説明

汚泥の炭化処理方法及び装置

【課題】 炭化炉内の金属部材の高温腐食を抑制することができる汚泥の炭化処理方法及び装置を提供すること。
【解決手段】 カルシウムイオンを生成するカルシウム化合物CCを汚泥に添加し、カルシウム化合物CCが添加された汚泥を炭化処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水処理場などで発生する汚泥の炭化処理方法及び装置に関する。特にリン酸塩を高濃度に含む汚泥の炭化処理方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、下水処理システムにおいて濃縮汚泥を脱水することによって得られる汚泥ケーキは、70%以上の含水率があり、体積が大きく、運搬に多大な労力及び経費が必要であった。そこで、一般に、この汚泥ケーキを加熱して炭化することが行われている。これにより、体積を1/10〜1/20程度に減容して、その後の処理(運搬等)を容易にしたり、この得られた炭化物を土壌改良材、脱臭剤、脱水助剤、燃料、資材等として有効利用することが行われている。
【0003】
上記の炭化処理を行うための従来の一般的な手法としては、先ず、汚泥ケーキを乾燥炉に供給し、この乾燥炉内において汚泥ケーキを加熱乾燥させる。これにより、汚泥ケーキは含水率が40%程度になる。その後、この乾燥炉から汚泥ケーキを取り出して炭化炉(炭化乾留炉)に供給する。この炭化炉内においては汚泥ケーキを無酸素状態で加熱し、これによって汚泥ケーキを炭化させていた(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−298586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の炭化処理方法及び装置では、リン酸Na、Kを含む汚泥を炭化する場合、炭化炉内の金属部材(レトルト等)が高温腐食により損傷を受けるため、炭化炉の補修を頻繁に行う必要があった。
【0006】
そこで、本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、炭化炉内の金属部材の高温腐食を抑制することができる汚泥の炭化処理方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者等は、金属部材を高温腐食させる原因物質を汚泥中のリン酸Na、Kと仮定して、後述する検証実験を行い、原因物質をリン酸Na、Kと特定した。金属部材を高温腐食させる原因物質がリン酸Na、Kであれば、汚泥中にカルシウムイオンを生成するカルシウム化合物を添加することで、高温腐食を抑制できると考え、本発明を創出するに至った。
【0008】
上記の課題を解決するためになされた本発明に係る汚泥の炭化処理方法は、カルシウムイオンを生成するカルシウム化合物を汚泥に添加する工程と、前記カルシウム化合物が添加された汚泥を炭化処理する工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
本発明に係る汚泥の炭化処理方法は、前記炭化処理工程の前に、前記カルシウム化合物が添加された汚泥を乾燥させる工程を更に有することが好ましい。
【0010】
また、前記カルシウム化合物の添加率は、前記汚泥に対しNa、KとCaが当モル比以上の質量%であることが好ましい。
【0011】
また、前記カルシウム化合物は、水酸化カルシウムであることが好ましい。
【0012】
本発明は、別の態様において、汚泥の炭化処理装置であって、カルシウムイオンを生成するカルシウム化合物を汚泥に添加する化合物供給機と、前記カルシウム化合物が添加された汚泥を炭化処理する炭化炉と、を有してなるものである。
【0013】
また、前記炭化炉の前に、前記カルシウム化合物が添加された汚泥を乾燥させる乾燥炉を備えることが好ましい。
【0014】
また、前記カルシウム化合物は、水酸化カルシウムであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
カルシウム化合物の添加により、汚泥中のリン酸化合物の融点が高くなるので、炭化炉内の金属部材の高温腐食が抑制される。
【0016】
乾燥工程の前にカルシウム化合物が添加されると、水分の多い汚泥ケーキ中でカルシウム化合物から生成されたCaイオンとリン酸Na、Kとの接触効率が高くなり、リン酸Na、KとのCaイオンの置き換え反応が効率よく起きる。その結果、金属部材の高温腐食が効果的に抑制される。
【0017】
