説明

汚泥可溶化装置及び汚泥可溶化方法

【課題】余剰汚泥の可溶化を促進することで、消化率のさらなる向上及び固形物のより一層の減量を可能とする汚泥可溶化装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、濃縮汚泥からメタン発酵用の可溶化汚泥を形成するための汚泥可溶化装置であって、濃縮汚泥の流れと可溶化汚泥の流れとの熱交換によって、濃縮汚泥を加熱し、かつ可溶化汚泥を冷却する熱交換器と、この加熱された濃縮汚泥の流れの中に、この流れと対向するように高温高圧水蒸気を噴出することによって、100℃以上に加熱された可溶化汚泥を形成する可溶化手段とを備えることを特徴とする汚泥可溶化装置である。熱交換器としては、二重管式熱交換器を用いてもよい。また、熱交換器として、多管式熱交換器を用い、可溶化手段によりこの多管式熱交換器の複数の管のそれぞれに、高温高圧水蒸気が噴出するよう構成してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水等の廃水処理設備から生じる汚泥の消化に供される可溶化汚泥を形成するために好適に用いられる汚泥可溶化装置、及び汚泥可溶化方法に関する。
【0002】
下水等の有機性廃水の活性汚泥による廃水処理設備から生じる余剰汚泥は、脱水・焼却して減量後に埋め立て処分されてきた。しかし、汚泥の大量化に伴ない、焼却後の灰を処分する埋立地の確保が年々困難な状況となっている。余剰汚泥の建設資材などへの再利用も行なわれているものの、経済性、流通システムなどの課題により、社会全体に広がるには至っていない。
【0003】
一方、近年、地球環境保護への意識の高まりから、廃棄物のリサイクルやエネルギー回収等を推進する資源循環型社会システムへの転換が求められている。そこで、下水や工場排水等の活性汚泥を用いた廃水処理設備から生じる余剰汚泥からエネルギー(電気、熱、燃料)を回収する基礎技術として、従来から利用されてきたメタン発酵などの嫌気性消化処理が再び見直されつつある。また、嫌気性消化処理によるエネルギー回収・発電を、民活を利用したPFI事業の形で進める自治体が増加している。このような消化処理を用いることにより、メタン発酵から生じたメタンを回収し、燃焼させることによって発電を行うことが可能である。また、余剰汚泥を分解・消化することによって、固形物を減量することができる。
【0004】
従来から用いられている汚泥消化設備の一般的なプロセスフローを、図4に示す。図4の汚泥消化設備は、濃縮装置50、消化槽51、加温用ボイラ52、脱水装置53及び発電機54を備える。活性汚泥を用いた廃水処理設備における最終沈殿池で沈殿した活性汚泥は、一部が返送汚泥として生物処理層に戻され、残りが余剰汚泥として、遠心濃縮機、浮上濃縮機などの濃縮装置50により、2〜5%程度の固形分濃度にまで濃縮される。廃水処理設備における最初沈殿池で沈殿した生汚泥もまた、上記同様に濃縮される。これらの濃縮された汚泥は、消化槽51に蓄えられ、ここで加温用ボイラ52によって適温(通常54〜57℃)に加熱されて、酸生成菌による酸発酵及びメタン生成菌によるメタン発酵を含む嫌気性消化処理に供され、主成分としてメタンを含む消化ガスを発生する。
【0005】
この嫌気性消化処理で生じた消化汚泥(消化液)は、例えば、べルトプレス脱水機からなる脱水装置53によって脱水処理される。脱水汚泥は、トラックで下水処理施設外の処理場へ搬出され、他方の脱水分離液は、返流水として最初沈殿池の入口側に返送される。一方、消化槽51からの消化ガスは、脱硫塔で硫化水素が除去された後、ガスホルダーに蓄えられ、必要に応じて、発電機54を駆動するためのガスエンジンに燃料として供給される。発電機54から得られた電力は、一般的な電力として利用するために設備外に送電され、あるいは加温用ボイラ52を駆動するための電力としても用いられる。すなわち、このような余剰汚泥消化設備によって、余剰汚泥からの固形物を減量すると同時に、消化ガスをエネルギー源として利用することができる。
【0006】
