説明

治療用及び診断用分子

本発明は、血管新生を調節するための方法に関し、対象者或いは対象者に由来する細胞又は組織に対して、(i)配列UCACAGU(SEQ ID NO:37)を含むシード領域を含む1つ以上のmiRNA或いはその前駆体又は変異体を投与して血管新生を阻害すること、或いは(ii)該miRNAの1つ以上の拮抗物質を投与して血管新生を促進又は誘導することを含む。更に、異常血管新生に関連する状態を診断する、或いは、それに対する素因を判定するための方法が提供される。適切な医薬組成物が更に提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に血管新生中に下方制御されるマイクロRNA種(miRNA)に関する。本発明は、従って、こうしたmiRNAの調節により、血管新生を阻害する方法と、血管新生を促進する方法とに関する。本発明は、更に、異常血管新生により特徴づけられる状態、或いは異常血管新生に関連する状態を、予防及び治療するための方法に関する。更に、血管新生プロセスを示すmiRNA発現シグネチャ(signature)と、本明細書に開示したmiRNAの抗血管新生剤としての使用及び疾病診断における使用と、本明細書に開示したmiRNAの拮抗物質(antagonists)の血管新生促進剤としての使用とを提供する。
【背景技術】
【0002】
血管新生は、新たな血管が形成されるプロセスであり、胚形成及び胎児の発達を含め、脊椎動物の成長及び発達の多くの側面の基盤となるプロセスである。創傷治癒等の継続的な生理学的反応においても極めて重要である。
【0003】
血管新生は、血管新生促進性成長因子と血管新生阻害物質との複雑な組み合わせにより制御される。血管新生促進性の制御物質と抗血管新生性の制御物質とのバランスは、生物の発達状態及び/又は生理的状態に応じて、いつ、どこで、どの程度まで血管新生が生じるかを左右する。血管新生の誤制御は、過剰又は不十分な血管形成につながり、重大な結果を招く恐れがあり、様々な病理学的状態に関係する。過剰な血管新生は、例えば、癌、慢性炎症状態、眼疾患、及び心血管疾患等の状態に関係する。同様に、不十分な血管新生は、例えば、虚血性慢性創傷及び一部の不妊症に関連付けられている。
【0004】
癌において、血管新生は、多くの癌の発生、腫瘍の成長、及び転移において極めて重要である。腫瘍は、腫瘍への血管成長を誘導するVEGF等の成長因子を分泌することで血管新生を促進する。血管の発生により、腫瘍には、必要な栄養素及び酸素の供給と、老廃物除去のための経路とがもたらされる。腫瘍血管系の増加は、次に、腫瘍が転移する可能性の増加をもたらす。抗血管新生治療は、癌の治療のための有望な手段として最近登場したものであり、例えば耐性の生じやすさの減少等、従来の抗癌治療に対する利点を提供し得る。しかしながら、有望性にもかかわらず、これまでのところ、効果的な抗血管新生剤の開発において成功は限られており、依然として新たな標的及び治療分子の特定が必要である。
【0005】
発生及び多数の生理学的プロセスにおける、正常に制御された血管新生の中心的役割を、異常血管新生(上方及び下方制御の両方)の重大な臨床的結果と併せて鑑みると、必要に応じて血管新生を促進し阻害することについて、新規の治療選択肢が必要とされていることは明らかである。
【0006】
マイクロRNA(miRNA)は、保存性が高い小さな(通常21乃至23ヌクレオチド)内在性(endogenous)非コード(non-coding)RNA分子の豊富なクラスである。miRNAは、遺伝子発現の転写後調節因子の役割を果たす。miRNAは、多くの正常な細胞機能にとって極めて重要であり、例えば、細胞増殖、細胞分化、胚発生、炎症、免疫、及び多くの代謝過程において決定的な役割を果たす。特定のmiRNAでは、発現パターン及び個々のmiRNAの発現の制御変化を含め、癌及び心血管疾患を含む様々な疾病状態に関連するとされるものも増えつつある。
【0007】
これまでに1000を超えるmiRNAが確認されており、400を超える配列の知られたmiRNAが人間において見つかっている(例えば、http://microrna.sanger.ac.uk/sequences/index.shtmlを参照)。個々のmiRNAは、通常、同種(cognate)の標的メッセンジャRNA(mRNA)と不完全に結合するため、各miRNAは、多くの標的mRNAと結合し、これらを制御する可能性を有する。コンピュータ分析は、任意のmiRNAに数百のmRNA標的が存在し得ることを示唆している。したがって、1つのmiRNAが、1つ以上の(可能性としては数百の)異なる遺伝子の発現を制御し得る。
【0008】
成熟miRNAは、非コードDNAの領域から転写される所謂pri−miRNAに由来する。pri−miRNAは、通常、数百のヌクレオチドを含み、RNase IIIエンドヌクレアーゼによりプロセスされ、約70ヌクレオチドのステムループ前駆体(pre−miRNA)となる。pre−miRNAは、細胞質へ能動的に輸送され、ここで更にプロセスされ、通常は21乃至23bpの短いRNA二本鎖となる。機能性のmiRNA鎖は、相補的な非機能性の鎖から解離し、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)内に位置する(或いは、RISCは、pre−miRNAのヘアピン構造を直接取り込むことができる)。miRNAは、標的mRNAの3’UTRと結合し、この結合においては、miRNAの5’末端近く(通常はヌクレオチド位置2乃至8)にある約6乃至7ヌクレオチドの所謂「シード」領域が重要となる。3’末端の役割はあまり明確ではない。miRNA誘導による遺伝子発現制御は、一般に、リボソームから出現するタンパク質を分解することもしくはリボソームを「凍結」することによる翻訳抑制、及び/又は、標的mRNAのRNA破壊の部位への移動を促進することにより達成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願公報第20060287260号
【特許文献2】米国特許出願公報第20060035254号
【特許文献3】WO 99/49029
【特許文献4】WO 01/70949
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、あるmiRNAのサブセットの発現が血管新生中に下方制御され、また、こうしたmiRNAの過剰発現は血管新生を阻害するという、本発明者による驚くべき発見を基礎としている。したがって、本発明は、血管新生の促進又は阻害、及び、異常血管新生に関連する状態の治療についての新規の治療的アプローチへの道を開くものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
冠詞「a」及び「an」は、本明細書での使用において、該冠詞の文法上の対象が1つ又は1つより多く(即ち、少なくとも1つ)あることを示す。一例として、「an element」は、1つの要素又は1つより多い要素を意味する。
【0012】
本明細書及び続く特許請求の範囲を通して、文脈上必要な場合以外は、単語「含む(comprise)」、及び「含む(comprises)」又は「含んでいる(comprising)」等の変化形は、述べられた事項又は工程、或いは事項又は工程の群を含むことを意味するが、任意の他の事項又は工程、或いは事項又は工程の群を排除することは意味しないと理解される。
【0013】
本発明は、特に、血管新生の促進又は阻害のための方法を提供し、該方法は、典型的には内皮細胞において、1つ以上のmiRNAの発現レベルを制御するステップを備え、miR_27a、miR_27b、miR_24、miR_23a、miR_23b、miR_20a、miR_21、miR_29a、miR_29b、miR_29c、miR_106a、miR_126、miR_193a、miR_195、miR_197、miR_221、miR_347、及びmiR_126*から選択されるmiRNAの、正常な内在性レベルからの制御変化により、血管新生を促進又は阻害することが可能となる。
【0014】
本発明の第1の態様によれば、血管新生を阻害するための方法が提供され、該方法は、対象者(subject)或いは対象者に由来する細胞又は組織に対して、1つ以上のmiRNA或いはその前駆体又は変異体(variants)を投与するステップを備え、前記miRNAの少なくとも1つは、配列UCACAGU(SEQ ID NO:37)を含むシード領域を含む。
【0015】
一実施形態において、シード領域配列UCACAGUを含む少なくとも1つのmiRNAは、miR_27a又はmiR_27bである。特定の実施形態において、当該少なくとも1つのmiRNAは、miR_27aである。miRNA miR_27aは、hsa_miR_27aとしてよく、SEQ ID NO:1に記載のヌクレオチド配列を含み得る。miRNA miR_27bは、hsa_miR_27bとしてよく、SEQ ID NO:2に記載のヌクレオチド配列を含み得る。
【0016】
対象者は、過剰又は無制御な血管新生に関連する状態を生じている者、生じやすい性質の者、或いは生じる危険性を別の形で有する者であり得る。
【0017】
前記状態は、例えば、癌、心血管疾患、慢性炎症性疾患、眼疾患、子宮内膜症、又は脂肪症であり得る。心血管疾患は、アテローム性動脈硬化又は再狭窄であり得る。慢性炎症性疾患は、関節リウマチ、クローン病、又は乾癬であり得る。眼疾患は、網膜症、糖尿病性網膜症、緑内障、又は黄斑変性であり得る。黄斑変性は、加齢性黄斑変性であり得る。
【0018】
第2の態様によれば、血管新生を阻害するための方法が提供され、該方法は、対象者或いは対象者に由来する細胞又は組織に対して、1つ以上のmiRNA或いはその前駆体又は変異体を投与するステップを備え、当該miRNAは、miR_27a、miR_27b、miR_24、miR_23a、miR_23b、miR_20a、miR_21、miR_29a、miR_29b、miR_29c、miR_106a、miR_126、miR_193a、miR_195、miR_197、miR_221、miR_347、及びmiR_126*から選択される。
【0019】
miRNAは、SEQ ID No:1乃至18の何れかに記載したヌクレオチド配列を含み得る。
【0020】
第3の態様によれば、配列UCACAGU(SEQ ID NO:37)を含むシード領域を含むmiRNA、或いはmiR_27a、miR_27b、miR_24、miR_23a、miR_23b、miR_20a、miR_21、miR_29a、miR_29b、miR_29c、miR_106a、miR_126、miR_193a、miR_195、miR_197、miR_221、miR_347、及びmiR_126*から成る群から選択されたmiRNA、或いはその前駆体又は変異体の、抗血管新生剤としての使用が提供される。
【0021】
