説明

汚水処理方法およびその装置

【課題】汚泥処分量を削減しつつ効率良くリンを回収でき、負荷を少なくできる汚泥処理装置を提供する。
【解決手段】嫌気槽22にてリンを放出させる一時的な間、嫌気槽22への有機性汚水Wおよび汚泥Sの流入を止める。BOD源として可溶化処理した可溶化汚泥Sのみを嫌気槽22へと導入する。一定時間をおいてリンの放出量が最大となったところで汚泥濃縮槽23の膜分離装置26にて汚泥Sを膜分離する。リン濃度の高い膜分離水Lを得ることができる。リン回収槽25に高いリン濃度の膜分離水Lを負荷できる。汚泥濃縮槽23にて膜分離水Lを分離した後の余剰汚泥S11の生成量の削減を図りつつ、嫌気槽22での生物的リン放出量が最も多くなる。リン回収槽25でのリン回収効率を向上できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性汚水からリンを放出させる汚水処理方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、リン酸は富栄養化の原因物質の一つであり、有機性汚水などの汚水中から除去することが求められている。そして、好気工程を含む生物処理をする水処理施設においては、リンが水処理する生物中に取り込まれて水中から除去される。一般に、細胞中のリンの含有量は、乾燥重量の1%程度である。また、特定の条件においては、活性汚泥微生物の細胞内にポリリン酸のような形態でリンが蓄積される過剰摂取現象が知られている。
【0003】
そして、このリンの過剰摂取現象は、次のような工程を経て生じる。まず、嫌気状態において、汚水中の有機酸を利用し細胞中のポリリン酸を加水分解してリン酸イオンとして放出する。次いで、好気状態において、汚水中の有機物を酸化する際に生じるエネルギを利用してリン酸がポリリン酸として細胞内に蓄積される。
【0004】
このため、このように嫌気状態に続けて好気状態を経て汚水を処理する場合には、菌体の構成や代謝に必要な量以上にリンが菌体に取り込まれる。このとき、この細胞中のリンの含有量が乾燥重量の3〜4%になる。そして、この性質を利用して、汚水中のリン酸を除去する方法としては、嫌気槽および好気反応槽から構成される嫌気好気活性汚泥法や、嫌気無酸素好気法、一つの反応槽にて嫌気工程と好気工程とを繰り返す回分式活性汚泥法などが知られている。
【0005】
さらに、この種の汚水中のリン酸を除去する方法としては、無終端水路に好気性の部分と嫌気性の部分とが設けられたオキシデーションディッチ槽(OD槽)の前投に嫌気反応槽を設けた汚水の生物学的処理方法も知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
ところが、上述の汚水の生物学的処理方法においては、被処理水である汚水の生物学的酸素要求量(Biochemical Oxgen Demand:BOD)に応じた余剰汚泥が発生してしまう。そして、この余剰汚泥は、そのまま埋め立て処分されたり、焼却処理などにて処分されたりしている。しかし近年、汚泥処分地の不足や処分費の高騰などによって、この余剰汚泥の処分量を削減する方法が求められている。
【0007】
そこで、この種の余剰汚泥を減容化する方法としては、オゾン、過酸化水素水、アルカリ剤あるいは次亜塩素酸などの薬剤や、ホモジナイザあるいは超音波などによるキャピテーション、剪断力を生じる装置あるいはミルを用いた物理的な細胞破砕など、微生物を殺菌する手段に注目して、余剰汚泥を減容化する方法が古くから知られている(例えば、特許文献2および3参照。)。
【0008】
ところが、この種の余剰汚泥を減容化する方法では、余剰汚泥を減溶化できるが、リン酸が水中に残存してしまうため、水処理の目的であるリン除去と矛盾してしまう。そこで、この問題を解決することを目的として、汚泥の減容化方法とリン除去方法とを組み合わせた方法が知られている(例えば、特許文献4参照)。
【0009】
また、リンは、近い将来枯渇が懸念される資源であり、資源として回収できる方法の開発が進められている。そして、リンを資源として回収するリン回収方法としては、カルシウムイオンを用いる方法(例えば、特許文献5および6参照。)や、アンモニアおよびマグネシウムイオンを用いる方法(例えば、特許文献7および8参照。)などの、リン酸イオン沈殿生成反応を起こす金属イオンを添加してリン酸化合物塩を生成させてリンを回収する方法が知られている。
【0010】
さらに、これらリン回収方法と汚泥可溶化の手段とを組み合わせて、汚泥処分量の削減とリン酸の問題とのそれぞれを解決する方法も知られている(例えば、特許文献9ないし12参照)。
【特許文献1】特開2002−186989号公報(第3−5頁、図1)
【特許文献2】特公昭57−19719号公報(第2−3頁、第1図−第5図)
【特許文献3】特公昭49−11813号公報(第1−2頁)
【特許文献4】特開2002−192185号公報(第3−4頁、図1)
【特許文献5】特開2000−317492号公報(第3−4頁、図1)
【特許文献6】特開2000−301166号公報(第2−3頁、図1)
【特許文献7】特開平11−10194号公報(第3−4頁、図1−4)
【特許文献8】特開平7−284762号公報(第2−3頁、図1)
【特許文献9】特開平11−188383号公報(第1−4頁、図1)
【特許文献10】特開2000−84596号公報(第3−4頁、図1)
【特許文献11】特開2002−186992号公報(第3−4頁、図1)
