説明

水素製造用触媒、その触媒の製造方法およびその触媒を用いた水素の製造方法

【課題】燃料である炭化水素系化合物に含まれる硫黄含有化合物による被毒、燃料電池システムの稼動停止の繰り返しでの温度や雰囲気変化による触媒成分変質やコーキングに対して長期耐久性を有した水素製造用触媒を提供する。
【解決手段】本発明は、炭化水素系化合物の改質により水素を生成する水素製造用触媒であって、アルミナ、セリウム−ニッケル均密混合酸化物、白金族金属及び塩基性付与化合物を含有する触媒組成物がハニカム担体に担持されていることを特徴とする水素製造用触媒である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素系化合物を改質して水素含有ガスを製造する水素製造用触媒およびその触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素含有ガスは、水素ガス製造用の他に還元用ガス、更には各種化学製品の原料等として広く活用されており、最近では、燃料電池用燃料としても実用化研究が進められている。このような水素含有ガスは、炭化水素系化合物の水蒸気改質によって得られることが知られている。天然ガスの主成分であるメタンを原料とした場合の水蒸気改質反応を下式に示した。
CH+HO→CO+3H
家庭用燃料電池システムにおいては、電力および熱需要の状況への対応によりシステムの稼動停止を頻繁に実施される。この際、改質器内部に水および未改質燃料が残存したままシステムを停止すると、触媒の劣化、再起動性の悪化、燃料の漏洩等の不具合が発生する可能性がある。そこで燃料電池システムを停止する場合は、燃料を停止して不活性なガスを流通させて改質器内部をパージしてから停止する方法が採用されている。不活性なガスとしては窒素やアルゴンが知られているが、家庭用には不向きである。そこで水蒸気をパージガスとして使用しているが、水素製造用触媒として工業的に実績があるニッケル系触媒は高温の水蒸気雰囲気にてニッケルが酸化されてシンタリングし失活することが知られている。従って、家庭用燃料電池向け水素製造用触媒としては白金族であるルテニウム系触媒が一般的に使用されている。ただしルテニウムも酸化雰囲気でシンタリングしやすいことが知られており、耐酸化性が優れ高価な白金族金属の使用量が少ない水素製造用触媒の開発が望まれている。
【0003】
また改質反応の燃料となる炭化水素系化合物には、メタノール、LPガス、天然ガス、ガソリン、軽油、灯油等が挙げられるが、特に家庭用の燃料電池向けの水素源としてはインフラの点で都市ガス、LPガスおよび灯油を使用することが好ましい。しかしながら、都市ガス、LPガス及び灯油には付臭剤や不純物としてメルカプタン類などの硫黄含有化合物が含まれており、これら硫黄含有化合物は微量存在するだけで水蒸気改質触媒や後段のCO変成触媒の触媒被毒物質となる。そこで燃料に含まれる硫黄含有化合物による水素製造用触媒の劣化を回避するための手段として、改質器の前段に前処理脱硫装置を併設し、燃料ガスから予め硫黄分を除去してから改質反応に供する等の防止策が実施されている。
【0004】
これに対し、硫黄系含有化合物を含む燃料の改質反応において、硫黄被毒による触媒劣化を抑制できる触媒として、白金およびロジウムを含有する触媒が提案されている(特許文献1)。該文献では、特にロジウムは耐硫黄被毒性の向上に有効的であることが開示されている。同様に、炭化水素化合物類の燃料に硫黄系化合物が一定濃度以上含有する場合においても長期間の触媒安定性を確保できる手段として、ルテニウムに加えてロジウムを含有する水蒸気改質触媒が提案されている(特許文献2)。ロジウム含有触媒は耐硫黄被毒性に優れ、耐酸化性も優れているが、ロジウムは白金族金属の中でも最も高価な貴金属であるため担持量が多いと触媒価格の大幅な上昇を招いてしまう。
【0005】
また炭化水素の水蒸気改質反応において担体の酸性点で炭素析出が生じ易いことが知られており、例えば担体成分の酸性点を中和する成分としてランタン、アルカリ金属やアルカリ土類金属の酸化物を添加することで炭素析出を抑制する炭化水素改質触媒が提案されている(特許文献3)。該文献ではZrO−Alなどの複合酸化物系担体の固体酸点を中和することで炭素析出が抑制されることが実施例で開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平04−281845号公報
【特許文献2】特許公報4227779号公報
【特許文献3】特開2002−126522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
水素製造用触媒は高温高湿度条件で使用されるため触媒成分のシンタリングによる熱劣化や原料ガスに含まれる硫黄含有化合物による被毒劣化が生じるため耐久性の向上が望まれている。また触媒寿命は、改質時の反応温度にも依存し、低温で効率的に改質反応が進行すれば触媒寿命を大幅に延命することができる。