説明

治療薬および分析方法

本発明は細胞増殖疾患または障害の治療に有用な薬剤、およびこうした薬剤を同定するための分析方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞増殖疾患または障害の治療に有用な薬剤、およびこうした薬剤を同定する分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞周期チェックポイントは、損傷したDNAの複製または損傷した染色体の分離を防止するように機能する監視機構を備えると考えられる。ゲノム安定性の維持におけるそれらの重要性は、チェックポイント欠損に関連し、遺伝的不安定性および腫瘍の高発症率により特徴づけられる毛細血管拡張性運動失調症およびナイミーヘン染色体不安定症候群のような遺伝的障害により強調される。ごく最近では、欠陥のある細胞周期の表現型により、当初同定されたチェックポイント遺伝子が、染色体損傷の存在に対して調整された細胞応答をもたらすことにより幅広く関与することが明らかとなったが、細胞周期停止とDNA修復の進行との関係は十分に確立していない。
【0003】
哺乳類セリン/トレオニンタンパク質キナーゼChk1は、従来より哺乳類細胞におけるG2/Mチェックポイントの制御に関与しているとされている。最近の研究において、本発明者らは、Chk1が複製フォーク停止および電離放射線誘発性二本鎖切断を察知する経路のシグナル伝達因子であり、Chk1の1つの機能は、S期において初期に発動する複製起点からの合成がブロックされる場合、後期に発動する複製起点の活性化を確実に阻ブロックすることであることを示した。重要なことには、Chk1が、複製フォーク進行が遅れるまたは妨げられる場合、複製機構の要素を安定させるように機能することも見出された。動きの遅いまたは停止した複製フォークを有する細胞におけるChk1機能の非存在は、複製フォーク放棄を引き起こす。停止した複製フォークがさらなる伸長能力を失う場合、複製タンパク質は合成の部位から解離する。
【0004】
DNA損傷または複製停止に対応するChk1の活性化は、DNA活性化PIKキナーゼファミリーメンバーのATM(DNA損傷)およびATR(複製停止)による、多数の残基でのそのリン酸化を含むことが知られている。ATMまたはATRは生体外(in vitro)および生体内(in vivo)でのChk1のリン酸化に必要であるが、それらは効率的および適時な生体内(in vivo)でのChk1のリン酸化には十分ではない。
【0005】
クラスピンは当初、Chk1にしっかり結合され、枯渇すると複製阻害剤アフィジコリン存在下でのATR媒介リン酸化およびChk1の活性化をもたらすことができない、ツメガエル卵抽出物中のタンパク質として同定された。クラスピンは複製開始中のDNA複製起点上に導入され、初期起点巻き戻し時かつDNA合成の開始前に結合すると仮定される。ツメガエル卵抽出物における研究は、クラスピンローディングがCdk2存在下での起点DNAの初期巻き戻しを促進する因子であるCdc45の存在を必要とすることを示す。この工程の後、PCNAおよびDNAポリメラーゼαおよびδの動員の必要条件であるRPA結合を行う。RPAはクラスピン結合には必要ではないため、クラスピンは初期起点巻き戻し時かつDNA合成の開始前に結合すると仮定される。クラスピンは複製フォーク機構に関連していると考えられ、そこではチェックポイントセンサータンパク質としての機能を果たすことができる。複製フォークに関連していても、クラスピンは必須DNA複製因子ではない。
【0006】
BRCA1の生殖細胞系突然変異は多くのケースの遺伝性乳癌の原因である。BRCA1の欠陥のある生殖細胞系コピーの1つは癌素因をもたらすが、第2の対立遺伝子は素因のある個人の腫瘍の細胞では常に失われている。BRCA1を欠いた細胞は染色体構造に突発的な異常がある。こうした発見は、BRCA1が染色体構造を保護し、ひいてはゲノム不安定性を抑制するためには不可欠であることを示す。しかしながら、多年にわたる多くの研究にかかわらず、BRCA1がゲノム安定性を維持するように機能するメカニズムは不明のままである。
【0007】
最近の研究は、BRCA1欠損細胞に出現する全体的な染色体配置が、DNA修復欠陥からではなく、むしろS期の異常事象中に、およびその結果としての両方で発生する損傷の不適当な修復からもたらされ得ることを示す。BRCA1欠損齧歯類細胞およびヒト腫瘍は、エラーの起こりやすい非相同末端結合を行う能力を保持しているが、S期中潜在的にエラーのない修復経路である相同組み換えを欠いている。よって、BRCA1欠損細胞における突発性または誘発性の染色体損傷は、好適な処理経路が利用できないため、エラーの起こりやすいメカニズムによる修復に経路変更され得る。
【0008】
乳癌は世界中の女性の間での癌関連の死亡率の主な原因である。乳癌の治療に用いられる薬の現在の市場の大きさは330億ドルと推定される。米国における乳癌の5〜10%は先天的遺伝子異常に関連している。もっとも一般的な遺伝子異常は遺伝子BRCA1およびBRCA2を含む。
【0009】
多くの乳房の腫瘍はホルモンまたは成長受容体を過剰に発現し、適当な受容体アンタゴニスト/阻害剤の開発に実質的な投資が行われている。重要な最近の進展としては、その増殖がHER2タンパク質の存在に依存している散発性腫瘍に対して著しい有効性を有する受容体アンタゴニスト、ハーセプチン(例えばジェネンテック社のハーセプチンおよびジェネンテック社/ロシュ社のアバスチン(ベバシズマブ))の市場への導入の成功が挙げられる。グラクソスミスクライン社のタイカーブ(ラパチニブ、二重チロシンキナーゼ阻害剤)は、2007年3月にFDA認可されたが、HER−2陽性、ハーセプチン抵抗性、局所進行性および転移性患者について治療の選択肢を拡大するだろう。患者のおよそ40%はハーセプチン抵抗性なので、タイカーブの使用は重要となるだろう。2006年の時点で、乳癌パイプラインには少なくとも144個の候補薬があるが、そのうち26個はホルモン受容体または最近同定された下流成分を不活性化することが期待される分子標的治療薬(MTT)である。いくつかのMTTの細胞増殖抑制性のため、著しい腫瘍退行はおそらく細胞毒性剤と組み合わせると達成されるであろう。開発中の多くの細胞毒性剤は、毒性レベル、およびひいてはその使用に関連する重度の副作用を減少させる、またはそれらの投与を容易にするための試みおける、現在市場にあるものの改質製剤である。いわゆる「受容体陽性」腫瘍についての満たされていないニーズはいまだ高い。癌の多くの形態と同様に、乳房腫瘍成長は患者に用いることができる標準化した薬のない多因子疾患である。生存率は変わり得るが、転移性である場合全体的な生存率は5年未満のままである。細胞毒性剤および抗ホルモン剤は転移性疾患の進行を遅らせる働きをするのみである。転移性疾患を有する患者のためのより毒性レベルの低い治療処置が至急必要であり、高度に特異的な標的を有する薬の出現はこの状況を変えることができる可能性がある。さらに、患者の遺伝子型に合わせた治療が有利となるだろう。
【0010】
さらに、遺伝性乳癌を引き起こす遺伝子であるBRCA1およびBRCA2は12年以上前に同定されたにもかかわらず、この疾患に対する遺伝的素因を有する個人の治療の開発における進展は少ない。こうした個人は全乳癌ケースの5〜10%を構成する。この進展不足の主な原因は(i)これらの遺伝子の突然変異形態がどのように細胞を形質転換させるかの理解の継続的欠如;および(ii)乳房組織における正常細胞と癌細胞との間の固有の生物学的差異を利用し、前者を損なわずに後者を殺すための一貫した戦略がこれまでなかったことである。
【0011】
BRCA1異常を有する女性の乳癌は主に受容体陰性であり、満たされていないニーズが非常に高いことを示す高悪性度の細胞増殖を有する。これらの両特徴は、予防的乳房切除、従来の化学療法、または化学療法および乳房切除の併用が依然としてこれらの患者の治療における現在の主なアプローチであることを意味する。こうしたアプローチは患者の生存率に著しい限界を有し、現在の化学療法の毒性および外科的アプローチの比較的明白な精神・社会的影響を考えると患者の生活の質に対して実質的な影響を有する。遺伝性乳癌に関与する遺伝子の同定が潜在的な治療薬をもたらすという見込みにかかわらず、あるとしても明確なパイプラインはほとんど存在せず、よって遺伝子状態を利用し、市場全体の重要な要素において治療的影響をもたらすことが期待され得る新薬にはかなりの潜在的な市場がある。
【0012】
本発明者らはクラスピンと称される遺伝子産物の新たな役割を同定したが、その機能はDNA複製の臨界プロセス中の細胞の生存性の維持においてBRCA1と協働することである。癌(およびとくに乳癌)の発症に対する素因を有する個人はBRCA1またはBRCA2のいずれかの1つ機能的および1つの非機能的形態を受け継いでいる。こうした個人は関連BRCA遺伝子のヘテロ接合保因者であると言われる。一般的な白人集団におけるヘテロ接合保因者の現在の推定値はBRCA1について1000人に約1人であり、人口ベースおよび病院ベースの22の研究に基づく最近の分析は、結腸、頸、子宮、膵臓および前立腺のような他の癌のリスクの増加に加え、70歳までのBRCA1突然変異型保因者における平均累積リスクが乳癌について65%および卵巣癌について39%であることを示した。
【0013】
最終的に疾患の発病をもたらすだろう形質転換の過程において、関連BRCA遺伝子の第2の機能的形態を失った細胞が出現する。
【0014】
本発明者らは、BRCA1の両コピーおよびクラスピンを欠いた癌細胞が化学療法での干渉に用いられる薬剤(例えばDNA複製に一時的に干渉する薬剤)に極めて感受的であることを見出した。データは、こうした状況において、これらの細胞が生存不能であり、いずれのさらなる増殖も行うことができず、死ぬことを示す。対照的に、クラスピン、またはBRCA1の正常コピーのいずれかを保持する細胞はこうした処理に比較的鈍感である。
【0015】
従って、癌患者(例えば遺伝性乳癌患者)において、抗腫瘍剤(例えばDNA複製の阻害剤)と特異的クラスピン阻害剤との併用を含む併用療法は、BRCA1の両コピーを欠いた(すなわち腫瘍中の)細胞の増殖を選択的にブロックすることにより、BRCA1遺伝子の1つの機能的コピーを保持する健康的な周囲組織に対して最小限の影響を有しながら、高い(既存療法よりも確実に高い)治療指数を有することが期待されるだろうということになる。
【0016】
本発明では、特許請求の範囲または明細書におけるいずれの「BRCA」もBRCAの1つまたは両方の形態、すなわちBRCA1およびBRCA2を指すと理解すべきである。好適には、主に関連のあるBRCAの形態はBRCA1である。
【0017】
このように、本発明は創薬標的の同定、標的の除去に有効性を有するリード分子(例えばsiRNA系リード分子)の同定、および癌(例えば乳癌)の治療に有用であり得る追加の従来小分子薬剤の同定に適した分析方法に関する。
【0018】
本発明者らはクラスピンおよびBRCA1のこの役割に干渉する化合物の能力の評価を可能にする迅速かつ安定した分析方法を構築した。これらのタンパク質の既知の役割についての知識とともに、本発明は化合物ライブラリーをスクリーニングすることができる独特のポジションを可能にするが、そのいくつかの化合物は染色体完全性に関連する関連機能に干渉し、結果として腫瘍特異的成長に干渉することが期待され得る。
【0019】
さらに、本発明者らは、クラスピン機能をブロックし、よって創薬リードの開発に用いることができるリード化合物の機能を果たすことができる、小分子を同定した。
【発明の概要】
【0020】
よって、本発明の1つの実施形態では、細胞増殖障害の治療に用いられるクラスピンの調節剤を提供する。
【0021】
別の態様では、細胞増殖障害の治療に用いられる少なくとも1つの抗腫瘍剤と併用されるクラスピンの調節剤を提供する。
【0022】
前記治療中のクラスピンの調節剤と抗腫瘍剤との併用は、複合、連続または同時とすることができる。
【0023】
好適には、細胞増殖障害は、癌、とくに乳癌のようなBRCA機能障害と関連する(これらに限定されるわけでなはない)。よって、本発明の調節剤は癌を有する所定の動物の治療に用いることができる。
【0024】
本発明のいくつかの態様では、クラスピンの調節剤はクラスピン特異的抗体またはクラスピン特異的核酸調節剤である。好適には、調節剤はクラスピンの活性または発現を調節する。好適には、調節剤はRNA阻害剤または相補オリゴマーのような阻害剤である。
【0025】
本発明の別の実施形態では、細胞増殖障害の治療のため複合、連続または同時投与する、調節剤および抗腫瘍剤を含有する薬の製造における、クラスピンの調節剤と抗腫瘍剤との併用を提供する。
【0026】
クラスピンの調節剤を含む医薬組成物も提供する。任意で、医薬組成物は抗腫瘍剤、および/または他の生理学的に許容可能な賦形剤もしくは補助剤をさらに含有することができる。
【0027】
抗腫瘍剤を用いることができる本発明の実施形態では、抗腫瘍剤は、メトトレキサート、5−フクオロウラシル、フルオロデオキシウリジン、シトシン、アラビノシド、6−メルカプトプリン、6−チオグアニン、メクロロエタミン、シクロホスファミド、イホスファミド、メルファラン、クロラムブシル、チオテパ、マイトマイシンC、アジリジニルベンゾキノン(AZQ)、ブスルファン、カルムスチン(BCNU)、ロムスチン(CCNU)、フォテムスチン、カルボプラチン、ダウノルビシン、ドキソルビシンまたはアドリアマイシン、エピルビシン、ダクチノマイシンまたはアクチノマイシンD、ミトキサントロン、アムサクリン、テノポシド、エトポシド、イリノテカン、トポテカン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、ビノレルビン、タキソール、タキソテール、およびこれらの混合物からなる群から選択される薬剤とすることができる。
【0028】
本発明の別の実施形態では、クラスピン精製済阻害剤を提供する。好適には、こうした阻害剤はクラスピン特異的抗体またはクラスピン特異的核酸調節剤である。
【0029】
本発明は、小核酸分子を用いるRNA干渉(RNAi)による、例えばクラスピンの発現および活性を調節するのに有用な化合物、組成物、ならびに方法に関する。とくに、本発明は短干渉核酸(siNA)、短干渉RNA(siRNA)、二本鎖RNA(dsRNA)、ミクロRNA(miRNA)、および短ヘアピンRNA(shRNA)分子のような小核酸分子ならびにクラスピン遺伝子の発現を調節するのに用いられる方法に関する。
【0030】
本発明のsiNAは無修飾とすることができ、または化学修飾することができる。本発明のsiNAは化学的に合成、ベクターから発現または酵素的に合成することができる。
【0031】
1つの実施形態では、本発明はクラスピン遺伝子の発現を下方制御する二本鎖短干渉核酸(siNA)分子に関し、該siNA分子は約15〜約28個の塩基対を含む。
【0032】
1つの実施形態では、本発明はRNA干渉(RNAi)によるクラスピンRNAの切断を方向づける二本鎖短干渉核酸(siNA)分子に関し、二本鎖siNA分子は第1および第2鎖を含み、siNA分子の各鎖は約18〜約28個のヌクレオチドの長さであり、siNA分子の第1鎖はsiNA分子がRNA干渉によるクラスピンRNAの切断を方向づけるのに十分なクラスピンRNAに対する相補性を有するヌクレオチド配列を含み、該siNA分子の第2鎖は第1鎖に相補的なヌクレオチド配列を含む。
【0033】
本発明の1つの実施形態では、siNAモジュールはmRNA配列またはクラスピンタンパク質をコードするその一部に相補的なヌクレオチド配列を含む相補鎖を含む。任意で、siNAはセンス鎖をさらに含み、該センス鎖は該相補鎖に相補的である。
【0034】
1つの実施形態では、クラスピンsiNA構築物の相補領域は配列番号(SEQ ID NO.)1、3、5、および7のいずれかを有する配列に相補的な配列を含む。1つの実施形態では、クラスピン構築物の相補領域はSEQ ID NO.2、4、6、8、9、10、11、12および13のいずれかを有する配列を含む。別の実施形態では、siNA二本鎖を備える場合、クラスピン構築物のセンス領域はSEQ ID NO.1、3、5、7のいずれかを有する配列およびSEQ ID NO.9〜13の相補配列を含む。1つの実施形態では、本発明のsiNA分子はSEQ ID NO.1〜13のいずれかを含む。
【0035】
本発明の1つの実施形態では、SEQ ID NO:2、4、6、8、9、10、11、12または13の配列を含む、これで構成される、または基本的にこれで構成されるRNAを提供する。好適には、配列はSEQ ID NO:9、10、11、12または13の1つである。
【0036】
