説明

永久磁石エンコーダの検査方法及び検査装置

【課題】エンコーダ4aの幾何中心と回転中心とのずれに基づく、検査用のセンサ5aの出力信号の変動を確実に抑える事ができ、しかも、前記エンコーダ4aが、外周面を被検出面とした円筒形であっても、検査に適用可能とする。
【解決手段】前記センサ5aをホルダ16内に保持し、このホルダ16を、支持部材14のシリンダ孔15内に嵌装する。そして、弾性部材17によりこのホルダ16の先端面を、前記エンコーダ4aの外周面に、弾性的に押圧する。前記両中心のずれに基づいて、(A)(B)に示す様に、前記エンコーダ4aが偏心運動した場合でも、前記ホルダ16がこのエンコーダ4aの外周面に追従する。この結果、被検出面であるこの外周面と前記センサ5aの距離とを一定に保ち、前記課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明に係る永久磁石エンコーダの検査方法は、永久磁石製のエンコーダの被検出面の特性変化の状態が適正であるか否か等を判定する為に利用する。具体的には、この被検出面に、円周方向に関して交互に存在するS極とN極との境界位置が適正であるか否か、これら各極から出入りする磁束の密度(磁気強度)が適正であるか否か等を判定する為に利用する。
【背景技術】
【0002】
自動車の走行安定性確保の為の制御を、より高度に行わせる為に、自動車の車輪支持用転がり軸受ユニットに荷重測定装置を組み込み、各車輪に加わるアキシアル荷重やラジアル荷重を測定する事が考えられている。図4〜6は、特許文献1〜2等多くの刊行物に記載されて従来から知られている、荷重測定装置付転がり軸受ユニットの1例を示している。この従来構造は、懸架装置に支持された状態で回転しない外輪1の内径側に、車輪を支持固定(結合固定)した状態でこの車輪と共に回転するハブ2を、複数個の転動体3、3を介して回転自在に支持している。これら各転動体3、3には、互いに逆向きの接触角と共に、予圧を付与している。そして、前記ハブ2の中間部にエンコーダ4を外嵌固定すると共に、前記外輪1の軸方向中間部で複列に配置された前記各転動体3、3の間部分に1対のセンサ5、5を、それぞれの検出部を、被検出面である前記エンコーダ4の外周面に近接対向させた状態で設けている。尚、前記センサ5の検出部には、ホールIC、ホール素子、MR素子、GMR素子等の磁気検知素子を組み込んでいる。
【0003】
前記エンコーダ4は、ゴム磁石、プラスチック磁石等の永久磁石製で、被検出面である外周面に、N極に着磁した部分とS極に着磁した部分とを、円周方向に関して交互に且つ等間隔で配置している。これらN極に着磁された部分とS極に着磁された部分との境界は、前記エンコーダ4の軸方向に対し同じ角度だけ傾斜させると共に、この軸方向に対する傾斜方向を、このエンコーダ4の軸方向中間部を境に互いに逆方向としている。従って、前記N極に着磁された部分とS極に着磁された部分とは、軸方向中間部が円周方向に関して最も突出した(又は凹んだ)、「く」字形となっている。
【0004】
又、前記両センサ5、5の検出部が前記エンコーダ4の外周面に対向する位置は、このエンコーダ4の円周方向に関して同じ位置としている。又、前記外輪1と前記ハブ2との間にアキシアル荷重が作用しない状態で、前記N極に着磁された部分とS極に着磁された部分との軸方向中間部で円周方向に関して最も突出した部分(境界の傾斜方向が変化する部分)が、前記両センサ5、5の検出部同士の間の丁度中央位置に存在する様に、各部材4、5、5の設置位置を規制している。
【0005】
上述の様に構成する従来構造の場合、前記外輪1とハブ2との間にアキシアル荷重が作用すると、前記両センサ5、5の出力信号が変化する位相がずれる。即ち、前記外輪1とハブ2との間にアキシアル荷重が作用しておらず、これら外輪1とハブ2とが相対変位していない、中立状態では、前記両センサ5、5の検出部は、図6の(A)の実線イ、イ上、即ち、前記最も突出した部分から軸方向に同じだけずれた部分に対向する。従って、前記両センサ5、5の出力信号の位相は、同図の(C)に示す様に一致する。
【0006】
