説明

油性ボールペン用インキ組成物

【課題】本発明の課題は、油性ボールペン用インキ組成物において、書き味が良好で、ボール座の摩耗抑制し、経時安定性が良好であることが可能な油性ボールペン用インキ組成物を提供することである。

【解決手段】本発明は、前記課題を解決するために、少なくとも着色剤、溶剤、芳香環を有する化合物を含有する油性ボールペン用インキ組成物であって、前記油性ボールペン用インキ組成物の
pHが4〜10であることを特徴とする油性ボールペン用インキ組成物を用いる。さらに、好ましくは、前記芳香環を有する化合物の分子量が、200以上であるものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油性ボールペン用インキ組成物に関し、さらに詳細としてはインキ組成物中に、芳香環を有する化合物を含有する油性ボールペン用インキ組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、油性ボールペン用インキ組成物において、潤滑性に優れ、滑らかな書き味を有する目的で、様々な界面活性剤を用いた油性ボールペン用インキ組成物が多数提案されている。
【0003】
このような油性ボールペン用インキ組成物としては、フッ素系界面活性剤、シリコン系界面活性剤を用いたものとしては、特開平6−248217号公報「ボールペン用インキ組成物」、特開平9−151354「油性ボールペン用インキ組成物」等に、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】「特開平6−248217号公報」
【特許文献2】「特開平9−151354号公報」
【特許文献3】「特開平8−41408号公報」
【特許文献4】「特開平6−212111号公報」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1〜3のような各種の界面活性剤を潤滑剤として用いた場合、ある程度書き味を向上しつつ、ボール座の摩耗を抑制することはできるが、十分に満足できるものではなかった。また、新たに添加剤などを含有すると、インキ経時が不安定になりやすいといった問題があった。
【0006】
特許文献4の油性ボールペン用インキ組成物では、製造時や経時による吸湿等、インキ全質量に対して、水を含有してしまうため、チップ材として、ステンレス、ブラス、洋白材などの金属類を用いたチップ本体内よりマンガンイオン、クロムイオン、銅イオン、亜鉛イオン、ニッケルイオン等の金属イオンが溶出し、インキ成分と反応して金属塩が発生してしまい、筆跡にカスレなどが発生して、筆記不良、筆記不能となる問題があった。
【0007】
また、従来のボールペン用インキ組成物おいて、水性インキ組成物では、水溶液中で測定可能な物性として、pH値で、酸性、アルカリ性の度合いを示す数値を用いることで、現在も研究・開発に役立てている。しかし、従来より、油性インキ組成物では、水を含有することを考慮していないため、pH値を用いることはなかった。
【0008】
そこで、本発明では、油性ボールペン用インキ組成物において、新たに、水を含有することによって、発生する金属塩析出物を抑制するには 、pH値に着目することで解決できると考えた。
【0009】
本発明の目的は、書き味が良好で、ボール座の摩耗抑制し、経時安定性が良好であることが可能な油性ボールペン用インキ組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために、
「1.少なくとも着色剤、溶剤、芳香環を有する化合物を含有する油性ボールペン用インキ組成物であって、前記油性ボールペン用インキ組成物のpHが4〜10であることを特徴とする油性ボールペン用インキ組成物。
2.前記芳香環を有する化合物の分子量が200以上であることを特徴とする第1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
3.前記芳香環を有する化合物が、酸性化合物および/または塩基性化合物の造塩体であることを特徴とする第1項または第2項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
4.前記芳香環を有する化合物が、硫黄原子を有する官能基を少なくとも含むことを特徴とする第1項ないし第3項のいずれか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
5.前記芳香環を有する化合物の含有量が、0.1〜20.0質量%であることを特徴とする第1項ないし第4項のいずれか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
6.前記芳香環を有する化合物が、アルキルベンゼンスルホン酸塩を少なくとも含むことを特徴とする第1項ないし第5項のいずれか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
7.前記芳香環を有する化合物が、4級アンモニウム塩を少なくとも含むことを特徴とする第1項ないし第5項のいずれか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
