説明

水素触媒部材

【課題】陽極酸化により多孔質酸化膜にし、それに金属触媒を担持した触媒担体により、化学的に水素貯蔵・供給を繰り返す媒体を用いて、水素を取り出す脱水素または水素を取り込む水素付加の水素触媒部材において、軽量化及び小型化を実現しながら、設計自由度が高く、水素供給装置内での状況に合わせて最適な水素触媒部材を構成する。
【解決手段】多孔質酸化膜をアルミニウム繊維の表面に設けた水素触媒部材を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱水素及び水素付加の触媒部材に関し、特に、金属触媒を酸化膜に担持した触媒担体による水素触媒部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、安全性、運搬性及び貯蔵能力に優れた水素貯蔵方法として、シクロヘキサンやデカリンのような炭化水素を用いた有機ハイドライドシステムが注目されている。これらの炭化水素は、常温で液体であるため、運搬性に優れている。
【0003】
例えば、ベンゼンとシクロヘキサンは同じ炭素数を有する環状炭化水素であるが、ベンゼンは炭素同士の結合が二重結合である不飽和炭化水素であるのに対し、シクロヘキサンは二重結合を持たない飽和炭化水素である。ベンゼンの水素付加反応によりシクロヘキサンが得られ、シクロヘキサンの脱水素反応によりベンゼンが得られる。すなわち、これらの炭化水素の水素付加と脱水素反応を利用することにより、水素の貯蔵とその供給が可能となる。
【0004】
ところで、特許文献1には、アルミニウム平板表面を陽極酸化して、多孔質酸化膜を設け、その多孔質酸化膜に金属触媒を担持して触媒担体とし、化学的に水素貯蔵・供給を繰り返す媒体を用いて水素を取り出す脱水素触媒部材を得ることが提案されている。また、このアルミニウム平板の脱水素触媒部材を、スペーサを介して積み上げることにより、水素分離の効率を向上させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−326000公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、脱水素システムに合わせて脱水素反応容器もそれにあった形状になり、その脱水素反応容器中に入れる水素触媒部材もまたそれに合わせて設計する必要がある。
アルミニウム板に多孔質酸化皮膜を設けている特許文献1では熱交換器からの熱拡散をアルミニウム板の高熱伝導性に頼っている。ここで触媒担体の体積率を上げるには多孔質酸化皮膜を厚くする必要があるが、多孔質酸化皮膜は熱伝導率が悪い為、多孔質酸化皮膜を厚くし過ぎると逆に水素転化率は低下する。
即ち高熱伝導であるアルミニウム金属部と多孔質皮膜部は、それぞれ薄肉にて緻密に構成される必要があり、かつガス流路など隙間部も構成する必要があるが、平板の積層構造では強度を確保する必要があり薄肉化には限界がある。
以上の通り従来技術では、小形、軽量の水素供給装置を得ることが困難である。
【0007】
本発明は、上記の課題を解決する為に、軽量化及び小型化を実現した水素触媒部材構成を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するために、下記の水素触媒部材を提供するものである。
(1)金属触媒を多孔質酸化膜に担持した触媒担体により、化学的に水素貯蔵・供給を繰り返す媒体を用いて、水素を取り出す脱水素または水素を取り込む水素付加を行う水素触媒部材において、前記多孔質酸化膜がアルミニウム繊維の表面に設けられた水素触媒部材を提供するものである。
(2)上記(1)において、多孔質酸化膜を断面が長方形のアルミニウム繊維の表面に設けた水素触媒部材を提供するものである。
(3)上記(1)または(2)において、表面に多孔質酸化膜を設けた箔状のコイルの側面を切削した、断面が長方形のアルミニウム繊維を使用した水素触媒部材を提供するものである。
(4)上記(1)から(3)の何れかにおいて、多孔質酸化膜を、焼結にて部分的に結合されたアルミニウム繊維表面に設けた水素触媒部材を提供するものである。
(5)上記(1)から(4)の何れかにおいて、アルミニウム繊維が、表面をエッチングにより粗面化された水素触媒部材を提供するものである。
