説明

水解紙、その製造方法及びそれを使用した水解性清掃物品

【課題】使用後水に流せる水解性を有し、且つ生産性に優れた水解紙、その製造方法及びそれを使用した水解性清掃物品を提供すること。
【解決手段】アニオン性接着剤、及び下記一般式(1)又は(2)で表されるカチオン性オリゴマーを使用した水解紙。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水解紙、その製造方法及びそれを使用した水解性清掃物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トイレ周辺の清掃あるいはおしりを拭い清める用品として、使用後トイレに流すことができるように、水解紙或いはこれに薬剤を担持させた清掃用品が使用されている。
【0003】
これらの水解紙は水分散性パルプ繊維からなるウェブに接着剤を噴霧含浸させるか、又は水分散性パルプ繊維スラリーに接着剤を添加して抄紙する方法によってつくられている。接着剤としてカルボキシメチルセルロースのようなアニオン性のものを使用した場合、繊維は負に帯電しているので繊維表面への歩留まりが悪い。特に後者の方法では、アニオン性接着剤を使用するのは経済的に不利であった。
【0004】
水解性を問題としない普通の紙の場合には、アニオン性接着剤の歩留まりを向上させるために、硫酸バンドや水溶性カチオン性ポリマーが添加されている。例えば、特許文献1には、パルプスラリーにアニオン性紙力増強剤を添加した後、水溶性カチオン性ポリマーを添加してアニオン性紙力増強剤を定着せしめ、その後ロジン接着剤を添加撹拌後硫酸バンドを添加して、接着剤を定着させる抄紙方法、特許文献2には、パルプスラリーに水溶性ポリカチオン高分子物質を添加混合した後、アニオン性接着剤を添加撹拌後硫酸バンドを添加して接着剤を定着させる抄紙方法、特許文献3には、パルプスラリーにカチオン性の粒子荷電を有する樹脂エマルジョンを添加し、次いで水溶性アニオン性ポリマーを添加し、該パルプスラリーのpHを4〜9に調整してなる加工紙の抄造方法、がそれぞれ記載されている。このように、水解性を必要としない紙の製造にはアニオン性接着剤の歩留まりを向上させるために各種のカチオン性ポリマーが使われている。
【0005】
【特許文献1】特開昭53−103003号公報
【特許文献2】特開昭54−68405号公報
【特許文献3】特開昭55−12824号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水解紙には、拭き取り作業等に耐えうる実用上充分な強度が求められており、斯かる強度を確保するために接着剤が必要となるところ、水解紙の製造においてこの接着剤の歩留まりの悪さが問題となっており、水解紙の生産性の改善が求められていた。水解紙の製造において接着剤の歩留まりを向上させるために、特許文献1〜3に記載の水解性を必要としない紙の製造に関する歩留まり向上技術を採用した場合、即ち、アニオン性接着剤の歩留まり向上剤として従来公知のカチオン性ポリマーを使用した場合、アニオン性接着剤の歩留まりは向上するが、同時に水解性を損なうという問題があった。
水解紙の製造において接着剤の歩留まりを向上せしめ、且つ使用後水に流せる水解性を確保しうる技術は未だ提供されていない。
【0007】
従って、本発明の目的は、水解性を有し、且つ生産性に優れた水解紙、その製造方法及びそれを使用した水解性清掃物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、水解紙においてアニオン性接着剤の歩留まりを向上し、しかも水解性を損なわない歩留まり向上剤について鋭意研究した結果、特定のカチオン性オリゴマーが有効であるとの知見を見出した。
【0009】
本発明は、前記知見に基づきなされたものであり、アニオン性接着剤、及び下記一般式(1)又は(2)で表されるカチオン性オリゴマーを使用した水解紙を提供することにより、前記目的を達成したものである。
【化1】

