説明

水素吸蔵合金およびニッケル水素二次電池

【課題】高容量で、サイクル特性や高率放電特性にも優れるニッケル水素二次電池用の水素吸蔵合金を提供する。
【解決手段】(RE1−aMg)(Ni1−b−cAl)(式中、REはLa,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Zrまたはこれらの混合元素、MはCo,Mnまたはこれらの混合元素であり、a、b、cおよびxは、それぞれ0.06<a<0.25、0.01≦b<0.20、0.00≦c<0.4、3.2<x<3.9)で表される組成(原子比)を有し、A相、A19相またはそれらの混合相のいずれかからなる主相が95vol%以上とし、上記主相の結晶構造のC軸に垂直な方向に整合な界面を有した状態で(RE,Mg)(Ni,Al)組成のAB相をインターグロウス型に20vol%以下の量を析出させた金属組織からなる水素吸蔵合金。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素吸蔵合金に関し、具体的には、Mg,Al含有希土類ニッケル系超格子型水素吸蔵合金およびその水素吸蔵合金を負極の活物質として用いたニッケル水素二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水素吸蔵合金は、常温常圧で安全かつ容易に水素を貯蔵できることから、新しいエネルギー貯蔵材料やエネルギー変換材料として注目されており、例えば、水素の分散輸送・貯蔵、熱の貯蔵・輸送、熱−機械エネルギーの変換、水素の精製・分離、水素同位体の分離、水素を活物質とする電池、合成化学における触媒、温度センサーなどのいろいろな用途の機能性新素材として広い分野での応用が進められている。
【0003】
とりわけ、水素吸蔵合金を負極の活物質に用いたニッケル水素二次電池は、クリーンで、ニッケル・カドミウム二次電池に比べて高容量で、過充電・過放電に強く、高率充放電が可能で、しかも、ニッケル・カドミウム二次電池と作動電圧に関して互換性がある、などの様々な特長を有するため、民生用二次電池として、その応用・実用化が活発に行われている。また最近では、ハイブリッド自動車用のバッテリーとしても実用化されたことから、より一層の性能向上が期待されている。
【0004】
上記ニッケル水素二次電池の負極の活物質に用いられている水素吸蔵合金としては、従来、La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gdまたはこれらの混合元素(Mm(ミッシュメタル))等の希土類金属をAサイトに、Ni,Co,Mn,Al等の遷移金属をBサイトに用いたCaCu型の結晶構造を持つAB型の合金が主に用いられてきた(例えば、特許文献1参照。)。この系の合金は、常温における水素吸蔵・放出の平衡圧力が0.5〜5気圧程度であるため、ニッケル水素二次電池の負極用活物質として実用に供し易いという特徴を有している。
【0005】
しかし、AB型の希土類金属−ニッケル系合金は、初期の水素吸蔵・放出時の特性(活性化特性)に問題があり、初期化のためには数回以上の充放電を行わなければ、良好な電池特性が得られないという問題点がある。
【0006】
一方、近年における二次電池に対する高容量化への要求に応えるため、希土類金属に対するニッケルを主成分とする遷移金属の含有量を少なくした合金組成とすることで電池容量を向上した、希土類およびNiを主体とする水素吸蔵合金が開発されている(例えば、特許文献2参照。)。しかし、この水素吸蔵合金は、結晶粒を微細化したことによる効果は得られるものの、Niの原子割合を4.5以下、即ち、ABより大幅に希土類リッチの組成とした場合には、電池容量の増加が得られなかったり、サイクル特性が悪化したりする等の問題がある。この理由は、希土類元素は水素との親和力が強いため、希土類リッチの組成では、水素吸蔵時に金属水素化物(または水素誘起アモルファス相)が形成される結果、水素がトラップされて水素の放出が困難になり、実質容量が減少するためであると考えられる。
【0007】
そこで、上記問題点を解決する技術として、特許文献3には、(R1−x)(Ni1−y(ただし、Rは、La、Ce、Pr、Nd、またはこれらの混合元素を示し、LはGd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Y、Sc、Mg、Ca、またはこれらの混合元素を示し、Mは、Co、Al、Mn、Fe、Cu、Zr、Ti、Mo、Si、V、Cr、Nb、Hf、Ta、W、B、C、またはこれらの混合元素を示す。x、yおよびzは、0.05≦x≦0.4、0≦y≦0.5、3.0≦z<4.5である。)で表される組成を有し、合金中の結晶粒のC軸と垂直に存在する逆位相境界がC軸方向に20nm当たり5本以上、25本未満含まれる結晶を30容量%以上、95容量%未満含有し、且つ上記Lで示される元素を、逆位相領域にその添加量の60%以上、95%未満配置した希土類金属−ニッケル系水素吸蔵合金が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平09−050807号公報
【特許文献2】特開平06−145851号公報
【特許文献3】特許第3688716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2に記載された、希土類金属に対してニッケルを主成分とする遷移金属の含有量を少なくした組成の合金は、前述したように、化学組成によっては水素吸蔵量がAB型合金に比べて大きいにもかかわらず、水素吸蔵時に水素誘起アモルファス相が形成され易いことに起因して、サイクル特性が劣化し、実質的な水素吸蔵量はAB型合金より劣ってしまうという問題点がある。