(6)上記(1)から(5)の何れかにおいて、多孔質酸化膜が、アルミニウム繊維をアルミニウム箔の片面または両面に積層した積層体の表面に設けられた水素触媒部材を提供するものである。
(7)上記(1)から(6)の何れかにおいて、アルミニウム箔が、エッチングまたは機械加工による貫通穴を有する水素触媒部材を提供するものである。
(8)上記(1)から(7)の何れかにおいて、エッチングによる粗面化を行わないアルミニウム繊維、エッチング倍率の異なるアルミニウム繊維、4面全てをエッチングした断面形状が長方形のアルミニウム繊維、2面のみエッチングした断面形状が長方形のアルミニウム繊維のうち、少なくともふたつの前記繊維を組み合せることにより、1cm当りの金属触媒の(最大担持密度/最小担持密度)値が1.3以上であることを特徴とする水素触媒部材を提供するものである。
(9)上記(1)から(8)の何れかにおいて、アルミニウム繊維密度を連続的にまたは段階的に調整することにより、水素触媒部材の1cm当りの空隙の(最大空隙体積率/最小空隙体積率)値が1.3以上であることを特徴とする水素触媒部材を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、多孔質酸化膜をアルミニウム繊維の表面に設けた脱水素触媒部材を使用することにより、軽量化及び小型化を実現しながら、設計自由度が高く、水素供給装置内での熱伝導の状況に合わせて最適な水素触媒部材構成を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の形態の水素触媒部材とそれを使用した水素反応ユニットの概略図を示している。
【図2】本発明に使用されるアルミニウム繊維の断面略図を示している。
【図3】本発明に使用されるアルミニウム繊維の切削工程を示している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に述べるアルミニウム繊維は、アルミニウムを繊維状にしたもので、その径は、20μmから1500μm程度のものを使用する。純度は特に限定しないが、触媒被毒となる元素が微小である必要が有り、特に後述のエッチングを採用する場合では、エッチングにとって重要である(1,0,0)面が、低純度では得られにくいこと、及び低純度では異常溶解することが広く知られており、少なくとも99%、好ましくは99.9%以上が好適である。また、その製造方法は、従来からの方法である、線引き加工法、切削法、溶融紡糸法または粉末延伸法など限定なく使用できる。
線引き加工法は、線材をダイスに通して引延するものである。切削法は、アルミニウムブロックを刃物で削り、短繊維を作るものである。溶融紡糸法は、アルミニウム冶金を溶解し溶融状態から一挙に細線化するものである。粉末延伸法は、アルミニウム粉末と塩類との混合物を押し出しや圧延などで延伸するものである。切削法のうち、アルミニウム箔を切削し繊維状にする方法は、たとえば、コイル状に巻いて回転させ、端面に切削工具をあてて切削していくコイル切削法が使用できる。
【0012】
このアルミニウム繊維は、必要な長さに切断し、繊維の長さ方向に複数束ねるか、またはフェルト状にからみ合わせてから焼結する。
また、アルミニウム繊維をアルミニウム箔や網に積層・焼結してから多孔質酸化膜を表面に設けたものや、アルミニウム繊維の表面に多孔質酸化膜を設けたものにアルミニウム箔や網に単に積層したものなど特に限定なく使用できる。上記の積層するアルミニウム箔は、プレーンなもの、エッチングしたものまたは機械的に穿孔したものやエキスパンドしたものなど特に限定なく使用できる。アルミニウム箔や網の厚さをアルミニウム繊維の径より厚く(太く)することにより、成形性や放熱性を改善することができる。また、部分的にアルミニウム繊維の径の大きなものを混在させることにより、成形性や放熱性を改善することができる。
また、アルミニウムの表面をエッチングにより粗面化すれば、表面積が拡大する。焼結を行う場合、エッチングは、繊維焼結後でも構わないが、エッチング液により焼結が解け易いので、繊維化後焼結前に行うのが良い。