[式中、R1は、炭素数2〜24の直鎖若しくは分岐のアルキレン基、脂環式アルキレン基、アラルキレン基又は(R4−O)p−(R4)q〔但し、R4は炭素数2〜5の直鎖又は分岐のアルキレン基を示し、pは平均で0〜30の数、qは平均で1〜30の数〕を示し、R2は、炭素数1〜24の直鎖若しくは分岐のアルキル基又はアラルキル基を示し、Yは、OH又はN(R22を示し、R3は、炭素数1〜24の直鎖若しくは分岐のアルキル基又はアラルキル基を示し、Xは、ハロゲン原子又はアルキル硫酸エステルを示す。Sは1以上の整数、Tは0以上の整数をそれぞれ示す。nは、SとTの合計値であり、平均で1〜50である。式(1)及び(2)それぞれにおいて、複数のR1、複数のR2、複数のR3、複数のYは、それぞれ、同一でもよく或いは異なっていてもよい。]
【0010】
また本発明は、パルプスラリーに、前記カチオン性オリゴマーを添加混合後、アニオン性接着剤を添加して抄紙する水解紙の製造方法を提供することにより、前記目的を達成したものである。
【0011】
また本発明は、前記水解紙に、カリウム、アルカリ土類金属、マンガン、亜鉛、コバルト及びニッケルからなる群から選ばれた金属イオン、並びに水溶性溶剤を含有する水性清浄薬剤を含浸してなる水解性清掃物品を提供することにより、前記目的を達成したものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、使用後水に流せる水解性を有し、且つアニオン性接着剤の歩留まりが良好で生産性に優れた水解紙、水解性清掃物品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、先ず、本発明の水解紙及びその製造方法について説明する。
本発明の水解紙は、アニオン性接着剤、及び該接着剤の歩留まり向上剤として前記一般式(1)で表されるカチオン性オリゴマー(以下、カチオン性オリゴマー1ともいう)又は前記一般式(2)で表されるカチオン性オリゴマー(以下、カチオン性オリゴマー2ともいう)を使用して得られるもので、木材パルプ等の繊維を主成分として含有し、水解性を有する。水解性とは、水解紙を通常の水洗トイレに流したときに、その水流により水解紙が崩壊し、水洗トイレを詰まらせることなく流すことができる性能である。
【0014】
前記カチオン性オリゴマー1及び2をアニオン性接着剤と併用することにより、水解性を必要としない紙に使用されていた従来公知の歩留まり向上剤(カチオン性ポリマー)では実現し得なかった、アニオン性接着剤の歩留まり向上(水解紙の生産性の向上)と水解性との両立を実現することが可能となる。
また、カチオン性オリゴマー1及び2(歩留まり向上剤)は、歩留まり向上剤が添加されるパルプスラリーの液性(pH)に対して高い性能安定性を有しているため、通常のパルプスラリーであればpH調整せずにそのまま使用することができる。従って、カチオン性オリゴマー1及び2を使用することでpH調整工程の省略が可能となり、この点でも水解紙の生産性の向上が図られる。
更に、従来の水解紙においては、歩留まり向上剤としてのカチオン性ポリマー由来の反応開始剤や未反応物、反応不完全物などが混入し、これによって悪臭がするなどの不都合が生じ、水解紙の品質が低下するという問題が生じる場合があるところ、カチオン性オリゴマー1及び2は、反応開始剤を使用せずに製造することができ、その製造工程において未反応物や反応不完全物を略完全に除去することができるため、カチオン性オリゴマー1及び2を歩留まり向上剤として用いることで、高品質の水解紙が得られる。
【0015】
前記一般式(1)及び(2)において、R1として好ましいものは、炭素数2〜18の直鎖若しくは分岐のアルキレン基、脂環式アルキレン基、アラルキレン基又は(R4−O)p−(R4)q(但し、好ましい形態においては、pは平均で0〜15の数、qは平均で1〜15の数)である。R1として特に好ましいものは、炭素数2〜12の直鎖又は分岐のアルキレン基である。
【0016】
前記一般式(1)において、R2として好ましいものは、炭素数1〜24の直鎖又は分岐のアルキル基である。R2として特に好ましいものは、炭素数1〜18の直鎖のアルキル基である。
【0017】
前記一般式(1)及び(2)において、Yとして好ましいものは、OH(水酸基)である。
【0018】
前記一般式(1)及び(2)において、R3として好ましいものは、炭素数1〜24の直鎖のアルキル基又はアラルキル基である。R3として特に好ましいものは、工業的な製造効率の観点から、炭素数1〜22の直鎖のアルキル基である。
【0019】
前記一般式(1)において、Xとしては、具体的にはCl、Br、I、メチル硫酸エステル、エチル硫酸エステルなどが挙げられる。
