構造を概略的に示す断面図、図2は熱電対の配置状態を示す平面図、図3は水素ガスセンサとアンプを同一ベース上に設けた実施形態を示す概略的な平面図、図4は水素ガスセンサと周囲温度検出用赤外線センサを同一ベース上に設けた実施形態を示す概略的な断面図である。
【0011】
図1及び図2に示すように、水素ガスセンサ1のシリコン基板2には、表面に、例えば、シリコン窒化膜をCVD法により形成してなるメンブレン3を設け、このメンブレン3に対応して、メンブレン3に設けたエッチング孔(図示せず)からエッチング加工してなる有底状のキャビティ4を設けている。メンブレン3の上には、異種の導電材料からなる熱電対5を複数個直列に接続した構造のサーモパイル6を設けている。
【0012】
サーモパイル6の温接点部7は、シリコン基板2の中心部近傍に配置し、サーモパイル6の冷接点部8は、シリコン基板2の周辺部に配置する。すなわち、前記温接点部7はキャビティ4及びメンブレン3の上方に対応位置し、前記冷接点部8はキャビティ4及びメンブレン3の外側に対応位置している。サーモパイル6は、例えば、SOG(Spin On Glass)などの平坦化絶縁膜9で覆われ、この平坦化絶縁膜9の上には、サーモパイル6の温接点部7には対応するが、冷接点部8には対応しないようにして、白金を黒化し、真空蒸着してなる白金触媒層10を、下層膜11を介して設けている。そして、この白金触媒層10となる白金黒はメッキにより形成することも可能である。
【0013】
また、図1に示すように、メンブレン3上にパターニングされたポリシリコン膜12を形成し、このポリシリコン膜12を、例えば、BPSG(Boron-doped Phospho-Silicate Glass)膜などの絶縁膜13で被覆し、絶縁膜13の表面は平坦化される。そして、平坦化された絶縁膜13上にアルミニウム膜14を形成し、このアルミニウム膜14と前記ポリシリコン膜12とを接合して複数の熱電対5の直列接続によるサーモパイル6を構成する。さらに、アルミニウム膜14は上述の平坦化絶縁膜9により被覆される。上述ではアルミニウム膜とポリシリコン膜とを接合してサーモパイルを形成したが、これに限らず、n型ポリシリコンとp型ポリシリコンとの接合によりサーモパイルを形成することもできる。
【0014】
図2に示すように、冷接点部8は、ヒートシンクの作用をするシリコン基板2上に配置されており、白金触媒層10に覆われていないので、白金触媒層10が水素ガスに接触しても温度は変化しにくいが、温接点部7は、シリコン基板2から浮いたキャビティ4及びメンブレン3上に形成されているので、熱容量が小さく、白金触媒層10に覆われているので、白金触媒層10が水素ガスに接触すると、敏感に温度が上昇する。
【0015】
白金触媒層10が水素ガスに接触すると、熱電対5の温接点部7の温度が上昇し、冷接点部8との間に温度差を生じることによって、各熱電対5に熱起電力が生じる。これら熱電対5の熱起電力が足し合わされ、サーモパイル引き出し電極15から出力を取り出すことができる。そして、この出力を検出することで、水素ガスの発生を検知することができる。
【0016】
図3は本発明の別の実施形態を示すもので、上述した水素ガスセンサ1とアンプ22を同一のベース21上に配置し、このアンプ22の入力端に、水素ガスセンサのサーモパイル引き出し電極15を接続したものである。この構成によると、サーモパイル引き出し電極15からの出力をアンプ22で増幅して取り出すことができるので、水素ガスが低濃度で、サーモパイル5の出力が微少の場合でも、高速応答検知が可能となる。また、同一のベース21上に水素ガスセンサ1とアンプ22を設けたので、外的要因によるノイズの影響を抑えることができ、ノイズによる誤動作も減少する。なお、前記水素ガスセンサ1と前記アンプ22を同一の半導体チップ上に設けると、外的要因によるノイズの影響の抑制効果、及びノイズによる誤動作の減少効果を、さらに向上させることができる。
【0017】
図4は本発明のさらに別の実施形態を示すもので、上述した水素ガスセンサ1と周囲温度検出用の金黒膜赤外線センサ32を同一のベース31上に配置し、同一のケース34内に設けたものである。前記金黒膜赤外線センサ32の構成は、触媒層が黒化した金を真空蒸着してなる金触媒層33である点を除き、水素ガスセンサ1と同一構成であるので、その詳細な説明は省略する。
【0018】
ケース34には、水素ガスを導入するための通気口35を設ける一方、その内部には、白金触媒層10及び金触媒層33に赤外線などが直接照射しないように、遮光板36を設け、この遮光板36にも通気口37を設けている。なお、図4中、38はモールド部材、39,40はそれぞれ各センサ1,32の出力端子である。
