説明

波長特異的位相顕微鏡検査法

【課題】蛍光顕微鏡検査のために最適化された位相コントラスト技術を提供する。
【解決手段】強度および他の顕微鏡検査様式の光学的な質を阻害することなく位相差顕微鏡画像を生成するシステムおよび方法は、位相顕微鏡検査適用のための波長特異的な照明ストラテジーおよび減衰ストラテジーを用いる。特異的な波長でのみ不透明である波長特異的対物位相リングが位相顕微鏡検査装置に付随して使用され得る。波長の減衰は、モニターされる蛍光シグナルのために所望される範囲の外である波長に関してのみ不透明性が選択的に提供され得るように調節され得る。対物位相リングのための不透明な波長の範囲内の照明が位相顕微鏡検査適用のために選択され得る。それ故、波長特異的位相顕微鏡検査を可能にするために有効な対物位相リングは、例えば、蛍光顕微鏡検査のような他の適用のための顕微鏡の一般的な使用法を阻害しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本出願は、2002年12月31日に出願された、「近赤外位相顕微鏡検査のシステムおよび方法」と題する米国仮出願番号60/437,269の利益を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明の局面は、一般的に、位相顕微鏡検査画像化システムに関し、より詳細には、位相顕微鏡検査適用のための波長特異的な照明ストラテジーおよび減衰ストラテジーを用いたシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0003】
(関連分野の説明)
生細胞、組織、および生物に対して蛍光顕微鏡検査を実施する場合、サンプルから構造的な情報を得ることがしばしば所望される。例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)のような蛍光タンパク質を用いて生細胞内のタンパク質構築物の局在を研究する場合、細胞の境界に関連してこれらの局在について述べることがしばしば所望される。細胞自体は、最も頻繁には、光の固有の吸収に欠けており、そのため白色光による可視化は多くの場合十分ではない。従って、顕微鏡検査者は、細胞とその環境との間および個々の細胞小器官の境界の間の屈折率勾配を活用することによってコントラストを生成する方法を、多くの場合使用する。このようなコントラストを生成するための当該分野において最も一般的な方法は、微分干渉コントラスト(DIC)顕微鏡検査および位相差(位相)顕微鏡検査である。これらの方法は、二つのしばしば相反する目的:一方は、注意深くかつ綿密な研究を可能にするために十分なシグナルの対ノイズ比を有する蛍光発光を検出すること;他方は、細胞に照射する光の潜在的に傷害を与えうる効果を最小にするかさもなければ制御すること、の間のバランスをとろうと試みている。
【0004】
コントラストを生成するための上記に記載の二つの方法のうち、DIC顕微鏡検査は、蛍光適用のために最も頻繁に選択される。なぜなら、DIC技術は、蛍光シグナル強度が有意に減少させられるかもしくは低下させられるかのいずれでもないような方法で形成され、多くの状況で、シグナルの対ノイズ比を最大にし得るからである。しかし、最近の研究は、DIC顕微鏡検査が、光学波の点像分布関数(Point Spread Function)(PSF)を変化させることにより、空間的アーティファクトを蛍光顕微鏡検査システムに導入することを証明している。このアーティファクトは特に不都合である。なぜなら、このアーティファクトは、PSFの非対称ブラーリングであり、デジタルデコンボリューションのような機械的な技術による光学的効果の補正を非常に困難にするからである。
【0005】