【0020】
前記一般式(1)におけるSとTとの合計、及び前記一般式(2)におけるn(SとTの合計値)それぞれは、平均で、好ましくは2〜50、更に好ましくは4〜30である。nが平均で50を超えるものは、製造(重合反応)にかなりの時間を要し、生産性の点で好ましくない。
【0021】
前記一般式(1)で表されるカチオン性オリゴマー1は、下記一般式(1A)で表される繰り返し単位を有する第3級アミンに、下記一般式(B)で表される4級化剤を反応させること(4級化反応)によって製造することができる。また、前記一般式(2)で表されるカチオン性オリゴマー2は、下記一般式(2A)で表される繰り返し単位を有する第3級アミンに、下記一般式(B)で表される4級化剤を反応させることによって製造することができる。
【化2】

[式中、R1、Y、R2、R3及びXは、一般式(1)及び(2)と同じ定義であり、nは、平均で1〜50の整数を示す。]
【0022】
前記一般式(1A)で表される繰り返し単位を有する第3級アミン、及び前記一般式(2A)で表される繰り返し単位を有する第3級アミンは、本出願人の先の出願に係る、特開平3−83955号公報、特開平4−346965号公報及び特開平5−140051号公報に記載の方法に準じて製造することができる。
【0023】
前記一般式(B)で表される4級化剤の例としては、塩化メチル、塩化エチル、塩化プロピル、塩化ブチル、塩化オクチル、塩化デシル、塩化ドデシル、塩化オクタデシル、臭化メチル、臭化エチル、臭化プロピル、臭化ブチル、臭化オクチル、臭化デシル、臭化ドデシル、ヨウ化メチル等のアルキルハライド;塩化ベンジル等のアラルキルハライド;ジメチル硫酸、ジエチル硫酸等のジアルキル硫酸エステル等が挙げられる。
【0024】
前記一般式(B)で表される4級化剤の使用量(反応系に添加する量)は、前記一般式(1A)又は(2A)で表される第3級アミンのアミノ基に対して、0.01〜10倍モルが好ましく、0.02〜3倍モルが更に好ましい。
【0025】
前記第3級アミンの前記4級化剤による4級化反応においては、溶媒として水のみを用いても良く、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の有機溶媒を用いても良い。また、反応率を上げるために、反応系に炭酸ナトリウムや水酸化ナトリウム等のアルカリを添加しても良い。4級化反応の反応温度は、通常、30〜150℃である。
【0026】
本発明に係るカチオン性オリゴマー(カチオン性オリゴマー1、カチオン性オリゴマー2)の4級化度は、アニオン性接着剤の歩留まり向上剤としての効果を高める観点から、好ましくは5%〜100%、更に好ましくは20%〜100%である。カチオン性オリゴマーの4級化度は、4級化反応前の前記第3級アミンのアミン価と4級化反応後の化合物のアミン価の比率を基に算出される。即ち、次式によって算出される。
(カチオン性オリゴマーの4級化度)=1−(4級化反応後の化合物のアミン価)/(4級化反応前の前記3級アミンのアミン価)
ここでいうアミン価とは、アミン1gを中和するのに必要な塩酸の量を水酸化カリウムのmg数に換算した値のことである(ASTM D 2074に準拠)。
【0027】
本発明に係るカチオン性オリゴマーの使用量は、水解紙の製造に使用する木材パルプ等の繊維の総重量に対して、好ましくは0.01〜10重量%、更に好ましくは1〜6重量%である。カチオン性オリゴマーの使用量が0.01重量%未満の場合は、アニオン性接着剤の歩留まり向上剤としての効果が充分でなく、10重量%を超える場合は、添加量に見合った効果の上昇が見られず工業的に好ましくない。
【0028】
本発明に用いられるアニオン性接着剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カラギーナン、ポリウロン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリメタクリル酸ナトリウム、アクリル酸ナトリウムとメタクリル酸ナトリウムとアクリル酸エステルとメタクリル酸エステルとスチレンとスチレン誘導体との共重合体等が挙げられる。前記カルボキシメチルセルロースナトリウムは、水溶性又は水膨潤性を有している。前記ポリウロン酸ナトリウムとしては、ヒアルロン酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。前記スチレン誘導体としては、スチレンスルホン酸等が挙げられる。これらの中でも特に、カルボキシメチルセルロースナトリウムは、アニオン性接着剤として本発明で好ましく用いられる。
