説明

油中希釈燃料分離装置

【課題】内燃機関の潤滑オイルの劣化を抑制しつつ潤滑オイル中に含まれる燃料成分を効率よく分離して空燃比のバランスの崩れを抑制することができる簡易な構造の油中希釈燃料分離装置を提供する。
【解決手段】本装置1は、内燃機関(エンジン2)の潤滑オイルを貯留するオイル貯留部(オイルパン3)と、前記オイル貯留部内の潤滑オイルの上方側に設けられるバッフルプレート4と、前記バッフルプレートに設けられ、且つ、該バッフルプレートの上面側を通る潤滑オイルに含まれる燃料成分6を透過させて分離する分離部材5と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油中希釈燃料分離装置に関し、更に詳しくは、内燃機関の潤滑オイルの劣化を抑制しつつ潤滑オイル中に含まれる燃料成分を効率よく分離して空燃比のバランスの崩れを抑制することができる簡易な構造の油中希釈燃料分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、内燃機関の潤滑オイルの燃料成分の混入による希釈を抑制するため、その分離方法として、潤滑オイルを昇温させることにより燃料成分を気化させて分離する方法が知られている。(例えば、特許文献1及び2参照。)。
上記特許文献1には、内燃機関の潤滑回路内に設けられたオイルヒータにより、潤滑オイルの温度を上昇させて、潤滑オイルに混入した燃料や潤滑オイルに混入しようとする燃料のうち気化する燃料成分を増やすことが開示されている。
また、上記特許文献2には、オイルパン内の潤滑油を加熱するためのヒータをオイルパン底部に設けて潤滑油の温度調整を行い、燃料を気化させることが開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−190513号公報
【特許文献2】特開2004−340056号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、自動車等のエンジンにおいて、燃焼室からクランク室へ漏れるブローバイガスを吸気系に還流して大気中への放出を防止するブローバイガス還流手段が一般的に知られている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、上記特許文献1及び2では、潤滑オイル中の燃料成分をヒータで加熱して気化分離しているので、その気化分離された比較的大量の燃料成分がクランク室内のブローバイガス中に一度に混入して吸気系に還流されると、空燃比のバランスが崩れてノッキング等の異常燃焼を起こす恐れがある。また、潤滑オイルを200℃程度まで昇温させれば、潤滑オイル自体が劣化してしまうという問題が発生する。しかも、上記特許文献1及び2のいずれの場合も潤滑回路内のオイル全体を加熱するようにしているので、ヒータが大掛かりな構成になってしまう。
【0005】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、内燃機関の潤滑オイルの劣化を抑制しつつ潤滑オイル中に含まれる燃料成分を効率よく分離して空燃比のバランスの崩れを抑制することができる簡易な構造の油中希釈燃料分離装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の通りである。
1.内燃機関の潤滑オイルを貯留するオイル貯留部と、
前記オイル貯留部内の潤滑オイルの上方側に設けられるバッフルプレートと、
前記バッフルプレートに設けられ、且つ、該バッフルプレートの上面側を通る潤滑オイルに含まれる燃料成分を透過させて分離する分離部材と、を備えることを特徴とする油中希釈燃料分離装置。
2.前記分離部材を透過した前記燃料成分を前記オイル貯留部の外部に排出するための排出通路を更に備える上記1.記載の油中希釈燃料分離装置。
3.前記排出通路内に負圧を発生させる負圧発生手段を更に備える上記2.記載の油中希釈燃料分離装置。
4.前記分離部材に振動力を与える振動力付与手段を更に備える上記1.乃至3.のいずれか一項に記載の油中希釈燃料分離装置。
5.前記バッフルプレートの上面側は、所定量の潤滑オイルを溜め得るように受け皿状に形成されている上記1.乃至4.のいずれか一項に記載の油中希釈燃料分離装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明の油中希釈燃料分離装置によると、バッフルプレートに設けられた分離部材によって、バッフルプレートの上面側を通る潤滑オイルに含まれる燃料成分が透過分離される。これにより、従来のように、潤滑オイル中の燃料成分をヒータで加熱して気化分離するものに比べて、内燃機関の潤滑オイルの劣化を抑制しつつ潤滑オイル中に含まれる燃料成分を効率よく分離して空燃比のバランスの崩れを抑制することができる。また、装置全体を簡易な構造とすることができる。
