説明

油井管用マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管およびその製造方法

【課題】降伏強さYS95ksi級(665〜758MPa)の高強度と優れた低温靭性とを兼備する油井管用継目無鋼管およびその製造方法を提供する。
【解決手段】mass%で、C:0.020%以下、Cr:10〜14%、Ni:3%以下、N:0.05%以下、Nb:0.03〜0.2%を含み、あるいはさらにSi:1.0%以下、Mn:0.1〜2.0%、Al:0.10%以下、を含む組成を有するステンレス継目無鋼管に、Ac3変態点以上の焼入れ温度に加熱したのち、空冷以上の冷却速度で100℃以下の温度域まで冷却する焼入れ処理と、該焼入れ処理に引続き、550℃以上の焼戻温度に加熱し、冷却する焼戻処理とを施す。析出Nb量が0.020%以上の焼戻マルテンサイト組織を有し、降伏強さ95ksi級の高強度とvTrs:−40℃以下の優れた低温靭性とを兼備し、温間矯正処理が可能な油井管用マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油井管用マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管に係り、とくに、降伏強さYSが95ksi(655MPa)以上の高強度と、かつ優れた低温靭性とを兼備する油井管用継目無鋼管およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、原油価格の高騰や、近い将来に予想される石油資源の枯渇という観点から、従来、省みられなかったような深度が深い油田や、炭酸ガス、塩素イオン等を含む厳しい腐食環境の油田やガス田、さらには寒冷地や海底といった掘削環境が厳しい油田等の開発が盛んになっている。このような環境下で使用される油井用鋼管には、高強度で、かつ優れた耐食性、さらには優れた靭性を兼ね備えた材質を有することが要求される。
【0003】
従来から、炭酸ガスCO、塩素イオンCl等を含む環境の油田、ガス田では、採掘に使用する油井管として13%Crマルテンサイト系ステンレス鋼管が多く使用されている。
例えば、特許文献1には、C:0.01〜0.1%、Cr:9〜15%、N:0.1%以下を含み、比較的高いC含有量で高強度であるにも拘わらず、高い靭性を有し、油井管などに好適な、マルテンサイト系ステンレス鋼が提案されている。特許文献1に記載された技術では、旧オーステナイト結晶粒界に存在する炭化物量を0.5体積%以下に低減し、炭化物の最大短径長さを10〜200nmとし、炭化物中の平均Cr濃度と平均Fe濃度の比を0.4以下として、M23C型の炭化物の析出を抑制し、MC型の炭化物を積極的に析出させることにより、靭性を大幅に改善できるとしている。このような炭化物の構造と組成を所望の範囲に調整するために、特許文献1に記載された技術では、熱間加工後空冷(放冷)するか、あるいは溶体化後空冷(放冷)ままとするか、あるいは溶体化後空冷(放冷)し、450℃以下の低温で焼戻するとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−363708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された技術を適用して、450℃以下の低温焼戻を行った場合には、焼戻処理後の矯正が低温で行われるため、矯正に際して加工歪が導入され、鋼管特性、とくに降伏強さYSのばらつきが多くなるという問題があった。
本発明は、かかる従来技術の問題を解決し、降伏強さYS 95ksi級(655〜758MPa)以上の高強度と優れた低温靭性とを兼備する油井管用継目無鋼管およびその安定した製造方法を提案することを目的とする。なお、ここでいう「優れた低温靭性」とは、シャルピー衝撃試験の破面遷移温度vTrsが−40℃以下である場合をいう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記した目的を達成するために、13Crマルテンサイト系ステンレス鋼管の高強度化に伴う靭性の変化に及ぼす、成分組成、熱処理条件の影響について、鋭意研究した。その結果、C含有量を0.020%以下に制限し、Cr含有量を耐食性が劣化しない範囲の10〜14%Cr程度とし、さらに3%以下の比較的低いNi含有量としたうえで、0.03%以上の比較的多量のNbを含有させた成分系とすることにより、M23C型Cr系炭化物の粒界析出に起因する靭性の劣化が防止できることを見出した。また、これにより、焼入れ処理後に、550℃以上の高温で焼戻処理を施しても、降伏強さYS 95ksi級(655〜758MPa)以上の高強度を確保し、かつvTrsが−40℃以下の高靭性を有する鋼管とすることができ、また矯正温度を450℃以上と高い温度とすることが可能となり、とくに矯正処理後の降伏強さYSの増加が15MPa以下と少なくなるという知見を得た。
【0007】
本発明は、上記した知見に基づき、さらに検討を重ねて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)mass%で、C:0.020%以下、Cr:10〜14%、Ni:3%以下、Nb:0.03〜0.2%、N:0.05%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、さらに析出Nb量がNb換算で0.020%以上である組織とを有し、降伏強さ95ksi以上の高強度とシャルピー衝撃試験の破面遷移温度vTrsが−40℃以下の優れた低温靭性とを兼備することを特徴とする油井管用マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管。
