説明

油浸モーター用絶縁紙

【課題】 冷却油に浸漬した状態で用いられる油浸モーターに長期間使用した場合であっても優れた耐久性を備えた絶縁紙を提供すること、および耐久性の優れた油浸モーターを提供する。
【解決手段】 冷却油中に浸漬させた状態で機能する油浸モーターに用いられる絶縁紙であって、ポリエステル系フィルムの表裏両面に耐熱シートが積層され、該ポリエステル系フィルムと該耐熱シートとがアクリル系接着剤で接着されてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油浸モーターにおいて絶縁材として使用される油浸モーター用絶縁紙に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッドカーや電気自動車には、電気モータおよび発電機として選択的に機能するモータジェネレータが搭載される。斯かるモータージェネレータは、例えば、軸心まわりに回転可能に支持された出力軸に固定された円柱状のロータと、該ロータの外周面に対して所定の隙間を隔てた内周面を有するモーターステータと、該モーターステータを収容するモータハウジングとを備えてなるものである。
そして、該モータージェネレータは、自動車の加速や減速といった操作によって発熱し、100℃以上の高温となるため、所定の性能を維持するためには充分に冷却することが必要となる。
【0003】
そこで、該モータージェネレータを効果的に冷却する方法として、従来、前記ハウジング内に冷却油を供給してモーターステータやロータを該冷却油中に浸漬させ、該冷却油を循環させる方法が知られている。(特許文献1)
【特許文献1】特願平11−388030号公報
【0004】
ところで、該モータージェネレータを構成するモーターステータは、一般にコア材と巻線とから構成されてなり、コア材と巻線あるいは相の異なる巻線と巻線とを絶縁するための絶縁紙が用いられているが、発熱によって高温となるモータステータにおいては、該絶縁紙についても耐熱性が必要となる。
また、上述のように冷却のために冷却油中に浸漬されるこの種のモータージェネレータ(本発明において、油浸モーターともいう)においては、耐油性に優れていることも必要となる。
【0005】
従来、耐熱性および耐油性に優れた絶縁紙としては、所定の強度と破壊電圧とを担保するためのポリエステル系フィルムの両面に、ウレタン系接着剤を介して耐熱紙を積層したものが検討されている。
斯かる構成の絶縁紙によれば、耐熱紙を両面に積層することによって耐熱性を高め、さらに耐熱性に優れたウレタン系接着剤を用いることにより、高温となった冷却油が絶縁紙の内部に浸透してきた場合にも、その温度に耐えることができると考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、斯かる構成の絶縁紙を上述のような油浸モーターに用いた場合、長時間の使用によって該絶縁紙の強度が徐々に低下し、油浸モーターに於いては耐久性が不充分となることが判明した。
【0007】
そこで本発明は、冷却油に浸漬した状態で用いられる油浸モーターに長期間使用した場合であっても優れた耐久性を備えた絶縁紙を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決すべく本発明者らが鋭意研究したところ、油浸モーターに使用される冷却油中には微量の水分が存在し、その微量の水分の存在によって前記ウレタン系接着材が徐々に加水分解され、これが絶縁紙の劣化の主な原因となっていることを見出した。
さらに、表裏両面に耐熱紙を積層して構成される絶縁紙においては、その積層構造の内側で使用される接着剤への熱による悪影響が大きく緩和されており、高温となった冷却油が内部へ浸透した場合にも、比較的耐熱性の低い接着剤でも使用に絶え得ることを見出した。
【0009】
即ち、本発明は、冷却油中に浸漬させた状態で機能する油浸モーターに用いられる絶縁紙であって、ポリエステル系フィルムの表裏両面に耐熱シートが積層され、該ポリエステル系フィルムと該耐熱シートとがアクリル系接着剤で接着されてなることを特徴とするものである。
【0010】
アクリル系接着剤は、ウレタン系接着剤と比べて耐熱性が低いことが知られており、当業者の技術常識では高温の冷却油に浸漬された状態で使用される油浸モーター用絶縁紙には適さないと考えられていた。
