説明

油圧パイロット式電磁比例制御弁

【課題】構造を大きく変更することなく、応答性が良く、かつ、動作安定性と両立する油圧パイロット式電磁比例制御弁を提供する。
【解決手段】油路32A、33A、33B、34、36を有するスプール室21と、スプール室21の両端部に設けられた圧力室25A、25Bと、スプール室21及び圧力室25A、25B内部を移動するスプール軸22と、圧力室25A、25Bへの油圧を各々制御する電磁比例弁40A、40Bとを備え、圧力室25A、25Bの油圧によりスプール軸22のストローク位置を制御して、油路33A又は油路33Bを流れる作動油の流れ方向及び流量を制御するパイロット式比例制御弁10において、スプール軸22の初期位置から少しでも移動すると、作動油が排出される側の圧力室25Bと油路36とを連通させる連通溝37を、スプール軸22に設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイロット圧を制御することにより、作動油の流れ方向を切り換えると共に、その流量を連続的に制御する油圧パイロット式電磁比例制御弁に関する。
【背景技術】
【0002】
図7に、従来の油圧パイロット式電磁比例制御弁(以下、パイロット式比例制御弁と略す。)の断面図、図8に、そのパイロット圧制御部の断面図を示す。
【0003】
従来のパイロット式比例制御弁30は、ボディ11内部に設けられた円筒形状のスプール室21と、スプール室21を貫通して設けられ、スプール室21の内壁に沿って移動する円柱形状のスプール軸22とを有し、スプール軸22が移動するストローク位置に応じて、後述する油路同士(油路32A、32B、33A、33B、34)の連通状態を制御して、作動油の流れ方向を切り換えると共に、その流量を連続的に制御している。
【0004】
スプール21のストローク位置は、電磁比例弁40A(ソレノイド12A、パイロット圧制御部13A)、又は、電磁比例弁40B(ソレノイド12B、パイロット圧制御部13B)により供給される2次作動油(パイロット圧P2)により制御される。概略を説明すると、油路14A、14Bを介して、パイロット圧制御部13A、13Bに主油圧回路から1次作動油(パイロット圧P1;但し、P1>P2)が供給される。そして、例えば、オペレータによるレバーの操作量に比例して、ソレノイド12A、12Bへの電流が変化し、その電流の大きさに比例して、ソレノイド12A、12Bにおける推力が変化し、その結果、供給された1次作動油のパイロット圧P1が、その推力に応じた2次作動油のパイロット圧P2に制御されて、油路15A、15Bへ供給される。
【0005】
スプール軸22の側端部22a1、22b1は、ボディ11の側面から突出して配置されており、側端部22a1、22b1を覆うように、Oリング23A、23Bを介して、キャップ24A、24Bがボディ11側面に取り付けられている。このキャップ24A、24Bが形成する空間が、2次作動油が供給される圧力室25A、25Bとなっている。そして、油路15A、15Bへ供給された2次作動油は、スプール室21の側端部に形成された油路31A、31Bを経由して、圧力室25A、25Bへ供給される。なお、スプール軸22は、プレート26A、26Bを介して、スプリング27A、27Bにより、スプール軸22の中心方向に付勢されている。
【0006】
スプール軸22を図7中右側方向(極太の矢印参照)に移動させるときには、電磁比例弁40Aからの2次作動油を、油路15A、油路31Aを介して、圧力室25Aへ供給し、圧力室25Aに供給された2次作動油のパイロット圧P2により、側端部22a1をスプール室21側へ押し入れることにより、スプール軸22を移動させている。このとき、スプール軸22は、2次作動油のパイロット圧P2の大きさに応じて、そのストローク位置が変化することになる。
【0007】
その際、側端部22a1の反対側の側端部22b1は、スプリング27Bの付勢力に抗して、圧力室25B側へ押し出されることになり、圧力室25B内の2次作動油は、油路31B、油路15Bを経由して、電磁比例弁40Bへ戻される。電磁比例弁40Bへ戻された2次作動油は、パイロット圧制御部13Bの内部を経由して、タンク(図示省略)へ戻されることになる。
【0008】
つまり、スプール軸22は、例えば、図7中右側方向に移動させるときには、圧力室25Aに供給された2次作動油のパイロット圧P2とスプリング27Bの付勢力とが釣り合ったストローク位置に制御されることになる。これは、スプール軸22を図中7左側方向に移動させるときも同様である。
【0009】