第4の態様によれば、配列UCACAGU(SEQ ID NO:37)を含むシード領域を含むmiRNA、或いはmiR_27a、miR_27b、miR_24、miR_23a、miR_23b、miR_20a、miR_21、miR_29a、miR_29b、miR_29c、miR_106a、miR_126、miR_193a、miR_195、miR_197、miR_221、miR_347、及びmiR_126*から成る群から選択されたmiRNA、或いはその前駆体又は変異体の、血管新生阻害用薬剤の製造のための使用が提供される。
【0022】
本明細書では、更に、第3の態様による1つ以上の抗血管新生剤、並びに、任意で、薬剤的に許容可能な担体、希釈剤、及び/又は賦形剤を共に含む、医薬組成物を提供する。
【0023】
第5の態様によれば、対象者の細胞又は組織において血管新生を促進又は誘導する方法が提供され、該方法は、対象者或いは対象者に由来する細胞又は組織に対して、miRNAの1つ以上の拮抗物質の有効量を投与するステップを備え、前記miRNAは、配列UCACAGU(SEQ ID NO:37)を含むシード領域を含む。
【0024】
一実施形態において、シード領域配列UCACAGUを含むmiRNAは、miR_27a又はmiR_27bである。特定の実施形態において、miRNAは、miR_27aである。miRNA miR_27aは、hsa_miR_27aとしてよく、SEQ ID NO:1に記載のヌクレオチド配列を含み得る。miRNA miR_27bは、hsa_miR_27bとしてよく、SEQ ID NO:2に記載のヌクレオチド配列を含み得る。
【0025】
前記拮抗物質は、miRNAに特異的なアンチセンスオリゴヌクレオチドであり得る。該アンチセンスオリゴヌクレオチドは、SEQ ID NO:19又は20に記載したヌクレオチド配列を含み得る。オリゴヌクレオチド配列は、非天然のヌクレオチド類似体、ヌクレオチド間の非リン酸結合、及び/又は共役部分(conjugated moieties)等の、1つ以上の修飾を含み得る。
【0026】
血管新生の促進又は誘導は、虚血性創傷の治療等、創傷修復を目的としてよい。血管新生の促進又は誘導は、組織修復、組織再生、又は組織工学を目的としてよい。
【0027】
対象者は、低下した又は抑制された血管新生に関連する状態を生じている者、生じやすい性質の者、或いは生じる危険性を他の形で有する者であり得る。該状態は、例えば、冠動脈疾患、脳卒中、婦人科疾患、不妊症、又は虚血性創傷であり得る。
【0028】
第6の態様によれば、対象者の細胞又は組織において血管新生を促進又は誘導するための方法が提供され、該方法は、対象者或いは対象者に由来する細胞又は組織に対して、miR_27a、miR_27b、miR_24、miR_23a、miR_23b、miR_20a、miR_21、miR_29a、miR_29b、miR_29c、miR_106a、miR_126、miR_193a、miR_195、miR_197、miR_221、miR_347、及びmiR_126*から成る群から選択されるmiRNAの1つ以上の拮抗物質の有効量を投与するステップを備える。
【0029】
該miRNAは、SEQ ID No:1乃至18の何れかに記載したヌクレオチド配列を含み得る。
【0030】
拮抗物質は、miRNAに特異的なアンチセンスオリゴヌクレオチドであり得る。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、SEQ ID NO:19乃至36の何れかに記載したヌクレオチド配列を含み得る。
【0031】
第7の態様によれば、配列UCACAGU(SEQ ID NO:37)を含むシード領域を含むmiRNA、或いはmiR_27a、miR_27b、miR_24、miR_23a、miR_23b、miR_20a、miR_21、miR_29a、miR_29b、miR_29c、miR_106a、miR_126、miR_193a、miR_195、miR_197、miR_221、miR_347、及びmiR_126*から成る群から選択されるmiRNAの拮抗物質の、血管新生促進剤としての使用が提供される。
【0032】
第8の態様によれば、配列UCACAGU(SEQ ID NO:37)を含むシード領域を含むmiRNA、或いはmiR_27a、miR_27b、miR_24、miR_23a、miR_23b、miR_20a、miR_21、miR_29a、miR_29b、miR_29c、miR_106a、miR_126、miR_193a、miR_195、miR_197、miR_221、miR_347、及びmiR_126*から成る群から選択されるmiRNAの拮抗物質の、血管新生を促進又は誘導するための薬剤の製造のための使用が提供される。
【0033】
本明細書では、更に、第7の態様による1つ以上の血管新生促進剤、並びに、任意で、薬剤的に許容可能な担体、希釈剤、及び/又は賦形剤を共に含む、医薬組成物を提供する。
【0034】
第9の態様によれば、対象者における異常血管新生に関連する疾患又は状態を診断する、或いは、こうした疾患又は状態に対する対象者の素因の有無を決定するための方法が提供され、該方法は、
(a)対象者から生体試料を取得するステップと、
(b)試料中の少なくとも1つのmiRNA或いはその前駆体又は変異体の発現レベルを決定するステップと、を備え、該miRNAは、
(i)配列UCACAGU(SEQ ID NO:37)を含むシード領域を含み、或いは、
(ii)miR_27a、miR_27b、miR_24、miR_23a、miR_23b、miR_20a、miR_21、miR_29a、miR_29b、miR_29c、miR_106a、miR_126、miR_193a、miR_195、miR_197、miR_221、miR_347、及びmiR_126*から成る群から選択され、
前記少なくとも1つのmiRNAの発現レベルは、対象者における異常血管新生に関連する疾患又は状態或いはそれに対する素因の有無を示す。
【0035】
本発明の第10の態様によれば、配列UCACAGU(SEQ ID NO:37)を含むシード領域を含むmiRNA、或いはmiR_27a、miR_27b、miR_24、miR_23a、miR_23b、miR_20a、miR_21、miR_29a、miR_29b、miR_29c、miR_106a、miR_126、miR_193a、miR_195、miR_197、miR_221、miR_347、及びmiR_126*から成る群から選択されるmiRNAの、該miRNAにより結合又は制御される分子を検出するための使用が提供され、ここで、当該分子の活性又は発現は血管新生に関連する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
次に、単なる非限定的な例として添付図面を示しながら、本発明を説明する。
【図1】in vitro血管新生中に制御されるマイクロRNAの同定。 A.ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)から分離されたRNAのマイクロアレイ解析において検出された、有意な血管新生事象を伴う時点からのマイクロRNAの変化を示すボルケーノプロット。差次的発現のベイジアン対数オッズを、log2(各時点における発現割る時間ゼロにおける発現)に対してプロットしている。 B.TaqmanリアルタイムPCRにより測定したhsa_miR_27a発現レベルの定量化を示す。HUVECは、採取後に、溶解するか(t−0未刺激)、又はPMAとAC11により刺激して溶解するか(t−0刺激)、の何れかを行い、或いは、PMAとAC11での刺激後に3Dコラーゲンゲル上で15分又は30分間に渡り再培養した。データは、3回のPCRアッセイの平均値±標準誤差(SEM)を表す。図示した結果は、内皮細胞(EC)のsnoU6B.3株に対して正規化(normalised)している。
【図2】hsa_miR_27aのレベルは、3次元細胞培養環境において有意に減少するが、対応する2次元培養条件では減少しない。HUVECは、血管新生の刺激因子により処理した後、コラーゲンコートプレート(2D)上において培養した。対照(C)は、刺激した後、再培養せずにそのまま溶解した。異なる日に実施した実験による3つの独立したHUVEC株からデータを集めた。*p=0.05。[3次元細胞培養環境におけるhsa_miR_27aレベルの下方制御の結果については、図1を参照]
【図3】hsa_miR_27aの過剰発現は、in vitro管形成を中断させる。HUVECは、pre−miR陰性対照(A)、又は過剰発現を可能にするhsa_miR_27aの前駆体(B)によりトランスフェクトした。トランスフェクト24時間後の細胞を、マトリゲルTM上で培養し、24時間に渡って観察した。管が結合して安定したネットワークを形成できなかった領域を白い矢印で示している。非常に細い管を黒い矢印で示している。(C)視野当たりの形成された毛細管数の定量化。図示した結果は、4つの独立したHUVEC株の平均値±標準誤差(SEM)である。*p<0.05(対照群対miR_27a)。
【図4】hsa_miR_27aの過剰発現は、内皮細胞の透過性を変化させる。HUVECは、pre−miRNAによる対照又はhsa_miR_27aの前駆体によるトランスフェクトの24時間後にトランスウェル上で培養し、24時間後に透過性を測定した。透過性は、上部チェンバーから下部チェンバーへ移動したFITCデキストランの量として記載している(対照に対して正規化)。図示した結果は、5つの独立したHUVEC株の平均値±標準誤差(SEM)である。*対照対miR−27a、t検定:p<0.05。
【図5】(A)ヒト肝細胞癌患者から得られた血管新生内皮細胞(neo)及び細静脈からの内皮細胞(venule)におけるhsa_miR27aの発現。データは、平均Ctに対する相対値として表現している(2ΔCt)。(B)RNAを、肝硬変の患者の細静脈又は新生血管(Neo)の内皮細胞から単離した(i、ii、及びiii)。miR_27aの発現レベルを、Q−PCRにより定量化し、miR−520d*に対して正規化した。データは、4つのQ−PCR反応の平均値±標準誤差(SEM)を表す。*p<0.05(Venule対Neo)。
【図6】miR_27aの過剰発現は、in vivo毛細管形成を減少させる。C57BL/6マウスの皮下に、0.5μgのFGF−2、及び、90μgの対照(C)又はmiR_27a模倣物(mimic)又は媒体のみ(V)を含有するマトリゲルプラグを埋め込んだ。(A)媒体(i)、対照(ii)、及びmiR_27a(iii)についての代表的な組織切片及びヘマトキシリン・エオシン染色断面。スケールバー:20μm。(B)赤血球含有血管の数の定量化。データは、平均値±標準誤差(SEM)として表現している。(C)マトリゲルプラグからの代表的なCD31免疫化学反応。スケールバー:50μm。(D)CD31陽性細胞数の定量化。データは、平均値±標準誤差(SEM)として表現している。差の統計分析は、多重比較のためのボンフェローニの補正を伴う1方向ANOVAにより比較した。対照ではマウス数n=3、miR_27a及び媒体ではマウス数n=6である。実験は、別々の2日間に、2つの別個のバッチのmiRNA模倣物を使用して行った。