8.前記4級アンモニウム塩が、ベンゾキソニウム化合物、アルキルジメチルベンジルアンモニウム化合物、アルキルジエチルベンジルアンモニウム化合物の中から少なくとも1種以上を選択することを特徴とする第7項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
9.前記油性ボールペン用インキ組成物に、オキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミンのうち少なくとも1種以上を含有することを特徴とする第1項ないし第8項のいずれか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
10.20℃、剪断速度500sec−1におけるインキ粘度が、10〜5000mPa・sであることを特徴とする第1項ないし第9項のいずれか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
11.インキ収容筒の先端部に、ボールの一部をチップ先端部より突出させて回転自在に抱持し、コイルスプリングにより前方に押圧し、前記ボールとチップ先端部の内壁にて弁機構を具備してなるボールペンチップを直接、またはチップホルダーを介して装着し、前記インキ収容筒内に、第1項ないし第10項のいずれか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物を直詰めしてなる油性ボールペンレフィル。
」とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、書き味が良好で、ボール座の摩耗抑制し、経時安定性が良好であることが可能な油性ボールペン用インキ組成物を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明におけるボールペンレフィルの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の特徴は、油性ボールペン用インキ組成物中に芳香環を有する化合物を含有し、前記油性ボールペン用インキ組成物のpHが4〜10である。
【0014】
本発明に用いる芳香環を有する化合物とは、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環などの芳香環を有する化合物である。本発明者は、潤滑性について鋭意研究した結果、油性ボールペン用インキ組成物中に芳香環を有する化合物を含有することで、書き味が良好で、かつ、ボール座の摩耗を抑制することが可能となることが解った。これは、金属に吸着し易い潤滑膜を形成することで、ボールとチップ本体間の金属接触を抑制する効果があり、潤滑性を向上して、書き味が良好で、かつ、ボール座の摩耗を抑制するものと推測する。
【0015】
さらに、本発明のように油性ボールペン用インキ組成物に新たに芳香環を有する化合物を含有する場合に、インキ経時安定性を保つには、製造時や経時による吸湿等によって、油性インキ中に水を含有するため、新たにpH値について、着目をした。尚、本発明において、pH値が3.9以下を強酸性領域、pH値が10.1以上を強アルカリ領域、pH4.0〜10.0を強酸性領域と強アルカリ領域の中間領域(弱酸性、中性、弱アルカリ性)とする。
【0016】
前記油性ボールペン用インキ組成物のインキ経時安定性を保つには、pH値が3.9以下だと、チップ本体内の金属イオンが溶出し易いため、金属塩析出物が発生し易く、pH値が10.1以上だと、着色剤の良好な色調や、溶解または分散安定性が得られなくなってしまうため、pH値が4.0〜10.0の中性領域とする必要があることが分かった。さらに、より経時安定性を考慮すれば、pH値が5.0〜9.0が好ましい。
【0017】
尚、本発明におけるpH値は、油性ボールペン用インキ組成物の測定方法においては、油性インキを容器に採取し、イオン交換水を加えて、攪拌しながら加温し、加温後放冷し、蒸発した水分量を補充後、濾紙を用いて濾過する。その濾過したろ液の上層を用いて、pH測定は東亜ディーケーケー社製IM−40S型pHメーターを用いて、20℃にて測定した値を示すものである。
【0018】
また、芳香環を有する化合物は、ベンゼン環などの芳香環が、多数ある方が、潤滑性をより向上し易いため、分子量が200以上のものが好ましい。
【0019】
また、芳香環を有する化合物としては、陰イオン 又は陽イオン界面活性剤などがあるが、界面活性剤は、水溶性の性質を有するものもあり、油性インキ中に溶解しずらい傾向があり、インキ経時安定性に不安が残る。一方、芳香環を有する化合物として、酸性化合物および/または塩基性化合物を中和反応させて造塩体を作製したものは、油性インキ中でもインキ経時安定性が保てるため、好ましい。特に、酸性化合物と塩基性化合物を中和反応させて作製した造塩体は、イオン結合力が強く、長期間のインキが安定するため好ましい。さらに、潤滑性を考慮すれば、酸性化合物と塩基性化合物それぞれに、芳香環を有する方が好ましく、より好ましくは、芳香環を有する化合物が、硫黄原子を有する官能基(S、SO、SO、SOなど)を含むと、ボールとボール座間に強固な潤滑層を形成するため、潤滑性が向上すると考えられるため、好ましい。