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、燃料である炭化水素系化合物に含まれる硫黄含有化合物による被毒、燃料電池システムの稼動停止の繰り返しでの温度や雰囲気変化による触媒成分変質やコーキングに対して長期耐久性を有した水素製造用触媒、およびその触媒の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、炭化水素系化合物の改質反応について詳細に検討した結果、アルミナ、セリウム−ニッケル均密混合酸化物、白金族金属および塩基性付与化合物を含有してなる触媒組成物をハニカム担体に担持してなり、前記塩基性付与化合物がマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、イットリウム、ランタン、プラセオジム及びネオジムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である水素製造用触媒を用いることにより耐硫黄被毒性が改善すると共に、低温活性の向上により熱的負荷が抑制され、触媒寿命を大幅に延長できることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水素製造用触媒によれば、燃料ガスが硫黄含有化合物を含む場合であっても、低温で改質反応を行うことができ、かつ硫黄含有化合物による被毒劣化を抑制できる。このため、本発明の水素製造用用触媒は家庭用の燃料電池向けに好適であり、例えば固体高分子型燃料電池や固体酸化物型燃料電池への組み込みに適している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の水素製造用触媒はアルミナ、セリウム−ニッケル均密混合酸化物、白金族金属及び塩基性付与化合物を含有してなる触媒組成物をハニカム担体に担持してなり、前記塩基性付与化合物がマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、イットリウム、ランタン、プラセオジム及びネオジムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であることを特徴とする水素製造用触媒である。また前記セリウム−ニッケル均密混合酸化物とはセリウムとニッケルとの複合酸化物、固溶体または混合酸化物のいずれかまたはそれらの混合物である(以下、これらを合わせて均密混合酸化物と称する)。本水素製造用触媒は改質反応により炭化水素系化合物から水素を生成することができる。以下に本発明の詳細を説明する。
【0012】
本発明の水素製造用触媒の触媒組成物であるアルミナはγ−アルミナ、η−アルミナ、δ−アルミナ、θ−アルミナ及びα−アルミナなどが使用可能である。比表面積が20〜300m/gの活性アルミナを使用することが好ましく、より好ましくは60〜200m/g、特に好ましくは80〜180m/gのδ−アルミナまたはγ−アルミナを使用することが好ましい。比表面積が300m/gを越えるアモルファスなアルミナを使用すると、改質反応時に600℃以上の高温に晒された場合に著しい比表面積低下を生じると共に白金族金属などの触媒成分や助触媒成分の凝集を招いて性能低下が生じる可能性がある。また比表面積が20m/g未満のアルミナは熱的な安定性は優れているが初期の触媒成分や助触媒成分の分散性が不十分となるので好ましくない。アルミナは、工業的に市販されている各種酸化アルミニウム粉体が使用できる。またベーマイトや擬ベーマイトを含むアルミナ水和物や水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム等のアルミニウム塩やアルミニウムイソプロポキシドなどのアルコキシドを加水分解して得られた沈殿物等を焼成して得られるアルミナを使用しても良い。また触媒組成物中にベーマイト、硝酸アルミニウムやアルミナゾルなどのアルミナの前駆体として添加してハニカム担体に担持してから、焼成してアルミナに転換してもよい。
【0013】
次に本発明の水素製造用触媒の触媒組成物であるセリウム−ニッケル均密混合酸化物は、アルミナが100質量部に対してセリウム−ニッケル均密混合酸化物を10〜200質量部、より好ましくは30〜180質量部、特に好ましくは50〜150質量部の比率で触媒組成物中に添加することが好ましい。アルミナが100質量部に対して前記セリウム−ニッケル均密混合酸化物の含有量が10質量部未満である場合は水素製造用触媒の初期性能や耐久性能が不十分となり、200質量部を超えてもコストに見合う性能向上効果が得られない。尚、セリウム−ニッケル均密混合酸化物は水素製造用触媒の改質反応使用条件下において、均密混合酸化物に含有されているニッケルの一部はニッケル金属に還元され、水蒸気改質活性に関与しているものと推定される。
【0014】
本発明のセリウム−ニッケル均密混合酸化物はセリウムとニッケルとの複合酸化物、固溶体及び混合酸化物のいずれかであり、特に複合酸化物または固溶体であることが好ましい。またセリウム−ニッケル均密混合酸化物におけるセリウムとニッケルのモル比は1:99〜99:1の範囲であることが好ましい。一般にセリウム及びニッケルの各々単独の酸化物は600℃以上の高温熱処理により急激に結晶化が進行しシンタリングしやすいことが知られているが、本発明のセリウム−ニッケル均密混合酸化物は粒子成長が抑制され耐熱性が著しく改善されている。また燃料に含まれる硫黄含有化合物などの触媒被毒成分に対してもセリウム−ニッケル均密混合酸化物は安定な結晶構造を有しており不活性な金属硫化物への変質を抑制することができる。セリウム−ニッケル均密混合酸化物の結晶構造は粉末X線回折分析によって格子面間隔(d値)を測定することにより確認される。例えばセリウムとニッケルが複合酸化物を形成している場合は、含有比率の少ない方の酸化物のピークが検出されないか、検出されても非常にアモルファスなピークになっている。またセリウムとニッケルが固溶体を形成している場合は、X線回折ピーク位置が酸化セリウムまたは酸化ニッケルの固有の値より僅かにシフトする。なお本発明のセリウム−ニッケル均密混合酸化物は複合酸化物や固溶体のX線回折ピークに加えて一部単独の酸化セリウムまたは酸化ニッケルのピークが検出される混合酸化物であってもよい。なおセリウム−ニッケル均密混合酸化物の調製方法については後述するがセリウム化合物とニッケル化合物の固相反応法、共沈法、沈着法、薬液混合法、含浸法などによって調製されるものである。
