説明

水素透過性の低い物品及びその使用

本発明は、低水素透過性を有する物品として、(A)熱可塑材と、その上に設けられ、式:(−SiR’R”−NR”’−)のポリシラザン(式中、R’、R”及びR”’=−Hであるか、R’及びR”’=−Hであり、R”=−メチルである)から選択された成分(B)を含む組成物から形成される被膜とを含む組成物から形成され、DIN53380−3及びASTMD3985に準拠して測定した25〜30℃における水素ガスに対する透過係数が、好ましくは10cmmm/mdatm未満であり、DIN EN ISO 14577に準拠した微小硬さが150N/mm超である成形品の使用に関する。本発明は、さらに、(A)熱可塑材と、その上に設けられ、式:(−SiR’R”−NR”’−)のポリシラザン(式中、R’、R”及びR”’=−Hであるか、R’及びR”’=−Hであり、R”=−メチルである)から選択された成分(B)を含む組成物から形成される被膜とを含む組成物から形成される成形品を網羅する、低水素透過性の物品に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、例えば、パイプ、ホース、成形品、又は容器用の水素透過性の低い物品に関する。
【0002】
バリア材料は、工業及び経済の全分野、とりわけ食品や飲料の包装分野を作り出し、通常これらは食品の耐久性の向上をもたらす。酸素や水蒸気に対するバリア効果のほかに、窒素、匂い物質、及び風味の保持能力も、ますます重要になってきている。透過性とは別に、バリア材料は、例えば低分子有機化合物の移動を低下させ、包装商品を汚染から守る場合もある。
【0003】
透過は、材料の表面における吸着及び収着、材料自体を通した拡散、並びにその後の脱着の段階で起こる。
【0004】
半結晶性の非極性ポリオレフィンは、水蒸気に対するバリア効果に優れ、DIN53122に準拠した水蒸気透過度は、一般に1g/mdであるが、同時に酸素バリア効果は悪く、DIN53380に準拠した酸素透過度は、一般に5000〜8000cm/mdbarである。
【0005】
EVOH、PVDC、又はLCPなどのバリア性プラスチックには、水に対して高いバリア効果があるばかりでなく、酸素に対しても高い効果がある。しかし、これら材料のいずれも、高バリアの用途となると機能せず、水素ガスに対してはバリア効果についてさえ機能しない。
【0006】
包装箔においては、さらに透過度を減少させるために、アルミニウムを高分子バリア層に蒸着することへと移ってきている。この方法で、わずか数ナノメートルから数マイクロメートルの範囲にあるアルミニウム層が高真空中において蒸着される。たいていの場合、これにより所望のバリア効果が得られる。
【0007】
しかし、このような被膜は高価であるだけでなく、蒸着によって処理されたプラスチックはもはや透明ではないという現実も不都合である。
【0008】
別の方法は、雑誌のSurface and Coatings Technology、111(1999)、72〜79頁に記載されている。そこでは、SiOx層がPVD法によって蒸着され、さらに加えて、いわゆるOrmocer被膜(無機−有機ハイブリッド被膜とも称する)でシールされる。この適用方法は多段階であり、経済的に全く魅力に欠けるため実用化されなかった。
【0009】
独国特許出願公開第102004001288号明細書から、金属、ガラス、セラミックス、プラスチック、ラッカー、又は多孔質の表面などの材料向けの親水性の表面被膜が知られている。
【0010】
この被膜は、1種又は数種のポリシラザン、及びイオン性試薬又はイオン性試薬の混合物を含有している。
【0011】
水素の貯蔵と輸送には、代わりになる材料がないために、現在のところステンレス鋼のパーツが、通常採用されている。そのため、水素輸送パイプは屈曲性がなく敷設するのが難しく、対応するステンレス鋼の容器は重量が重いので設計に関して制限されてしまう。
【0012】
特開10016150号公報には、透明で柔軟性が良く、さらに耐熱性が良好なガスバリアフィルムが開示されており、これはセラミック層の形状で提供されており、ポリシラザン被膜組成物をポリビニルアルコールフィルムの少なくとも1つの面に塗布した後、ポリシラザン被膜をセラミック層に変換することによって形成される。この積層材はガスバリアフィルムとして用いることができる。特開11151774号公報には、透明なガスバリアフィルムが開示されている。これは、ベース材料の表面に設けられた、気相から堆積した無機酸化物のフィルムを、ポリシラザンの溶液を塗布することにより被膜フィルムでコーティングした後、加熱し乾燥させる。特開2000246830号公報には、シリカでコーティングされたプラスチックフィルムが記載されており、そこでは、このシリカコーティングフィルムは、アルカリ性物質に対する良好な耐性、並びに優れた接着性とガスバリア性を備えることになっており、このフィルムはポリシラザン溶液でコーティングされたPETベースフィルムから成っている。
