治療的ケモカイン受容体アンタゴニスト
【課題】CXCR4アンタゴニストの多様な治療的用途の提供。
【解決手段】T細胞によるインターフェロンγ産生の減少、自己免疫疾患の治療、多発性硬化症の治療、癌の治療、血管新生の阻害。該治療では、治療的な用量のCXCR4アンタゴニストが薬学的に許容される製剤に含まれて投与される。CXCR4アンタゴニストと、薬学的に許容される賦形剤又は担体とを含む治療用組成物であり、該CXCR4アンタゴニストは、SDF−1の実質的に精製されたペプチド断片、修飾された断片、類似体、又は薬学的に許容される塩を含むペプチド化合物。
【解決手段】T細胞によるインターフェロンγ産生の減少、自己免疫疾患の治療、多発性硬化症の治療、癌の治療、血管新生の阻害。該治療では、治療的な用量のCXCR4アンタゴニストが薬学的に許容される製剤に含まれて投与される。CXCR4アンタゴニストと、薬学的に許容される賦形剤又は担体とを含む治療用組成物であり、該CXCR4アンタゴニストは、SDF−1の実質的に精製されたペプチド断片、修飾された断片、類似体、又は薬学的に許容される塩を含むペプチド化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
本発明は、癌および自己免疫疾患の治療に用いられるCXCケモカイン受容体4のペプチドアンタゴニストを含む、ケモカイン受容体アンタゴニストの治療的使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
サイトカインは、免疫応答を調節する単球およびリンパ球を含む多様な細胞によって分泌される可溶性蛋白質である。ケモカインは化学誘引性蛋白質のスーパーファミリーである。ケモカインは様々な生物反応を調節し、それらは多数の系列の白血球およびリンパ球の生体臓器組織への動員を促進する。ケモカインは蛋白質に存在する最初の2つのシステイン残基の相対的な位置により、2つのファミリーに分類されることがある。第一のファミリーでは、最初の2つのシステインが1つのアミノ酸残基を隔てて存在するCXCケモカインであり、もう一つのファミリーでは最初の2つのシステインが隣接するCCケモカインである。
【0003】
ケモカインの分子標的は細胞表面受容体である。そのような受容体の一つは、CXCケモカイン受容体4(CXCR4)であり、これはG1にカップリングした7箇所の膜貫通蛋白質であり、これまでLESTR(ローチャー、ガイサー、オレイリー、ツァーレン、バジオンリニ、モサー(Loetsher, M., Geiser, T. O'Reilly, T., Zwahlen, R., Baggionlini, M., and Moser, B.)(1994)J. Biol. Chem. 269, 232〜237)、HUMSTR(フェダースピール、ダンカン、デラニー、シャパート、クラーク・ルイス、ジリク(Federsppiel, B., Duncan, A. M. V., Delaney, A., Shappert, K., Clark-Lewis, I., and Jirik, F. R.)(1993)Genomics 16, 707〜712)、およびフュージン(フェン、ブローダー、ケネディ、バーガー(Feng, Y., Broeder, C.C., Kennedy, P. E., and Berger, E. A.)(1996)、「HIV-1流入共因子:7箇所の膜貫通G-蛋白質カップリング受容体の機能的cDNAクローニング(HIV-1 entry cofactor:Functional cDNA cloning of a seven-transmembrane G protein-coupled receptor)」、Science 272、872〜877)と呼ばれていた。CXC4は、造血起源の細胞上に広く発現されており、ヒト免疫不全ウイルス1(HIV-1)に関してCD4+の主な共受容体である(フェン、ブローダー、ケネディ、バーガー(Feng, Y., Broeder, C.C., Kennedy, P. E., and Berger, E. A.)(1996)、「HIV-1流入共因子:7箇所の膜貫通G-蛋白質カップリング受容体の機能的cDNAクローニング(HIV-1 entry cofactor:Functional cDNA cloning of a seven-transmembrane G protein-coupled receptor)」、Science 272、872〜877)。
【0004】
現在、CXCR4の唯一の既知の天然のリガンドは、間質細胞由来因子1(SDF-1)である。間質細胞由来因子-1α(SDF-1α)(配列番号:6)および間質細胞由来因子-1β(SDF-1β)(配列番号:7)は近縁のメンバーである(本明細書において共にSDF-1と呼ばれる)。SDF-1αおよびSDF-1βの本来のアミノ酸配列は、これらの蛋白質をコードするゲノム配列と同様に既知である(1996年10月8日公布の米国特許第5,563,048号、および1998年5月26日公布の米国特許第5,756,084号)。
【0005】
SDF-1は骨髄前駆細胞の通行、輸送、およびホーミングに基本的な役割を有すると報告されているという点において他のケモカインとは機能的に異なる(アイウチ、ウェブ、ブルール、スプリンガー、およびギレツ・ラモス(Aiuti, A., Webb, I. J., Bleul, C., Springer, T., and Guierrez-Ramos, J. C.)(1996)、J. Exp. Med. 185、111〜120およびナガサワ、ヒロタ、タチバナ、タカクラ、ニシカワ、キタムラ、ヨシダ、キクタニ、キシモト(Nagasawa, T., Hirota, S., Tachibana, K., Takakura N., Nishikawa, S. I., Kitamura, Y., Yoshida, N., Kikutani, H., and Kishimoto, T.)(1996)Nature 382、635〜638)。SDF-1はまた、他のCXCケモカインとのアミノ酸配列同一性が約22%に過ぎないという点においても構造的に異なっている(ブルール、フールブリッジ、カサスノバス、アイウチ、およびスプリンガー(Bleul, C. C., Fuhlbridgge, R. C., Casasnovas, J. M., Aiuti, A., and Springer, T. A.)(1996)、J. Exp. Med. 184、1101〜1109)。SDF-1は、幾つかの細胞タイプによって構成的に産生されているように思われ、特に骨髄間質細胞に高レベルに認められる(シロズ、ナカノ、イナザワ、タシロ、タダ、シノハラおよびホンジョ(Shirozu, M., Nakano, T., Inazawa, J., Tashiro, K., Tada, H., Shinohara, T., and Honjo, T.)(1995)Genomics 28、495〜500およびブルール、フールブリッジ、カサスノバス、アイウチ、およびスプリンガー(Bleul, C. C., Fuhlbridgge, R. C., Casasnovas, J. M., Aiuti, A., and Springer, T. A.)(1996)、J. Exp. Med. 184、1101〜1109)。SDF-1の基本的な生理的役割は、種間のSDF-1配列の保存が高レベルであることから暗示される。インビトロにおいて、SDF-1は単球および骨髄由来前駆細胞を含む広範囲の細胞の化学走性を刺激する(アイウチ、ウェブ、ブルール、スプリンガー、およびギレツ・ラモス(Aiuti, A., Webb, I. J., Bleul, C., Springer, T., and Guierrez-Ramos, J. C.)(1996)、J. Exp. Med. 185、111〜120およびブルール、フールブリッジ、カサスノバス、アイウチ、およびスプリンガー(Bleul, C. C., Fuhlbridgge, R. C., Casasnovas, J. M., Aiuti, A., and Springer, T. A.)(1996)、J. Exp. Med. 184、1101〜1109)。特に顕著であるのは、SDF-1が高い割合の休止期Tリンパ球および活性化Tリンパ球を刺激できることである(ブルール、フールブリッジ、カサスノバス、アイウチ、およびスプリンガー(Bleul, C. C., Fuhlbridgge, R. C., Casasnovas, J. M., Aiuti, A., and Springer, T. A.)(1996)、J. Exp. Med. 184、1101〜1109およびキャンベル、ヘンドリック、ズロトニック、サイアニ、トンプソン、およびブッチャー(Campbell, J. J., Hendrick, J., Zlotnik, A., Siani, M. A., Thompson, D. A., and Butcher, E. C.)(1998)Science、279、381〜383)。
【0006】
SDF-1の3次元結晶学的構造は記述されている(クランプ、ゴン、ローチャー、ラジャラスナム、アマラ、アレンザナ・セイスデドス、ビレリジア、バジオリーニ、サイクス、クラーク・ルイス(Crump, M., Gong, J. H., Loetscher, P., Rajarathnam, K., Amara, A., Arenzana-Seisdedos, F., Virelizier, J. L., Baggiolini, M., Sykes, B. D., and Clark-Lewis, I.)(1997)EMBO J., 16、6996〜7007)。SDF-1の構造活性分析(クランプ、ゴン、ローチャー、ラジャラスナム、アマラ、アレンザナ・セイスデドス、ビレリジア、バジオリーニ、サイクス、クラーク・ルイス(Crump, M., Gong, J. H., Loetscher, P., Rajarathnam, K., Amara, A., Arenzana-Seisdedos, F., Virelizier, J. L., Baggiolini, M., Sykes, B. D., and Clark-Lewis, I.)(1997)EMBO J., 16、6996〜7007)により、N-末端残基1〜8または1〜9位が受容体の結合に関与しているが、1〜8および1〜9位のペプチド単独では受容体結合を示すインビトロ活性を示さないことが示されており、このことはペプチドが受容体との結合に必要な立体配置をとらないという報告された結論を支持する。この結果は、蛋白質の骨格構造の残り、および/または蛋白質のどこかにおける様々なコンセンサス受容体結合部位が、受容体にN-末端が結合するための構造的要件を媒介するために重要であることを意味すると解釈された(クランプ、ゴン、ローチャー、ラジャラスナム、アマラ、アレンザナ・セイスデドス、ビレリジア、バジオリーニ、サイクス、クラーク・ルイス(Crump, M., Gong, J. H., Loetscher, P., Rajarathnam, K., Amara, A., Arenzana-Seisdedos, F., Virelizier, J. L., Baggiolini, M., Sykes, B. D., and Clark-Lewis, I.)(1997)EMBO J., 16、6996〜7007)。これらの結果に基づき、残基1〜17位における2つの結合部位、すなわちN-末端部位と上流のRFFESH部位を含む、CXCR4に対するSDF-1の結合に関して2部位モデルが提唱されている(クランプ、ゴン、ローチャー、ラジャラスナム、アマラ、アレンザナ・セイスデドス、ビレリジア、バジオリーニ、サイクス、クラーク・ルイス(Crump, M., Gong, J. H., Loetscher, P., Rajarathnam, K., Amara, A., Arenzana-Seisdedos, F., Virelizier, J. L., Baggiolini, M., Sykes, B. D., and Clark-Lewis, I.)(1997)EMBO J., 16、6996〜7007)。2つの推定結合部位は配列:KPVSLSYR-CPC-RFFESH(配列番号:1)を特徴としており、この中で2つの推定結合部位が全てのCXCケモカインファミリーの特徴であるCXCモチーフによって結合している(クランプ、ゴン、ローチャー、ラジャラスナム、アマラ、アレンザナ・セイスデドス、ビレリジア、バジオリーニ、サイクス、クラーク・ルイス(Crump, M., Gong, J. H., Loetscher, P., Rajarathnam, K., Amara, A., Arenzana-Seisdedos, F., Virelizier, J. L., Baggiolini, M., Sykes, B. D., and Clark-Lewis, I.)(1997)EMBO J., 16、6996〜7007)。これらの2つの推定結合部位はその他のCCおよびCXCケモカインにおいて重要であると同定されている(クランプ、ゴン、ローチャー、ラジャラスナム、アマラ、アレンザナ・セイスデドス、ビレリジア、バジオリーニ、サイクス、クラーク・ルイス(Crump, M., Gong, J. H., Loetscher, P., Rajarathnam, K., Amara, A., Arenzana-Seisdedos, F., Virelizier, J. L., Baggiolini, M., Sykes, B. D., and Clark-Lewis, I.)(1997)EMBO J., 16、6996〜7007およびクランプ、ゴン、ローチャー、ラジャラスナム、アマラ、アレンザナ・セイスデドス、ビレリジア、バジオリーニ、サイクス、クラーク・ルイス(Crump, M., Gong, J. H., Loetscher, P., Rajarathnam, K., Amara, A., Arenzana-Seisdedos, F., Virelizier, J. L., Baggiolini, M., Sykes, B. D., and Clark-Lewis, I.)(1997)EMBO J., 16、6996〜7007)。これは、多様なケモカインのN-末端領域が受容体の活性化にとって重要であるが、SDF-1以外のケモカインのN-末端ペプチドは受容体結合活性を欠損するが受容体アンタゴニストではないと報告されている知見と一致する(クランプ、ゴン、ローチャー、ラジャラスナム、アマラ、アレンザナ・セイスデドス、ビレリジア、バジオリーニ、サイクス、クラーク・ルイス(Crump, M., Gong, J. H., Loetscher, P., Rajarathnam, K., Amara, A., Arenzana-Seisdedos, F., Virelizier, J. L., Baggiolini, M., Sykes, B. D., and Clark-Lewis, I.)(1997)EMBO J., 16、6996〜7007およびクランプ、ゴン、ローチャー、ラジャラスナム、アマラ、アレンザナ・セイスデドス、ビレリジア、バジオリーニ、サイクス、クラーク・ルイス(Crump, M., Gong, J. H., Loetscher, P., Rajarathnam, K., Amara, A., Arenzana-Seisdedos, F., Virelizier, J. L., Baggiolini, M., Sykes, B. D., and Clark-Lewis, I.)(1997)EMBO J., 16、6996〜7007)。
【0007】
CXCR4はHIV-1の主な共受容体であるという事実と一致して、SDF-1はHIV-1のCD4+細胞への流入を遮断する(オバーリン、アマラ、バチェレリー、ベシア、ビレリジア、アレンザナ・セイスデドス、シュワルツ、ハード、クラーク・ルイス、レグラー、ローチャー、バジオリーニおよびモサー(Oberlin, E., Amara, A., Bachelerie, F., Bessia, C., Virelizier, J. L., Arenzana-Seisdedos, F., Schwartz, O., Heard, J. M., Clark-Lewis, I., Legler, D. F., Loetscher, M., Baggiolini, M., and Moser, B.)(1996)Nature, 382、833〜835およびブルール、ファーザン、チョー、パロリン、クラーク・ルイス、ソドロスキ、およびスプリンガー(Bluel, C. C., Farzan, M., Choe, H., Parolin, C., Clark-Lewis, I., Sodroski, J., and Springer, T. A.(1996)Nature, 382、829〜833)。HIV流入を選択的に阻害するが、SDF-1シグナル伝達を阻害しないSDF-1由来ペプチドを同定する努力が行われている(ヘベカー(Heveker, N.)ら、1998、Current Biology 8(7):369〜376)。SDF-1について可能性がある広範囲のCXCR4結合断片は、HIV感染症を阻害するために用いることが提唱されている(1997年8月7日に公布された国際公開公報第9728258号;1998年2月5日に公布の国際公開公報第9804698号)。これらの引用文献が明らかにするように、SDF-1またはSDF-1の断片の抗HIV活性は、CXCR4受容体の拮抗に依存しない。
【0008】
インターフェロンγは活性化T-リンパ球(T細胞)によって放出され、強力な免疫調節物質として作用する重要なサイトカインである。インビボにおいてT細胞によってインターフェロンγが産生されると、生体内の他の細胞に、免疫応答の多くの局面を調節することができるさらなるサイトカイン、酵素、および抗体を放出させる可能性がある。活性化T細胞のインターフェロンγ産生能に影響を及ぼす物質は、免疫調節物質としての特徴を有する。
【0009】
自己免疫疾患は、一般的に、特にT細胞を含む白血球によるサイトカイン、リンフォトキシンおよび抗体の過剰産生によって引き起こされると理解される、一連の疾患である。自己免疫反応の際に、T細胞は自己免疫反応の病理的症状の発現に至るインターフェロンγのような化学メディエータを放出すると理解される。したがって、自己免疫疾患の治療は、T細胞からのインターフェロンγの放出を阻害することができる物質の使用を含んでもよい。そのような自己免疫疾患は例えば、多発性硬化症(MS)、ギラン・バレー症候群、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、アルツハイマー病、痛風、狼瘡、およびT細胞が主要な役割を有するその他のヒト疾患を含んでもよい。
【0010】
インターフェロンβは多様な自己免疫疾患の治療において治療的応用を有することが判明したサイトカインである。MSのような自己免疫疾患において、Th1型のT細胞の活性化は、自己免疫反応の主要な要素であると考えられている。MSでは、自己免疫反応は、ミエリン鞘神経軸索を攻撃する。Th1細胞活性化の古典的なマーカーの一つはインターフェロンγの産生である。MSを治療する治療物質としてのインターフェロンβの開発において、インターフェロンβがインビトロでリンパ球からのインターフェロンγの産生速度を減少させるか否かを証明するために試験を実施した(Ann. Neurol. 1988;44:27〜34およびNeurology 1998;50:1294〜1300)。インターフェロンβ処置によってインターフェロンγ放出が減少したことは、MSの治療にインターフェロンβが有効であることを示している。インターフェロンγの産生を阻害するその他の物質、特にインターフェロンβのような既存の物質の作用を増強するよう相乗的に作用する可能性がある物質を含む自己免疫疾患の治療に用いられる物質は、なおも必要とされている。
【0011】
固形腫瘍の増殖は一般的に、血管新生(angiogenesis)(血管新生(neovascularization))依存的であり、したがって、血管新生阻害剤は、固形腫瘍および転移の治療物質として用いられている。血管における内皮細胞(EC)は、血管新生において本質的な役割を果たしており、したがって、この活性を標的とする治療物質が必要である。血管新生の際の血管内皮細胞の増殖、走性、および分化は、正常および疾患状態の双方において、多様なケモカインとケモカイン受容体との複雑な相互作用によって調節されると理解される。CXCR4は、血管EC上に発現され、そのような細胞では、調べた全てのケモカイン受容体の中で最も豊富な受容体であると報告されている(グプタ(Gupta)ら、1998)。
【発明の概要】
【0012】
一つの局面において、本発明は、CXCR4アンタゴニストの様々な治療的使用を提供する。様々な態様において、CXCR4アンタゴニストは、以下のように治療的に用いてもよく、またはそのような治療的治療を行う薬物を製造するために用いてもよい:T細胞によるインターフェロンγ産生の減少、自己免疫疾患の治療、多発性硬化症の治療、その他の神経疾患の治療、癌の治療、および血管新生の調節。本発明の幾つかの局面において、CXCR4阻害剤は、特に多発性硬化症の治療においてβインターフェロンと共に、またはβインターフェロンを用いずに用いてもよい。本発明は、CXCR4アンタゴニストの治療的用量を薬学的に許容される製剤において投与する、薬物治療の対応する方法を提供する。したがって、本発明はまた、CXCR4アンタゴニストと上記のような薬学的に許容される賦形剤または担体とを含む治療的組成物を提供する。治療的組成物は生理的に許容されるpHで水溶液に可溶性であれば都合がよいと思われる。
【0013】
他の態様において、本発明において用いられるCXCR4アンタゴニストは、SDF-1の実質的に精製されたペプチド断片、修飾された断片、類似体または薬学的に許容される塩を含むペプチド化合物であってもよい。幾つかの態様において、ペプチド化合物は、R1が水素およびSDF-1の少なくとも一部と相同であるポリペプチドからなる群より選択される、N-末端アミノ酸配列KGVSLSYRC-R1(配列番号:2)を含んでもよい。
【0014】
さらなる態様において、ペプチド化合物は二量体N-末端アミノ酸配列(本明細書において第二の二量体はカルボキシル末端からアミノ末端方向に示す):KGVSLSYR-X-RYSLSVGK(配列番号:3の二量体、図14に示す)を含んでもよく、式中、Xはαおよびεアミノ基の双方がアミド結合形成に関係しているリジンアミノ酸であってもよく、リジンのカルボキシル基を保護してもよい。さらにもう一つの態様において、ペプチド化合物はさらに、二量体N-末端アミノ酸(本明細書において第二の二量体はカルボキシル末端からアミノ末端方向に示す):KGVSLSYRC-X-CRSLSVGK(配列番号:4の二量体、図14に示す)を含んでもよく、式中、Xはαおよびεアミノ基の双方が結合形成に関係しているリジンアミノ酸であってもよく、リジンのカルボキシル基を保護してもよい。または、上記二量体ペプチド化合物において、Xは複数のペプチドが架橋によって結合して、化合物に複数のN-末端を提供するように、ペプチドを共有結合する如何なる架橋形成部分であってもよい。
【0015】
発明の詳細な説明
本発明の様々な局面に従って、CXCR4アンタゴニストは、多様な自己免疫疾患を治療するため、または治療する薬物を生成するために用いてもよい。そのような疾患には、多発性硬化症、ギラン・バレー症候群(GBS)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、および神経系のその他の疾患、リウマチ性関節炎、乾癬、I型糖尿病、潰瘍性大腸炎、痛風、狼瘡、および移植の拒絶が含まれる。
【0016】
本発明の一つの局面に従って、CXCR4アンタゴニストはリンパ腫および癌腫のような癌を含むヒト病理疾患、並びにレストノシス(restonosis)における血管新生および細胞増殖を調節するために治療的に用いてもよい。一つの態様において、本明細書に例示するように、哺乳動物の癌のマウスモデルにおいて2つのペプチドCXCR4アンタゴニストが、血管新生および腫瘍の増殖を阻害するために用いられている。
【0017】
本発明のSDF-1アンタゴニストは、活性化T細胞によるγインターフェロンの産生を阻害するために用いてもよい。これは、T細胞によるγインターフェロンの産生が当技術分野において認識される疾患マーカーであることから、自己免疫疾患の治療に特に適用される可能性がある。インターフェロンγによって媒介されることがわかっている疾患の例は、MS(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95;675〜680、1998)、ギラン・バレー症候群(Ann. Neutol, 27;S57〜S63、1990)、自己免疫性腎損傷(J. Immunol. 161;494〜503、1998)、関節炎(Immunol. 95;480〜487、1998)、および様々なその他の神経疾患(Acta. Neurol. Scad. 90;19〜25、1994)である。インターフェロンγ媒介自己免疫疾患に関するより一般的な説明は、J. Immunol. 161;6878〜6884、1998およびJ. Exp. Med. 186;385〜391、1997に見ることができる。本発明の一つの態様において、ペプチドアンタゴニストSDF-1(1-67)[P2G]は、例えば、T細胞によるγインターフェロンの産生を阻害するために用いられている。同様に、ペプチドSDF-1(1-9)P2Gは、ヒトT細胞からのγインターフェロン放出を減少させる(すなわち、これらのペプチドはヒト自己免疫疾患の調節物質である)。
【0018】
本発明はまた、特に自己免疫疾患において、γインターフェロン産生を阻害するために用いてもよいCXCR4阻害剤を同定するためのアッセイ法を提供する。そのようなアッセイ法の態様は本明細書において実施例2に開示する。
【0019】
一つの態様において、アッセイ法はインターフェロンγを放出する、コンカナバリンA刺激T細胞を含む。アッセイ法において、T細胞をCXCR4アンタゴニストと推定される物質に接触させて、インターフェロンγ放出の程度を測定する。アンタゴニスト活性に関してアッセイする化合物は、インターフェロンγ産生量を減少させることができることに関して選択してもよい。
【0020】
同様に、血管新生を阻害する化合物のアッセイも本発明の範囲内に含まれる。アッセイにおいて、マウスにおいて血管を形成した腫瘍を、CXCR4アンタゴニストと思われる物質に接触させて、血管形成の程度を測定する。抗血管新生活性に関してアッセイする化合物は、腫瘍における血管形成量を減少させることができることに関して選択してもよい。
【0021】
