説明

油脂組成物

【課題】より風味の優れた油脂組成物の提供。
【解決手段】ドイツ脂質科学会(DGF)標準法C−III 18(09)にて測定されるMCPD−FSの含有量(ppm)が5ppm以下、ジアシルグリセロール含有量が5質量%以上、モノアシルグリセロールの含有量が1〜35質量%であり、かつ脱臭処理を施した油脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳化物に適した油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
油脂は身体の栄養素やエネルギーの補給源(第1次機能)として欠かせないものであるが、加えて、味や香りなど嗜好性を満足させる、いわゆる感覚機能(第2次機能)を提供するものとして重要である。さらに、ジアシルグリセロールを高濃度に含む油脂は体脂肪燃焼作用等の生理作用(第3次機能)を有していることが知られている。
【0003】
植物の種子、胚芽、果肉などから圧搾されたままの油脂には脂肪酸、モノアシルグリセロール、有臭成分等が含まれている。また、油脂は加工する際にエステル交換反応、エステル化反応、水素添加処理などで加熱工程を経ることで、微量成分が発生し、風味が低下する。これら油脂を食用油として使用するためには、これら微量成分を除去する事による風味改善が必要である。その手段として、高温減圧下で水蒸気と接触させる、いわゆる脱臭操作が一般的に行われている(特許文献1)。
また、ジアシルグリセロール高含有油脂については、良好な風味とするため、通常行われる多孔性吸着剤での脱色処理、及び脱臭処理を行うに先立ち、ジアシルグリセロールに富む油脂に有機酸を添加している(特許文献2)。また、ジアシルグリセロール高含有油脂については、その特性より水中油型乳化物や油中水型乳化物に用いられている(特許文献3、4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭59−68398号公報
【特許文献2】特開平4−261497号公報
【特許文献3】特開昭63−301743公報
【特許文献4】特開平3−91451公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記脱臭処理は、低い温度で行うと、有臭成分の留去効果が小さく風味が悪くなるため、通常高温で行う必要がある。そして、ジアシルグリセロール(以下、「DAG」ともいう)含有油脂は、この脱臭処理により油臭さのない先味を有するものとなる。
一方、油脂は、高温で脱臭処理を行うと、トランス不飽和脂肪酸が増加してしまう場合がある。また、DAGやモノアシルグリセロール(以下、「MAG」ともいう)を含む油脂を高温で脱臭処理して得られた油脂は、風味、とりわけ後味が僅かに重たくなることが指摘される場合があった。これらの傾向は、油脂のグリセリド組成中のDAGやMAG含有量が高く、油脂を構成する脂肪酸中のリノール酸含有量の高い油脂組成物において生じる場合がある。なお、本明細書において「先味」とは、「口中で初期に感じる風味」をいい、油脂の「風味の重さ」とは、「ねっとりと絡みつくような口中感覚」をいい、「後味」とは、「口中に残存する風味」をいう。
このように、DAGやMAGを含有する油脂に関しては、脱臭処理の条件を変化させても、一概に風味が良好になるというものではなく、また、このようなDAGやMAGを含有する油脂を用いた乳化油脂組成物についても、油脂の風味が影響するため、より風味の優れた油脂組成物が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者らは、風味の改善のために精製工程について検討を行ったところ、「風味の重さ」が、ドイツ脂質科学会(以下、「DGF」ともいう)標準法C−III 18(09)にて測定されるMCPD−FS(ppm)と相関を持つことを見出し、かかる成分の含有量が5ppm以下である場合に優れた風味となることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、DGF標準法C−III 