しかしながら、本発明者らの知見によれば、上述のように表裏両面に耐熱シートを積層してなる絶縁紙においては、アクリル系接着剤によって十分な耐熱性能を発揮するものとなり、しかも、該アクリル系接着剤を使用することによって冷却油中に存在する微量の水分に対する耐加水分解性能を改善することができ、長期間にわたって劣化を防止し得るという優れた効果を発揮する。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明に係る油浸モーター用絶縁紙によれば、高温状態で冷却油に浸漬して用いられる油浸モーターに長期間使用した場合であっても優れた耐久性を備えたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明に係る油浸モーター用絶縁紙の一実施形態を示した断面図である。図1に示したように、本実施形態の油浸モーター用絶縁紙1は、ポリエステル系フィルム2と、該ポリエステル系フィルム2の表裏両面に配された耐熱シート4、4とが、アクリル系接着剤3を介して接着されたものである。
【0014】
ポリエステル系フィルム2を構成する樹脂としては、絶縁紙として求められる強度と破壊電圧とを備えた樹脂フィルムを広く使用できる。具体的には、強度として150MPa以上のもの、破壊電圧としては3kV以上のものを好適に使用し得る。
【0015】
斯かるポリエステル系フィルム2としては、例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN)やポリエチレンテレフタレート(PET)などを挙げることができる。
中でも、低オリゴマータイプのPET又はPENを用いるのが好ましく、斯かる低オリゴマータイプのものを使用することにより、さらに耐加水分解性を向上させることができ、劣化を防止し得るという効果がある。
【0016】
斯かるポリエステル系フィルム2の厚みについては特に限定するものではないが、16〜350μmのものを好適に使用することができる。
【0017】
耐熱シート4を構成する樹脂としては、前記ポリエステル系フィルムよりも耐熱性に優れた樹脂からなるフィルムを好適に使用することができる。
斯かる耐熱シートとしては、例えば、ポリイミド(PI)、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、又は四フッ化エチレンコポリマー(ETFE)等からなる紙状或いはフィルム状のものを挙げることができる。
【0018】
また、前記耐熱シートがポリアミドからなるシートであれは、すべり性が良好となるため、例えば、油浸モーターにおいてモーターステータのコア材と巻線との間、即ちコア材に設けたスロットの間に挿入しやすくなるという効果がある。
該ポリアミドとしては、芳香族ポリアミド(例えば、デュポン社製、ノーメックス(Nomex、))を好適に使用することができる。
【0019】
斯かる耐熱シート4の厚みについては特に限定するものではないが、16〜125μmのものを好適に使用することができる。
【0020】
また、アクリル系接着剤3としては、例えば下記一般式(1)
CH2=C(R1)−COOR2 (1)
〔式中、R1は水素原子または低級アルキル基、R2は炭素原子数1〜12のアルキル基である〕で表される単量体の単独重合体、あるいは該単量体に基づく構成単位を有する共重合体を使用することができる。
具体的には、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル等のポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ブチル等のポリメタクリル酸エステル、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸エステル−アクリル酸共重合体、アクリル酸エステル−塩化ビニル共重合体、アクリル酸エステル−アクリル酸共重合体、メタクリル酸エステル−塩化ビニル共重合体、スチレン−メタクリル酸エステル−ブタジエン共重合体、メタクリル酸エステル−アクリロニトリル共重合体等の共重合体を、1種または2種以上組合せたものを使用することができる。
【0021】
中でも、本発明で用いるアクリル系接着剤としては、ポリアクリル酸ブチル(PAB)をポリイソシアネートで架橋させてなる接着剤を好適に使用することができる。
【0022】
さらに、該アクリル系接着剤としては、前記アクリル酸ブチル(PAB)にテルペンフェノールを添加したものをポリイソシアネートで架橋させたものが好ましく、これによれば、油浸モータにおいて120〜180℃という高温の水含有油に浸漬された状態において、ポリアミド製の耐熱紙への密着性がより一層優れたものとなる。テルペンフェノールの添加量は、アクリル酸ブチル(PAB)100重量部に対して、1〜30重量部とすることが好ましい。
