説明

水素透過性合金及びこれを利用した水素透過膜

【課題】高温下での水素透過率に優れたCu−Pd合金を提供する。
【解決手段】Cu、Pd及びAlで構成される水素透過性銅合金であり、Cu、Pd及びAlの原子濃度(at%)をそれぞれ[Cu]、[Pd]及び[Al]とすると、[Pd]/([Cu]+[Pd])=41〜50%、[Al]/([Cu]+[Pd])=0.05〜4.0%であって、式:[Al]/([Cu]+[Pd])≦(2/9)×[Pd]/([Cu]+[Pd])−(0.64/9)
の関係を満たす水素透過性銅合金。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素透過性合金及びこれを利用した水素透過膜に関し、より詳細には水素透過性Cu−Pd合金及びこれを利用した水素透過膜に関する。
【背景技術】
【0002】
水素の用途は広く、例えば石油精製分野では脱硫剤として、化学工業分野ではアンモニアやメタノールをはじめとする各種化学品の原料として、半導体分野では還元雰囲気ガスとして、燃料電池分野では燃料として利用されている。
【0003】
水素の製造技術としては、炭化水素や石炭から水素を製造する水蒸気改質法が知られており、例えば金属触媒下、700〜800℃の高温で水蒸気をメタンと反応させ、一酸化炭素と水素を得るという方法である。一酸化炭素は更にシフト反応により、二酸化炭素に変換される。水素及び副生成物を含む混合ガスから水素を分離・精製する方法としては水素透過膜を利用する方法が知られている。水素透過膜は水素のみを選択的に透過する特性を有しており、水素透過膜の一方の面(一次側)に対して混合ガスで加圧すると、水素だけが水素透過膜中に溶け込んで拡散し、反対側の面(二次側)に到達することができる。このようにして混合ガスから水素を分離することにより、水素を高純度に精製できる。
【0004】
最近では、水素透過膜と改質器を組み合わせることで、水素の生成反応と水素の分離・精製を同時に行うメンブレンリフォーマー技術の開発が進んでいる。これは、シフト反応器や一酸化炭素の選択除去を必要としないことから新たな水素製造方法として期待されている技術であり、改質触媒を利用して550〜650℃程度の従来に比べて低温でしかも高い改質効率で改質反応を進行させることができるという利点がある。
【0005】
パラジウムは水素の選択透過性を有していることから、水素透過膜の材料としてパラジウムを主体とする合金が使用されており、その中でもPd−Cu合金というのが知られている。特表2002−539918号公報(特許文献1)では60重量%のパラジウムと40重量%の銅の合金を水素透過膜として使用したことが記載されている。特開2001−262252号公報(特許文献2)では、Pdを主成分としてCuを0〜20at%添加することで水素脆化を抑制することが記載されている。特開2004−174373号公報(特許文献3)ではCuはPdを合金化して強度を向上させ、水素脆化を抑制する効果があり、水素ガスが400℃以上になりうる水素ガス精製・分離装置に適用するには、高温強度を維持できるようにPdを主成分としてCuを1〜40at%含んだ合金組成とすることが好ましいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2002−539918号公報
【特許文献2】特開2001−262252号公報
【特許文献3】特開2004−174373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記先行技術文献に記載されているように、Pd−Cu合金は水素透過膜用の材料として有望であるが、Pd−Cu合金は高温下における水素透過性が極端に低下するという問題がある。すなわち、Pd−Cu合金は500℃程度までは水素透過性に大きな変化は見られないが、600℃近くまで加熱すると一桁近くも水素透過係数が減少する。
【0008】
上述したように、水素製造のための改質反応は高温で行う必要があることから、高温下における水素透過率は特に優れていることが望ましい。特に600℃付近というのはメンブレンリフォーマー技術の実用化を進める上でも重要であることから、この温度付近における水素透過率を高める必要性が存在する。
【0009】
そこで、本発明は高温下での水素透過率に優れたCu−Pd合金を提供することを課題の一つとする。また、本発明はそのようなCu−Pd合金を材料とした水素透過膜を提供することを別の課題の一つとする。また、本発明はそのような水素透過膜を利用した水素含有ガスからの水素分離方法を提供することを更に別の課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねたところ、所定の組成をもつCu−Pd合金に対してアルミニウムを所定量含有させることで、高温特性が有意に改善することを見出した。
【0011】
上記知見を基礎として完成した本発明は一側面において、Cu、Pd及びAlで構成される水素透過性銅合金であり、Cu、Pd及びAlの原子濃度(at%)をそれぞれ[Cu]、[Pd]及び[Al]とすると、[Pd]/([Cu]+[Pd])=41〜50%、[Al]/([Cu]+[Pd])=0.05〜4.0%であって、式:[Al]/([Cu]+[Pd])≦(2/9)×[Pd]/([Cu]+[Pd])−(0.64/9)
の関係を満たす水素透過性銅合金である。
