説明

水素ガス製造装置

【課題】エネルギー効率に優れ、水素ガスを効率よく製造することができ、小型化された水素ガス製造装置に適用することができる水素ガスの製造方法、および当該方法に用いられる装置。
【解決手段】メタノールから水素ガスを製造するための水素ガスの製造方法であり、メタノールおよび水を気化させることによって原料ガスを製造する原料ガス製造工程、原料ガスと酸素含有ガスとを反応させることによって反応ガスを製造する反応ガス製造工程、反応ガスから当該反応ガスに含まれている水素ガスを分離する水素ガス分離工程、および水素ガスから水素ガスが分離された残存ガスを燃焼する残存ガス燃焼工程を有し、残存ガス燃焼工程で残存ガスを燃焼する際に発生する熱により、原料ガス製造工程でメタノールおよび水を気化させるとともに、反応ガス製造工程で原料ガスと酸素含有ガスとを反応させることを特徴とする水素ガスの製造方法、および当該方法に用いられる装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガス製造装置に関する。さらに詳しくは、水素ガスを効率よく製造することができる水素ガス製造装置および水素ガスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池の燃料などに有用である水素ガスの製造装置について種々の研究がされている。
起動時間が短く、装置の構成および制御システムが簡素化された水素製造装置として、水蒸気を発生させるためのボイラー、改質反応器、シフト反応器および選択酸化反応器を備え、ボイラーおよび各反応器を加熱するために、それぞれバーナーが設けられた水素製造装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、この水素製造装置には、ボイラーおよび各反応器にそれぞれバーナーを設ける必要があるため、装置全体として小型化させることが困難であるとともに、各バーナーで燃焼させるための燃料がそれぞれ必要であるため、エネルギー効率に劣るという欠点がある。
【0003】
また、廃熱を熱源として用いる水素製造装置として、酸素含有炭化水素気化器、水蒸気発生器、酸素含有炭化水素・水蒸気混合器、混合ガス予熱器、改質反応器、外部熱源、熱媒循環ライン、循環ポンプまたは循環ブロワ、および熱媒ヒータを有する水素発生装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、この水素製造装置には、伝熱媒体を循環させるための熱媒循環ラインが必要であるとともに、熱源として混合ガス予熱器、外部熱源および熱媒ヒータを必要とするため、装置自体が大型化するとともに、外部熱源および熱媒ヒータを必要とするので、熱効率が低いという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−114042号公報
【特許文献2】特開2009−292661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、装置自体の小型化が容易であり、水素ガスを効率よく製造することができる水素ガス製造装置を提供することを課題とする。本発明は、また、水素ガスを効率よく製造することができ、さらに小型化された水素ガス製造装置に好適に適用することができる水素ガスの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
(1) メタノールから水素ガスを製造するための水素ガス製造装置であって、メタノールおよび水を気化させることによって原料ガスを製造するための原料ガス製造器、前記原料ガス製造器と接続され、前記原料ガス製造器で得られた原料ガスと酸素含有ガスとを反応させ、反応ガスを製造するための反応ガス製造器、前記反応ガス製造器と接続され、前記反応ガス製造器で得られた反応ガスから当該反応ガスに含まれている水素ガスを分離するための水素ガス分離器、および前記水素ガス分離器と接続され、前記水素ガス分離器で反応ガスから水素ガスが分離された残存ガスを燃焼するためのガス燃焼装置を有する保熱容器を有し、前記原料ガス製造器および前記反応ガス製造器が、前記ガス燃焼装置で残存ガスを燃焼することによって生じた熱が伝達されるように前記保熱容器内に配設されていることを特徴とする水素ガス製造装置、
(2) メタノールから水素ガスを製造するための水素ガスの製造方法であって、メタノールおよび水を気化させることによって原料ガスを製造する原料ガス製造工程、前記原料ガスと酸素含有ガスとを反応させることによって反応ガスを製造する反応ガス製造工程、前記反応ガスから当該反応ガスに含まれている水素ガスを分離する水素ガス分離工程、および前記水素ガスから水素ガスが分離された残存ガスを燃焼する残存ガス燃焼工程を有し、前記残存ガス燃焼工程で残存ガスを燃焼する際に発生する熱により、前記原料ガス製造工程でメタノールおよび水を気化させるとともに、前記反応ガス製造工程で原料ガスと酸素含有ガスとを反応させることを特徴とする水素ガスの製造方法、
(3) 反応ガス製造工程において、酸素含有気体の供給を定期的に停止する前記(2)に記載の水素ガスの製造方法、
(4) 残存ガス燃焼工程において、残存ガスと酸素含有ガスとを混合した後、当該残存ガスを燃焼する前記(2)または(3)に記載の水素ガスの製造方法、および
