説明

水素吸蔵合金およびその製造方法

【課題】新規の組成をもつ水素吸蔵合金およびその製造方法を提供する。
【解決手段】YおよびAlの二元系合金またはY、AlおよびVの三元系合金からなり水素を吸蔵脱離可能な水素吸蔵合金であって、Yに対するAlの含有割合(Al/Y)が原子比で0.8以上1.3以下である。Vを含む場合には、全体を100原子%としたときにVを22原子%以下とする。CrB型結晶構造のY−Al化合物相を含むことで、水素の吸蔵および放出が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素を吸蔵・放出することのできる水素吸蔵合金に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素の排出による地球温暖化などの環境問題や、石油資源の枯渇などのエネルギー問題から、クリーンな代替エネルギーとして、水素の利用が注目されている。水素をエネルギーとして使用するために、水素を貯蔵したり輸送したりする水素貯蔵材料の開発が求められている。水素貯蔵材料として代表的なのが、水素吸蔵合金(MH:MetalHydride)である。水素吸蔵合金は、水素を金属水素化物という安全な固体の形で大量に貯蔵できることから、例えば高圧MHタンクのような輸送可能な新しい貯蔵媒体として期待されており、開発が盛んに進められている。
【0003】
水素吸蔵合金としては、数多くの合金が知られている。室温付近で水素を吸蔵・放出することができる実用的な水素吸蔵合金として、例えば、AB5型結晶構造を有するLaNi、AB2型結晶構造を有するTiMn、BCC型結晶構造を有するTi−V系合金、C14ラーベス相を有するTi−Cr−Mn合金(特許文献1)およびTi−Cr−V合金(特許文献2)、などが挙げられる。
【0004】
また、軽量化の観点から、アルミニウムを用いた水素吸蔵合金も開発されている。例えば、非特許文献1ではTi1−xAl化合物(0≦x≦0.35)が、非特許文献2ではYAl化合物が、水素の吸蔵および放出が可能であることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−115834号公報
【特許文献2】特開平10−110225号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】K. Hashi et al. “Hydrogen absorption and desorption in the binary Ti-Al system” Journal of Alloys and Compounds (17 Jan. 2002) 330-332, p.547-550
【非特許文献2】K. Ikeda et al. “Reversible hydriding / dehydriding properties of new Y3Al2hydrides” Journal of Alloys and Compounds (5 Mar. 2009) 471, 1-2, p.L13-L15
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の水素吸蔵合金、特に特許文献2に開示されているTi−Cr−V合金は、高圧MHタンク用合金として有望視されている。しかし、これらの水素吸蔵合金の水素の吸蔵放出量は、さらに改善の余地がある。また、高圧MHタンク用合金以外の用途も考えられるため、他の組成の水素吸蔵合金も求められている。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、新規の組成をもつ水素吸蔵合金およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は鋭意研究の結果、上記の各非特許文献に記載の水素吸蔵合金よりもアルミニウムを多く含む水素吸蔵合金の水素の吸蔵・放出特性について研究を重ねた。その結果、イットリウム(Y)とアルミニウム(Al)とを原子比で1:1程度含むY−Al二元系合金は、水素の吸蔵および放出が可能であることを新たに見出した。
【0010】
すなわち、本発明の水素吸蔵合金は、イットリウム(Y)およびアルミニウム(Al)の二元系合金からなり水素を吸蔵脱離可能な水素吸蔵合金であって、Yに対するAlの含有割合(Al/Y)が原子比で0.8以上1.3以下であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明者等は鋭意研究の結果、上記のY−Al二元系合金にさらにバナジウム(V)を添加したY−Al−V三元系合金も、水素の吸蔵および放出が可能であることを新たに見出した。