【0012】
本発明に係る水素透過性銅合金は一実施形態において、[Pd]/([Cu]+[Pd])=44〜47%、[Al]/([Cu]+[Pd])=0.4〜1.5%である。
【0013】
本発明は別の一側面において、本発明に係る銅合金でできた水素透過膜である。
【0014】
本発明に係る水素透過膜は一実施形態において、厚みが1〜200μmである。
【0015】
本発明は別の一側面において、水素含有ガスが本発明に係る水素透過膜を通過する工程を含む水素含有ガスからの水素分離方法である。
【0016】
本発明に係る水素分離方法は一実施形態において、水素含有ガスが本発明に係る水素透過膜を550〜650℃の温度で通過する工程を含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、とりわけ600℃付近における高温特性に優れた水素透過膜を得ることができる。また、Pdは貴金属であり高価であるところ、本発明に係る水素透過膜の組成に占めるPdの割合は原子比でCu以下であることから、従来に比べて安価に製造できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例において水素透過係数を求めた測定系の概略図を示す。
【図2】実施例において採用した組成範囲を示す。
【図3】実施例において、Al比を変化させたときの水素透過係数の推移を示した図である。
【図4】実施例において、Pd比を変化させたときの水素透過係数の推移を示した図である。
【図5】実施例において、加熱温度を変化させたときの水素透過係数の推移を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0020】
本発明に係る銅合金は所定の原子比を満足するCu、Pd及びAlの三成分で構成される。具体的には、本発明に係る銅合金はCu、Pd及びAlの原子濃度(at%)をそれぞれ[Cu]、[Pd]及び[Al]とすると、[Pd]/([Cu]+[Pd])=41〜50%、[Al]/([Cu]+[Pd])=0.05〜4.0%を満たす組成を有する。
【0021】
本発明においては、原子濃度は、一定の質量の銅合金に含まれるCuのモル数、Pdのモル数及びAlのモル数を求め、
[Cu]=(Cuのモル数)/(Cuのモル数+Pdのモル数+Alのモル数)
[Pd]=(Pdのモル数)/(Cuのモル数+Pdのモル数+Alのモル数)
[Al]=(Alのモル数)/(Cuのモル数+Pdのモル数+Alのモル数)
で計算される。
【0022】
Cu−Pd合金に対してアルミニウム(Al)を少量添加すると、600℃付近の高温下における水素透過率が向上するという効果があり、[Al]/([Cu]+[Pd])が0.05at%以上になるとその効果が有意に表れてくる。ただし、[Al]/([Cu]+[Pd])が4.0at%を超えると今度は水素透過率の向上効果がほとんどなくなり、逆に悪化するケースもある。そこで、本発明では[Al]/([Cu]+[Pd])は0.05〜4.0at%と規定している。
【0023】
パラジウム(Pd)は、アルミニウム(Al)が存在しない系においては、[Pd]/([Cu]+[Pd])が50at%以上となる濃度に設定したほうが600℃付近の高温下における水素透過率は向上する傾向にあるが、本発明者の検討結果によれば、アルミニウムを含む系においては、上記の41〜50at%の範囲が600℃付近の高温下における高い水素透過率を得る観点で好ましく、50at%を超えると逆に水素透過率が低下していく傾向にある。
【0024】
パラジウムの濃度が高いときには600℃付近の高温下における最も高い水素透過率を得ることのできるアルミニウム濃度は高い方へシフトする傾向にある。逆に、パラジウムの濃度が低いときには600℃付近の高温下における最も高い水素透過率を得ることのできるアルミニウム濃度も低い方へシフトする傾向にある。そのため、[Pd]/([Cu]+[Pd])が47at%を超える範囲では[Al]/([Cu]+[Pd])は1.5at%を超えることが好ましく、[Pd]/([Cu]+[Pd])が47%以下の範囲では[Al]/([Cu]+[Pd])は1.5at%以下とすることが好ましい。600℃付近で特に高い水素透過率を示すパラジウム濃度とアルミニウム濃度の組み合わせは、[Pd]/([Cu]+[Pd])が44〜47at%、且つ、[Al]/([Cu]+[Pd])が0.4〜1.5at%である。
【0025】
同様に、パラジウムの濃度が高いときには所望の効果を発揮する上で許容されるアルミニウム濃度も高くなる傾向にあり、パラジウムの濃度が低いときには許容されるアルミニウム濃度も低くなる傾向にある。本発明者の検討結果によれば、600℃付近の高温下において優れた水素透過率を得るためには、銅、パラジウム及びアルミニウムの原子比の関係として次式:
[Al]/([Cu]+[Pd])≦(2/9)×[Pd]/([Cu]+[Pd])−(0.64/9)
を満たすことが必要である。
【0026】
