説明

油圧式地上推進システム

【課題】航空機用の油圧式地上推進システムを提供する。
【解決手段】このシステムは,車輪,車軸,航空機用電力インターフェース,電気モータ,油圧システム,駆動アセンブリ及び制御装置を備える。車輪は,車軸に回転自在に連結される。航空機用電力インターフェースは,航空機電源に接続される。電気モータは,航空機用電力インターフェースに連結され,航空機電源から航空機用電力インターフェースを介して電力を受け取る。油圧システムは,電気モータにより駆動する。駆動アセンブリは,車軸と油圧システムを機械的に連結する。駆動アセンブリは,油圧システムによって機械的に駆動される。駆動アセンブリは,油圧システムから車軸にエネルギーを伝達する。制御装置は,パイロットのトルク指令に基づき電気モータと油圧システムを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,航空機用地上推進システムに関する。本発明は,特に,油圧式地上推進システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地上走行の際,航空機は,地上推進システムを使用して主脚車軸及び車輪の速度及びトルクを制御する。通常,航空機のエンジンは,推進力として使われる。しかし,航空機のエンジンを地上走行に用いるのは非効率的であり,地上係員の安全上の危険を高めてしまう。代替として,牽引棒/車輪を使用してもよい。しかし,バック及び操作に牽引棒/車輪を使用することは,地上サポートの係員や機材に依存することになる。更に,遠隔した滑走路間の移動の際,航空機には牽引棒の重量が余分にかかることになる。牽引棒は,数百ポンドの重量になることもある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
1つ以上の高出力電気モータを用いて航空機を推進し,地上走行させるという別の代替手段もある。これらの電気モータには,モータの極大温度を超えないようにする液冷ジャケットが必要である。しかし,モータの冷却に使用される冷却液は,脚格納庫内の気温が低いことにより,飛行中に凍結することがある。さらに,折り畳み式着陸ギアを通る冷却ラインの配管は難しい。更に,電気モータの使用は,モータの速度を変化させるためのインバータ,整流器及び増幅器の使用を必要とする。これらの装置もまた冷却する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
したがって,地上走行のために車軸の速度とトルクを変化させることができる油圧式地上推進システムが開示される。油圧式地上推進システム201は,エンジンからの動力を使用せず,むしろ補助電源から離陸用動力を得る。
【0005】
このシステムは,少なくとも1つの車輪,少なくとも1つの車軸,航空機用電力インターフェース,電気モータ,油圧システム,駆動アセンブリ及び制御装置を備える。車輪は,車軸に回転自在に連結される。電気モータは,航空機用電力インターフェースに連結され,補助電源から航空機用電力インターフェースを介して電力を受け取る。油圧システムは,電気モータにより駆動する。駆動アセンブリは,車軸と油圧システムを機械的に連結する。駆動アセンブリは,油圧システムによって機械的に駆動される。駆動アセンブリは,油圧システムから車軸にエネルギーを伝達する。制御装置は,パイロットのトルク指令に基づき電気モータと油圧システムを制御する。
【0006】
制御装置は,パイロットのトルク指令及び少なくとも1つの環境パラメータの両方に基づいて電気モータ及び油圧システムを制御する。前記少なくとも1つの環境パラメータは,車輪速度,例えば空中又は地上という航空機の状態,油圧油温度及び排液容器圧であるが,これに限定されない。
【0007】
制御装置は,可変容量油圧ポンプと可変容量油圧モータを別々に制御する。
【0008】
電気モータは,油圧システムに電源を提供する定速ACモータである。
【0009】
油圧システムは,オイルタンク,可変容量油圧ポンプ,電荷ポンプ及び可変容量油圧モータを備える。オイルタンクは,油圧システム用の油圧油を貯蔵する。可変容量油圧ポンプは,制御装置からの第1の変位制御信号に基づき加圧された油圧油を可変的に供給する。電気モータは,可変容量油圧ポンプに変位トルクを与える。電荷ポンプは,第1及び第2の端部を有する。第1の端部はオイルタンクに取り付けられ,第2の端部は可変容量油圧ポンプに取り付けられる。電荷ポンプは,オイルタンクから可変容量油圧ポンプに油圧油を送り込む。電荷ポンプは,電気モータにより駆動する。可変容量油圧モータは,制御装置からの第2の変位制御信号に基づき駆動アセンブリに力学的エネルギーを可変的に供給する。可変容量油圧モータには,加圧された油圧油が供給される。