【特許文献12】特開平10−137780号公報(第2−3頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように、上記特許文献4の方法では、リン除去手段によるリンの除去量が、リン放出槽での生物的リンの放出量とリン除去手段に流入する水量とによって決まる。したがって、生物的リンの放出量は、汚泥に対するBODの負荷に比例して増加するが、この特許文献4ではリン放出槽へのBOD源は可溶化処理された汚泥のみであり、さらに可溶化処理された汚泥は、別の発酵槽にも導かれるため全てのBOD源を有効に利用できない。
【0012】
また、上記特許文献10の方法でもまた、返送汚泥からリンを放出させ、凝集沈殿にてリンを不溶化させることで汚泥の減量化および脱リンしており、リン除去手段によるリンの除去量は、汚泥処理槽での生物的リンの放出量と、凝集沈殿槽に導入する水量とによって決まる。したがって、生物的リンの放出量は、汚泥に対するBODの負荷に比例して増加するが、この特許文献10では返送汚泥に含まれるBOD成分を利用しているため、リンの放出量について期待できない。
【0013】
さらに、上記特許文献11の方法でもまた、リン除去手段によるリンの除去量が、嫌気槽での生物的リンの放出量とリン除去手段に流入する水量とによって決まる。したがって、生物的リンの放出量は、汚泥に対するBODの負荷に比例して増加するが、この特許文献11では嫌気槽へ常に原水および返送汚泥が流入し、可溶化処理された汚泥の嫌気槽への投入方法について特に定められていないため、リンの放出量が一定量に留まり、リン除去手段のリン除去量が増加しない。このため、汚泥処分量を削減しつつ効率良くリンを回収することが容易ではなく、負荷を少なくすることは容易ではないという問題を有している。
【0014】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、汚泥処分量を削減しつつ効率良くリンを回収でき、負荷を少なくできる汚泥処理方法およびその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1記載の汚水処理方法は、有機性汚水を生物処理する生物処理手段にて発生する生物処理汚泥の一部を可溶化手段にて可溶化して可溶化汚泥とし、この可溶化汚泥を、この可溶化汚泥とは別の前記生物処理汚泥に一定時間投入して、前記可溶化汚泥に含まれている有機物にてリンの放出を促進させてリン放出汚泥とし、前記可溶化汚泥を前記生物処理汚泥に投入してから所定時間後に、前記リン放出汚泥を分離水と濃縮汚泥とに固液分離するものである。
【0016】
請求項2記載の汚水処理方法は、請求項1記載の汚水処理方法において、分離水を化学的なリン除去処理にてリン成分を回収し、濃縮汚泥の一部を余剰汚泥として搬出するとともに、前記濃縮汚泥の残りの一部を生物処理手段に返送するものである。
【0017】
請求項3記載の汚水処理方法は、請求項2記載の汚水処理方法において、濃縮汚泥を可溶化手段で可溶化するものである。
【0018】
請求項4記載の汚水処理方法は、請求項2記載の汚水処理方法において、生物処理汚泥の一部を返送汚泥として前記生物処理手段へと返送し、前記返送汚泥を可溶化手段で可溶化するものである。
【0019】
請求項5記載の汚水処理方法は、請求項3または4記載の汚水処理方法において、返送汚泥からリンを放出させるものである。
【0020】
請求項6記載の汚水処理方法は、請求項1ないし4いずれか記載の汚水処理方法において、生物処理手段は、有機性汚水を嫌気性処理する嫌気状態部を有し、前記生物処理手段の嫌気状態部にて発生する生物処理汚泥からリンを放出させるものである。
【0021】
請求項7記載の汚水処理方法は、請求項5または6記載の汚水処理方法において、固液分離が終了してから可溶化汚泥を生物処理汚泥に投入するまでの時間は、リンを放出させる生物処理汚泥と有機性汚水とを投入しつつ嫌気状態を維持しながら攪拌してリンを放出させてリン放出汚泥とし、このリン放出汚泥を生物処理手段に移送させるものである。
【0022】
請求項8記載の汚水処理方法は、請求項1ないし7いずれか記載の汚水処理方法において、可溶化汚泥の投入が終了してから固液分離を開始するまでの一定時間が6時間以内で、1日につき少なくとも1回以上一連動作させるものである。
【0023】
請求項9記載の汚水処理装置は、有機性汚水を生物処理する生物処理手段と、この生物処理手段による前記有機性汚水の生物処理にて発生する生物処理汚泥の一部を可溶化して可溶化汚泥とする可溶化手段と、前記可溶化汚泥がこの可溶化汚泥とは別の前記生物処理汚泥に一定時間投入され、前記可溶化汚泥に含まれている有機物にてリンの放出を促進させてリン放出汚泥とするリン放出促進手段と、前記可溶化汚泥を前記生物処理汚泥に投入してから所定時間後に、前記リン放出汚泥を分離水と濃縮汚泥とに固液分離する固液分離手段とを具備したものである。
【発明の効果】
【0024】
請求項1記載の汚水処理方法によれば、有機性汚水を生物処理する生物処理手段にて発生する生物処理汚泥の一部を可溶化手段にて可溶化して可溶化汚泥とする。さらに、この可溶化汚泥を、この可溶化汚泥とは別の生物処理汚泥に一定時間投入して、可溶化汚泥に含まれている有機物にてリンの放出を促進させてリン放出汚泥とする。そして、可溶化汚泥を生物処理汚泥に投入してから所定時間後に、リン放出汚泥を分離水と濃縮汚泥とに固液分離する。この結果、この固液分離された分離水のリン濃度が高くなるので、このリン濃度の高い分離水からリンを除去できるから、リンの回収を効率良くできる。したがって、余剰汚泥の発生量の削減を図りつつ、リン放出量が最も多くなるようにすることによって、リン回収効率を向上できるから、余剰汚泥の処分量を削減しつつ効率良くリンを回収でき、負荷を少なくできる。
