説明

水銀分析装置および水銀分析方法

【課題】溶液試料中の水銀を還元気化する前に還元容器内に残存する測定環境下の空気を排出することによって水銀分析を高精度にすることを目的とする。
【解決手段】水銀分析装置1は、溶液試料S中の水銀を還元気化する還元容器21と、還元容器21内の溶液試料Sをバブリングするバブラー3を保持するキャップ22と、キャップ22を上下に駆動させるキャップ駆動手段23と、還元容器21内で還元気化された溶液試料S中の水銀を測定する水銀測定器5と、バブラー3および水銀測定器5に流すキャリアガスGの供給量を制御するキャリアガス制御手段4と、還元容器21内の溶液試料Sを還元気化する前に、キャップ駆動手段4を制御して還元容器21内の溶液試料Sの液面上に近接した位置にバブラー3を配置させ、バブラー3にキャリアガスGを流して還元容器21内をパージした後に、水銀測定器5によって溶液試料S中の水銀を定量させる制御装置2とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元気化法による水銀分析装置および水銀分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から還元気化法による水銀分析は、長年にわたり環境分析や品質管理分析などで広く使用されている。河川水などの分析では、特許文献1の図10に示す還元気化法を用いた原子吸光方式の水銀分析装置が使用されており、還元剤などの試薬とともに還元容器に入れられた溶液試料に空気ポンプから送られた空気により、試料溶液がバブラーによりバブリングされ、試料中に存在する酸化水銀が還元剤により還元され、気化水銀となり、吸収セルに導入されて測定される。図10に示された空気ポンプと還元容器の間には、水銀除去ユニットがあり、内部に充填された水銀除去剤によって空気ポンプから送られた空気から水銀を除去して水銀を含まない清浄な空気を供給している。
【0003】
還元気化法による、原子吸光方式と異なる原子蛍光方式の水銀分析装置として、図5に示すような装置がある。この水銀分析装置100は、溶液試料S中の水銀を還元気化する還元容器21と、還元容器21内の溶液試料Sをバブリングするバブラー3と、バブラー3に水銀除去フィルタ43によって水銀が除去された清浄なキャリアガスGを流すキャリアガス制御手段4と、還元容器21内で還元気化された溶液試料S中の水銀を捕集する水銀捕集管6と、水銀が捕集された水銀捕集管6を加熱して水銀を気化させる加熱気化装置7と、加熱気化装置7によって気化された水銀を測定する水銀測定器5と、キャリアガス制御手段4、加熱気化装置7および水銀測定器5を制御する制御装置102とを備えている。
【0004】
還元容器21内の溶液試料SにポンプP1、ポンプP2によって塩化第一錫溶液25および硫酸26をそれぞれ添加した後、アルゴンボンベ41から供給されるキャリアガスGであるアルゴンガスGをマスフローコントローラ4で流量制御し、水銀除去フィルタ43によって水銀を除去した清浄なアルゴンガスG(長破線)によって溶液試料Sをバブリングし、溶液試料S中の水銀を還元気化させる。気化した水銀は硫酸等のミストを捕らえるミストキャッチャー8を通して水銀捕集管6内の捕集剤に捕集される。原子蛍光方式の水銀測定器5を備える水銀分析装置100は空気中の酸素、水分を含んだキャリアガスGで測定すると感度が著しく低下するため、還元動作終了後にガス切り替え弁Vをバイパス流路88に切り換えて、水銀を除去した清浄なアルゴンガスGで還元容器21以外の水銀捕集管6、水銀測定器5内のフローセル(図示なし)およびそれらに接続された流路を短破線で示すようにパージした後、水銀捕集管6を加熱気化装置7で加熱することで水銀捕集管6内の金アマルガム状態の水銀を気化して水銀測定器5に送り測定する。
【特許文献1】特開2008−102068