【0037】
本明細書で開示するmiRNAのヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:1乃至18に記載している。SEQ ID NO:1乃至18のmiRNA配列に相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドの例のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:19乃至36に記載している。miR_27a及びmiR_27bのmiRNAシード領域を表す配列は、SEQ ID NO:37に記載している。
【発明を実施するための形態】
【0038】
血管新生に関連して本明細書において使用される「異常」という用語は、望ましくない又は適切に制御されていない血管新生を意味する。したがって、異常血管新生は、正常に制御された血管新生に対して、上方制御又は過剰状態である場合があり、或いは、正常に制御された血管新生に対して、下方制御、低下、又は抑制状態である場合がある。何れの場合も、血管新生の変化又は異常性は、量的、時間的、及び/又は空間的なものであり得る。即ち、例えば、上方制御された又は過剰な血管新生では、血管新生は、異常に高いレベルで生じる、血管新生が通常は生じない時点で生じる、及び/又は、血管新生が通常は生じない組織又は場所で生じる場合がある。同様に、低下した又は抑制された血管新生では、血管新生を誘導又は開始する組織又は身体の能力が低下し、十分なレベルで、及び/又は、正常な健康状態を維持するために必要な状況(時間及び/又は場所)で、血管新生を生じさせられない場合がある。
【0039】
本明細書において、「活性」という用語は、タンパク質、ポリペプチド、又はポリヌクレオチドとの関連において、当該タンパク質、ポリペプチド、又はポリヌクレオチドが、ある核酸配列又はそのフラグメントにより、或いは、タンパク質又はポリペプチド自体或いはその任意のフラグメントにより発揮するあらゆる細胞機能、作用、効果、又は影響を意味する。
【0040】
本明細書において、「拮抗物質」という用語は、miRNA分子の発現及び/又は活性を遮断又は阻害する能力を有するあらゆる作用物質を示す。従って、拮抗物質は、直接的又は間接的な作用により、miRNAの転写又は転写後プロセシングを防止するか、或いは他の何らかの形でmiRNAの活性を阻害するように作用し得る。拮抗物質は、例えば、核酸、ペプチド、他のあらゆる適切な化合物又は分子、或いはそれらの任意の組合せであり得る。加えて、miRNAの活性を間接的に低下させるという点で、拮抗物質がまず他の細胞分子の活性に影響を与え、その細胞分子がmiRNA自体の活性の発現の調節因子として機能する場合があることは理解されよう。同様に、拮抗物質は、それ自体がmiRNAによる制御又は調節の対象である分子の活性に影響を与える場合がある。
【0041】
本明細書において、異常血管新生に「関連する」疾患及び状態という文脈で使用される「関連する(associated with)」という用語は、疾患又は状態が異常血管新生により発生し得ること、異常血管新生を発生させ得ること、異常血管新生を特徴とし得ること、或いは他の形で異常血管新生に関連し得ることを意味する。したがって、疾患又は状態と異常血管新生との間の関連性は、直接的又は間接的な場合があり、時間的に離れている場合がある。
【0042】
本明細書での使用において、「有効量」という用語は、その意味において、毒性はないが、所望の効果を提供する上で十分な作用物質又は化合物の量又は用量を含む。必要とされる正確な量又は用量は、治療する種、対象者の年齢及び全般的状態、治療する状態の重症度、投与する特定の作用物質、及び投与の形態等の要因に応じて、対象者毎に変化する。そのため、正確な「有効量」を規定することは不可能である。しかしながら、如何なる場合でも、適切な「有効量」は、日常的な実験手法のみを使用して当業者が決定し得る。
【0043】
本明細書での使用において、「発現」という用語は、文脈に応じて、ポリペプチド又はタンパク質の発現、或いはポリヌクレオチド又は遺伝子の発現を示し得ることは理解されよう。ポリヌクレオチドは、コード又は非コード(例えば、miRNA)であってよい。ポリヌクレオチドの発現は、例えば、RNA転写レベルの産物を測定することにより判定し得る。タンパク質又はポリペプチドの発現は、例えば、ポリペプチドと結合する抗体(群)を用いたイムノアッセイにより判定し得る。
【0044】
本明細書での使用において、「miRNA種」という用語は、特定のヌクレオチド配列のマイクロRNAを示す。「miRNA種」、「miRNA」、及び「miRNA分子」という用語は、本明細書において互換的に使用される場合がある。miRNA又はmiRNA分子への言及が(数値的に)一個の分子を意味するのではなく、単一のタイプ又は単一の種の分子を意味することは、当業者には認識されよう。
【0045】
本明細書での使用において、「オリゴヌクレオチド」という用語は、リボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチド塩基、天然ヌクレオチドの公知の類似体、又はそれらの混合物の一本鎖配列を示す。「オリゴヌクレオチド」は、DNA、RNA、PNA、LNA、又はその任意の組み合わせを含む核酸に基づく分子を含む。天然又は非天然のリボヌクレオチド塩基を主に含むオリゴヌクレオチドは、RNAオリゴヌクレオチドと呼ばれる場合がある。オリゴヌクレオチドは、例えば、直接化学合成又はクローニング及び適切な配列の制限(restriction)を含む任意の適切な方法により調製し得る、一般的には短い(例えば、長さ50ヌクレオチド未満の)配列である。「アンチセンスオリゴヌクレオチド」は、特定のDNA又はRNA配列に相補的なオリゴヌクレオチドである。通常、本明細書において、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、特定のmiRNAに相補的なRNAオリゴヌクレオチドである。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、相補的miRNAと結合し、その活性を部分的又は完全に静止又は抑制する。アンチセンスオリゴヌクレオチド内の全ての塩基が「標的」配列あるいはmiRNA配列と相補的である必要はなく、該オリゴヌクレオチドは、標的の認識を可能にするために十分な相補的塩基を含有していればよい。オリゴヌクレオチドは、付加的な塩基を含んでもよい。アンチセンスオリゴヌクレオチド配列は、非修飾リボヌクレオチド配列にしてよく、或いは本明細書に記載の様々な手段により化学的に修飾又は共役(conjugated)させたものでもよい。
【0046】
本明細書での使用において「ポリヌクレオチド」という用語は、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド塩基、又は天然ヌクレオチドの公知の類似体、又はその混合物の一本鎖又は二本鎖の重合体を示す。「ポリヌクレオチド」は、DNA、RNA、PNA、LNA、又はその任意の組み合わせを含む、核酸に基づく分子を含む。この用語は、特に明示されない限り、指定された配列と、それに相補的な配列とを示す。ポリヌクレオチドは、当業者に公知の様々な手段により化学的に修飾し得る。したがって、「ポリヌクレオチド」は、DNA、RNA、PNA、LNA、又はその任意の組み合わせを含む、核酸に基づく分子を含む。
【0047】
本明細書での使用において「対象者」という用語は、哺乳類を示し、ヒト、霊長類、家畜動物(例えば、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ロバ)、実験動物(例えば、マウス、ウサギ、ラット、モルモット)、伴侶動物(例えば、イヌ、ネコ)、及び捕獲野生動物(例えば、キツネ、カンガル、シカ)を含む。好ましくは、該哺乳類は、ヒト又は実験動物である。更に好ましくは、該哺乳類はヒトである。
【0048】
本明細書での使用において、「治療(treating)」、「治療(treatment)」、「予防(preventing)」、及び「予防(prevention)」という用語は、状態又は症状を治療し、状態又は疾患の定着を予防し、或いは状態若しくは疾患又は他の何らかの望ましくない症状の進行を別の何らかの形で予防、妨害、遅延、又は逆転するあらゆる使用を示す。したがって、「治療」及び「予防」等の用語は、最も広義で解釈されるべきである。例えば、治療は、必ずしも完全に回復するまで患者を治療することを意味しない。複数の症状を示す又はこれらを特徴とする状況において、治療又は予防は、必ずしも、これら全ての症状を治療、予防、妨害、遅延、又は逆転する必要はなく、これらの症状のうち1つ又は2つ以上を治療、予防、妨害、遅延、又は逆転してもよい。
【0049】
本明細書において例証するように、本発明者は、細胞培養における血管新生条件の誘導時に、特定のmiRNAの群の発現レベルが急速且つ著しく下方制御されることを見出した。こうしたmiRNAのうちの少なくとも1つの過剰発現は、血管の形成を阻害することが本明細書において実証されている。本明細書に記載の発見は、血管形成の調節に関する新たな治療標的を提供し、異常血管新生に関連する疾患及び状態の治療、予防、及び診断への道をもたらす。
【0050】
本明細書において、血管新生中に下方制御されることが記述されるmiRNAは、miR_27a、miR_27b、miR_24、miR_23a、miR_23b、miR_20a、miR_21、miR_29a、miR_29b、miR_29c、miR_106a、miR_126、miR_193a、miR_195、miR_197、miR_221、miR_347、及びmiR_126*を含む。
【0051】
特定の態様において、本発明は、血管新生の阻害と、過剰又は無制御な血管新生に関連する状態の治療又は予防とのための方法及び作用物質を提供する。該方法は、1つ以上のmiRNAの投与を備えてよく、その少なくとも1つは、配列UCACAGU(SEQ ID NO:37)を含むシード領域を含み、或いは、miR_27a、miR_27b、miR_24、miR_23a、miR_23b、miR_20a、miR_21、miR_29a、miR_29b、miR_29c、miR_106a、miR_126、miR_193a、miR_195、miR_197、miR_221、miR_347、及びmiR_126*から成る群から選択される1つ以上のmiRNA、或いはその前駆体又は変異体を含む。
【0052】
