説明

水素ガス回収システムおよび水素ガスの分離回収方法

【課題】多結晶シリコン製造装置の反応排ガスの分離を行うために使用する補給水素の量を極力低減すること。
【解決手段】塩化水素吸収装置(30)でクロロシラン類及び塩化水素が除去された反応排ガスは吸着装置(50)に導入され、精製された水素の回収が行なわれる(S105)。吸着装置(50)には活性炭が充填されており、水素主体のガスが該活性炭充填層を通過する間に、ガス中に含まれる未分離のクロロシラン類、塩化水素、および窒素、一酸化炭素、メタン、モノシランが活性炭に吸着されてガス中から除去され、精製された水素が得られる。窒素、一酸化炭素、メタン、モノシランは吸着状態が圧縮気体であるが、塩化水素およびクロロシラン類は吸着状態が液体であり脱着時には気化熱を与える必要がある。この特性を利用して、脱着ガスの経路を分離するだけで、塩化水素およびクロロシラン類とその他の不純物成分の分離を可能としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水素ガス回収システムおよび水素ガスの分離回収方法に関し、より詳細には、トリクロロシランを原料とする多結晶シリコン製造装置の反応排ガスから水素を分離して回収し、これを循環使用する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
トリクロロシラン(HSiCl)を原料とする多結晶シリコンの製造工程では、主として下式で表される反応が進行し、式1により多結晶シリコンが生成する。
【0003】
HSiCl + H → Si + 3HCl ・・・(式1)
HSiCl + HCl → SiCl + H ・・・(式2)
現在、多結晶シリコン製造工程の省電力化を目的として、多結晶シリコンの析出速度を高めるため、原料であるトリクロロシランの高濃度化と反応圧力の高圧化が進められている。そのため、上記2つの反応式のうちの式2で表される反応が、式1の反応に優先して進む傾向が強くなり、その結果、当該反応により副生するテトラクロロシラン(SiCl)と水素(H)の量は従来のものに比較して増加する傾向にある。
【0004】
一方、式2に従い副生するテトラクロロシランと水素は、式2とは逆の反応によりトリクロロシランへと転換させることが可能であるから、これら副生物を再び多結晶シリコン製造用の原料ガスとして再利用することが行われている。多結晶シリコンの製造コスト削減のためには、上述の副生物のロスを低減してトリクロロシランへと高い効率で転換させること、つまり、多結晶シリコン製造システムからの排ガスを高効率で回収・循環・再利用する技術が求められることとなる。
【0005】
多結晶シリコン製造システム(装置)からの反応排ガスには、上記式1及び式2に示されているテトラクロロシラン、水素、微量の塩化水素(HCl)、及び未反応のトリクロロシラン以外にも、その他の副生ガスとして、微量のモノクロロシラン(SiHCl)、ジクロロシラン(SiHCl)が含まれている。また、極微量不純物として、一酸化炭素(CO)、メタン(CH)、モノシラン(SiH)、窒素(N)が含まれている。なお、以下では、テトラクロロシラン、トリクロロシラン、ジクロロシラン、モノクロロシランを総称してクロロシラン類と称し、その液体をクロロシラン液と称することとする。
【0006】
多結晶シリコン製造装置からの反応排ガスは、先ず、多結晶シリコン製造装置に直結する水素回収循環装置により水素とそれ以外の成分に分離され、分離された水素は循環されて再び多結晶シリコン製造装置へと導入される。このような、水素分離回収方法は、「昭和55〜62年度新エネルギー総合開発機構委託業務成果報告書 太陽光発電システム実用化技術開発 低コストシリコン実験精製検証(クロルシランの水素還元工程の技術開発) 総括版」(非特許文献1)や特開2008−143775号公報(特許文献1)などにより公知となっている。
【0007】
