説明

水素製造方法およびそれに用いる水素製造装置

【課題】本発明の目的は、石炭やバイオマス、食品廃棄物などの有機系資源を炭素源としこれと水から水性ガス化反応により水素を製造する方法において、高純度、高効率で水素を製造する方法ならびにそれに用いる水素製造装置を提供することである。
【解決手段】炭素と水を反応させて水素ガスを生成させる水性ガス化反応を利用する水素製造方法において、水素分離膜および/又は水素吸蔵合金によって、発生する水素ガスを選択的に分離して反応系の水素分圧を下げながら反応を進行させることにより前記目的が効果的に達成されることを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭やバイオマス、食品廃棄物などの有機系資源を炭素源としこれと水から水性ガス化反応により水素を製造する方法に関し、特に反応系内の水素分圧を下げながら反応を進行させ、高純度、高効率で水素を製造する方法ならびにそれに用いる水素製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
1973年のオイルショック以降、我国でも石油に代わる新しいエネルギーの開発が積極的に進められ、多くの具体的な技術が提案されてきた。例えば、太陽光発電、風力発電などであるが、これらは現在においてもなおエネルギー供給量のほんの一部を賄う程度であり実績のあるエネルギーシステム(原子力、天然ガスなど)に依存しているのが実情である。
【0003】
石炭は、世界的に最も豊富かつ不偏的に存在するエネルギー資源であり、経済的にもまた安定供給の点でも優れていることから石油代替エネルギーの一つとして大きな役割を果たすことが期待されている。その一方で石油と同様に燃焼による反応熱エネルギーを電力に変換する方式では、その燃焼に伴い発生する二酸化炭素、窒素酸化物、硫黄酸化物などは地球温暖化や酸性雨、排気物などの点で地球環境に多大な負担を与え、石炭をクリーンにかつより効率的に使う技術が強く求められている。
【0004】
石炭を利用したクリーンエネルギーの開発としては、石炭液化・ガス化技術があり、固体燃料である石炭を灰分、硫黄分を除去したクリーンな液体またはガスに変換することによって、石炭液化は石油に直接代替しうる液体燃料を供給しようとする技術であり、石炭ガス化は都市ガスあるいは複合発電システム、燃料電池など幅広い用途での利用を可能にしようとするものである。特に燃料電池の実用化に伴って燃料となる水素の需要が高まっており、本発明はこのような水素を製造する技術分野に属し、石炭利用二酸化炭素回収型水素製造技術に関するものとして先に出願公開されている(特許文献1〜3)。
【0005】
既に公開された前記技術は、下記の水生ガス化反応(式1)によるものである。
C+2H2O+CaO → CaCO3+2H2・・・(1)
式(1)で示されるように、石炭ガス化炉内に二酸化炭素吸収剤である酸化カルシウムを添加し、生成する二酸化炭素を炭酸カルシウムとして固定することで、一つの炉内で水素を生成する方法である。酸化カルシウムと水との反応により熱が発生し、反応に必要な熱が炉内に供給されるので熱的にも大きなメリットを有している。炉内で起こる一連の反応は次式で表され、
C+H2O → CO+H2・・・(2)
CaO+H2O → Ca(OH)2・・・(3)
CO+H2O → CO2+H2・・・(4)
Ca(OH)2+CO2 → CaCO3+H2O・・・(5)
総括すると前記の反応式(1)となるのである。ここで、式(4)に示されるように発生する二酸化炭素を固定することによって反応が水素生成方向にシフトすることがわかる。
【0006】
すなわち、前記公開された技術は発生する二酸化炭素を吸収できる二酸化炭素吸収物質を反応系に存在させ、圧力30気圧以上温度600℃〜900℃の条件で実質上酸化剤を加えることなく熱化学的分解を行う水素の製造方法(特許文献1)、前記反応条件下で炭素含有物質及び二酸化炭素吸収物質をペレット化して供給する方法(特許文献2)、石炭粉末および酸化カルシウム粉末を混合微粉末にして反応装置内の水蒸気分圧をコントロールすることにより前記混合微粉末を粒子成長させながら水の熱化学的分解により水素を製造する方法(特許文献3)に関するものである。
【0007】
これらの技術は、それぞれ従来の石炭、石油、プラスチックス、バイオマス等の有機物を超臨界水を用いて分解するに際して、水素を選択的に取り出す方法(特許文献4)を飛躍的に改善する方法として、大きな成果を収めている。本発明はさらに研究を進めた結果、生成する二酸化炭素を固定化して取り除く方法よりもさらに水素を高純度・高効率で製造する方法を提供しようとするものである。
