説明

水素貯蔵材料、水素貯蔵器、および水素貯蔵方法

【課題】大量の水素を安全に運搬でき、加熱手段を用いないで供給できる水素供給源が望まれていた。
【解決手段】水素貯蔵器100は、容器1内に複数の水素貯蔵粒子50を配置したものである。そして容器1には、水素貯蔵粒子50を攪拌する攪拌機構20が備えられている。また、配管途中にバルブV1を有する供給口としての通気管10が接続されている。攪拌機構20を駆動し、水素貯蔵粒子50の攪拌を行うことによって、容器1に配置された水素貯蔵粒子50に形成された酸化膜の除去に応じて継続して水素が容器1内に放出される。その後、放出された水素は、水素ガスH2として開放されたバルブV1を通り通気管10から外部へ供給されることによって、水素貯蔵器100は水素供給源となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素貯蔵材料、水素貯蔵器、および水素貯蔵方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境への配慮などから、水素を利用する機器が開発研究されている。このような機器の一つとして、例えば水素を燃料として使用する燃料電池が知られている。そして、燃料電池の水素供給源として、運搬時の安全性から、例えば特許文献1では水素ボンベに替わって水素貯蔵材料を用いることが提案されている。
【0003】
特許文献1に開示された技術は、水素透過膜を介して水素貯蔵材料が水素を貯蔵したり放出したりするものであって、具体的に、温度に応じて、水素貯蔵材料を水素化物にして水素を貯蔵したり、逆に水素を離脱したりしやすい材料とする技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−273719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された技術は、ヒーターを用意し、ヒーターの加熱によって水素を放出させている。従って、水素の放出時には、熱エネルギーを利用するため、エネルギー効率が比較的低い手段で水素を放出することになる。このため、結果的に地球環境への貢献度が低下してしまうという課題がある。また、水素の放出場所近辺に加熱手段が存在することから安全性に課題がある。なお、水素を安全に運搬する方法として減圧容器での運搬を行えるSDS(Safe Delivery Source)があるが、これは1気圧以上の大量の水素ガスを貯蔵することが出来ないという課題がある。従って、大量の水素を安全に運搬でき、加熱手段を用いないで供給できる水素供給源が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]水素を貯蔵することが可能な金属部と、前記金属部の外表面を覆うように形成された酸化膜と、を備え、前記酸化膜が前記金属部の材料と同じ材料を含むことを特徴とする水素貯蔵材料。
【0008】
この構成によれば、水素を金属部に貯蔵し、貯蔵された水素の放出を酸化膜によって抑制する水素貯蔵材料が得られるので、減圧状態で水素を貯蔵することができる。この結果、例えば、大気中において、水素貯蔵材料を運搬することによって水素を安全に運搬することができる。
【0009】
[適用例2]上記水素貯蔵材料であって、前記金属部に10atm%(アトミックパーセント)以上の水素が貯蔵されていることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、水素貯蔵材料の金属部に大量の水素が貯蔵される。従って、水素を大量にかつ減圧状態で安全に運搬することができる。
【0011】
[適用例3]上記水素貯蔵材料であって、前記酸化膜の膜厚が1nm(ナノメートル)以上であることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、酸化膜の膜厚は、金属部に水素を閉じ込めておくために必要な厚さを有するので、確実に減圧状態で水素を貯蔵することができる。
【0013】
[適用例4]上記水素貯蔵材料であって、前記水素貯蔵材料は粒子状に形成されていることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、金属部の表面積を大きくすることができるので、金属部の単位体積あたりに貯蔵できる水素の量を多くすることができる。
【0015】