18(09)にて測定されるMCPD−FSの含有量(ppm)が5ppm以下、ジアシルグリセロールの含有量が5質量%以上、モノアシルグリセロールの含有量が1〜35質量%であり、かつ脱臭処理を施した油脂組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ジアシルグリセロール及びモノアシルグリセロールを含有し、乳化物に適した風味の優れた油脂組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の油脂組成物は、ジアシルグリセロールを5質量%(以下、単に「%」で示す)以上含有するが、好ましくは10%以上、更に15%以上、特に20%以上、殊更25%以上含有することが、先味の油臭さがなく、後味が軽くすっきりとして風味が良好である点から好ましい。上限は特に規定されないが、工業的生産性の点から60%以下が好ましく、更に50%以下、特に45%以下、殊更40%未満が好ましい。なお、本発明において「油脂」とは、トリアシルグリセロールのみならず、ジアシルグリセロールやモノアシルグリセロールをも含むものとする。また、油中水型乳化物の乳化安定性という点からは、本発明の油脂組成物は、ジアシルグリセロールを40〜60%含有することが好ましい。
【0010】
本発明の油脂組成物は、植物性油脂、動物性油脂のいずれを原料とするものでもよい。具体的な原料としては、例えば、大豆油、ナタネ油、サフラワー油、米糠油、コーン油、パーム油、ヒマワリ油、綿実油、オリーブ油、ゴマ油、シソ油等の植物性油脂、更に魚油、ラード、牛脂、バター脂等の動物性油脂、あるいはそれらのエステル交換油、水素添加油、分別油等の油脂類を挙げることができる。
【0011】
本発明の油脂組成物中の油脂を構成する脂肪酸は、特に限定されず、飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸のいずれであってもよい。不飽和脂肪酸の炭素数は14〜24、さらに16〜22であるのが生理効果の点から好ましい。飽和脂肪酸としては、炭素数14〜24、特に16〜22のものが好ましく、パルミチン酸、ステアリン酸が好ましい。
【0012】
天然に存在する二重結合を有する不飽和脂肪酸は一般にシス型であるが、熱履歴によりトランス型に異性化を起こす場合がある。本発明の油脂組成物中の油脂を構成する脂肪酸のうち、オレイン酸がトランス型となったもの、すなわちエライジン酸の含有量は、生理効果の点から、1%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましく、0.3%以下がさらに好ましい。
【0013】
また、二重結合を2個有する炭素数18の脂肪酸(「全リノール酸」と呼ぶ)に対する、二重結合を2個有しかつトランス型二重結合を含む炭素数18の脂肪酸(「トランス型リノール酸」と呼ぶ)の割合を百分率で表したもの(「トランス体含有率(%)」と呼ぶ)は、通常精製処理の程度に比例して高くなる傾向がある。トランス体含有率は4%以下が好ましく、3%以下がより好ましく。2.5%以下がさらに好ましい。
【0014】
本発明における油脂組成物は、さらにトリアシルグリセロールを4.9〜89.9%含有することが好ましく、さらに20〜79.9%、特に40〜74.9%含有するのが生理効果、油脂の工業的生産性、外観の点で好ましい。また、トリアシルグリセロールの構成脂肪酸は、ジアシルグリセロールと同じ構成脂肪酸であることが、生理効果、油脂の工業的生産性の点で好ましい。
【0015】
本発明における油脂組成物は、モノアシルグリセロールを1〜35%含有するが、さらに1.5〜20%、特に2〜10%、殊更2〜8%含有するのが風味、外観、油脂の工業的生産性等の点で好ましい。また、油中水型乳化物の乳化安定性という点からは、本発明の油脂組成物は、モノアシルグリセロールを2%超25%以下含有することが好ましい。モノアシルグリセロールの構成脂肪酸はジアシルグリセロールと同じ構成脂肪酸であることが、油脂の工業的生産性の点で好ましい。