【0010】
油圧システムは,第1及び第2の油圧管路を更に備える。第1の油圧管路は,第1及び第2の端部を有する。第1の端部は可変容量油圧ポンプに接続され,第2の端部は可変容量油圧モータに接続される。第2の油圧管路もまた,第1及び第2の端部を有する。第1の端部は可変容量油圧モータに接続され,第2の端部は可変容量油圧ポンプに接続される。
【0011】
油圧システムは,第1及び第2の油圧制御ラインを更に備える。第1の油圧制御ラインは,可変容量油圧ポンプに取り付けられ,制御装置からの第1の変位制御信号に基づき可変容量ポンプの変位量を調節するために用いられる。第2の油圧制御ラインは,可変容量油圧モータに取り付けられ,制御装置からの第2の変位制御信号に基づき可変容量モータの変位量を調節するために用いられる。
【0012】
可変容量油圧ポンプ及び可変容量油圧モータは,双方向性である。
【0013】
可変容量油圧モータ,駆動アセンブリ,少なくとも1つの車軸及び少なくとも1つの車輪は,ホイールハブ内に位置する。可変容量油圧ポンプ,オイルタンク,制御装置及び電気モータは,着陸ギア格納部内に位置する。
【0014】
航空機が着陸前の設定時間に入ると,制御装置は,ニュートラルモードに設定された可変容量油圧モータと共に可変容量油圧ポンプを作動させる。
【0015】
油圧システムは,制御装置からの制御信号に基づき油圧油及び加圧された油圧油を冷却する第1の温度制御システムを更に備える。
【0016】
第1の温度制御システムは,強制空冷装置とすることができる。
【0017】
地上推進システムは,油圧油の温度が予め設定された閾値を下回った場合に,油圧油を加熱する第2の温度制御システムを更に備える。
【0018】
第2の温度制御システムは,温度センサ及び発熱体を備える。発熱体は,抵抗性発熱体である。
【0019】
地上推進システムは,油圧油の粘度が予め設定された閾値を下回った場合に,油圧油を加熱する第2の温度制御システムを更に備える。
【0020】
発熱体は,オイルタンクの直近に位置する。
【0021】
地上推進システムは,電気モータを冷却する電気モータ冷却装置を更に備える。
【0022】
駆動アセンブリは,可変容量油圧モータに連結した変速機と,少なくとも1つの車軸に連結され,第1及び第2の位置,係合位置である第1の位置と解除位置である第2の位置,を有するクラッチアセンブリと,変速機に連結した第1の端部及びクラッチアセンブリに連結した第2の端部とを有する剪断アセンブリを備える。剪断アセンブリは,変速機とクラッチアセンブリとの間に機械的剪断点を有し,クラッチアセンブリが係合位置で停止した場合,変速機と少なくとも1つの車軸との間の機械的連結を絶って少なくとも1つの車輪が自由に回転できるようにする。
【0023】
変速機は,第1の方向及び第2の方向に回転するよう構成された少なくとも1つのギアを備えており,第1の方向では航空機を進行方向へ動かし,第2の方向では航空機を反対方向に動かす。
【0024】
少なくとも1つの車輪は第1及び第2の車輪からなり,少なくとも1つの車軸は第1及び第2の車軸からなる。第1の車輪は第1の車軸に回転自在に連結され,第2の車輪は第2の車軸に回転自在に連結される。地上推進システムは,第2の可変容量モータと,第2の車軸に機械的に連結されると共に第2の可変容量モータに機械的に連結された第2の駆動アセンブリと,可変容量モータと第2の可変容量モータの間で可変容量ポンプからの加圧された油圧油を分流する少なくとも1つの油圧油分流器を更に備える。
【0025】
本発明のこれら及びその他の特徴,利益および利点は,全般に同一の構造には同一の符号を付した以下の図面を参照することで明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は,着陸ギアを含む航空機を示す。
【図2】図2は,本発明に係る地上推進システムのブロック図を示す。
【図3】図3は,本発明に係る駆動アセンブリのブロック図を示す。
【図4】図4は,本発明に係る第1の地上推進システムの部分的系統図を示す。
【図5】図5は,本発明に係る第2の地上推進システムの部分的系統図を示す。