【0029】
本発明に係るアニオン性接着剤の使用量は、水解紙の製造に使用する木材パルプ等の繊維の総重量に対して、好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.1〜8重量%、更に好ましくは1〜8重量%である。アニオン性接着剤の使用量が0.01重量%未満の場合は、水解紙の強度が不足するおそれがあり、10重量%を超えて使用しても、強度の更なる向上は見られない。
【0030】
本発明の水解紙は、上述したように繊維を主成分として含有する。本発明に用いられる繊維としては、木材パルプ、非木材パルプ、故紙パルプ等が挙げられる。また、これらのパルプを主体として、該パルプ以外の他の繊維、例えば、木綿などの天然繊維;レーヨン;マーセル化パルプ;ポリビニルアルコール系繊維等の化学繊維を併用しても良い。本発明の水解紙がパルプ以外の他の繊維を含有する場合、この他の繊維の含有量は、水解紙を構成する繊維の全重量に対して、好ましくは10〜50重量%である。
【0031】
本発明の水解紙は、パルプスラリー(繊維の分散液)に、カチオン性オリゴマーを添加混合後、アニオン性接着剤を添加して抄紙することにより製造することができる。抄紙は、常法に従って行なうことができる。アニオン性接着剤のパルプスラリーへの添加は、パルプスラリーにカチオン性オリゴマーを添加し、充分均一になるように撹拌した後に行なうことが好ましい。
【0032】
このようにして得られた本発明の水解紙は、上述したカチオン性オリゴマー(歩留まり向上剤)の作用により、乾燥強度が高く、しかも水解性が良好であり、トイレットペーパー、紙ワイパーなどとしてそのまま使用できる。また、本発明の水解紙は、水をほとんど含有しない非水性の清浄薬剤を含浸させることにより、清浄効果の高い清浄物品として使用することもできる。
【0033】
次に、本発明の水解性清掃物品について説明する。
本発明の水解性清掃物品は、上述した本発明の水解紙に、金属イオン、及び水溶性溶剤を含有する清浄薬剤を含浸してなるものである。即ち、本発明の水解性清掃物品は、上述した繊維、アニオン性接着剤及び前記一般式(1)又は(2)で表されるカチオン性オリゴマー(歩留まり向上剤)に加えて、金属イオンと、水溶性溶剤を含有する水性清浄薬剤とを含有する。
【0034】
一般に、水溶性接着剤を使用した水解紙は、水を含有する水性清浄薬剤を含浸させて水解性清掃物品としても、清浄作業に耐えうる強度を有しておらず、清掃物品として実用に堪えない。これに対し、本発明の水解性清掃物品は、上述した本発明の水解紙に、金属イオン、及び水溶性溶剤を必須成分として含有する水性清浄薬剤が含浸されて構成されているため、清浄作業に耐え得る強度を有し、且つ良好な水解性を有している。斯かる構成を有する本発明の水解性清掃物品は、水を多量に含浸させることができるので、水溶性汚れに対する清浄効果を高めることができる。
【0035】
本発明に用いられる金属イオンとしては、例えば、カリウム、アルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム)、マンガン、亜鉛、コバルト、ニッケルのイオンが挙げられる。カリウムイオンは、前記アニオン性接着剤としてカラギーナンを用いた場合に特に有用である。
【0036】
本発明の水解性清掃物品に、過酷な清掃作業にも耐えうる優れた強度を付与する観点から、上記金属イオンの中でも特に、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、コバルト、ニッケルのイオンが好ましい。
【0037】
上記以外の金属イオン、例えば1価の金属イオン(カリウムを除く)を用いた場合には、水解性は満足するものが得られるが、清掃作業に耐えうる強度は得られない。また、2価の金属イオンであるCu2+(銅(II)イオン)、Fe2+(鉄(II)イオン)、Sn2+(スズ(II)イオン)、及び3価の金属イオンであるFe3+(鉄(III)イオン)、Al3+(アルミニウムイオン)を用いた場合には、清掃作業に耐えうる強度は得られるが、水解性の点で問題が残る。