位相顕微鏡検査において、不透明な環、すなわち「位相リング」は、光路の特定の位置に挿入される。適切な減衰特性を有する位相リングは、一方の物質を通過する光と他方の物質を通過する光との間の位相差を活用することにより、異なる屈折率の物質の間の界面でコントラストの生成を可能にする。しかし、位相リングの導入はまた、顕微鏡により集められる光の総強度を阻害する。なぜなら、通常対物レンズを通過する光のうちのいくらかは、一つ以上のリングにより減衰されるからである。従って、位相顕微鏡検査は、蛍光顕微鏡検査適用には最も頻繁には利用されない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の技術は、少なくとも、蛍光顕微鏡適用に関連した使用のための最も良いコントラストを生成する方法が、その局在を調査されているまさにその蛍光をゆがめる傾向があるほど不十分である。蛍光顕微鏡検査のために最適化された位相コントラスト技術が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(要旨)
本発明の実施形態は、現在の技術の上記に記載されたおよび種々の他の欠点を克服し、位相顕微鏡検査適用のための波長特異的な照明ストラテジーおよび減衰ストラテジーを用いるシステムおよび方法を提供する。
【0008】
一つの実施形態に従って、例えば、本明細書中で開示される方法は、以下の工程を包含し得る:光源からの照明を集光器位相リングおよび対物位相リングを有する顕微鏡検査装置に提供する工程;集光器位相リングへの証明の入射を、所定の範囲の波長に選択的に限定する工程;ならびに対物位相リングへの放射光の入射を、所定の範囲の波長に選択的に減衰する工程。
【0009】
選択的に限定する工程は、発光ダイオードもしくはレーザーのような波長特異的な照明光源を利用する工程を包含し得る。さらに、もしくはあるいは、選択的に限定する工程は、光源と集光器位相リングとの間に波長特異的光学フィルターを置く工程を包含し得る。機能的な柔軟性を有するいくつかの例示の実施形態において、選択的に限定する工程は、照明を、例えば、約650nmよりも長い波長のような近赤外波長に限定する工程を包含する。
【0010】
本開示に従って構成され、かつ作動するシステムは、以下を備え得る:顕微鏡検査装置;照明光源を備える励起光送達システムであって;この励起光送達システムが、選択された範囲の波長の光を光源から顕微鏡検査装置へ送達させるために作動する、システム;ならびに顕微鏡検査装置の対物レンズに結合された対物位相リングであって;この対物位相リングが、選択された範囲の波長の光を減衰するために選択的に作動する、リング。
【0011】
いくつかの実施形態において、励起光送達システムは、選択された範囲の波長の励起光を生成するために作動する波長特異的な照明光源を備える。上記に記載のように、このような波長特異的照明光源は、発光ダイオードもしくはレーザーで実施され得るか、またはこれらを備え得る。さらに、もしくはあるいは、励起光送達システムは、光源と顕微鏡検査装置との間に置かれた波長特異的光学フィルターを備え得;これらの実施形態において、この波長特異的光学フィルターは、選択された範囲の波長の励起光を透過させるために選択的に作動する。
【0012】
例示の方法に関して上記に記載のように、選択された範囲の波長は、いくつかの実施形態において近赤外波長を含む。一つの特定の実施において、選択された範囲の波長は、650nmよりも長い近赤外波長を含む。
【0013】
以下により詳細に述べられるように、別の例示のシステムが記載され、このシステムは、以下を備える:照明光源;ならびに光源からの照明を受け取り、かつ集光器位相リングおよび対物位相リングを有する顕微鏡検査システムであって;ここで、光源が、所定の範囲の波長で集光器位相リングに照明を提供し、かつ対物位相リングが、所定の範囲の波長の光を減衰するために選択的に作動する、システム。光源は、発光ダイオードもしくはレーザーであり得る。
より特定すれば、本発明は以下の項目に関し得る。
(項目1)方法であって、上記方法が:
照明を光源から顕微鏡検査装置に提供する工程であって、上記顕微鏡検査装置が、集光器位相リングおよび対物位相リングを有する、工程;
上記集光器位相リングへの上記照明の入射を、所定の範囲の波長に選択的に限定する、工程;ならびに
上記対物位相リングへの放射光の入射を、上記所定の範囲の波長に選択的に減衰する、工程を包含する、方法。
(項目2)前記選択的に限定する工程が、波長特異的な照明の光源を利用する工程を包含する、項目1に記載の方法。
