説明

水素吸蔵合金、水素吸蔵合金電極及びニッケル水素二次電池

【課題】 水素の吸蔵・放出特性を良好に維持しつつ低コスト化を図ることができる水素吸蔵合金を提供する。
【解決手段】 一般組成式:RE(1−x)MgNiAl(但し、式中REはLa,Ce等からなる群より選択される1種又は2種以上の元素であり、添字x、y、zはそれぞれ、0.05≦x≦0.2、4.0≦y≦4.4、0.1≦z≦0.3で示される範囲にある。)で表される組成を有し、CaCu型結晶構造を有する相が全組成の40〜90重量%、CeCo19型結晶構造を有する相が全組成の5〜39重量%、PrCo19型結晶構造を有する相が全組成の3〜20重量%であることを特徴とする水素吸蔵合金。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素吸蔵合金、水素吸蔵合金電極及びニッケル水素二次電池に関し、より詳しくは、一般組成式:RE(1−x)MgNiAlで表される組成を有する水素吸蔵合金、これを備える水素吸蔵合金電極及びニッケル水素二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
水素吸蔵合金は、水素を吸蔵・放出することができることから、エネルギー変換材料やエネルギー貯蔵材料として広く注目されている。また、水素吸蔵合金を負極に採用したアルカリ二次電池、特にニッケル水素二次電池は、最も水素吸蔵合金の実用化が進んでいる分野であり、携帯用、電気自動車、ハイブリッド車、産業用等の広範囲にわたって利用されている。ニッケル水素二次電池は、ニッケル−カドミウム二次電池に代わって実施化された蓄電池であり、ニッケル−カドミウム二次電池と比較すると、低公害、高容量等の特徴を有する。
【0003】
現在、主流のニッケル水素二次電池用の負極としては、MmNi系(AB系)水素吸蔵合金が既に実用化されている(Mm=La、Ce、Pr、Nd等の混合希土類元素)。AB系水素吸蔵合金の結晶構造は、CaCu型相を主たる結晶構造とし、MmNiのNiの一部をAl、Mn等の元素で置換している。該水素吸蔵合金の製法の一例を挙げれば、希土類の混合物Mm(La、Ce、Nd、Pr、及び他の希土類元素)、Al、Mn、Ni、Cu等を、合金組成が目的組成になるように各金属試料を秤量・調合し、該混合物を高周波溶解炉にて、不活性ガス雰囲気下、加熱溶解して得られることが知られている。
【0004】
さらに、MmNi系水素吸蔵合金にCoを含有させることで、水素吸蔵・放出サイクル寿命特性を向上させることができる。しかし、Coは高価であり、製造コストを上昇させる原因となっている。さらに、該系合金は、充放電初期の特性が劣っており、正極容量の2倍以上に相当する負極を搭載した電池であっても、負極容量規制になり、所定の放電容量が得られない問題があった。この問題は、合金負極の充放電サイクル初期充電効率が劣っているため、正極が充電を完了し、酸素を発生させる状態になっても、負極では、正極と同程度の充電がなされていことが原因である。酸素発生後は負極の充電反応よりも、正極及び負極から発生した酸素及び水素が水に変化する反応が優先的に進むため、正極よりも少ない容量となり、放電で負極規制となる。この様な状態では、正極規制の場合に比べて、電池電圧はやや低く、放電容量も少なくなる。また、場合によっては、充放電を繰り返すと、合金中に含まれるCoやMn等の元素がアルカリ電解液中に溶出し、セパレータ等に付着して微小短絡を引き起こすため、電池容量の低下や自己放電特性の低下が生じる。
【0005】
一方で、AB系合金の希土類元素の一部をMgで置換した希土類−Mg−Ni系合金が開発されている。希土類−Mg−Ni系合金は、常温付近で水素ガスを多量に吸蔵することができるが、耐アルカリ性が低いため、電池サイクル寿命特性が乏しい問題があった。そこで、特許文献1や特許文献2には、希土類−Mg−Ni系合金の希土類成分をLaやCeの含有量を制限することで、水素吸蔵合金に耐アルカリ性を付与することができるとしている。しかし、LaやCeの含有量を厳密に制御するためには、原材料として純粋なLaやCeが必要とされる。そのため、従来のAB系合金を作製する際に使用していた安価なMm(ミッシュメタル)を直接使用することができないため、製造コストが高いという問題がある。
【0006】
そこで、特許文献3では、(LaPrNd1−xMgNiAl(但し、AはLa、Pr、Nd以外の希土類元素であり、添字a、b、c、dがそれぞれ、0.4≦a、0<b、0≦c、0≦d、c<b≦a、a+b+c+d=1で示される関係を満たし、添字x、y、zがそれぞれ、0.10≦x≦0.25、0.05≦z≦0.35、3.0≦y+z≦4.0)にて示される組成の水素吸蔵合金が、高容量で良好なサイクル寿命特性を有する旨が提案されている。ここで、Mg原子の数xは0.1≦x≦0.25、Al原子の数zは0.05≦z≦0.35であり、上記に示される範囲に設定することで、合金容量の低下を抑制し、且つ、合金の耐食性を向上させることができるとしている。加えて、AサイトとBサイトの比率を表すyとzとの和が3.0≦y+z≦4.0で示される範囲に設定される理由として、y+zが小さくなりすぎると、水素吸蔵合金内における水素の吸蔵安定性が高くなるため、水素放出能が劣化する一方、y+zが大きくなりすぎると、今度は水素吸蔵合金における水素の吸蔵サイトが減少して水素吸蔵能の劣化が起こり始めるためであると説明されている。
【0007】
しかし、自然界で産出される希土類元素の鉱物がPrよりNdを多く含むのに対し、特許文献3に開示された組成で表される水素吸蔵合金はNdよりPrがリッチであることが必要とされるため、安価なLaを主成分(0.4≦a)としても、結局は純粋なPrが必要となることは避けられず、材料コストの低減が困難であるという問題がある。
