波長分離膜及びそれを用いた光通信用フィルタ
【課題】積層する膜の総数を少なく、各膜の厚みを薄くし、傾斜した波長分離膜に光の入射で生じるP、S偏光成分の光学特性の分離幅を小さく、かつ光入射角のずれによる透過帯域及び阻止帯域のシフト幅を小さく、阻止帯域を従来よりも広くし、Siのトータル膜厚を薄くし、Siによる急峻な透過損失を低減させることができる波長分離膜及びそれを用いた光通信用フィルタを得る。
【解決手段】高屈折率材料の第1の薄膜と、低屈折率材料の第2の薄膜と、中間の屈折率材料の第3の薄膜とを複数層積層した構造を有する波長分離膜で、高屈折率材料がシリコンで、低屈折率材料が、酸化珪素、フッ化マグネシウム、及び酸化アルミニウムから選ばれる少なくとも1種で、中間の屈折率材料が、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、及び酸化アルミニウムから選ばれる少なくとも1種である。
【解決手段】高屈折率材料の第1の薄膜と、低屈折率材料の第2の薄膜と、中間の屈折率材料の第3の薄膜とを複数層積層した構造を有する波長分離膜で、高屈折率材料がシリコンで、低屈折率材料が、酸化珪素、フッ化マグネシウム、及び酸化アルミニウムから選ばれる少なくとも1種で、中間の屈折率材料が、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、及び酸化アルミニウムから選ばれる少なくとも1種である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過帯域の波長の光を透過させ、阻止帯域の波長の光を反射させることができる波長分離膜及びそれを用いた光通信用フィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
光ファイバにより双方向に伝送される光を送受信する光送受信モジュールとして、光ファイバの先端面の光軸上に第1の波長の光を光軸方向に通過させ、かつ第2の波長の光を光軸と垂直方向に反射させる光分離プリズムが設けられたモジュールが知られている(特許文献1など)。光分離プリズム内には、光の入射方向に対して40〜50度に傾斜して波長分離膜が設けられている。このような波長分離膜は、高屈折率材料からなる第1の薄膜と低屈折率材料からなる第2の薄膜とを交互に積層することにより構成されている。従来は一般に、高屈折率の第1の薄膜としてTiO2が用いられ、低屈折率の第2の薄膜としてSiO2が用いられており、これらの薄膜を交互に60層程度積層して波長分離膜が形成されている。
【0003】
しかしながら、このようなTiO2とSiO2の薄膜を積層して構成された波長分離膜においては、波長分離膜に対する光の入射角度にずれが生じると、透過帯域及び阻止帯域に波長シフトが生じ、所望の光学特性が得られないという問題があった。
【0004】
さらに、傾斜した波長分離膜に光が入射すると、その透過光及び反射光は、光学的な特性が異なるP偏光成分とS偏光成分に分離するが、上記の従来の波長分離膜においては、このP偏光成分とS偏光成分の分離幅が300nm程度と非常に大きいため、透過帯域における特性をP偏光成分しか満足させることができないという問題があった。
【0005】
特許文献2においては、TiO2薄膜またはSiO2薄膜と、Si薄膜とを交互に積層した波長分離膜を用いた光分離プリズムが提案されている。しかしながら、これらの積層薄膜においても、高屈折率薄膜と低屈折率薄膜の総数を減少させていくと、阻止帯域が狭くなったり、光入射角のずれによる透過帯域及び阻止帯域の波長シフト幅が大きくなるという問題があった。
【特許文献1】特開2000−180671号公報
【特許文献2】特開2000−162413号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、積層する膜の総数を少なくすることができ、積層する各膜の厚みを薄くすることができるとともに、傾斜した波長分離膜に光を入射することで生じるP偏光成分とS偏光成分の光学特性の分離幅を小さくすることができ、かつ光の入射角のずれによる透過帯域及び阻止帯域の波長シフト幅を小さくすることができ、阻止帯域を従来よりも広くすることができるとともに、Siのトータルの膜厚を薄くしてSiによる吸収の透過損失を低減させることができる波長分離膜及びそれを用いた光通信用フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の波長分離膜は、高屈折率材料からなる第1の薄膜と、低屈折率材料からなる第2の薄膜と、高屈折率材料の屈折率と低屈折率材料の屈折率との間の範囲内である中間の屈折率を有する材料からなる第3の薄膜とを複数層積層した構造を有する波長分離膜であって、高屈折率材料がシリコンであり、低屈折率材料が、酸化珪素、フッ化マグネシウム、及び酸化アルミニウムから選ばれる少なくとも1種であり、中間の屈折率を有する材料が、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、及び酸化アルミニウムから選ばれる少なくとも1種であることを特徴としている。
【0008】
本発明の波長分離膜は、上記の第1の薄膜、第2の薄膜、及び第3の薄膜を、複数層積層した構造を有することにより、以下に示す効果を発揮する。
【0009】
(1)積層する膜の総数を少なくすることができ、積層する各膜の厚みを薄くすることができる。従って、その結果として、従来よりも波長分離膜全体の厚みを薄くすることができる。
【0010】
(2)傾斜した波長分離膜に光を入射することで生じるP偏光成分とS偏光成分の光学特性の分離幅を小さくすることができる。
【0011】
(3)光の入射角のずれによる透過帯域及び阻止帯域の波長シフト幅を小さくすることができる。
【0012】
(4)阻止帯域を従来よりも広くすることができる。
【0013】
(5)従来のSi膜を用いた波長分離膜に比べ、Siのトータルの膜厚を薄くすることができ、Siによる吸収の透過損失を低減することができる。
【0014】
