説明

水素タンク

【課題】水素タンクにおけるガス漏れに起因する問題を抑え、水素タンクの耐久性を向上させる。
【解決手段】水素タンク10は、内部に水素を貯蔵するための空間が形成された内部タンク20と、内部タンク20の外側を覆うと共に、水素分子がプロトン化する反応を促進する活性を有する金属薄膜から成る触媒金属層22と、触媒金属層22を覆うと共に、プロトンと反応して安定な化合物を生じる物質を含有するプロトン反応液と、このプロトン反応液を保持する保持部材と、を備えるプロトン反応層24と、プロトン反応層24を覆う外部タンク26と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水素を貯蔵するための水素タンクに関する。
【背景技術】
【0002】
内部にガスを貯蔵するガスタンクでは、貯蔵するガスの圧力に対する充分な強度が要求されると共に、タンクからのガス漏れに対する対策が求められる。このような強度およびガス漏れに対する対策を考慮したタンクの一例として、液化ガスを貯蔵するための内槽とこれを収容する外槽とを備える二重槽構造を有すると共に、内槽と外槽との間に活性炭を充填したタンクが知られている(例えば、特許文献1参照)。このような構成とすることで、二重構造により強度に対する信頼性が向上すると共に、内槽に亀裂が入るなどにより内槽からガスが漏れ出した場合にも、漏れ出したガスが活性炭に吸着されて、外槽に掛かるガス圧の上昇を抑えることができる。
【0003】
【特許文献1】実開昭63−115994号公報
【特許文献2】実公平7−8427号公報
【特許文献3】特開2003−262626号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、内槽と外槽との間に活性炭を充填する構成では、内槽から漏れ出すガス量が増加すると、ガスが漏れ出している位置で局所的に活性炭の吸着能が限界に達して吸着反応がそれ以上進行し難くなり、漏れ出したガスが外槽に達してしまう場合がある。特に、ガスタンク内に水素を貯蔵する場合には、漏れ出した水素が外槽に達することで外槽の劣化(例えば水素脆化)が引き起こされて、ガスタンクの耐久性がさらに低下することになる。また、ガスタンク内に水素を貯蔵する場合には、水素の分子が極めて小さいため、亀裂などの損傷が生じなくても、経時的に内槽からの水素の漏れ出しが生じるおそれがある。
【0005】
本発明は、上述した従来の課題を解決するためになされたものであり、水素タンクにおけるガス漏れに起因する問題を抑え、水素タンクの耐久性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、水素を貯蔵する水素タンクであって、
内部に水素を貯蔵するための空間が形成された内部タンクと、
前記内部タンクの外側を覆うと共に、水素分子がプロトン化する反応を促進する活性を有する金属薄膜から成る触媒金属層と、
前記触媒金属層を覆うと共に、プロトンと反応して安定な化合物を生じる物質を含有するプロトン反応液と、該プロトン反応液を保持する保持部材と、を備えるプロトン反応層と、
前記プロトン反応層を覆う外部タンクと
を備えることを要旨とする。
【0007】
以上のように構成された本発明の水素タンクによれば、内部タンクと外部タンクとの間に、触媒金属層と、プロトン反応液を保持するプロトン反応層とを備えているため、内部タンクにおいて水素漏れが生じた場合にも、漏れ出した水素がプロトン化されて、このプロトンからプロトン反応液によって安定な化合物を生じ、水素及びプロトンの外部タンクへの到達を抑制することができる。したがって、水素あるいはプロトンと接触することによる外部タンクの劣化を抑え、水素タンク全体の耐久性を向上させることができる。
【0008】