本発明に係る銅合金は、Cu、Pd及びAlの三成分で構成されており、他の元素を積極的に含有させることはないが、製造過程で混入する不可避的不純物のように他の元素が極微量含有していても構わないため、そのような場合も本発明の範囲とする。他の元素の許容値は一概には決定できないが、600℃付近における水素透過係数に有意な悪影響を与えない程度の場合(例:水素透過係数の低下率が5%以下)、例えばCu、Pd及びAlの合計に対してそれぞれ1at%以下の濃度で混入している場合には有意な悪影響はないと考えられる。他の元素としては、限定的ではないが、水素透過膜への添加元素として公知であるGa、Pt、Rh、Ir、Ru、Ni、Co、Ti、Nb、Ta、Ag、B、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuが挙げられる。
【0027】
本発明に係る銅合金は、このようにAlを所定量添加したCu−Pd合金であり、600℃付近における水素透過率がAlを添加しない場合よりも有意に高い。このため、当該温度付近で水素含有ガスから水素を分離することが要求される場合に用いる水素透過膜として特に好適に使用できる。
【0028】
本発明に係る銅合金は、限定されるものではないが、所定の成分に調整したインゴットを溶解鋳造した後、適宜焼鈍及び圧延を繰り返すことで製造可能である。具体的には、800℃以上で加熱したインゴットを熱間圧延し、黒皮除去後、冷間圧延で所定厚みまで薄くする。必要に応じて焼鈍を行う。また、湿式めっきやスパッタリングで作製することも可能である。
【0029】
本発明に係る銅合金を水素透過膜として利用する場合、水素透過量は膜厚に反比例するため、膜厚が薄いほど単位面積当たりの透過量は上昇する。また、同じ面積でも膜厚が薄いと使用する材料も少なくなることから、膜厚を薄くすることは水素透過膜として使用する場合、非常に効果的である。ただし、あまり薄すぎると機械的強度が保てず、ピンホール等によって水素以外の不純物ガスが二次側に到達してしまうことから一定以上の膜厚があることが必要である。一方、膜厚があまり厚すぎると今度は二次側に到達する水素の量が少なくなり、生産性が悪くなる。そこで、膜厚は1〜200μmとするのが好ましく、3〜100μmとするのがより好ましい。膜厚は圧延時の圧下率を制御することで調節可能である。
【0030】
本発明に係る水素透過膜を利用して水素含有ガスから水素を分離する方法は、水素含有ガスが当該水素透過膜を通過する工程を含む。一般的には、膜の一方の面(一次側)に水素を含有する混合ガスを配置し、一次側の圧力を膜の他方の面(二次側)に対して高くする方法が採用される。本発明に係る水素透過膜は特に600℃付近での水素透過率に優れていることから、水素含有ガスは550〜650℃の温度として水素透過膜を通過することが好ましく、580〜620℃の温度として水素透過膜を通過することがより好ましい。
【0031】
水素透過膜を利用して水素含有ガスから水素を分離するシステム自体は公知であり、任意の公知のシステムを採用することができ、特に制限はない。一例を挙げると、本発明に係る水素分離システムは水素含有ガスを流すための一次側配管と、水素透過膜をガス通路に設置した加熱管と、水素透過膜を通過した後の水素ガスを流すための二次側配管とを備え、加熱管の入口を一次側配管に、出口を二次側配管に連結したシステムである。別の一例を挙げると、本発明に係る水素透過膜は水素分離型改質器であるメンブレンリフォーマーに組み込む水素透過膜として使用することができる。
【実施例】
【0032】
以下に本発明を実施例でさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
<1.合金組成が与える影響>
Cu、Pd及びAlで構成され、表1に記載の原子比を満足する組成となるように成分調整したCu−Pd−Al合金をそれぞれ溶解鋳造後、800℃以上に加熱したインゴットを熱間圧延し、黒皮除去後、膜厚25μmの膜に冷間圧延した。
膜厚はマイクロメータで測定した5箇所の平均値を指す。
【0034】
このようにして得られたそれぞれの膜に対して、以下の要領で水素透過係数を測定した。
水素のガスボンベ(図示せず)、加熱炉11、一次側水素配管12、二次側水素配管13、管状炉内に配置され、一次側水素配管及び二次側水素配管を連結する1/2VCR(登録商標)継手内にガスケットと共に固定された水素透過膜14(水素透過部の直径11.2mm)、二次側の水素配管に連結した水素測定器(水素用マスフローコントローラ(山武、MQV9050))15を備えた測定系を構築した(図1参照)。水素のガスボンベから配管を通じて供給される水素はVCR継手の一次側に入り、水素透過膜を通過して、VCR継手の二次側から出てくる。水素透過膜を固定したVCR継手が入っている管状炉は所定の温度に加熱可能となっており、水素固定部のVCR継手部分の温度を熱電対で測定している。測定試験は、一次側圧を0.1MPaG、二次側圧を0MPaGとし、一次側の水素供給量を20sccmとして600℃に水素を加熱しながら3時間供給し続けたときの水素透過量を測定し、以下の式により水素透過係数qを測定した。
q=fM・d・S-1・(P1/2−p1/2-1
q:水素透過係数(mol・m-1・sec-1・Pa-1/2
M:二次側水素流量(mol・sec-1
d:膜厚(m)
S:膜面積(m2
P:一次側圧力(Pa)
p:二次側圧力(Pa)
【0035】
試験結果を表1に示す。図2は、横軸に[Pd]/([Cu]+[Pd])(以下、「Pd比」ともいう)、縦軸に[Al]/([Cu]+[Pd])(以下、「Al比」ともいう)をとり、試験したデータ範囲を示している。台形で囲った範囲が本発明の範囲である。得られた結果を幾つかの切り口で以下に検討してみる。
【表1】