これに対して、前記エンコーダ4を固定したハブ2に、図6の(A)で下向きのアキシアル荷重が作用し(外輪1とハブ2とがアキシアル方向に相対変位し)た場合には、前記両センサ5、5の検出部は、図6の(A)の破線ロ、ロ上、即ち、前記最も突出した部分からの軸方向に関するずれが互いに異なる部分に対向する。この状態では前記両センサ5、5の出力信号の位相は、同図の(B)に示す様にずれる。更に、前記エンコーダ4を固定したハブ2に、図6の(A)で上向きのアキシアル荷重が作用した場合には、前記両センサ5、5の検出部は、図6の(A)の鎖線ハ、ハ上、即ち、前記最も突出した部分からの軸方向に関するずれが、前述した場合と逆方向に互いに異なる部分に対向する。この状態では前記両センサ5、5の出力信号の位相は、同図の(D)に示す様にずれる。
【0007】
上述の様に図4〜6に示した従来構造の場合には、前記両センサ5、5の出力信号の位相が、前記外輪1とハブ2との間に加わるアキシアル荷重の作用方向に応じた方向にずれる。又、このアキシアル荷重により前記両センサ5、5の出力信号の位相がずれる程度(変位量)は、このアキシアル荷重が大きくなる程大きくなる。従って前記従来構造の場合には、前記両センサ5、5の出力信号の位相ずれの有無、ずれが存在する場合にはその方向及び大きさに基づいて、前記外輪1とハブ2との間に作用しているアキシアル荷重の作用方向及び大きさを求められる。
【0008】
上述の様な荷重測定装置付転がり軸受ユニットにより車輪に加わる荷重を測定し、走行安定性確保の為の制御を行う場合、前記エンコーダ4の被検出面(外周面)に存在するS極とN極との境界位置が高精度で規制されている事が必要である。この境界位置の精度が不十分であると、前記両センサ5、5の出力信号同士の間に存在する位相のずれが、必ずしも前記外輪1と前記ハブ2とのアキシアル方向のずれに見合うものではなくなる。そして、その結果として、これら外輪1とハブ2との間に作用するアキシアル荷重の測定精度が悪化する。
【0009】
この様な事情に鑑みて、特許文献2には、図7〜8に示す様にして、エンコーダ4の被検出面に存在するS極とN極との境界位置の適否を判定する方法が記載されている。この公知の判定方法では、前記エンコーダ4を回転させつつ、このエンコーダ4の被検出面を検査用センサ6により、図7のa〜eに示した複数箇所(5箇所)で、それぞれ円周方向に走査する。そして、これら複数箇所に対応して、複数種類(5種類)の、検査用センサ6の出力信号を得る。この様にして、図8の(B)〜(D)に示した検査用の出力信号を得、この検査用の出力信号の位相と、(A)に示した基準信号とに基づいて、S極とN極との境界位置が、幅方向の各部で適正か否かを判定する。この判定の結果、この境界位置が不適正であるエンコーダ4は廃棄する。
【0010】
上述の様な従来方法の場合には、前記エンコーダ4の被検出面(外周面)と検査用センサ6の検出部との距離が常に適正でさえあれば、検査の信頼性を確保できる。但し、この距離は、不可避的な製造誤差等に基づいて、前記エンコーダ4の幾何中心と回転中心とがずれる(偏心する)事で不均一になり、その結果、前記検査用センサ6の出力信号が変動する。この点に就いて、図9〜10により説明する。
【0011】
図9に示す様にエンコーダ4が、幾何中心に対して偏心した回転中心O回りで回転すると、このエンコーダ4が、同図に実線と鎖線とで示す様に振れ回る。この結果、このエンコーダ4の被検出面と、固定の部分に支持された検査用センサ6の検出部7との距離が、このエンコーダ4の回転に伴って、同図に示した、Dとd(D>d)との間で変動する。このエンコーダ4の被検出面に存在するN極から出て前記検出部7を通過し、この被検出面のS極に入る磁束の量は、この被検出面からの距離が大きくなるに従って少なくなる。更に、この磁束の量が少なくなるに従って、前記検査用センサ6の出力信号の変動幅が小さくなる。この為、前記エンコーダ4が図9に示す様に振れ回ると、前記検査用センサ6の出力信号は、このエンコーダ4の被検出面の磁気強度が一定であったとしても、図10に示す様に、このエンコーダ4の回転に伴って振幅が拡縮する、所謂うねりを生じる。
