説明

油圧シリンダ装置

【課題】ピストンに内蔵した常閉の制御弁をストローク端で開状態とし、作動油を流通させて冷却や空気抜きを行う油圧シリンダ装置において、小型の油圧シリンダにも構成できる制御弁機構を実現する。
【解決手段】ピストン12には後端面側からロッド11と平行な方向に非貫通孔31を形成すると共に、前端面側から非貫通孔31の中間位置へ連通孔33を形成しておく。非貫通孔31には、コイルばね34と同孔31内を摺動する管状のスプール35を直列に嵌装し、スプール35はその端部を所定量だけ後方へ突出させた状態でストッパー36により係止する。ピストン・ロッドの後退限でスプール35が押し込まれると、スプール35に形成されている周方向溝39と連通孔41,42とそれ自体の管内流路を介して連通孔33と後方シリンダ室を連通させ、作動油が前方シリンダ室から後方シリンダ室(給排ポート17)へ流通する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンに内蔵させた常閉の制御弁をストローク端で開放して作動油を流通させることにより、シリンダの冷却や空気抜きを行わせる油圧シリンダ装置に係る。
【背景技術】
【0002】
ダイカストマシンでは、キャビティに金型とその駆動用油圧シリンダ装置を組み込んでおき、キャビティを閉じた状態で溶湯又は半溶融合金を注入し、油圧シリンダ装置で金型を圧入して鋳込む方法が採用されている。
そして、自動車用のフレーム部品等のように複雑な形状で比較的大きな成形品を製造するためのダイカストマシンになると、キャビティには多数の金型と油圧シリンダ装置が複雑な機構で組み込まれる。
その場合、ダイカストでは溶湯や半溶融合金の温度が数百度であり、当然に金型と油圧シリンダ装置の温度もそれに近い温度まで加熱されるため、油圧シリンダ装置は過酷な高温環境下での使用に耐えるものでなければならず、その設計に際しては常に温度条件が考慮される。
【0003】
しかし、油圧シリンダ装置の本体材料や作動油は耐高温性を備えていても、シリンダの各所に適用されるシール部材はゴム製や樹脂製であり、耐熱性に優れた素材のものが使用されるものの、装置の稼動時には高温での温度サイクルを受け、また非稼動時には常温に戻るという厳しい温度環境の下では如何にしてもその劣化が進行する。
特に、ロッドカバーは溶湯側からの輻射熱を直接的に受けるために、ロッドカバーとロッドやシリンダチューブとの間に使用されているシール部材の劣化の進行が著しく、それらシール箇所での油漏れが発生し易い傾向があり、メンテナンス上でも比較的短期間での交換を余儀なくされることになる。尚、油圧シリンダ自体を水冷構造にすることも考えられるが、その場合には当然にシリンダが大型化し、前記のように多数のシリンダが複雑な機構で組み込まれるダイカストマシンには不適合な場合が多く、水漏れ事故も発生し易いことから水冷方式の採用はできるだけ避けたい。
【0004】
また、前記のシール部材の問題点とは別に、キャビティに金型とその駆動用油圧シリンダを組み込んで初期駆動させる際や修理後に再駆動させる際にはシリンダ内に空気が存在するため、それを完全に排出させるための空気抜き工程が不可欠である。
従来から、この空気抜き工程は、予め油圧シリンダ装置のシリンダ室から外部へ通じた空気抜き弁を設けておき、初期駆動や再駆動で作動油を注入した際にその空気抜き弁を通じて排気させるものであるが、空気抜き弁を設けることは当然に部品点数の増加となってコスト高を招くと共に、空気抜き弁の部分が油漏れの原因なることも多く、油圧シリンダ装置の信頼性の低下要因にもなる。
【0005】
以上のような事情から、本願出願人は、下記特許文献1において、複動シリンダ装置のピストンの内部にリリーフ弁を介在させて前方シリンダ室と後方シリンダ室を接続する内蔵回路を構成したシリンダ装置の冷却方法を提案している。
この方法では、リリーフ弁のクラッキング圧力をロッドの後退時における最大負荷状態での前方シリンダ室の圧力よりも大きく設定しておき、ピストンの後退限において、前方シリンダ室の圧力をクラッキング圧力よりも大きくしてリリーフ弁を開状態とし、前方シリンダ室の作動流体の全部又は一部を前記内蔵回路を通じて後方シリンダ室からドレイン側へ流出せしめるようにしている。
【0006】
一方、下記特許文献2及び3においては、ピストンに制御弁を内蔵させる方式による油圧シリンダ装置の構成が提案されている。
先ず、特許文献2における第5実施例では、図11に示すような構成でピストン101内に制御弁を構成している。具体的には、ピストン101に形成された収納孔102の内部に、2つのボール状弁体103,104の中間にコイルばね105を介在させた連結体を内設して2つの逆向きチェック弁を構成し、一方のボール状弁体104には棒状部106が一体的に形成されており、その棒状部106が連通孔107を通じてピストン101の側面108より突出せしめられている。