【0010】
また、上記問題点を改善した特許文献3に記載された水素吸蔵合金は、主相の割合が30vol%以上95vol%未満となっており、最大で70vol%、最小でも5vol%程度の主相以外の相が存在しているため、この相が起点となって微粉化し、水素吸蔵・放出サイクルを繰り返して行った際の容量劣化が大きくなるという問題があることが明らかとなってきた。
【0011】
そこで、本発明の目的は、AB型合金に比べて高容量で活性化特性に優れ、かつ同等以上の電池寿命(サイクル特性)を有する水素吸蔵合金を提供すると共に、その水素吸蔵合金を用いた高容量でサイクル特性に優れるニッケル水素二次電池を提供することにある。本発明の具体的な開発目標は、初期の放電容量が320mAh/g以上で、100サイクル充放電を繰り返した後の容量維持率が90%以上である、ニッケル水素二次電池の負極活物質用水素吸蔵合金を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らは、従来のAB型水素吸蔵合金および特許文献2および3に記載された水素吸蔵合金が抱える上記問題点を解決するべく、鋭意検討を重ねた。
その結果、水素吸蔵合金の主相を、A相、A19相またはそれらの混合相とし、かつ、その主相の存在比率を95vol%以上の割合に高めることで高容量を実現できること、さらには、従来の水素吸蔵合金には見られない主相の結晶構造のC軸に垂直な方向にAB相をインターグロウス型に整合な界面を有した状態で極薄い層状に、主相に対して20vol%以下の量を析出させることで、サイクル特性すなわち容量維持率をも向上できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、(RE1−aMg)(Ni1−b−cAl(式中、REはLa,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Zrまたはこれらの混合元素、MはCo,Mnまたはこれらの混合元素であり、a、b、cおよびxは、それぞれ0.06<a<0.25、0.01≦b<0.20、0.00≦c<0.4、3.2<x<3.9)で表される組成(原子比)を有し、CeNi型またはGdCo型の結晶構造を有するA相、PrCo19型またはCeCo19型の結晶構造を有するA19相またはそれらの混合相のいずれかからなる主相が全組織の95vol%以上である金属組織を有し、かつ、上記主相の結晶構造のC軸に垂直な方向に整合な界面を有する(RE,Mg)(Ni,Al)組成のAB相が、主相に対して1〜20vol%の範囲で、インターグロウス型に析出してなることを特徴とする水素吸蔵合金である。
【0014】
また、本発明は、上記の水素吸蔵合金を負極の活物質に用いてなることを特徴とするニッケル水素二次電池である。
【0015】
本発明のニッケル水素二次電池は、初期の放電容量が320mAh/g以上で、100サイクル充放電を繰り返した後の容量維持率が90%以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来のCaCu型の水素吸蔵合金に比較して、高容量でかつ初期活性化特性に優れ、しかも、サイクル特性に優れる長寿命な水素吸蔵合金を安価に提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明合金の特徴である主相の透過型電子顕微鏡写真である。
【図2】主相の割合が95%未満である比較例9および10の合金のX線回折プロファイルである。
【図3】主相の割合が95%未満である比較例9および10の合金の走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】Alの原子比bの値が0である比較例3の合金の透過型電子顕微鏡写真である。
【図5】Alの原子比bの値が0.2以上である比較例4の合金の走査型電子顕微鏡写真である。
【図6】発明例6および7の合金の透過型電子顕微鏡写真である。
【図7】発明例8の合金の透過型電子顕微鏡写真である。
【図8】発明例1〜4の合金のX線回折プロファイルである。
【図9】発明例1〜4の合金の走査型電子顕微鏡写真である。
【図10】発明例1の合金の透過型電子顕微鏡写真である。
【図11】Mgの原子比aの値が0.06以下である比較例1の合金のX線回折プロファイルである。
【図12】Mgの原子比aの値が0.25以上である比較例2の合金のX線回折プロファイルである。
【図13】Mgの原子比aの値が0.25以上である比較例2の合金の走査型電子顕微鏡写真である。
【図14】Alの原子比bの値が0.2以上である比較例5の合金のX線回折プロファイルである。
【図15】Alの原子比bの値が0.2以上である比較例5の合金の走査型電子顕微鏡写真である。
【図16】M元素の原子比cの値が0.4以上である比較例6の合金のX線回折プロファイルである。
【図17】M元素の原子比cの値が0.4以上である比較例6の合金の走査型電子顕微鏡写真である。
【図18】AB比xの値が3.2以下である比較例7の合金のX線回折プロファイルである。
【図19】AB比xの値が3.2以下である比較例7の合金の走査型電子顕微鏡写真である。
【図20】AB比xの値が3.9以上である比較例8の合金のX線回折プロファイルである。
【図21】AB比xの値が3.9以上である比較例8の合金の走査型電子顕微鏡写真である。