【0008】
(2)mass%で、C:0.020%以下、Si:1.0%以下、Mn:0.1〜2.0%、P:0.020%以下、S:0.010%以下、Al:0.10%以下、Cr:10〜14%、Ni:3%以下、Nb:0.03〜0.2%、N:0.05%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、さらに析出Nb量がNb換算で0.020%以上である組織とを有し、降伏強さ95ksi以上の高強度とシャルピー衝撃試験の破面遷移温度vTrsが−40℃以下の優れた低温靭性とを兼備することを特徴とする油井管用マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管。
【0009】
(3)(1)または(2)において、前記Nbを、C、Al、Nとの関係で次(1)式
C−31/4Nb+7/6N−9/4Al ≦ −0.30 ‥‥‥(1)
(ここで、C、Nb、N、Al:各元素の含有量(mass%))
を満足するように含有する組成とすることを特徴とする油井管用マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管。
【0010】
(4)(1)ないし(3)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、mass%で、Cu:2.0%以下、Mo:2.0%以下のうちから選ばれた1種または2種を含有する組成とすることを特徴とする油井管用マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管。
(5)(1)ないし(4)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、mass%で、V:0.20%以下、Ti:0.10%以下、B:0.005%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする油井管用マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管。
【0011】
(6)(1)ないし(5)のいずれかにおいて、前記Nbを、次(2)式
0.090 ≦ Nb+3×Mo/20 ≦ 0.120 ‥‥(2)
(ここで、Nb、Mo:各元素の含有量(質量%))
を満足するように調整して含有する組成とすることを特徴とする油井管用マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管。
【0012】
(7)(1)ないし(6)のいずれかに記載された油井管用マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管であって、降伏比が89%以下で、シャルピー衝撃試験の試験温度:−60℃における吸収エネルギーvE−60が180J以上である優れた低温靭性とを有することを特徴とする油井管用マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管。
(8)mass%で、C:0.020%以下、Cr:10〜14%、Ni:3%以下、Nb:0.03〜0.2%、N:0.05%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有するステンレス継目無鋼管に、Ac3変態点以上の焼入れ温度に加熱したのち、該焼入れ温度から空冷以上の冷却速度で100℃以下の温度域まで冷却する焼入れ処理と、該焼入れ処理に引続き、550℃以上Ac1変態点以下の焼戻温度に加熱し、冷却する焼戻処理と、を施すことを特徴とする高強度と優れた低温靭性とを兼備する油井管用マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管の製造方法。
【0013】
(9)mass%で、C:0.020%以下、Si:1.0%以下、Mn:0.1〜2.0%、P:0.020%以下、S:0.010%以下、Al:0.10%以下、Cr:10〜14%、Ni:3%以下、Nb:0.03〜0.2%、N:0.05%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有するステンレス継目無鋼管に、Ac3変態点以上の焼入れ温度に加熱したのち、該焼入れ温度から空冷以上の冷却速度で100℃以下の温度域まで冷却する焼入れ処理と、該焼入れ処理に引続き、550℃以上Ac1変態点以下の焼戻温度に加熱し、冷却する焼戻処理と、を施すことを特徴とする高強度と優れた低温靭性とを兼備する油井管用マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管の製造方法。
【0014】
(10)(8)または(9)において、前記Nbを、C、Al、Nとの関係で次(1)式
C−31/4Nb+7/6N−9/4Al ≦ −0.30 ‥‥‥(1)
(ここで、C、Nb、N、Al:各元素の含有量(mass%))
を満足するように含有する組成とすることを特徴とする油井管用マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管の製造方法。
【0015】