カルシウム化合物の添加量が、Na、KとCaが当モル比以上の質量%であると、金属部材の高温腐食が効果的に抑制される。
【0018】
カルシウム化合物が水酸化カルシウムであると、金属部材の高温腐食がより効果的に抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態の炭化処理方法を実施する装置の全体構成を示した図である。
【図2】リン酸Na、Kによる金属の高温腐食実験後のるつぼ外観写真である。
【図3】JISZ2293“金属材料の塩浸漬及び塩埋没高温腐食試験方法”に基づく金属材料の高温腐食試験後のるつぼと試験片の外観写真である。
【図4】本発明の炭化処理方法で処理した炭化汚泥のX線回折チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
先ず、高温腐食原因物質を特定するための検証実験を説明する。
【0021】
従来の炭化処理方法で金属材料を高温腐食した汚泥を燃焼(650℃×24hr)して得られた灰を成分分析した結果、Na2Oが10.4質量%、K2Oが2.5質量%検出された。
【0022】
Na、Kの構造が塩化物または硫化物であれば、水に溶け出すと考えられたので、乾燥させた汚泥を熱湯に30分接触させ、その後燃焼(650℃×24hr)して得られた灰を成分分析した。その結果、Na2Oが7.6質量%、K2Oが1.9質量%検出された。Na、Kの若干の減少が認められたが、顕著でなく、このことは、Na、Kの主構造が塩化物または硫化物で無いことを意味していると考えられる。
【0023】
一方、この原料に塩化カルシウムを過剰に(10質量%)添加し、攪拌後24時間放置させた物を乾燥させ、その後熱湯に30分接触させ、その後燃焼(650℃×24hr)して得られた灰を成分分析した。その結果、Na2Oが0.6質量%、K2Oが0.4質量%検出された。
【0024】
このことは、Na、Kの構造がリン酸Na、Kの構造であり、塩化カルシウム由来のカルシウムイオンがリン酸と結合し、Na、Kが水溶性のNaイオンとKイオンとして放出される反応が進行したことを示していると考えられる。
【0025】
そこで、次に、るつぼを多数用意して各るつぼに各種リン酸Naまたはリン酸K及びSUS304(炭化炉内に使用される金属)片を入れ、電気炉内で加熱した。加熱温度は、炭化炉内の温度に近い950℃に設定し、2時間加熱した。
【0026】
実験に供したリン酸Naは、リン酸2ナトリウム(融点950℃)、メタリン酸ナトリウム(融点600〜650℃)、ピロリン酸ナトリウム(融点800〜830℃)及びポリリン酸ナトリウム(融点630〜650℃)である。また、実験に供したリン酸Kは、リン酸2カリウム、メタリン酸カリウム及びピロリン酸カリウムである。
【0027】
950℃で2時間加熱した後のるつぼを撮影した写真の例を図に示す。図2(a)は、リン酸2ナトリウムの場合、図2(b)はメタリン酸カリウムの場合であるが、いずれもSUS304を高温腐食することがわかる。なお、図に示さないが、実験に供したいずれのリン酸Na、リン酸Kの場合もSUS304を高温腐食することがわかった。
【0028】
上記の実験により、高温腐食原因物質をリン酸Na、リン酸Kと推測するに至った。リン酸Na、Kは、カルシウムイオンと反応して、NaイオンとKイオンを放出することが知られているので、本発明を創出するに至った。
【0029】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて以下に詳しく説明する。
【0030】
図1は、本発明の実施形態の炭化処理方法を実施するための炭化処理装置の全体構成を示したもので、脱水した下水汚泥を受け入れる受け入れホッパ10と、脱水した下水汚泥にカルシウム化合物3を供給する添加剤供給機64と、脱水した下水汚泥とカルシウム化合物とを混合する混合機65と、カルシウム化合物が混合された下水汚泥に熱風を直接接触させて乾燥する乾燥炉14と、乾燥させた下水汚泥を炭化処理する外熱式ロータリーキルン型の炭化炉18とから主に構成されている。
【0031】
含水率80%程度まで脱水された汚泥ケーキが受入ホッパ10に先ず受け入れられる。
【0032】
ここに受け入れられた汚泥ケーキは、定量供給装置12にて混合機65に送られ、添加剤供給機64から供給される所定量のカルシウム化合物と混合される。カルシウム化合物は、水酸化カルシウムが好ましい。また、カルシウム化合物の添加率は、前記汚泥に対しNa、KとCaが当モル比以上の質量%であることが望ましい。このように添加率を当モル比以上の質量%にすることで、後述の炭化炉20内のステンレス製レトルト22などの金属部材の高温腐食を大幅に抑制することができる。