本発明によれば、上述のように、第1の薄膜と、第2の薄膜及び第3の薄膜との屈折率の差が大きいため、積層する膜の総数を少なくすることができる。例えば、SiO2薄膜と、TiO2薄膜を積層する従来の波長分離膜の場合、積層数が44層で、厚みが10μm程度であったものが、本発明によれば、30〜36層程度の積層数にすることができ、全体の厚みを5μm程度にすることができる。
【0015】
また、Si薄膜と、SiO2薄膜またはTiO2薄膜とを積層する従来の波長分離膜の場合、Si薄膜の積層数が14層で、厚みが1400nm程度であったものが、本発明によれば、Si薄膜の積層数を10層程度にすることができ、全体の厚みを800nm程度にすることができる。
【0016】
本発明によれば、積層する薄膜の厚みを薄くすることができ、かつ積層する膜の総数を少なくすることができるので、従来よりも製造工程を簡略化することができる。
【0017】
本発明においては、第1の薄膜に、第2の薄膜または第3の薄膜が隣接するように、第1の薄膜、第2の薄膜及び第3の薄膜が積層されていることが好ましい。
【0018】
また、本発明において、第3の薄膜は、複数の薄膜を積層することにより構成されていてもよい。具体的には、第3の薄膜は、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、及び酸化アルミニウムから選ばれる1種の薄膜、または、2種以上を積層させた薄膜から構成されてもよい。本発明において、第2の薄膜は、酸化珪素、フッ化マグネシウム、及び酸化アルミニウムから選ばれる少なくとも1種の低屈折率材料から形成されるが、第3の薄膜が、酸化アルミニウムを含む場合には、第2の薄膜は、酸化珪素またはフッ化マグネシウムから形成される。
【0019】
本発明において、第1の薄膜は、シリコン薄膜から形成される。シリコン薄膜は、薄膜形成方法及び条件により、その屈折率を変化させることができる。本発明におけるシリコン薄膜は、波長1490nmにおいて、2.85〜4.20の範囲内の屈折率であることが好ましい。屈折率が小さくなり過ぎると、阻止帯域が狭くなり、P偏光成分とS偏光成分の光学特性の分離幅が大きくなる場合がある。また、屈折率が小さいと、一般にその密度が小さくなるため、水分吸収等の影響を受けやすく、耐環境性が低下する場合がある。シリコン薄膜の屈折率を高くすることにより、耐環境性を高めることができる。しかしながら、シリコン薄膜の屈折率が高くなり過ぎると、光学特性におけるリップルが大きくなる場合がある。
【0020】
本発明において、各薄膜の厚みは、透過帯域及び阻止帯域の設定により適宜選択されるものであり、特に限定されるものではないが、一般には、50〜300nm程度の膜厚の範囲内で選択され、場合によっては、それ以上の膜厚の薄膜を形成してもよい。また、積層する膜の総数は、特に限定されるものではないが、例えば、20〜50層の範囲とすることができる。
【0021】
本発明において、各薄膜を形成する方法は特に限定されるものではないが、一般には、真空蒸着法、スパッタリング法などの薄膜形成方法で形成することができる。
【0022】
本発明の光通信用フィルタは、上記本発明の波長分離膜を光入射方向に対して傾斜して配置し、波長分離膜の透過領域の波長の光を透過させ、阻止帯域の波長の光を反射させることを特徴としている。
【0023】
本発明の光通信用フィルタにおいて、波長分離膜は、光入射方向に対して40〜50度に傾斜して配置されることが好ましい。
【0024】
本発明の光通信用フィルタとしては、後述するような波長分離プリズム、波長分離平板などが挙げられる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、積層する膜の総数を少なくすることができ、積層する各膜の厚みを薄くすることができるとともに、傾斜した波長分離膜に光を入射することで生じるP偏光成分とS偏光成分の光学特性の分離幅を小さくすることができ、かつ光入射角のずれによる透過帯域及び阻止帯域の波長シフト幅を小さくすることができ、阻止帯域を従来よりも広くすることができるとともに、Siのトータルの膜厚を薄くして、Siによる吸収の透過損失を低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を具体的な実施例により説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0027】
図1は、本発明に従う光通信用フィルタの一実施例である波長分離プリズムを示す模式的断面図である。図1に示すように、波長分離プリズム1は、直角二等辺三角柱状のガラスなどからなるプリズム片2及び3を、波長分離膜4を介して傾斜面同士で貼り合わせることにより構成されている。貼り合わせには、例えば紫外線硬化型接着剤を用いることができる。貼り合わせるプリズム片の一方の傾斜面上に、本発明に従う波長分離膜4を形成することにより、プリズム片2及び3の傾斜面に波長分離膜4を配置することができる。
【0028】
図2は、図1に示す波長分離プリズムを用いた光送受信モジュールを示す模式的断面図である。波長分離プリズム1は、紫外線硬化型接着剤を用いて、フェルール10の先端に接合されている。フェルール10内には、光ファイバ11が設けられている。発光素子であるレーザーダイオード(LD)13から出射された波長1490nmの光は、レンズ12により集光され、波長分離プリズム1に入射する。波長分離プリズム1に入射した光は、波長分離膜4の透過帯域の光であるので、波長分離膜4を透過し、光ファイバ11の端部から入射し、光ファイバ11内を伝搬する。
【0029】
一方、光ファイバ11から出射された波長1310nmの光は、波長分離プリズム1に入射し、波長分離膜4の阻止帯域の光であるので、波長分離膜4で反射し、下方に設けられたレンズ14を通り、受光素子であるフォトダイオード(PD)15に入射する。
【0030】
以上のように、LD13から出射した光を透過し、光ファイバ11から出射した光を反射するように波長分離プリズム1の波長分離膜4を設定しておくことにより、光ファイバ11を用いた双方向の通信が可能となる。
【0031】
