説明

汚泥の監視方法及び汚泥の監視制御システム

【課題】有機物の分解や臭気成分の分解に貢献する汚泥の評価を迅速に客観的に行うことができる汚泥の監視方法及び汚泥の監視制御システムを提供すること
【解決手段】汚泥のIRスペクトルを測定し、波数(cm-1)900付近、2000付近、3700付近に吸収を示し、かつ3700付近のピークの吸光度に対する2000付近のピークの吸光度の比が40〜70%の範囲であるか否かによって汚泥を監視することを特徴とし、好ましくは3700付近のピークの吸光度に対する2000付近のピークの吸光度の比が40〜70%の範囲でない場合には、腐植質による汚泥の改質を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は汚泥の監視方法及び汚泥の監視制御システムに関し、詳しくは汚泥が示すIRスペクトルに着目して有機性廃水施設内の汚泥を監視制御する汚泥の監視方法及び汚泥の監視制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
下水、し尿などの有機性廃水の処理において生じる汚泥は、硫化水素やメチルメルカプタンなどの不快感を与える臭気成分を発生させる。これらの廃水処理施設ではその臭気により、作業者の労働環境を低下させている。
【0003】
臭気成分を低下させるための浄化槽汚泥などの無臭化処理としては、臭気成分の1つである硫化水素を金属イオンと反応させ難溶性の塩として分離する金属塩法(特許文献1)、腐植質ペレットや、腐植土から抽出される成分を添加する方法(たとえば、特許文献2)が知られている。
【0004】
腐植質ペレットを加える方法では、腐植質の作用で、汚泥中の好気性細菌の活動が活性化され、発生する悪臭成分が発生しなくなるほか、汚泥の代謝率が向上することによって汚泥容量が減少することや、脱水性が向上することも知られている。
【特許文献1】特開平11−57730号公報
【特許文献2】特開平8−309394号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、改質された良質な汚泥の判断方法としては、可視スペクトルによる黒色化の判断、臭気センサーによる臭気測定、プロセスガスクロマトグラフによる揮発性物質の測定などが行われている。
【0006】
改質された良質な汚泥と判断するための基準として用いられる、可視スペクトルによる黒色化の判断では、汚泥自体の色がはじめからが黒っぽい場合もあり、黒色化が必ずしも十分条件ではなかった。
【0007】
臭気センサーによる臭気測定、プロセスガスクロマトグラフによる揮発性物質の測定は、汚泥による処理の生成物(結果)を測定しているに過ぎないため、汚泥自体の状態を判断しているものではなかった。
【0008】
本発明者らは、有機物の分解や臭気成分の分解に貢献する汚泥自体を評価する方法について鋭意研究を重ね、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明の課題は、有機物の分解や臭気成分の分解に貢献する汚泥の評価を迅速に客観的に行うことができる汚泥の監視方法及び汚泥の監視制御システムを提供することにある。
【0010】
更に本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は以下の発明によって解決される。
【0012】
(請求項1)
汚泥のIRスペクトルを測定し、波数(cm-1)900付近、2000付近、3700付近に吸収を示し、かつ3700付近のピークの吸光度に対する2000付近のピークの吸光度の比が40〜70%の範囲であるか否かによって汚泥を監視することを特徴とする汚泥の監視方法。
【0013】
(請求項2)
3700付近のピークの吸光度に対する2000付近のピークの吸光度の比が40〜70%の範囲でない場合には、腐植質による汚泥の改質を行うことを特徴とする請求項1記載の汚泥の監視方法。
【0014】
(請求項3)
汚泥のIRスペクトルを測定する測定手段と、前記測定手段からの測定データを入力する制御部と、IRスペクトルのデータを記憶する記憶部とを有し、
前記制御部は、波数(cm-1)900付近、2000付近、3700付近の何れかに吸収を示すピークがあるか否かを判断し、波数(cm-1)900付近、2000付近、3700付近の何れか一つの部位に吸収を示すピークがない場合には、腐植質による汚泥の改質を行うことを特徴とする汚泥の監視制御システム。
