説明

水質浄化用ろ過材及びその製造方法

【課題】 簡易な構造で製造が容易であるとともに、安定して持続的な生物学的浄化作用を発揮することが可能な水質浄化用ろ過材を提供する。
【解決手段】 バチルス属に属する微生物を、透水性の基材にあらかじめ定着させてなる水質浄化用ろ過材(10)であって、バチルス属に属する微生物を、超微粒子加工によりパウダー化されるとともに多孔性をなす鉱物粉末の孔内に付着繁殖させ、鉱物粉末を透水性の基材に均一に固着することにより形成した。好ましくは、バチルス属に属する微生物が納豆菌又は枯草菌であり、鉱物が麦飯石によって構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、観賞魚用水槽等で用いられるろ過マットをはじめとする水質浄化用のろ過材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば観賞魚用水槽において観賞魚を飼育する場合、魚の餌の食べ残しや排泄物等によって、水槽内の水質が徐々に汚染されてくるため、水槽内の水を循環させる構造の水質浄化装置が設置されることが多い。そして、この水質浄化装置には、フィルターの役割を果たすろ過マット等のろ過材が用いられている。
【0003】
このようなろ過材において、所定の鉱物を超微粒子加工によりパウダー化し、このパウダー化された鉱物をマット基材に定着させたものが知られている(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2003−200011
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されるろ過材は、バクテリアによる生物学的浄化作用に着目し、バクテリアの成長に不可欠なミネラルを、鉱物によって供給しようとするものであるが、バクテリアについては天然バクテリアを自然発生させるか、バクテリアを付着させたろ過材あるいはバクテリア濃縮液等を別途併用しなければならないため、バクテリアの繁殖・増殖に失敗する場合や、コストアップとなるという問題があった。
また、従来のバクテリアを付着させるろ過材を用いた浄化装置等では、構造やメンテナンスが複雑で、バクテリアの取り扱いも難しいものが多いわりに、未だ生物学的浄化作用が不十分といえるものであった。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、簡易な構造で製造が容易であるとともに、安定して持続的な生物学的浄化作用を発揮することが可能な水質浄化用ろ過材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の水質浄化用ろ過材は、バチルス属に属する微生物を、透水性の基材にあらかじめ定着させてなる水質浄化用ろ過材であって、
バチルス属に属する微生物を、超微粒子加工によりパウダー化されるとともに多孔性をなす鉱物粉末の孔内に付着繁殖させ、該鉱物粉末を透水性の基材に均一に固着することにより形成されたことを要旨とする。
【0008】
また、請求項2に記載の水質浄化用ろ過材は、請求項1に記載の構成において、該バチルス属に属する微生物が、納豆菌又は枯草菌であることを要旨とする。
【0009】
また、請求項3に記載の水質浄化用ろ過材は、請求項2に記載の構成において、該鉱物が、麦飯石であることを要旨とする。
【0010】
また、請求項4に記載の水質浄化用ろ過材の製造方法は、バチルス属に属する微生物を、透水性の基材にあらかじめ定着させてなる水質浄化用ろ過材の製造方法であって、
バチルス属に属する微生物と、超微粒子加工によりパウダー化されるとともに多孔性をなす鉱物粉末と、をぬるま湯中で攪拌する工程と、
攪拌後に乾燥処理を行うことにより、該バチルス属に属する微生物を該鉱物粉末の孔内に付着繁殖させた状態でさらに粉末状とする工程と、
該粉末状としたものと、接着剤と、を混合して処理液を調製し、この処理液を透水性の基材に均一に吹き付ける工程と、