【0013】
これらの全ての文書は、ガスバリア性に鑑みたこれ以上のいかなる情報も開示しておらず、特にそれぞれのフィルムがどのガスに対してバリア性を備えることになるのか開示していない。
【0014】
国際公開第2004/039904号パンフレット及び国際公開第2006/056285号パンフレットには、ポリシラザンベースの被膜溶液、並びにそれらの用途、とりわけ高分子フィルムのコーティング用途に関して記載されている。それらによって生成した被膜は、耐腐食性、耐ひっかき性、耐摩耗性、防汚性、気密性、耐薬品性、耐酸化性、耐熱性、帯電防止性、並びにバリア効果をもたらすための保護層として記載されている。バリア効果の観点では、これらの国際特許出願書は、酸素透過性に考慮した情報を開示しているだけである。
【0015】
しかし、酸素は、その透過性に関して酸素又は二酸化炭素などの他の気体と著しく異なっているので、酸素に関しておそらく存在するバリア性を鑑みた情報は、水素に対するバリア効果を高めるための適合性に関してはまったく意味を持たない。
【0016】
ここで、水素の貯蔵及び輸送のための物品の提供をその目的とした本発明の出番となる。それらは、言及した不都合や問題のない、すなわち、軽量で、容易に変形でき、耐ひっかき性であり、特に水素ガスに対する低い透過係数をもち、DIN53380−3/ASTMD3985に準拠して25〜30℃で測定すると10未満、好ましくは7.50未満、特に3cmmm/mdatmの物品である。
【0017】
本発明によれば、請求項1の特徴を有する物品の使用、並びに請求項8の特徴を有する物品の提供によって、本目的の実現が達成される。
【0018】
本発明の好ましい実施形態及びさらなる展開は、従属請求項及び独立請求項に例示されている。
【0019】
本発明による物品は、
(I)熱可塑的に加工可能なプラスチックから成る成分(A)、及び
(II)コーティングプロセスによって、成分(A)の上に塗布されているポリシラザンから成る成分(B)
で構成される。
【0020】
成分(B)は、例えばアンモニウム塩、エチレンジアミン、アミン類、ピリジン誘導体、ラジカル開始剤、又は金属有機化合物(例えば、0.05〜5重量%のパラジウム化合物)などの触媒の残留物をさらに含有することができ、そのため反応を低温で行うことができる。
【0021】
本発明による物品は、好ましくは、DIN53380−3及びASTMD3985に準拠して測定すると、25〜30℃において10未満、好ましくは7.50未満、さらに好ましくは5未満、特に3cmmm/mdatm未満の水素ガスに対する透過係数を備えている。さらに、本物品は、コーティングされた成分(A)のDIN EN ISO14577に準拠した微小硬さ(耐ひっかき性を基準として)が150N/mm超、さらに好ましくは155超、実施形態においては、300超であることを特徴とする。
【0022】
以下に、本発明をより詳細に説明する。
【0023】
本発明による物品の成分(A)は、熱可塑材であり、例えば、ポリエチレン若しくはポリプロピレンなどの、ポリオレフィン、ポリオレフィンの誘導体、若しくはポリオレフィンコポリマーの群、ポリスチレン若しくはポリスチレンコポリマーなどのビニルポリマーの群、ポリアミド6若しくはポリアミド66などのポリアミドの群、ポリエチレンテレフタレート若しくはポリブチレンテレフタレートなどのポリエステルの群、又は芳香族ポリスルフィド若しくは芳香族スルホンの群から選択される。
【0024】
熱可塑材には、タルク、核生成剤、安定化剤、帯電防止剤、耐衝撃調整剤、難燃剤、繊維、伝導性添加剤などの、潤滑剤、加工助剤、又は充填剤の形の添加剤を本発明に従って含有させることができる可能性がある。
【0025】
さらに、本発明による物品は、低い水素透過性を有する物品の適用分野により、成分(A)の層とは別に、さらに他の層を備えることができる。例えば、パイプ又はホース、並びに他の貯蔵容器(例えばタンク)に、追加の保護層、着色層(識別を容易にする目的で)などを設けることができる。このような実施形態は、それぞれの分野の当業者によく知られている。
【0026】
本発明によると、ポリシラザン含有組成物の塗布によって生じた層は、水素の透過に対するバリア性が驚くほど向上した。これに関して、ポリシラザンが請求項1に定義した式を有することは不可欠である。
【0027】