【特許文献1】特開2001−302206号公報
【特許文献2】特開2003−82361号公報
【特許文献3】特開2004−59816号公報
【特許文献4】特許2979149号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、石炭やバイオマス、食品廃棄物などの有機系資源を炭素源としこれと水から水性ガス化反応により水素を製造する方法において、高純度、高効率で水素を製造する方法ならびにそれに用いる水素製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、炭素と水を反応させて水素ガスを生成させる水性ガス化反応を利用する水素製造方法において、水素分離膜および/又は水素吸蔵合金によって、発生する水素ガスを選択的に分離して反応系の水素分圧を下げながら反応を進行させることにより前記目的が効果的に達成されることを見出し、本発明に至った。
【0010】
また、本発明は、前記水性ガス化反応によって発生する一酸化炭素が水と反応して二酸化炭素を生成するため、該二酸化炭素を吸収する二酸化炭素吸収剤を反応系に共存させることによって、さらに効果的に水素を生成させることができる点も特徴の一つである。
【0011】
より好適には、前記二酸化炭素吸収剤が酸化カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムから選択される一種以上であること、前記二酸化炭素吸収剤が炭素とのモル比で1.1:1〜2.0:1の濃度で反応系に共存させるとより効果的であること、前記反応系にさらに触媒量のアルカリ金属水酸化物を含有することによって反応がさらに促進されること、反応条件としては圧力2.5〜3.5メガパスカル、温度550〜880℃で炭素を水蒸気分解することなどは、それぞれ本発明の好ましい諸条件である。
【0012】
一方、本発明は、炭素と水を反応させて水素ガスを生成させる水性ガス化反応により水素含有ガスを生成する水素製造装置であって、前記反応容器内に取りつけられ、発生する水素ガスを選択的に分離して反応系の水素分圧を下げながら反応を進行させるための水素分離膜および/又は水素吸蔵合金を備えたことを特徴とする水素製造装置を提供することができる。また、炭素と水を反応させて水素ガスを生成させる水性ガス化反応により水素含有ガスを生成する反応容器と、前記反応容器を加熱する加熱部と、前記反応容器内に取りつけられ、発生する水素ガスを選択的に分離して反応系の水素分圧を下げながら反応を進行させるための水素分離膜および/又は水素吸蔵合金とを備えた水素製造装置によって、本発明の前記目的の一つが効果的に達成される。
【0013】
前記水素分離膜に反応容器内の圧力と同等の外圧を付与するための不活性ガスを送る圧力容器をさらに備えた点、該不活性ガスがアルゴン、ヘリウム、窒素から選択された一種以上である点は、本発明の水素製造装置の特徴的な構成要件である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の水性ガス化反応を利用した水素製造方法は、水素分離膜および/又は水素吸蔵合金を介在させ、発生する水素ガスを選択的かつ逐次分離して反応系の水素分圧を下げることによって、高純度、高効率で水素を製造することができる。また、従来の反応温度、圧力よりもマイルドな条件で水素生成が効率的に進行する。さらに、本発明の水素製造装置は、反応容器内に反応系の水素と接触可能に水素分離膜および/又は水素吸蔵合金が設置されていることによって、水素を製造した同じ装置で水素を分離することができるので、水素製造コストを抑えた装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下本発明について具体的に説明する。
本発明の炭素と水を反応させて水素ガスを生成させる水性ガス化反応を利用する方法とは、前記の通り、石炭やバイオマス、食品廃棄物などの炭素を含有する有機系資源に、水蒸気を作用させて水素を発生させるものである。
【0016】
