説明

水質浄化剤及びその製造方法、並びに水処理方法

【課題】 本発明は、廃水等の被処理水の処理に関して有効な磁性を有する水質浄化剤及びその製造方法、並びに当該水質浄化剤を用いた水処理方法に関する。
【解決手段】 ケイ酸アルミニウムと磁性酸化鉄とから構成される水質浄化剤を用いることで、被処理水に磁性を有する水質浄化剤を粉体のまま添加し、素早く攪拌することによってフロックを生成させた後、磁気分離によってフロックと処理水を分離し、効率的な水処理を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃水等の被処理水の処理に関して有効な磁性を有する水質浄化剤及びその製造方法、並びに当該水質浄化剤を用いた水処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下水や工業用水の浄化処理における汚泥の分離において、通常は、下水等に含まれる有機物を曝気槽で活性汚泥処理により分離した後、沈殿槽で汚泥を重力により分離し、分離した汚泥を処理槽に移送する凝集沈澱法が実施されている。
【0003】
また、最近は、上記のような凝集沈澱法に加えて、磁力による磁気分離との二段階で行うことが提案されている。即ち、汚泥に磁性粉を添加することによって汚泥自体に着磁性を持たせ、永久磁石や超伝導磁石を用いて処理水から汚泥を分離する磁気分離法が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、廃水に磁性粉体と凝集材を添加し、廃水との混合処理及び磁化処理を経て、円筒型固液分離装置を用いてフロックを分離する方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0005】
さらに、層状結晶構造を有する粘土鉱物に磁性酸化鉄を化合させた磁性酸化鉄−粘土化合物からなる磁性吸着剤及びそれを用いた水処理方法が提案されている(特許文献3参照)。
【0006】
また、層状結晶構造を有する粘土鉱物に磁性酸化鉄を化合させるとともに、疎水性基及び親水性基を併用する両親媒性有機化合物を化合させてなる粘土系磁性吸着剤及びそれを用いた水処理方法が提案されている(特許文献4参照)。
【0007】
さらに、マグネタイトからなる核物質と、該核物質の周りに析出して化学的に結合したシュベルトマナイトとから構成された複合体からなる磁性化学吸収剤及びそれを用いた水処理方法が提案されている(特許文献5参照)。
【0008】
また、マグネタイト粒子の表面がTiとFeの複合酸化鉄層にて被覆された磁気分離用マグネタイト粒子に関して提案されている(特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭57−135091号公報
【特許文献2】特開平02−290290号公報
【特許文献3】特開2004−121890号公報
【特許文献4】特開2004−344714号公報
【特許文献5】国際公開第2008/023853号パンフレット
【特許文献6】特開2004−161551号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上記のような従来技術では、被処理物質を処理するために処理剤を大量に添加しなければいけないという課題や、そのために生じた汚泥廃棄物の処理がかえって問題として指摘されている。さらに、高価な処理コストの問題もあることから、できるだけ安価で、廃棄物量の少ない処理剤が強く望まれている。
【0011】
特許文献1記載の方法では、凝集沈澱法自体の問題として、大量の汚水を処理するためには設置面積を非常に大きくしなければならない。さらに、磁性材料を添加し、混合するための設備も必要となり、省スペースでの処理は困難である。
【0012】
また、特許文献2記載の方法は、凝集材と磁性粉体を廃水に添加し、凝集物(フロック)を生成させた後、磁石により着磁させることでフロックの沈降性を高めるというものである。即ち、磁性粉体の残留磁化によるフロック生成が重要な要素である。よって、この方法では、処理水とフロックの分離は従来の凝集剤のみに比べ速くなるが、沈降汚泥物の体積は決して小さくならない。
【0013】
さらに特許文献3及び4には、生成した磁性粒子に関する大きさや磁化値の記載がないが、反応条件から磁化値の小さい微粒子であることが推測される。よって、磁石への応答性が小さく、結果としてフロックと処理水との分離性に問題がある。
【0014】