投与は、治療を必要とする対象者に直接行ってよく、或いは、対象者に由来する細胞又は組織に対するex vivo投与を行ってもよい。投与すべきmiRNAは、合成的に生成したものでも、細胞性のソースに由来する天然のものであってもよい。通常、miRNAは、治療の対象者の種に由来するもの、或いは、その種からのmiRNAと同一の配列を構成するものであり得る。したがって、通常、対象者がヒトである場合、当該miRNAは、ヒト由来のmiRNA配列となる。
【0053】
本明細書で開示する実施形態では、成熟miRNA、その前駆体又は変異体、或いは該miRNAの発現又は活性を調節する能力を有する作用物質の投与が考えられる。前駆体は、細胞内で成熟活性miRNAへとプロセスされることが可能なpri−miRNA及びpre−miRNA分子を含む。変異体は、本明細書に開示したmiRNAの配列に実質的に類似するヌクレオチド配列を含む。一般に、変異体の配列は、質的に共通な生物学的活性を有する。変異体は、1つ以上の場所に変異した残基を含み、例えば、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有し得る。変異体は、別の場合には、又は上記の変異に加えて、1つ以上の位置に非天然残基等の修飾を含み得る。
【0054】
本明細書で開示したヒト(hsa)及びラット(rno)のmiRNAのヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:1乃至18に示している。miRNAの指定とSEQ ID NO.との対応性は、実施例1の表2に記載している。ゲノム上の位置を含む、これらのmiRNAの追加の配列情報は、http://microrna.sanger.ac.uk/sequences/index.shtmlにおいて確認することができる。
【0055】
本発明は、更に、こうしたmiRNAの拮抗物質と、その使用とを提供する。特定の態様において、本発明は、血管新生の促進のため、及び血管新生の低下又は抑制に関連する状態の治療又は予防のための方法及び作用物質を提供する。該方法は、1つ以上のmiRNAの拮抗物質の投与を含み、それらのmiRNAの少なくとも1つは、配列UCACAGU(SEQ ID NO:37)を含むシード領域を含み、或いは、該miRNAは、miR_27a、miR_27b、miR_24、miR_23a、miR_23b、miR_20a、miR_21、miR_29a、miR_29b、miR_29c、miR_106a、miR_126、miR_193a、miR_195、miR_197、miR_221、miR_347、及びmiR_126*から成る群から選択される。
【0056】
本明細書において開示した実施形態による使用に適した拮抗物質は様々な形態をとり得ることは、当業者には容易に理解されよう。拮抗物質は、本発明のmiRNAに特異的なヌクレオチド配列、又はその一部を備えるアンチセンスコンストラクトであり得、当該アンチセンスコンストラクトは、該miRNAの発現又は活性を少なくとも部分的に阻害する。「特異的」とは、アンチセンスコンストラクトが、miRNAに対して実質的に特異的であることを意味するが、必ずしも排他的な意味で特異的であるとは限らない。即ち、該アンチセンスコンストラクトは、特定のmiRNA配列に対して特異的である一方、他のmiRNA(発現が十分に阻害されるもの)等、他の配列ともクロスハイブリダイズし得る。更に、例えば、本発明によるアンチセンスコンストラクトのヌクレオチド配列は、特定のmiRNAとの配列同一性が100%未満でありながら、それに対する特異性を保持し得る。適切なアンチセンスコンストラクトは、miRNAの発現又は活性に作用するために、対象とされたmiRNAと直接結合する必要はないことは、当業者に理解されよう。アンチセンスコンストラクトが相補的な細胞ヌクレオチド配列と結合することは、当該特異的miRNAの転写、RNAプロセシング、輸送、及び/又は安定性に干渉し得る。アンチセンス分子は、DNA、RNA、LNA、PNA、又はその任意の組み合わせを含み得る。
【0057】
本明細書に開示した実施形態による使用に適したアンチセンスコンストラクトは、例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド、低分子干渉RNA(siRNA)、及び触媒性アンチセンス核酸コンストラクトを含む。適切なアンチセンスオリゴヌクレオチドは、当業者に周知の方法により調製し得る。一般に、オリゴヌクレオチドは、自動合成機上で化学合成される。非限定的な例として、本明細書に開示したmiRNAに特異的な特定のアンチセンスオリゴヌクレオチドの配列を、SEQ ID NO:19乃至36に示している。これらのオリゴヌクレオチドが特異性を示すmiRNAを次の表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
これらのオリゴヌクレオチドの例は、それぞれ対応するmiRNAに対して100%相補的であるが、100%未満の相補性となるように1つ以上の塩基を変化させても、オリゴヌクレオチドが該miRNAに対する特異性を保持すると共にこのmiRNAに対する拮抗作用を保持し得ることは、当業者には容易に理解されよう。更に、以下に説明するように、オリゴヌクレオチド配列は、本発明の範囲から逸脱することなく、1つ以上の化学的修飾を含み得る。
【0060】
本発明によるオリゴヌクレオチドは、細胞への送達、細胞内に入った後の安定性、及び/又は適切なmiRNA標的との結合を改善するように設計された修飾を含み得る。例えば、オリゴヌクレオチド配列は、配列内の残基間に1つ以上のホスホロチオエート(例えば、ホスホロモノチオエート又はホスホロジチオエート)結合を追加すること、或いは、1つ以上のモルホリン環をバックボーンに含めることにより修飾し得る。残基間の代替非リン酸結合は、ホスホン酸、ヒドロキシルアミン、ヒドロキシルヒドラジニル、アミド、及びカルバミン酸結合(例えば、その開示内容全体を本願明細書の一部としたManoharan I.による米国特許出願公報第20060287260号を参照)、メチルホスホネート、ホスホロチオラート、ホスホロアミデート、又はホウ素誘導体を含む。オリゴヌクレオチドに存在するヌクレオチド残基は、天然ヌクレオチドとしてよく、或いは修飾ヌクレオチドとしてもよい。適切な修飾ヌクレオチドは、2’−O−メチルアデニン、2’−O−メチルウラシル、2’−O−メチルチミン、2’−O−メチルシトシン、2’−O−メチルグアニン、2’−O−メチル−2−アミノアデニン等の2’−O−メチルヌクレオチドと、2−アミノアデニン、2−アミノプリン、イノシンと、5−プロピニルウラシル及び5−プロピニルシトシン等のプロピニルヌクレオチドと、2−チオチミジンと、5−ニトロインドール等のユニバーサル塩基と、ロックド(locked)核酸(LNA)並びにペプチド核酸(PNA)とを含む。天然リボヌクレオシドにおいて存在するリボース糖部分は、その開示内容全体を本願明細書の一部としたManoharanらによる米国特許出願公報第20060035254号に記載されるように、例えば、ヘキソース糖、多環状のヘテロアルキル環、又は、シクロヘキセニル基により置き換えてよい。或いは、又は追加として、オリゴヌクレオチド配列は、一方又は両方の端部において1つ以上の適切な化学的部分(moieties)と共役させてよい。例えば、オリゴヌクレオチドは、3’末端でのヒドロキシプロリノール結合等の適切な結合を介して、コレステロールと共役させ得る。
【0061】
特定のmiRNAに対する「サイレンシング」活性を有する修飾オリゴヌクレオチド(「アンタゴmir」)の合成は、その開示内容全体を本願明細書の一部としたKrutzfeldt, J. et al., 2005, Nature 438:685-689に記載されている。例えば、Krutzfeldtらは、2−O−メチルヌクレオチド、5’及び3’末端の残基間のホスホロチオエート結合、及び3’末端におけるヒドロキシプロリノール結合を介した共役コレステロール部分を含むアンタゴmirの配列を開示している。本明細書に開示した実施形態では、Krutzfeldtらにより記述された形で修飾したアンタゴmirと、その修正物(modifications)又は変形物(variations)の使用が考えられる。本明細書に開示した実施形態による使用のためのオリゴヌクレオチド又はアンタゴmirの設計は、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0062】
RNA干渉(RNAi)(例えば、Chuang et al. (2000) PNAS USA 97: 4985を参照)として知られる別のアンチセンス手法を、この技術分野において公知の方法により使用して(例えば、その開示内容全体を本願明細書の一部としたFire et al. (1998) Nature 391: 806-811、Hammond, et al. (2001) Nature Rev, Genet. 2: 110-1119、Hammond et al. (2000) Nature 404: 293-296、Bernstein et al. (2001) Nature 409: 363-366、Elbashir et al (2001) Nature 411: 494-498、WO 99/49029、及びWO 01/70949)、miRNAの発現又は活性を阻害し得る。RNAiとは、低分子干渉RNA分子(siRNA)により特定のRNAを破壊することによる選択的転写後遺伝子サイレンシングの手段である。siRNAは、二本鎖RNAの切断により生成され、二本鎖のうち一方の鎖は、不活性化の対象となるメッセージと同一である。一方の鎖がmiRNA転写物の特定の領域と同一である二本鎖RNA分子を合成し、これを直接導入することができる。或いは、対応するdsDNAを利用してもよく、該dsDNAは細胞内でdsRNAに転換される。RNAiにおける使用に適した、又は転写後遺伝子サイレンシングを達成することに適した分子を合成する方法は、当業者に公知である。
【0063】
本発明が関係するmiRNAの発現又は活性を阻害するさらなる手段は、miRNA転写物を切断する能力を有する、DNAザイム及びリボザイム等の触媒性アンチセンス核酸コンストラクトを導入することにより達成し得る。例えば、リボザイムは、リボザイム触媒部位に隣接して存在し標的に対して配列相補性を有する2つの領域によって、特定の配列を標的としてアニールする。結合後、リボザイムは、部位特異的な形で標的を切断する。miRNA配列を特異的に認識及び切断するリボザイムの設計及び試験は、当業者に周知の手法により達成することができる(例えば、出典を明記することによりその開示内容を本願明細書の一部としたLieber and Strauss, (1995) Mol. Cell. Biol. 15:540-551)。
【0064】