(11)(8)ないし(10)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、mass%で、Cu:2.0%以下、Mo:2.0%以下のうちから選ばれた1種または2種を含有する組成とすることを特徴とする油井管用マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管の製造方法。
(12)(8)ないし(11)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、mass%で、V:0.20%以下、Ti:0.10%以下、B:0.005%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする油井管用マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管の製造方法。
【0016】
(13)(8)ないし(12)のいずれかにおいて、前記Nbを、次(2)式
0.090 ≦ Nb+3×Mo/20 ≦ 0.120 ‥‥(2)
(ここで、Nb、Mo:各元素の含有量(質量%))
を満足するように調整して含有する組成とすることを特徴とする油井管用マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管の製造方法。
【0017】
(14)(8)ないし(13)のいずれかにおいて、前記焼戻処理後の冷却中に、矯正処理を450℃以上の温度域で行うことを特徴とする油井管用マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管の製造方法。
(15)(14)に記載の製造方法で得られた油井管用マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管であって、前記矯正処理による降伏強さの増加量ΔYSが15MPa以下であることを特徴とする油井管用マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、温間矯正が可能となり、矯正処理を行っても降伏強さの増加も少なく、降伏強さYS 95ksi級(655〜758MPa)以上の高強度と、破面遷移温度vTrsが−40℃以下の優れた低温靭性とを兼備する油井管用継目無鋼管を、容易にしかも安定して製造でき、産業上格段の効果を奏する。また、本発明によれば、さらに降伏強さ95ksi以上の高強度とシャルピー衝撃試験の試験温度:−60℃における吸収エネルギーvE−60が70J以上のさらに優れた低温靭性とを兼備する油井管用継目無鋼管を、またさらには、降伏比が89%以下で、かつ降伏強さ95ksi以上の高強度と、シャルピー衝撃試験の試験温度:−60℃における吸収エネルギーvE−60が180J以上の更に優れた低温靭性とを兼備する油井管用継目無鋼管を容易にしかも安定して製造できるという、効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】シャルピー衝撃試験の試験温度:−60℃における吸収エネルギーvE−60と降伏比YRとの関係を示すグラフである。
【図2】シャルピー衝撃試験の試験温度:−60℃における吸収エネルギーvE−60と(Nb+3×Mo/20)の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
まず、本発明の油井管用継目無鋼管の組成限定の理由について説明する。なお、以下、とくに断らないかぎりmass%は単に%と記す。
本発明の油井管用継目無鋼管は、C:0.020%以下、Cr:10〜14%、Ni:3%以下、Nb:0.03〜0.2%、N:0.05%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を基本組成とするマルテンサイト系ステンレス鋼継目無管であり、C:0.020%以下、Si:1.0%以下、Mn:0.1〜2.0%、P:0.020%以下、S:0.010%以下、Al:0.10%以下、Cr:10〜14%、Ni:3%以下、Nb:0.03〜0.2%、N:0.05%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成としてもよい。
【0021】
C:0.020%以下
Cは、マルテンサイト系ステンレス鋼の強度に関係する重要な元素であり、所望の高強度を確保するためには、0.003%以上含有することが望ましいが、0.020%を超える含有は、靭性、さらには耐食性が低下しやすくなる。このため、本発明では、Cは0.020%以下に限定した。なお、好ましくは、強度と靭性の安定確保という観点から0.003〜0.015%の範囲である。
【0022】
Cr:10〜14%
Crは、保護被膜を形成して耐食性を向上させる元素で、とくに耐炭酸ガス腐食性、耐炭酸ガス応力腐食割れ性の向上に有効に寄与する元素である。Crを10%以上含有すれば、油井管用として必要な耐食性を確保できることから、本発明では10%をCr含有量の下限とした。一方、14%を超える多量の含有は、フェライトの生成が容易となり、マルテンサイト相の安定確保または熱間加工性の低下防止のために、多量の高価なオーステナイト生成元素の添加を必要とし経済的に不利となる。このため、Crは10〜14%の範囲に限定した。なお、好ましくは、より安定的な組織や熱間加工性の確保という観点から10.5〜11.5%である。
【0023】
Ni:3%以下