【0015】
また本発明の水素製造用触媒の触媒組成物である白金族金属としては白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウムよりなる群からから選ばれる少なくとも1種の金属を添加することができる。各種燃料に対して低温で優れた水蒸気改質性能を付与することができるロジウム、ルテニウム及びイリジウムのいずれかを使用することが好ましい。ルテニウムは本願のセリウム−ニッケル均密混合酸化物と組み合わせて使用することにより低温での改質性能と優れた耐久性能が得られるので特に好ましい。白金族金属はアルミナが100質量部に対して0.1〜15質量部、より好ましくは1〜12質量部、特に好ましくは5〜10質量部の比率で触媒組成物中に添加することが好ましい。触媒組成物における白金族金属の含有量がアルミナ100質量部に対して0.1質量部未満である場合は、十分な転化性能が得られなかったり硫黄被毒やコーキングを招きやすくなったりして十分な耐久性能が得られない。またアルミナ100質量部に対して15質量部以上の白金族金属を添加する場合は分散性の低下を招くため価格高騰に見合う性能向上が得られない。白金族金属の原料化合物として、例えば、塩化白金酸水溶液、ジニトロジアミノ白金硝酸水溶液、硝酸パラジウム水溶液、塩化パラジウム水溶液、塩化ルテニウム水溶液、硝酸ルテニウム水溶液、塩化ロジウム水溶液、硝酸ロジウム水溶液、塩化イリジウム水溶液や硝酸イリジウム水溶液等が使用できる。
【0016】
また白金族金属は2種以上を触媒組成物に含有しても良い。特に好ましい白金族金属としてルテニウムが挙げられ、ルテニウムと他の白金族金属を組み合わせて添加することにより耐熱性や耐硫黄被毒性の改善が見られる。ルテニウムと他の白金族金属との添加比率がルテニウム金属を1として他の白金族金属の総計が0.01〜3の重量比になるように添加することが好ましい。
【0017】
なお白金族金属はアルミナ、セリウム−ニッケル均密混合酸化物および塩基性付与化合物のいずれに担持されていてもよい。例えば白金族金属をアルミナおよび/またはセリウム−ニッケル均密混合酸化物などに予め担持しておいたものを湿式粉砕してハニカム担体に被覆したり、湿式粉砕の際にスラリーに白金族金属の水溶液を触媒組成物に添加してハニカム担体に被覆したり、ハニカム担体にアルミナやセリウム−ニッケル均密混合酸化物などを被覆してから白金族金属を担持してもよい。
【0018】
また本発明の水素製造用触媒の触媒組成物である塩基性付与化合物としてマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、イットリウム、ランタン、プラセオジム及びネオジムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素が添加されている。塩基性付与化合物はアルミナが100質量部に対して0.5〜20質量部、特に好ましくは1〜10質量部の比率で触媒組成物に添加することが好ましい。アルミナが100質量部に対して塩基性付与化合物の含有量が0.5質量部未満である場合は低温での改質性能の低下や耐久性能の低下を招き、20質量部を超える場合は担体成分や触媒成分が変質したり触媒層の細孔が閉塞してガス拡散が損なわれて性能低下の要因となるため好ましくない。塩基性付与化合物の原料としては前記各元素の酸化物、炭酸塩、水酸化物、硝酸塩、酢酸塩、塩化物、硫酸塩などが使用可能であり、触媒組成物中において酸化物、炭酸塩、水酸化物などの形態で含有されていることが好ましい。前記塩基性付与物のなかでもバリウム、ランタン、プラセオジム及びネオジムの化合物を添加することが好ましい。特にバリウム、ランタン、プラセオジウムやネオジムは塩基性を付与するだけではなく800℃以上の高温条件に晒されても活性アルミナのα−アルミナへの結晶転移を抑制する効果も得られるため、触媒の耐熱性が大幅に改善される。
【0019】
このように本発明の水素製造用触媒はアルミナ、セリウム−ニッケル均密混合酸化物、白金族金属および塩基性付与化合物を含有してなる触媒組成物をハニカム担体に担持されている。上記触媒組成物はハニカム担体の単位容積当り100〜300g/L(触媒1リットル当たりの質量、以下同じ)の担持量で担持されていることが好ましく、触媒組成物の各成分の含有比率はアルミナ100質量部に対してセリウム−ニッケル均密混合酸化物が10〜200質量部、白金族金属が0.1〜15質量部で、塩基性付与化合物が0.5〜20質量部であることが好ましい。触媒組成物の担持量がハニカム担体の単位容積当りの担持量が100g/L未満である場合は、触媒コート層の厚みが薄くなり、ガス拡散が不十分となって反応効率の低下を招くため好ましくない。また300g/Lを超える場合は触媒製造が困難であり、セルの閉塞による圧損上昇や使用時に炭素析出等の不具合が生じやすくなる可能性がある。より好ましい触媒組成物の担持量は150〜250g/Lである。
【0020】