いくつかの実施形態では、各種塩基置換、付加または欠失を行ったSEQ ID NO:2、4、6、8、9、10、11、12、または13の配列を提供することができる。好適には、いずれの置換、付加または欠失も、クラスピンmRNAに対する相補分子としてのRNAの機能が著しく妥協されない程度であるだろう。好適には、付加、欠失または置換される塩基の数は約1、2または3塩基のみであるだろう。相補分子の生存可能な相補分子のままである能力は、以下により詳細に記載するように、例えば各種過酷条件下でのハイブリダイゼーション試験によって試験することができる。
【0037】
好適な態様では、RNA相補分子へのいずれの追加塩基もクラスピンmRNAに相補的であるだろう。
【0038】
本発明の1つの実施形態では、siNA分子は約15〜約30(例えば約15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30)個のヌクレオチドを有する相補鎖を含み、相補鎖はRNA配列またはクラスピンタンパク質をコードするその一部に相補的であり、任意で該siNAは約15〜約30(例えば約15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30)個のヌクレオチドを有するセンス鎖をさらに含み、該センス鎖および該相補鎖は各鎖において少なくとも約15個のヌクレオチドが他の鎖に相補的である異なるヌクレオチド配列である。
【0039】
本発明の他の実施形態では、相補鎖において約21個のヌクレオチド、任意で配列の5’および/または3’末端に+/−1または2個のヌクレオチドを有するsiNA分子を提供する。
【0040】
siNA二本鎖の製造方法は当業者に周知である。例えば、本発明の核酸分子は別々に合成し、例えば、連結反応(Moore et al.,1992,Science 256,9923;Draper et al.,国際公開第93/23569号公報;Shabarova et al.,1991,Nucleic Acids Research 19,4247;Bellon et al.,1997,Nucleosides & Nucleotides,16,951;Bellon et al.,1997,Bioconjugate Clje7n.8,204)により、または合成および/もしくは脱保護後のハイブリダイゼーションにより後合成的に結合することができる。
【0041】
本発明のsiNA分子はタンデム合成方法によって合成することもでき、両siNA鎖は、その後切断される切断可能なリンカーにより分離され、ハイブリダイズし、siNA二本鎖の精製を可能にする分離siNA断片または鎖をもたらす単一隣接オリゴヌクレオチド断片または鎖として合成される。リンカーはポリヌクレオチドリンカーまたは非ヌクレオチドリンカーとすることができる。siNAのタンデム合成は96ウェルまたは同様に大きなマルチウェルプラットフォームのようなマルチウェル/マルチプレート合成プラットフォームの両方に容易に適応させることができる。siNAのタンデム合成もバッチ受容体を用いる大規模合成プラットフォーム、合成カラム等にも容易に適応させることができる。
【0042】
siNA分子は2つの異なる核酸鎖または断片から組み立てることもでき、1つの断片はセンス領域を含み、第2の断片はRNA分子の相補領域を含む。
【0043】
本発明では、阻害剤は以下の配列:


のいずれかを有するクラスピン特異的核酸調節剤であってもよい。
【0044】
本発明の1つの実施形態では、siRNA二本鎖の1つ以上を用いてクラスピンを阻害する。
【0045】
別の実施形態では、siRNA相補鎖(SEQ ID NO:2、4、6、8)の1つ以上を用いてクラスピンを阻害する。
【0046】
本発明のさらなる実施形態では、4つの異なるsiRNA二本鎖分子のそれぞれの混合物を用いてクラスピンを取り除く。
【0047】
本発明の好適な実施形態では、SEQ ID NO:9、10、11、12または13を含む配列を提供する。それらの配列の1つ以上を単独でまたは組み合わせて用い、クラスピン機能を阻害することができる。


【0048】
好適な実施形態では、SEQ ID NO:9〜13の配列およびそれらのそれぞれの相補配列を含む二本鎖も提供する。
【0049】
本発明の好適な実施形態では、クラスピン調節剤、またはDNA複製プロセスのクラスピン依存性制御に関与する下流成分を調節する薬剤を同定する生体外(in vitro)の分析方法を提供し、該方法は
(a)クラスピンポリペプチドもしくは核酸、またはこれらの機能的に活性な断片もしくは誘導体を含む分析系を用意する工程、
(b)該分析系を試験薬と接触させる工程、および
(c)該分析系においてクラスピンの発現または活性を検出する工程であって、その非存在下と比較した試験薬存在下でのクラスピンの発現または活性の差により試験薬をクラスピン調節剤として同定する工程、を含む。
【0050】
この際、分析方法は好適には試験薬がクラスピンの阻害剤であるかどうかを決定するために用いられる。薬剤がクラスピンの調節剤であるかどうかを決定するため、好適には分析系はクラスピンポリペプチドを発現する培養細胞を含む。こうした細胞の非包括的な例としては、HeLa、U2OS細胞またはMCF−7細胞がある。任意で、細胞はBRCA1のヘテロ接合細胞(例えばMDA−MB−231細胞)またはBRCAヌル細胞(例えばHCC1937、SUM1315MO2)であってもよい。いくつかの実施形態では、細胞は、追加でクラスピンを除去したBRCAヘテロ接合またはヌル細胞であってもよい。
【0051】
1つの実施形態では、試験薬の添加前の分析系におけるクラスピンの機能(例えばクラスピンの発現および/または活性)は各種プロトコルにより測定される。用いることができるプロトコルの例としては、例えば電気泳動移動度シフト分析(EMSA)もしくは酵素結合免疫分析を用いる分岐DNAへの特異的結合のような生体外プロトコル、または例えば共免疫沈降によるChk1ポリペプチドへの特異的結合によるものがある。
【0052】
あるいは、生体内(in vivo)プロトコルは、例えばmRNAレベルの定量PCR分析、クラスピンタンパク質の免疫ブロッティング、Chk1とクラスピンとの共免疫沈降の分析、Chk1リン酸化の速度および程度の分析、ならびに/またはFACSもしくは間接免疫蛍光顕微鏡法のいずれかによる複製ストレス存在下でのレプリコン安定性の分析により行うことができる。
【0053】
好適な実施形態では、クラスピン活性は固定化、分岐DNAへのクラスピンの動員の程度により測定される。こうした測定は測定値を提供し、試験薬の添加後のクラスピンの活性に対するいずれかの変化を比較することができる。
【0054】
分析系はクラスピンポリペプチドまたは核酸を含むことができ、これを試験薬と接触させる。こうした試験薬は、例えばクラスピンのDNA結合機能に干渉することにより、クラスピン(ポリペプチドまたは核酸)の活性および/または発現を調節することができるいずれかの薬剤であってもよく、好適には化合物もしくはこれらの複合体のような小分子、抗体、または二本鎖RNA、相補オリゴマー、PMOもしくはその他のタイプの干渉RNAのような核酸阻害剤である。
【0055】
本発明の方法では、試験薬を当業者に知られるいずれかの適切な手順によりクラスピンと接触させる。好適な手順は以下のとおりである:
(i)溶液中の試験薬をDNA、またはChk1存在または非存在下で、組み換え型クラスピンを含有する溶液に組み込む;
(ii)溶液中の試験薬を、クラスピンを発現する細胞を含有する溶液に組み込む;
(iii)細胞膜を崩壊させることにより試験薬を、クラスピンを発現する細胞中に導入する;
(iv)まず試験物質を細胞膜との融合が可能である分子素子(例えばカチオン性リポソーム)中に組み込むことにより、試験薬を細胞中に導入する。
【0056】
試験薬とクラスピンとの接触を可能にするという所望の効果を達成するいずれかの手順を用いることができることが理解されるだろう。
【0057】
試験薬とクラスピンまたはクラスピンが発現する細胞との接触は、いずれかの適切な時間、好適には試験薬がクラスピンの発現および/または活性に対していくらかの効果を有するのに十分な時間行うことができる。例えば、分析にクラスピンが発現する細胞を用いる場合、(例えば薬剤は細胞/細胞核の膜を通過しなければならないことがあり得るので)試験薬をクラスピンと確実に接触させるのに分析に用いたクラスピンが分析系において精製される場合よりも長い時間を必要とし得る。試験薬を分析系に放置することができる一般的な時間は約0〜約10時間である。例えば、約20分〜約10時間、約20分〜約2時間、約20分〜約1時間、約1時間〜約8時間、約2時間〜約4時間である。
【0058】
さらに、試験薬をクラスピンと接触させる工程は動物の体、好適にはヒトの体の条件下のような、本発明がもっとも効用を見出すだろう環境と同様の条件(例えば温度、pH、等)下で行うことができる。
【0059】
試験薬を適切な時間、および適切な条件下でクラスピンと接触させて放置した後、クラスピンの発現および/または活性を、クラスピンの参照値を測定するのに用いたのと同じプロトコルを用いて再度測定する。この方法で、クラスピンの機能(例えば活性および/または発現)が調節されたかどうかを示すだろう比較結果を得ることができる。この際、活性および/または発現は上方調節もしくは下方調節されていてもよく、または変わらないままであってもよい。機能が変わらないままである場合、スクリーニングした試験薬はクラスピンの調節剤ではないと考えられる。
【0060】
本発明では、好適な試験薬はクラスピンを下方調節するものである。
【0061】
クラスピンの調節剤が同定されると、こうした調節剤は本明細書においてさらに説明するように、本発明の他の実施形態に用いることができる。
【0062】
好適な実施形態では、本方法は
(a)BRCAおよびクラスピン機能が基本的に正常である細胞の第1集団を試験薬と接触させる工程、
(b)BRCAは抑制されたがクラスピンは機能的である細胞の第2集団を試験薬と接触させる工程、
(c)該第1および該第2細胞集団を複製ストレスにさらす工程、ならびに
(d)該試験薬の該第1および該第2集団の細胞の複製増殖または生存に対する効果を測定する工程
を含む。
【0063】
好適にはBRCAはBRCA1である。
【0064】
試験薬が第2集団(すなわちBRCA1が抑制された)の増殖または生存を減少させるが、第1集団(すなわちBRCA1がまだ機能的である)に対して減少した、または顕著でない効果を有する場合、これは試験薬がクラスピンまたはその下流経路のメンバーの特異的阻害剤であるが、BRCA1またはその下流経路のメンバーには影響を及ぼさないことを示す。こうした方法は従って、BRCA1が機能的なままである細胞、すなわち正常細胞を残しつつ、BRCA1が抑制された細胞、例えば癌性細胞を潜在的に標的とすることができるリード化合物の同定を可能にする。これは、クラスピンおよびBRCA1の両方を欠いた細胞において達成される合成致死性を用いることによる、BRCA1を欠いた癌の標的療法の可能性をもたらす。合成致死性は2つ以上の遺伝子またはそれらのタンパク質産物の欠如の組み合わせが細胞死をもたらす場合に起こるが、いずれか1つの欠如では起こらず、単独では生存可能であると考えられる。
【0065】
BRCAおよびクラスピン機能が「基本的に正常」または「機能的」であるとは、機能は生存可能かつ機能的な細胞をもたらすレベルでBRCAおよびクラスピンが発現する程度であることを意味する。
【0066】
細胞においてBRCAが「抑制された」とは、BRCAの機能が、細胞が実際BRCA機能を全く有していないかのような程度まで減少したことを意味する。例えば、BRCA mRNAの量は、BRCAを機能させない程度まで減少させることができる。これは細胞内の多数の遺伝子、タンパク質および経路の余剰性を考慮するとすぐには明らかになり得ないが、因子または因子の組み合わせを細胞に適用し、「抑制された」遺伝子または遺伝子産物なしでは生存可能または機能的ではなくなるようにすると明らかになるだろう。
【0067】
当業者であれば、BRCAまたはクラスピンの機能(例えば発現および/または活性)が細胞において「正常」または「抑制された」かどうかを容易に確認することができるだろう。こうした条件の一般的な確認方法は、例えば当業者であれば容易に理解し、行うことができるmRNAまたはタンパク質定量化による。
【0068】
mRNA定量化の例として、mRNAのレベルはmRNA分子についてサイズおよび配列情報をもたらすノーザンブロッティングにより定量的に測定することができる。一般的には、RNAの試料はアガロースゲル上で分離し、標的配列に相補的な放射性標識RNAプローブとハイブリダイズさせる。次に放射性標識RNAをオートラジオグラフにより検出する。
【0069】
mRNA存在量を測定する低スループットな代替アプローチは、定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCRの後qPCR)である。RT−PCRはまず逆転写によりmRNAからDNAテンプレートを生成する(cDNA)。次にこのcDNAテンプレートを、DNA増幅プロセスが進行するとプローブの蛍光が変化するqPCRに用いる。丁寧に構成された標準曲線とともに、qPCRは、一般的には均質化された組織の1ナノリットル当たりのコピー数または1細胞当たりのコピー数の単位で、mRNAのコピー数のような絶対測定値をもたらすことができる。
【0070】
あるいは、DNAマイクロアレイ技術を用い、遺伝子の転写レベルを測定することができる。あるいは、異なるメッセンジャーRNAの細胞内濃度の相対的測定値をもたらすことができる遺伝子発現連続分析(SAGE)のような「タグベースの」技術を用いることができる。
【0071】
タンパク質定量化の例として、タンパク質定量化の一般的な方法は目的のタンパク質に対するウェスタンブロットを行うことである―これはその同定に加えてタンパク質のサイズについての情報をもたらす。一般的には、試料(しばしば細胞溶解物)をポリアクリルアミドゲル上で分離し、膜に転写した後、抗体から興味のあるタンパク質まででプローブする。イメージングおよび/または定量化のため抗体は蛍光色素または西洋ワサビ過酸化酵素と結合することができる。
【0072】
タンパク質定量化の代替方法としては、例えば酵素結合免疫測定法(ELISA)がある。ELISAはウェルに添加された試料から興味のあるタンパク質を捕捉するためマイクロタイタープレート上に固定された抗体を用いることにより機能する。酵素または蛍光色素と結合した検出抗体を用い、結合タンパク質の量を蛍光または比色検出により正確に測定することができる。検出プロセスはウェスタンブロットのそれとよく似ているが、ゲル工程を回避することにより、より正確な定量化を達成することができる。
【0073】
本発明の特定の実施形態では、BRCAおよび/またはクラスピンの「正常性」がHeLa細胞のようなBRCAおよび/またはクラスピンが機能的である細胞の約または少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、100%および100%以上の機能で達成されるだろうことが想定される。
【0074】
本発明の特定の実施形態では、BRCA機能が特異的細胞機能および細胞生存性に必要である場合、HeLaのようなBRCAが機能的である正常細胞と比較して30%、20%、10%、5%、4%、3%、2%、1%および0%未満のBRCA機能が細胞に有害になるだろうことが想定される。
【0075】
第1および第2集団に適切した細胞の集団は当業者にとっては明らかであるだろう。BRCA1が抑制された適切な細胞系としてはBRCAヌル細胞、HCC1937およびSUM1315MO2が挙げられるが、他の細胞系は当業者にとっては明らかであるだろう。BRCAおよびクラスピンが機能的である適切な細胞系としてはHeLa、U2OS細胞またはMCF−7が挙げられるが、他の細胞系は当業者にとっては明らかであるだろう。細胞における特定の遺伝子の発現をノックアウトまたはノックダウンすることは当技術分野において周知の手法であり、従って所望の特性を有する他の細胞を用意することは十分に当業者の能力の範囲内である。
【0076】
細胞の第1および第2集団と試験薬との接触はいずれかの適切な時間、好適には試験薬がクラスピンの機能(例えば発現および/または活性)に対していくらかの効果を有するのに十分な時間行うことができる。試験薬を分析系に放置することができる一般的な時間は約0〜10時間である。例えば、約20分〜約10時間、約20分〜約2時間、約20分〜約1時間、約1時間〜約8時間、約2時間〜約4時間である。
【0077】
さらに、細胞集団と試験薬との接触は、動物の体、好適にはヒトの体の条件のような本発明がもっとも効用を見出すだろう環境と同様の条件(例えば温度、pH、等)下で行うことができる。
【0078】