Niは、保護被膜を強固にする作用を有し、耐炭酸ガス腐食性等の耐食性を高める元素である。このような効果を得るためには、0.1%以上の含有が望ましいが、3%を超える含有は、製造コストの高騰を招くだけとなる。このため、Niは3%以下の範囲に限定した。なお、好ましくは1.5〜2.5%である。
【0024】
N:0.05%以下
Nは、耐孔食性を著しく向上させる元素であり、このような効果は、0.003%以上の含有で顕著となる。一方、0.05%を超える含有は、種々の窒化物を形成して靭性を低下させる。このため、Nは0.05%以下に限定した。なお、好ましくは0.01〜0.02%である。
Nb:0.03〜0.2%
Nbは、本発明の重要な元素である。Nbは、炭化物を形成し、Nb炭化物による析出強化を介して、鋼の強度を増加させる元素である。また、本発明では、Nbは、M23C型のCr炭化物の粒界析出を防止し、靭性を向上させるために重要な役割を有する。このような効果を得るためには、0.03%以上、より好ましくは0.03%を超えて含有することを必要とする。なお、更なる高強度化、高靭化の観点から0.06%以上とすることが好ましい。一方、0.2%を超えて含有すると、靱性が低下する。このため、Nbは0.03〜0.2%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.03〜0.15%、より好ましくは0.06〜0.15%である。
【0025】
上記した成分が基本の成分であるが、本発明ではこれら基本の成分に加えてさらに、Si:1.0%以下、Mn:0.1〜2.0%、P:0.020%以下、S:0.010%以下、Al:0.10%以下を含有する組成を基本組成とすることが好ましい。
Si:1.0%以下
Siは、通常の製鋼過程において脱酸剤として作用する元素であり、この発明では、0.1%以上含有させることが望ましいが、1.0%を超えて含有すると、靭性が低下し、さらに冷間加工性も低下する。このために、Siは1.0%以下に限定した。なお、好ましくは0.1〜0.3%である。
【0026】
Mn:0.1〜2.0%
Mnは、強度を増加させる元素であり、この発明では油井管用鋼管として必要な強度を確保するために0.1%以上の含有を必要とするが、2.0%を超える含有は、靭性に悪影響を及ぼす。このため、Mnは0.1〜2.0%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.5〜1.5%である。
【0027】
P:0.020%以下
Pは、耐炭酸ガス腐食性等の耐食性を劣化させる元素であり、この発明では可及的に低減することが望ましいが、極端な低減は製造コストの上昇を招く。工業的に比較的安価に実施可能でかつ耐炭酸ガス腐食性等の耐食性を劣化させない範囲として、Pは0.020%以下に限定した。なお、好ましくは0.015%以下である。
【0028】
S:0.010%以下
Sは、パイプ製造過程において熱間加工性を著しく劣化させる元素であり、可及的に少ないことが望ましいが、0.010%以下に低減すれば通常工程でのパイプ製造が可能となることから、Sは0.010%以下に限定した。なお、好ましくは0.003%以下である。
Al:0.10%以下
Alは、強力な脱酸作用を有する元素であり、このような効果を得るためには、0.001%以上含有することが望ましいが、0.10%を超える含有は、靭性に悪影響を及ぼす。このため、Alは0.10%以下に限定した。なお、好ましくは0.05%以下である。
【0029】
なお、本発明では、Nbは上記した含有範囲で、さらにC、Al、N含有量との関係で次(1)式を満足するように、含有することが好ましい。
C−31/4Nb+7/6N−9/4Al ≦ −0.30 ‥‥‥(1)
(ここで、C、Nb、N、Al:各元素の含有量(mass%))
Nb含有量が、上記(1)式を満足しない場合には、所望の降伏強さ95ksi以上の高強度と、所望のシャルピー衝撃試験の破面遷移温度vTrs:−40℃以下の高靭性とを兼備させることができなくなる。なお、(1)式の計算においては、含有しない元素は零として計算するものとする。
【0030】
なお、本発明では、更なる優れた低温靭性を、降伏強さ95ksi以上の高強度とともに確保するために、Nbは上記した含有範囲で、さらに、次(2)式
0.090 ≦ Nb+3×Mo/20 ≦ 0.120 ‥‥(2)
(ここで、Nb、Mo:各元素の含有量(質量%))
を満足するように、調整して含有することが好ましい。なお、(2)式の計算においては、Moを含有しない場合には、Moは零として計算するものとする。
【0031】
Nb含有量が上記(2)式を満足することにより、焼戻温度が比較的低く、高強度を維持したままでも上記した所望のシャルピー衝撃試験の破面遷移温度vTrs:−40℃以下を満足したうえで、さらに、図2に示すように、試験温度:−60℃における吸収エネルギーvE−60が70J以上のさらに優れた低温靭性を確保することが可能となる。Nb含有量が上記(2)式を満足しない場合には、シャルピー衝撃試験の試験温度:−60℃における吸収エネルギーvE−60が70J以上の更なる高靭性を確保できなくなる。なお、焼戻温度が高くなり、強度が低下した状態では、上記(2)式を満足しなくても高靭性が得られる場合もある。
【0032】
本発明ではこれら基本の成分に加えてさらに、Cu:2.0%以下、Mo:2.0%以下のうちから選ばれた1種または2種、および/または、V:0.20%以下、Ti:0.10%以下、B:0.005%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有してもよい。