しかし、食品廃棄物、家畜糞尿などの生ゴミの消化槽でのメタン発酵による消化率(有機物分解率)は約90〜95%である一方、上記のような汚泥消化設備での汚泥のメタン発酵による消化率は約50%にとどまっている。これは、活性汚泥を用いた廃水処理設備から得られる余剰汚泥の、メタン発酵の前段階である酸発酵による可溶化速度が小さいためであると考えられている。従って、濃縮された余剰汚泥を消化槽に供給する前段階で、余剰汚泥の可溶化を促進することによって、余剰汚泥からの固形物のより一層の減量及び消化ガスのさらなる増量(消化率の向上)を可能とするような技術の開発が要求されている。ここでの余剰汚泥の「可溶化」とは、汚泥の細胞群内部の水分及び有機分が水に溶解する状態になることを意味する。
【0007】
また、メタン発酵などの嫌気性消化処理を利用した発電施設では、人件費等のコスト削減の観点から、運転資格の不要な簡易ボイラでの加熱による24時間連続の無人運転設備が普及している。しかし、上述のように汚泥消化設備でのメタン発酵による消化率(ガス化率)は、汚泥の可溶化速度が小さいことから約50%にとどまっている。結果として、このような嫌気性消化処理を利用した発電施設では、発電効率が低いため、事業の採算をとるのが困難となっている。従って、このような事業の採算性の観点からも、運転資格が不要である簡易かつ安価な汚泥加熱(安価な装置を用いた無人運転による汚泥加熱)と、汚泥の可溶化の促進による消化率の向上(汚泥の可溶化促進によるガス化率の向上)とを同時に達成可能な汚泥可溶化のための装置の開発が、強く求められている。
【0008】
なお、特開2007−117801号公報には、有機性廃棄物を高温メタン発酵処理するに際し、ほぼ一定のある温度設定値で安定してメタン発酵を行うことが可能なメタン発酵処理方法が、開示されている。当該文献のメタン発酵処理方法は、有機性廃棄物を高温可溶化処理する工程、及びこの可溶化処理物と冷却媒体との熱交換により可溶化処理物を冷却する工程を含んでいる。このメタン発酵処理方法は、発酵温度の変動を出来る限り小さくすることによって、安定したメタン発酵を可能とする技術に関するが、汚泥の高温可溶化装置としては、高温・高圧の状態下で汚泥を可溶化するためのタンクであるリアクター、及び可溶化処理物としての可溶化汚泥を貯留し、消化槽に連続投入するためのタンクであるフラッシュタンクを備えた複雑な装置のみが例示されている。また、特許第3808475号には、消化汚泥を濃縮するための濃縮機が介設された加温塔、消化槽で発生する消化ガスの燃焼炉、及びこの燃焼熱により高温高圧水蒸気を発生させる熱交換器を備え、加熱塔内で濃縮した消化汚泥を高温高圧水蒸気に直接接触させて加温することを特徴とする嫌気性消化システムが開示されている。当該文献の嫌気性消化システムは、消化槽から得られた消化汚泥を濃縮し、高温高圧水蒸気で加温してから消化槽に循環することによって、消化率の向上を図る技術に関する。しかし、当該文献には、廃水処理装置から回収された余剰汚泥などの消化槽に送られる前の汚泥の加熱・可溶化処理については、何ら具体的に説明されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−117801号公報
【特許文献2】特許第3808475号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、これらの不都合に鑑みてなされたものであり、濃縮された余剰汚泥を消化槽に供給する前段階において余剰汚泥の可溶化を促進することで、余剰汚泥からの固形物のより一層の減量及び消化率のさらなる向上を可能とし、かつ、安価な装置を用いた無人運転によって汚泥を加熱・可溶化することができる汚泥可溶化装置、及び汚泥可溶化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するためになされた本発明の第一の態様は、
濃縮汚泥からメタン発酵用の可溶化汚泥を形成するための汚泥可溶化装置であって、
濃縮汚泥の流れと可溶化汚泥の流れとの熱交換によって、濃縮汚泥を加熱し、かつ可溶化汚泥を冷却する熱交換器と、
この加熱された濃縮汚泥の流れの中に、この流れと対向するように高温高圧水蒸気を噴出することによって、100℃以上に加熱された可溶化汚泥を形成する可溶化手段と
を備えることを特徴とする汚泥可溶化装置である。
【0012】