【0008】
また、水素吸蔵合金をニッケル水素二次電池の負極として使用する場合、一般に水素吸蔵合金の粒子表面には容量低下の原因となる酸化膜が存在するため、本来の電池容量を得るために活性化を行い、酸化皮膜を除去する必要がある。ニッケル水素二次電池を製造し、出荷する前に行われる活性化の工程(活性化処理)は、コストダウンの観点から時間の短縮が要望されている。通常、この活性化処理は、数十サイクルもの充放電を繰り返すか、0.1〜0.2C率のような緩充電−同じく緩放電を数回繰り返して行う(0.1〜0.2C率とは、電池の全容量を5〜10時間で放電又は充電できるだけの電流量である)。しかし、それでは1日以上の時間を要することから、活性化処理の時間等の短縮化が求められている。そこで、充放電サイクル数を極力減らすことを目的として、水素吸蔵合金を酸処理し、合金粒子表面に存在する酸化被膜を除去する表面改質処理方法が特許文献4に提案されている。
【0009】
しかし、酸処理による表面改質処理は、水素吸蔵合金に付着している処理液を除去するための水洗工程を後工程として設けなければならず、製造コストの増大を招くおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−290473号公報
【特許文献2】特開2006−040847号公報
【特許文献3】特開2008−208428号公報
【特許文献4】特開平5−225975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の事情に鑑みなされたものあって、水素の吸蔵・放出特性を良好に維持しつつ低コスト化を図ることができる水素吸蔵合金を提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明は、このような水素吸蔵合金を電極として用いることで、放電容量及びサイクル寿命特性を良好に維持しつつ、高率放電特性及び自己放電特性に優れるニッケル水素二次電池を低コストで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
我々は、一般組成式:希土類(1−x)MgNiAlで示される水素吸蔵合金の結晶構造に注目し、添字x、y、zの値をそれぞれ所定の範囲に設定して、CaCu型結晶構造を有する相を主相とする2以上の結晶相の含有割合をそれぞれ所定の範囲とすることで、優れた特性が得られることを明らかにした。
【0014】
即ち、本発明は、下記の水素吸蔵合金、水素吸蔵合金電極及びニッケル水素二次電池を提供するものである。
【0015】
項1:
一般組成式:
RE(1−x)MgNiAl
(但し、式中REはLa,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luからなる群より選択される1種又は2種以上の元素であり、添字x、y、zはそれぞれ、0.05≦x≦0.2、4.0≦y≦4.4、0.1≦z≦0.3で示される範囲にある。)で表される組成を有し、
CaCu型結晶構造を有する相が全組成の40〜90重量%、CeCo19型結晶構造を有する相が全組成の5〜39重量%、PrCo19型結晶構造を有する相が全組成の3〜20重量%であることを特徴とする水素吸蔵合金。
項2:
CeCo19型結晶構造のa軸長さ、及び、PrCo19型結晶構造のa軸長さの、CaCu型結晶構造のa軸長さとの差が、いずれも±0.02Åの範囲にあることを特徴とする項1に記載の水素吸蔵合金。
項3:
全ての結晶相の結晶構造のa軸長さが、いずれも4.95〜5.05Åの範囲に存在し、
CaCu型結晶構造のc軸長さが、3.98〜4.02Åの範囲に存在することを特徴とする項1又は2に記載の水素吸蔵合金。
項4:
濃度が0.1mol/L〜10mol/Lの苛性アルカリ水溶液を用いて、温度60〜100℃でアルカリ加熱処理を施した項1から3のいずれか1項に記載の水素吸蔵合金。
項5:
残留磁化値が0.5〜0.9emu/gの範囲に存在することを特徴とする項4に記載の水素吸蔵合金。
項6:
項1から5のいずれか1項に記載の水素吸蔵合金からなる粒子と、前記粒子を保持した導電性を有する芯体とを備えることを特徴とする水素吸蔵合金電極。
項7:
項6に記載の水素吸蔵合金電極を負極として具備したことを特徴とするニッケル水素二次電池。
【発明の効果】
【0016】
本発明の水素吸蔵合金によれば、水素の吸蔵・放出特性を良好に維持しつつ低コスト化を図ることができる。
【0017】
また、このような水素吸蔵合金をニッケル水素二次電池用の負極として具備することで、放電容量及びサイクル寿命特性を良好に維持しつつ、高率放電特性及び自己放電特性に優れるニッケル水素二次電池を低コストで提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例及び比較例のPCT特性を示す図である。
【図2】実施例及び比較例の放射光XRDパターンを示す図である。
【図3】試験セルの概略構成図である。
【図4】実施例及び比較例の充放電寿命特性を示す図である。
【図5】実施例及び比較例の放電レートと平均電圧の関係を示す図である。
【図6】実施例の残留磁化とアルカリ処理条件の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る水素吸蔵合金の一般組成式は、
RE(1−x)MgNiAl・・・(1)
で表される。
【0020】
ここで、式(1)中のREは、希土類元素であるLa,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luからなる群より選択される1種又は2種以上の元素である。