【0025】
請求項2記載の汚水処理方法によれば、リン放出汚泥の固液分離にて得られた分離水を、化学的なリン除去処理にてリン成分を回収することにより、効率良くリンを回収できる。さらに、リン放出汚泥の固液分離にて得られた濃縮汚泥の一部を余剰汚泥として搬出するとともに、この濃縮汚泥の残りの一部を生物処理手段に返送することにより、この濃縮汚泥の一部を生物処理手段にて生物処理して可溶化手段にて可溶化させるので、余剰汚泥の処分量をさらに削減できる。
【0026】
請求項3記載の汚水処理方法によれば、リン放出汚泥の固液分離にて得られた濃縮汚泥を可溶化手段で可溶化することにより、この濃縮汚泥の生成量を削減できるので、余剰汚泥の処分量をさらに削減できる。
【0027】
請求項4記載の汚水処理方法によれば、生物処理手段にて発生する生物処理汚泥の一部を返送汚泥として生物処理手段へと返送して、この返送汚泥を生物処理手段にて生物処理し可溶化手段にて可溶化することにより、この返送汚泥の生成量を削減できるので、余剰汚泥の処分量をさらに削減できる。
【0028】
請求項5記載の汚水処理方法によれば、生物処理手段での有機性汚水の生物処理にて発生する生物処理汚泥の一部を生物処理手段へと返送させた返送汚泥を、この生物処理手段にて生物処理して可溶化手段にて可溶化してからリンを放出させるので、この返送汚泥の生成量をさらに削減できるとともに、この返送汚泥からのリン回収効率をより向上できる。
【0029】
請求項6記載の汚水処理方法によれば、生物処理手段の有機性汚水を嫌気性処理する嫌気状態部にて発生する生物処理汚泥からリンを放出させることにより、嫌気状態部にて亜硝酸および硝酸イオンのそれぞれが生物反応にて窒素ガスへと変換された生物処理汚泥からリンを放出できるので、この生物処理汚泥からのリン放出をより効率良くできるから、この生物処理汚泥からのリン回収効率をより向上できる。
【0030】
請求項7記載の汚水処理方法によれば、固液分離が終了してから可溶化汚泥を生物処理汚泥に投入するまでの時間は、リンを放出させる生物処理汚泥と有機性汚水とを投入しつつ嫌気状態を維持しながら攪拌してリンを放出させてリン放出汚泥とし、このリン放出汚泥を生物処理手段へと移送させる。この結果、この生物処理汚泥に含まれる微生物が可溶化汚泥に含まれる有機物を利用して自細胞中のポリリン酸を加水分解してリン酸として放出する。したがって、これら生物処理汚泥および可溶化汚泥からリンをより効率良く放出できるから、これら生物処理汚泥および可溶化汚泥からのリン回収効率をより向上できる。
【0031】
請求項8記載の汚水処理方法によれば、可溶化汚泥の投入が終了してから固液分離を開始するまでの一定時間を6時間以内とし、1日につき少なくとも1回以上一連動作させてリン回収させることにより、有機性汚水からのリン回収を効率良くできる。
【0032】
請求項9記載の汚水処理装置によれば、生物処理手段での有機性汚水の生物処理にて発生する生物処理汚泥の一部を可溶化手段にて可溶化して可溶化汚泥とする。さらに、この可溶化汚泥を、この可溶化汚泥とは別の生物処理汚泥に一定時間投入して、可溶化汚泥に含まれている有機物にてリンの放出をリン放出促進手段にて促進させてリン放出汚泥とする。そして、この可溶化汚泥を生物処理汚泥に投入してから所定時間後に、リン放出汚泥を固液分離手段にて分離水と濃縮汚泥とに固液分離する。この結果、固液分離手段にて固液分離された分離水のリン濃度が高くなるので、このリン濃度の高い分離水からリンを除去できるから、リンの回収を効率良くできる。したがって、余剰汚泥の発生量の削減を図りつつ、リン放出量が最も多くなるようにすることによって、リン回収効率を向上できるから、余剰汚泥の処分量を削減しつつ効率良くリンを回収でき、負荷を少なくできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の汚水処理装置の第1の実施の形態の構成を図1を参照して説明する。
【0034】
図1において、1は汚水処理装置で、この汚水処理装置1は、有機性物質を含む汚水である原水としての有機性汚水Wを生物処理にて浄化する処理装置である。そして、この汚水処理装置1は、有機性汚水Wを処理する工程を行う装置である生物処理手段としての水処理施設2と、この水処理施設2にて発生した生物処理汚泥である汚泥Sを処理する汚泥減容化手段としての汚泥処理装置3と、この汚泥処理装置3にて処理されたリン放出汚泥としての汚泥Sからリンを回収するリン回収装置4とを備えている。
【0035】
そして、この汚水処理装置1の水処理施設2は、生物処理工程にてオキシデーションディッチ法を採用したオキシデーションディッチ(Oxidation Ditch:OD)槽であるディッチ槽11と、このディッチ槽11にて処理された汚水Wを沈殿分離する沈殿池12とを備えている。ここで、この生物処理工程としては、嫌気無酸素好気法や無酸素好気法なども適用可能である。また、水処理施設2としては、有機性汚水Wから生成された有機性汚泥である汚泥S中にリンが含まれるようにする好気工程を含むものであれば適用可能である。
【0036】