(項目3)前記選択的に限定する工程が、発光ダイオードを利用する工程を包含する、項目2に記載の方法。
(項目4)前記選択的に限定する工程が、レーザーを利用する工程を包含する、項目2に記載の方法。
(項目5)前記選択的に限定する工程が、前記光源と前記集光器位相リングとの間に波長特異的光学フィルターを置く工程を包含する、項目1に記載の方法。
(項目6)前記選択的に限定する工程が、前記照明を近赤外波長に限定する工程を包含する、項目1に記載の方法。
(項目7)前記選択的に限定する工程が、前記照明を650nmよりも長い波長に限定する工程を包含する、項目6に記載の方法。
(項目8)システムであって、上記システムが:
顕微鏡検査装置;
照明光源を備える励起光送達システムであって;上記励起光送達システムが、選択された範囲の波長の光を上記光源から上記顕微鏡検査装置に送達させるために作動可能である、システム;および
上記顕微鏡検査装置の対物レンズに結合された対物位相リングであって;上記対物位相リングが、上記選択された範囲の波長の光を減衰するために選択的に作動する、リング
を備える、システム。
(項目9)前記励起光送達システムが、前記選択された範囲の波長の励起光を生成するために作動可能な波長特異的照明光源を備える、項目8に記載のシステム。
(項目10)前記波長特異的照明光源が、発光ダイオードを備える、項目9に記載のシステム。
(項目11)前記波長特異的照明光源が、レーザーを備える、項目9に記載のシステム。
(項目12)前記励起光送達システムが、前記光源と前記顕微鏡検査装置との間に置かれた波長特異的光学フィルターを備える、項目8に記載のシステム。
(項目13)前記波長特異的光学フィルターが、前記選択された範囲の波長の励起光を透過させるために選択的に作動する、項目12に記載のシステム。
(項目14)前記選択された範囲の波長が、近赤外波長を含む、項目8に記載のシステム。
(項目15)前記選択された範囲の波長が、650nmよりも長い近赤外波長を含む、項目14に記載のシステム。
(項目16)システムであって、上記システムが:
照明光源;ならびに
上記光源からの照明を受け取り、かつ集光器位相リングおよび対物位相リングを有する顕微鏡検査システム;
を備え、
ここで、上記光源が、所定の範囲の波長で上記集光器位相リングに上記照明を提供し、かつ上記対物位相リングが、上記所定の範囲の波長の光を減衰するために選択的に作動する、
システム。
(項目17)
前記光源が発光ダイオードである、項目16に記載のシステム。
(項目18)
前記光源がレーザーである、項目16に記載のシステム。
【0014】
本発明の種々の実施形態の上記および他の局面は、添付の図面と組み合わせた以下のその詳細な説明の吟味から明らかである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(詳細な説明)
本発明の局面は、強度および他の顕微鏡検査様式の光学的な質を阻害することなく、ならびにいかなる光学的な構成要素の除去も必要とすることなく、位相差顕微鏡画像を生成することおよび得ることに関する。以下により詳細に述べられるように、対物レンズの焦点面の後ろに完全に不透明な環を使用する代わりに、選択的に不透明な環(すなわち、特定の波長でのみ不透明な対物位相リング)が使用され得る。本明細書中で述べられる構造的な配置に従って、波長の減衰が選択的に制御され得る(すなわち、不透明度は、モニターされる蛍光シグナルについて所望される範囲外である波長についてのみ選択的に提供され得る)。対物位相リングにとって不透明である波長の範囲内の照明が、位相顕微鏡検査適用のために選択され得る。従って、波長特異的位相顕微鏡検査を可能にするために有効な対物位相リングは、例えば、蛍光顕微鏡検査のような他の適用のための顕微鏡の通常の使用法を阻害しなくともよい。
【0016】