【0012】
ABSやTCS等、従来から広く実施されている走行状態安定化装置の制御信号の様に、単に車輪の回転速度を求めるだけの場合には、エンコーダの偏心量が余程大きくない限り、前記うねりに拘らず、回転速度検出用のセンサから、十分に実用的な精度を備えた信号を得られる。但し、前述した様な、荷重測定装置付転がり軸受ユニットに組み込むエンコーダの場合、単に回転速度を検出する為だけのエンコーダに比べて高度の精度を要求されるだけでなく、S極とN極との境界の形状の特殊性からも、検査時に前記振れ回りに基づくうねりを生じない様にする事が望まれる。
【0013】
即ち、前述の図5〜7に示す様な、荷重測定用のエンコーダ4の場合、被検出面に存在するS極及びN極の形状が「く」字形であり、これら各極を、精度良く着磁する為に、回転着磁法により着磁作業を行う。この様に、それぞれが「く」字形であるS極及びN極を回転着磁法により精度良く着磁する場合には、着磁作業時のエンコーダの回転方向等を、十分に考慮する必要がある。即ち、着磁作業時には、着磁ヘッドの周辺に、前記エンコーダに着磁する為の磁界が形成されるが、この磁界の強度を厳密に均一にする事は難しく、実際の場合には、この磁界の強度が多少とは言え、不均一になる。この様な、着磁の為の磁界の不均一に拘らず、着磁後のエンコーダの被検出面の磁気強度の不均一性を少しでも緩和すると共に、この被検出面に存在するS極とN極とのピッチ誤差、延いてはこれらS極とN極との境界位置の位相誤差を可及的僅少に抑える為、回転着磁法を実施する際のエンコーダの回転方向を決定する等の、細かい配慮が必要になる場合が考えられる。尚、この様に、回転着磁の際にエンコーダの回転方向を規制する等により、ピッチ誤差、位相誤差を抑える事は、上述の様な、S極及びN極の形状が「く」字形である、荷重測定用のエンコーダの場合に顕著になるが、回転速度検出用の一般的なエンコーダの場合でも、分解能を高くする為に、被検出面の着磁数を多くした(着磁ピッチを細かくした)エンコーダの場合には、必要になる可能性がある。
【0014】
そして、上述の様な配慮を適切に行う為には、言い換えれば、荷重測定用に使用する永久磁石製のエンコーダの様に、高精度を要求されるエンコーダの着磁状態の優劣を適正に判断する為には、一般的な回転速度検出用のエンコーダに比べて、磁気強度をより高精度に測定する必要がある。又、より高性能のエンコーダを得るべく、被検出面の磁気強度を適正にする為の品質管理を徹底する為には、この磁気強度が不適正であった場合に、その原因を特定できる測定方法の実現が望まれる。例えば、この磁気強度が不適正になる原因としては、着磁工程の不適正の他、エンコーダとなる永久磁石の整形工程の不適正が考えられる。得られた永久磁石の被検出面の磁気強度が不適正であった場合、前記振れ回りに基づくうねりを残したままでは、この不適正の原因を特定できず、良質のエンコーダを得る為の品質管理が難しくなる。
【0015】
特許文献3には、円輪状のエンコーダの被検出面に平板を押し付ける事により、この被検出面の姿勢を正しく規制した状態で前記エンコーダを回転駆動軸に結合固定した後このエンコーダを回転駆動して、センサによって前記エンコーダの被検出面を倣い、この披検出面の着磁状態の良否を判定する、エンコーダの検査方法及び検査装置に関する発明が記載されている。但し、この様な特許文献3に記載された発明の場合も、前記センサとエンコーダの被検出面とは隙間を介して対向させている。この為、前記特許文献3に記載された発明によっても、前述の図9により説明した様な、回転中心と幾何中心とのずれによる振れ回りに基づく、図10に示す様なうねりの発生を防止する事はできない。特に、前記特許文献3に記載された発明が実施できるのは、軸方向側面を被検出面としたエンコーダの検査に限られ、外周面を被検出面とした、円筒状のエンコーダの検査には適用できない。
【0016】