【0021】
REは、Laを含み、更にLa以外の希土類元素を1種又は2種以上含むことが好ましい。この場合、水素吸蔵合金の一般組成式を、
(LaR1(1−x)MgNiAl・・・(2)
で表すことができる。(但し、R1は、La以外の前記希土類元素群から選択される1種又は2種以上の元素。また、a+b=1)
【0022】
式(2)中の添字aは、好ましくは0.45≦a≦0.95、より好ましくは0.5≦a≦0.9、更に好ましくは、0.6≦a≦0.8である。希土類中に含まれるLaの割合が小さすぎると、水素吸蔵合金を負極として使用した場合に高温下における放電容量が不十分となり易い。すなわち、aの値を0.45以上とすることで、希土類全体の水素化熱の絶対量(△H )が低下して、水素吸蔵合金全体の平均解離圧を低下させることができ、高温下での放電容量の低下を抑制することができる。また、低コスト化の点からも、Laの割合を高めることが有利である。
【0023】
一方、希土類中に含まれるLaの割合が増加すると水素吸蔵量が増大するが、aの値が大きすぎると、得られる水素吸蔵合金の結晶相が分相しやすくなるため、水素吸蔵放出特性を良好に維持し難くなる。
【0024】
また、式(2)におけるLa以外の希土類元素R1の添字bについては、例えば、Ceの場合はb≦0.5、Prの場合はb≦0.15、Ndの場合はb≦0.5の範囲にするのが良く、それぞれ0<b≦0.5(Ceの場合)、0.01≦b≦0.15(Prの場合)、0.05≦b≦0.5(Ndの場合)の範囲にするとさらに良い。これらの元素(Ce、Pr、Nd)は、いずれもLaよりも大きな水素化熱(ΔH)を有するため、大きすぎると水素吸蔵圧が上昇し、これに伴って水素吸蔵量が減少する。また、Ndは、例えばNd−Fe−B系磁石の原料としての需要が高く高価であるため、このような元素を多用することは工業的にコスト高となり、経済的に好ましくない。その他、Smは、例えばSm−Co系磁石の原料として、Tbは、蛍光体の原料としての需要が高く高価である。
【0025】
上記式(1)及び(2)中、Mg、Ni、Alの各添字x、y、zは、それぞれ0.05≦x≦0.3、4.0≦y≦4.4、0.1≦z≦0.3で示される範囲にある。ここで、xが、0.05未満であると、得られる水素吸蔵合金の結晶構造に超格子相(CeNi型、CeCo19型やPrCo19型)が含まれにくく、水素吸蔵時に結晶構造が崩壊しアモルファス化する。よって、電池の負極として用いた場合、サイクル寿命特性が乏しくなる。一方、xが0.3より大きいと、水素吸蔵し難くいMgNiラーベス相の偏析が大きくなり、水素吸蔵量の低下及び、サイクル寿命特性の劣化を引き起こす。より好ましいxの範囲は、0.1≦x≦0.2である。
【0026】
また、yが4.0未満であると、水素吸蔵量の低下や放電電圧が低くなる。yが4.4を超える場合は、MgやAlを添加した効果が弱くなる。zが0.1未満であると、得られる水素吸蔵合金は格子間隔が小さい結晶構造となるので、水素解離圧が高くなる。そのため、電池として組んだ際に、負極の水素量が減少するばかりか、サイクル寿命特性が乏しくなる。逆にzが0.3を超えると、水素解離圧は低下するが、結晶構造の格子間隔が過剰に拡大し、平衡解離圧が低下して水素吸蔵量が低下する。
【0027】
y及びzをそれぞれ上記範囲に設定することで、AサイトとBサイトの比率を表すyとzの和は、4.1〜4.7で示される範囲となる。y+zが小さすぎると、必要となる希土類、特にNd、CeやPrの量が増えるため、合金の水素吸蔵安定性が高くなり水素放出能が劣化するだけでなく、材料コストも高くなる。逆に、y+zが大きくなりすぎると、合金の水素吸蔵サイトが減少して水素吸蔵能が劣化する。好ましいy+zは、4.2〜4.7であり、より好ましくは、4.25〜4.5である。
【0028】
以上の理由から、希土類中のLaを増加させ、Niの一部をAlで適当量置換することにより、水素吸蔵量が大きく、且つ、平衡解離圧の小さい水素吸蔵合金を得ることができる。もともと、水素酸化還元電位よりも卑な平衡電位を有するAlやLa等の元素は、電解液であるアルカリ水溶液中で溶出するため、合金が劣化する。したがって、Alを添加し、さらにLa量を増加すると、得られる水素吸蔵合金が劣化し易くなる。そこで、水素吸蔵合金中にMgを含ませることで、電極特性の低下が抑制される。
【0029】
合金の製造方法の一例を述べると、例えば、La、Pr、Nd、Mg、Ni、Alの各金属原料を目的の組成になるよう調整し、高周波加熱装置を用いて不活性雰囲気下で加熱処理を施した後、溶解した所定原料を冷却凝固する。そして、目的とする結晶相を所望の割合で生成させるために、不活性雰囲気下で熱処理を施し、熱処理温度(800〜1200℃)及び熱処理時間(5〜20時間)を制御することで、結晶構造が異なる2種以上の結晶相を有するインゴット状の水素吸蔵合金を得ることができる。
【0030】
上記のように、一般組成式:RE(1−x)MgNiAl(但し、REは、La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luからなる群より選択される1種又は2種以上の元素)で表した場合の組成比x、y、zを、それぞれ上記の数値範囲に設定して合金を生成すると、得られる水素吸蔵合金は、例えばCaCu型結晶構造を有する相及びCeCo19型結晶構造を有する相の2相を含んだもの、CaCu型結晶構造を有する相及びPrCo19型結晶構造を有する相の2相を含んだもの、CaCu型結晶構造を有する相、CeCo19型結晶構造を有する相及びPrCo19型結晶構造を有する相の3相を含んだものとなる。