【0016】
本発明における油脂組成物において、ジアシルグリセロール及びモノアシルグリセロールの合計の含有量が10〜80%、更に20〜70%、特に25〜65%、殊更45〜60%であることが、油中水型乳化物の乳化安定性の点から好ましい。
【0017】
また、本発明における油脂組成物に含まれる遊離脂肪酸(塩)含量は、5%以下が好ましく、さらに0〜2%、特に0〜1%であるのが風味、油脂の工業的生産性の点で好ましい。
【0018】
また、本発明の油脂組成物は、ドイツ脂質科学会(DGF)標準法C−III 18(09)(DGF Standard Methods 2009(14.Supplement),C−III 18(09),“Ester−bound 3−chloropropane−1,2−diol(3−MCPD esters)and glycidol (glycidyl esters)”)にて測定されるMCPD−FSの含有量が5ppm以下であるが、さらに4ppm以下、特に3ppm以下であることが、風味の重さを改善するという点から好ましい。
DGF標準法C−III 18(09)は、GC−MS(ガスクロマトグラフ−質量分析計)による油脂の微量分析法であり、3−クロロプロパン−1,2−ジオール及びそのエステル(MCPDエステル)並びにグリシドール及びそのエステルの測定方法である。これら4成分の含有量合計がMCPD−FSの分析値として測定される。
本発明においては、当該標準法7.1記載のオプションA(“7.1 Option A:Determination of the sum of ester−bound 3−MCPD and glycidol”)の方法を用いる。測定方法の詳細は実施例に記載した。
【0019】
本発明の油脂組成物は、油脂を加水分解して得られた脂肪酸とグリセリンとのエステル化反応、油脂とグリセリンとのグリセロリシス反応等を行い、その後精製処理を行うことにより得ることができる。前記反応は、触媒としてアルカリ金属又はその合金、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物もしくは炭素数1〜3のアルコキシド等の化学触媒を用いる化学法と、リパーゼ等の酵素触媒を用いる酵素法に大別され、いずれの方法で行っても良い。
【0020】
本発明の油脂組成物は、MCPD−FSを指標に精製処理を適宜行って得ることができるが、脱臭処理を施すことにより好適に得ることができる。脱臭処理は、油脂を減圧水蒸気蒸留する処理であり、処理温度は、120〜270℃で行うことができ、更に150〜260℃、特に180〜250℃が好ましい。また、処理時間は、1〜300分で行うことができ、更に3〜180分、特に5〜110分が好ましい。
【0021】
本発明においては、特に精製処理の最終工程で脱臭処理を施すのが、油脂の風味を良好とする点から好ましい。このときの処理条件は、通常の脱臭処理よりも低熱履歴(マイルド)となるような条件を用いることが好ましい。
通常の脱臭処理は、190〜220℃で120〜300分、220〜250℃で30〜180分、あるいは250〜270℃で5〜60分等であり、一方、低熱履歴の場合の脱臭処理は、120〜230℃、更に好ましくは175℃〜230℃で、1〜110分、更に好ましくは5〜110分である。
特に、油脂の風味を良好とする点から、(A)処理温度が120℃以上205℃以下の場合、処理時間は5〜110分が好ましく、更に15〜70分が好ましく、(B)処理温度が205℃超215℃以下の場合、処理時間は5〜50分が好ましく、更に8〜45分、特に12〜40分が好ましく、(C)処理温度が215℃超230℃以下の場合、処理時間は5〜30分が好ましく、更に7〜27分、特に10〜24分が好ましい。
また、圧力は0.01〜4kPa、更に0.03〜1kPaであるのが油脂の風味を良好とする点から好ましい。同様の点から、水蒸気の量は、油脂に対して0.1〜20%が好ましく、0.5〜10%がより好ましい。
【0022】