具体的に、ディッチ槽11には、このディッチ槽11内の一部に酸素を供給してこのディッチ槽11内の一部に好気状態な部分である好気性状態部13を形成する図示しない空気供給手段としての散気装置が取り付けられている。ここで、このディッチ槽11の好気性状態部13では、この好気性状態部13内の有機性汚水Wが生物学的に好気性処理される。また、このディッチ槽11には、このディッチ槽11内へと供給された混合液Lを攪拌させる攪拌手段としての攪拌装置が取り付けられている。ここで、このディッチ槽11内の一部であって散気装置にて散気されない部分に嫌気状態な部分である嫌気性状態部14が形成される。そして、このディッチ槽11の嫌気性状態部14では、この嫌気性状態部14内の混合液Lが生物学的に嫌気性処理される。さらに、この嫌気性状態部14では、可溶化汚泥Sが混合液L中に投入してから汚泥濃縮槽23にて濃縮されるまでの間以外に、返送汚泥Sと有機性汚水Wとのそれぞれが連続的に投入されて嫌気状態を維持しながら攪拌して、これら返送汚泥Sおよび有機性汚水W中からリンを放出させて混合液Lとさせる。
【0037】
さらに、このディッチ槽11には、汚水Wとともに沈殿池2からの返送汚泥Sが一定時間送られて供給され、このディッチ槽11の流路内で混合液Lを生物的に好気性処理および嫌気性処理する。また、このディッチ槽11では、このディッチ槽11の好気性状態部13を通過する好気時間において、混合液L中に含まれるBODが生物処理にて消費されるとともに、この混合液L中のリン酸が微生物中に取り込まれて汚泥Sが生成される。さらに、この混合液L中のアンモニア態窒素は、亜硝酸および硝酸イオンヘと酸化されるとともに、ディッチ槽11の嫌気性状態部14を通過する嫌気時間において、混合液L中に含まれる亜硝酸および硝酸イオンのそれぞれが生物反応にて窒素ガスヘと変換される。
【0038】
そして、このディッチ槽11にて生物的に処理された汚水Wは、このディッチ槽11の嫌気性状態部14から引き抜かれて沈殿池2へと導入されて、この沈殿池12にて処理水Fと汚泥Sとに沈殿分離にて固液分離される。ここで、この沈殿池2にて分離された汚泥Sは、ディッチ槽11へと返送される返送汚泥Sと、嫌気槽22へと導入される汚泥Sと、汚泥可溶化手投21へと導入される汚泥Sとに分離されて分割される。そして、この汚泥Sは、図示しない運転制御装置にて制御された自動弁や、ゲート、ポンプなどにて分割される。
【0039】
さらに、この汚泥Sを処理する汚泥処理装置3は、可溶化手段としての汚泥可溶化手段21、リン放出促進手段としての嫌気槽22、固液分離手段としての汚泥濃縮槽23、可溶化汚泥貯槽24を備えている。具体的に、嫌気槽22には、この嫌気槽22内に貯留される汚泥Sを攪拌する攪拌手段としての攪拌装置31が取り付けられている。この攪拌装置31は、駆動手段としてのモータ32と、このモータ32の駆動力を伝達するシャフト33と、このシャフト32に取り付けられた攪拌翼としてのプロペラ34とを有している。そして、この攪拌装置31は、プロペラ34が回転運動することによって嫌気槽22内の汚泥Sを攪拌させる。ここで、この嫌気槽22には、沈殿池12にて分離された汚泥Sの一部である汚泥Sと、可溶化汚泥貯槽24からの可溶化汚泥Sとのそれぞれが導入されて汚泥Sが貯留されている。さらに、この嫌気槽22内の汚泥Sは、曝気されずに嫌気状態となっている生物処理汚泥である。そして、この汚泥Sに含まれる微生物は、可溶化汚泥Sに含まれる有機物を利用して自細胞中のポリリン酸を加水分解し、リン酸として放出する。ここで、汚泥Sおよび可溶化汚泥Sのそれぞれもまた生物処理汚泥である。
【0040】
また、この嫌気槽22内の汚泥Sは、汚泥濃縮槽23へと導入される。この汚泥濃縮槽23内には、浸漬膜を利用した膜分離装置26が取り付けられている。ここで、この膜分離装置26としては、チューブラ膜や中空糸膜などを利用したものでもよい。そして、この膜分離装置26は、汚泥濃縮槽23内の汚泥Sからリン酸濃度が高い膜分離水Lを膜分離にて固液分離して濃縮して、リン酸含有率の低い濃縮汚泥S10および余剰汚泥S11とする。
【0041】
さらに、この汚泥濃縮槽23には、嫌気槽22でリンを放出して吐き出させた嫌気状態の汚泥Sが導入されるため、浸漬膜を利用した膜分離装置26を有する汚泥濃縮槽23の場合には、この膜分離装置26の浸漬膜の膜面を洗浄するための洗浄用ガスとして、酸素が含まれていないガスを供給するガス供給手段27が取り付けられている。このガス供給手段27には、膜分離装置26の浸漬膜へと洗浄用ガスを圧送させる圧送手段としてのブロア28が取り付けられている。
【0042】
そして、このガス供給手段27にて供給する洗浄用ガスとしては、例えば窒素や二酸化炭素などのガスが外部より十分に供給される場合にはこのガスを導入させたり、図示しないガスホルダなどを設けて汚泥濃縮槽23の上部のガスを無酸素状態にし、この無酸素状態のガスをブロワ28にて循環させて洗浄用ガスとして利用したりすることもできる。
【0043】
また、リン回収槽25は、下部が外側に向けて拡開した円筒状の内筒41を有している。この内筒41は、この内筒41の軸方向を上下方向に沿わせた状態でリン回収槽25内に取り付けられている。そして、このリン回収槽25内は、内筒41にてリン酸化合物塩を生成させる晶析部42と、このリン酸化合物塩を沈殿させる沈殿部43とに分けられている。具体的に、このリン回収槽25内は、内筒41の内側が晶析部42とされ、この内筒41の外側であるリン回収槽25内が沈殿部43とされている。ここで、このリン回収槽25の晶析部42は、膜分離水Lを科学的なリン除去処理にて、この膜分離水Lからリン成分を回収する部分である。
【0044】
ここで、このリン回収槽25の晶析部42には、このリン回収槽25内の膜分離水Lを攪拌させる攪拌手段としての攪拌装置44が取り付けられている。この攪拌装置44は、駆動手段としてのモータ45と、このモータ45の駆動力を伝達するシャフト46と、このシャフト46に取り付けられた攪拌翼としてのプロペラ47とを有している。そして、この攪拌装置44は、プロペラ47が回転動することによってリン回収槽25内の膜分離水Lを攪拌させる。