試験薬を適切な時間、および適切な条件下で細胞集団と接触させて放置した後、細胞集団を、複製ストレスを促進する条件にさらす。細胞を複製ストレスにさらすことができるさまざまな方法があるが、本発明に用いるのにもっとも適したものは化学的手段または電離放射線である。細胞を複製ストレス下に置くための好適な薬剤はヒドロキシウレア(HU)である。好適には、細胞を複製ストレス下に置く手段は、抗癌治療にすでに用いることができるもののような、適当な抗腫瘍剤によって達成される。これは、最終的に治療に用いることができる試験薬と抗腫瘍剤との潜在的な併用療法の起こり得る結果を評価するという利点をもたらすことができる。
【0079】
同様に、細胞集団を、DNA複製を停止またはこれに干渉するのに十分な時間複製ストレスにさらす。化学物質への露出について、こうした時間はものの数分から数時間までの範囲とすることができる。
【0080】
適切には、試験物質の複製または生存を阻害する能力は集団内の細胞周期が停止した細胞の数または割合を同定することにより測定する。とくに興味のあるものは細胞周期がS期において停止した細胞である。細胞周期内の細胞の状態を調べる好適な方法はFACSである。
【0081】
DNA合成の全体的な速度は複製フォークで機能する複製機構の固有の触媒反応速度とともに活性複製起点の数により制御されることが知られている。複製能を分析する1つの方法は、細胞が、S期内のそれらの正確な位置の関数としての短いパルス中に、ハロゲン化デオキシヌクレオチド、例えばBrdU(シグマアルドリッチ社)を組み込む能力を評価することである。パルス時間は数分から数時間までの範囲とすることができるが、好適にはパルス時間は約15〜60分、好適には20〜40分、好適には約30分の範囲内である。その細胞についてDNA含量に対してプロットされるすべての細胞に組み込まれるBrdUの量の総細胞集団分析は特徴的な弧を生成し、細胞周期のG1、SおよびG2/M期における細胞の割合の正確な測定を可能にする。
【0082】
とくに、複製能の欠陥の程度は、それらがG1およびG2細胞の間にあるDNA含量を有することにより判断されるようにS期にあるが、BrdUを完全に組み込むことができない(例えば図3における関心領域(RoI)に対応する)細胞の各試料集団における画分を測定することにより定量化することができる。
【0083】
この方法では、本発明は化合物がクラスピンの阻害剤であるかどうか、およびひいてはそれらの化合物が特定の病状(例えば癌)を治療する療法(単独でまたは例えば併用療法で)に有用であり得るかどうかを確かめる分析を提供することができる。試験化合物は新規化合物(例えば今まで知られていなかった化合物)であってもよく、あるいはそれらはすでに知られて(例えばすでに治療に用いられて)いてもよい。例えば、化合物がすでに知られている場合、本発明はこれらの既知の分子がクラスピンの阻害剤であるかどうかを確かめる分析を提供することができ、従って、特定の病状(例えば癌)の治療におけるこれらの薬剤の有効性を向上させるため、ヒトまたは動物の体への使用をすでに認可されている薬剤を例えば抗腫瘍剤との併用療法に用いることができるかどうかを確かめることにより、既存の治療を向上させる潜在的に迅速かつ費用効率的な方法を提供する。
【0084】
本発明のまた別の実施形態では、生体外の分析方法のような、BRCA遺伝子欠損を有する細胞の生存性を調節する方法を提供し、該方法は細胞をクラスピンの阻害剤と接触させる工程を含む。好適には、細胞は抗腫瘍剤とさらに接触させることができる。
【0085】
本明細書において用いる「クラスピンポリペプチド」の語は全長クラスピンタンパク質またはこれらの機能的に活性な断片もしくは誘導体を指す。クラスピンポリペプチドは、例えば、Genbank Accession No.AAG24515.1に記載されるものとすることができる。「機能的に活性な」クラスピン断片または誘導体は、抗原または免疫活性、酵素活性、天然細胞基質を結合する能力、等のような、全長、野生型クラスピンタンパク質に関連する1つ以上の機能活性を示す。クラスピンタンパク質、誘導体および断片の機能活性を当業者に知られる各種方法(Current Protocols in Protein Science(1998)Coligan et al.,eds.,John Wiley & Sons,Inc.,Somerset,New Jersey)によりおよび以下にさらに記載するように化学分析することができる。本明細書における目的のため、機能的に活性な断片は、結合ドメインのような、クラスピンの1つ以上の構造ドメインを含む断片も含む。タンパク質ドメインはPFAMプログラム(Bateman A.,et al.,Nucleic Acids Res,1999,27:260−2)を用いて同定することができる。いくつかの実施形態では、好適な断片は、少なくとも25個の隣接アミノ酸、好適には少なくとも50個、より好適には75個、もっとも好適には少なくとも100個のクラスピンの隣接アミノ酸を含む機能的に活性な、ドメイン含有断片である。さらに好適な実施形態では、断片は機能的に活性なドメイン全体を含む。
【0086】
「クラスピン核酸」の語はクラスピンポリペプチドをコードするDNAまたはRNA分子を指す。クラスピン核酸は、例えば、Genbank Accession No.AF297866に記載されるものとすることができる。好適には、クラスピンポリペプチドもしくは核酸またはこれらの断片はヒトからのものであるが、ヒトクラスピンとの少なくとも70%の配列同一性、好適には少なくとも80%、より好適には85%、またより好適には90%、もっとも好適には少なくとも95%の配列同一性を有するオルソログ、またはこれらの誘導体とすることもできる。オルソログを同定する方法は当技術分野において知られている。通常、1つ以上のタンパク質モチーフおよび/または三次元構造の存在のため、異なる種におけるオルソログは同じ機能を保持する。オルソログは一般的には、BLAST分析のような配列相同性分析により、通常タンパク質ベイト配列を用いて同定される。順BLAST結果からのベストヒット配列が逆BLASTにおいてクエリ配列を取り出す場合、配列は潜在的オルソログとして割り当てられる(Huynen MA and Bork P,Proc Natl Acad Sci(1998)95:5849−5856;Huynen MA et al.,Genome Research(2000)10:1204−1210)。CLUSTAL(Thompson JD et al,1994,Nucleic Acids Res 22:4673−4680)のような複数配列アラインメント用のプログラムを用い、保存領域および/またはオルソログタンパク質の残基を強調し、系統樹を作成することができる。多様な種からの複数の相同配列を表す(例えばBLAST分析によって取り出された)系統樹では、2つの種からの相同配列は一般的にはこれらの2つの種からのすべての他の配列と比較して系統樹上もっとも近くに出現する。(例えばオーストリア、ザルツブルグのProCeryon Biosciencesによるソフトウェアを用いる)構造スレッディングまたはタンパク質折り畳みの他の分析もタンパク質オルソログを同定することができる。進化において、スペシエーションの次に遺伝子重複事象が起こる場合、ショウジョウバエのような1つの種における単一遺伝子はヒトのような別の種における多重遺伝子(パラログ)と一致し得る。本明細書において用いる「オルソログ」の語はパラログを含む。
【0087】
本明細書において用いる対象配列、または対象配列の特定部分についての「配列同一性パーセント(%)」は、プログラムWU−BLAST−2.0al9(Altschul et al.,J.Mol.Biol.(1997)215:403−410)によりすべての検索パラメーターをデフォルト値に設定して生成されるように、最大パーセントの配列同一性を達成するため必要に応じて配列をアラインし、ギャップを導入した後の、対象配列(またはその特定部分)中のヌクレオチドまたはアミノ酸と同一の候補誘導配列中のヌクレオチドまたはアミノ酸の割合として定義される。HSP SおよびHSP S2パラメーターは動的値であり、プログラムそのものにより特定の配列の組成および興味のある配列を検索する特定のデータベースの組成に応じて構築される。同一性%値は、同一性パーセントが報告される配列長さで割った一致する同一のヌクレオチドまたはアミノ酸の数により割り出される。「アミノ酸配列類似性パーセント(%)」は、計算に同一のアミノ酸に加えて保存アミノ酸置換を含むこと以外は、アミノ酸配列同一性%を割り出すのと同じ計算を行うことにより割り出される。
【0088】
保存アミノ酸置換は、アミノ酸をタンパク質の折り畳みまたは活性に大きく影響を及ぼさないように同様の特性を有する別のアミノ酸に置換したものである。互いに置換することができる芳香族アミノ酸はフェニルアラニン、トリプトファン、およびチロシンであり;置き換え可能な疎水性アミノ酸はロイシン、イソロイシン、メチオニン、およびバリンであり;置き換え可能な極性アミノ酸はグルタミンおよびアスパラギンであり;置き換え可能な塩基性アミノ酸はアルギニン、リジンおよびヒスチジンであり;置き換え可能な酸性アミノ酸はアスパラギン酸およびグルタミン酸であり;置き換え可能な小アミノ酸はアラニン、セリン、トレオニン、システインおよびグリシンである。
【0089】
あるいは、核酸配列のアラインメントはSmithおよびWatermanの局所相同アルゴリズム(Smith and Waterman,1981,Advances in Applied Mathematics 2:482−489;database:European Bioinformatics Institute;Smith and Waterman,1981,J.of Molec.Biol.,147:195−197;Nicholas et al.,1998,“A Tutorial on Searching Sequence Databases and Sequence Scoring Methods”(www.psc.edu)およびその中で引用される参考文献;W.R.Pearson,1991,Genomics 11:635−650)により提供される。このアルゴリズムはDayhoffにより開発され(Dayhoff:Atlas of Protein Sequences and Struture,M.O.Dayhoff ed.,5 suppl.3:353−358,National Biomedical Research Foundation,Washinton,D.C.,USA)、Gribskovにより標準化された(Gribskov 1986 Nucl.Acids Res.14(6):6745−6763)スコア行列を用いることによりアミノ酸配列に適用することができる。Smith−Watermanアルゴリズムはスコアにデフォルトパラメーター(例えば、ギャップ開始ペナルティ12、ギャップ伸長ペナルティ2)を用いる場合に用いることができる。生成されるデータから、「一致する」値は「配列同一性」を示す。
【0090】
対象核酸分子の誘導体核酸分子はクラスピンの核酸配列とハイブリダイズする配列を含む。ハイブリダイゼーションの過酷さはハイブリダイゼーションおよび洗浄中の温度、イオン強度、pH、およびホルムアミドのような変性剤の存在により制御することができる。通常用いられる条件は容易に入手可能な手順書(例えばCurrent Protocol in Molecular Biology,Vol.1,Chap.2.10,John Wiley & Sons,Publishers(1994);Sambrook et al.,Molecular Cloning,Cold Spring Harbor(1989))に記載される。いくつかの実施形態では、本発明の核酸分子はクラスピンのヌクレオチド配列を含有する核酸分子と、高過酷ハイブリダイゼーション条件下すなわち:8時間から一晩65℃で6倍の単強度クエン酸塩(SSC)(1倍のSSCは0.15MのNaCl、0.015Mのクエン酸Na;pH7.0)、5倍のデンハルト溶液、0.05%のピロリン酸ナトリウムおよび100g/mlのニシン精子DNAを含む溶液中での核酸を含有するフィルターのプレハイブリダイゼーション;18〜20時間65℃で6倍のSSC、1倍のデンハルト溶液、100μg/mlの酵母tRNAおよび0.05%のピロリン酸ナトリウムを含有する溶液中でのハイブリダイゼーション;ならびに65℃で1時間0.1倍のSSCおよび0.1%のSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)を含有する溶液中でのフィルターの洗浄で、ハイブリダイズすることができる。
【0091】
他の実施形態では、中程度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件すなわち:6時間40℃で35%のホルムアルデヒド、5倍のSSC、50mMのトリスHCl(pH7.5)、5mMのEDTA、0.1%のPVP、0.1%のFicoll、1%のBSA、および500μg/mlの変性サケ精子DNAを含有する溶液中での核酸を含有するフィルターの予備処理;18〜20時間40℃で35%のホルムアルデヒド、5倍のSSC、50mMのトリスHCl(pH7.5)、5mMのEDTA、0.02%のPVP、0.02%のFicoll、0.2%のBSA、100μg/mlのサケ精子DNA、および10%(重量/体積)硫酸デキストランを含有する溶液中でのハイブリダイゼーション;その後1時間55℃で2倍のSSCおよび0.1%のSDSを含有する溶液中での2回の洗浄が用いられる。
【0092】
あるいは、低過酷条件すなわち:8時間から一晩37℃で20%のホルムアルデヒド、5倍のSSC、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5倍のデンハルト溶液、10%の硫酸デキストラン、および20μg/mlの変性せん断サケ精子DNAを含む溶液中でのインキュベーション;同じ緩衝液中での18〜20時間のハイブリダイゼーション;ならびに約37℃で1時間の1倍のSSC中でのフィルターの洗浄を用いることができる。
【0093】
本明細書において用いる「クラスピン調節剤」とは、クラスピン機能を調節するいずれかの薬剤、例えば、クラスピンと相互作用してクラスピン活性を阻害もしくは向上する、または別なふうに正常クラスピン機能に影響を及ぼす薬剤である。クラスピン機能は、転写、タンパク質発現、タンパク質局在化、および細胞または細胞外活性を含むいずれかのレベルで影響を受け得る。好適な実施形態では、クラスピン調節剤はクラスピンの機能を特異的に調節する。「特異的調節剤」、「特異的に調節する」、等の語句は本明細書において、クラスピンポリペプチドまたは核酸に直接結合し、好適にはクラスピンの機能を阻害、向上、または別なふうに変更する調節剤を指すのに用いられる。これらの語句は(例えばクラスピンの結合パートナー、またはタンパク質/結合パートナー複合体と結合し、クラスピン機能を変更することにより)クラスピンと結合パートナー、基質、または共因子との相互作用を変更する調節剤も含む。また、本明細書において用いるクラスピン調節剤はDNA複製プロセスのクラスピン依存性制御に関与する下流成分を調節する薬剤とすることができる。
【0094】
好適には、クラスピン調節剤はクラスピンの阻害剤である。
【0095】
好適なクラスピン調節剤としては、小分子化合物;抗体および他のバイオ治療薬を含む、クラスピン相互作用タンパク質;ならびに相補およびRNA阻害剤のような核酸調節剤が挙げられる。調節剤は、例えば、併用療法に見られるような他の活性成分、および/または適切な担体もしくは賦形剤を含むことができる組成物として医薬組成物に製剤することができる。化合物の製剤および投与の技術は、“Remington’s Pharmaceutical Sciences”,Mack Publishing Co.,Easton,PA,19th editionに見ることができる。
【0096】
小分子は、酵素機能を有する、および/またはタンパク質相互作用ドメインを含有するタンパク質の機能を調節するのに好ましい場合が多い。当技術分野において「小分子」化合物と称される化学剤は一般的には、最大10,000、好適には最大5,000、より好適には最大1,000、もっとも好適には最大500ダルトンの分子量を有する有機、非ペプチド分子である。この類の調節剤としては、化学的に合成した分子、例えば組み合わせ化学ライブラリーからの化合物が挙げられる。合成化合物は、クラスピンタンパク質の既知の、もしくは推定される特性に基づいて、合理的に設計もしくは同定することができ、または化合物ライブラリーをスクリーニングすることにより同定することができる。この類の適当な代替調節剤としては、天然産物、とくに植物または菌類のような有機体からの二次代謝産物があり、これもクラスピン調節活性について化合物ライブラリーをスクリーニングすることにより同定することができる。化合物を生成および入手する方法は当技術分野において周知である(Schreiber SL,Science(2000)151:1964−1969;Radmann J and Gunther J,Science(2000)151:1947−1948)。