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の原子吸光方式および原子蛍光方式の水銀分析装置では、溶液試料を還元容器内で還元気化させる時はキャップによって還元容器の口を抑えて密封し、バブラーから出るキャリアガスの泡で攪拌することでサンプル中の水銀をキャリアガスによってフローセルまたは捕集管に送る。ところが、原子吸光方式の水銀分析装置では、清浄な空気で吸収セルや還元容器内などの流路のパージが行われず、また、原子蛍光方式の水銀分析装置では、短破線で示したパージラインのパージ時には、還元容器内はパージされていない、そのため還元容器内には測定環境下の空気がそのまま残存しており、還元容器内の空気中の水銀も一緒に測定してしまうことになる。例えば、大気雰囲気である測定室内などの測定環境下の空気中の水銀濃度は20ng/m3程度であり、還元容器内の空気の量が20mLとすると、水銀量は0.4pgとなりpgオーダーの測定をする際には無視できない値となり、水銀の極微量分析の精度を低下させていた。特に、原子蛍光方式の水銀分析装置は高感度であるため、その影響は大きい。また、原子吸光方式の水銀分析装置でも影響は少ないものの、問題となる。
【0006】
本発明は前記従来の問題に鑑みてなされたもので、溶液試料中の水銀を還元気化する前に還元容器内に残存する測定環境下の空気を排出することによって水銀分析の精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の第1構成にかかる水銀分析装置は、溶液試料中の水銀を還元気化する還元容器と、前記還元容器内の溶液試料をバブリングするバブラーを保持するキャップと、前記キャップを上下に駆動させるキャップ駆動手段と、前記還元容器内で還元気化された溶液試料中の水銀を測定する水銀測定器と、前記バブラーおよび前記水銀測定器に流すキャリアガスの供給量を制御するキャリアガス制御手段と、前記還元容器内の溶液試料を還元気化する前に、前記キャップ駆動手段を制御して前記還元容器内の溶液試料の液面上に近接した位置に前記バブラーを配置させ、前記バブラーに前記キャリアガス制御手段よりキャリアガスを流して前記還元容器内をパージした後に、前記水銀測定器によって溶液試料中の水銀を定量させる制御装置とを備える。
【0008】
本発明の第1構成にかかる水銀分析装置によれば、還元容器内の溶液試料を還元気化する前に、還元容器内の溶液試料の液面上にバブラーを配置して、バブラーに清浄なキャリアガスを流して還元容器内をパージして、還元容器内に残存する測定環境下の空気を排出することによって水銀分析の精度を向上させることができる。
【0009】
本発明の第2構成にかかる水銀分析装置は、溶液試料中の水銀を還元気化する還元容器と、前記還元容器内の溶液試料をバブリングするバブラーを保持するキャップと、前記キャップを上下に駆動させるキャップ駆動手段と、前記還元容器内で還元気化された溶液試料中の水銀を捕集する水銀捕集管と、水銀が捕集された前記水銀捕集管を加熱して水銀を気化させる加熱気化装置と、前記加熱気化装置で加熱気化された水銀を測定する水銀測定器と、前記バブラーおよび前記水銀測定器に流すキャリアガスの供給量を制御するキャリアガス制御手段と、前記還元容器内の溶液試料を還元気化する前に、前記キャップ駆動手段を制御して前記還元容器内の溶液試料の液面上に近接した位置に前記バブラーを配置させ、前記バブラーに前記キャリアガス制御手段よりキャリアガスを流して前記還元容器内をパージした後に、前記水銀測定器によって溶液試料中の水銀を定量させる制御装置とを備える。
【0010】
本発明の第2構成にかかる水銀分析装置は、第1構成にかかる水銀分析装置に対して水銀捕集管および加熱気化装置を付加したものであり、第1構成にかかる水銀分析装置と同様の効果を奏することができる。
【0011】