当該汚泥可溶化装置によれば、熱交換器を用いて、濃縮汚泥の流れと可溶化汚泥の流れとの熱交換を行うことから、外部からエネルギーを加えることなく効率的に、可溶化手段への供給原料に適した温度(例えば60℃前後)まで濃縮汚泥を加熱することができ、同時に、100℃以上に加熱された可溶化汚泥をメタン発酵に適した温度である50℃以上60℃以下にまで確実に冷却することができる。また、当該汚泥可溶化装置によれば、この可溶化手段への供給原料に適した温度にまで加熱された濃縮汚泥の流れの中に、対向方向から高温高圧水蒸気を噴出することによって、100℃以上に加熱された可溶化汚泥を形成する可溶化手段を備えることから、このような可溶化手段は、圧力容器(密閉容器)ではなく大気開放容器であるため、運転資格が必要なく、安価かつ安全な連続無人運転によって、加熱・可溶化された汚泥を形成することができる。当該汚泥可溶化装置においては、この100℃以上に加熱された可溶化汚泥の形成が、高温高圧水蒸気の噴出により濃縮汚泥の一部に大気圧以上の動圧を発生させると同時に、高温高圧水蒸気の顕熱と凝縮潜熱とを用いて加熱を促進し、かつ、水蒸気の凝縮衝撃により濃縮汚泥の分解を促進することによって行われることから、形成された可溶化汚泥の消化率を向上させることができると共に、汚泥から生じる固形物量を飛躍的に減量することが可能となる。
【0013】
当該汚泥可溶化装置に備えられた熱交換器として、二重管式の熱交換器を用いることができる。このような二重管式の熱交換器を用い、濃縮汚泥の流れと可溶化汚泥の流れとの熱交換を行うことによって、効率的な熱伝達が可能となり、100℃以上に加熱された可溶化汚泥を確実に50℃以上60℃以下にまで冷却することができると同時に、濃縮汚泥を可溶化手段への供給原料に適した温度まで十分加熱することができる。
【0014】
当該汚泥可溶化装置は、熱交換器として多管式の熱交換器を用い、上記可溶化手段により、この多管式熱交換器の複数の管のそれぞれに高温高圧水蒸気が噴出するよう構成されていてよい。多管式熱交換器の複数の管内に、可溶化手段への供給原料に適した温度まで加熱された濃縮汚泥の流れが存在する場合に、それらの管のそれぞれに、可溶化手段により高温高圧水蒸気が対向方向から噴出されることによって、十分に加熱・可溶化された汚泥を効率的に形成することができる。
【0015】
当該汚泥可溶化装置における可溶化手段からの高温高圧水蒸気の噴出速度は、これと対向する濃縮汚泥の流速の5倍以上100倍以下であることが好ましい。このような大きな相対速度で、濃縮汚泥の流れに対向方向から高温高圧水蒸気を噴出することによって、水蒸気の動圧効果による加熱及び水蒸気の凝縮衝撃による汚泥の可溶化を、より一層促進することが可能となる。
【0016】
当該汚泥可溶化装置に供給される濃縮汚泥は、典型的には、活性汚泥による廃水処理装置から回収された余剰汚泥を濃縮したものを含む。例えば、下水や工場排水などの活性汚泥による廃水処理装置からの余剰汚泥を濃縮したものを、当該汚泥可溶化装置で処理することによって、加熱・可溶化された汚泥の消化率を高めると共に、固形物量を効果的に減量することが可能となり、エネルギー効率の向上及び環境への負荷の低減を達成することができる。
【0017】
当該汚泥可溶化装置に供給される濃縮汚泥は、活性汚泥による廃水処理装置から回収された余剰汚泥を濃縮したものに加えて、メタン発酵後の一部が消化された汚泥を再濃縮したものを含んでいてもよい。このように、メタン発酵後の一部が消化された汚泥を再濃縮し、汚泥可溶化装置に供給するための濃縮汚泥として再度利用することによって、最終的に処分される固形物量をさらに減らし、それによって汚泥の利用効率を一層高めることができる。
【0018】
当該汚泥可溶化装置と、汚泥を脱水することによって汚泥可溶化装置に供給するための濃縮汚泥を形成する濃縮装置と、汚泥可溶化装置によって形成された可溶化汚泥に対してメタン発酵を含む消化処理を行う消化槽とを組み合わせることによって、汚泥処理システムを構築することができる。このような汚泥処理システムは、上記の汚泥可溶化装置を備えていることから、濃縮装置で濃縮された余剰汚泥を消化処理するための消化槽に供給する前段階で、余剰汚泥の可溶化を促進し、それによって余剰汚泥からの固形物の減量及び消化率の向上を同時に達成し、また、安価な装置を用いた無人運転で汚泥を効率的に加熱・可溶化することが可能となる。