従って、ピストン101がストローク端に達すると棒状部106の先端がシリンダ室109の壁面110と当接し、ボール状弁体104がコイルばね105の付勢力に抗して強制的に移動せしめられることにより、連通孔107における収納孔102側の角部に相当するシート部111からボール状弁体104が離脱する。
そして、その段階ではシリンダ室109はドレイン側に接続され、他方のシリンダ室112には作動油が供給され続けるために、ボール状弁体103も栓部材113における収納孔102側の角部に相当するシート部114から離脱し、栓部材113の貫通孔115−収納孔102−連通孔107の連通路が構成されることにより、シリンダ室112側からシリンダ室109側へ作動油を流通させて空気抜きが行える。
【0007】
また、特許文献3の油圧シリンダ装置では、前記特許文献2の制御弁を改良して不安定動作の発生を防止している。
具体的には、図12に示すように、ピストン121に形成した座グリ孔121a内に中空円筒体である弁体ホルダ122とシートリング123とプランジャケース124とを直列に連結させて内嵌・固定し、弁体ホルダ122の前端側と後端側にそれぞれ鋼球125,126を軸方向へ可動な状態で内嵌させ、各鋼球125,126をコイルばね127,128によって軸方向外側へ付勢して前方チェック弁129と後方チェック弁130を構成している。
この制御弁では、プランジャケース124で摺動自在に支持されたプランジャ131はシートリング123側からコイルばね132によって後方へ付勢されているが、図13に示すように、ピストン121が後方ストローク端に達すると、プランジャ131の後端がシリンダ室133の壁面134に当接し、コイルばね132の付勢力に抗してプランジャ131が前方へ移動するために、鋼球126が前方へ押圧されて後方チェック弁130が強制的に開放される。尚、プランジャ131にはシートリング123とプランジャケース124で構成される内部空間とプランジャ131自体の後端側とを連通させる内部流路131aが形成されている。
そして、後方チェック弁130が開放されると、[鋼球125の内嵌空間−孔135a,135b−隙間136a,136b−孔137a,137b−鋼球126の内嵌空間−シートリング123とプランジャケース124とが構成する内部空間−プランジャ131の内部流路131a−後方シリンダ室133]の連通路が構成され、後方シリンダ室133がドレインに接続されていると鋼球125の内嵌空間もドレイン圧となる。
鋼球125の内嵌空間がドレイン圧であり、前方シリンダ室138に作動油圧がかかっていると、その差圧によって鋼球125がコイルばね127の付勢力に抗して後退し、鋼球125が流入孔139のシート部から離脱し、前方シリンダ室138と前記連通路が通じることになる。
その結果、前方シリンダ室138と後方シリンダ室133が連通した状態となり、図13に矢印で示すような経路で前方シリンダ室138から後方シリンダ室133へ作動油が流れて油圧シリンダ装置の冷却を行えると共に、シリンダ室や油圧回路の作動油に混入している空気をドレイン側へ排出できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−31101号公報(第6−7頁、図4、図5)
【特許文献2】特開平8−312609号公報(第6頁、図8)
【特許文献3】特許第4018706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献1のようにリリーフ弁を用いた場合には、実際の動作時にピストン・ロッドに対して想定外の大きな変動負荷が作用することを考慮して、リリーフ弁のクラッキング圧力をロッドの最大負荷よりも十分に大きく設定しておかねばならず、弁体をシート部側へ付勢するばねには大きなバネ定数を有したものが適用される。
従って、シリンダ冷却時にリリーフ弁を開放して作動流体を流通させる状態では、大きな全量圧力を維持して流量を確保させるが、それだけ圧力オーバライド(全量圧力とクラッキング圧力の差)が大きくなるためにリリーフ弁の動作が不安定化してチャタリングが発生し易くなる。
【0010】
一方、特許文献2や3の制御弁による方式では、2つの逆向きチェック弁の一方を機械的に開放させて他方を開放する方式であるため、特許文献1のリリーフ弁の場合のようにクラッキング圧力と最大負荷の関係を考慮する必要はない。