特に、本発明の水素タンクは、プロトンと反応して安定な化合物を生じる物質を、液体の状態で内部タンクと外部タンクとの間に保持している。そのため、内部タンクからの水素の漏れ出しが特定部位で生じる場合であっても、漏れ出し部位近傍の上記物質だけでなく、広くプロトン反応層全体が備える上記物質を利用して、生じたプロトンを反応させることが可能になる。したがって、特定部位において水素漏れが生じた場合にも、プロトンと反応可能な物質を固体の状体で保持する場合に比べて、プロトン反応層においてより多くのプロトンを反応させて、外部タンクへの水素あるいはプロトンの到達を、より長く遅らせることが可能となる。
【0009】
本発明の水素タンクにおいて、前記触媒金属層は、パラジウム層であることとしても良い。パラジウムは、水素分子をプロトン化する反応を促進する活性が特に高く、望ましい。また、パラジウムは、水素透過性能を有するため、緻密な金属膜として触媒金属層を形成することができる。
【0010】
本発明の水素タンクにおいて、さらに、
前記触媒金属層に接続して設けられ、前記触媒金属層で水素分子がプロトン化する際に生じる電子を前記触媒金属層の外部に導く電子排出部を備えることとしても良い。
【0011】
このような構成とすれば、触媒金属層で水素分子がプロトンと電子とに解離し、生じたプロトンがプロトン反応液中の物質との反応に供されるときに、触媒金属層から電子が外部に排出されるため、触媒金属層に電子が滞留することがない。したがって、電子が滞留することにより水素分子の解離反応が抑制されることが無いため、触媒金属層において、水素分子がプロトンと電子とに解離する反応を支障なく継続させることができる。
【0012】
このような本発明の水素タンクにおいて、前記電子排出部は、アースであることとしても良い。
【0013】
このような構成とすれば、抵抗を生じることなく、触媒金属層から電子を排出させることができる。
【0014】
本発明の水素タンクにおいて、前記プロトン反応液は、弱酸と強塩基とから成る塩を含有することとしても良い。
【0015】
このような構成とすれば、触媒金属層で生じたプロトンを、プロトン反応液中の弱酸のイオンと結合させて、安定な化合物である遊離酸を生じさせることができる。
【0016】
また、本発明の水素タンクにおいて、
前記プロトン反応液は、プロトンと反応することで特有の臭気を発する物質を生じる物質を含有することとしても良い。
【0017】
このような構成とすれば、内部タンクが損傷して水素が漏れ出し、プロトン反応液において特有の臭気を発する物質が生じたときに、この物質の一部は内部タンクに入りこんで、内部タンク内の水素と共に、水素を消費する所定の装置に供給される。このような場合には、上記所定の装置から排出される排ガス中に、上記特有の臭気を発する物質が含まれることになるため、この特有の臭気によって、内部タンクの損傷を知ることが可能になる。
【0018】
このような本発明の水素タンクにおいて、前記プロトン反応液は、酢酸と強塩基とから成る酢酸塩の溶液であることとしても良い。
【0019】
このような構成とすれば、弱酸である酢酸と強塩基とから成る酢酸塩の溶液であるプロトン反応液にプロトンが加わると、プロトンは酢酸イオンと結合して酢酸となって安定化するため、水素及びプロトンに起因する外部タンクの劣化を抑制することができる。また、酢酸は特有の臭気を発する物質であるため、内部タンクから水素が漏れ出したときには、プロトン反応層で生じた酢酸の臭いによって内部タンクの損傷を知ることが可能になる。
【0020】
あるいは、本発明の水素タンクにおいて、前記プロトン反応液は、水素よりもイオン化傾向の強い金属の水酸化物溶液であることとしても良い。
【0021】
このような構成とすれば、内部タンクから水素が漏れ出して触媒金属層でプロトンが生じたときには、プロトン反応層において、プロトンは、水素よりもイオン化傾向の強い金属のイオンに優先して水酸化物イオンと結合して、水を生じて安定化することができる。
【0022】
本発明の水素タンクにおいて、さらに、
前記プロトン反応層に対して新たな前記プロトン反応液を供給すると共に、前記プロトン反応層内を流れた前記プロトン反応液を回収するプロトン反応液給排部を備えることとしても良い。
【0023】