様々な局面において、本発明はCXCR4アンタゴニストを利用する。幾つかの態様において、本発明において用いられるCXCR4アンタゴニストは、SDF-1αまたはSDF-1βのいずれかの実質的に精製されたペプチド断片、修飾されたペプチド断片、類似体または薬学的に許容される塩であってもよい。CXCR4のSDF-1由来ペプチドアンタゴニストは、既知の生理学的アッセイ法および多様な合成技術によって同定してもよい(そのそれぞれが参照として本明細書に組み入れられる:例えばクランプ(Crump)ら、1997、The EMBO Journal 16(23):6996〜7007;およびヘベカー(Heveker)ら、1998、Current Biology 8(7):369〜376、に開示される)。SDF-1のそのような類似体は、それらがCXCR4アンタゴニスト活性を有する限り、天然に存在するイソ型もしくは遺伝子変種、または天然のSDF-1配列の少なくとも一部と40%の配列同一性、60%の配列同一性もしくは好ましくは80%の配列同一性を有するようなSDF-1に対して実質的な配列類似性を有するポリペプチドのような天然のSDF-1の相同体を含む。幾つかの態様において、化学的に類似のアミノ酸を、本来のSDF-1配列におけるアミノ酸と置換してもよい(保存的アミノ酸置換が得られるように)。幾つかの態様において、N-末端のアミノ酸10個、もしくは好ましくは7個以内にN-末端LSY配列モチーフを有する、またはN-末端のアミノ酸20個以内にN-末端RFFESH(配列番号:5)配列モチーフを有するペプチドは、それらがCXCR4アンタゴニスト活性を有する限りにおいて用いてもよい。一文字アミノ酸コードおよび3文字アミノ酸コードは本明細書において互換的に用いられる。そのようなペプチドアンタゴニスト候補物質の一つのファミリーはN-末端にKPモチーフおよびアミノ酸5〜7位にLCYモチーフを有する。他のペプチドはさらに、アミノ酸12〜17位にRFFESH(配列番号:5)モチーフを含む。もう一つの態様において、LSYモチーフはペプチドの3〜5位に存在する。本発明はまた、それぞれが、N-末端のアミノ酸20個以内、または好ましくは10個以内でジスルフィド架橋によって結合し、システイン残基またはαアミノ酪酸残基を結合する前述の配列エレメントを有してもよい、2つのアミノ酸配列を有するペプチド二量体も提供する。
【0022】
一つの局面において、本発明は、2位のアミノ酸でグリシンがプロリンに置換されているCXCR4アンタゴニストを提供する。SDF-1(1-67)[P2G]と呼ばれるこの類似体の完全版(長さアミノ酸67個)は、強力なCXCR4受容体アンタゴニストである(クランプ(Crump)ら、1997、The EMBO Journal 16(23):6996〜7007)。多様な小さいSDF-1ペプチド類似体もまた、CXCR4アンタゴニストとして用いてもよい。そのようなペプチドの1つは、アミノ酸1〜9位の二量体であり、二量体のそれぞれのメンバーにおいて2位でグリシンがプロリンに置換されており、アミノ酸鎖はそれぞれの配列における9位のそれぞれのシステイン間のジスルフィド架橋によって結合している(SDF-1(1〜9[P2G])2と命名される)。SDF-1(1〜9[P2G])2は、検出可能な化学走性活性を示さなかったが(図2a)、SDF-1(1〜9)2に対して類似の親和性でSDF-1結合を競合した(図4)。SDF-1(1〜9[P2G])2二量体は用量依存的にSDF-1活性を阻害した(図3b)。SDF-1 10 nMの活性を50%阻害するためにはSDF-1(1〜9[P2G])2二量体50 μMを必要とし、その比は5,000倍であった。
【0023】
本発明は、CXCR4アンタゴニストを含む薬学的組成物を提供する。一つの態様において、そのような組成物は、γインターフェロンの産生を変化させる、好ましくは阻害するために十分な治療的または予防的有効量のCXCR4アンタゴニスト化合物と、薬学的に許容される担体とを含む。もう一つの態様において、組成物は、血管新生、好ましくは癌およびリンパ腫に関連した血管新生を阻害するために十分な治療的または予防的有効量のCXCR4アンタゴニスト化合物と、薬学的に許容される担体とを含む。「治療的有効量」とは、癌の場合には血管新生の減少もしくは逆転、または自己免疫疾患の場合ではT細胞からのγインターフェロン産生の減少もしくは阻害のような、望ましい治療的結果を得るために必要な用量および期間で有効な量を指す。CXCR4アンタゴニストの治療的有効量は、個体の疾患の状態、年齢、性別および体重、ならびに個体におけるCXCR4アンタゴニストの所望の反応の誘発能のような要因に応じて変化してもよい。投与レジメは最適な治療反応が得られるように調節してもよい。治療的有効量はまた、CXCR4アンタゴニストの毒性または有害な作用を治療的に有益な作用が上回る量である。「予防的有効量」とは、腫瘍の転移率または多発性硬化症の膿胞または発症の発現を予防もしくは阻害するような望ましい予防的結果を得るために必要な用量および期間で有効な量を指す。予防的有効量は、治療的有効量に関して先に述べたように決定することができる。典型的に、予防的用量は疾患の発病前、または初期段階に被験者に用いられ、予防的有効量は治療的有効量より少ないと思われる。
【0024】
特定の態様において、CXCR4アンタゴニストの治療的有効量または予防的有効量の好ましい範囲は0.1 nM〜0.1 M、具体的には0.1 nM〜0.05 M、より具体的には0.05 nM〜15 μM、および最も具体的には0.01 nM〜10 μMであってもよい。用量の値は特に多発性硬化症の場合、緩和すべき疾患の重症度に応じて変化してもよいことに注目すべきである。特定の被験者に関して、個々の需要、および組成物を投与する人または投与を管轄する人の専門的な判断に応じて、経時的に特定の用量レジメを調節しなければならず、本明細書において述べた用量範囲は説明のためであって、特許請求の範囲に述べる組成物の範囲または実践を制限すると解釈してはならないとさらに理解されるべきである。
【0025】
組成物中の活性化合物の量は、個体の疾患の状態、年齢、性別および体重のような要因に応じて変化してもよい。投与レジメは最適な治療反応が得られるように調節してもよい。例えば、ボーラス投与を1回行ってもよく、数回の分割用量を経時的に投与してもよく、または治療状況の緊急性によって示されるように用量はそれに応じて減少または増加させてもよい。投与を容易にするために、そして投与を均一に行うために、非経口投与組成物を単位投与剤形に製剤化することは特に都合がよい。本明細書において用いる単位投与剤形は、治療すべき哺乳動物被験者の単位用量として適している物理的に個別の単位を指す;それぞれの単位は必要な薬学的担体に関連して所望の治療的作用を生じるように計算される活性化合物の既定量を含む。本発明の単位投与剤形の詳細は、(a)活性化合物の独自の特徴および得られる特定の治療効果、および(b)個体における感受性を治療するための活性化合物のような化合物を合成する技術分野における固有の制限によって指図され、直接依存する。
【0026】
本明細書において用いるように、「薬学的に許容される担体」または「賦形剤」とは、生理学的に適合性である如何なる全ての溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤、および吸収遅延剤等を含む。一つの態様において、担体は非経口投与に適している。または、担体は静脈内、腹腔内、筋肉内、舌下、または経口投与に適することができる。薬学的に許容される担体には、滅菌水溶液または分散液、および滅菌注射用溶液または分散液の即時混合型調製用の滅菌粉末が含まれる。そのような媒体および物質を薬学的に活性な物質に用いることは当技術分野で周知である。従来の媒体または物質が活性化合物と不適合性である場合を除いて、これを本発明の薬学的組成物において用いることが考慮される。補助的な活性化合物もまた組成物に組み入れることができる。
【0027】
治療的組成物は典型的に、製造および保存条件下で滅菌かつ安定でなければならない。組成物は、溶液、微小乳液、リポソームまたは高い薬物濃度に適したその他の指示された構造に製剤化することができる。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール等)、および適したその混合液となりうる。適当な流動性は例えば、レシチンのようなコーティングを用いることによって、分散剤の場合には必要な粒子径を維持することによって、そして界面活性剤を用いることによって維持することができる。多くの場合、組成物に等張剤、例えば、糖、マンニトール、ソルビトール、または塩化ナトリウムのような多価アルコールを含むことが好ましいと思われる。注射可能な組成物の持続的な吸収は例えば吸収を遅らせる物質を、例えばモノステアリン酸塩およびゼラチン組成物に含めることによって、得ることができる。その上、CXCR4アンタゴニストは、持効性製剤、例えば徐放性ポリマーを含む組成物において投与することができる。活性化合物は、インプラントおよび微量封入輸送系を含む徐放製剤のような、化合物が急速に放出されないようにする担体と共に調製することができる。エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、ポリ乳酸およびポリ乳酸ポリグリコール酸コポリマー(PLG)のような生分解性ポリマーを用いることができる。そのような製剤を調製するための多くの方法は特許権が与えられているか、または一般的に当技術分野で既知である。
【0028】
滅菌注射可能溶液は、活性化合物(例えばCXCR4アンタゴニスト)を、必要に応じて上記列挙した成分の1つまたは組合せと共に適当な溶媒中で必要な量を組み入れて、その後濾過滅菌することによって調製することができる。一般的に、分散液は、基礎分散媒体と上記に列挙した成分から必要な他の成分とを含む滅菌媒体に活性化合物を組み入れることによって調製される。滅菌注射液を調製するための滅菌粉末の場合、好ましい調製法は、真空乾燥および凍結乾燥によって生じた活性成分に、あらかじめ濾過滅菌した溶液由来のさらなる所望の成分を添加する。
【0029】
本発明のもう一つの局面に従って、CXCR4アンタゴニストはCXCR4アンタゴニストの溶解度を増加させる1つまたはそれ以上のさらなる化合物と共に製剤化してもよい。
【0030】
本発明のもう一つの局面は、CXCR4受容体に結合するCXCR4アンタゴニストを選択する方法に関する。本方法において、試験化合物を活性化ヒトT-細胞と接触させ、γインターフェロンの産生を測定して、試験化合物のγインターフェロン産生の減少または阻害能に基づいてCXCR4アンタゴニストを選択する。試験化合物は、SDF-1αまたはSDF-1βのいずれかの実質的に精製されたペプチド断片、修飾された断片、類似体または薬学的に許容される塩であってもよい。好ましい態様において、試験化合物はT細胞のモル過剰量と接触させる。試験化合物の存在下でのγインターフェロン産生量および/または速度は、本明細書に記述のように適したアッセイ法によって決定することができる。γインターフェロン産生を阻害する試験化合物の存在下では、γインターフェロンの産生はCXCR4アンタゴニストが存在しない場合と比較して減少している。
【0031】
本発明のCXCR4アンタゴニスト化合物には、C-末端ヒドロキシメチル誘導体、O-修飾誘導体(例えば、C-末端ヒドロキシメチルベンジルエーテル)、アルキルアミドのような置換されたアミドおよびヒドラジドおよびC-末端のフェニルアラニンをフェネチルアミド類似体で置換した化合物(例えば、トリペプチドSer-Ile-Pheの類似体としてのSer-Ile-フェネチルアミド)を含むN-末端修飾誘導体のようなSDF-1誘導体が含まれる。
【0032】
本発明のCXCR4アンタゴニスト化合物において、ペプチド構造(SDF-1由来ペプチドのように)は、少なくとも1つの修飾基に直接または間接的にカップリングしてもよい。「修飾基」という用語は、ペプチド構造に間接的に結合する構造(例えば、SDF-1コアペプチド構造に隣接してもよい、さらなるアミノ酸残基、または模倣体、類似体もしくはその誘導体との安定な非共有結合的会合、または共有結合によって)、並びにペプチド構造(例えば共有結合によって)に直接結合する構造を含むと解釈される。例えば、修飾基はSDF-1ペプチド構造のアミノ末端もしくはカルボキシル末端、またはコアドメインに隣接するペプチドまたはペプチド模倣領域にカップリングすることができる。または、修飾基はSDF-1ペプチド構造の少なくとも1つのアミノ酸残基の側鎖、またはコアドメインに隣接するペプチドもしくはペプチド模倣領域にカップリングすることができる(例えば、リジン残基のεアミノ基を通じて、アスパラギン酸残基もしくはグルタミン酸残基のカルボキシル基を通じて、チロシン残基、セリン残基もしくはトレオニン残基のヒドロキシ基を通じて、またはアミノ酸側鎖上のその他の適した反応基を通じて)。ペプチド構造に共有結合的にカップリングした修飾基は、例えば、アミド、アルキルアミノ、カルバメートまたは尿素結合を含む化学構造の結合に関して、当技術分野で周知の手段および方法によって結合することができる。
【0033】
「修飾基」という用語は、天然の形態では、天然SDF-1ペプチドにカップリングしない基を含むと解釈される。したがって、「修飾基」という用語は水素を含まないと解釈される。修飾基は、CXCR4アンタゴニスト化合物が、好ましくは阻害するように、γインターフェロン産生を変化させるように選択される。
【0034】
本発明はまた、CXCR4アンタゴニスト化合物が、T細胞または腫瘍にそれぞれ接触させた場合に、腫瘍の血管新生を阻害するように選択される「修飾基」を提供する。
【0035】
好ましい態様において、修飾基は、環状、複素環状、または多環状基を含む。本明細書において用いられる「環状基」という用語は、炭素原子約3〜10個、好ましくは約4〜8個、より好ましくは約5〜7個を有する環状の飽和または不飽和(すなわち芳香族)基を含むと解釈される。例としての環状基には、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、およびシクロオクチルが含まれる。環状基は、非置換であってもよく、または1つもしくはそれ以上の環の位置で置換されていてもよい。このように、環状基は例えば、ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロサイクル、ヒドロキシル、アミノ、ニトロ、チオール、アミン、イミン、アミド、ホスホネート、ホスフィン、カルボニル、カルボキシル、シリル、エーテル、チオエーテル、スルホニル、スルホネート、セレノエーテル、ケトン、アルデヒド、エステル、-CF3、-CN等によって置換してもよい。
【0036】
「複素環状基」という用語は、環構造が約1〜4個のヘテロ原子を含む、炭素原子約3〜10個、好ましくは約4〜8個、より好ましくは約5〜7個を有する環状の飽和または不飽和(すなわち芳香族)基を含むと解釈される。複素環状基には、ピロリジン、オキソラン、チオラン、イミダゾール、オキサゾール、ピペリジン、ピペラジン、モルフォリンが含まれる。複素環は、例えば、ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、他のヘテロサイクル、ヒドロキシル、アミノ、ニトロ、チオール、アミン、イミン、アミド、ホスホネート、ホスフィン、カルボニル、カルボキシル、シリル、エーテル、チオエーテル、スルホニル、スルホネート、セレノエーテル、ケトン、アルデヒド、エステル、-CF3、-CN等のような置換基によって1つまたはそれ以上の基で置換することができる。複素環はまた、下記のように、他の環状基に架橋または融合してもよい。
【0037】
本明細書において用いられる「多環状基」という用語は2つまたはそれ以上の炭素が2つの隣接する基に共通である、例えば環が「縮合環」である、2つまたはそれ以上の飽和または不飽和(すなわち芳香族)環状環を意味すると解釈される。隣接しない原子を通じて結合される環は「架橋」環と呼ばれる。多環状基の環のそれぞれは、上記のような、例えば、ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、ヒドロキシル、アミノ、ニトロ、チオール、アミン、イミン、アミド、ホスホネート、ホスフィン、カルボニル、カルボキシル、シリル、エーテル、チオエーテル、スルホニル、スルホネート、セレノエーテル、ケトン、アルデヒド、エステル、-CF3、-CN等の置換基で置換することができる。
【0038】
「アルキル」という用語は直鎖アルキル基、分岐鎖アルキル基、シクロアルキル(脂環式)基、アルキル置換シクロアルキル基、およびシクロアルキル置換アルキル基を含む、飽和脂肪族基のラジカルを意味する。好ましい態様において、直鎖または分岐鎖アルキルはその骨格の炭素原子が20個またはそれより少なく(例えば、直鎖ではC1〜C20、分岐鎖ではC3〜C20)、より好ましくは10個またはそれより少ない。同様に、好ましいシクロアルキルは環構造の炭素原子が4〜10個であり、より好ましくは環構造における炭素原子が5、6または7個である。炭素数を特に明記していなければ、本明細書において用いられる「低級アルキル」は、上記の通りであるが、その骨格構造に炭素原子1〜6個を有するアルキル基を意味する。同様に、「低級アルケニル」および「低級アルキニル」は、炭素鎖の長さが類似である。好ましいアルキル基は低級アルキルである。好ましい態様において、本明細書においてアルキルと呼ばれる置換基は低級アルキルである。
【0039】
本明細書および特許請求の範囲を通じて用いられる「アルキル」(または「低級アルキル」)という用語は、「非置換アルキル」および「置換アルキル」の双方を含むと解釈され、後者は、炭化水素骨格の1つまたはそれ以上の炭素上の水素を置換する置換基を有するアルキル部分を意味する。そのような置換基は、例えば、ハロゲン、ヒドロキシル、カルボニル(カルボキシル、ケトン(アルキルカルボニルおよびアリールカルボニル基を含む)ならびにエステル(アルキルオキシカルボニルおよびアリールオキシカルボニル基を含む)のような、チオカルボニル、アシルオキシ、アルコキシル、ホスホリル、ホスホネート、ホスフィネート、アミノ、アシルアミノ、アミド、アミジン、イミノ、シアノ、ニトロ、アジド、スルフヒドリル、アルキルチオ、スルフェート、スルホネート、スルファモイル、スルホンアミド、ヘテロシクリル、アラルキル、または芳香族もしくはヘテロ芳香族部分を含むことができる。当業者は、炭化水素鎖上で置換された部分は、それ自身適当であれば置換することができることを理解すると思われる。例えば、置換アルキルの置換基は、アミノ、アジド、イミノ、アミド、ホスホリル(ホスホネートおよびホスフィネートを含む)、スルホニル(スルフェート、スルホンアミド、スルファモイル、およびスルホネートを含む)、ならびにシリル基のみならず、エーテル、アルキルチオ、カルボニル、(ケトン、アルデヒド、カルボキシレート、およびエステルを含む)、-CF3、-CN等の置換または非置換型を含んでもよい。一例としての置換アルキルを下記に示す。シクロアルキルはさらに、アルキル、アルケニル、アルコキシ、アルキルチオ、アミノアルキル、カルボニル置換アルキル、-CF3、-CN等によって置換することができる。
【0040】
「アルケニル」および「アルキニル」という用語は、長さが類似で、上記のアルキルとの置換が起こりうるが、それぞれ少なくとも1つの二重結合または三重結合を含む、不飽和脂肪族基を意味する。
【0041】
本明細書において用いられる「アラルキル」という用語は、少なくとも1つのアリール基で置換された(例えば、芳香族またはヘテロ芳香族基)アルキルまたはアルキレニル基を意味する。一例としてのアラルキルには、ベンジル(すなわち、フェニルメチル)、2-ナフチルエチル、2-(2-ピリジル)プロピル、5-ジベンゾスベリル等が含まれる。
【0042】
本明細書において用いられる「アルキルカルボニル」という用語は、-C(O)-アルキルを意味する。同様に、「アリールカルボニル」という用語は-C(O)-アリールを意味する。本明細書において用いられる「アルキルオキシカルボニル」という用語は-C(O)-O-アルキルを意味し、「アリールオキシカルボニル」という用語は-C(O)-O-アリールを意味する。「アシルオキシ」という用語は、R7がアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アラルキルまたはヘテロシクリルである、-O-C(O)-R7を意味する。
【0043】
本明細書において用いられる「アミノ」という用語は、R6およびR9がそれぞれ独立して、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アラルキル、アリールであるか、またはR6およびR9がそれらが結合する窒素原子と共に原子4〜8個を有する環を形成する、-N(R6)-(R9)を意味する。従って、本明細書において用いられる「アミノ」という用語は、非置換、モノ置換(例えば、モノアルキルアミノまたはモノアリールアミノ)、および二置換(例えば、ジアルキルアミノまたはアルキルアリールアミノ)アミノ基を含む。「アミド」という用語は、R8およびR9が上記の定義の通りである、-C(O)-N(R8)-(R9)を意味する。「アシルアミノ」という用語は、R7が上記の通りであり、R'8がアルキルである、-N(R'8)C(O)-R7を意味する。
【0044】
本明細書に用いられているように、「ニトロ」という用語は-NO2を意味し;「ハロゲン」とは、-F、-Cl、-Brまたは-Iを意味し;「スルフヒドリル」という用語は-SHを意味し;および「ヒドロキシル」という用語は-OHを意味する。
【0045】
本明細書に用いられる「アリール」という用語には、環にゼロから4個のヘテロ原子を含んでもよい、例えばフェニル、ピロリル、フリル、チオフェニル、イミダゾール、オキサゾール、チアゾリル、トリアゾリル、ピラゾリル、ピリジル、ピラジニル、ピリダジニル、およびピリミジニル等のような、5、6および7員環芳香族基が含まれる。環構造にヘテロ原子を有するそれらのアリール基もまた、「アリール複素環」または「ヘテロ芳香族」と呼んでもよい。芳香環は、1つまたはそれ以上の環の位置で、上記のような、例えば、ハロゲン、アジド、アルキル、アラルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヒドロキシル、アミノ、ニトロ、スルフヒドリル、イミノ、アミド、ホスホネート、ホスフィネート、カルボニル、カルボキシル、シリル、エーテル、アルキルチオ、スルホニル、スルホンアミド、ケトン、アルデヒド、エステル、ヘテロシクリル、芳香族またはヘテロ芳香族部分、-CF3、-CN等の置換基に置換することができる。アリール基はまた、多環状基の一部となりうる。例えば、アリール基にはナフチル、アントラセニル、キノリル、インドリル等のような縮合芳香族部分が含まれる。
【0046】
CXCR4アンタゴニスト化合物はそのカルボキシル末端で、当技術分野で既知の方法に従って、コリル基によって修飾することができる(例えば、ウェス(Wess, G.)ら、(1993)Tetrahedron Letters, 34:817〜822;ウェス(Wess, G.)ら、(1992)Tetrahedron Letters 33:195〜198;およびクラマー(Kramer, W)ら、(1992)J. Biol. Chem. 267:18598 〜18604を参照のこと)。コリル誘導体および類似体はまた、修飾基として用いることもできる。例えば、好ましいコリル誘導体は、CXCR4アンタゴニスト化合物をさらに修飾するために用いることができる遊離のアミノ基を有する、Aic(3-O-アミノエチル-イソ)-コリル)である。
【0047】
一つの態様において、修飾基はビオチニル基およびその類似体およびその誘導体(2-イミノビオチニル基のような)を含む「ビオチン化構造」であってもよい。もう一つの態様において、修飾基は、SDF-1由来ペプチド構造と5-(および6-)-カルボキシフルオレセイン、スクシニミジルエステルまたはフルオレセインイソチオシアネートとの反応に由来する基のような「フルオレセイン含有基」を含むことができる。様々なその他の態様において、修飾基は、N-アセチルノイラミニル基、トランス-4-コチニンカルボキシル基、2-イミノ-1-イミダゾリジンアセチル基、(S)-(-)-インドリン-2-カルボキシル基、(-)-メントキシアセチル基、2-ノルボルナンアセチル基、γ-オキソ-5-アセナフテンブチリル、(-)-2-オキソ-4-チアゾリジンカルボキシル基、テトラヒドロ-3-フロイル基、2-イミノビオチニル基ジエチレントリアミンペンタアセチル基、4-モルフォリンカルボニル基、2-チオフェンアセチル基、または2-チオフェンスルホニル基を含むことができる。
【0048】
修飾基は、ビオチニル構造を含む基、フルオレセイン含有基、ジエチレントリアミンペンタアセチル基、(-)-メトキシアセチル基、およびN-アセチルノイラミニル基を含んでもよい。より好ましい修飾基はコリル構造またはイミノビオチニル基を含む基である。
【0049】
上記の環状、複素環状、および多環状基のほかに、本発明のCXCR4アンタゴニストにはその他のタイプの修飾基を用いることができる。例えば、小さい疎水性の基は適した修飾基であるかも知れない。適した非環状修飾基の例はアセチル基である。
【0050】
本発明のCXCR4アンタゴニスト化合物は、化合物が血管新生の阻害能またはγインターフェロンの産生阻害能のいずれかを保持しながら、化合物の特定の特性を変化させるようにさらに修飾することができる。例えば、一つの態様において、インビボ安定性または半減期のような化合物の薬物動態特性を変化させるように、化合物をさらに修飾する。もう一つの態様において、検出可能な物質によって化合物を標識するように、化合物をさらに修飾する。さらにもう一つの態様において、化合物をさらなる治療的部位に化合物をカップリングさせるように修飾する。
【0051】
化合物を、その薬物動態特性を変化させるためなどの、さらに化学的に修飾するために反応基を誘導体化することができる。例えば、修飾基をSDF-1コアドメインのアミノ末端に結合させると、化合物のカルボキシル末端をさらに修飾することができる。好ましいC-末端修飾には、化合物のカルボキシペプチダーゼの基質としての作用能を減少させる修飾が含まれる。好ましいC-末端修飾物質の例には、アミド基、エチルアミド基、並びにD-アミノ酸およびβ-アラニンのような様々な非天然アミノ酸が含まれる。または、修飾基を凝集コアドメインのカルボキシル末端に結合させると、化合物のアミノ末端はさらに、例えば化合物のアミノペプチダーゼの基質としての作用能を減少させるようにさらに修飾することができる。
【0052】
