説明

永久磁石型回転電機の回転子、および永久磁石型回転電機の回転子の製造方法

【課題】簡単な構成を有し、かつ精度よく回転位置を検出できる永久磁石型回転電機の回転子および永久磁石型回転電機の回転子の製造方法を得る。
【解決手段】回転軸と、回転子鉄心2と、回転子鉄心2の外周に配設された複数の永久磁石3と、複数の永久磁石3の周囲あるいは外周側を取り囲むように構成された単数ないし複数の導通回路からなり、導通回路を流れる誘導電流によって作られるインダクタンスの差から回転子1の回転位置を検出する永久磁石型回転電機の回転子であって、永久磁石3と導通回路は、一体に成形された導電部材4で構成されているものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転子鉄心に永久磁石を備え、整流子を用いずに回転する永久磁石型回転電機の回転子および永久磁石型回転電機の回転子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転子鉄心に永久磁石を備え、整流子を用いずに駆動する方式の回転電機としては、回転子あるいは制御基板側に位置センサを取り付ける回転電機(以下、センサ付回転電機と呼ぶ)がある。このセンサ付回転電機のセンサは、レゾルバ(例えば、特許文献1参照)、ホール素子(例えば、特許文献2参照)などの方式がある。
【0003】
また、回転センサを設けない回転電機(以下、センサレス回転電機と呼ぶ)として、発生する誘起電圧波形を読み取る方式(例えば、特許文献3参照)がある。
【0004】
【特許文献1】特開2002−315382号公報
【特許文献2】特開2003−274623号公報
【特許文献3】特開2005−224048号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように、位置センサとしてレゾルバを用いる場合には、高コストの問題とともに、回転子が重くなるためイナーシャが大きくなる等の問題がある。また、特許文献2のように、位置センサとしてホール素子を用いる場合には、素子自体が高コストであるとともに、検出精度を上げるためにセンサ用の永久磁石を設ける必要があり、さらに高コストとなる等の問題がある。加えて、界磁用永久磁石と、センサ用の永久磁石との間で磁極の位置ずれが生じる場合もあり、回転位置の検出精度が悪くなる等の問題もある。また、特許文献3では、誘起電圧が回転中でしか発生しないため、起動時や低速運転時の位置検出が困難になる等の問題がある。
【0006】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたものであり、簡単な構成を有し、かつ精度よく回転位置を検出できる永久磁石型回転電機の回転子および永久磁石型回転電機の回転子の製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る永久磁石型回転電機の回転子は、回転軸と、回転子鉄心と、回転子鉄心の外周に配設された複数の永久磁石と、複数の永久磁石の周囲あるいは外周側を取り囲むように構成された単数ないし複数の導通回路からなり、導通回路を流れる誘導電流によって作られるインダクタンスの差から回転子の回転位置を検出する永久磁石型回転電機の回転子であって、永久磁石と導通回路は、一体に成形された導電部材で構成されているものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、導通回路と永久磁石とを一体成形した導電部材を用いることで、回転子中の磁極のピッチと導電部材のピッチを一致させることができ、簡単な構成を有し、かつ精度よく回転位置を検出できる永久磁石型回転電機の回転子および永久磁石型回転電機の回転子の製造方法を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の永久磁石型回転電機の回転子、および永久磁石型回転電機の回転子の製造方法の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