【0097】
後述するように、スクリーニング分析から同定した小分子調節剤は、それから候補治療化合物を設計、最適化、および合成することができるリード化合物として用いることができる。こうした治療化合物はBRCAの欠損に関連した病状の治療に有用性を有することができる。候補小分子調節剤の活性は、さらに後述するように、反復二次機能検証、構造決定、ならびに候補調節剤修飾および試験によって数倍向上させることができる。さらに、候補治療化合物はとくに治療および医薬特性に関して生成される。例えば、試薬は医薬開発のため生体外(in vitro)および生体内(in vivo)分析を用いて誘導体化し、再スクリーニングし、活性を最適化および毒性を最小化することができる。
【0098】
特異的クラスピン相互作用タンパク質はBRCA関連障害に関連するさまざまな診断的および治療的用途、ならびに他のクラスピン調節剤の検証分析において有用である。好適な実施形態では、クラスピン相互作用タンパク質は転写、タンパク質発現、タンパク質局在化、および細胞または細胞外活性を含む正常クラスピン機能に影響を及ぼす。別の実施形態では、クラスピン相互作用タンパク質は、(例えば診断手段について)癌のようなBRCA関連障害に関連するので、クラスピンタンパク質の機能についての情報を検出および提供するのに有用である。
【0099】
クラスピン相互作用タンパク質は内因性、すなわちクラスピン発現、局在化、および/または活性を調節するタンパク質のような、クラスピンと自然に遺伝的または生化学的に相互作用するものであってもよい。酵母ツーハイブリッドおよび変異スクリーンは内因性クラスピン相互作用タンパク質を同定する好適な方法を提供する(Finley,R.L.et al.(1996)in DNA Cloning−Expression Systems:A Practical Approach,eds.Glover D.&Hames B.D(Oxford University Press,Oxford,England),pp.169−203;Fashema SF et al.,Gene(2000)250:1−14;Drees BL Curr Opin Chem Biol(1999)3:64−70;Vidal M and Legrain P Nucleic Acids Res(1999)27:919−29;および米国特許第5,928,868号)。質量分析はタンパク質複合体の解明の好適な代替方法である(例えば、Pandley A and Mann M,Nature(2000)405:837−846;Yates JR 3rua,Trends Genet(2000)16:5−8において概説)。
【0100】
クラスピン相互作用タンパク質はクラスピン特異的抗体のような外因性タンパク質であってもよい(例えばHarlow and Lane(1988)Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory;Harlow and Lane(1999)Using antibodies:a laboratory manual.Cold Spring Harbor,NY:Cold Spring Harbor Laboratory Press参照)。クラスピン特異的抗体についてはさらに後述する。
【0101】
好適な実施形態では、クラスピン相互作用タンパク質はクラスピンタンパク質を特異的に結合する。好適な代替実施形態では、クラスピン調節剤はクラスピン基質、結合パートナー、または共因子を結合する。
【0102】
別の実施形態では、タンパク質調節剤はクラスピン特異的抗体アゴニストまたはアンタゴニストである。抗体は治療的および診断的有用性を有し、スクリーニング分析に用い、クラスピン調節剤を同定することができる。
【0103】
クラスピンポリペプチドを特異的に結合する抗体は既知の方法を用いて生成することができる。好適には、抗体はクラスピンポリペプチドの哺乳類オルソログ、より好適にはヒトクラスピンに特異的である。抗体は多クローン性、単クローン性(mAbs)、ヒト化またはキメラ抗体、一本鎖抗体、Fab断片、F(ab’)断片、FAb発現ライブラリーにより生成される断片、抗イデオタイプ(抗Id)抗体、および上記のいずれかのエピトープ結合断片であってもよい。とくに抗原性であるクラスピンのエピトープは、例えば、抗原性についてクラスピンポリペプチドの通常スクリーニングによりまたはクラスピンのアミノ酸配列にタンパク質の抗原性領域を選択するための理論的方法(Hopp and Wood(1981),Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.78:3824−28;Hopp and Wood,(1983)Mol.Immunol.20:483−89;Sutcliffe et al.,(1983)Science 219:660−66)を適用することにより選択することができる。10−1、好適には10−1〜1010−1、またはより強いアフィニティーを有するモノクローナル抗体は開示される標準的な手順(Harlow and Lane,supra;Goding(1986)Monoclonal Antibodies:Principles and Practice(2nd ed)Academic Press,New York;ならびに米国特許第4,381,292号;第4,451,570号;および第4,618,577号)により生成することができる。
【0104】
抗体はクラスピンの粗細胞抽出物または実質的に精製したその断片に対して生成することができる。クラスピン断片を用いる場合、それらは好適には少なくとも10個、より好適には少なくとも20個のクラスピンタンパク質の隣接アミノ酸を含む。クラスピン特異的抗原および/または免疫源は免疫反応を促進する担体タンパク質と結合することができる。例えば、対象ポリペプチドをキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)担体と共有結合させ、複合体を、免疫反応を向上させる完全フロインドアジュバント中で乳化する。実験用ウサギまたはマウスのような適当な免疫系に従来の方法に従って免疫性を与える。
【0105】
クラスピン特異的抗体の存在は固相酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)のような適当な分析方法により固定化した対応するクラスピンポリペプチドを用いて化学分析する。放射免疫分析または蛍光分析のような他の分析方法を用いることもできる。
【0106】
クラスピンポリペプチドに特異的な、異なる動物種からの異なる部分を含有するキメラ抗体を生成することができる。例えば、抗体がその生物活性をヒト抗体から、その結合特異性をネズミ断片から誘導するように、ヒト免疫グロブリン定常領域はネズミmAbの可変領域と結合することができる。キメラ抗体は各種からの適当な領域をコードする遺伝子を継ぎ合わせることにより生成される(Morrison et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.(1984)81:6851−6855;Neuberger et al.,Nature(1984)312:604−608;Takeda et al.,Nature(1985)31:452−454)。
【0107】
キメラ抗体の一形態であるヒト化抗体は、組み換えDNA技術(Riechmann LM,et al.,1988 Nature 323:323−327)により、マウス抗体の相補性決定領域(CDR)(Carlos,T.M.,J.M.Harlan.1994.Blood 84:2068−2101)をヒトフレームワーク領域および定常領域のバックグラウンド中に移植することにより生成することができる。ヒト化抗体はマウス配列およびヒト配列を含有し、よって、抗体特異性を保持しながら、免疫原性をさらに低減または削減する(Co MS,and Queen C.1991 Nature 351:501−501;Morrison SL.1992 Ann.Rev.Immun.10:239−265)。ヒト化抗体およびそれらの生成方法は当技術分野において周知である(米国特許第5,530,101号、第5,585,089号、第5,693,762号、および第6,180,370号)。
【0108】
Fv領域の重鎖および軽鎖断片をアミノ酸架橋によって結合することにより形成される組み換え型一本鎖ポリペプチドであるクラスピン特異的一本鎖抗体は、当技術分野において知られる方法(米国特許第4,946,778号;Bird,Science(1988)242:423−426;Huston et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1988)85:5879−5883;およびWard et al.,Nature(1989)334:544−546)により生成することができる。
【0109】
他の適切な抗体生成技術は、リンパ球の抗原ポリペプチドへの生体外(in vitro)露出またはあるいはファージもしくは同様のベクターにおける抗体のライブラリーの選択を含む(Huse et al.,Science(1989)246:1275−1281)。
【0110】
既存のクラスピン抗体を用いることができ、これらは当業者に知られている。こうした抗体の例としては、例えばBethyl Laboratories,Inc.(米国テキサス)のカタログ番号A300−266A、A300−265A、A300−267AおよびBP300−266がある。
【0111】
本発明のポリペプチドおよび抗体は、修飾の有無にかかわらず用いることができる。しばしば、抗体は、検出可能なシグナルを提供する物質、または標的タンパク質を発現する細胞に対して毒性がある物質を共有または非共有結合することにより標識化されるだろう(Menard S,et al.,Int J.Biol Markers(1989)4:131−134)。幅広い標識および結合技術が知られ、化学および特許文献の両方において広く報告されている。適切な標識体としては、放射性核種、酵素、基質、共因子、阻害剤、蛍光部分、蛍光発光ランタニド金属、化学発光部分、生物発光部分、磁性粒子、等が挙げられる(米国特許第3,817,837号、第3,850,752号、第3,939,350号、第3,996,345号、第4,277,437号、第4,275,149号、および第4,366,241号)。また、組み換え免疫グロブリンを生成することができる(米国特許第4,816,567号)。細胞質ポリペプチドに対する抗体は送達され、膜透過性毒素タンパク質との結合によりそれらの標的に到達することができる(米国特許第6,086,900号)。
【0112】
患者に治療的に用いる場合、本発明の抗体は一般的には、可能な場合標的部位で、非経口的に、または静脈内投与される。治療効果のある用量および用法は臨床研究により決定する。一般的には、投与される抗体の量は患者の体重の約0.1mg/kg〜約10mg/kgの範囲内である。非経口的投与のため、抗体は医薬的に許容可能な媒体に関連して単位用量注射可能形態(例えば溶液、懸濁液、乳濁液)に製剤される。こうした媒体は本質的に非毒性かつ非治療的である。例としては、水、生理的食塩水、リンガー溶液、デキストロース溶液、および5%ヒト血清アルブミンがある。固定油、オレイン酸エチル、またはリポソーム担体のような非水媒体を用いることもできる。媒体は少量の緩衝剤および防腐剤のような添加剤を含有することができ、これは等張性および化学安定性を向上させ、または別に治療可能性を向上させる。こうした媒体中の抗体の濃度は一般的には約1mg/ml〜約10mg/mlの範囲内である。
【0113】
免疫治療方法については文献(米国特許第5,859,206号;国際公開第0073469号公報)中にさらに記載されている。
【0114】
他の好適なクラスピン調節剤は、一般的にはクラスピン活性を阻害する、相補オリゴマーまたは二本鎖RNA(dsRNA)のような核酸分子を含む。好適な核酸調節剤は、DNA複製、転写、クラスピンRNAのタンパク質翻訳の部位への転座、クラスピンRNAからのタンパク質の翻訳、1つ以上のmRNA種を得るためのクラスピンRNAのスプライシング、またはクラスピンRNAが関与し、もしくはこれにより促進され得る触媒活性のような、クラスピン核酸の機能に干渉する。
【0115】
1つの実施形態では、相補オリゴマーは、好適には5’非翻訳領域と結合することにより、結合し、翻訳を防止するのに十分にクラスピンmRNAに相補的なオリゴヌクレオチドである。クラスピン特異的相補オリゴヌクレオチドは、好適には少なくとも6〜約200個のヌクレオチドの範囲である。いくつかの実施形態では、オリゴヌクレオチドは好適には少なくとも10、15、または20個のヌクレオチドの長さである。他の実施形態では、オリゴヌクレオチドは好適には50、40、または30個未満のヌクレオチドの長さである。オリゴヌクレオチドはDNAもしくはRNA、またはこれらのキメラ混合物、誘導体、もしくは修飾版、一本鎖または二本鎖とすることができる。オリゴヌクレオチドは塩基部分、糖部分、またはリン酸骨格で修飾することができる。オリゴヌクレオチドはペプチド、細胞膜の透過を促進する薬剤、ハイブリダイゼーション誘発性切断剤、および挿入剤のような他の付加群を含むことができる。
【0116】
本発明の1つの実施形態では、siNA分子は、mRNA配列またはクラスピンタンパク質をコードするその一部に相補的なヌクレオチド配列を含む相補鎖を含む。
【0117】
1つの実施形態では、クラスピンsiNA構造体の相補領域はSEQ ID NO.1、3、5、および7のいずれかを有する配列に相補的な配列を含む。1つの実施形態では、クラスピン構造体の相補領域はSEQ ID NO.2、4、6、8、9、10、11、12および13のいずれかを有する配列を含む。
【0118】
本発明の1つの実施形態では、SEQ ID NO:2、4、6、8、9、10、11、12または13の配列を含む、これで構成される、または基本的にこれで構成されるRNAを提供する。好適には、これはSEQ ID NO:9、10、11、12または13の1つである。
【0119】
いくつかの実施形態では、対象配列に各種塩基置換、付加または欠失を行ったSEQ ID NO:2、4、6、8、9、10、11、12、または13の配列を提供することができる。好適にはいずれかの置換、付加または欠失は、相補分子としてのRNAのクラスピンmRNAに対する機能を著しく妥協しないものであるだろう。好適には、付加、欠失または置換される塩基の数は約1、2または3塩基のみであるだろう。相補分子の生存可能な相補分子のままである能力は、以下でより詳しく記載するように、例えば各種過酷条件下でのハイブリダイゼーション試験によって試験することができる。
【0120】
別の実施形態では、相補オリゴマーはホスホチオエートモルホリノオリゴマー(PMO)である。PMOはそれぞれが6員モルホリン環と結合する4つの遺伝的基礎(A、C、G、またはT)のうち1つを含有する4つの異なるモルホリノサブユニットから組み立てられる。これらサブユニットのポリマーは非イオン性ホスホジアミデートサブユニット間結合により結合される。PMOおよび他の相補オリゴマーをどのように生成および使用するかの詳細については当技術分野において周知である(例えば、国際公開第99/18193号公報;Probst JC,Antisense Oligodeoxynucleotide and Ribozyme Design,Methods.(2000)22(3):271−281;Summerton J,and Weller D.1997 Antisense Nucleic Acid Drug Dev.:7:187−95;米国特許第5,235,033号;および米国特許第5,378,841号参照)。
【0121】
好適な代替クラスピン核酸調節剤としてはRNA干渉(RNAi)を媒介する二本鎖RNA種がある。RNAiは、サイレンス遺伝子と配列が相同である二本鎖RNA(dsRNA)により開始される、動物および植物における配列特異的、後転写遺伝子サイレンシングのプロセスである。C.エレガンス、ショウジョウバエ、植物、およびヒトにおけるサイレンス遺伝子に対するRNAiの使用に関連する方法は当技術分野において知られている(Fire A,et al.,1998 Nature 391:806−811;Fire,A.Trends Genet.15,358−363(1999);Sharp,P.A.RNA interference 2001.Genes Dev.15,485−490(2001);Hammond,S.M.,et al.,Nature Rev.Genet.2,110−1119(2001);Tuschl,T.Chem.Biochem.2,239−245(2001);Hamilton,A.et al.,Science 286,950−952(1999);Hammond,S.M.,et al.,Nature 404,293−296(2000);Zamore,P.D.,et al.,Cell 101,25−33(2000);Bernstein,E.,et al.,Nature 409,363−366(2001);Elbashir,S.M.,et al.,Genes Dev.15,188−200(2001);国際公開第0129058号公報;国際公開第9932619号公報;Elbashir SM,et al.,2001 Nature 411:494−498;Novina CD and Sharp P.2004 Nature 430:161−164;Soutschek J et al 2004 Nature 432:173−178)。