【図6】図6は,本発明に係る油圧油加熱システムのブロック図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は,航空機1を示す。航空機1は,地上走行,離陸及び着陸用の3本一組の車輪,即ち,前輪20Aと2本の後輪/主脚20B(総称して「車輪アセンブリ」とする),を有する。説明目的として,車輪アセンブリは,車輪アセンブリ20と記載する。着陸の際,車輪アセンブリ20A及び20Bは,着陸ギア格納部15A及び15Bからそれぞれ伸出される。車輪アセンブリ20A及び20Bの伸出は,コックピット10のパイロットにより操作される。主エンジン5は,離陸の際に航空機1を推進するために使われる。しかし,地上走行の際には,本明細書に記載される油圧式地上推進システムが,速度並びに車軸/車輪のトルクを制御するために用いられる。
【0028】
図2は,本発明に係る油圧式地上推進システム201のブロック図を示す。油圧式地上推進システム201を,前輪20A及び/又は両方の後輪又は主脚20Bに設けることができる。油圧式地上推進システム201は,システム制御装置205を有する。システム制御装置205は,航空機1内のどこに位置してもよい。システム制御装置205は,油圧システム220に変位指令を出力し,システム出力の速度及びトルクを適切なものとする。システム制御装置205は,処理部,非揮発性及び揮発性メモリなどのメモリ,クロック及び油圧式地上推進システム201の様々な構成要素や航空機制御装置(図示せず)を接続する様々な入出力インターフェースを含む。システム制御装置205は,本明細書に記載の機能を実行するようプログラムされる。プログラムはメモリに格納される。また,システム制御装置のメモリは,本明細書に記載する予め設定された閾値を含む。
【0029】
油圧システム220は,定速ACモータ210(「ACモータ」)により駆動する。油圧システム220については,図4及び5を参照して更に詳しく説明する。
【0030】
航空機の地上走行の操作の際,航空機エンジン5は運転を停止する。航空機の補助電源ユニット(APU)200は,システム制御装置205を介してACモータ210に接続される115VAC航空機電力バス(図示せず)に電力供給する。ACモータ210は,使用されていない時は運転を停止する。システム制御装置205は,APU200からACモータ210への電力のオン/オフを効果的に切り替える。パイロットは,ユーザ入力部245,例えば,コックピット・インターフェースを使用して地上走行の速度及び方向を操作する。ユーザ入力部245は,操縦桿やスロットルペダルとすることができるが,これに限定されなお。システム制御装置205は,ユーザ入力部245からのパイロットの指令を継続的に監視する。また,システム制御装置205は,環境センサ250を監視し,必要に応じて速度とトルクを調節する。環境センサ250は,温度センサや車輪の速力又は速度を感知する速度センサとすることができるが,これに限らない。温度センサは,油圧システム220を通って移動する油圧油の温度を検知する。また,システム制御装置205は,これに限定されないが,空中又は地上の状態(即ち,車輪にかかる重量),油圧油温度及び排液容器圧などの航空機及びシステムの他のパラメータを監視することもできる。環境センサ250からのデータは,データバス(図示せず)を介してシステム制御装置205で利用可能となる。
【0031】
ACモータ210は,これに限定はしないが,強制空気式の小型冷却装置を使用して冷却できる。また,ACモータ210とACモータ210により駆動する油圧ポンプが同じアセンブリ内に収納される場合,モータが発する熱は,油圧油によりモータから取り除かれる。
【0032】
後に詳細に説明するように,システム制御装置205は,航空機1が空中にあって,気温が低い間の油圧油の凍結を防ぐ加熱システム255も制御する。加熱システム255もまた,図6を参照してより詳細に後述する。
【0033】
油圧システム220は,駆動アセンブリ230と機械的に連結される。図3は,駆動アセンブリ230を示す。図3に示すように,駆動アセンブリ230は,出力トルクを増加させる少なくとも1つのギアを有する変速機300を備える。変速機300は,油圧モータの出力と車輪/車軸240の間に位置する。ギアは,前進方向と反対方向のいずれにも回転するよう構成される。
【0034】
駆動アセンブリ230内のクラッチ320は,変速機300と車輪/車軸240の間に位置し,離陸及び着陸の際の惰性走行を可能とする。クラッチ320は,車輪/車軸240を変速機300に係合する位置と,車輪/車軸240を変速機300から解除する他の位置との2つの位置を有する。油圧式地上推進システム201がトルクを付与し車輪/車軸240を動かす場合は常に,クラッチ320は係合する。クラッチ320は,着陸,離陸,電源停止,又は地上走行速度が所定の閾値を超過した場合に応じて解除される。クラッチ320は,双方向性フリーホイールクラッチとすることができる。また,クラッチ320は,摩擦型又は噛合クラッチとすることができる。この種のクラッチには,制御信号とシステム制御装置205による作動手段が必要である。