【0020】
さらに、前記造塩体の安定性を考慮すれば、pH値が3.9以下を強酸性領域、pH値が10.1以上を強アルカリ領域だと、造塩体のイオン結合が離れやすくなるため、pH4.0〜10.0の中間領域(弱酸性、中性、弱アルカリ性)の方が、経時安定性が良いため最も好ましい。
【0021】
酸性化合物としては、ジアルキルスルホコハク酸、アルキルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸-ホルムアルデヒド縮合物、アルカンスルホン酸、オレフィンスルホン酸、 N−メチル-N-アシルタウリン、アルキル硫酸エステル、アルキルリン酸、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸、脂肪酸などが挙げられる。
【0022】
その中で、芳香環を有する酸性化合物は、アルキルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸-ホルムアルデヒド縮合物、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸などが挙げられる。また、書き味を考慮すれば、アルキルベンゼンスルホン酸が好ましく、さらに塩基性化合物と反応して生成する造塩体の経時安定性を考慮すれば、特にアルキルベンゼンスルホン酸(R-C H- SO
R;アルキル基)が好ましく、ドデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルジフェニルオキシドスルホン酸などが挙げられる。
【0023】
また、塩基性化合物としては、1級アミン、2級アミン、3級アミンや4級アミンなどが挙げられるが、酸性化合物を十分に中和反応させるため、芳香環を有する4級アミンを用いる方が好ましい。また、より安定性を考慮すれば、4級アミンによる4級アンモニウム塩を用いる方が好ましい。
【0024】
芳香環を有する4級 アミンは、ベンゾキソニウム化合物(Benzoxonium)、アルキルジメチルベンジルアンモニウム化合物として、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウム化合物、ヘキサデシルジメチルベンジルアンモニウム化合物、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム化合物、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム化合物、ヤシアルキルジメチルベンジルアンモニウム化合物、アルキルジエチルベンジルアンモニウム化合物としては、ドデシルジエチルベンジルアンモニウム化合物などが挙げられ、書き味、経時安定性を考慮すれば、ベンゾキソニウム化合物(Benzoxonium)が好ましい。
【0025】
同様に前記芳香環を有する4級アンモニウム塩は、ベンゾキソニウム化合物(Benzoxonium)、アルキルジメチルベンジルアンモニウム化合物、アルキルジエチルベンジルアンモニウム化合物などが挙げられ、書き味、経時安定性を考慮すれば、ベンゾキソニウム化合物(Benzoxonium)が好ましい。
【0026】
また、前記芳香環を有する化合物の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1質量%より少ないと、所望の潤滑性が得られないおそれがあり、20.0質量%を越えると、インキ経時が不安定性になるおそれがあるため、インキ組成物全量に対し、0.1〜20.0質量%が好ましい。より好ましくは、インキ組成物全量に対し、0.5〜10.0質量%であり、最も好ましくは、2.0〜8.0質量%である。
【0027】
また、前記芳香環を有する化合物にエチレンオキサイド (CH2CH2O)を有する有機アミンと併用すると、より潤滑効果が得られ易い。そのため、有機アミンとして、エチレンオキサイド(CH2CH2O)を有するオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミンを用いる方が好ましい。これ等は、単独又は2種以上混合して使用してもよい。
【0028】
オキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミンとしては、具体的には、ナイミーンL−201、ナイミーンL−202、同L−207、同S−202、同S−204、同S−210、同T2 -206、同S−210、同DT−203、同DT−208、ナイミーンL−207、同T 2 -206、同DT−208(日本油脂(株)社製)等が挙げられる。
【0029】
また、有機アミンの含有量は、潤滑性や経時安定性を考慮すると、インキ組成物全量に対し、0.1〜10.0質量%が好ましく、より好ましくは、1.0〜5.0質量%である。
【0030】