を備えたことを要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水質浄化用ろ過材によれば、バチルス属に属する微生物を、透水性の基材にあらかじめ定着させてなる水質浄化用ろ過材であって、バチルス属に属する微生物を、超微粒子加工によりパウダー化されるとともに多孔性をなす鉱物粉末の孔内に付着繁殖させ、該鉱物粉末を透水性の基材に均一に固着することにより形成されているため、簡易な構造で製造が容易であるとともに、安定して持続的な生物学的浄化作用を発揮することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、バチルス属に属する微生物を、透水性の基材にあらかじめ定着させてなる水質浄化用ろ過材である。バチルス属に属する微生物としては、菌学的にバチルス属に属するものであれば何れの種類でもよく、例えば、バチルスサブチルス(Bacillus subtilis)、バチルスミカイデス(Bacillus mycoides)、バチルスメガティリアム(Bacillus
megaterrium)、バチルスツリュゲナイセス(Bacillus thuringiensis)、バチルススハリカス(Bacillus sphaericus)などが挙げられる。バチルス属に属する微生物は、二種類以上のものを適宜混合して用いることもできる。
【0013】
中でも、納豆菌(Bacillus subtilis natto)又は枯草菌は、非常に繁殖力が強くて死滅し難く、接着性にも富んでいるため最適である。適応pHも3〜11と広範であり、海水に近い状態(pH8.5程度)で繁殖・増殖が可能となるとともに、接着剤等のpHによる制約を受け難いため生産性が向上する。また、一般的な入手が容易である上、乾燥保存もできるため、取り扱い性にも優れている。
【0014】
従来の水質浄化用ろ過材、例えば観賞魚用水槽に設置されるろ過マットには、あらかじめバクテリアを付着させたものも存在するが、バクテリアとしては、ニトロソモナス属(Nitrosomonas)やニトロバクター属(Nitrobacter)のものを用いており、納豆菌又は枯草菌等のバチルス属に属する微生物を用いたものは見られない。本発明における微生物は、従来のものに比べて、繁殖力が強く、安定して持続的な生物学的浄化作用を期待できるものである。
【0015】
本発明では、バチルス属に属する微生物を、多孔性をなす鉱物粉末の孔内に、あらかじめ付着繁殖させたものである。これにより、上記微生物に対するミネラル供給の効果が向上し、溶解酸素量も増加するため、微生物の増殖が促進されることとなる。
また、鉱物粉末が、シェルターの役割を果たし、孔内に付着繁殖する上記微生物を保護するため、安定して持続的な浄化作用が発揮されるとともに、接着剤等の固着手段を用いてあらゆる基材に容易に定着させることが可能となる。
【0016】
鉱物粉末は、所定の鉱物を超微粒子加工によりパウダー化したものであり、且つパウダー化しても各々の粉末粒子が依然としてポーラスな構造を有しているものを用いる。このような観点から、鉱物としては例えば麦飯石、溶岩石、沸石等が好ましい。特に麦飯石は超多孔質性で、500メッシュ以上の細かい粒径であっても非常に多くの孔が空いており、しかもミネラルの溶出性能がきわめて優れているため、上記微生物の活動を活発にすることができ、最適である。
【0017】
上記パウダー化された鉱物粉末の粒径は、480メッシュ以上であることが好ましい。これは、一般に市販されているリキッドタイプの花崗斑岩等の粒径が250〜325メッシュの範囲であるのと比較すると、1.5倍以上の細かさの微粒子である。480メッシュ以上のパウダー化された鉱物粉末を用いることにより、鉱物の表面積が増大し、上記微生物に対するミネラル供給の効果が良好となる。また、粒径がより小さい方が、吹き付け加工時に、金属製の噴出ノズルの磨耗度を低減させることができる。
【0018】
バチルス属に属する微生物を、上記パウダー化された鉱物粉末の孔内に付着繁殖させる方法としては、微生物の菌体、菌体含有液、あるいは菌体を培養して液体状にしたものと、上記鉱物粉末と、をぬるま湯中で十分に攪拌し、さらにそれを乾燥させて粉末状とする方法を用いることができる。ぬるま湯中で攪拌することにより、上記微生物の活動が活発化されて微生物が鉱物粉末の孔内に入り込み、乾燥後も死滅することなく繁殖を続け得る。従って、上記微生物を鉱物粉末の孔内に、確実且つ容易に付着させて繁殖させることが可能となるものである。また、粉末状とすることで取り扱いや保存も容易になり、生産性が向上する。