【0010】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1における永久磁石型回転電機の回転子の一部を示す図である。回転子1は、回転子鉄心2、永久磁石3、導電部材4、および回転軸(図示せず)で構成される。また、永久磁石3は、回転子鉄心2の表面上に複数配置される。ここで、永久磁石3は、希土類焼結磁石である。
【0011】
導電部材4は、複数の永久磁石3におけるそれぞれ個別の永久磁石3の周囲を取り囲むようにして設けられている。その際、隣り合う導電部材4同士は、電気的に絶縁されるようにして配置される。導電部材4は、回転子鉄心2、回転軸(図示せず)とは絶縁されていることが望ましい。また、外周部に永久磁石3を保護するための導電性の飛散防止部材(例えば、SUS管など)が設けられている場合には、飛散防止部材とも絶縁されていることが望ましい。導電部材4がこれらの部材と絶縁されることで、位置検出の精度を高めることができる。
【0012】
その一方で、導電部材4は、永久磁石3とは電気的に導通していることが好ましい。永久磁石3が高磁力である場合(例えば、希土類焼結磁石)には、導電性の材料が混入されていることが多いため、永久磁石3も導通回路の一部として使用することができる。
【0013】
なお、導電部材4は、回転子1中、1つまたは複数以上あればよいが、図1および以下の例では、永久磁石3の磁極数と導電部材4の数が一致している場合について説明する。
【0014】
導電部材4は、銅やアルミなど、永久磁石3と同等あるいはそれ以上の導電率をもつ材料であり、永久磁石3を取り囲むような窓枠形状を成しており、永久磁石3と一体に成形されている。図2は、本発明の実施の形態1における永久磁石3と導電部材4の一体成形品を示した図であり、以下では、この一体成形品を導体付永久磁石5と呼ぶ。
【0015】
導体付永久磁石5の一体成形の方法としては、希土類焼結永久磁石の焼結処理工程、あるいは時効処理工程を利用する。まず始めに、焼結処理工程を利用した場合について説明する。
【0016】
導電部材4の材料として、例えば、銅などの金属粉末を用いた場合、その融点は、約1080℃であり、磁石の焼結温度約1100℃と略一致する。このため、導電部材4は、焼結工程で溶融状態となり、永久磁石3と一体に成形することができる。
【0017】
図3は、本発明の実施の形態1における焼結処理工程で一体成形した導体付永久磁石5を示す図である。図3に示すように、永久磁石3を取り囲むような窓枠形状の導電部材4を形成するために、モリブデン等の高融点金属製の金型6内に、永久磁石3と、金属粉末7とを充填し、焼結炉内で焼結処理を行う。金属粉末7と金型6との離型性をよくするために、金型6内にアルミナ粉末等を塗布しておいてもよい。焼結処理により、永久磁石3は、収縮するが、金属粉末7も溶融状態となるため、永久磁石3に追随して固化し、焼結処理後、導体付永久磁石5が得られる。
【0018】
窓枠形状の導電部材4を形成する他の方法として、以下の方法を用いてもよい。図4は、本発明の実施の形態1における別の焼結処理工程で一体成形した導体付永久磁石5を示す図である。図4のような金型内に永久磁石3を複数配置し、その間に金属粉末7を充填し、焼結処理を行う。焼結後、固化した銅材料を、窓枠形状を成すように切り離し、導体付永久磁石5を得る。
【0019】
この方法によれば、金型の個数を減らすことができ、離型の工程を簡略化できる。なお、この例では、導電部材4は、銅材料としたが、焼結温度で半溶融あるいは完全溶融状態となる導電性金属材料であれば、この限りではない。
【0020】