また切削法のうち、アルミニウム箔を切削し繊維状にする方法では、切削前にエッチングしておいてもよいが、この場合切削断面形状(長方形)の内、切断面はエッチングされないので、切削後にエッチングを行う場合より表面積が小さくなる。しかし、エッチングされていない切断面どうしは焼結しやすく、水素触媒部材全体から見て部分的に焼結しやすいため、熱の移動と液やガスの移動とが両立しやすく、この点では好ましい。また、アルミニウム繊維をアルミニウム箔や網に積層・焼結する場合、アルミニウム繊維にエッチングされていない切断面があるとアルミニウム箔や網と焼結しやすく好ましい。
また、表面積が小さいことは皮膜収納密度(アルミニウム繊維の表面に設ける後記する酸化皮膜上に収納できる金属触媒の密度)が小さく、触媒金属担持密度が小さいことより反応密度が小さくなることを意味するが、反応が強すぎると熱の移動が間に合わなくなることより、表面積が小さいことは、必ずしも劣悪を意味するものではない。
また、エッチングでは結晶方位が揃っていることが望ましいが、結晶方位が揃えるために焼鈍して軟質化させる場合、軟質化したアルミニウムは、コイル切削法が困難となること及び、切削でのストレスにて結晶方位が崩れることを考慮し、最初、結晶方位が崩れた硬質アルミニウムを使用し、繊維化後のエッチング前で焼鈍を行っても良い。また、エッチングピットは(1,0,0)面に成長するので、繊維断面形状は長方形が最良となる。焼結の場合は、真空、不活性ガス又は、水素などの還元ガス中で、適当な加圧を施しながら、550℃から670℃ほどの温度をかける。この時、バインダ、必要に応じて溶剤、焼結助剤、界面活性剤等の添加剤を混合して、成形加工後、焼結してもよく、これらの添加剤を飛散する程度に加熱し、その後、焼結する方法が使用できる。
エッチングは、塩酸、硫酸、硝酸などの単液又は混合溶液中での通電または浸漬による処理であり、アルミニウム電解コンデンサの陽極箔に適用されている条件が好適である。アルミニウム電解コンデンサ陽極箔に適用されるエッチング形態は、大別してエッチングピットがスポンジ状のものと、表面から垂直に伸びたシリンダ状のものが有り、アルミニウム電解コンデンサでは、表面に形成する酸化皮膜の厚さにより使い分けられている。スポンジ状のものは表面積が大きいが、微細構造であり厚い皮膜は形成できない。後述する本使用の酸化皮膜は多孔質で厚くする必要があるので、シリンダ状のピット形状が好適である。ピット径、長さはエッチング条件に依存するが、径は0.5μm以上好ましくは1μm以上とし、ピット長は長い方が良く、現実的には、40μm程度が採用される。
【0013】
但し、後述する本使用の酸化皮膜の厚さは、エッチングピット径による制限を受けること及び、最終的な皮膜収納密度((アルミニウム繊維の表面に設ける後記する酸化皮膜上に収納できる金属触媒の密度即ち触媒密度)により反応熱密度(反応容器内で反応熱の熱分布)が変わることを考慮する必要がある。例えば脱水素は吸熱反応であるのでエンジン排熱などを熱交換器を介して反応容器に与えている。反応容器内の媒体(後述する水素を放出し貯蔵する媒体)導入部での皮膜収納密度を高くしすぎると、反応容器の前半での熱吸収が大きくなりすぎ、後半は温度が低下してしまう為、全体での脱水素効率は低下する場合がある。対応策の一つとして熱交換器の大型化による容器後半部分での温度低下防止があるが装置の小型、軽量化に反する為、適用には制限がある。反応容器の体積を最大限に活用するには、温度と反応効率の関係より容器内での温度分布をコントロールすることが有効であり、反応密度分布(媒体が反応する密度の分布)を最適化することが重要である。反応密度分布をコントロールする手段として皮膜収納密度のコントロールが有る。従って容器の大きさ/形状/熱交換器に応じて、エッチングをする/しない、及びエッチング倍率を適当に配置することが望ましい。具体的な倍率傾斜は、反応容器の大きさ/形状、燃料流量、熱交換器により異なる為、一概に言えないが、反応容器終端での温度が、反応下限温度より高温となることが好ましい。製造バラツキを考慮し(最大担持密度/最小担持密度)値において1.3以上が好ましい。また、水素触媒部材の1cm当りの空隙をアルミニウム繊維密度の調整により、連続的にまたは、段階的に変えることにより、(最大空隙体積率/最小空隙体積率)値が1.3以上であることが好ましい。
【0014】
焼結する場合は、真空、不活性ガス又は、水素などの還元ガス中で、適当な加圧を施しながら、550℃から670℃ほどの温度をかける。また、繊維の長さを短くし、有機系のバインダとともにシート状にし、そのバインダをとばしながら焼結してもよい。焼結形状は、容器形状に合わせても良いが、シート状(コイル状)とし、最後に容器形状に整形した場合では、各工程を連続して実施出来るので都合が良い。