本発明に使用されるハニカム担体としてはセル数が100〜600セル/inch2(1平方インチ当たりのセルの数)のコージライトやムライトのようなセラミック製ハニカム担体やステンレス製のメタルハニカムなどを使用することができる。ハニカム担体のセル数が100セル/inch2以下である場合は単位容積当たりのガスとの接触面積が小さくなるため十分な反応速度が得られ難くなり、600セル/inch2を越える場合は触媒組成物の担持に際して目詰まりが生じやすくなるため好ましくない。水蒸気改質反応は吸熱反応であり外部加熱で触媒を500℃以上に昇温する必要があるが、軽量で伝熱性が良好なメタルハニカム担体を用いることで燃料電池システムを短時間で始動することが可能となる。特に、アルミニウムを含有するフェライト系ステンレス(Fe−Cr−Al)薄鋼板からなる平板と波板とを交互に重ね合わせて、渦巻状に積層したメタルハニカム担体を使用することが好ましい。メタルハニカム担体のセル数は100〜600セル/inch2(1平方インチ当たりのセル数)であり、ステンレス薄鋼板の箔厚が10〜50μmであることが好ましい。より好ましくはセル数が200〜400セル/inch2であり、ステンレス薄鋼板の箔厚が20〜30μmである。またステンレス薄鋼板の箔厚が10μm未満の場合はハニカムの機械的強度の低下を招く可能性があり、50μmを超える場合は触媒重量が重たくなるので好ましくない。
【0021】
(セリウム−ニッケル均密混合酸化物の調製例)
本発明の特徴の一つであるセリウム−ニッケル均密混合酸化物の調製方法について以下に説明する。前述のようにセリウム−ニッケル均密混合酸化物は各種セリウム化合物とニッケルの化合物とを固相反応法、共沈法、沈着法、薬液混合法、含浸法などによって調製することができる。以下に、具体的な調製例を示す。
(1)セリウム酸化物とニッケル酸化物とを混合した後、高温で焼成する。
(2)セリウム塩水溶液とニッケル塩水溶液とを混合した後、噴霧乾燥により微粉化したものを焼成する。
(3)セリウム塩水溶液とニッケル塩水溶液とを混合し、アンモニア水などアルカリ性化合物を添加して加水分解により共沈させた後、乾燥、焼成する。
(4)セリウム酸化物にニッケル塩水溶液を浸し混合した後、乾燥、焼成する、あるいはニッケル酸化物にセリウム塩水溶液を浸して混合した後、乾燥、焼成する。
(5)セリウム酸化物の前駆体にニッケル塩水溶液を浸した後、混合、乾燥、焼成する、あるいはニッケル酸化物の前駆体にセリウム塩水溶液を浸した後、混合、乾燥、焼成する。
【0022】
この際、セリウム化合物の原料としては、市販の酸化セリウム以外に、硝酸セリウム、塩化セリウム、硫酸セリウム、酢酸セリウムなどの水溶性のセリウム塩化合物や前記酸化セリウムの前駆体である酸化セリウムゾル、水酸化セリウムや炭酸セリウムなどを用いることができる。ニッケル化合物の原料としては、市販の酸化ニッケル以外に、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、硫酸ニッケルアンモニウム、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル、シュウ酸ニッケル、クエン酸ニッケルなどの水溶性のニッケル塩化合物などが使用できる。また前記ニッケル酸化物の前駆体として炭酸ニッケル、塩基性炭酸ニッケル、水酸化ニッケルどの炭酸塩や部分加水分解生成物を用いることができる。
【0023】
上記(1)〜(5)における焼成は、例えば、空気中で500〜1000℃、好ましくは600〜800℃にて5〜10時間程度実施することで、本発明に使用されるセリウム−ニッケル均密混合酸化物を得ることができる。このようにして得られたセリウム−ニッケル均密混合酸化物は熱的に安定であり、各々単独の酸化物と比較して熱処理後において高い比表面積を保持し、高温での結晶成長が抑制されるというような優れた物性を有している。なかでも(3)の共沈法および(4)、(5)の含浸法により得られたセリウム−ニッケル均密混合酸化物を用いることにより、高活性で耐久性の優れた水素製造用触媒を製造することができる。特に(5)の方法は簡便な製造設備で優れた特性を有した複合酸化物や固溶体を容易に調製することができるので好ましい。
【0024】
本発明のより好ましい態様において水素製造用触媒の触媒組成物であるセリウム−ニッケル均密混合酸化物におけるニッケルの含有率を50モル%未満とする。セリウム−ニッケル均密混合酸化物はニッケルを10〜50モル%含有しており、粉末X線回折測定において二酸化セリウムの蛍石型構造の位置に結晶ピ―クが検出され、酸化ニッケルに由来する結晶ピークは検出されないか、検出されてもそのメインピークの強度が前記二酸化セリウムのメインピーク強度の1/10未満であることが好ましい。セリウム−ニッケル均密混合酸化物におけるニッケルの含有率が10モル%未満である場合は触媒組成物中のニッケルの含有率が少なくなり改質性能が不十分であり、ニッケルの含有率が50モル%を超える場合はニッケルが粒子成長しやすくなり触媒使用条件下において硫黄被毒やシンタリングが生じ本発明の効果が得られにくくなる。上記セリウム−ニッケル均密混合酸化物におけるセリウムとニッケルのモル比や結晶構造の同定は、直接セリウム−ニッケル均密混合酸化物を分析する以外に、触媒化した水素製造用触媒より触媒組成物を採取したものを試料として分析することによっても確認することができる。
【0025】