このような構成とすれば、プロトン反応液中の物質と反応して安定化したプロトンをプロトン反応層から排出させると共に、プロトンと反応して安定な化合物を生じる物質をプロトン反応層に補充することができる。したがって、内部タンクから水素漏れが続く場合であっても、漏れ出した水素をプロトン化し、プロトン反応液中の物質と反応させて安定化させた上で排出する動作を継続することができるため、水素及びプロトンに起因する外部タンクの劣化を継続して抑制することができる。
【0024】
また、本発明の水素タンクにおいて、さらに、
前記プロトン反応層に対して、前記外部タンク側がプラス、前記内部タンク側がマイナスとなる電位を印加する電位印加部を備えることとしても良い。
【0025】
このような構成とすれば、プラスの電位が印加されている外部タンクと、プラスに帯電しているプロトンとの間に反発力が生じるため、プロトンの外部タンク側への移動を抑制することができる。したがって、プロトンに起因する外部タンクの劣化を抑制する効果を高めることができる。
【0026】
本発明は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、水素タンクにおける水素漏れ抑制方法や、水素タンクを備える燃料電池システムなどの形態で実現することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて以下の順序で説明する。
A.水素タンク10の構成:
B.プロトン反応層における反応:
C.変形例:
【0028】
A.水素タンク10の構成:
図1は、本発明の好適な一実施例である水素タンク10の構成の概略を現わす断面模式図である。本実施例の水素タンク10は、高圧の水素ガスを貯蔵するためのタンクである。図1に示すように、水素タンク10は、内部タンク20と、触媒金属層22と、プロトン反応層24と、外部タンク26と、コネクタ部28と、を備えている。このように、本実施例の水素タンク10は、内部タンク20および外部タンク26を備える二重構造とすることで、高圧の水素を貯蔵するタンクとしての機能、すなわち、強度および封じ込め性を確保している。なお、本実施例の水素タンク10は、燃料電池を駆動用電源として搭載する電気自動車に、燃料電池と共に搭載されており、燃料ガスとして燃料電池に供給するための水素を内部に貯蔵している。
【0029】
内部タンク20は、一端に開口部が形成された中空の容器であり、この内部の空間に高圧の水素ガスが充填されて、これを保持する。ここで、内部タンク20は、内部に充填される水素ガスに応じた強度を有する必要がある。また、内部タンク20は、水素に直接接触するため、比較的水素脆化し難い材料によって形成することが望ましい。そのため、内部タンク20は、例えば、異種金属同士を冶金的に一体化接合して成るクラッド鋼、あるいはクロム−モリブデン合金等の金属や、カーボン繊維等の樹脂によって形成することができる。
【0030】
触媒金属層22は、内部タンク20を覆って配置されており、水素分子がプロトン化する反応を促進する活性を有する金属の薄膜として形成されている。水素分子がプロトン化する反応を促進する活性を有する触媒金属としては、例えば、パラジウムや白金を挙げることができる。このような触媒金属層22は、例えば、内部タンク20の外表面を、上記触媒金属によってメッキすることにより形成することができる。
【0031】
プロトン反応層24は、液体を保持可能な含水性の保持部材と、この保持部材に含浸されると共に、プロトンと反応して安定な化合物を生じるプロトン反応性物質を含有するプロトン反応液と、を備えている。プロトン反応層24は、このように、プロトン反応性物質を利用した化学反応によってプロトンを消費することによって、内部タンク20から透過した水素が外部タンク26に達することにより引き起こされる外部タンク26の水素脆化を抑制するものである。保持部材は、液体であるプロトン反応液を内部に保持することができれば良く、例えば、液体を保持可能な多数の微細孔が内部に形成された多孔質体とすることができる。あるいは、保持部材は、フッ素系樹脂や炭化水素系樹脂から成ると共に、スルホン酸基などのイオン交換基を有し、湿潤状態でプロトン伝導性を示す吸湿性の固体高分子電解質によって構成することもできる。