【0019】
本発明の水質浄化用ろ過材は、上記微生物を鉱物粉末に付着させ、粉末状としたものを、透水性の基材に均一に固着することにより形成されたものである。基材は、水を通し易く、微生物が繁殖し易いように、微細な間隙を多数有する構造のものであれば、特に限定されないが、例えばウール等繊維製のマットやスポンジを好ましく用いることができる。
基材への固着方法は、含浸法、スプレー法、コーティング法、パッド法等を用いることができるが、特に、接着剤と混合した処理液を調製し、この処理液を基材に均一に吹き付けるのが最適である。接着剤としては、均等な吹き付けが可能な流動性を備え、水槽内等の水に溶解したり、着色や異臭を生じたり、pHを変動させることがなく、観賞魚等の生体に悪影響の少ない接着剤を選択することが望ましく、例えば、酢酸ビニル/アクリル酸エステル共重合樹脂や生分解性樹脂からなるものを用いることができる。特に生分解性樹脂エマルジョンは、環境への負荷が小さく、適している。生分解性樹脂エマルジョンとしては、例えば植物(トウモロコシデンプン)から合成したポリ乳酸樹脂やデンプンを変性した化工デンプン樹脂のエマルジョンを用いることができる。
【0020】
上記によって、パウダー化された鉱物粉末の各粒子が基材の繊維条等に所定間隔で点状に固着されることとなるが、固着後、鉱物粉末の孔内に付着している微生物が、孔外へ繁殖を進め、透水性を確保しつつ基材表面及び内部において、蜘蛛の巣状に増殖することによりコロニーが形成されることとなる。その結果、生物学的浄化作用がより強固なものとなる。
なお、鉱物粉末の基材への固着に際しては、人工的な乾燥処理を施すようにしてもよい。乾燥温度としては、100〜140℃、さらに110〜130℃程度が好ましいが、本発明で用いられる微生物であれば、このような高温で乾燥させても、死滅することがない。
【0021】
本発明の水質浄化用ろ過材を用いた実施形態について、図1を参照して説明する。図1において、(10)は水質浄化用ろ過材としてのろ過マット、(11)は観賞魚用の水槽、(12)は水質浄化装置、(14)はポンプ、(15)はろ過室、(16)は放水室、(17)は放水口である。
【0022】
図1に示すように、ろ過マット(10)は、観賞魚用の水槽(11)に設置される水質浄化装置(12)において用いられている。水質浄化装置(12)は主として、ポンプ(14)、ろ過室(15)、放水室(16)を備えており、ろ過室(15)内にろ過マット(10)が敷設されている。
そして、ポンプ(14)によって汲み上げられた水槽(11)の水が、ろ過室(15)に流れ込み、ろ過マット(10)を介してろ過・浄化された後に、放水室(16)の放水口(17)から、再び水槽(11)に放水されて循環する構造となされているものである。また、ポンプ(14)により汲み上げられた水に、空気(酸素)を適宜供給した上で、ろ過室(15)に流入させるようにすることもできる。
【0023】
なお、ろ過マット(10)は、図1に示した態様での使用に限定されるものではない。例えば、本発明によるろ過マット(10)を含む複数のろ過マットを上下に積層したり、ろ過室を複数に区画して構成する場合のその一部又は全部に本発明によるろ過マット(10)を敷設して用いることもできる。
【0024】
本発明における微生物は好気性であるが、循環供給される水中の酸素や、さらに鉱物粉末から溶出するミネラル等を用いて、有機物や、魚の排泄物に含まれる有害なアンモニア性窒素、大腸菌等を生分解しながら、継続的に増殖することができる。本発明によれば、単なる物理的ろ過作用にとどまらず、上記微生物の安定した生物学的浄化作用により、水質浄化に優れた持続的な効果が有る。
【0025】
上記実施形態は、本発明の適用例であり、これ以外にも例えば、養殖用の水槽、いけすや、湯を循環利用する業務用の浴槽設備等、水質改善が要求される様々な場所において設けられる水質浄化装置等に、本発明のろ過材を装備して使用することができる。あるいは、本発明のろ過材を汚染された水槽内や河川等に直接投入して用いることもできる。
【実施例1】
【0026】