脱臭処理では、水蒸気の代わりに水を導入し、装置内で水蒸気として接触させてもよい。また、水蒸気の代わりに不活性ガスを接触させる処理を行ってもよい。不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴン等が挙げられるが、窒素が好ましい。不活性ガスを接触させる処理条件は、水蒸気と同様の条件が好ましい。
【0023】
油脂を脱臭処理する方法は特に限定されず、バッチ式、半連続式、連続式等で行ってもよい。処理すべき油脂の量が少量の場合はバッチ式を用い、多量になると半連続式、連続式を用いることが好ましい。
半連続式装置としては、例えば数段のトレイを備えた脱臭塔からなるガードラー式脱臭装置等が挙げられる。連続式装置としては、薄膜状の油脂と水蒸気を接触させることが可能な、構造物が充填された薄膜脱臭装置等が挙げられる。
【0024】
また、本発明の油脂組成物の精製工程として、通常油脂に対して用いられる精製工程を用いることもできる。具体的には、トップカット蒸留工程、酸処理工程、脱色工程、水洗工程、脱臭工程、薄膜蒸発処理工程等を挙げることができる。
【0025】
トップカット蒸留工程は、油脂組成物を蒸留することにより、脂肪酸等の軽質の副生物を除去する工程をいう。
【0026】
酸処理工程は、油脂にクエン酸等のキレート剤を添加、混合し、更に油水分離や減圧脱水することにより水分を除き、不純物を除去する工程をいう。キレート剤の量は、油脂に対し、0.001〜5%が好ましく、0.01〜1%がより好ましい。
【0027】
脱色工程とは、油脂に吸着剤等を接触させ、色相、風味を更に良好とする工程である。吸着剤としては、多孔質吸着剤が好ましく、例えば、活性炭、二酸化ケイ素、及び固体酸吸着剤が挙げられる。固体酸吸着剤としては酸性白土、活性白土、活性アルミナ、シリカゲル、シリカ・アルミナ、アルミニウムシリケート等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を用いることができる。なかでも、副生成物の含有量を低減する点、風味及び色相を良好とする点から、固体酸吸着剤が好ましく、酸性白土、活性白土が特に好ましい。吸着剤の使用量は、色相、風味を更に良好とする点、生産性が良好である点から、油脂に対して2%未満が好ましく、さらに0.1%〜2%未満、特に0.2〜1.5%、とりわけ0.3〜1.3%が好ましい。
【0028】
水洗工程は、油脂に水を接触させ、油水分離を行う操作を行う工程をいう。水洗により水溶性の不純物を除去することができる。水洗工程は複数回(例えば3回)繰り返すことが好ましい。
【0029】
薄膜蒸発処理工程とは、蒸留原料を薄膜状にして加熱し、油脂から軽質留分を蒸発させ、処理を行った油脂を残留分として得る処理である。当該処理は薄膜式蒸発装置を用いて行われる。薄膜式蒸発装置としては、薄膜を形成する方法によって、遠心式薄膜蒸留装置、流下膜式蒸留装置、ワイプトフィルム蒸発装置(Wiped film distillation)等が挙げられる。
【0030】
本発明の油脂組成物には、更に一般の食用油脂と同様に、保存性及び風味安定性の向上を目的として、抗酸化剤を添加することができる。抗酸化剤としては、天然抗酸化剤、トコフェロール、アスコルビン酸パルミテート、アスコルビン酸ステアレート、BHT、BHA、リン脂質等が挙げられる。
また、本発明の油脂組成物には、調理品の食感又は風味の向上、生理機能付与等の点から乳化剤等を添加することができる。添加剤等としては、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等のポリオール脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、植物ステロール、植物ステロールエステルなどが挙げられる。
【0031】
本発明の油脂組成物は、一般の食用油脂とまったく同様に使用でき、油脂を用いた各種飲食物に広範に適用することができる。例えば、ドリンク、デザート、アイスクリーム、ドレッシング、トッピング、マヨネーズ、コーヒーホワイトナー、焼肉のたれ等の水中油型油脂加工食品;マーガリン、スプレッド等の油中水型油脂加工食品;ポテトチップ、スナック菓子、ケーキ、クッキー、パイ、パン、チョコレート等の加工食品;ベーカリーミックス;加工肉製品;冷凍アントレ;冷凍食品等に利用することができる。