本発明の第2構成にかかる水銀分析装置において、前記キャリアガス制御手段からのキャリアガスを前記バブラーに流す還元流路と前記バブラーを迂回させるバイパス流路とに切替えるガス切り替え弁を有し、前記還元流路は前記バブラーの下流側にキャリアガスの水分を捕集するミストキャッチャーを有し、前記バイパス流路は前記ガス切り替え弁の下流側に前記水銀捕集管を有しており、前記ミストキャッチャーの下流側である、前記水銀捕集管の上流側において、前記還元流路と前記バイパス流路とが接続されていることが好ましい。この構成により、バイパス流路のパージ時にキャリアガスがミストキャチャーを通らないので、ミストキャチャー中の水分がアルゴンガスや空気などのキャリアガス中に混入せず、より高精度な水銀分析を行うことができる。
【0012】
本発明の水銀分析装置において、水銀測定器が原子蛍光方式であることが好ましい。この構成により、原子吸光方式の水銀分析装置よりも高感度の水銀分析を行うことができる。
【0013】
本発明の第1の水銀分析方法は、溶液試料中の水銀を還元気化する還元容器と、前記還元容器内の溶液試料をバブリングするバブラーを保持するキャップと、前記還元容器内で還元気化された溶液試料中の水銀を測定する水銀測定器と、前記バブラーおよび前記水銀測定器にキャリアガスを流す供給量を制御するキャリアガス制御手段とを準備し、前記還元容器内の溶液試料を還元気化する前に、前記還元容器内の溶液試料の液面上に近接した位置に前記バブラーを配置して、前記バブラーに前記キャリアガス制御手段よりキャリアガスを流して前記還元容器内をパージした後に、溶液試料中の水銀を定量する。
【0014】
本発明の第1の水銀分析方法によれば、第1構成にかかる水銀分析装置と同様の効果を奏する。
【0015】
本発明の第2の水銀分析方法は、溶液試料中の水銀を還元気化する還元容器と、前記還元容器内の溶液試料をバブリングするバブラーを保持するキャップと、前記還元容器内で還元気化された溶液試料中の水銀を捕集する水銀捕集管と、水銀が捕集された前記水銀捕集管を加熱して水銀を気化させる加熱気化装置と、前記加熱気化装置で加熱気化された水銀を測定する水銀測定器と、前記バブラーおよび前記水銀測定器にキャリアガスを流す供給量を制御するキャリアガス制御手段とを準備して、前記還元容器内の溶液試料を還元気化する前に、前記還元容器内の溶液試料の液面上に近接した位置に前記バブラーを配置して、前記バブラーに前記キャリアガス制御手段よりキャリアガスを流して前記還元容器内をパージした後に、溶液試料中の水銀を定量する。
【0016】
本発明の第2の水銀分析方法によれば、第2構成にかかる水銀分析装置と同様の効果を奏する。
【0017】
本発明の方法において、水銀測定器が原子蛍光方式であることが好ましい。この構成により、原子吸光方式の水銀測定器を用いるよりも、より高感度の水銀分析を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の第1実施形態である水銀分析装置について説明する。この水銀分析装置1は、溶液試料S中の水銀の含有量を定量する。図1に示すように、水銀分析装置1は、溶液試料S中の水銀を還元気化する還元容器21と、還元容器21内の溶液試料Sをバブリングするバブラー3を保持するキャップ22と、キャップ22を上下に駆動させるキャップ駆動手段23と、溶液試料S中の水銀を還元する試薬を還元容器21に注入する試薬注入部20と、バブラー3に水銀除去フィルタ43によって水銀が除去された清浄なキャリアガスGであるアルゴンガスGを流す供給量を制御するキャリアガス制御手段4と、キャリアガス制御手段4からのキャリアガスGがバブラー3に流れる還元流路82とバブラー3を迂回させるバイパス流路83とに切替えるガス切り替え弁Vと、還元容器21内で還元気化された溶液試料S中の水銀を測定する原子蛍光方式の水銀測定器5と、還元容器21内の溶液試料Sを還元気化する前に、キャップ駆動手段23を制御して還元容器21内の溶液試料Sの液面上に近接した位置にバブラー3を配置させ、バブラー3にキャリアガス制御手段4よりキャリアガスGを流して還元容器21内をパージした後に、水銀測定器5によって溶液試料S中の水銀を定量させる制御装置2とを備える。水銀測定器5で測定された水銀は水銀測定器5の下流側に備えられた活性炭フィルタのようなフィルタ手段9によって吸着除去される。