[適用例5]上記水素貯蔵材料であって、前記金属部は、当該金属部の材料と異なる材料からなる芯部を覆うように形成されていることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、水素貯蔵材料に金属部の材料と異なる材料からなる芯部を形成するので、金属部を形成する材料の使用量を少なくすることができる。このとき、芯部を形成する材料に、金属部の材料よりも軽い材料や、安価な材料を用いれば、水素貯蔵材料を、軽くあるいは低コストで形成することができる。
【0017】
[適用例6]上記水素貯蔵材料であって、前記金属部は、タンタル、ニオブ、バナジウムのうちの少なくとも1つの材料で形成されていることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、金属部を形成する材料は、大量に水素を貯蔵することができる材料であるので、例えば大気中において大量の水素を貯蔵することができる。また、それらの材料の酸化膜によって、金属部に貯蔵された大量の水素を、金属部に閉じ込めておくことが出来るので、減圧状態での水素の運搬が可能である。
【0019】
[適用例7]容器と、前記容器内に配置された上記水素貯蔵材料とを備えることを特徴とする水素貯蔵器。
【0020】
この構成によれば、水素を貯蔵した水素貯蔵材料を容器内に配置させるので、容器内を減圧状態にしたまま容器内に水素を貯蔵することができる。この結果、水素が高圧状態になっている容器を運搬しなくて済むので、安全に水素を運搬することが可能となる。
【0021】
[適用例8]上記水素貯蔵器であって、前記容器内に配置された前記水素貯蔵材料の前記酸化膜を除去する除去機構が設けられていることを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、容器内において、除去機構を用いて金属部を覆う酸化膜を除去するので、金属部に貯蔵された水素が水素貯蔵材料外へ放出され、容器内に水素を満たすことができる。この結果、例えば、容器に供給口を設け、その供給口から水素を例えば燃料電池に供給するということが可能となり、水素貯蔵器は水素供給源として機能する。
【0023】
[適用例9]上記水素貯蔵器であって、前記除去機構は、前記水素貯蔵材料を前記容器内で攪拌する攪拌機構であることを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、水素貯蔵材料を攪拌させることによって水素貯蔵材料が互いに擦れ、それぞれの水素貯蔵材料に形成された酸化膜が除去される。この結果、金属部に貯蔵された水素を、水素貯蔵材料外へ放出することができる。また、攪拌の度合いによって酸化膜の除去具合を調節することができるので、水素の放出量を制御することができる。また、加熱手段を用いず攪拌によって酸化膜を除去するので、熱エネルギーへの変換ロスがなく、また加熱処理を伴わないので安全に水素を放出させることができる。
【0025】
[適用例10]上記水素貯蔵器であって、前記容器は、前記水素貯蔵材料が配置された空間領域を複数備え、前記除去機構は、前記水素貯蔵材料が配置された空間領域毎に設けられていることを特徴とする。
【0026】
この構成によれば、容器内に備えられた複数の空間領域ごとに、水素貯蔵材料に形成された酸化膜を除去機構によって除去することができる。この結果、水素の放出を空間領域ごとに行うことができるので、水素の放出量を制御することが可能である。
【0027】
[適用例11]上記水素貯蔵器であって、前記容器内には、前記酸化膜の厚さが異なる前記水素貯蔵材料が、混在して配置されていることを特徴とする。
【0028】
この構成によれば、除去機構によって酸化膜が除去されるまでの時間が、形成された酸化膜の厚さに応じて異なることになる。この結果、水素貯蔵材料からの水素の放出時期が分散されるので、放出される水素の量を平均化することができる。また、水素の放出の継続時間を長くすることができる。
【0029】
[適用例12]上記水素貯蔵器において、前記水素貯蔵材料を、酸素雰囲気に暴露したのち、高圧水素雰囲気に暴露することによって、前記水素貯蔵材料に水素を貯蔵する水素貯蔵方法。
【0030】
この方法によれば、容器に配置された状態で、水素貯蔵材料に水素を貯蔵させることができる。この結果、容器内の水素貯蔵材料を入れ替えるという面倒な作業を行うことなく、水素を貯蔵することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例の水素貯蔵器の概略構成を示した模式図。
【図2】実施例の水素貯蔵粒子の構成を模式的に示した断面図。