これらの文献に開示されている技術においては、クロロシラン類を分離する方法として、沸点の大きく異なる成分を分離する場合に広く採用される凝縮を採用している。
【0008】
また、塩化水素の分離方法としては、クロロシラン液によるガス吸収方法が採用されている。クロロシラン液に対する塩化水素の溶解度は大きくないため、ガス吸収方法による塩化水素の分離は低温(−20℃以下)で行う必要があるが、熱回収などを充分行えば効率良く分離できる。
【0009】
最後に、微量に残ったクロロシラン類、塩化水素、その他の不純物を、活性炭により吸着分離する。吸着による分離方法は、活性炭のような吸着材表面への不純物の吸着量が、高圧・低温下では増加する一方、低圧・高温下では減少することを利用しており、高圧・低温下での吸着操作と低圧・高温下での再生操作を交互に行うバッチ運転方式である。
【0010】
一般的な活性炭吸着塔は、選択的に切り替え使用される複数の活性炭充填塔から構成されている。活性炭は一定時間使用すると吸着能力がなくなる。これを破過というが、破過が生じる前に再生済みの活性炭充填塔に切り替えられる。使用後の活性炭は、低圧・高温下でのキャリアガスによるパージにより、吸着した成分を放出させて再生される。これを吸着成分の脱着という。このような、活性炭再生のためのキャリアガスには、回収水素と同程度の純度が要求される。一般的には、活性炭吸着塔により精製された回収水素が使用されるか、外部から高純度水素が補給される。そして、活性炭吸着塔から、脱着成分と混合した状態で、脱着ガスとして排出される。
【0011】
排ガス回収工程において消費される水素は、このキャリアガスとして使用される水素が大部分である。従って、テトラクロロシランのトロクロロシランへの転換工程を備えた多結晶シリコン製造システムにおいては、キャリアガスとしての水素の補給を削減し、且つ脱着ガスの回収・再利用を効率よく行うことが、コスト低減のための重要な要素となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−143775号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】「昭和55〜62年度新エネルギー総合開発機構委託業務成果報告書 太陽光発電システム実用化技術開発 低コストシリコン実験精製検証(クロルシランの水素還元工程の技術開発) 総括版」((独)新エネルギー・産業技術総合開発機構 昭和63年11月)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
非特許文献1に記載の手法では、キャリアガスとしての水素を外部より新たに補給し、脱着ガスはテトラクロロシランのトリクロロシランへの転換工程に送られて再使用されている。しかし、水素のロスが発生することが避けられない問題として認識されてはいるものの、これに対する効果的な対策を見出すまでには至っていない。
【0015】
また、特許文献1に記載の手法では、脱着ガスに含まれるクロロシラン類の再利用にとどまり、水素や塩化水素の再利用については全く考慮されていない。
【0016】
より安価な多結晶シリコンを得るためには、原料ガスの使用量を極力低減することが重要になるが、そのためには、クロロシラン類、塩化水素、水素ガスの回収率を低下させることなく、且つ、テトラクロロシランのトリクロロシランへの転換工程まで考慮して、水素ガスの外部からの補給を極力抑制することのできる、合理的なシステムを提供することが求められる。