【0122】
本発明の1つの実施形態では、siNA分子はmRNA配列またはクラスピンタンパク質をコードするその一部と相補的であるヌクレオチド配列を含む相補鎖を含む。任意で、siNAは該相補鎖に相補的であるセンス鎖をさらに含む。
【0123】
1つの実施形態では、クラスピンsiNA構造体の相補領域はSEQ ID NO.1、3、5、および7のいずれかを有する配列と相補的である配列を含む。1つの実施形態では、クラスピン構造体の相補領域はSEQ ID NO.2、4、6、8、9、10、11、12および13のいずれかを有する配列を含む。別の実施形態では、siNA二本鎖を備える場合、クラスピン構造体のセンス領域はSEQ ID NO.1、3、5、7のいずれかを有する配列、およびSEQ ID NO:9〜13との相補配列を含む。1つの実施形態では、本発明のsiNA分子はSEQ ID NO.1〜13のいずれかを含む。
【0124】
1つの実施形態では、本発明のsiNA分子は、好適にはSEQ ID NO:1と2、3と4、5と6、7と8、9と相補配列、10と相補配列、11と相補配列、12と相補配列、および13と相補配列を含む二本鎖として、SEQ ID NO.1〜13のいずれかを含む。
【0125】
本発明の1つの実施形態では、SEQ ID NO:9、10、11、12または13の配列を含む、これで構成される、または基本的にこれで構成されるRNAを提供する。いくつかの実施形態では、SEQ ID NO:9、10、11、12または13を含む配列はRNA二本鎖の形態をもたらす実質的に相補的な配列をさらに含むだろう。こうした二本鎖はクラスピンの発現のRNA干渉に用いることができる。当業者であれば、SEQ ID NO:9、10、11、12および13との適当な相補配列を知っているだろう。
【0126】
核酸調節剤は研究試薬、診断薬および治療薬として一般的に用いられている。例えば、遺伝子発現を優れた特異性をもって阻害することができる相補オリゴヌクレオチドは、特定の遺伝子の機能を解明するためによく用いられる(例えば、米国特許第6,165,790号参照)。核酸調節剤は、例えば生物学的経路の各種メンバーの機能を識別するためにも用いられる。例えば、相補オリゴマーは動物および人間の病状の治療において治療部分として用いられ、多数の臨床試験において安全かつ効果的であることが示されている(Milligan JF,et al,Current Concepts in Antisense Drug Design,J Med Chem.(1993)36:1923−1937;Tonkinson JL et al.,Antisense Oligodeoxynucleotides as Clinical Therapeutic Agents,Cancer Invest.(1996)14:54−65)。従って、本発明の1つの態様では、クラスピン特異的核酸調節剤を分析に用い、クラスピンのBRCA1との役割をさらに解明する。本発明の別の態様では、クラスピン特異的相補オリゴマーをBRCA関連病状の治療の治療薬として用いる。
【0127】
好適なクラスピンヌクレオチド調節剤はクラスピンの機能(例えば活性および/または発現)に干渉することができる配列を有するsiRNA阻害剤である。例えば、SEQ ID NO:1〜13に示す配列を用い、クラスピンを阻害する。好適には、SEQ ID NO.1と2、3と4、5と6、7と8、9と相補配列、10と相補配列、11と相補配列、12と相補配列、および13と相補配列を含む二本鎖を用い、クラスピンを阻害する。好適には、多数の異なる二本鎖(例えば2、3または4つの二本鎖)の混合物が用いられる。好適には、それぞれSEQ ID NO:9、10、11、12および13を含む二本鎖、ならびにSEQ ID NO:9、10、11、12および13を含む一本鎖を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0128】
ここで本発明の実施形態について、単なる一例として、添付の図面を参照しながら説明する。
【図1】クラスピンの複製ストレスへの細胞応答に対する効果を示す。(A)HeLa細胞を、対照またはクラスピンsiRNAで形質転換した。細胞を48時間後に溶解し、指示抗体で免疫ブロッティングを施した。(B)細胞をクラスピンまたは対照siRNAで48時間かけて形質転換した後、新鮮な培地または2mMのHU(HU)を含有する培地でさらに24時間処理した。その後細胞を、30分間BrdUを含有する培地で実質的にインキュベートし、蛍光活性化細胞選別による分析のため採取し、処理した。(C)上記(B)のように形質転換た細胞を溶解し、指示抗体(上パネル)で免疫ブロットした。ブロッティングデータをImage Jソフトウェアを用いて定量化し、Chk1活性化の程度を(P−Ser345およびP−Ser317染色の強度により測定されるように)総Chk1タンパク質(色の濃い棒)または総アクチン(色の薄い棒)の割合として表す。
【図2】Chk1がBRCA1およびクラスピンとの安定な生体内(in vivo)複合体を形成することを示す。HeLa細胞を溶解前に2mMのHUで24時間処理した。細胞抽出物に抗Chk1抗体での免疫沈降を施し、免疫沈降物に指示抗体での免疫ブロッティング前に電気泳動を施した。
【図3】BRCA1欠損HCC1937細胞においてクラスピンが枯渇すると外から加えられた複製ストレスにさらされたレプリコンを安定化することができないことを示す。(A)HCC1937細胞を対照またはクラスピンsiRNAで形質転換した。細胞を48時間後に溶解し、指示抗体での免疫ブロッティングを施した。(B)細胞を対照またはクラスピンsiRNAで48時間かけて形質転換した後、新鮮な培地または2mMのHU(HU)を含有する培地でさらに24時間処理した。次に細胞を、30分間BrdUを含有する培地で実質的にインキュベートし、蛍光活性化細胞選別による分析のため採取し、処理した。(C)上記(B)のように形質転換した細胞を溶解し、指示抗体(上パネル)で免疫ブロットした。ブロッティングデータをImage Jソフトウェアを用いて定量化し、Chk1活性化の程度を(P−Ser345およびP−Ser317染色の強度により測定されるように)総Chk1タンパク質(色の濃い棒)または総アクチン(色の薄い棒)の割合として表す。
【図4】HCC1937細胞におけるクラスピン枯渇により誘発される高いS期の機能喪失が成長に対する著しい影響をもたらすことを示す。HeLa細胞(A)またはHCC1937細胞(B)を、図1の凡例に記載するように、HUに24時間さらす前に対照またはクラスピンsiRNAで処理した。次に細胞を二変量FACSのための処理前にBrdUを含有する培地で30分間インキュベートした。それぞれの場合において、(各挿入において長方形で示すように)有意なレベルのBrdUを組み込むことができないS期細胞の割合をプロットする(C、D)。HeLa(C)またはHCC1937(D)細胞を新鮮な培地に再播種する前に対照またはクラスピンsiRNAで48時間処理した。細胞数を指示時間で測定し、初期数の倍数として表した。
【図5】siRNA生成のために選択される配列およびこの研究に用いられる個別siRNAの配列の位置を示すヒトクラスピンの遺伝子構造を示す。
【図6】a)非標的siRNAで処理した、b)30nMのクラスピンsiRNA(Seq ID No 13)で処理した、c)100nMのクラスピンsiRNA(Seq ID No 13)で処理した、d)300nMのクラスピンsiRNA(Seq ID no 13)で処理した、UWB1.289+BRCA1(WCE)細胞におけるクラスピンの発現を示すウェスタンブロットを示す。
【図7】DNA含量に対してBrdU組み込みをプロットする子宮頸癌細胞系の一般的な二変量FACS分析の結果を示す。G1、SおよびG2/M期における細胞を赤い長方形で示す。複製に失敗すると関心領域(RoI)に現れる細胞をもたらす。
【図8】DNA含量に対するBrdU組み込みをプロットする(BRCA1+/+)子宮頸癌細胞系(AおよびB、左側パネル)および(BRCA1−/−−)乳癌系(AおよびB、右側パネル)の二変量FACS分析の結果を示す。G1、SおよびG2/M期における細胞を赤い長方形で示す。複製に失敗すると関心領域(RoI)に現れる細胞をもたらす。
【図9】クラスピンsiRNA(Seq ID No 9〜13)、または非標的siRNAで処理した、BRCA1+/+(灰色の棒)およびBRCA−/−細胞(黒い棒)中の非標識S期細胞の割合を示す図8に示すデータから得られるグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0129】
本発明は、欠陥のあるBRCA(例えばBRCA1またはBRCA2)遺伝子に関連する障害の治療に用いることができる候補治療剤であるクラスピン調節剤を同定する方法を提供する。好適なクラスピン調節剤はクラスピンポリペプチドと特異的に結合し、クラスピン機能を阻害することができる。他の好適なクラスピン調節剤としては、例えば、それぞれの核酸(すなわちmRNAまたはDNA)に結合し、阻害することにより、クラスピン遺伝子発現または産物活性を抑制することができる干渉RNA(RNAi)および相補オリゴマーのような核酸調節剤がある。また、本明細書において用いるクラスピン調節剤は、DNA複製プロセスのクラスピン依存性制御に関与する下流成分を調節する薬剤とすることができる。
【0130】
クラスピン調節剤は、クラスピンポリペプチドまたは核酸との分子相互作用についてのいずれかの便利な生体外(in vitro)または生体内(in vivo)分析により評価することができる。1つの実施形態では、候補クラスピン調節剤はクラスピンポリペプチドまたは核酸を含む分析系で試験する。制御に関して分析系の活性に変化をもたらす薬剤は候補クラスピン調節剤と同定される。分析系は細胞ベースまたは細胞フリーであってもよい。クラスピン調節剤としては、クラスピン関連タンパク質(例えばドミナントネガティブ突然変異体、およびバイオ治療薬);クラスピン特異的抗体;クラスピン特異的相補オリゴマーおよび他の核酸調節剤;ならびにクラスピンと特異的に結合もしくは相互作用する、または(例えばクラスピン結合パートナーと結合することにより)クラスピン結合パートナーと競合する化学剤が挙げられる。
【0131】
本発明は、(哺乳類)細胞をクラスピンポリペプチドまたは核酸と特異的に結合する薬剤と接触させることにより細胞(好適には哺乳類細胞)におけるクラスピン機能を調節する方法をさらに提供する。薬剤は小分子調節剤、核酸調節剤、または抗体であってもよく、BRCA遺伝子に関連する病状を有する所定の(哺乳類)動物に投与することができる。
【0132】
本発明はクラスピンの機能と相互作用および/またはこれを調節する薬剤を同定する方法を提供する。本方法により同定された調節剤も本発明の一部である。こうした薬剤はBRCA遺伝子欠陥に関連するさまざまな診断的および治療的用途、ならびにクラスピンタンパク質およびBRCA関連疾患の治療へのその貢献のさらなる分析に有用である。従って、本発明はクラスピン相互作用または調節剤を投与することによりクラスピン活性を特異的に調節する工程を含む細胞の生存性を調節する方法も提供する。
【0133】
本発明はクラスピン活性の特異的調節剤を同定するための分析系およびスクリーニング方法を提供する。本明細書において用いる「分析系」とは特定の事象を検出および/または測定する分析方法を行い、その結果を分析するために必要なすべての要素を含む。一般的には、一次分析を用い、クラスピン核酸またはタンパク質に関する調節剤の特異的な生化学的または分子効果を同定または確認する。
【0134】
好適な実施形態では、スクリーニング方法は、薬剤の存在にも関わらず分析系がスクリーニング方法の検出する特定の分子事象に基づく参照活性をもたらす条件下で、クラスピンポリペプチドまたは核酸を含む適切な分析系を候補薬剤と接触させる工程を含む。薬剤バイアスを受ける活性と参照活性との間の統計的に有意な差は候補薬剤がクラスピン活性を調節することを示す。分析に用いるクラスピンポリペプチドまたは核酸は上述の核酸またはポリペプチドのいずれかを含むことができる。
【0135】
特異的なクラスピン調節剤は、疾患または疾患予後が血管、アポトーシス、または細胞増殖障害のようなBRCA欠陥に関連するさまざまな診断的および治療的用途において有用である。
【0136】
本発明は、抗腫瘍剤と併せて治療効果のある量のクラスピン調節剤を投与することにより、BRCA機能障害に関連する障害または疾患を治療する方法も提供する。本発明は、クラスピン調節剤を投与することにより、細胞、好適にはBRCA機能欠陥または障害を有する所定の細胞におけるクラスピン機能を調節する方法をさらに提供する。また、本発明は、治療効果のある量のクラスピン調節剤を投与することにより、BRCA機能障害に関連する障害または疾患を治療する方法を提供する。
【0137】
本発明は、ヒトを含む哺乳類における異常細胞増殖の治療のための医薬組成物を含む。
【0138】
1つの実施形態では、異常細胞増殖とは癌、とくにBRCA欠陥を有する悪性細胞に関する癌である。本明細書において用いる「癌」の語は、とくに指示のない限り、非制御、異常細胞成長および/または増殖により特徴づけられる疾患を指す。本発明の1つの態様では、癌は、これに限定されないが、転移性固形腫瘍を含む固形腫瘍を含む。1つの態様では、固形腫瘍は、これらに限定されないが、腎細胞癌、結腸癌、移行細胞癌、肺癌、乳癌および前立腺癌を含む内皮細胞癌である。腎細胞癌の例としては、これらに限定されないが、明細胞癌、乳頭癌、嫌色素癌、集合管癌および未分類癌が挙げられる。肺癌の例としては、これらに限定されないが、腺癌、肺胞細胞癌、扁平上皮細胞癌、大細胞および小細胞癌が挙げられる。乳癌の例としては、これらに限定されないが、腺癌、非浸潤性乳管癌、上皮内小葉癌、浸潤性乳管癌、髄様癌および粘液癌が挙げられる。本発明の別の態様では、固形腫瘍は、これに限定されないが、軽部組織肉腫を含む内皮細胞肉腫である。
【0139】
特定の実施形態では、癌性または悪性疾患としては、これらに限定されないが、悪性黒色腫、慢性骨髄性白血病、毛様細胞白血病、多発性骨髄腫、腎細胞癌、肝細胞癌、結腸直腸癌、胃癌、頭頸部癌、骨肉種、乳癌、卵巣癌、子宮頸癌、前立腺癌、膵臓癌、子宮癌、ならびに非ホジキンリンパ腫から選択される疾患を挙げることができる。
【0140】
本明細書において用いる「化学療法剤」、「抗腫瘍剤」、「細胞毒性剤」の語は、置き換え可能に用いられ、とくに指示のない限り、異常細胞成長および/または増殖を阻害、分断、予防または干渉する癌の治療に用いられるいずれかの薬剤を指す。化学療法剤の例としては、これらに限定されないが、アポトーシスを誘発する薬剤、アルキル化剤、プリンアンタゴニスト、ピリミジンアンタゴニスト、植物性アルカロイド、挿入抗生物質、アロマターゼ阻害剤、代謝拮抗物質、分裂阻害剤、成長因子阻害剤、細胞周期阻害剤、酵素、トポイソメラーゼ阻害剤、生物学的反応修飾物質、ステロイドホルモンおよび抗アンドロゲンが挙げられる。いくつかの実施形態では、モノクローナル抗体は化学療法剤の単一種と併用することができるが、他の実施形態では、化学療法剤の多重種と併用することができる。
【0141】
アルキル化剤の例としては、これらに限定されないが、カルムスチン、ロムスチン、シクロホスファミド、イホスファミド、メクロレタミンおよびストレプトゾトシンが挙げられる。抗生物質の例としては、これらに限定されないが、アドリアマイシン、ブレオマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、イダルビシンおよびプリカマイシンが挙げられる。代謝拮抗物質の例としては、これらに限定されないが、シタラビン、フルダラビン、5−フルオロウラシル、6−メルカプトプリン、メトトレキサートおよび6−チオグアニンが挙げられる。分裂阻害剤の例としては、これらに限定されないが、ナベルビン、パクリタキセル、ビンブラスチンおよびビンクリスチンが挙げられる。ステロイドホルモンおよび抗アンドロゲンの例としては、これらに限定されないが、アミノグルテチミド、エストロゲン、フルタミド、ゴセレリン、ロイプロリド、プレドニゾンおよびタモキシフェンが挙げられる。