【図3】水素貯蔵粒子の酸化膜が除去された様子を示す模式図。
【図4】水素貯蔵方法を示す処理フローチャート。
【図5】第1変形例の水素貯蔵器の概略構成を示した模式図。
【図6】第2変形例の水素貯蔵器の概略構成を示した模式図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、以降の説明において用いる図面は、説明のために誇張して図示している場合もあり、必ずしも実際の大きさや長さを示すものでないことは言うまでもない。
【0033】
(水素貯蔵器の構成)
本発明を適用した一実施例となる水素貯蔵器100について、図1および図2を用いて説明する。図1は、水素貯蔵器100の概略構成を示した模式図である。また図2は、図1に示した水素貯蔵器100に配置されている水素貯蔵材料としての水素貯蔵粒子50の構成を模式的に示した断面図である。
【0034】
図1に示すように、本実施例の水素貯蔵器100は、容器1内の空間領域5に複数の水素貯蔵粒子50を配置したものである。そして容器1には、水素貯蔵粒子50を攪拌する攪拌機構20が備えられている。また、配管途中にバルブV1を有する供給口としての通気管10が接続されている。
【0035】
容器1は、本実施例では、略円柱の形状を呈し、少なくとも内面が、水素あるいは酸素と分子結合が生じ難い材料(例えば、ステンレスなどの金属材料、あるいは樹脂材料)で形成されている。
【0036】
攪拌機構20は、本実施例では、モーターM1と、容器1の長手方向つまり円柱の軸方向に配置され、棒や板やプロペラなどの形状を有する攪拌子25が固定された回転軸21と、からなる。そして、図示しない駆動信号によって行われるモーターM1の回転動作によって回転軸21が回動し、回転軸21に固定された攪拌子25が回転軸21の周りを回動することで、水素貯蔵粒子50が攪拌されるように構成されている。そして、水素貯蔵粒子50が攪拌されると、水素貯蔵粒子50は互いに擦り合わされるようになっている。
【0037】
ここで、本実施例の水素貯蔵粒子50の構成を説明する。本実施例の水素貯蔵粒子50は、図2に示すように、ほぼ球の粒子形状を有し、芯部51と金属部52と酸化膜53とから構成されている。
【0038】
金属部52は、芯部51を覆うようにして、水素の貯蔵機能を有するタンタル(Ta)を材料とする金属部52が形成されている。さらに、金属部52の外表面を覆うように、タンタルの酸化膜(Ta25)53が形成されている。酸化膜53は、金属部52に水素を閉じ込めておく機能を有する。芯部51は、タンタルとは異なる材料であって、タンタルよりも安価な材料で形成されている。
【0039】
さて、図2の上側に示した水素貯蔵粒子50の部分拡大図において、図示するように金属部52に貯蔵される水素の量は、水素の侵入側となる表層部に多く、深層部には少ない状態が発生することが判明した。そこで、本実施例では、高価な金属であるタンタルの使用量を抑制するために、深層部にあたる芯部をタンタルよりも安価な材料や軽い材料といった異なる材料で形成することとする。こうすることによって、貯蔵する水素の量が少なくなることを抑制しつつ、水素貯蔵粒子50のコストを低減することができる。従って、芯部51の材料は、その表面にタンタルを付着させることが可能な材料であって、タンタルよりも安価な材料あるいは軽い材料(例えば、ガラス、鉄、アルミニウムなど)が好ましい。なお、芯部51は、必ずしも形成する必要はない。
【0040】
なお、本実施例の水素貯蔵粒子50におけるタンタルの酸化膜53は、水素を金属部52に留めておく機能を有する。従って、この機能を顕著にするために、タンタルの酸化膜53の膜厚Dsは1nm(ナノメートル)以上であることが好ましい。また、金属部52は、金属部52の体積の400倍〜1000倍程度の水素の量を貯蔵することができるので、金属部52の層厚Dkは、表層部に多く貯蔵することを踏まえ、水素貯蔵粒子50の粒径Ddと、貯蔵する水素の量とに応じて設定することが好ましい。
【0041】
(水素放出の原理)
次に、水素の放出原理について、図3を用いて説明する。図3は、図2に示した拡大図において、酸化膜53が除去された様子を示す模式図である。
【0042】