そして、スプール軸22が移動した結果、油路32A、32B、33A、33B、34同士の連通状態が制御されることになる。具体的には、スプール軸22が図7に示した状態より更に右方向に移動すると、ポートBに連通する油路33Bは、スプール軸22に形成された凹部35Bを介して、タンクに連通する油路32Bと連通することになり、ポートBの作動油はタンクへ排出されることになる。その後、ポンプ(図示省略)からの作動油が供給される油路34は、スプール軸22に形成された凹部35Aを介して、ポートAに連通する油路33Aと連通することになり、連通する部分の面積に応じた流量で、ポンプからの作動油がポートAへ供給されることになる。なお、ポートA、Bの先は、制御対象となるアクチュエータ(油圧シリンダ等)に接続されている。
【0010】
逆に、スプール軸22が図7に示した状態より更に左方向に移動すると、ポートAに連通する油路33Aは、スプール軸22に形成された凹部35Aを介して、タンクに連通する油路32Aと連通することになり、ポートAの作動油はタンクへ排出されることになる。その後、ポンプから作動油が供給される油路34は、スプール軸22に形成された凹部35Bを介して、ポートBに連通する油路33Bと連通することになり、連通する部分の面積に応じた流量で、ポンプからの作動油がポートBへ供給されることになる。
【0011】
このように、スプール軸22の位置を移動することにより、作動油の流れ方向を切り換えると共に、その流量を連続的に制御している。
【0012】
【特許文献1】実用新案登録第2590030号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ここで、電磁比例弁40A、40B、特に、パイロット圧制御部13A、13Bについて、図8に示したパイロット圧制御部13Bの断面図を用いて説明を行う。なお、パイロット圧制御部13Aも、全く同じ構成である。
【0014】
パイロット圧制御部13Bは、ボディ11の側部を切削して形成した調圧室41の内部に設けられており、このパイロット圧制御部13Bの外側面に対面するように、Oリング42を介して、ソレノイド12Bが取り付けられている。調圧室41の内部には、調圧室41の内壁、複数のOリング43と共に各油室を区画する隔壁部44と、隔壁部44の内側に設けられ、一方からスプリング45により付勢されると共に、他方からソレノイド12Bのシャフト46により推力が付与されて、その位置により各油室間の連通状態を制御する心弁部47とを有する。
【0015】
そして、調圧室41は、油路14Bが接続され、1次作動油(パイロット圧P1)が供給される油室48、2次作動油(パイロット圧P2)に制御される油室49、隔壁部44と心弁部47との間に形成される油室50、油室49と油室50との間を連通する油室51、油路15Bが接続された油室52、タンクへの油路16Bが接続された油室53、油室53と連通する油室54を有している。
【0016】
隔壁部44の油室48を形成する部分には、オリフィス55が形成されており、又、隔壁部44の油室52を形成する部分には、オリフィス56が形成されており、更に、油室53と油室54の間の隔壁部44には、オリフィス57が形成されている。
【0017】
従って、油室48へ供給された1次作動油(パイロット圧P1)は、オリフィス55と心弁部47により、2次作動油(パイロット圧P2)へ制御され、その後、オリフィス56を通過して、油室52、そして、油路15Bへ供給される。一方、油路15Bを経由して、油室52へ戻された2次作動油は、オリフィス56を通過して油室50へ戻り、更に、油室54、オリフィス57、油室53を通過して、油路16Bからタンクへ戻される(点線矢印参照)。
【0018】
上記構成のパイロット圧制御部13Bにおいて、油室50から油室52への出口を絞っているオリフィス56は、主油圧回路から供給される1次作動油の脈動や2次作動油生成時のサージの影響を防止するために必要な構造であり、スプール軸22のストローク位置が不安定になることを防止して、パイロット式比例制御弁30の動作安定性を保っている。従って、パイロット式比例制御弁30の動作安定性を保つには、オリフィス56の径を小さくすればよい。
【0019】
ところが、上記オリフィス56は、油室52から油室50へ2次作動油を通過させる際には大きな抵抗になる。つまり、圧力室25A側に2次作動油(パイロット圧P2)を供給し、スプール22を図7中の右方向に移動させるときには、圧力室25Bから2次作動油を排出する必要があるが、パイロット圧制御部13B内部のオリフィス56が大きな抵抗となってしまい、スプール22のスムーズな移動を妨げ、パイロット式比例制御弁30自体の応答性に悪影響を与えてしまう。
【0020】