前述のように上記セリウム−ニッケル均密混合酸化物の粉末X線回折測定において二酸化セリウム蛍石型構造と類似した位置に結晶ピ―クが主に検出され、酸化ニッケルに由来する結晶ピークは検出されないか、検出されてもそのメインピークが前記二酸化セリウムのメインピークの1/10未満のピーク強度となっている。このようにセリウム−ニッケル均密混合酸化物におけるニッケルの含有率を特定の範囲にすることにより、ニッケルは酸化セリウムの結晶構造の中に複合化または固溶化されやすくなり本発明の効果が最大限に発揮される。本発明の実施例におけるX線回折の測定条件は、CuKα線源、電圧45KV、電流40mA、走査範囲10〜90°、走査速度0.198°/minで実施した。上記X線回折の測定条件において実施例に示すセリウム−ニッケル均密混合酸化物は主ピークのd値はいずれも3.07〜3.15の範囲にあり、JCPDS(Joint Committee of Powder Diffraction Standarts)カードに記載された二酸化セリウムの蛍石型構造のd値である3.12とほぼ一致する位置に検出された。前述のように固溶体を形成している場合はd値が若干シフトするが、そのズレはd値±0.05の範囲であることが好ましい。またカードに記載されている二酸化セリウムのd値は相対強度が高い順に、3.12、1.91、1.63、2.71(以下、省略)であり、主ピーク以外もほぼ一致した位置(d値±0.05)に結晶ピークが検出され、本発明のセリウム−ニッケル均密混合酸化物の結晶構造は二酸化セリウム蛍石型構造にほぼ類似した複合酸化物または固溶体を形成していると考えられる。
【0026】
更に好ましくはセリウム−ニッケル均密混合酸化物におけるニッケルの含有率が20〜40モル%であり、粉末X線回折測定において酸化ニッケルに由来する結晶ピークは検出されないか、検出されてもそのメインピークの強度が二酸化セリウムのメインピーク強度の1/15未満であることが好ましい。またセリウム−ニッケル均密混合酸化物の比表面積は20〜100m/g、より好ましくは30〜70m/gであることが好ましい。また比表面積が20m/gより小さい場合は、反応ガスとの接触効率が低下し十分な初期活性が得られず、100m/gを超える場合は高温反応においてシンタリングしやすく使用により急激な性能低下を招く可能性がある。
【0027】
本発明のセリウム−ニッケル均密混合酸化物は更にクロム、マンガン、鉄、コバルト、銅、亜鉛、イットリウム、ジルコニウム、モリブデン、ランタン、タングステンなどの遷移金属の酸化物を含有せしめてもよい。例えばセリウム−ニッケル−マンガン均密混合酸化物、セリウム−ニッケル−鉄均密混合酸化物、セリウム−ニッケル−コバルト均密混合酸化物、セリウム−ニッケル−イットリウム均密混合酸化物、セリウム−ニッケル−ランタン均密混合酸化物などが使用できる。
(水素製造用触媒の製造方法)
本発明の水素製造用触媒の代表的な製造方法について以下に説明する。
【0028】
<触媒製造方法1>
アルミナ、セリウム−ニッケル均密混合酸化物、白金族金属及び塩基性付与化合物を含有してなる触媒組成物をハニカム担体に担持する水素製造用触媒の製造方法において、アルミナ及びセリウム−ニッケル均密混合酸化物を混合し湿式粉砕して得られたスラリーをハニカム担体に被覆する工程を有している水素製造用触媒の製造方法が好ましい。前述の調製方法により予め作成したセリウム−ニッケル均密混合酸化物とアルミナをボールミルなどの粉砕機に供給し、適当量の水を添加して湿式粉砕してスラリーを作成し、このスラリーをハニカム担体に被覆するものである。尚、塩基性付与化合物や白金族金属は予めアルミナやセリウム−ニッケル均密混合酸化物に担持しておいても良いし、湿式粉砕時に水溶塩などで添加しても良いし、後述のようにスラリーをハニカム担体に被覆してから含浸法によって担持しても良い。スラリーを作成する際には、前記触媒組成物以外に水と共にスラリーの粘度調節や安定性改善のため、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、シュウ酸などの酸性化合物、アンモニアや水酸化テトラアンモニウムなどの塩基性化合物、ポリアクリル酸やポリビニルアルコールなどの高分子化合物などを必要に応じて添加してもよい。スラリーの平均粒子径は0.5〜10μmであることが好ましい。より好ましくは平均粒子径が1〜5μmであることが好ましい。スラリーの平均粒子径が0.5μmより小さくても、10μmを超えてもハニカム担体との接着性が低下し、被覆した触媒組成物が剥がれやすくなる。
【0029】
ハニカム担体へのスラリーの被覆方法としては特に限定されず、含浸法、吸引法、湿式吸着法、スプレー法、塗布法などの方法が適用できる。またスラリー被覆の作業は大気圧下、加圧下あるいは減圧下で行うことができる。スラリー被覆時のスラリー温度も特に制限はなく、必要により加熱してもよく、室温から90℃程度の範囲内で行うことができる。メタルハニカム担体を用いる場合は減圧によりスラリーを吸引して含浸させると均一に触媒成分を担持させることができるので、この吸引含浸法が好適に用いられる。スラリー被覆後は、ハニカム担体に付着している過剰なスラリー(例えば、セル内に残存しているスラリー)をエアブロー等の方法によって除去した後、通風下で乾燥するのがよい。
【0030】
乾燥方法についても特に制限はなく、スラリーの水分を除去し得る条件であればいずれも用いることができる。乾燥は常温下、あるいは50〜200℃の熱風をセル内に通風してもよい。乾燥後に空気中で400〜800℃にて焼成することで触媒組成物をハニカム担体に強固に定着させることができる。例えば、一回の操作で必要量の触媒組成物を担持できないときは、上記スラリー被覆−乾燥−焼成の操作を繰り返して行えばよい。
【0031】