CXCR4アンタゴニスト化合物は、検出可能な物質と化合物とを反応させることによって化合物を標識するようにさらに修飾することができる。適した検出可能な物質には、様々な酵素、補欠分子基、蛍光材料、発光材料、および放射活性材料が含まれる。適した酵素の例には、ホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、またはアセチルコリンエステラーゼが含まれ;適した補欠分子基の例には、ストレプトアビジン/ビオチン、およびアビジン/ビオチンが含まれ;適した蛍光材料の例には、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、塩化ダンシルまたはフィコエリスリンが含まれ;発光材料の例には、ルミノールが含まれ;および適した放射活性材料の例には14C、123I、124I、125I、131I、99mTc、35Sまたは3Hが含まれる。好ましい態様において、CXCR4アンタゴニスト化合物は、14Cを修飾基またはCXCR4アンタゴニスト化合物の1つまたはそれ以上のアミノ酸構造の中に組み入れることによって、14Cによって放射活性標識される。標識したCXCR4アンタゴニスト化合物は、化合物のインビボ薬物動態を評価するためのみならず、被験者の疾患の進行または例えば診断目的のために被験者が疾患を発症する可能性を検出するために用いることができる。CXCR4受容体の組織分布は、被験者に由来するインビボまたはインビトロ試料のいずれかにおいて標識したCXCR4アンタゴニスト化合物を用いて検出することができる。
【0053】
インビボ診断剤として用いるために、本発明のCXCR4アンタゴニスト化合物は、放射活性テクネチウムまたはヨウ素によって標識してもよい。遊離のアミノ基を有するコール酸のAic誘導体のような、標識のキレート剤を導入することができる部位を提供する修飾基を選択することができる。もう一つの態様において、本発明は放射活性ヨウ素で標識したCXCR4アンタゴニスト化合物を提供する。例えば、SDF-1配列内のフェニルアラニン残基(例えばアミノ酸残基13位)は、放射活性ヨウ化チロシルに置換することができる。放射活性ヨウ素の様々な同位元素の如何なるものも、診断薬を作製するために組み入れることができる。好ましくは、123I(半減期=13.2時間)を全身シンチグラフィーに用い、124I(半減期=4日)を陽電子射出断層撮影(PET)に用い、125I(半減期=60日)は代謝回転試験に用い、および131I(半減期=8日)は、全身計数および遅延型低解像度画像試験に用いる。
【0054】
本発明のCXCR4アンタゴニスト物質のさらなる修飾は、化合物のさらなる治療的特性を付与するように作用してもよい。すなわち、さらなる化学修飾はさらなる機能的部分を含むことができる。例えば、腫瘍細胞のアポトーシスを引き起こすように作用する機能的部分をCXCR4アンタゴニスト化合物にカップリングさせることができる。この形において、CXCR4アンタゴニストのSDF-1由来部分は、化合物が腫瘍を標的として血管新生を阻害するために役立つ可能性があり、さらなる機能的部分は、化合物をこれらの部位にターゲティングした後に癌様細胞のアポトーシスを引き起こすように作用する。
【0055】
もう一つの化学修飾において、本発明の化合物は、化合物そのものはγインターフェロンの産生または腫瘍の血管新生を調節しないが、インビボで代謝されると本明細書に記述のCXCR4アンタゴニスト化合物に変化することができる、「プロドラッグ」の形で調製される。例えば、このタイプの化合物では、調節基は、代謝されると活性なCXCR4アンタゴニストの形に変換することができるプロドラッグの形で存在しうる。修飾基のそのようなプロドラッグ型は、本明細書において「二次修飾基」と呼ばれる。ペプチド骨格の薬物の活性型の輸送を最適にするために代謝を制限する、ペプチドプロドラッグを調製するための多様な戦略が当技術分野で既知である(例えば、モス(Moss, J.)(1995)「ペプチド骨格の薬物のデザイン:輸送と代謝の調節(Peptide-Based Drug Design:Controlling Transport and Metabolism)」、タイラー&アミドン(Taylor, M. D. and Amidon, G. L.)編、第18章を参照のこと)。
【0056】
本発明のCXCR4アンタゴニスト化合物は、当技術分野で既知の標準的な技術によって調製することができる。CXCR4アンタゴニストのペプチド成分は少なくとも一部、ボダンスキー(Bodansky, M.)の「ペプチド合成の原理(Principles of Peptide Synthesis)」、スプリンガー・バーラグ、ベルリン(1993)およびグラント(Grant, G. A.)編、「合成ペプチド;ユーザーズガイド(Synthetic Peptides:A User's Guide)」、W. H. フリーマン&カンパニー、ニューヨーク(1992)に記述のような、標準的な技術を用いて合成することができるペプチドで構成される。自動ペプチドシンセサイザーは市販されている(例えば、アドバンスド・ケムテックモデル396;ミリジェン/バイオサーチ9600)。さらに、標準的な方法、例えばアミノ基(例えば、ペプチドのアミノ末端のαアミノ基)、カルボキシル基(例えばペプチドのカルボキシル末端)、ヒドロキシル基(例えば、チロシン、セリンもしくはトレオニン残基上)、またはアミノ酸側鎖上のその他の適した反応基による反応方法を用いて、1つまたはそれ以上の調節基をSDF-1由来ペプチド成分に結合することができる(例えば、グリーン&ウッツ(Greene, T. W. and Wuts, P. G. M.)「有機合成における保護基(Protective Groups in Organic Synthesis)」、ジョンウィリー&サンズインク、ニューヨーク(1991))。好ましいCXCR4アンタゴニストの一例としての合成は実施例にさらに記述する。
【0057】
本発明のペプチドは、ボダンスキー(Bodansky, M.)の「ペプチド合成の原理(Principles of Peptide Synthesis)」、スプリンガー・バーラグ、ベルリン(1993)およびグラント(Grant, G. A.)編、「合成ペプチド;ユーザーズガイド(Synthetic Peptides:A User's Guide)」、W. H. フリーマン&カンパニー、ニューヨーク(1992)(その全てが参照として本明細書に組み入れられる)に記述のような、標準的な技術を用いて化学合成してもよい。自動ペプチドシンセサイザーは市販されている(例えば、アドバンスド・ケムテックモデル396;ミリジェン/バイオサーチ9600)。
【0058】
本発明のもう一つの局面において、ペプチドは、ペプチドをコードする核酸分子を用いて、標準的な組み換えDNA技術に従って調製してもよい。ペプチドをコードするヌクレオチド配列は遺伝子コードを用いて決定することができ、このヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチド分子は標準的なDNA合成法によって合成することができる(例えば、自動DNAシンセサイザーを用いて)。またはペプチド化合物をコードするDNA分子を、標準的な分子生物学技術に従って、天然の前駆体蛋白質遺伝子またはcDNA(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)および/または制限酵素消化を用いて)から誘導することができる。
【0059】
本発明はまた、本発明のペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む単離核酸分離を提供する。いくつかの態様において、ペプチドは、天然SDF-1と比較して少なくとも一つのアミノ酸欠失を有するアミノ酸配列を含みうる。本明細書において用いられるように、「核酸分子」という語は、DNA分子及びRNA分子を含むものとし、一本鎖であっても又は二本鎖であってもよい。別の態様において、単離核酸は、SDF-1のN末端、C末端、及び/又は内部から一つ又は複数のアミノ酸が欠失したペプチドをコードする。さらに他の態様において、単離核酸は、天然SDF-1と比較して一つ又は複数のアミノ酸が欠失したペプチド断片をコードする。
【0060】
標準的な組み換えDNA技術により宿主細胞におけるペプチド化合物の発現を促進するため、ペプチドをコードする単離核酸は、組み換え発現ベクターに組み入れられても良い。従って、本発明は、本発明の核酸分子を含む組み換え発現ベクターも提供する。本明細書において用いられるように、「ベクター」という語は、それに結合されている他の核酸を輸送することができる核酸分子をさす。一つの型のベクターはプラスミドであり、それは、付加的なDNA断片がライゲーションすることができる環状二本鎖DNAループをさす。もう一つの型のベクターは、付加的なDNA断片がウイルスゲノム中にライゲーションされたウイルスベクターである。ある種のベクターは、それらが導入された宿主細胞において自律的に複製することができる(例えば、細菌性複製開始点を有する細菌ベクター及びエピソーム性哺乳動物ベクター)。その他のベクター(例えば、非エピソーム性哺乳動物ベクター)は、宿主細胞へ導入されたとき宿主細胞のゲノムに取り込まれ、それにより宿主ゲノムと共に複製される。さらに、ある種のベクターは、それらと機能的に結合した遺伝子の発現を誘導することができる。そのようなベクターは、本明細書において、「組み換え発現ベクター」又は単に「発現ベクター」と呼ばれる。
【0061】
本発明の組み換え発現ベクターにおいて、ペプチドをコードするヌクレオチド配列は、発現のため用いられる宿主細胞に基づき選択された一つ又は複数の調節配列と機能的に結合していてもよい。「機能的に結合した」又は「機能可能に」結合したという語は、ペプチド化合物の発現を可能にする様式で(一つ又は複数の)調節配列と結合した、ペプチドをコードする配列を意味する。「調節配列」という語は、プロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、及びその他の発現調節要素を含む。そのような調節配列は、例えば、Goeddel; Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, Calif.(1990)(本明細書に参照として組み込まれる)に記載されている。調節配列には、多くの型の宿主細胞におけるヌクレオチド配列の構成性発現を導くもの、ある種の宿主細胞のみにおけるヌクレオチド配列の構成性発現を導くもの(例えば、組織特異的調節配列)、及び調節可能な様式で(例えば、誘導剤の存在下でのみ)発現を導くものが含まれる。発現ベクターの設計は、形質転換される宿主細胞の選択、所望のペプチド化合物の発現レベルなどのような要因により左右されることが、当業者には認識されると思われる。本発明の発現ベクターは、宿主細胞に導入され、それにより、本明細書に記載の核酸によりコードされるペプチド化合物を産生することができる。
【0062】
本発明の組み換え発現ベクターは、原核細胞又は真核細胞におけるペプチド化合物の発現のため設計されうる。例えば、ペプチド化合物は、大腸菌のような細菌細胞、昆虫細胞(バキュロウイルス発現ベクターを用いる)、酵母細胞、又は哺乳動物細胞において発現されうる。適当な宿主細胞は、Goeddel; Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, Calif.(1990)にさらに論じられている。又は、組み換え発現ベクターは、例えばT7プロモーター調節配列及びT7ポリメラーゼを用いて、インビトロで転写及び翻訳されうる。酵母S.セレビシエ(S.cerevisae)における発現のためのベクターの例には、pYepSec1(Baldariら,(1987)EMBO J.6:229-234)、pMFa(KurjanおよびHerskowitz,(1982)Cell 30:933-943)、pJRY88(Schultzら,(1987)Gene 54:113-123)、及びpYES2(Invitrogen Corporation, San Diego, Calif.)が含まれる。培養昆虫細胞(例えば、Sf9細胞)におけるタンパク質又はペプチドの発現のために利用可能なバキュロウイルスベクターには、pAc系(Smithら,(1983)Mol.Cell.Biol.3:2156-2165)及びpVL系(Lucklow,V.A.,およびSummers,M.D.,(1989)Virology 170:31-39)が含まれる。哺乳動物発現ベクターの例には、pCDM8(Seed,B.,(1987)Nature 329:840)及びpMT2PC(Kaufmanら(1987),EMBO J.6:187-195)が含まれる。哺乳動物細胞において用いられる場合、発現ベクターの調節機能は、ウイルス性調節要素により提供される場合が多い。例えば、一般的に用いられるプロモーターは、ポリオーマ、アデノウイルス2型、サイトメガロウイルス、及びSV40由来のものである。
【0063】
前述の制御調節配列に加え、組み換え発現ベクターは、付加的なヌクレオチド配列を含有しうる。例えば、組み換え発現ベクターは、ベクターを取り込んだ宿主細胞を同定するための選択可能マーカー遺伝子をコードしうる。そのような選択可能マーカー遺伝子は、当技術分野において周知である。さらに、宿主細胞、特に哺乳動物宿主細胞からのペプチド化合物の分泌を促進するため、組み換え発現ベクターは、好ましくは、ペプチド化合物が発現時にそのアミノ酸と融合したシグナル配列と共に合成されるように、ペプチド化合物のアミノ末端をコードする配列と機能的に結合したシグナル配列をコードする。このシグナル配列は、ペプチド化合物を細胞の分泌経路へと導き、その後、切断され、宿主細胞からの成熟ペプチド化合物(即ち、シグナル配列を含まないペプチド化合物)の放出を可能にする。哺乳動物宿主細胞からのタンパク質又はペプチドの分泌を促進するためのシグナル配列の使用は、当分技術野において周知である。
【0064】
γインターフェロン産生を阻害するか又は血管新生を阻害するペプチド化合物をコードする核酸を含む組み換え発現ベクターは、宿主細胞へ導入され、それにより宿主細胞においてペプチド化合物を産生することができる。従って、本発明は、本発明の組み換え発現ベクターを含有する宿主細胞も提供する。「宿主細胞」及び「組み換え宿主細胞」という用語は、本明細書において互換的に用いられる。そのような用語は、特定の対象細胞のみならず、そのような細胞の継代細胞、又は継代細胞である可能性のある細胞をもさすことが理解される。変異又は環境的影響のいずれかのため後代においてはある種の修飾が起こりうるため、そのような継代細胞は、実際は、親細胞と同一でないかもしれないが、それでも、本明細書において用いられるようにその用語の範囲内に含まれる。宿主細胞は、任意の原核細胞又は真核細胞でありうる。例えば、ペプチド化合物は、大腸菌のような細菌細胞、昆虫細胞、酵母、又は哺乳動物細胞において発現されうる。好ましくは、ペプチド化合物は、哺乳動物細胞において発現されうる。好ましい態様において、ペプチド化合物は、遺伝子治療により被験者における状態を治療するため、哺乳動物対照におけるインビボの哺乳動物細胞において発現される(以下に更に論じる)。好ましくは、組み換え発現ベクターによりコードされるペプチド化合物は、宿主細胞において発現されたとき宿主細胞から分泌される。
【0065】
ベクターDNAは、通常の形質転換又はトランスフェクションの技術を介して原核細胞又は真核細胞へ導入される。本明細書において用いられるように、「形質転換」及び「トランスフェクション」という語は、リン酸カルシウム又は塩化カルシウム共沈殿、DEAEデキストラン媒介トランスフェクション、リポフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、及びウイルス媒介トランスフェクションを含む、外因性核酸(例えば、DNA)を宿主細胞へ導入するための、当技術分野において認識されている多様な技術をさす。宿主細胞を形質転換又はトランスフェクトするための適当な方法は、Sambrookら,(Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989))及びその他の実験マニュアルに見出されうる。インビボの哺乳動物細胞へDNAを導入するための方法も、当技術分野において既知であり、遺伝子治療の目的のため被験者にベクターDNAを輸送するために用いられうる(以下に更に論じる)。
【0066】
哺乳動物細胞の安定的なトランスフェクションのため、用いられる発現ベクター及びトランスフェクション技術により異なるが、細胞のほんの一部のみが、外因性DNAをゲノム中に組み込むことができることが、既知である。これらの組込み体を同定及び選択するため、一般的に、選択可能マーカー(例えば、抗生物質に対する耐性)をコードする遺伝子を、目的の遺伝子と共に宿主細胞に導入する。好ましい選択可能マーカーには、G418、ハイグロマイシン、及びメトトレキセートのような薬物に対する耐性を与えるものが含まれる。選択可能マーカーをコードする核酸は、ペプチド化合物をコードする核酸と同一のベクターで宿主細胞へ導入されてもよいし、別々のベクターで導入されてもよい。導入された核酸で安定的にトランスフェクションされた細胞は、薬物選択により同定されうる(例えば、選択可能マーカー遺伝子を取り込んだ細胞は生存するが、他の細胞は死滅する)。
【0067】
本発明の核酸は、DNAの直接注入、受容体媒介DNA取り込み、又はウイルス媒介トランスフェクションのような当技術分野において既知の方法を用いて、インビボの細胞へ輸送されうる。直接注入は、裸のDNAをインビボの細胞へ導入するために用いられている(例えば、Acsadiら(1991)Nature 332:815-818; Wolffら(1990)Science 247:1465-1468を参照のこと)。インビボの細胞にDNAを注入するための輸送装置(例えば、「遺伝子銃」)が用いられうる。そのような装置は商業的に入手可能である(例えば、BioRadから)。細胞表面受容体に対するリガンドとカップリングしたポリリジンのような陽イオンと、DNAを複合体化することによって、裸のDNAを細胞に導入することもできる(例えば、Wu,G.およびWu,C.H.(1988)J.Biol.Chem.263:14621; Wilsonら(1992)J.Biol.Chem.267:963-967; 及び米国特許第5,116,320号を参照のこと)。DNA−リガンド複合体と受容体との結合により、受容体媒介エンドサイトーシスによるDNAの取り込みが促進される。さらに、天然にエンドソームを破壊し、それにより材料を細胞質へと放出するアデノウイルス・カプシドと結合したDNA−リガンド複合体が、細胞内リソソームによる複合体の分解を回避するため用いられうる(例えば、Curielら(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:8850; Cristianoら(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:2122-2126を参照のこと)。
【0068】
欠陥レトロウイルスが、遺伝子治療目的の遺伝子移入における使用のため、よく特徴決定されている(概説については、Miller,A.D.(1990)Blood 76:271を参照のこと)。組み換えレトロウイルスを作製し、そのようなウイルスをインビトロ又はインビボの細胞に感染させるためのプロトコルは、Current Protocols in Molecular Biology,Ausubel,F.M.ら、(eds.)Greene Publishing Associates,(1989),Sections 9.10-9.14及びその他の標準的な実験マニュアルに見出されうる。適当なレトロウイルスの例には、当業者に周知のpLJ、pZIP、pWE、及びpEMが含まれる。適当なパッケージング・ウイルス系の例には、.pψi.Crip、.pψi.Cre、.pψi.2、及び.pψi.Amが含まれる。レトロウイルスは、インビトロ及び/又はインビボの上皮細胞、内皮細胞、リンパ球、筋芽細胞、肝細胞、骨髄細胞を含む多くの異なる細胞型へ、多様な遺伝子を導入するために用いられている(例えば、Eglitis,ら、(1985)Science 230:1395-1398; DanosおよびMulligan(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:6460-6464; Wilsonら(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:3014-3018; Armentanoら(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:6141-6145; Huberら(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:8039-8043; Ferryら(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:8377-8381; Chowdhuryら(1991)Science 254:1802-1805; van Beusechemら(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:7640-7644; Kayら(1992)Human Gene Therapy 3:641-647; Daiら(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10892-10895; Hwuら(1993)J.Immunol.150:4104-4115; 米国特許第4,868,116号; 米国特許第4,980,286号; 国際公開公報第89/07136号; 国際公開公報第89/02468号; 国際公開公報第89/05345号; 及び国際公開公報第92/07573号を参照のこと)。
【0069】
また、アデノウイルスのゲノムを、正常な溶解性ウイルス生活環において複製する能力に関して不活化されることなく、本発明のペプチド化合物をコードし発現するように操作することができる。例えば、Berknerら(1988)BioTechniques 6:616; Rosenfeldら(1991)Science 252:431-433; 及びRosenfeldら(1992)Cell 68:143-155を参照のこと。アデノウイルス株Ad5型d1324又はその他のアデノウイルス株(例えば、Ad2、Ad3、Ad7など)に由来する適当なアデノウイルスベクターは、当業者に周知である。組み換えアデノウイルスは、効率的な遺伝子輸送媒体となるために分裂細胞を必要とせず、気道上皮(Rosenfeldら(1992)、前記)、内皮細胞(Lemarchandら(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:6482-6486)、肝細胞(HerzおよびGerard(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:2812-2816)、及び筋細胞(Quantinら(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:2581-2584)を含む極めて多様な細胞型を感染させるために用いられうるために有利である。
【0070】
アデノ関連ウイルス(AAV)も、遺伝子治療目的のためのDNAの輸送に用いられうる。AAVは、効率的な複製及び生産的な生活環のために、ヘルパーウイルスとして、アデノウイルス又はヘルペスウイルスのような他のウイルスを必要とする、天然に存在する欠陥ウイルスである。(概説については、MuzyczkaらCurr.Topics in Micro. and Immunol.(1992)158:97-129を参照のこと)。それも、非分裂細胞中にDNAを組み込むことができる数少ないウイルスのうちの一つであり、高頻度の安定的な組み込みを示す(例えば、Flotteら(1992) Am.J.Respir.Cell.Mol.Biol.7:349-356; Samulskiら(1989)J.Virol.63:3822-3828; 及びMcLaughlinら(1989)J.Virol.62:1963-1973を参照のこと)。Tratschinら(1985)Mol.Cell.Biol.5:3251-3260に記載されているもののようなAAVベクターが、DNAを細胞へ導入するために用いられうる。AAVベクターを用いて、多様な核酸が異なる細胞型に導入されている(例えば、Hermonatら(1984)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:6466-6470; Tratschinら(1985)Mol.Cell.Biol.4:2072-2081; Wondisfordら(1988)Mol.Endocrinol.2:32-39; Tratschinら(1984)J.Virol.51:611-619; 及びFlotteら(1993)J.Biol.Chem.268:3781-3790 )。
【0071】
もう一つの態様において、本発明は、ペプチド化合物が被験者において合成され、被験者が癌又は自己免疫疾患に関連した障害のため治療されるよう、SDF-1由来ペプチド化合物をコードする組み換え発現ベクターを被験者に投与することを含む、癌又は自己免疫疾患(例えば、多発性硬化症)に罹患した被験者を治療するための方法を提供する。ペプチド化合物は、天然SDF-1と比較して少なくとも一つのアミノ酸欠失を有するペプチド断片を含みうる。
【0072】
CXCR4アンタゴニストは、癌治療の領域においてもさらに適用されうる。固形腫瘍の増殖は、血管新生依存性であり、(血管形成にとって必須である)上皮細胞はSDF-1受容体を保持しているため、SDF-1由来アンタゴニストは、それらの抗血管新生効果により、腫瘍増殖を阻害できる可能性がある。
【0073】
遺伝子治療のための一般的な方法は、当技術分野において既知である。例えば、アンダーソン(Anderson)らによる米国特許第5,399,346号を参照のこと。遺伝子材料を輸送するための生体適合性カプセルが、ベテージ(Baetage)らによる国際公開公報第95/05452号に記載されている。中枢神経系障害を治療するため遺伝学的に修飾された細胞を移植するための方法は、米国特許第5,082,670号及び国際公開公報第90/06757号及び第93/10234号に記載されている。これらは全てゲージ(Gage)らによる。
【0074】
さらに、γインターフェロン産生を阻害するか又は血管新生を阻害するためのSDF-1由来ペプチドの発現の代わりに、SDF-1前駆タンパク質mRNAの、本明細書に記載のペプチドに対応する領域に相補的なアンチセンス・オリゴヌクレオチドを、γインターフェロン産生を阻害するか又は血管新生を阻害するため、被験者において発現させることができる。神経系障害をモデュレートするためのアンチセンス・オリゴヌクレオチドを発現させるための一般的な方法は、国際公開公報第95/09236号に記載されている。