【0017】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、脱着ガスを効果的に分離・再利用し、多結晶シリコン製造装置の反応排ガスからのクロロシラン類、塩化水素、窒素、一酸化炭素、メタン、モノシランの分離を行うために使用される水素ガスの補給量を極力低減し、安価且つ高純度な多結晶シリコンを製造するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために、本発明の水素ガス回収システムは、トリクロロシランを原料として多結晶シリコンを製造する装置からの反応排ガスから水素ガスを分離回収するために用いる水素ガス回収システムであって、多結晶シリコン製造工程からの、水素を含む反応排ガスからクロロシラン類を凝縮分離する凝縮分離装置と、前記凝縮分離装置を経た、水素を含む反応排ガスを圧縮する圧縮装置と、前記圧縮装置を経た、水素を含む反応排ガスを吸収液と接触させて塩化水素を吸収分離する吸収装置と、前記吸収装置を経た、水素を含む反応排ガスに含まれる、メタン、塩化水素、およびクロロシラン類を吸着除去するための複数の活性炭充填塔からなる吸着装置を備え、前記活性炭充填塔のそれぞれは、該活性炭充填塔内での活性炭再生時に用いるキャリアとしての水素ガスの排出ラインとして、系外に排出するための第1のラインと、前記吸着装置外に一旦排出した後に該吸着装置へと循環させる第2のラインとを有し、且つ、前記水素ガスを前記第1および第2のラインの何れに送るかを選択可能に構成されており、前記第2のラインには、クロロシラン類の凝縮分離部とガス圧縮部と塩化水素の吸収分離部がこの順で設けられていることを特徴とする。
【0019】
本発明の水素ガス回収システムは、前記塩化水素の吸収分離部は前記吸収装置である態様とすることができる。また、前記ガス圧縮部は前記圧縮装置であり、前記吸収分離部は前記吸収装置である態様とすることもできる。さらに、前記クロロシラン類の凝縮分離部は前記凝縮分離装置であり、前記ガス圧縮部は前記圧縮装置であり、前記吸収分離部は前記吸収装置である態様とすることもできる。
【0020】
また、本発明の水素ガスの分離回収方法は、トリクロロシランを原料として多結晶シリコンを製造する装置からの反応排ガスから水素ガスを分離回収する方法であって、本発明の水素ガス回収システムを用い、前記複数の活性炭充填塔の少なくとも1つに前記メタン、塩化水素、およびクロロシラン類の吸着除去を実行させると同時に、他の活性炭充填塔内の活性炭再生を実行し、該活性炭再生は、下記の操作(1)および(2)を含むことを特徴とする。
【0021】
ここで、操作(1)は、前記活性炭充填塔内の圧力を下げ、水素キャリアガスにより、活性炭吸着物を前記第1のラインより系外排気する操作であり、操作(2)は、操作(1)の後、前記排出ラインを前記第2のラインに切替え、前記吸着装置を加熱して活性炭温度を上昇させ、塩化水素およびクロロシラン類を脱着すると共に水素キャリアガスにより前記吸着装置外へと排出し、該排出ガスから塩化水素およびクロロシラン類の回収を行い、水素ガスは前記吸着装置へ循環させる操作である。
【0022】
前記吸収液としては、液状のクロロシラン類を用いることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、活性炭充填塔内の、反応排ガスを接触させ、水素以外の成分を吸着した活性炭より吸着成分を脱着再生する際、キャリアガスとして水素を用いると共に、脱着を2つの段階で行う。即ち活性炭充填塔内の水素ガスを抜くことにより塔内圧を降圧することで脱着する成分を該水素およびそれに続き塔内に送入されるキャリアガスと共に系外に排出し、次にキャリアガスを送るラインを切り替え、活性炭充填塔の加熱を行って塩化水素およびクロロシラン類を脱着させると共に、塩化水素およびクロロシラン類の回収およびキャリアガスとしての水素を精製回収するものである。
【0024】
そして、上述のように、再生時に水素を用い、かつ、2段階の再生により一部水素のみを系外に排出する方法を採るため、不活性ガスで再生を行った場合に必要な不活性ガスと水素の置換工程や、キャリアガスに水素を用いた1段階の再生を行った場合に必要な多量の水素の消費量を大幅に削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の排ガス分離回収方法の各工程を説明するためのフローチャートである。
【図2】本発明の排ガス分離回収システムの構成の一例を示す概略図である。
【図3】本発明の排ガス分離回収システムの構成の他の例を示す概略図である。