(5) 残存ガス燃焼工程において、残存ガスを白金触媒の存在下で燃焼する前記(2)〜(4)のいずれかに記載の水素ガスの製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の水素ガス製造装置によれば、装置自体の小型化が容易であり、効率よく水素ガスを製造することができるという効果が奏される。また、本発明の水素ガスの製造方法は、水素ガスを効率よく製造することができ、さらに小型化された水素ガス製造装置に適用することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の水素ガス製造装置の一実施態様を示す概略説明図である。
【図2】本発明の水素ガス製造装置において、保熱容器の他の実施態様を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の水素ガス製造装置は、前記したように、メタノールから水素ガスを製造するための水素ガス製造装置であり、メタノールおよび水を気化させることによって原料ガスを製造するための原料ガス製造器、前記原料ガス製造器と接続され、前記原料ガス製造器で得られた原料ガスと酸素含有ガスとを反応させ、反応ガスを製造するための反応ガス製造器、前記反応ガス製造器と接続され、前記反応ガス製造器で得られた反応ガスから当該反応ガスに含まれている水素ガスを分離するための水素ガス分離器、および前記水素ガス分離器と接続され、前記水素ガス分離器で反応ガスから水素ガスが分離された残存ガスを燃焼するためのガス燃焼装置を有する保熱容器を有し、前記原料ガス製造器および前記反応ガス製造器が、前記ガス燃焼装置で残存ガスを燃焼することによって生じた熱が伝達されるように前記保熱容器内に配設されていることを特徴とする。本発明の水素ガス製造装置は、装置自体の小型化が容易であり、効率よく水素ガスを製造することができるとともに、水素ガスの原料として移送および貯蔵が容易なメタノールが用いられているので、必要なときに必要な量で水素ガスを製造することができるという利点を有する。
【0010】
また、本発明の水素ガスの製造方法は、前記したように、メタノールから水素ガスを製造するための水素ガスの製造方法であり、メタノールおよび水を気化させることによって原料ガスを製造する原料ガス製造工程、前記原料ガスと酸素含有ガスとを反応させることによって反応ガスを製造する反応ガス製造工程、前記反応ガスから当該反応ガスに含まれている水素ガスを分離する水素ガス分離工程、および前記水素ガスから水素ガスが分離された残存ガスを燃焼する残存ガス燃焼工程を有し、前記残存ガス燃焼工程で残存ガスを燃焼する際に発生する熱により、前記原料ガス製造工程でメタノールおよび水を気化させるとともに、前記反応ガス製造工程で原料ガスと酸素含有ガスとを反応させることを特徴とする。本発明の水素ガスの製造方法によれば、水素ガスの原料としてメタノールが用いられているので、必要なときに必要な量で水素ガスを製造することができるとともに、水素ガスを効率よく製造することができ、さらに小型化された水素ガス製造装置に適用することができるという効果が奏される。
【0011】
以下に、本発明の水素ガス製造装置および水素ガスの製造方法を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の水素ガス製造装置の一実施態様を示す概略説明図である。図1に示される水素ガス発生装置は、原料ガス製造器1、反応ガス製造器2、水素ガス分離器3および保熱容器4を有する。
【0012】
[原料ガス製造工程]
原料ガス製造工程では、メタノールおよび水を気化させることにより、原料ガスが製造される。原料ガス製造工程では、メタノールおよび水を気化させることによって原料ガスを製造するための原料ガス製造器1が用いられる。
【0013】
水素ガスの原料であるメタノールおよび水は、図1に示されるように、例えば、ポンプ5から配管6を介して原料ガス製造器1に送液される。なお、配管6には、必要により、バルブ7a,7bが配設されていてもよい。
【0014】
ポンプ5と原料ガス製造器1との間には、必要により、熱交換器8が配設されていてもよい。熱交換器8を配設した場合、メタノールおよび水は、熱交換器8により、反応ガス製造器2で得られた反応ガスと熱交換することによって加熱することができ、反応ガス製造器2で得られた反応ガスは、メタノールおよび水と熱交換することによって冷却することができる。これにより、メタノールおよび水は、原料ガス製造器1に送液される前にあらかじめ加熱されるので、効率よく原料ガスを製造することができるという利点がある。
【0015】
メタノール1モルあたりの水の量は、水素ガスを効率よく生成させるとともに一酸化炭素ガスの残存量を低減させることによって水素ガスの収率を高める観点から、好ましくは1.2モル以上、より好ましくは1.5モル以上であり、水の量が多くなり過ぎても水素ガスの収率があまり向上せず、蒸発潜熱が大きい水の量を低減させることによってエネルギー効率を高める観点から、好ましくは2.5モル以下、より好ましくは2.0モル以下である。
【0016】
なお、原料ガス製造器1に送液されるメタノールおよび水の液温は、特に限定されず、常温であってもよく、常温よりも高温であってもよいが、水素ガスの収率を向上させる観点から、できるだけ高いことが好ましい。前記液温の上限温度は、エネルギー効率を高める観点から、好ましくはメタノールの沸点以下である。
【0017】
原料ガス製造器1としては、例えば、図1に示されるように、螺旋形状を有する金属管などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。金属管に用いられる金属としては、例えば、ステンレス鋼をはじめ、熱伝導性に優れていることから、銅、黄銅などが挙げられる。
【0018】
原料ガス製造器1は、図1に示されるように、ガス燃焼装置9で残存ガスを燃焼することによって生じた熱が効率よく伝達されるようにするために保熱容器4内に配設されている。本発明においては、このように原料ガス製造器1が保熱容器4内に配設されている点に1つの大きな特徴がある。