また、前記分離部材を透過した前記燃料成分を前記オイル貯留部の外部に排出するための排出通路を更に備える場合は、燃料成分をより確実にオイル貯留部の外部に排出することができる。
また、前記排出通路内に負圧を発生させる負圧発生手段を更に備える場合は、分離部材において潤滑オイルから燃料成分を吸引することができるので、燃料成分をより効率よく分離することができる。
また、前記分離部材に振動力を与える振動力付与手段を更に備える場合は、分離部材を篩のように振動させることにより潤滑オイルから燃料成分を振るい落とすことができるので、燃料成分をより効率よく分離することができる。
さらに、前記バッフルプレートの上面側は、所定量の潤滑オイルを溜め得るように受け皿状に形成されている場合は、潤滑オイルを一旦溜めて燃料成分を分離することができるので、分離部材上を単に流れるよりも燃料成分を効率よく分離することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
1.油中希釈燃料分離装置
本実施形態1.に係る油中希釈燃料分離装置は、以下に述べるオイル貯留部、バッフルプレート、及び分離部材を備えている。この油中希釈燃料分離装置は、例えば、後述する排出通路及び/又は振動力付与手段を更に備えることができる。
【0009】
上記「オイル貯留部」は、内燃機関の潤滑オイルを貯留する限り、その構造、大きさ、形状、材質、設置形態、数量などは特に問わない。
【0010】
上記「バッフルプレート」は、オイル貯留部内の潤滑オイルの上方側に設けられる限り、その構造、大きさ、形状、材質、設置形態、数量などは特に問わない。このバッフルプレートは、通常、オイル貯留部内のオイルの液面の上方を覆うように設けられており、オイル貯留部のオイルが上方に飛び跳ねることを防止する機能を有している。
上記バッフルプレートの上面側は、例えば、所定量の潤滑オイルを溜め得るように受け皿状に形成されていることができる。
【0011】
上記「分離部材」は、バッフルプレートに設けられ、且つ、該バッフルプレートの上面側を通る潤滑オイルに含まれる燃料成分を透過させて分離する限り、その構造、大きさ、形状、材質、設置形態、分離形態、数量などは特に問わない。
【0012】
上記分離部材としては、例えば、(1)燃料成分を透過可能な多数の細孔を有する分離膜部からなる形態、(2)燃料成分を透過可能な多数の細孔を有する分離膜部と、この分離膜部を支持し且つ分離膜部の細孔の径よりも大きい多数の細孔を有する支持体部とを有する形態等を挙げることができる。
【0013】
上記(1)(2)形態において、上記分離膜部の細孔径(平均細孔径)は、例えば、5〜50nm(好ましくは10〜20nm)であることができる。また、この分離膜部の厚さは、例えば、100nm以下であることができる。さらに、この分離膜部の材質としては、例えば、セラミック、樹脂、ゴム等を挙げることができる。
上記(2)形態において、上記支持体部の厚さは、例えば、0.1〜100mm(好ましくは1〜3mm)であることができる。さらに、この支持体部の材質としては、例えば、セラミック、樹脂、ゴム等を挙げることができる。
【0014】
上記「排出通路」は、上記分離部材を透過した燃料成分をオイル貯留部の外部に排出するための通路である限り、その構造、大きさ、形状、材質、設置形態、数量などは特に問わない。この排出通路の一端側は、例えば、燃料成分を貯留する貯留タンクに接続されたり、内燃機関の吸気管に接続されたりすることができる。
【0015】
上記排出通路を備える場合、この排出通路内に負圧を発生させる負圧発生手段を更に備えることが好ましい。この負圧発生手段としては、例えば、ポンプを使用したり、内燃機関の吸気系の負圧を利用したりすることができる。
【0016】
上記「振動力付与手段」は、上記分離部材に振動力を与える限り、その構造、大きさ、形状、材質、設置形態、振動形態、数量などは特に問わない。この振動力付与手段としては、例えば、内燃機関の駆動力を振動力として分離部材に伝達する構造としたり、内燃機関の駆動力とは別の振動発生源(例えば、振動モータ等)の振動力を分離部材に伝達する構造としたりすることができる。
【実施例】
【0017】
以下、図面を用いて実施例により本発明を具体的に説明する。