有機系資源には、前記のように石炭やバイオマス、食品廃棄物などがあるが、これら以外にも石油や古紙、プラスチック、タイヤ、バイオマス、汚泥など炭素を含む物であれば原理的にはどんなものでも良い。これらのうち、例えば食品廃棄物はその40〜50%が水分であり、これを直接反応系の炭素源として用いることもできるが、乾燥して水分を除去し、あるいは熱分解または乾留によって可燃性ガスとチャーおよび油状物質(タール)等に分け、水素生成効率の高いチャーを選択的に使用することもできる。また、バイオマス、古紙、プラスチック、タイヤなどはそのまま、或いは食品廃棄物と同様に乾留によってチャーを生成させたのち使用することができる。本発明においては炭素源として前記有機系資源の中で取り扱いの容易さや水素回収効率の高い石炭あるいは該石炭を乾留したチャーが好ましい。
【0017】
本発明では前記炭素と水とを反応させるわけであるが、水は通常水蒸気として前記炭素と接触させる。二酸化炭素吸収物質を用いただけの従来の方法では、圧力3〜10メガパスカルで、温度600〜900℃という反応条件が好ましいとされていた。しかし、本発明では反応生成物である水素を反応系から分離しながら反応を進行させることから、圧力2〜5メガパスカル、好ましくは2.5〜3.5メガパスカルで、温度550〜880℃、好ましくは600〜700℃という、よりマイルドな条件を選択することができる。これにより装置構成が簡易になるとともに、運転による費用も抑えることができる。なお、従来の二酸化炭素吸収剤を使用した場合の反応メカニズムは図1を参照することで容易に理解できる。
【0018】
本発明では前記水性ガス化反応により生成する水素ガスを、反応系から分離するために水素分離膜および又は水素吸蔵合金を用いることを特徴とする。この反応メカニズムについては図2を参照することで容易に理解できる。この水素分離膜又は水素吸蔵合金として具体的にはパラジウム単体もしくは、チタン、ジルコニウム、イットリウム、ゲルマニウム、ロジウム、バナジウム、銅、金、白金、銀、ニッケル、コバルト、タンタル、ニオブ、マンガン及びマグネシウムの中から選ばれた少なくとも一種の成分と、パラジウムとの合金から構成されることが好ましい。パラジウムは水素を選択的に吸収するので反応系に存在する他のガス成分、例えば一酸化炭素、二酸化炭素、メタンなどから水素を高純度で分離することができるからである。また、そのほかの膜素材又は合金としては、ランタン−ニッケル合金、チタン−銅合金、チタン−鉄合金、チタン−ニッケル合金、チタン−マンガン合金、マグネシウム−ニッケル合金、ジルコニウム−ニッケル合金、ニオブ−ニッケル合金、又はアルミニウム−ランタン−ニッケル合金などから選択される一種以上の合金が例示できる。これらはパラジウムを含んではいないが、水素を選択的に分離または吸蔵することができるものとして従来公知の合金である。これらの選択基準としては水性ガス化反応系に対して余計な副反応を誘発しないこと、材料コストが低いこと、耐久性に優れていること、装置にセットするのに適度な機械的強度を有することなどである。これらの観点からは、パラジウム単体もしくはパラジウム合金が好ましく、より好ましくはパラジウム−銀(77:23)合金である。
【0019】
また、多孔質セラミックス支持体の少なくとも一方の面にパラジウム単体或いは、チタン、ジルコニウム、イットリウム、ゲルマニウム、ロジウム、バナジウム、銅、金、白金、銀、ニッケル、コバルト、タンタル、マンガン及びマグネシウムの中から選ばれた少なくとも1種の成分とパラジウムとの合金、もしくは、ランタン−ニッケル合金、チタン−銅合金、チタン−鉄合金、チタン−ニッケル合金、チタン−マンガン合金、マグネシウム−ニッケル合金、ジルコニウム−ニッケル合金、ニオブ−ニッケル合金、又はアルミニウム−ランタン−ニッケル合金から選ばれた少なくとも1種から構成される薄膜を形成させて、水素分離膜として構成することも可能である。この場合には、前記した材料コストが少々高くても、或いは機械的強度に多少の問題があっても、セラミックス支持体がそれを補うので、材料選択の余地が広がる利点がある。なお、この場合の好ましい薄膜成分としては、セラミックスとの結合性の良い材料という点でパラジウム単体が好ましい。
【0020】
ここで前記反応式(2)および(4)を参照すると、該反応式から(水素分離膜又は水素吸蔵合金によって)水素を除去すれば、化学平衡関係を維持するために、(2)式では必然的に炭素と水の反応により一酸化炭素と水素を生成する方向に、(4)式では一酸化炭素と水の反応により二酸化炭素と水素を生成する方向に、それぞれ進行することが理解できる。水素はこうして反応系から除かれるわけであるが、水素分離膜を用いた場合はそのまま系外へ取り出してボンベなどに燃料として保管することができる。水素分離膜を使用して選択的に水素を取り出すために非常に高純度の水素が得られるという効果がある。しかも反応装置から直接水素が取り出せるので、装置構成上も設備面でも非常に簡易なものとすることができるため、各家庭に直接配置することができるようになり、エネルギーの安定供給の点で、またクリーンなエネルギーを使用する点で環境に優しいという利点も兼ね備えているのである。