また、このテルペンフェノールに代えてアルキルフェノールを用いた場合にも、油浸モータにおいて120〜180℃という高温の水含有油に浸漬された状態において、ポリアミド製の耐熱紙への密着性がより一層優れたものとなる。また、このアルキルフェノールの添加量も、アクリル酸ブチル(PAB)100重量部に対して、1〜30重量部とすることが好ましい。
【0023】
このようにアクリル系接着剤のポリアクリル酸ブチルあるいはアルキルフェノールやテルペンフェノールなどの密着性改良剤が添加されたアクリル酸ブチルをポリイソシアネートで架橋させた状態とするには、例えば、常温においてアクリル酸ブチルに対する反応性が低く加温されて反応性が高くなるポリイソシアネートを用い、このポリイソシアネートとアクリル酸ブチルと(さらにはテルペンフェノールやアルキルフェノール)が含まれてなるアクリル系接着剤を用いてポリエステル系フィルムと耐熱シートとの接着時に加熱するなどすればよい。
そのことにより、例えば、常温においてアクリル系接着剤をポリエステル系フィルムと耐熱シートとのいずれか一方に塗布して、ポリエステル系フィルムと耐熱シートとを積層し、ポリエステル系フィルムと耐熱シートとの間にアクリル系接着剤を介在させた状態とするまではアクリル酸ブチルがポリイソシアネートで架橋されることを抑制させ、その後、加圧加熱するなどしてアクリル系接着剤をポリアクリル酸ブチルがポリイソシアネートにより架橋された状態としてポリエステル系フィルムと耐熱シートとを強固に接着させることができる。
【0024】
また、このテルペンフェノールやアルキルフェノールは、アクリル系接着剤を軟化させて油浸モーター用絶縁紙にしなやかな風合いを付与させるという効果ならびにアクリル系接着剤の耐熱性、耐加水分解性を向上させる効果も有する。したがって、油浸モーター用絶縁紙の耐久性を向上させ、しかも、折り曲げ加工したりする際の加工性を向上させることもでき上記のようにポリアミド製の耐熱紙を用いる場合にはアクリル酸ブチル(PAB)100重量部に対して、10重量部以上、例えば20重量部の量添加されていることが好ましい。
【0025】
各シートの組み合わせについては、必要とされる耐熱性によって適宜選択することができる。よって、例えば、120℃の耐熱性が求められる場合には、低オリゴマータイプのポリエステルフィルム(例えば東レ株式会社製、ルミラーX10S)を用い、その表裏両面にアクリル系接着剤を介してPENフィルムを耐熱シートとして積層したものを挙げることができる。
また、例えば150℃の耐熱性が求められる場合には、ポリエステル系フィルムとしてPENフィルムを用い、その表裏両面にアクリル系接着剤を介してポリアミドフィルムを積層したものや、同じくポリエステル系フィルムとしてPENフィルムを用い、その表裏両面にアクリル系接着剤を介してポリイミド(PI)フィルムを積層したものを挙げることができる。
【0026】
なお、上記に説明したようにテルペンフェノールやアルキルフェノールを添加することによりアクリル系接着剤を柔軟なものとすることができるものの、テルペンフェノールやアルキルフェノールを添加するとアクリル系接着剤が軟化する一方で粘着性が高くなる。そのため、折り曲げ加工などの際に加工機の例えばガイドロールなどの油浸モーター用絶縁紙の端面と接触する個所においてアクリル系接着剤の付着、堆積が生じたりするおそれもある。
【0027】
したがって、ポリアミド製の耐熱紙などのように高温で用いられ、しかも、油浸モーター用絶縁紙の表面側からアクリル系接着剤側に空気や水分を通過させやすくアクリル系接着剤自体にも優れた耐熱性、耐加水分解性が要望される場合に比べて、上記のような温度で用いられる、PENフィルム、ポリアミドフィルム、ポリイミドフィルムなどのフィルムが用いられる場合には、アクリル系接着剤が空気や水分と接触する可能性を低減できる。そのため、耐熱シートとしてフィルム状のものが用いられる場合には、テルペンフェノールやアルキルフェノールを添加する方法に代えて架橋に用いるポリイソシアネートの量を一般に用いられる量に比べて過剰な量とさせることでテルペンフェノールやアルキルフェノールが添加されたアクリル系接着剤を介してポリエステル系フィルムの表裏両面にポリアミド製の耐熱紙が積層されている場合と同様に油浸モーター用絶縁紙の耐久性を向上させつつ加工機に対するアクリル系接着剤の付着を抑制させることができる。
しかも、ポリイソシアネートの量をこのように一般に用いられる量に比べて過剰な量にとすることでアクリル系接着剤の接着性、密着性をテルペンフェノールやアルキルフェノールが添加された場合と同様に向上させることができる。