【0012】
すなわち、本発明の水素吸蔵合金は、イットリウム(Y)、アルミニウム(Al)およびバナジウム(V)の三元系合金からなり水素を吸蔵脱離可能な水素吸蔵合金であって、全体を100原子%としたときにVを22原子%以下含み、Yに対するAlの含有割合(Al/Y)が原子比で0.8以上1.3以下であることを特徴とする。
【0013】
さらに、以上の成果を発展させることで、YとAlとが原子比で1:1付近で結合したY−Al化合物は、CrB型結晶構造をもち、水素の吸蔵が可能であることがわかった。
【0014】
すなわち、本発明の水素吸蔵合金は、少なくともイットリウム(Y)およびアルミニウム(Al)を含む水素を吸蔵脱離可能な水素吸蔵合金であって、水素の吸蔵が可能なCrB型の結晶構造をもつY−Al化合物相を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の水素吸蔵合金は、一般的な条件の下で水素の吸蔵脱離が可能である。特に、本発明の水素吸蔵合金のうち、Vを含む三元系合金に関しては、水素貯蔵材料として使用する場合の前処理である活性化処理を低温にて行うことができ、水素の吸蔵脱離をも低温で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の水素吸蔵合金のX線回折測定の測定結果を示す。
【図2】本発明の水素吸蔵合金(Y−Al二元系合金)について、電子線マイクロアナライザー(EPMA)を用いた面分析で得られる二次電子像である。
【図3】本発明の水素吸蔵合金(Y−Al二元系合金)の水素吸蔵量と圧力との関係を示すグラフである。
【図4】本発明の水素吸蔵合金(Y−Al二元系合金)の水素吸蔵量と圧力との関係を示すグラフである。
【図5】本発明の水素吸蔵合金(Y−Al−V三元系合金)について、EPMAを用いた面分析で得られる二次電子像である。
【図6】本発明の水素吸蔵合金(Y−Al−V三元系合金)の水素吸蔵量と圧力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の水素吸蔵合金およびその製造方法を実施するための最良の形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「a〜b」は、下限aおよび上限bをその範囲に含む。また、その数値範囲内において、本明細書に記載した数値を任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。
【0018】
<水素吸蔵合金>
<Y−Al二元系合金>
本発明の水素吸蔵合金は、AlおよびYの二元系合金からなる。Yに対するAlの含有割合(Al/Y)は、原子比で0.8〜1.3である。Y−Al化合物は、AlとYとの原子比が1:1付近で、CrB型結晶構造をとる。CrB型結晶構造は、水素を吸蔵脱離し易い構造である。Al/Y値が0.8未満では、Alを基本組成とする他の構造の化合物が形成されやすくなる。そのため、Al/Y値は、0.9以上、0.95以上さらには1.0以上であるのが好ましい。一方、Al/Y値が1.3を超えると、AlYを基本組成とする他の構造の化合物が形成されやすくなる。そのため、Al/Y値は、1.2以下さらには1.1以下であるのが好ましい。なお、「基本組成とする」とは、化学量論組成のものに限定されるわけではなく、例えば、製造上不可避的に生じるAlまたはYが欠損した非化学量論組成のもの等をも含む。
【0019】
Al/Yが0.8〜1.3のY−Al二元系合金は、後に詳説する、CrB型の結晶構造をもつY−Al化合物相を主相として含むとよい。他の結晶構造をもつY−Al化合物相が存在しても、そのような化合物相は水素を吸蔵脱離しないもの、あるいは吸蔵脱離できてもCrB型結晶構造よりも能力が劣るものである。そのため、CrB型の結晶構造をもつY−Al化合物相は、金属組織の大半を占める主相として存在するのが好ましい。具体的には、面積率で80%以上、85%以上さらには88%以上であるのが好ましい。化合物相の面積率は、例えば、顕微鏡写真を画像解析する、あるいは電子線マイクロアナライザー(EPMA)を用いることで、容易に算出することができる。
【0020】