【0036】
(1)[Pd]/([Cu]+[Pd]):約41at%
表1からPd比が41at%付近の例を抽出し、Al比の小さい順に並べたのが表2である。表2より、Al比が0のとき(No.1)は水素透過係数が最も低く、Al比が増加するにつれて水素透過係数が徐々に上昇し、Al比が0.49at%のとき(No.4)に最大の水素透過係数が得られた。その後、更にAl比を増加させていくと今度は徐々に水素透過率が減少していき、Al比が2.30まで増えると(No.21)、式:[Al]/([Cu]+[Pd])≦(2/9)×[Pd]/([Cu]+[Pd])−(0.64/9)を満たさなくなったため、優れた水素透過係数は得られなくなった。
【0037】
【表2】

【0038】
(2)[Pd]/([Cu]+[Pd]):約46at%
表1からPd比が46at%付近の例を抽出し、Al比の小さい順に並べたのが表3である。表3より、Al比が0のとき(No.6)は水素透過係数が最も低く、Al比が増加するにつれて水素透過係数が徐々に上昇し、Al比が0.99at%のとき(No.9)に最大の水素透過係数が得られた。その後、更にAl比を増加させていくと今度は徐々に水素透過率が減少していき、Al比が3.27まで増えると(No.22)、式:[Al]/([Cu]+[Pd])≦(2/9)×[Pd]/([Cu]+[Pd])−(0.64/9)を満たさなくなったため、優れた水素透過係数は得られなくなった。
【0039】
【表3】

【0040】
(3)[Pd]/([Cu]+[Pd]):約50at%
表1からPd比が50at%付近の例を抽出し、Al比の小さい順に並べたのが表4である。表4より、Al比が0のとき(No.12)は水素透過係数が最も低く、Al比が増加するにつれて水素透過係数が徐々に上昇し、Al比が1.96at%のとき(No.16)に最大の水素透過係数が得られた。その後、更にAl比を増加させていくと今度は徐々に水素透過率が減少していき、Al比が4.25まで増えると(No.23)、式:[Al]/([Cu]+[Pd])≦(2/9)×[Pd]/([Cu]+[Pd])−(0.64/9)を満たさなくなったため、優れた水素透過係数は得られなくなった。
【0041】
【表4】