ここで、図面に戻ると、図1は、従来の位相顕微鏡検査システムの構成要素を説明する単純化されたブロック線図である。図1において説明されるように、位相顕微鏡システム100は、一般的に、照明もしくは励起光を提供するために構成され、かつ作動する照明光源190を備える。このような励起光は、照明もしくは集光器位相リング110および集光光学器120を通過して、例えば、支持体130により支持されるか、取り付けられるか、もしくはさもなければ配置される、顕微鏡スライド、生物学的チップ(バイオチップ)、または他の装置に維持されている標本材料(サンプル199)を照射する。その点に関して、支持体130は、一般的に、例えば、移動可能な顕微鏡台で実施され得るか、もしくはこれを備える。サンプル199から放射されるかもしくはサンプル199を通して送達される光は、対物レンズ140により集められ、そして対物位相リング150へと進められる。システム100の種々の構成要素が、一般的に当該分野において公知であるので、位相顕微鏡検査適用のこれらの構成要素の機能性および相互利用性の網羅的な記載は、ここでは提供されない。以下の説明は、本発明の実施形態が有用性を有する状況および環境を限定するものとして解釈されることを意図しない。
【0017】
照明光源190は、代表的に、広範囲スペクトルの光の光源であり、電磁スペクトルの可視範囲全体にわたる(もしくは、可視範囲の実質的に全ての)(すなわち、約300nmから約700nmの波長範囲)光を生成する。集光器位相リング110および対物位相リング150は、実質的に、全ての可視波長について不透明である。当業者は、この文脈における「実質的に不透明な」とは、一般的に、集光器位相リング110および対物位相リング150が、全てもしくは所望される百分率の、可視範囲もしくはいくらか特定された範囲の波長の光を減衰する能力をいうことを理解する。その点に関して、集光器位相リング110および対物位相リング150は、特定の波長(対物位相リング150を用いるシステム100の場合、この波長範囲は、通常、上記に述べたように約300nm〜700nmである)の電磁エネルギーの伝達を選択的に限定する。
【0018】
システム100の操作の間、光源190からの励起光は、支持体130に配置された標本もしくはサンプル199を照射する。集光器位相リング110および対物位相リング150は、位置を調整され、そのため、位相が実質的に変化されずに対物レンズ140を通過する光(放射光)は、対物位相リング150により大きく減衰され、一方、位相が実質的に変化させられる光は、強調される。集光器位相リング110および対物位相リング150は、広範囲の波長スペクトルにわたって不透明であるので、対物位相リング150を通過する光の位相画像は多色性である。さらに、対物位相リング150は、可視スペクトルにわたって不透明であるので、対物レンズ140を通って伝達されるあらゆる可視光は、ある程度まで選択的に減衰され、システム100の全ての適用のための放射光の強度を限定する。
【0019】
特に、もし、システム100が、位相顕微鏡検査適用に加えて(例えば、蛍光顕微鏡検査のような)顕微鏡検査の他の様式における使用のために意図されるなら、対物位相リング150はまた、それらの選択された様式からのシグナルも減衰し得る。その点に関して、図3Aは、従来の位相顕微鏡検査システムにおける対物位相リングの不透明度を説明する単純化された図である。図3Aに示すように、(図3Aの左側の実線により示された)サンプル199により放射もしくは伝達され、そして対物レンズ140を出た光は、(点線で示されるように)対物位相リング150により、波長によらず減衰される。対物位相リング150を用いるシステム100の機能的有用性および柔軟性は、一般的に適宜限定される。
【0020】
図2は、本開示に従って構成され、かつ作動する波長特異的位相顕微鏡検査システムの一つの実施形態の構成要素を説明する単純化されたブロック線図である。図2において説明されるように、波長特異的位相顕微鏡検査システム101は、一般的に、限定された範囲の波長の励起光を提供する近赤外照明光源191を備え得る。このような励起光は、集光器位相リング110および集光器120を通過し、上記に記載のように支持体130に配置されたサンプル199を照射する。サンプル199からの放射光は、対物レンズ140により集められ、そして近赤外不透明対物位相リング151に進められる。
【0021】