Cu:2.0%以下、Mo:2.0%以下のうちから選ばれた1種または2種
Cu、Moはいずれも、耐食性を向上させる作用を有する元素であり、必要に応じて選択して含有できる。
【0033】
Cuは、保護皮膜を強固にして耐孔食性を向上させる作用を有する元素であり、このような効果を得るためには、0.2%以上含有することが望ましい。一方、2.0%を超える含有は、CuまたはCu化合物の一部が析出して靭性を低下させる。このため、Cuを含有する場合には、Cuは、2.0%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.2〜1.0%である。
【0034】
また、Moは、Clによる孔食に対する抵抗性を増加させる作用を有する元素であり、このような効果を得るためには、0.2%以上含有することが望ましい。一方、2.0%を超えて含有すると、強度が低下するとともに、材料コストを高騰させる。このため、Moは2.0%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.2〜1.0%である。
V:0.20%以下、Ti:0.10%以下、B:0.005%以下のうちから選ばれた1種または2種以上
V、Ti、Bはいずれも、強度を増加させる元素であり、必要に応じて選択して1種または2種以上含有することができる。
【0035】
このような効果を得るためには、V:0.02%以上、Ti:0.02%以上、B:0.0015%以上含有することが望ましい。一方、V:0.20%、Ti:0.10%、B:0.005%を超えて含有すると、靱性が低下する。このため、含有する場合には、V:0.20%以下、Ti:0.10%、B:0.005%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくはV:0.02〜0.10%、Ti:0.02〜0.05%、B:0.0015〜0.0040%である。
【0036】
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。なお、不可避的不純物としては、O:0.010%以下が許容できる。
つぎに、本発明の油井管用継目無鋼管の組織限定の理由について説明する。
本発明の油井管用継目無鋼管は、焼戻マルテンサイト相を主体とし、析出Nbが分散した組織を有する。なお、焼戻マルテンサイト相以外の組織として、デルタフェライト相、オーステナイト相をそれぞれ5体積%以下含有してもよい。これにより、所望の高級度と所望の高靭性とを有し、さらに油井管として十分な耐食性をも兼備する鋼管となる。析出Nb量は、Nb換算で0.020%以上とする。析出Nb量が0.020%未満では、靭性に悪影響を及ぼすM23C型Cr系炭化物の粒界析出を抑制することができなくなり、靭性が低下する。なお、析出Nb量は、好ましくは0.025%以上である。本発明の油井管用継目無鋼管では、MC型のCr系炭化物の析出は認められない。
【0037】
なお、析出Nb量は、電解抽出法で電解抽出して得られた電解残渣を化学分析して、電解残渣に含まれるNb量を求め、試料中に含まれる析出Nb量とした。ここで、析出Nbは、主に、Nb炭窒化物からなり、平均粒径は3〜15 nm程度の球形状の析出物である。
なお、上記した組織を有し、かつ上記した組成のうち、Nb含有量を(2)式を満足するように調整して含有する組成の鋼管は、降伏強さ95ksi以上の高強度とシャルピー衝撃試験の破面遷移温度vTrs が−40℃以下を満足したうえで、さらに、図2に示すように、試験温度:−60℃における吸収エネルギーvE−60が70J以上のさらに優れた低温靱性を有するマルテンサイト系ステンレス継目無鋼管となる。さらに、上記した鋼管のうち、降伏比が89%以下を満足する鋼管は、さらに図1に示すように、試験温度:−60℃における吸収エネルギーvE−60が180J以上の更に優れた低温靱性とを兼備する鋼管となる。
【0038】
つぎに、本発明の油井管用継目無鋼管の製造方法について説明する。上記した組成を有するステンレス継目無鋼管を出発素材として、焼入れ処理と焼戻処理とを施す。さらに、必要に応じて、鋼管形状の不良を矯正するために矯正処理を施しても良い。
本発明では、上記した組成を有する出発素材の製造方法はとくに限定する必要はないが、上記した組成を有する溶鋼を、転炉、電気炉、真空溶解炉等の通常公知の溶製方法で溶製し、連続鋳造法、造塊−分塊圧延法等、通常の方法でビレット等の鋼管素材とすることが好ましい。ついで、これら鋼管素材を加熱し、通常のマンネスマン−プラグミル方式、あるいはマンネスマン−マンドレルミル方式の製造工程を用いて熱間加工し造管して、所望寸法の継目無鋼管とし、出発素材とすることが好ましい。なお、プレス方式による熱間押出で継目無鋼管を製造してもよい。また、造管後、継目無鋼管は、空冷以上の冷却速度で室温まで冷却することが好ましい。
【0039】
出発素材(継目無鋼管)は、まず、焼入れ処理を施される。
本発明における焼入れ処理は、Ac3変態点以上の焼入れ温度に再加熱したのち、該焼入れ温度から空冷以上の冷却速度で100℃以下の温度域まで冷却する処理とする。これにより、微細なマルテンサイト組織とすることができる。焼入れ加熱温度が、Ac3変態点未満では、オーステナイト単相域に加熱することができず、その後の冷却で十分なマルテンサイト組織とすることができないため、所望の強度を確保できなくなる。このため、焼入れ処理の加熱温度はAc3変態点以上に限定した。なお、好ましくは1000℃以下である。