パイロット式比例制御弁30の応答性は、オペレータがレバー等を操作開始してから制御対象となるアクチュエータが動作を開始するまでのタイムラグに直接影響し、操作フィーリング上、重要なファクターの1つとなっている。従って、パイロット式比例制御弁30の応答性を向上させるためには、オリフィス56の径を大きくすればよく、所望のタイムラグとなるように設定されている。
【0021】
このように、パイロット式比例制御弁30の動作安定性、応答性は、オリフィス56の径に左右されるものであり、互いにトレードオフの関係にあり、両立することが難しかった。通常、動作安定性の確保のために、オリフィス56の径を小さくすることが多く、その場合、応答性悪化の要因となっていた。
【0022】
本発明は上記課題に鑑みなされたもので、構造を大きく変更することなく、応答性が良く、かつ、動作安定性と両立する油圧パイロット式電磁比例制御弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決する第1の発明に係る油圧パイロット式電磁比例制御弁は、
作動油を供給又は排出する第1油路と、前記第1油路とは択一的に、作動油を供給又は排出する第2油路と、前記第1油路又は前記第2油路に作動油を供給する供給油路と、前記第1油路及び前記第2油路に対応して設けられ、作動油を排出する排出油路とを有するスプール室と、
前記スプール室の両端部に設けられた圧力室と、
複数の凹部を有し、前記スプール室及び前記圧力室内部を移動するスプール軸と、
前記圧力室への油圧を各々制御する電磁比例弁とを備え、
前記圧力室の油圧により前記スプール軸のストローク位置を制御し、前記凹部の位置により前記第1油路又は前記第2油路を流れる作動油の流れ方向及び流量を制御する油圧パイロット式電磁比例制御弁において、
前記圧力室に油圧が印加されてないときの前記スプール軸の初期位置から少しでも前記スプール軸が移動すると、作動油が排出される側の圧力室と前記排出油路とを連通させる連通溝を、前記スプール軸の少なくとも一方側に設けたことを特徴とする。
【0024】
上記課題を解決する第2の発明に係る油圧パイロット式電磁比例制御弁は、
上記第1の発明に記載の油圧パイロット式電磁比例制御弁において、
前記連通溝の外側の端部を、前記初期位置では前記圧力室より内側であり、かつ、前記初期位置から少しでも移動すると、作動油が排出される側の圧力室と連通する位置としたことを特徴とする。
【0025】
上記課題を解決する第3の発明に係る油圧パイロット式電磁比例制御弁は、
上記第2の発明に記載の油圧パイロット式電磁比例制御弁において、
前記連通溝の内側の端部を、前記スプール軸が移動した最大の移動位置でも、前記第1油路及び前記第2油路とは連通しない位置としたことを特徴とする。
【0026】
上記課題を解決する第4の発明に係る油圧パイロット式電磁比例制御弁は、
上記第3の発明に記載の油圧パイロット式電磁比例制御弁において、
前記連通溝を設けた側の排出油路を、前記連通溝と常に連通する幅としたことを特徴とする。
【0027】
上記課題を解決する第5の発明に係る油圧パイロット式電磁比例制御弁は、
上記第1〜第4の発明のいずれか1つに記載の油圧パイロット式電磁比例制御弁において、
前記連通溝を前記スプール軸の一方側のみに設けた場合、
前記連通溝を設けた側が鉛直下方側となるように、当該油圧パイロット式電磁比例制御弁を配置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、大幅なコストアップや装置構造の大きな変更なしに、応答性が良く、かつ、動作安定性と両立する油圧パイロット式電磁比例制御弁を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図1〜図6を参照して、更には、前述の図7、図8及びその説明も参照して、本発明に係る油圧パイロット式電磁比例制御弁(以降、パイロット式比例制御弁と略す。)の実施形態を説明する。
【0030】
(実施例1)
図1は、本発明に係るパイロット式比例制御弁の実施形態の一例を示す断面図であり、図2は、図1に示したパイロット式比例制御弁内部のスプール軸部分を説明する図であり、図3〜図5は、スプール軸が移動した状態を説明する図である。なお、図1において、スプール軸の位置は、圧力室に2次作動油の油圧(パイロット圧)が印加されてないときの位置であり、この位置を初期位置として規定する。
【0031】
本実施例のパイロット式比例制御弁10は、応答性が良く、かつ、動作安定性と両立するものであるが、従来のパイロット式比例制御弁30(図7参照)の構造を大きく変更することなく、実施可能なものである。従って、従来のパイロット式比例制御弁30と同等の構成には同じ符号を付し、重複する説明は省略して、本実施例のパイロット式比例制御弁10の説明を行う。