波長分離プリズム1において、波長分離膜4は、例えば光ファイバ11とLD13を結ぶ光軸に対して45度に傾斜するように配置されている。しかしながら、LD13から出射した光はレンズ12により集光され光ファイバ11に入射するが、広がりをもった状態で波長分離膜4に入射する。例えば、入射角45度を中心に±5度の広がりをもった光として入射する。波長分離膜4に対して、入射角45度±5度の広がりで光が入射するため、光の入射角のずれにより透過帯域及び阻止帯域が大きく波長シフトすると、所望の光学特性が得られない場合がある。
【0032】
本発明の波長分離膜は、上述のように光入射角のずれによる透過帯域及び阻止帯域の波長シフト幅を小さくすることができるので、光の入射角のずれによる光学特性の影響を低減することができる。また、阻止帯域を従来よりも広くすることができるので、設計上及び管理上の許容度を大きくすることでき、所望の光学特性を容易に得ることができる。
【0033】
また、本発明の波長分離膜は、上述のように、傾斜した波長分離膜に光を入射することで生じるP偏光成分とS偏光成分の光学特性の分離幅を小さくすることができる。このため、P偏光成分及びS偏光成分の両方に対して透過帯域特性を満足させることができる。
【0034】
図2に示す実施例では、波長分離プリズム1を、フェルール10の先端に接合しているが、波長分離プリズム1は、フェルール10とレンズ12の間に配置してもよい。
【0035】
図3は、本発明に従う波長分離膜を用いた波長分離平板を示す模式的断面図である。図3に示すように、波長分離平板5は、ガラスなどからなる透光性基板7の一方面上に波長分離膜4を形成し、他方面上に反射防止膜(AR膜)6を形成することにより構成されている。波長分離膜4としては、本発明に従う波長分離膜を形成することができ、反射防止膜6としては、例えば、TiO2もしくはTa2O5とSiO2の4層交互層からなる膜を形成することができる。なお、図2に示す波長分離プリズム1においても、波長分離膜4のLD13側に反射防止膜を形成することが好ましい。
【0036】
図4は、図3に示す波長分離平板5を用いた光送受信モジュールを示す模式的断面図である。図4に示す光送受信モジュールにおいては、光ファイバ11とLD13を結ぶ光軸に対して、波長分離膜4及びAR膜6が45度に傾斜するように波長分離平板5が設置されている。図4に示す光送受信モジュールにおいても、図2に示す光送受信モジュールと同様に、LD13から出射された光を光ファイバ11内に入射し伝搬させることができ、光ファイバ11から出射される光を波長分離膜4で反射して、PD15に入射させることができる。
【0037】
図4に示す光送受信モジュールにおいても、波長分離平板5の波長分離膜4に入射する光は、入射角45度を中心に、例えば±5度の広がりをもった光が入射するが、本発明に従う波長分離膜を用いることにより、光の入射角のずれによる透過帯域及び阻止帯域の波長シフト幅を小さくすることができるので、入射角のずれによる光学特性の低下を抑制することができる。また、阻止帯域を従来よりも広くすることができるので、所望の光学特性を容易に得ることができる。
【0038】
また、本発明の波長分離膜は、上述のように、傾斜した波長分離膜に光を入射することで生じるP偏光成分とS偏光成分の光学特性の分離幅を小さくすることができる。このため、P偏光成分及びS偏光成分の両方に対して透過帯域特性を満足させることができる。
【0039】
(実施例1〜11及び比較例1〜3)
第1の薄膜、第2の薄膜、及び第3の薄膜として、表1に示す膜材質を用いて、表2及び表3に示す順序及び膜厚で、各薄膜をガラス基板上に形成し、波長分離膜を形成した。
【0040】
表1に示すように、実施例7〜11においては、第3の薄膜として、Nb2O5膜、ZrO2膜、TiO2膜、Ta2O5膜、もしくは、HfO2膜からなる単層の薄膜、または、これらの膜とAl2O3膜とを積層させた複層の薄膜を用いている。
【0041】
上記各実施例及び各比較例において、各薄膜は、真空蒸着法により形成した。また波長分離膜全体の厚みは、表2及び表3に示す通りである。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】
なお、上記各実施例及び各比較例において用いた各薄膜の波長1490nmにおける屈折率は以下の通りである。
【0046】
Si薄膜:3.59
SiO2薄膜:1.45
MgF2薄膜:1.36
Al2O3薄膜:1.64
Ta2O5薄膜:2.13
Nb2O5薄膜:2.23
ZrO2薄膜:2.04
TiO2薄膜:2.29
HfO2薄膜:2.03
以上のようにして作製した実施例1〜11及び比較例1〜3の各波長分離膜について、光学特性を評価した。
【0047】
図5〜図18は、実施例1〜11及び比較例1〜3のそれぞれの光学特性図である。対応関係は、表1に示す通りである。光学特性図において、横軸は波長(nm)を示し、縦軸は透過率(%)を示している。細線で示す「S−45度」は、S偏光成分の45度入射時の波長と透過率の関係を示している。太線で示す「P−45度」は、P偏光成分の45度入射時の波長と透過率の関係を示している。細い点線で示す「S−43度」は、S偏光成分の43度入射時の波長と透過率の関係を示している。太い点線で示す「P−43度」は、P偏光成分の43度入射時の波長と透過率の関係を示している。
【0048】
比較例1は、Si膜とSiO2膜を積層した従来の波長分離膜に対応するものであるが、図16に示すように、光入射角のずれによる透過率の波長シフトは小さいものの、P偏光成分とS偏光成分の分離幅が大きくなっている。
【0049】
比較例2は、Si膜とTiO2膜を積層した従来の波長分離膜に対応するものであるが、図17に示すように、光入射角のずれによる透過率の波長シフトが大きくなっている。図17においては、P偏光成分のみが示されているが、S偏光成分は、1800nmより長波長側に位置しているため、図示されていない。従って、比較例2においては、P偏光成分とS偏光成分の分離幅がかなり大きくなっている。
【0050】