【図4】本発明の排ガス分離回収システムの構成の他の例を示す概略図である。
【図5】本発明の排ガス分離回収システムの構成の他の例を示す概略図である。
【図6】本発明の排ガス分離回収システムの構成の他の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0027】
図1は本発明の排ガス分離回収方法の各工程を説明するためのフローチャートであり、図2は本発明の排ガス分離回収システムの構成の一例を示す概略図である。
【0028】
図1及び図2を参照すると、先ず、多結晶シリコン製造装置(100)からの反応排ガスが第1凝縮装置(10)に供給され、クロロシランの凝縮分離が行なわれる(S101)。
【0029】
この凝縮分離工程は、圧縮工程(S102)で用いる第1加圧器(20)内でクロロシラン類が液化して当該加圧器(20)を損傷することのないように、また、後述の塩化水素吸収工程(S103)での熱負荷を低減するために設けられており、反応排ガスの圧縮に先立って予めクロロシラン類(の一部)を除去するためのものである。
【0030】
具体的には、多結晶シリコン製造装置からの反応排ガスを冷却してクロロシラン類の一部を反応排ガスから除去する。冷却温度は、圧縮工程(S102)における圧縮後圧力下でクロロシラン類が凝縮しない温度以下であれば良い。従って、冷却温度は−10℃以下であればよく、好ましくは−20℃以下である。
【0031】
凝縮分離工程(S101)を経た後の反応排ガスは圧縮工程(S102)へと送られる。圧縮工程(S102)では、反応排ガスを分離・精製・循環再利用するための加圧器(20)が用いられるが、この加圧器(20)は、反応排ガスに対する機械的・化学的な耐久性を有し、安全に運転でき、且つ、反応排ガスの組成を変化させないものであればよい。
【0032】
圧縮工程(S102)により圧縮加圧された反応排ガス中には、未分離のクロロシラン類、塩化水素、水素、窒素、一酸化炭素、メタン、モノシランが含まれている。そこで、この反応排ガス中に含まれているクロロシラン類及び塩化水素を、塩化水素吸収工程(S103)で吸収液に吸収させる。塩化水素吸収装置(30)には、塩化水素蒸留装置(40)から、液状のクロロシラン類を主体とする吸収液が供給され、反応排ガスがこの吸収液と気液接触することにより、反応排ガス中のクロロシラン類及び塩化水素が吸収液に吸収される。
【0033】
塩化水素吸収装置(30)には、充填塔や棚段塔、スプレイ塔、濡れ壁塔などを用いることができるが、塩化水素のクロロシラン類に対する溶解度は大きくないため、連続的に効率良く気液接触できる装置であることが必要である。また、塩化水素吸収工程(S103)は、低温、高圧力下で行なうことが好ましい。具体的には、温度範囲として−30℃〜−60℃、圧力範囲として0.4MPaG〜1.0MPaGが選定される。
【0034】
塩化水素を溶解した吸収液は、塩化水素吸収装置(30)から塩化水素蒸留装置(40)へと導かれ、50℃〜140℃の温度での塩化水素ガスの分離が行なわれる(S104)。ここで分離された塩化水素ガスは塔頂成分として回収され、トリクロロシランの合成工程や、テトラクロロシランのトリクロロシランへの転換工程などで再利用することができる。また、塩化水素ガス分離後の吸収液は、−30℃〜−60℃に冷却した後に塩化水素吸収装置(30)へと送られて、塩化水素吸収工程(S103)の吸収液として再び使用される。
【0035】
塩化水素吸収装置(30)でクロロシラン類及び塩化水素が除去された反応排ガスは吸着装置(50)に導入され、精製された水素の回収が行なわれる(S105)。この工程で用いられる吸着装置(50)には活性炭が充填されており、水素主体のガスが該活性炭充填層を通過する間に、ガス中に含まれる未分離のクロロシラン類、塩化水素、および窒素、一酸化炭素、メタン、モノシランが活性炭に吸着されてガス中から除去され、精製された水素が得られる。
【0036】