【0028】
このポリイソシアネートの添加量としては、アクリル酸ブチル(PAB)100重量部に対して、3重量部を超え25重量部以下の量で添加されることが好ましく、特に10重量部以上20重量部以下であることがさらに好ましい。
一方、この場合、テルペンフェノールやアルキルフェノールは、アクリル系接着剤に添加しないか、添加するとしてもアクリル酸ブチル(PAB)100重量部に対して、5重量部以下にすることが好ましく、2重量部以下にすることがさらに好ましい。
【0029】
尚、本実施形態では、接着剤を含めて5層構造とした場合の油浸モーター用絶縁紙について説明したが、本発明はこれに限定されず、内側又は外側に必要に応じて他のフィルム又は接着剤を積層して6層以上とすることも可能である。
また、本発明の油浸モーター用絶縁紙は、表裏において樹脂の種類や厚みが異なるような非対象の構成とすることも可能である。
【0030】
本発明の油浸モーター用絶縁紙は、油浸モーターにおいて絶縁材として用いられる。
斯かる絶縁材としては、例えば、油浸モーターを構成するモーターステータにおいては、コア材と巻線とを絶縁すべくその間に挿入される絶縁材、又は相の異なる巻線同士を絶縁すべくその間に挿入される絶縁材が挙げられる。また、油浸モーターを構成するロータにおいては、モーターステータと同様にコア材と巻線間の絶縁材が挙げられる。さらに、これ以外にも、異なる相の結束部分である中性点の絶縁材として用いることができる。
【0031】
上記のような構成の油浸モーター用絶縁紙を用いれば、その構成部材が高温状態で油中に浸漬されていても絶縁紙が劣化しにくく、過酷な使用条件でも安定した性能を発揮する油浸モーターを構成することができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに詳細に説明する。
(実施例1)
ポリエステル系フィルムである低オリゴマーPETフィルム「ルミラーX−10S」(東レ社製、厚さ188μm」の表裏両面に、アクリル系接着剤であるポリアクリル酸ブチルとテルペンフェノールの混合物のイソシアネート架橋体を介して耐熱シート(デュポン帝人社製、テオネックスQ−51、厚さ16μm)を積層することにより、実施例1の油浸モータ用絶縁紙を作成した。
【0033】
(比較例1)
前記アクリル系接着剤の代わりに、ウレタン系接着剤であるポリオールのイソシアネート架橋体を用いること以外は実施例1と同様にし、比較例1の油浸モータ用絶縁紙を作成した。
【0034】
(実施例2)
ポリエステル系フィルムとして「テオネックスQ−51」(デュポン帝人社製、厚さ16μm)の表裏両面に、実施例1と同じアクリル系接着剤を介して耐熱シート「ノーメックス464」(デュポン帝人社製、厚さ50μm」を積層することにより、実施例2の油浸モータ用絶縁紙を作成した。
【0035】
(比較例2)
前記アクリル系接着剤の代わりに、比較例1と同じウレタン系接着剤を用いること以外は実施例2と同様にし、比較例2の油浸モータ用絶縁紙を作成した。
【0036】
上記実施例および比較例の油浸モータ用絶縁紙を用い、JIS C 2111−8に規定された試験方法に基づき、「引張強さ」及び「伸び」を測定し、且つ、JIS C 2111−27.1に規定された試験方法に基づき、「絶縁破壊電圧」を測定した。結果を図2〜8および表1、2に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
図2〜8および表1、2に示したように、本発明に係る実施例1および2の油浸モータ用絶縁紙は、比較例1および2の油浸モータ用絶縁紙と比べて、耐熱性に優れることがわかる。
【0040】
(実施例3乃至18)
ポリエステル系フィルムである低オリゴマーPETフィルム「ルミラーX−10S」(東レ社製、厚さ188μm」の表裏両面に、アクリル系接着剤を介して耐熱シート(デュポン帝人社製、テオネックスQ−51、厚さ16μm)を積層することにより油浸モータ用絶縁紙を作成した。
このとき用いたアクリル系接着剤の配合は表3に示すとおりである。
【0041】
【表3】

※表中の数値は重量部を表す。
【0042】
(汚損性評価)
油浸モータ用絶縁紙の端部と加工機との接触による加工機への接着剤の付着(加工機の汚損)についての評価を実施した。