【0015】
上記アルミニウム繊維の表面には多孔質酸化皮膜を形成させる。
本アルミニウム繊維を採用した場合では特許文献にあるアルミニウムプレート構造より、緻密な構造であり、(表面積/体積)は、小さくなるほど大きくなることから小型化、軽量化が可能となる。
【0016】
本発明に述べる多孔質酸化膜は、アルミニウムを陽極酸化してできる酸化膜のうち、酸化膜が多孔質の膜からなる。
陽極酸化の電解液として例えばリン酸,クロム酸,蓚酸,硫酸水溶液等を使用することができるが、触媒被毒を避けるためには、リン酸,クロム酸,蓚酸水溶液が好ましい。陽極酸化により形成される多孔層の孔径、膜厚は、印加電圧,処理温度,処理時間などの条件により、適宜設定することができる。孔径は10nmから300nm、膜厚はアルミニウムの表面が平滑であるか或いは、エッチングにより粗面化されているかで最適値が異なる。
アルミニウム繊維がエッチングされている場合ではエッチングピット径により規制され、一般的なピット径は数μm以下なので、最適膜厚は数μm以下となる。表面が平滑な場合では、成長可能な最大膜厚まで適用可能であるが、膜厚が過度に厚い場合では熱伝導が阻害され、電力費が高価となり、アルミニウムが焼結により結合されている場合では、結合部の酸化による結合剥離や熱伝導が阻害されるなどの障害が考えられる。数μmから300μmであるが、更に好ましくは数10μm程度が良好である。
陽極酸化の処理液温度は、0℃から50℃、特に30℃から40℃とすることが好ましい。また、この陽極酸化の処理時間は処理条件や形成したい膜厚によって異なるが、例えば4質量%の蓚酸水溶液を電解液とし、処理浴温度を30℃、印加電圧40Vとした場合には3時間処理することで50μmの陽極酸化層を形成できる。
さらに、リン酸あるいは蓚酸等を溶解した酸性水溶液を用いて陽極酸化皮膜表面を処理し、形成された細孔を拡大した後、ベーマイト処理するのが好ましい。上記酸性水溶液の濃度は、例えばリン酸の場合には5〜20質量%であることが好ましく、10℃から30℃で10分から2時間、細孔径が適度に拡大されるまで処理する。陽極酸化終了後、陽極酸化処理浴に、そのまま所定時間浸漬して孔拡大処理することもできる。ベーマイト処理は、pH6〜8、好ましくは7〜8の水中50℃〜200℃で処理し、乾燥した後焼成する。ベーマイト処理の処理時間はpHや処理温度によっても異なるが、5分以上とすることが好ましい。例えばpH7の水中で処理する場合、約1時間処理する。また、焼成はγ―アルミナを形成させるものであり、通常は300℃から550℃で0.1時間から5時間行う。
【0017】
最後に、アルミニウム繊維を使用した水素触媒部材を、反応容器の形状に整形し収納する。容器が円筒状であり、水素触媒部材がシート状(コイル状)の場合は巻回としても良い。
【0018】
本発明に述べる金属触媒は、脱水素用の触媒金属で、Ni,Pd,Pt,Rh,Ir,Re,Ru,Mo,W,V,Os,Cr,Co,Feなどの金属及びこれらの合金を用いることができる。
金属触媒を多孔質酸化膜に担持する方法は、触媒金属をコロイド状に分散した液に浸漬したり、触媒金属を無電解めっきしたりして行う。
【0019】
本発明に述べる媒体は、水素を放出し貯蔵する媒体で、水素を放出する水素供給体は、それ自体が安定であると共に脱水素されて安定な芳香族類となるものであれば特に制限されるものではないが、好ましくはシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン等の単環式水素化芳香族類や、テトラリン、デカリン、メチルデカリン等の2環式水素化芳香族類や、テトラデカヒドロアントラセン等の3環式水素化芳香族類等を挙げることができ、より好ましくはシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン等の単環式水素化芳香族類や、テトラリン、デカリン、メチルデカリン等の2環式水素化芳香族類である。
水素を貯蔵する物質は、上記の水素供給体の水素を放出した水素貯蔵体で、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ナフタレン、メチルナフタレン、アントラセンなどである。