【0032】
保持部材を多孔質体とする場合には、例えば、粒子状の多孔質体を用意して、これらの粒子を、内部タンク20と外部タンク26との間に形成される空間に充填し、充填した多孔質体粒子にプロトン反応液を含浸させることによってプロトン反応層24を形成すればよい。また、保持部材を固体高分子電解質とする場合には、例えば、固体高分子電解質にプロトン反応液を含浸させてゲル状と成し、このゲルを、内部タンク20と外部タンク26との間に形成される空間に充填することによってプロトン反応層24を形成すればよい。
【0033】
プロトン反応性物質は、プロトンと化学反応する物質であれば良く、このプロトン反応性物質を含有するプロトン反応液は、プロトン反応性物質とプロトンとが化学反応して生じた物質を、安定して保持することができればよい。本実施例では、プロトン反応性物質として酢酸ナトリウム(CH3COONa)を用いており、プロトン反応液として酢酸ナトリウム水溶液を用いている。プロトンとプロトン反応性物質との反応については、後に詳しく説明する。
【0034】
外部タンク26は、プロトン反応層24を覆って配置され、上記内部タンク20、触媒金属層22およびプロトン反応層24を内部に収容する中空の金属製容器であり、内部タンク20の開口部と重なる位置に、開口部を有している。水素タンク10では、外部タンク26の内側に水素ガスを充填するための既述した内部タンク20が設けられているが、外部タンク26は、水素タンク10において水素ガスの封じ込めを最終的に保証するための構造であり、内部タンク20内に充填される水素ガスのガス圧に応じた強度を有している。ここで、水素は、分子が極めて小さいため、既述した金属や樹脂によって内部タンク20を構成しても、例えば金属結晶内の拡散や微小な間隙を介した拡散により、長期的には、内部タンク20からの水素の漏れ出しが進行する。本実施例の水素タンク10では、タンクをこのような二重構造にすることによって、水素タンク10外部への水素ガスの漏れ出しを抑制している。内部タンク20から漏れ出した水素がさらに外部タンク26の壁面内を拡散することによる水素の漏れ出しを抑制する効果や、外部タンク26としての強度を考慮すると、外部タンク26は、金属製とすることが望ましい。特に、水素タンク10全体の軽量化のためには、軽量性と強度とを両立するチタンやジェラルミンによって外部タンク26を形成することが望ましい。
【0035】
コネクタ部28は、内部タンク20および外部タンク26の既述した開口部に嵌め込まれて、内部タンク20および外部タンク26を密閉するための部材であり、例えば、ステンレス鋼等の金属によって形成することができる。なお、コネクタ部28は、内部タンク20および外部タンク26の開口部に対して、図示しない絶縁性部材を介して嵌め込まれており、内部タンク20と外部タンク26とが、コネクタ部28を介して短絡することはない。
【0036】
また、水素タンク10においては、触媒金属層22に接続してアース30が設けられている。このアース30は、コネクタ部28を介して触媒金属層22に接続している。触媒金属層22において後述するように電子が発生すると、発生した電子はアース30によって触媒金属層22から排出される。
【0037】
また、水素タンク10には、内部タンク20と外部タンク26との間に電位を印加する電位印加部32が設けられている。電位印加部32によって、プロトン反応層24では、外部タンク26側がプラス(高電位)、内部タンク20側がマイナス(低電位)となるように、電位が印加される。
【0038】
さらに、水素タンク10には、プロトン反応層24に対してプロトン反応液を給排するためのプロトン反応液供給管34およびプロトン反応液排出管36が設けられている。このプロトン反応液供給管34およびプロトン反応液排出管36は、コネクタ部28を介してプロトン反応層24に接続されている。プロトン反応液供給管34は、さらに、プロトン反応液が貯蔵されたプロトン反応液タンクに接続されると共に、プロトン反応液タンクが貯蔵するプロトン反応液を加圧してプロトン反応層24に供給するためのポンプ38を備えている。プロトン反応液供給管34を介してプロトン反応液が加圧供給されることによって、プロトン反応層24内をプロトン反応液が流れ、プロトン反応層24内を流れたプロトン反応液は、プロトン反応液排出管36を介して水素タンク10外へと排出される。