更に、特許文献4には、図11に示す様な構造により、永久磁石製のエンコーダ4aの被検出面とセンサ5aとの距離を一定に保つ発明が記載されている。この従来構造の場合、前記エンコーダ4aを添着固定した保持環8を、ハブ2aに外嵌固定した固定環9に対し、軸方向の変位を可能に支持している。又、これら保持環8と固定環9との間に設置した板ばね10によりこの保持環8を、センサ5aを保持したホルダ11に対し弾性的に押圧している。このセンサ5aと前記エンコーダ4aの被検出面との距離は、このセンサ5aから前記ホルダ11の先端面である、ガイド突片12の頂部迄の軸方向距離と、前記エンコーダ4aの厚さ寸法との差となり、常に一定に保たれるので、このエンコーダ4aの軸方向の振れが、前記センサ5aの出力信号の大きさに影響を及ぼす事を防止できる。
【0017】
上述の様な特許文献4に記載された、エンコーダの被検出面の振れを補償する為の従来技術の第2例の場合、前述の特許文献3に記載された同技術の第1例の場合よりも、更に上記振れの影響を少なく抑えられる。但し、前記特許文献4に記載された第2例の場合も、前記第1例の場合と同様に、適用範囲は、軸方向側面を被検出面としたエンコーダに限られ、外周面を被検出面とした、円筒状のエンコーダには適用できない。しかも、保持環8を固定環9に対し、軸方向の変位を可能に組み付ける為、これら保持環8と固定環9とが、僅かとは言え、周方向に関して相対変位する可能性がある。そして、前記センサ5aによる前記エンコーダ4aの位相測定作業中に、前記周方向の相対変位が発生すると、位相測定の精度が悪化する。前述した荷重測定装置付転がり軸受ユニットに組み込まれるエンコーダ4とセンサ5との組み合わせ(図4〜6参照)は、位相を厳密に(高い精度で)測定する必要がある。従って、上記第2例の様に位相の測定精度が悪化する技術は、荷重測定装置付転がり軸受ユニットに組み込まれるエンコーダを検査する技術としては、不適切である。尚、センサを固定すると共に、円筒状のエンコーダを、回転駆動軸ごとこのセンサに向けて弾性的に押し付ける構造を採用すれば、これらエンコーダの被検出面とセンサの検出部との距離を適正に保てる。但し、この様な構造を採用した場合には、このエンコーダが径方向に微小変位し易くなり、位相の測定精度を確保する事が難しくなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、エンコーダの幾何中心と回転中心とのずれに基づく、検査用センサの出力信号の変動を確実に抑える事ができ、しかも、必要に応じて、外周面を被検出面とした円筒形の永久磁石エンコーダの検査にも適用できる、検査方法及び検査装置を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の永久磁石エンコーダの検査方法及び検査装置のうち、請求項1に記載した永久磁石エンコーダの検査方法は、被検出面にS極とN極とを円周方向に関して交互に配置して成る永久磁石エンコーダを、この永久磁石エンコーダの中心軸を回転中心として回転させつつ、前記被検出面にセンサの検出部を近接対向させる。そして、このセンサの出力信号の変化に基づいて、この被検出面の良否を判定する。
【0020】
特に、本発明の永久磁石エンコーダの検査方法に於いては、前記センサとして、先端面を前記永久磁石エンコーダの被検出面に対向させたホルダ内の、この先端面から適正距離だけ基端側に寄った部分に保持したものを使用する。そして、このホルダの先端面を前記被検出面に弾性的に押圧しつつ前記永久磁石エンコーダを回転させた状態で、前記センサの出力信号を取り出す。
上述の様な本発明の永久磁石エンコーダの検査方法を実施する場合に、例えば請求項2に記載した発明の様に、前記永久磁石エンコーダとして、円筒形で、被検出面が外周面であるものを使用する。そして、この永久磁石エンコーダの径方向外方に配置したホルダの先端面をこの外周面に弾性的に押圧しつつ、この永久磁石エンコーダを回転させる。
【0021】
又、請求項3に記載した、永久磁石エンコーダの検査装置は、回転駆動装置と、支持部材と、シリンダ孔と、ホルダと、弾性部材と、センサとを備える。