【0032】
上述したように、本実施例のパイロット式比例制御弁10は、従来のパイロット式比例制御弁30の構造を大きく変更することなく、実施可能なものであり、スプール部分(スプール室21、スプール軸22)の構成を除き、従来のパイロット式比例制御弁30と同等の構成でよい。
【0033】
具体的には、圧力室25A、25Bへのパイロット圧を各々制御する電磁比例弁40A(ソレノイド12A、パイロット圧制御部13A)、電磁比例弁40B(ソレノイド12B、パイロット圧制御部13B)の構成は、全く同じもので良く、又、スプール室21の両端部に設けられた圧力室25A、25B自体の構成も、全く同じもので良い。特に、図8において説明したパイロット圧制御部13A、13B内部のオリフィス56については、動作安定性の確保のために、従来と同様に、例えば、1mm程度の径の小さいものでよい。
【0034】
そして、本実施例のパイロット式比例制御弁10では、その応答性を向上させるため、スプール室21、スプール軸22の構成の一部を変更している。この変更点について、図1、図2を参照して説明する。
【0035】
スプール室21には、ポートAに連通し、作動油を供給又は排出する油路33A(第1油路)と、ポートBに連通し、作動油を供給又は排出する油路33B(第2油路)と、ポートA又はポートBに作動油を供給するため、ポンプからの作動油が供給される油路34(供給油路)と、ポートAに対応して設けられ、作動油を排出するためにタンクと連通する油路32Aと、ポートBに対応して設けられ、作動油を排出するためにタンクと連通する油路36と、圧力室25Aに連通する油路31Aと、圧力室25Bに連通する油路31Bとが形成されている。なお、油路33Aと油路33Bは、スプール軸22のストローク位置により、択一的に選択され、同じく、油路32Aと油路36も、スプール軸22のストローク位置により、択一的に選択される。
【0036】
上記構成において、油路31A、31B、32A、33A、33B、34は、従来のパイロット式比例制御弁30における油路と同じであるが、油路36については、図7に示した油路32Bと比較して、幅が広く形成されている。具体的には、後述する連通溝37を設けた側の油路36は、この連通溝37と常に連通する幅に形成されている。
【0037】
又、スプール軸22は、従来と同様に、複数の凹部33A、33Bを有し、スプール室21及び圧力室25A、25B内部を移動するものである。そして、圧力室25A、25Bのパイロット圧により、そのストローク位置が制御されて、凹部33A、33Bの位置により油路33A又は油路33Bを流れる作動油の流れ方向及び流量を制御するものである。
【0038】
ここで、図2も参照して、スプール軸22を詳細に説明する。スプール軸22は、圧力室25A内に配置されて、圧力室25Aに供給された2次作動油のパイロット圧を受ける側端部22a1と、油路32Aに対して、弁の役割を果たす側方凸部22a2と、油路33Aに対して、油路32A又は油路34のいずれか一方を連通させる凹部33Aを形成する側方凹部22a3と、油路34に対して、弁の役割を果たす中央凸部22cと、圧力室25B内に配置されて、圧力室25Bに供給された2次作動油のパイロット圧を受ける側端部22b1と、油路36に対して、弁の役割を果たす側方凸部22b2と、油路33Bに対して、油路36又は油路34のいずれか一方を連通させる凹部33Bを形成する側方凹部22b3とを有している。
【0039】
上記構成において、側端部22a1、22b1と、側方凸部22a2と、側方凹部22a3、22b3と、中央凸部22cは、従来のパイロット式比例制御弁30におけるスプール軸22と同じ構成である。しかしながら、本実施例の側方凸部22b2においては、図7とは異なり、連通溝37を新たに形成している。この連通溝37は、油路36に対し、初期位置においては弁の役割を果たす一方、初期位置からスプール軸22が図中右方向に少しでも移動した場合には(図3参照)、油路31Bを介して、作動油が排出される側の圧力室25Bと油路36とを連通させて、圧力室25B内の2次作動油を排出する役割を果たしている。
【0040】
連通溝37は、図2(b)の上面図(白抜き矢印方向から見た図)、図2(c)のX1−X1線矢視断面図に示すように、側方凸部22b2の外周面において、その軸方向に沿って、所定の軸方向幅で切削加工されたものである。連通溝37の周方向幅、深さ、そして、溝形状は、所望の流量を確保することができれば、どのようなものでも良い。