本発明の油性ボールペン用インキ組成物のインキ粘度は、特に限定されるものではないが、20℃、剪断速度500sec−1におけるインキ粘度が10mPa・s未満の場合には、筆跡に滲みやインキ垂れ下がりの影響が出やすいため、また、20℃、剪断速度500sec−1におけるインキ粘度が5000mPa・sを超えると、筆記時のボール回転抵抗が大きくなり、書き味が重くなる傾向がある。そのため、20℃、剪断速度500sec−1におけるインキ粘度は、10〜5000mPa・sが好ましい。より好ましくは、50〜3、000mPa・sであり、最も好ましくは、ボール座の摩耗を抑制する効果が顕著である100〜1500mPa・sである。
【0031】
本発明に用いる着色剤については、染料、顔料があるが、染料については、油溶性染料、酸性染料、塩基性染料、含金染料などや、それらの各種造塩タイプの染料等が採用可能である。
【0032】
染料について、具体的には、バリファーストブラック1802、バリファーストブラック1805、バリファーストブラック1807、バリファーストバイオレット1701、バリファーストブルー1601、バリファーストブルー1605、バリファーストブルー1621、バリファーストレッド1320、バリファーストレッド1355、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1101、バリファーストイエロー1151、ニグロシンベースEXBP、ニグロシンベースEX、BASE OF BASIC DYES ROB−B、BASE OF BASIC DYES RO6G−B、BASE OF BASIC DYES VPB−B、BASE OF BASIC DYES VB−B、BASEOF BASIC DYES MVB−3(以上、オリエント化学工業(株)製)、アイゼンスピロンブラック GMH−スペシャル、アイゼンスピロンバイオレット C−RH、アイゼンスピロンブルー GNH、アイゼンスピロンブルー 2BNH、アイゼンスピロンブルー C−RH、アイゼンスピロンレッド C−GH、アイゼンスピロンレッド C−BH、アイゼンスピロンイエロー C−GNH、アイゼンスピロンイエロー C−2GH、S.P.T.ブルー111、S.P.T.ブルーGLSH−スペシヤル、S.P.T.レッド533、S.P.T.オレンジ6、S.B.N.バイオレット510、S.B.N.イエロー510、S.B.N.イエロー530、S.R.C−BH(以上、保土谷化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0033】
また、顔料については、無機、有機、加工顔料などが挙げられるが、具体的にはカーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系、アゾ系、キナクリドン系、キノフタロン系、スレン系、トリフェニルメタン系、ペリノン系、ペリレン系、ギオキサジン系、メタリック顔料、パール顔料、蛍光顔料、蓄光顔料等が挙げられる。これらの染料および顔料は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。着色剤の含有量は、インキ組成物全量に対し、1.0〜50.0質量%が好ましい。
【0034】
本発明に用いる溶剤としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、3―メトキシブタノール、3―メトキシー3―メチルブタノール等のグリコールエーテル類、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、エチレングリコール等のグリコール類、ベンジルアルコール、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、t−ブタノール、プロパギルアルコール、アリルアルコール、3−メチル−1−ブチン−3−オール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタートやその他の高級アルコール等のアルコール類、フェニルセロソルブ等のセロソルブ類等、油性ボールペン用インキとして一般的に用いられる溶剤が例示でき、これらを1種又は2種以上用いることができる。溶剤の含有量は、着色剤の溶解性、筆跡乾燥性、にじみ等を考慮すると、インキ組成物全量に対し、5.0〜50.0質量%が好ましい。
【0035】
また、その他として、着色剤の経時安定性や潤滑性を向上させるために、有機アミンや界面活性剤として、リン酸エステル系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、脂肪酸等を、顔料分散剤として、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、アクリル樹脂等を、粘度調整剤として、ケトン樹脂、テルペン樹脂、アルキッド樹脂、フェノキシ樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン等の樹脂や脂肪酸アマイド、水添ヒマシ油などの擬塑性付与剤を、また、着色剤安定剤、可塑剤、キレート剤、水などを適宜用いても良い。これらは、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。