【図22】発明例9〜11の合金のX線回折プロファイルである。
【図23】発明例9〜11の合金の走査型電子顕微鏡写真である。
【図24】冷却速度を1000℃/秒以上とした比較例11の合金の透過型電子顕微鏡写真である。
【図25】熱処理温度を900℃未満とした比較例12の合金のX線回折プロファイルである。
【図26】熱処理温度を900℃未満とした比較例12の合金の走査型電子顕微鏡写真である。
【図27】熱処理温度をインターグロウス相の融点以上とした比較例13の合金のX線回折プロファイルである。
【図28】熱処理温度をインターグロウス相の融点以上とした比較例13の合金の走査型電子顕微鏡写真である。
【図29】熱処理時間が3時間未満である比較例14の合金のX線回折プロファイルである。
【図30】熱処理時間が3時間未満である比較例14の合金の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、具体的に説明する。
まず、本発明の水素吸蔵合金は、その組成(原子比)が、(RE1−aMg)(Ni1−b−cAl)で表されるものである。ここで、上記式中におけるREは、La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Zrまたはこれらの混合元素、Mは、Co,Mnまたはこれらの混合元素であり、a,b,cおよびxは、それぞれ0.06<a<0.25、0.01≦b<0.20、0.00≦c<0.4、3.2<x<3.9を満たす数値であることが必要である。
【0019】
上記のように、REは、La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Zrまたはこれらの元素の混合物のうちから選択することができる。中でも、水素吸蔵・放出サイクル特性を向上させる効果の大きいPr,NdおよびSmは、好適に用いることができる。また、コストを低減する観点から、LaやCeおよび希土類の混合物であるミッシュメタル(Mm)等を用いることが好ましい。また、Zrは、希土類元素に加えると、微量でも合金の電解液に対する耐腐食性を向上する働きがあるため、MgとREの合計に対して5at%以下の範囲で添加するのが好ましい。
【0020】
本発明の水素吸蔵合金は、上記REサイトをMgで置換すると、主相となるA相およびA19相の生成を促進し、超格子構造を安定化させることができる。A相およびA19相は、どちらもABブロックとABブロックの積層で形成された超格子構造を有している。また、生成したA相およびA19相のREサイトがMgで置換固溶されることで、水素吸蔵・放出サイクル特性(具体的には容量維持率)が飛躍的に向上する。従って、本発明の水素吸蔵合金においては、Mgは必須の元素である。
【0021】
また、本発明の水素吸蔵合金は、NiサイトをAlで置換することで、主相内にAlを構成元素とし、化学組成が(RE,Mg)(Ni,Al)で表されるインターグロウス型AB相が析出するようになる。したがって、本発明の水素吸蔵合金は、Alの添加を必須とする。また、インターグロウス型AB相の析出には、後述する適切な条件の熱処理が必須である。さらに、NiサイトをM元素、すなわちCo,Mnまたはこれらの混合元素で置換することで、主相の機械的特性を塑性変形が起こり易くさせる、即ち、ダクタイル化することが可能となる。その結果、主相が水素吸蔵・放出時の膨張・収縮によって微粉化することを抑制でき、ニッケル水素二次電池内での電解液のドライアップやマイクロショートを抑制することが可能となるので、サイクル特性の向上にもなる。
【0022】
また、上記元素の原子比を表すa,b,cおよびxは、それぞれ0.06<a<0.25、0.01≦b<0.20、0.00≦c<0.4、3.2<x<3.9を満たすことが必要である。aが0.06以下では、水素を吸蔵した時に、合金が希土類水素化物とその他の合金に分解してしまい、可逆的な水素の吸蔵・放出が困難になってしまう。一方、aが0.25以上では、平衡水素吸蔵・放出圧力の実用域以下への低下や均質な合金の製造が困難になる等の問題が発生するため好ましくない。また、bが0.01未満では、インターグロウス相の形成に必要なAlが不足するため、インターグロウス相の生成が抑制されたり、生成量が不足したりする等の問題が起こるため好ましくない。一方、bが0.20以上では、反対に、Alを含んだ不純物相が生成し易くなるため好ましくない。また、cが0.4以上では、CoもしくはMnを含んだ不純物相の生成が起こってしまうため好ましくない。また、xが3.20以下では、インターグロウス型に主相中に析出するAB相以外に、主相と不整合な界面を有する粗大な不純物相としてのAB相もしくはAB相が生成し、主相の割合が少なくなってしまう。一方、3.90以上では、不純物相であるAB相の割合が多くなるので好ましくない。
【0023】
また、本発明の水素吸蔵合金は、その主相が、CeNi型またはGdCo型の結晶構造を有するA相、PrCo19型またはCeCo19型の結晶構造を有するA19相またはそれらがミクロに混合した相のいずれかであり、かつ、その存在比率が全組織の95vol%以上であることが必要である。95vol%未満の場合には、容量の低下やサイクル特性の劣化が起こる。
【0024】