更に、本発明の実施形態による拮抗物質が、本明細書に開示したmiRNAの発現又は活性の修飾因子又は調節因子に作用し得ることは、当業者に理解されよう。同様に、拮抗物質は、本明細書に開示したmiRNAの標的に作用し得る。したがって、拮抗物質は、作用の対象となる分子(群)及びその性質に応じて、例えば、小分子阻害剤、ペプチド阻害剤、又は抗体等、任意の適切な形態をとり得る。
【0065】
本発明の実施形態は、本明細書で定義される異常血管新生に関連する疾患及び状態を治療するための方法及び組成物に関する。異常血管新生は、過剰又は無制御状態、或いは低下又は抑制状態であり得る。したがって、こうした治療は、一般に、血管新生を調節して、血管新生のレベル、時間、及び/又は場所を正常化することにより、疾患又は状態を治療する又はその進行を遅らせるように設計される。本発明の実施形態では、更に、異常血管新生に関連する疾患及び状態の素因を有する対象者、或いはこうした疾患又は状態を発生する危険性を別の形で有する対象者において、当該疾患及び状態を予防する方法が考慮される。
【0066】
異常血管新生に関連し、本発明の実施形態の対象となり得る疾患及び状態の範囲全体は、当業者に容易に理解されよう。非限定的な例として、過剰又は無制御な血管新生に関連し、したがって本発明の実施形態による血管新生の阻害が望まれ得る疾患及び状態には、癌(固形及び血液腫瘍)、アテローム性動脈硬化及び再狭窄等の心血管疾患、関節リウマチ及びクローン病等の慢性炎症性疾患、網膜症、糖尿病性網膜症、緑内障、及び黄斑変性(加齢性黄斑変性を含む)等の眼疾患、子宮内膜症、乾癬、及び脂肪症が含まれる。同様に、非限定的な例として、本発明の実施形態による血管新生の促進が望まれ得る状況には、虚血性創傷の治療等の創傷修復、一部の婦人科疾患及び不妊症の治療、冠動脈疾患の治療、脳卒中の予防、組織修復又は組織再生、及び組織工学が含まれる。組織工学の場合、大きな組織量の生成には、3次元スキャフォールド構造体の迅速な血管形成が必要となる。本明細書で例証される、3次元環境での血管新生におけるmiR_27aの役割は、組織工学スキャフォールドでの血管新生の促進におけるmiR_27a等のmiRNAの阻害を応用することの可能性を示唆している。
【0067】
本発明の実施形態によれば、血管新生の阻害又は促進を達成するために投与されるmiRNA及びその拮抗物質は、任意の適切な形態で投与し得る。典型的には、これらは医薬組成物として投与され、該組成物は、1つ以上の薬剤的に許容可能な担体、賦形剤、又は希釈剤を含み得る。こうした組成物は、非経口、経口、経鼻、局所的経路等、好都合な又は適切ないずれかの経路において投与し得る。したがって、組成物は、選択した投与経路に適した様々な形態で、例えば、経口摂取用のカプセル、タブレット、カプレット、エリキシル、吸入(経鼻吸入もしくは経口吸入等)による投与に適したエアロゾル形態、局所投与に適した軟膏、クリーム、又はローション、或いは、皮下、筋肉、又は静脈注射等の非経口投与に適した注射剤型として処方し得る。好適な投与経路は、治療すべき状態や望まれる結果を含む多数の要素に応じて決まる。与えられた状況下で最も有利な経路は当業者により決定され得る。
【0068】
特定の個体における組成物の具体的な服用レベルは、例えば、利用する特定の作用物質の活性、治療対象の個体の年齢、体重、全般的な健康状態、及び食生活、投与の時間、排泄率、並びに他の処置又は治療との組み合わせを含め、多数の要素に左右されることは理解されよう。治療する医師が選択する投与レベル及び投与パターンにおいて、単一又は複数の投与を実施することができる。
【0069】
薬剤的に許容可能な担体又は希釈剤の例としては、脱塩水又は蒸留水と、食塩水と、ピーナッツ油、ベニバナ油、オリーブ油、綿実油、トウモロコシ油、ゴマ油、ラッカセイ油、又はココナツ油等の植物油と、メチルポリシロキサン、フェニルポリシロキサン、及びメチルフェニルポリソルポキサン等のポリシロキサンを含むシリコーン油と、揮発性シリコーンと、流動パラフィン、軟パラフィン、又はスクアラン等の鉱油と、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、又はヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース誘導体と、低級アルカノール、例えば、エタノール又はイソプロパノールと、低級アラルカノールと、低級ポリアルキレングリコール又は低級アルキレングリコール、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、又はグリセリンと、パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、又はオレイン酸エチル等の脂肪酸エステルと、ポリビニルピリドンと、寒天と、カラギナンと、トラガカントガム又はアカシアガムと、ワセリンとが挙げられる。一般に、担体又は担体群は、組成物の10重量%乃至99.9重量%を形成し得る。
【0070】
本発明の組成物は、非経口投与に適した形態、或いは経口摂取に適した剤型(例えば、カプセル、タブレット、カプレット、エリキシル等)の形態にし得る。
【0071】
経口使用に適した担体、希釈剤、賦形剤、及びアジュバントの例には、ピーナッツ油、流動パラフィン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、アカシアガム、トラガカントガム、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、ゼラチン、及びレシチンが含まれる。加えて、こうした経口製剤は、適切な香味剤及び着色剤を含み得る。カプセルの形態で使用される場合、該カプセルは、崩壊を遅延させるモノステアリン酸グリセリル又はジステアリン酸グリセリル等の化合物によりコーティングし得る。アジュバントは、一般に、軟化剤(emollients)、乳化剤、増粘剤、保存料、殺菌剤、及び緩衝剤を含む。注射用溶液又は注射用懸濁液としての投与において、無毒性の非経口的に許容可能な希釈剤又は担体には、リンガ溶液、等張食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、エタノール、及び1,2プロピレングリコールが含まれる。
【0072】
経口投与用の固形形態は、ヒト及び動物の薬務において許容される結合剤、甘味料、崩壊剤、希釈剤、香味料、コーティング剤、保存剤、潤滑剤、及び/又は時間遅延剤を含み得る。適切な結合剤は、アカシアガム、ゼラチン、コーンスターチ、トラガカントガム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、又はポリエチレングリコールを含む。適切な甘味剤は、スクロース、ラクトース、グルコース、アスパルテーム、又はサッカリンを含む。適切な崩壊剤は、コーンスターチ、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、グアーガム、キサンタンガム、ベントナイト、アルギン酸、又は寒天を含む。適切な希釈剤は、ラクトース、ソルビトール、マンニトール、デキストロース、カオリン、セルロース、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、又はリン酸二カルシウムを含む。適切な香味剤は、ペパーミント油、ウィンタグリーン油、サクランボ、オレンジ、又はラズベリ香味料を含む。適切なコーティング剤は、アクリル酸及び/又はメタクリル酸及び/又はそれらのエステルの重合体又は共重合体、ワックス、脂肪アルコール、ゼイン、シェラック、又はグルテンを含む。適切な保存剤は、安息香酸ナトリウム、ビタミンE、アルファトコフェロール、アスコルビン酸、メチルパラベン、プロピルパラベン、又は亜硫酸水素ナトリウムを含む。適切な潤滑剤は、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、オレイン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、又はタルクを含む。適した時間遅延剤は、モノステアリン酸グリセリル又はジステアリン酸グリセリルを含む。
【0073】
経口投与用の液体形態は、上記の薬剤に加えて、液体担体を含み得る。適切な液体担体は、水、オリーブ油、ピーナッツ油、ゴマ油、ヒマワリ油、ベニバナ油、ラッカセイ油、ココナッツ油等の油、流動パラフィン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、グリセロール、脂肪アルコール、トリグリセリド、又はその混合物を含む。
【0074】
経口投与のための懸濁液は、分散剤及び/又は懸濁化剤を更に含み得る。適切な懸濁化剤は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、アルギン酸ナトリウム、又はアセチルアルコールを含む。適切な分散剤は、レシチン、ステアリン酸等の脂肪酸のポリオキシエチレンエステル、ポリオキシエチレンソルビトールモノ又はジオレート、ステアレート、又はラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノ又はジオレート、ステアレート、又はラウレート等を含む。
【0075】
経口投与用の乳液は、1つ以上の乳化剤を更に含み得る。適切な乳化剤は、上述したような分散剤、或いはグアーガム、アカシアガム、又はトラガカントガム等の天然ガムを含む。
【0076】
非経口投与可能な組成物を調製するための方法は、当業者には明らかであり、例えば、出典を明記することにより本願明細書の一部としたRemington's Pharmaceutical Science, 15th ed., Mack Publishing Company, Easton, Pa.において更に詳細に説明されている。
【0077】
該組成物には、ソルビタンエステル又はそのポリオキシエチレン誘導体等の陰イオン性、陽イオン性、又は非イオン性界面活性剤等の任意の適切な界面活性剤を組み入れ得る。天然ガム、セルロース誘導体等の懸濁化剤、又はシリカ性シリカ等の無機材料、及びラノリン等の他の成分が含まれてもよい。
【0078】
miRNA及びその拮抗物質は、リポソームとして本発明の実施形態により投与してもよい。リポソームは、一般に、リン脂質又は他の脂質物質に由来し、水性媒体に分散している単層又は多層水和液晶により形成される。リポソームを形成する能力を有し無毒性であって生理的に許容され且つ代謝可能な任意の脂質を使用することができる。リポソーム形態の組成物は、安定化剤、保存料、賦形剤等を含み得る。好適な脂質は、天然及び合成のリン脂質及びホスファチジルコリン(レシチン)である。リポソームを形成するための方法は、当分野において公知であり、これに関しては、出典を明記することによりその内容を本願明細書の一部としたPrescott, Ed., Methods in Cell Biology, Volume XIV, Academic Press, New York, N.Y. (1976), p. 33 et seq.が特に参照される。作用物質は、微小粒子の形態でも投与し得る。例えば、ポリ乳酸(PLA)、ポリラクチドコグリコリド(PLGA)、及びイプシロンカプロラクトン(ε−カプロラクトン)から形成された生分解性微粒子を使用し得る。