比較例3は、TiO2膜とSiO2膜を積層した従来の波長分離膜に対応するものであるが、図18に示すように、光の入射角のずれによる透過率の波長シフトは大きく、またP偏光成分とS偏光成分の分離幅がかなり大きくなっている。
【0051】
本発明に従う実施例1〜11においては、図5〜図15に示すように、光の入射角のずれによる透過率の波長シフトが小さく、かつ阻止帯域も広くなっている。また、P偏光成分とS偏光成分の分離幅も小さくなっている。
【0052】
従って、本発明によれば、光の入射角による透過率の波長シフトを小さくすることができ、P偏光成分とS偏光成分の分離幅を小さくすることができる。
【0053】
また、表2及び表3に示すように、本発明に従う実施例1〜11の波長分離膜は、比較例1〜3に示す従来の波長分離膜に比べ、積層する膜の総数を少なくすることができ、積層する各膜の厚み薄くすることができる。従って、トータルの膜厚を薄くすることができる。
【0054】
また、本発明に従う実施例1〜11においては、Siのトータルの膜厚を薄くすることができる。このため、Siによる吸収の透過損失を低減することができる。
【0055】
(実施例12及び実施例13)
表1及び表3に示す実施例10の膜構成において、Si薄膜の屈折率を2.88とし、それ以外は、実施例10と同様にして、実施例12の波長分離膜を作製した。
【0056】
また、同様に、実施例10の膜構成において、Si薄膜の屈折率を4.19とする以外は、実施例10と同様にして、実施例13の波長分離膜を作製した。
【0057】
なお、Si薄膜の屈折率は、Si薄膜を形成する際の蒸着レートを調整することで変化させ、Si薄膜の蒸着レートを高めることにより、4.19の屈折率を有するSi薄膜を、Si薄膜の蒸着レートを低下させることにより、2.88の屈折率を有するSi薄膜を形成した。
【0058】
実施例12の波長分離膜の光学特性を図19に、実施例13の波長分離膜の光学特性を図20に示す。
【0059】
図19に示すように、実施例12の波長分離膜においては、Si薄膜の屈折率が低いため、他の実施例に比べ、阻止帯域が狭くなっている。また、P偏光成分とS偏光成分の分離幅が大きくなっている。
【0060】
また、図20に示すように、実施例13の波長分離膜においては、Si薄膜の屈折率が高いため、透過帯域におけるリップルが大きくなっている。
【0061】
以上のように、本発明に従えば、積層する膜の総数を少なくすることができ、積層する各膜の厚みを薄くすることができるとともに、傾斜した波長分離膜に光を入射することで生じるP偏光成分とS偏光成分の光学特性の分離幅を小さくすることができ、かつ光の入射角のずれによる透過帯域及び阻止帯域の波長シフト幅を小さくすることができ、阻止帯域を従来よりも広くすることができるとともに、Siのトータルの膜厚を薄くしてSiによる吸収の透過損失を低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明に従う光通信用フィルタの一実施例である波長分離プリズムを示す模式的断面図。
【図2】図1に示す実施例の波長分離プリズムを用いた光送受信モジュールを示す模式的断面図。
【図3】本発明に従う光通信用フィルタの他の実施例である波長分離平板を示す模式的断面図。
【図4】図3に示す実施例の波長分離平板を用いた光送受信モジュールを示す模式的断面図。
【図5】本発明に従う実施例1の波長分離膜の光学特性を示す図。
【図6】本発明に従う実施例2の波長分離膜の光学特性を示す図。
【図7】本発明に従う実施例3の波長分離膜の光学特性を示す図。
【図8】本発明に従う実施例4の波長分離膜の光学特性を示す図。
【図9】本発明に従う実施例5の波長分離膜の光学特性を示す図。
【図10】本発明に従う実施例6の波長分離膜の光学特性を示す図。
【図11】本発明に従う実施例7の波長分離膜の光学特性を示す図。
【図12】本発明に従う実施例8の波長分離膜の光学特性を示す図。
【図13】本発明に従う実施例9の波長分離膜の光学特性を示す図。
【図14】本発明に従う実施例10の波長分離膜の光学特性を示す図。
【図15】本発明に従う実施例11の波長分離膜の光学特性を示す図。
【図16】比較例1の波長分離膜の光学特性を示す図。
【図17】比較例2の波長分離膜の光学特性を示す図。
【図18】比較例3の波長分離膜の光学特性を示す図。
【図19】本発明に従う実施例12の波長分離膜の光学特性を示す図。
【図20】本発明に従う実施例13の波長分離膜の光学特性を示す図。
【符号の説明】
【0063】
1…波長分離プリズム
2,3…プリズム片
4…波長分離膜
5…波長分離平板
6…反射防止膜
7…透光性基板
10…フェルール
11…光ファイバ
12…レンズ
13…レーザーダイオード(LD)
14…レンズ
15…フォトダイオード(PD)
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過帯域の波長の光を透過させ、阻止帯域の波長の光を反射させることができる波長分離膜及びそれを用いた光通信用フィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
光ファイバにより双方向に伝送される光を送受信する光送受信モジュールとして、光ファイバの先端面の光軸上に第1の波長の光を光軸方向に通過させ、かつ第2の波長の光を光軸と垂直方向に反射させる光分離プリズムが設けられたモジュールが知られている(特許文献1など)。光分離プリズム内には、光の入射方向に対して40〜50度に傾斜して波長分離膜が設けられている。このような波長分離膜は、高屈折率材料からなる第1の薄膜と低屈折率材料からなる第2の薄膜とを交互に積層することにより構成されている。従来は一般に、高屈折率の第1の薄膜としてTiO2が用いられ、低屈折率の第2の薄膜としてSiO2が用いられており、これらの薄膜を交互に60層程度積層して波長分離膜が形成されている。
【0003】
しかしながら、このようなTiO2とSiO2の薄膜を積層して構成された波長分離膜においては、波長分離膜に対する光の入射角度にずれが生じると、透過帯域及び阻止帯域に波長シフトが生じ、所望の光学特性が得られないという問題があった。
【0004】