【0033】
含水率80%程度の脱水汚泥ケーキにカルシウム化合物を添加すると、カルシウム化合物からCa2+の生成が妨げられず、生成されたCa2+とリン酸Na、Kとの接触効率が高いので、高融点のリン酸Ca(融点1670℃)や硫酸Ca(融点1450℃)を生成して、炭化炉18の処理温度(800〜950℃)では溶融せず、金属部材を高温腐食することがない。
【0034】
リン酸塩含有量を基準にすると、Ca2+:2Na+=1:1であるので、カルシウムの量が多くなる。すなわち、ナトリウムイオン2モルに対し、カルシウムイオン1モル以上が好ましい。
【0035】
カルシウム化合物が添加された汚泥は、乾燥炉14へと送られ、そこで所定の含水率、例えば40%程度の含水率まで乾燥処理される。尚この乾燥炉14では、汚泥ケーキの乾燥と併せてその粉砕が行われる。
【0036】
乾燥炉14で乾燥処理された汚泥は、続いてコンベヤ16により炭化炉18へと搬送され、そこで乾留処理により汚泥の炭化が行われる。
【0037】
この炭化炉18には、炉体20の内部に乾留容器としての円筒形状のステンレス製の回転ドラムから成るレトルト22が設けられている。
【0038】
レトルト22内部に投入された汚泥は、先ず炉体20内部に配設された助燃バーナ(不図示)による外熱室内部26の雰囲気加熱によって加熱される。すると汚泥中に含まれていた可燃ガスが、レトルト22に設けられた吹出パイプ(不図示)を通じて外熱室内部26の雰囲気中に抜け出し、そしてこの可燃ガスが着火して、以後はその可燃ガスの燃焼によりレトルト22内部の汚泥の加熱が行われる。この段階で、助燃バーナは燃焼停止される。
【0039】
レトルト22内部の汚泥は、図中左端からレトルト22の回転とともに漸次図中右方向に移って行き(レトルト22には若干の勾配が設けてある)、そして最終的に乾留残渣(炭化製品)がレトルト22の図中右端の出口21、つまり炭化炉18から排出される。
【0040】
排ガスは、排煙口(不図示)を通じて排気路56へと排気され、その排気路56上に設けられた排ガスファン60によって排気路56を通じ煙突52から大気中に放出される。
【0041】
図1において、34は乾燥炉14に供給する熱風を発生させるための熱風炉で、ここでは供給された燃料が燃焼空気の供給の下で燃焼させられて熱風を発生する。尚ここではパイロットバーナ用にLPGが用いられ、燃焼バーナ用に灯油が用いられている。
【0042】
熱風炉34で発生した熱風は乾燥炉14に供給され、更にこれを通過して、その後段の集塵機36を通ってそこで集塵され、再び熱風炉34に戻されるようになっている。即ち熱風炉34で発生した熱風は、乾燥炉14、集塵機36を通る循環路38を循環ファン40により循環流通させられるようになっている。この循環系では、乾燥炉14においてリークエアが循環する熱風中に入り込む。
【0043】
一方で熱風炉34には燃焼空気が定量供給されており、そのためここでは熱風の一部を抜き取るべく、熱風炉34の下流部において分岐路42が設けられており、熱風炉34から出た熱風の一部がこの分岐路42を通じて外部に取り出されるようになっている。
【0044】
この分岐路42に取り出された熱風は高温状態(約700℃程度)にあり、そこで分岐路42に取り出された熱風が、循環路38上に設けられた熱風炉熱交換器44で熱交換され、更に空気取入口48から取り入れられた外気により希釈及び冷却された上で、排ガスファン46により排気路50、51を通じて煙突52から外部に放出される。ここで分岐路42に取り出された熱風の、熱風炉熱交換器44で熱交換された後の温度は約400℃程度であり、そして空気取入口48からの外気の取入れによる希釈・冷却により、排ガスファン46の下流部での温度は約200〜250℃程度となる。
【0045】
尚、空気取入口48からの空気の取入量は調整弁54によって調整される。また循環路38を循環流通する熱風は、熱風炉熱交換器44で熱交換されることによりそこで温度上昇させられた上、熱風炉34の入口に戻される。
【0046】
上記炭化炉18からは、その排ガスを排出するための排気路56が延び出している。この排気路56に取り出された炭化炉18からの排ガスは、温度が800〜1000℃程度の高温度であり、そこで先ず空気取入口62からの外気の取入れによって希釈及び冷却された上で、循環路38上に設けられた炭化炉熱交換器58で熱交換され、そこで温度降下された後、更に炭化炉熱交換器58の下流部において、空気取入口63からの外気の取入れにより再び希釈・冷却された上で、排ガスファン60により排気路61、51を通じて煙突52から外部に放出される。