【0079】
本発明では、徐放性製剤及びマイクロカプセル送達システム等、ポリヌクレオチド及びオリゴヌクレオチド作用物質を身体における急速な除去から保護するカプセル剤が考慮される。エチレンビニル酢酸塩、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、及びポリ乳酸等の生物分解性、生物適合性ポリマを使用することができる。こうした製剤を調製する方法は、当業者には明らかである。
【0080】
本発明の別の実施形態において、miRNA及びアンチセンスヌクレオチド等のアンチセンスコンストラクトは、ベクタにおいて対象者に投与し得る。ベクタは、プラスミドベクタ、ウイルスベクタ、又は外来配列の挿入と真核細胞への導入とに適した他の任意の適切な媒介物にしてよい。好ましくは、ベクタは、本発明のアンチセンス分子のDNA配列のRNAへの転写を誘導することができる発現ベクタである。好適なウイルス発現ベクタは、例えば、エプスタインバーウイルス、ウシパピローマウイルス、アデノウイルス、及びアデノ随伴ウイルスに基づくベクタを含む。特定の実施形態において、ベクタは、エピソーム性である。適切なエピソームベクタの使用により、必要な標的細胞において高コピー数でアンチセンス分子を染色体外に維持する手段が提供され、これにより、染色体への組み込みによる潜在的な影響が排除される。
【0081】
疾患及び状態の治療又は予防において、本発明では、複数のmiRNA及び/又は複数のmiRNA拮抗物質の投与が考慮される。1つ以上のmiRNA、1つ以上のmiRNA拮抗物質、或いは任意でmiRNA及びmiRNA拮抗物質の両方を投与することが適切であるか又は望ましいかは、当業者が個別に決定することができる。本発明では、更に、本明細書に記載の作用物質を、所望の治療的又は予防的効果を促進し得る他の適切な作用物質と同時投与する、併用療法も考慮される。例えば、癌の場合、本発明の実施形態による作用物質を使用しつつ、患者の状態を管理し、局所的な腫瘍制御の改善及び/又は転移のリスク低減を行うために、化学療法及び/又は放射線療法等、継続中の抗癌治療の維持を図ってもよい。「同時投与」とは、同じ製剤又は2種類の製剤の同一又は異なる経路を介した同時投与、或いは、同一又は異なる経路による連続投与を意味する。「連続」投与とは、2種類の製剤又は治療の投与間の、例えば、秒、分、時間、日、週、又は月単位の時間差を意味する。当該製剤又は治療は、任意の順序で投与してよい。
【0082】
本発明は、更に、異常血管新生に関連する疾患及び状態の診断、又は素因判定のための本明細書に開示したmiRNAの使用に関する。したがって、本発明の一態様は、異常血管新生に関連する疾患又は状態を診断する、或いはこうした疾患又は状態に対する対象者の素因の有無を判定するための方法を提供し、該方法は、
(a)対象者から生体試料を取得すること、及び
(b)該試料中の少なくとも1つのmiRNA、或いはその前駆体、誘導体、又は変異体の発現レベルを決定することを含み、該miRNAは、
(i)配列UCACAGU(SEQ ID NO:37)を含むシード領域を含み、或いは、
(ii)miR_27a、miR_27b、miR_24、miR_23a、miR_23b、miR_20a、miR_21、miR_29a、miR_29b、miR_29c、miR_106a、miR_126、miR_193a、miR_195、miR_197、miR_221、miR_347、及びmiR_126*から成る群から選択され、
当該少なくとも1つのmiRNAの発現レベルは、対象者における異常血管新生に関連する疾患又は状態、或いはそれに対する素因を示す。
【0083】
本明細書に記載のmiRNA及びその拮抗物質は、内在性核酸及びポリペプチド標的を含め、当該miRNAと相互作用する分子及び化合物のスクリーニング及び同定のためにも使用し得る。こうした標的は、miRNAにより制御される場合、miRNAを制御する場合、及び/又は血管新生に関与する他の細胞分子又はプロセスに影響を及ぼす場合がある。したがって、こうした分子及び化合物は、新規の治療標的をもたらし得る。「制御」とは、活性又は発現の制御又は調節(正又は負の何れか)を意味する。したがって、例えば、分子又は化合物は、別の分子(群)又は化合物(群)の活性又は発現を誘導、促進、活性化、増加、阻害、又は防止し得る。適切な分子及び化合物は、直接的(例えば、結合)又は間接的な相互作用により、その影響を及ぼし得る。本明細書に開示したmiRNAと結合又は他の形で相互作用する分子及び化合物は、当業者に公知の様々な適切な方法により特定し得る。
【0084】
本発明は、更に、本発明の方法により使用するためのキットを提供する。例えば、本発明のキットは、本明細書に開示したmiRNA、及び/又は、その拮抗物質であるオリゴヌクレオチド(前記miRNAに特異的なアンチセンス分子等)を含み得る。こうしたキットは、例えば、生体試料内のmiRNAの存在を検出するため、及び/又は、こうしたmiRNAの分子標的又は結合相手を検出するために使用し得る。こうしたキットを使用した検出は、様々な目的において有用であり、その目的は、疾患の診断、疫学調査、及び本発明のスクリーニング方法の実施を含むがこれらに限定されない。加えて、キットは、本発明のmiRNAと結合相手との結合を検出する手段を含み得る。例えば、オリゴヌクレオチドは、蛍光性、放射性、又は発光性化合物等の検出可能な物質と共役させ、当業者に公知のアッセイにおける検出を可能にし得る。本発明によるキットは、更に、緩衝剤及び/又は希釈剤等、本発明の方法を実施するために必要な他の構成要素を含み得る。キットは、通常、様々な構成要素を収容するための容器と、本発明の方法において該キット構成要素を使用するための説明書とを含む。
【0085】
本明細書における先行文献(又はそれに由来する情報)又は公知である任意の事柄への言及は、その先行文献(又はそれに由来する情報)又は公知である事柄が、本明細書の関係する技術分野において一般常識の一部を成すということを確認、容認、又は何らかの形で示唆するものではなく、そのように受け取るべきではない。
【0086】
次に、本発明を、以下の具体的な実施例を示しながら説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を何らかの形で限定するものと解釈するべきではない。
【実施例】
【0087】
以下の実施例は、本発明を例示するものであり、本明細書全体の説明の開示の一般的性質を何らかの形で限定すると解釈するべきではない。
【0088】
実施例1 血管新生中のmiRNAの制御
マイクロアレイ解析を実施し、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)における血管新生条件下のmiRNAの発現のパターンを決定した。HUVECは、Gamble et al., 1993 (J Cell Biol 121:931-943)に記載のコラゲナーゼ処理により単離した。細胞は、ゼラチン(Sigma)で被覆した25cm2フラスコにおいてHUVEC培地(Earlesの塩、20mM HEPES、20%ウシ胎仔血清(FCS、Cytosystems)、重炭酸ナトリウム、2mMグルタミン、非必須アミノ酸、ピルビン酸ナトリウム、ファンギゾン、ペニシリン、及びストレプトマイシンを有するM199)で培養した。細胞は、37℃、5%CO2で培養した。HUVECは、2乃至4日以内に接触単細胞層(confluent monolayer)を形成し、その後、トリプシンEDTA処理により採取し、ゼラチン被覆した75cm2フラスコへ移した。内皮増殖サプリメント(50μg/ml、ECGS、Collaborative Research)及びヘパリン(50μg/ml、Sigma)を追加した。細胞を3乃至4日毎に継代(1:2分割)し、2代目と4代目との間で使用した。
【0089】
血管新生を誘導するため、HUVECを採取し、(i)溶解、(ii)PMAとAC11によって刺激して溶解、又は(iii)PMAとAC11による刺激後に3Dコラーゲンゲル上で再培養、の何れかを行った。
【0090】
miRNAマイクロアレイを、基本的にThomson et al., 2004 (Methods Enzymol 427:107-122)の記載通りに実施した。簡潔に言うと、RNAは、トリゾール(Invitrogen)を使用して抽出し、20U T4 RNAリガーゼ(NEB)を使用して、1×Igloi緩衝液(0.1mM ATP、50mM HEPES pH7.8、3.5mM DTT、20mM MgCl2、10mg/ml BSA、10% DMSO)中で500ngのCy3又はCy5結合ジヌクレオチド(CU)により、5μgを標識した。標識したRNAを、ハイブリダイゼーション緩衝液(400nM Na2HPO4、0.8% BSA、5.0% SDS、13%ホルムアミド)に再懸濁させ、377のmiRNAに対するプローブをスポットしたマイクロアレイにハイブリダイズさせた(Ambion mirVanaTM miRNA Probe Set 1564V1)。2つの異なるHUVEC細胞株実験からのRNAを使用して競合的ハイブリダイゼーションを実施し、各時点で集めたこれらの生物学的複製からのデータを合わせた。アレイは、GenePix 4000BスキャナをGenePixPro 4.0(Molecular Devices)により駆動してスキャンした。分析は、自由に利用可能な統計プログラム及びグラフィックス環境R(http://cran.r−project.org)を使用して実施した。発現に変化があったmiRNAを、発現変化の大きさ及び一貫性の組み合わせに基づいて遺伝子をランク付けする経験的ベイズ手法を用いて同定した(Smyth, 2004, Stat Appl Genet Mol Biol 3:article 3)。
【0091】
図1Aは、制御の変化を示したmiRNAの、刺激後30分と24時間との間の時点におけるボルケーノプロットを示す。発現変化のベイジアン対数オッズを、log2(時間ゼロにおける発現で割った、各時点における発現)に対してプロットしている。下の表2に示すように、18のmiRNAから成る組が有意に下方制御されていることが示された。
【0092】
【表2】

【0093】
これらのmiRNAのうちの1つであるhsa_miR_27aの発現レベルの定量化を図1Bに示す。HUVECは、採取後に、溶解(t−0未刺激)又はPMAとAC11による刺激及び溶解(t−0刺激)の何れかを行い、或いはPMAとAC11による刺激後に3Dコラーゲンゲル上で15又は30分間に渡り再培養した。miR_27a発現の下方制御は、分離したが刺激しなかった細胞において見られたレベル、或いは分離及び刺激したがコラーゲンゲル上で培養しなかった細胞におけるレベルと比較して、明らかであった。驚くべきことに、図2に示したように、内在性hsa_miR_27aの発現レベルの下方制御は、分化を誘導する血管新生の3次元細胞培養環境においてのみ観察され、同じ条件下の標準的な2次元細胞培養系では観察されない。