【0075】
ペプチドは、(Clark-Lewis,I.,Dewald,B.,Loetscher,M.,Moser,B.,およびBaggiolini,M.,(1994)J.Biol.Chem.,269,16075-16081に開示されているような)標準的な方法に従い調製され、標準的な方法に従いCXCR4アンタゴニスト活性に関してアッセイされうる。ペプチドは、HPLCにより精製され、質量分析により分析されうる。ペプチドは、10%DMSOを含む水を用いて、システインの穏和な酸化により形成されるジスルフィド架橋を介して二量体化されうる。HPLC精製後、二量体形成が質量分析により確認されうる。
【0076】
CXCR4アンタゴニストアッセイ法のため、ヒト末梢血単核細胞が、標準的な方法を用いて、例えば給血者の血液軟膜からフィコールパック(Ficoll-Paque)における遠心分離により単離されうる。細胞は、記載(Loetscher,P.,Seitz,M.,Clark-Lewis,I.,Baggiolini,M.,およびMoser,B.,(1994)FASEB J.,8,1055-1060)のようにして、フィトヘマグルチニン(1.0μg.ml−1)で処理され、IL-2(100U.ml−1)の存在下で7から17日間増幅されうる。これらの細胞は、CXCR4受容体活性の様々なアッセイ法のための「Tリンパ球」として用いられうる。ヒト・リンパ芽種CD4+T細胞系であるCEM細胞(ATCC,Rockville MD)は、15μg.ml−1の8-アザグアニン(Aldrich Chemical Company,Milwaukee WI)及び10%FCSを含有するRPMI培地中で培養されうる。
【0077】
Tリンパ球又はCEM細胞の移動は、標準的な方法に従い評価されうる。そのような方法は、3μmの孔を有するコラーゲン・コーティングされたポリビニルピロリドンを含まないポリカーボネート膜を用いた48穴チャンバー(NeuroProbe,Cabin John MD)を利用しうる(Loetscher,P.,Seitz,M.,Clark-Lewis,I.,Baggiolini,M.,およびMoser,B.,(1994)FASEB J.,8,1055-1060)。1時間の移動後、1000×の倍率において、5つの無作為に選択された視野で移動した細胞が計数されうる。直径6.5mmのチャンバー及び3μmの膜孔サイズを有する使い捨てのトランスウェル(Transwell)トレー(Colstar, Cambridge MA)が、CEM細胞の走性をアッセイするために用いられうる。10mg.ml−1のBSA(0.6Ml)が追加されたヘルペス緩衝RPMI1640中に含まれた推定アンタゴニストが、下方ウェルに添加され、同培地中に含まれた0.1mlのCEM細胞(1×107.ml−1)が上方ウェルに添加されうる。モノクローナル抗体12G5(von Tscharner,V.,Prod'hom,B.,Baggiolini,M.,およびReuter,H.,(1986)Nature,324,369-372; R&D Systems,Minneapolis MN)が、10μg.ml−1で、0℃で15分間、細胞と共にプレインキュベートされうる。抗体は、10μg.ml−1で下方ウェルにも添加されうる。2時間後、下方ウェルへ移動した細胞が計数されうる。走性による移動は、培地のみで移動した細胞を差し引くことにより決定することができる。
【0078】
CXCR4に対するそれらの活性についてアッセイされた様々なペプチドの配列が、図1に示されている。SDF(1-8)ペプチド及びSDF(1-9)ペプチドの両方が、CEM細胞の用量依存的な走性を誘導した(図2a)。最大応答の50%に必要な濃度(EC50)が、表1に要約されている。1-9ペプチドは、天然のSDF-1より約1,000倍効力が低かった。しかし、1-9ペプチドは1-8ペプチドより7倍効力が高かった。ペプチドは、Tリンパ球においても試験され(図2b)、SDF-1又はペプチドに対する応答性がTリンパ球の方が低かったことを除き、その結果は、CEM細胞で得られた結果と類似していた。SDF-1(1-9)の化学誘引活性は、SDF-1アンタゴニスト、SDF-1(1-67)[P2G](Crump,M.,Gong J.-H.,Loetscher,P.,Rajarathnam,K.,Amara,A.,Arenzana-Seisdedos,F.,Virelizier,J.-L.,Baggiolini,M.,Sykes,B.D.,およびClark-Lewis,I.,(1997)EMBO J.,16,6996-7007)により完全に阻害されたが、CXCR1を遮断するIL-8アンタゴニスト(Crump,M.,Gong J.-H.,Loetscher,P.,Rajarathnam,K.,Amara,A.,Arenzana-Seisdedos,F.,Virelizier,J.-L.,Baggiolini,M.,Sykes,B.D.,およびClark-Lewis,I.,(1997)EMBO J.,16,6996-7007)によっては阻害されなかった(図3)。
【0079】
N末端CXCモチーフ及びRFFESH結合ドメインの両方を含むようペプチド長を増大させる効果を調査するため、本発明者らはSDF-1(1-17)を調製した。このペプチドは、1-9よりも効力が高かったが、1-9二量体よりは化学誘引活性が数倍低かった(図2a)。1-17の二量体化は、その効力に影響を与えなかった(示されていない)。このことから、P2G置換が存在するSDF-1(1-17)ペプチドが活性なCXCR4アンタゴニストであろうことが示唆された。
【0080】
125I標識SDF-1のCEM細胞への結合に対する競合は、記載(Crump,M.,Gong J.-H.,Loetscher,P.,Rajarathnam,K.,Amara,A.,Arenzana-Seisdedos,F.,Virelizier,J.-L.,Baggiolini,M.,Sykes,B.D.,およびClark-Lewis,I.,(1997)EMBO J.,16,6996-7007)のようにして実施されうる。THP-1細胞へのMCP-1及びRANTESの結合が測定されうる(Gong J.-H.,Uguccioni,M.,Dewald,B.,Baggiolini,M.,およびClark-Lewis,I.,(1996)J.Biol.Chem.,271,10521-10527)。
【0081】
SDF-1ペプチドのCXCR4への結合を決定するため、CEM細胞が用いられうる(Crump,M.,Gong J.-H.,Loetscher,P.,Rajarathnam,K.,Amara,A.,Arenzana-Seisdedos,F.,Virelizier,J.-L.,Baggiolini,M.,Sykes,B.D.,およびClark-Lewis,I.,(1997)EMBO J.,16,6996-7007)。例えば、未標識天然SDF-1及びN末端ペプチドによる125I標識天然SDF-1の結合に対する競合が、図4に示されている。Kd値が表1に要約されている。ペプチドが他のケモカイン受容体に結合するか否かを決定するため、THP-1細胞へのMCP-1又はRANTESの結合に対する競合が測定されうる。THP-1細胞は、CXCR4のみならず、MCP-1及びRANTESの受容体を含む多数のCCケモカイン受容体を発現する。
【0082】
Fura-2を負荷されたTリンパ球及びCEM細胞が、推定アンタゴニストで刺激され、[Ca2+]iに関連した蛍光の変化が0〜60秒間記録されうる(Jones,S.A.,Dewald,B.,Clark-Lewis,I.,およびBaggiolini,M.,(1997)J.Biol.Chem.,272,16166-16169)。受容体減感作は、60秒間隔での連続的な添加の間の変化をモニターすることにより試験されうる。細胞は、ケモカイン処理の前に12G5抗体と共にプレインキュベートされうる。
【0083】
天然SDF-1及びN末端ペプチドのようなCXCR4アゴニストは、Tリンパ球(図5a)及びCEM細胞(図6)における細胞質濃度[Ca2+]iの迅速かつ一過的な上昇を誘導する。速度及び大きさは、濃度と共に増加しうる。SDF-1に対する応答は、1×10−9Mで観察されたが、ペプチドはマイクロモルの範囲では[Ca2+]iの変化を誘導しなかった。SDF-1由来ペプチドの受容体使用は、連続的な刺激後の[Ca2+]iの変化をモニターすることにより評価されうる。図5aに示されるように、SDF-1によるTリンパ球の処理は、1-9ペプチドに対する応答性を完全に消失させ、逆に、1-9ペプチドも天然SDF-1に対する応答を顕著に減弱させた。1-9二量体(50μM)は、その後の天然SDF-1に対する応答を完全に減感作した(示されていない)。Tリンパ球をMCP-1、RANTES、MIP-1β、IP10、又はMigで予備刺激した場合、1-9ペプチドに対する応答への影響は観察されなかった(図5b)。用いられた条件下で、これらの細胞により、エオタキシン、1-309、又はTARCに対する応答は得られず(図5b)、予想通りそれらは1-9を減感作しなかった。
【0084】
ペプチドは、CXCR4遮断モノクローナル抗体を用いて、受容体結合に関してアッセイされうる(von Tscharner,V.,Prod'hom,B.,Baggiolini,M.,およびReuter,H.,(1986)Nature,324,369-372)。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】天然SDF-1の配列(先行技術)。
【図2】SDF-1ペプチドの化学誘引活性。SDF-1ペプチド:1-8(白四角);1-9(白三角);1-9二量体(黒三角);及び1-9[Aba](十文字付き四角);並びに天然SDF-1(黒丸)に応答したCEM細胞(a);及びTリンパ球(b)の濃度依存的な移動。示されたデータは、移動した細胞の平均±SDである。2回のさらなる実験において類似の結果が得られた。
【図3】ケモカインアンタゴニストによる走性阻害。示された濃度のSDF-1アンタゴニスト、SDF-1(1-67)[P2G](白四角)又はIL-8アンタゴニスト、IL-8(6-72)(白丸)の存在下でSDF-1(1-9)ペプチド(10μM)により誘導されたCEM細胞の移動。移動は、アンタゴニストの非存在下(対照、黒四角)で得られた応答に対するパーセントとして表されている。示されたデータは、2つの別々の実験からのデュプリケートの測定値の平均±SDである。
【図4】SDF-1ペプチドの受容体結合。1-8(白四角);1-9(白三角);1-9二量体(黒三角);及び1-9[Aba-9](十文字付き四角);天然SDF-1(黒丸)による、CEM細胞への125I-SDF-1(4nM)の特異的結合に対する競合。競合因子の非存在下で結合した特異的cpm(斜線付き四角)に対するパーセンテージが示されている。2回から6回の実験からの代表的な結果である。
【図5】SDF-1ペプチドの受容体選択性。Fura-2を負荷されたTリンパ球を、ケモカイン及びSDF-1(1-9)で連続的に刺激し、得られた(Ca2+)i依存性蛍光変化を記録した。(a)SDF-1及び1-9ペプチドの交差減感作。(b)示されたCXCケモカイン又はCCケモカインによるSDF-1(1-9)の減感作の欠如。1nMで添加されたSDF-1を除き、ケモカインを100nMで添加し、その60s後に1-9ペプチド(30μM)を添加した。示された結果は、2回から3回の独立の実験の代表的な結果である。
【図6】ライン-1肺癌(PBS緩衝液50μl当たり5×105)を、各BALB/cマウス(雄、6〜8週齢、Jackson Labs,Bar Harbour,MEより購入)の背中に皮下注射した。マウスを盲目的に4つの群に分割した(各群3匹)。移植の直後、SDF-1P2G(100μlのPBS緩衝液中9mg/kg)を、マウスの腹腔内又は皮下に投与した。対照マウスには、同用量のウシ血清アルブミン(BSA)又はPBS緩衝液のみを注射した。注射は1日に1回行った。腫瘍のサイズを1日毎に記録した。16日目、腫瘍の重量を決定した。腫瘍及び肺の切片を染色し、血管及び転移について形態学的に観察した。腫瘍のサイズの平均値±SEMが示されている。
【図7】ライン-1癌細胞(1×106/匹)を、前記と同様に(皮下)移植した。マウスを盲目的に4つの群に分割し(各群2匹)、SDF-1P2G(9mg/kg)又は二量体型のSDF(1-9)P2G(18mg/kg)で処理した。対照群には、PBS緩衝液のみ又はBSAを注射した。注射は1日に1回腹腔内に行った。腫瘍のサイズ及び重量を前記と同様に決定した。12日目、腫瘍の組織学を研究した。腫瘍のサイズの平均±SEMが示されている。
【図8】図7の実験からの腫瘍の重量。
【図9】全長SDF-1アンタゴニスト又は短縮ペプチド・アンタゴニストによる、マウス肺癌(ルイス肺癌)増殖の阻害。
【図10】12日目の腫瘍(ルイス肺癌)の重量。
【図11】ヒトT細胞におけるConAにより刺激されたインターフェロンγ産生に対するSDF-1の効果。
【図12】ヒトT細胞におけるConAにより刺激されたインターフェロンγ産生に対するSDF-1アンタゴニストの効果。
【図13】10nMのConAにより刺激されたインターフェロンγ産生に対する10nMのSDF-1及びアンタゴニストの効果。
【図14】二量体ペプチドアンタゴニスト化合物の構造。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0086】
実施例1
この実施例は、マウスモデルを用いた腫瘍増殖に対するCXCR4アンタゴニストの阻害効果を示す。
【0087】
用いられた2つのCXCR4アンタゴニストは、(i)全長SDF-1アンタゴニスト、SDF-1(1-67)[P2G]、及び(ii)短縮ペプチド二量体アンタゴニスト、SDF-1(1-9[P2G])2であった。用いられた2つの動物モデルは、(i)同系宿主、C57BL/6マウスにおけるルイス(Lewis)肺癌、及び(ii)同系宿主、BALB/cマウスにおけるライン-1(Line-1)癌(抗原性が弱く悪性が高い転移モデル)であった。1.5〜3ヶ月齢の雄のマウスを用いた。
【0088】
治療プロトコルは、以下の通りであった。0日目、腫瘍細胞(1〜2×106)を各マウスの背中に皮下(SC)移植した。腫瘍移植の直後にCXCR4アンタゴニストによる治療を開始した。リン酸緩衝液中に溶解したSDF-1(1-67)[P2G](9mg/kg/日)又はSDF-1(1-9[P2G])2二量体(18mg/kg/日)を、図に示されているように腹腔内(ip)注射した。注射は、合計12〜16日間、1日に1回行った。マイクロメーターで腫瘍のサイズを決定し、腫瘍の容積を幅2×長さの形態により計算した。各実験の最後に、腫瘍の重量を決定した。
【0089】
全長(SDF-1 P2G)及び短縮ペプチドSDF-1由来CXCR4アンタゴニストの両方が、ライン-1肺癌及びルイス肺癌の増殖を阻害した。12日目の対照と比較したとき、SDF-1(1-67)[P2G]は、9mg/kgの用量でライン-1肺癌の増殖を>80%阻害し(図6)、又は4mg/kgの用量では64%阻害した(図7)。ルイス肺癌に関しては、12日目に、SDF-1(1-67)[P2G]は、4mg/kgの用量で腫瘍増殖を45%阻害した(図9)。皮下注射によっても腫瘍増殖が阻害されたが、効率は腹腔内注射よりも低かった。
【0090】
CXCR4阻害剤による腫瘍増殖阻害の程度は、化合物のCXCR4アンタゴニスト活性の程度と相関していた。SDF-1(1-9)P2G二量体は、全長SDF-1(1-67)[P2G]類似体よりも、一般的に効力が低い腫瘍増殖の阻害剤であった。このことから、化学療法効果を媒介するのは、これらの化合物のアンタゴニスト活性であることが示される。にもかかわらず、SDF-1(1-9)P2G二量体でさえも、有意な腫瘍増殖阻害活性を示した。18mg/kgの用量で、SDF-1(1-9)P2G二量体は、12日目にライン-1腫瘍の増殖を35%阻害し、12日目にルイス肺癌の増殖を43%阻害した。腫瘍の重量は、一般的に、腫瘍サイズの測定値と相関していた(図8及び10)。
【0091】
組織学的研究は、CXCR4アンタゴニストで治療されたマウス由来の腫瘍が、対照マウスにおける腫瘍よりも、低い血管密度を有していたことを示し、このことから、SDF-1アンタゴニストが腫瘍の新血管新生を減少させるため血管新生阻害剤として機能することが示された。
【0092】
マウスモデルにおいて、最大18mg/kgの用量で、治療中にCXCR4アンタゴニストの毒性は検出されなかった。
【0093】
実施例2
本実施例は、活性化T細胞によるインターフェロンγ産生のCXCR4阻害剤による阻害を示す。
【0094】
以下のような標準的な方法を用いて、T細胞を単離し、培養した。健康な給血者から、静脈穿刺によりヒト血液を採取した。血液を抗凝固剤溶液(ACD)中に吸引し、等量の生理食塩水と混合し、ヒストパック(Histopaque)上に重層した。遠心分離(1200rpm、30分)後、上層血漿溶液を捨て、溶液間の界面の細胞を収集した。タイロード(Tyrode)緩衝液に再懸濁し細胞をペレット化するために遠心分離を行うことにより、細胞を2回洗浄した。最終的な細胞ペレットを、抗生物質及び20%胎児ウシ血清を含有するRPMI1640に再懸濁させた。接着細胞を付着させるため、細胞を2時間、組織培養フラスコ中に播いた。非接着細胞(Tリンパ球が濃縮されている)を、生存細胞を検出するためのトリパンブルーを用いて計数した。細胞を1ml当たり1×106という初期濃度で、5%CO2、95%空気を含む加湿インキュベーター中で、37℃で48時間培養した。1μg/mlのコンカナバリンA、1000ユニット/mlのインターフェロンβ、及び/又は様々な濃度のペプチドを、0時点で添加した。インターフェロンγ産生をアッセイするため、細胞をペレット化するため細胞懸濁液を遠心分離し、上清を市販のELISAアッセイキット(Pharmingen)を用いてアッセイした。
【0095】
表2は、様々な濃度(即ち、0、2.5、5、7.5、又は10nM)のSDF-1の存在下で、1μg/mlのコンカナバリンA(Con.A)による刺激の後、培養中のT細胞により産生されたインターフェロンγを示す。これらの研究において、インターフェロンβで処理された細胞は、SDF-1に応答してさらなるインターフェロンγを生成させなかった。しかし、SDF-1(1-67)[P2G]と共同でインターフェロンβで細胞を刺激した場合には、インターフェロンγの産生の有意な減少が見られた。
【0096】
〔表1〕 γインターフェロン産生(pg/mlγインターフェロン)
【0097】
表1は、コンカナバリンAによる刺激に応答して培養中のT細胞から放出されるインターフェロンγのレベルが、約4,000pg/mlであり、これが、インターフェロンβ処理により減少することを証明している。コンカナバリンAと同時にSDF-1でT細胞を処理することにより、インターフェロンγの産生は増強される。SDF-1の添加には、インターフェロンβの効果を逆転させる効果はない。
【0098】
対照的に、SDF-1由来CXCR4アンタゴニストは、T細胞からのγインターフェロンの産生に対する有意な効果を有する。これは、インターフェロンβによる研究と類似の実験により証明される。ヒトリンパ球を様々な濃度のSDF-1アンタゴニスト(SDF-1-P2G)に暴露し、その後コンカナバリンA(Con.A)により細胞を活性化した。SDF-1アンタゴニストに曝されたT細胞からのインターフェロンγの産生を測定し、アンタゴニストで処理されていないT細胞から放出された量と比較した。
【0099】
表2は、βインターフェロン処理の存在下及び非存在下(対照)における、コンカナバリンA(Con.A)により活性化されたT細胞からのγインターフェロンの放出に対する、CXCR4アンタゴニスト(SDF-1(1-67)[P2G])の効果を証明している。
【0100】
〔表2〕 SDF-1(1-67)[P2G]濃度(nM)
【0101】
表2のデータは、CXCR4アンタゴニストが、T細胞によるインターフェロンγの放出を消失させうることを証明している。さらに、SDF-1アンタゴニストがインターフェロンβと共に添加される場合には、インターフェロンγ産生の減少に対するさらに大きな効果が存在する。従って、CXCR4アンタゴニストは、活性化T細胞、例えば患者において生理学的に活性化されたT細胞によるγインターフェロン産生を減少させるため、インターフェロンβと共に用いられうる。例えば、CXCR4アンタゴニストは、MSを有する患者の治療において、インターフェロンβと共に用いられうる。
【0102】
表3は、それぞれインターフェロンβと共に用いられた場合の、Con.A活性化T細胞からのインターフェロンγ産生に対する、CXCR4アゴニスト(SDF-1)及びCXCR4アンタゴニスト(SDF-1(1-67)[P2G])の異なる効果を示す。比較のため、表4にインターフェロンβのみの場合のデータも示す。
【0103】
〔表3〕 ヒトT細胞からのインターフェロンγ産生に対する、10nMのSDF-1及びSDF-1(1-67)[P2G](アンタゴニスト)の効果
【0104】
CXCR4アンタゴニスト(SDF-1(1-67)[P2G])は、活性化T細胞からのインターフェロンγの産生のダウンレギュレーションにおけるインターフェロンβの効果を共同的に強化することができる。インターフェロンβ自体の添加は、T細胞からのインターフェロンγ放出の減少に対して小さな効果を有していた。SDF-1処理は、インターフェロンβの効果を変化させないが、SDF-1アンタゴニスト(SDF-1-P2G)は、インターフェロンγ産生の劇的な減少を引き起こす。
【0105】
表4は、βインターフェロンの非存在下における、コンカナバリンA(Con.A)により活性化されたT細胞からのγインターフェロンの放出に対する、CXCR4アンタゴニスト(SDF-1(1-67)[P2G])の異なる効果を示す。
【0106】
〔表4〕 ヒトT細胞からのインターフェロンγ産生に対する、0.1μM及び1μMのSDF-1(1-67)[P2G]の効果
【0107】
表4のデータは、CXCR4アンタゴニストがT細胞によるインターフェロンγの放出を消失させうることを証明している。従って、CXCR4アンタゴニストは、活性化T細胞、例えば、多発性硬化症に罹患した患者において生理学的に活性化されたT細胞によるインターフェロンγ産生を減少させるために用いられうる。
【0108】
表5は、βインターフェロンの非存在下におけるコンカナバリンA(Con.A)により活性化されたT細胞からのγインターフェロンの放出に対するCXCR4アンタゴニスト(SDF-1(1-9)P2G)の異なる効果を示す。
【0109】
〔表5〕 ヒトT細胞からのインターフェロンγ産生に対する、1μM及び10μMのSDF-1(1-9)[P2G]の効果
【0110】
表5のデータは、短縮されたペプチドCXCR4アンタゴニストが、T細胞によるインターフェロンγの放出を消失させうることを証明している。従って、長さが短縮されたCXCR4アンタゴニストは、活性化T細胞によるインターフェロンγ産生を減少させるために用いられうる。
【技術分野】
【0001】
発明の背景
本発明は、癌および自己免疫疾患の治療に用いられるCXCケモカイン受容体4のペプチドアンタゴニストを含む、ケモカイン受容体アンタゴニストの治療的使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
サイトカインは、免疫応答を調節する単球およびリンパ球を含む多様な細胞によって分泌される可溶性蛋白質である。ケモカインは化学誘引性蛋白質のスーパーファミリーである。ケモカインは様々な生物反応を調節し、それらは多数の系列の白血球およびリンパ球の生体臓器組織への動員を促進する。ケモカインは蛋白質に存在する最初の2つのシステイン残基の相対的な位置により、2つのファミリーに分類されることがある。第一のファミリーでは、最初の2つのシステインが1つのアミノ酸残基を隔てて存在するCXCケモカインであり、もう一つのファミリーでは最初の2つのシステインが隣接するCCケモカインである。
【0003】
ケモカインの分子標的は細胞表面受容体である。そのような受容体の一つは、CXCケモカイン受容体4(CXCR4)であり、これはG1にカップリングした7箇所の膜貫通蛋白質であり、これまでLESTR(ローチャー、ガイサー、オレイリー、ツァーレン、バジオンリニ、モサー(Loetsher, M., Geiser, T. O'Reilly, T., Zwahlen, R., Baggionlini, M., and Moser, B.)(1994)J. Biol. Chem. 269, 232〜237)、HUMSTR(フェダースピール、ダンカン、デラニー、シャパート、クラーク・ルイス、ジリク(Federsppiel, B., Duncan, A. M. V., Delaney, A., Shappert, K., Clark-Lewis, I., and Jirik, F. R.)(1993)Genomics 16, 707〜712)、およびフュージン(フェン、ブローダー、ケネディ、バーガー(Feng, Y., Broeder, C.C., Kennedy, P. E., and Berger, E. A.)(1996)、「HIV-1流入共因子:7箇所の膜貫通G-蛋白質カップリング受容体の機能的cDNAクローニング(HIV-1 entry cofactor:Functional cDNA cloning of a seven-transmembrane G protein-coupled receptor)」、Science 272、872〜877)と呼ばれていた。CXC4は、造血起源の細胞上に広く発現されており、ヒト免疫不全ウイルス1(HIV-1)に関してCD4+の主な共受容体である(フェン、ブローダー、ケネディ、バーガー(Feng, Y., Broeder, C.C., Kennedy, P. E., and Berger, E. A.)(1996)、「HIV-1流入共因子:7箇所の膜貫通G-蛋白質カップリング受容体の機能的cDNAクローニング(HIV-1 entry cofactor:Functional cDNA cloning of a seven-transmembrane G protein-coupled receptor)」、Science 272、872〜877)。
【0004】