【0035】
機械的剪断アセンブリ310は,変速機300とクラッチ320の間に位置し,クラッチアセンブリが係合位置で停止した場合,車輪/車軸240と変速機300の間の機械的連結を絶つ。駆動アセンブリ230及び車輪/車軸240は全て,ホイールハブ内又は車輪アセンブリ20内に位置する。
【0036】
車輪は,車軸に取り付けられ,前進又は反対方向に自由に回転するよう構成される。
【0037】
図4は,本発明に係る電気モータ210,油圧システム220及び駆動アセンブリ230の系統図を示す。
【0038】
ACモータ210は,可変容量油圧ポンプ400を駆動し,第1の油圧管路450を介して油圧モータ430に加圧された油圧油が供給される。油圧油は,タンク420に貯蔵される。電荷ポンプ405は,タンク420から油圧ポンプ400の低圧側へ油圧油を送り込む。電荷ポンプ405及び油圧ポンプ400は,これに限定はしないが,シャフト,ACモータ210などの,同じトルク伝達機構に接続され,ACモータ210もまた電荷ポンプ405を駆動する。油圧油は,第2の油圧管路455を介して油圧モータ430から油圧ポンプ400に戻される。また,可変容量油圧ポンプ400及び可変容量油圧モータ430内の内部漏れによって失われた油圧油は,容器排水溝460を流れ,熱交換器425及びフィルタ410を通過し,タンク420に収容される。図4及び5において,容器排水溝は破線で示す。
【0039】
公知のタイプの可変容量油圧ポンプ400は,いずれも可変油圧システム220で使用することができ,軸流ピストンポンプが挙げられるが,これに限定されない。軸流ピストンポンプは,斜板と多数のピストンを有する。斜板はピストンに接続する。ピストンが回転する際,斜板の角度により,ピストンがそれぞれのシリンダから出たり入ったりする。出力の端部では,回転弁が,各シリンダをそれぞれ第1又は第2の油圧管路450,455と交互に接続する。
【0040】
油圧油の流量は,変動してもよい。例えば,軸流ピストンポンプにおいて油圧油の流量は,油圧ポンプ400内の斜板(図示せず)の角度を調節することにより変更することができる。斜板が(ピストンの)回転軸に対し垂直である場合,圧油は流れない。斜板の角度が大きくなるに従って,大量の圧油が送り出される。
【0041】
第1の油圧管路450は高圧管路であり,第2の油圧管路455又は戻り管路は低圧管路である。圧力安全弁415は,過剰に圧力上昇した油圧油がフィルタ410に入らないように防止する。
【0042】
また,熱交換器425は,著しい温度上昇を防ぐために設けられる。熱交換器425は,強制空気式としてもよいが,これに限定されない。交換器がファンを介して交換器自体の強制空気を供給する場合,熱交換器425はシステム制御装置205により制御することができる。環境センサ250は,油圧油の温度を感知する。感知した温度は,データバス(図示せず)を介してシステム制御装置205に送られる。感知した温度が予め設定された閾値を上回った場合,システム制御装置205は,熱交換器425へ制御信号を出力する。この制御信号に応答して,熱交換器425は油圧油を冷却する。
【0043】
電荷ポンプ405への戻り管路内には,フィルタ410が備えられており,油圧油から破片を除去する。
【0044】
逆止め弁435は,第1及び第2の油圧管路450,455内に位置する。逆止め弁により,油圧油が低圧(充填)管路465から第1又は第2の油圧管路450,455に,それぞれ通過することができる。逆止め弁435は,油圧油が油圧システム220の管路に呼び水をさせるようにする。
【0045】
圧力安全弁415もまた,第1及び第2の油圧管路(低圧(充填)管路とそれぞれ第1及び第2の油圧管路450,455の間)に備えられ,過剰加圧から油圧システム220を保護する。
【0046】
図4に示すように,油圧モータ430は,車輪アセンブリ20内に位置する。油圧システム220の残りの部分は,着陸ギア格納部15内に位置する。また,ACモータ210は,着陸ギア格納部15内に位置してもよい。あるいは,油圧システム220の残りの部分は,コックピット10近くに位置することもできる。システム制御装置205は,コックピット10又は着陸ギア格納部15内に位置することができる。図4及び5における点線は,着陸ギア格納部15と車輪アセンブリ20の間の境界を示す。
【0047】