【0045】
さらに、このリン回収槽25の晶析部42には、汚泥濃縮槽23の膜分離装置26にて分離された膜分離水Lが導入される。そして、この晶析部42には、リン酸化合物塩の生成を促進させるために一定量のリン酸化合物塩が供給されて保有されている。また、この晶析部42には、図示しない金属イオン供給手段が設置されており、この金属イオン供給手段にて膜分離水L中のリン酸イオン濃度に応じた量の金属イオンが供給される。
【0046】
ここで、この金属イオン供給手段にて供給する金属イオンとしては、マグネシウムまたはカルシウムが使用される。なお、リン回収槽25のハンドリングの面からは、塩化カルシウム溶液を使用することが好ましい。また、この晶析部42には、図示しないpH調節手段が設置されている。このpH調整手段は、pH計、コントローラおよび薬注ポンプなどを備えており、所定のpHとなるようにアルカリ剤が晶析部42内へと添加される。
【0047】
一方、リン回収槽25の沈殿部43では、膜分離水Lが、この膜分離水L中のリン酸化合物塩Pと、このリン酸化合物塩Pが沈殿した後の上澄みであるリン回収処理水であるリン回収水Lとに分離される。すなわち、この沈殿部43では、リン回収水L中のリン酸イオンが除去される。そして、リン回収槽25にてリンが回収除去されたリン回収水Lは、流量調整のためにリン回収水貯槽51に一旦貯留されてから、ディッチ槽11へと返送される。
【0048】
さらに、汚泥濃縮槽23内にて濃縮された濃縮汚泥Sの全部もしくは一部が、濃縮汚泥S10としてディッチ槽11へと導入される。また、このディッチ槽11へと導入されない濃縮汚泥Sは、余剰汚泥S11として場外に搬出されて処分される。
【0049】
そして、汚泥可溶化手段21では、この汚泥可溶化手段21へと導入される汚泥Sにアルカリ剤を添加して、物理的な細胞破砕を利用して汚泥Sを可溶化して、この汚泥S中の有機酸などの溶解性有機物量を増大させる。さらに、この汚泥可溶化手段21にて可溶化された可溶化汚泥Sは、可溶化汚泥貯槽24へと導入されて貯留される。ここで、この汚泥可溶化手段21が、可溶化汚泥貯槽24の貯留量をまかなうだけの容量および処理能力を有している場合には、この可溶化汚泥貯槽24を省略できる。さらに、この可溶化汚泥貯槽24へと導入されて貯留された可溶化汚泥Sは、運転制御装置にて制御されたポンプや自動弁、ゲートなどにて嫌気槽22へと導入される。
【0050】
また、この可溶化汚泥貯槽24には、この可溶化汚泥貯槽24内の可溶化汚泥Sを攪拌させる攪拌手段としての攪拌装置52が取り付けられている。この攪拌装置52は、駆動手段としてのモータ53と、このモータ53の駆動力を伝達するシャフト54と、このシャフト54に取り付けられた攪拌翼としてのプロペラ55とを有している。そして、この攪拌装置52は、プロペラ55が回転動することによって可溶化汚泥貯槽24内の可溶化汚泥Sを攪拌させる。
【0051】
ここで、運転制御装置による制御方法としては、まず前記の動作として、可溶化汚泥貯槽24から可溶化汚泥Sをポンプにて嫌気槽22へと導入するのに前後して、この嫌気槽22への他の汚泥Sの流入および汚泥Sの流出のそれぞれを遮断する。すなわち、この運転制御装置は、汚水Wおよび沈殿池12からの汚泥Sの導入を遮断して、これら汚水Wおよび汚泥Sをディッチ槽11へと導入させる。
【0052】
次いで、この運転制御装置は、前記の動作から一定時間をおいて、嫌気槽22から汚泥濃縮槽23へと汚泥Sを移送する図示しないポンプを駆動させて、この嫌気槽22内の汚泥Sの一部あるいは全部を一定時間に限って汚泥濃縮槽23へと連続的に投入して導入させる。さらに、この運転制御装置は、前記の動作が終了した後に、ディッチ槽11への汚水Wおよび沈殿池12からの返送汚泥Sの導入を遮断し、これら汚水Wおよび返送汚泥Sを汚泥として嫌気槽22へと導入させる。このとき、可溶化汚泥貯槽24から嫌気槽22へと導入される可溶化汚泥Sに含まれている高濃度の有機物を用いて、この嫌気槽22へと導入される汚泥Sの生物学的なリンの放出が促進される。
【0053】
そして、この運転制御装置は、可溶化汚泥Sの嫌気槽22への投入が終了してから汚泥濃縮槽23による濃縮が開始するまでの一定時間が、6時間以内となるように設置されている。さらに、この運転制御装置は、以上の一連の動作を1日当たり少なくとも1回以上運転して、嫌気槽22にてリンを効率的に吐き出させる。ここで、これら運転制御装置による制御時間や運転頻度などの設定は、有機性汚水Wの水質や、有機物源となる可溶化汚泥sの性状およびリンを放出する返送汚泥Sなどのリン放出活性などによって左右される。このため、可溶化汚泥SのBOD量が十分にあって返送汚泥Sからのリン放出が安定して起こることが明らかな場合、すなわち極めて良好なリン放出条件を保つことが可能な場合には、運転制御装置にて上述の一連の動作を連続運転させることもできる。さらに、汚泥濃縮槽23または、この汚泥濃縮槽23より前段に設けた可溶化汚泥貯槽24にて水量負荷の変動を調整し、リン回収槽25、ディッチ槽11および沈殿池12のそれぞれに、水量変動による影響が及ばないようにすることによって、処理水質および回収リンの良好な性状を保つことができる。
【0054】
さらに、汚泥濃縮槽23からディッチ槽11への濃縮汚泥S10の導入量と、この汚泥濃縮槽23から場外へと搬出させる余剰汚泥S11との割合は、この汚泥濃縮槽23にて濃縮した濃縮汚泥Sに含まれる無機成分量にて決定される。この濃縮汚泥S中の無機成分量が0であれば、場外へ搬出させる余剰汚泥S11を発生させないことが理論上可能であるが、実際にはオゾン処理や生物処理にて分解できない無機成分が無視できない量ほど含まれるため、ある程度の余剰汚泥S11を系外に排出することが望ましい。