現在、CXCR4の唯一の既知の天然のリガンドは、間質細胞由来因子1(SDF-1)である。間質細胞由来因子-1α(SDF-1α)(配列番号:6)および間質細胞由来因子-1β(SDF-1β)(配列番号:7)は近縁のメンバーである(本明細書において共にSDF-1と呼ばれる)。SDF-1αおよびSDF-1βの本来のアミノ酸配列は、これらの蛋白質をコードするゲノム配列と同様に既知である(1996年10月8日公布の米国特許第5,563,048号、および1998年5月26日公布の米国特許第5,756,084号)。
【0005】
SDF-1は骨髄前駆細胞の通行、輸送、およびホーミングに基本的な役割を有すると報告されているという点において他のケモカインとは機能的に異なる(アイウチ、ウェブ、ブルール、スプリンガー、およびギレツ・ラモス(Aiuti, A., Webb, I. J., Bleul, C., Springer, T., and Guierrez-Ramos, J. C.)(1996)、J. Exp. Med. 185、111〜120およびナガサワ、ヒロタ、タチバナ、タカクラ、ニシカワ、キタムラ、ヨシダ、キクタニ、キシモト(Nagasawa, T., Hirota, S., Tachibana, K., Takakura N., Nishikawa, S. I., Kitamura, Y., Yoshida, N., Kikutani, H., and Kishimoto, T.)(1996)Nature 382、635〜638)。SDF-1はまた、他のCXCケモカインとのアミノ酸配列同一性が約22%に過ぎないという点においても構造的に異なっている(ブルール、フールブリッジ、カサスノバス、アイウチ、およびスプリンガー(Bleul, C. C., Fuhlbridgge, R. C., Casasnovas, J. M., Aiuti, A., and Springer, T. A.)(1996)、J. Exp. Med. 184、1101〜1109)。SDF-1は、幾つかの細胞タイプによって構成的に産生されているように思われ、特に骨髄間質細胞に高レベルに認められる(シロズ、ナカノ、イナザワ、タシロ、タダ、シノハラおよびホンジョ(Shirozu, M., Nakano, T., Inazawa, J., Tashiro, K., Tada, H., Shinohara, T., and Honjo, T.)(1995)Genomics 28、495〜500およびブルール、フールブリッジ、カサスノバス、アイウチ、およびスプリンガー(Bleul, C. C., Fuhlbridgge, R. C., Casasnovas, J. M., Aiuti, A., and Springer, T. A.)(1996)、J. Exp. Med. 184、1101〜1109)。SDF-1の基本的な生理的役割は、種間のSDF-1配列の保存が高レベルであることから暗示される。インビトロにおいて、SDF-1は単球および骨髄由来前駆細胞を含む広範囲の細胞の化学走性を刺激する(アイウチ、ウェブ、ブルール、スプリンガー、およびギレツ・ラモス(Aiuti, A., Webb, I. J., Bleul, C., Springer, T., and Guierrez-Ramos, J. C.)(1996)、J. Exp. Med. 185、111〜120およびブルール、フールブリッジ、カサスノバス、アイウチ、およびスプリンガー(Bleul, C. C., Fuhlbridgge, R. C., Casasnovas, J. M., Aiuti, A., and Springer, T. A.)(1996)、J. Exp. Med. 184、1101〜1109)。特に顕著であるのは、SDF-1が高い割合の休止期Tリンパ球および活性化Tリンパ球を刺激できることである(ブルール、フールブリッジ、カサスノバス、アイウチ、およびスプリンガー(Bleul, C. C., Fuhlbridgge, R. C., Casasnovas, J. M., Aiuti, A., and Springer, T. A.)(1996)、J. Exp. Med. 184、1101〜1109およびキャンベル、ヘンドリック、ズロトニック、サイアニ、トンプソン、およびブッチャー(Campbell, J. J., Hendrick, J., Zlotnik, A., Siani, M. A., Thompson, D. A., and Butcher, E. C.)(1998)Science、279、381〜383)。
【0006】
SDF-1の3次元結晶学的構造は記述されている(クランプ、ゴン、ローチャー、ラジャラスナム、アマラ、アレンザナ・セイスデドス、ビレリジア、バジオリーニ、サイクス、クラーク・ルイス(Crump, M., Gong, J. H., Loetscher, P., Rajarathnam, K., Amara, A., Arenzana-Seisdedos, F., Virelizier, J. L., Baggiolini, M., Sykes, B. D., and Clark-Lewis, I.)(1997)EMBO J., 16、6996〜7007)。SDF-1の構造活性分析(クランプ、ゴン、ローチャー、ラジャラスナム、アマラ、アレンザナ・セイスデドス、ビレリジア、バジオリーニ、サイクス、クラーク・ルイス(Crump, M., Gong, J. H., Loetscher, P., Rajarathnam, K., Amara, A., Arenzana-Seisdedos, F., Virelizier, J. L., Baggiolini, M., Sykes, B. D., and Clark-Lewis, I.)(1997)EMBO J., 16、6996〜7007)により、N-末端残基1〜8または1〜9位が受容体の結合に関与しているが、1〜8および1〜9位のペプチド単独では受容体結合を示すインビトロ活性を示さないことが示されており、このことはペプチドが受容体との結合に必要な立体配置をとらないという報告された結論を支持する。この結果は、蛋白質の骨格構造の残り、および/または蛋白質のどこかにおける様々なコンセンサス受容体結合部位が、受容体にN-末端が結合するための構造的要件を媒介するために重要であることを意味すると解釈された(クランプ、ゴン、ローチャー、ラジャラスナム、アマラ、アレンザナ・セイスデドス、ビレリジア、バジオリーニ、サイクス、クラーク・ルイス(Crump, M., Gong, J. H., Loetscher, P., Rajarathnam, K., Amara, A., Arenzana-Seisdedos, F., Virelizier, J. L., Baggiolini, M., Sykes, B. D., and Clark-Lewis, I.)(1997)EMBO J., 16、6996〜7007)。これらの結果に基づき、残基1〜17位における2つの結合部位、すなわちN-末端部位と上流のRFFESH部位を含む、CXCR4に対するSDF-1の結合に関して2部位モデルが提唱されている(クランプ、ゴン、ローチャー、ラジャラスナム、アマラ、アレンザナ・セイスデドス、ビレリジア、バジオリーニ、サイクス、クラーク・ルイス(Crump, M., Gong, J. H., Loetscher, P., Rajarathnam, K., Amara, A., Arenzana-Seisdedos, F., Virelizier, J. L., Baggiolini, M., Sykes, B. D., and Clark-Lewis, I.)(1997)EMBO J., 16、6996〜7007)。2つの推定結合部位は配列:KPVSLSYR-CPC-RFFESH(配列番号:1)を特徴としており、この中で2つの推定結合部位が全てのCXCケモカインファミリーの特徴であるCXCモチーフによって結合している(クランプ、ゴン、ローチャー、ラジャラスナム、アマラ、アレンザナ・セイスデドス、ビレリジア、バジオリーニ、サイクス、クラーク・ルイス(Crump, M., Gong, J. H., Loetscher, P., Rajarathnam, K., Amara, A., Arenzana-Seisdedos, F., Virelizier, J. L., Baggiolini, M., Sykes, B. D., and Clark-Lewis, I.)(1997)EMBO J., 16、6996〜7007)。これらの2つの推定結合部位はその他のCCおよびCXCケモカインにおいて重要であると同定されている(クランプ、ゴン、ローチャー、ラジャラスナム、アマラ、アレンザナ・セイスデドス、ビレリジア、バジオリーニ、サイクス、クラーク・ルイス(Crump, M., Gong, J. H., Loetscher, P., Rajarathnam, K., Amara, A., Arenzana-Seisdedos, F., Virelizier, J. L., Baggiolini, M., Sykes, B. D., and Clark-Lewis, I.)(1997)EMBO J., 16、6996〜7007およびクランプ、ゴン、ローチャー、ラジャラスナム、アマラ、アレンザナ・セイスデドス、ビレリジア、バジオリーニ、サイクス、クラーク・ルイス(Crump, M., Gong, J. H., Loetscher, P., Rajarathnam, K., Amara, A., Arenzana-Seisdedos, F., Virelizier, J. L., Baggiolini, M., Sykes, B. D., and Clark-Lewis, I.)(1997)EMBO J., 16、6996〜7007)。これは、多様なケモカインのN-末端領域が受容体の活性化にとって重要であるが、SDF-1以外のケモカインのN-末端ペプチドは受容体結合活性を欠損するが受容体アンタゴニストではないと報告されている知見と一致する(クランプ、ゴン、ローチャー、ラジャラスナム、アマラ、アレンザナ・セイスデドス、ビレリジア、バジオリーニ、サイクス、クラーク・ルイス(Crump, M., Gong, J. H., Loetscher, P., Rajarathnam, K., Amara, A., Arenzana-Seisdedos, F., Virelizier, J. L., Baggiolini, M., Sykes, B. D., and Clark-Lewis, I.)(1997)EMBO J., 16、6996〜7007およびクランプ、ゴン、ローチャー、ラジャラスナム、アマラ、アレンザナ・セイスデドス、ビレリジア、バジオリーニ、サイクス、クラーク・ルイス(Crump, M., Gong, J. H., Loetscher, P., Rajarathnam, K., Amara, A., Arenzana-Seisdedos, F., Virelizier, J. L., Baggiolini, M., Sykes, B. D., and Clark-Lewis, I.)(1997)EMBO J., 16、6996〜7007)。
【0007】
CXCR4はHIV-1の主な共受容体であるという事実と一致して、SDF-1はHIV-1のCD4+細胞への流入を遮断する(オバーリン、アマラ、バチェレリー、ベシア、ビレリジア、アレンザナ・セイスデドス、シュワルツ、ハード、クラーク・ルイス、レグラー、ローチャー、バジオリーニおよびモサー(Oberlin, E., Amara, A., Bachelerie, F., Bessia, C., Virelizier, J. L., Arenzana-Seisdedos, F., Schwartz, O., Heard, J. M., Clark-Lewis, I., Legler, D. F., Loetscher, M., Baggiolini, M., and Moser, B.)(1996)Nature, 382、833〜835およびブルール、ファーザン、チョー、パロリン、クラーク・ルイス、ソドロスキ、およびスプリンガー(Bluel, C. C., Farzan, M., Choe, H., Parolin, C., Clark-Lewis, I., Sodroski, J., and Springer, T. A.(1996)Nature, 382、829〜833)。HIV流入を選択的に阻害するが、SDF-1シグナル伝達を阻害しないSDF-1由来ペプチドを同定する努力が行われている(ヘベカー(Heveker, N.)ら、1998、Current Biology 8(7):369〜376)。SDF-1について可能性がある広範囲のCXCR4結合断片は、HIV感染症を阻害するために用いることが提唱されている(1997年8月7日に公布された国際公開公報第9728258号;1998年2月5日に公布の国際公開公報第9804698号)。これらの引用文献が明らかにするように、SDF-1またはSDF-1の断片の抗HIV活性は、CXCR4受容体の拮抗に依存しない。
【0008】
インターフェロンγは活性化T-リンパ球(T細胞)によって放出され、強力な免疫調節物質として作用する重要なサイトカインである。インビボにおいてT細胞によってインターフェロンγが産生されると、生体内の他の細胞に、免疫応答の多くの局面を調節することができるさらなるサイトカイン、酵素、および抗体を放出させる可能性がある。活性化T細胞のインターフェロンγ産生能に影響を及ぼす物質は、免疫調節物質としての特徴を有する。
【0009】
自己免疫疾患は、一般的に、特にT細胞を含む白血球によるサイトカイン、リンフォトキシンおよび抗体の過剰産生によって引き起こされると理解される、一連の疾患である。自己免疫反応の際に、T細胞は自己免疫反応の病理的症状の発現に至るインターフェロンγのような化学メディエータを放出すると理解される。したがって、自己免疫疾患の治療は、T細胞からのインターフェロンγの放出を阻害することができる物質の使用を含んでもよい。そのような自己免疫疾患は例えば、多発性硬化症(MS)、ギラン・バレー症候群、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、アルツハイマー病、痛風、狼瘡、およびT細胞が主要な役割を有するその他のヒト疾患を含んでもよい。
【0010】
インターフェロンβは多様な自己免疫疾患の治療において治療的応用を有することが判明したサイトカインである。MSのような自己免疫疾患において、Th1型のT細胞の活性化は、自己免疫反応の主要な要素であると考えられている。MSでは、自己免疫反応は、ミエリン鞘神経軸索を攻撃する。Th1細胞活性化の古典的なマーカーの一つはインターフェロンγの産生である。MSを治療する治療物質としてのインターフェロンβの開発において、インターフェロンβがインビトロでリンパ球からのインターフェロンγの産生速度を減少させるか否かを証明するために試験を実施した(Ann. Neurol. 1988;44:27〜34およびNeurology 1998;50:1294〜1300)。インターフェロンβ処置によってインターフェロンγ放出が減少したことは、MSの治療にインターフェロンβが有効であることを示している。インターフェロンγの産生を阻害するその他の物質、特にインターフェロンβのような既存の物質の作用を増強するよう相乗的に作用する可能性がある物質を含む自己免疫疾患の治療に用いられる物質は、なおも必要とされている。
【0011】
固形腫瘍の増殖は一般的に、血管新生(angiogenesis)(血管新生(neovascularization))依存的であり、したがって、血管新生阻害剤は、固形腫瘍および転移の治療物質として用いられている。血管における内皮細胞(EC)は、血管新生において本質的な役割を果たしており、したがって、この活性を標的とする治療物質が必要である。血管新生の際の血管内皮細胞の増殖、走性、および分化は、正常および疾患状態の双方において、多様なケモカインとケモカイン受容体との複雑な相互作用によって調節されると理解される。CXCR4は、血管EC上に発現され、そのような細胞では、調べた全てのケモカイン受容体の中で最も豊富な受容体であると報告されている(グプタ(Gupta)ら、1998)。
【発明の概要】
【0012】
一つの局面において、本発明は、CXCR4アンタゴニストの様々な治療的使用を提供する。様々な態様において、CXCR4アンタゴニストは、以下のように治療的に用いてもよく、またはそのような治療的治療を行う薬物を製造するために用いてもよい:T細胞によるインターフェロンγ産生の減少、自己免疫疾患の治療、多発性硬化症の治療、その他の神経疾患の治療、癌の治療、および血管新生の調節。本発明の幾つかの局面において、CXCR4阻害剤は、特に多発性硬化症の治療においてβインターフェロンと共に、またはβインターフェロンを用いずに用いてもよい。本発明は、CXCR4アンタゴニストの治療的用量を薬学的に許容される製剤において投与する、薬物治療の対応する方法を提供する。したがって、本発明はまた、CXCR4アンタゴニストと上記のような薬学的に許容される賦形剤または担体とを含む治療的組成物を提供する。治療的組成物は生理的に許容されるpHで水溶液に可溶性であれば都合がよいと思われる。
【0013】
他の態様において、本発明において用いられるCXCR4アンタゴニストは、SDF-1の実質的に精製されたペプチド断片、修飾された断片、類似体または薬学的に許容される塩を含むペプチド化合物であってもよい。幾つかの態様において、ペプチド化合物は、R1が水素およびSDF-1の少なくとも一部と相同であるポリペプチドからなる群より選択される、N-末端アミノ酸配列KGVSLSYRC-R1(配列番号:2)を含んでもよい。
【0014】
さらなる態様において、ペプチド化合物は二量体N-末端アミノ酸配列(本明細書において第二の二量体はカルボキシル末端からアミノ末端方向に示す):KGVSLSYR-X-RYSLSVGK(配列番号:3の二量体、図14に示す)を含んでもよく、式中、Xはαおよびεアミノ基の双方がアミド結合形成に関係しているリジンアミノ酸であってもよく、リジンのカルボキシル基を保護してもよい。さらにもう一つの態様において、ペプチド化合物はさらに、二量体N-末端アミノ酸(本明細書において第二の二量体はカルボキシル末端からアミノ末端方向に示す):KGVSLSYRC-X-CRSLSVGK(配列番号:4の二量体、図14に示す)を含んでもよく、式中、Xはαおよびεアミノ基の双方が結合形成に関係しているリジンアミノ酸であってもよく、リジンのカルボキシル基を保護してもよい。または、上記二量体ペプチド化合物において、Xは複数のペプチドが架橋によって結合して、化合物に複数のN-末端を提供するように、ペプチドを共有結合する如何なる架橋形成部分であってもよい。
【0015】
発明の詳細な説明
本発明の様々な局面に従って、CXCR4アンタゴニストは、多様な自己免疫疾患を治療するため、または治療する薬物を生成するために用いてもよい。そのような疾患には、多発性硬化症、ギラン・バレー症候群(GBS)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、および神経系のその他の疾患、リウマチ性関節炎、乾癬、I型糖尿病、潰瘍性大腸炎、痛風、狼瘡、および移植の拒絶が含まれる。
【0016】
本発明の一つの局面に従って、CXCR4アンタゴニストはリンパ腫および癌腫のような癌を含むヒト病理疾患、並びにレストノシス(restonosis)における血管新生および細胞増殖を調節するために治療的に用いてもよい。一つの態様において、本明細書に例示するように、哺乳動物の癌のマウスモデルにおいて2つのペプチドCXCR4アンタゴニストが、血管新生および腫瘍の増殖を阻害するために用いられている。
【0017】
本発明のSDF-1アンタゴニストは、活性化T細胞によるγインターフェロンの産生を阻害するために用いてもよい。これは、T細胞によるγインターフェロンの産生が当技術分野において認識される疾患マーカーであることから、自己免疫疾患の治療に特に適用される可能性がある。インターフェロンγによって媒介されることがわかっている疾患の例は、MS(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95;675〜680、1998)、ギラン・バレー症候群(Ann. Neutol, 27;S57〜S63、1990)、自己免疫性腎損傷(J. Immunol. 161;494〜503、1998)、関節炎(Immunol. 95;480〜487、1998)、および様々なその他の神経疾患(Acta. Neurol. Scad. 90;19〜25、1994)である。インターフェロンγ媒介自己免疫疾患に関するより一般的な説明は、J. Immunol. 161;6878〜6884、1998およびJ. Exp. Med. 186;385〜391、1997に見ることができる。本発明の一つの態様において、ペプチドアンタゴニストSDF-1(1-67)[P2G]は、例えば、T細胞によるγインターフェロンの産生を阻害するために用いられている。同様に、ペプチドSDF-1(1-9)P2Gは、ヒトT細胞からのγインターフェロン放出を減少させる(すなわち、これらのペプチドはヒト自己免疫疾患の調節物質である)。
【0018】
本発明はまた、特に自己免疫疾患において、γインターフェロン産生を阻害するために用いてもよいCXCR4阻害剤を同定するためのアッセイ法を提供する。そのようなアッセイ法の態様は本明細書において実施例2に開示する。
【0019】
一つの態様において、アッセイ法はインターフェロンγを放出する、コンカナバリンA刺激T細胞を含む。アッセイ法において、T細胞をCXCR4アンタゴニストと推定される物質に接触させて、インターフェロンγ放出の程度を測定する。アンタゴニスト活性に関してアッセイする化合物は、インターフェロンγ産生量を減少させることができることに関して選択してもよい。
【0020】
同様に、血管新生を阻害する化合物のアッセイも本発明の範囲内に含まれる。アッセイにおいて、マウスにおいて血管を形成した腫瘍を、CXCR4アンタゴニストと思われる物質に接触させて、血管形成の程度を測定する。抗血管新生活性に関してアッセイする化合物は、腫瘍における血管形成量を減少させることができることに関して選択してもよい。
【0021】
様々な局面において、本発明はCXCR4アンタゴニストを利用する。幾つかの態様において、本発明において用いられるCXCR4アンタゴニストは、SDF-1αまたはSDF-1βのいずれかの実質的に精製されたペプチド断片、修飾されたペプチド断片、類似体または薬学的に許容される塩であってもよい。CXCR4のSDF-1由来ペプチドアンタゴニストは、既知の生理学的アッセイ法および多様な合成技術によって同定してもよい(そのそれぞれが参照として本明細書に組み入れられる:例えばクランプ(Crump)ら、1997、The EMBO Journal 16(23):6996〜7007;およびヘベカー(Heveker)ら、1998、Current Biology 8(7):369〜376、に開示される)。SDF-1のそのような類似体は、それらがCXCR4アンタゴニスト活性を有する限り、天然に存在するイソ型もしくは遺伝子変種、または天然のSDF-1配列の少なくとも一部と40%の配列同一性、60%の配列同一性もしくは好ましくは80%の配列同一性を有するようなSDF-1に対して実質的な配列類似性を有するポリペプチドのような天然のSDF-1の相同体を含む。幾つかの態様において、化学的に類似のアミノ酸を、本来のSDF-1配列におけるアミノ酸と置換してもよい(保存的アミノ酸置換が得られるように)。幾つかの態様において、N-末端のアミノ酸10個、もしくは好ましくは7個以内にN-末端LSY配列モチーフを有する、またはN-末端のアミノ酸20個以内にN-末端RFFESH(配列番号:5)配列モチーフを有するペプチドは、それらがCXCR4アンタゴニスト活性を有する限りにおいて用いてもよい。一文字アミノ酸コードおよび3文字アミノ酸コードは本明細書において互換的に用いられる。そのようなペプチドアンタゴニスト候補物質の一つのファミリーはN-末端にKPモチーフおよびアミノ酸5〜7位にLCYモチーフを有する。他のペプチドはさらに、アミノ酸12〜17位にRFFESH(配列番号:5)モチーフを含む。もう一つの態様において、LSYモチーフはペプチドの3〜5位に存在する。本発明はまた、それぞれが、N-末端のアミノ酸20個以内、または好ましくは10個以内でジスルフィド架橋によって結合し、システイン残基またはαアミノ酪酸残基を結合する前述の配列エレメントを有してもよい、2つのアミノ酸配列を有するペプチド二量体も提供する。
【0022】
一つの局面において、本発明は、2位のアミノ酸でグリシンがプロリンに置換されているCXCR4アンタゴニストを提供する。SDF-1(1-67)[P2G]と呼ばれるこの類似体の完全版(長さアミノ酸67個)は、強力なCXCR4受容体アンタゴニストである(クランプ(Crump)ら、1997、The EMBO Journal 16(23):6996〜7007)。多様な小さいSDF-1ペプチド類似体もまた、CXCR4アンタゴニストとして用いてもよい。そのようなペプチドの1つは、アミノ酸1〜9位の二量体であり、二量体のそれぞれのメンバーにおいて2位でグリシンがプロリンに置換されており、アミノ酸鎖はそれぞれの配列における9位のそれぞれのシステイン間のジスルフィド架橋によって結合している(SDF-1(1〜9[P2G])2と命名される)。SDF-1(1〜9[P2G])2は、検出可能な化学走性活性を示さなかったが(図2a)、SDF-1(1〜9)2に対して類似の親和性でSDF-1結合を競合した(図4)。SDF-1(1〜9[P2G])2二量体は用量依存的にSDF-1活性を阻害した(図3b)。SDF-1 10 nMの活性を50%阻害するためにはSDF-1(1〜9[P2G])2二量体50 μMを必要とし、その比は5,000倍であった。
【0023】
本発明は、CXCR4アンタゴニストを含む薬学的組成物を提供する。一つの態様において、そのような組成物は、γインターフェロンの産生を変化させる、好ましくは阻害するために十分な治療的または予防的有効量のCXCR4アンタゴニスト化合物と、薬学的に許容される担体とを含む。もう一つの態様において、組成物は、血管新生、好ましくは癌およびリンパ腫に関連した血管新生を阻害するために十分な治療的または予防的有効量のCXCR4アンタゴニスト化合物と、薬学的に許容される担体とを含む。「治療的有効量」とは、癌の場合には血管新生の減少もしくは逆転、または自己免疫疾患の場合ではT細胞からのγインターフェロン産生の減少もしくは阻害のような、望ましい治療的結果を得るために必要な用量および期間で有効な量を指す。CXCR4アンタゴニストの治療的有効量は、個体の疾患の状態、年齢、性別および体重、ならびに個体におけるCXCR4アンタゴニストの所望の反応の誘発能のような要因に応じて変化してもよい。投与レジメは最適な治療反応が得られるように調節してもよい。治療的有効量はまた、CXCR4アンタゴニストの毒性または有害な作用を治療的に有益な作用が上回る量である。「予防的有効量」とは、腫瘍の転移率または多発性硬化症の膿胞または発症の発現を予防もしくは阻害するような望ましい予防的結果を得るために必要な用量および期間で有効な量を指す。予防的有効量は、治療的有効量に関して先に述べたように決定することができる。典型的に、予防的用量は疾患の発病前、または初期段階に被験者に用いられ、予防的有効量は治療的有効量より少ないと思われる。