【0019】
上記課題を解決するためになされた本発明の第二の態様は、
メタン発酵用の可溶化汚泥を形成するための汚泥可溶化方法であって、
活性汚泥による廃水処理装置から回収された余剰汚泥を濃縮したものを含む濃縮汚泥の流れと可溶化汚泥の流れとの熱交換を行うことによって、濃縮汚泥を加熱する工程と、
この加熱された濃縮汚泥の流れの中に、この流れと対向するように高温高圧水蒸気を噴出することによって、100℃以上に加熱された可溶化汚泥を形成する工程と、
この100℃以上に加熱された可溶化汚泥の流れと濃縮汚泥の流れとの熱交換を行うことによって、可溶化汚泥を50℃以上60℃以下にまで冷却する工程と
を有することを特徴とする汚泥可溶化方法である。
【0020】
当該汚泥可溶化方法によれば、活性汚泥による廃水処理装置から回収された余剰汚泥を濃縮したものを含む濃縮汚泥の流れと可溶化汚泥の流れとの熱交換を行うことによって、濃縮汚泥を加熱する工程を有することから、外部からエネルギーを加えることなく効率的に、可溶化汚泥形成工程への供給原料に適した温度(例えば60℃前後)まで濃縮汚泥を加熱することができる。また当該汚泥可溶化方法は、この加熱された濃縮汚泥の流れの中に、この流れと対向するように高温高圧水蒸気を噴出することによって、100℃以上に加熱された可溶化汚泥を形成する工程を有することから、このような高温高圧水蒸気の噴出手段は圧力容器(密閉容器)ではなく大気開放容器であってよいため、運転資格が必要なく、安価かつ安全な連続無人運転によって、加熱・可溶化された汚泥を形成することができる。また、当該汚泥可溶化装置によれば、この100℃以上に加熱された可溶化汚泥の流れと濃縮汚泥の流れとの熱交換を行うことによって、可溶化汚泥を50℃以上60℃以下にまで冷却する工程を有することから、100℃以上に加熱された可溶化汚泥をメタン発酵に適した温度にまで確実に冷却することができる。当該汚泥可溶化方法においては、可溶化汚泥形成工程において、100℃以上に加熱された可溶化汚泥の形成が、高温高圧水蒸気噴出により濃縮汚泥の一部に大気圧以上の動圧を発生させると同時に、高温高圧水蒸気の顕熱と凝縮潜熱とを用いて加熱を促進し、かつ、水蒸気の凝縮衝撃により濃縮汚泥の分解を促進することによって行われることから、形成された可溶化汚泥の消化率を向上させることができると共に、汚泥から生じる固形物量を顕著に減量することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明の汚泥可溶化装置及び汚泥可溶化方法によれば、濃縮された余剰汚泥を消化槽に供給する前段階において、高温高圧水蒸気噴出による動圧効果と水蒸気の凝縮衝撃とによる汚泥の可溶化を促進にすることで、余剰汚泥からの固形物のより一層の減量及び消化率のさらなる向上、並びに安価かつ簡易な連続無人運転による汚泥の加熱・可溶化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る汚泥可溶化装置を示す模式的断面図である。
【図2】図2は、本発明の図1とは別の実施形態に係る汚泥可溶化装置を示す模式的断面図である。
【図3】図3は、本発明に係る汚泥可溶化装置を用いた汚泥処理システムのプロセスフロー図である。
【図4】図4は、従来の汚泥消化設備のプロセスフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、適宜図面を参照しつつ本発明の実施の形態を詳説する。
図1に示された第一の実施形態に係る汚泥可溶化装置1は、主に、二重管式熱交換器2及び可溶化手段3を有する。
【0024】
二重管式熱交換器2は、横断面円形の外管5と、外管5の内側に間隔をおいて同心状に挿入された横断面円形の内管4とを有する。内管4及び外管5の材質は、特に限定されないが、例えばアルミニウム押出形材製が用いられる。内管4の両端部は外管5の両端部よりも外側に突出している。内管4及び外管5のサイズは、プロセスの処理容量等によって制限なく設計することが可能であるが、標準規格として設定されているサイズから選択するのが安価であり好ましい。