また、特許文献5には、クロム酸イオン、リン酸系イオン、フッ化物イオン、ヒ酸イオン等の特定の有害イオンの吸着剤として有効であることが記載されている。言い換えれば、全ての水処理への適用というよりも特定物質の処理に適した処理剤に関するものである。
【0015】
また、特許文献6には、汚染物質の磁気分離用マグネタイト粒子に関する記載がされているが、具体的な吸着性に関する記載はなく、単に磁気分離処理法に用いるための磁性材料に関するものであることから、本発明の目的とするものとは異なる。
【0016】
そこで、本発明においては、廃水等の被処理水の処理に関して有効な磁性を有する水質浄化剤及びその製造方法、並びに当該水質浄化剤を用いた水処理方法を提供することを技術的課題とする。
【0017】
即ち、少ない添加量で、且つ、迅速に凝集物と処理水を分離することが可能であり、汚泥廃棄物の少ない処理剤及び処理方法を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記技術的課題は、次の通りの本発明によって達成できる。
【0019】
即ち、本発明は、ケイ酸アルミニウムと磁性酸化鉄とから構成される複合物からなる水質浄化剤であって、該水質浄化剤はBET比表面積が2〜20m/gであって見かけ密度が0.5g/ml以上であることを特徴とする水質浄化剤である(本発明1)。
【0020】
また、本発明は、水質浄化剤の飽和磁化値が20Am/kg以上である本発明1記載の水質浄化剤である(本発明2)。
【0021】
また、本発明は、前記ケイ酸アルミニウムが、非晶質成分を主とする化合物であり、Si/Al比が2〜8である本発明1又は2に記載の水質浄化剤である(本発明3)。
【0022】
また、本発明は、ケイ酸アルミニウムを含有する水溶液に、第一鉄塩水溶液を塩基性反応条件で反応させた後、空気を通気することでマグネタイト粒子をケイ酸アルミニウム粉体表面に析出させた後、非酸化雰囲気下で熱処理をすることを特徴とする本発明1〜3のいずれかに記載の水質浄化剤の製造方法である(本発明4)。
【0023】
即ち、本発明は、被処理水に、本発明1〜3のいずれかに記載の水質浄化剤を粉体のまま添加し、素早く攪拌することによってフロックを生成させた後、磁気分離によってフロックと処理水を分離することを特徴とする水質浄化剤を用いた水処理方法である(本発明5)。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る水質浄化剤は、被処理物を凝集させるための添加量が少なくて済み、且つ、汚泥と処理水との分離が磁石による分離により非常に効率的に行え、さらに、発生する汚泥の水分量が低く、汚泥量も少ないことから、種々の水処理に有効に利用できるものである。
【0025】
さらに、有害な重金属等を含まない無機系の水質浄化剤であることから、発生する汚泥物を再生使用したり、土として埋め戻すことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施例1で得られた粒子粉体における電子顕微鏡写真(×2,000)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の構成をより詳しく説明すれば、次の通りである。
【0028】
まず、本発明に係る水質浄化剤について述べる。
【0029】
ケイ酸アルミニウムとしては、海洋、湖沼、河川に広く分布し、ケイ素やアルミニウム原子が規則正しく配列した結晶質と不規則に並んだ非晶質に大別できる。本発明においては、前記いずれのケイ酸アルミニウムを用いることができるが、Si−O−Al結合を有し、非晶質成分を主とするケイ酸アルミニウム化合物である火山灰土壌や石炭灰等の表面活性の大きな非晶質成分を多く含むものが好ましく、特に、シラス土や石炭灰がより好ましい。
【0030】
本発明における磁性酸化鉄としては、種々のものを用いることができる。磁性が強くて安定であり、かつ安価に入手できるという意味では、マグネタイトが最適である。
【0031】
本発明に係る水質浄化剤のSi/Al比は2〜8が好ましく、より好ましくは4〜8である。また、いわゆるケイバン比(SiOとAlの分子比)としては1〜4が好ましく、より好ましくは2〜4である。
【0032】
本発明に係る水質浄化剤のBET比表面積は2〜20m/gであり、好ましくは2〜10m/gである。BET比表面積が2m/g未満では、浄化作用が小さく、一方、20m/gを超える場合では、見かけ密度が小さくなり、水質浄化剤を処理槽に投入する際に投入量を安定させることが難しくなる。
【0033】