【0031】
各結晶相の含有割合は、不活性雰囲気下の熱処理条件(特に、熱処理温度)を制御することで、調整することができる。例えば、CaCu型結晶構造を有する相の割合を大きくして、CeCo19型結晶構造やPrCo19型結晶構造を有する相の割合を小さくするためには、熱処理温度を比較的高く(1100〜1200℃)する。一方、CaCu型結晶構造を有する相の割合を小さくして、CeCo19型結晶構造やPrCo19型結晶構造を有する相の割合を大きくするためには、熱処理温度を比較的低く(800〜1000℃)する。
【0032】
各結晶相は、CaCu型結晶構造を有する相を主相とし、CaCu型結晶構造を有する相が40〜90wt%、CeCo19型結晶構造を有する相が5〜39wt%、PrCo19型結晶構造を有する相が3〜20wt%の範囲にあることを必要とする。特に、CaCu型が45〜85wt%、CeCo19型が6〜35wt%、PrCo19型が6〜15wt%の範囲で存在することが好ましい。本明細書において、主相とは、合金を構成する結晶相のうち存在割合(重量比)が最も大きいものをいう。尚、CeNi型結晶構造など他の結晶構造を有する相を含んでもかまわない。
【0033】
各結晶相の重量比を上記範囲に設定することで、金属原子間の隙間の大きさを調整することができ、上記組成で表される合金の平衡水素圧を最適化できることが明らかになった。具体的には、水素吸蔵合金が有するCaCu型結晶構造のa軸長さに対して、CeCo19型結晶構造のa軸長さ、及び、PrCo19型結晶構造のa軸長さを略等しくすることが可能になった。また、CaCu型結晶構造の格子定数c軸長さを、従来のMmNi系(AB5型)水素吸蔵合金のCaCu型結晶構造の格子定数c軸長さと比較して小さくすることが可能になった。このように格子定数を最適化した水素吸蔵合金は、電気化学的に水素を多量に吸蔵することができると共に、水素を多量に放出することが可能になった。
【0034】
主相であるCaCu型結晶構造の格子定数c軸長さの範囲は、3.980〜4.020Åの範囲内が好ましく、3.982〜4.01Åの範囲内がより好ましい。また、CaCu型結晶構造の格子定数a軸長さと、CeCo19型及びPrCo19型結晶構造の格子定数a軸長さとの差が、いずれも±0.02Åの範囲内であることが好ましく、±0.01Åの範囲内であることがより好ましい。また、各結晶構造のa軸長さは、4.95〜5.05Åであることが好ましく、4.97〜5.03Åであることがより好ましい。
【0035】
各結晶相の重量比やa軸長さ及びc軸長さは、例えば、大型放射光施設「SPring−8」によりX線回折パターンを測定し、リートベルト(Rietveld)法により構造解析を行うことで、求めることができる。
【0036】
CaCu型の存在が90wt%を超えると、CaCu型の格子定数c軸長さが小さくなりにくい。逆に、40wt%未満であると、CaCu型の格子定数c軸長さが大きくなりにくい。つまり、格子定数a軸長さやc軸長さを上記範囲とすることで、金属原子間の隙間の大きさが調整され、上記組成で表される合金の平衡水素圧が最適化される。例えば、合金の格子定数a軸やc軸の値が大きいと、単位格子体積が大きくなり、単位格子を構成する金属原子間の隙間は増大する。隙間が大きいと金属格子中に水素が入り易くなるが、水素を保持しにくくなる。よって、合金の単位格子の体積が大きいほど、平衡水素解離圧は低くなる。逆に、合金の格子定数a軸やc軸の値が小さいと、単位格子の体積が小さくなり、単位格子を構成する金属原子間の隙間は小さくなる。隙間が小さいと金属原子は密に詰まった状態となっているため、水素を保持しやすくなるが、金属格子中に水素が入り難くなる。よって、合金の単位格子の体積が小さいほど、平衡水素解離圧は高くなる。
【0037】
インゴット状の水素吸蔵合金は、不活性雰囲気下でクラッシャーにより粗粉砕し、続いて不活性雰囲気下でピンミルを用いて乾式粉砕することで、水素吸蔵合金の粉末状の粒子を得ることができる。この粒子は、製造工程における処理中の雰囲気や原料等の含有酸素の影響から、製造された合金表面にMgOが含有している場合がある。したがって、得られた粒子を水素吸蔵合金電極として用いる場合、負極活物質に含まれたMgOが電解液に溶出することで電解液が劣化しやすく、電池の寿命に影響する。
【0038】
そのため、水素吸蔵合金にアルカリ加熱処理を施して、合金表面に存在するMgOを除去し、電解液の劣化を防ぐことが好ましい。アルカリ加熱処理は、水素吸蔵合金を、粒状(粉末状)のまま或いは電極形成後に苛性アルカリ水溶液に浸漬させて煮沸すればよい。苛性アルカリ水溶液は、NaOH、KOH、LiOH等が挙げられ、濃度は0.1〜10mol/Lが好ましく、2〜8mol/Lがより好ましい。0.1mol/L未満の濃度であると、完全にMgOが除去されないおそれがある一方、10moLを超える高濃度であると、MgOのみならず、合金そのものまで溶解するおそれがある。処理時間は、0.1〜4時間が好ましい。0.1時間未満であると再現性が乏しく、4時間を超える過処理はMgOのみならず、合金そのものまで溶解するおそれがある。加熱処理温度は、後述するように、60〜100℃の範囲に設定することが好ましく、約80℃に設定することがより好ましい。また、後述するように、合金の残留磁化値が0.5〜0.9emu/gの範囲内が好ましく、0.6〜0.8emu/gがより好ましい。ここで、残留磁化値は、振動試料型磁力計(VSM)を用い、18koeの外部磁場を与えた時の値である。
【0039】