上記工程によりアルミナおよびセリウム−ニッケル均密混合酸化物をハニカム担体に被覆した後、白金族金属や塩基性付与化合物の水溶液に浸漬して含浸担持して残りの触媒組成物をハニカム担体に担持する。白金族金属及び塩基性付与化合物は同時に担持しても良く別々に含浸担持しても良いが、好ましくは先に塩基性付与化合物を含浸担持し乾燥、焼成してから白金族金属を担持する方が優れた性能及び耐久性が得られる。含浸担持後の焼成条件については、例えば、空気中または還元雰囲気下に400〜800℃で焼成すればよい。本製造方法ではスラリー被覆工程と含浸担持工程が別工程となっており、アルミナおよびセリウム−ニッケル均密混合酸化物の強固な被覆層を形成してから、塩基性付与化合物や白金族金属を高分散に担持することができる。
【0032】
<触媒製造方法2>
触媒製造方法2は前記触媒製造方法1においてアルミナ及びセリウム−ニッケル均密混合酸化物に加えて塩基性付与化合物も合わせて、混合し湿式粉砕して得られたスラリーをハニカム担体に被覆する工程を有しているものである。以下は前記触媒製造方法1と同様にしてスラリーをハニカム担体に被覆した後、乾燥し、焼成してから白金族金属の水溶液に浸漬して含浸担持してすべての触媒組成物をハニカム担体に担持する。本製造方法では最終工程にて白金族金属をハニカム担体に担持することができるため、白金族金属の活性化に最適な条件で処理して製品とすることができる。また白金族金属を被覆層の最表面にリッチとなるように担持することで、白金族金属担持量を低減しても優れた触媒活性を得ることができる。
【0033】
(炭化水素系化合物の改質方法)
次に、本発明の水素製造触媒を用いた水素製造方法について以下に説明する。上記水素製造用触媒を用いて燃料の改質反応により水素を製造する水素製造方法において、前記燃料が硫黄含有化合物を含む炭化水素化合物である水素製造方法である。
【0034】
改質反応の燃料となる炭化水素系化合物としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ヘプタン、ヘキサンなどの軽質炭化水素、ガソリン、軽油、ナフサなどの石油系炭化水素などが挙げられ、例えば天然ガス、LPG、都市ガス、灯油などの工業的に安定的に入手できる燃料を使用することができる。ただし炭化水素系化合物は脱硫処理などの精製が実施されていても微量に硫黄含有化合物が残留していたり、一般家庭用LPGや都市ガスに付臭剤としてメルカプタン、チオフェン、スルフィドなどの硫黄含有化合物が添加されていたりする。これら硫黄含有化合物は触媒の被毒物質となることが知られているが、本発明の水素製造用触媒はこれら硫黄含有化合物を含む炭化水素系化合物を燃料とするものである。なお、脱硫器を設置して燃料中に含まれる硫黄含有化合物を除去してから本発明の水素製造触媒により改質反応を実施することにより、長期に渡る触媒使用が可能となり燃料電池システムの維持管理が更に容易となることは言うまでもない。
【0035】
本発明の水素製造方法において、燃料となる炭化水素系化合物と水蒸気を混合するが、炭化水素系化合物に含まれる炭素原子モル数に対する水蒸気のモル数の比(S/C比)は1〜5、好ましくは2〜4、より好ましくは2.5〜3.5である。S/C比が1より小さい場合はコークが析出しやすくなり、5より大きくするとエネルギーコストが高くなり好ましくない。
【0036】
圧力は、常圧以上であって5MPa以下、好ましくは3MPa以下とするのがよい。ガス空間速度(SV)は500〜100,000H−1、好ましくは1,000〜30,000H−1とするのがよい。反応温度は、効率的な改質反応を行うために、触媒層温度が500〜1,000℃、好ましくは600〜900℃の範囲内となるようにするのがよい。
また本発明の水素製造用触媒は、耐酸化性が優れており必要により微量酸素を添加してもよい。酸素の添加により炭化水素系化合物が部分酸化反応により発熱し、外部から加熱しなくても触媒の温度を所定の温度に高めることができる。炭化水素含有ガスと酸素含有ガスとの割合については、炭素原子モル数に対する酸素分子のモル数の比(酸素/カーボン比)が0〜0.75とすることが好ましい。
【0037】
本発明の水素製造用触媒によって得られる改質ガスは、水素と一酸化炭素を主に含有しており、燃料電池や化学工業用原料として使用できる。たとえば高温作動型燃料電池と類別される溶融炭酸塩型燃料電池や固体酸化物型燃料電池は、一酸化炭素や炭化水素も燃料として利用できるので、前記改質ガスをそのまま燃料電池の燃料として使用できる好ましい用途である。
【0038】
また前記改質ガスは、更にCO変性反応で一酸化炭素濃度を低減したり、深冷分離法、PAS法、水素貯蔵合金或いはパラジウム膜拡散法等により不純物を除去したりして高純度の水素ガスとすることができる。例えばCO変性反応は一酸化炭素と水を反応させて水素と二酸化炭素に転換することものであり一酸化炭素濃度を1%程度まで低減することができる。CO変性反応に用いる触媒としては、例えば銅主体、或いは鉄主体とする公知の触媒を用いて行えばよい。低温作動型固体高分子燃料電池の燃料などのように更に一酸化炭素濃度を低減する必要がある場合は、CO変性触媒の後段に設置するCO選択酸化触媒により二酸化炭素に酸化するかCO選択メタン化触媒によりメタンに転換させて、一酸化炭素濃度を10ppm以下とすることが望ましい。
【実施例】
【0039】
以下に、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明の趣旨に反しない限り実施例に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