【0042】
上記の(1)、(2)及び(3)について、横軸をAl比とし、縦軸を水素透過係数としてプロットしたものが図3である。
【0043】
(4)[Al]/([Cu]+[Pd]):0at%
表1からAl比が0at%の例を抽出し、Pd比の小さい順に並べたのが表5である。表5より、Pd比が41.3at%のとき(No.1)は水素透過係数が最も低く、Pd比が増加するにつれて水素透過係数が徐々に上昇し、Pd比が50.2at%のとき(No.12)に最大の水素透過係数が得られた。ただし、Al比が0at%であったため、本発明に匹敵する水素透過係数は得られなかった。
【0044】
【表5】

【0045】
(5)[Al]/([Cu]+[Pd]):0.5at%
表1からAl比が約0.5at%の例を抽出し、Pd比の小さい順に並べたのが表6である。表6より、Pd比が39.1at%のとき(No.24)は水素透過係数が最も低く、Pd比が増加するにつれて水素透過係数が徐々に上昇し、Pd比が46.0at%のとき(No.8)に最大の水素透過係数が得られた。その後、更にPd比を増加させていくと今度は徐々に水素透過率が減少していき、Pd比が51.9at%まで増えると(No.25)、優れた水素透過係数は得られなくなった。
【0046】
【表6】

【0047】
(6)[Al]/([Cu]+[Pd]):2.0at%
表1からAl比が約2.0at%の例を抽出し、Pd比の小さい順に並べたのが表7である。表7より、Pd比が39.4at%のとき(No.26)は水素透過係数が最も低く、Pd比が増加するにつれて水素透過係数が徐々に上昇し、Pd比が49.5at%のとき(No.16)に最大の水素透過係数が得られた。その後、更にPd比を増加させていくと今度は徐々に水素透過率が減少していき、Pd比が52.4at%まで増えると(No.27)、優れた水素透過係数は得られなくなった。
【0048】
【表7】

【0049】
上記の(4)、(5)及び(6)について、横軸をPd比とし、縦軸を水素透過係数としてプロットしたものが図4である。
【0050】
<2.加熱温度の影響>
Cu、Pd及びAlで構成され、表8に記載の原子比を満足する組成となるように成分調整したCu−Pd−Al合金をそれぞれ溶解鋳造後、800℃以上に加熱したインゴットを熱間圧延し、黒皮除去後、膜厚25μmの膜に冷間圧延した。
【0051】
このようにして得られたそれぞれの膜に対して、先の実施例と同様の手順で水素透過係数を測定した。ただし、水素ガスの加熱温度を350℃、400℃、450℃、500℃、及び600℃に変動させることで、水素透過係数の変化を調べた。
【0052】
試験結果を、温度(℃)を横軸に、水素透過係数を縦軸にしてプロットして示したのが図5である。これらから、Cu−Pd合金に対してAlを所定量添加した場合、水素透過係数は、低温領域ではAlを添加しない場合よりも低いにもかかわらず、高温条件下(とりわけ600℃付近)では逆転し、Alを添加しない場合よりも高いことが分かる。
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu、Pd及びAlで構成される水素透過性銅合金であり、Cu、Pd及びAlの原子濃度(at%)をそれぞれ[Cu]、[Pd]及び[Al]とすると、[Pd]/([Cu]+[Pd])=41〜50%、[Al]/([Cu]+[Pd])=0.05〜4.0%であって、式:[Al]/([Cu]+[Pd])≦(2/9)×[Pd]/([Cu]+[Pd])−(0.64/9)
の関係を満たす水素透過性銅合金。
【請求項2】
[Pd]/([Cu]+[Pd])=44〜47%、[Al]/([Cu]+[Pd])=0.4〜1.5%である請求項1に記載の水素透過性銅合金。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の銅合金でできた水素透過膜。
【請求項4】
厚みが1〜200μmである請求項3に記載の水素透過膜。
【請求項5】
水素含有ガスが請求項3又は4に記載の水素透過膜を通過する工程を含む水素含有ガスからの水素分離方法。
【請求項6】
水素含有ガスが請求項3又は4に記載の水素透過膜を550〜650℃の温度で通過する工程を含む請求項5に記載の水素含有ガスからの水素分離方法。

【図1】
image rotate

【図5】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−202258(P2011−202258A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72926(P2010−72926)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】