次に、永久磁石3の時効処理の工程で、導体付永久磁石5を成形する方法について説明する。導電部材4の材料として、例えば、アルミ材料を用いる場合、その融点は、600〜700℃であり、希土類焼結磁石の時効処理温度(480〜600℃)下では、半溶融状態である。そこで、窓枠形状にしたアルミ製の導電部材4を、永久磁石3に嵌め合わせて時効処理を行うことにより、永久磁石3との接触面が溶融・固化され、導体付永久磁石5が得られる。なお、この例では、導電部材4は、アルミ材料としたが、時効処理温度で半溶融状態となる導電性金属材料であれば、この限りではない。
【0021】
また、例えば、窓枠形状の導電部材4に銅材料のような融点の高い金属材料を使う場合には、窓枠状の導電部材4と永久磁石3との隙間に時効処理温度で溶融するような金属粉末7を充填して成形してもよい。
【0022】
以上のような製造方法によって成形された導体付永久磁石5を、回転子鉄心2に組み付けすることにより、回転子1を得る。
【0023】
このような構成によれば、ひとつの永久磁石3の周囲に、ひとつの導通回路が形成されたことになる。永久磁石3と導電部材4とが電気的に導通している場合には、永久磁石3も含めて、ひとつの導通回路となる。これら導通回路が単数ないし複数設けられた回転子1を持った回転電機において、固定子巻線に高調波成分を含む電流を印加すると、導通回路に渦電流が流れることになり、磁極位置、例えば、磁極中心部付近、磁極間付近などで、異なるインダクタンスとなる。この各位置でのインダクタンス差が、すなわち、回転子1の回転位置を表すことになる。
【0024】
このような回転子1を適用すれば、レゾルバやエンコーダといった回転位置検出部材を別途設ける必要がない。さらに、永久磁石3と導電部材4とを一体成形して一部品とすることで、回転子鉄心2への組み付けが容易となり、従来の表面配置型永久磁石回転子と同様の製造方法で、回転子1を得ることができる。また、回転子へ組み付けた際の各磁極のピッチと、各導体のピッチを等しくすることができ、位置検出精度を高めることができる。
【0025】
また、導電部材4は、回転子1中の1つあるいは複数の永久磁石3の周囲に設けられていればよく、全ての永久磁石3に設けられていなくてもよい。導電部材4は、回転子1中に1つ以上設けられていれば、磁極位置によるインダクタンス差を検出することができる。
【0026】
なお、本実施の形態1は、すべて表面配置型永久磁石(SPM)を適用する場合について説明したが、埋め込み型永久磁石(IPM)を適用してもよい。IPMの場合は、上述した製造方法で得られた導体付永久磁石5を、埋込用孔に挿入すればよい。
【0027】
以上のように、実施の形態1によれば、回転位置検出用の別部材(レゾルバやエンコーダ)を設けることなく、かつ起動時や低速時の回転子位置を検出することができる永久磁石型回転電機の回転子を、簡単な構成で得ることができる。さらに、永久磁石と導通回路とを一体の部品として扱うことができ、回転子鉄心への組み付けが容易となり、従来の表面配置型永久磁石回転子と同等の方法で製造できる。さらに、永久磁石ピッチに対する導通回路のピッチのばらつきを抑えることができ、位置検出の精度も向上する。
【0028】
また、導通回路は、焼結永久磁石の焼結温度あるいは時効処理温度と同等あるいは高い融点をもつ導電材料から構成することができる。このような構成により、希土類焼結永久磁石の一般的な処理工程(焼結処理・時効処理)を利用して、導電部材と永久磁石との一体成形品を得ることができる。
【0029】
また、高融点金属製の金型内に、複数の永久磁石を配置し、間隙部に導電性粉末材料を充填し、高温炉内で粉末材料を溶融・固化後、一体化された導電部材を、永久磁石を取り囲む枠形状に切り離し、永久磁石と導電部材との一体成形品を得ることができる。このような構成により、永久磁石と導電部材の一体成形品を複数同時に得ることができ、金型との離型も簡略化できる。
【0030】
また、窓枠状に形成した導電部材に永久磁石を挿入し、焼結あるいは時効処理を行うことができる。このような構成を有することにより、導電部材は、半溶融状態(完全溶融ではない)であるため、枠型形成用の金型を別途設けることなく、永久磁石と導電部材の一体成形品を複数同時に得ることができる。
【0031】
実施の形態2.