なお、本実施例では、本発明に係る「内燃機関」として、燃焼室内に燃料噴射弁が配置され気筒内周面に直接燃料を噴射する直噴式エンジン(以下、単に「エンジン」とも略記する。)を例示する。
【0018】
(1)油中希釈燃料分離装置の構成
本実施例に係る油中希釈燃料分離装置1は、図1に示すように、ウェットサンプ式エンジン2(以下、単に「エンジン」と略記する。)に設けられている。この油中希釈燃料分離装置1は、エンジン2の潤滑オイルを貯留するオイルパン3(本発明に係る「オイル貯留部」として例示する。)と、オイルパン3内のオイルの上方側に設けられるバッフルプレート4と、バッフルプレート4に設けられる分離部材5と、この分離部材5を透過した燃料成分6をオイル貯留部3の外部に排出するための排出通路7と、を備えている。
【0019】
上記バッフルプレート4は、オイルパン3内のオイルの液面上方を覆うように略水平に設けられている。このバッフルプレートにより、オイル貯留部のオイルが上方に飛び跳ねてクランクシャフト等に付着してしまうことが防止される。また、このバッフルプレート4の上面側は、所定量の潤滑オイルを溜め得るようにフランジ部4aを備えた受け皿状に形成されている。
【0020】
上記分離部材5は、図2に示すように、燃料成分6を透過可能な多数の細孔を有する上側の分離膜部10と、この分離膜部10の下面を支持し且つ分離膜部10の細孔の径よりも大きい多数の細孔を有する下側の支持体部9とを有している。この分離膜部10は、その細孔径(平均径)が20nm程度とされており、その厚さが100nm程度とされている。また、支持部材9は、その厚さが1.5mm程度とされている。
【0021】
ここで、内燃機関に用いられるガソリン等の燃料は、その分子構造において、1つの分子あたり4〜13個程度の炭素原子を有しているが、潤滑オイルの場合、1つの分子あたり25個以上の炭素原子を有している。このような分子の構成の違いにより、燃料の分子径は分離膜部10の細孔の径よりも小さく、潤滑オイルの分子径は分離膜部10の細孔の径よりも大きいため、分離膜部10により潤滑オイルに混合している燃料成分6を分離することができる。そして、支持体部9の細孔径は分離膜部10の細孔径と比較して極めて大きいので、分離膜部10を通過した燃料成分6は、分離膜部10を通過するよりも小さい抵抗で支持体部9を通過することができる。
【0022】
上記排出通路7の一端側は、バッフルプレート4の下面側の略中央部に接続されている。この排出通路7の他端側は、エンジン本体の外部に延びており、燃料成分を貯留する貯留タンク8に接続されている。また、この排出通路7の途中にはポンプ11(本発明に係る「負圧発生手段」として例示する。)が配設されている。
【0023】
(2)油中希釈燃料分離装置の作用
次に、上記構成の油中希釈燃料分離装置1の作用について説明する。
なお、本実施例では、直噴式エンジン2を採用しているので、気筒内周面に付着した燃料が潤滑オイルに混ざりオイルパン3内の潤滑オイルが希釈され易い。特に、潤滑オイルの低温時(例えば、50℃以下)には潤滑オイル中の燃料の気化がほとんどなく希釈燃料が比較的多い状態となる。一方、潤滑オイルの高温時(例えば、約130℃)には潤滑オイル中の大部分の燃料が気化されて希釈燃料が比較的少ない状態となる。
【0024】
先ず、エンジン2の上部から潤滑オイルがバッフルプレート4に設けられた分離部材5の上面に滴下する(図1中に実線矢印で示す。)。このバッフルプレート4は受け皿状になっているので、滴下した潤滑オイルはすぐに側方から流れ落ちることなく分離部材5の上方に溜められる。また、排出通路7内には、ポンプ11の作動により負圧が作用しており、分離部材5の上方に溜められるオイルにも負圧が作用している。そのため、そのオイル中に含まれる燃料成分6は、分離部材5の分離膜部10及び支持体部9を通過して、バッフルプレート4の底部から排出通路7を経て貯留タンク8に送られ回収される。一方、分離部材5の上部に溜まった潤滑オイルは、上方からの滴下が続くことにより受け皿状のバッフルプレート4のフランジ部4aの上端縁から溢れ出してオイルパン3内に滴下する。
【0025】
(3)実施例の効果
以上より、本実施例の油中希釈燃料分離装置1では、バッフルプレート4に設けられた分離部材5によって、バッフルプレート4の上面側を通るオイルに含まれる燃料成分6が透過分離される。これにより、従来のように、潤滑オイル中の燃料成分をヒータで加熱して気化分離するものに比べて、オイルの劣化を抑制しつつオイル中に含まれる燃料成分を効率よく分離して空燃比のバランスの崩れを抑制することができる。また、装置全体を簡易な構造とすることができる。
【0026】