本発明に係る水質浄化剤の見かけ密度は0.5g/ml以上であり、好ましくは0.6〜0.8g/mlである。見かけ密度が0.5g/mlより小さくなると、水質浄化剤を処理槽に投入する際に投入量を安定させることが難しくなる。
【0034】
本発明に係る水質浄化剤の磁性酸化鉄の含有量は20〜70重量%が好ましく、より好ましくは25〜70重量%であり、更により好ましくは30〜65重量%である。磁性酸化鉄の含有量が20重量%未満では、磁力が弱くなり迅速な分離はできにくくなり、一方、70重量%を超える場合には被処理物を凝集させる効果が低くなる。
【0035】
次に、本発明に係る水質浄化剤の製造方法について述べる。
【0036】
本発明に係る水質浄化剤は、ケイ酸アルミニウムを含有する水溶液に、第一鉄塩水溶液を塩基性反応条件で反応させた後、空気を通気することで磁性酸化鉄粒子をケイ酸アルミニウム粉体表面に析出させた後、水洗、ろ別、乾燥し、磁性酸化鉄粒子が付着したケイ酸アルミニウム粉体を得、次いで、非酸化雰囲気下で熱処理して得ることができる。
【0037】
本発明において、ケイ酸アルミニウムを含有する水溶液に、第一鉄塩水溶液を塩基性反応条件で反応させた後、空気を通気することでマグネタイト粒子をケイ酸アルミニウム粉体表面に析出させる。特に、pH12以上の反応条件で、且つ、温度80〜95℃で、さらに100l/minの空気を200分間程度通気することが重要である。
【0038】
第一鉄塩水溶液としては、硫酸第一鉄水溶液、塩酸第一鉄水溶液等がある。
【0039】
本発明において使用されるアルカリ性水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム等水溶液がある。
【0040】
反応させるpHは12以上が好ましい。pH12未満でもマグネタイトは生成するが、得られた水質浄化剤の凝集効果が高くならない。
【0041】
次いで、常法により、水洗、ろ別、乾燥することで、上記マグネタイト粒子が付着したケイ酸アルミニウム粉体が得られる。
【0042】
次に、不活性ガス雰囲気下で300〜800℃で熱処理を行う。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン等のいずれでもかまわないが、経済的理由から窒素を用いるのが好ましい。窒素ガスの流量は、マグネタイト粒子の酸化を防止するために3l/min以上流すことが肝要である。
【0043】
加熱処理時間は、加熱温度によっても変わるが、1〜3時間の処理で十分である。
【0044】
また、本発明においては、ケイ酸アルミニウムの存在下で磁性酸化鉄を水溶液中で調製したものに、別に作製した磁性酸化鉄を添加・混合して水質浄化剤とすることもできる。その場合、後で添加した磁性酸化鉄が水質浄化剤と分離しないように、磁性酸化鉄を選択すること及び混合をしっかりと行うことが好ましい。
【0045】
次に、本発明に係る水質浄化剤を用いた処理方法について述べる。
【0046】
本発明に係る水処理方法は、被処理水に、本発明に係る水質浄化剤を粉体のまま添加し、素早く攪拌することによってフロックを生成させた後、磁気分離によってフロックと処理水を分離するものである。
【0047】
本発明において、対象とする被処理水は、工業用水、工業廃水、下水、生活排水等の有機物を含有するものである。
【0048】
本発明における被処理水は、温度、pHなどは特に限定されるものではないが、常温で、中性付近の水が好ましい。
【0049】
本発明における被処理水に対する水質浄化剤の添加量は0.2〜10g/lが好ましい。
【0050】
水質浄化剤を添加した被処理水は、撹拌して、フロックを生成した後、磁気分離によってフロックと処理水とを分離する。
【0051】
分離したフロック・汚泥物は、再生使用したり、土として埋め戻すこともできる。
【実施例】
【0052】
本発明の代表的な実施の形態は次の通りである。
【0053】
尚、以下の実施例並びに比較例における粉末の粒度は、目開き150μmの篩以下の値で示した。また、粒子の粒子形態は、走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、S−800)で観察したものである。
【0054】
BET比表面積は、Tri Star3000(島津製作所製)を用いて25℃の条件で測定した値で示した。
【0055】
かさ密度は、JIS K 5101−12−1に記載の方法に従って測定した。
【0056】
磁気特性は、振動試料型磁力計VSM(東英工業製)を用い10k/4πkA/mの磁場で測定した。
【0057】
磁性酸化鉄量は、蛍光X線強度からマグネタイトの存在量として計算した。
【0058】