しかし、2つの逆向きチェック弁機構と栓部材(115)又はプランジャ(131)とが直列に配置され、鋼球やコイルばねを装填する必要があるために制御弁の構成部分が複雑で長くなると共に、直径も比較的大きなものになる。
【0011】
これに対して、ダイカスト鋳造で金型内に埋設して使用される油圧シリンダ装置においては、シリンダ径が60mm程度の小径で、熱的に極めて過酷な条件で使用されるものもあり、また、所要の特性を得られる範囲で小型化を図るためにピストンの厚みが小さく設計されることも少なくない。
したがって、シリンダ径やピストンの厚みが小さい油圧シリンダ装置については、ピストンに制御弁を内蔵させることが物理的に不可能な場合も多く、冷却機能や空気抜き機能を具備させることができないという不都合があった。
そこで、本発明は、以上の問題点に鑑みて、シリンダ径やピストンの厚みが小さい場合においてもピストンに内蔵させることが可能な制御弁機構を提供し、もって、従来では無理とされていた小型の油圧シリンダ装置についても冷却機能や空気抜き機能が実現できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、複動シリンダのピストンに常閉の制御弁を内蔵せしめ、前記ピストンがストローク端に達した状態で前記制御弁を開放して、前記ピストンで区画されている第1シリンダ室側と第2シリンダ室側を連通させることにより、前記複動シリンダの冷却工程又は空気抜き工程を実行する油圧シリンダ装置において、前記第2シリンダ室側の面からロッドと平行な方向に所要深さの非貫通孔が形成されており、前記第1シリンダ室側の面から前記非貫通孔の深さ方向中間位置へ通じる第1の連通孔が形成されているピストンと、前記非貫通孔の底部側に嵌装されるコイルばねと、管状部材であって、前記非貫通孔に内嵌して摺動する大径区間とそれよりも小さい径の小径区間とを有し、前記大径区間の中間位置の外周面に周方向溝が形成されていると共に、前記周方向溝と管内を連通する第2の連通孔と、前記小径区間の先端部近傍位置で管内と管外を連通する第3の連通孔又は先端面側からの一部切欠きがそれぞれ形成されているスプールと、前記スプールを大径区間側から前記非貫通孔に嵌挿して前記コイルばねを所定量だけ圧縮させた状態で、前記スプールの大径区間と小径区間の段差部と係合するように前記ピストンの前記第2シリンダ室側の面に取り付けられるストッパーとからなり、前記スプールは、可動弁体として、前記段差部が前記ストッパーに係合した状態では、前記小径区間の端部が前記ピストンの第2シリンダ室側の面から所定長さだけ突出すると共に、前記周方向溝が前記非貫通孔における前記第1の連通孔の開口位置と前記ストッパーの係合面との間に位置し、前記ピストンが前記第2シリンダ室側のストローク端に達して前記小径区間の端部が前記第2シリンダ室の内壁で押し込まれた状態では、前記周方向溝が前記非貫通孔における前記第1の連通孔の開口位置となる構成を備え、また、前記第2シリンダ室における前記ピストンと対向する内壁は、前記ピストンが前記第2シリンダ室側のストローク端に達した状態で、前記スプールの外周側と前記第2シリンダ室に通じる給排ポートとの間に流通路を確保させる構成を備えていることを特徴とする油圧シリンダ装置に係る。
【0013】
本発明では、ピストンに形成された非貫通孔に内嵌・摺動するスプールが、ピストン側に形成された第1の連通孔の開閉を行う可動弁体としての役割を果たす。
第1シリンダ室側に作動油が供給され、第2シリンダ室側がドレインに接続されてピストンが移動している状態、及び第1シリンダ室がドレインに接続され、第2シリンダ室側に作動油が供給されてピストンが移動している状態又は第1シリンダ室側のストローク端にある状態では、スプールはコイルばねに付勢されてストッパーに係合しており、スプールの周方向溝はピストンの非貫通孔に通じている第1の連通路の孔からずれた位置にあって閉状態が保たれる。
一方、第1シリンダ室側に作動油が供給され、第2シリンダ室側がドレインに接続された状態でピストンが移動して第2シリンダ室側のストローク端に達すると、スプールの小径区間の端部が第2シリンダ室の内壁で押し込まれ、スプールの周方向溝が非貫通孔に通じている第1の連通路の孔に対応する位置になり、「第1シリンダ室へ通じる給排ポート→第1シリンダ室→ピストンの第1の連通孔→スプールの周方向溝→スプールの第2の連通孔→スプールの管内→スプールの第3の連通孔(又は先端面側からの一部切欠き)→第2シリンダ室へ通じる給排ポート」の経路からなる作動油の流通路が構成される。即ち、その流通路を通じて作動油を流すことで、油圧シリンダ装置の冷却機能や空気抜き機能を実現できる。
尚、本発明において「第1シリンダ室」と「第2シリンダ室」の用語は、単にピストンによって区画される2つのシリンダ室を意味し、ロッドカバー側かヘッドカバー側かを意味するものではない。