セリウム−ニッケル均密混合酸化物:硝酸ニッケル6水和物291g、硝酸セリウム6水和物434gを純水5Lに溶解した混合水溶液を攪拌しながら徐々にアンモニア水を滴下し、共沈させてpHが9となった状態で1晩放置した。次に濾過して十分に水洗してから沈殿物を150℃で12時間乾燥してから、空気雰囲気下にて600℃で5時間焼成してセリウム−ニッケル均密混合酸化物(モル比Ce:Ni=50:50)を得た。得られたセリウム−ニッケル均密混合酸化物は粉末X線回折の測定においてJCPDSカード記載の蛍石型二酸化セリウムのd値に対し±0.5の範囲内に各ピークが検出され、酸化ニッケルに由来するピークは前記二酸化セリウムの主ピークの1/15以下の強度であった。またセリウム−ニッケル均密混合酸化物の配合比や物性測定値を表1に示した。
【0041】
メタルハニカム担体:ハニカム担体としてFe−Cr−Al系耐熱性ステンレス板の箔厚が30μmであって断面積1インチ平方当り400個のセルを有し、外径20mmで長さ66mmのメタルハニカム担体(幾何学表面積約3000m/m)を使用した。
【0042】
スラリーの調製:比表面積が155m/gの活性アルミナ(γ−アルミナ)が100gと前記セリウム−ニッケル均密混合酸化物100g、純水および硝酸をボールミルに供給して湿式粉砕して水性スラリーを調製した。得られたスラリーを粒度分布測定器(レーザー回折散乱式)で観察したところ平均粒子径は4.3μmであった。
【0043】
触媒の製造:メタルハニカム担体の下部をスラリーに浸漬し、上部より減圧にて吸引してセル内にスラリーを満たしてから担体を取出し、次いで圧縮空気を吹付けてセル内に残存する余分なスラリーを除去した。このようにしてスラリーを被覆したメタルハニカム担体を150℃で乾燥した後、空気中にて500℃で2時間焼成した。次に硝酸マグネシウム水溶液に含浸し乾燥後に空気中にて600℃で2時間焼成し、冷却後に硝酸ルテニウム水溶液に含浸して150℃で乾燥させてから水素気流中(水素5%/窒素バランス)にて600℃で2時間還元処理して完成触媒(A)を得た。完成触媒(A)の触媒組成物の組成比及び担持量を表2に示した。
【0044】
(実施例2〜3)
触媒の製造:実施例1において塩基性付与化合物として硝酸マグネシウムの代わりに、硝酸カルシウムまたは硝酸ストロンチウムに変更した以外は実施例1と同様にして完成触媒(B)及び(C)を得た。完成触媒(B)及び(C)の触媒組成物の組成比及び担持量を表2に示した。
【0045】
(実施例4〜6)
スラリーの調製:実施例1において活性アルミナ(γ−アルミナ)を150g、セリウム−ニッケル均密混合酸化物75gの比率で湿式粉砕した以外は実施例1と同様にして水性スラリーを調製した。得られたスラリーの平均粒子径は4.8μmであった。
【0046】
触媒の製造:得られたスラリーをメタルハニカム担体に被覆し、150℃で乾燥した後、空気中にて500℃で2時間焼成した。以下、表2に示す組成比で塩基性付与化合物の硝酸塩に含浸した以外は実施例1と同様にして完成触媒(D)〜(F)を得た。完成触媒(D)〜(F)の触媒組成物の組成比及び担持量を表2に示した。
【0047】
(実施例7〜9)
セリウム−ニッケル均密混合酸化物:セリウム源として炭酸セリウム粉末をニッケル源として硝酸ニッケル六水和物の水溶液用いて、モル比が表1の実施例7〜9示した比率となるように各原料を計量して、均一の混合した後、混合物を150℃で十分乾燥して水分を除去した後に空気雰囲気下にて600℃で5時間焼成して表1の物性を有したセリウム−ニッケル均密混合酸化物を得た。X線回折の測定においていずれのセリウム−ニッケル均密混合酸化物も蛍石型二酸化セリウムに類似した位置にのみピークが検出され、酸化ニッケルに由来する結晶ピークは見られなかった。
【0048】
スラリーの調製:比表面積が155m/gの活性アルミナ(γ−アルミナ)が100gと上記の各セリウム−ニッケル均密混合酸化物150g、更に硝酸バリウム25.6gと純水および硝酸をボールミルに供給して湿式粉砕して水性スラリーを調製した。尚、粉砕時間を調整して各スラリーの平均粒子径が3〜5μmの範囲となるようしてスラリーを作成した。
【0049】
触媒の製造:実施例1と同様にしてメタルハニカム担体にスラリーを被覆して、150℃で乾燥した後、空気中にて600℃で2時間焼成した。次に硝酸ルテニウム水溶液に含浸して150℃で乾燥させてから水素気流中(水素5%/窒素バランス)にて600℃で2時間還元処理して完成触媒(G)〜(I)を得た。完成触媒(G)〜(I)の組成比及び触媒組成物の担持量を表2に示した。
【0050】
(比較例1)
スラリーの調製:比表面積が155m/gの活性アルミナ(γ−アルミナ)が200g、硝酸マグネシウムが73.6g、純水および硝酸をボールミルに供給して湿式粉砕して水性スラリーを調製した。得られたスラリーを粒度分布測定器で観察したところ平均粒子径は1.8μmの範囲であった。
【0051】
触媒の製造:実施例1と同様にしてメタルハニカム担体に上記のスラリーを被覆して、150℃で乾燥した後、空気中にて600℃で2時間焼成した。次に硝酸ニッケル6水和物の水溶液に含浸し乾燥後に空気中にて600℃で2時間焼成して、比較触媒(a)を得た。比較触媒(a)の触媒組成物の組成比及び担持量を表2に示した。
【0052】
(比較例2)
触媒の製造:比較例1と同様にして得られたスラリーをメタルハニカム担体に被覆し、150℃で乾燥した後、空気中にて600℃で2時間焼成した。次に硝酸ルテニウム水溶液に含浸して150℃で乾燥させてから水素気流中(水素5%/窒素バランス)にて600℃で2時間還元処理して比較触媒(b)を得た。比較触媒(b)の触媒組成物の組成比及び担持量を表2に示した。
【0053】
(比較例3)
スラリーの調製:比表面積が155m/gの活性アルミナが200g、比表面積が20m/gの市販の酸化セリウム100gと純水および硝酸をボールミルに供給して湿式粉砕して水性スラリーを調製した。得られたスラリーを粒度分布測定器で観察したところ平均粒子径は2.5μmであった。