【0039】
B.プロトン反応層における反応:
図2は、図1に示すA領域を拡大して、プロトン反応層24において進行する反応の様子を模式的に表わす説明図である。水素タンク10において、内部タンク20から水素が漏れ出すと、漏れ出した水素は、内部タンク20上に形成された触媒金属層22に至る。この触媒金属層22において、水素分子からプロトンと電子とが生じる。なお、内部タンク20内に貯蔵される水素ガスは、圧力が150〜350atm程度であって温度が70〜80℃程度となっている。また、水素分子が内部タンク20の壁面を透過して漏れ出す際にはさらに水素分子が発熱する。そのため、触媒金属層22に到達する水素分子は、80℃程度に昇温している。このように昇温した水素が到達することにより、触媒金属層22は充分な触媒活性を示し、触媒金属層22では、水素分子が滞ることなく、水素からプロトンを生じる反応が充分な速度で進行する。
【0040】
触媒金属層22上で生じたプロトンは、プロトン反応層24が備えるプロトン反応液内に溶解する。本実施例では、既述したように、プロトン反応液として酢酸ナトリウム水溶液を用いている。酢酸ナトリウムは、電離度が高い強塩基である水酸化ナトリウムと、電離度が低い弱酸である酢酸との塩である弱塩基性を示す塩である。したがって、酢酸ナトリウム水溶液中にプロトンが溶解すると、プロトンは酢酸イオンと結合して遊離酸である酢酸分子を生じる。このように、プロトンが酢酸イオンと結合して酢酸分子として安定化することにより、プロトンの外部タンク26への到達が抑制される。このとき、触媒金属層22において、プロトンと共に生じた電子は、アース30を介して水素タンク10の外部へと排出される。酢酸ナトリウムとプロトンとの反応を、以下の(1)式に示す。
【0041】
CH3COONa + H+ → CH3COOH + Na+ …(1)
【0042】
以上のように構成された本実施例の水素タンク10によれば、内部タンク20と外部タンク26との間に、触媒金属層22と、プロトン反応液を含浸するプロトン反応層24を備えるため、内部タンク20において水素漏れが生じた場合にも、漏れ出した水素をプロトン化してプロトン反応液中の酢酸イオンと結合させて、水素及びプロトンの外部タンク26への到達を抑制することができる。したがって、水素あるいはプロトンと接触することによる外部タンク26の水素脆化を抑え、水素タンク10全体の耐久性を向上させることができる。特に、外部タンク26を、軽量性および強度に優れたチタンやジェラルミンによって形成する場合には、外部タンク26は水素脆化の影響を受け易くなるが、触媒金属層22およびプロトン反応層24を設けることにより、これら優れた特性を有する金属を用いつつ、水素タンクの耐久性の向上を図ることができる。
【0043】
特に、本実施例の水素タンク10は、プロトンと反応可能な物質を、液体の状態で内部タンク20と外部タンク26との間に保持している。すなわち、プロトンと反応する酢酸イオンを生じる酢酸ナトリウムを、流動性のある水溶液の状態で保持部材に保持させている。そのため、内部タンク20からの水素の漏れ出しが特定部位で生じる場合であっても、漏れ出し部位近傍の酢酸イオンだけでなく、広くプロトン反応層24全体が備える酢酸イオンを利用して、生じたプロトンを反応させることが可能になる。したがって、特定部位において水素漏れが生じた場合にも、プロトンと反応可能な物質を固体の状体で保持する場合に比べて、プロトン反応層24においてより多くのプロトンを消費して、外部タンク26への水素あるいはプロトンの到達を、より長く遅らせることが可能となる。
【0044】