【0040】
また、焼入れ加熱温度からの冷却は、空冷またはそれ以上の冷却速度で100℃以下の温度域まで行う。本発明における出発素材は焼入れ性が高いため、空冷程度の冷却速度で100℃以下の温度域まで冷却すれば、十分な焼入れ組織(マルテンサイト組織)を得ることができる。また、焼入れ温度における保持時間は、10min以上とすることが均熱の観点から好ましい。
【0041】
焼入れ処理を施された継目無鋼管は、引続き、焼戻処理を施される。
本発明では焼戻処理は、優れた低温靭性を確保するうえで重要な処理である。本発明における焼戻処理は、550℃以上好ましくはAc1変態点以下の焼戻温度に加熱し、好ましくは30min以上保持したのち、好ましくは空冷以上の冷却速度で、好ましくは室温まで冷却する処理とする。これにより、YS95ksi以上の高強度とvTrsが−40℃以下の優れた低温靭性を兼備した継目無鋼管となる。矯正処理の温度を焼戻温度以上とすると組織が変化するため、焼戻温度が550℃未満では矯正温度を焼戻温度以下に低くせざるを得ない。そのため、降伏強さYSのばらつきが生じやすい。一方、焼戻温度がAc1変態点超えでは、オーステナイト相が生成し、冷却時に焼入れマルテンサイトに変態する。焼入れマルテンサイトは多くの可動転位を有しているため、焼入れマルテンサイトが生成すると、降伏強さYSが低下する。また、焼戻温度からの冷却は、空冷またはそれ以上の冷却速度とすることが、十分なマルテンサイトを得る観点から好ましい。なお、焼戻温度は、650℃以上とすることが、更に優れた低温靱性を確保するという観点から好ましい。
【0042】
また、本発明では、必要に応じて、焼戻処理に引続き、鋼管形状の不良を矯正するために矯正処理を施しても良い。矯正処理は、450℃以上の温度域で行うことが好ましい。矯正処理の温度が450℃未満では、矯正処理時に鋼管に局所的に加工歪が付加され、機械的特性、とくに降伏強さYSのばらつき、が生じやすい。このため、矯正処理を行う場合には、450℃以上の温度域で行うこととした。なお、本発明では、好ましい降伏強さのばらつき(ΔYS)は15MPa以下である。
【0043】
上記した製造方法で製造される、継目無鋼管は、上記した組成および組織を有し、降伏強さ95ksi以上の高強度とシャルピー衝撃試験の破面遷移温度vTrsが−40℃以下の優れた低温靭性と、さらに油井管として十分な耐食性をも兼備するマルテンサイト系ステンレス継目無鋼管となる。なお、 上記した製造方法で得られた継目無鋼管のうち、Nb含有量を上記した(2)式を満足するように調整して含有する組成とした鋼管は、降伏強さ95ksi以上の高強度とシャルピー衝撃試験の破面遷移温度vTrsが−40℃以下を満足したうえで、さらに、試験温度:−60℃における吸収エネルギーvE−60が70J以上のさらに優れた低温靭性を有するマルテンサイト系ステンレス継目無鋼管となる。さらに、上記した製造方法で製造された継目無鋼管のうち、降伏比が89%以下を満足する鋼管は、さらに、試験温度:−60℃における吸収エネルギーvE−60が180J以上の更に優れた低温靭性とを有する鋼管となる。
【実施例】
【0044】
(実施例1)
表1に示す組成の溶鋼を脱ガス後、連続鋳造法でビレット(大きさ:207mmφ)に鋳造し、鋼管素材とした。これら鋼管素材を加熱し、マンネスマン方式の製造工程を用いて熱間加工し造管したのち、空冷して、継目無鋼管(外径177.8mmφ×肉厚12.65mm)とした。
得られた継目無鋼管から、試験材(鋼管)を採取し、該試験材(鋼管)に表2に示す条件で焼入れ処理、焼戻処理、あるいはさらに矯正処理を施した。
【0045】
焼入れ処理および焼戻処理あるいはさらに矯正処理を施された試験材(鋼管)から、電解抽出用試験片を採取した。採取した電解抽出用試験片を用いて、電解抽出法を用い、得られた電解残渣に含まれるNb量を求め、試料中に含まれる析出Nb量とした。
また、焼入れ処理および焼戻処理あるいはさらに矯正処理を施された試験材(鋼管)から、API弧状引張試験片を採取し、引張試験を実施し引張特性(降伏強さYS、引張強さTS)を求めた。なお、矯正処理を施された試験材(鋼管)については、矯正処理によるYSの増加量ΔYSを求めた。矯正処理以外は同一条件で処理された矯正処理なし鋼管について同様に引張試験を実施し、引張特性(降伏強さYS、引張強さTS)を求め、矯正処理によるYSの増加量ΔYSを次式で算出した。
【0046】
ΔYS=(矯正処理あり鋼管のYS)−(矯正処理なし鋼管のYS)
また、焼入れ処理および焼戻処理あるいはさらに矯正処理を施された試験材から、JIS Z 2242の規定に準拠して、Vノッチ試験片(10mm厚)を採取し、シャルピー衝撃試験を実施し、破面遷移温度vTrsを求め、靭性を評価した。
また、試験材から、厚さ3mm×幅30mm×長さ40mmの腐食試験片を機械加工によって作製し、腐食試験を実施した。
【0047】
腐食試験は、オートクレーブ中に保持された試験液:20%NaCl水溶液(液温:80℃、30気圧のCOガス雰囲気) 中に、腐食試験片を浸漬し、浸漬期間を1週間(168h)として実施した。腐食試験後の試験片について、重量を測定し、腐食試験前後の重量減から、腐食速度を算出した。
得られた結果を表3に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