【0019】
本発明では、原料ガス製造器1が、ガス燃焼装置9で残存ガスを燃焼することによって発生した熱が効率よく伝達されるように保熱容器4内に配設されているので、保熱容器4で燃焼された残存ガスの熱を利用してメタノールおよび水が加熱され、気化することから、原料ガスを効率よく製造することができる。さらに、原料ガス製造器1は、保熱容器4内に収納されているので、本発明の水素ガス製造装置自体を小型化させることができるという利点がある。
【0020】
図1に示される実施態様において、螺旋状に捲回された金属管からなる原料ガス製造器1の螺旋部内にガス燃焼装置9が挿入されているので、ガス燃焼装置9で残存ガスを燃焼することによって生じた熱が原料ガス発生装置1に効率よく伝達される。
【0021】
なお、本発明は、図1に示される実施態様のみに限定されるものではなく、例えば、原料ガス発生装置1は、ガス燃焼装置9で残存ガスを燃焼することによって生じた熱が伝達される程度にガス燃焼装置9と間隙を設けて配置されていてもよく、あるいはガス燃焼装置9で残存ガスを燃焼することによって生じた熱が直接伝達されるようにするために、ガス燃焼装置9と接触させて配置されていてもよい。
【0022】
原料ガス製造器1でメタノールおよび水が気化することによって得られたメタノールガスと水蒸気を含有する原料ガスは、原料ガス製造器1と接続された反応ガス製造器2に送気される。原料ガス製造器1は、例えば、図1に示されるように配管10などを介して反応ガス製造器2と接続されていてもよく、あるいは反応ガス製造器2と直接的に接続されていてもよい。
【0023】
なお、図1に示される原料ガス製造器1では、メタノールと水とが同時に加熱される構成を有するが、必ずしもメタノールと水とが同時に加熱される必要がない。原料ガス製造器1では、メタノールの蒸発と水の蒸発とを別々に分けて行なってもよく、あるいはメタノールと水とを混合し、得られたメタノール水溶液を蒸発させてもよい。
【0024】
原料ガスを反応ガス製造器2に導入する際の原料ガスの温度は、メタノールの酸化反応を促進させるとともに未反応のメタノールの残存量を低減させる観点から、好ましくは150℃以上、より好ましくは200℃以上であり、エネルギー効率を高めるとともに、高温にするために燃焼される残存ガス量の増大に伴う水素ガスの収率の低下を抑制する観点から、好ましくは300℃以下、より好ましくは280℃以下である。
【0025】
[反応ガス製造工程]
反応ガス製造工程では、前記で得られた原料ガスと酸素含有ガスとを反応させることにより、反応ガスが製造される。反応ガス製造工程では、原料ガス製造器1で得られた原料ガスと酸素含有ガスとを反応させ、反応ガスを製造するための反応ガス製造器2が用いられる。
【0026】
原料ガス製造器1で製造された原料ガスは、原料ガス製造器1と接続された反応ガス製造器2に供給される。反応ガス製造器2では、原料ガスと酸素含有ガスとを反応させることにより、反応ガスが製造される。
【0027】
本発明においては、反応ガス製造器2が保熱容器4内に配設されている点にも1つの大きな特徴がある。
【0028】
本発明では、このように反応ガス製造器2が保熱容器4内に配設されているので、保熱容器4内に設置されているガス燃焼装置9で残存ガスを燃焼することによって生じた熱により、反応ガス製造器2内で以下の反応式(2)〜(4)に起因する温度低下が抑制されることから、効率よく水素ガスを生成することができる。さらに、反応ガス製造器2は、原料ガス製造器1とともに保熱容器4内に収納されているので、水素ガス製造装置自体の小型化を図ることができるという利点がある。
【0029】
図1に示される反応ガス製造器2は、ガス燃焼装置9とは間隙を設けて設置されているので、ガス燃焼装置9から発生した熱が当該間隙を介して反応ガス製造器2に伝達される。なお、反応ガス発生装置2は、前記間隙を設けずにガス燃焼装置9と接触させて設置されていてもよい。
【0030】
反応ガス製造器2内では、原料ガスと酸素含有ガスとが反応し、式(1):
CH3OH + 0.5O2 → CO2 + 2H2 (1)
で表されるように、メタノールが酸化し、水素ガスと二酸化炭素ガスが生成する。このメタノールの酸化反応は、発熱反応であるため、反応ガス製造器2の系内の温度が上昇する。
【0031】
また、このメタノールの酸化反応と平行してメタノールの一部は、酸素ガスが関与することなく、式(2):
CH3OH → CO + 2H2 (2)
で表されるように、一酸化炭素ガスと水素ガスに分解したり、式(3):
CH3OH + H2O → CO2 + 3H2 (3)
で表されるように、二酸化炭素ガスと水素ガスに分解する。これらの分解反応は、吸熱反応であることから、前記酸化反応で発生した熱の一部が打ち消される。その結果、反応ガス製造器2の系内の温度は、前記酸化反応のみが起こる場合と対比して、幾分かは低い温度となる。また、これらの反応以外にも、式(4):
CO + H2O → H2 + CO2 (4)
で表されるシフト反応が起こると考えられる。
【0032】
原料ガスとは別に酸素含有ガスを反応ガス製造器2内に導入してもよいが、連続的に水素ガスを発生させるようにする観点から、原料ガスと酸素含有ガスとを混合することによって得られた原料混合ガスを反応ガス製造器2に導入することが好ましい。
【0033】