例示の図2の配置において、集光器位相リング110への励起光の入射は、近赤外光源191により、所望される範囲の波長に選択的に限定される。その点に関して、光源191は、例えば、発光ダイオード(LED)もしくはレーザー、または適切に限定された振動数および波長の特性を有する電磁エネルギーを生成可能な任意の他の光源で実施され得るか、またはこれらを備え得る。しかし、他の実施形態が、LEDもしくは光源191のような実質的に単色性の光の他の光源に全面的に依存しなくてもよいことが、注意される。
【0022】
例として、波長特異的光学フィルターもしくはフィルターアレイが、広範囲スペクトル光の光源190と集光器位相リング110との間の光路に置かれて、近赤外光源191から光を提供することと同様の効果を達成し得る(すなわち、集光器位相リング110への励起光の入射を、スペクトルの近赤外部分からのような所望される範囲の波長に選択的に限定する)。当該分野で公知のもしくは公知の原理に従って開発され、かつ作動する任意の種々のショートパス光学フィルターもしくはバンドパス光学フィルターは、励起光の所定の波長を集光器位相リング110に選択的に通すために適切な波長特異性を提供し得る。
【0023】
適切に限定された(すなわち、波長特異的な)励起光の集光器位相リング110への入射は、部分的に伝達されて、サンプル199を照射し得る。特に、集光器位相リング110により伝達された励起光の位相は、当該分野で一般的に公知の適切な物質もしくはコーティングにより制御され得る。
【0024】
波長特異的位相顕微鏡検査システム101のいくつかの実施形態に従って、対物位相151が、波長特異的な不透明度を有する物質から作製され得る。さらに、もしくはあるいは、対物位相リング151は、適切な物質および配向の干渉コーティングを含むか、もしくは組み込んで任意の所望される波長特異的な不透明度を達成するために作製され得る。位相リングを構築し、そしてそこにコーティングを適用する種々の方法が、光学および光学的構成要素設計の分野において一般的に公知である。本開示は、対物位相リング151もしくは集光器位相リング110の製造および調製に関して、いかなる特定の物質、コーティング技術、もしくは設計パラメーターに限定されることも意図されない。
【0025】
対物位相リング151は、対物レンズ140の後ろの開口部に位置するか、もしくは配置され得る。一つの例示の実施形態において、対物位相リング151は、近赤外波長(例えば、約650nm〜約900nmの範囲の波長)を除く全ての可視波長について実質的に透過であり得る。逆に言えば、近赤外である波長(例えば、650nm〜900nm)で、対物位相リング151は、実質的に不透明であり得る。その点に関して、図3Bは、波長特異的位相顕微鏡検査システムにおける対物位相リングの不透明性を説明する単純化された図である。図3Bにおいて示すように、(図3Bの左側の実線により示された)対物レンズ140から出るサンプル199からの可視光は、(図3Bの右側の実線により示されるように)実質的には減衰なしで、対物位相リング151を通って自由に伝達され得、一方、(点線により示されるように)近赤外光は、対物位相リング151により減衰される。
【0026】
特にシステム101に関して、集光器位相リング110は、上記に記載のように、実質的に全てもしくはほとんどの可視波長に関して不透明であり得る。いくつかの例示の実施において、光源191からの励起光は、実質的に近赤外波長で提供され得;さらに、もしくはあるいは、広範囲スペクトルの光源190と一つ以上のフィルターとの組み合わせが、励起光を(例えば、近赤外波長のような)適切なもしくは所望される波長に限定するために用いられ得る。サンプル199により位相がシフトされない光は、対物位相リング151により減衰され得、一方、位相がシフトされた光は、対物位相リング151により減衰され得る。上記に従って、対物位相リング151を出た任意のこのような減弱された光は、一般的に、上記に述べたように、近赤外光源191によって(もしくは広範囲スペクトルの光源190と一つ以上の波長特異的フィルターメカニズムとのいくつかの組み合わせによって)生成されるより長い波長に限定される。
【0027】