【0055】
そして、この余剰汚泥S11は、焼却、埋め立て、集約処理し嫌気性消化などにて処理される。なお、汚泥濃縮槽23内の濃縮汚泥SのMLSS(Mixed Liquor Suspended Solid)濃度が10000mg/L以上20000mg/L以下程度であるため、この濃縮汚泥Sの少なくとも一部を余剰汚泥S11として場外に搬出させる際には、この余剰汚泥S11を脱水処理することが望ましい。このとき、この余剰汚泥S11の脱水処理では脱水液量が少量であるため、この脱水液を汚泥濃縮槽23へ返送したり、リン回収槽25にて処理したりすることも可能である。
【0056】
次に、上記第1の実施の形態の作用効果について説明する。
【0057】
まず、上記第1の実施の形態の汚水処理装置1は、有機性汚水Wの生物処理にて生成される汚泥Sからのリンの放出量が最も多くなるように工夫したもので、リンを吐き出させる汚泥Sに対して最もBOD/SS(Suspended Solids:浮遊物質濃度)負荷が高くなるように、BOD源である可溶化汚泥Sを、リンを放出させる別の汚泥Sを貯留する嫌気槽22に対して、短時間にまとめて投入し、リン放出量が最大になってから汚泥濃縮槽23の膜分離装置26にて膜分離することによって、リンの回収に最適な高濃度の膜分離水Lと、十分にリンを吐き出した余剰汚泥S11を得るものである。
【0058】
具体的には、嫌気槽22でリンを放出させる一時的な期間の間は、有機性汚水Wおよび汚泥Sなどの嫌気槽22への流入を止めて、BOD源として可溶化処理された可溶化汚泥Sのみを投入した後に、一定時間をおいてリンの放出量が最大となったところで、汚泥濃縮槽23内の膜分離装置26を稼働させることによって、この膜分離装置26にて膜分離した際に、従来よりもリン濃度の高い膜分離水Lを得ることができる。
【0059】
一般的に、リン回収槽25は、膜分離水Lのリン酸濃度が高濃度であればあるほど効率が良い。したがって、このリン回収槽25に高いリン濃度の膜分離水Lを負荷できるようになるから、このリン回収槽25でのリンの回収効率を最大限にできる。よって、汚泥濃縮槽23にて膜分離水Lを分離した後の余剰汚泥S11の生成量の削減を図りつつ、嫌気槽22での生物的リン放出量が最も多くなるようにできるから、リン回収槽25でのリン回収効率を向上できる。このため、余剰汚泥S11の処分量を削減しつつ、効率良くリンを回収でき、水処理施設2の負荷を少なくできる。
【0060】
さらに、上述のように運転制御装置にて投入制御することによって、嫌気槽22でのリンの放出濃度が、投入制御をしないときの数倍から十数倍程度となるため、リンの回収量を増加できるとともに、余剰汚泥S11中のリン含有率の削減や、可溶化処理による余剰汚泥S11の生成量の削減を同時にできる。
【0061】
また、汚泥濃縮槽23内の膜分離装置26にて得られた膜分離水Lを、リン回収槽25に導入させて化学的なリン除去処理にてリン成分を回収することにより、効率良くリン回収できる。さらに、汚泥濃縮槽23内の膜分離装置26での膜分離にて得られた濃縮汚泥Sの一部を余剰汚泥S11として搬出するとともに、この濃縮汚泥Sの残りの一部を濃縮汚泥S10としてディッチ槽11へと返送する構成としたことにより、この濃縮汚泥Sの一部がディッチ槽11にて生物処理されてから汚泥可溶化手段21にて可溶化されるので、余剰汚泥S11の処分量をさらに削減できる。
【0062】
さらに、ディッチ槽11の嫌気性状態部14から汚水Wを引き抜いて、この汚水W中のリンを嫌気槽22にて放出させる構成とした。この結果、このディッチ槽11の嫌気性状態部14にて亜硝酸および硝酸イオンのそれぞれが生物反応にて窒素ガスへと変換された汚泥Sからリンを放出できるので、この汚泥Sからのリン放出をより効率良くできるから、この汚泥Sからのリン回収効率をより向上できる。
【0063】
また、汚泥濃縮槽23の膜分離装置26による汚泥Sの膜分離が終了してから、嫌気槽22内の汚泥Sに可溶化汚泥Sを投入するまでの時間に、この嫌気槽22にてリンを放出させる汚泥Sとは別の可溶化汚泥Sを嫌気槽22へと連続的に投入するとともに、この嫌気槽22の嫌気状態を維持しながら攪拌してリンを放出させた汚泥Sとしてから、この汚泥Sをディッチ槽11へと移送させる構成とした。この結果、汚泥Sに含まれる微生物が可溶化汚泥Sに含まれる有機物を利用して自細胞中のポリリン酸を加水分解してリン酸として放出する。したがって、これら汚泥Sおよび可溶化汚泥Sから嫌気槽22にてリンをより効率良く放出できるから、これら汚泥Sおよび可溶化汚泥Sからの嫌気槽22でのリン回収効率をより向上できる。
【0064】
なお、上記第1の実施の形態では、汚泥濃縮槽23にて濃縮した濃縮汚泥S10をディッチ槽11へと導入させたが、図2に示す第2の実施の形態のように、汚泥濃縮槽23にて濃縮した濃縮汚泥S10を汚泥可溶化手段21へと導入させて可溶化させることもできる。そして、沈殿池12にて沈殿分離された汚泥Sは、ディッチ槽1へと返送される返送汚泥Sと、嫌気槽22へと導入される汚泥Sとに分割される。ここで、この汚泥Sは、運転制御装置61にて制御された自動弁62,63や図示しないゲートおよびポンプなどによって返送汚泥Sと汚泥Sとに分割される。
【0065】