本発明の水素吸蔵合金は、アルカリ電池用の負極、例えば、ニッケル−水素二次電池用負極活物質、空気−水素二次電池等として有効に使用することができる。この水素吸蔵合金を用いた負極は、通常の電池と同様の構造とすることができる。例えば、ニッケル−水素二次電池では、水素吸蔵合金を活物質とする負極と正極との間に電気絶縁性を有するセパレータを介して電槽缶内に収容し、アルカリ電解液を充填して構成することができる。
【0040】
前記負極は、以下に説明するペースト式および圧着式(非ペースト式)のものが採用できる。
【0041】
ペースト式水素吸蔵合金電極は、上記水素吸蔵合金を粉砕することにより得た水素吸蔵合金粉末と結着剤と必要に応じて添加される導電性粉末とを混合してペースト状とし、このペーストを集電体に塗布、充填、乾燥した後、ローラープレス等で圧延することにより製造できる。
【0042】
圧着式水素吸蔵合金電極は、上記水素吸蔵合金粉末と結着剤と必要に応じて添加される導電性粉末とを撹拌し、集電体に塗着した後、ローラープレス等で圧延することにより製造できる。
【0043】
水素吸蔵合金の粉砕方法は、例えばボールミル、パルペライザー、ジェットミル等の機械的粉砕方法、または高圧の水素ガスを吸蔵・放出させ、その際の体積膨張により粉砕する方法が採用することができる。
【0044】
結着剤は、例えば、ポリアクリル酸ソーダ、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルアルコール(PVA)、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、等を挙げることができる。このような結着剤は、前記水素吸蔵合金100wt%に対して0.1〜5wt%で配合することが好ましい。ただし、圧着式水素吸蔵合金電極を作製する場合は、撹拌により繊維化して前記水素吸蔵合金粉末および必要に応じて添加される導電助剤を網目状に固定することが可能なポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を結着剤として用いることが好ましい。
【0045】
導電助剤は、導電性を有する粉末であればよく、例えば黒鉛粉末、カーボンブラック等の炭素材料、またはニッケル、銅などの金属粉末を挙げることができる。このような導電助剤は、前記水素吸蔵合金100wt%に対して0.1〜5wt%の範囲で配合することが好ましい。
【0046】
集電体は、例えばパンチングメタル、エキスパンドメタル、金網等の二次元基板、箔状、板状、または発泡金属基板、網状焼結繊維基板、織布・不織布へ金属をめっきした基板等の三次元基板等を挙げることができる。ただし、圧着式水素吸蔵合金電極を作製する場合には、水素吸蔵合金粉末を含む合剤が塗着されることから二次元基板を導電性基板として用いることが好ましい。
【0047】
上述した水素吸蔵合金電極と組み合される正極は、汎用のものが用いられる。例えば、公知の正極として、非焼結式ニッケル正極がある。非焼結式ニッケル正極は、例えば水酸化ニッケルと必要に応じて添加される水酸化コバルト(Co(OH))、一酸化コバルト(CoO)、金属コバルト等との混合物にカルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリル酸ソーダなどのポリアクリル酸塩を適宜配合してペーストとし、このペーストを発泡金属基板、網状焼結繊維基板、不織布へ金属をめっきしたフェルトめっき基板などの三次元構造の基板に充填し、乾燥した後、ローラープレス等により圧延することにより製造することができる。
【0048】
セパレータは電気絶縁性を有し、水酸化物イオンが透過できればよい。たとえば、ナイロン、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)などの単体高分子繊維、またはこれら高分子繊維に親水化処理を施したもの、及びこれらの繊維を混紡した複合高分子繊維を挙げられる。
【0049】
アルカリ電解液としては、例えば20〜40wt%の濃度を有する水酸化カリウム溶液または前記水酸化カリウム溶液に水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどを混合したものが使用される。
【0050】
本発明の一実施例によれば、合金中にMnや高価なCoが含有せず、水素の吸蔵特性に優れた結晶構造を有するCaCu型を主相とし、その格子定数a軸長さが4.95〜5.05Å、c軸長さが3.98〜4.02Åの水素吸蔵合金が得られる。当該水素吸蔵合金をニッケル水素二次電池用の負極として具備することで、自己放電の少ない高い容量維持率を有し、且つ放電電圧が高く、初期活性化が非常に早い電池が得られる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
La、Pr、Nd、Mg、Ni、Alの各金属原料を表1に示した所定組成となるよう秤量し、高周波加熱装置を用いて、アルゴンガス雰囲気下で、所定の金属原料が溶解するまで加熱処理を施した。溶解した所定原料を水冷式鋳造板上に流し込んで、冷却凝固を行った。これを、アルゴンガス雰囲気下で、目的とする結晶相を適切な割合で生成させるために、熱処理温度(1000℃)及び熱処理時間(6時間)を制御して、目的とする結晶相を有する合金インゴットを得た。得られた合金インゴットは、アルゴンガス雰囲気下でクラッシャーにより粗粉砕し、続いてアルゴンガス雰囲気下でピンミルを用いて乾式粉砕し、平均粒径約40μmの合金粉末を得た(実施例1〜11及び比較例1〜4、6)。比較例5は、従来のAB5系合金(MmNi3.7Co0.7Mn0.3Al0.3)を、上記と同様に粉砕して粉末状にしたものであり、表1にはB/A値のみを示している。
【0053】
比較例7は、熱処理温度を700℃にした他、実施例4と同様である。