【実施例】
【0032】
〔分析方法〕
(i)MCPD−FSの測定(ドイツ脂質科学会(DGF)標準法C−III 18(09) オプションA準拠)
フタ付試験管に油脂サンプル約100mgを計量し、内標(3−MCPD−d5/t−ブチルメチルエーテル)50μL、t−ブチルメチルエーテル/酢酸エチル混合溶液(体積比8:2)500μL、及び0.5Nナトリウムメトキシド1mLを添加して攪拌した後、10分間静置した。ヘキサン3mL、3.3%酢酸/20%塩化ナトリウム水溶液3mLを添加し攪拌した後、上層を除去した。さらにヘキサン3mLを添加し攪拌した後、上層を除去した。フェニルボロン酸1g/95%アセトン4mL混合液を250μL添加して攪拌した後、密栓し、80℃で20分間加熱した。これにヘキサン3mLを加え攪拌した後、上層をガスクロマトグラフ−質量分析計(GC−MS)に供して、MCPD−FSの定量を行った。
【0033】
(ii)グリセリド組成
ガラス製サンプル瓶に、油脂サンプル約10mgとトリメチルシリル化剤(「シリル化剤TH」、関東化学製)0.5mLを加え、密栓し、70℃で15分間加熱した。これに水1.0mLとヘキサン1.5mLを加え、振とうした。静置後、上層をガスクロマトグラフィー(GLC)に供して分析した。
【0034】
(iii)構成脂肪酸組成
日本油化学会編「基準油脂分析試験法」中の「脂肪酸メチルエステルの調製法(2.4.1.−1996)」に従って脂肪酸メチルエステルを調製し、得られたサンプルを、American Oil Chemists. Society Official Method Ce 1f−96(GLC法)により測定した。
【0035】
〔原料油脂の調製〕
(1)菜種油1000質量部(以下、単に「部」で示す)とグリセリン26部を混合し、ナトリウムメトキシドを用いてグリセロリシス化反応を行い、ジアシルグリセロール含有油脂を得た。得られたエステル化物を酸処理(10%クエン酸水溶液を2%添加)及び水洗(蒸留水3回)を行ったものを「菜種DAG水洗油1」とした。
同様にして、菜種油1000部とグリセリン56部を混合し、ナトリウムメトキシドを用いてグリセロリシス化反応を行い、ジアシルグリセロール含有油脂を得た。得られたエステル化物を酸処理(10%クエン酸水溶液を2%添加)及び水洗(蒸留水3回)を行ったものを「菜種DAG水洗油2」とした。
同様にして、パーム油1000部とグリセリン27部を混合し、ナトリウムメトキシドを用いてグリセロリシス化反応を行い、ジアシルグリセロール含有油脂を得た。得られたエステル化物を酸処理(10%クエン酸水溶液を2%添加)及び水洗(蒸留水3回)を行ったものを「パームDAG水洗油」とした。
一方、菜種油脂肪酸1000部とグリセリン150部とを混合し、酵素によりエステル化反応を行い、ジアシルグリセロール含有油脂を得た。得られたエステル化物から、蒸留により脂肪酸とモノアシルグリセロールを留去し、ジアシルグリセロール含有油脂(ジアシルグリセロール90%)を得た。これについて、酸処理(10%クエン酸水溶液を2%添加)及び水洗(蒸留水3回)を行ったものを「菜種DAG水洗油3」とした。また、留去した脂肪酸とモノアシルグリセロール画分から、脂肪酸を留去したものを、酸処理(10%クエン酸水溶液を2%添加)及び水洗(蒸留水3回)を行い、菜種MAG水洗油とした。
【0036】
(2)菜種DAG水洗油1に対し、圧力9.3KPa、処理温度105℃にて、活性白土(ガレオンアースV2R、水澤化学工業)/水洗油質量比=0.005の条件で、20分間活性白土を接触させ、脱色油を得た。さらに、圧力400Pa、処理温度240℃にて、水蒸気/脱臭油質量比=0.03の条件で、30分間水蒸気を接触させ、ジアシルグリセロール高含有油脂Aを得た。分析値を表1に示す。
【0037】