【0019】
還元容器21は、例えば18mL(ミリリットル)容量の試験管形状であり、キャップ22は、還元容器21中の溶液試料Sをバブリングするバブラー3と試薬を注入するための注入チューブを保持して還元容器21の上部を上方から密封する。複数の還元容器21が試料ステージ(図示なし)上に載置され、その複数の還元容器21中の溶液試料Sを順次測定するため、および溶液試料Sを還元気化する前に還元容器21中を清浄なアルゴンガスGでパージするために、制御装置2によってキャップ駆動手段23が制御されキャップ22が上下方向に駆動制御される。
【0020】
キャリアガス制御手段4は、アルゴンガスGの供給源であるアルゴンボンベ41から供給されたアルゴンガスGの供給量を制御する、例えばマスフローコントローラ4を備えている。試薬注入部20は、試薬、すなわち、還元剤である塩化第一錫溶液25および硫酸26のそれぞれを還元容器21に注入チューブ内を通って送入するポンプP1、P2を有している。キャリアガス制御手段4およびポンプP1、P2は制御装置2によって制御される。
【0021】
還元流路82は上流側から順に、ガス切り替え弁V、水銀除去フィルタ43、バブラー3、還元容器21、キャリアガスGの水分を捕集するミストキャッチャー8、水銀測定器5を通り、水銀測定器5の上流側で、ミストキャッチャー8の下流側で還元流路82と接続している。バブラー3を迂回するバイパス流路83は上流側から順に、ガス切り替え弁V、水銀除去フィルタ45、水銀測定器5を通り、水銀測定器5の上流側で、水銀除去フィルタ45の下流側で還元流路82と接続している。ガス切り替え弁Vの開閉は制御装置2によって制御されている。水銀除去フィルタ43、45には水銀を捕集する充填剤として、例えば金属水銀と反応してアマルガムを生成する金や銀などの粒状体やウール状細線としたもの、多孔質担体の表面に金や銀などをコーティングしたものなどが用いられる。
【0022】
次に、本実施形態の水銀分析装置1の動作について説明する。原子蛍光方式の水銀測定器5では、空気、水分等が流路中に混入した状態で測定すると感度が著しく低下するため、清浄なアルゴンガスGが用いられる。そのため、測定開始前に制御装置2によって制御されるガス切り替え弁Vによって還元流路82が閉止され、バイパス流路83が開放され、例えば流量が0.2L/min.(リットル/分)の清浄なアルゴンガスGによって水銀測定器5内のフローセル(図示なし)などの流路が、例えば10秒間パージされる。
【0023】
次に図2に示すように、キャップ22が制御装置2によって制御されるキャップ駆動手段23によって上方に持ち上げられ、バブラー3の先端が還元容器21内の5mLの溶液試料Sの液面上、例えば2〜3mmに保持され、ガス切り替え弁Vによってバイパス流路83が閉止され、還元流路82が開放された状態で、バブラー3の先端から、例えば流量が0.2L/min.にマスフローコントローラ4によって制御された清浄なアルゴンガスGが流されて還元容器21内が、例えば10秒間パージされた後、パージを終了する。
【0024】