【0014】
本発明において、前記スプールの外周側と前記第2シリンダ室に通じる給排ポートとの間に流通路を確保する構成としては、前記ピストンと対向する前記第2シリンダ室の内壁が、ロッドの中心軸に対向する点を中心とした円形の凹部領域とその外側にある前記ピストンとの当接領域とからなり、前記凹部領域は前記ピストンの非貫通孔との対向領域を含み、前記第2シリンダ室に対する作動油の給排ポートが前記凹部領域に連通するようにする方式が合理的である。
【0015】
また、前記第1の連通孔については、前記ピストンの角部に傾斜面を形成し、前記傾斜面から前記非貫通孔の深さ方向中間位置へ鋭角的に交わる直線状の孔として形成すると、前記第1の連通孔の穿設が容易になる。
【0016】
また、本発明において、ピストンとロッドとを一体成形し、前記第1シリンダ室をロッド側のシリンダ室として、前記非貫通孔が前記第2シリンダ室側の面から前記ロッドの中心軸と一致した方向に前記ロッドの内部まで形成されており、前記第1の連通孔が、前記ピストンの前記第1シリンダ室側にシリンダチューブとの摺動面の直径よりも小さい直径の小径部を設け、前記小径部の外周面から前記非貫通孔の深さ方向中間位置へ垂直に交わる直線状の孔として形成されるようにすれば、小径の油圧シリンダ装置についても無理なく前記制御弁機構を構成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の油圧シリンダ装置は、以上のような構成を有していることにより、次のような効果を奏する。
本発明では、ピストンに形成した非貫通孔におけるスプール摺動面で弁の開閉を行い、スプールを管状部材で構成してその内部を作動油の流通路として利用しているため、チャタリングのような現象が発生する余地はなく、簡単な構造で部品点数も少ないコンパクトな制御弁機構が構成できる。
したがって、特にシリンダ径やピストンの厚みが小さい油圧シリンダ装置において、安定した動作で冷却・空気抜き機能を実行させる必要がある場合に最適である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態1に係る油圧シリンダ装置(ピストン・ロッドの前進限状態)の断面図及び駆動系油圧回路である。
【図2】ピストンに構成されている制御弁部分の拡大断面図である。
【図3】スプールの正面図(A)と、左側面図(B)と、右側面図(C)と、正面図(A)におけるX−X矢視断面図(D)と、正面図(A)におけるY−Y矢視断面図(E)である。
【図4】油圧シリンダ装置(ピストン・ロッドの後退限状態)の断面図及び駆動系油圧回路である。
【図5】ストッパーの装着部を示す拡大正面図である。
【図6】図4の状態(ピストン・ロッドの後退限状態)における制御弁部分の拡大断面図(作動油の流通経路も示す)である。
【図7】実施形態2に係る油圧シリンダ装置(ピストン・ロッドの後退限状態)の断面図及び駆動系油圧回路である。
【図8】実施形態2に係る油圧シリンダ装置(ピストン・ロッドの前進限状態)の断面図及び駆動系油圧回路である。
【図9】実施形態3に係る油圧シリンダ装置におけるピストン・ロッドの前進限状態での断面図(A)及びピストン・ロッドの後退限状態での断面図(B)である。
【図10】図9の(B)の状態における制御弁部分の拡大断面図(作動油の流通経路も示す)である。
【図11】従来技術(特許文献2)におけるピストン内に構成された制御弁部分の断面図である。
【図12】従来技術(特許文献3)におけるピストン内に構成された制御弁部分の断面図(閉状態)である。
【図13】従来技術(特許文献3)におけるピストン内に構成された制御弁部分の断面図(開状態)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の油圧シリンダ装置の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
<実施形態1>
先ず、図1は本実施形態に係る油圧シリンダ装置10とその駆動系油圧回路20を示す。
ここに、油圧シリンダ装置10は、ロッド11、ピストン12、リテーナ13、ロッドガイド14及びシリンダ(シリンダ及びヘッドカバー)15からなり、シリンダ15の各給排ポート16,17から作動油の給排制御を行うことでピストン・ロッド11,12を作動させる通常の複動形油圧シリンダ装置の構成を有している。
尚、ロッドガイド14におけるロッド摺動面及びロッドガイド14とシリンダ15の嵌合面には所要シール部材が施されており、またピストン12の外周摺動面にはピストンパッキンが設けられている。
【0020】