【0041】
一方、連通溝37の軸方向幅は適切に規定する必要がある。具体的には、連通溝37の外側端部は、スプール軸22が初期位置にあるとき、油路31Bより少し内側の位置となるように形成されて、油路31Bと連通しないように配置されている。そして、図3に示すように、スプール軸22が初期位置から図中右側に少しでも移動したとき、初めて、油路31Bと連通する位置となる。つまり、連通溝37は、スプール軸22が少しでも移動すると、圧力室25Bと油路36とを連通させるように配置されており、オリフィス56に対するバイパス通路となっている。
【0042】
又、連通溝37の内側端部は、スプール軸22が図中左側へ最も移動した最大の移動位置であっても、油路33Bとは連通しない位置となっている。なお、図4に示す拡大図を参照して説明すると、スプール軸22の最大の移動位置は、プレート26B及びキャップ24B内部に形成された停止部29Bにより制限されている。
【0043】
構造理解のため、プレート26Bに対するX2−X2線矢視断面図を図2(d)に示す。なお、プレート26Aも全く同様の構成である。図2(d)に示すように、プレート26Bの中央部分は、中空となっており、この中空部分に、側端部22b1が挿入される。そして、プレート26Bの外周部分に切欠部28が複数形成されて、この切欠部28を介して、圧力室25Bと油路31Bとが連通している。又、プレート26Bは、キャップ24Bの底部との間にスプリング27Bを挟み込むことにより、スプール軸22を内側方向に付勢している。
【0044】
次に、油路36、連通溝37の作用効果について、スプール軸22が図中右側方向に移動した状態を示す図3〜図5を用いて説明する。
【0045】
図3は、スプール軸22が移動を開始した直後の状態を示す図である。電磁比例弁40Aからの2次作動油を、油路15A、油路31Aを介して、圧力室25Aへ供給すると、圧力室25Aに供給された2次作動油のパイロット圧P2により、側端部22a1がスプール室21側へ押し入れられて、図中右側方向へのスプール軸22の移動が開始する。
【0046】
スプール軸22が少しでも移動すると、側端部22a1の反対側の側端部22b1は、スプリング27Bの付勢力に抗して、圧力室25B側へ押し出されることになる。同時に、図3及びその拡大図である図4に示すように、連通溝37により、油路31Bを介して、圧力室25Bと油路36とが連通することになる。すると、圧力室25B内部にあった2次作動油は、従来のように、油路31B、油路15B及び電磁比例弁40Bを経由して、タンク側へ排出されるだけではなく、油路31B、連通溝37及び油路36を経由して、タンク側へ排出されることになる(図4中の太線矢印参照)。
【0047】
このとき、電磁比例弁40Bにはオリフィス56による流れ抵抗があるため、その流量は大きくはないが、油路31B、連通溝37及び油路36を経由するルートは、オリフィス56と比較すると、その流れ抵抗は小さく、大きな流量を確保することができる。従って、圧力室25B内部から2次作動油がスムーズに排出されて、スプール軸22がスムーズに移動可能となる。
【0048】
そして、スプール軸22は、例えば、図中右側方向に移動させるときには、圧力室25Aに供給された2次作動油のパイロット圧P2とスプリング27Bの付勢力とが釣り合ったストローク位置に制御されることになる。例えば、ポートAへ供給する作動油の流量を最大にしたい場合には、図5に示すように、ポートAへの油路33Aとスプール軸22の凹部35Aとの連通面積が最大となるように、スプール軸22が移動される。従って、油路34から供給された作動油は、凹部35A、油路33Aを経由してポートAへ供給されることになる。一方、ポートBへの油路33Bとスプール軸22の凹部35Bとの連通面積も最大となり、又、この凹部35Bが油路36と連通しているので、ポートBの作動油は、油路33B、凹部35B、油路36を経由して、タンクへ戻されることになる。
【0049】
このようにして、圧力室25B内の2次作動油が速やかに排出され、スプール22がスムーズに移動して、応答性が良くなる。そして、スプール軸22のストローク位置を移動することにより、作動油の流れ方向を切り換えると共に、その流量を連続的に制御している。なお、本実施例の場合、応答性が向上するので、動作安定性の更なる向上のために、オリフィス56を更に小さくすることも可能となる。
【0050】
なお、圧力室からの2次作動油の排出は、鉛直下方側になった圧力室側で起こりやすいため、本実施例のように、スプール軸22の一方側に連通溝37を設けている場合には、連通溝37を設けた側が鉛直下方側となるように、パイロット式比例制御弁10を配置すればよい。