【0021】
また、水素吸蔵合金を用いた場合には、例えば今後普及するであろう燃料電池車用の水素タンクとして用いることができる。水素吸蔵合金は、一般的に水素を1/1000の体積にして貯蔵可能で、現状では1〜2重量%の吸蔵量のものが得られているが、例えば、マグネシウムとパラジウムをナノメーターの厚さで交互に積層したものでは、吸蔵量5重量%までの吸蔵も可能である。このような水素吸蔵合金を反応系に存置するだけで、ガス雰囲気から水素分離膜とは異なる形で水素分圧を下げることができ、これによって水素製造の効率を上げることができるのである。
【0022】
前記反応式(2)および(4)の最終生成物は、二酸化炭素と水素である。従って水素を除去するだけでなく、二酸化炭素を除去することが、より反応収率を向上させうると考えられる。そこで、本発明では、二酸化炭素吸収剤を反応系に共存させることによりさらなる効率アップを図ることができる(この反応メカニズムは図3を参照することで容易に理解できる)。式(4)で発生した二酸化炭素は吸収剤の作用により、ガス成分から除去され、結果として少量の一酸化炭素と二酸化炭素および水素と、多量の水蒸気が反応系に残存する形で化学平衡となる。反応終了後は、常温常圧の状態で水蒸気は水に戻るので、反応容器内に残るのは二酸化炭素を吸収した固形分と、最初に反応系に投入した有機系資源(炭素源)の残渣および前記水であり、後の処分(洗浄、メンテナンスなど)が非常に容易であるという特徴がある。
【0023】
前記二酸化炭素吸収剤としては、例えば酸化カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどが上げられる。これらのうち、二酸化炭素吸収能、コスト、取り扱いの容易さなどの点で、酸化カルシウムが最も好ましい。酸化カルシウムは前記式(3)に示されるように一旦水と反応して水酸化カルシウムを生成し、さらに式(5)に示すように二酸化炭素と反応して炭酸カルシウムを形成する。反応終了後の炭酸カルシウムはカ焼によって再び酸化カルシウムに戻し、リサイクル可能である。また、石灰石、ドロマイト(白雲石)なども、カ焼によって酸化カルシウムなどに変換することで二酸化炭素吸収剤として使用できる。
【0024】
前記二酸化炭素吸収剤の使用量は、吸収剤の種類によって異なり、発生する二酸化炭素を全て吸収するに充分な量が好ましい。例えば酸化カルシウムを用いる場合には、一般的には有機系資源の炭素とのモル比で1.1:1〜2.0:1、より好ましくは、1.3〜1.6、さらに好ましくは1.4〜1.5である。二酸化炭素吸収剤の量が炭素とのモル比で1.1より少なすぎると反応の途中で系内の二酸化炭素濃度が上昇するため、水素生成効率が低下する傾向があり、二酸化炭素吸収剤の量が炭素とのモル比で2.0より多すぎても、吸収すべき二酸化炭素が存在しないために無駄になるからである。
【0025】
本発明では、さらに水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物を共存させることによって、原料炭素に対する水素回収率を飛躍的に向上させることができる。この反応機構についてはいまだ不明であるが、例えば前記酸化カルシウムを用いた場合に、酸化カルシウムのモル濃度に対して水酸化カリウムをモル比で2〜20%、好ましくは5〜15%添加することによって、水素回収率は2倍程度に向上させることができるのである。またこれは、有機系資源に食品廃棄物を使用する場合に極めて有効なのである。食品廃棄物には多種の化合物、元素が含まれており、その中でアルカリ金属塩も多く含まれているために、水性ガス化反応において反応系にアルカリ金属水酸化物が適当量存在することとなり、水素回収率を自然に引き上げる作用を有するからである。勿論、石炭などを有機系資源として使用する場合にも適量のアルカリ金属水酸化物を添加することで、効率よく水素を回収することができる。
【0026】
本発明の好ましい別の態様として、炭素と水を反応させて水素ガスを生成させる水性ガス化反応により水素含有ガスを生成する水素製造装置に、前記反応容器内に取りつけられ、発生する水素ガスを選択的に分離して反応系の水素分圧を下げながら反応を進行させるための水素分離膜および/又は水素吸蔵合金を備えたことを特徴とする装置が提供される。この装置を使用することにより水性ガス化反応を効率的に進行させ、発生する水素を選択的に回収することができる。