以下、これら水素を放出し貯蔵する媒体全体のことを指して有機ハイドライドと呼ぶ。これら有機ハイドライドは、炭素同士の二重結合に水素が付加することにより、水素を貯蔵する。水素付加後の水素供給体は、水素を放出して元の水素貯蔵体に戻る。すなわち、上述の媒体は、水素のリサイクルに適したキャリアとなる。一方、上述の水素付加反応及び脱水素反応に際して利用される触媒は、既に研究開発されて熟知されているものも適用可能であり、実用的なものである。本発明は、より低温で水素貯蔵,供給が可能な触媒を用いることが好ましく、システム全体の効率を向上することができる。
【0020】
このように本願発明のアルミニウム繊維を使用した水素触媒部材は、先行技術文献の特許文献1での板形状に比べ、以下の長所を有する。
1.繊維壁面の全てを多孔質酸化皮膜の形成表面積として活用でき、表面積/体積は小さくなる程、大きくなるので平板の場合より触媒担体の収納効率を向上出来る。
2.燃料ガス及び発生水素が通る空隙は、繊維の充填密度により調整することができる。
3.フレキシブルなので、まとめて又は連続的に陽極酸化することも可能なので経済的であり、繊維集合体であるので加工がしやすく、異なる容器形状にも対応し易い。
4.異なるエッチング率のアルミニウム繊維を組み合わせることで、容器内での金属触媒担持密度を調整出来る。 このことで容器内での反応密度分布、温度分布を最適化することができ、容器体積/形状/熱交換器ごとに最適設計が容易となる。
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、水素触媒部材とそれを使用した水素反応ユニットの概略図を示している。
図1(a)では、水素触媒部材とそれを使用した水素反応ユニットの概略図を示している。
図1(b)では、水素触媒部材の一部拡大断面図を示している。
【0022】
図1(a)では、水素反応ユニットとして水素反応容器1とそれに連なる気液分離容器2を示していて、原料(媒体)が水素反応容器1内で水素反応し、それに連なる気液分離容器2で、気体と液体に分離することを示している。また、水素反応容器1内に脱水素触媒部材である多孔質酸化膜を設けたアルミニウム繊維3を複数束ねて設けていることを示している。また、水素反応容器は必要に応じて加熱、加圧される。
脱水素反応においては、原料である水素が付加した水素供給体が、水素反応容器1内で脱水素反応を生じ、できた反応物をそれに連なる気液分離容器2によって、気体側には水素、液体側には水素貯蔵体に分離されることを示している。
水素反応においては、水素と、付加する前の水素貯蔵体が水素反応容器1内で水素反応し、それに連なる気液分離容器2によって、気体側には未反応の水素が分離され、液体側には水素と付加した水素供給体が製造されることを示している。
【0023】
図1(b)では、アルミニウム繊維3の表面にトンネル状に細孔4のある陽極酸化皮膜5を形成し、その陽極酸化皮膜5の表面に脱水素または水素付加の触媒金属6を担持していることを示している。
【0024】
図2は、アルミニウム繊維の断面図を示している。いずれもエッチング形態を示す概略図であり、いずれも陽極酸化処理前の状態を示している。
図2(a)は、エッチング処理しない場合でのアルミニウム繊維3の断面である。
図2(b)は、対面2面にエッチング処理を行ったアルミニウム繊維3の断面である。一般的には、アルミニウム箔をエッチング処理して、両面にエッチングピット7を設けた後、繊維状に切り分けることにより製作される。
図2(c)は、4面にエッチング処理を行ったアルミニウム繊維3の断面である。一般的には、アルミニウム箔を繊維状に切り分けた後、エッチング処理して、4面にエッチングピット7を設けることにより製作される。また、場合によっては、アルミニウム箔をエッチング処理して、両面にエッチングピット7を設けた後、繊維状に切り分ける、その後再びエッチング処理することにより製作される。
【0025】
図3は、アルミニウム繊維の製作工程であり、箔状のコイル8を回転させながら端部を切削工具9により切削することによりアルミニウム繊維3を切り出していることを示している。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の脱水素触媒部材の製造方法を実施例に基づいて説明する。