なお、内部タンク20の特定箇所で水素漏れが起こらなくても、内部タンク20の全体で、内部タンク20の外壁内を水素分子が拡散することにより経時的に微量の水素透過が進行し得る。この場合には、内部タンク20から漏れ出した水素は、それぞれの漏れ出し位置近傍の触媒金属層22でプロトンを生じて、プロトン反応層24全体でプロトンと酢酸イオンとが結合する反応が進行する。
【0045】
また、本実施例の水素タンク10によれば、触媒金属層22に接続してアース30が設けられているため、このアース30が、触媒金属層22から電子を外部に導く電子排出部として機能して、触媒金属層22における反応を促進することができる。すなわち、触媒金属層22で水素がプロトンと電子とに解離し、生じたプロトンがプロトン反応液中に溶解して酢酸イオンとの反応に供されるときに、アース30によって、触媒金属層22に残った電子を水素タンク10の外部へと排出することができる。したがって、触媒金属層22に電子が蓄積して、新たに水素がプロトンと電子とに解離する反応が抑制されることがない。なお、このように触媒金属層22から電子を外部に導く電子排出部は、アース以外によって構成しても良い。ただし、電力を消費する負荷を電子排出部として用いる場合には、このような負荷は抵抗として働き、電子の流れが抑制されてしまうため、抵抗を生じないという意味では、電子排出部はアースとすることが望ましい。
【0046】
さらに、本実施例の水素タンク10は、プロトン反応層24に接続して、プロトン反応液供給管34およびプロトン反応液排出管36が設けられている。このプロトン反応液供給管34を介してプロトン反応層24に対して新たに酢酸ナトリウム水溶液が供給されることによって、酢酸イオンが新たに補充され、プロトンと酢酸イオンとが結合する反応のさらなる継続が可能となる。また、このとき、漏れ出した水素から生じたプロトンを含む酢酸および残余のナトリウムイオンを含む液が、プロトン反応液排出管36を介して水素タンク10の外部へと排出されて、プロトン反応層24内では、酢酸イオンの濃度のレベルを常に維持することが可能になる。このように、プロトン反応層24における酢酸イオン濃度のレベルを維持することにより、内部タンク20からの水素の漏れ出しが継続する場合にも、水素及びプロトンの外部タンク26への到達を抑制する効果を維持することができる。したがって、外部タンク26の水素脆化を抑え、水素タンク10のさらなる耐久性向上が可能となる。なお、このような、プロトン反応層24に対して新たなプロトン反応液を供給すると共に、プロトン反応層を流れたプロトン反応液を回収するプロトン反応液給排部は、必須の構成要素ではない。プロトン反応層において、プロトンと反応して安定な化合物を生じるプロトン反応性物質を液体の状態で備えるならば、プロトンと反応可能な物質が流動性を有することによる既述した効果を得ることができる。
【0047】
また、プロトン反応層24には、既述したように、外部タンク26側がプラス、内部タンク20側がマイナスとなるように、電位印加部32によって電位が印加されている。このように電位を印加すると、プラスの電位が印加されている外部タンク26と、プラスに帯電しているプロトンとの間では、反発力が生じる。そのため、内部タンク20から漏れ出した水素から触媒金属層22で生じたプロトンが、プロトン反応層24において酢酸イオンと結合せずに遊離の状態で存在することがあっても、上記反発力によって、プロトンの外部タンク26への到達を抑制することができる。なお、電位印加部32は、プロトン反応層24に対して電位を掛けることができれば良く、例えば、内部タンク20が絶縁性材料で形成される場合には、内部タンク20表面に形成された触媒金属層22と外部タンク26との間に電位を印加すればよい。また、電位印加部32は必須の構成要素ではなく、電位印加部32を設けない場合であっても、プロトン反応液を備えるプロトン反応層24を設けることによる既述した効果を得ることができる。
【0048】