【0027】
また、本発明の好ましい他の態様として、炭素と水を反応させて水素ガスを生成させる水性ガス化反応により水素含有ガスを生成する反応容器と、前記反応を開始させる加熱部と、前記反応容器内に取りつけられ、発生する水素ガスを選択的に分離して反応系の水素分圧を下げながら反応を進行させるための水素分離膜および/又は水素吸蔵合金と、を備えた水素製造装置が提供される。
【0028】
前記水素製造装置の反応容器は、少なくとも水性ガス化反応の条件である圧力2〜5メガパスカル、温度550〜880℃に耐えうる素材からなる。例えばSUS304やSUS316のステンレス鋼で、鉄とクロム・ニッケルの合金で製造されている。反応容器には有機系資源と水および好ましくは酸化カルシウムなどを投入する開口部を有し、内圧を上昇させるために該開口部を覆蓋する蓋部材が取り付けられる。また水蒸気を発生させ反応を開始させるために反応容器を加熱する加熱部を備え、該加熱部は反応容器内の温度を調整するための温度センサ等により制御されている。これらは、一般的にはオートクレーブ型の構成と類似する。なお、加熱は反応開始時に必要とされるが、反応が開始された後は水性ガス化反応により発熱するために継続加熱する必要はなく、むしろ反応中は反応容器を冷却することが好ましい。
【0029】
そして反応容器には、水素を透過させて水素を取り出す水素分離膜および/又は水素を濃縮し貯蔵する水素吸蔵合金が設けられている点が特徴である。従来の水素製造装置は、反応容器から生成した水素を他の生成ガス(メタン、エチレン、一酸化炭素など)とともに取り出し、一旦反応系外にパイプラインなどによって輸送した後、適当な水素分離手段によって精製・保管していた。或いはバッチ式で反応終了まで密閉容器内で処理し、前記同様にして別の装置により水素を分離精製していた。このような装置構成は、既存の水素分離膜を有する装置を利用できる点ではよいが、別途分離装置を配置する必要があり、空間的、費用的には改良の余地があるものであった。本発明では、反応容器内に水素分離膜および/又は水素吸蔵合金を設けることによって一つの装置構成で水素が精製分離できるので、水素を迅速かつ高純度、高効率で得ることができる。
【0030】
図4は本発明の水素製造装置の概略構成を示す模式図である。図4において水素製造装置1は、反応容器2と蓋部材3、および該蓋部材3には反応系内から水素を分離するための水素分離膜4が取りつけられている。反応容器などはそれぞれ円筒状の構造になっているが、耐圧力のためにはこうした、形状が最も適している。反応容器の側面には加熱手段5が設けられ、水性ガス化反応に必要な温度にするために反応容器を加熱する。加熱手段としては一般的な電機ヒータなどが採用され、加熱手段近傍と反応容器内にそれぞれ取りつけられた温度センサ6によってヒータのオンオフを調整し、反応容器内の温度を適温(前記の通り550〜880℃)に保持する。
【0031】
図4において、水素分離膜4が蓋部材3に対して上方から垂直に挿入されているが、水素分離膜の位置は特に限定されるものではなくまた、反応容器に接続されていてもよい。水素分離膜はその機能として水素を反応系から分離するため、有機系資源(固形物)の存在する反応容器の底部以外であれば基本的にどこの位置でも良いが、有機系資源から揮散する成分にはタール状の成分が含まれるために、反応過程で水素分離膜の表面にこれらが付着し、水素透過を阻害することになる。従って、有機系資源から最も遠い位置に設置するのが望ましい。生成する水素はガスであるため、反応系内のどの位置であっても分離効率に大差はなく、有機系資源の炭素と水とが反応する反応場に対して適当な距離を保つことが、水素分離膜の耐用年数、保守管理上の面でも有効だからである。
【0032】
前記有機系資源から揮散するタール状の成分を選択的に除去するために、反応容器内にγアルミナや活性白土などの多孔質体を共存させておくと良い。これにより有機系資源として食品廃棄物を使用した場合などは特にタール状の成分が発生しやすいが、多孔質体がこれを吸着するために、水素分離膜への汚れの付着を防止し、水素分離膜の有効表面積を維持する効果がある。
【0033】