【0027】
(実施例1)
厚さ75μm、純度99.99%の軟質アルミニウム箔を連続的に塩酸、硫酸混合溶液での通電及び無通電浸漬を行うことでエッチングし粗面化にて表面積を約10倍とした。続いて化成処理、水洗、リン酸浸漬、水洗、ベーマイト処理、焼成、白金担持、乾燥の順で処理した。各工程の作製条件として、化成処理は、20℃、4質量%の蓚酸水溶液で15V、60分の化成を行い、厚さ約1.5μmの表面にほぼ垂直方向の細孔を有する多孔質酸化皮膜を形成する。リン酸浸漬は20℃、10質量%のリン酸水溶液であり30分行う。ベーマイト処理は98℃の純水での煮沸であり、30分行った。焼成は500℃で10分行った。白金担持は白金コロイドを分散した液に浸漬した。これら処理後、箔は巻き取られ、コイル状となる。
次にコイル状箔を図3に示すような方法で、回転させながら、端部に切削工具をあてて切削するコイル切削法により、幅75μmのアルミニウム繊維からなる水素触媒部材を得た。この断面は図2(b)の通り、2面にエッチングピットが形成され、この面に多孔質酸化皮膜が形成され、切断面にはエッチングピット、多孔質酸化皮膜は形成されない。
次に、水素反応容器の形状に合わせて、繊維状の水素触媒部材を複数その長さ方向にそろえて束ねてから切断し、水素反応容器内に挿入した。
【0028】
上記の方法では断面4辺の内、2辺にしかエッチングピット及び、多孔質酸化皮膜がなく、4辺の全てがエッチングされ多孔質酸化皮膜を設ける場合に比べ、金属触媒の担持量が少ないがエッチングから乾燥までが繋がった箔形状なので、各処理槽、炉での連続処理とすることが
可能であり安価である。
【0029】
(実施例2)
硬質であることを除き実施例1と同様である箔を用い実施例1と同様のコイル切削法で、アルミニウム繊維を得た。繊維化後、不活性ガス中で550℃の焼鈍を行い、再結晶化した。このアルミニウム繊維を無電解エッチングし、表面の全てを粗面化した。繊維は洗浄及び乾燥後、フェルト状に折込み、真空中で加圧しながら加熱焼結しフェルト状シートを得た。本シートをバッチ処理にて実施例1と同様な化成処理、水洗、リン酸浸漬、水洗、ベーマイト処理、焼成、白金担持、乾燥を行った。このシートを水素反応容器の形状に合わせて、積層または巻回し水素反応容器内に挿入する。この断面は、図2(c)に示すような4面全てが粗面化され、多孔質酸化皮膜が形成されている。
【0030】
上記の方法では、全表面が粗面化され、多孔質酸化皮膜が形成されており、金属触媒の担持量が多い。上記の通り、シート状とした場合の化成〜乾燥はバッチ処理となるが、フェルト状の折込み、加熱焼成を連続的に行いコイル状とするか、シート状の場合でもコイル状アルミニウム箔にコールドウェルド等で接続すれば連続的な処理が可能となる。
【0031】
(実施例3)
エッチングしないこと及び、化成液温30℃、化成電圧40V,化成時間を3時間とし、多孔質酸化皮膜膜厚が50μmであることを除いて実施例1と同様に行った。この断面は、図2(a)に示すように粗面化はされていない。
【0032】
上記の方法ではエッチングピットがないので、多孔質酸化皮膜の厚さを厚くすることが出来る。 粗面化する場合に比べ金属触媒の担持量は多いとは言えないが、エッチングピットを持たないので熱伝導効率に優れる。
【0033】
(実施例4)
実施例3での4辺にエッチングピットを持つアルミニウム繊維(繊維A)と実施例3での粗面化していないアルミニウム繊維(繊維B)を用いた。水素反応容器の形状に合わせ、成形/焼結を行い、化成処理、水洗、リン酸浸漬、水洗、ベーマイト処理、焼成、白金担持、乾燥を実施し水素反応容器に収納した。
但し水素反応容器内での繊維Aと繊維Bの比率は連続的に変えた。このことにより、1cm当りの金属触媒の部分担持密度において、(最大担持密度/最小担持密度)値を1.3以上で、最大空隙体積率/最小空隙体積率)値が1.3以上に変えることができた。具体的な比率は、容器の大きさ/形状、燃料送り速度、熱交換器の能力と配置により異なる。ここで繊維Aは反応密度が大きいが反応吸熱に対する熱伝導効率が悪く、繊維Bはその逆である。例えば定常運転モードにて容器内の温度分布を測定し、圧力損失や温度分布より繊維密度や繊維A、Bの構成比を変え、例えば容器内最低温度が250℃となるようにする。
【0034】