本発明例はいずれも、油井管として十分な耐食性を有し、さらにYSが95ksi(655MPa)以上の高強度とvTrsが−40℃以下の優れた低温靭性とを兼備し、450℃以上の温間矯正が可能となり、矯正処理を施されても降伏強さの増加量、平均YSの差ΔYSが15MPa以下と小さい、マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管となっている。一方、本発明の範囲から外れる比較例は、強度が不足するか、低温靭性が低下するかして、所望の高強度、高靭性を確保できていないうえ、矯正処理後の降伏強さの増加量が多くなっている。
(実施例2)
表4に示す組成の溶鋼を脱ガス後、連続鋳造法でビレット(大きさ:207mmφ)に鋳造し、鋼管素材とした。これら鋼管素材を加熱し、マンネスマン方式の製造工程を用いて熱間加工し造管したのち、空冷して、継目無鋼管(外径177.8mmφ×肉厚12.65mm)とした。
【0052】
得られた継目無鋼管から、試験材(鋼管)を採取し、該試験材(鋼管)に表5に示す条件で焼入れ処理、焼戻処理を施した。
焼入れ処理および焼戻処理を施された試験材(鋼管)から、電解抽出用試験片を採取した。採取した電解抽出用試験片を用いて、実施例1と同様に、電解抽出法を用い、得られた電解残渣に含まれるNb量を求め、試料中に含まれる析出Nb量とした。
【0053】
また、焼入れ処理および焼戻処理を施された試験材(鋼管)から、実施例1と同様に、API弧状引張試験片を採取し、引張試験を実施し引張特性(降伏強さYS、引張強さTS)を求めた。
また、焼入れ処理および焼戻処理を施された試験材から、実施例1と同様に、JIS Z 2242の規定に準拠して、Vノッチ試験片(10mm厚)を採取し、シャルピー衝撃試験を実施し、破面遷移温度vTrs、および試験温度:−60℃における吸収エネルギーvE−60を求め、靭性を評価した。なお、吸収エネルギーvE−60は各3本の平均値とした。
また、試験材から、厚さ3mm×幅30mm×長さ40mmの腐食試験片を機械加工によって作製し、実施例1と同様に、腐食試験を実施した。
【0054】
得られた結果を表6に示す。
【0055】
【表4】

【0056】
【表5】

【0057】
【表6】

【0058】
本発明例はいずれも、油井管として十分な耐食性を有し、さらにYSが95ksi(655MPa)以上の高強度とvTrsが−40℃以下で、かつ(2)式を満足する場合には、吸収エネルギーvE−60が70J以上の優れた低温靭性とを兼備するマルテンサイト系ステンレス継目無鋼管となっている。なお、降伏比が89%以下の鋼管は、さらに、吸収エネルギーvE−60が180J以上の優れた低温靭性を有する鋼管となっている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
mass%で、
C:0.020%以下、 Cr:10〜14%、
Ni:3%以下、 Nb:0.03〜0.2%、
N:0.05%以下
を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、さらに析出Nb量がNb換算で0.020%以上である組織とを有し、降伏強さ95ksi以上の高強度とシャルピー衝撃試験の破面遷移温度vTrsが−40℃以下の優れた低温靭性とを兼備することを特徴とする油井管用マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管。
【請求項2】
mass%で、
C:0.020%以下、 Si:1.0%以下、
Mn:0.1〜2.0%、 P:0.020%以下、
S:0.010%以下、 Al:0.10%以下、
Cr:10〜14%、 Ni:3%以下、
Nb:0.03〜0.2%、 N:0.05%以下
を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、さらに析出Nb量がNb換算で0.020%以上である組織とを有し、降伏強さYS95ksi以上の高強度とシャルピー衝撃試験の破面遷移温度vTrsが−40℃以下の優れた低温靭性とを兼備することを特徴とする油井管用マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管。
【請求項3】
前記Nbを、C、Al、Nとの関係で下記(1)式を満足するように含有する組成とすることを特徴とする請求項1または2に記載の油井管用マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管。

C−31/4Nb+7/6N−9/4Al ≦ −0.30 ‥‥‥(1)
ここで、C、Nb、N、Al:各元素の含有量(mass%)
【請求項4】
前記組成に加えてさらに、mass%で、Cu:2.0%以下、Mo:2.0%以下のうちから選ばれた1種または2種を含有する組成とすることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の油井管用マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管。
【請求項5】
前記組成に加えてさらに、mass%で、V:0.20%以下、Ti:0.10%以下、B:0.005%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の油井管用マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管。