図4の水素分離膜の形状は、中空部を有する円筒形状であるが、この形状に特定されるものではなく、角柱形状や、蓋部材あるいは反応容器の側壁の一部を構成するように設けられても良い。大切なことは、反応系の高圧力に耐えうる状態・形状で配置することである。水素分離膜の材質などは前記の通りであるが、蓋部材または反応容器に気密性を維持しつつ固定するには、膜全体が前記合金で形成されている方が製造しやすい。一方、膜全体をパラジウム単体やパラジウム合金等で製造すると耐圧を考慮して厚みを確保する必要があるため、筒状セラミックス等の外周面または内面に前記合金を形成させたものが代用可能である。セラミックス等無機質材料の担体にパラジウム単体やパラジウム合金膜、例えば、パラジウム−銀合金膜等を容易に形成させる方法として、担体の表面にPd,Agを別々に形成後合金化処理、例えば、800℃×5時間の加熱処理を行う方法やメッキ処理する方法などがある。また、セラミックス多孔質体を基材とし、この基材表面に減圧プラズマ溶射法によりパラジウムあるいはパラジウム合金からなる膜を形成する方法などもある。
【0034】
水素分離膜4の中空部に連結される配管7は、反応容器内の圧力と同等の外圧を付与するために不活性ガスを送る。反応時の圧力が従来より低くなったとはいえ、反応容器内の圧力と常圧とはかなりの差があるため、膜に加わる圧力を中空部への付圧によって調整し、膜の形状を保つためである。この付圧は必須ではなく、中空部の孔径や長さなどの条件によっては、不要となりうる。配管の先には電磁弁またはバルブを経由して流量計測制御機器8を通して不活性ガスボンベ9へと連通する。ここで用いられる不活性ガスとしては、アルゴン、ヘリウム、窒素から選択された一種以上であることが好ましい。
【0035】
水素分離膜4から図面右方向へ延びる配管7’は、反応により生成した水素ガスを搬送する管である。この管はレギュレータ10、体積流量計11を通って、貯留用水素ガスボンベ(図示せず)に連通する。
【0036】
前述とは異なり水素分離膜の代わりに、反応容器内部に水素吸蔵合金を単に設置することもできる。この場合には、前記配管や、不活性ガスボンベなどを必要とせず、反応開始時に、水素吸蔵合金を入れておき、反応終了後にこれを取り出して、そのまま、燃料電池などに用いることができるのである。
【0037】
以上のように簡単な装置構成により、水素製造装置が構成できるので、装置コストの低減が図れ、一般家庭に普及させうる装置として、非常に有用なのである。
【実施例】
【0038】
以下に本発明の具体的な実施形態について、図4に示す装置を用いた場合の水素製造方法を説明する。また実施例により求められた水素回収率は次のように定義する。
【0039】
[水素回収率]
理論的には(1)式によって生成するのは水素のみであり、また二酸化炭素吸収剤を併用しない場合には、二酸化炭素(一部一酸化炭素)と水素であるが実際には、有機系資源に含まれる成分や、副反応によりメタン、エタンなどのガスも生じる。そこで水素回収率は、反応系に使用した有機系資源の炭素モルが完全に水素発生に用いられたとしたときの理論水素モルで、実際に回収された水素モルを割って、百分率(%)で表した値である。
【0040】
[実施例1]
有機系資源として太平洋炭を用い(炭素0.02モル)、水(0.1モル)を反応容器(容積110cm3)に入れ、温度650℃、圧力2〜4メガパスカル(MPa)で水性ガス化反応を3時間行った。用いた水素分離膜はパラジウム/銀(77/23)合金からできており、これにさらに二酸化炭素吸収剤として水酸化カルシウム(炭素モルの1.43倍濃度)を用いた系、さらに触媒量(前記水酸化カルシウムの10%濃度)の水酸化カリウムを加えた系についてそれぞれ水素回収率を求めた。また、比較試験として、水素分離膜を用いないで水酸化カルシウムのみを用いた系、水酸化カルシウムも用いない系についても行った。その結果を次表1に記載する。
【0041】
【表1】

【0042】
上記表に記載の結果から明らかなように、本発明による水素分離膜を使用した水素製造方法を用いることにより水素回収率の優れた効果が判る。また、膜と共に二酸化炭素吸収剤を用いるとその効果がさらに増進され、さらに触媒量の水酸化カリウムの添加によって、極めて優れた回収率を実現することができた。
【0043】
[参考例]
次に、食品廃棄物を本発明の炭素源として用いて用いて試験を行った。まず、一般的な食品廃棄物中の含有炭素量など、および元素分析の結果を石炭と比較するために次表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
表2の結果から、食品廃棄物中にいかに多くの炭素が含まれているかが理解できる。また食品廃棄物の特徴は酸素(や硫黄)の組成比が高いということである。
【0046】
[参考例2]