このうちの回転駆動装置は、被検出面にS極とN極とを円周方向に関して交互に配置して成る永久磁石エンコーダを、この永久磁石エンコーダの中心軸を回転中心として回転させる。尚、これら永久磁石エンコーダの中心軸(幾何中心)と回転中心とは、できる限り近い事が好ましいが、厳密に一致させる必要はない。即ち、本明細書及び特許請求の範囲中、「永久磁石エンコーダの中心軸を回転中心として回転させる」とは、「永久磁石エンコーダの幾何中心と回転中心とを、回転に伴ってこの永久磁石エンコーダに振動等の有害な現象が発生しない様に、且つ、前記ホルダの先端面が前記被検出面に追従できる様に、凡そ一致させる」事を意味する。
又、前記支持部材は、前記回転駆動装置に組み付けられた永久磁石エンコーダの被検出面に対向する部分に設ける。
又、前記シリンダ孔は、前記支持部材の一部に、前記被検出面側に開口する状態で設ける。
又、前記ホルダは、前記シリンダ孔内に、前記被検出面に対し遠近動する方向の摺動を可能として嵌装するもので、先端面を前記被検出面に対向させている。
又、前記弾性部材は、前記ホルダを前記被検出面に向けて押圧する為に、このホルダと前記支持部材との間に設ける。
更に、前記センサは、前記先端面から適正距離だけ基端側に寄った部分で、前記ホルダ内に保持される。
【0022】
上述の様な本発明の永久磁石エンコーダの検査装置を実施する場合に、例えば請求項4に記載した発明の様に、前記永久磁石エンコーダを円筒形とし、前記被検出面をこの永久磁石エンコーダの外周面とする。そして、前記支持部材をこの永久磁石エンコーダの径方向外方に配置し、前記シリンダ孔を、この支持部材のうちでこの永久磁石エンコーダの外周面に対向する部分に開口させる。
又、本発明の永久磁石エンコーダの検査装置を実施する場合に好ましくは、請求項5に記載した発明の様に、少なくとも前記ホルダの先端面に低摩擦材を露出させる。
【発明の効果】
【0023】
上述の様に構成する本発明の永久磁石エンコーダの検査方法及び検査装置によれば、永久磁石エンコーダの幾何中心と回転中心とのずれに基づく、検査用センサの出力信号の変動を確実に抑える事ができ、しかも、必要に応じて、外周面を被検出面とした円筒形の永久磁石エンコーダの検査にも適用できる。
【0024】
先ず、出力信号の変動を確実に抑える事は、前記検査用センサを保持した先端部近傍に保持したホルダの先端面を、前記永久磁石エンコーダの被検出面に弾性的に押し付ける事により図れる。これら先端面と被検出面とが当接(摺接)した状態で、この被検出面と前記検査用センサの検出部との距離は、前記先端面とこの検出部との距離に一致する。これら先端面と検出部との距離は、前記ホルダ内に前記検査用センサを保持する際に厳密に規制できるので、前記両中心同士のずれに拘らず、この検査用センサの検出部と前記被検出面との距離を適正値に保ち、この検査用センサの出力信号の変動を確実に抑えられる。
【0025】
又、変位させる部材を、外径寸法が小さなホルダとしている為、被検出面に対し遠近動する方向以外の、このホルダの変位を抑えられる。即ち、前述した特許文献4に記載された従来構造の様に、直径寸法が嵩むエンコーダを軸方向に変位させる場合には、この変位を確実に行わせる為に、相対変位する部分(摺動面、回り止めの為の係合部)に、或る程度の隙間を介在させる必要がある。これに対して本発明の場合には、相対変位する部分が、ホルダの外周面とシリンダ孔の内周面との摺動部である為、摺動面積を小さく抑えられる。又、これら両周面を、何れも、高い精度で加工し易い円筒面にできる。この為、これら両周面同士の間の隙間を、極く僅少乃至は実質的にゼロに抑えても、前記ホルダを、前記被検出面に対し遠近動する方向に確実に変位させられる。この為、この変位を可能にする構造の存在に伴って、前記検査用センサが前記遠近動する方向以外に変位する事を防止して、前記永久磁石エンコーダの被検出面の位相を、精度良く測定できる。
【0026】
更に、本発明の場合には、前記距離を適正に保つのに、永久磁石エンコーダを変位させるのではなく、ホルダに保持されたセンサを変位させるので、被検出面の方向に関係なく実施できる。従って、軸方向側面を被検出面とした、円輪状の永久磁石エンコーダでは勿論、前述の特許文献3、4に記載された発明を実施できない、外周面を被検出面とした円筒形の永久磁石エンコーダで実施する事もできる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態の1例を、永久磁石エンコーダが両端に振れた状態で示す模式図。