システム制御装置205は,パイロットのトルク指令に基づき,可変容量油圧ポンプ及びモータ400,430の変位量をそれぞれ制御し,最終的にはトルク及び速度を制御する。変位量は,それぞれ第1及び第2の変位制御管路440,445内の圧力を介して制御される。システム制御装置205は,ポンプ変位用とモータ変位用の2つの変位信号を出力する。変位信号は,それぞれ第1及び第2の調節弁480,485に入力される。第1及び第2の調節弁480,485は,システム制御装置205からの電気制御信号を,油圧ポンプ400及び油圧モータ430に供給される油圧信号に変換する。あるいは,システム制御装置205からの電気制御信号は,油圧ポンプ400及び/又はモータ430に直接供給してもよい(ポンプ/モータが電気的な変位制御を備える場合)。
【0048】
システム制御装置205は,パイロットのトルク指令を受信する。パイロットのトルク指令は,油圧ポンプ400及び/又はモータ430用の変位制御信号に変換される。トルク指令は,変位ルックアップテーブルを用いて変位指令に変換することもできる。ルックアップテーブルは,トルク指令の変化とポンプ/モータの現状の速度/トルクに対応する変位指令を含む。また,システム制御装置205は,トルク指令とポンプ/モータの速度/トルクから変位指令を計算することができる。パイロットが更なる動力と速度を命じるに従い,より多くの油圧油が油圧モータ430へ供給される。
【0049】
このように,油圧ポンプ400に入力されたACモータ210の速度は,出力速度及びトルクとは全く無関係である。
【0050】
図4に示されるように,油圧油が時計回りに動く場合,前方に推進する。油圧油が反時計回りに動く場合,後方に推進する。システム制御装置205は,変位指令を通して運動方向を変化させることもできる。例えば,斜板を負の角度にするよう命じた場合,油圧ポンプ400は,斜板が正の角度の場合に加圧される第1の油圧管路とは反対側の油圧管路,即ち,第2の油圧管路455を加圧する。高圧及び低圧管路がモータの入力と出力に対して入れ替えられた場合,油圧モータ430の回転方向が逆転する。
【0051】
図4にまた示すように,駆動アセンブリ230にトルクを供給するのは1つの油圧モータ430だけである。この構成は,車輪/車軸240のアセンブリが,1つの車軸に回転自在に取り付けられた1つの車輪からなる場合に用いられる。
【0052】
図5は,本発明に係る第2の地上推進システムの部分的系統図を示す。図5に示す構成は,車輪/車軸240のアセンブリが多数の車輪と車軸からなり,1つの車軸に1つの車輪が取り付けられた場合に用いられる。図5に示す様々な構成要素と特徴は図4に関する中で説明するので,再び説明はしない。駆動アセンブリ230を囲む破線は,駆動アセンブリが油圧システム220の一部ではないことを示す。車輪/車軸240は,それ自体の駆動アセンブリ230をそれぞれ有する。各駆動アセンブリ230は,個々の可変油圧モータ430により独立して駆動するように構成される。油圧ポンプ400からの油圧油は,分流器510により油圧モータ(複数)430の間で分流される。分流器510は,システム制御装置205により制御される。油圧油の流れは互いに異なる流量となるように油圧モータ430の間で不均等に分流される。また,各油圧モータ430の変位量は,それぞれ第3及び第4の変位制御管路500,505により別々に変化させることができ,制御管路はそれぞれ調節弁525,530を備える。システム制御装置205は,上記と同様に第3及び第4の調節弁525,530に個別の変位指令を発することで,各油圧モータ430を個別に制御する。これは,パイロットが航空機1を旋回させる指令を入力する場合に特に有用である。旋回半径内側の車輪/車軸240は,旋回半径外側の車輪/車軸よりゆっくり旋回することが求められる。システム制御装置205は,受信したトルク指令を,油圧モータ430への個別の変位指令及び分流器510への分流指令へと変換する。
【0053】
図6は,本発明に係る油圧油加熱システム255のブロック図を示す。油圧油加熱システム255は,油圧油を加熱し,航空機1が空中にある間に,低気温によって圧油が凍結することを防いでいる。油圧油加熱システム255は,センサ600と発熱体605を備える。センサ600は,温度センサ又は粘度センサとすることができるが,これに限定されない。発熱体605は,抵抗性発熱体とすることができるが,これに限定されない。発熱体605は,油圧管路450,455,515,520付近に位置する。また,発熱体605は,タンク420の周囲に位置する。
【0054】
検知値を示す信号は,システム制御装置205に伝送される。システム制御装置205は,検知値と予め設定された閾値を比較する。例えば,検知温度が設定温度より低い場合,システム制御装置205は発熱体605を作動させる。システム制御装置205は,発熱体605に制御信号を発する。システム制御装置205は,APU200から発熱体605に一時的に電力を供給する。