主相をA相、A19相またはそれらの混合相のいずれかに限定する理由は、これらの相がABやAB相に比べてサイクル特性が良好であることや、AB相に比べて高容量が得られること等からである。また、A相、A19相は、その結晶構造が非常に類似しており、ミクロな混合相となった場合でも、結晶粒内でミクロに整合性をもって混合しているため、単一の主相として扱えるものである。さらに、その主相の存在比率を全組織の95vol%以上に限定する理由は、より高容量化が可能となることや、水素吸蔵・放出サイクルを繰り返したときの微粉化の起点となる不純物相の割合を極力減らすことで、微粉化を抑制してサイクル特性の向上を図るためである。
【0025】
本発明の水素吸蔵合金における上記主相以外のわずかな残部は、MgNi型またはMgCu型またはMgZn型の結晶構造を有するAB相、PuNi型またはCeNi型の結晶構造を有するAB相およびCaCu型の結晶構造を有するAB相などの不純物相から構成されている。これらの相は、主相に比べて、水素吸蔵量が少ない、サイクル特性が悪い、水素を吸蔵しない等の好ましくない特徴があるだけでなく、主相の微粉化を引き起こす起点となる場合もあることから、できるだけ少ないことが望ましい。
【0026】
なお、主相や、AB相等の不純物相の割合は、走査型電子顕微鏡で観察して算出した値と、X線回折測定結果をリートベルト解析することで求めた値とでは良い一致が得られており、従っていずれの方法を用いて測定してもよい。また、反射電子像を観察する際、合金を酸で腐食することで、各相の化学組成の違いをより明確に識別することができる。
【0027】
さらに、本発明の水素吸蔵合金は、主相の結晶構造のC軸に垂直な方向に、化学組成が(RE,Mg)(Ni,Al)で表されるAB相がインターグロウス型に、つまり主相と整合な界面を有した状態で、しかも厚みが10数nm以下、好ましくは10nm以下の極めて薄い層状で、主相に対して20vol%以下の量で析出していることが特徴である。このAB組成のインターグロウス型析出物は、従来の水素吸蔵合金には認められない、本発明の水素吸蔵合金に特有のものであり、この特殊な形態で主相の中に微細に析出していることにより、ニッケル水素二次電池のサイクル特性すなわち容量維持率を大幅に向上することが可能となる。
【0028】
上記の効果が得られる理由は、インターグロウス型のAB相が主相中に整合な界面を有する状態で極めて薄い層状に析出していることで、主相の機械的特性が変化し、水素吸蔵・放出による膨張・収縮への耐力が増加し、その結果、微粉化が抑制され、また、微粉化しても粒怪が数μmオーダーまで小さくならないため、サイクル特性が向上するためであると考えられる。
【0029】
また、主相中に、AB相がインターグロウス型に極めて薄い層状に分散して析出することで、第2相としてのAB相、AB相およびAB相の析出が抑制されることも、サイクル特性の向上の理由と考えられる。つまり、主相が単相になり得る化学組成の範囲を広げる効果がある。例えば、熱処理条件やAl,Mgの添加量を考慮せずに、単に鋳造時の組成がAB3.7の合金を作製しただけでは、理論的には主相である87%のAB3.5相(=A相)と不純物相である13%のAB相の2相の金属組織となってしまい、本発明における主相量の不足による容量低下や、主相と多量に析出したAB相との境界における膨張・収縮量の違いにより発生する歪によってサイクル特性の劣化が起こってしまう。しかし、熱処理条件やAl,Mgの添加量をインターグロウス型AB相の生成を考慮して調整し、AB3.7の合金を作製した場合には、主相が、結晶構造が非常に類似なAB3.5相(=A相)とAB3.8相(=A19相)のミクロな混合相の中にインターグロウス型のAB相が析出した相となるため、恰も単相の金属組織のようになり、不純物相による容量低下やサイクル劣化を抑制することが可能となる。なお、通常のX線解析や走査型電子顕微鏡では、インターグロウス相は確認できない。それは、インターグロウス型析出物が10数nm以下、好ましくは10nm以下の極めて薄い層状で存在しているためである。
【0030】
なお、上記の効果は、あくまでもAB相が、主相のC軸に垂直な方向にインターグロウス型に整合性をもって析出しているときにのみ得られるものである。したがって、主相と非整合な界面を有して析出した数μm以上の大きなサイズのAB相、いわゆる第2相もしくは不純物相としてのAB相では、このような効果は得られず、むしろ反対に、AB相が水素吸蔵時に分解もしくは非晶質化し、可逆的な水素の吸蔵・放出反応が困難になり、結果としてサイクル特性の低下を招いてしまう。また、上記のAB相は、主相の微粉化の起点となることでも、サイクル特性に悪影響を与えてしまう。
【0031】
また、本発明は、サイクル特性向上に最適なインターグロウス相の量を検討した結果、主相に対して1〜20vol%の範囲であるときにサイクル特性に優れた合金となることを見出した。1vol%%未満では、上記の効果を十分に得ることができず、一方、20vol%を超えると、主相と非整合な界面を有する独立したAB組成の不純物相が生成するようになるからである。好ましくは、5〜15vol%の範囲である。
【0032】
次に、本発明の水素吸蔵合金の製造方法について説明する。
本発明の水素吸蔵合金は、主成分として融点が低く高蒸気圧のMgを含有しているため、全合金成分の原料を一度に溶解すると、Mgが蒸発し、目標とする化学組成の合金を得ることができない。そこで、本発明の水素吸蔵合金を溶解法により製造するに当たっては、まず、Mgを除いた他の合金成分を溶解した後、その溶湯内に金属Mgおよび/またはMg合金からなるMg原料を投入するのが好ましい。また、この溶解工程は、アルゴンまたはヘリウム等の不活性ガス雰囲気下で行うのが望ましく、具体的には、アルゴンガスを80vol%以上含有した不活性ガスを0.05〜0.2MPaに調整した雰囲気下で行うのが好ましい。