(3)菜種DAG水洗油1に対し、圧力9.3KPa、処理温度105℃にて、活性白土(ガレオンアースV2R、水澤化学工業)/水洗油質量比=0.005の条件で、20分間活性白土を接触させ、脱色油を得た。さらに、圧力400Pa、処理温度180℃にて、水蒸気/処理油質量比=0.03の条件で、30分間水蒸気を接触させ、ジアシルグリセロール高含有油脂Bを得た。分析値を表1に示す。
【0038】
(4)菜種DAG水洗油2に対し、圧力9.3KPa、処理温度105℃にて、活性白土(ガレオンアースV2R、水澤化学工業)/水洗油質量比=0.005の条件で、20分間活性白土を接触させ、脱色油を得た。さらに、圧力400Pa、処理温度240℃にて、水蒸気/脱臭油質量比=0.03の条件で、30分間水蒸気を接触させ、ジアシルグリセロール高含有油脂Cを得た。分析値を表1に示す。
【0039】
(5)菜種DAG水洗油2に対し、圧力9.3KPa、処理温度105℃にて、活性白土(ガレオンアースV2R、水澤化学工業)/水洗油質量比=0.005の条件で、20分間活性白土を接触させ、脱色油を得た。さらに、圧力400Pa、処理温度180℃にて、水蒸気/処理油質量比=0.03の条件で、30分間水蒸気を接触させ、ジアシルグリセロール高含有油脂Dを得た。分析値を表1に示す。
【0040】
(6)パームDAG水洗油に対し、薄膜式蒸発装置としてワイプトフィルム蒸発装置を用い、圧力4Pa、蒸留温度210℃にて、油脂サンプルを毎分3gで供給しながら蒸留を行い処理油を得た。次いでこの処理油に対して、圧力400Pa、処理温度240℃にて、水蒸気/原料比=3%の条件で、30分間水蒸気を接触させ、ジアシルグリセロール高含有油脂Eを得た。分析値を表1に示す。
【0041】
(7)パームDAG水洗油に対し、薄膜式蒸発装置としてワイプトフィルム蒸発装置を用い、圧力4Pa、蒸留温度210℃にて、油脂サンプルを毎分3gで供給しながら蒸留を行い処理油を得た。次いでこの処理油に対して、圧力400Pa、処理温度180℃にて、水蒸気/原料比=3%の条件で、30分間水蒸気を接触させ、ジアシルグリセロール高含有油脂Fを得た。分析値を表1に示す。
【0042】
(8)油脂G及びHとして、表1の組成を持つ油脂(油脂G:日清菜種白絞油(日清オイリオ株式会社、油脂H:RBDパーム油(KECK SENG (MALAYSIA) BERHAD ))を用いた。
【0043】
(9)菜種DAG水洗油3に対し、圧力9.3KPa、処理温度105℃にて、活性白土(ガレオンアースV2R、水澤化学工業)/水洗油質量比=0.005の条件で、20分間活性白土を接触させ、脱色油を得た。さらに、圧力400Pa、処理温度180℃にて、水蒸気/脱臭油質量比=0.03の条件で、30分間水蒸気を接触させ、ジアシルグリセロール高含有油脂Iを得た。分析値を表1に示す。
【0044】
(10)菜種MAG水洗油に対し、圧力9.3KPa、処理温度105℃にて、活性白土(ガレオンアースV2R、水澤化学工業)/水洗油質量比=0.005の条件で、20分間活性白土を接触させ、脱色油を得た。さらに、圧力400Pa、処理温度180℃にて、水蒸気/脱臭油質量比=0.03の条件で、30分間水蒸気を接触させ、油脂Jを得た。分析値を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
実施例1、2及び比較例1
油脂B、D、GおよびIを用いた油脂組成物の乳化安定性の比較結果を示す。
表2の試験例に示す配合で、油相を混合し、40℃で加熱・撹拌後、40℃に加熱した水相を油相中に徐々に添加しながらホモミキサー(特殊機化工業製)で撹拌乳化(7000rpm、10分間)行い、油中水型乳化物を得た。その後、100mlを乳化試験管に採取し、45℃、4時間後の離水量の比較を行い、離水量が3ml以下のものを乳化安定性が良好だと判断した。
【0047】
【表2】

【0048】
表2の結果より、本発明の油脂組成物は乳化安定性が良好であった(実施例1及び2)。特に、DAG及びMAGの含有量を増大させると、乳化安定性が更に向上することが確認された(実施例2)。一方、MAG含有量が1%以下となると、乳化安定性が低下することが確認された(比較例1)。