【0015】
(請求項4)
汚泥のIRスペクトルを測定する測定手段と、前記測定手段からの測定データを入力する制御部と、IRスペクトルのデータを記憶する記憶部とを有し、
前記制御部は、波数(cm-1)900付近、2000付近、3700付近の何れかに吸収を示すピークがあるか否かを判断し、波数(cm-1)2000付近、3700付近に吸収を示すピークがある場合には、前記記憶部にその吸光度の値を記憶し、
更に前記制御部は、記憶された吸光度の値の値を入力し、波数(cm-1)3700付近のピークの吸光度に対する2000付近のピークの吸光度の比が40〜70%の範囲であるという条件を満たす場合は、監視対象汚泥は改質された良好な汚泥と判断し、前記条件を満たさない場合には改質不良の汚泥と判断することを特徴とする汚泥の監視制御システム。
【0016】
(請求項5)
制御部が、改質不良の汚泥と判断した場合には改質指示信号を出力することを特徴とする請求項4記載の汚泥の監視制御システム。
【0017】
(請求項6)
前記監視対象の汚泥が、導入有機性廃水中の有機物の分解反応を行う反応槽と、該反応槽から送られる汚泥を固液分離する固液分離手段と、固液分離された汚泥の少なくとも一部を前記反応槽に返送する返送手段とを少なくとも有する有機性廃水処理施設内の汚泥又は該施設から発生する汚泥であることを特徴とする請求項3、4又は5記載の汚泥の監視制御システム。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、有機物の分解や臭気成分の分解に貢献する汚泥の評価を迅速に客観的に行うことができる汚泥の監視方法及び汚泥の監視制御システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0020】
(汚泥の監視方法)
本発明において、監視対象となる汚泥は、図1に示すような下水、し尿廃水などの導入有機性廃水中の有機物の分解反応を行う反応槽1と、該反応槽1から送られる汚泥を固液分離する固液分離手段2と、固液分離された汚泥の少なくとも一部を前記反応槽1に返送する返送手段3とを少なくとも有する有機性廃水処理施設内の汚泥又は該施設から発生する汚泥である。固液分離手段2は図示の例では沈殿槽または濃縮槽が用いられるが、膜処理を採用することもできる。有機性廃水処理施設には、汚泥改質槽4を有してもよい。5は余剰汚泥を処理する汚泥処理施設であり、本発明においては、これらの汚泥処理施設も有機性廃水処理施設に含まれる。
【0021】
本発明において、汚泥改質は、腐植物あるいはそれらを構成成分とする腐食ペレットなどを入れた汚泥改質槽4内に固液分離手段2で分離された汚泥を導入して長時間曝気処理して腐植成分を溶出させたりあるいは汚泥培養したりして実現する。
【0022】
改質処理された汚泥は、反応槽1に戻され、有機性廃水処理施設内の汚泥は、系内全体が改質された汚泥になる。
【0023】
改質処理された汚泥は、好気性微生物の活動が活発になり、分解能力が高い汚泥である。本発明者らの研究では、悪臭成分の分解性に優れ、有機物資化性に優れ、汚泥の代謝率が向上して汚泥容量が減少し、脱水性が向上することが確認されている。
【0024】
本発明者らは、汚泥改質されることによって、微生物が活性化され、微生物による分解の最終生成物であるフミン酸等の物質が多く存在することに着目し、客観的な汚泥評価方法やシステムを研究した結果、本発明に至ったものである。
【0025】
本発明者らは分解能力の高い汚泥は通常の汚泥に比べ、好気性菌が活性化されているといった特徴があるため、汚泥中に存在する有機物の組成にも違いがあるのではないかと考え、IRスペクトルの測定を行った。
【0026】
汚泥は、複合した微生物の有機物集合体であり、化学的にも複数の物質の集合であるが、幾つかのピークを持つIRスペクトルを得ることができた。
【0027】
さらに、臭気成分を発する汚泥など、他の多数のサンプルを用いて分析を行い比較したところ、分解能力が高い汚泥と、そうでない汚泥とでは観察されるピークが異なり、特徴として分別が可能であることを見出した。
【0028】
即ち、分解能力の高い汚泥は波数(cm-1)900付近、2000付近、3700付近に吸収を示すことを見出した。
【0029】