【0025】
活性汚泥を用いた廃水処理設備における最終沈殿池から得られる余剰汚泥は、公知の濃縮装置により、通常固形分濃度が約2〜5%程度になるまで濃縮され、濃縮汚泥が形成される。この濃縮汚泥が、汚泥可溶化装置1のフィードとして、二重管式熱交換器2の内管4の一方の端部から送入される(図中A)。濃縮汚泥Aは、内管4の一方の端部において、一般的に15℃以上30℃以下程度の温度及び250kPa以上350kPa以下程度の圧力を有する。濃縮汚泥Aは、内管4中を流れるにつれて、後述する可溶化手段3から送出された可溶化汚泥の流れ(図中B)と対向的に熱交換することによって、徐々に加熱される。このように加熱された濃縮汚泥Aは、内管4の他方の端部に至る時点で(可溶化手段3にフィードとして提供される時点で)、例えば50℃以上70℃以下程度の温度を有する。
【0026】
一方、後述の可溶化手段3から送出された可溶化汚泥Bは、二重管式熱交換器2の外管5の一方の端部(内管4の出口側)から送入される。可溶化汚泥Bは、外管5の一方の端部において、例えば110℃以上140℃以下程度の温度及び200kPa以上300kPa以下程度の圧力を有する。可溶化汚泥Bは、外管5中を流れるにつれて、濃縮汚泥Aの流れと対向的に熱交換することによって、徐々に冷却される。このように冷却された可溶化汚泥Bは、外管5の他方の端部に至る時点で(下流の消化槽にフィードとして提供される前の時点で)、メタン発酵に適した温度である50℃以上60℃以下程度の温度を有する。
【0027】
可溶化手段3は、エジェクタ(高温高圧水蒸気噴出部)6、高温高圧水蒸気供給部7、及び可溶化汚泥送出部8を有する。可溶化手段3において、二重管式熱交換器2の内管4から供給された濃縮汚泥Aに、これと対向する方向から、エジェクタ6を通じて高温高圧水蒸気の流れ(図中C)が高速で噴出・吹き込みされる。ここでの高温高圧水蒸気は、例えば150℃以上200℃以下の温度及び600kPa以上900kPa程度の圧力を有する。濃縮汚泥Aは、高温高圧水蒸気Cが高速で吹き込まれることによって、その一部に大気圧以上の動圧が発生し、それと同時に高温高圧水蒸気の顕熱と凝縮潜熱とによって加熱が促進され、上述のように110℃以上140℃以下程度の温度及び200kPa以上300kPa以下程度の圧力を有する状態となって、可溶化汚泥Bの流れが形成される。形成された可溶化汚泥Bは、可溶化汚泥送出部8から送出され、二重管式熱交換器2の外管5に供給される。また濃縮汚泥Aに高温高圧水蒸気Cを高速で吹き込むことによって、水蒸気の凝縮衝撃により汚泥の細胞群の分解・可溶化が促進される。高温高圧水蒸気Cの噴出速度(吹き込み速度)は、これと対向する濃縮汚泥Aの流速の5倍以上100倍以下であることが好ましい。このような大きな相対速度で、濃縮汚泥Aの流れに対向する方向から高温高圧水蒸気Cを噴出することによって、水蒸気の動圧効果による加熱及び水蒸気の凝縮衝撃(キャビテーション)による汚泥の可溶化を一層促進することができ、ひいては下流の消化槽における消化率の向上及び固形物の減量を達成することが可能となる。
【0028】
本実施形態の汚泥可溶化装置によれば、外部からエネルギーを加えることなく、効率的に可溶化手段への供給原料に適した温度(例えば50℃以上70℃以下程度)まで濃縮汚泥を加熱することができると同時に、100℃以上に加熱された可溶化汚泥をメタン発酵に適した温度である50℃以上60℃以下まで確実に冷却することが可能となる。また、この汚泥可溶化装置では、可溶化手段が、圧力容器(密閉容器)ではなく大気開放容器であるため、運転資格が必要なく、安全な24時間連続の無人運転によって、加熱・可溶化された汚泥を低コストで形成することができる。特に、24時間連続の無人運転が可能であることから、消化槽の加熱用ボイラーを簡易・小型化することができ、消化設備の建設費及び運営のための人件費を削減することができる。さらに、この汚泥可溶化装置では、高温高圧水蒸気の高速吹き込みによって汚泥の加熱・可溶化を大幅に促進することができるため、形成された可溶化汚泥の消化率の一層の向上と、汚泥から生じる固形物量の飛躍的な減量とを同時に達成することが可能となる。
【0029】