【0051】
又、本実施例のように、スプール軸22の一方側のみに連通溝を1つ設けるのではなく、図6に示すパイロット式比例制御弁20のように、スプール軸の両側に各々連通溝37、39を設けるようにしてもよい。この場合、連通溝39に対応して設けられた作動油排出用の油路38も、油路36と同様に、その幅を広くしている。又、応答性能を更に向上させたい場合でも、所望の応答性を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明に係るパイロット式比例制御弁は、フォークリフト等の産業車両におけるアクチュエータの油圧制御に好適なものであり、通常、アクチュエータの数に対応して、複数連並設して使用する。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明に係るパイロット式比例制御弁の実施形態の一例を示す断面図である。
【図2】図1に示したパイロット式比例制御弁内部のスプール軸部分を説明する図である。
【図3】図1に示したパイロット式比例制御弁において、スプール軸が移動した状態を説明する図である。
【図4】図3に示したパイロット式比例制御弁の一部の拡大図である。
【図5】図1に示したパイロット式比例制御弁において、スプール軸が更に移動した状態を説明する図である。
【図6】本発明に係るパイロット式比例制御弁の実施形態の他の一例を示す断面図である。
【図7】従来のパイロット式比例制御弁の断面図である。
【図8】図7に示した従来のパイロット式比例制御弁のパイロット圧制御部の断面図である。
【符号の説明】
【0054】
10、20 パイロット式比例制御弁
21 スプール室
22 スプール軸
25A、25B 圧力室
32A、33A、33B、34、36、38 油路
37、39 連通溝
40A、40B 電磁比例弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動油を供給又は排出する第1油路と、前記第1油路とは択一的に、作動油を供給又は排出する第2油路と、前記第1油路又は前記第2油路に作動油を供給する供給油路と、前記第1油路及び前記第2油路に対応して設けられ、作動油を排出する排出油路とを有するスプール室と、
前記スプール室の両端部に設けられた圧力室と、
複数の凹部を有し、前記スプール室及び前記圧力室内部を移動するスプール軸と、
前記圧力室への油圧を各々制御する電磁比例弁とを備え、
前記圧力室の油圧により前記スプール軸のストローク位置を制御し、前記凹部の位置により前記第1油路又は前記第2油路を流れる作動油の流れ方向及び流量を制御する油圧パイロット式電磁比例制御弁において、
前記圧力室に油圧が印加されてないときの前記スプール軸の初期位置から少しでも前記スプール軸が移動すると、作動油が排出される側の圧力室と前記排出油路とを連通させる連通溝を、前記スプール軸の少なくとも一方側に設けたことを特徴とする油圧パイロット式電磁比例制御弁。
【請求項2】
請求項1に記載の油圧パイロット式電磁比例制御弁において、
前記連通溝の外側の端部を、前記初期位置では前記圧力室より内側であり、かつ、前記初期位置から少しでも移動すると、作動油が排出される側の圧力室と連通する位置としたことを特徴とする油圧パイロット式電磁比例制御弁。
【請求項3】
請求項2に記載の油圧パイロット式電磁比例制御弁において、
前記連通溝の内側の端部を、前記スプール軸が移動した最大の移動位置でも、前記第1油路及び前記第2油路とは連通しない位置としたことを特徴とする油圧パイロット式電磁比例制御弁。
【請求項4】
請求項3に記載の油圧パイロット式電磁比例制御弁において、
前記連通溝を設けた側の排出油路を、前記連通溝と常に連通する幅としたことを特徴とする油圧パイロット式電磁比例制御弁。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1つに記載の油圧パイロット式電磁比例制御弁において、
前記連通溝を前記スプール軸の一方側のみに設けた場合、
前記連通溝を設けた側が鉛直下方側となるように、当該油圧パイロット式電磁比例制御弁を配置することを特徴とする油圧パイロット式電磁比例制御弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−127373(P2010−127373A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−302177(P2008−302177)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】