【0036】
次に芳香環を有する化合物として、酸性化合物(アルキルベンゼンスルホン酸)と塩基性化合物(ベンゾキソニウム化合物)との造塩体の作成方法を説明する。
配合例1
まず、ビーカーに水を100g、アルキルベンゼンスルホン酸 Naを30g秤量し、加温した後、ディスパー攪拌機を用いて溶解させた後、ベンゾキソニウム化合物19.5gを秤量し、攪拌後、濾紙を用い濾過を行って、造塩体(分子量600〜700)を得た。
【0037】
次に、実施例を示して本発明を説明する。
実施例1の油性ボールペン用インキ組成物は、着色剤として、染料、溶剤として、ベンジルアルコール、潤滑剤として、芳香環を有する酸性化合物と塩基性化合物との造塩体(配合例1で作製したもの、分子量600〜700)、安定剤としてオレイン酸、ポリオキシエチレンアルキルアミン(ナイミーンL207:日油株式会社製)、樹脂としてポリビニルピロリドン(PVP K−90:アイエスピー・ジャパン株式会社製)、ケトン樹脂(ハイラック110H:日立化成株式会社製)を採用し、これを所定量秤量して、60℃に加温した後、ディスパー攪拌機を用いて完全溶解させ、油性ボールペン用インキ組成物を得た。具体的な配合量は下記の通りである。尚、ティー・エイ・インスツルメント株式会社製AR-G2(ステンレス製40mm2°ローター)を用いて20℃の環境下で、剪断速度500sec−1にてインキ粘度を測定したところ、180mPa・sであった。
【0038】
実施例1
染料(スピロンブラック−GMH−S) 15.0質量%
染料(バリーファ−スト バイオレット1701) 15.0質量%
溶剤(ベンジルアルコール) 60.7質量%
芳香環を有する酸性化合物と塩基性化合物との造塩体(配合例1で作製したもの) 5.0質量%
安定剤(オレイン酸) 1.0質量%
安定剤(ポリオキシエチレンアルキルアミン) 1.0質量%
樹脂(ポリビニルピロリドン) 0.3質量%
樹脂(ケトン樹脂) 2.0質量%
【0039】
配合例2〜6
表1に示すように、各成分を変更した以外は、配合例1と同様な方法で配合例2〜6の造塩体を作成し、該造塩体を実施例と比較例に用いた。
【0040】
実施例2〜7
表2に示すように、各成分を変更した以外は、実施例1と同様な手順で実施例2〜7の油性ボールペン用インキ組成物を得た。
実施例8
表2に示すように、各成分を変更した以外は、水以外の各成分を実施例1と同様な手順で行い、室温冷却後水を添加しディスパー攪拌にて油性ボールペン用インキ組成物を得た。
【表1】

【表2】

【0041】
比較例1〜6
表3に示すように、各成分を変更した以外は、実施例1と同様の手順で、配合し、比較例1〜6の油性ボールペン用インキ組成物を得た。表3に測定、評価結果を示す。
【表3】

【0042】
試験及び評価
実施例1〜8及び比較例1〜6で作製した油性ボールペン用インキ組成物7及びグリース状のインキ追従体8を、インキ収容筒2(ポリプロピレン)に、ボール径がφ0.7mmのボール3を回転自在に抱持した油性ボールペン用チップ4(ステンレス綱線)を装着したボールペン用レフィル1に充填し、油性ボールペンを作製した。筆記試験用紙として筆記用紙JIS P3201を用いて以下の試験及び評価を行った。
【0043】
書き味:手書きによる官能試験を行い評価した。
非常に滑らかなもの ・・・◎
滑らかなもの ・・・○
やや重いもの ・・・△
重いもの ・・・×
【0044】
耐摩耗試験:荷重200 gf、筆記角度70°、4m/minの走行試験機にて筆記試験後のボール座の摩耗を測定した。

ボール座の摩耗が2μm未満であり、筆記可能なもの ・・・◎
ボール座の摩耗が2μm以上、5μm未満であり、筆記可能なもの ・・・○
ボール座の摩耗が5μm以上、10μm未満であり、筆記不良になってしまうもの ・・・△
ボール座の摩耗が10μm以上であり、筆記不能になってしまうもの ・・・×
【0045】
インキ経時試験:チップ本体内のインキを顕微鏡観察した。
析出物がなく、良好のもの ・・・◎
析出物が微少に発生したが、実用上問題のないもの ・・・○
析出物が存在し、カスレや筆記不良などの原因になるもの ・・・×
【0046】
実施例1〜8では、書き味、耐摩耗試験、インキ経時試験ともに良好な性能が得られた。
【0047】
比較例1〜3では、芳香環を持たない化合物を用いているため、書き味が重かった。
【0048】
比較例4では、芳香環を持たない化合物のシリコン系界面活性剤を用いため、書き味が重く、耐摩耗試験において、すべてボール座の摩耗がひどく、筆記不良または筆記不能になった。
【0049】
比較例5、6では、 pHが4〜10の範囲外であったため、インキ経時が安定しなかった。
【0050】
また、インキの垂れ下がりを防止するため、ボールペンチップ先端に回転自在に抱持したボールを、コイルスプリングにより直接又は押圧体を介してチップ先端縁の内壁に押圧して、筆記時の押圧力によりチップ先端縁の内壁とボールに間隙を与えインキを流出させる弁機構を具備し、チップ先端の微少な間隙も非使用時に閉鎖することが好ましい。