図5は、本発明の実施の形態2における永久磁石型回転電機の回転子の製造方法を示すフローチャートである。本実施の形態2において、永久磁石3は、磁石粉末と樹脂の混練材料とを射出成形してなるボンド磁石であり、永久磁石3の射出成形の際に、導電部材4を金型内に配置し、混練材料を射出注入して、導体付永久磁石5を成形する。また、高磁力の永久磁石3が必要であれば、射出成形後、脱脂、焼結してもよい。
【0032】
このような構成によれば、実施の形態1と同様、回転位置検出部材を別途設ける必要がなく、永久磁石3と導電部材4とを一部品として扱うことができ、回転子鉄心2への組み付けが容易となり、従来の表面配置型永久磁石回転子と同様の製造方法で回転子を得ることができる。
【0033】
また、図6は、本発明の実施の形態2における回転子1のかご型の導電部材4を示す図である。図6に示すように、上端と下端を短絡させたかご型の導電部材4を金型内に配置し、導体バー間に永久磁石材料を射出注入し、複数の磁極を同時に成形してもよい。このような方法であれば、導体付永久磁石5は、表面配置型リング磁石と同様に取り扱うことができ、回転子鉄心への組み付けが容易となる。また、従来の表面配置型リング磁石と比較しても、極間の永久磁石材料を減らすことができ、低コストとなる回転子1を得ることができる。
【0034】
なお、図6の例では、複数の導電部材4がすべて短絡されているが、このような場合でも、かご型導体を流れる誘導電流により、磁極位置を検出することができる。かご型導体を利用して磁極位置を検出する場合には、永久磁石3と導電部材4とは電気的に絶縁されていることが望ましい。
【0035】
以上のように、実施の形態2によれば、導通回路を金型内に配置し、磁石粉末と樹脂とのコンパウンドからなる永久磁石材料を射出注入して導通部材を成形することができる。このような構成により、回転位置検出用の別部材(レゾルバやエンコーダ)を設けることなく、かつ起動時や低速時の回転子位置を検出することができる永久磁石型回転電機の回転子を、簡単な構成で得ることができる。さらに、複数の導通回路を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施の形態1における永久磁石型回転電機の回転子の一部を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態1における永久磁石と導電部材の一体成形品を示した図である。
【図3】本発明の実施の形態1における焼結処理工程で一体成形した導体付永久磁石5を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態1における別の焼結処理工程で一体成形した導体付永久磁石5を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態2における永久磁石型回転電機の回転子の製造方法を示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施の形態2における回転子1のかご型の導電部材4を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
1 回転子、2 回転子鉄心、3 永久磁石、4 導電部材、5 導体付永久磁石、6 金型、7 金属粉末。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、回転子鉄心と、前記回転子鉄心の外周に配設された複数の永久磁石と、前記複数の永久磁石の周囲あるいは外周側を取り囲むように構成された単数ないし複数の導通回路からなり、前記導通回路を流れる誘導電流によって作られるインダクタンスの差から前記回転子の回転位置を検出する永久磁石型回転電機の回転子であって、
前記永久磁石と前記導通回路は、一体に成形された導電部材で構成されていることを特徴とする永久磁石型回転電機の回転子。
【請求項2】
請求項1に記載の永久磁石型回転電機の回転子において、
前記導通回路は、焼結永久磁石の焼結温度あるいは時効処理温度と同等あるいは高い融点をもつ導電材料からなることを特徴とする永久磁石型回転電機の回転子。
【請求項3】
回転軸と、回転子鉄心と、前記回転子鉄心の外周に配設された複数の永久磁石と、前記複数の永久磁石の周囲あるいは外周側を取り囲むように構成された単数ないし複数の導通回路からなり、前記導通回路を流れる誘導電流によって作られるインダクタンスの差から前記回転子の回転位置を検出する永久磁石型回転電機の回転子の製造方法であって、
前記導通回路を、焼結永久磁石の焼結温度あるいは時効処理温度と同等あるいは高い融点をもつ導電材料で形成し、前記導電材料の一部あるいは全部を、高温炉内で溶融して成形する工程と、
前記永久磁石と前記導通回路を導通部材として一体に成形する工程と
を備えることを特徴とする永久磁石型回転電機の回転子の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の永久磁石型回転電機の回転子の製造方法において、
高融点金属製の金型内に、前記複数の永久磁石を配置し、間隙部に導電性粉末材料を充填し、前記高温炉内で前記粉末材料を溶融・固化後、一体化された導電部材を、永久磁石を取り囲む枠形状に切り離し、永久磁石と導電部材との一体成形品を得る工程を備えることを特徴とする永久磁石型回転電機の回転子の製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載の永久磁石型回転電機の回転子の製造方法において、
窓枠状に形成した前記導電部材に前記永久磁石を挿入し、焼結あるいは時効処理を行う工程を備えることを特徴とする永久磁石型回転電機の回転子の製造方法。
【請求項6】
請求項3に記載の永久磁石型回転電機の回転子の製造方法において、
前記導通回路を金型内に配置し、磁石粉末と樹脂とのコンパウンドからなる永久磁石材料を射出注入して前記導通部材を成形する工程を備えることを特徴とする永久磁石型回転電機の回転子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−189096(P2009−189096A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−23902(P2008−23902)
【出願日】平成20年2月4日(2008.2.4)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】