前記食品廃棄物および食品廃棄物のチャーを使用(それぞれ炭素0.02モル)して実施例1と同様の試験を行った。その結果を炭素モル濃度当たりの水素モル濃度として表3に示した。
【0047】
【表3】

【0048】
表3の結果より、食品廃棄物からも充分に水素を製造しうる有機資源であることが判る。また本発明の製造方法によれば、従来の方法に比べて数倍の水素回収効果があることが容易に理解される。さらに、本実施例では、アルカリ金属水酸化物を添加してはいないが、食品廃棄物中には必然的にアルカリ金属塩が含まれてくることが予想され、それが本発明の水素回収効果増進の要因の一つであると予想される。
【産業上の利用可能性】
【0049】
石炭やバイオマス、食品廃棄物などの有機系資源を炭素源としこれと水から水性ガス化反応により水素を製造する方法において、高純度、高効率で水素を製造する方法ならびにそれに用いる水素製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】従来の二酸化炭素吸収剤を使用した場合の反応メカニズムを示す参考図である。
【図2】本発明における、反応系から分離するために水素分離膜および又は水素吸蔵合金を用いた反応メカニズムを示す参考図である。
【図3】本発明における、反応系から分離するために水素分離膜および又は水素吸蔵合金を用いかつ、二酸化炭素吸収剤を使用した場合の反応メカニズムを示す参考図である。
【図4】本発明の水素製造装置を示す模式図である。
【符号の説明】
【0051】
1 水素製造装置
2 反応容器
3 蓋部材
4 水素分離膜
5 加熱手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素と水を反応させて水素ガスを生成させる水性ガス化反応を利用する水素製造方法であって、
水素分離膜および/又は水素吸蔵合金によって、発生する水素ガスを選択的に分離して反応系の水素分圧を下げながら反応を進行させることを特徴とする水素製造方法。
【請求項2】
前記水性ガス化反応によって発生する一酸化炭素が水と反応して二酸化炭素を生成し、該二酸化炭素を吸収する二酸化炭素吸収剤を反応系に共存させることを特徴とする請求項1記載の水素製造方法。
【請求項3】
前記二酸化炭素吸収剤が酸化カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムから選択される一種以上であることを特徴とする請求項2記載の水素製造方法。
【請求項4】
前記反応系にさらに触媒量のアルカリ金属水酸化物を含有することを特徴とする請求項2乃至4記載の水素製造方法。
【請求項5】
前記反応が圧力2〜5メガパスカル、温度550〜880℃の条件で炭素を水蒸気分解することを特徴とする請求項1乃至5記載の水素製造方法。
【請求項6】
炭素と水を反応させて水素ガスを生成させる水性ガス化反応により水素含有ガスを生成する水素製造装置に、
前記反応容器内に取りつけられ、発生する水素ガスを選択的に分離して反応系の水素分圧を下げながら反応を進行させるための水素分離膜および/又は水素吸蔵合金を備えたことを特徴とする水素製造装置。
【請求項7】
炭素と水を反応させて水素ガスを生成させる水性ガス化反応により水素含有ガスを生成する反応容器と、
反応を開始させる加熱部と、
前記反応容器内に取りつけられ、発生する水素ガスを選択的に分離して反応系の水素分圧を下げながら反応を進行させるための水素分離膜および/又は水素吸蔵合金と、
を備えた水素製造装置。
【請求項8】
前記水素分離膜に反応容器内の圧力と同等の外圧を付与するための不活性ガスを送る圧力容器をさらに備えた請求項7記載の水素製造装置。
【請求項9】
前記不活性ガスがアルゴン、ヘリウム、窒素から選択された一種以上である請求項8記載の水素製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−247638(P2008−247638A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−88213(P2007−88213)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 第43回石炭科学会議 発表論文集 発行所:社団法人 日本エネルギー学会 発行日:平成18年10月12日
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(598132048)財団法人 石炭エネルギーセンター (8)
【Fターム(参考)】