【図2】センサを包埋保持したホルダの断面図。
【図3】本発明を実施する事により得られる、検査用センサの出力信号を示す線図。
【図4】本発明による検査の対象となる永久磁石エンコーダを組み込んだ荷重測定装置付き転がり軸受ユニットの1例を示す断面図。
【図5】永久磁石エンコーダを取り出して示す斜視図。
【図6】1対のセンサの検出信号に基づいて荷重を求められる理由を説明する為の模式図。
【図7】荷重測定用の永久磁石エンコーダの被検出面に存在するS極とN極との境界位置の適否を判定する為の従来方法の実施状況を説明する為の模式図。
【図8】この方法を実施する過程で得られる信号を示す線図。
【図9】従来から考えられていた判定方法を実施する場合に生じる問題を説明する為の模式図。
【図10】この従来から考えられていた判定方法を実施する場合に得られる検査用センサの出力信号を示す線図。
【図11】従来から知られている、永久磁石エンコーダの被検出面とセンサの検出部との距離を一体に保つ為の構造の1例を示す部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1〜3は、本発明の実施の形態の1例を示している。先ず、永久磁石エンコーダの検査装置の構成に就いて説明する。この検査装置は、回転駆動装置13と、支持部材14と、シリンダ孔15と、ホルダ16と、弾性部材17と、センサ5aとを備える。
このうちの回転駆動装置13は、駆動軸18を備える。この駆動軸18は、予圧を付与した複列玉軸受ユニット等の、図示しない精密軸受装置により、図示しない検査装置のフレーム等に、回転のみ自在に支持されている。又、前記駆動軸18は、やはり図示しない、電動モータ等の駆動源により、所定方向に所定の速度で回転駆動自在としている。又、前記駆動軸18の一部(先端部或は中間部)に、円輪状若しくは円筒状の保持部を固定し、この保持部の外周面に、被検査物であり、被検出面である外周面にS極とN極とを円周方向に関して交互に配置して成るエンコーダ4a(永久磁石エンコーダ)を、保持している。そして、このエンコーダ4aを、このエンコーダ4aの中心軸を回転中心として回転駆動自在としている。尚、前記駆動軸18を回転自在に支持すると共にこの駆動軸18を回転駆動する為の構造、並びに、この駆動軸18に前記保持部を介して前記エンコーダ4aを保持する為の構造は、従来から一般的に知られている構造で済む為、詳しい図示並びに説明は省略する。
【0029】
又、前記支持部材14は、前記フレーム等の一部で前記回転駆動装置13に組み付けられたエンコーダ4aの外周面に対向する部分に固定している。
又、前記シリンダ孔15は、前記支持部材14の一部に、前記エンコーダ4aの外周面側に開口する状態で、このエンコーダ4aの径方向に設けている。
【0030】
又、前記ホルダ16は、前記シリンダ孔15内に、前記エンコーダ4aの外周面に対し遠近動する方向、即ち、このエンコーダ4aの径方向の摺動を可能として嵌装している。前記ホルダ16は、ポリアミド樹脂(PA)、ポリ四フッ化エチレン樹脂(PTFE)等の、滑り易く(摩擦係数が低く)、且つ、前記エンコーダ4aを構成する材料(ゴム磁石或はプラスチック磁石)に対して攻撃性を持たない材料により(例えば射出成形で)造られている。又、本例の場合には、前記ホルダ16の先端面を、部分球面状若しくはそれに類似した凸曲面としている。この様なホルダ16は、前記シリンダ孔15内に嵌装した状態で、その先端面を前記エンコーダ4aの外周面に対向させる。
【0031】