【0038】
水解紙に金属イオンを含浸させるには、上記の金属の水溶性金属塩(水酸化物、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、ギ酸塩、酢酸塩等)を水に溶解させて水溶液を得、この水溶液中に水解紙を浸漬すればよい。金属イオンは、水解紙に含有されている前記アニオン性接着剤のアニオン性基1モルに対し、好ましくは1/4モル以上、更に好ましくは1/2モル以上含浸される。
【0039】
本発明に用いられる水性清浄薬剤は、清掃作業に耐えうる高い強度を得るために、水溶性溶剤を必須成分として含有する。水溶性溶剤としては、例えば、エタノール、メタノール、プロパノールの如き1価の低級アルコール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコールの如きグリコール類;前記グリコール類とメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコールとのモノ、或いはジエーテル;前記グリコール類と低級脂肪酸とのエステル;グリセリン、ソルビトール等の多価アルコール等が挙げられ、これらの1種或いは2種以上を組み合せて使用できる。
【0040】
本発明に用いられる水性清浄薬剤は、水溶性溶剤を好ましくは5重量%以上、より好ましくは8〜50重量%、更に好ましくは10〜40重量%含有し、且つ水を好ましくは95重量%以下、より好ましくは92〜50重量%、更に好ましくは90〜60重量%含有する。水解紙には、斯かる組成の水性清浄薬剤を、該水解紙の重量に対して100〜250重量%含浸させることが好ましい。
【0041】
本発明に用いられる水性清浄薬剤には、水溶性溶剤及び水に加えて、必要に応じ、アニオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤等の界面活性剤、殺菌剤、消臭剤等の成分を添加することができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例により更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
〔実施例1〜8〕
針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)をパルプ濃度が1重量%となるように水に分散させたパルプスラリーに、接着剤の歩留まり向上剤として前記一般式(1)で表されるカチオン性オリゴマーを対パルプ5重量%投入し、充分均一になるように撹拌した後、更に、アニオン性接着剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウム(商品名「CMC2280」、ダイセル化学工業(株)製)を対パルプ5重量%投入・攪拌した。こうして得られたスラリーを用いて湿式抄紙法を常法通り実施し、坪量25g/m2の紙を得た。下記表1に、各実施例で用いたカチオン性オリゴマーを示す。
【0044】
【表1】

【0045】
〔比較例1〜4〕
比較例1では、カチオン性オリゴマー(接着剤の歩留まり向上剤)を使用しなかった以外は前記実施例と同様の方法により抄紙し、坪量25g/m2の紙を得た。
比較例2では、前記実施例においてカチオン性オリゴマーに代えてカチオン化澱粉(分子量40万、カチオン化度1.0)を用いた以外は前記実施例と同様の方法により抄紙し、坪量25g/m2の紙を得た。
比較例3では、前記実施例においてカチオン性オリゴマーに代えてポリアミンポリアミドエピクロロヒドリン(商品名「カイメンWS−C」、星光PMC(株)製)を用いた以外は前記実施例と同様の方法により抄紙し、坪量25g/m2の紙を得た。
比較例4では、前記実施例においてカチオン性オリゴマーに代えて硫酸アルミニウムを用いた以外は前記実施例と同様の方法により抄紙し、坪量25g/m2の紙を得た。
【0046】
前記実施例及び比較例で得られた紙について、下記評価方法によって各種性能を評価した。その結果を下記表2に示す。
【0047】
<乾燥引張強度、湿潤引張強度>