【0024】
特定の態様において、CXCR4アンタゴニストの治療的有効量または予防的有効量の好ましい範囲は0.1 nM〜0.1 M、具体的には0.1 nM〜0.05 M、より具体的には0.05 nM〜15 μM、および最も具体的には0.01 nM〜10 μMであってもよい。用量の値は特に多発性硬化症の場合、緩和すべき疾患の重症度に応じて変化してもよいことに注目すべきである。特定の被験者に関して、個々の需要、および組成物を投与する人または投与を管轄する人の専門的な判断に応じて、経時的に特定の用量レジメを調節しなければならず、本明細書において述べた用量範囲は説明のためであって、特許請求の範囲に述べる組成物の範囲または実践を制限すると解釈してはならないとさらに理解されるべきである。
【0025】
組成物中の活性化合物の量は、個体の疾患の状態、年齢、性別および体重のような要因に応じて変化してもよい。投与レジメは最適な治療反応が得られるように調節してもよい。例えば、ボーラス投与を1回行ってもよく、数回の分割用量を経時的に投与してもよく、または治療状況の緊急性によって示されるように用量はそれに応じて減少または増加させてもよい。投与を容易にするために、そして投与を均一に行うために、非経口投与組成物を単位投与剤形に製剤化することは特に都合がよい。本明細書において用いる単位投与剤形は、治療すべき哺乳動物被験者の単位用量として適している物理的に個別の単位を指す;それぞれの単位は必要な薬学的担体に関連して所望の治療的作用を生じるように計算される活性化合物の既定量を含む。本発明の単位投与剤形の詳細は、(a)活性化合物の独自の特徴および得られる特定の治療効果、および(b)個体における感受性を治療するための活性化合物のような化合物を合成する技術分野における固有の制限によって指図され、直接依存する。
【0026】
本明細書において用いるように、「薬学的に許容される担体」または「賦形剤」とは、生理学的に適合性である如何なる全ての溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤、および吸収遅延剤等を含む。一つの態様において、担体は非経口投与に適している。または、担体は静脈内、腹腔内、筋肉内、舌下、または経口投与に適することができる。薬学的に許容される担体には、滅菌水溶液または分散液、および滅菌注射用溶液または分散液の即時混合型調製用の滅菌粉末が含まれる。そのような媒体および物質を薬学的に活性な物質に用いることは当技術分野で周知である。従来の媒体または物質が活性化合物と不適合性である場合を除いて、これを本発明の薬学的組成物において用いることが考慮される。補助的な活性化合物もまた組成物に組み入れることができる。
【0027】
治療的組成物は典型的に、製造および保存条件下で滅菌かつ安定でなければならない。組成物は、溶液、微小乳液、リポソームまたは高い薬物濃度に適したその他の指示された構造に製剤化することができる。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール等)、および適したその混合液となりうる。適当な流動性は例えば、レシチンのようなコーティングを用いることによって、分散剤の場合には必要な粒子径を維持することによって、そして界面活性剤を用いることによって維持することができる。多くの場合、組成物に等張剤、例えば、糖、マンニトール、ソルビトール、または塩化ナトリウムのような多価アルコールを含むことが好ましいと思われる。注射可能な組成物の持続的な吸収は例えば吸収を遅らせる物質を、例えばモノステアリン酸塩およびゼラチン組成物に含めることによって、得ることができる。その上、CXCR4アンタゴニストは、持効性製剤、例えば徐放性ポリマーを含む組成物において投与することができる。活性化合物は、インプラントおよび微量封入輸送系を含む徐放製剤のような、化合物が急速に放出されないようにする担体と共に調製することができる。エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、ポリ乳酸およびポリ乳酸ポリグリコール酸コポリマー(PLG)のような生分解性ポリマーを用いることができる。そのような製剤を調製するための多くの方法は特許権が与えられているか、または一般的に当技術分野で既知である。
【0028】
滅菌注射可能溶液は、活性化合物(例えばCXCR4アンタゴニスト)を、必要に応じて上記列挙した成分の1つまたは組合せと共に適当な溶媒中で必要な量を組み入れて、その後濾過滅菌することによって調製することができる。一般的に、分散液は、基礎分散媒体と上記に列挙した成分から必要な他の成分とを含む滅菌媒体に活性化合物を組み入れることによって調製される。滅菌注射液を調製するための滅菌粉末の場合、好ましい調製法は、真空乾燥および凍結乾燥によって生じた活性成分に、あらかじめ濾過滅菌した溶液由来のさらなる所望の成分を添加する。
【0029】
本発明のもう一つの局面に従って、CXCR4アンタゴニストはCXCR4アンタゴニストの溶解度を増加させる1つまたはそれ以上のさらなる化合物と共に製剤化してもよい。
【0030】
本発明のもう一つの局面は、CXCR4受容体に結合するCXCR4アンタゴニストを選択する方法に関する。本方法において、試験化合物を活性化ヒトT-細胞と接触させ、γインターフェロンの産生を測定して、試験化合物のγインターフェロン産生の減少または阻害能に基づいてCXCR4アンタゴニストを選択する。試験化合物は、SDF-1αまたはSDF-1βのいずれかの実質的に精製されたペプチド断片、修飾された断片、類似体または薬学的に許容される塩であってもよい。好ましい態様において、試験化合物はT細胞のモル過剰量と接触させる。試験化合物の存在下でのγインターフェロン産生量および/または速度は、本明細書に記述のように適したアッセイ法によって決定することができる。γインターフェロン産生を阻害する試験化合物の存在下では、γインターフェロンの産生はCXCR4アンタゴニストが存在しない場合と比較して減少している。
【0031】
本発明のCXCR4アンタゴニスト化合物には、C-末端ヒドロキシメチル誘導体、O-修飾誘導体(例えば、C-末端ヒドロキシメチルベンジルエーテル)、アルキルアミドのような置換されたアミドおよびヒドラジドおよびC-末端のフェニルアラニンをフェネチルアミド類似体で置換した化合物(例えば、トリペプチドSer-Ile-Pheの類似体としてのSer-Ile-フェネチルアミド)を含むN-末端修飾誘導体のようなSDF-1誘導体が含まれる。
【0032】
本発明のCXCR4アンタゴニスト化合物において、ペプチド構造(SDF-1由来ペプチドのように)は、少なくとも1つの修飾基に直接または間接的にカップリングしてもよい。「修飾基」という用語は、ペプチド構造に間接的に結合する構造(例えば、SDF-1コアペプチド構造に隣接してもよい、さらなるアミノ酸残基、または模倣体、類似体もしくはその誘導体との安定な非共有結合的会合、または共有結合によって)、並びにペプチド構造(例えば共有結合によって)に直接結合する構造を含むと解釈される。例えば、修飾基はSDF-1ペプチド構造のアミノ末端もしくはカルボキシル末端、またはコアドメインに隣接するペプチドまたはペプチド模倣領域にカップリングすることができる。または、修飾基はSDF-1ペプチド構造の少なくとも1つのアミノ酸残基の側鎖、またはコアドメインに隣接するペプチドもしくはペプチド模倣領域にカップリングすることができる(例えば、リジン残基のεアミノ基を通じて、アスパラギン酸残基もしくはグルタミン酸残基のカルボキシル基を通じて、チロシン残基、セリン残基もしくはトレオニン残基のヒドロキシ基を通じて、またはアミノ酸側鎖上のその他の適した反応基を通じて)。ペプチド構造に共有結合的にカップリングした修飾基は、例えば、アミド、アルキルアミノ、カルバメートまたは尿素結合を含む化学構造の結合に関して、当技術分野で周知の手段および方法によって結合することができる。
【0033】
「修飾基」という用語は、天然の形態では、天然SDF-1ペプチドにカップリングしない基を含むと解釈される。したがって、「修飾基」という用語は水素を含まないと解釈される。修飾基は、CXCR4アンタゴニスト化合物が、好ましくは阻害するように、γインターフェロン産生を変化させるように選択される。
【0034】
本発明はまた、CXCR4アンタゴニスト化合物が、T細胞または腫瘍にそれぞれ接触させた場合に、腫瘍の血管新生を阻害するように選択される「修飾基」を提供する。
【0035】
好ましい態様において、修飾基は、環状、複素環状、または多環状基を含む。本明細書において用いられる「環状基」という用語は、炭素原子約3〜10個、好ましくは約4〜8個、より好ましくは約5〜7個を有する環状の飽和または不飽和(すなわち芳香族)基を含むと解釈される。例としての環状基には、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、およびシクロオクチルが含まれる。環状基は、非置換であってもよく、または1つもしくはそれ以上の環の位置で置換されていてもよい。このように、環状基は例えば、ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロサイクル、ヒドロキシル、アミノ、ニトロ、チオール、アミン、イミン、アミド、ホスホネート、ホスフィン、カルボニル、カルボキシル、シリル、エーテル、チオエーテル、スルホニル、スルホネート、セレノエーテル、ケトン、アルデヒド、エステル、-CF3、-CN等によって置換してもよい。
【0036】
「複素環状基」という用語は、環構造が約1〜4個のヘテロ原子を含む、炭素原子約3〜10個、好ましくは約4〜8個、より好ましくは約5〜7個を有する環状の飽和または不飽和(すなわち芳香族)基を含むと解釈される。複素環状基には、ピロリジン、オキソラン、チオラン、イミダゾール、オキサゾール、ピペリジン、ピペラジン、モルフォリンが含まれる。複素環は、例えば、ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、他のヘテロサイクル、ヒドロキシル、アミノ、ニトロ、チオール、アミン、イミン、アミド、ホスホネート、ホスフィン、カルボニル、カルボキシル、シリル、エーテル、チオエーテル、スルホニル、スルホネート、セレノエーテル、ケトン、アルデヒド、エステル、-CF3、-CN等のような置換基によって1つまたはそれ以上の基で置換することができる。複素環はまた、下記のように、他の環状基に架橋または融合してもよい。
【0037】
本明細書において用いられる「多環状基」という用語は2つまたはそれ以上の炭素が2つの隣接する基に共通である、例えば環が「縮合環」である、2つまたはそれ以上の飽和または不飽和(すなわち芳香族)環状環を意味すると解釈される。隣接しない原子を通じて結合される環は「架橋」環と呼ばれる。多環状基の環のそれぞれは、上記のような、例えば、ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、ヒドロキシル、アミノ、ニトロ、チオール、アミン、イミン、アミド、ホスホネート、ホスフィン、カルボニル、カルボキシル、シリル、エーテル、チオエーテル、スルホニル、スルホネート、セレノエーテル、ケトン、アルデヒド、エステル、-CF3、-CN等の置換基で置換することができる。
【0038】
「アルキル」という用語は直鎖アルキル基、分岐鎖アルキル基、シクロアルキル(脂環式)基、アルキル置換シクロアルキル基、およびシクロアルキル置換アルキル基を含む、飽和脂肪族基のラジカルを意味する。好ましい態様において、直鎖または分岐鎖アルキルはその骨格の炭素原子が20個またはそれより少なく(例えば、直鎖ではC1〜C20、分岐鎖ではC3〜C20)、より好ましくは10個またはそれより少ない。同様に、好ましいシクロアルキルは環構造の炭素原子が4〜10個であり、より好ましくは環構造における炭素原子が5、6または7個である。炭素数を特に明記していなければ、本明細書において用いられる「低級アルキル」は、上記の通りであるが、その骨格構造に炭素原子1〜6個を有するアルキル基を意味する。同様に、「低級アルケニル」および「低級アルキニル」は、炭素鎖の長さが類似である。好ましいアルキル基は低級アルキルである。好ましい態様において、本明細書においてアルキルと呼ばれる置換基は低級アルキルである。
【0039】
本明細書および特許請求の範囲を通じて用いられる「アルキル」(または「低級アルキル」)という用語は、「非置換アルキル」および「置換アルキル」の双方を含むと解釈され、後者は、炭化水素骨格の1つまたはそれ以上の炭素上の水素を置換する置換基を有するアルキル部分を意味する。そのような置換基は、例えば、ハロゲン、ヒドロキシル、カルボニル(カルボキシル、ケトン(アルキルカルボニルおよびアリールカルボニル基を含む)ならびにエステル(アルキルオキシカルボニルおよびアリールオキシカルボニル基を含む)のような、チオカルボニル、アシルオキシ、アルコキシル、ホスホリル、ホスホネート、ホスフィネート、アミノ、アシルアミノ、アミド、アミジン、イミノ、シアノ、ニトロ、アジド、スルフヒドリル、アルキルチオ、スルフェート、スルホネート、スルファモイル、スルホンアミド、ヘテロシクリル、アラルキル、または芳香族もしくはヘテロ芳香族部分を含むことができる。当業者は、炭化水素鎖上で置換された部分は、それ自身適当であれば置換することができることを理解すると思われる。例えば、置換アルキルの置換基は、アミノ、アジド、イミノ、アミド、ホスホリル(ホスホネートおよびホスフィネートを含む)、スルホニル(スルフェート、スルホンアミド、スルファモイル、およびスルホネートを含む)、ならびにシリル基のみならず、エーテル、アルキルチオ、カルボニル、(ケトン、アルデヒド、カルボキシレート、およびエステルを含む)、-CF3、-CN等の置換または非置換型を含んでもよい。一例としての置換アルキルを下記に示す。シクロアルキルはさらに、アルキル、アルケニル、アルコキシ、アルキルチオ、アミノアルキル、カルボニル置換アルキル、-CF3、-CN等によって置換することができる。
【0040】
「アルケニル」および「アルキニル」という用語は、長さが類似で、上記のアルキルとの置換が起こりうるが、それぞれ少なくとも1つの二重結合または三重結合を含む、不飽和脂肪族基を意味する。
【0041】
本明細書において用いられる「アラルキル」という用語は、少なくとも1つのアリール基で置換された(例えば、芳香族またはヘテロ芳香族基)アルキルまたはアルキレニル基を意味する。一例としてのアラルキルには、ベンジル(すなわち、フェニルメチル)、2-ナフチルエチル、2-(2-ピリジル)プロピル、5-ジベンゾスベリル等が含まれる。
【0042】
本明細書において用いられる「アルキルカルボニル」という用語は、-C(O)-アルキルを意味する。同様に、「アリールカルボニル」という用語は-C(O)-アリールを意味する。本明細書において用いられる「アルキルオキシカルボニル」という用語は-C(O)-O-アルキルを意味し、「アリールオキシカルボニル」という用語は-C(O)-O-アリールを意味する。「アシルオキシ」という用語は、R7がアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アラルキルまたはヘテロシクリルである、-O-C(O)-R7を意味する。
【0043】
本明細書において用いられる「アミノ」という用語は、R6およびR9がそれぞれ独立して、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アラルキル、アリールであるか、またはR6およびR9がそれらが結合する窒素原子と共に原子4〜8個を有する環を形成する、-N(R6)-(R9)を意味する。従って、本明細書において用いられる「アミノ」という用語は、非置換、モノ置換(例えば、モノアルキルアミノまたはモノアリールアミノ)、および二置換(例えば、ジアルキルアミノまたはアルキルアリールアミノ)アミノ基を含む。「アミド」という用語は、R8およびR9が上記の定義の通りである、-C(O)-N(R8)-(R9)を意味する。「アシルアミノ」という用語は、R7が上記の通りであり、R'8がアルキルである、-N(R'8)C(O)-R7を意味する。
【0044】
本明細書に用いられているように、「ニトロ」という用語は-NO2を意味し;「ハロゲン」とは、-F、-Cl、-Brまたは-Iを意味し;「スルフヒドリル」という用語は-SHを意味し;および「ヒドロキシル」という用語は-OHを意味する。
【0045】
本明細書に用いられる「アリール」という用語には、環にゼロから4個のヘテロ原子を含んでもよい、例えばフェニル、ピロリル、フリル、チオフェニル、イミダゾール、オキサゾール、チアゾリル、トリアゾリル、ピラゾリル、ピリジル、ピラジニル、ピリダジニル、およびピリミジニル等のような、5、6および7員環芳香族基が含まれる。環構造にヘテロ原子を有するそれらのアリール基もまた、「アリール複素環」または「ヘテロ芳香族」と呼んでもよい。芳香環は、1つまたはそれ以上の環の位置で、上記のような、例えば、ハロゲン、アジド、アルキル、アラルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヒドロキシル、アミノ、ニトロ、スルフヒドリル、イミノ、アミド、ホスホネート、ホスフィネート、カルボニル、カルボキシル、シリル、エーテル、アルキルチオ、スルホニル、スルホンアミド、ケトン、アルデヒド、エステル、ヘテロシクリル、芳香族またはヘテロ芳香族部分、-CF3、-CN等の置換基に置換することができる。アリール基はまた、多環状基の一部となりうる。例えば、アリール基にはナフチル、アントラセニル、キノリル、インドリル等のような縮合芳香族部分が含まれる。
【0046】
CXCR4アンタゴニスト化合物はそのカルボキシル末端で、当技術分野で既知の方法に従って、コリル基によって修飾することができる(例えば、ウェス(Wess, G.)ら、(1993)Tetrahedron Letters, 34:817〜822;ウェス(Wess, G.)ら、(1992)Tetrahedron Letters 33:195〜198;およびクラマー(Kramer, W)ら、(1992)J. Biol. Chem. 267:18598 〜18604を参照のこと)。コリル誘導体および類似体はまた、修飾基として用いることもできる。例えば、好ましいコリル誘導体は、CXCR4アンタゴニスト化合物をさらに修飾するために用いることができる遊離のアミノ基を有する、Aic(3-O-アミノエチル-イソ)-コリル)である。
【0047】
一つの態様において、修飾基はビオチニル基およびその類似体およびその誘導体(2-イミノビオチニル基のような)を含む「ビオチン化構造」であってもよい。もう一つの態様において、修飾基は、SDF-1由来ペプチド構造と5-(および6-)-カルボキシフルオレセイン、スクシニミジルエステルまたはフルオレセインイソチオシアネートとの反応に由来する基のような「フルオレセイン含有基」を含むことができる。様々なその他の態様において、修飾基は、N-アセチルノイラミニル基、トランス-4-コチニンカルボキシル基、2-イミノ-1-イミダゾリジンアセチル基、(S)-(-)-インドリン-2-カルボキシル基、(-)-メントキシアセチル基、2-ノルボルナンアセチル基、γ-オキソ-5-アセナフテンブチリル、(-)-2-オキソ-4-チアゾリジンカルボキシル基、テトラヒドロ-3-フロイル基、2-イミノビオチニル基ジエチレントリアミンペンタアセチル基、4-モルフォリンカルボニル基、2-チオフェンアセチル基、または2-チオフェンスルホニル基を含むことができる。
【0048】
修飾基は、ビオチニル構造を含む基、フルオレセイン含有基、ジエチレントリアミンペンタアセチル基、(-)-メトキシアセチル基、およびN-アセチルノイラミニル基を含んでもよい。より好ましい修飾基はコリル構造またはイミノビオチニル基を含む基である。
【0049】
上記の環状、複素環状、および多環状基のほかに、本発明のCXCR4アンタゴニストにはその他のタイプの修飾基を用いることができる。例えば、小さい疎水性の基は適した修飾基であるかも知れない。適した非環状修飾基の例はアセチル基である。
【0050】
本発明のCXCR4アンタゴニスト化合物は、化合物が血管新生の阻害能またはγインターフェロンの産生阻害能のいずれかを保持しながら、化合物の特定の特性を変化させるようにさらに修飾することができる。例えば、一つの態様において、インビボ安定性または半減期のような化合物の薬物動態特性を変化させるように、化合物をさらに修飾する。もう一つの態様において、検出可能な物質によって化合物を標識するように、化合物をさらに修飾する。さらにもう一つの態様において、化合物をさらなる治療的部位に化合物をカップリングさせるように修飾する。
【0051】
化合物を、その薬物動態特性を変化させるためなどの、さらに化学的に修飾するために反応基を誘導体化することができる。例えば、修飾基をSDF-1コアドメインのアミノ末端に結合させると、化合物のカルボキシル末端をさらに修飾することができる。好ましいC-末端修飾には、化合物のカルボキシペプチダーゼの基質としての作用能を減少させる修飾が含まれる。好ましいC-末端修飾物質の例には、アミド基、エチルアミド基、並びにD-アミノ酸およびβ-アラニンのような様々な非天然アミノ酸が含まれる。または、修飾基を凝集コアドメインのカルボキシル末端に結合させると、化合物のアミノ末端はさらに、例えば化合物のアミノペプチダーゼの基質としての作用能を減少させるようにさらに修飾することができる。
【0052】
CXCR4アンタゴニスト化合物は、検出可能な物質と化合物とを反応させることによって化合物を標識するようにさらに修飾することができる。適した検出可能な物質には、様々な酵素、補欠分子基、蛍光材料、発光材料、および放射活性材料が含まれる。適した酵素の例には、ホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、またはアセチルコリンエステラーゼが含まれ;適した補欠分子基の例には、ストレプトアビジン/ビオチン、およびアビジン/ビオチンが含まれ;適した蛍光材料の例には、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、塩化ダンシルまたはフィコエリスリンが含まれ;発光材料の例には、ルミノールが含まれ;および適した放射活性材料の例には14C、123I、124I、125I、131I、99mTc、35Sまたは3Hが含まれる。好ましい態様において、CXCR4アンタゴニスト化合物は、14Cを修飾基またはCXCR4アンタゴニスト化合物の1つまたはそれ以上のアミノ酸構造の中に組み入れることによって、14Cによって放射活性標識される。標識したCXCR4アンタゴニスト化合物は、化合物のインビボ薬物動態を評価するためのみならず、被験者の疾患の進行または例えば診断目的のために被験者が疾患を発症する可能性を検出するために用いることができる。CXCR4受容体の組織分布は、被験者に由来するインビボまたはインビトロ試料のいずれかにおいて標識したCXCR4アンタゴニスト化合物を用いて検出することができる。
【0053】
インビボ診断剤として用いるために、本発明のCXCR4アンタゴニスト化合物は、放射活性テクネチウムまたはヨウ素によって標識してもよい。遊離のアミノ基を有するコール酸のAic誘導体のような、標識のキレート剤を導入することができる部位を提供する修飾基を選択することができる。もう一つの態様において、本発明は放射活性ヨウ素で標識したCXCR4アンタゴニスト化合物を提供する。例えば、SDF-1配列内のフェニルアラニン残基(例えばアミノ酸残基13位)は、放射活性ヨウ化チロシルに置換することができる。放射活性ヨウ素の様々な同位元素の如何なるものも、診断薬を作製するために組み入れることができる。好ましくは、123I(半減期=13.2時間)を全身シンチグラフィーに用い、124I(半減期=4日)を陽電子射出断層撮影(PET)に用い、125I(半減期=60日)は代謝回転試験に用い、および131I(半減期=8日)は、全身計数および遅延型低解像度画像試験に用いる。
【0054】
本発明のCXCR4アンタゴニスト物質のさらなる修飾は、化合物のさらなる治療的特性を付与するように作用してもよい。すなわち、さらなる化学修飾はさらなる機能的部分を含むことができる。例えば、腫瘍細胞のアポトーシスを引き起こすように作用する機能的部分をCXCR4アンタゴニスト化合物にカップリングさせることができる。この形において、CXCR4アンタゴニストのSDF-1由来部分は、化合物が腫瘍を標的として血管新生を阻害するために役立つ可能性があり、さらなる機能的部分は、化合物をこれらの部位にターゲティングした後に癌様細胞のアポトーシスを引き起こすように作用する。
【0055】
もう一つの化学修飾において、本発明の化合物は、化合物そのものはγインターフェロンの産生または腫瘍の血管新生を調節しないが、インビボで代謝されると本明細書に記述のCXCR4アンタゴニスト化合物に変化することができる、「プロドラッグ」の形で調製される。例えば、このタイプの化合物では、調節基は、代謝されると活性なCXCR4アンタゴニストの形に変換することができるプロドラッグの形で存在しうる。修飾基のそのようなプロドラッグ型は、本明細書において「二次修飾基」と呼ばれる。ペプチド骨格の薬物の活性型の輸送を最適にするために代謝を制限する、ペプチドプロドラッグを調製するための多様な戦略が当技術分野で既知である(例えば、モス(Moss, J.)(1995)「ペプチド骨格の薬物のデザイン:輸送と代謝の調節(Peptide-Based Drug Design:Controlling Transport and Metabolism)」、タイラー&アミドン(Taylor, M. D. and Amidon, G. L.)編、第18章を参照のこと)。
【0056】