次に、図1に示すようにキャップ22がキャップ駆動手段23によって下方に下げられ、バブラー3の先端が溶液試料Sの液中に入りながら還元容器21の上部がキャップ22によって上方から密封される。この状態で還元容器21内の溶液試料Sに制御装置2によって制御されるポンプP1、ポンプP2によって塩化第一錫溶液25が0.5mL、硫酸溶液26が0.3mLそれぞれ注入され、キャリアガス制御手段4から流量が0.2L/min.のアルゴンガスGがバブラー3に流され、溶液試料Sがバブラー3によってバブリングされる。このバブリングにより、溶液試料S中の水銀が注入された塩化第一錫溶液25との還元反応によって気化され、気化した水銀が硫酸等のミストを捕らえるミストキャッチャー8を有する還元流路82を通って水銀測定器5に送入され、水銀測定器5で測定されて溶液試料S中の水銀が定量される。上記の一連の動作は制御装置2によって自動制御されている。
【0025】
このように、本発明の水銀分析装置1によれば、還元容器2内の溶液試料Sを還元気化する前に、還元容器21内の溶液試料Sの液面上にバブラー3を配置して、バブラー3に清浄なキャリアガスGを流して還元容器21内をパージして、還元容器21内に残存する測定環境下の空気を排出して測定することができる。
【0026】
還元容器21内の溶液試料Sを還元気化する前に、還元容器21内をパージする水銀分析方法については、上記のように自動で行ってもよく、または手動で行ってもよい。
【0027】
本発明の第2実施形態である水銀分析装置について説明する。図3に示すように、水銀分析装置10の、還元容器21、キャップ22、バブラー3、キャップ駆動手段23、水銀除去フィルタ43、キャリアガス制御手段4、試薬注入部20、水銀測定器5およびフィルタ手段9は第1の実施形態と同様の構成を有し、キャリアガス制御手段4からのキャリアガスGがバブラー3に流れる還元流路84とバブラー3を迂回させるバイパス流路85とに切替えるガス切り替え弁Vと、還元容器21内で還元気化された溶液試料S中の水銀を捕集する水銀捕集管6と、水銀が捕集された水銀捕集管6を加熱して水銀を気化させる加熱気化装置7と、加熱気化装置7によって加熱気化された水銀を測定する原子蛍光方式の水銀測定器5と、還元容器21内の溶液試料Sを還元気化する前に、キャップ駆動手段23を制御して還元容器21内の溶液試料Sの液面上に近接した位置にバブラー3を配置させ、バブラー3にキャリアガス制御手段4よりキャリアガスGを流して還元容器21内をパージした後に、水銀測定器5によって溶液試料S中の水銀を定量させる制御装置12とを備えている。
【0028】
還元流路84は上流側から順に、ガス切り替え弁V、水銀除去フィルタ43、バブラー3、還元容器21、ミストキャッチャー8、水銀捕集管6、水銀測定器5を通り、水銀捕集管6の上流側で、ミストキャッチャー8の下流側でバイパス流路85と接続している。バイパス流路85は上流側から順に、ガス切り替え弁V、水銀除去フィルタ45、水銀捕集管6、水銀測定器5を通り、水銀捕集管6の上流側で、水銀除去フィルタ45の下流側で還元流路84と接続している。
【0029】
水銀捕集管6には水銀を捕集する充填剤として、例えば金属水銀と反応してアマルガムを生成する金や銀などの粒状体やウール状細線、金や銀などを表面にコーティングした多孔質担体、または海砂などが用いられる。加熱気化装置7は、水銀を捕集する水銀捕集管6を加熱炉内に収容しており、水銀捕集管6を加熱して捕集された水銀を気化させる。
【0030】
第2実施形態の水銀分析装置10は、第1実施形態の場合と同様に動作するが、還元気化された試料溶液S中の水銀が水銀捕集管6に捕集された後、測定される点において相違する。第1実施形態と同様に水銀測定器5が原子蛍光方式であるので、測定開始前にガス切り替え弁Vによって還元流路84が閉止され、バイパス流路85が開放され、水銀捕集管6、水銀測定器5内のフローセル(図示なし)などの流路が、アルゴンガスGによってパージされる。
【0031】
次に、第1実施形態の図2で示した動作と同様に、制御装置12によってキャップ駆動手段23が制御されてキャップ22が上方に持ち上げられ、バブラー3の先端が溶液試料Sの液面上、例えば2〜3mmに保持され、制御装置12によって制御されるガス切り替え弁Vによってバイパス流路85が閉止され、還元流路84が開放された状態で、清浄なアルゴンガスGが流されて還元容器21内がパージされる。