さらに、傾斜した波長分離膜に光が入射すると、その透過光及び反射光は、光学的な特性が異なるP偏光成分とS偏光成分に分離するが、上記の従来の波長分離膜においては、このP偏光成分とS偏光成分の分離幅が300nm程度と非常に大きいため、透過帯域における特性をP偏光成分しか満足させることができないという問題があった。
【0005】
特許文献2においては、TiO2薄膜またはSiO2薄膜と、Si薄膜とを交互に積層した波長分離膜を用いた光分離プリズムが提案されている。しかしながら、これらの積層薄膜においても、高屈折率薄膜と低屈折率薄膜の総数を減少させていくと、阻止帯域が狭くなったり、光入射角のずれによる透過帯域及び阻止帯域の波長シフト幅が大きくなるという問題があった。
【特許文献1】特開2000−180671号公報
【特許文献2】特開2000−162413号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、積層する膜の総数を少なくすることができ、積層する各膜の厚みを薄くすることができるとともに、傾斜した波長分離膜に光を入射することで生じるP偏光成分とS偏光成分の光学特性の分離幅を小さくすることができ、かつ光の入射角のずれによる透過帯域及び阻止帯域の波長シフト幅を小さくすることができ、阻止帯域を従来よりも広くすることができるとともに、Siのトータルの膜厚を薄くしてSiによる吸収の透過損失を低減させることができる波長分離膜及びそれを用いた光通信用フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の波長分離膜は、高屈折率材料からなる第1の薄膜と、低屈折率材料からなる第2の薄膜と、高屈折率材料の屈折率と低屈折率材料の屈折率との間の範囲内である中間の屈折率を有する材料からなる第3の薄膜とを複数層積層した構造を有する波長分離膜であって、高屈折率材料がシリコンであり、低屈折率材料が、酸化珪素、フッ化マグネシウム、及び酸化アルミニウムから選ばれる少なくとも1種であり、中間の屈折率を有する材料が、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、及び酸化アルミニウムから選ばれる少なくとも1種であることを特徴としている。
【0008】
本発明の波長分離膜は、上記の第1の薄膜、第2の薄膜、及び第3の薄膜を、複数層積層した構造を有することにより、以下に示す効果を発揮する。
【0009】
(1)積層する膜の総数を少なくすることができ、積層する各膜の厚みを薄くすることができる。従って、その結果として、従来よりも波長分離膜全体の厚みを薄くすることができる。
【0010】
(2)傾斜した波長分離膜に光を入射することで生じるP偏光成分とS偏光成分の光学特性の分離幅を小さくすることができる。
【0011】
(3)光の入射角のずれによる透過帯域及び阻止帯域の波長シフト幅を小さくすることができる。
【0012】
(4)阻止帯域を従来よりも広くすることができる。
【0013】
(5)従来のSi膜を用いた波長分離膜に比べ、Siのトータルの膜厚を薄くすることができ、Siによる吸収の透過損失を低減することができる。
【0014】
本発明によれば、上述のように、第1の薄膜と、第2の薄膜及び第3の薄膜との屈折率の差が大きいため、積層する膜の総数を少なくすることができる。例えば、SiO2薄膜と、TiO2薄膜を積層する従来の波長分離膜の場合、積層数が44層で、厚みが10μm程度であったものが、本発明によれば、30〜36層程度の積層数にすることができ、全体の厚みを5μm程度にすることができる。
【0015】
また、Si薄膜と、SiO2薄膜またはTiO2薄膜とを積層する従来の波長分離膜の場合、Si薄膜の積層数が14層で、厚みが1400nm程度であったものが、本発明によれば、Si薄膜の積層数を10層程度にすることができ、全体の厚みを800nm程度にすることができる。
【0016】
本発明によれば、積層する薄膜の厚みを薄くすることができ、かつ積層する膜の総数を少なくすることができるので、従来よりも製造工程を簡略化することができる。
【0017】
本発明においては、第1の薄膜に、第2の薄膜または第3の薄膜が隣接するように、第1の薄膜、第2の薄膜及び第3の薄膜が積層されていることが好ましい。
【0018】
また、本発明において、第3の薄膜は、複数の薄膜を積層することにより構成されていてもよい。具体的には、第3の薄膜は、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、及び酸化アルミニウムから選ばれる1種の薄膜、または、2種以上を積層させた薄膜から構成されてもよい。本発明において、第2の薄膜は、酸化珪素、フッ化マグネシウム、及び酸化アルミニウムから選ばれる少なくとも1種の低屈折率材料から形成されるが、第3の薄膜が、酸化アルミニウムを含む場合には、第2の薄膜は、酸化珪素またはフッ化マグネシウムから形成される。
【0019】
本発明において、第1の薄膜は、シリコン薄膜から形成される。シリコン薄膜は、薄膜形成方法及び条件により、その屈折率を変化させることができる。本発明におけるシリコン薄膜は、波長1490nmにおいて、2.85〜4.20の範囲内の屈折率であることが好ましい。屈折率が小さくなり過ぎると、阻止帯域が狭くなり、P偏光成分とS偏光成分の光学特性の分離幅が大きくなる場合がある。また、屈折率が小さいと、一般にその密度が小さくなるため、水分吸収等の影響を受けやすく、耐環境性が低下する場合がある。シリコン薄膜の屈折率を高くすることにより、耐環境性を高めることができる。しかしながら、シリコン薄膜の屈折率が高くなり過ぎると、光学特性におけるリップルが大きくなる場合がある。
【0020】
本発明において、各薄膜の厚みは、透過帯域及び阻止帯域の設定により適宜選択されるものであり、特に限定されるものではないが、一般には、50〜300nm程度の膜厚の範囲内で選択され、場合によっては、それ以上の膜厚の薄膜を形成してもよい。また、積層する膜の総数は、特に限定されるものではないが、例えば、20〜50層の範囲とすることができる。
【0021】