【0049】
実施例3〜18及び比較例2〜9
表3、4に示す配合でジアシルグリセロール高含有油脂A、B、C、D、Iと油脂G、Jを用いてファットスプレッドを調製した。油相を混合し、40℃で加熱・撹拌後、40℃に加熱した水相を油相中に徐々に添加しながらホモミキサー(特殊機化工業製)で撹拌乳化(7000rpm、10分間)行い、油中水型乳化物を得た。分析値及び風味評価の結果を表3及び4に示す。なお、風味評価は、次に示す方法及び基準により行った(以下の全ての実施例、比較例にて同じ)。
【0050】
〔風味評価〕
風味の評価は、10人のパネルにより、各人1〜2gを生食し、下記に示す基準にて官能評価することにより行った。なお、先味と後味の平均点の合計が5.0以上が消費者への受け入れ性がよいものと判断される。
(i)先味
4:油臭くない
3:僅かに油臭い
2:やや油臭い
1:油臭い
(ii)後味
4:軽く、かつすっきりしている
3:僅かに重く、かつ僅かに収斂味を感じる
2:やや重く、かつやや収斂味を感じる
1:重く、かつ収斂味を感じる
【0051】
【表3】

【0052】
【表4】

【0053】
実施例19〜21、比較例10及び11
表5に示す割合でジアシルグリセロール高含有油脂E、Fと油脂G、Jを用いてファットスプレッドを調製した。油相を混合し、40℃で加熱・撹拌後、40℃に加熱した水相を油相中に徐々に添加しながらホモミキサー(特殊機化工業製)で撹拌乳化(7000rpm、10分間)行い、油中水型乳化物を得た。分析値及び風味評価の結果を表5に示す。
【0054】
【表5】

【0055】
実施例22〜24、比較例12及び13
表6に示す割合でジアシルグリセロール高含有油脂A、Bと油脂Gを用いて、バタークリーム用シロップを調製した。水相を混合し、80℃に加温し、ホモミキサー(特殊機化工業性)を用いて撹拌(3000rpm)しながら、80℃に加温した油相混合物を滴下した。滴下終了後、さらに7000rpmで10分間乳化処理を行った。分析値及び風味評価の結果を表6に示す。
【0056】
【表6】

【0057】
表3〜6に示すように、ジアシルグリセロールの含有量が5%以上、モノアシルグリセロールの含有量が1〜35%であり、かつDGF標準法C−III 18(09)にて測定されるMCPD−FSの含有量を5ppm以下とした油脂組成物を使用した乳化物は、油臭くない先味と、軽くすっきりとした後味を両立する非常に風味の優れたものであった。
一方、ジアシルグリセロールの含有量が5%以上、モノアシルグリセロールの含有量が1〜35%であっても、MCPD−FSの含有量が5ppmより多い油脂組成物は、乳化物にすると重く収斂味を感じる後味を有していた(比較例2、3、10及び12)。ジアシルグリセロール含有量が5%よりも少ない油脂組成物を用いた乳化物は、油臭い先味を有しており、更にジアシルグリセロールが少なくなると、先味だけでなく後味の重さにも影響していた(比較例6、8及び11)。また、モノアシルグリセロールについても、1%未満又は35%を超えると、先味の油臭さおよび後味の重さの両者に悪い影響を与えていた(比較例4、5、7、9、11及び13)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドイツ脂質科学会(DGF)標準法C−III 18(09)にて測定されるMCPD−FSの含有量(ppm)が5ppm以下、ジアシルグリセロールの含有量が5質量%以上、モノアシルグリセロールの含有量が1〜35質量%であり、かつ脱臭処理を施した油脂組成物。
【請求項2】
前記ジアシルグリセロールの含有量が10質量%以上である請求項1記載の油脂組成物。

【公開番号】特開2011−213835(P2011−213835A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82433(P2010−82433)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】