図2に示された第二の実施形態に係る汚泥可溶化装置10は、主に、多管式熱交換器11及び可溶化手段12を有する。なお、本実施形態においては、多管式熱交換器11と可溶化手段12の構造の一部(後述する高温高圧水蒸気噴出部17の一部)とは、単一の筐体内に形成されている。
【0030】
多管式熱交換器11は、主に、円筒形の外筒内に複数の管13、その周囲部(空隙)14、及び複数のバッフル15を有する。管13は、横断面円形であり、略均一な間隔で多数配設される。管13の材質は、特に限定されないが、例えばアルミニウム押出形材製が用いられる。また、内管13のサイズは、プロセスの処理容量等によって制限なく設計することが可能であるが、標準規格として設定されているサイズから選択するのが安価であり好ましい。
【0031】
廃水処理設備で得られた余剰汚泥から形成された濃縮汚泥は、汚泥可溶化装置10のフィードとして、多管式熱交換器11の管13の各々の一方の端部から送入される(図中A)。濃縮汚泥Aは、管13の一方の端部において、一般的に15℃以上30℃以下程度の温度及び250kPa以上350kPa以下程度の圧力を有する。濃縮汚泥Aは、管13中を流れるにつれて、後述する可溶化手段12で高温高圧水蒸気によって処理された可溶化汚泥の流れ(図中B)と対向的に熱交換することによって、徐々に加熱される。このように加熱された濃縮汚泥Aは、可溶化手段12から高温高圧水蒸気の高速吹き込みを受ける直前の時点で、例えば50℃以上70℃以下程度の温度を有する。
【0032】
一方、後述の可溶化手段12で高温高圧水蒸気によって処理された可溶化汚泥Bは、管13の各々の他方の端部から送出された後、逆方向への流れを形成するように、管13の周囲部14内に送入される。可溶化汚泥Bは、可溶化手段12から高温高圧水蒸気の高速吹き込みを受け加熱・可溶化された時点で、例えば110℃以上140℃以下程度の温度及び200kPa以上300kPa以下程度の圧力を有する。可溶化汚泥Bは、複数のバッフル15によって整流されながら周囲部14内を流れるにつれて、濃縮汚泥Aの流れと熱交換することによって、徐々に冷却される。このように冷却された可溶化汚泥Bは、周囲部14の排出箇所に至る時点で(下流の消化槽にフィードとして提供される前の時点で)、メタン発酵に適した温度である50℃以上60℃以下程度の温度を有する。
【0033】
可溶化手段12は、高温高圧水蒸気送路16及び高温高圧水蒸気噴出部17を有する。この高温高圧水蒸気噴出部17は、多管式熱交換器11の複数の管13のそれぞれに、高温高圧水蒸気送路16を通じて高温高圧水蒸気が噴出・吹き込みされるよう構成されている。すなわち、可溶化手段12においては、多管式熱交換器11の複数の管13の各々に、高温高圧水蒸気噴出部17が挿通されている。濃縮汚泥Aへの高温高圧水蒸気の流れ(図中C)の供給は、高温高圧水蒸気送路16を経由した高温高圧水蒸気が高温高圧水蒸気噴出部17を通じ、濃縮汚泥Aと対向する方向から高速で吹き込まれることによって行われる。ここでの高温高圧水蒸気は、第一の実施形態と同様、例えば100℃以上200℃以下の温度(対応する圧力は100kPa程度以上1600kPa程度以下の圧力)を有する。濃縮汚泥Aは、高温高圧水蒸気Cが高速で吹き込まれることによって、その一部に大気圧以上の動圧が発生し、それと同時に高温高圧水蒸気の顕熱と凝縮潜熱とによって加熱が促進され、110℃以上140℃以下程度の温度(対応する圧力は100kPa程度以上400kPa程度以下の圧力)有する状態となって、可溶化汚泥Bの流れが形成される。形成された可溶化汚泥Bは、管13の端部から送出された後、管13の周囲部14内に送入され、濃縮汚泥Aとの熱交換に供される。また、上述のように、濃縮汚泥Aに高温高圧水蒸気Cを高速で吹き込むことによって、水蒸気の凝縮衝撃により汚泥の細胞群の分解・可溶化が促進される。高温高圧水蒸気Cの噴出速度は、これと対向する濃縮汚泥Aの流速の5倍以上100倍以下であることが好ましい。このような大きな相対速度で、濃縮汚泥Aの流れに対向方向から高温高圧水蒸気Cを供給することによって、第一の実施形態の場合と同様に、水蒸気の動圧効果による加熱及び水蒸気の凝縮衝撃(キャビテーション)による汚泥の可溶化を一層促進することができ、ひいては下流の消化槽における消化率の向上及び固形物の減量を達成することが可能となる。