原料混合ガスを反応ガス製造器2に導入する場合、例えば、図1に示されるように、配管10と酸素含有ガス用の配管11とをT字管、Y字管など(図示せず)を介して接続することによって原料ガスと酸素含有ガスとを混合し、得られた原料混合ガスを、配管12を介して反応ガス製造器2内に導入することができる。また、酸素含有ガスは、反応ガスとは別の配管を介して、反応ガスとは別個独立に反応ガス製造器2に導入してもよい。なお、酸素含有ガス用の配管11には、酸素含有ガスの導入量を制御するために、バルブ13が配設されていてもよい。
【0034】
酸素含有ガスは、メタノールおよび水と対比して熱容量が小さいので、特に加熱する必要がないが、例えば、酸素含有ガスの配管を保熱容器4内に導入し、ガス燃焼装置9で残存ガスの燃焼熱によって当該酸素含有ガスの配管を加熱した後に、当該配管から酸素含有ガスを反応ガス製造器2に導入してもよい。
【0035】
酸素含有ガスとしては、例えば、空気、酸素ガスなどをはじめ、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスと酸素ガスとの混合ガスなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0036】
メタノール1モルあたりの酸素含有ガスに含まれている酸素ガスの量は、未反応のメタノールの残存量を低減させる観点から、好ましくは0.05モル以上、より好ましくは0.1モル以上であり、メタノールから生成した水素ガスと酸素ガスとの反応によって反応温度が高くなることを回避するとともに、生成した水素ガスが酸素ガスとの反応によって消費されることを回避する観点から、好ましくは0.25モル以下、より好ましくは0.2モル以下である。
【0037】
反応ガス製造器2内で、原料ガスと酸素含有ガスとを反応させる際には、水素ガスの生成効率を高める観点から、触媒を用いることが好ましい。触媒は、通常、反応器(図示せず)内に充填することによって用いられる。
【0038】
触媒としては、例えば、白金、パラジウムなどの白金族系触媒、銅系触媒などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。銅系触媒としては、例えば、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化ガリウム、酸化インジウムなどの金属酸化物からなる粒子の表面上に酸化銅が添着された粒子からなる酸化銅系触媒などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0039】
触媒のなかでは、耐熱性の観点から、CuO/Al23およびCuO/ZnO/Al23が好ましく、CuO/Al23がより好ましい。CuO/ZnO/Al23の耐熱温度は、一般に300℃以下であることから、それよりも高い温度ではシンタリングによって触媒活性が経時とともに低下するようになる。これに対して、CuO/Al23は、CuO/ZnO/Al23と対比して、例えば、600℃程度の高温に加熱された場合であっても、シンタリングが起こりにくいという利点を有する。
【0040】
触媒の粒子径は、触媒粒子間の間隙における原料混合ガスの通気性を高める観点から、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは1mm以上であり、触媒と原料混合ガスとの接触効率を高める観点から、好ましくは20mm以下、より好ましくは10mm以下である。
【0041】
触媒の量は、触媒層の形状などによって異なるが、通常、反応ガス製造器2に送るメタノール1g/分あたり20〜300ml程度である。また、触媒層の長さは、特に限定されず、触媒層中で原料混合ガスがある程度の時間で滞留するように設定することが好ましいが、通常、0.5〜5m程度である。
【0042】
触媒層における原料混合ガスの滞留時間は、式(I):
〔原料混合ガスの滞留時間〕
=〔反応器内の空塔容積〕
÷〔単位時間に導入される原料混合ガスの標準状態における体積〕 (I)
に基づいて求めることができる。ここで、空塔容積は、触媒が充填されていない反応器の内容積を意味し、原料混合ガスの標準状態における体積は、1気圧、0℃における原料混合ガスの体積を意味する。触媒層における原料混合ガスの滞留時間は、残存するメタノール量を低減させることによって水素ガスの収率を向上させる観点から、好ましくは0.5秒間以上、より好ましくは1秒間以上であり、水素ガスを迅速に製造することによって製造効率を高める観点から、好ましくは10秒間以下、より好ましくは5秒間以下である。
【0043】
触媒層は、種々の形態で用いることができる。触媒層の形態としては、例えば、2枚の金属板の間に触媒層を挟み込んだ平板状触媒層、断面形状が四角形や円形である筒状体の内部に触媒が充填された柱状触媒層、同心円状に2つの筒状体が重ね合わされ、それらの筒状体の間隙に触媒が充填された筒状触媒層、複数本の前記柱状触媒が並列的に配置された並列状触媒層などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0044】
反応ガス製造器2内の反応ガス流れの垂直方向から見て、触媒層の中心部から当該反応ガス製造器2の器壁までの距離は、保熱容器4内に設置されているガス燃焼装置9からの熱が触媒層の中心部にまで効率よく伝わるようにする観点から、4cm以内であることが好ましい。例えば、厚さが8cmである触媒層の場合、触媒層の中心部から当該反応ガス製造器2の器壁までの距離は4cmとなる。
【0045】
また、一般に、式(II):
〔相当直径〕=(〔触媒層の断面積〕÷〔触媒に接触する器壁長〕)×4 (II)