図2で示した吸着装置(50)は、常に1つ以上の塔が吸着工程(S105)を実行可能となるように、複数(3つ)の活性炭充填塔(50a〜c)を備えている。これらの活性炭充填塔はそれぞれが吸着塔として機能するが、活性炭充填塔を複数設けたことにより、ある活性炭充填塔が加熱脱着再生を行なっている間、その他の活性炭充填塔が吸着工程(S105)を実行することが可能である。
【0037】
なお、活性炭充填塔の加熱脱着再生の手順は、以下のとおり2段階で行われる。先ず、加熱脱着再生する活性炭充填塔の降圧を行う。これは、脱着は低圧条件下の方が有利に進行するためであり、圧力0.03MPa以下に降圧される。この降圧に続き、吸着装置(50)により回収された水素の一部を再生用キャリアガスとして利用して対象となる活性炭充填塔に通過させると、窒素、一酸化炭素、メタン、モノシランといった不純物が排出される。これらの不純物を含む水素は系外に排出されるが、もちろん、この水素は後述のものとは別系統の水素精製回収ラインにより再生を行っても良い。
【0038】
つぎに、該活性炭充填塔を140℃から170℃まで加熱させる。これにより、活性炭表面から塩化水素およびクロロシラン類等が脱着し、キャリアガスである水素によって活性炭充填塔から追い出されて活性炭の再生が完結する。また、塩化水素等を含む水素は後述のように回収精製される。なお、活性炭再生の終了後は、再び、吸着時の温度および圧力まで、冷却および加圧しておくだけで、再度活性な吸着塔として使用が可能である。
【0039】
活性炭充填塔(50a〜c)は、それぞれ、上述した活性炭再生工程の降圧時に発生する脱着ガス(窒素、一酸化炭素、メタン、モノシランといった不純物)を系外に排出するための放出ライン(第1のライン)、および、上記降圧に続いて実行される活性炭再生時に発生する脱着ガス(塩化水素およびクロロシラン類)を一旦吸着装置(50)外へと排出した後に再度吸着装置(50)へと循環させる第2のラインとを有しており、図2では、第2のラインの経路内に、クロロシラン類の凝縮分離部である第2凝縮装置(60)とガス圧縮部である第2加圧器(70)と塩化水素の吸収分離部である第2塩化水素吸収装置(90)がこの順で設けられている。
【0040】
なお、活性炭充填塔のそれぞれは、水素ガス(を含有する排出ガス)を第1のラインと第2のラインとの何れに送るかを選択する機能を有する。
【0041】
上記説明では、加熱の有無により2段階を設定した場合について説明したが、実際の装置においては活性炭充填塔の昇温に時間がかかるため、加熱の有無による段階の設定は実用的でない場合がある。そこで、別法として、第1段階を活性炭充填塔の降圧開始と共にメタン等の脱着をしてキャリアガスと共に系外への排出を行うものとし、同時に加熱を開始する。次に、充填塔の温度が一定温度、例えば100℃を超えたところで、第2段階としてキャリアガスの排出ラインを切り替え、塩化水素の回収に送るという方法を用いても良い。
【0042】
もちろん上記切り替えは、温度ではなく、再生開始からの時間で管理することもありうる。従って、上述した活性炭充填塔の加熱脱着再生における2段階とは、活性炭の状態に従って充填塔より排出されるガスの送ガス方向を、系外に排出するための排出ラインを選ぶ段階と、塩化水素およびクロロシランを回収する処理の後、再び吸着装置に戻すラインを選ぶ段階からなる。
【0043】
なお、本発明の水素ガス回収システムは、図2に例示した態様のほか、例えば、図3乃至6に図示した態様のものとしてもよい。
【0044】
図3に示した態様では、クロロシラン類の凝縮分離部として第1凝縮装置(10)を、ガス圧縮部として第1加圧器(20)を、吸収分離部として塩化水素吸収装置(30)を用いている。従って、吸着装置(50)外へと排出された活性炭再生時に発生する脱着ガス(塩化水素およびクロロシラン類)は、第2のライン内に設けられている第1凝縮装置(10)、第1加圧器(20)、塩化水素吸収装置(30)を順次経由して、再度、吸着装置(50)へと循環することとなる。
【0045】