【0034】
本実施形態の汚泥可溶化装置によれば、上記第一の実施形態の場合と同様の効果が得られる。また、本実施形態の汚泥可溶化装置では、多管式熱交換器の複数の管の各々に、可溶化手段からの高温高圧水蒸気が噴出するよう構成されていることによって、十分に加熱・可溶化された汚泥を効率的に形成することが可能である。
【0035】
図3の汚泥処理システム20のプロセスフローは、最初沈殿池21、生物処理槽22及び最終沈殿池23からなる廃水処理設備、濃縮装置24、汚泥可溶化装置25、消化槽26、並びに脱水装置27を有する汚泥処理システムにおける処理のフローである。
【0036】
下水等の廃水は、最初沈殿池21に流入し、この最初沈殿池21において沈殿しやすい浮遊物が沈殿除去され、次いで生物処理槽22において好気性微生物の作用により廃水中の有機物などが分解除去され、その後、最終沈殿池23にて活性汚泥を沈殿させ、清浄化された上澄み水が処理水として外部に放流される。最初沈殿池21、生物処理槽22及び最終沈殿池23は、廃水処理設備を構成している。最初沈殿池21からの固形物を回収することで得られた生汚泥(最初沈殿池汚泥)は、無加温のまま直接消化槽26に供給される。
【0037】
最終沈殿池23で沈殿した活性汚泥は、その一部が返送汚泥として生物処理槽22に戻される一方、残りの余剰汚泥が減容化のため、例えば遠心濃縮機,浮上濃縮機などの濃縮装置24に送られ、固形物濃度が2〜5%程度となるまで濃縮される。このようにして得られた濃縮汚泥は、本発明による汚泥可溶化装置25に供給され、加熱かつ可溶化された汚泥が生成される。この可溶化汚泥は、生汚泥(最初沈殿池汚泥)と共に消化槽26へ供給され、ここで酸生成菌やメタン生成菌等の嫌気性細菌の作用による高温嫌気性消化処理されることによって、メタン約60%、二酸化炭素約40%の混合ガスである消化ガスが生成される。この消化ガスは、脱硫された後、発電用の燃料として利用される。消化槽26には、メタン発酵に適した温度を維持するためにボイラーが併設される。ただし、この汚泥処理システムは、24時間連続の無人運転が可能な本発明による汚泥可溶化装置25を含んで構成されているため、消化槽の加熱用ボイラーを簡易・小型化することができ、消化設備に関する建設費及び人件費を削減することができる。
【0038】
消化槽26における高温嫌気性消化処理で生じた消化液(一部消化汚泥)は、例えばべルトプレス脱水機からなる脱水装置27で脱水処理されることによって、脱水汚泥が形成される。この脱水汚泥は、廃棄処分される一方、脱水によって消化液から分離された脱水分離液(脱水ろ液)は、返流水として最初沈殿池21の入口側に返送される。また、消化槽26から得られた消化液(一部消化汚泥)の一部分は、濃縮装置24に戻され、再度濃縮され、後続の処理にかけられる。
【0039】
本実施形態の汚泥処理システムによれば、本発明に係る汚泥可溶化装置を備えていることから、濃縮された余剰汚泥を消化処理(嫌気性処理)するための消化槽に供給する前の段階で、高温高圧水蒸気を用いて余剰汚泥の加熱・可溶化を促進し、それによって余剰汚泥からの固形物の減量及び消化率の向上を同時に達成し、さらには、安価な装置を用いた無人運転で汚泥を効率的に加熱・可溶化することが可能である。また、この汚泥処理システムに含まれる汚泥可溶化装置は、24時間連続の無人運転が可能であることから、消化槽の加熱用ボイラーを簡易・小型化することができ、消化設備に関する諸経費を大幅に削減することができる。
【0040】
本発明は、これらの実施形態に限定されるものではない。例えば、二重管式の熱交換器を用い、この熱交換器の複数の管のそれぞれに、可溶化手段からの高温高圧水蒸気が噴出するよう構成してもよい。また、バッフルを有する多管式の熱交換器を用い、熱交換器と可溶化手段が分離した構造体としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の汚泥可溶化装置及び方法によれば、余剰汚泥からの固形物のより一層の減量及び消化率のさらなる向上、並びに安価かつ簡易な連続無人運転による汚泥の加熱・可溶化が可能となるため、工場や地方自治体の下水処理場の廃水処理設備に併設された消化処理を利用した発電施設等において、好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0042】