ただし、CrB型の結晶構造をもつY−Al化合物は、後述のように、水素を吸蔵することで分解する可能性がある。したがって、本発明の水素吸蔵合金に水素を吸蔵させると、CrB型の結晶構造をもつY−Al化合物が吸蔵前よりも減少し、場合によっては残存していない可能性もある。しかし、そのような状態であっても、本発明の水素吸蔵合金の全体組成に変化が無いことは言うまでもない。また、上記のCrB型の結晶構造をもつY−Al化合物相の面積率は、水素の吸蔵量に応じて増減するため、厳密には、水素を吸蔵していない状態での面積率である。
【0021】
本発明の水素吸蔵合金は、その特性に影響しない程度の量で不可避不純物などの含有を許容される。AlおよびY以外で微量に含まれる元素は不可避不純物と見なし、具体的にはFe、Cu、Si等が挙げられる。不可避不純物の含有量は、合計で2原子%以下さらには0.5原子%以下とするのが望ましい。
【0022】
<Y−Al−V三元系合金>
本発明の水素吸蔵合金は、Al、YおよびVの三元系合金からなる。上記のY−Al二元系合金に対してVを添加した三元系合金である。Vの含有量を22原子%以下さらには21原子%以下とすることで、Y−Al二元系合金がもつ水素の吸蔵脱離の能力を悪化させることがない。これは、Vの添加量を制限することで、CrB型の結晶構造をもつY−Al化合物相の形成が妨げられることなく十分な量で生成されるためである。したがって、CrB型の結晶構造をもつY−Al化合物の組成および化合物の占める割合(面積率)は、上記のY−Al二元系合金と同等になる。
【0023】
また、AlとYとともにVを含むことで、<水素吸蔵合金の製造方法>の欄で説明する活性化処理を低温にて行うことができる。この効果は、Vの含有量が少なすぎると発現され難いため、Vは15原子%以上、18原子%以上さらには19原子%以上とするとよい。
【0024】
本発明の水素吸蔵合金は、その特性に影響しない程度の量で不可避不純物などの含有を許容される。Al、YおよびV以外で微量に含まれる元素は不可避不純物と見なし、具体的にはFe、Cu、Si、Mo等が挙げられる。不可避不純物の含有量は、合計で2原子%以下さらには0.5原子%以下とするのが望ましい。
【0025】
<CrB型の結晶構造をもつY−Al化合物>
本発明の水素吸蔵合金は、水素の吸蔵が可能なCrB型の結晶構造をもつY−Al化合物相を含むことを特徴とする水素吸蔵合金、と捉えることもできる。Y−Al化合物相がCrB型の結晶構造を維持できれば、その組成に特に限定はない。つまり、少なくともYおよびAlを含んでいればよい。以下に、CrB型の結晶構造をもつY−Al化合物について説明する。
【0026】
CrB型の結晶構造をもつY−Al化合物相は、YAlを基本組成とする化合物からなる。YAlを基本組成とする化合物は、Y1−xAl(0.45≦x≦0.60)と表すことができる。xの値がこの範囲にあれば、Y1−xAl化合物はCrB型結晶構造を保つことができる。さらに好ましいxの範囲は、0.47〜0.57さらには0.49〜0.55である。
【0027】
なお、本発明者等の研究によれば、CrB型結晶構造をもつY−Al化合物は、水素を吸蔵することで、例えばYHとAlのように分解する可能性がある。したがって、CrB型結晶構造をもつY−Al化合物は、少なくとも水素の吸蔵は可能であると言える。水素吸蔵による分解生成物が水素を放出するため、CrB型結晶構造をもつY−Al化合物相を含む本発明の水素吸蔵合金は、水素を吸蔵および放出することが可能であると言える。
【0028】
水素吸蔵合金におけるCrB型結晶構造をもつY−Al化合物相の存在は、例えば、X線回折(XRD)、電子線マイクロアナライザー(EPMA)、透過型電子顕微鏡(TEM)などにより確認することが可能である。なお、本発明の水素吸蔵合金に水素を吸蔵させることによりCrB型結晶構造をもつY−Al化合物が分解してしまったとしても、水素を放出することで元のCrB型結晶構造のY−Al化合物に戻ると考えられる。したがって、水素を吸蔵させた水素吸蔵合金であっても、CrB型結晶構造のY−Al化合物相を確認することは可能である。
【0029】
以上説明した本発明の水素吸蔵合金の形態に特に限定はなく、塊状、粉末状あるいは薄膜状などが挙げられる。粉末状の水素吸蔵合金であれば、容器に収容された状態で水素貯蔵装置として用いられる。粉末の粒径に特に限定はないが、その粒径が500μm以下さらには50〜300μmであるとよい。
【0030】