【0033】
上記条件にて溶解した合金は、その後、水冷の鋳型に鋳造し、凝固させて水素吸蔵合金のインゴットとするのが好ましい。この際の冷却速度は、1000℃/秒以下とするのが好ましい。冷却速度が1000℃を超えると、急冷による溶体化処理効果のために、インターグロウス相が析出しなくなるからである。
【0034】
さらに、本発明の水素吸蔵合金は、上記鋳造後のインゴットを、アルゴンまたはヘリウム等の不活性ガスまたは窒素ガスのいずれか、あるいはそれらの混合ガス雰囲気下で、900℃以上でかつインターグロウス相の融点以下の温度で3〜50時間保持する熱処理を施すことが必要である。この熱処理により、水素吸蔵合金中における、CeNi型またはGdCo型の結晶構造を有するA相、PrCo19型またはCeCo19型の結晶構造を有するA19相のいずれかの相またはそれらのミクロな混合相からなる主相の割合を95vol%以上に成長させると同時に、不純物相であるAB相、AB相、AB相を減少あるいは消滅させることができる。また上記条件で熱処理を施すことで、主相の中に整合な界面を持った状態でC軸に垂直な方向に層状のAB相を、インターグロウス型に主相に対して1〜20vol%の範囲の量で析出させることができる。さらに、主相の化学成分の均質化や、空孔、転位等の欠陥の除去も充分に進行する。
【0035】
上記熱処理温度が900℃未満では、元素の拡散が不十分であるため、不純物相が残留してしまい、安定して主相の比率を95vol%以上とすることができなくなり、容量の低下やサイクル特性の劣化を招いてしまう。一方、熱処理温度がインターグロウス相の融点を超えると、インターグロウス相の分解、拡散が起こり、主相より高融点の不純物相であるAB相の生成が促進されてしまう。なお、融点をわずかに下回る温度では、過剰なインターグロウス相の成長・肥大化が起こり、微細分散による主相の機械的特性の改善効果が得られなくなるおそれがある。さらに、主相の結晶粒の肥大化や、Mg成分の蒸発が生じる結果、微粉化や化学組成の変化による吸蔵量の低下が起こってしまうおそれもある。したがって、熱処理温度は、好ましくは900℃〜(インターグロウス相の融点−10℃)の範囲とするのが望ましい。
【0036】
また、熱処理の保持時間が3時間以下では、安定的に主相の比率を95vol%以上とすることができず、しかも、主相中のインターグロウス相の生成や、主相中の空孔や転位等の欠陥の除去も不十分となる。また、主相の化学成分の均質化が不十分であるため、水素吸蔵・放出時の膨張・収縮が不均一に起こり、発生する歪みや欠陥量が増大してサイクル特性にも悪影響を与える。なお、上記熱処理の保持時間は、インターグロウス相の生成の観点からは5時間以上とするのが好ましく、また、主相の均質化や結晶性向上の観点からは8時間以上とするのが好ましい。ただし、保持時間が50時間を超えると、Mgの蒸発量が多くなって化学組成が変化してしまい、その結果、AB型の不純物相の生成が起こってしまう。さらに、製造コストの上昇や、蒸発したMg微粉末による粉塵爆発を招くおそれもあるため好ましくない。
【実施例】
【0037】
水素吸蔵合金を構成する成分からMgを除いた他の成分を、高周波誘導溶解炉を用いて、アルゴンガスを満たした減圧雰囲気下で溶解し、次いで、その溶湯内に金属Mg原料を添加して、表1に示した成分組成に調整したのち、その水素吸蔵合金の溶湯を水冷鋳型に鋳造し、冷却速度を変化させて凝固させた。次いで、その水素吸蔵合金を、アルゴンガス雰囲気下で900℃〜インターグロウス相の融点の間の種々の温度で2〜75hr保持する熱処理を施した後、粉砕して所定の粒度(平均粒径:50〜500μm)の水素吸蔵合金粉末を得た。
【0038】
上記のようにして得た水素吸蔵合金粉末について、以下の測定に供した。
<化学成分分析>
溶解後のインゴットおよび熱処理後の合金の化学成分をICP法により測定し、溶解による化学成分の変化および熱処理時のMg蒸発による成分組成の変化を確認した。
<X線回折>
水素吸蔵合金を構成する相の結晶構造とその割合を、粉末X線回折法を用いて測定した。X線回折測定は、得られた合金をアルゴンガス中で乳鉢を用いて75μm以下に粉砕した後、40kV、40mA(X線管球:Cu)の条件で行い、各相の割合および各相の構造は、X線回折で得られたプロファイルをリートベルト法で解析して求めた。
なお、主相と不純物相の割合を、走査型電子顕微鏡で反射電子像を観察することによっても算出した結果、X線回折結果をリートベルト解析した結果と矛盾しない結果が得られたため、本実施例では、主としてX線回折結果をリートベルト解析することで主相や不純物相の同定や割合の測定を行うこととした。
<走査透過型電子顕微鏡による高角散乱環状暗視野法による観察>
上記の粉砕した粉末を、走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用いて高角散乱環状暗視野法で観察し、Zコントラスト像を20ヶ所で撮像することによって、主相の結晶粒内にインターグロウス型にAB相が分散析出しているか否かを確認した。また、得られた像中の析出相(インターグロウス相)のC軸に垂直な面方向の厚みを、X線回折結果より求めた主相の格子定数の値を基準にして算出した。
【0039】
<電池特性の評価>
上記のようにして得た各種水素吸蔵合金粉末を活物質として用い、ニッケル水素二次電池を作製し、電池特性(容量、高率放電容量、容量維持率)を以下の要領で調査した。