さて、本実施例の水素貯蔵器100では、前述するように攪拌機構20の駆動によって水素貯蔵粒子50が攪拌され、水素貯蔵粒子50は互いに擦り合わされる。すると、擦り合わされた水素貯蔵粒子50は、その外表面に形成された酸化膜53が削られ、ついには除去されて、図3に示すように部分的に金属部52が露出する。すると、金属部52に貯蔵されていた水素は、水素の放出を防止する機能を有していた酸化膜53が除去されたことから、露出した金属部52の表面から放出される(図中矢印)。この水素の放出現象については、本発明者らの発表論文「Japanese Journal of Applied Physics、Vol.47、No.1、2008、P.649-652、Fig.3」に開示されている。
【0043】
従って、水素貯蔵器100において、酸化膜53の除去機構となる攪拌機構20を継続して駆動し、水素貯蔵粒子50の攪拌を行うことによって、容器1に配置された水素貯蔵粒子50から、形成された酸化膜の除去に応じて継続して水素が容器1内に放出される。その後、放出された水素は、水素ガスH2として開放されたバルブV1を通り通気管10から外部へ供給されることによって、水素貯蔵器100は水素供給源として機能する。
【0044】
このように、水素貯蔵器100は、攪拌動作を継続することによって水素を供給するが、もとより容器1に配置された水素貯蔵粒子50の総てから、金属部52に貯蔵された水素が放出された時点で、水素供給源としての機能が終了する。従って、水素貯蔵器100を再び水素供給源となるようにする必要がある。
【0045】
そこで本実施例では、酸化膜53が除去され、水素の放出が終了した水素貯蔵粒子50に対して、水素貯蔵粒子50が容器1内に配置されたままの状態で再び水素を貯蔵させる。この方法について、図4を参照して説明する。図4は、水素貯蔵方法を示す処理フローチャートである。
【0046】
(水素の貯蔵方法)
この処理では、まず容器から残留物質を排出する(ステップS101)。ここでは、容器1内に残っている水素貯蔵粒子50以外の残留物質、すなわち通気管10から外部へ排出されずに残っている水素や、除去された酸化膜などを通気管10から真空圧によって吸引する。もとより、容器1は、大気圧で変形しない強度を有するように形成されている。
【0047】
次に、容器内に酸素を注入する(ステップS102)。ここでは、バルブV1を開放状態として容器1内を大気に曝すこととしてもよいし、別途酸素ガスを通気管10から注入することとしてもよい。なお、このとき、金属部52の外表面に少なくとも1nmの厚さの酸化膜53が形成される時間、水素貯蔵粒子50が酸素に曝されるようにすることが好ましい。
【0048】
次に、容器から酸素を排出する(ステップS103)。ここでは、容器1内に残っている酸素ガスあるいは大気を、通気管10から真空圧によって吸引する。
【0049】
次に、容器内に高圧水素ガスを注入する(ステップS104)。ここでは、容器1内に高圧の水素ガスを通気管10から注入して、バルブV1を閉める。こうすることによって容器1内に充填された高圧の水素ガスは、水素貯蔵粒子50の酸化膜53を通過して金属部52に入り込んで貯蔵される。もとより、容器1は、注入される水素ガスの圧力に耐えるように形成されている。
【0050】
その後、容器内の減圧を確認する(ステップS105)。容器1内の圧力が、水素ガスが充填された時点の高圧状態から減圧状態になれば、水素が金属部52に貯蔵されたことになり、水素の貯蔵処理が終了する。ここで、容器1に図示しない圧力計を備えて減圧状態を確認することとしてもよいし、高圧水素ガスの注入後、通気管10に圧力計を接続してバルブV1を開放して確認することとしても差し支えない。
【0051】
この水素貯蔵方法によれば、容器1に水素貯蔵粒子50を配置した状態で、水素貯蔵粒子50に水素を貯蔵させることができる。この結果、容器1内の水素貯蔵粒子50を入れ替えるという面倒な作業を行うことなく、水素を貯蔵することができる。
【0052】
以上本実施例の水素貯蔵器100によれば、水素を貯蔵した水素貯蔵粒子50を容器1内に配置させるので、容器1内が減圧状態で水素を貯蔵することができる。この結果、水素が高圧状態になっている容器1を運搬しなくて済むので、安全に水素を運搬することが可能となる。また、水素貯蔵粒子50を攪拌させることによって、金属部52に貯蔵された水素を加熱手段を用いず攪拌によって放出させるので、熱エネルギーへの変換ロスがなく、また安全に水素を放出させることができる。
【0053】
以上、本発明の実施の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において様々な形態で実施し得ることは勿論である。以下、変形例を挙げて説明する。
【0054】
(第1変形例)