図4に示した態様では、クロロシラン類の凝縮分離部として第2凝縮装置(60)を、ガス圧縮部として第1加圧器(20)を、吸収分離部として塩化水素吸収装置(30)を用いている。従って、吸着装置(50)外へと排出された活性炭再生時に発生する脱着ガス(塩化水素およびクロロシラン類)は、第2のライン内に設けられている第2凝縮装置(60)、第1加圧器(20)、塩化水素吸収装置(30)を順次経由して、再度、吸着装置(50)へと循環することとなる。
【0046】
図5に示した態様では、クロロシラン類の凝縮分離部として第2凝縮装置(60)を、ガス圧縮部として第2加圧器(70)を、吸収分離部として塩化水素吸収装置(30)を用いている。従って、吸着装置(50)外へと排出された活性炭再生時に発生する脱着ガス(塩化水素およびクロロシラン類)は、第2のライン内に設けられている第2凝縮装置(60)、第2加圧器(70)、塩化水素吸収装置(30)を順次経由して、再度、吸着装置(50)へと循環することとなる。
【0047】
図6に示した態様では、図5に示した態様において、第2加圧器(70)と塩化水素吸収装置(30)との間に、第3凝縮装置(80)を設けている。
【0048】
従来の活性炭充填塔の再生では、キャリアガスとして、窒素等の不活性ガスまたは水素をキャリアガスとして、1段階で再生する方法が用いられてきた。しかし、安価な窒素ガスを用いた場合には脱着時の窒素ガスのコストは低いものの、再使用をする際の塔内ガスを窒素から水素に切り替える際に多量の水素を用いることになる。
【0049】
一方、水素をキャリアガスとして用いると、メタンと塩化水素を含有する水素が生成することになるが、このような水素を多結晶シリコン製造用に再生しようとした場合、メタンと塩化水素の両方を水素から除去するためには単純な操作で達成することが難しく、本発明のように多くの付加装置を用いずに水素ガスの回収精製系に戻してやることができない。
【0050】
本発明では、活性炭再生工程の降圧時に発生する脱着ガスと活性炭加熱時に発生する脱着ガスの経路を分離するという単純な構成を採用するだけで、塩化水素およびクロロシラン類とその他の不純物成分の分離を可能としているが、その理由は下記のとおりである。
【0051】
活性炭表面への各成分の吸着状態は、吸着温度(Tadと記す)と各成分の臨界温度(T)との関係から推定可能であり、以下の通りである。
【0052】
液体: Tad<<T
液体+圧縮気体: Tad≒T
圧縮気体: Tad>T
吸着温度(Tad)として常温(30℃)を選定した場合、吸着塔の入口ガス成分の活性炭表面への吸着状態は、下記の通りとなる。
【0053】
【表1】

【0054】
活性炭の再生にあたっては、窒素、一酸化炭素、メタン、モノシランは吸着状態が圧縮気体であるため、気化熱を要せず吸着時の圧力よりも圧力を下げただけで容易に脱着する成分である。これに対して、塩化水素およびクロロシラン類は吸着状態が液体であり、脱着時には気化熱を与える必要がある。
【0055】
活性炭充填塔は、高圧・低温の吸着工程と、低圧・高温の再生工程を繰り返すが、吸着工程から再生工程へ移行する際、降圧と加熱を同時に開始しても、通常は、降圧が短時間で終了するのに対して、加熱による昇温には長い時間がかかる。これは、活性炭の充填層は熱伝導率が小さく且つ熱容量も大きいためである。
【0056】
本発明ではこの特性を利用して、活性炭充填塔の再生工程初期の降圧段階における脱着ガスとその後の加熱再生段階における脱着ガスの経路を分離するだけで、塩化水素およびクロロシラン類とその他の不純物成分の分離を可能としている。
【0057】
つまり、本発明では、窒素、一酸化炭素、メタン、モノシランといった不純物を含む再生工程初期の降圧段階での脱着ガスを系外に放出する一方、塩化水素およびクロロシラン類を含む加熱再生段階の脱着ガスを、クロロシランの凝縮を−30〜−60℃の温度範囲で行うための第1凝縮装置(10)や第2凝縮装置(60)を用いた第2凝縮工程(S106)および第1加圧器(20)や第2加圧器(70)を用いた第2圧縮工程(S107)を経て、上述した塩化水素吸収工程(S103)へと循環させる。なお、必要に応じて、図6に示したように、第3凝縮装置(80)を設けて凝縮の程度を高めておくようにしても良い。