【0054】
比較例8は、熱処理温度を1300℃にした他、実施例4と同様である。
【0055】
【表1】

【0056】
表1において、Aサイトは、合金全体に占めるMgの原子量比を10%に固定した上でLaとPr及びNdとの原子数比を示している。PrとNdとの原子数比は1:4として、自然界で産出される希土類元素の鉱物と同様に、PrよりもNdが多くなるように設定した。一方、Bサイトは、Ni及びAlのAサイトに対する原子数比で表しており、それぞれ上記式(1)及び(2)におけるy及びzに相当する。そして、表1の「B/A」が、y+zに相当する。
【0057】
<水素吸蔵能力の確認>
実施例1〜6及び比較例1における圧力−組成等温(Hydrogen Pressure -Composition-Isotherms;PCT)曲線を測定した。測定には、PCT自動特性測定装置(リガク製)を用いた。水素雰囲気の最高圧力は1MPa、測定温度は20℃、40℃及び80℃とし、各温度における水素吸蔵合金の水素圧力−水素吸収量(H/M)の関係を図示した。結果を図1に示す。
【0058】
実施例1〜6は、比較例1に比べていずれも特定の水素圧領域で大きなプラトーが確認でき、水素吸蔵・放出が可能であることを示している。また、B/A値が大きくなるにしたがって、プラトーが顕著になった。特に、実施例4と5との比較から、同じB/A値でも、Alの含有量が増えるにしたがって、低い水素圧下でプラトーを確認することができた。
【0059】
<構造解析>
大型放射光施設SPring−8(ビームラインBL19B2、波長λ=0.4012Å)で測定した。一例として、実施例1〜5、及び比較例1の放射光X線回折パターンを図2に示す。
【0060】
Rietveld法により構造解析を行ったところ、実施例1〜11はCaCu型相(P6/mmm)、CeNi型相(P63/mmc)、CeCo19型相(R−3m)及びPrCo19型相(P63/mmc)の4種類のモデルを仮定することで精度よくピーク位置の再現が可能であった。表2に実施例1〜11及び比較例1〜8のRietveld解析結果から導きだされた各相の存在割合を重量分率で示す。
【0061】
実施例1〜11は、CaCu型相を主相とし、CeCo19型相及びPrCo19型相の3相を含むのに対し、比較例1〜2及び6〜7は、CeNi型相、CeCo19型相及びPrCo19型相の超格子相が多く含まれており、CeCo19型相が主相であった。また、比較例3〜5及び8は、CaCu型相を主相とするが、90wt%以上と過剰に含むものであった。
【0062】
【表2】

【0063】
<JIS H7205に基づく放電容量の評価>
電気化学的水素吸蔵量の評価は、JIS
H7205に基づいて、表1記載の所定合金粉末と−325meshのCu粉末(高純度化学製)を20:80(重量比)で混合し、全圧5tで加圧成型して、φ12mmのペレットを作製した。このペレットを60メッシュのニッケルメッシュではさみ、周囲をスポット溶接してペレットを固定し、次いで、ニッケル板を該ニッケルメッシュに溶接して試験電極(作用極)を作製した。尚、対極は発泡ニッケル電極を用い、参照極として酸化水銀(Hg/HgO)電極を用いた。これらの作用極、対極、及び参照極を6mol/LのKOH水溶液に浸漬させて、図3に示すH字型試験セルを作製した。尚、特に記載がない限り試験温度は25℃で行っている。
【0064】
実施例1〜9及び比較例1〜5におけるJIS H7205に基づいて測定した放電容量を表3に示す。
【0065】
【表3】

【0066】
B/A値が4.7以下である実施例1〜11は、330mAh/g以上の大きな放電容量が得られているのに対し、B/A値が4.8以上である比較例3〜5は、放電容量が約300mAh/gと小さい値であった。また、比較例6は、表1に示すようにアルミニウムの組成比が小さい(z=0.02)場合であり、この場合の放電容量も実施例に比べて低い値であった。比較例7及び8も、実施例に比べて放電容量が低い値となった。比較例7及び8の各金属原料の組成比は実施例4と同じであるが、熱処理温度を変えることで各結晶相の割合が実施例4とは相違している。このように、各金属原料の組成比を所定の範囲に設定するだけでなく、各結晶相の含有割合を所定の範囲となるように制御することで、高い放電容量が得られることを確認した。
【0067】
<密閉式電池としての評価>
実施例1〜9及び比較例1〜5の合金粉末をカルボキシメチルセルロース(CMC)及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を混合後、適当量のイオン交換水を加えて、スラリーを調製した。該スラリーを発泡ニッケル(セルメット#8;住友電工製)に充填し、80℃で1時間以上乾燥後、ローラープレス機で圧延処理したものを負極に用いた。負極の電極厚さは平均400μmである。
【0068】
オキシ水酸化コバルトがコーティングされた水酸化ニッケル粉末、カルボキシメチルセルロース(CMC)及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を混合後、適当量のイオン交換水を加えて、スラリーを調製した。該スラリーを発泡ニッケル(セルメット#8;住友電工製)に充填し、80℃で1時間以上乾燥後、ローラープレス機で圧延処理したものを正極に用いた。正極の電極厚さは平均450μmである。
【0069】
負極と正極を、スルホン化ポリオレフィン不織布をセパレータとして、渦巻状に巻回して電極群とし、これを電槽缶に挿入し、6mol/LのKOH水溶液(LiOH含有30g/L)を電解液として注入して、Sub−C型ニッケル-水素電池を構成した。N/Pは1.5であり、公称容量は2.8Ahである。