で表される相当直径は、16cm以下であることが前記触媒層の中心部まで効率よく加熱する観点から好ましく、2cm以上であることが反応器を効率よく製造する観点から好ましい。相当直径は、例えば、平面を8cm離して位置させた場合には16cmとなり、一辺が16cmの四角柱の場合にも16cmとなり、同心円状に2枚の筒状体が重ね合わされ、それらの筒状体の間隙に触媒が充填されている場合には、当該2つの筒状体の直径の差が16cmである場合にも16cmとなる。
【0046】
触媒層に供給される原料混合ガスの供給速度は、前記標準状態における原料混合ガスの量を触媒層の断面積で除した値(以下、線速度という)は、副生成物であるジメチルエーテルの生成を抑制する観点から、好ましくは0.2m/秒以上、より好ましくは0.4m/秒以上であり、反応温度が高くなることを抑制する観点から、好ましくは2m/秒以下、より好ましくは1.5m/秒以下である。
【0047】
触媒層に導入された原料混合ガスは、触媒層内を進むにしたがって前記酸化反応により、触媒層の温度が高くなる。原料混合ガスの反応温度は、未反応のメタノールが残存することを回避する観点および一般に触媒層の下流側では原料混合ガスの吸熱反応が生じ、反応温度が低下することによって反応速度が低くなることを防止する観点から、好ましくは220℃以上、より好ましくは240℃以上、さらに好ましくは260℃以上である。また、原料混合ガスの反応温度は、触媒活性を長時間安定に保持する観点から、好ましくは550℃以下、より好ましくは500℃以下、さらに好ましくは450℃以下である。
【0048】
触媒として銅系触媒を用いた場合、触媒層において酸化反応が起こる箇所では、経時とともに反応温度が上昇するようになる。これは、銅系触媒として例えばCuO/Al23を用いたとき、式(2)〜(4)で表される反応は、CuO/Al23の還元体であるCu/Al23上で進行するが、酸化反応が生じる箇所では、Cu/Al23が次第に酸化され、CuO/Al23となる。その結果、式(2)〜(4)で表される反応が進行しがたくなることから、酸化反応のみが優先的に起こるので発熱が顕著に現れ、反応温度が次第に高くなっていくため、触媒寿命が短くなることが懸念される。
【0049】
そこで、反応温度が高くなることを抑制する方法について、本発明者らが鋭意研究を重ねたところ、酸素含有気体の供給を定期的に停止すればよいことが見出された。このように触媒層への酸素含有気体の供給を定期的に停止した場合には、酸化反応部の触媒層がメタノールなどの還元物質と接触することによって還元されるので、CuO/Al23が触媒活性を有するCu/Al23に改質されるものと考えられる。
【0050】
触媒層に酸素含有気体の供給を停止させる周期は、触媒活性を回復させる観点および水素ガスの製造効率を高める観点から、10秒〜1時間であることが好ましい。触媒層に酸素含有気体の供給を停止させる時間は、触媒活性を回復させる観点および水素ガスの製造効率を高める観点から、触媒層に酸素含有気体の供給を開始させてからその供給を停止させ、再度、酸素含有気体の供給を開始するまでの1周期あたり、3秒〜60秒間であることが好ましい。また、触媒層に酸素含有気体の供給を停止させる時間は、触媒活性を回復させる観点および水素ガスの製造効率を高める観点から、1周期あたりの時間の30%以内の時間であることが好ましい。例えば、1周期を10秒間としたとき、酸素含有気体を7秒間供給し、酸素含有気体の供給を3秒間遮断することが1周期となる。
【0051】
[水素ガス分離工程]
反応ガス製造工程で得られた反応ガスには、水素ガスのほか、未反応メタノールの蒸気、二酸化炭素ガス、一酸化炭素ガス、水蒸気などの不純物ガスが含まれている。高純度を有する水素ガスを製造するためには、反応ガスに含まれている水素ガスを不純物ガスと分離する必要がある。そこで、水素ガス分離工程では、前記で得られた反応ガスから当該反応ガスに含まれている水素ガスが分離される。水素ガス分離工程では、反応ガスから当該反応ガスに含まれている水素ガスを分離するための水素ガス分離器3が用いられる。
【0052】
図1に示される水素ガス製造装置では、水素ガス分離器3は、配管14,15を介して反応ガス製造器2と接続されている。なお、配管14と配管15との間には、熱交換器8が配設されているが、必ずしも配設されている必要はない。しかし、熱交換器8が配設されている場合には、前記したように、熱交換器8により、反応ガス製造器2で得られた反応ガスと、原料のメタノールおよび水とが熱交換することにより、当該メタノールおよび水を効率よく加熱することができ、反応ガスは、メタノールおよび水と熱交換することによって効率よく冷却することができる。
【0053】
水素ガス分離器3としては、例えば、吸着剤が充填された吸着塔などが挙げられる。吸着塔は、1本のみを用いてもよいが、高純度を有する水素ガスを効率よく製造する観点から、例えば、2〜5本程度の複数本を用いることが好ましい。
【0054】
吸着剤としては、二酸化炭素、メタノールなどを除去する場合には、炭素系吸着剤などが挙げられ、一酸化炭素を除去する場合には、ゼオライトなどが挙げられ、また水蒸気などを除去する場合には、アルミナなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。通常、これらの吸着剤は、未反応メタノールの蒸気、二酸化炭素ガス、一酸化炭素ガス、水蒸気などの不純物ガスを吸着することによって除去するために、混合して用いることが好ましい。
【0055】
水素ガス分離工程は、より具体的には、例えば、特開2004−66125号公報に記載の目的ガスの分離方法などに準じて行なうことができる。
【0056】
図1に示される水素ガス製造装置では、水素ガス分離工程で得られた高純度を有する水素ガスは、配管16を介して水素ガス貯蔵用タンク17に貯蔵されるが、例えば、得られた高純度の水素ガスを現場で速やかに使用する場合には、水素ガス貯蔵用タンク17は、必ずしも必要ではない。