【0047】
尚、炭化炉18から排出された排ガスは、空気取入口62からの外気の取入れによる希釈・冷却により温度降下(約700℃)され、更に炭化炉熱交換器58における熱交換、空気取入口63からの外気の取入れによる冷却によって200〜250℃程度の温度まで温度降下された上で、排ガスファン60により排気路61、51を通じ煙突52から外部に放出される。この炭化炉18にはLPG、灯油等の燃料が燃焼空気とともに供給される。ここでLPGはパイロットバーナの燃焼用として用いられ、また灯油は燃焼バーナ用の燃料として用いられる。
(実験)JISZ2293“金属材料の塩浸漬及び塩埋没高温腐食試験方法”に基づき金属材料の高温腐食試験を行った。
【0048】
実験1:脱水汚泥ケーキ(水分80%)にCa(OH)2を1wt%添加した汚泥ケーキに試験片(SUS310S、質量7.9893g)を埋没させ、850℃で20時間加熱した。
【0049】
比較実験1:実験1と同じ脱水汚泥ケーキ(Ca(OH)2無添加)に実験1と同じ試験片を埋没させ、実験1と同じ条件で加熱した。
【0050】
試験後のるつぼ外観写真と試験片の外観写真を図3に示す。試験片の質量を測定した結果、比較実験1では0.0766g減少したのに対し、実験1では0.0002gしか減少しなかった。
【実施例】
【0051】
図1の炭化処理装置の添加剤供給機64からCa(OH)2を0.5質量%添加し、炭化炉18の処理温度を650℃で24hr処理した。
【0052】
24hr処理後レトルト22等を目視観察した結果、金属部材の高温腐食が見られなかった。図4に炭化汚泥をX線回折で分析した結果を示す。
【0053】
図4から、リン酸Ca系化合物と硫酸Caの存在が確認された。このことは、添加されたCa(OH)2から生成されたCaイオンによって、リン酸Na、KとのCaイオンとの置き換え反応や、硫酸イオンと反応して硫酸Caを生成する反応が行われたことを示していると思われる。
【0054】
本実施例で作製された炭化汚泥は、850℃以上に加熱しても溶けなかった。これは、上記の反応で生成されたと推定されるリン酸Caと硫酸Caの融点がそれぞれ1670℃、1450℃であるため、炭化汚泥全体の融点が上がったためと思われる。
【符号の説明】
【0055】
14・・・・・・乾燥炉
18・・・・・・炭化炉
64・・・・・・化合物供給機
CC・・・・・・・カルシウム化合物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムイオンを生成するカルシウム化合物を汚泥に添加する工程と、
前記カルシウム化合物が添加された汚泥を炭化処理する工程と、を有することを特徴とする汚泥の炭化処理方法。
【請求項2】
前記炭化処理工程の前に、前記カルシウム化合物が添加された汚泥を乾燥させる工程を更に有する請求項1に記載の汚泥の炭化処理方法。
【請求項3】
前記カルシウム化合物の添加量が、前記汚泥に含まれるリン酸Na、リン酸K対し当モル比以上の質量%である請求項1または2に記載の汚泥の炭化処理方法。
【請求項4】
前記カルシウム化合物は、水酸化カルシウムである請求項1〜3のいずれか1項に記載の汚泥の炭化処理方法。
【請求項5】
カルシウムイオンを生成するカルシウム化合物を汚泥に添加する化合物供給機と、
前記カルシウム化合物が添加された汚泥を炭化処理する炭化炉と、を有することを特徴とする汚泥の炭化処理装置。
【請求項6】
前記炭化炉の前に、前記カルシウム化合物が添加された汚泥を乾燥させる乾燥炉を更に有する請求項5に記載の汚泥の炭化処理装置。
【請求項7】
前記カルシウム化合物は、水酸化カルシウムである請求項5または6に記載の汚泥の炭化処理装置。

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−5347(P2011−5347A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−148162(P2009−148162)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【出願人】(000220767)東京窯業株式会社 (211)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】