【0070】
組み上げた電池を充放電試験機(計測器センター製充放電試験装置)に接続し、25℃に設定した恒温槽中で、1C率充放電(103%充電、0.8V放電カットオフ)を数十サイクル行い、活性化を行った。1C率とは、電池の全容量を1時間で放電又は充電できるだけの電流量である。
【0071】
サイクル寿命特性の試験結果(初期特性)
実施例1、2及び比較例5を負極として用いた電池の寿命特性を図4に示す。図中、利用率とは、1電子反応したときの正極容量(289mAh/g)を100%の利用率とし、放電容量を換算した値である。以降、特に記載がない限り、利用率は同じ意味である。実施例1及び実施例2は、初期から90%を超える利用率が得られた。一方、従来のMmNi系合金(比較例5)では容量の安定に50サイクル程度必要としていた。
【0072】
サイクル寿命特性の試験結果
実施例1〜9及び比較例1〜5を負極として用いた電池のサイクル寿命特性の試験結果を、表4に示す。表4は、負極をアルカリ処理しない状態で1C率充放電(105%充電=63分充電、0.8V放電カットオフ)を繰り返し行い、100サイクル後、300サイクル後及び500サイクル後の容量維持率(定格電池容量に対する放電容量の割合(%))を示している。
【0073】
【表4】

【0074】
実施例1〜9及び比較例1〜5のいずれも、100サイクルまで大きな容量の低下は見られなかったが、500サイクル時においては、B/A値が4.8以上である比較例3〜5と比べて、実施例1〜9は高い容量維持率を示した。
【0075】
出力特性の試験結果
実施例3〜5及び比較例2、3、5を負極として用いた電池における高率放電試験の結果を図5に示す。図5は、放電レートをパラメータとして、1C率で103%充電後に、1Vまで放電したときの平均放電電圧を示している。実施例3〜5は、比較例2、3、5と比較して高い放電電圧を示している。特に実施例5は、10C率(定格電池容量を6分間で放電できるだけの電流量)放電においても平均電圧が1.05Vを超えており、高い放電電圧を有していることがいえる。実施例1〜9及び比較例1〜5について、上記の高率放電条件における利用率を表5に示す。
【0076】
【表5】

【0077】
実施例1〜9を負極とした電池は、比較例1〜5を負極とする電池と比較して、高放電レートで高い利用率が得られており、10C率放電においても40%以上の利用率を示した。特に、実施例4、5を負極とした電池は、10C率放電において、50%を超える高い利用率を示した。
【0078】
自己放電特性の試験結果
自己放電特性は300サイクル寿命試験後の実施例1〜9及び比較例1〜5の電池について1C率で105%充電し、45℃の高温槽で1ヶ月間放置した。その後、0.8Vまで放電した際の放電容量と放置前の容量を比較し、容量保存率を求めた結果を表6示す。
【0079】
【表6】

【0080】
比較例1〜5と比べて、実施例1〜9は高い容量保存率を示した。その中でも実施例2〜7は特に優れた自己放電特性が得られた。
【0081】
高温特性
実用上必要とされる高温での放置後での電池の容量回復の程度を調べた。実施例1〜9、及び比較例1〜5をそれぞれ100セル作製して、1C率で0.8Vまで放電し、65℃の高温槽で1.5ヶ月放置した。その後、いずれの電池の回路電圧は0Vであった。この各電池を1.4Aの定電流で充電したところ、本願の電池はいずれも放置前の放電容量まで回復したが、比較例1〜5の電池では100セル中5セルが短絡により、充電が不能になった。
【0082】
<各結晶相の格子定数>
実施例1〜9及び比較例1〜5のRietveld解析結果から導きだされた各相の格子定数を、表7及び表8にそれぞれ示す。実施例1〜9のCaCu型相の結晶構造の格子定数c軸長さは、比較例5のCaCu型相の格子定数c軸長さと比較して、小さいことがわかる。
【0083】
また、実施例1〜9は、CaCu型相の格子定数a軸長さと、CeCo19型相、PrCo19型相及びCeNi型相の結晶構造の格子定数a軸長さとの差が、いずれも±0.01Åの範囲内にあることがわかる。これに対して、比較例1〜5は、CaCu型相の格子定数a軸長さが、CeCo19型相、PrCo19型相及びCeNi型相から選択されるいずれか1つ以上の相の結晶構造の格子定数a軸長さと、0.02Åを超える差を有していた。
【0084】
【表7】

【0085】
【表8】

【0086】
このように、実施例1〜9は、汎用のAB合金(比較例5)に比べて、c軸の格子定数が小さくなり、各結晶相のa軸長さも略一致していた。上記実験結果から明らかなように、実施例1〜9を用いた電池が、放電容量及びサイクル寿命特性を良好に維持しつつ、高率放電特性及び自己放電特性に優れたものとなっているのは、充放電時における合金のc軸方向の体積膨張が抑制されたためと思われる。
【0087】
<アルカリ処理の効果(粉末)>
実施例1〜9及び比較例1〜5の合金粉末1kgを50〜110℃に加熱した6mol/L水酸化カリウム水溶液2.5kgに投入し、30〜120分攪拌しながら加熱することでアルカリ処理を行った。加熱は投げ込み式ヒーターを用い、アルカリ処理中の液温はコントローラー用温度計とは別の温度計を目視して適宜確認した。処理中の温度変化は±2℃であり、合金投入時の温度低下は5分以内に所定の温度に回復した。
【0088】
アルカリ処理後の洗浄操作は、まずデカンテーションによりアルカリ溶液とともに微粉状浮遊物を除去した。続いて、蒸留水で合金残渣を攪拌洗浄し、再度デカンテーションにより浮遊物を除去した。該操作を3度繰り返した後、吸引濾過で水分を除去し、40℃で減圧乾燥した。
【0089】