【0058】
このような反応排ガスの循環系では、系外へと排出される水素ガスは、活性炭再生工程の降圧時に発生する脱着ガス(窒素、一酸化炭素、メタン、モノシランといった不純物)と一緒に排出される分のみとなるから、系外からの水素ガス補給量を大幅に削減することができる。
【0059】
吸着工程(S105)において精製された回収水素は循環管路を通じて多結晶シリコン製造装置(100)へと送られて再使用される。なお、この精製水素は、塩化水素は勿論、シリコン結晶中に取り込まれると有害な不純物元素であるボロン、リン、ヒ素、炭素化合物等を含まず、高純度多結晶シリコン製造用として十分な純度を有している。
【0060】
上述したように、本発明では、クロロシラン類を分離するための凝縮分離工程(S101)の後に、圧縮工程(S102)および塩化水素吸収工程(S103)を設けている。これは、塩化水素は温度が低いほどまた圧力が高いほど吸収され易いためであるが、このような低温・高圧条件は、クロロシラン類の凝縮にも好適であるため、反応排ガスが塩化水素吸収装置(30)内を通過する際にクロロシラン類も同時に分離除去される。
【0061】
このため、吸着工程(S105)で反応排ガス中に含まれている未分離のクロロシラン類を除去する際の負荷が低減され、活性炭塔の再生回数を減らすことが可能となるから、再生用キャリアガスの使用量低減にも有利である。
【0062】
なお、多結晶シリコン製造装置も含めた反応排ガス回収系の圧力を一定に保つために補給水素と余剰水素の管路を設けるが、反応排ガス回収系の圧力は、圧力上昇要因である多結晶シリコン製造装置内での副生水素量と、圧力下降要因である反応排ガス回収系外への排出ガス量、多結晶シリコン製造装置内での消費水素量、クロロシラン液に溶解して系外に出される水素量の収支により決まる。
【0063】
そして、上記圧力上昇要因と圧力下降要因の収支がプラスの場合は、水素ガスを余剰水素として系外に取り出すことが可能となり、テトラクロロシランのトリクロロシランへの転換装置(200)での有効利用も可能となる。一方、収支がマイナスとなる場合は、高純度水素ガスを補給水素として系外から補給する必要が生じる。
【実施例】
【0064】
上述した本発明の排ガス分離回収システムにより、多結晶シリコン製造装置からの反応排ガスから水素を分離回収した実施例を以下に示す。
【0065】
多結晶シリコン製造装置内の反応温度は1060℃であり、供給原料ガスは水素520Nm/hr、トリクロロシラン1,150kg/hrである。また、反応排ガスの成分毎の排出量は表2に示したとおりである。
【0066】
【表2】

【0067】
凝縮分離工程(S101)の温度は−20℃である。また、塩化水素吸収工程(S103)の温度は−40℃、圧力は0.8MPaである。さらに、吸着工程(S105)の温度は30℃、圧力は0.8MPaであり、再生に使用するキャリアガスとしての水素量は時間平均流量で62Nm/hrであった。なお、第2凝縮工程(S106)の温度は−40℃で、再生時初期2時間のみ脱着ガの系外排出を行った。
【0068】
上記条件にて、本発明の排ガス分離回収システムを稼動させた結果、水素ガスの補給は不要(補給水素ガス量0Nm/hr)であった。また、系外排出ガスは時間平均流量で4Nm/hr、余剰水素としてテトラクロロシランのトリクロロシランへの転換工程に送った時間平均流量は21Nm/hr、テトラクロロシランのトリクロロシランへの転換装置(200)にて原料として供給した水素量は23Nm/hrであり、転換装置(200)にて消費される約50%の水素を回収水素により賄うことができた。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上説明したように、本発明によれば、トリクロロシランを原料とする多結晶シリコンの製造工程から発生する反応排ガス中に含まれる塩化水素、クロロシラン類、その他微量不純物を分離して精製された水素を循環再利用する際に、循環系に補給する水素及び系外への放出水素を最小限に抑えることが可能となる。