【0057】
一方、水素ガス分離器3で吸着除去された不純物ガスは、例えば、水素ガスの製造を停止した後、水素ガス分離器3内を脱気することにより、水素ガス分離器3内に残存している残存ガスとして回収することができる。残存ガスには、不純物ガスのほか水素ガスが含まれている。残存ガスは、配管18を介してガス燃焼装器4に配設されているガス燃焼装置9に送気される。
【0058】
[残存ガス燃焼工程]
残存ガス燃焼工程では、残存ガスが燃焼される。残存ガス燃焼工程では、反応ガスから水素ガスが分離された残存ガスを燃焼するためのガス燃焼装置9を有する保熱容器4が用いられる。
【0059】
本発明においては、残存ガスを廃棄ガスとして処分したり、燃焼したりするのではなく、前記したように、保熱容器4内に配設されたガス燃焼装置9で燃焼することによって残存ガスの有効利用を図る点にも1つの大きな特徴がある。
【0060】
本発明では、保熱容器4内のガス燃焼装置9によって残存ガスを燃焼する際に発生する熱が、原料ガス製造器1および反応ガス製造器2に伝達されるように配設されているので、残存ガスの燃焼熱を利用してメタノールおよび水が加熱され、気化することから、原料ガスを効率よく製造することができる。また、残存ガスの燃焼熱により、反応ガス製造器2内における一連の反応、すなわち反応式(2)〜(4)で表される反応において、吸熱反応による反応ガス製造器2内の温度低下が抑制されることから、効率よく水素ガスを生成させることができる。さらに、原料ガス製造器1および反応ガス製造器2は、保熱容器4内に収納されているので、本発明の水素ガス製造装置自体を小型化させることができる。
【0061】
ガス燃焼装置9によって残存ガスを燃焼する際には、触媒を用いることが好ましい。触媒の中では、触媒活性が高く、耐熱性に優れていることから、白金触媒が好ましい。白金触媒は、白金粒子であってもよく、アルミナ粒子などの単体に白金が担持されたものであってもよく、あるいはハニカム構造を有する単体に白金が担持されたものであってもよい。
【0062】
残存ガスを燃焼する際には、残存ガスを燃焼させるために空気を用いることが好ましい。空気は、図1に示されるように、例えば、空気ブロワー19によって空気加熱器20に送気し、配管21を介してガス燃焼装置9に送気することができる。
【0063】
空気の量は、残存ガスに含まれている水素ガスが充分に燃焼する量であればよく、特に限定されない。残存ガスを燃焼させることによって発生する燃焼ガスの温度は、この空気量で制御することができることから、当該空気量を制御することによって燃焼ガスの温度を調節することができる。また、燃焼ガスの温度は、発生した燃焼ガスに空気を導入することによって調節することもできる。
【0064】
燃焼ガスの温度は、反応ガス製造器2を充分に加熱する観点から、好ましくは400℃以上であり、反応ガス製造器2が過熱されないようにする観点から、好ましくは800℃以下である。
【0065】
原料ガス製造器1および反応ガス製造器2は、保熱容器4内に燃焼ガスを送気し、この送気された燃焼ガスによって加熱されるようにしてもよく、原料ガス製造器1および反応ガス製造器2をそれぞれ保熱容器4内で配設されているガス燃焼装置9と接触させるかまたは当該ガス燃焼装置9の近傍に設置することにより、ガス燃焼装置9で残存ガスが燃焼することによって発生する燃焼熱によって加熱されるようにしてもよい。
【0066】
原料ガス製造器1および反応ガス製造器2を、保熱容器4内に燃焼ガスを送気することによって加熱する場合、保熱容器4内を閉鎖空間とし、当該空間内に燃焼ガスを充満させてもよい。
【0067】
図1に示される実施態様では、保熱容器4内にガス燃焼装置9が設置されているが、本発明においては、図1に示される実施態様のみならず、図2に示されるように、保熱容器4に保熱容器4の一部として、内部空間が連通している別室4aを設け、この別室4a内にガス燃焼装置9を配設してもよい。また、図2に示されるように、必要により、原料ガス製造器1と反応ガス製造器2との間に隔壁22を設けてもよい。
【0068】
残存ガスを燃焼する際に発生する燃焼熱による原料ガス製造器1の加熱温度は、原料ガスを充分に蒸発させる観点から、好ましくは300℃以上であり、原料ガス製造器2の耐熱性などを考慮して、好ましくは1000℃以下である。また、残存ガスを燃焼する際に発生する燃焼熱による反応ガス製造器2の加熱温度は、未反応のメタノールの残存量を少なくして水素ガスの発生量を増大させる観点から、好ましくは250℃以上であり、触媒の劣化を抑制する観点から、好ましくは600℃以下である。
【0069】
なお、ガス燃焼装置内には、燃焼触媒を用いることができる。燃焼触媒としては、例えば、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、銀などの貴金属やこれらの金属の化合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。燃焼触媒は、例えば、メタルハニカム、セラミックハニカム、ボールペレットなどに添着させて用いることができる。
【0070】
以上説明したように、本発明によれば、保熱容器4内に、残存ガス燃焼工程で残存ガスを燃焼する際に発生する燃焼熱によって原料ガス製造器1および反応ガス製造器2が加熱されるように配設されているので、メタノールおよび水を効率よく気化させることができることから原料ガスを効率よく製造することができ、さらに原料ガスと酸素含有ガスとを効率よく反応させることができることから原料のメタノールから水素ガスを効率よく製造することができる。