さらに、本実施例の水素タンク10によれば、プロトン反応層24が備えるプロトン反応液として、特有の臭気を有する酢酸を生じる酢酸ナトリウム水溶液を用いているため、例えば内部タンク20において微細な亀裂が生じることによりある程度以上の量の水素漏れが起こる場合には、この臭気によって水素漏れを知ることが可能になるという効果を奏する。すなわち、内部タンク20が損傷して水素漏れが起こり、プロトン反応層24において酢酸が生じると、生じた酢酸の一部は内部タンク20内へと侵入する。本実施例のように、水素タンク10に貯蔵する水素を燃料電池に供給する燃料ガスとして用いる場合には、内部タンク20に入りこんだ酢酸は、内部タンク20内の水素と共に燃料電池に供給される。酢酸は、燃料電池における電気化学反応で利用されないため、そのまま燃料電池から排出される。そのため、燃料電池から排出されるアノード排ガスの少なくとも一部が、燃料電池の外部、すなわち大気中へと放出されると、アノード排ガスが有する酢酸臭によって、水素漏れを知ることができる。
【0049】
このように、酢酸臭によって内部タンク20からの水素漏れを知るためには、プロトン反応層24が備えるプロトン反応液は、酢酸ナトリウム以外の酢酸塩を含む水溶液としても良い。酢酸ナトリウムと同様に、強塩基と、弱酸である酢酸との塩から成る水溶液であればよい。例えば、プロトン反応液として、酢酸カルシウム水溶液や、酢酸カリウム水溶液を用いることができる。
【0050】
なお、図2は、水素タンク10の壁面の様子を模式的に表わすものであり、触媒金属層22を例えばメッキによって内部タンク20表面に直接成膜する場合には、内部タンク20と触媒金属層22との間に図2に示すような空隙は生じない。しかしながら、図2に示すように、触媒金属層22を、内部タンク20との間に所定の距離をおいて形成しても良い。触媒金属層22を、内部タンク20を覆うように形成することで、触媒金属層22によって、内部タンク20から漏れ出した水素を、プロトン反応層24に到達するのに先立ってプロトン化することができる。
【0051】
ここで、触媒金属層22を、パラジウム(Pa)のように水素透過性能を有する金属によって形成する場合には、触媒金属層22は、緻密な薄膜として形成すればよい。このような構成とすれば、内部タンク20から漏れ出して触媒金属層22に到達した水素分子は、プロトンに解離すると共に触媒金属層22内を透過し、プロトン反応層24側へと放出される。また、触媒金属層22を、白金(Pt)のように水素透過性能の低い、あるいは水素透過性を実質的に有しない金属によって形成する場合には、触媒金属層22は、多孔質な薄膜として形成すればよい。このような構成とすれば、内部タンク20から漏れ出して触媒金属層22に到達した水素分子は、触媒金属層22に形成された微細孔を介してプロトン反応層24側へと移動する際に、触媒金属層22表面においてプロトンと電子とに解離する。
【0052】
C.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0053】
C1.変形例1:
プロトン反応層24が備えるプロトン反応液は、酢酸塩以外の塩溶液であっても良い。強塩基と弱酸との塩の水溶液であれば、弱酸のイオンとプロトンとが結合することによって、触媒金属層22で生じたプロトンを遊離酸として安定化させることができる。したがって、外部タンク26への水素及びプロトンの到達を抑制する同様の効果を得ることができる。
【0054】
また、強塩基と弱酸との塩の溶液以外であっても、プロトンと反応して安定な化合物を生じる溶液であれば、プロトン反応液として用いることができる。例えば、水酸化ナトリウムの高濃度溶液など、水素よりもイオン化傾向が強い金属の水酸化物溶液を用いることができる。このような場合には、内部タンク20から水素が漏れ出してプロトン反応液にプロトンが供給されると、プロトンは、水素よりもイオン化傾向の強い金属のイオンに優先して水酸化物イオンと結合し、安定な水を生じる。
【0055】
C2.変形例2:
実施例では、水素タンク10が備える外部タンク26を金属製としたが、異なる構成としても良い。例えば、樹脂を用いて外部タンクを構成することができる。金属以外の材料によって外部タンク26を形成する場合であっても、本願構成を適用することにより、水素あるいはプロトンに起因する外部タンク26の劣化を抑制する同様の効果が得られる。