上記実施例では、図1に示したように、容器1内には1つの空間領域を備え、この1つの空間領域において、配置した水素貯蔵粒子50を攪拌して水素を放出することとしたが、必ずしもこれに限らず、容器1内に複数の空間領域を備えることとしてもよい。本変形例の一例として、容器1内に空間領域を2つ備えた水素貯蔵器100aについて、図5を用いて説明する。図5は、本変形例の水素貯蔵器100aの概略構成を示した模式図である。
【0055】
図示するように、本変形例の水素貯蔵器100aは、容器1内に2つの空間領域5aと空間領域5bとを備えたものである。そして各空間領域5a,5bには、それぞれ複数の水素貯蔵粒子50が配置され、それぞれ配置された水素貯蔵粒子50を攪拌する攪拌機構20と攪拌機構30とがそれぞれ備えられている。
【0056】
容器1において、空間領域5aには、通気管11が接続され、これとバルブV1を介して通気管12が接続されている。また、空間領域5bには、通気管16が接続され、これとバルブV3を介して通気管17が接続されている。そして、通気管15が、バルブV2を介して通気管11と、バルブV4を介して通気管16と、それぞれ接続されている。なお、容器1は、上記実施例と同様に略円柱の形状を呈し、少なくとも内面が、水素および酸素と分子結合を生じ難い材料で形成されている。
【0057】
攪拌機構20は、上記実施例と同様に、モーターM1と、容器1の長手方向つまり円柱の軸方向に配置され、棒や板やプロペラなどの形状を有する攪拌子25が固定された回転軸21と、からなる。そして、図示しない駆動信号によって行われるモーターM1の回転動作によって回転軸21が回動し、回転軸21に固定された攪拌子25が回転軸21の周りを回動することで、空間領域5aに配置された水素貯蔵粒子50が攪拌されるように構成されている。
【0058】
一方、攪拌機構30は、攪拌機構20と同様に、モーターM2と、容器1の長手方向つまり円柱の軸方向に配置され、棒や板やプロペラなどの形状を有する攪拌子35が固定された回転軸31と、からなる。そして、図示しない駆動信号によって行われるモーターM2の回転動作によって回転軸31が回動し、回転軸31に固定された攪拌子35が回転軸31の周りを回動することで、空間領域5bに配置された水素貯蔵粒子50が攪拌されるように構成されている。
【0059】
本変形例では、このように空間領域5aにおける攪拌と、空間領域5bにおける攪拌とを、それぞれ独立して行うように構成されている。この構成によれば、容器1内に備えられた2つの空間領域ごとに、水素貯蔵粒子50に形成された酸化膜53をそれぞれの攪拌機構によって除去することができる。この結果、水素の放出を空間領域ごとに行うことができるので、水素の放出量を制御することが可能である。
【0060】
例えば、水素の放出を2つの空間領域5a,5bから行う場合は、バルブV1とバルブV3とを閉め、バルブV2とバルブV4とを開けることによって、通気管15から水素ガスを供給することができる。また、水素の放出を空間領域5aのみから行う場合は、バルブV1とバルブV3とバルブV4とを閉め、バルブV2を開けることによって、通気管15から水素ガスを供給することができる。逆に、水素の放出を空間領域5bのみから行う場合は、バルブV1とバルブV2とバルブV3を閉め、バルブV4を開けることによって、通気管15から水素ガスを供給することができる。こうして、水素の放出量を制御することが可能である。
【0061】
さらに、本変形例では、一方の空間領域において水素の放出を行っている間に、水素の放出が終了した他方の空間領域における水素貯蔵粒子50に、再び水素を貯蔵する処理を行うことが可能である。
【0062】
例えば、空間領域5aにおいて水素の放出が終了し、空間領域5bからのみ水素ガスH2を通気管15から供給している状態である場合は、バルブV2を閉めたのち、空間領域5aにおける水素貯蔵粒子50に、バルブV1の開閉動作を行いながら、通気管11と通気管12とを用いて再び水素を貯蔵する処理を行うのである。同様に、空間領域5bにおいて水素の放出が終了し、空間領域5aからのみ水素ガスH2を通気管15から供給している状態である場合は、バルブV4を閉めたのち、空間領域5bにおける水素貯蔵粒子50に、バルブV3の開閉動作を行いながら、通気管16と通気管17とを用いて再び水素を貯蔵する処理を行うのである。
【0063】
このとき、空間領域5aまたは空間領域5bにおいて行われる水素の貯蔵処理方法は、上述した上記実施例の水素貯蔵器100における貯蔵処理(図4参照)と同じ処理を行えばよく、従ってここではその説明を省略する。