この汚損性評価においては、図9に示すように、ステンレス板を断面“コ”の字に折り曲げて、長さ10cm、幅10mmの大きさに作製した樋状体と、実施例3乃至18の油浸モータ用絶縁紙を10mm幅×300m巻リールにスリット加工したものとを用いて、この油浸モータ用絶縁紙のリールから引き出された油浸モータ用絶縁紙を樋状体の底面上を摺動させて巻き取りリールに巻き取るべく巻き取りリールを回転させた。このときの巻き取りリールの回転速度は、油浸モータ用絶縁紙の移動速度が5m/minとなるように調整した。また、このリール巻取りを複数回繰り返して実施し、1回のリール巻取りが終了する(1時間)ごとに樋状体の側壁部の目視観察を実施して、付着物の蓄積の有無を確認した。
この付着物の蓄積が視認されるまでの時間を汚損性として評価した。結果を表4に示す。
【0043】
(加工性評価)
実施例3乃至18の油浸モータ用絶縁紙を二つ折りにして、折り目の状況を目視にて観測した。結果を表4に示す。
折り目がきれいに形成されているものを「○」として判定し、折り目部に浮きが見られる場合を「×」として判定した。なお、この浮きが見られる部分では、わずかながらも層間での剥離が観測された。
【0044】
【表4】

この表4から、ポリイソシアネートの添加量を、アクリル酸ブチル(PAB)100重量部に対して、3重量部を超え25重量部以下の量とすることで汚損性が低減されることがわかる。しかも、ポリイソシアネートの添加量を、アクリル酸ブチル(PAB)100重量部に対して、10重量部以上20重量部以下とした場合には、さらに加工性においても優れたものが得られることがわかる。
【0045】
(耐熱性、耐加水分解性)
この実施例3乃至9の絶縁紙を実施例1、2と同様に90〜150℃の温度で、伸び、引張強さ、絶縁破壊電圧の保持率について評価を行ったところすべての絶縁紙が実施例1と同等の結果となった。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の油浸モーター用絶縁紙の一実施形態を示した断面図。
【図2】110℃における引張強さ保持率の経時変化を示したグラフ。
【図3】130℃における引張強さ保持率の経時変化を示したグラフ。
【図4】90℃における伸び保持率の経時変化を示したグラフ。
【図5】110℃における伸び保持率の経時変化を示したグラフ。
【図6】110℃における絶縁破壊電圧保持率の経時変化を示したグラフ。
【図7】130℃における絶縁破壊電圧保持率の経時変化を示したグラフ。
【図8】150℃における絶縁破壊電圧保持率の経時変化を示したグラフ。
【図9】汚損性評価方法を示す概略図。
【符号の説明】
【0047】
1 油浸モーター用絶縁紙
2 ポリエステル系フィルム
3 アクリル系接着剤
4 耐熱シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却油中に浸漬させた状態で機能する油浸モーターに用いられる絶縁紙であって、ポリエステル系フィルムの表裏両面に耐熱シートが積層され、該ポリエステル系フィルムと該耐熱シートとがアクリル系接着剤で接着されてなることを特徴とする油浸モーター用絶縁紙。
【請求項2】
前記アクリル系接着剤にはポリアクリル酸ブチルとポリイソシアネートとが含有されている請求項1に記載の油浸モーター用絶縁紙。
【請求項3】
前記耐熱シートが紙状であり、前記アクリル系接着剤にはテルペンフェノールがさらに含有されており、しかも、該テルペンフェノールが、前記ポリアクリル酸ブチル100重量部に対し1〜30重量部の量で前記アクリル系接着剤に含有されている請求項2に記載の油浸モーター用絶縁紙。
【請求項4】
前記耐熱シートが紙状であり、前記アクリル系接着剤にはアルキルフェノールがさらに含有されており、しかも、該アルキルフェノールが、前記ポリアクリル酸ブチル100重量部に対し1〜30重量部の量で前記アクリル系接着剤に含有されている請求項2に記載の油浸モーター用絶縁紙。
【請求項5】
前記耐熱シートがフィルム状であり、前記ポリイソシアネートが前記ポリアクリル酸ブチル100重量部に対し3重量部を超え25重量部以下の量で前記アクリル系接着剤に含有されている請求項2に記載の油浸モーター用絶縁紙。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−262687(P2006−262687A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−40363(P2006−40363)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(000190611)日東シンコー株式会社 (104)
【Fターム(参考)】