本発明によると、成分(B)は式:(−SiR’R”−NR”’−)を有し、R’=R”=R”’=−H(実施形態1〜3を参照)のパーヒドロ−ポリシラザン、又はR’=R”’=−H、及びR”=−メチル(実施形態4〜6を参照)の組成を有するポリシラザンであり、国際公開第2006/056285号パンフレットに開示されているように、式中nは整数で、好ましくは、nは、ポリシラザンが数平均分子量150〜150000g/molを備えるように設計される。
【0028】
成分(B)は、R’=R”=R”=−Hであるパーヒドロ−ポリシラザンであることが特に好ましい。このことは、水素の透過に対して特に良好なバリア性をもたらす。
【0029】
本発明に従って使用されるポリシラザンは、通常の方法により溶液の形で調製される。最適な溶媒に関しては、ポリシラザン濃度、及び可能な添加剤や触媒などがあり、2つの国際特許出願である国際公開第2004/039904号パンフレット及び国際公開第2006/056285号パンフレットの開示を参考にし、これらの出願はこの参照によって本明細書に含まれている。
【0030】
成分(B)の塗布は、浸漬、フラッジング、スピンコーティング、又は吹付けにより達成される。
【0031】
硬化は、本発明により、室温、又は好ましくは高温、特に約80℃において行うことができる。
【0032】
塗布完了後の被膜層の厚みは、0.01〜100μmの範囲にあり、好ましくは0.5〜5μmの範囲にある。
【0033】
この層は、好ましくは、例えば従来技術でしばしば用いられる酸化物層、そうでなければ接着層や支持層などの別の中間追加層を用いずに、熱可塑性プラスチックで形成された成形品上に直接塗布される。
【0034】
好ましくは、必要な場合に、基材の事前の活性化や前処理を、とりわけプラズマ処理によって行う。
【0035】
本発明によってコーティングされた物品は、好ましくは水素輸送用パイプ及びホース、水素タンク、これらの用途のための成形品などとして、電子、電気、自動車、又は建築分野で用いられる。
【0036】
以下の表1に本発明によってコーティングされた物品の特性を示す。
【0037】
【表1】

【0038】
実施例1〜3に対しては、
厚さ50μmのポリエチレン箔をプラズマにより前処理し、ジブチルエーテルとアニソールの混合物中のパーヒドロ−ポリシラザン溶液を吹き付けてコーティングする。室温で10分間急速に蒸発させ、続いて80℃で2時間硬化させると、厚さ2μmのバリア層が生じる。
【0039】
水素透過係数は、箔において以下に記載するようにDIN53380−3/ASTMD3985に準拠して、測定する。
【0040】
実施例4〜6に対しては、
厚さ50μmのポリエチレン箔を、ジ−n−ブチルエーテル中の式:(−SiR’R”−NR”’−)(ここで、R’=R”’=−Hであり、R”=−メチルである)のポリシラザン溶液で、ディップコーティングによってコーティングし、室温で2分間急速に蒸発させ、続いて70℃で30分かけて硬化させると、厚さ1μmのバリア層が生じる。
【0041】
水素透過係数は、以下のようにDIN53380−3/ASTMD3985に準拠して測定する。
【0042】
成分Bでコーティングした成分Aの厚さ50μmの箔を、円形の切り取りを有するマスキング用の2つのアルミニウム箔の間に接着した。
【0043】
これらの試験サンプルを設置した後、測定セルを供給側ではフォーミングガス又は水素、透過側では空気でそれぞれパージした。
【0044】
このパージエアーの水素含有量は、水素センサー(SenSistor Hydrogen Leak Detector H 2000)により測定した。
【0045】
測定は、パージガスの流量を考慮しながら残余を修正した後、数回の測定値の平均をとり終了した。
【0046】
以下の表2では、既知の包装材料の比較例の特性を示す。
【0047】
比較例1
比較例1は、厚さ0.126mmのアルミニウム箔である。
【0048】
比較例2
比較例2は、厚さ0.182mmのポリエチレン箔である。
【0049】
比較例3
比較例3は、厚さ0.230mmの液晶ポリマーLCPの箔である。
【0050】
比較例4
比較例4は、厚さ0.262mmのポリテトラフルオロエチレン箔である。
【0051】
【表2】

【0052】
本発明によって使用されるポリシラザン被膜熱可塑性材の物品は、厚さ0.126mmのアルミニウム箔の透過係数に近く、純ポリエチレン箔に対しては事実上より低い水素透過係数を備えている。
【0053】
さらに、温度応答性の透過試験を行った(23℃、40℃、及び60℃)。
a)水素を用いた測定(乾燥試験)
b)水素を用いた測定(湿性試験=100%の相対湿度を有する水素及びパージガスを用いて行った)
【0054】
これらの結果は、温度も湿度も被膜のバリア効果に負の影響を与えないことを示している。
【0055】
そればかりか、バリア効果は温度の上昇とともに、相対的に向上することがわかった。
【0056】