【0055】
地上走行後,システム制御装置205は,地上推進システムを作動停止させる。APU200とACモータ210との接続は切断され,ポンプ400及び油圧モータ430に対する変位指令は一時停止される。クラッチ320は車輪/車軸240から解除され,主エンジン5は出力を上げ,離陸に要する推進力を与える。
【0056】
着陸が近付くと,システム制御装置205は,油圧システム220を予熱する。システム制御装置205は,油圧モータ430にモータをニュートラルモードにするよう指令を発する。システム制御装置205は,ユーザ入力部245を介してパイロットコマンドを受信した場合にも指令を発することができる。あるいは,システム制御装置205は,着陸前の設定時間に自動的に指令を発することもできる。時間は,全予測飛行時間と現在の時刻に基づく。全予測飛行時間は,コックピット10から読み出される。一旦油圧モータ430がニュートラルモードであることをシステム制御装置205が検知すると,システム制御装置205は,115VAC電力バスとACモータ210を接続し,これにより油圧システム220に電力が供給される。油圧ポンプ400は,第1の油圧管路450に冷たい圧油を送出する。電荷ポンプ405は,油圧油をタンク420から油圧ポンプ400に送出する。油圧油は,それぞれ第1及び第2の油圧管路450,455を通って流れる間に温められる。また,圧油は,タンク420内で加熱された圧油と混合され,また油圧システム220内の自然な圧力損失によっても温められる。
【0057】
また,着陸直前には,車輪/車軸240を予回転させることができる。これにより,車輪の摩耗と衝撃を回避する。システム制御装置205は,115VAC電力バスとACモータ210を一時的に接続し,これにより油圧システム220に電力が供給される。115VACは,航空機主エンジン5に連結した発電機から電力供給を受けることもできる。油圧ポンプ400,電荷ポンプ405及び油圧モータ430が作動する。システム制御装置205は,それぞれ第1及び第2の変位制御管路440,445を介して,又はそれぞれ第1,第3及び第4の変位制御管路440,500,505を介して油圧ポンプ400及び油圧モータ430に変位指令を発する。車輪アセンブリ20が2つ以上の車輪を備える場合,システム制御装置205は,油圧モータ430間の流れを分流するように分流器510に指令を発する。第1の油圧管路450を通る流量は小さく,車輪/車軸240も緩やかに回転する。変位量と流量は徐々に増加し,即ち,着陸が間近になるにつれ増加する。
【0058】
当業者に理解されるように,本発明は,システム,方法又はプログラムとして実施することができる。従って,本発明は,全ハードウェア実施形態,全ソフトウェア実施形態(ファームウェア,常駐ソフトウェア,マイクロコード等を含む)又はいずれも本明細書で一般的に「システム」と称するソフトウェア及びハードウェア的側面を組み合わせた実施形態の形を取ることができる。
【0059】
本発明の様々な形態は,コンピュータ,プロセッサ及び/又は機械で実行する場合に,コンピュータ又は機械に本明細書で開示す方法の工程を行わせる媒体に使用可能又は可読なコンピュータ又は機械内のプログラム,ソフトウェア又はコンピュータ命令として実施することができる。機械によって実行可能な命令のプログラムを明白に実施して本開示で説明した様々な機能性及び方法を行う,機械によって読み込み可能なプログラム記憶装置もまた提供される。
【0060】
本発明のシステム及び方法は,汎用コンピュータ又は特殊用途のコンピュータシステムにおいて実施及び実行される。コンピュータシステムは,公知のいずれのタイプでも又は将来知られるシステムであってもよい。
【0061】
上記の記載は説明的な例であり,本発明がこれら特定の実施例に限定されることを意味するわけではないことに留意されたい。従って,添付の請求項に定義される本発明の範囲の精神から逸脱することなく,様々な変更及び修正が当業者により実施されるであろう。
【符号の説明】
【0062】