【0094】
実施例2 hsa_miR_27aの過剰発現が血管形成を阻害する
hsa_miR_27a発現の血管形成に対する影響を、血管新生のin vitro及びin vivoモデルの両方で調査した。
【0095】
一般的方法
Pre−miRTM miRNA前駆体分子によるトランスフェクション
HUVECを25cm2フラスコ当たり6×105細胞で播種し、24時間後、HiPerFectトランスフェクション試薬(Qiagen)を使用して、最終濃度15nMの合成microRNA(Pre−miRTM miRNA前駆体分子、Ambion)でトランスフェクトした。全RNA及びタンパク質を、トランスフェクションの24時間又は48時間後に収集した。HEK293細胞は、5×104細胞で24ウェルプレートに播種し、24時間後、最終濃度15nMの合成microRNA分子に加えて50ngのプラスミドによりトランスフェクトした。細胞溶解物を、トランスフェクションの24時間後に作成した。
【0096】
RNA抽出及びリアルタイムPCR
全RNAを、製造業者の指示に従ってTrizol抽出(Invitrogen)により、HUVECから単離した。単離したRNAは、その後、NanoDrop分光光度計を使用して260nmで定量化した。mRNAの分析では、残留DNAを単離RNAから除去するために、DNase処理(Sigma)を製造業者の指示に従って実施した。相補DNA(cDNA)を1μgの全RNAから、高容量cDNA逆転写キット(Applied Biosystems)を使用してランダムにプライムした。次に、Rotorgene 6000シリーズPCRマシン(Corbett Research)上でGreen JumpStartTM Taq ReadyMixTM(Sigma)を使用して、1:4希釈のcDNAを用いてリアルタイムPCRを3つの重複実験にて実施した。データの分析は、PCRマシンに付属のソフトウェアを使用して行い、データはβアクチンに対して正規化した。miRNA発現の分析は、TaqMan(登録商標)MicroRNAアッセイを製造業者の指示(Applied Biosystems)に従って使用し、TaqMan(登録商標)MicroRNA逆転写キット(Applied Biosystems)を用いてcDNA合成を実施した。MicroRNAのデータは、核内低分子RNA U6(snoU6)に対する相対値として表現している。
【0097】
マトリゲル(登録商標)管形成アッセイ
製造業者の指示に従って、マトリゲル(登録商標)(Becton Dickinson)を解凍し、マトリゲル(登録商標)100μlを、平底96ウェルプレートに追加し、37℃で1時間重合させた。次に、HUVECを、ウェル当たり3.6×104細胞で、HUVEC培地において培養した。写真は、一定の間隔で24時間に渡って撮影した。
【0098】
透過性アッセイ
透過性アッセイを以前の記述通りに実施した(Li et al., 2004, Blood 104:1716)。簡潔に言うと、トランスフェクション24時間後のHUVECを、各トランスウェル(Corning)当たり1×105細胞で、24時間、HUVEC培地において培養し、その後、2% FCS HUVEC培地において、更に24時間培養した。FITC共役デキストラン(2μg)を全てのウェルの上部チェンバーに追加した。トランスウェルの下部チェンバー内のFITCデキストランの量は、LS 50B発光分光計(Perkin Elmer)を使用して、励起波長485nm及び発光波長530nmで決定した。透過性は、上部チェンバーから下部チェンバーへ移動したFITCデキストランの量として規定される。miR−27aを過剰発現するHUVECを、トランスフェクション手順の24時間後にトランスウェル上で培養し、pre−miRの対照によりトランスフェクトした細胞と同様に処理した。
【0099】
イムノブロット
HUVECを氷温の溶解バッファ(1% NP−40、5M NaCl、200mM EGTA、500mM NaF、100mM Na4P27、及びプロテアーゼ阻害剤カクテルを有する1M Tris.HCl、pH7.5)中で溶解した。タンパク質濃度は、ブラッドフォード試薬(BioRad)を使用して測定した。等量のタンパク質を、アクリルアミドゲルにロードし、SDS−PAGEにより分離し、PVDF膜に転写し、PBS中の5%脱脂粉乳によりブロックし、適切な一次及び二次抗体によりプローブした。洗浄後、反応性のバンドを、化学発光(Amersham 8 Pharmacia Biotech)により検出した。膜を洗浄し、モノクローナル抗βアクチン抗体(Sigma)で再びプローブしてこれをローディングコントロールとした。
【0100】
コラーゲンアッセイ
毛細管形成アッセイを以前の記述通りに実施した(Gamble et al., 1993, J Cell Biol 121:931)。簡潔に言うと、6.4×104細胞/160μl HUVEC培地を、100μlゲル化ラットI型コラーゲン(Becton Dickinson)上で、96ウェル平底マイクロタイタープレートにおいて培養した。毛細管形成は、20ng/mlホルボールミリステートアセテート(PMA)とα2β1インテグリンに対する抗体(RMAC11)の追加により刺激した(これが複合多細胞管の形成を促進する)。
【0101】
結果
図3に示したように、hsa_miR_27aの過剰発現は、in vitro管形成を途絶(disrupt)させる。HUVECを、pre−miR陰性対照(図3A)又は過剰発現を可能にするhsa_miR_27aの前駆体(図3B)によりトランスフェクトした。対照及びmiR_27aトランスフェクト細胞は、両方とも、最初の6時間以内に通常通り再編成(realign)することが観察された。しかしながら、miR_27aを過剰発現する細胞は、伸長及び成熟することができなかった(図3B)。12時間の時点で、miR_27a過剰発現細胞は、多くの場合連結できていない細い突起を示し、この期間までに形成された管は崩壊しつつあり、完全に形成された毛細管の数は著しく減少していた(図3C)。こうした結果は、安定した毛細管の形成及び成熟が生じるにはmiR_27aの下方制御が必要であることを示す。
【0102】
hsa_miR_27aの過剰発現が管形成に対して影響を有することのさらなる証拠を、図4において確認することが可能である。ここでは、hsa_miR_27a前駆体によるトランスフェクション後に内皮細胞の透過性が増加することが示されており、このことは細胞間結合の構成(configuration)の変化を示唆している。
【0103】
実施例3 ヒトの疾患におけるhsa_miR_27aの発現
hsa_miR_27aの発現レベルを、ヒトの肝細胞癌患者からの内皮細胞において決定した。肝細胞癌患者からのパラフィン固定肝臓の記録試料を、ロイヤルプリンスアルフレッド病院の肝臓科より入手した。肝硬変患者3人からのパラフィン包埋肝切片も入手した。再生結節を囲む線維性領域は、新血管が形成される場(setting)であることが知られており、正常な肝臓では、この領域にこうした新血管は存在しない。血管は、PECAM発現を用いて検出した。細静脈及び新生血管からの内皮細胞の切除は、Arcturus PixCell IIe機器を用いて行った。抽出プロトコルは、製造業者が推奨するものとした。レーザ直径は7.5μM、レーザパルスは0.2秒に設定した。内皮細胞は、レーザキャプチャ顕微解剖(LCM)により細静脈及び新血管からの純粋な細胞集団を正確且つ迅速に抽出することを可能とするCapSure Macro LCMキャップに移した。約5乃至10のLCMキャップを、2つの内皮細胞集団について収集した。画像は、UPlanFl 4×/0.13、UPlanFl 10×/0.30、LCPlanFl 20×/0.40対物レンズを、Arcturus PixCell IIe顕微鏡(Molecular Devices)において使用して室温で取得し、日立1/2インチシングルチップCCDカラーカメラ(日立)に取得した。画像は、LCM ver.2.0ソフトウェアを使用して明るさ及びコントラストを調整した。
【0104】
全RNAの単離は、TRIzol(Invitrogen)を使用して、製造業者の指示に従って行った。miRNA分析は、TaqMan低密度ヒト用アレイ(Applied Biosystems)を使用して実施した。各miRNAの未処理(raw)サイクル閾値(Ct)を、発現分析のために取得しマイニングした。miR_27aのレベルはQ−PCRにより測定した。
【0105】
1人の肝細胞癌患者の試料からの血管新生内皮細胞と細静脈内皮細胞とを使用して取得したデータを図5Aに示す。miR_27aの発現は、細静脈細胞と比較して、血管新生細胞ではほぼ2分の1に減少している。同様の結果は、第2の肝細胞癌患者の試料(データは図示せず)についても得られた。3人全ての肝硬変患者からの肝切片において、細静脈と比較して、新血管でのmiR_27aの発現が非常に著しく減少していた(図5B)。結果は、miR−520d*(2つの内皮細胞集団間で制御されないことが確認されたmiRNA)に対して正規化した。
【0106】
実施例4 miR_27aの過剰発現はin vivo毛細管形成を減少させる
miR_27aがin vivoでの血管新生の制御にとって決定的に重要であることを確認するために、マウスマトリゲルプラグアッセイを使用した。
【0107】
該アッセイは、以前の記述通りに実施した(Zhang et al., 2006, J Cell Sci 119:3219)。FGF−2(0.5μg)(Sigma、ミシガン州)及びFuGENE6(2.5ul)を含み、さらに、90ugの対照模倣物を含むか又はmiR−27a模倣物を含むか又は模倣物を含まない、500ulのマトリゲルを、6乃至8週齢のメスC57BL/6マウスに皮下注射した(右脇腹)。14日後、プラグを切除し、10%パラホルムアルデヒド中で固定した。5μm切片をヘマトキシリン・エオシンにより染色した。プラグ内の赤血球含有血管を、倍率100×の光学顕微鏡下で定量化し、3つのランダムな領域の平均として表した。全ての動物実験は、ニューサウスウェールズ大学動物飼育倫理委員会の承認を得た。画像は、パネルAではUplanFl 20×/0.50対物レンズ、パネルBではUPlanFl 40×/0.77対物レンズをBX51顕微鏡において使用し、DP70カメラによりDPCコントローラ3.1.1.267ソフトウェア(全てOlympus)を使用して室温で取得した。データ取得後、ImageJ(NIH)を使用して、光度及びコントラスト調整を行った。
【0108】