【0051】
特に、コイルスプリングには、ステンレス鋼線の裸線を用いている場合、芳香環を有する化合物には、少なくとも酸性化合物を用いることが好ましい。これは、ステンレス鋼線の表面に形成される酸性被膜への影響を抑制することが可能で、コイルスプリングの耐食性等、経時安定性を著しく向上することが可能ためである。さらに、芳香環を有する化合物が、ステンレス鋼線の裸線の耐摩耗性を抑制する効果があるためである。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は油性ボールペン用インキ組成物に関し、さらに詳細としては、少なくとも着色剤、溶剤、芳香環を有する化合物を含有する油性ボールペン用インキ組成物であって、前記油性ボールペン用インキ組成物のpHが4〜10であることを特徴とする油性ボールペン用インキ組成物を用いることで、書き味が良好で、かつ、ボール座の摩耗抑制することが可能な油性ボールペン用インキ組成物を提供することができる。そのため、キャップ式、ノック式等、ボールペンとして広く利用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 ボールペンレフィル
2 インキ収容筒
3 ボール
4 ボールペンチップ
5 コイルスプリング
6 尾栓
7 油性ボールペン用インキ
8 インキ追従体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも着色剤、溶剤、芳香環を有する化合物を含有する油性ボールペン用インキ組成物であって、前記油性ボールペン用インキ組成物のpHが4〜10であることを特徴とする油性ボールペン用インキ組成物。
【請求項2】
前記芳香環を有する化合物の分子量が200以上であることを特徴とする請求項1に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
【請求項3】
前記芳香環を有する化合物が、酸性化合物および/または塩基性化合物の造塩体であることを特徴とする請求項1または2に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
【請求項4】
前記芳香環を有する化合物が、硫黄原子を有する官能基を少なくとも含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
【請求項5】
前記芳香環を有する化合物の含有量が、0.1〜20.0質量%であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
【請求項6】
前記芳香環を有する化合物が、アルキルベンゼンスルホン酸塩を少なくとも含むことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
【請求項7】
前記芳香環を有する化合物が、4級アンモニウム塩を少なくとも含むことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
【請求項8】
前記4級アンモニウム塩が、ベンゾキソニウム化合物、アルキルジメチルベンジルアンモニウム化合物、アルキルジエチルベンジルアンモニウム化合物の中から少なくとも1種以上を選択することを特徴とする請求項7に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
【請求項9】
前記油性ボールペン用インキ組成物に、オキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミンのうち少なくとも1種以上を含有することを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
【請求項10】
20℃、剪断速度500sec−1におけるインキ粘度が、10〜5000mPa・sであることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
【請求項11】
インキ収容筒の先端部に、ボールの一部をチップ先端部より突出させて回転自在に抱持し、コイルスプリングにより前方に押圧し、前記ボールとチップ先端部の内壁にて弁機構を具備してなるボールペンチップを直接、またはチップホルダーを介して装着し、前記インキ収容筒内に、請求項1ないし10のいずれか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物を直詰めしてなる油性ボールペンレフィル

【図1】
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【公開番号】特開2011−137106(P2011−137106A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−298809(P2009−298809)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(303022891)株式会社パイロットコーポレーション (647)
【Fターム(参考)】