表1に示した成分組成と製造条件によって得られた各合金粉末を負極の活物質とし、これに導電助剤としてニッケル粉末を、結合剤として2mass%のポリビニルアルコール(PVA)水溶液を、活物質:導電助剤:結合材=80:5:15の割合となるよう添加し、活物質のスラリーとし、発泡状のニッケル基材に充填し、負極電極とした。充填されたスラリーの重量は約1.4gであった。なお、基材のサイズは25mm×30mmで30mm側を5mm潰しマスキングし、集電体ニッケルリード線をスポット溶接する部分とした。従って、活物質が充填される面積は25mm×25mmとなる。充填後の負極電極は、その後、80℃で2時間乾燥し、PVA水溶液の水分を飛ばして活物質と導電助剤を結合させた後、ニッケルリードをスポット溶接するために貼ったマスキングテープを剥がしてから、ロールプレスを用いて圧延し、圧延後の電極に、5mm幅のニッケルリードをスポット溶接し、集電リードとした。
【0040】
セルの構造は、負極を中央に配し、その両側を30mm×40mmサイズ(負極に対して十分な電気容量を持つ)の焼結式水酸化ニッケル電極を対極(正極)として、ポリプロピレン不織布のセパレータを介して配した構造とした。焼結式水酸化ニッケル電極は、予め、30mass%水酸化カリウム溶液(30g/L水酸化リチウムを含む)中で、対極にニッケルプレートを用いて120%充電を行って活性化後、蒸留水を用いてアルカリ溶液を水洗後60℃のヒーターで1時間乾燥後、負極と同様に、5mm幅のニッケルリードをスポット溶接し、集電リードとした。次いで、負極をポリプロピレン不織布のセパレータで挟み、対極の焼結式水酸化ニッケル電極で両側から挟み、さらにアクリル板で挟んだものを最終的な電極とした。電解液は、30mass%水酸化カリウム溶液(30g/L水酸化リチウムを含む)を用い、これを上記アクリル容器に十分な量を満たして開放型のセルとした。
【0041】
電池特性の評価は、まず、負極の活性化および容量評価のために、0.2C(充填された合金の電気容量を350mAh/gと仮定して計算)の電流値で電圧2Vまで6hrの充電(120%充電)を行い、15minの休止後、0.3Cで1Vまで4hrの放電(120%放電)を行い、これを5回繰り返して活性化し、初期の電池容量を求めた。なお、試験は25℃の恒温槽内にて行った。その後、0.5Cでの充放電を100サイクル繰り返して行い、(100サイクル時の放電容量/初期の放電容量)×100(%)を容量維持率として算出した。
【0042】
上記水素吸蔵合金の測定結果および電池特性の評価結果を表2に示した。表1および表2から、本発明に適合する成分組成を有し、かつ適正な条件(冷却速度、熱処理条件)で製造された本発明例の水素吸蔵合金は、主相がAおよび/またはA19相で構成され、その合計割合が95vol%以上であり、かつ、主相の結晶構造のC軸に垂直な方向にAB相がインターグロウス型に整合な界面を有して適正量析出していることが確認された。そして、これらの本発明例の合金を用いて作製したニッケル水素二次電池は、初期の放電容量および100サイクル後の容量維持率ともに目標とする特性(放電容量:320mAh/g以上、容量維持率:90%以上)を満たしていることがわかる。
これに対して、本発明の条件の全てを満たしていない比較例の水素吸蔵合金は、初期の放電容量または100サイクル後の容量維持率のいずれかが、上記目標特性と比べて劣っていることがわかる。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
まず、本発明の水素吸蔵合金の特徴である主相について説明する。
図1は、合金の主相であるA相およびA19相が、完全に整合な界面を有した状態で単一の主相を形成していることがわかる、走査透過型電子顕微鏡で観察した結果(以降、「透過型電子顕微鏡写真」という)である。また、この写真の中には、不規則にA相およびA19相が混在した部分も確認できる。これからわかるように、A相およびA19相は非常に結晶構造が類似しており、整合な界面を有して隣接することが可能である。これが正に、本発明がこれらの相を単一の主相として取り扱っている理由である。また、この主相の結晶構造のC軸に垂直な方向に整合な界面を有した、インターグロウス型の析出相が存在していることも、本発明合金の特徴である。
【0046】
以下、表1および表2に示した発明例の合金と比較例の合金とを比較して、個別具体的に説明する。
図2は、AB比xの値が本発明の範囲を外れている比較例9および10の合金をX線回折した結果(以降、「X線回折プロファイル」という)を、また、図3は、同じく比較例9および10の合金を走査型電子顕微鏡で観察した結果(以降、「走査型電子顕微鏡写真」という)を示したものであり、いずれの合金も主相であるA相およびA19相の割合の合計が本発明範囲より低い70,80vol%となっている。その結果、表2に記したように、発明例5の合金と比較して、初期の放電容量は同等であるが、サイクル特性に劣り、実用に供することはできないものとなっている。
【0047】