【0064】
(第2変形例)
上記実施例では、水素貯蔵材料を粒子形状としたが、これに限らず、例えば、平板形状であってもよい。この場合は、酸化膜の除去機構としては、攪拌機構に替わる除去機構とすることが好ましい。本変形例の一例を図6を用いて説明する。図6は、本変形例の水素貯蔵器100bの概略構成を示した模式図である。
【0065】
図6に示すように、本変形例の水素貯蔵器100bは、容器1内に平板形状の水素貯蔵板60を複数枚配置したものである。そして容器1には、水素貯蔵板60の表面を擦って、表面に形成された酸化膜を除去する除去機構として擦り機構40が備えられている。また、配管途中にバルブV1を有する供給口としての通気管10が接続されている。なお、容器1は、上記実施例と同様、略円柱の形状を呈し、少なくとも内面が、水素あるいは酸素と分子結合を生じ難い材料で形成されている。
【0066】
水素貯蔵板60は、中心部に穴が空いたドーナツ状の円盤形状を有し、少なくとも一方の面にタンタルからなる金属部とその表面にタンタル酸化膜が形成されている。なお、金属部には水素が貯蔵されている。そして、図示しない保持部によって容器1に固定されている。
【0067】
擦り機構40は、本変形例では、モーターM1と、モーターM1の回転に伴って回動する回転軸41と、回転軸41の所定場所に固定された接触子46とから構成されている。回転軸41は、水素貯蔵板60の中心部の穴を貫通し、容器1の長手方向つまり円柱の軸方向に配置されている。接触子46は、水素貯蔵板60の表面に形成された酸化膜と接触状態で対向させた酸化膜の除去手段(例えばワイヤーブラシ)が形成されている。そして、図示しない駆動信号によって行われるモーターM1の回転動作によって回転軸41が回動し、回転軸41に固定された接触子46が回転軸41の周りを回動することで、水素貯蔵板60の表面に形成された酸化膜を擦って削るように構成されている。
【0068】
従って、水素貯蔵器100bにおいて、継続して接触子46を回動し、水素貯蔵板60の表面を擦ることによって、容器1に配置された水素貯蔵板60の表面に形成された酸化膜の除去に応じて、金属部に貯蔵された水素が容器内に放出される。その後、放出された水素は、開放されたバルブV1を通り通気管10から水素ガスH2として外部へ供給されることによって、水素貯蔵器100bは水素供給源となる。
【0069】
なお、水素貯蔵器100bにおいても、容器1に配置された水素貯蔵板60の総てから、貯蔵された水素が放出された時点で、水素供給源としての機能が終了する。従って、この場合、上記実施例と同様に、水素貯蔵器100bを再び水素供給源となるように、水素貯蔵処理を行えばよい。
【0070】
なお、本変形例において、水素貯蔵板60の両面に金属部52と酸化膜53とをそれぞれ形成するようにしても勿論よい。こうすれば、水素の貯蔵量と放出量を多くすることができる。この場合、擦り機構40は、水素貯蔵板60の両面を擦るように構成することが好ましい。
【0071】
(その他の変形例)
上記実施例では、水素貯蔵粒子50の形状を、略球形であるとしたが、これに限るものでないことは勿論である。例えば、楕円体形状であってもよい。また、立方体や四面体などの多角体形状であってもよい。あるいは、円柱や三角柱など柱状形状であってもよい。さらに、これらを組み合わせた異形形状であっても差し支えない。なお、粒子の大きさは、攪拌性と水素の貯蔵量とから最大外径寸法が2〜5mm程度が好ましいが、特にこれに限定するものでない。
【0072】
また、上記実施例では水素貯蔵材料としての水素貯蔵粒子50の金属部を、また上記変形例では水素貯蔵材料としての水素貯蔵板60の金属部を、タンタルで形成することとしたが、これに限るものでないことは勿論である。例えば、タンタルと同様に水素貯蔵機能を有するニオブあるいはバナジウムで形成することとしてもよい。あるいは、タンタル、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)のうちのいずれか2つの混合(合金)材料で形成することとしてもよいし、これら3つの総ての混合(合金)材料で形成することとしてもよい。もとより、この場合、水素貯蔵材料が備える酸化膜は、金属部が形成される材料のそれぞれの酸化膜である。
【0073】