【符号の説明】
【0070】
10 第1凝縮装置
20 第1加圧器
30 塩化水素吸収装置
40 塩化水素蒸留装置
50 吸着装置
60 第2凝縮装置
70 第2加圧器
80 第3凝縮装置
90 第2塩化水素吸収装置
100 多結晶シリコン製造装置
200 テトラクロロシランのトリクロロシランへの転換装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリクロロシランを原料として多結晶シリコンを製造する装置からの反応排ガスから水素ガスを分離回収するために用いる水素ガス回収システムであって、
多結晶シリコン製造工程からの、水素を含む反応排ガスからクロロシラン類を凝縮分離する凝縮分離装置と、
前記凝縮分離装置を経た、水素を含む反応排ガスを圧縮する圧縮装置と、
前記圧縮装置を経た、水素を含む反応排ガスを吸収液と接触させて塩化水素を吸収分離する吸収装置と、
前記吸収装置を経た、水素を含む反応排ガスに含まれる、メタン、塩化水素、およびクロロシラン類を吸着除去するための複数の活性炭充填塔からなる吸着装置を備え、
前記活性炭充填塔のそれぞれは、該活性炭充填塔内での活性炭再生時に用いるキャリアとしての水素ガスの排出ラインとして、系外に排出するための第1のラインと、前記吸着装置外に一旦排出した後に該吸着装置へと循環させる第2のラインとを有し、且つ、前記水素ガスを前記第1および第2のラインの何れに送るかを選択可能に構成されており、
前記第2のラインには、クロロシラン類の凝縮分離部とガス圧縮部と塩化水素の吸収分離部がこの順で設けられていることを特徴とする水素ガス回収システム。
【請求項2】
前記塩化水素の吸収分離部は前記吸収装置である、請求項1に記載の水素ガス回収システム。
【請求項3】
前記ガス圧縮部は前記圧縮装置であり、前記吸収分離部は前記吸収装置である、請求項1に記載の水素ガス回収システム。
【請求項4】
前記クロロシラン類の凝縮分離部は前記凝縮分離装置であり、前記ガス圧縮部は前記圧縮装置であり、前記吸収分離部は前記吸収装置である、請求項1に記載の水素ガス回収システム。
【請求項5】
トリクロロシランを原料として多結晶シリコンを製造する装置からの反応排ガスから水素ガスを分離回収する方法であって、
請求項1乃至4の何れか1項に記載の水素ガス回収システムを用い、前記複数の活性炭充填塔の少なくとも1つに前記メタン、塩化水素、およびクロロシラン類の吸着除去を実行させると同時に、他の活性炭充填塔内の活性炭再生を実行し、該活性炭再生は、下記の操作(1)および(2)を含むことを特徴とする水素ガスの分離回収方法。
操作(1):前記活性炭充填塔内の圧力を下げ、水素キャリアガスにより、活性炭吸着物を前記第1のラインより系外排気する操作、および
操作(2):操作(1)の後、前記排出ラインを前記第2のラインに切替え、前記吸着装置を加熱して活性炭温度を上昇させ、塩化水素およびクロロシラン類を脱着すると共に水素キャリアガスにより前記吸着装置外へと排出し、該排出ガスから塩化水素およびクロロシラン類の回収を行い、水素ガスは前記吸着装置へ循環させる操作。
【請求項6】
前記吸収液として液状のクロロシラン類を用いる、請求項5に記載の水素ガスの分離回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−84422(P2011−84422A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−237415(P2009−237415)
【出願日】平成21年10月14日(2009.10.14)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】