また、表3は、合金の成分組成が本発明に適合し、かつ適正な条件で製造された発明例6〜8の合金を、走査透過型電子顕微鏡を用いてインターグロウス相を観察し、その量を測定するとともに、エネルギー分散型の分光器EDS(Energy Dispersive X−ray Spectrometer)にて分析してインターグロウス相の成分組成を分析した結果を示したものである。この結果から、本発明例の合金では、主相中に化学組成が(RE,Mg)(Ni,Al)でAB型のインターグロウス相が、主相に対して1〜20vol%の範囲内で生成していることがわかる。なお、表3には、Alの原子比が本発明外である比較例3と比較例4の合金のインターグロウス相の量と成分組成の分析結果も示したが、インターグロウス相の生成に必要なAlを含まない比較例3の合金は、図4に示した透過型電子顕微鏡写真からわかるように、インターグロウス相が生成せず、一方、Alの原子比bが0.22とAlを過剰に含む比較例4の合金は、インターグロウス相が本発明の適正範囲を超えて多量に生成して肥大化し、図5に示した走査型電子顕微鏡写真からわかるように、主相と非整合な界面を有する不純物AB相に変化している。
【0048】
【表3】

【0049】
また、図6は、発明例6および7の合金におけるインターグロウス相を観察した透過型電子顕微鏡写真を、また、図7は、発明例8の合金を走査透過型電子顕微鏡で観察し、EDS分析によりインターグロウス相の成分組成を分析した結果を示したものである。これらの結果からわかるように、本発明の水素吸蔵合金では、インターグロウス型に析出したAB相と主相との境界は整合な界面であり、かつ、界面を挟んだ両側の相がまったく別の結晶構造を有し、配列パターンも異なるところに特徴がある。これに対して、特許文献3に記載された結晶の逆位相境界は、境界を挟んで両側の相が同一でかつ同一の規則配列を持っているものである。したがって、本発明におけるインターグロウス型析出相と主相との境界は、逆位相境界とは全く別のものであることがわかる。
【0050】
次に、本発明の水素吸蔵合金の特性に及ぼす成分組成の影響について説明する。
本発明に適合する合金の成分組成を有し、かつ適正な条件で製造された発明例1〜4の合金のX線回折プロファイルおよび走査型電子顕微鏡写真をそれぞれ図8および9に示した。また、発明例1の合金を、走査透過型電子顕微鏡でインターグロウス相を観察した結果を図10に示した。これらの結果から、水素吸蔵合金の成分組成を本発明に合わせて調整すること、および、製造条件を適正範囲に制御することで、主相の割合が95vol%以上で不純物相がほとんど存在せず、さらに、所定量のインターグロウス相を析出させることができ、ひいては、表2に示したように、初期容量およびサイクル特性に優れた水素吸蔵合金が得られることがわかる。
【0051】
これに対して、比較例1は、Mgの原子比aが本発明範囲外の0.04の合金例であり、この合金を用いたニッケル水素二次電池は、表2に示したように、初期の放電容量が低く、100サイクル時の容量維持率も28%でしかない。図11は、この合金の水素吸蔵前後におけるX線回折プロファイルを比較して示したものであり、Mg量が少ない合金では、水素を吸蔵することによって超格子構造が容易に分解してしまうことがわかる。この結果は、可逆的に水素を吸蔵・放出を行わせるためには、所定量のMgが必要であることを示している。
【0052】
また、比較例2は、Mgの原子比aが本発明範囲外の0.30の合金例であり、初期の放電容量は高いものの、100サイクル時の容量維持率は64%でしかない。この原因は、表2に示したように、この合金のX線回折プロファイル(図12)をリートベルト解析して求めたAB相の値が10%もあることから、REと置換できない過剰なMgが、不純物相であるAB相となって合金内に析出し、サイクル特性の劣化を招いたものと推察される。なお、図13は、比較例2の合金の走査型電子顕微鏡写真であり、AB相が多く析出していることがわかる。
【0053】
また、比較例3は、Alを含有しない合金例であり、初期の放電容量は高いものの、100サイクル時の容量維持率は58%でしかない。この原因は、インターグロウス相の生成に必要なAlを含まないために、インターグロウス相が生成されず、微粉化が促進された結果であると推察される(先述した表3、図4参照)。
【0054】
また、比較例4は、Alの原子比bが0.2以上の0.22である合金例であり、初期の放電容量が低く、100サイクル時の容量維持率も84%でしかない。この原因は、過剰に含まれるAlによって、インターグロウス相が多量に生成し、主相と非整合な界面を有する独立したAB組成の不純物相が生成したためと考えられる(先述した表3、図4参照)。また、比較例5は、Alの原子比bがさらに高い0.27の合金例であり、X線回折プロファイル(図14)および走査型電子顕微鏡写真(図15)からわかるように、インターグロウス相が異常成長して、主相と非整合な界面を有した不純物相ABを形成した結果、比較例4の合金よりさらに特性が低下している。
【0055】
また、比較例6は、M原子(Co,Mn)の原子比cが0.4以上の0.42である合金例であり、初期の放電容量は若干低めで、100サイクル時の容量維持率は74%でしかない。この原因は、この合金のX線回折プロファイル(図16)および走査型電子顕微鏡写真(図17)からわかるように、M原子を多量に添加した結果、不純物相であるAB相が過剰に析出し、主相の割合が低下したためと考えられる。
【0056】
また、比較例7は、AB比xの値が3.2以下の3.0である合金例であり、初期の放電容量は高いものの、100サイクル時の容量維持率は69%でしかない。この原因は、この合金のX線回折プロファイル(図18)および走査型電子顕微鏡写真(図19)からわかるように、不純物相であるAB型の結晶構造を有する相が多量に析出して主相の割合が低下し、サイクル特性の劣化を招いたものと推察される。
【0057】