また、水素貯蔵装置を構成する容器は、高圧、高温などの条件下でも使用できるものであれば、特に限定はない。通常用いられる耐圧容器、ボンベなどを使用すればよい。そして、容器に本発明の水素吸蔵合金を含む水素吸蔵材料を充填し、圧力や温度を所定の条件に調整することにより、水素を吸蔵・放出させればよい。
【0031】
本発明の水素吸蔵合金は、使用温度および圧力に特に限定はなく、一般的な条件の下で水素の吸蔵および放出が可能である。例えば、水素の吸蔵の際には水素分圧を1MPa以上さらには3MPa以上とするのが好ましく、0.01〜10MPaさらには0.1〜10MPaの範囲で水素を吸放出させると好適である。また、温度は、高温であるほど水素の吸蔵量が増加するため、250℃以上さらには300℃以上が好適である。ただし、Y−Al−V三元系合金は、室温であっても水素を吸蔵する。
【0032】
<水素吸蔵合金の製造方法>
以上詳説した本発明の水素吸蔵合金は、所定の原子比率とされた合金原料を溶融する溶融工程と、溶融された合金原料を凝固させる凝固工程と、凝固した合金を高温で保持する均質化熱処理工程と、を備える。均質化熱処理工程の後さらに活性化処理を行ってもよい。
【0033】
溶融工程および凝固工程は、通常行われる方法を用いればよい。すなわち、アーク溶解法、高周波誘導加熱溶解法などの通常の合金の製造方法により、原料となる各金属(合金原料)を目的の組成となるように混合して溶融させた後、凝固させればよい。溶融工程および凝固工程は、不活性ガス雰囲気中で行われるのが好ましい。
【0034】
均質化熱処理工程は、凝固した合金を高温で保持することで、凝固によって生成した化合物相を均質化する工程である。熱処理温度が1088℃を超えると、YAlを基本組成としない化合物相が出現する。そのため、熱処理温度を800〜1050℃、900〜1000℃さらには930〜970℃で行われるとよい。保持時間は、5分以上さらには10分以上が好ましく、1200分を超える長時間の熱処理は実用的ではない。また、均質化熱処理工程は、真空中または不活性ガス雰囲気中で行われるのが好ましい。
【0035】
以上の工程を経て得られた水素吸蔵合金は、空気や水分などの水素以外の物質に接すると、水素吸蔵合金の表面に酸素などが吸着して酸化物など被膜が形成されるため、水素吸蔵能が低下する。そこで、水素吸蔵合金を水素貯蔵材料として使用する前に、活性化処理を行うとよい。活性化処理は、例えば、水素吸蔵合金を高温で保持すると表面の吸着物が除去される。また、水素加圧による高圧下に水素吸蔵合金を保持することでも、水素吸蔵合金の性能を高められる。Y−Al二元系合金であれば、水素加圧状態で200〜400℃さらには250〜350℃で活性化処理を行うとよい。なお、Y−Al−V三元系合金については高温に保持する必要はなく、室温(20℃)で水素加圧下に保持するだけで、水素が吸蔵され活性化される。
【0036】
以上、本発明の水素吸蔵合金およびその製造方法の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例】
【0037】
以下に、本発明の水素吸蔵合金およびその製造方法の実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。
【0038】
上記実施形態に基づいて、二種類の水素吸蔵合金を作製した。各水素吸蔵合金の組成を分析するとともに、各水素吸蔵合金が水素を吸蔵脱離することを確かめた。以下に、製造した水素吸蔵合金ごとに説明する。
《実施例1》Y−Al二元系の水素吸蔵合金(#01)の作製
合金原料としてY塊およびAl粒を準備し、Y:Alが原子比で50:50となるように秤量した。秤量した合金原料を、溶解炉内の銅製の坩堝に入れた。このとき、溶解中のAlの蒸発を見越してAlを少量加えたため、実際にはY:11.5g、Al:3.53gであった。
【0039】
溶解炉を密閉し、炉内をロータリーポンプにて真空排気(15分)した後、炉内にアルゴンガスを充填した。この真空排気およびアルゴンガスの充填を3回繰り返して行った。3回目に炉内にアルゴンガスを充填した後、プラズマアーク溶解により原料を溶融させた。十分に原料が溶解したことを確認してからアークの発生を停止し、炉内で冷却して、ボタンインゴット(φ15mm×5mm)を得た。
【0040】
次に、溶解炉を大気開放して得られたボタンインゴットの上下を反転させて、坩堝に収容した。再び溶解炉を密閉し、上記と同様の手順により、真空排気とアルゴンガスの充填を3回繰り返した後ボタンインゴットを溶解させて冷却した。