更にかつ3700(cm-1)付近のピークの吸光度に対する2000(cm-1)付近のピークの吸光度の比が40〜70%の範囲である場合は分解能力が更に高い汚泥と判断できることを見出した。
【0030】
吸光度の比とは、図2のようなIRスペクトルの場合、3700(cm-1)付近の吸光度aに対する2000(cm-1)付近の吸光度bの比を求めたもので、
ピーク比=吸光度b/吸光度a
で表すことができる。
【0031】
改質された汚泥のIRスペクトルは、波数(cm-1)900付近、2000付近、3700付近に吸収を示し、かつ3700(cm-1)付近のピークの吸光度に対する2000(cm−1)付近のピークの吸光度の比が40〜70%の範囲であるという条件を満たしていない。
【0032】
なお、IRスペクトルの測定には、当業者間で一般的にIRスペクトルの測定に使われる機器が使用でき、測定方法も当業者間で一般的に行われている方法で行うことができる。
【0033】
(汚泥の監視制御システム)
次に、本発明に係る汚泥の監視制御システムについて説明する。
【0034】
図3は、本発明の汚泥の監視制御システムを示す機能ブロック図、図4は、本発明による汚泥の監視制御を示すフロー図である。
【0035】
まず反応槽から汚泥をサンプリングし、IRスペクトルの測定ができる状態に調整する。
【0036】
調整された汚泥サンプルを用いて、IRスペクトル測定手段11でIRスペクトルを測定する。測定されたデータは、制御部12に入力される(S1)。制御部12は3700(cm-1)付近にピークがあるか判断する(S2)。ピークが検出されなかったときは、改質不良の汚泥であると判断する(S3)。
【0037】
ピークが検出されたときは、記憶部13に、3700(cm-1)付近のピークの吸光度aを記憶する(S4)。
【0038】
次に、2000(cm-1)付近にピークがあるか判断する(S5)。ピークが検出されなかったときは、改質不良の汚泥であると判断する(S3)。
【0039】
ピークが検出されたときは、記憶部13に、2000(cm-1)付近のピークの吸光度bを記憶する(S6)。
【0040】
さらに、900(cm-1)付近にピークがあるか判断する(S7)。ピークが検出されなかったときは、改質不良の汚泥であると判断する(S3)。
【0041】
ピークが検出されたとき、制御部12は、記憶部13より、3700(cm-1)付近のピークの吸光度aと2000(cm-1)付近のピークの吸光度bを呼び出し、ピーク比を算出する(S8)。
【0042】
算出されたピーク比が40〜70%の範囲であるかどうか判断する(S9)。算出されたピーク比が40〜70%の範囲でなかった場合は改質不良の汚泥と判断する(S3)。
【0043】
算出されたピーク比が40〜70%の範囲であった場合は改質された良質な汚泥と判断され終了する。
【0044】
本発明では、制御部12が汚泥の判断結果とピーク比をモニターに表示するように表示信号を出力することが好ましい。その出力信号に基づきモニターに表示する。
【0045】
改質不良の汚泥と判断された場合、かかるモニター表示を見て、施設管理者は改質不良の汚泥を改質する。汚泥改質は、前述したが、腐植物あるいはそれらを構成成分とする腐食ペレットなどを入れた汚泥改質槽内に固液分離手段で分離された汚泥を導入して長時間曝気処理して腐植成分を溶出させたりあるいは汚泥培養したりして実現する。また既に改質された汚泥を有機性廃水処理施設内の反応槽内に添加することも好ましい。
【0046】
また本発明では、制御部12が、改質不良の汚泥と判断した場合には改質指示信号を出力することも好ましい。かかる改質指示信号に基づき改質作業を自動的に作動させて改質することも好ましい。改質作業を作動させるというのは、上記の汚泥改質槽の運転を再開させて改質された汚泥を反応槽に返送するポンプを作動させるなどの態様が挙げられる。
【0047】
本発明のように、IRスペクトルを用いて汚泥を監視すると、汚泥改質に指標となる腐植質の存在があれば再現が極めてよいので、運転管理が容易となり、また自動化にも優れている。
【実施例】
【0048】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されない。
【0049】
図1のような設備を有する施設において、下水処理試験を行った。
【0050】
(参考例)
改質は行われていないが良好に処理が行われている(臭気発生のある)浄化槽汚泥の硫化水素とアンモニアの濃度、BOD除去率を求めた。