又、前記弾性部材17は、圧縮コイルばね等の、軸方向の寸法を弾性的に拡縮するもので、自身の軸方向と前記シリンダ孔15の軸方向とを一致させた状態で、このシリンダ孔15内に挿入している。前記ホルダ16は、前記弾性部材17をこのシリンダ孔15内に挿入した後、その基半部(図1〜2の右半部)乃至中間部をこのシリンダ孔15内に、軸方向の変位を可能に、且つ、がたつきなく(例えば極く軽い締り嵌めで)嵌装している。この状態で前記弾性部材17は、前記ホルダ16の基端面(図1〜2の右端面)と前記シリンダ孔15の奥端面との間で弾性的に圧縮され、前記ホルダ16に対して、このシリンダ孔15から抜け出る方向の弾力を付与する。この状態で前記弾性部材17から前記ホルダ16に付与される、前記シリンダ孔15から抜け出る方向の力は、これらホルダ16の基半部乃至中間部外周面とシリンダ孔15の内周面との間に作用する摩擦力よりも、少しだけ大きくしている。従って、前記ホルダ16は、前記シリンダ孔15から抜け出る方向に変位する傾向になるが、抜け出る方向の力は小さい(前記エンコーダ4aの被検出面を変形させる程は大きくない)。従って、前記ホルダ16の先端面がこのエンコーダ4aの外周面に突き当たると、突き当たった状態で停止し、しかも、このエンコーダ4aに、この外周面を変形させる程に大きな力を加える事はない。
【0032】
更に、前記センサ5aは、ホール素子等、磁束の方向に応じて特性を変化させる磁気検出素子を含んで構成するもので、前記ホルダ16を射出成形する際に、このホルダ16の先端寄り部分に包埋支持している。このホルダ16の先端面(前記エンコーダ4aの外周面と摺接する部分で、最も突出した径方向中央部分)から前記センサ5aの検出部迄の距離Lは、このセンサ5aにより前記エンコーダ4a外周面の特性変化を検出する為に適正な距離(例えば0.5〜2.0mm程度)としている。
【0033】
次に、上述の様な検査装置を使用して、永久磁石エンコーダの着磁面である、前記エンコーダ4aの外周面の着磁状態の良否を判定する検査方法に就いて説明する。
この検査方法を実施する場合には、図1に示す様に、前記ホルダ16の先端面を前記エンコーダ4aの外周面に弾性的に押圧しつつ、前記回転駆動装置13により、このエンコーダ4aを一定速度で回転駆動する。すると、このエンコーダ4aの外周面に存在するS極とN極とが、前記ホルダ16の先端部に保持したセンサ5aの近傍を交互に通過する。この結果、このセンサ5aの出力信号が、図3に示す様に変化する。そこで、この出力信号の周期、振幅等から、前記エンコーダ4aの外周面の着磁状態の良否を判定する。尚、前記ホルダ16は、摩擦係数の低い材料により造られている為、このホルダ16の先端面と前記エンコーダ4aの外周面との摺接部に作用する摩擦力は小さく抑えられる。従って、これら両面が摩耗したり、この摺接部が(測定精度に影響を及ぼす程)発熱したり、前記エンコーダ4aが回転方向に(測定精度に影響を及ぼす程)弾性変形する事はない。尚、前記ホルダ16の材料が、特に摩擦係数の低い材料でなくても、図2の鎖線で示す部分に相当する、このホルダ16の先端面を摩擦係数の低い材料により覆えば、上述した作用・効果を得られる。
【0034】
上述の様にして、前記エンコーダ4aの外周面の着磁状態の良否を判定する場合に、このエンコーダ4aの幾何中心と回転中心とがずれている(偏心している)と、図1の(A)(B)に示す様に、前記エンコーダ4aの外周面と前記支持部材14との距離が拡縮する。但し、この拡縮に拘らず、この外周面と前記センサ5aとの距離が変化する事はない。即ち、図1の(A)に示す様に、前記エンコーダ4aの外周面と前記支持部材14との距離が縮まった場合には、前記ホルダ16が前記シリンダ孔15内に、前記弾性部材17の弾力に抗して押し込まれる。これに対して、図1の(B)に示す様に、前記エンコーダ4aの外周面と前記支持部材14との距離が拡がった場合には、前記ホルダ16が前記シリンダ孔15から、前記弾性部材17の弾力に基づいて押し出される。何れの場合でも、前記ホルダ16の先端面は前記エンコーダ4aの外周面と摺接したままの状態に保たれる為、この外周面と前記センサ5aとの距離Lは、前記適正距離に維持される。この結果、前記エンコーダ4aの外周面の着磁状態が適正である限り、前記センサ5aの出力信号の振幅は、図3に示す様に一定となる(前記偏心に起因するうねりが生じる事はない)。
【0035】