作動油の給排制御を行う駆動系油圧回路20については、油圧シリンダ装置10の各給排ポート16,17がそれぞれ流量制御弁21,22を介在させて4ポート3位置切換え弁23に接続されており、その切換え弁23には油圧ポンプ24とドレイン25が接続されている。
【0021】
ところで、油圧シリンダ装置10の特徴はピストン12の内部に制御弁機構30が構成されている点にあり、同制御弁機構30の詳細は図2の拡大断面図に示される。
同図に示すように、この油圧シリンダ装置10のピストン12では、その後方端面(ヘッドカバー側の端面)からロッド11と平行な方向に所定深さの非貫通孔31が形成されている。
また、ピストン12の前方端面(ロッドカバー側の端面)は、摺動部の外径D0より小さい外径D1の区間が形成されていると共に、外径D0の区間と外径D1の区間の間が傾斜面32になっており、その傾斜面32から前記非貫通孔31の深さ方向中間位置へ通じる直線状の連通孔33が形成されている。
【0022】
そして、非貫通孔31にはコイルばね34とスプール35が直列に嵌装されており、底部側のコイルばね34をスプール35で所定量だけ圧縮した状態で、ストッパー36によってスプール35の一部を係止することにより抜け止めがなされている。即ち、スプール35はストッパー36で係止された位置からコイルばね34の付勢力に抗して非貫通孔31の中へ押し込むことができ、押し込み力がなくなれば、コイルばね34の付勢力によってストッパー36での係止状態へ戻るようになっている。
【0023】
ところで、この実施形態におけるスプール35は図3に示すような形状を備えている。
先ず、スプール35は管状部材としての基本的形態をなし、長手方向について、非貫通孔31に内嵌して摺動する大径区間37とそれよりも小さい径の小径区間38とからなる。
そして、大径区間37の中間位置(本実施形態では少し小径区間38寄り)には周方向溝39が形成されており、その周方向溝39と管内40とを連通する連通孔41が形成されている。
また、小径区間38の先端部近傍には管内40と管外とを連通する連通孔42が形成されている。
尚、大径区間37の端部寄り区間での管内40の内径d1がそれ以外の区間での内径d0より少し大きくなっているが、これは、図2に示すようにコイルばね34を内嵌させた状態で、内径差による段差部分43でコイルばね34の端部を係合させるためである。
【0024】
前記のように、スプール35の抜け止めはストッパー36で行っているが、この実施形態でのストッパー36は、図5に示すように、ピストン12の後方端面における非貫通孔31の開口部を含む領域に形成された凹部44に嵌合する平面形状の板材からなり、その板材にはスプール35の小径区間38を緩嵌させる孔45が形成されていると共にその両側部にも止めネジ用孔が形成されており、スプール35の小径区間38を貫通させた状態で、凹部44における非貫通孔31の両側部領域に形成されたネジ孔を用いて六角穴付き止めネジ46,47により凹部44に固定されている。
【0025】
次に、ピストン・ロッド11,12の作動状態と制御弁機構30の動作について説明する。
先ず、駆動系油圧回路20が給排ポート17へ作動油を供給して給排ポート16をドレインに接続している状態(図1の接続状態)では、図1や図2に示すようにピストン・ロッド11,12が前進限に達しているか又はピストン・ロッド11,12の突き出し工程の実行中であるが、スプール35は管状部材であるために作動油による軸方向への駆動力は発生せず、図2のようにコイルばね34で後方へ付勢されてストッパー36に係合した状態を保つ。
そして、その状態では、スプール35の周方向溝39が非貫通孔31の内周面における連通孔33の開口部とストッパー36の係合面との間に位置しているため、連通孔33は閉鎖状態を保ち、ピストン12で区画されている前方シリンダ室と後方シリンダ室とは非連通状態を保つ。
【0026】
逆に、駆動系油圧回路20が、図4に示すように給排ポート16へ作動油を供給して給排ポート17をドレインに接続している状態では、ピストン・ロッド11,12の引き込み工程の実行中であるか又は図4や図6に示すようにピストン・ロッド11,12が後退限に達している状態である。
ピストン・ロッド11,12の引き込み工程の実行中では、前方シリンダ室に作動油の圧力がかかり、ピストン12の前方端面と共に、連通孔33の内面とスプール35の連通孔33に対応する外周面に圧力が作用するが、スプール35へはその軸と垂直な方向の力が作用しているだけであるため、スプール35は作動することなく、ピストン12との相対的関係は前記図2の状態と同様である。
【0027】