【0142】
本発明のいくつかの実施形態では、細胞毒性剤は、細胞毒素、化学療法剤および放射線からなる群から選択される。細胞毒素の例としては、これらに限定されないが、ゲロニン、リシン、サポニン、緑膿菌外毒素、ヤマゴボウ抗ウィルスタンパク質、ジフテリア毒素および補体タンパク質が挙げられる。化学療法剤の例としては、これらに限定されないが、アルキル化剤、プリンアンタゴニスト、ピリミジンアンタゴニスト、植物アルカロイド、挿入抗生物質、アロマターゼ阻害剤、代謝拮抗物質、分裂阻害剤、成長因子阻害剤、細胞周期阻害剤、酵素、トポイソメラーゼ阻害剤、生物学的反応修飾物質、抗ホルモンおよび抗アンドロゲンが挙げられる。化学療法剤の追加例としては、これらに限定されないが、BCNU、シスプラチン、ゲムシタビン、ヒドロキシウレア、パクリタキセル、テモゾミド、トポテカン、フルオロウラシル、ビンクリスチン、ビンブラスチン、プロカルバジン、ダカルバジン、アルトレタミン、シスプラチン、メトトレキサート、メルカプトプリン、チオグアニン、リン酸フルダラビン、クラドリビン、ペントスタチン、フルオロウラシル、シタラビン、アザシチジン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、エトポシド、テニポシド、イリノテカン、ドセタキセル、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ダクチノマイシン、イダルビシン、プリカマイシン、アドリアマイシン、マイトマイシン、ブレオマイシン、タモキシフェン、フルタミド、ロイプロリド、ゴセレリン、アミノグルテチミド、アナストロゾール、アムサクリン、アスパラギナーゼ、ミトキサントロン、ミトタンおよびアミフォスチンが挙げられる。
【0143】
細胞毒性剤が放射線であるまた別の実施形態では、放射線は放射性同位体である。放射性同位体の例としては、これらに限定されないが、H、14C、18F、19F、31P、32P、35S、131I、125I、123I、64Cu、187Re、111In、90Y、99mTc、177Luが挙げられる。1つの実施形態では、放射性同位体はα−(5−イソチオシアネート−2−メトキシフェニル)−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7,10−三酢酸(メトキシ−DOTA)により抗体と結合している。放射線の別の例としては外部ビーム放射線がある。
【0144】
上記化学療法剤の医薬組成物の例としては、これらに限定されないが、BCNU(すなわち、カルムスチン、1,3−ビス(2−クロロエチル)−1−ニトロスウレア、BiCNU(登録商標))、シスプラチン(シス−白金、シス−ジアンミンジクロロ白金、プラチノール(登録商標))、ドキソルビシン(ヒドロキシルダウノルビシン、アドリアマイシン(登録商標))、ゲムシタビン(ジフルオロデオキシシチジン、ゲムザール(登録商標))、ヒドロキシウレア(ヒドロキシカルバミド、Hydrea(登録商標))、パクリタキセル(タキソール(登録商標))、テモゾロミド(TMZ、テモダール(登録商標))、トポテカン(ハイカムチン(登録商標))、フルオロウラシル(5−フルオロウラシル、5−FU、アドルシル(登録商標))、ビンクリスチン(VCR、オンコビン(登録商標))およびビンブラスチン(Velbe(登録商標)またはVelban(登録商標))が挙げられる。
【0145】
本発明の医薬組成物は非経口、皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内、経皮または口腔経路によって投与することができる。例えば、薬剤はミクロ注入によって腫瘍に局所投与することができる。あるいは、または同時に、投与は経口経路によるものであってもよい。例えば、化学療法剤を腫瘍の部位に局所投与した後、クラスピンを調節する少なくとも1つの薬剤を経口投与することができる。本工程は逆に行ってもよい(例えば、クラスピン調節剤を腫瘍の部位に局所投与し、治療薬を例えば静脈内投与する)。クラスピン調節剤の後または前の化学療法剤の投与はその後の治療が成功するために必要な化学療法剤の量を低減し、よって化学療法剤に関連する重度の副作用を低減する効果を有することができる。投与される用量は患者の年齢、健康状態、および体重、もしあれば、現行治療の種類、治療の頻度、ならびに所望の効果の性質によって決まるだろう。
【0146】
また、本発明の組成物は、活性化合物を作用部位への送達のため医薬的に用いることができる製剤にする処理を促進する賦形剤および補助剤を含む医薬的に許容可能な適切な担体を含有することができる。非経口投与に適した製剤としては、水溶性形態の活性化合物の水溶液、例えば、水溶性塩が挙げられる。さらに、適当な油性注射懸濁液としての活性化合物の懸濁液を投与することができる。適切な親油性溶媒または媒体としては、脂肪油、例えばゴマ油、または合成脂肪酸エステル、例えばオレイン酸エチルまたはトリグリセリドが挙げられる。水性注射懸濁液は、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトールおよびデキストランを含む、懸濁液の粘度を増加させる物質を含有することができる。任意で、懸濁液は安定剤を含むこともできる。細胞中への送達のため、リポソームを用い、薬剤をカプセル化することもできる。本発明による全身投与用の医薬製剤は腸内、非経口または局所投与用に製剤することができる。実際に、製剤の3つのタイプすべてを用い、活性成分の全身投与を達成することができる。
【0147】
上記のように、局所投与を用いることができる。溶液、懸濁液、ゲル、軟膏等のような、いずれかの一般的な局所製剤を用いることができる。こうした局所製剤の調剤については医薬製剤の技術分野において開示され、例としては、例えば、Gennaro et al.(1995)Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishingがある。局所用途について、組成物はとくにエアロゾル形態のパウダーまたはスプレーとして投与することもできる。いくつかの実施形態では、本発明の組成物は吸入により投与することができる。吸入療法のため、活性成分は定量吸入器による投与に有用な溶液中にあってもよく、またはドライパウダー吸入器に適した形態であってもよい。別の実施形態では、組成物は気管支洗浄による投与に適している。
【0148】
経口投与に適した製剤としては、硬もしくは軟ゼラチンカプセル、ピル、コーティングタブレットを含むタブレット、エリキシル剤、懸濁液、シロップまたは吸入剤およびこれらの制御放出製剤が挙げられる。別の実施形態では、医薬組成物は少なくとも1つの細胞毒性剤と併せてクラスピン調節剤を含み、該調節剤または薬剤は持続放出製剤である。こうした製剤において、クラスピン調節剤は細胞毒性剤の放出前または後に全身に分布されるだろう。1つの実施形態では、こうした製剤からのクラスピン調節剤の遅延放出、およびその後の癌細胞の部位への分布に際し、調節剤の効果は早期結合または細胞毒性剤の癌細胞に対する効果により向上させることができる。こうした遅延放出製剤は1つ以上の細胞毒性剤およびその後のクラスピン調節剤またはその逆の連続投与と同じ効果を有することができる。
【0149】
とくに指示のない限り、本明細書において用いる「医薬的に許容可能」の語は規制機関により動物、とくにヒトにおける使用を認可されたことを意味する。「媒体」の語は、本発明の化合物をともに投与する希釈剤、補助剤、賦形剤、または担体を指す。こうした医薬媒体は、例えば、水およびピーナッツ油、大豆油、鉱油、ゴマ油等のような、石油、動物、植物または合成起源のものを含む油のような液体とすることができる。医薬媒体は生理的食塩水、メチルセルロース、ガムアカシア、ゼラチン、デンプンのり、タルク、ケラチン、コロイドシリカ、ウレア、等とすることができる。また、補助、安定、増粘、潤滑および着色剤を用いることができる。患者に投与する際、本発明の組成物および医薬的に許容可能な媒体は好適には無菌である。水は本発明の組成物を静脈内投与する場合に好適な媒体である。生理的食塩溶液ならびに水性デキストロースおよびグリセロース水溶液を液体媒体として、とくに注射溶液に用いることもできる。
【0150】
適切な医薬媒体としては、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦、白亜、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノール等も挙げられる。本組成物は、所望の場合、少量の湿潤もしくは乳化剤、またはpH緩衝剤を含有することもできる。
【0151】
とくに指示のない限り、本明細書において用いる「医薬的に許容可能な塩」の句は、これに限定されないが、組成物中に存在し得る酸性または塩基性基の塩を含む。本来塩基性である本組成物に含まれるポリペプチドは各種無機および有機酸とさまざまな塩を形成することができる。こうした塩基性化合物の医薬的に許容可能な酸付加塩を調製するのに用いることができる酸は、これらに限定されないが、硫酸、クエン酸、マレイン酸、シュウ酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、重硫酸、リン酸、過リン酸、イソニコチン酸、酢酸、乳酸、サリチル酸、クエン酸、過クエン酸、酒石酸、オレイン酸、タンニン酸、パントテン酸、酸性酒石酸、アスコルビン酸、コハク酸、マレイン酸、ゲンチシン酸、フマル酸、グルコン酸、グルカン酸、糖酸、ギ酸、安息香酸、グルタミン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、およびパモン酸(すなわち1,1’−メチレン−ビス−(2−ヒドロキシ−3−ナフトエート))塩を含む非毒性酸付加塩(すなわち、医薬的に許容可能なアニオンを含有する塩)を形成するものである。本来塩基性である本発明の方法に用いられる組成物に含まれるポリペプチドは各種医薬的に許容可能なカチオンと塩基性塩を形成することができる。こうした塩の例としては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属塩、とくに、カルシウム、マグネシウム、リチウムナトリウム、亜鉛、カリウム、および鉄塩が挙げられる。
【0152】
とくに指示のない限り、本明細書において用いる「治療効果のある」の語は、疾患もしくは障害、または少なくとも1つの目に見えるそれらの症状の改善をもたらすことができる、クラスピン調節剤および/もしくは細胞毒性剤またはこれらの医薬的に許容可能な塩、溶媒和物もしくは水和物の量を指す。「治療効果のある」とは、必ずしも患者の目に見えるわけではない少なくとも1つの測定可能な物理的パラメーターの改善をもたらす量も指す。また別の実施形態では、「治療効果のある」の語は疾患または障害の進行を物理的に(例えば、目に見える症状の安定化)、生理学的に(例えば、物理的パラメーターの安定化)、またはその両方で阻害する量を指す。また別の実施形態では、「治療効果のある」の語は疾患または障害の発症を遅延させる量を指す。
【0153】
とくに指示のない限り、本明細書において用いる「予防効果のある」の語は、所定の疾患もしくは障害に感染するリスクの減少をもたらす、クラスピン調節剤、細胞毒性剤またはこれらの医薬的に許容可能な塩、溶媒和物もしくは水和物の量を指す。1つの実施形態では、組成物を本明細書に記載する障害に対する遺伝的素因を有する動物、好適にはヒトに予防手段として投与する。本発明の別の実施形態では、組成物を本明細書に記載する障害に対する非遺伝的素因を有する患者に予防手段として投与する。本発明の組成物は1つの疾患または障害の予防および同時に別のものの治療に用いることもできる。
【0154】
本発明はヒトを含む哺乳類における癌の治療方法を含む。こうした方法は腫瘍性疾患の悪性細胞を含む癌細胞の異常成長および/または増殖の治療または阻害を含む。異常細胞成長の阻害は、これらに限定されないが、アポトーシス、細胞死、細胞分裂の阻害、転写、翻訳、形質導入、等を含むさまざまなメカニズムにより行うことができる。上述のように、クラスピン調節剤は癌の治療に有用な細胞毒性剤との併用、または連続併用で提供することができる。本明細書において用いるように、2つの薬剤が同時に投与される、または薬剤が相加的もしくは相乗的に作用するように別々に投与される場合、2つの薬剤は併用投与されると考える。例えば、クラスピン調節剤は、本明細書に記載するように、これらに限定されないが、アポトーシス剤、分裂阻害剤、アルキル化剤、代謝拮抗物質、挿入抗生物質、成長因子阻害剤、細胞周期阻害剤、酵素、トポイソメラーゼ阻害剤、生物学的反応修飾物質、抗ホルモン、および抗アンドロゲンを含む化学療法剤のタイプから選択される1つ以上の化学療法剤と併用することができる。
【0155】
本発明の方法の実施において、クラスピン調節剤は単独でまたは他の治療もしくは診断薬と併せて用いることができる。特定の好適な実施形態では、クラスピン調節剤は、一般的に認められている腫瘍医学に従って各種タイプの癌について一般的に処方された他の化学療法剤と併用投与することができる。本発明の組成物は通常ヒト、ヒツジ、ウマ、ウシ、ブタ、イヌ、ネコ、ラットおよびマウスのような哺乳類において生体内(in vivo)で用いる、または生体外(in vitro)で用いることができる。本発明はヒト対象の治療にとくに有用である。
【0156】
併用投与は個別、連続または複合とすることができる。よって、クラスピン調節剤は抗腫瘍剤の前または後に別々に投与することができる。クラスピン調節剤を抗腫瘍剤の前に投与する場合、これは細胞を抗腫瘍剤の影響をより受けやすいよう「準備する」ことができるという点で有利となり得る。よって、治療効果を達成するのに必要な抗腫瘍剤の用量を低減することができ、これは抗腫瘍剤の副作用を低減することができるので、患者の健康に有益である。反対に、抗腫瘍剤をクラスピン調節剤の前に投与する場合、細胞はクラスピン調節剤の影響をより受けやすくなり得、殺時間はより速くなる。
【0157】
あるいは、併用投与は1つの医薬製剤または同時に摂取される2つの別々の製剤において複合することができる。
【0158】
本発明の特定の実施形態では、抗クラスピンsiRNA分子と上述の抗癌剤、例えば化学療法剤または細胞毒性剤のような、DNA複製を標的とする薬剤との併用を提供する。
【0159】
いずれの抗クラスピンRNA分子も適切であり得、当業者であれば周知の技術を用いて容易に構築することができ、例えばクラスピン遺伝子内の特定の配列を解明し、そのDNA配列から生成されるだろうmRNAに対する適当な相補分子を構築する。
【0160】
とくに、SEQ ID NO:1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、および13の1つ以上と抗癌剤、好適にはSEQ ID NO:2、4、6、8、9、10、11、12および13と抗癌剤を含むRNA分子の組み合わせを提供する。またさらに、SEQ ID NO:1と2、3と4、5と6、7と8、9と相補配列、10と相補配列、11と相補配列、12と相補配列、および13との相補配列を含むRNA二本鎖と、抗癌剤との組み合わせを提供する。
【0161】
好適には、BRCA1またはBRCA2遺伝子における欠陥から引き起こされる癌のような増殖性疾患の治療にはsiRNA分子と抗複製剤の組み合わせが用いられる。上述のように、こうした併用療法はsiRNAを抗複製剤の前、同時または後に投与するものとすることができる。
【0162】
多数のいわゆるアダプタータンパク質が複製ストレスに対する細胞応答に関係しているとされ、上流でまたは直接作用してChk1経路の活性化を促進すると考えられている。本発明者らはこれまでに、Chk1が停止複製フォークおよび電離放射線誘発二本鎖切断を察知するその経路を確保するS期内レプリコン安定性チェックポイントのシグナル伝達因子であること、ならびにChk1の1つの機能がS期における初期に発動する起点からの合成が阻害される場合後期に発動する複製起点の活性化を確実にブロックすることであることを示した。クラスピンは当初ゼノパス卵抽出物においてATRによるChk1のリン酸化および活性化に必要であるChk1結合タンパク質と同定された。本発明者らは複製ストレスの負荷後のレプリコン安定性の維持におけるクラスピンの役割を研究した。
【0163】
レプリコン安定性チェックポイントにおけるクラスピンの役割を調べるため、siRNA(SEQ ID NO:1〜13参照)およびsiRNA二本鎖(例えばSEQ ID NO:1と2;3と4;5と6;7と8等)を用い、HeLa細胞からクラスピンを枯渇させた。
【0164】