本発明において、各薄膜を形成する方法は特に限定されるものではないが、一般には、真空蒸着法、スパッタリング法などの薄膜形成方法で形成することができる。
【0022】
本発明の光通信用フィルタは、上記本発明の波長分離膜を光入射方向に対して傾斜して配置し、波長分離膜の透過領域の波長の光を透過させ、阻止帯域の波長の光を反射させることを特徴としている。
【0023】
本発明の光通信用フィルタにおいて、波長分離膜は、光入射方向に対して40〜50度に傾斜して配置されることが好ましい。
【0024】
本発明の光通信用フィルタとしては、後述するような波長分離プリズム、波長分離平板などが挙げられる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、積層する膜の総数を少なくすることができ、積層する各膜の厚みを薄くすることができるとともに、傾斜した波長分離膜に光を入射することで生じるP偏光成分とS偏光成分の光学特性の分離幅を小さくすることができ、かつ光入射角のずれによる透過帯域及び阻止帯域の波長シフト幅を小さくすることができ、阻止帯域を従来よりも広くすることができるとともに、Siのトータルの膜厚を薄くして、Siによる吸収の透過損失を低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を具体的な実施例により説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0027】
図1は、本発明に従う光通信用フィルタの一実施例である波長分離プリズムを示す模式的断面図である。図1に示すように、波長分離プリズム1は、直角二等辺三角柱状のガラスなどからなるプリズム片2及び3を、波長分離膜4を介して傾斜面同士で貼り合わせることにより構成されている。貼り合わせには、例えば紫外線硬化型接着剤を用いることができる。貼り合わせるプリズム片の一方の傾斜面上に、本発明に従う波長分離膜4を形成することにより、プリズム片2及び3の傾斜面に波長分離膜4を配置することができる。
【0028】
図2は、図1に示す波長分離プリズムを用いた光送受信モジュールを示す模式的断面図である。波長分離プリズム1は、紫外線硬化型接着剤を用いて、フェルール10の先端に接合されている。フェルール10内には、光ファイバ11が設けられている。発光素子であるレーザーダイオード(LD)13から出射された波長1490nmの光は、レンズ12により集光され、波長分離プリズム1に入射する。波長分離プリズム1に入射した光は、波長分離膜4の透過帯域の光であるので、波長分離膜4を透過し、光ファイバ11の端部から入射し、光ファイバ11内を伝搬する。
【0029】
一方、光ファイバ11から出射された波長1310nmの光は、波長分離プリズム1に入射し、波長分離膜4の阻止帯域の光であるので、波長分離膜4で反射し、下方に設けられたレンズ14を通り、受光素子であるフォトダイオード(PD)15に入射する。
【0030】
以上のように、LD13から出射した光を透過し、光ファイバ11から出射した光を反射するように波長分離プリズム1の波長分離膜4を設定しておくことにより、光ファイバ11を用いた双方向の通信が可能となる。
【0031】
波長分離プリズム1において、波長分離膜4は、例えば光ファイバ11とLD13を結ぶ光軸に対して45度に傾斜するように配置されている。しかしながら、LD13から出射した光はレンズ12により集光され光ファイバ11に入射するが、広がりをもった状態で波長分離膜4に入射する。例えば、入射角45度を中心に±5度の広がりをもった光として入射する。波長分離膜4に対して、入射角45度±5度の広がりで光が入射するため、光の入射角のずれにより透過帯域及び阻止帯域が大きく波長シフトすると、所望の光学特性が得られない場合がある。
【0032】
本発明の波長分離膜は、上述のように光入射角のずれによる透過帯域及び阻止帯域の波長シフト幅を小さくすることができるので、光の入射角のずれによる光学特性の影響を低減することができる。また、阻止帯域を従来よりも広くすることができるので、設計上及び管理上の許容度を大きくすることでき、所望の光学特性を容易に得ることができる。
【0033】
また、本発明の波長分離膜は、上述のように、傾斜した波長分離膜に光を入射することで生じるP偏光成分とS偏光成分の光学特性の分離幅を小さくすることができる。このため、P偏光成分及びS偏光成分の両方に対して透過帯域特性を満足させることができる。
【0034】
図2に示す実施例では、波長分離プリズム1を、フェルール10の先端に接合しているが、波長分離プリズム1は、フェルール10とレンズ12の間に配置してもよい。
【0035】
図3は、本発明に従う波長分離膜を用いた波長分離平板を示す模式的断面図である。図3に示すように、波長分離平板5は、ガラスなどからなる透光性基板7の一方面上に波長分離膜4を形成し、他方面上に反射防止膜(AR膜)6を形成することにより構成されている。波長分離膜4としては、本発明に従う波長分離膜を形成することができ、反射防止膜6としては、例えば、TiO2もしくはTa2O5とSiO2の4層交互層からなる膜を形成することができる。なお、図2に示す波長分離プリズム1においても、波長分離膜4のLD13側に反射防止膜を形成することが好ましい。
【0036】
図4は、図3に示す波長分離平板5を用いた光送受信モジュールを示す模式的断面図である。図4に示す光送受信モジュールにおいては、光ファイバ11とLD13を結ぶ光軸に対して、波長分離膜4及びAR膜6が45度に傾斜するように波長分離平板5が設置されている。図4に示す光送受信モジュールにおいても、図2に示す光送受信モジュールと同様に、LD13から出射された光を光ファイバ11内に入射し伝搬させることができ、光ファイバ11から出射される光を波長分離膜4で反射して、PD15に入射させることができる。
【0037】
図4に示す光送受信モジュールにおいても、波長分離平板5の波長分離膜4に入射する光は、入射角45度を中心に、例えば±5度の広がりをもった光が入射するが、本発明に従う波長分離膜を用いることにより、光の入射角のずれによる透過帯域及び阻止帯域の波長シフト幅を小さくすることができるので、入射角のずれによる光学特性の低下を抑制することができる。また、阻止帯域を従来よりも広くすることができるので、所望の光学特性を容易に得ることができる。