1・・・航空機,5・・・主エンジン,10・・・コックピット,15・・・車輪アセンブリ,15・・・着陸ギア格納部,15A・・・着陸ギア格納部,15B・・・着陸ギア格納部,20・・・・・・車輪アセンブリ,20A・・・前輪,20B・・・後輪/主脚,200・・・補助電源ユニット(APU),201・・・油圧式地上推進システム,205・・・システム制御装置,210・・・定速ACモータ,220・・・油圧システム,230・・・駆動アセンブリ,240・・・車輪/車軸,245・・・ユーザ入力部,250・・・環境センサ,255・・・油圧油加熱システム,300・・・変速機,310・・・剪断アセンブリ,320・・・クラッチ,400・・・可変容量油圧ポンプ,405・・・電荷ポンプ,410・・・フィルタ,415・・・圧力安全弁,420・・・タンク,425・・・熱交換器,430・・・可変容量油圧モータ,435・・・逆止め弁,440・・・第1の変位制御管路,445・・・第2の変位制御管路,450・・・第1の油圧管路,455・・・第2の油圧管路,460・・・容器排水溝,465・・・低圧(充填)管路,480・・・第1の調節弁,485・・・第2の調節弁,500・・・第3の変位制御管路,505・・・第4の変位制御管路,510・・・分流器,515・・・第3の油圧管路,520・・・第4の油圧管路,525・・・第3の調節弁,530・・・第4の調節弁,600・・・センサ,605・・・発熱体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの車軸と,
前記少なくとも1つの車軸に回転自在に連結された少なくとも1つの車輪と,
航空機電源と接続する航空機用電力インターフェースと,
前記航空機用電力インターフェースに連結され,前記航空機電源から前記航空機用電力インターフェースを介して電力を受け取る電気モータと,
前記電気モータにより駆動する油圧システムと,
前記少なくとも1つの車軸に機械的に連結さると共に前記油圧システムに機械的に連結される駆動アセンブリであって,前記油圧システムによって機械的に駆動されて前記油圧システムから前記少なくとも1つの車軸にエネルギーを伝達する駆動アセンブリと,
パイロットのトルク指令に基づき前記電気モータと前記油圧システムを制御する制御装置とを備えた航空機用地上推進システム。
【請求項2】
前記電気モータは,前記油圧システムの電源となる定速ACモータであることを特徴とする請求項1に記載の航空機用地上推進システム。
【請求項3】
前記油圧システムは,
前記油圧システム用の油圧油を貯蔵するオイルタンクと,
前記制御装置からの第1の変位制御信号に基づき加圧された油圧油を可変的に供給し,前記電気モータにより変位トルクを与えられる可変容量油圧ポンプと,
第1及び第2の端部を有し,前記第1の端部は前記オイルタンクに取り付けられ,前記第2の端部は前記可変容量油圧ポンプに取り付けられた電荷ポンプであって,前記オイルタンクから前記可変容量油圧ポンプに前記油圧油を送り込み,前記電気モータにより駆動される電荷ポンプと,
前記制御装置からの第2の変位制御信号に基づき前記駆動アセンブリに力学的エネルギーを可変的に供給する可変容量油圧モータであって,前記加圧された油圧油が供給される可変容量油圧モータを備えることを特徴とする請求項1に記載の航空機用地上推進システム。
【請求項4】
前記油圧システムは,
第1及び第2の端部を有し,前記第1の端部は前記可変容量油圧ポンプに接続され,前記第2の端部は前記可変容量油圧モータに接続される第1の油圧管路と,
第1及び第2の端部を有し,前記第1の端部は前記可変容量油圧モータに接続され,前記第2の端部は前記可変容量油圧ポンプに接続される第2の油圧管路を更に備えることを特徴とする請求項3に記載の航空機用地上推進システム。
【請求項5】
前記油圧システムは,
前記可変容量油圧ポンプに取り付けられ,前記制御装置からの前記第1の変位制御信号に基づき前記可変容量ポンプの変位量を調節する第1の油圧制御ラインと,
前記可変容量油圧モータに取り付けられ,前記制御装置からの第2の変位制御信号に基づき前記可変容量モータの変位量を調節する第2の油圧制御ラインを更に備えることを特徴とする請求項4に記載の航空機用地上推進システム。
【請求項6】
前記油圧システムは,
前記制御装置からの制御信号に基づき前記油圧油及び加圧された油圧油を冷却する第1の温度制御システムを更に備えることを特徴とする請求項3に記載の航空機用地上推進システム。
【請求項7】
前記第1の温度制御システムは,強制空冷装置からなることを特徴とする請求項6に記載の航空機用地上推進システム。
【請求項8】
前記駆動アセンブリは,
前記可変容量油圧モータに連結した変速機と,
前記少なくとも1つの車軸に連結され,第1及び第2の位置を有し,前記第1の位置は係合位置であり,前記第2の位置は解除位置であるクラッチアセンブリと,
前記変速機に連結した第1の端部と,前記クラッチアセンブリに連結した第2の端部を有する剪断アセンブリを備えることを特徴とする請求項3に記載の航空機用地上推進システム。
【請求項9】
前記剪断アセンブリは,前記変速機と前記クラッチアセンブリとの間に機械的剪断点を有し,前記クラッチアセンブリが係合位置で停止した場合,前記変速機と前記少なくとも1つの車軸との間の機械的連結を絶って前記少なくとも1つの車輪が自由に回転できるようにしたことを特徴とする請求項8に記載の航空機用地上推進システム。