さらに、嫌気槽22には、沈殿池12から導入された汚泥Sと可溶化汚泥貯槽24から導入された可溶化汚泥Sあるいは有機性汚水Wとが混合された汚泥Sが貯留されている。また、嫌気槽22中の汚泥Sは、ポンプ64にて汚泥濃縮槽23へと導入されるとともに、自動弁65にてディッチ槽11の嫌気性状態部14へと導入されて返送される。そして、この汚泥濃縮槽23内の膜分離装置26にて膜分離された膜分離水Lは、リン回収槽25へと導入されて、このリン回収槽25にてリンが回収除去されたリン回収水Lは、リン回収水貯槽51を介してディッチ槽11の嫌気性状態部14または嫌気槽22へと返送される。
【0066】
また、汚泥濃縮槽23の膜分離装置26にて濃縮された濃縮汚泥Sの全部もしくは一部が濃縮汚泥S10として汚泥可溶化手投21へと導入される。さらに、この汚泥可溶化手段21へと導入されなかった濃縮汚泥Sの残りは、余剰汚泥S11として場外に搬出されて処分される。そして、この汚泥可溶化手段21にて可溶化された可溶化汚泥Sは、可溶化汚泥貯槽24へと導入されて貯留される。さらに、この可溶化汚泥貯槽24内の可溶化汚泥Sは、運転制御装置61にて制御されたポンプ66または図示しない自動弁やゲートなどにて嫌気槽22へと導入される。
【0067】
ここで、この運転制御装置61による全体の制御方法としては、まず前期の動作として、可溶化汚泥貯槽24から可溶化汚泥Sをポンプ66にて嫌気槽22へと導入するのに前後して、この嫌気槽22への他の有機性汚水W、汚泥Sおよびリン回収水Lの流入と、この嫌気槽22内の汚泥濃縮槽23およびディッチ槽11への汚泥Sの流出を、自動弁67、自動弁63などを駆動させて遮断する。すなわち、有機性汚水Wおよび沈殿池12からの返送汚泥Sの導入を遮断し、これら有機性汚水Wおよび返送汚泥Sのそれぞれをディッチ槽11へと導入させる。
【0068】
次いで、この運転制御装置61は、前期の動作から一定時間をおいて、嫌気槽22から汚泥濃縮槽23へ汚泥Sを移送するポンプ64を駆動させて、嫌気槽22内の汚泥Sの一部あるいは全部を汚泥濃縮槽23に導入させる。さらに、この運転制御装置61は、前期の動作が終了した後に、ディッチ槽11への有機性汚水Wおよび返送汚泥Sの導入を自動弁62および自動弁68の遮断にて停止させて、これら有機性汚水Wおよび返送汚泥Sを嫌気槽22へと導入させる。
【0069】
この結果、汚泥濃縮槽23の膜分離装置26にて膜分離した際にリン濃度の高い膜分離水Lを得ることができるから、リン回収槽25に高いリン濃度の膜分離水Lを負荷できるので、上記第1の実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0070】
なお、上記各実施の形態では、汚泥可溶化手段21として、オゾン、過酸化水素水、アルカリ剤、次亜塩素酸などの薬剤、あるいはホモジナイザや超音波などによるキャピテーション、剪断力生じる装置やミルを用いた物理的な細胞破砕など、微生物を殺菌する手段を用いても汚泥の処分量を削減できる。特に、生物的なリンの放出に有効な手段としては、オゾン処理やアルカリ剤、剪断力を生じる装置やミルを用いた物理的な細胞破砕などが効果が高い。さらに、アルカリ剤と物理的な破砕との併用では、高い可溶化効果とともに後段のリン回収槽25にてアルカリを添加する手段を省略できるので、特に好ましいが、その他の手段であっても良い。
【0071】
また、このリン回収槽25では、このリン回収槽25内の膜分離水Lに対して、金属イオン沈殿反応を引き起す金属イオンを添加してリン酸化合物塩を生成させ、このリン酸化合物塩を沈殿部43に沈殿させてリンが回収されている。一般に、この沈殿部43にてリン酸イオン沈殿生成反応を起こす金属イオンとしては、鉄、アルミニウム、マグネシウム、カルシウムなどがある。ところが、この沈殿生成反応を起こす金属イオンとして鉄やアルミニウムなどを使用した場合には、リン回収槽25の沈殿部43に沈殿した沈殿物の資源としての有効利用が難しくなるので、廃棄物として処分されることが多い。
【0072】
そこで、リンを資源として再利用する観点から、沈殿生成反応を起こす金属イオンとして、マグネシウムあるいはカルシウムを用いることが望ましい。すなわち、マグネシウムを用いた場合には、MAP(リン酸マグネシウムアンモニウム)が沈殿物として沈殿し、カルシウムを用いた場合には、ヒドロキシアバタイトを主成分としたリン酸塩化合物が沈殿物として沈殿し、これら沈殿物は肥料などの資源として有効利用可能である。
【実施例1】
【0073】
次に、本発明の実施例1について説明する。
【0074】
まず、嫌気無酸素好気法による水処理を実施している下水処理場から入手した余剰汚泥を基に、人工下水を利用した連続実験装置を汚水処理装置1として2ヶ月以上3か月以下の間馴養運転した系から余剰汚泥を1Lほど用意した。
【0075】
これに対して、同じ連続実験装置から抜き抜いて浮遊物質濃度を約20000mg/Lまで濃縮してからアルカリ添加した後に物理破砕処理した可溶化汚泥を、BOD源として0.02g−BOD/g−SS、0.05g−BOD/g−SS、0.10g−BOD/g−SS、0.13g−BOD/g−SS、0.15g−BOD/g−SS、0.20g−BOD/g−SSとなるように順次添加した。
【0076】
【表1】

【0077】
この結果、表1に示すように、余剰汚泥のリン酸濃度がBOD/SS比の増加とともに上昇するが、一定以上の比率ではリン酸濃としては低下していく、つまり最適比率が存在することが分かった。したがって、汚泥からのリン放出量は、BOD負荷量が重要であることが分かった。この最適比率と、可溶化汚泥を貯留することによって溶解性有機物濃度が生分解を受けてしまうこととを考え合わせると、可溶化汚泥のリン放出に用いる頻度は一日一回以上が望ましいことが分かった。
【実施例2】
【0078】
次に、本発明の実施例2について説明する。
【0079】