もし、図2および3Bの実施形態、またはいくつかの他の特定もしくは所定の波長もしくは範囲において、様式が、対物位相リング151の不透明な範囲に近い(すなわち、近赤外の(約650nm〜900nm))光により作動しなければ、対物レンズ140を通る他の様式(例えば、蛍光)からの光は、対物位相リング151の操作により作用されないままであり得ることが理解される。
【0028】
図4は、対物位相リングの一つの実施形態の不透明度を、波長の関数として説明する単純化されたプロットである。プロットの上部分の平行な黒い実線により示されるように、従来の対物位相リング150は、対物レンズにより伝達される光の波長に関わりなく一定の不透明性を示す。一方、波長特異的対物位相リング151は、特定の波長もしくは波長の範囲の不透明度において顕著な差異を示す。図2〜4の例示の実施形態において、対物位相リング151は、励起光が光源191もしくは光源とフィルターとの組み合わせにより生成されるのと同じ波長(すなわち、約650nm以上の近赤外範囲)で波長特異的減衰特性を示すために作動する。上記に述べたように、波長特異性は、対物位相リング151のために選択される物質、種々のコーティング技術、もしくはいくつかのそれらの組み合わせにより達成され得る。
【0029】
図4において点線により説明されているような波長特異的不透明度プロファイルは、近赤外線の範囲外の波長において達成され得る。特に、いくつかの実施において、対物位相リング151は、近赤外範囲の外の波長で色特異的不透明度を示すために構築され得、かつ作動し得る。上記に述べたシステム101の機能の一つの局面に従って、対物位相リング151は、励起光が、光源191のような波長特異的光源から直接提供されるか、もしくは広範囲スペクトルの照明光源190と光学フィルターとの組み合わせから提供されるかに関わらず、集光器位相リング110への光入射と同じ波長で、波長特異的な不透明度を示し得る。
【0030】
例示の実施形態において企図されるように、近赤外範囲が選択され、そして記載されてきた。なぜなら、このような波長は、生物学的な画像化(特に、例えば、自己蛍光タンパク質(auto−fluorescent protein)の画像化)において特に興味深い、蛍光シグナルの最小の干渉を提供するからである。従って、対物位相リング151を用いるシステム101は、位相顕微鏡検査以外の適用においてさらなる有用性および上昇した柔軟性を有し得る;例えば、蛍光顕微鏡検査実験は、対物位相リング151の除去を必要とすることなく、システム101により実施され得る。しかし、本開示が近赤外波長特異性に限定されることを意図されないことが理解される。特に、上記の機能的な考察は、他の文脈において、かつ他の適用に関して、近赤外の範囲外の波長特異性を提供するために適用され得る。
【0031】
図5は、波長特異的位相顕微鏡検査方法の一つの実施形態の一般的な操作を説明する、単純化されたフロー図である。ブロック501に示されるように、照明もしくは励起光は、照明光源から提供され得;その照明は、ブロック502に示されるように、所定の波長もしくは波長範囲に選択的に限定もしくは制限され得る。
【0032】
上記に述べたように、このような波長選択、もしくは励起照明を所定の波長の範囲に選択的に限定することは、ブロック501に記載の操作を提供することと組み合わされ得るか、もしくはこれに組み込まれ得る。このような実施形態において、照明光源は、光源自体が、限定された波長の範囲もしくは特定の所定の波長の励起光を提供するように選択され得る;これらの実施形態のために適切な光源の例としては、例えば、所定のもしくは所望される波長の電磁エネルギーを出力するために構成され、かつ作動する、LEDまたはレーザーが挙げられる。さらに、もしくはあるいは、ブロック502に記載の限定する操作は、光源により提供される励起光に、所定の波長の電磁エネルギーを伝達させるために選択的に作動する一つ以上の光学フィルターを通過させ、一方で、他の波長のエネルギーを減衰することを含み得る。
【0033】