本発明のCXCR4アンタゴニスト化合物は、当技術分野で既知の標準的な技術によって調製することができる。CXCR4アンタゴニストのペプチド成分は少なくとも一部、ボダンスキー(Bodansky, M.)の「ペプチド合成の原理(Principles of Peptide Synthesis)」、スプリンガー・バーラグ、ベルリン(1993)およびグラント(Grant, G. A.)編、「合成ペプチド;ユーザーズガイド(Synthetic Peptides:A User's Guide)」、W. H. フリーマン&カンパニー、ニューヨーク(1992)に記述のような、標準的な技術を用いて合成することができるペプチドで構成される。自動ペプチドシンセサイザーは市販されている(例えば、アドバンスド・ケムテックモデル396;ミリジェン/バイオサーチ9600)。さらに、標準的な方法、例えばアミノ基(例えば、ペプチドのアミノ末端のαアミノ基)、カルボキシル基(例えばペプチドのカルボキシル末端)、ヒドロキシル基(例えば、チロシン、セリンもしくはトレオニン残基上)、またはアミノ酸側鎖上のその他の適した反応基による反応方法を用いて、1つまたはそれ以上の調節基をSDF-1由来ペプチド成分に結合することができる(例えば、グリーン&ウッツ(Greene, T. W. and Wuts, P. G. M.)「有機合成における保護基(Protective Groups in Organic Synthesis)」、ジョンウィリー&サンズインク、ニューヨーク(1991))。好ましいCXCR4アンタゴニストの一例としての合成は実施例にさらに記述する。
【0057】
本発明のペプチドは、ボダンスキー(Bodansky, M.)の「ペプチド合成の原理(Principles of Peptide Synthesis)」、スプリンガー・バーラグ、ベルリン(1993)およびグラント(Grant, G. A.)編、「合成ペプチド;ユーザーズガイド(Synthetic Peptides:A User's Guide)」、W. H. フリーマン&カンパニー、ニューヨーク(1992)(その全てが参照として本明細書に組み入れられる)に記述のような、標準的な技術を用いて化学合成してもよい。自動ペプチドシンセサイザーは市販されている(例えば、アドバンスド・ケムテックモデル396;ミリジェン/バイオサーチ9600)。
【0058】
本発明のもう一つの局面において、ペプチドは、ペプチドをコードする核酸分子を用いて、標準的な組み換えDNA技術に従って調製してもよい。ペプチドをコードするヌクレオチド配列は遺伝子コードを用いて決定することができ、このヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチド分子は標準的なDNA合成法によって合成することができる(例えば、自動DNAシンセサイザーを用いて)。またはペプチド化合物をコードするDNA分子を、標準的な分子生物学技術に従って、天然の前駆体蛋白質遺伝子またはcDNA(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)および/または制限酵素消化を用いて)から誘導することができる。
【0059】
本発明はまた、本発明のペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む単離核酸分離を提供する。いくつかの態様において、ペプチドは、天然SDF-1と比較して少なくとも一つのアミノ酸欠失を有するアミノ酸配列を含みうる。本明細書において用いられるように、「核酸分子」という語は、DNA分子及びRNA分子を含むものとし、一本鎖であっても又は二本鎖であってもよい。別の態様において、単離核酸は、SDF-1のN末端、C末端、及び/又は内部から一つ又は複数のアミノ酸が欠失したペプチドをコードする。さらに他の態様において、単離核酸は、天然SDF-1と比較して一つ又は複数のアミノ酸が欠失したペプチド断片をコードする。
【0060】
標準的な組み換えDNA技術により宿主細胞におけるペプチド化合物の発現を促進するため、ペプチドをコードする単離核酸は、組み換え発現ベクターに組み入れられても良い。従って、本発明は、本発明の核酸分子を含む組み換え発現ベクターも提供する。本明細書において用いられるように、「ベクター」という語は、それに結合されている他の核酸を輸送することができる核酸分子をさす。一つの型のベクターはプラスミドであり、それは、付加的なDNA断片がライゲーションすることができる環状二本鎖DNAループをさす。もう一つの型のベクターは、付加的なDNA断片がウイルスゲノム中にライゲーションされたウイルスベクターである。ある種のベクターは、それらが導入された宿主細胞において自律的に複製することができる(例えば、細菌性複製開始点を有する細菌ベクター及びエピソーム性哺乳動物ベクター)。その他のベクター(例えば、非エピソーム性哺乳動物ベクター)は、宿主細胞へ導入されたとき宿主細胞のゲノムに取り込まれ、それにより宿主ゲノムと共に複製される。さらに、ある種のベクターは、それらと機能的に結合した遺伝子の発現を誘導することができる。そのようなベクターは、本明細書において、「組み換え発現ベクター」又は単に「発現ベクター」と呼ばれる。
【0061】
本発明の組み換え発現ベクターにおいて、ペプチドをコードするヌクレオチド配列は、発現のため用いられる宿主細胞に基づき選択された一つ又は複数の調節配列と機能的に結合していてもよい。「機能的に結合した」又は「機能可能に」結合したという語は、ペプチド化合物の発現を可能にする様式で(一つ又は複数の)調節配列と結合した、ペプチドをコードする配列を意味する。「調節配列」という語は、プロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、及びその他の発現調節要素を含む。そのような調節配列は、例えば、Goeddel; Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, Calif.(1990)(本明細書に参照として組み込まれる)に記載されている。調節配列には、多くの型の宿主細胞におけるヌクレオチド配列の構成性発現を導くもの、ある種の宿主細胞のみにおけるヌクレオチド配列の構成性発現を導くもの(例えば、組織特異的調節配列)、及び調節可能な様式で(例えば、誘導剤の存在下でのみ)発現を導くものが含まれる。発現ベクターの設計は、形質転換される宿主細胞の選択、所望のペプチド化合物の発現レベルなどのような要因により左右されることが、当業者には認識されると思われる。本発明の発現ベクターは、宿主細胞に導入され、それにより、本明細書に記載の核酸によりコードされるペプチド化合物を産生することができる。
【0062】
本発明の組み換え発現ベクターは、原核細胞又は真核細胞におけるペプチド化合物の発現のため設計されうる。例えば、ペプチド化合物は、大腸菌のような細菌細胞、昆虫細胞(バキュロウイルス発現ベクターを用いる)、酵母細胞、又は哺乳動物細胞において発現されうる。適当な宿主細胞は、Goeddel; Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, Calif.(1990)にさらに論じられている。又は、組み換え発現ベクターは、例えばT7プロモーター調節配列及びT7ポリメラーゼを用いて、インビトロで転写及び翻訳されうる。酵母S.セレビシエ(S.cerevisae)における発現のためのベクターの例には、pYepSec1(Baldariら,(1987)EMBO J.6:229-234)、pMFa(KurjanおよびHerskowitz,(1982)Cell 30:933-943)、pJRY88(Schultzら,(1987)Gene 54:113-123)、及びpYES2(Invitrogen Corporation, San Diego, Calif.)が含まれる。培養昆虫細胞(例えば、Sf9細胞)におけるタンパク質又はペプチドの発現のために利用可能なバキュロウイルスベクターには、pAc系(Smithら,(1983)Mol.Cell.Biol.3:2156-2165)及びpVL系(Lucklow,V.A.,およびSummers,M.D.,(1989)Virology 170:31-39)が含まれる。哺乳動物発現ベクターの例には、pCDM8(Seed,B.,(1987)Nature 329:840)及びpMT2PC(Kaufmanら(1987),EMBO J.6:187-195)が含まれる。哺乳動物細胞において用いられる場合、発現ベクターの調節機能は、ウイルス性調節要素により提供される場合が多い。例えば、一般的に用いられるプロモーターは、ポリオーマ、アデノウイルス2型、サイトメガロウイルス、及びSV40由来のものである。
【0063】
前述の制御調節配列に加え、組み換え発現ベクターは、付加的なヌクレオチド配列を含有しうる。例えば、組み換え発現ベクターは、ベクターを取り込んだ宿主細胞を同定するための選択可能マーカー遺伝子をコードしうる。そのような選択可能マーカー遺伝子は、当技術分野において周知である。さらに、宿主細胞、特に哺乳動物宿主細胞からのペプチド化合物の分泌を促進するため、組み換え発現ベクターは、好ましくは、ペプチド化合物が発現時にそのアミノ酸と融合したシグナル配列と共に合成されるように、ペプチド化合物のアミノ末端をコードする配列と機能的に結合したシグナル配列をコードする。このシグナル配列は、ペプチド化合物を細胞の分泌経路へと導き、その後、切断され、宿主細胞からの成熟ペプチド化合物(即ち、シグナル配列を含まないペプチド化合物)の放出を可能にする。哺乳動物宿主細胞からのタンパク質又はペプチドの分泌を促進するためのシグナル配列の使用は、当分技術野において周知である。
【0064】
γインターフェロン産生を阻害するか又は血管新生を阻害するペプチド化合物をコードする核酸を含む組み換え発現ベクターは、宿主細胞へ導入され、それにより宿主細胞においてペプチド化合物を産生することができる。従って、本発明は、本発明の組み換え発現ベクターを含有する宿主細胞も提供する。「宿主細胞」及び「組み換え宿主細胞」という用語は、本明細書において互換的に用いられる。そのような用語は、特定の対象細胞のみならず、そのような細胞の継代細胞、又は継代細胞である可能性のある細胞をもさすことが理解される。変異又は環境的影響のいずれかのため後代においてはある種の修飾が起こりうるため、そのような継代細胞は、実際は、親細胞と同一でないかもしれないが、それでも、本明細書において用いられるようにその用語の範囲内に含まれる。宿主細胞は、任意の原核細胞又は真核細胞でありうる。例えば、ペプチド化合物は、大腸菌のような細菌細胞、昆虫細胞、酵母、又は哺乳動物細胞において発現されうる。好ましくは、ペプチド化合物は、哺乳動物細胞において発現されうる。好ましい態様において、ペプチド化合物は、遺伝子治療により被験者における状態を治療するため、哺乳動物対照におけるインビボの哺乳動物細胞において発現される(以下に更に論じる)。好ましくは、組み換え発現ベクターによりコードされるペプチド化合物は、宿主細胞において発現されたとき宿主細胞から分泌される。
【0065】
ベクターDNAは、通常の形質転換又はトランスフェクションの技術を介して原核細胞又は真核細胞へ導入される。本明細書において用いられるように、「形質転換」及び「トランスフェクション」という語は、リン酸カルシウム又は塩化カルシウム共沈殿、DEAEデキストラン媒介トランスフェクション、リポフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、及びウイルス媒介トランスフェクションを含む、外因性核酸(例えば、DNA)を宿主細胞へ導入するための、当技術分野において認識されている多様な技術をさす。宿主細胞を形質転換又はトランスフェクトするための適当な方法は、Sambrookら,(Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989))及びその他の実験マニュアルに見出されうる。インビボの哺乳動物細胞へDNAを導入するための方法も、当技術分野において既知であり、遺伝子治療の目的のため被験者にベクターDNAを輸送するために用いられうる(以下に更に論じる)。
【0066】
哺乳動物細胞の安定的なトランスフェクションのため、用いられる発現ベクター及びトランスフェクション技術により異なるが、細胞のほんの一部のみが、外因性DNAをゲノム中に組み込むことができることが、既知である。これらの組込み体を同定及び選択するため、一般的に、選択可能マーカー(例えば、抗生物質に対する耐性)をコードする遺伝子を、目的の遺伝子と共に宿主細胞に導入する。好ましい選択可能マーカーには、G418、ハイグロマイシン、及びメトトレキセートのような薬物に対する耐性を与えるものが含まれる。選択可能マーカーをコードする核酸は、ペプチド化合物をコードする核酸と同一のベクターで宿主細胞へ導入されてもよいし、別々のベクターで導入されてもよい。導入された核酸で安定的にトランスフェクションされた細胞は、薬物選択により同定されうる(例えば、選択可能マーカー遺伝子を取り込んだ細胞は生存するが、他の細胞は死滅する)。
【0067】
本発明の核酸は、DNAの直接注入、受容体媒介DNA取り込み、又はウイルス媒介トランスフェクションのような当技術分野において既知の方法を用いて、インビボの細胞へ輸送されうる。直接注入は、裸のDNAをインビボの細胞へ導入するために用いられている(例えば、Acsadiら(1991)Nature 332:815-818; Wolffら(1990)Science 247:1465-1468を参照のこと)。インビボの細胞にDNAを注入するための輸送装置(例えば、「遺伝子銃」)が用いられうる。そのような装置は商業的に入手可能である(例えば、BioRadから)。細胞表面受容体に対するリガンドとカップリングしたポリリジンのような陽イオンと、DNAを複合体化することによって、裸のDNAを細胞に導入することもできる(例えば、Wu,G.およびWu,C.H.(1988)J.Biol.Chem.263:14621; Wilsonら(1992)J.Biol.Chem.267:963-967; 及び米国特許第5,116,320号を参照のこと)。DNA−リガンド複合体と受容体との結合により、受容体媒介エンドサイトーシスによるDNAの取り込みが促進される。さらに、天然にエンドソームを破壊し、それにより材料を細胞質へと放出するアデノウイルス・カプシドと結合したDNA−リガンド複合体が、細胞内リソソームによる複合体の分解を回避するため用いられうる(例えば、Curielら(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:8850; Cristianoら(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:2122-2126を参照のこと)。
【0068】
欠陥レトロウイルスが、遺伝子治療目的の遺伝子移入における使用のため、よく特徴決定されている(概説については、Miller,A.D.(1990)Blood 76:271を参照のこと)。組み換えレトロウイルスを作製し、そのようなウイルスをインビトロ又はインビボの細胞に感染させるためのプロトコルは、Current Protocols in Molecular Biology,Ausubel,F.M.ら、(eds.)Greene Publishing Associates,(1989),Sections 9.10-9.14及びその他の標準的な実験マニュアルに見出されうる。適当なレトロウイルスの例には、当業者に周知のpLJ、pZIP、pWE、及びpEMが含まれる。適当なパッケージング・ウイルス系の例には、.pψi.Crip、.pψi.Cre、.pψi.2、及び.pψi.Amが含まれる。レトロウイルスは、インビトロ及び/又はインビボの上皮細胞、内皮細胞、リンパ球、筋芽細胞、肝細胞、骨髄細胞を含む多くの異なる細胞型へ、多様な遺伝子を導入するために用いられている(例えば、Eglitis,ら、(1985)Science 230:1395-1398; DanosおよびMulligan(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:6460-6464; Wilsonら(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:3014-3018; Armentanoら(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:6141-6145; Huberら(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:8039-8043; Ferryら(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:8377-8381; Chowdhuryら(1991)Science 254:1802-1805; van Beusechemら(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:7640-7644; Kayら(1992)Human Gene Therapy 3:641-647; Daiら(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10892-10895; Hwuら(1993)J.Immunol.150:4104-4115; 米国特許第4,868,116号; 米国特許第4,980,286号; 国際公開公報第89/07136号; 国際公開公報第89/02468号; 国際公開公報第89/05345号; 及び国際公開公報第92/07573号を参照のこと)。
【0069】
また、アデノウイルスのゲノムを、正常な溶解性ウイルス生活環において複製する能力に関して不活化されることなく、本発明のペプチド化合物をコードし発現するように操作することができる。例えば、Berknerら(1988)BioTechniques 6:616; Rosenfeldら(1991)Science 252:431-433; 及びRosenfeldら(1992)Cell 68:143-155を参照のこと。アデノウイルス株Ad5型d1324又はその他のアデノウイルス株(例えば、Ad2、Ad3、Ad7など)に由来する適当なアデノウイルスベクターは、当業者に周知である。組み換えアデノウイルスは、効率的な遺伝子輸送媒体となるために分裂細胞を必要とせず、気道上皮(Rosenfeldら(1992)、前記)、内皮細胞(Lemarchandら(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:6482-6486)、肝細胞(HerzおよびGerard(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:2812-2816)、及び筋細胞(Quantinら(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:2581-2584)を含む極めて多様な細胞型を感染させるために用いられうるために有利である。
【0070】
アデノ関連ウイルス(AAV)も、遺伝子治療目的のためのDNAの輸送に用いられうる。AAVは、効率的な複製及び生産的な生活環のために、ヘルパーウイルスとして、アデノウイルス又はヘルペスウイルスのような他のウイルスを必要とする、天然に存在する欠陥ウイルスである。(概説については、MuzyczkaらCurr.Topics in Micro. and Immunol.(1992)158:97-129を参照のこと)。それも、非分裂細胞中にDNAを組み込むことができる数少ないウイルスのうちの一つであり、高頻度の安定的な組み込みを示す(例えば、Flotteら(1992) Am.J.Respir.Cell.Mol.Biol.7:349-356; Samulskiら(1989)J.Virol.63:3822-3828; 及びMcLaughlinら(1989)J.Virol.62:1963-1973を参照のこと)。Tratschinら(1985)Mol.Cell.Biol.5:3251-3260に記載されているもののようなAAVベクターが、DNAを細胞へ導入するために用いられうる。AAVベクターを用いて、多様な核酸が異なる細胞型に導入されている(例えば、Hermonatら(1984)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:6466-6470; Tratschinら(1985)Mol.Cell.Biol.4:2072-2081; Wondisfordら(1988)Mol.Endocrinol.2:32-39; Tratschinら(1984)J.Virol.51:611-619; 及びFlotteら(1993)J.Biol.Chem.268:3781-3790 )。
【0071】
もう一つの態様において、本発明は、ペプチド化合物が被験者において合成され、被験者が癌又は自己免疫疾患に関連した障害のため治療されるよう、SDF-1由来ペプチド化合物をコードする組み換え発現ベクターを被験者に投与することを含む、癌又は自己免疫疾患(例えば、多発性硬化症)に罹患した被験者を治療するための方法を提供する。ペプチド化合物は、天然SDF-1と比較して少なくとも一つのアミノ酸欠失を有するペプチド断片を含みうる。
【0072】
CXCR4アンタゴニストは、癌治療の領域においてもさらに適用されうる。固形腫瘍の増殖は、血管新生依存性であり、(血管形成にとって必須である)上皮細胞はSDF-1受容体を保持しているため、SDF-1由来アンタゴニストは、それらの抗血管新生効果により、腫瘍増殖を阻害できる可能性がある。
【0073】
遺伝子治療のための一般的な方法は、当技術分野において既知である。例えば、アンダーソン(Anderson)らによる米国特許第5,399,346号を参照のこと。遺伝子材料を輸送するための生体適合性カプセルが、ベテージ(Baetage)らによる国際公開公報第95/05452号に記載されている。中枢神経系障害を治療するため遺伝学的に修飾された細胞を移植するための方法は、米国特許第5,082,670号及び国際公開公報第90/06757号及び第93/10234号に記載されている。これらは全てゲージ(Gage)らによる。
【0074】
さらに、γインターフェロン産生を阻害するか又は血管新生を阻害するためのSDF-1由来ペプチドの発現の代わりに、SDF-1前駆タンパク質mRNAの、本明細書に記載のペプチドに対応する領域に相補的なアンチセンス・オリゴヌクレオチドを、γインターフェロン産生を阻害するか又は血管新生を阻害するため、被験者において発現させることができる。神経系障害をモデュレートするためのアンチセンス・オリゴヌクレオチドを発現させるための一般的な方法は、国際公開公報第95/09236号に記載されている。
【0075】
ペプチドは、(Clark-Lewis,I.,Dewald,B.,Loetscher,M.,Moser,B.,およびBaggiolini,M.,(1994)J.Biol.Chem.,269,16075-16081に開示されているような)標準的な方法に従い調製され、標準的な方法に従いCXCR4アンタゴニスト活性に関してアッセイされうる。ペプチドは、HPLCにより精製され、質量分析により分析されうる。ペプチドは、10%DMSOを含む水を用いて、システインの穏和な酸化により形成されるジスルフィド架橋を介して二量体化されうる。HPLC精製後、二量体形成が質量分析により確認されうる。
【0076】
CXCR4アンタゴニストアッセイ法のため、ヒト末梢血単核細胞が、標準的な方法を用いて、例えば給血者の血液軟膜からフィコールパック(Ficoll-Paque)における遠心分離により単離されうる。細胞は、記載(Loetscher,P.,Seitz,M.,Clark-Lewis,I.,Baggiolini,M.,およびMoser,B.,(1994)FASEB J.,8,1055-1060)のようにして、フィトヘマグルチニン(1.0μg.ml−1)で処理され、IL-2(100U.ml−1)の存在下で7から17日間増幅されうる。これらの細胞は、CXCR4受容体活性の様々なアッセイ法のための「Tリンパ球」として用いられうる。ヒト・リンパ芽種CD4+T細胞系であるCEM細胞(ATCC,Rockville MD)は、15μg.ml−1の8-アザグアニン(Aldrich Chemical Company,Milwaukee WI)及び10%FCSを含有するRPMI培地中で培養されうる。
【0077】
Tリンパ球又はCEM細胞の移動は、標準的な方法に従い評価されうる。そのような方法は、3μmの孔を有するコラーゲン・コーティングされたポリビニルピロリドンを含まないポリカーボネート膜を用いた48穴チャンバー(NeuroProbe,Cabin John MD)を利用しうる(Loetscher,P.,Seitz,M.,Clark-Lewis,I.,Baggiolini,M.,およびMoser,B.,(1994)FASEB J.,8,1055-1060)。1時間の移動後、1000×の倍率において、5つの無作為に選択された視野で移動した細胞が計数されうる。直径6.5mmのチャンバー及び3μmの膜孔サイズを有する使い捨てのトランスウェル(Transwell)トレー(Colstar, Cambridge MA)が、CEM細胞の走性をアッセイするために用いられうる。10mg.ml−1のBSA(0.6Ml)が追加されたヘルペス緩衝RPMI1640中に含まれた推定アンタゴニストが、下方ウェルに添加され、同培地中に含まれた0.1mlのCEM細胞(1×107.ml−1)が上方ウェルに添加されうる。モノクローナル抗体12G5(von Tscharner,V.,Prod'hom,B.,Baggiolini,M.,およびReuter,H.,(1986)Nature,324,369-372; R&D Systems,Minneapolis MN)が、10μg.ml−1で、0℃で15分間、細胞と共にプレインキュベートされうる。抗体は、10μg.ml−1で下方ウェルにも添加されうる。2時間後、下方ウェルへ移動した細胞が計数されうる。走性による移動は、培地のみで移動した細胞を差し引くことにより決定することができる。
【0078】
CXCR4に対するそれらの活性についてアッセイされた様々なペプチドの配列が、図1に示されている。SDF(1-8)ペプチド及びSDF(1-9)ペプチドの両方が、CEM細胞の用量依存的な走性を誘導した(図2a)。最大応答の50%に必要な濃度(EC50)が、表1に要約されている。1-9ペプチドは、天然のSDF-1より約1,000倍効力が低かった。しかし、1-9ペプチドは1-8ペプチドより7倍効力が高かった。ペプチドは、Tリンパ球においても試験され(図2b)、SDF-1又はペプチドに対する応答性がTリンパ球の方が低かったことを除き、その結果は、CEM細胞で得られた結果と類似していた。SDF-1(1-9)の化学誘引活性は、SDF-1アンタゴニスト、SDF-1(1-67)[P2G](Crump,M.,Gong J.-H.,Loetscher,P.,Rajarathnam,K.,Amara,A.,Arenzana-Seisdedos,F.,Virelizier,J.-L.,Baggiolini,M.,Sykes,B.D.,およびClark-Lewis,I.,(1997)EMBO J.,16,6996-7007)により完全に阻害されたが、CXCR1を遮断するIL-8アンタゴニスト(Crump,M.,Gong J.-H.,Loetscher,P.,Rajarathnam,K.,Amara,A.,Arenzana-Seisdedos,F.,Virelizier,J.-L.,Baggiolini,M.,Sykes,B.D.,およびClark-Lewis,I.,(1997)EMBO J.,16,6996-7007)によっては阻害されなかった(図3)。