【請求項6】
前記Nbを、次(2)式
0.090 ≦ Nb+3×Mo/20 ≦ 0.120 ‥‥(2)
(ここで、Nb、Mo:各元素の含有量(質量%))
を満足するように調整して含有する組成とすることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の油井管用マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載された油井管用マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管であって、降伏比が89%以下で、シャルピー衝撃試験の試験温度:−60℃における吸収エネルギーvE−60が180J以上である優れた低温靭性を有することを特徴とする油井管用マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管。
【請求項8】
mass%で、
C:0.020%以下、 Cr:10〜14%、
Ni:3%以下、 Nb:0.03〜0.2%
N:0.05%以下
を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有するステンレス継目無鋼管に、
Ac3変態点以上の焼入れ温度に加熱したのち、該焼入れ温度から空冷以上の冷却速度で100℃以下の温度域まで冷却する焼入れ処理と、
該焼入れ処理に引続き、550℃以上Ac1変態点以下の焼戻温度に加熱し、冷却する焼戻処理と、
を施すことを特徴とする高強度と優れた低温靭性とを兼備する油井管用マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管の製造方法。
【請求項9】
mass%で、
C:0.020%以下、 Si:1.0%以下、
Mn:0.1〜2.0%、 P:0.020%以下、
S:0.010%以下、 Al:0.10%以下、
Cr:10〜14%、 Ni:3%以下、
Nb:0.03〜0.2%、 N:0.05%以下
を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有するステンレス継目無鋼管に、
Ac3変態点以上の焼入れ温度に加熱したのち、該焼入れ温度から空冷以上の冷却速度で100℃以下の温度域まで冷却する焼入れ処理と、
該焼入れ処理に引続き、550℃以上Ac1変態点以下の焼戻温度に加熱し、冷却する焼戻処理と、
を施すことを特徴とする高強度と優れた低温靭性とを兼備する油井管用マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管の製造方法。
【請求項10】
前記Nbを、C、Al、Nとの関係で下記(1)式を満足するように含有する組成とすることを特徴とする請求項8または9に記載の油井管用マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管の製造方法。

C−31/4Nb+7/6N−9/4Al ≦ −0.30 ‥‥‥(1)
ここで、C、Nb、N、Al:各元素の含有量(mass%)
【請求項11】
前記組成に加えてさらに、mass%で、Cu:2.0%以下、Mo:2.0%以下のうちから選ばれた1種または2種を含有する組成とすることを特徴とする請求項8ないし10のいずれかに記載の油井管用マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管の製造方法。
【請求項12】
前記組成に加えてさらに、mass%で、V:0.10%以下、Ti:0.10%以下、B:0.005%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項8ないし11のいずれかに記載の油井管用マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管の製造方法。
【請求項13】
前記Nbを、次(2)式
0.090 ≦ Nb+3×Mo/20 ≦ 0.120 ‥‥(2)
(ここで、Nb、Mo:各元素の含有量(質量%))
を満足するように調整して含有する組成とすることを特徴とする請求項8ないし12のいずれかに記載の油井管用マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管の製造方法。
【請求項14】
前記焼戻処理後の冷却中に、矯正処理を450℃以上の温度域で行うことを特徴とする請求項8ないし13のいずれかに記載の油井管用マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管の製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載の製造方法で得られた油井管用マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管であって、前記矯正処理による降伏強さの増加量ΔYSが15MPa以下であることを特徴とする油井管用マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−168646(P2010−168646A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202744(P2009−202744)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】