【0041】
再び溶解炉を大気開放し、上記と同様の手順によりボタンインゴットの上下反転から溶解・冷却に至るまでを、さらに2回繰り返し行った。つまり、ボタンインゴットを3回上下反転させて繰り返し3回溶解を行った。
【0042】
得られたボタンインゴットを、アルゴンガスで満たされたグローブボックス内で高周波加熱し、950℃で10分間保持した。そのまま冷却してから粉砕し、粉末状のY−Al二元系合金(#01)を得た。
【0043】
《評価1》
得られた粉末についてCuΚα線を用いた粉末法によるX線回折測定を行った。#01の水素吸蔵合金のX線回折プロファイルを、図1に示す。#01の水素吸蔵合金は、ほぼ、CrB型結晶構造をもつYAlの単相からなることを確認した。
【0044】
また、電子線マイクロアナライザー(EPMA)を用い、元素分析を行った。EPMAにより図2に示す二次電子像領域の元素分布を面分析した。二次電子像は、コントラストの違いから、ベース、BSE暗部およびBSE明部に分けられる。図2において、最も暗く見える部分がBSE暗部、最も明るく見える部分がBSE明部、残りがベースである。各部分の元素分析結果および面積比を表1に示した。元素分析の結果から、面積比にして9割を占めるベースは、YとAlとの比がほぼ1:1である化合物、YAlを基本組成とするYAl相(主相)であることがわかった。なお、BSE暗部はYAlを基本組成とする相、BSE明部はY3−nAl2+n相、であることがわかった。
【0045】
次に、#01の水素吸蔵合金の水素吸蔵能および放出能を市販の水素吸蔵材料評価装置を用いて評価した。評価装置は、株式会社レスカ(株式会社ヒューズテクノネット)製で、評価用セルとしてSC−4セル(内容積4mL)を用いた。粉砕された#01の水素吸蔵合金を2mm以下に分級し、SC−4セル(ステンレス鋼製)に約14g充填した。SC−4セルを評価装置に連結し、ターボ分子ポンプ付き真空排気装置にてセル内を真空排気しながらセル温度を100℃になるまで加熱した。100℃で1〜2時間程度保持した後、以下に説明する活性化処理および水素吸蔵を行った。
【0046】
セル温度を300℃とし、水素加圧状態で水素を吸蔵脱離させて活性化処理を行った。その後、400℃で排気して水素のほぼ全量を放出させ、300℃で圧力−組成等温線(PCT線)をジーベルツ法(JISH7201−1991)により測定した。PCT曲線は、30分間一定の圧力で維持した後の水素量をそれぞれプロットして得た。また、活性化処理についても同様にして、水素吸蔵特性を測定した。水素吸蔵合金の水素含有量は、熱伝導率式水素分析装置を用いて測定した。
【0047】
300℃で活性化処理を行ったときのPCT曲線を図3に示した。最大水素圧9MPaでの水素吸蔵量が2.33質量%であった。ここで、EPMAの分析結果より#01の水素吸蔵合金に含まれるYAl相は面積率で約90%であり、その他の化合物相は水素を吸蔵しないと仮定すると、YAl相単独での水素吸蔵量は2.6質量%と算出された。また、300℃でのPCT曲線を図4に示した。最大水素圧9MPaでのYAl相単独での水素吸蔵量は1.5質量%、水素放出量は、0.79質量%であった。#01の水素吸蔵合金全体およびYAl相の水素吸蔵放出量を表2にまとめて示した。
【0048】
また、上記のPCT曲線の測定における水素吸蔵後(水素化後)と水素放出後(PCT測定後)の合金#01に対して、上記と同様な方法によりX線回折測定を行った。結果を図1に示した。水素化後の合金には、水素吸放出前の合金では見られなかったYH、YHおよびAlのピークが検出されるようになった。また、水素放出後には、水素放出前(水素化後)の合金において2θ=38°、45°および65°付近に見られたAlのピークは見られなくなり、2θ=32°および37°付近のYAlのピーク強度が高くなった。
《実施例2》Y−Al−V三元系の水素吸蔵合金(#02)の作製
合金原料としてY塊、Al粒およびV塊を準備し、Y:Al:Vが原子比で40:40:20となるように秤量した。秤量した合金原料を、溶解炉内の銅製の坩堝に入れた。このとき、溶解中にAlが蒸発することを見越してAlを少量加えたため、実際にはY:10.8g、Al:3.4g、V:0.8gであった。
【0049】
#01の水素吸蔵合金と同様の手順で、合金原料を溶解後、凝固、均質化熱処理および粉砕を行い、粉末状のY−Al−V三元系合金(#02)を得た。
【0050】
《評価2》