【0079】
N末端CXCモチーフ及びRFFESH結合ドメインの両方を含むようペプチド長を増大させる効果を調査するため、本発明者らはSDF-1(1-17)を調製した。このペプチドは、1-9よりも効力が高かったが、1-9二量体よりは化学誘引活性が数倍低かった(図2a)。1-17の二量体化は、その効力に影響を与えなかった(示されていない)。このことから、P2G置換が存在するSDF-1(1-17)ペプチドが活性なCXCR4アンタゴニストであろうことが示唆された。
【0080】
125I標識SDF-1のCEM細胞への結合に対する競合は、記載(Crump,M.,Gong J.-H.,Loetscher,P.,Rajarathnam,K.,Amara,A.,Arenzana-Seisdedos,F.,Virelizier,J.-L.,Baggiolini,M.,Sykes,B.D.,およびClark-Lewis,I.,(1997)EMBO J.,16,6996-7007)のようにして実施されうる。THP-1細胞へのMCP-1及びRANTESの結合が測定されうる(Gong J.-H.,Uguccioni,M.,Dewald,B.,Baggiolini,M.,およびClark-Lewis,I.,(1996)J.Biol.Chem.,271,10521-10527)。
【0081】
SDF-1ペプチドのCXCR4への結合を決定するため、CEM細胞が用いられうる(Crump,M.,Gong J.-H.,Loetscher,P.,Rajarathnam,K.,Amara,A.,Arenzana-Seisdedos,F.,Virelizier,J.-L.,Baggiolini,M.,Sykes,B.D.,およびClark-Lewis,I.,(1997)EMBO J.,16,6996-7007)。例えば、未標識天然SDF-1及びN末端ペプチドによる125I標識天然SDF-1の結合に対する競合が、図4に示されている。Kd値が表1に要約されている。ペプチドが他のケモカイン受容体に結合するか否かを決定するため、THP-1細胞へのMCP-1又はRANTESの結合に対する競合が測定されうる。THP-1細胞は、CXCR4のみならず、MCP-1及びRANTESの受容体を含む多数のCCケモカイン受容体を発現する。
【0082】
Fura-2を負荷されたTリンパ球及びCEM細胞が、推定アンタゴニストで刺激され、[Ca2+]iに関連した蛍光の変化が0〜60秒間記録されうる(Jones,S.A.,Dewald,B.,Clark-Lewis,I.,およびBaggiolini,M.,(1997)J.Biol.Chem.,272,16166-16169)。受容体減感作は、60秒間隔での連続的な添加の間の変化をモニターすることにより試験されうる。細胞は、ケモカイン処理の前に12G5抗体と共にプレインキュベートされうる。
【0083】
天然SDF-1及びN末端ペプチドのようなCXCR4アゴニストは、Tリンパ球(図5a)及びCEM細胞(図6)における細胞質濃度[Ca2+]iの迅速かつ一過的な上昇を誘導する。速度及び大きさは、濃度と共に増加しうる。SDF-1に対する応答は、1×10−9Mで観察されたが、ペプチドはマイクロモルの範囲では[Ca2+]iの変化を誘導しなかった。SDF-1由来ペプチドの受容体使用は、連続的な刺激後の[Ca2+]iの変化をモニターすることにより評価されうる。図5aに示されるように、SDF-1によるTリンパ球の処理は、1-9ペプチドに対する応答性を完全に消失させ、逆に、1-9ペプチドも天然SDF-1に対する応答を顕著に減弱させた。1-9二量体(50μM)は、その後の天然SDF-1に対する応答を完全に減感作した(示されていない)。Tリンパ球をMCP-1、RANTES、MIP-1β、IP10、又はMigで予備刺激した場合、1-9ペプチドに対する応答への影響は観察されなかった(図5b)。用いられた条件下で、これらの細胞により、エオタキシン、1-309、又はTARCに対する応答は得られず(図5b)、予想通りそれらは1-9を減感作しなかった。
【0084】
ペプチドは、CXCR4遮断モノクローナル抗体を用いて、受容体結合に関してアッセイされうる(von Tscharner,V.,Prod'hom,B.,Baggiolini,M.,およびReuter,H.,(1986)Nature,324,369-372)。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】天然SDF-1の配列(先行技術)。
【図2】SDF-1ペプチドの化学誘引活性。SDF-1ペプチド:1-8(白四角);1-9(白三角);1-9二量体(黒三角);及び1-9[Aba](十文字付き四角);並びに天然SDF-1(黒丸)に応答したCEM細胞(a);及びTリンパ球(b)の濃度依存的な移動。示されたデータは、移動した細胞の平均±SDである。2回のさらなる実験において類似の結果が得られた。
【図3】ケモカインアンタゴニストによる走性阻害。示された濃度のSDF-1アンタゴニスト、SDF-1(1-67)[P2G](白四角)又はIL-8アンタゴニスト、IL-8(6-72)(白丸)の存在下でSDF-1(1-9)ペプチド(10μM)により誘導されたCEM細胞の移動。移動は、アンタゴニストの非存在下(対照、黒四角)で得られた応答に対するパーセントとして表されている。示されたデータは、2つの別々の実験からのデュプリケートの測定値の平均±SDである。
【図4】SDF-1ペプチドの受容体結合。1-8(白四角);1-9(白三角);1-9二量体(黒三角);及び1-9[Aba-9](十文字付き四角);天然SDF-1(黒丸)による、CEM細胞への125I-SDF-1(4nM)の特異的結合に対する競合。競合因子の非存在下で結合した特異的cpm(斜線付き四角)に対するパーセンテージが示されている。2回から6回の実験からの代表的な結果である。
【図5】SDF-1ペプチドの受容体選択性。Fura-2を負荷されたTリンパ球を、ケモカイン及びSDF-1(1-9)で連続的に刺激し、得られた(Ca2+)i依存性蛍光変化を記録した。(a)SDF-1及び1-9ペプチドの交差減感作。(b)示されたCXCケモカイン又はCCケモカインによるSDF-1(1-9)の減感作の欠如。1nMで添加されたSDF-1を除き、ケモカインを100nMで添加し、その60s後に1-9ペプチド(30μM)を添加した。示された結果は、2回から3回の独立の実験の代表的な結果である。
【図6】ライン-1肺癌(PBS緩衝液50μl当たり5×105)を、各BALB/cマウス(雄、6〜8週齢、Jackson Labs,Bar Harbour,MEより購入)の背中に皮下注射した。マウスを盲目的に4つの群に分割した(各群3匹)。移植の直後、SDF-1P2G(100μlのPBS緩衝液中9mg/kg)を、マウスの腹腔内又は皮下に投与した。対照マウスには、同用量のウシ血清アルブミン(BSA)又はPBS緩衝液のみを注射した。注射は1日に1回行った。腫瘍のサイズを1日毎に記録した。16日目、腫瘍の重量を決定した。腫瘍及び肺の切片を染色し、血管及び転移について形態学的に観察した。腫瘍のサイズの平均値±SEMが示されている。
【図7】ライン-1癌細胞(1×106/匹)を、前記と同様に(皮下)移植した。マウスを盲目的に4つの群に分割し(各群2匹)、SDF-1P2G(9mg/kg)又は二量体型のSDF(1-9)P2G(18mg/kg)で処理した。対照群には、PBS緩衝液のみ又はBSAを注射した。注射は1日に1回腹腔内に行った。腫瘍のサイズ及び重量を前記と同様に決定した。12日目、腫瘍の組織学を研究した。腫瘍のサイズの平均±SEMが示されている。
【図8】図7の実験からの腫瘍の重量。
【図9】全長SDF-1アンタゴニスト又は短縮ペプチド・アンタゴニストによる、マウス肺癌(ルイス肺癌)増殖の阻害。
【図10】12日目の腫瘍(ルイス肺癌)の重量。
【図11】ヒトT細胞におけるConAにより刺激されたインターフェロンγ産生に対するSDF-1の効果。
【図12】ヒトT細胞におけるConAにより刺激されたインターフェロンγ産生に対するSDF-1アンタゴニストの効果。
【図13】10nMのConAにより刺激されたインターフェロンγ産生に対する10nMのSDF-1及びアンタゴニストの効果。
【図14】二量体ペプチドアンタゴニスト化合物の構造。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0086】
実施例1
この実施例は、マウスモデルを用いた腫瘍増殖に対するCXCR4アンタゴニストの阻害効果を示す。
【0087】
用いられた2つのCXCR4アンタゴニストは、(i)全長SDF-1アンタゴニスト、SDF-1(1-67)[P2G]、及び(ii)短縮ペプチド二量体アンタゴニスト、SDF-1(1-9[P2G])2であった。用いられた2つの動物モデルは、(i)同系宿主、C57BL/6マウスにおけるルイス(Lewis)肺癌、及び(ii)同系宿主、BALB/cマウスにおけるライン-1(Line-1)癌(抗原性が弱く悪性が高い転移モデル)であった。1.5〜3ヶ月齢の雄のマウスを用いた。
【0088】
治療プロトコルは、以下の通りであった。0日目、腫瘍細胞(1〜2×106)を各マウスの背中に皮下(SC)移植した。腫瘍移植の直後にCXCR4アンタゴニストによる治療を開始した。リン酸緩衝液中に溶解したSDF-1(1-67)[P2G](9mg/kg/日)又はSDF-1(1-9[P2G])2二量体(18mg/kg/日)を、図に示されているように腹腔内(ip)注射した。注射は、合計12〜16日間、1日に1回行った。マイクロメーターで腫瘍のサイズを決定し、腫瘍の容積を幅2×長さの形態により計算した。各実験の最後に、腫瘍の重量を決定した。
【0089】
全長(SDF-1 P2G)及び短縮ペプチドSDF-1由来CXCR4アンタゴニストの両方が、ライン-1肺癌及びルイス肺癌の増殖を阻害した。12日目の対照と比較したとき、SDF-1(1-67)[P2G]は、9mg/kgの用量でライン-1肺癌の増殖を>80%阻害し(図6)、又は4mg/kgの用量では64%阻害した(図7)。ルイス肺癌に関しては、12日目に、SDF-1(1-67)[P2G]は、4mg/kgの用量で腫瘍増殖を45%阻害した(図9)。皮下注射によっても腫瘍増殖が阻害されたが、効率は腹腔内注射よりも低かった。
【0090】
CXCR4阻害剤による腫瘍増殖阻害の程度は、化合物のCXCR4アンタゴニスト活性の程度と相関していた。SDF-1(1-9)P2G二量体は、全長SDF-1(1-67)[P2G]類似体よりも、一般的に効力が低い腫瘍増殖の阻害剤であった。このことから、化学療法効果を媒介するのは、これらの化合物のアンタゴニスト活性であることが示される。にもかかわらず、SDF-1(1-9)P2G二量体でさえも、有意な腫瘍増殖阻害活性を示した。18mg/kgの用量で、SDF-1(1-9)P2G二量体は、12日目にライン-1腫瘍の増殖を35%阻害し、12日目にルイス肺癌の増殖を43%阻害した。腫瘍の重量は、一般的に、腫瘍サイズの測定値と相関していた(図8及び10)。
【0091】
組織学的研究は、CXCR4アンタゴニストで治療されたマウス由来の腫瘍が、対照マウスにおける腫瘍よりも、低い血管密度を有していたことを示し、このことから、SDF-1アンタゴニストが腫瘍の新血管新生を減少させるため血管新生阻害剤として機能することが示された。
【0092】
マウスモデルにおいて、最大18mg/kgの用量で、治療中にCXCR4アンタゴニストの毒性は検出されなかった。
【0093】
実施例2
本実施例は、活性化T細胞によるインターフェロンγ産生のCXCR4阻害剤による阻害を示す。
【0094】
以下のような標準的な方法を用いて、T細胞を単離し、培養した。健康な給血者から、静脈穿刺によりヒト血液を採取した。血液を抗凝固剤溶液(ACD)中に吸引し、等量の生理食塩水と混合し、ヒストパック(Histopaque)上に重層した。遠心分離(1200rpm、30分)後、上層血漿溶液を捨て、溶液間の界面の細胞を収集した。タイロード(Tyrode)緩衝液に再懸濁し細胞をペレット化するために遠心分離を行うことにより、細胞を2回洗浄した。最終的な細胞ペレットを、抗生物質及び20%胎児ウシ血清を含有するRPMI1640に再懸濁させた。接着細胞を付着させるため、細胞を2時間、組織培養フラスコ中に播いた。非接着細胞(Tリンパ球が濃縮されている)を、生存細胞を検出するためのトリパンブルーを用いて計数した。細胞を1ml当たり1×106という初期濃度で、5%CO2、95%空気を含む加湿インキュベーター中で、37℃で48時間培養した。1μg/mlのコンカナバリンA、1000ユニット/mlのインターフェロンβ、及び/又は様々な濃度のペプチドを、0時点で添加した。インターフェロンγ産生をアッセイするため、細胞をペレット化するため細胞懸濁液を遠心分離し、上清を市販のELISAアッセイキット(Pharmingen)を用いてアッセイした。
【0095】
表2は、様々な濃度(即ち、0、2.5、5、7.5、又は10nM)のSDF-1の存在下で、1μg/mlのコンカナバリンA(Con.A)による刺激の後、培養中のT細胞により産生されたインターフェロンγを示す。これらの研究において、インターフェロンβで処理された細胞は、SDF-1に応答してさらなるインターフェロンγを生成させなかった。しかし、SDF-1(1-67)[P2G]と共同でインターフェロンβで細胞を刺激した場合には、インターフェロンγの産生の有意な減少が見られた。
【0096】
〔表1〕 γインターフェロン産生(pg/mlγインターフェロン)
【0097】
表1は、コンカナバリンAによる刺激に応答して培養中のT細胞から放出されるインターフェロンγのレベルが、約4,000pg/mlであり、これが、インターフェロンβ処理により減少することを証明している。コンカナバリンAと同時にSDF-1でT細胞を処理することにより、インターフェロンγの産生は増強される。SDF-1の添加には、インターフェロンβの効果を逆転させる効果はない。
【0098】
対照的に、SDF-1由来CXCR4アンタゴニストは、T細胞からのγインターフェロンの産生に対する有意な効果を有する。これは、インターフェロンβによる研究と類似の実験により証明される。ヒトリンパ球を様々な濃度のSDF-1アンタゴニスト(SDF-1-P2G)に暴露し、その後コンカナバリンA(Con.A)により細胞を活性化した。SDF-1アンタゴニストに曝されたT細胞からのインターフェロンγの産生を測定し、アンタゴニストで処理されていないT細胞から放出された量と比較した。
【0099】
表2は、βインターフェロン処理の存在下及び非存在下(対照)における、コンカナバリンA(Con.A)により活性化されたT細胞からのγインターフェロンの放出に対する、CXCR4アンタゴニスト(SDF-1(1-67)[P2G])の効果を証明している。
【0100】
〔表2〕 SDF-1(1-67)[P2G]濃度(nM)
【0101】
表2のデータは、CXCR4アンタゴニストが、T細胞によるインターフェロンγの放出を消失させうることを証明している。さらに、SDF-1アンタゴニストがインターフェロンβと共に添加される場合には、インターフェロンγ産生の減少に対するさらに大きな効果が存在する。従って、CXCR4アンタゴニストは、活性化T細胞、例えば患者において生理学的に活性化されたT細胞によるγインターフェロン産生を減少させるため、インターフェロンβと共に用いられうる。例えば、CXCR4アンタゴニストは、MSを有する患者の治療において、インターフェロンβと共に用いられうる。
【0102】
表3は、それぞれインターフェロンβと共に用いられた場合の、Con.A活性化T細胞からのインターフェロンγ産生に対する、CXCR4アゴニスト(SDF-1)及びCXCR4アンタゴニスト(SDF-1(1-67)[P2G])の異なる効果を示す。比較のため、表4にインターフェロンβのみの場合のデータも示す。
【0103】
〔表3〕 ヒトT細胞からのインターフェロンγ産生に対する、10nMのSDF-1及びSDF-1(1-67)[P2G](アンタゴニスト)の効果
【0104】
CXCR4アンタゴニスト(SDF-1(1-67)[P2G])は、活性化T細胞からのインターフェロンγの産生のダウンレギュレーションにおけるインターフェロンβの効果を共同的に強化することができる。インターフェロンβ自体の添加は、T細胞からのインターフェロンγ放出の減少に対して小さな効果を有していた。SDF-1処理は、インターフェロンβの効果を変化させないが、SDF-1アンタゴニスト(SDF-1-P2G)は、インターフェロンγ産生の劇的な減少を引き起こす。
【0105】
表4は、βインターフェロンの非存在下における、コンカナバリンA(Con.A)により活性化されたT細胞からのγインターフェロンの放出に対する、CXCR4アンタゴニスト(SDF-1(1-67)[P2G])の異なる効果を示す。
【0106】
〔表4〕 ヒトT細胞からのインターフェロンγ産生に対する、0.1μM及び1μMのSDF-1(1-67)[P2G]の効果
【0107】
表4のデータは、CXCR4アンタゴニストがT細胞によるインターフェロンγの放出を消失させうることを証明している。従って、CXCR4アンタゴニストは、活性化T細胞、例えば、多発性硬化症に罹患した患者において生理学的に活性化されたT細胞によるインターフェロンγ産生を減少させるために用いられうる。
【0108】
表5は、βインターフェロンの非存在下におけるコンカナバリンA(Con.A)により活性化されたT細胞からのγインターフェロンの放出に対するCXCR4アンタゴニスト(SDF-1(1-9)P2G)の異なる効果を示す。
【0109】
〔表5〕 ヒトT細胞からのインターフェロンγ産生に対する、1μM及び10μMのSDF-1(1-9)[P2G]の効果
【0110】
表5のデータは、短縮されたペプチドCXCR4アンタゴニストが、T細胞によるインターフェロンγの放出を消失させうることを証明している。従って、長さが短縮されたCXCR4アンタゴニストは、活性化T細胞によるインターフェロンγ産生を減少させるために用いられうる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物においてT細胞によるインターフェロンγ産生を減少させる薬物を製造するためのCXCR4アンタゴニストの使用。
【請求項2】
哺乳動物においてT細胞によるインターフェロンγ産生を減少させるためのCXCR4アンタゴニストの使用。
【請求項3】
哺乳動物における自己免疫疾患を治療する薬物を製造するためのCXCR4アンタゴニストの使用。
【請求項4】
哺乳動物における自己免疫疾患を治療するためのCXCR4アンタゴニストの使用。
【請求項5】
哺乳動物における多発性硬化症を治療する薬物を製造するためのCXCR4アンタゴニストの使用。
【請求項6】
哺乳動物における多発性硬化症を治療するためのCXCR4アンタゴニストの使用。
【請求項7】
薬物がβインターフェロンを含む、請求項5記載のCXCR4アンタゴニストの使用。
【請求項8】
哺乳動物がβインターフェロンによる治療を受けている、請求項5、6または7記載のCXCR4アンタゴニストの使用。
【請求項9】
哺乳動物における癌を治療する薬物を製造するためのCXCR4アンタゴニストの使用。
【請求項10】
哺乳動物における血管新生を阻害する薬物を製造するためのCXCR4アンタゴニストの使用。
【請求項11】
哺乳動物における血管新生を阻害することによって癌を治療する薬物を製造するためのCXCR4アンタゴニストの使用。
【請求項12】
薬物を製造するためのCXCR4アンタゴニストの使用。
【請求項13】
CXCR4アンタゴニストが、SDF-1の実質的に精製されたペプチド断片、修飾された断片、類似体または薬学的に許容される塩を含むペプチド化合物である、請求項1〜12のいずれか一項に記載のCXCR4アンタゴニストの使用。
【請求項14】
ペプチド化合物がN-末端アミノ酸配列KGVSLSYRC-R1(配列番号:2)を含み、R1が水素およびSDF-1の少なくとも一部と相同であるポリペプチドからなる群より選択される、請求項13記載のCXCR4アンタゴニストの使用。
【請求項15】
哺乳動物がヒトである、請求項1〜14のいずれか一項に記載のCXCR4アンタゴニストの使用。
【請求項16】
CXCR4アンタゴニストが薬学的に許容される製剤において、治療的用量で哺乳動物に投与される、請求項1〜15のいずれか一項に記載のCXCR4アンタゴニストの使用を含む、薬物治療の方法。
【請求項17】
CXCR4アンタゴニストおよび薬学的に許容される賦形剤を含む治療的組成物。
【請求項18】
インターフェロンβをさらに含む、請求項17記載の治療的組成物。
【請求項19】
ペプチド化合物が、以下の式に記載の配列番号:3の二量体を含む、請求項13記載のCXCR4アンタゴニストの使用:
式中、Xはリジンであり、リジンのαおよびεアミノ基はいずれもアミド結合形成に関係しており、リジンのカルボキシル基は保護されている。
【請求項20】
ペプチド化合物が、以下の式に記載の配列番号:4の二量体を含む、請求項13記載のCXCR4アンタゴニストの使用:
式中、Xはリジンであり、リジンのαおよびεアミノ基はいずれも隣接するシステインアミノ酸残基との共有結合形成に関係している。
【請求項21】
ポリマーCXCR4アンタゴニストが複数のN-末端を有するように架橋部分によって共有結合している複数のペプチドを含む、ポリマーCXCR4アンタゴニスト。
【請求項22】
ポリマーCXCR4アンタゴニストがSDF-1(1-9[P2G])2である、請求項21記載のポリマーCXCR4アンタゴニスト。
【請求項1】
哺乳動物においてT細胞によるインターフェロンγ産生を減少させる薬物を製造するためのCXCR4アンタゴニストの使用。
【請求項2】
哺乳動物においてT細胞によるインターフェロンγ産生を減少させるためのCXCR4アンタゴニストの使用。
【請求項3】
哺乳動物における自己免疫疾患を治療する薬物を製造するためのCXCR4アンタゴニストの使用。
【請求項4】
哺乳動物における自己免疫疾患を治療するためのCXCR4アンタゴニストの使用。
【請求項5】
哺乳動物における多発性硬化症を治療する薬物を製造するためのCXCR4アンタゴニストの使用。
【請求項6】
哺乳動物における多発性硬化症を治療するためのCXCR4アンタゴニストの使用。
【請求項7】
薬物がβインターフェロンを含む、請求項5記載のCXCR4アンタゴニストの使用。
【請求項8】
哺乳動物がβインターフェロンによる治療を受けている、請求項5、6または7記載のCXCR4アンタゴニストの使用。
【請求項9】
哺乳動物における癌を治療する薬物を製造するためのCXCR4アンタゴニストの使用。
【請求項10】
哺乳動物における血管新生を阻害する薬物を製造するためのCXCR4アンタゴニストの使用。
【請求項11】
哺乳動物における血管新生を阻害することによって癌を治療する薬物を製造するためのCXCR4アンタゴニストの使用。
【請求項12】
薬物を製造するためのCXCR4アンタゴニストの使用。
【請求項13】
CXCR4アンタゴニストが、SDF-1の実質的に精製されたペプチド断片、修飾された断片、類似体または薬学的に許容される塩を含むペプチド化合物である、請求項1〜12のいずれか一項に記載のCXCR4アンタゴニストの使用。
【請求項14】
ペプチド化合物がN-末端アミノ酸配列KGVSLSYRC-R1(配列番号:2)を含み、R1が水素およびSDF-1の少なくとも一部と相同であるポリペプチドからなる群より選択される、請求項13記載のCXCR4アンタゴニストの使用。
【請求項15】
哺乳動物がヒトである、請求項1〜14のいずれか一項に記載のCXCR4アンタゴニストの使用。
【請求項16】
CXCR4アンタゴニストが薬学的に許容される製剤において、治療的用量で哺乳動物に投与される、請求項1〜15のいずれか一項に記載のCXCR4アンタゴニストの使用を含む、薬物治療の方法。
【請求項17】
CXCR4アンタゴニストおよび薬学的に許容される賦形剤を含む治療的組成物。
【請求項18】
インターフェロンβをさらに含む、請求項17記載の治療的組成物。
【請求項19】
ペプチド化合物が、以下の式に記載の配列番号:3の二量体を含む、請求項13記載のCXCR4アンタゴニストの使用:
式中、Xはリジンであり、リジンのαおよびεアミノ基はいずれもアミド結合形成に関係しており、リジンのカルボキシル基は保護されている。
【請求項20】
ペプチド化合物が、以下の式に記載の配列番号:4の二量体を含む、請求項13記載のCXCR4アンタゴニストの使用:
式中、Xはリジンであり、リジンのαおよびεアミノ基はいずれも隣接するシステインアミノ酸残基との共有結合形成に関係している。
【請求項21】
ポリマーCXCR4アンタゴニストが複数のN-末端を有するように架橋部分によって共有結合している複数のペプチドを含む、ポリマーCXCR4アンタゴニスト。
【請求項22】
ポリマーCXCR4アンタゴニストがSDF-1(1-9[P2G])2である、請求項21記載のポリマーCXCR4アンタゴニスト。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−47598(P2010−47598A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−242544(P2009−242544)
【出願日】平成21年10月21日(2009.10.21)
【分割の表示】特願2000−536397(P2000−536397)の分割
【原出願日】平成11年3月12日(1999.3.12)
【出願人】(503265094)ザ ユニバーシティ オブ ブリティッシュ コロンビア (17)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月21日(2009.10.21)
【分割の表示】特願2000−536397(P2000−536397)の分割
【原出願日】平成11年3月12日(1999.3.12)
【出願人】(503265094)ザ ユニバーシティ オブ ブリティッシュ コロンビア (17)
【Fターム(参考)】
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