【0019】
水素ガスセンサ1は、白金触媒層10が周囲温度による赤外線に対しても敏感になり、水素ガスセンサ1の出力が、赤外線の影響を受けて、水素ガスの検出出力分のみによるものではなくなるが、本実施形態においては、周囲温度を金黒膜赤外線センサ32で検出することにより、水素ガスセンサ1の赤外線による検出出力分をキャンセルして、水素ガスセンサ1の出力を補正し、赤外線による影響を排除することができる。
【0020】
また、この水素ガスセンサ1と金黒膜赤外線センサ32とは、小型化という点では、同一シリコン基板2上に設けるのがより好ましいが、上述のように、これら二つのセンサ1,32を別々の半導体チップに形成し、それらを同一ベース31上で同一ケース34内に配置しても所定の効果を得ることができる。
【0021】
また、周囲温度検出用のセンサは、ケース自体の温度変化を精度良く検出することが目的であるため、金黒膜を用いた金黒膜赤外線センサに限らず他の赤外線センサを用いることもできる。すなわち、本発明の水素ガスセンサは黒化した白金触媒層を用いているため、水素ガスだけでなく熱の変化(例えば、ケース自体の温度変化)へも敏感に反応するので、その熱による出力変化を補正することが周囲温度検出用センサを設ける目的であり、それが達成できるセンサであればよい。そして、周囲温度検出用センサとして、本願発明の水素ガスセンサと同じ構成のものを用いることも可能であるが、その場合、周囲温度検出用センサの方には水素が侵入しないように密封するなどケースの構造等を変更すればよい。
【0022】
なお、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、例えば、キャビティ4は、シリコン基板2の裏面からエッチングなどで設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る水素ガスセンサの基本構造を概略的に示す断面図。
【図2】同じく熱電対の配置状態を示す平面図。
【図3】水素ガスセンサとアンプを同一ベース上に設けた実施形態を示す概略的な平面図。
【図4】水素ガスセンサと周囲温度検出用赤外線センサを同一ベース上に設けた実施形態を示す概略的な断面図。
【符号の説明】
【0024】
1 水素ガスセンサ
2 シリコン基板
3 メンブレン
4 キャビティ
5 熱電対
6 サーモパイル
7 温接点部
8 冷接点部
9 平坦化絶縁層
10 白金触媒層
11 下層膜
12 ポリシリコン膜
13 絶縁膜
14 アルミニウム膜
15 サーモパイル引き出し電極
21,31 ベース
22 アンプ
34 ケース
35,37 通気口
36 遮光板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板表面のメンブレンに対応して前記シリコン基板にキャビティを形成し、前記メンブレン上にはサーモパイルを設け、前記サーモパイルは、その温接点部を前記キャビティの上方に対応位置するよう配置するとともに、その冷接点部を前記キャビティの外側に対応位置するよう配置し、前記温接点部を覆うように黒化させた白金による触媒層を形成した水素ガスセンサ。
【請求項2】
黒化させた白金触媒層は蒸着により形成したことを特徴とする請求項1記載の水素ガスセンサ。
【請求項3】
キャビティはシリコン基板表面側から形成され、有底状であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水素ガスセンサ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の水素ガスセンサをサーモパイルの出力を増幅するアンプと同一の半導体チップ上に設けたことを特徴とする水素ガスセンサ。
【請求項5】
請求項1記載の水素ガスセンサを周囲温度検出用の赤外線センサと同一の半導体チップ上に設けたことを特徴とする水素ガスセンサ。
【請求項6】
請求項1記載の水素ガスセンサを周囲温度検出用の赤外線センサと同一のケース内に設けたことを特徴とする水素ガスセンサ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−42097(P2009−42097A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−207871(P2007−207871)
【出願日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(390009667)セイコーNPC株式会社 (161)
【Fターム(参考)】