【0051】
また、汚泥を0.5g採取し、105℃にて乾燥させた後、IRスペクトルを測定した。なお、IRスペクトルの測定には堀場、フーリエ変換、赤外線分光光度計FT−700を使用した。測定データから、ピーク比を求めた。
【0052】
(実施例)
汚泥改質槽に腐植質を添加し、改質した汚泥について硫化水素とアンモニアの濃度、BOD除去率を求めた。また、参考例と同様にIRスペクトルを測定し、ピーク比を求めた。
【0053】
参考例および実施例の硫化水素とアンモニアの濃度、BOD除去率およびピーク比を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
実施例では、検出される硫化水素とアンモニアの濃度が共に低下しており、BOD除去率も向上していた。また、IRスペクトルおよびピーク比について、実施例のみが本発明の要件を満たしていることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】下水、し尿廃水などの導入有機性廃水を処理する施設の例を示す図
【図2】IRスペクトルの例
【図3】汚泥の監視制御システムを示す図
【図4】本発明による汚泥の監視制御を示すフロー図
【符号の説明】
【0057】
1:反応槽
11:IRスペクトル測定手段
12:制御部
13:記憶部
2:固液分離手段
3:返送手段
4:汚泥改質槽
5:汚泥処理施設

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚泥のIRスペクトルを測定し、波数(cm-1)900付近、2000付近、3700付近に吸収を示し、かつ3700付近のピークの吸光度に対する2000付近のピークの吸光度の比が40〜70%の範囲であるか否かによって汚泥を監視することを特徴とする汚泥の監視方法。
【請求項2】
3700付近のピークの吸光度に対する2000付近のピークの吸光度の比が40〜70%の範囲でない場合には、腐植質による汚泥の改質を行うことを特徴とする請求項1記載の汚泥の監視方法。
【請求項3】
汚泥のIRスペクトルを測定する測定手段と、前記測定手段からの測定データを入力する制御部と、IRスペクトルのデータを記憶する記憶部とを有し、
前記制御部は、波数(cm-1)900付近、2000付近、3700付近の何れかに吸収を示すピークがあるか否かを判断し、波数(cm-1)900付近、2000付近、3700付近の何れか一つの部位に吸収を示すピークがない場合には、腐植質による汚泥の改質を行うことを特徴とする汚泥の監視制御システム。
【請求項4】
汚泥のIRスペクトルを測定する測定手段と、前記測定手段からの測定データを入力する制御部と、IRスペクトルのデータを記憶する記憶部とを有し、
前記制御部は、波数(cm-1)900付近、2000付近、3700付近の何れかに吸収を示すピークがあるか否かを判断し、波数(cm-1)2000付近、3700付近に吸収を示すピークがある場合には、前記記憶部にその吸光度の値を記憶し、
更に前記制御部は、記憶された吸光度の値の値を入力し、波数(cm-1)3700付近のピークの吸光度に対する2000付近のピークの吸光度の比が40〜70%の範囲であるという条件を満たす場合は、監視対象汚泥は改質された良好な汚泥と判断し、前記条件を満たさない場合には改質不良の汚泥と判断することを特徴とする汚泥の監視制御システム。
【請求項5】
制御部が、改質不良の汚泥と判断した場合には改質指示信号を出力することを特徴とする請求項4記載の汚泥の監視制御システム。
【請求項6】
前記監視対象の汚泥が、導入有機性廃水中の有機物の分解反応を行う反応槽と、該反応槽から送られる汚泥を固液分離する固液分離手段と、固液分離された汚泥の少なくとも一部を前記反応槽に返送する返送手段とを少なくとも有する有機性廃水処理施設内の汚泥又は該施設から発生する汚泥であることを特徴とする請求項3、4又は5記載の汚泥の監視制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−253873(P2008−253873A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−95730(P2007−95730)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】