また、上記実施例あるいは上記変形例において、容器1内に、形成される酸化膜の膜厚が異なる水素貯蔵材料(水素貯蔵粒子50、水素貯蔵板60)が、混在して配置されていることとしてもよい。例えば、酸化膜の膜厚が1nmと2nmの水素貯蔵材料を混在させたり、酸化膜の膜厚が1nmと2nmと3nmの水素貯蔵材料を混在させたりするのである。こうすれば、前述の説明から明らかなように、除去機構によって酸化膜が除去されるまでの時間が、形成された酸化膜の厚さに応じて異なることになる。この結果、水素貯蔵材料からの水素の放出時期が分散されるので、放出される水素の量を平均化することができる。また、水素の放出の継続時間を長くすることができる。
【0074】
また、上記実施例あるいは変形例において、容器1に酸化膜の除去機構を備えるものとして説明したが、必ずしもこれに限るものでないことは勿論である。例えば、容器1を回転させたり振動させたりして、容器1内に配置された水素貯蔵材料を動かすことによって、互いに擦れあったり容器1の内壁との間で擦れたりして、水素貯蔵材料の表面に形成された酸化膜を除去することが可能である。このような場合は、容器1に除去機構を備えないこととしても差し支えない。
【符号の説明】
【0075】
1…容器、5a,5b…空間領域、10,11,12,15,16,17…通気管、20…攪拌機構、21…回転軸、25…攪拌子、30…攪拌機構、31…回転軸、35…攪拌子、40…擦り機構、41…回転軸、46…接触子、50…水素貯蔵粒子、51…芯部、52…金属部、53…酸化膜、60…水素貯蔵板、100,100a,100b…水素貯蔵器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を貯蔵することが可能な金属部と、
前記金属部の外表面を覆うように形成された酸化膜と、
を備え、
前記酸化膜が前記金属部の材料と同じ材料を含むことを特徴とする水素貯蔵材料。
【請求項2】
請求項1に記載の水素貯蔵材料であって、
前記金属部に10atm%(アトミックパーセント)以上の水素が貯蔵されていることを特徴とする水素貯蔵材料。
【請求項3】
請求項1または2に記載の水素貯蔵材料であって、
前記酸化膜の膜厚が1nm(ナノメートル)以上であることを特徴とする水素貯蔵材料。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の水素貯蔵材料であって、
前記水素貯蔵材料は粒子状に形成されていることを特徴とする水素貯蔵材料。
【請求項5】
請求項4に記載の水素貯蔵材料であって、
前記金属部は、当該金属部の材料と異なる材料からなる芯部を覆うように形成されていることを特徴とする水素貯蔵材料。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の水素貯蔵材料であって、
前記金属部は、タンタル、ニオブ、バナジウムのうちの少なくとも1つの材料で形成されていることを特徴とする水素貯蔵材料。
【請求項7】
容器と、
前記容器内に配置された請求項1ないし6のいずれか一項に記載の水素貯蔵材料と
を備えることを特徴とする水素貯蔵器。
【請求項8】
請求項7に記載の水素貯蔵器であって、
前記容器内に配置された前記水素貯蔵材料の前記酸化膜を除去する除去機構が設けられていることを特徴とする水素貯蔵器。
【請求項9】
請求項8に記載の水素貯蔵器であって、
前記除去機構は、前記水素貯蔵材料を前記容器内で攪拌する攪拌機構であることを特徴とする水素貯蔵器。
【請求項10】
請求項8または9に記載の水素貯蔵器であって、
前記容器は、前記水素貯蔵材料が配置された空間領域を複数備え、前記除去機構は、前記水素貯蔵材料が配置された空間領域毎に設けられていることを特徴とする水素貯蔵器。
【請求項11】
請求項7ないし10のいずれか一項に記載の水素貯蔵器であって、
前記容器内には、前記酸化膜の厚さが異なる前記水素貯蔵材料が、混在して配置されていることを特徴とする水素貯蔵器。
【請求項12】
請求項6ないし11のいずれか一項に記載の水素貯蔵器において、
前記水素貯蔵材料を、酸素雰囲気に暴露したのち、高圧水素雰囲気に暴露することによって、前記水素貯蔵材料に水素を貯蔵する水素貯蔵方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−202470(P2010−202470A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−51612(P2009−51612)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】