HeLa細胞の特異的siRNAでの処理は対照siRNA(例えばこれらの細胞中に発現しないルシフェラーゼ)にさらされた細胞と比較して48時間後クラスピンの>90%枯渇をもたらした(図1A)。クラスピン枯渇のレプリコン安定性に対する効果を評価するため、クラスピン枯渇細胞の複製ストレス負荷の持続的な存在下で機能的レプリコンを維持する能力を調べた(図1)。これを行うため、細胞を緩衝制御または2mMのヒドロキシウレア(HU)で24時間処理した後、固定化およびPI染色、ならびにその後の二変量FACS分析の前に、BrdUの30分パルスにさらした。複製ストレス負荷の非存在下では、クラスピンの抑制は未処理であればS期(図1B、左側パネル)に達する、または細胞周期(図1B、右側パネル)を回る細胞の能力に対してほとんどまたはまったく効果を有さなかった。細胞のヒドロキシウレアへの24時間の露出は予想どおりS期初期における細胞の著しい蓄積をもたらす(図1B)。興味深いことに、クラスピン枯渇細胞は未処理細胞において得られるものに相当する速度でBrdUを組み込むことができ、クラスピンの非存在そのものはHUへの24時間の露出後でも機能的複製フォークの数に対して全体的な効果を有さないことを示した(図1B)。
【0165】
これらのデータはクラスピンのほとんど完全な非存在下ではレプリコン安定性チェックポイントが損なわれないままであることを示す。この観察と一致して、本発明者らは、1細胞当たりの総Chk1の量、または活性化Chk1の量の画分として表される、ser317およびser345でのChk1リン酸化の程度により測定されるように、Chk1を通るシグナル伝達はクラスピンの非存在によりわずかに(20〜40%)影響を受けるのみであることを見出した(図1C)。
【0166】
その他のアダプタータンパク質がこのチェックポイントにおいて役割を果たすかどうかを決定するため、本発明者らはまず共免疫沈降により既知のアダプタータンパク質のうちChk1との安定な複合体にどれを見出すことができるかを明らかにしようとした。多くの研究はタグ付きタンパク質で形質転換され、これを過剰発現する細胞中のこうした複合体の存在を示し、本発明者らは未形質転換細胞中の内因性複合体の存在を調べようとした。Chk1を非同調成長する、またはHU処理細胞から免疫沈降し、免疫沈降物をDNA損傷応答の各種態様に関係しているとされるアダプタータンパク質の存在についてプローブした。予想どおり、Chk1 IP中にクラスピンを検出することができた(図2)。興味深いことに、Chk1関連クラスピンの量はHU処理細胞中で著しく増加した。本発明者らはChk1免疫沈降物中にBRCA1も見出したが、BRCA1のレベルはHU処理の影響を受けなかった。Chk1免疫沈降物ではMDC1またはTopBP1のような他のBRCTドメイン含有タンパク質は検出されなかった。
【0167】
BRCA1はこれまでIRに対する細胞応答に関係しているとされ、BRCA1欠損細胞はIR露出後にChk1を活性化することができない。本発明者らは、機能的BRCA1を欠き、これまでに欠陥のあるG2チェックポイントを有し、IRへの露出時に停止することができないことが示されているHCC1937細胞におけるクラスピンのsiRNA媒介ノックダウンの効果を研究した。HCC1937細胞のクラスピンsiRNAでの処理は常にクラスピンの>90%損失をもたらした(図3A)。興味深いことに、クラスピンのさらなる損失はFACSにより分析されるようにG2細胞のいくらかの増加をもたらし(図3B)、これらの細胞がいずれの外因性ストレスの非存在下でもG2においていくらかの遅延があることを示した。模擬siRNA処理HCC1937細胞のヒドロキシウレアへの露出は予想どおりS期初期における細胞の蓄積をもたらした(図3B)。重要なことには、HCC1937細胞はHUへの24時間の露出後もBrdUを大いに組み込むことができるままであり、BRCA1の非存在もHUへの24時間の露出後でも機能的複製フォークの数に全体的な効果を有さないことを示した。際立って対照的に、HCC1937細胞におけるクラスピンの除去はHUに露出した細胞の二変量FACSプロファイルに劇的な変化をもたらし(図3B、左側パネル)、S期細胞のかなりの割合はBrdUを組み込むことができなかった。BrdU組み込みの損失はとくにS期中〜後期細胞において観察された。
【0168】
本発明者らはこれまでに、Chk1機能を除去することが哺乳類細胞におけるレプリコン安定性および起点発動を制御するS期内チェックポイントの損失をもたらすことを示した。HUにさらした模擬およびクラスピンsiRNA処理HCC1937細胞におけるChk1の活性化状態は、免疫ブロッティングにより決定されるser317およびser345でのChk1リン酸化の程度により測定されるように決定された(図3C)。模擬siRNA処理細胞では、HUへの24時間の露出が野生型BRCA1を含有する細胞において観察されるものに相当するChk1リン酸化の程度(図1)でChk1の著しい活性化をもたらすことが見出された(図3C)。興味深いことに、HCC1937細胞におけるクラスピンの除去は、総Chk1タンパク質の画分として表す場合、クラスピンのみを欠いた細胞において観察されるもの(図1)と同様のリン酸化Chk1の減少をもたらした(図3C)。しかしながら、クラスピンおよびBRCA1の複合機能の非存在は1細胞当たりの活性化Chk1のレベルの著しい(>75%)減少をもたらした(図3C)。
【0169】
まとめると、図1〜4のデータはBRCA1およびクラスピンが複製ストレス負荷の条件下でレプリコンの安定性の維持において協調的に作用すること、およびそれらがChk1タンパク質キナーゼを活性化することによりこれを行うことを示す。
【0170】
すべての細胞がS期を通る正常進行中にいくらかの複製ストレスを受けると考えられるので、BRCA1およびクラスピン両方の損失はS期中に著しいレベルのレプリコン不安定性をもたらし、ゲノムの不完全な複製をもたらすだろうと考えられる。本発明者らは従って、BRCA1およびクラスピン機能の複合損失の細胞増殖における重要性をについて研究した。これを行うため、HeLaまたはHCC1937細胞を前述のように対照またはクラスピンsiRNAのいずれかにさらし、細胞を正常成長条件下でプレートし、次に細胞数を測定した。HCC1937細胞は〜30hの倍加時間を有し、よってHeLa細胞より著しくゆっくり増殖することが知られている(図4A及びB)。HeLa細胞のクラスピンsiRNAへの露出は、96時間の培養後の対照siRNA処理細胞における18倍と比較して12倍の増殖とともに、成長特性のわずかな減少をもたらした。模擬処理HCC1937細胞は同じ時間にかけて約3倍の増殖を示した。興味深いことに、クラスピンを欠いたHCC1937細胞はいずれの著しい増殖も示すことができず、純細胞数は96時間後も同じままだった。これらのデータは機能的BRCA1またはクラスピンのいずれかの存在では細胞生存性に十分ではないことを示す。一方で、両方の遺伝子を欠いた細胞は増殖することができない。
【0171】
このデータは、これまでに出版された研究とともに、BRCA1およびクラスピンが生体内(in vivo)でChk1との複合体を形成し、協働して複製ストレス存在下での複製機構の安定化を促進することを示す。また、本発明者らは、クラスピンの損失はChk1をHUの存在下でリン酸化する効率を低減するが、クラスピンだけでなくBRCA1の欠如はシグナル伝達の効率の低減およびChk1タンパク質のレベルの低減の両方をもたらし、複製ストレス中の効果的なChk1シグナル伝達の著しい低減をもたらすことを見出した。
【0172】
まとめると、結果は、BRCA1およびクラスピン両方が協働し、総細胞Chk1タンパク質の特異的な副画分のリン酸化および活性化を促進し、ひいては進行中の複製が内因性または外部から加えられる複製ストレスの結果としてブロックされる場合に複製機構の要素を安定化するように作用するモデルと一致する。停止した複製フォークを安定化するメカニズムならびにこれをもたらすためクラスピンおよびBRCa1が細胞Chk1の特異的な画分の活性化を促進するプロセスは依然として不明である。
【0173】
Chk1タンパク質キナーゼは、多細胞周期チェックポイント応答において役割を果たすので、新規抗癌治療薬の開発のための潜在的な標的として相当な興味の対象となっている。Chk1のいくつかの強力な阻害剤(例えばそのATP結合部位に結合するUCN−01)が報告されている。しかしながら、それらの完全特異性の欠如および著しい全体的な細胞毒性のため、新規治療薬用途のためのリード化合物としてはやや見込みがない。
【0174】
ここに報告する結果は、乳癌のような癌の発症に対して遺伝的素因を有する個人のための新規治療薬の開発の新たな機会を提供する。こうした個人はBRCA1またはBRCA2のいずれかの1つの機能的および1つの非機能的形態を受け継いでいる。最終的には疾患の発症をもたらすだろう形質転換のプロセス中、関連BRCA遺伝子の第2の機能的形態を失った細胞が出現する。我々は、クラスピン機能が実験的に除去され、BRCA1の両コピーを欠いた乳癌細胞系HCC1937が、DNA複製に一時的に干渉する(多くの化学療法干渉の基本である)薬剤のような抗腫瘍剤に極めて感受的であることを見出した。データは、こうした状況において、これらの細胞が生存不能であり、いずれのさらなる増殖も行うことができず、最終的には死ぬことを示す。対照的に、クラスピン、またはBRCA1の正常コピーのいずれかを保持する細胞はこうした処理に比較的鈍感である。
【0175】
従って、例えば遺伝性乳癌患者において、抗腫瘍剤(例えばDNA複製の阻害剤)と特異的クラスピン阻害剤との併用を含む薬剤「カクテル」は、BRCA1の両コピーを欠いた(すなわち腫瘍中の)細胞の増殖を選択的にブロックすることにより、BRCA1の1つの機能的コピーを保持する健康な周囲の乳房および他の組織に対して最小限の影響を有しながら、高い治療指数を有することが期待されるだろうということになる。
【実施例】
【0176】
細胞培養
HeLa細胞、またはHEK293T細胞を、10%ウシ胎児血清を添加したDMEM(Invitrogen)中に37℃および5%COで維持した。細胞培養を最大下コンフルエンシーで維持するため、細胞培養を7日毎に2回トリプシン(Invitrogen)を用いて8分の1継代した。HCC1937細胞を、10%ウシ胎児血清を添加したRPMI 1640(http://www.atcc.org/Portals/1/Pdf/30-2001.pdf)中に維持した。細胞培養を最大下コンフルエンシーで維持するため、細胞培養を7日毎に2回トリプシン(Invitrogen)を用いて8分の1継代した。細胞増殖を細胞計数により化学分析した。HeLaまたはHCC1937細胞を60mm組織培養プレートに播種(2×10個/プレート)した後、24時間放置し、24時間毎に培地を変えながら0または2mMのHU(シグマアルドリッチ、米国ミズーリ州セントルイス)で最長96時間処理した。細胞を500μLのトリプシンで処理し、5%ウシ胎児血清を添加した1mLのPBS中に再懸濁し、血球計算盤を用いて2重計数した。
【0177】
一過性トランスフェクション
HeLaまたはHCC1937細胞を、1mLのそれらの培地においてそれぞれ6ウェル組織培養プレート中に5×10個または2×10個/プレートで細胞を播種し、24時間放置した。次に製造業者の指示に従って細胞を温かいPBSで2回洗浄し、48時間かけてクラスピンに対するSMARTpool(商標)siRNA(Dharmacon、米国イリノイ州シカゴ)で100nMの濃度で5時間無血清培地(OptiMEM(Invitrogen))においてOligofectamine(Invitrogen)を用いて2回形質転換した。各トランスフェクション後、細胞を温かいPBSで1回洗浄し、1.5mLの培地を添加した後19時間放置した。形質転換後、細胞をトリプシン処理し、60mm皿中に播種し、新鮮な培地において24時間放置した後、0または2mM HUで24時間処理した。あるいは、細胞を未処理でフローキャビネットに相当時間放置した。処理後、培地を吸引し、細胞に新鮮な培地を再供給し、37℃および5%COで1時間さらにインキュベートした後採取した(以下参照)。
【0178】
細胞周期分析
親HeLaまたはHCC1937細胞を100mm皿中に播種し(5×10個/プレート)、24時間後0または2mMのHUで24時間処理した。採取の30分前、25μMのBrdU(シグマアルドリッチ社)を培地に添加した。採取するため、細胞をトリプシン処理し、1000rpm、室温で5分間遠心分離した。次に浮遊物を除去し、細胞を10mLのIFA懸濁液(150mMのトリス−HCl pH7.6、500mMのNaCl、0.5%のNaN、5%のFCS)中に再懸濁した。次に細胞を1000rpm、4℃で5分間再回転した後、氷冷PBSで2回洗浄し、70%EtOH(シグマアルドリッチ社)で固定した。次に細胞を50分の1の希釈で2時間、4℃でラット抗BrdU抗体(Abcam社、英国ケンブリッジ)、および50分の1の希釈で1時間、4℃で西洋ワサビ過酸化酵素に結合した抗ラットIgGを用いて染色した。その後細胞を20μg/mLのヨウ化プロピジウム(シグマアルドリッチ社)を用いてDNA染色し、200μg/mLのRNAase A(シグマアルドリッチ社)で処理し、DAKO血球計算盤FACS装置上で化学分析した。FACSファイルを回収し、Summit v4.3を用いて化学分析した。siRNAで処理した細胞を形質転換し、上述のように処理し、親細胞系と同じプロトコルを用いるFACS分析用に採取した。またsiRNA形質転換細胞を免疫ブロッティングによって標的遺伝子のsiRNAノックダウンについて化学分析した後、FACSにより化学分析した。
【0179】
免疫ブロッティングおよび免疫沈降
HeLaまたはHCC1937細胞を100mm組織培養皿中に播種し(5×10個/プレート)、24時間37℃および5%COで放置した。次に細胞を0または2mMのHUで24時間処理し、採取した。あるいは、細胞を未処理(フローキャビネットに相当時間放置)とした。細胞を氷冷PBS中で2回洗浄し、IPLB(20mMのトリス/酢酸塩 pH7.5、0.27Mのスクロース、1mMのEGTA、1mMのEDTA、1mMのオルソバナジウム酸ナトリウム、10mMのβ−グリセロリン酸ナトリウム、5mMのピロリン酸ナトリウム、1%(w/v)のTriton X−100、0.1%(v/v)のβ−メルカプトエタノール、1μMのミクロシスチン、0.2mMのPMSFとプロテアーゼ阻害剤カクテル(ロシュ社、独国マンハイム))中に、氷上のエッペンドルフ型チューブ中にこすり取ることにより採取した。次に細胞を3回の凍結/解凍周期を通して溶解し、14,000rpmで5分間4℃での遠心分離により解明した。次に浮遊物を除去し、ブラッドフォード法(Pierce社)により濃縮について化学分析し、アリコートを使用するまで−70℃で保存した。免疫ブロッティングについて、Laemmli SDSローディングバッファーにおいて1ウェル当たり25〜60μgの全細胞抽出物を用いた。抽出物を6〜12%SDS−PAGEゲル上で分離し、プローブ用にニトロセルロース膜(Protran社)に転写した。膜を抗体製造業者のガイドラインに従って5%Marvelミルクまたは5%BSAいずれかにおいてブロックした。次に膜を洗浄し、ブロッキングバッファーにおいて希釈した一次抗体でプローブした。用いた一次抗体は:BRCA1=MS110(メルク社)またはC20(Santa Cruz社)、クラスピン=BL73(Bethyl社)、TopBP1=C33(BD Biosciences社)、アクチン=Clone AC15(シグマアルドリッチ社)、Chk1=ヒツジポリクローナル抗体(Feijoo et al.,2001に記載)またはBL235(Bethyl社)、PhosphoChk1 Serine 296 & 345=ウサギ抗体(Cell Signalling Technologies社)、PhosphoChk1 Serine 317=ポリクロナールウサギ抗体(Bethyl社)、ヌクレオリン=C23(Santa Cruz社)、CtIP/RBBP8=C1913またはC1914(Bethyl社)である。二次抗体は抗ウサギIgG−HRP、抗ヒツジIgG−HRPおよび抗マウスIgG−HRP(Jackson Immunologicals社)であり、バンドは増強化学発光(ECL)(アマシャムファルマシア社)およびオートラジオグラフィーフィルム(富士フィルム社)を用いて検出した。
【0180】
免疫沈降(IP)はIPにつき500μg〜1mgの全細胞抽出物で行った。抽出物を5μgの非特異的IgG(IP抗体と同種)(Santa Cruz社)および過度の洗浄および平衡化したタンパク質Gセファロースビーズ(CR−UK)で、合計3時間4℃で予備洗浄した。次に抽出物を14,000rpmで30秒間、4℃で回転し、浮遊物を新しい冷やしたエッペンドルフ型チューブに移した。次に必要なIP抗体を(3μgまで)添加し、30μLのタンパク質Gセファロースビーズを総体積500〜1000μLのIPLBにおいて一晩4℃でインキュベートした。次にビーズを14,000rpmで、30秒間4℃で遠沈し、0.5MのNaClを含有するIPLBで1回、標準IPLBで2回洗浄し、2倍Laemmli SDSローディングバッファー(100mMのトリス−HCl pH6.8、4%のSDS、0.2%のブロモフェノールブルー、20%のグリセロール、200mMのDTT)でタンパク質複合体を溶出し、100℃で5分間加熱した。次に分離した複合体を免疫ブロッティングにより分析した。