まず、模擬オキシデーションディッチ槽11と沈殿池12とを備えた連続実験装置を汚水処理装置1として用い、この連続実験装置1を図1に示す第1の実施の形態と同様に運転するとともに、従来技術と同様に運転した。
【0080】
このとき、第1の実施の形態と同様の連続実験装置の運転としては、可溶化汚泥Sを嫌気槽22へ投入する頻度を1日につき1回の全量投入とし、嫌気槽22でのリン酸態リン濃度を示した。また、従来技術と同様の連続実験装置の運転としては、可溶化汚泥S、有機性汚水Wおよび汚泥Sのそれぞれを嫌気槽22に24時間連続投入して実験した。
【0081】
【表2】

【0082】
この結果、表2に示すように、嫌気槽22でのリン酸態リン濃度は、第1の実施の形態と同様に運転した方が、従来技術と同様に運転した場合の約3倍高くなった。したがって、本発明の汚水処理装置1の有効性が確認できた。このため、この汚水処理装置1のリン回収槽25でのリン回収工程においてリン回収効率を向上できるとともに、汚泥濃縮槽23において水量負荷を削減できることが分かった。
【実施例3】
【0083】
次に、本発明の実施例3について説明する。
【0084】
具体的には、上述した実施例1での連続実験における返送汚泥に対して、アルカリ添加した後に物理破砕処理した可溶化汚泥を添加した後の溶解性リン酸(PO−P)濃度の経時変化を測定した。
【0085】
そして、可溶化汚泥を添加してからリン放出濃度が最大になるまでの時間を検討した。
【0086】
この結果、図3に示すように、リン酸濃度の上昇は、約3時間程度で最大となることが分かった。このことから、可溶化汚泥を投入して固液分離するまでの時間は、確実な範囲をとっても6時間以内で十分であることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の第1の実施の形態の汚水処理装置を示す説明構成図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態の汚水処理装置を示す説明構成図である。
【図3】本発明の実施例3での経過時間に対する溶解性リン酸濃度を示すグラフである。
【符号の説明】
【0088】
1 汚水処理装置
2 生物処理手段としての水処理施設
14 嫌気状態部としての嫌気性状態部
21 可溶化手段としての汚泥可溶化手段
22 リン放出促進手段としての嫌気槽
23 固液分離手段としての汚泥濃縮槽
有機性汚水
生物処理汚泥としての汚泥
返送汚泥
可溶化汚泥
リン放出汚泥としての汚泥
濃縮汚泥
11 余剰汚泥
分離水としての膜分離水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性汚水を生物処理する生物処理手段にて発生する生物処理汚泥の一部を可溶化手段にて可溶化して可溶化汚泥とし、
この可溶化汚泥を、この可溶化汚泥とは別の前記生物処理汚泥に一定時間投入して、前記可溶化汚泥に含まれている有機物にてリンの放出を促進させてリン放出汚泥とし、
前記可溶化汚泥を前記生物処理汚泥に投入してから所定時間後に、前記リン放出汚泥を分離水と濃縮汚泥とに固液分離する
ことを特徴とする汚水処理方法。
【請求項2】
分離水を化学的なリン除去処理にてリン成分を回収し、
濃縮汚泥の一部を余剰汚泥として搬出するとともに、前記濃縮汚泥の残りの一部を生物処理手段に返送する
ことを特徴とする請求項1記載の汚水処理方法。
【請求項3】
濃縮汚泥を可溶化手段で可溶化する
ことを特徴とする請求項2記載の汚水処理方法。
【請求項4】
生物処理汚泥の一部を返送汚泥として前記生物処理手段へと返送し、
前記返送汚泥を可溶化手段で可溶化する
ことを特徴とする請求項2記載の汚水処理方法。
【請求項5】
返送汚泥からリンを放出させる
ことを特徴とする請求項3または4記載の汚水処理方法。
【請求項6】
生物処理手段は、有機性汚水を嫌気性処理する嫌気状態部を有し、
前記生物処理手段の嫌気状態部にて発生する生物処理汚泥からリンを放出させる
ことを特徴とする請求項1ないし4いずれか記載の汚水処理方法。
【請求項7】
固液分離が終了してから可溶化汚泥を生物処理汚泥に投入するまでの時間は、リンを放出させる生物処理汚泥と有機性汚水とを投入しつつ嫌気状態を維持しながら攪拌してリンを放出させてリン放出汚泥とし、
このリン放出汚泥を生物処理手段に移送させる
ことを特徴とする請求項5または6記載の汚水処理方法。
【請求項8】
可溶化汚泥の投入が終了してから固液分離を開始するまでの一定時間が6時間以内で、
1日につき少なくとも1回以上一連動作させる
ことを特徴とする請求項1ないし7いずれか記載の汚水処理方法。
【請求項9】
有機性汚水を生物処理する生物処理手段と、
この生物処理手段による前記有機性汚水の生物処理にて発生する生物処理汚泥の一部を可溶化して可溶化汚泥とする可溶化手段と、
前記可溶化汚泥がこの可溶化汚泥とは別の前記生物処理汚泥に一定時間投入され、前記可溶化汚泥に含まれている有機物にてリンの放出を促進させてリン放出汚泥とするリン放出促進手段と、
前記可溶化汚泥を前記生物処理汚泥に投入してから所定時間後に、前記リン放出汚泥を分離水と濃縮汚泥とに固液分離する固液分離手段と
を具備したことを特徴とした汚水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−305530(P2006−305530A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−134599(P2005−134599)
【出願日】平成17年5月2日(2005.5.2)
【出願人】(000101374)アタカ工業株式会社 (55)
【Fターム(参考)】