また、比較例8は、AB比xの値が3.9以上の4.1の合金例であり、初期の放電容量は若干低めで、100サイクル時の容量維持率は76%でしかない。この原因は、この合金のX線回折プロファイル(図20)および走査型電子顕微鏡写真(図21)からわかるように、AB相が多量に析出して主相の割合が低下し、容量の低下を招いたものと推察された。
【0058】
次に、本発明の水素吸蔵合金の特性に及ぼす製造条件(鋳造条件、熱処理条件)の影響について説明する。
発明例9は、溶解時の成分組成が本発明に適合するPr0.85Mg0.15Ni3.45Al0.25の成分組成を有する合金を、本発明に適合する条件で鋳造し、熱処理した合金例であり、表2に示したように、初期の放電容量が347mAh/gで、100サイクル時の容量維持率が93%という優れた特性を有している。同様に、上記発明例9とは異なる本発明に適合する成分組成を有する発明例10および11の合金も、本発明に適合する条件で製造された場合には、同様の結果が得られている。なお、図22および23には、発明例9〜11の合金の、走査型電子顕微鏡写真およびX線回折プロファイルを示した。
【0059】
これに対して、比較例11は、発明例9と同じ成分組成の合金を、鋳造時の冷却速度を1000℃/秒を超える2000℃/秒で急冷して製造した合金例であり、容量維持率が77%と、サイクル特性が劣っている。この原因は、この合金の透過型電子顕微鏡写真(図24)からわかるように、急冷凝固法した場合には、インターグロウス相が主相内に生成することができないためと考えられる。
【0060】
また、比較例12は、発明例9の合金の熱処理を、900℃未満の850℃の温度で行った合金例であり、初期の放電容量が若干低めで、100サイクル時の容量維持率は82%でしかない。この原因は、この合金のX線回折プロファイル(図25)に、ブロードなピークや不純物相由来のピークが確認されていることから、低温の熱処理では、主相の歪除去や不純物相の除去が不十分であったためと考えられる。なお、図26には、同合金の走査型電子顕微鏡写真を示した。
【0061】
また、比較例13は、発明例9の合金の熱処理を、インターグロウス相の融点以上の温度で行った合金例であり、初期の放電容量が若干低めで、100サイクル時の容量維持率は79%でしかない。この原因は、この合金のX線回折プロファイルおよび走査型電子顕微鏡写真をそれぞれ図27および図28に示したように、インターグロウス相の融点以上の熱処理では,インターグロウス相が異常に成長して粗大化し、主相と非整合な界面を有するAB型の不純物相に変化したためと推察される。
【0062】
また、比較例14は、発明例9の合金の熱処理時間を3時間未満とした合金例であり、初期の放電容量が若干低めで、100サイクル時の容量維持率は79%でしかない。この合金の場合、X線回折プロファイル(図29)にブロードなピークや不純物相由来のピークや主相の割合の低下が確認できることから、主相の歪みの除去や不純物相の除去が充分ではないことが原因と考えられる。なお、図30には、同合金の走査型電子顕微鏡写真を示した。
【0063】
逆に、比較例15は、発明例9の合金に、50時間以上の熱処理を施した合金例であり、100サイクル時の容量維持率は81%でしかない。この原因は、長時間の熱処理によってMgが蒸発し、合金の組成が、鋳造後の「Pr0.85Mg0.15Ni3.45Al0.25」から、「Pr0.95Mg0.05Ni3.68Al0.21」に変化し、主相の割合が大きく低下したためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の水素吸蔵合金は、二次電池の負極活物質としての用途に限定されるものではなく、水素の分散輸送・貯蔵用にも適用・利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(RE1−aMg)(Ni1−b−cAl)
(式中、REは、La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Zrまたはこれらの混合元素、Mは、Co,Mnまたはこれらの混合元素であり、a、b、cおよびxは、それぞれ0.06<a<0.25、0.01≦b<0.20、0.00≦c<0.4、3.2<x<3.9)で表される組成(原子比)を有し、
CeNi型またはGdCo型の結晶構造を有するA相、PrCo19型またはCeCo19型の結晶構造を有するA19相、またはそれらの混合相のいずれかからなる主相が全組織の95vol%以上である金属組織を有し、かつ、
上記主相の結晶構造のC軸に垂直な方向に整合な界面を有する(RE,Mg)(Ni,Al)組成のAB相が、主相に対して1〜20vol%の範囲で、インターグロウス型に析出してなることを特徴とする水素吸蔵合金。
【請求項2】
請求項1に記載の水素吸蔵合金を負極の活物質に用いてなることを特徴とするニッケル水素二次電池。
【請求項3】
上記ニッケル水素二次電池は、初期の放電容量が320mAh/g以上で、100サイクル充放電を繰り返した後の容量維持率が90%以上であることを特徴とする請求項2に記載のニッケル水素二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2012−67357(P2012−67357A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−213182(P2010−213182)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000231372)日本重化学工業株式会社 (14)
【Fターム(参考)】