また、本実施例では、分離部材5を透過した燃料成分6をオイルパン3の外部に排出するための排出通路7を設けたので、燃料成分6をより確実にオイルパン3の外部に排出することができる。
【0027】
また、本実施例では、排出通路7内に負圧を発生させるポンプ11を設けたので、分離部材5において潤滑オイルから燃料成分を吸引でき、燃料成分をより効率よく分離することができる。
【0028】
さらに、本実施例では、バッフルプレート4の上面側を、所定量の潤滑オイルを溜め得るように受け皿状に形成したので、潤滑オイルを一旦溜めて燃料成分6を分離でき、分離部材5上を単に流れるよりも燃料成分6を効率よく分離することができる。
【0029】
尚、本発明においては、上記実施例に限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。即ち、上記実施例では、分離部材5による燃料成分6の分離効率を高めるためにポンプ11(負圧発生手段)を設けるようにしたが、これに限定されず、例えば、この負圧発生手段に代えて又は加えて、振動力付与手段としてエンジン2の振動力を分離部材5に伝達したり、振動モータ等の振動発生源の振動力を分離部材5に伝達したりするようにしてもよい。このように、分離部材5を篩のように振動させることにより潤滑オイルから燃料成分6を振るい落とすことができ、燃料成分6の分離効率をさらに高めることができる。
【0030】
また、上記実施例では、排出通路7の一端側を貯留タンク8に接続するようにしたが、これに限定されず、例えば、排出通路7の一端側をエンジン2の吸気管12に接続するようにしてもよい。これにより、分離された燃料をエンジン2にて燃焼処理することができる。
【0031】
また、上記実施例では、バッフルプレート4を略水平に配設するようにしたが、これに限定されず、例えば、バッフルプレート4を水平に対して斜めに傾斜して配設するようにしてもよい。また、上記実施例では、受け皿状のバッフルプレート4を例示したが、これに限定されず、例えば、略平板状のバッフルプレートとしてもよい。
【0032】
さらに、上記実施例では、分離部材10と支持体部9との2層構造からなる分離部材5を例示したが、これに限定されず、例えば、分離部材10と支持体部9との間に1又は2以上の層を介在させてなる分離部材としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
内燃機関の潤滑オイル中に含まれる希釈燃料を分離する技術として広く利用される。特に、直墳式エンジンの潤滑オイル中に含まれる希釈燃料を分離する技術として好適に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施例に係る油中希釈燃料分離装置を含むエンジンの全体回路図である。
【図2】実施例に係る分離部材の縦断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1;油中希釈燃料分離装置、2;エンジン、3;オイルパン、4;バッフルプレート、5;分離部材、6;燃料成分、7;排出通路、11;ポンプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の潤滑オイルを貯留するオイル貯留部と、
前記オイル貯留部内の潤滑オイルの上方側に設けられるバッフルプレートと、
前記バッフルプレートに設けられ、且つ、該バッフルプレートの上面側を通る潤滑オイルに含まれる燃料成分を透過させて分離する分離部材と、を備えることを特徴とする油中希釈燃料分離装置。
【請求項2】
前記分離部材を透過した前記燃料成分を前記オイル貯留部の外部に排出するための排出通路を更に備える請求項1記載の油中希釈燃料分離装置。
【請求項3】
前記排出通路内に負圧を発生させる負圧発生手段を更に備える請求項2記載の油中希釈燃料分離装置。
【請求項4】
前記分離部材に振動力を与える振動力付与手段を更に備える請求項1乃至3のいずれか一項に記載の油中希釈燃料分離装置。
【請求項5】
前記バッフルプレートの上面側は、所定量の潤滑オイルを溜め得るように受け皿状に形成されている請求項1乃至4のいずれか一項に記載の油中希釈燃料分離装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−84740(P2010−84740A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−257821(P2008−257821)
【出願日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】