さらに、サンプル(装着し、一方の側を23℃で2日間真空にさらす)を、イソオクタン/トルエンと水の混合物でコンディショニングすると、水素バリア効果が向上した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性プラスチック(A)と、並びにその上に設けられ、式:(−SiR’R”−NR”−)のポリシラザン(式中、R’、R”、及びR”’=−H、又はR’及びR”’=−H、及びR”=−メチルである)から選択される成分(B)を含む組成物から形成された被膜とを含む組成物から形成された、低水素透過性を有する物品としての成形品の使用。
【請求項2】
前記物品は、25〜30℃における水素ガスに対する透過係数が、DIN53380−3及びASTMD3985に準拠した測定値10cmmm/mdatm未満、微小硬さが、DIN EN ISO 14577に準拠した値150N/mm超を含む、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記熱可塑性プラスチック(A)の成分が、ポリエチレン若しくはポリプロピレンなどの、ポリオレフィン、ポリオレフィンの誘導体、若しくはポリオレフィンのコポリマーの群、ポリスチレン若しくはポリスチレンのコポリマーなどの、ビニルポリマーの群、ポリアミド6若しくはポリアミド66などの、ポリアミドの群、ポリエチレンテレフタレート若しくはポリブチレンテレフタレートなどの、ポリエステルの群、又は芳香族ポリスルフィド若しくは芳香族スルホンの群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記成分(B)の塗布を、浸漬、フラッジング、スピンコーティング、又は吹付けによって達成し、硬化を室温、好ましくは高温、特に約80℃で達成することを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
前記被膜の厚さが、塗布完了後に0.01〜100μm、好ましくは0.5〜5μmの範囲にあることを特徴とする、請求項1〜4の少なくともいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
好ましくは電子、電気、自動車、又は建築分野において、好ましくは水素輸送用パイプ及びホース、水素タンク、又はこの目的のために用いられる成形品としての、請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
式:(−SiR’R”−NR”’−)のポリシラザン(式中R’、R”及びR”’=−H、又はR’及びR”’=−H、及びR”=−メチルである)から選択される成分(B)の、熱可塑性プラスチックから製造される成形品を通る水素透過を低減するために被膜を生成するための使用。
【請求項8】
熱可塑性プラスチック(A)と、並びにその上に設けられ、式:(−SiR’R”−NR”’−)のポリシラザン(式中、R’、R”及びR”’=−H、又はR’及びR”’=−H、及びR”=−メチルである)から選択される成分(B)を含む組成物から形成された被膜とを含む組成物から形成された成形品を含む、低水素透過性を有する物品。
【請求項9】
前記熱可塑性プラスチック(A)の成分が、ポリエチレン若しくはポリプロピレンなどの、ポリオレフィン、ポリオレフィンの誘導体、若しくはポリオレフィンのコポリマーの群、ポリスチレン若しくはポリスチレンのコポリマーなどの、ビニルポリマーの群、ポリアミド6若しくはポリアミド66などの、ポリアミドの群、ポリエチレンテレフタレート若しくはポリブチレンテレフタレートなどの、ポリエステルの群、又は芳香族ポリスルフィド若しくは芳香族スルホンの群から選択されることを特徴とする、請求項8に記載の物品。
【請求項10】
前記被膜の厚さが、塗布完了後に0.01〜100μm、好ましくは0.5〜5μmの範囲にあることを特徴とする、少なくとも請求項8又は9に記載の物品。

【公表番号】特表2010−534124(P2010−534124A)
【公表日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−517316(P2010−517316)
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【国際出願番号】PCT/EP2008/006050
【国際公開番号】WO2009/012988
【国際公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(506330645)クラリアント インターナショナル リミテッド (3)
【出願人】(510016896)レーハウ アーゲー ウント ツェーオー. (1)
【Fターム(参考)】