【0038】
また、本発明の波長分離膜は、上述のように、傾斜した波長分離膜に光を入射することで生じるP偏光成分とS偏光成分の光学特性の分離幅を小さくすることができる。このため、P偏光成分及びS偏光成分の両方に対して透過帯域特性を満足させることができる。
【0039】
(実施例1〜11及び比較例1〜3)
第1の薄膜、第2の薄膜、及び第3の薄膜として、表1に示す膜材質を用いて、表2及び表3に示す順序及び膜厚で、各薄膜をガラス基板上に形成し、波長分離膜を形成した。
【0040】
表1に示すように、実施例7〜11においては、第3の薄膜として、Nb2O5膜、ZrO2膜、TiO2膜、Ta2O5膜、もしくは、HfO2膜からなる単層の薄膜、または、これらの膜とAl2O3膜とを積層させた複層の薄膜を用いている。
【0041】
上記各実施例及び各比較例において、各薄膜は、真空蒸着法により形成した。また波長分離膜全体の厚みは、表2及び表3に示す通りである。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】
なお、上記各実施例及び各比較例において用いた各薄膜の波長1490nmにおける屈折率は以下の通りである。
【0046】
Si薄膜:3.59
SiO2薄膜:1.45
MgF2薄膜:1.36
Al2O3薄膜:1.64
Ta2O5薄膜:2.13
Nb2O5薄膜:2.23
ZrO2薄膜:2.04
TiO2薄膜:2.29
HfO2薄膜:2.03
以上のようにして作製した実施例1〜11及び比較例1〜3の各波長分離膜について、光学特性を評価した。
【0047】
図5〜図18は、実施例1〜11及び比較例1〜3のそれぞれの光学特性図である。対応関係は、表1に示す通りである。光学特性図において、横軸は波長(nm)を示し、縦軸は透過率(%)を示している。細線で示す「S−45度」は、S偏光成分の45度入射時の波長と透過率の関係を示している。太線で示す「P−45度」は、P偏光成分の45度入射時の波長と透過率の関係を示している。細い点線で示す「S−43度」は、S偏光成分の43度入射時の波長と透過率の関係を示している。太い点線で示す「P−43度」は、P偏光成分の43度入射時の波長と透過率の関係を示している。
【0048】
比較例1は、Si膜とSiO2膜を積層した従来の波長分離膜に対応するものであるが、図16に示すように、光入射角のずれによる透過率の波長シフトは小さいものの、P偏光成分とS偏光成分の分離幅が大きくなっている。
【0049】
比較例2は、Si膜とTiO2膜を積層した従来の波長分離膜に対応するものであるが、図17に示すように、光入射角のずれによる透過率の波長シフトが大きくなっている。図17においては、P偏光成分のみが示されているが、S偏光成分は、1800nmより長波長側に位置しているため、図示されていない。従って、比較例2においては、P偏光成分とS偏光成分の分離幅がかなり大きくなっている。
【0050】
比較例3は、TiO2膜とSiO2膜を積層した従来の波長分離膜に対応するものであるが、図18に示すように、光の入射角のずれによる透過率の波長シフトは大きく、またP偏光成分とS偏光成分の分離幅がかなり大きくなっている。
【0051】
本発明に従う実施例1〜11においては、図5〜図15に示すように、光の入射角のずれによる透過率の波長シフトが小さく、かつ阻止帯域も広くなっている。また、P偏光成分とS偏光成分の分離幅も小さくなっている。
【0052】
従って、本発明によれば、光の入射角による透過率の波長シフトを小さくすることができ、P偏光成分とS偏光成分の分離幅を小さくすることができる。
【0053】
また、表2及び表3に示すように、本発明に従う実施例1〜11の波長分離膜は、比較例1〜3に示す従来の波長分離膜に比べ、積層する膜の総数を少なくすることができ、積層する各膜の厚み薄くすることができる。従って、トータルの膜厚を薄くすることができる。
【0054】
また、本発明に従う実施例1〜11においては、Siのトータルの膜厚を薄くすることができる。このため、Siによる吸収の透過損失を低減することができる。
【0055】
(実施例12及び実施例13)
表1及び表3に示す実施例10の膜構成において、Si薄膜の屈折率を2.88とし、それ以外は、実施例10と同様にして、実施例12の波長分離膜を作製した。
【0056】
また、同様に、実施例10の膜構成において、Si薄膜の屈折率を4.19とする以外は、実施例10と同様にして、実施例13の波長分離膜を作製した。
【0057】
なお、Si薄膜の屈折率は、Si薄膜を形成する際の蒸着レートを調整することで変化させ、Si薄膜の蒸着レートを高めることにより、4.19の屈折率を有するSi薄膜を、Si薄膜の蒸着レートを低下させることにより、2.88の屈折率を有するSi薄膜を形成した。
【0058】
実施例12の波長分離膜の光学特性を図19に、実施例13の波長分離膜の光学特性を図20に示す。
【0059】
図19に示すように、実施例12の波長分離膜においては、Si薄膜の屈折率が低いため、他の実施例に比べ、阻止帯域が狭くなっている。また、P偏光成分とS偏光成分の分離幅が大きくなっている。
【0060】
また、図20に示すように、実施例13の波長分離膜においては、Si薄膜の屈折率が高いため、透過帯域におけるリップルが大きくなっている。
【0061】
以上のように、本発明に従えば、積層する膜の総数を少なくすることができ、積層する各膜の厚みを薄くすることができるとともに、傾斜した波長分離膜に光を入射することで生じるP偏光成分とS偏光成分の光学特性の分離幅を小さくすることができ、かつ光の入射角のずれによる透過帯域及び阻止帯域の波長シフト幅を小さくすることができ、阻止帯域を従来よりも広くすることができるとともに、Siのトータルの膜厚を薄くしてSiによる吸収の透過損失を低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明に従う光通信用フィルタの一実施例である波長分離プリズムを示す模式的断面図。