【請求項10】
前記変速機は,航空機を進行方向へ動かす第1の方向及び航空機を反対方向に動かす第2の方向に回転するよう構成された少なくとも1つのギアを有することを特徴とする請求項8に記載の航空機用地上推進システム。
【請求項11】
前記油圧油の温度が予め設定された閾値を下回った場合に,前記油圧油を加熱する第2の温度制御システムを更に備えた請求項6に記載の航空機用地上推進システム。
【請求項12】
前記第2の温度制御システムは,温度センサ及び発熱体を備えることを特徴とする請求項11に記載の航空機用地上推進システム。
【請求項13】
前記発熱体は,抵抗性発熱体であることを特徴とする請求項12に記載の航空機用地上推進システム。
【請求項14】
前記油圧油の粘度が予め設定された閾値を下回った場合に,前記油圧油を加熱する第2の温度制御システムを更に備えた請求項6に記載の航空機用地上推進システム。
【請求項15】
前記発熱体は,前記オイルタンクのすぐ近くに位置することを特徴とする請求項12に記載の航空機用地上推進システム。
【請求項16】
前記可変容量油圧モータはニュートラルモードを有し,前記航空機が着陸前の設定時間に入ると,前記制御装置は,前記ニュートラルモードに設定された前記可変容量油圧モータと共に前記可変容量油圧ポンプを作動することを特徴とする請求項3に記載の航空機用地上推進システム。
【請求項17】
前記電気モータを冷却する電気モータ冷却装置を更に備えた請求項2に記載の航空機用地上推進システム。
【請求項18】
前記可変容量油圧ポンプ及び可変容量油圧モータは,双方向性であることを特徴とする請求項4に記載の航空機用地上推進システム。
【請求項19】
前記可変容量油圧モータ,前記駆動アセンブリ,前記少なくとも1つの車軸及び前記少なくとも1つの車輪は,ホイールハブ内に位置することを特徴とする請求項3に記載の航空機用地上推進システム。
【請求項20】
前記可変容量油圧ポンプ,前記オイルタンク,前記制御装置及び前記電気モータは,着陸ギア格納部内に位置することを特徴とする請求項3に記載の航空機用地上推進システム。
【請求項21】
前記制御装置は,パイロットのトルク指令及び少なくとも1つの環境パラメータに基づき前記電気モータ及び前記油圧システムを制御することを特徴とする請求項1に記載の航空機用地上推進システム。
【請求項22】
前記少なくとも1つの環境パラメータは,車輪速度であることを特徴とする請求項21に記載の航空機用地上推進システム。
【請求項23】
前記少なくとも1つの環境パラメータは航空機状態であり,前記航空機状態は空中及び地上のみからなるグループの1つであることを特徴とする請求項21に記載の航空機用地上推進システム。
【請求項24】
前記少なくとも1つの環境パラメータは,油圧油温度であることを特徴とする請求項21に記載の航空機用地上推進システム。
【請求項25】
前記少なくとも1つの環境パラメータは,排液容器圧であることを特徴とする請求項21に記載の航空機用地上推進システム。
【請求項26】
前記制御装置は,前記可変容量油圧ポンプと前記可変容量油圧モータを個々に制御することを特徴とする請求項3に記載の航空機用地上推進システム。
【請求項27】
前記少なくとも1つの車輪は第1及び第2の車輪からなり,前記少なくとも1つの車軸は第1及び第2の車軸からなり,前記第1の車輪は前記第1の車軸に回転自在に連結され,前記第2の車輪は前記第2の車軸に回転自在に連結され,
前記装置は,
第2の可変容量油圧モータと,
前記第2の車軸に機械的に連結されると共に前記第2の可変容量ポンプに機械的に連結された第2の駆動アセンブリと,
前記可変容量モータと前記第2の可変容量モータの間で,前記可変容量ポンプからの前記加圧された油圧油を分流する少なくとも1つの圧油分流器を更に備えることを特徴とする請求項3に記載の航空機用地上推進システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−116467(P2012−116467A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257101(P2011−257101)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(500558894)ビーエーイー・システムズ・コントロールズ・インコーポレーテッド (15)
【氏名又は名称原語表記】BAE SYSTEMS Controls, Inc.
【Fターム(参考)】