水素反応容器として許容される体積を最大限に利用するに当り、容器内が、反応に適した温度以上である必要がある。実施例4では温度の下限が250℃となる。
【0035】
(実施例5)
実施例1と同様に、厚さ75μm、純度99.99%の軟質アルミニウム箔を連続的に塩酸、硫酸混合溶液での通電及び無通電浸漬を行うことでエッチングし粗面化にて表面積を約10倍とした。このアルミニウム箔の半分を、実施例1と同様に、コイル切削法により、幅75μmのアルミニウム繊維を得た。
次に、残りのエッチングし粗面化したアルミニウム箔の両面に上記のアルミニウム繊維を積層し次に、焼結した。
次に、実施例1と同様な条件で、連続的に化成処理、水洗、リン酸浸漬、水洗、ベーマイト処理、焼成、白金担持、乾燥の順で処理した。
次に、水素反応容器の形状に合わせて、裁断後、巻回または折りたたみ、水素触媒部材を得た。
【0036】
(実施例6)
硬質であることを除き実施例1と同様である箔を用い実施例1と同様のコイル切削法で、アルミニウム繊維を得た。このアルミニウム繊維を、厚さ150μm、開口率70%のアルミニウムのエキスパンドメタルに積層後、加熱焼結し、フェルト状のシートを得た。
次に、不活性ガス中で550℃の焼鈍を行い、再結晶化した。このシートを無電解エッチングし、表面の全てを粗面化した。このシートは洗浄及び乾燥後、実施例1と同様な化成処理、水洗、リン酸浸漬、水洗、ベーマイト処理、焼成、白金担持、乾燥を行って水素触媒部材を得た。この水素触媒部材は、水素反応容器の形状に合わせて、積層または巻回し水素反応容器内に挿入する。
【符号の説明】
【0037】
1…水素反応容器、2…気液分離容器、3…アルミニウム繊維、4…細孔、5…陽極酸化皮膜、6…触媒金属、7…エッチングピット、8…箔状のコイル、9…切削工具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属触媒を多孔質酸化膜に担持した触媒担体により、化学的に水素貯蔵・供給を繰り返す媒体を用いて、水素を取り出す脱水素または水素を取り込む水素付加を行う水素触媒部材において、前記多孔質酸化膜がアルミニウム繊維の表面に設けられた水素触媒部材。
【請求項2】
多孔質酸化膜を、断面が長方形のアルミニウム繊維の表面に設けた請求項1に記載の水素触媒部材。
【請求項3】
表面に多孔質酸化膜を設けた箔状のコイルの側面を切削した、断面が長方形のアルミニウム繊維を使用した請求項1または2に記載の水素触媒部材。
【請求項4】
多孔質酸化膜を、焼結にて部分的に結合されたアルミニウム繊維表面に設けた、請求項1から3の何れかに記載の水素触媒部材。
【請求項5】
アルミニウム繊維が、表面をエッチングにより粗面化したものである請求項1から4の何れかに記載の水素触媒部材。
【請求項6】
多孔質酸化膜が、アルミニウム繊維をアルミニウム箔の片面または両面に積層した積層体の表面に設けられた請求項1、2、3、4または5に記載の水素触媒部材。
【請求項7】
アルミニウム箔が、エッチングまたは機械加工による貫通穴を有する請求項1から6の何れかに記載の水素触媒部材。
【請求項8】
エッチングによる粗面化を行わないアルミニウム繊維、エッチング倍率の異なるアルミニウム繊維、4面全てをエッチングした断面形状が長方形のアルミニウム繊維、2面のみエッチングした断面形状が長方形のアルミニウム繊維のうち、少なくともふたつの前記繊維を組み合せることにより、1cm当りの金属触媒の(最大担持密度/最小担持密度)値が1.3以上であることを特徴とする請求項1から7の何れかに記載の水素触媒部材。
【請求項9】
アルミニウム繊維密度を連続的にまたは段階的に調整することにより、水素触媒部材の1cm当りの空隙の(最大空隙体積率/最小空隙体積率)値が1.3以上であることを特徴とする請求項1から8の何れかに記載の水素触媒部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−234278(P2010−234278A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85530(P2009−85530)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(309035062)日立エーアイシー株式会社 (47)
【Fターム(参考)】