【0032】
次に、図3に示すようにキャップ22がキャップ駆動手段23によって下方に下げられ、バブラー3の先端が溶液試料Sの液中に入りながら還元容器21の上部がキャップ22によって上方から密封される。第1実施形態と同様にして溶液試料S中の水銀が還元気化され、バブリングによって気化された水銀はミストキャッチャー8を通り、水銀捕集管6に入り水銀が捕集される。このとき、水銀捕集管6は制御装置12によって制御される加熱気化装置7によって150〜200°に加熱されており、還元気化された水銀以外のガスを捕集しないようにしている。
【0033】
次に、ガス切り替え弁Vによって還元流路84が閉止され、バイパス流路85が開放され、流量が例えば0.2L/min.の清浄なアルゴンガスGによって水銀測定器5内のフローセル(図示なし)などの流路が、例えば10秒間パージされる。
【0034】
次に、ガス切り替え弁Vがバイパス流路85を解放し還元流路84を閉鎖している状態で、加熱気化装置7の加熱炉内の水銀捕集管6を600〜800℃に加熱して加熱気化された水銀を、制御装置12で制御されるキャリアガス制御手段4によってアルゴンガスGを、例えば流量が0.07L/min.の流量になるように調節して水銀測定器5に導入して溶液試料S中の水銀が定量される。上記の一連の動作は制御装置12によって自動制御されている。
【0035】
このように、水銀分析装置10によれば、第1実施形態の水銀分析装置1と同様の効果を奏することができる。
【0036】
還元容器21内の溶液試料Sを還元気化する前に、還元容器21内をパージした後に、還元気化させた水銀を水銀捕集管に捕集し、加熱気化する水銀分析方法については、上記のように自動で行ってもよく、または手動で行ってもよい。
【0037】
第2実施形態の水銀分析装置を用いて還元容器21内をアルゴンガスGでパージする時
間と還元容器21内に残留する水銀量との関係について実験を行った。この実験では、還
元容器21に測定環境下の空気のみを入れた状態にし、そこに水銀が除去された清浄なア
ルゴンガスGを所定の時間流して還元容器21内をパージした後、水銀捕集管6に還元容
器21中に残存している空気中の水銀を捕集して、加熱気化装置7で加熱気化させて定量
しました。パージ時間はそれぞれ0、2、4、6、8、10、12秒間であり、このパー
ジ時間を横軸に、それぞれのパージ時間に応じた水銀の定量値を縦軸にしたプロット図を図4に示す。
【0038】
この結果からパージガスのアルゴンガスGの流量は還元気化時と同じ流量が0.2L/min.であると、18mL容量の還元容器21は10秒間で十分にアルゴンガスGに置換されていることが分かる。18mL容量の還元容器21では、10秒間のパージでパージガスが流されないときの環境測定下の空気中の水銀量である約0.4pgが還元容器21内から排出されたことになる。極微量の水銀分析をする場合は、清浄なアルゴンガスの置換工程を入れることで測定環境下での空気中水銀濃度のバラツキによる測定バラツキを解消することができる。また、測定のブランク値を下げることができる。
【0039】
第2実施形態の水銀分析装置10と図5に示す従来の水銀分析装置100とを用いてバ
イパス流路85、バイパス流路88をアルゴンガスGでパージする時間と測定時の水銀測定器5の信号強度との関係について実験を行った。従来の水銀分析装置100の還元流路87は、上流側から順に、ガス切り替え弁V、水銀除去フィルタ43、バブラー3、還元容器21、ミストキャッチャー8、水銀捕集管6、水銀測定器5を通り、バブラー3の下流側で、ミストキャッチャー8の上流側でバイパス流路88と接続され、バイパス流路88は上流側から順に、ガス切り替え弁V、水銀除去フィルタ45、ミストキャッチャー8、水銀捕集管6、水銀測定器5を通り、ミストキャッチャー8の上流側で、水銀除去フィルタ45の下流側で還元流路87に接続されている。このように、水銀分析装置10(図3)では、バイパス流路85にキャリアガスGが流れる時にはミストキャッチャー8を通過しないが、水銀分析装置100(図5)では、バイパス流路88にキャリアガスGが流れる時にはミストキャッチャー8を通過する。