希土類系水素吸蔵合金はアルカリ処理によって、表面層の希土類成分が溶出し、針状の水酸化物として再析出することが知られている。70℃、30分の条件では合金表面にその針状結晶がわずかに析出する程度であるが、処理条件を厳しく(温度を高く、或いは時間を長く)するほど針状結晶の析出量が増加し、合金表面のエッチングが進むことを確認した。50℃、2時間の条件では合金表面にその針状結晶の析出物を確認することはできなかった。
【0090】
VSM(振動試料型磁力計;玉川製作所製)により、アルカリ処理後の合金の残留磁化を測定した結果を図6に示す。処理温度と時間に比例して残留磁化の値は増加し、磁気測定からも合金表面層のエッチングの程度は処理温度と時間の両方に依存していることが確認された。一方で、残留磁化の値は80℃、1時間で一定となった。以上の結果から、最適なアルカリ処理は、80℃、1時間であることが示唆された。
【0091】
表9に示した結果から、アルカリ処理の温度が低いと長い処理時間を必要とし、処理温度が高いと短時間でその効果を発揮することが確認された。また、処理を厳しくすると、放電容量が早期に向上することがわかった。これは、合金表面の不活性相の除去が、処理条件を厳しくすることで加速されることを意味する。一方で、長時間或いは高温での過度の処理は、放電容量の低下をおこすことが確認された。これは、過度の処理により、合金粒子内部まで溶解が進行し、水素吸蔵相が失われたためと考えられる。
【0092】
すなわち、本発明の水素吸蔵合金のアルカリ処理条件としては、加熱温度を60〜100℃の範囲に設定することが好ましく、約80℃に設定することがより好ましい。苛性アルカリ水溶液の濃度は、本実施例のものに限定されず、実用的には0.1mol/L〜10mol/Lの範囲に設定すればよい。
【0093】
【表9】

【0094】
アルカリ処理の効果がサイクル寿命にどのように影響しているか調べるため、表10に500サイクル目の容量維持率を示す。なお、充放電サイクル寿命試験は、1C率充放電(105%充電=63分充電、0.8V放電カットオフ)を繰り返し行った。
【0095】
【表10】

【0096】
本発明の合金は、最適なアルカリ処理を行うことで、サイクル寿命をさらに向上させることができることがわかった。
【0097】
<アルカリ処理の効果(電極)>
実施例1〜9及び比較例1〜5の合金電極(2kg)を70〜90℃に加熱した6mol/L水酸化カリウム水溶液3kgに投入し、30〜120分攪拌しながら加熱することでアルカリ処理を行った。加熱の方法等は粉末のアルカリ処理と同様で、電極の作製方法は、密閉式電池としての評価で用いた負極の作製方法と同様である。
【0098】
表11に500サイクル目の容量維持率を示す。なお、充放電サイクル寿命試験は、1C率充放電(105%充電=63分充電、0.8V放電カットオフ)を繰り返し行った。
【0099】
【表11】

【0100】
電極形成後にアルカリ処理を行ったところ、粉末のアルカリ処理と比べて、高い温度での条件の方が良好であった。これは電極内にバインダーが含まれているため、若干厳しいアルカリ処理が必要になったものと思われる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般組成式:
RE(1−x)MgNiAl
(但し、式中REはLa,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luからなる群より選択される1種又は2種以上の元素であり、添字x、y、zはそれぞれ、0.05≦x≦0.2、4.0≦y≦4.4、0.1≦z≦0.3で示される範囲にある。)で表される組成を有し、
CaCu型結晶構造を有する相が全組成の40〜90重量%、CeCo19型結晶構造を有する相が全組成の5〜39重量%、PrCo19型結晶構造を有する相が全組成の3〜20重量%であることを特徴とする水素吸蔵合金。
【請求項2】
CeCo19型結晶構造のa軸長さ、及び、PrCo19型結晶構造のa軸長さの、CaCu型結晶構造のa軸長さとの差が、いずれも±0.02Åの範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の水素吸蔵合金。
【請求項3】
全ての結晶相の結晶構造のa軸長さが、いずれも4.95〜5.05Åの範囲に存在し、
CaCu型結晶構造のc軸長さが、3.98〜4.02Åの範囲に存在することを特徴とする請求項1又は2に記載の水素吸蔵合金。
【請求項4】
濃度が0.1mol/L〜10mol/Lの苛性アルカリ水溶液を用いて、温度60〜100℃でアルカリ加熱処理を施した請求項1から3のいずれか1項に記載の水素吸蔵合金。
【請求項5】
残留磁化値が0.5〜0.9emu/gの範囲に存在することを特徴とする請求項4に記載の水素吸蔵合金。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の水素吸蔵合金からなる粒子と、前記粒子を保持した導電性を有する芯体とを備えることを特徴とする水素吸蔵合金電極。
【請求項7】
請求項6に記載の水素吸蔵合金電極を負極として具備したことを特徴とするニッケル水素二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−102343(P2012−102343A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249016(P2010−249016)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000231372)日本重化学工業株式会社 (14)
【Fターム(参考)】