1 汚泥可溶化装置
2 熱交換器
3 可溶化手段
4 内管
5 外管
6 エジェクタ(高温高圧水蒸気噴出部)
7 高温高圧水蒸気供給部
8 可溶化汚泥送出部
10 汚泥可溶化装置
11 熱交換器
12 可溶化手段
13 管
14 周囲部
15 バッフル
16 高温高圧水蒸気送路
17 高温高圧水蒸気噴出部
20 汚泥処理システム
21 最初沈殿池
22 生物処理槽
23 最終沈殿池
24 濃縮装置
25 汚泥可溶化装置
26 消化槽
27 脱水装置
50 濃縮装置
51 消化槽
52 加温用ボイラ
53 脱水装置
54 発電機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
濃縮汚泥からメタン発酵用の可溶化汚泥を形成するための汚泥可溶化装置であって、
濃縮汚泥の流れと可溶化汚泥の流れとの熱交換によって、濃縮汚泥を加熱し、かつ可溶化汚泥を冷却する熱交換器と、
この加熱された濃縮汚泥の流れの中に、この流れと対向するように高温高圧水蒸気を噴出することによって、100℃以上に加熱された可溶化汚泥を形成する可溶化手段と
を備えることを特徴とする汚泥可溶化装置。
【請求項2】
上記熱交換器として二重管式熱交換器が用いられる請求項1に記載の汚泥可溶化装置。
【請求項3】
上記熱交換器として、多管式熱交換器が用いられ、上記可溶化手段によりこの多管式熱交換器の複数の管のそれぞれに、高温高圧水蒸気が噴出するよう構成されている請求項1に記載の汚泥可溶化装置。
【請求項4】
上記高温高圧水蒸気の噴出速度は、これと対向する上記濃縮汚泥の流速の5倍以上100倍以下である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の汚泥可溶化装置。
【請求項5】
上記濃縮汚泥が、活性汚泥による廃水処理装置から回収された余剰汚泥を濃縮したものを含む請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の汚泥可溶化装置。
【請求項6】
上記濃縮汚泥が、メタン発酵後の一部が消化された汚泥を再濃縮したものを含む請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の汚泥可溶化装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の汚泥可溶化装置、
汚泥を脱水することによって上記汚泥可溶化装置に供給するための濃縮汚泥を形成する濃縮装置、及び
上記汚泥可溶化装置によって形成された可溶化汚泥に対して、メタン発酵を含む消化処理を行う消化槽
を備える汚泥処理システム。
【請求項8】
メタン発酵用の可溶化汚泥を形成するための汚泥可溶化方法であって、
活性汚泥による廃水処理装置から回収された余剰汚泥を濃縮したものを含む濃縮汚泥の流れと可溶化汚泥の流れとの熱交換を行うことによって、濃縮汚泥を加熱する工程と、
この加熱された濃縮汚泥の流れの中に、この流れと対向するように高温高圧水蒸気を噴出することによって、100℃以上に加熱された可溶化汚泥を形成する工程と、
この100℃以上に加熱された可溶化汚泥の流れと濃縮汚泥の流れとの熱交換を行うことによって、可溶化汚泥を50℃以上60℃以下にまで冷却する工程と
を有することを特徴とする汚泥可溶化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−98249(P2011−98249A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252532(P2009−252532)
【出願日】平成21年11月3日(2009.11.3)
【出願人】(708001244)株式会社テクノプラン (5)
【出願人】(500005712)熱研産業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】