【0054】
触媒の製造:メタルハニカム担体に上記のスラリーを被覆して、150℃で乾燥した後、空気中にて600℃で2時間焼成した。次に硝酸ランタン6水和物の水溶液に含浸し乾燥後に空気中にて600℃で2時間焼成して、冷却後に硝酸ルテニウム水溶液に含浸して150℃で乾燥させてから水素気流中(水素5%/窒素バランス)にて600℃で2時間還元処理して比較触媒(c)を得た。比較触媒(c)の触媒組成物の組成比及び担持量を表2に示した。
【0055】
(実施例10〜11)
触媒の製造:実施例7〜9と同様にして得られたスラリーをメタルハニカム担体に被覆して、150℃で乾燥した後、空気中にて600℃で2時間焼成した。次に表2に示した比率の2種類の白金族金属混合水溶液に含浸して150℃で乾燥させてから水素気流中(水素5%/窒素バランス)にて600℃で2時間還元処理して完成触媒(J)〜(K)を得た。完成触媒(J)〜(K)の組成比及び触媒組成物の担持量を表2に示した。
【0056】
【表1】

(水熱加速エージング)
実施例及び比較例の各触媒試料を以下の条件で水熱加速エージングを実施した。
処理温度:800℃
処理時間:100時間
処理ガス:2L/min 10%HO/Nバランス
(触媒性能試験)
水熱加速エージング後の試料を水素気流中で500℃にて1時間還元してから、ラボ活性試験装置を用いて以下の試験条件で水素製造用触媒の性能試験を実施した。水素燃料ガスとして都市ガス13Aを脱硫処理せずにそのまま使用し、触媒出口温度700℃、GHSV=10,000H−1でスチーム/カーボン(S/C)比=2.5の条件にて改質反応を実施した。ガスクロマトグラフィー(島津製作所:ガスクロマトグラフGC−8A)を用いて生成ガスの各濃度を測定し、反応開始48時間後のメタン転化率を下記式(1)により算出した。
【0057】
【数1】

なお、上記式において、CO濃度、CO濃度およびCH濃度は、それぞれ生成ガス(触媒出口)における一酸化炭素、二酸化炭素およびメタンのガス濃度を表す。
【0058】
実施例1〜9及び比較例1〜3の水素製造用触媒の性能試験結果を表2に示した。
【0059】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、炭化水素系化合物よりなる原料ガスの改質により水素を生成するに際して、長期にわたり性能劣化の少ない水素製造用触媒であり、特に硫黄含有化合物を含む燃料ガスにも好適に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
改質反応により水素を生成する水素製造用触媒であって、アルミナ、セリウム−ニッケル均密混合酸化物、白金族金属及び塩基性付与化合物を含有してなる触媒組成物をハニカム担体に担持してなり、前記塩基性付与化合物がマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、イットリウム、ランタン、プラセオジム及びネオジムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であることを特徴とする水素製造用触媒。
【請求項2】
ハニカム担体の単位容積当りに触媒組成物は100〜300g/L(触媒1リットル当たりの質量)の担持量で担持されており、触媒組成物の各成分の含有比率がアルミナ100質量部に対してセリウム−ニッケル均密混合酸化物が10〜200質量部、白金族金属が0.1〜15質量部で、塩基性付与化合物が0.5〜20質量部である請求項1記載の水素製造用触媒。
【請求項3】
セリウム−ニッケル均密混合酸化物はニッケルを10〜50モル%含有しており、粉末X線回折測定において二酸化セリウムの蛍石型構造の位置に結晶ピ―クが検出され、酸化ニッケルに由来する結晶ピークは検出されないか、検出されてもそのメインピークの強度が前記二酸化セリウムのメインピーク強度の1/10未満である請求項1および2のいずれかに記載の水素製造用触媒。
【請求項4】
アルミナ、セリウム−ニッケル均密混合酸化物、白金族金属及び塩基性付与化合物を含有してなる触媒組成物をハニカム担体に担持してなる請求項1〜4記載の水素製造用触媒の製造方法において、アルミナ及びセリウム−ニッケル系均密混合酸化物とを混合し湿式粉砕して得られたスラリーをハニカム担体に被覆する工程を有している水素製造用触媒の製造方法。
【請求項5】
アルミナ及びセリウム−ニッケル系均密混合酸化物に加えて塩基性付与化合物も合わせて混合し湿式粉砕して得られたスラリーをハニカム担体に被覆する工程を有している請求項4記載の水素製造用触媒の製造方法。
【請求項6】
アルミナ、セリウム−ニッケル系均密混合酸化物及び塩基性付与化合物をハニカム担体に担持した後に、白金族金属を含浸法により担持する工程を有する請求項4または5記載の水素製造用触媒の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜3記載の水素製造用触媒を用いて燃料の改質反応により水素を製造する水素製造方法において、前記燃料が硫黄含有化合物を含む炭化水素化合物である水素製造方法。

【公開番号】特開2012−61398(P2012−61398A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206227(P2010−206227)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】