ところで、ピストン・ロッド11,12の引き込み工程が進行して後退限に近付くと、図1や図2に示すように、スプール35の小径区間38の先端部分48がピストン12の後方端面より後方へ突出させてあるため、ピストン・ロッド11,12が後退限に達する前にその先端部分48がシリンダ15のヘッド側内壁面に当接し、更にピストン・ロッド11,12が後退すると、スプール35が同内壁面に押されてコイルばね34を圧縮しながら非貫通孔31内を前方へ摺動し、図4に示すように後退限に達した段階では、制御弁機構30は図6に示すような状態となる。
【0028】
具体的には、この実施形態におけるシリンダ15のヘッドカバー側内壁面には、ロッド11の中心軸に対向する点を中心として、ピストン12の非貫通孔31との対向領域を最外周側に含む円形の凹部49(図1及び図4も参照)が形成されており、ピストン・ロッド11,12が後退限に達すると、スプール35の小径区間38の先端部分48が前記凹部49の底面に当接してスプール35は非貫通孔31の中に押し込まれ、他方、ピストン12の後方端面における非貫通孔31より外周側の環状領域50は前記凹部49の外側領域の内壁面と当接した状態となるが、図6に示すように、シリンダ15に形成されている給排ポート17は後方シリンダ室と前記凹部49へ通じるように形成されているため、ピストン12の非貫通孔31と凹部49と給排ポート17とが連通する。
【0029】
そして、スプール35が非貫通孔31の中に押し込まれた状態では、図6に示すように、ピストン12の非貫通孔31における連通孔33の開口位置とスプール35の周方向溝39の位置とが合致する。
その結果、「シリンダ15の給排ポート16→前方シリンダ室→ピストン12の連通孔33→スプール35の周方向溝39→スプール35の連通孔41→スプール35の管内40→スプール35の連通孔42→スプール35の小径区間38の先端部分とピストン12の非貫通孔31との隙間→シリンダ15のヘッドカバー側の凹部49(後方シリンダ室)→シリンダ15の給排ポート17」からなる作動油の流路が構成される。
【0030】
したがって、図4に示す状態でピストン・ロッド11,12を後退限に位置させたまま、作動油を給排ポート16から給排ポート17へ作動油を流し続けることにより、油圧シリンダ装置10に蓄積された熱量を作動油に吸収させて同装置10全体を冷却することができる。
また、油圧シリンダ装置10を初期駆動させる際や修理後に再駆動させる際におけるシリンダ内の空気抜き工程も同様の状態で実行させることができる。
【0031】
尚、図4に示す状態から駆動系油圧回路20の切換え弁23を図1に示した状態に切り換えると、給排ポート17から作動油が供給されて給排ポート16がドレインに接続されることになるが、後方シリンダ室への作動油の供給によってピストン・ロッド11,12が前進するが、スプール35がコイルばね34の復元力によって前方へ押し出され、図2に示したように、スプール35はその大径区間37と小径区間38の段差部分がストッパー36に係合した状態になる。
そして、その状態では、スプール35の周方向溝39がピストン12の非貫通孔31に通じている連通孔33の開口位置から外れて制御弁機構30が閉状態となり、前方シリンダ室と後方シリンダ室とは連通せず、通常のピストン・ロッド11,12の前進工程が実行されることになる。
【0032】
この実施形態におけるスプール35では、その小径区間38の先端部近傍に連通孔42を形成しておいて、図6に示すように、スプール35の管内40とピストン12の非貫通孔31との連通を図るようにしているが、連通孔42については必ずしも孔とする必要はなく、小径区間38の先端部分48に端面側から切欠きを形成しておいても同様の機能を果たせる。
【0033】
<実施形態2>
この実施形態に係る油圧シリンダ装置とその駆動系油圧回路は図7及び図8に示され、各図はそれぞれピストン・ロッド11,12aが後退限と前進限にある状態を示している。
各図において、実施形態1における図1及び図4で用いた符号と同一の符号で示される機素や部位は同一のものである。
この実施形態の油圧シリンダ装置60は、その制御弁機構30aがピストン・ロッド11,12aの前進限において閉状態から開状態に切り換わるようになっており、実施形態1の場合と逆になっている点に特徴がある。
【0034】
したがって、制御弁機構30aはピストン12aの前方シリンダ室側にスプール35の小径区間38の先端部分を突出させる態様で構成されており、ピストン12aの前面が当たる前方シリンダ室側の内壁面(ロッドカバー側の内壁面に相当)と給排ポート16の構成は、実施形態1におけるシリンダ15のヘッドカバー側の内壁面と給排ポート17の構成と同様になっている。
【0035】