流動性は、JIS−Z2502法により、サンプル50gが全て流れ落ちる時間で評価した。
30秒未満 ; ○
30秒以上1分未満 ; △
1分以上 ; ×
【0059】
実施例1
あらかじめ150μm篩で粒度を調整した鹿児島県産のシラス土100gと、Fe2+1.5mol/lを含む硫酸第一鉄水溶液370mlと、3.4NのNaOH水溶液400mlを混合し、pH12.5、温度90℃に調整し、100l/minの空気を200分間通気した。次に、常法により、水洗、ろ過、乾燥、粉砕を行った。
次に、得られたマグネタイト粒子が沈着したケイ酸アルミニウム粉体を回転式熱処理炉に入れ、Nガスを5l/minで流しながら500℃で3時間熱処理をおこなった。
当該粒子粉末は、磁性酸化鉄の含有量が30%、粒度が150μm以下96%、BET比表面積が3.5m/g、見かけ密度が0.73g/ml、飽和磁化値が24.3Am/kgであった。
【0060】
実施例2及び実施例3
実施例1と同様にして、硫酸第一鉄水溶液量及びNaOH量等を変化させてマグネタイトとケイ酸アルミニウム粉体を得た。
【0061】
比較例1
あらかじめ150μm篩で粒度を調整した鹿児島県産のシラス土100gと、3.4mol/lの苛性ソーダ水溶液800mlを80℃に保持し、攪拌しながら同温度で2時間保持した。次に、常法により、水洗、ろ過、乾燥、粉砕を行った。次に、ケイ酸アルミニウム粉体を回転式熱処理炉に入れ、Nガスを5l/minで流しながら500℃で3時間熱処理を行った。
【0062】
比較例2
あらかじめ150μm篩で粒度を調整した鹿児島県産のシラス土100gと、3.4mol/lの苛性ソーダ水溶液700mlを80℃に保持した。この溶液に、Fe2+1.5mol/lを含む塩化第一鉄水溶液160ml及びFe3+1.5mol/lを含む塩化第二鉄水溶液340mlとを混合した水溶液を、攪拌しながら添加した。同温度で2時間保持した。次に、常法により、水洗、ろ過、乾燥、粉砕を行った。次に、得られたマグネタイト粒子が沈着したケイ酸アルミニウム粉体を回転式熱処理炉に入れ、Nガスを5l/minで流しながら500℃で3時間熱処理を行った。
【0063】
このときの製造条件を表1に、得られた水質浄化剤の諸特性を表2に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
<性能評価>
pH6.7、nヘキサン168mg/l、COD(Cr)925mg/l、SS10,700mg/lの含油廃水を2倍希釈した被処理水に対し、実施例で得られた水質浄化剤A〜Cおよび比較例のD、Eを各々0.5g/l添加し、攪拌した後、磁石でフロックを分離し、ろ紙にてろ過した。得られた汚泥を80℃乾燥機で乾燥し、重量を測定し、被処理水に対する汚泥量を計算した。
得られた結果並びに条件を表3に示す。
【0067】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ酸アルミニウムと磁性酸化鉄とから構成される複合物からなる水質浄化剤であって、該水質浄化剤はBET比表面積が2〜20m/gであって見かけ密度が0.5g/ml以上であることを特徴とする水質浄化剤。
【請求項2】
水質浄化剤の飽和磁化値が20Am/kg以上である請求項1記載の水質浄化剤。
【請求項3】
前記ケイ酸アルミニウムが、非晶質成分を主とする化合物であり、Si/Al比が2〜8である請求項1又は2に記載の水質浄化剤。
【請求項4】
ケイ酸アルミニウムを含有する水溶液に、第一鉄塩水溶液を塩基性反応条件で反応させた後、空気を通気することでマグネタイト粒子をケイ酸アルミニウム粉体表面に析出させた後、非酸化雰囲気下で熱処理をすることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水質浄化剤の製造方法。
【請求項5】
被処理水に、請求項1〜3のいずれかに記載の水質浄化剤を粉体のまま添加し、素早く攪拌することによってフロックを生成させた後、磁気分離によってフロックと処理水を分離することを特徴とする水質浄化剤を用いた水処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−55862(P2012−55862A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203596(P2010−203596)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000166443)戸田工業株式会社 (406)
【Fターム(参考)】