上述の様に、本例の永久磁石エンコーダの検査方法及び検査装置によれば、検査時のエンコーダ4aの偏心運動の影響を受けずに、このエンコーダ4aの外周面の着磁状態を把握できる。この為、仮に着磁工程で発生した何らかの不具合により、この外周面の磁束密度の分布が不適正になった場合に、その事実を十分に把握できる。又、前記エンコーダ4aの外周面の磁束密度の設計値自体が低い場合であっても、この磁束密度の分布を十分に把握できて、着磁工程での僅かな着磁不良も検知できる。これらにより、前記エンコーダ4aの品質に影響を及ぼす、成形工程の適否、着磁工程の適否を個別に評価する事が可能になり、精度の高い品質管理を実現できる。尚、本発明は、前述の図7〜8に示した従来方法と組み合わせて実施する事もできる。
【符号の説明】
【0036】
1 外輪
2、2a ハブ
3 転動体
4、4a エンコーダ
5、5a センサ
6、6a 検査用センサ
7 検出部
8 保持環
9 固定環
10 板ばね
11 ホルダ
12 ガイド突片
13 回転駆動装置
14 支持部材
15 シリンダ孔
16 ホルダ
17 弾性部材
18 駆動軸
【先行技術文献】
【特許文献】
【0037】
【特許文献1】特開2006−317420号公報
【特許文献2】特開2007−132773号公報
【特許文献3】特開2004−251821号公報
【特許文献4】特開平10−142246号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検出面にS極とN極とを円周方向に関して交互に配置して成る永久磁石エンコーダを、この永久磁石エンコーダの中心軸を回転中心として回転させつつ、前記被検出面にセンサの検出部を近接対向させ、このセンサの出力信号の変化に基づいて、この被検出面の良否を判定する永久磁石エンコーダの検査方法に於いて、前記センサとして、先端面を前記永久磁石エンコーダの被検出面に対向させたホルダ内の、この先端面から適正距離だけ基端側に寄った部分に保持したものを使用し、このホルダの先端面を前記被検出面に弾性的に押圧しつつ前記永久磁石エンコーダを回転させた状態で前記センサの出力信号を取り出す事を特徴とする永久磁石エンコーダの検査方法。
【請求項2】
永久磁石エンコーダが円筒形で、被検出面がこの永久磁石エンコーダの外周面であり、この永久磁石エンコーダの径方向外方に配置したホルダの先端面をこの外周面に弾性的に押圧しつつこの永久磁石エンコーダを回転させる、請求項1に記載した永久磁石エンコーダの検査方法。
【請求項3】
被検出面にS極とN極とを円周方向に関して交互に配置して成る永久磁石エンコーダを、この永久磁石エンコーダの中心軸を回転中心として回転させる為の回転駆動装置と、この回転駆動装置に組み付けられた永久磁石エンコーダの被検出面に対向する部分に設けられた支持部材と、この支持部材の一部に、この被検出面側に開口する状態で設けられたシリンダ孔と、このシリンダ孔内に、この被検出面に対し遠近動する方向の摺動を可能として嵌装された、先端面をこの被検出面に対向させたホルダと、このホルダと前記支持部材との間に設けられて、このホルダをこの被検出面に向けて押圧する弾性部材と、前記先端面から適正距離だけ基端側に寄った部分で前記ホルダ内に保持されたセンサとを備えた永久磁石エンコーダの検査装置。
【請求項4】
永久磁石エンコーダが円筒形で、被検出面がこの永久磁石エンコーダの外周面であり、支持部材がこの永久磁石エンコーダの径方向外方に配置されており、シリンダ孔が、この支持部材のうちでこの永久磁石エンコーダの外周面に対向する部分に開口している、請求項3に記載した永久磁石エンコーダの検査装置。
【請求項5】
少なくともホルダの先端面に低摩擦材を露出させた、請求項2〜3のうちの何れか1項に記載した永久磁石エンコーダの検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−64604(P2011−64604A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216343(P2009−216343)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】