この実施形態の油圧シリンダ装置60によれば、図8に示す状態でピストン・ロッド11,12aを前進限に位置させたまま、作動油を給排ポート17から給排ポート16へ作動油を流し続けることで、油圧シリンダ装置60を冷却することができ、また油圧シリンダ装置60の初期駆動時や再駆動時におけるシリンダ内の空気抜き工程を実行させることができる。
【0036】
<実施形態3>
この実施形態に係る油圧シリンダ装置は図9に示され、同図の(A)と(B)はそれぞれピストン・ロッド71が前進限と後退限にある状態を示している。
油圧シリンダ装置70は、ピストン・ロッド71、リテーナ73、ロッドガイド74及びシリンダ(シリンダ及びヘッドカバー)75からなり、シリンダ75の各給排ポート76,77から作動油の給排制御を行うことでピストン・ロッド71を作動させる複動形油圧シリンダ装置の構成を有しており、その基本的構成は実施形態1の油圧シリンダ装置10の場合と同様である。
【0037】
この油圧シリンダ装置70の特徴は次のような点にある。
(1) 金型の狭いスペース内に取り付け可能とするために、各給排ポート76,77がシリンダ75のヘッドカバー部の後端面に設けられており、各給排ポート76,77から前方シリンダ室と後方シリンダ室へ連通する流路がシリンダ15の肉厚内に形成されている。
(2) ピストン・ロッド71が一体成形型のものであり、制御弁機構がピストン・ロッド71の中心軸の方向に構成されている。
【0038】
制御弁機構についても、その基本的構成は実施形態1の制御弁機構30と同様であり、図9(B)の要部拡大断面図である図10も参照しながら説明すると、ピストン・ロッド71の中心軸の方向にピストン部の後端面側から非貫通孔81が形成されており、その非貫通孔81にコイルばね82とスプール83が直列に嵌装されている。
【0039】
そして、スプール83の基本的構成についても実施形態1のスプール35の場合と同様であり、大径区間84と小径区間85を有する管状部材であって、大径区間84の中間位置に周方向溝86が形成されていると共に、同周方向溝86には管内87に連通する連通孔88が形成されており、更に小径区間85の先端部近傍には管内87と管外とを連通する連通孔89が形成されている。
【0040】
また、スプール83の抜け止めは、その小径区間85に緩嵌し、大径区間84と小径区間85の段差に係合する孔が形成された環状板であるストッパー90をピストン部の後端面に取り付けることにより行われている。
尚、この実施形態のスプール83は、実施形態1のスプール35がその前端側でコイルばね34を内嵌させていたのに対し、コイルばね82に内嵌するスリーブ部91が付加されている。
【0041】
一方、ピストン・ロッド71のピストン部におけるロッド部側寄りの部分には、摺動部の外径より小さい外径の区間が形成されており、その区間の外周面から非貫通孔81へ連通孔92が形成されている。
実施形態1においては、図2に示したように連通孔33が非貫通孔31へ斜め角度で連通するように形成されているが、この実施形態での連通孔92は貫通孔81に垂直な角度で連通するように形成されている。
【0042】
以上のようなこの実施形態での制御弁機構において、図9(B)のようにピストン・ロッド71が後退限にある状態以外では、図9(A)に示すようにスプール83の周方向溝86の位置はピストン部の非貫通孔31における連通孔33の位置からずれているために閉状態が維持され、図9(B)の状態ではスプール83がコイルばね82を圧縮しながら押し込まれて、その周方向溝86の位置が非貫通孔31における連通孔33の位置と合致するようになっているため、図10の矢印で示すような連通路が形成されて開状態となることは、実施形態1の場合と同様である。
【0043】
ただ、この実施形態の場合は、ピストン・ロッド71を一体成形型のものとして、制御弁機構をピストン・ロッド71の中心軸に沿って構成しているため、非貫通孔31の深さをピストン部の厚みを超えてロッド部の内部までとることが可能であり、シリンダ径やピストンの厚みが小さい小型の油圧シリンダ装置にも余裕をもって制御弁機構を構成することができるという利点がある。
【産業上の利用可能性】
【0044】
複動シリンダのピストンに常閉の制御弁を内蔵させて、ピストン・ロッドのストローク端で制御弁を開状態として作動油を通じることで冷却工程や空気抜き工程を実行する油圧シリンダ装置に適用できる。
【符号の説明】
【0045】