【図2】図1に示す実施例の波長分離プリズムを用いた光送受信モジュールを示す模式的断面図。
【図3】本発明に従う光通信用フィルタの他の実施例である波長分離平板を示す模式的断面図。
【図4】図3に示す実施例の波長分離平板を用いた光送受信モジュールを示す模式的断面図。
【図5】本発明に従う実施例1の波長分離膜の光学特性を示す図。
【図6】本発明に従う実施例2の波長分離膜の光学特性を示す図。
【図7】本発明に従う実施例3の波長分離膜の光学特性を示す図。
【図8】本発明に従う実施例4の波長分離膜の光学特性を示す図。
【図9】本発明に従う実施例5の波長分離膜の光学特性を示す図。
【図10】本発明に従う実施例6の波長分離膜の光学特性を示す図。
【図11】本発明に従う実施例7の波長分離膜の光学特性を示す図。
【図12】本発明に従う実施例8の波長分離膜の光学特性を示す図。
【図13】本発明に従う実施例9の波長分離膜の光学特性を示す図。
【図14】本発明に従う実施例10の波長分離膜の光学特性を示す図。
【図15】本発明に従う実施例11の波長分離膜の光学特性を示す図。
【図16】比較例1の波長分離膜の光学特性を示す図。
【図17】比較例2の波長分離膜の光学特性を示す図。
【図18】比較例3の波長分離膜の光学特性を示す図。
【図19】本発明に従う実施例12の波長分離膜の光学特性を示す図。
【図20】本発明に従う実施例13の波長分離膜の光学特性を示す図。
【符号の説明】
【0063】
1…波長分離プリズム
2,3…プリズム片
4…波長分離膜
5…波長分離平板
6…反射防止膜
7…透光性基板
10…フェルール
11…光ファイバ
12…レンズ
13…レーザーダイオード(LD)
14…レンズ
15…フォトダイオード(PD)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高屈折率材料からなる第1の薄膜と、低屈折率材料からなる第2の薄膜と、前記高屈折率材料の屈折率と前記低屈折率材料の屈折率との間の範囲内である中間の屈折率を有する材料からなる第3の薄膜とを複数層積層した構造を有する波長分離膜であって、
前記高屈折率材料がシリコンであり、前記低屈折率材料が、酸化珪素、フッ化マグネシウム、及び酸化アルミニウムから選ばれる少なくとも1種であり、前記中間の屈折率を有する材料が、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、及び酸化アルミニウムから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする波長分離膜。
【請求項2】
前記第1の薄膜に、前記第2の薄膜または前記第3の薄膜が隣接するように積層されていることを特徴とする請求項1に記載の波長分離膜。
【請求項3】
前記第3の薄膜が、複数の薄膜を積層することにより構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の波長分離膜。
【請求項4】
積層する膜の合計が、20〜50層の範囲内であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の波長分離膜。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の波長分離膜を光の入射方向に対して傾斜して配置し、前記波長分離膜の透過帯域の波長の光を透過させ、阻止帯域の波長の光を反射させることを特徴とする光通信用フィルタ。
【請求項6】
前記波長分離膜が、光の入射方向に対して、40〜50度に傾斜して配置されていることを特徴とする請求項5に記載の光通信用フィルタ。
【請求項1】
高屈折率材料からなる第1の薄膜と、低屈折率材料からなる第2の薄膜と、前記高屈折率材料の屈折率と前記低屈折率材料の屈折率との間の範囲内である中間の屈折率を有する材料からなる第3の薄膜とを複数層積層した構造を有する波長分離膜であって、
前記高屈折率材料がシリコンであり、前記低屈折率材料が、酸化珪素、フッ化マグネシウム、及び酸化アルミニウムから選ばれる少なくとも1種であり、前記中間の屈折率を有する材料が、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、及び酸化アルミニウムから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする波長分離膜。
【請求項2】
前記第1の薄膜に、前記第2の薄膜または前記第3の薄膜が隣接するように積層されていることを特徴とする請求項1に記載の波長分離膜。
【請求項3】
前記第3の薄膜が、複数の薄膜を積層することにより構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の波長分離膜。
【請求項4】
積層する膜の合計が、20〜50層の範囲内であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の波長分離膜。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の波長分離膜を光の入射方向に対して傾斜して配置し、前記波長分離膜の透過帯域の波長の光を透過させ、阻止帯域の波長の光を反射させることを特徴とする光通信用フィルタ。
【請求項6】
前記波長分離膜が、光の入射方向に対して、40〜50度に傾斜して配置されていることを特徴とする請求項5に記載の光通信用フィルタ。
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【公開番号】特開2009−156954(P2009−156954A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−332589(P2007−332589)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】
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