評価対象である紙を幅25mm、長さ100mmの短冊状に裁断して試験片とした後、速やかに万能圧縮引張試験機(オリエンティック(株)製RTM−25)を用いて、引張速度300mm/min.、試験片つかみ間隔50mmの条件で試験片の破断時の強度を測定し、この測定値を乾燥引張強度とした。
湿潤引張強度を測定するに当たっては、硫酸亜鉛/両性界面活性剤/エタノール/水=1重量%/1重量%/18重量%/80重量%よりなる水性清浄薬剤を、紙重量に対して1.5倍重量となるように紙に含浸させ、清掃シートとした。そして、この清掃シートについて上記と同様に引張強度測定を行い、この測定値を湿潤引張強度とした。
【0048】
<紙粉・シートの毛羽立ち発生状態>
上記湿潤引張強度の測定に当たり作製した、水性清浄薬剤を含浸させた清掃シートを用いて、黒いタイル面(目地入り)を5分間拭った際の紙粉の発生状態、シートの毛羽立ち状態を下記の判定基準に基づいて評価した。
○:紙粉の発生がほとんど認められず、シートの毛羽立ちも生じない。
△:若干紙粉の発生が認められるが、シートの毛羽立ちは生じない。
×:紙粉の発生が認められ、シートの毛羽立ちも生じる。
【0049】
<接着剤の歩留まり率>
評価対象である紙を6%NaOH水溶液中で1時間攪拌分散し、濾過後、濾液中に含まれているカルボキシメチルセルロース(CMC)を、0.01%の2,7−ジヒドロキシナフタレンの硫酸溶液の発色を利用して比較定量した。濾液中のCMCの量から、アニオン性接着剤(カルボキシメチルセルロースナトリウム)の歩留まり率(%)を算出した。
【0050】
<水解性>
JIS P4501−1993(トイレットペーパー)に準じて紙の水解性を評価する。ビーカーに500mlの水を入れ、スターラーを用い600rpmで撹拌しつつ、ビーカー内に評価対象である紙を投入し、投入後40秒経過時点での紙の崩壊状態を目視により観察し、下記の判定基準に基づいて評価した。
○:分散性良好。
△:分散性やや不良。
×:分散性不良。
【0051】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性接着剤、及び下記一般式(1)又は(2)で表されるカチオン性オリゴマーを使用した水解紙。
【化1】

[式中、R1は、炭素数2〜24の直鎖若しくは分岐のアルキレン基、脂環式アルキレン基、アラルキレン基又は(R4−O)p−(R4)q〔但し、R4は炭素数2〜5の直鎖又は分岐のアルキレン基を示し、pは平均で0〜30の数、qは平均で1〜30の数〕を示し、R2は、炭素数1〜24の直鎖若しくは分岐のアルキル基又はアラルキル基を示し、Yは、OH又はN(R22を示し、R3は、炭素数1〜24の直鎖若しくは分岐のアルキル基又はアラルキル基を示し、Xは、ハロゲン原子又はアルキル硫酸エステルを示す。Sは1以上の整数、Tは0以上の整数をそれぞれ示す。nは、SとTの合計値であり、平均で1〜50である。式(1)及び(2)それぞれにおいて、複数のR1、複数のR2、複数のR3、複数のYは、それぞれ、同一でもよく或いは異なっていてもよい。]
【請求項2】
パルプスラリーに、請求項1記載のカチオン性オリゴマーを添加混合後、アニオン性接着剤を添加して抄紙する水解紙の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の水解紙に、カリウム、アルカリ土類金属、マンガン、亜鉛、コバルト及びニッケルからなる群から選ばれた金属イオン、並びに水溶性溶剤を含有する水性清浄薬剤を含浸してなる水解性清掃物品。
【請求項4】
前記アニオン性接着剤が、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カラギーナン、ポリウロン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリメタクリル酸ナトリウム、アクリル酸ナトリウムとメタクリル酸ナトリウムとアクリル酸エステルとメタクリル酸エステルとスチレンとスチレン誘導体との共重合体からなる群から選ばれたものである請求項3記載の水解性清掃物品。

【公開番号】特開2009−52152(P2009−52152A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−217513(P2007−217513)
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】