10…油圧シリンダ装置、11…ロッド、12,12a…ピストン、13…リテーナ、14…ロッドガイド、15…シリンダ、15a…シリンダチューブ部、15b…ヘッドカバー部、16,17…給排ポート、20…駆動系油圧回路、21,22…流量制御弁、23…切換え弁、24…油圧ポンプ、25…ドレイン、30,30a…制御弁機構、31…非貫通孔、32…傾斜面、33…連通孔、34…コイルばね、35…スプール、36…ストッパー、37…大径区間、38…小径区間、39…周方向溝、40…管内、41,42…連通孔、43…段差部分、44…凹部、45…孔、46,47…六角穴付き止めネジ、48…先端部分、49,49a…凹部、50…非貫通孔より外周側の環状領域、60…油圧シリンダ装置、70…油圧シリンダ装置、71…ピストン・ロッド、73…リテーナ、74…ロッドガイド、75…シリンダ、76,77…給排ポート、81…非貫通孔、82…コイルばね、83…スプール、84…大径区間、85…小径区間、86…周方向溝、87…管内、88,89…連通孔、90…ストッパー、91…スリーブ部、92…連通孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複動シリンダのピストンに常閉の制御弁を内蔵せしめ、前記ピストンがストローク端に達した状態で前記制御弁を開放して、前記ピストンで区画されている第1シリンダ室側と第2シリンダ室側を連通させることにより、前記複動シリンダの冷却工程又は空気抜き工程を実行する油圧シリンダ装置において、
前記第2シリンダ室側の面からロッドと平行な方向に所要深さの非貫通孔が形成されており、前記第1シリンダ室側の面から前記非貫通孔の深さ方向中間位置へ通じる第1の連通孔が形成されているピストンと、
前記非貫通孔の底部側に嵌装されるコイルばねと、
管状部材であって、前記非貫通孔に内嵌して摺動する大径区間とそれよりも小さい径の小径区間とを有し、前記大径区間の中間位置の外周面に周方向溝が形成されていると共に、前記周方向溝と管内を連通する第2の連通孔と、前記小径区間の先端部近傍位置で管内と管外を連通する第3の連通孔又は先端面側からの一部切欠きがそれぞれ形成されているスプールと、
前記スプールを大径区間側から前記非貫通孔に嵌挿して前記コイルばねを所定量だけ圧縮させた状態で、前記スプールの大径区間と小径区間の段差部と係合するように前記ピストンの前記第2シリンダ室側の面に取り付けられるストッパーとからなり、
前記スプールは、可動弁体として、前記段差部が前記ストッパーに係合した状態では、前記小径区間の端部が前記ピストンの第2シリンダ室側の面から所定長さだけ突出すると共に、前記周方向溝が前記非貫通孔における前記第1の連通孔の開口位置と前記ストッパーの係合面との間に位置し、前記ピストンが前記第2シリンダ室側のストローク端に達して前記小径区間の端部が前記第2シリンダ室の内壁で押し込まれた状態では、前記周方向溝が前記非貫通孔における前記第1の連通孔の開口位置となる構成を備え、
また、前記第2シリンダ室における前記ピストンと対向する内壁は、前記ピストンが前記第2シリンダ室側のストローク端に達した状態で、前記スプールの外周側と前記第2シリンダ室に通じる給排ポートとの間に流通路を確保させる構成を備えている
ことを特徴とする油圧シリンダ装置。
【請求項2】
前記ピストンと対向する前記第2シリンダ室の内壁が、ロッドの中心軸に対向する点を中心とした円形の凹部領域とその外側にある前記ピストンとの当接領域とからなり、前記凹部領域は前記ピストンの非貫通孔との対向領域を含み、前記第2シリンダ室に対する作動油の給排ポートが前記凹部領域に連通している請求項1に記載の油圧シリンダ装置。
【請求項3】
前記第1の連通孔が、前記ピストンの角部に傾斜面を形成し、前記傾斜面から前記非貫通孔の深さ方向中間位置へ鋭角的に交わる直線状の孔として形成されたものである請求項1又は請求項2に記載の油圧シリンダ装置。
【請求項4】
ピストンとロッドとを一体成形し、前記第1シリンダ室をロッド側のシリンダ室として、前記非貫通孔が前記第2シリンダ室側の面から前記ロッドの中心軸と一致した方向に前記ロッドの内部まで形成されており、前記第1の連通孔が、前記ピストンの前記第1シリンダ室側にシリンダチューブとの摺動面の直径よりも小さい直径の小径部を設け、前記小径部の外周面から前記非貫通孔の深さ方向中間位置へ垂直に交わる直線状の孔として形成された請求項1又は請求項2に記載の油圧シリンダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−7407(P2013−7407A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139038(P2011−139038)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(392003661)株式会社南武 (8)
【Fターム(参考)】