ビーカーに20〜25℃のぬるま湯50ccを注ぎ、そこに市販の納豆菌0.1gと、超微粒子加工により500メッシュの粒径にパウダー化された麦飯石粉末20gとを混入して約30分間攪拌した。その後、これを自然乾燥させて粉末Aを得た。
【0027】
上記粉末Aと、ポリ乳酸樹脂エマルジョンからなる適量の接着剤とを混合し、よく攪拌して処理液Bとした。この処理液Bを、吹き付けノズルを介して、縦330mm×横240mm×厚さ30mmのウールマット基材の全面に向かって、麦飯石粉末が20〜30g/m2の一定密度で付着するように一定量かつ均一に吹き付けた。その後、120℃の温度条件下で、約5分間の乾燥処理を行い、接着剤を硬化させるとともに、上記粉末Aをマット基材に固着させることにより、ろ過マットを作成した。
【0028】
上記によって得られたろ過マットを、図1に示した如くの水質浄化装置のろ過室内にセットして使用した。観賞魚用水槽は60cmサイズのものを用い、小型の熱帯魚10匹を入れた。
最初の数時間、水質浄化装置を作動させないでおいたが、水槽内の水が白く濁り、浮遊物が観察されるようになった。その後、水質浄化装置を作動させ、上記ろ過マットによるろ過・浄化を行ったところ、約12時間後には、水槽内の水が透明になり、さらに、1ヶ月間、ろ過マット及び水槽内の水を交換しなくても透明度が保たれ、全ての魚が元気に泳ぎまわっていた。
【実施例2】
【0029】
実施例1の粉末Aを含む処理液Bの中に、縦150mm×横60mm×厚さ20mmのスポンジを含浸させ、その後これを自然乾燥させることにより、ろ過スポンジを作成した。
【0030】
上記によって得られたろ過スポンジを、観賞魚の糞や食べ残し等によって白濁した水槽(60cmサイズ)内に直接投入して、水槽内における水の透明度の変化を観察したところ、投入後約24時間が経過した頃には、白濁は消え透き通って見えるようになった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、簡易な構造で製造が容易であるとともに、安定して持続的な生物学的浄化作用を発揮することが可能な水質浄化用ろ過材を提供するものであり、産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施形態の一例を示した図である。
【符号の説明】
【0033】
10 ろ過マット
11 水槽
12 水質浄化装置
14 ポンプ
15 ろ過室
16 放水室
17 放水口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バチルス属に属する微生物を、透水性の基材にあらかじめ定着させてなる水質浄化用ろ過材であって、
バチルス属に属する微生物を、超微粒子加工によりパウダー化されるとともに多孔性をなす鉱物粉末の孔内に付着繁殖させ、該鉱物粉末を透水性の基材に均一に固着することにより形成された水質浄化用ろ過材。
【請求項2】
該バチルス属に属する微生物が、納豆菌又は枯草菌である請求項1に記載の水質浄化用ろ過材。
【請求項3】
該鉱物が、麦飯石である請求項2に記載の水質浄化用ろ過材。
【請求項4】
バチルス属に属する微生物を、透水性の基材にあらかじめ定着させてなる水質浄化用ろ過材の製造方法であって、
バチルス属に属する微生物と、超微粒子加工によりパウダー化されるとともに多孔性をなす鉱物粉末と、をぬるま湯中で攪拌する工程と、
攪拌後に乾燥処理を行うことにより、該バチルス属に属する微生物を該鉱物粉末の孔内に付着繁殖させた状態でさらに粉末状とする工程と、
該粉末状としたものと、接着剤と、を混合して処理液を調製し、この処理液を透水性の基材に均一に吹き付ける工程と、
を備えた水質浄化用ろ過材の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−296118(P2008−296118A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−143882(P2007−143882)
【出願日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【出願人】(504463877)
【Fターム(参考)】