ヘマトキシリン及びエオシンで染色したマトリゲル/皮膚接触面の切片は、赤血球含有血管又は発芽(sprouting)成熟血管を示した。誘導された間質生成、細胞浸潤、及び毛細管腔を有する(capillary luminal)血管は、対照では視認されたが、miR_27aの移植では同程度には視認されなかった(図6A及び6B)。更に、この血管数の有意な減少は、CD31(PECAM)について切片を染色した場合にも検出された(図6C及びD)。したがって、miR_27aの過剰発現は、マトリゲルプラグへの血管の浸潤を阻害しており、miR_27aが抗血管新生性であることを示している。
【0109】
実施例5 miR_27aのVEカドヘリン発現に対する作用
TargetScan、PicTar、及びmiRandaを含む、webに基づく標的予測アルゴリズムを使用すると、miR_27aは、固形組織内の細胞間相互作用及び接着に関与する、内皮に特異的なカルシウム依存性細胞接着分子であるVEカドヘリンを標的にすると予測された。VEカドヘリンの3’UTRは、miR−27について予測される単一の8merの部位を含み、そこでは、成熟miRNAの位置2乃至8との完全一致の後に「A」が続く(シード領域+位置8)。
【0110】
miR_27aがVEカドヘリンの発現を制御するか否かを決定するために、VEカドヘリンのタンパク質レベルをmiR_27a過剰発現細胞において測定した。こうした実験のため、HUVECを、25cm2フラスコ当たり4×105細胞で播種し、24時間後、最終濃度15nMのmicroRNA模倣物(Pre−miRTM miRNA前駆体分子、Ambion)又はLNA(Exiqon)で、HiPerFectトランスフェクション試薬(Qiagen)を使用してトランスフェクトした。試験した5つの独立したHUVEC株では、トランスフェクション48時間後に、VEカドヘリンタンパク質の発現は著しく減少した(25%±4%)。miRNA模倣物の用量の増加は、観察されたVEカドヘリンに対する作用を有意に変化させなかった(データは図示せず)。VEカドヘリンmRNAのレベルは、Q−PCRを使用して測定した。試験した5つの独立したHUVEC株において、miR_27a過剰発現細胞では、VEカドヘリンのmRNAレベルの減少が見られた(31%±7%)。反対に、ロックド核酸(LNA)に基づく手法を使用したmiR_27aのノックダウンは、タンパク質レベルにおけるVEカドヘリンの上方制御を示した(22%±4%、n=2)。
【0111】
VEカドヘリンの野生型3’UTRをコードするように生成された、或いはmiR_27a部位を変異させて生成された、ルシフェラーゼレポータコンストラクトを用いた別の実験は、miR_27aがVEカドヘリンの3’UTRと直接結合することにより、VEカドヘリン発現を制御する能力を有することを示した。野生型3’UTRを含むコンストラクトとmiR_27a模倣物とによりトランスフェクトした細胞では、野生型3’UTRと対照模倣物によりトランスフェクトした細胞と比較して、ルシフェラーゼ活性の著しい抑制が生じた(33%±3%)。miRNA部位の変異により、ルシフェラーゼ活性の抑制は消失した(データは図示せず)。更に、miR−27aの過剰発現又はノックダウンは、細胞内でのVEカドヘリンの著しい再分布を発生させることが示された(データは図示せず)。
【図1A】

【図1B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管新生を阻害するための方法であって、対象者或いは対象者に由来する細胞又は組織に対して、1つ以上のmiRNA或いはその前駆体又は変異体を投与するステップを備え、前記miRNAの少なくとも1つは、配列UCACAGU(SEQ ID NO:37)を含むシード領域を含む、方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つのmiRNAは、miR_27aである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記miR_27aは、SEQ ID NO:1に記載のヌクレオチド配列を含むhsa_miR_27aである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記対象者は、過剰又は無制御な血管新生に関連する状態を生じている者、生じやすい性質の者、或いは生じる危険性を他の形で有する者である、請求項1乃至3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
前記状態は、癌、心血管疾患、慢性炎症性疾患、眼疾患、子宮内膜症、又は脂肪症から選択される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記心血管疾患は、アテローム性動脈硬化又は再狭窄である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記慢性炎症性疾患は、関節リウマチ、クローン病、又は乾癬である、請求項5記載の方法。
【請求項8】
前記眼疾患は、網膜症、糖尿病性網膜症、緑内障、又は黄斑変性である、請求項5記載の方法。
【請求項9】
前記黄斑変性は、加齢性黄斑変性である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
配列UCACAGU(SEQ ID NO:37)を含むシード領域を含むmiRNA、或いはその前駆体又は変異体の、抗血管新生剤としての使用。
【請求項11】
配列UCACAGU(SEQ ID NO:37)を含むシード領域を含むmiRNA、或いはその前駆体又は変異体の、血管新生を阻害する薬剤の製造のための使用。
【請求項12】
対象者の細胞又は組織において血管新生を促進又は誘導するための方法であって、該対象者或いは該対象者に由来する細胞又は組織に対して、miRNAの1つ以上の拮抗物質の有効量を投与するステップを備え、前記miRNAは、配列UCACAGU(SEQ ID NO:37)を含むシード領域を含む、方法。
【請求項13】
配列UCACAGUを含む前記シード領域を含む前記miRNAは、miR_27aである、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記miR_27aは、hsa_miR_27aであり、SEQ ID NO:1に記載のヌクレオチド配列を含む、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記拮抗物質は、前記miRNAに特異的なアンチセンスオリゴヌクレオチドである、請求項12乃至14の何れかに記載の方法。
【請求項16】
前記アンチセンスオリゴヌクレオチドは、SEQ ID NO:19に記載したヌクレオチド配列を含む、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記オリゴヌクレオチド配列は、非天然ヌクレオチド類似体、ヌクレオチド間の非リン酸結合、及び/又は共役部分等の1つ以上の修飾を含む、請求項15又は16記載の方法。
【請求項18】
血管新生の前記促進又は誘導は、虚血性創傷の治療等、創傷修復を目的とする、請求項12乃至17の何れかに記載の方法。
【請求項19】
血管新生の前記促進又は誘導は、組織修復、組織再生、又は組織工学を目的とする、請求項12乃至17の何れかに記載の方法。
【請求項20】
前記対象者は、低下した又は抑制された血管新生に関連する状態を生じている者、生じやすい性質の者、或いは生じる危険性を他の形で有する者である、請求項12乃至19記載の方法。
【請求項21】
前記状態は、冠動脈疾患、脳卒中、婦人科疾患、不妊症、又は虚血性創傷から選択される、請求項20記載の方法。
【請求項22】
配列UCACAGU(SEQ ID NO:37)を含むシード領域を含むmiRNAの拮抗物質の、血管新生促進剤としての使用。
【請求項23】
配列UCACAGU(SEQ ID NO:37)を含むシード領域を含むmiRNAの拮抗物質の、血管新生を促進又は誘導する薬剤の製造のための使用。
【請求項24】
対象者における異常血管新生に関連する疾患又は状態を診断する、或いは、前記疾患又は状態に対する対象者の素因の有無を判定するための方法であって、
(a)前記対象者から生体試料を取得するステップと、
(b)前記試料中の少なくとも1つのmiRNA或いはその前駆体又は変異体の発現レベルを決定するステップと、を備え、前記miRNAは、配列UCACAGU(SEQ ID NO:37)を含むシード領域を含み、前記少なくとも1つのmiRNAの発現レベルは、前記対象者における異常血管新生に関連する疾患又は状態或いは該疾患又は状態に対する素因の有無を示す、方法。
【請求項25】
配列UCACAGU(SEQ ID NO:37)を含むシード領域を含むmiRNAの、前記miRNAにより結合又は制御される分子を検出するための使用であって、前記分子の活性又は発現は血管新生に関連する、使用。
【請求項26】
請求項10による1つ以上の抗血管新生剤を含み、任意で、薬剤的に許容可能な担体、希釈剤、及び/又は賦形剤をさらに含む、医薬組成物。
【請求項27】
請求項22による1つ以上の血管新生促進剤を含み、任意で、薬剤的に許容可能な担体、希釈剤、及び/又は賦形剤をさらに含む、医薬組成物。

【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−528797(P2012−528797A)
【公表日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513417(P2012−513417)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【国際出願番号】PCT/AU2010/000698
【国際公開番号】WO2010/139026
【国際公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(511295438)センテナリ インスティテュート オブ キャンサー メディシン アンド セル バイオロジー (1)
【氏名又は名称原語表記】CENTENARY INSTITUTE OF CANCER MEDICINE AND CELL BIOLOGY
【出願人】(511295449)ザ・ユニバーシティ・オブ・シドニー (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF SYDNEY
【出願人】(511295450)メドベット サイエンス ピーティーワイ リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】MEDVET SCIENCE PTY LTD
【出願人】(511295461)ウェンカート ファウンデーション (1)
【氏名又は名称原語表記】WENKART FOUNDATION
【Fターム(参考)】