得られた粉末についてCuΚα線を用いた粉末法によるX線回折測定を行った。#02の水素吸蔵合金は、ほぼ、CrB型結晶構造をもつYAlの単相からなることを確認した。
【0051】
また、電子線マイクロアナライザー(EPMA)を用い、元素分析を行った。EPMAにより図5に示す二次電子像領域の元素分布を面分析した。二次電子像は、コントラストの違いから、ベース、BSE暗部およびBSE明部に分けられる。図5において、最も暗く見える部分がBSE暗部、最も明るく見える部分がBSE明部、残りがベースである。各部分の元素分析結果および面積比を表1に示した。元素分析の結果から、面積比にして9割近くを占めるベースは、YとAlとの比がほぼ1:1である化合物、YAlを基本組成とするYAl相(主相)であることがわかった。なお、BSE暗部はVAlを基本組成とする相、BSE明部はY3−nAl2+n相、であり、ほとんどのVがAlと化合物を形成し、Yとは化合物を形成し難いことがわかった。
【0052】
次に、#02の水素吸蔵合金の水素吸蔵能および放出能を評価した。活性化処理の温度を100℃とした他は、#01の評価と同様にしてPCT曲線を得た。
【0053】
活性化処理後に行った300℃でのPCT曲線を図6に示した。最大水素圧9MPaでの水素吸蔵量は1.45質量%であった。また、水素放出量は、0.73質量%で、水素放出後の残留水素量は1.7質量%であった。ここで、EPMAの分析結果より#02の水素吸蔵合金に含まれるYAl相は面積率で約90%であり、その他の化合物相は水素を吸蔵しないと仮定すると、YAl相単独での水素吸蔵量は2.4質量%と算出された。#02の水素吸蔵合金全体およびYAl相の水素吸蔵放出量を表2にまとめて示した。
【0054】
なお、#02の水素吸蔵合金は、室温(20℃)であっても、活性化処理が可能であり、最大水素圧9MPaでの水素吸蔵量は1.2質量%であった。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
イットリウム(Y)およびアルミニウム(Al)の二元系合金からなり水素を吸蔵脱離可能な水素吸蔵合金であって、Yに対するAlの含有割合(Al/Y)が原子比で0.8以上1.3以下であることを特徴とする水素吸蔵合金。
【請求項2】
イットリウム(Y)、アルミニウム(Al)およびバナジウム(V)の三元系合金からなり水素を吸蔵脱離可能な水素吸蔵合金であって、全体を100原子%としたときにVを22原子%以下含み、Yに対するAlの含有割合(Al/Y)が原子比で0.8以上1.3以下であることを特徴とする水素吸蔵合金。
【請求項3】
水素の吸蔵が可能なCrB型の結晶構造をもつY−Al化合物相を主相として含む請求項1または2記載の水素吸蔵合金。
【請求項4】
少なくともイットリウム(Y)およびアルミニウム(Al)を含む水素を吸蔵脱離可能な水素吸蔵合金であって、水素の吸蔵が可能なCrB型の結晶構造をもつY−Al化合物相を含むことを特徴とする水素吸蔵合金。
【請求項5】
前記Y−Al化合物相は、Y1−xAl化合物(0.45≦x≦0.60)である請求項3または4に記載の水素吸蔵合金。
【請求項6】
前記Y−Al化合物相は、水素を吸蔵していない状態において面積率で80%以上である請求項3〜5のいずれかに記載の水素吸蔵合金。
【請求項7】
所定の原子比率とされた合金を溶融する溶融工程と、
前記溶融された合金を凝固させる凝固工程と、
凝固した前記合金を800℃以上1050℃以下の温度に保持する均質化熱処理工程と、
を備えたことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の水素吸蔵合金の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の水素吸蔵合金の製造方法における前記均質化熱処理工程の後、さらに、水素加圧状態で200℃以上400℃以下で保持する活性化処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の水素吸蔵合金の製造方法。

【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−162859(P2011−162859A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−28663(P2010−28663)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】