適切に提供され、かつ波長を限定された励起照明は、ブロック503に示されるように、集光器位相リングに送達され得る。いくつかの実施形態において、波長特異的位相顕微鏡検査における使用のための集光器位相リングは、可視スペクトルにわたって、もしくはその実質的な部分にわたって、実質的に不透明であって、一般的に、約300nm〜700nmの範囲の波長を有する可視光の伝達を限定し得る。当業者は、一般的な顕微鏡検査システムの他のシステム構成要素の機能および所望される操作上の特性に依存して、他の(例えば、より限定されたもしくは単に異なる)範囲の不透明度が、集光器位相リングのために適切であり得ることを理解する。
【0034】
適切に限定された波長(ブロック501および502)および適切に選択された位相(ブロック503)を有する励起光は、ブロック504に示すように、サンプルもしくは標本材料を照射するために用いられ得る;このようなサンプルが、当該分野で一般的に公知のように、顕微鏡スライドもしくはバイオチップ上で支持され得ることが理解される。サンプルからの放射は、ブロック505に示すように、対物レンズで受け取られ得る。
【0035】
ブロック506に示すように、(すなわち、対物レンズにより送達された)放射光は、対物位相リングにより選択的に減衰され得る。上記に述べたように、このような対物位相リングは、対物レンズの後ろの開口部に位置し得、そして集光器位相リングとともに選択的に働いて、位相シフトされていない光を選択的に減衰し、そして位相シフトされている光を選択的に強調し得る。重要なことに、このような強調された光は、一般的に、ブロック501および502で提供され、かつ限定されたような集光器位相リングへの所定の波長もしくは選択された範囲の波長の入射のみである。
【0036】
本発明のいくつかの特徴および局面が、限定としてではなく単に例としての特定の実施形態に関して、詳細に説明され、かつ記載されている。開示された実施形態についての代替的な実施および種々の改変が本開示の範囲内および企図内であることが、当業者に理解される。従って、本発明は、添付の特許請求の範囲の範囲によってのみ限定されるものとして考えられることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、従来の位相顕微鏡検査システムの構成要素を説明する、単純化されたブロック線図である。
【図2】図2は、波長特異的位相顕微鏡検査システムの一つの実施形態の構成要素を説明する、単純化されたブロック線図である。
【図3A】図3Aおよび図3Bは、それぞれ、従来の位相顕微鏡検査システムおよび波長特異的位相顕微鏡検査システムの一つの実施形態における、対物位相リングの不透明度を説明する単純化された図である。
【図3B】図3Aおよび図3Bは、それぞれ、従来の位相顕微鏡検査システムおよび波長特異的位相顕微鏡検査システムの一つの実施形態における、対物位相リングの不透明度を説明する単純化された図である。
【図4】図4は、対物位相リングの一つの実施形態の不透明度を波長の関数として説明する、単純化されたプロットである。
【図5】図5は、波長特異的位相顕微鏡検査方法の一つの実施形態の一般的な操作を説明する、単純化されたフロー図である。
【符号の説明】
【0038】
100 従来の位相顕微鏡検査システム
101 波長特異的位相顕微鏡検査システム
110 集光器位相リング
120 集光器
130 支持体
140 対物レンズ
150 対物位相リング
151 近赤外不透明位相リング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
図2に示される波長特異的位相顕微鏡検査システム。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−9139(P2009−9139A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−180769(P2008−180769)
【出願日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【分割の表示】特願2004−565773(P2004−565773)の分割
【原出願日】平成15年12月23日(2003.12.23)
【出願人】(502174335)アプライド プリシジョン, エルエルシー (4)
【Fターム(参考)】