【0040】
この実験では、水銀分析装置10、100のそれぞれの水銀捕集管6に同じ水銀量を捕集させて、加熱気化装置7で加熱し、それぞれのバイパス流路85、バイパス流路88を流量が0.2L/min.のアルゴンガスGでパージしながらそれぞれの水銀測定器5の信号強度を測定した。パージ時間を横軸に信号強度を縦軸にして、本発明の水銀分析装置10の信号強度を正方形のマークで、従来の水銀分析装置100の信号強度をひし形のマークで表したプロット図を図6に示す。
【0041】
この結果から、本発明の水銀分析装置10の信号強度はほとんど変化がなく安定しているが、従来の水銀分析装置100では測定直後は強度が低く、10秒以上経過後になって強度が安定になっている。従来の装置では測定時にバイパス流路88にキャリアガスGが流れ、ミストキャッチャー8を通過するため、ミストキャッチャー8に捕集された水分がキャリアガスGによって運ばれて流路配管内に付着し、その水分によって測定感度が低下する。一方、本発明の水銀分析装置では、測定時にキャリアガスGがミストキャッチャー8を通過せずに水銀捕集管6に接続されているので、ミストキャッチャー8からの水分の影響を受けずに短期間で信号強度を安定させることができる。このことは、測定開始前および水銀捕集管6に捕集後のキャリアガスGによるパージ時間を短縮できることを意味しており、これによりトータルの分析時間が短縮でき、効率よく水銀分析ができる。
【0042】
上記の第1および第2実施形態では、原子蛍光方式の水銀測定器5について説明したが、本発明においては原子吸光方式の水銀測定器5であってもよい。原子吸光方式の水銀測定器を備える水銀分析装置の場合には、水銀を除去した清浄な空気で、同様に還元容器21内をパージすることによって環境測定下の空気中の水銀量が還元容器21内から排出される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の第1実施形態の水銀分析装置の概略図である。
【図2】同水銀分析装置のパージ時の概略図である。
【図3】本発明の第2実施形態の水銀分析装置の概略図である。
【図4】パージ時間と還元容器中に残留する水銀量との関係を示すプロット図である。
【図5】従来の水銀分析装置の概略図である。
【図6】パージ時間と信号強度との関係を示すプロット図である。
【符号の説明】
【0044】
1 10 100 水銀分析装置
2 12 102 制御装置
3 バブラー
4 キャリアガス制御手段
5 水銀測定器
6 水銀捕集管
7 加熱気化装置
8 ミストキャッチャー
21 還元容器
22 キャップ
23 キャップ駆動手段
82 84 87 還元流路
83 85 88 バイパス流路
G キャリアガス
S 試料
V ガス切り替え弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液試料中の水銀を還元気化する還元容器と、
前記還元容器内の溶液試料をバブリングするバブラーを保持するキャップと、
前記キャップを上下に駆動させるキャップ駆動手段と、
前記還元容器内で還元気化された溶液試料中の水銀を測定する水銀測定器と、
前記バブラーおよび前記水銀測定器に流すキャリアガスの供給量を制御するキャリアガス制御手段と、
前記還元容器内の溶液試料を還元気化する前に、前記キャップ駆動手段を制御して前記還元容器内の溶液試料の液面上に近接した位置に前記バブラーを配置させ、前記バブラーに前記キャリアガス制御手段よりキャリアガスを流して前記還元容器内をパージした後に、前記水銀測定器によって溶液試料中の水銀を定量させる制御装置とを備えた水銀分析装置。