【実施例】
【0071】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0072】
実施例1
図1に示される水素ガス製造装置と同様の水素ガス製造装置を用いた。
【0073】
1.原料ガス製造工程
メタノールおよび水を気化させることによって原料ガスを製造するための原料ガス製造器を用いて、メタノールおよび水を150〜300℃に加熱することにより、メタノールおよび水を気化させ、原料ガスを製造した。
【0074】
2.反応ガス製造工程
前記原料ガス製造器と接続され、前記原料ガス製造器で得られた原料ガスと酸素含有ガスとを反応させ、反応ガスを製造するための反応ガス製造器を用いて、原料ガスと酸素含有ガスとを反応させることによって反応ガスを製造した。
【0075】
より具体的には、反応ガス製造器は、つぎの2つの部分で構成させた。まず、反応ガス製造器の上流側に位置し、主として反応式(1)で表される酸化反応が起こる酸化反応部には、触媒〔シグマアルドリッチジャパン(株)製、酸化銅/アルミナ触媒〕が充填された内径8.5cmおよび長さ20cmを有する反応管を用いた。また、反応ガス製造器の下流側に位置し、主として反応式(2)〜(4)で表される反応が起こる改質反応部には、内径14cmおよび長さ95cmを有する円筒管と内径21cmおよび長さ95cmを有する円筒管とを重ね合わせ、両者間の空隙(相当直径:6.9cm)に前記触媒が充填された反応管を用いた。この反応ガス製造器を用いて反応ガスを製造した。
【0076】
前記反応ガス製造器内に、前記原料ガス製造工程で得られた原料ガスと空気とを、メタノール蒸気259g/分、水蒸気220g/分および空気102Nリットル/分(平均値)の流量となるように通気した。より具体的には、空気を113Nリットル/分の流量で108秒間通気した後、空気の通気を12秒間停止する操作を周期的に繰り返した。前記原料ガスおよび空気を通気するとき、水/メタノールのモル比は1.5/1であり、酸素ガス/メタノールのモル比は0.12/1であった。
【0077】
また、反応ガス製造器の酸化反応部における反応ガスの線速度を1.6m/秒、滞留時間を0.12秒間とし、反応ガス製造器の改質反応部における線速度を0.48m/秒、滞留時間を2.0秒間とした。
【0078】
図1に示されるように、反応ガス製造器の改質反応部を保熱容器中に位置させ、反応に先立ち保熱容器を電気ヒータで270℃に予熱した。
【0079】
原料ガス製造器にこのメタノール水を通して蒸気とし、空気と合わせて反応ガス製造器の酸化反応部に通気すると速やかに部分酸化反応が始まり、前記触媒の上部から7cmの位置で最高温度が391℃であった。この酸化反応部から排出された反応ガスを改質反応部に送気し、改質反応を行なった。改質反応器からのガスに含まれている水分を凝縮させた後、気相をガスクロマトグラフィーで分析すると、水素ガス64.9容量%、一酸化炭素ガス1.2容量%、ジメチルエ−テルガス0.4容量%、二酸化炭素ガス22.8容量%および窒素ガス10.8容量%が含まれていた。一方、凝縮させた水分中には、未反応のメタノールが検出されなかった。
【0080】
以上の結果から、メタノール1モルから0.054Nm3(2.4モル)の水素ガスが得られたことがわかる。
【0081】
3.水素ガス分離工程
前記反応ガス製造器と接続され、前記反応ガス製造器で得られた反応ガスから当該反応ガスに含まれている水素ガスを分離するための水素ガス分離器を用いて、前記反応ガスから当該反応ガスに含まれている水素ガスを分離した。
【0082】
より具体的には、前記反応ガス製造器で得られた反応ガスから生成した水分を凝縮することによって除去した後の反応ガスを、吸着剤としてゼオライトモレキュラーシーブ(Ca5A型)とカーボンモレキュラーシーブ(CMS)とを1:1.3の体積比で合計50リットルの量で詰めた3塔式の水素ガス分離器〔住友精化(株)製〕に通すことにより、純度99%の水素ガスを22.5Nm3/時間の速度で得た。このことから、メタノール1モルから水素ガスが0.046Nm3(2.07モル)得られたことがわかる。
【0083】
4.残存ガス燃焼工程
前記水素ガス分離器と接続され、前記水素ガス分離器で反応ガスから水素ガスが分離された残存ガスを燃焼するためのガス燃焼装置を有する保熱容器を用いて、前記水素ガスから水素ガスが分離された残存ガスを燃焼した。
【0084】
より具体的には、水素ガス分離器で反応ガスから水素ガスが分離された残存ガスと空気とを、残存ガス18Nm3/時間、空気108Nm3/時間の流量で混合し、得られた混合ガスを白金触媒層に通し、燃焼させることにより、温度517℃の加熱ガスを生成させた。
【0085】
前記で発生した加熱ガスで、前記メタノール蒸発器および前記反応器を加熱した。反応器の改質部における温度は270℃、保熱容器から加熱ガスが排出されるときの温度は281℃であった。
【0086】
実施例2
実施例1の反応ガス製造器の改質反応部に用いた触媒の代わりに触媒〔ズードケミー触媒(株)製、酸化銅/酸化亜鉛/アルミナ触媒〕を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行なった。その結果、反応ガス製造器の改質反応部から排出されたガスの水分を凝縮させた後、気相をガスクロマトグラフィーで分析したところ、水素ガス65.7容量%、一酸化炭素ガス1.0容量%、ジメチルエーテルガスが温度から推定で0.1容量%、二酸化炭素ガス23.0容量%および窒素ガス10.2容量%が含まれていた。一方、凝縮させた水分中には未反応のメタノールが検出されなかった。
【0087】