【0181】
さらなる実験研究
本発明者らはクラスピン媒介複製能に選択的に干渉する分子を同定する方法をさらに構築することを試みた。直接クラスピンにまたはその特異的下流エフェクターに干渉する分子は、BRCA1を発現する細胞と比較してBRCA1を欠いた細胞の増殖において複製失敗の増加をもたらすことが予想されるだろう。このアプローチを有効にするため、本発明者らは、比較二変量蛍光活性化細胞選別(FACS)分析を用い、細胞における複製能の変化を定量化および比較する分析方法を開発した。こうしたアプローチの有効性を示すため、生物情報学を用い、対応する推定小干渉RNA(siRNA)がクラスピン発現のノックダウンを誘発すると予想されるクラスピンコード配列内の領域を同定し、この方法を用い、治療効力の可能性を有するsiRNAを同定した。
【0182】
ここで、BRCA1を発現する細胞ではなく、BRCA1を欠いた細胞の増殖における複製能欠陥を誘発するクラスピンを標的とするsiRNAを同定する方法について記載する。
【0183】
材料および方法
細胞培養:HeLa細胞を、10%ウシ胎児血清を添加したDMEM(Invitrogen)中に37℃および5%COで維持した。細胞培養を最大下コンフルエンシーで維持するため、細胞培養を70〜80%のコンフルエンシーでトリプシン処理(Invitrogen)により継代した。HCC1937細胞を10%ウシ胎児血清、2mMのLグルタミン、1.5g/Lの重炭酸ナトリウム、10mMのHEPES、1.0mMのピルビン酸ナトリウムおよび4.5g/Lのグルコース(Sigma−Aldrich)を添加したRPMI 1640(Invitrogen)中に維持した。細胞培養を最大下コンフルエンシーで維持するため、細胞培養を70〜80%のコンフルエンシーでトリプシン処理(Invitrogen)により継代した。UWB1.289+BRCA1細胞を、200mg/LのG418および3%ウシ胎児血清を添加でした50%RPMI−1640および50%MEGM(Lonza、w/o Gentamicin/Amphoteracin B)において37℃および5%COで維持した。細胞培養を最大下コンフルエンシーで維持するため、細胞培養を7日毎に2回0.05%のトリプシン/EDTA(Invitrogen)を用いて4分の1継代した。細胞増殖を細胞計数により化学分析した。
【0184】
一過性トランスフェクション:細胞を、24時間で60〜70%のコンフルエンシーに達するように適当な密度で、2mLのそれらの培地における6ウェル組織培養プレートに播種した(データは示さないが、播種密度は各細胞系について最適化した)。製造業者の指示に従って24時間後、細胞を温かいPBSで2回洗浄し、Oligofectamine(Invitrogen社)を用いた無血清培地(OptiMEM(Invitrogen社))において100nMの濃度で5時間クラスピン(siRNA同定参照)を標的とする指示siRNA(Dharmacon社)で48時間をかけて2回形質転換した。各形質転換後、細胞を温かいPBSで2回洗浄し、2mLの各培地を添加した後、19時間放置した。形質転換後、細胞をトリプシン処理し、60mm皿に播種し、新鮮な培地において48時間放置した。
【0185】
細胞周期分析:上述の形質転換の後、細胞を100mm皿中に播種した(5×10個/プレート)。48時間後、細胞を新鮮な培地中で洗浄し、25mMのBrdU(シグマアルドリッチ社)で30分間パルスした。採取するため、次に細胞をトリプシン処理し、1000rpm、室温で5分間遠心分離した。次に浮遊物を除去し、細胞を10mLのIFA懸濁液(150mMのトリス−HCl pH7.6、500mMのNaCl、0.5%のNaN、5%のFCS)中に再懸濁した。次に細胞を1000rpm、4℃で5分間再遠心分離した後、氷冷PBSで2回洗浄し、70%EtOH(シグマアルドリッチ社)で固定した。次に細胞を50分の1の希釈で2時間、4℃でラット抗BrdU抗体(Abcam社)、および50分の1の希釈で1時間、4℃で西洋ワサビ過酸化酵素に結合した抗ラットIgGを用いて染色した。
【0186】
その後細胞を20mg/mLのヨウ化プロピジウム(シグマアルドリッチ社)および200μg/mLのリボヌクレアーゼA(シグマアルドリッチ社)での処理を用い、DNA染色し、LSRII(ベクトンディッキンソン社)血球計算盤上で化学分析した。FACSファイルを回収し、FlowJo ver.8.8.6(TreeStar Inc)を用いて化学分析した。
【0187】
ウェスタンブロット分析:上述の形質転換の後、プレートを氷上に置き、氷冷下で2回洗浄した後、IP溶解緩衝液(20mMの酢酸トリス pH7.5、0.27Mのスクロース、1mMのEDTA、1mMのEGTA、1mMのオルソバナジウム酸ナトリウム、10mMのβ−グリセロリン酸ナトリウム、5mMのピロリン酸ナトリウム、1%のTriton X−100、0.1%のβ−メルカプトエタノール、1μMのミクロシスチン、0.2mMのPMSF、プロテアーゼ阻害剤カクテル、EDTAフリー)により溶解した。細胞を3回の凍結−解凍周期によりさらに溶解し、デブリスを14,000rpm、4℃で5分間の遠心分離により除去し、材料をブラッドフォード法により定量化した。
【0188】
結果および考察
推定siRNAが高特異性および結合親和性をもって結合することが予想される配列をコードするクラスピンmRNA内の領域を同定するため、GC含量の閾値および反復配列のユーザー入力を可能にし、推定siRNA選択を促進する関連結合エネルギーを計算する、AsiDesignerアルゴリズム
(http://sysbio.kribb.re.kr:8080/AsiDesigner/menuDesigner.jsf)を用いた。領域は最初、統計的に重み付けされた全体的な性能のスコアに従ってランク付けした。クラスピンのスプライス変異体は報告されていないが、本発明者らは研究のために選択された配列が報告されたmRNA転写全体に著しく分散した複数のエクソンを確実に標的とすることを望んでいた。エクソン構造、siRNA設計について選択した領域、および選択された得られたsiRNA配列を図5に示す。
【0189】
材料および方法において記載したように、図5に挙げる配列に対応するsiRNAを、子宮頸癌細胞系(野生型BRCA1含有)および乳癌細胞系(BRCA1ヌル)を含むさまざまな細胞系に導入した。クラスピンタンパク質ノックダウンの程度を初期形質転換の〜60時間後に採取した細胞溶解物の免疫ブロッティングにより評価した(図6、データ図示せず)。
【0190】
DNA合成の全体的な速度は複製フォークで機能する複製機構の固有の触媒反応速度とともに活性複製起点の数により制御される。複製能を分析するため、本発明者らはS期内のそれらの正確な位置の関数としての短いパルス中にハロゲン化デオキシヌクレオチドを組み込む細胞の能力を研究した。その細胞のDNA含量に対してプロットされた全細胞に組み込まれるBrdU量の総細胞集団分析は特徴的な弧(図7)をもたらし、細胞周期のG1、SおよびG2/M期における細胞の割合の正確な測定を可能にする。
【0191】
複製能欠陥の程度を、それらがG1およびG2細胞の間のDNA含量を有することにより判断されるようにS期であるが、(図7における関心領域(RoI)に相当する)BrdUを完全に組み込むことができない細胞の各試料集団における画分を測定することにより定量化した。いずれのストレスにもさらされない細胞では、この画分は細胞成長条件に応じて変化するが、通常細胞の〜3〜4%に相当する(図8および9)。siRNAで形質転換した細胞における複製能の分析は、非標的対照と比較して、クラスピンを標的とするsiRNAはBRCA1ヌル細胞においてBRCA1を発現する細胞と比較して複製能欠陥の程度の実質的な増加をもたらすことを示した。
【0192】
クラスピンを標的とするすべてのsiRNAはBRCA1ヌル細胞において複製欠陥の著しい選択的誘発を示した。結果は、BRCA1を欠いた細胞におけるクラスピンの選択的阻害が著しい複製能欠陥を誘発し得ること、およびこの方法による複製能の比較分析が潜在的な治療薬としての開発のため複製能のクラスピン媒介制御を選択的に標的とする新規化合物の同定の大きな可能性を有することを強く裏付ける。
【0193】
本発明の記載した実施形態に対する各種変更および変形は本発明の範囲から逸脱することなく当業者に理解されるだろう。本発明について特定の好適な実施形態に関連して説明したが、特許請求の範囲に記載される本発明はこうした特定の実施形態に不当に限定されるべきではないと理解すべきである。実際には、当業者にとっては明らかである記載した本発明を実施するための態様の各種変更は本発明の範囲に含まれることを意図している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BRCA機能を著しく阻害しないクラスピン調節剤、またはDNA複製プロセスのクラスピン依存性制御に関与する下流成分を調節するがBRCA機能を著しく阻害しない薬剤を同定する生体外(in vitro)での分析方法であって、
(a)BRCAおよびクラスピン機能が実質的に正常である細胞の第1集団に試験薬を接触させる工程、
(b)BRCAが抑制され、クラスピンが機能を有する細胞の第2集団を試験薬に接触させる工程、
(c)第1および第2集団を複製ストレスにさらす工程、ならびに
(d)該試験薬の第1および第2集団の細胞の複製増殖または生存に対する効果を測定する工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記BRCAがBRCA1である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記複製ストレスが化学的手段を介してもたらされる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
複製ストレスがDNA複製に干渉する薬剤、好適には抗腫瘍剤によりもたらされる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞の第1集団がHeLa、U2OS細胞またはMCF−7系の細胞を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞の第2集団がHCC1937およびSUM1315MO2系の細胞を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
工程(d)が第1および第2集団をハロゲン化デオキシヌクレオチドでパルスした後FACS分析を行うことを含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記FACS分析が比較二変量FACSである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記比較二変量FACSを用い、複製能欠陥の程度を測定し、それらがG1およびG2細胞の間のDNA含量を有することにより判断されるようにS期であるが、BrdUを組み込むことができない細胞の各試料集団における画分を定量化する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
クラスピンの精製済阻害剤。
【請求項11】
前記阻害剤がクラスピン特異的抗体またはクラスピン特異的核酸調節剤である、請求項10に記載のクラスピンの精製済阻害剤。
【請求項12】
前記阻害剤がSEQ ID NO:1〜13のいずれか1つに示されるクラスピン特異的核酸調節剤を含む、請求項11に記載のクラスピンの精製済阻害剤。
【請求項13】
前記核酸調節剤がSEQ ID NO:2、4、6、8、9、10、11、12もしくは13、またはこれらの組み合わせを含む、請求項12に記載の阻害剤。
【請求項14】
前記核酸調節剤がSEQ ID NO:9、10、11、12もしくは13、またはこれらの組み合わせを含む、請求項13に記載の阻害剤。
【請求項15】
前記核酸調節剤がSEQ ID NO:1と2、3と4、5と6、7と8、9とその相補配列、10とその相補配列、11とその相補配列、12とその相補配列、および13とその相補配列またはこれらの組みあわせの二本鎖である、請求項13に記載の阻害剤。
【請求項16】
細胞増殖障害の治療に用いられるクラスピンの調節剤。
【請求項17】
細胞増殖障害の治療に用いられる、DNA複製を標的とする少なくとも1つの薬剤と併用するクラスピンの調節剤。
【請求項18】
前記治療中の前記クラスピンの調節剤と前記抗複製剤との併用が、複合、連続または同時である、請求項17に記載の調節剤。
【請求項19】
DNA複製を標的とする前記薬剤が抗腫瘍剤である、請求項17または18に記載の調節剤。
【請求項20】
前記細胞増殖障害がBRCA機能障害と関連する、請求項16〜19のいずれか1項に記載の調節剤。
【請求項21】
前記BRCAがBRCA1である、請求項20の調節剤。
【請求項22】
前記細胞増殖障害が癌である、請求項16〜21のいずれか1項に記載の調節剤。
【請求項23】
前記調節剤がクラスピン特異的抗体またはクラスピン特異的核酸調節剤である、請求項16〜22のいずれかに記載の調節剤。
【請求項24】
前記調節剤がクラスピンの活性または発現を調節する、請求項16〜23のいずれか1項に記載の調節剤。
【請求項25】
前記調節剤が阻害剤である、請求項16〜24のいずれか1項に記載の調節剤。
【請求項26】
前記調節剤が核酸調節剤であり、前記核酸調節剤がRNA阻害剤または相補オリゴマーである、請求項16〜25のいずれか1項に記載の調節剤。
【請求項27】
癌を有する所定の動物の治療に用いられる、請求項16〜26のいずれか1項に記載の調節剤。
【請求項28】
前記調節剤がSEQ ID NO:1〜13のいずれか1つを含む阻害剤である、請求項16〜27のいずれか1項に記載の調節剤。
【請求項29】
前記核酸調節剤がSEQ ID NO:2、4、6、8、9、10、11、12もしくは13、またはこれらの組み合わせを含む、請求項28に記載の調節剤。
【請求項30】
前記核酸調節剤がSEQ ID NO:9、10、11、12もしくは13、またはこれらの組み合わせを含む、請求項29に記載の調節剤。
【請求項31】
前記核酸調節剤がSEQ ID NO:1と2、3と4、5と6、7と8、9と相補配列、10と相補配列、11と相補配列、12と相補配列、および13と相補配列またはこれらの組みあわせの二本鎖を含む、請求項29に記載の調節剤。
【請求項32】
クラスピンの調節剤を含む医薬組成物。
【請求項33】
DNA複製を標的とする薬剤をさらに含む、請求項32に記載の医薬組成物。
【請求項34】
生理学的に許容可能な賦形剤または補助剤をさらに含む、請求項32または請求項33に記載の医薬組成物。
【請求項35】
DNA複製を標的とす前記治療または薬剤が、メトトレキサート、5−フルオロウラシル、フルオロデオキシウリジン、シトシンアラビノシド、6−メルカプトプリン、6−チオグアニン、メクロロエタミン、シクロホスファミド、イホスファミド、メルファラン、クロラムブシル、チオテパ、マイトマイシンC、アジリジニルベンゾキノン(AZQ)、ブスルファン、カルムスチン(BCNU)、ロムスチン(CCNU)、フォテムスチン、カルボプラチン、ダウノルビシン、ドキソルビシンまたはアドリアマイシン、エピルビシン、ダクチノマイシンまたはアクチノマイシンD、ミトキサントロン、アムサクリン、テノポシド、エトポシド、イリノテカン、トポテカン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、ビノレルビン、タキソール、タキソテール、およびこれらの混合物からなる群から選択される薬剤を含む、請求項16〜31のいずれか1項に記載の調節剤または請求項32〜34のいずれか1項に記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−529282(P2012−529282A)
【公表日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−514540(P2012−514540)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際出願番号】PCT/GB2010/050976
【国際公開番号】WO2010/142996
【国際公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(500413582)ユニバーシティー オブ シェフィールド (9)
【Fターム(参考)】