【請求項2】
溶液試料中の水銀を還元気化する還元容器と、
前記還元容器内の溶液試料をバブリングするバブラーを保持するキャップと、
前記キャップを上下に駆動させるキャップ駆動手段と、
前記還元容器内で還元気化された溶液試料中の水銀を捕集する水銀捕集管と、
水銀が捕集された前記水銀捕集管を加熱して水銀を気化させる加熱気化装置と、
前記加熱気化装置で加熱気化された水銀を測定する水銀測定器と、
前記バブラーおよび前記水銀測定器に流すキャリアガスの供給量を制御するキャリアガス制御手段と、
前記還元容器内の溶液試料を還元気化する前に、前記キャップ駆動手段を制御して前記還元容器内の溶液試料の液面上に近接した位置に前記バブラーを配置させ、前記バブラーに前記キャリアガス制御手段よりキャリアガスを流して前記還元容器内をパージした後に、前記水銀測定器によって溶液試料中の水銀を定量させる制御装置とを備えた水銀分析装置。
【請求項3】
請求項2において、さらに
前記キャリアガス制御手段からのキャリアガスを前記バブラーに流す還元流路と前記バブラーを迂回させるバイパス流路とに切替えるガス切り替え弁を有し、
前記還元流路は前記バブラーの下流側にキャリアガスの水分を捕集するミストキャッチャーを有し、
前記バイパス流路は前記ガス切り替え弁の下流側に前記水銀捕集管を有しており、前記ミストキャッチャーの下流側である、前記水銀捕集管の上流側において、前記還元流路と前記バイパス流路とが接続されている水銀分析装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項において、
前記水銀測定器が原子蛍光方式である水銀分析装置。
【請求項5】
溶液試料中の水銀を還元気化する還元容器と、
前記還元容器内の溶液試料をバブリングするバブラーを保持するキャップと、
前記還元容器内で還元気化された溶液試料中の水銀を測定する水銀測定器と、
前記バブラーおよび前記水銀測定器に流すキャリアガスの供給量を制御するキャリアガス制御手段と、
を準備し、
前記還元容器内の溶液試料を還元気化する前に、前記還元容器内の溶液試料の液面上に近接した位置に前記バブラーを配置して、前記バブラーに前記キャリアガス制御手段よりキャリアガスを流して前記還元容器内をパージした後に、溶液試料中の水銀を定量する水銀分析方法。
【請求項6】
溶液試料中の水銀を還元気化する還元容器と、
前記還元容器内の溶液試料をバブリングするバブラーを保持するキャップと、
前記還元容器内で還元気化された溶液試料中の水銀を捕集する水銀捕集管と、
水銀が捕集された前記水銀捕集管を加熱して水銀を気化させる加熱気化装置と、
前記加熱気化装置で加熱気化された水銀を測定する水銀測定器と、
前記バブラーおよび前記水銀測定器に流すキャリアガスの供給量を制御するキャリアガス制御手段と、
を準備して、
前記還元容器内の溶液試料を還元気化する前に、前記還元容器内の溶液試料の液面上に近接した位置に前記バブラーを配置して、前記バブラーに前記キャリアガス制御手段よりキャリアガスを流して前記還元容器内をパージした後に、溶液試料中の水銀を定量する水銀分析方法。
【請求項7】
請求項5または6において、前記水銀測定器が原子蛍光方式である水銀分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−151499(P2010−151499A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−327602(P2008−327602)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(599102310)日本インスツルメンツ株式会社 (20)
【Fターム(参考)】