【0056】
C3.変形例3:
実施例では、水素タンク10は、高圧の水素ガスを貯蔵するタンクとしたが、異なる構成としても良い。例えば、内部タンク20内に、水素吸蔵合金をさらに備え、気体の状態で貯蔵する他、水素吸蔵合金中に吸蔵させることによって水素を貯蔵するタンクとしても良い。あるいは、水素タンク10を、液体水素を貯蔵するタンクとしても良い。内部タンクと外部タンクとを備え、水素を貯蔵する内部タンク20から気体の水素が漏れ出す可能性のある水素タンクであれば、本発明を適用することにより、水素あるいはプロトンに起因する外部タンクの劣化を抑えて水素タンクの耐久性を向上させる同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】水素タンク10の構成の概略を現わす断面模式図である。
【図2】プロトン反応層24において進行する反応の様子を模式的に表わす説明図である。
【符号の説明】
【0058】
10…水素タンク
20…内部タンク
22…触媒金属層
24…プロトン反応層
26…外部タンク
28…コネクタ部
30…アース
32…電位印加部
34…プロトン反応液供給管
36…プロトン反応液排出管
38…ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を貯蔵する水素タンクであって、
内部に水素を貯蔵するための空間が形成された内部タンクと、
前記内部タンクの外側を覆うと共に、水素分子がプロトン化する反応を促進する活性を有する金属薄膜から成る触媒金属層と、
前記触媒金属層を覆うと共に、プロトンと反応して安定な化合物を生じる物質を含有するプロトン反応液と、該プロトン反応液を保持する保持部材と、を備えるプロトン反応層と、
前記プロトン反応層を覆う外部タンクと
を備える水素タンク。
【請求項2】
請求項1記載の水素タンクであって、
前記触媒金属層は、パラジウム層である
水素タンク。
【請求項3】
請求項1または2記載の水素タンクであって、さらに、
前記触媒金属層に接続して設けられ、前記触媒金属層で水素分子がプロトン化する際に生じる電子を前記触媒金属層の外部に導く電子排出部を備える
水素タンク。
【請求項4】
請求項3記載の水素タンクであって、
前記電子排出部は、アースである
水素タンク。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか記載の水素タンクであって、
前記プロトン反応液は、弱酸と強塩基とから成る塩を含有する
水素タンク。
【請求項6】
請求項1ないし5いずれか記載の水素タンクであって、
前記プロトン反応液は、プロトンと反応することで特有の臭気を発する物質を生じる物質を含有する
水素タンク。
【請求項7】
請求項5または6記載の水素タンクであって、
前記プロトン反応液は、酢酸と強塩基とから成る酢酸塩の溶液である
水素タンク。
【請求項8】
請求項1ないし4いずれか記載の水素タンクであって、
前記プロトン反応液は、水素よりもイオン化傾向の強い金属の水酸化物溶液である
水素タンク。
【請求項9】
請求項1ないし8いずれか記載の水素タンクであって、さらに、
前記プロトン反応層に対して新たな前記プロトン反応液を供給すると共に、前記プロトン反応層内を流れた前記プロトン反応液を回収するプロトン反応液給排部を備える
水素タンク。
【請求項10】
請求項1ないし9いずれか記載の水素タンクであって、さらに、
前記プロトン反応層に対して、前記外部タンク側がプラス、前記内部タンク側がマイナスとなる電位を印加する電位印加部を備える
水素タンク。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−278482(P2007−278482A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−109327(P2006−109327)
【出願日】平成18年4月12日(2006.4.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】