このことから、メタノール1モルから水素ガス0.058Nm3(2.6モル)が生成したことが確認された。この水分を凝縮で取り除いた後の反応ガスを3塔式の水素ガス分離器〔住友精化(株)製〕に通し、純度99.9%の水素ガスを23Nm3/時間の速度で得た。この結果から、メタノール1モルから水素ガス0.047Nm3(2.12モル)が得られたことが確認された。
【0088】
実施例3
反応ガス製造器の改質反応部として長さ95cm、内径14cmの触媒〔シグマアルドリッチジャパン(株)製、酸化銅/アルミナ触媒〕を充填したものを用いたこと以外は、実施例1と同様に行なった。反応ガス製造器の改質反応部での反応ガスの滞留時間を式:
〔反応ガスの滞留時間〕
=〔反応ガス製造器内の容積〕÷〔単位時間に導入される反応ガスの標準状態における体積〕
に基づいて求めたところ、1.6秒間であった。反応ガス製造器の改質反応部を出たガスから水分を凝縮させて除去した後、気相をガスクロマトグラフィーで分析したところ、水素ガス65.6容量%、一酸化炭素ガス1.0容量%、ジメチルエーテルガス0.3容量%、二酸化炭素ガス22.8容量%および窒素ガス10.3容量%が含まれていた。一方、凝縮させた水分中には未反応のメタノールが6.7質量%で含まれていた。このことから、メタノール1モルから0.057Nm3の水素ガスが得られたことがわかる。
【0089】
この水分を凝縮で取り除いた後の反応ガスを3塔式の水素ガス分離器〔住友精化(株)製〕に通し、純度99%の水素ガスを21.5Nm3/時間の速度で得た。このことから、メタノール1モルから水素ガスが0.044Nm3(1.97モル)得られたことが確認された。
【0090】
比較例1
酸化反応の発熱で改質反応部に熱量供給することを目的として、内筒を酸化反応部、外筒を改質反応部とした2重管折り返し方式の反応ガス製造器を用いた。内筒の酸化反応部に長さ38cm、内径8.5cmの反応管、外筒の改質反応部に長さ70cm、相当直径7.4cmを用いたこと、水素ガスを分離した後の残存ガスを、メタノールおよび水に対する気化熱の供給を主目的として燃焼させたこと以外は、実施例1と同様に反応を行なった。反応ガス製造器の改質反応部を出たガスに含まれている水分を凝縮させた後、気相をガスクロマトグラフィーで分析したところ、水素ガス63.8容量%、一酸化炭素ガス1.5容量%、ジメチルエーテルガス0.1容量%、二酸化炭素ガス22.3容量%および窒素ガス12.3容量%が含まれていた。一方、凝縮された水分には、未反応のメタノールが17.6質量%で含まれていた。このことから、メタノール1モルから0.049Nm3(2.2モル)の水素ガスが得られたことがわかる。
【0091】
なお、比較例1では、実施例3と比較して反応率が低下し、未反応のメタノール量が増加していることが確認された。
【0092】
以上の結果から、各実施例によれば、エネルギー効率に優れ、水素ガスを効率よく製造することができ、さらに小型化された水素ガス製造装置に適用することができることがわかる。
【符号の説明】
【0093】
1 原料ガス製造器
2 反応ガス製造器
3 水素ガス分離器
4 保熱容器
9 ガス燃焼装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタノールから水素ガスを製造するための水素ガス製造装置であって、
メタノールおよび水を気化させることによって原料ガスを製造するための原料ガス製造器、
前記原料ガス製造器と接続され、前記原料ガス製造器で得られた原料ガスと酸素含有ガスとを反応させ、反応ガスを製造するための反応ガス製造器、
前記反応ガス製造器と接続され、前記反応ガス製造器で得られた反応ガスから当該反応ガスに含まれている水素ガスを分離するための水素ガス分離器、および
前記水素ガス分離器と接続され、前記水素ガス分離器で反応ガスから水素ガスが分離された残存ガスを燃焼するためのガス燃焼装置を有する保熱容器を有し、
前記原料ガス製造器および前記反応ガス製造器が、前記ガス燃焼装置で残存ガスを燃焼することによって生じた熱が伝達されるように前記保熱容器内に配設されてなる水素ガス製造装置。
【請求項2】
メタノールから水素ガスを製造するための水素ガスの製造方法であって、
メタノールおよび水を気化させることによって原料ガスを製造する原料ガス製造工程、
前記原料ガスと酸素含有ガスとを反応させることによって反応ガスを製造する反応ガス製造工程、
前記反応ガスから当該反応ガスに含まれている水素ガスを分離する水素ガス分離工程、および
前記水素ガスから水素ガスが分離された残存ガスを燃焼する残存ガス燃焼工程を有し、
前記残存ガス燃焼工程で残存ガスを燃焼する際に発生する熱により、前記原料ガス製造工程でメタノールおよび水を気化させるとともに、前記反応ガス製造工程で原料ガスと酸素含有ガスとを反応させることを特徴とする水素ガスの製造方法。
【請求項3】
反応ガス製造工程において、酸素含有気体の供給を定期的に停止する請求項2に記載の水素ガスの製造方法。
【請求項4】
残存ガス燃焼工程において、残存ガスと酸素含有ガスとを混合した後、当該残存ガスを燃焼する請求項2または3に記載の水素ガスの製造方法。
【請求項5】
残存ガス燃焼工程において、残存ガスを白金触媒の存在下で燃焼する請求項2〜4のいずれかに記載の水素ガスの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−101982(P2012−101982A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252927(P2010−252927)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】