説明

泥水シールドにおける切羽崩落防止方法

【課題】泥水分離や停電による切羽崩壊の危険性が低く、長期間の推進停止中の切羽を安定に保つことができる泥水シールドにおける切羽崩壊防止方法を提供する。
【解決手段】シールドマシン1内に設けた隔壁前方のチャンバー5内に泥水を供給し、切羽10の崩壊を防止しつつ切羽10を掘削して、シールドマシン1を推進させる泥水シールドにおいて、シールドマシン1の推進を長期間停止する際にはチャンバー5内の泥水を、泥水にゲル化剤を配合することにより生成したゲル化泥水と置換し、切羽10の崩壊を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、泥水シールド工法に関し、特に、泥水シールド工法による掘削の長期間停止時における切羽の保持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
泥水シールドは、シールド内の隔壁の前方のチャンバーに泥水を供給しながら前記シールドを推進し、切羽を掘削する工法である。すなわち、掘削面である切羽に泥水を送り加圧することでその安定化を図るもので、シールドに設けた隔壁の前方のチャンバーに加圧された泥水を供給し、切羽に作用する水圧及び土圧に対抗しつつ、切羽を掘削するものである。また、掘削した土砂を泥水とともに排泥管を通して回収し、土砂と泥水を分離し泥水を再利用することもできる。
【0003】
従来、このようなシールドの推進を長期間停止するとき、前記チャンバー内の泥水に増粘剤を供給して攪拌し、前記チャンバー内の泥水の粘度を高くし、これによって前記切羽の安定を保つようにしていた(特許文献1、2)。
【0004】
この泥水シールドでは、長期間停止中の切羽の崩壊防止のため、掘削において使用する流体設備の他に別途設けた切羽保持のための専用のスラリーポンプを設置する場合もある。ところで、万一、切羽が崩壊すると、地表面が陥没しない小規模な崩壊であっても、切羽前面の土砂がチャンバー内に堆積すると、再掘進時にアジテータが回転しなくなり、掘削開始が不可能になる場合がある。
【0005】
したがって、上記のスラリーポンプによって、これに併設した調整槽内の泥水の比重、粘性を通常の掘削時よりも高くして、この泥水をチャンバー内に送り、この泥水による加圧によって、掘削停止中における切羽の崩壊を防止していた。
【特許文献1】特開平10−8879号公報
【特許文献2】特開2001−20661号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の方法では、切羽等に吸収される泥水があるため、その逸水量を頻繁に補給する必要があった。
また、チャンバ内に供給する泥水が、泥粒子の沈降に伴って水と泥が分離し、上澄みの泥分が少ない泥水が供給されると、切羽に対して充分な圧力を加えられなくなるおそれがあった。このように、切羽に作用する圧力に変動が生じ、この圧力変動が大きくなれば切羽崩壊の危険度が増大し、かつ、供給しなければならない泥水量も増加する。
そこで、泥水が分離し比重等が偏ることを防止するため、例えば一日のうち、朝夕には泥水をバイパスを経由して循環させる運転を実施し、泥水の分離を防ぐようにしていた。
【0007】
さらに、上記のような切羽保持のための専用のスラリーポンプを設置する場合は、停電等のトラブルによって泥水が供給されなくなると切羽保持が困難になり、崩壊につながる危険性が高い。
【0008】
本発明は、上記のような事情に鑑みてされたものであり、泥水分離や停電による切羽崩壊の危険性が低く、長期間の推進停止中の切羽を安定に保持できる泥水シールドにおける切羽崩壊防止方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を達成するために以下のような構成とした。すなわち、シールド内に設けた隔壁前方のチャンバー内に泥水を供給し、切羽の崩壊を防止しつつ切羽を掘削して前記シールドを推進させる泥水シールドにおいて、
前記シールドの推進を長期間停止する際には前記チャンバー内の泥水を、泥水にゲル化剤を配合することにより生成したゲル化泥水と置換し、前記切羽の崩壊を防止することを特徴とする。
【0010】
本発明では、増粘剤を加えて泥水の粘度を高くするのではなく、チャンバー内の泥水を排出し、替わりにゲル化した泥水を注入することで、切羽を、従来のような液体でなく流動性がない半固体に近いもので保持することができる。そのため、切刃の崩壊の危険性は著しく低下する。前記ゲル化剤としては、珪酸(SiO2)を使用することができる。珪酸は珪酸ソーダ(珪酸ナトリウム)の形態で使用することができる。
【0011】
ゲル化泥水を用いることで、切羽保持中の泥水の供給量は、泥水を供給する場合に比べてきわめて少なくなる。また、増粘剤を添加する場合と比べ、泥分の沈殿によって泥水が分離することがなく、切羽に対する加圧力が変化しにくい。
したがって、停電等によって泥水の供給ができない事態が生じても、ゲル化泥水による保持圧力の変化が少ないので、切羽を安定して保持することが可能である。
【0012】
前記ゲル化泥水は、地山とセグメントの間等に裏込材を注入するために設けた裏込材注入ラインを経由してチャンバーの底部から注入し、チャンバー内にある泥水はチャンバー上部から排出することができる。また、チャンバ内の泥水は、例えばエア抜き孔等から排出する。このようにすれば、既存の泥水シールドの設備を利用して容易に実施することができる。
【0013】
前記ゲル化泥水は、水、ベントナイト、粘土を含むA液と、珪酸を含むB液を注入直前で混合して生成して、チャンバー内に送り込むことが好ましい。例えば、地上等に設置した裏込材のプラントを利用し、チャンバーに泥水を送り込む場合は、搬送時には泥水の粘度を低くして流れ易くし、チャンバーに注入する直前に、水、ベントナイト、粘土を含むA液と、ゲル化剤を含むB液とを混合するようにすれば搬送効率を向上させることができる。
【0014】
本発明によれば、シールドの推進を長期間停止するとき、チャンバー内の泥水をゲル化泥水と置換するだけで切羽を安定に保つことができ、切羽の崩落を防止できる。ゲル化泥水との置換後は、従来のように加圧泥水を頻繁に供給する煩雑さもない。
【0015】
なお、掘削再開時は通常の泥水をチャンバー内において循環させて、ゲル化泥水をチャンバーから排出することで、直ぐに通常運転を実施できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、シールドの推進を長期間停止時には、チャンバー内の泥水を、半流動体であるゲル化泥水と容易に置換することで、切羽の安定を保つことができる。この場合、シールドの停止における切羽の保持中に、多量の泥水を供給する必要がなくなるので、コスト削減が可能である。
また、裏込材の供給ライン等の既存設備を使用してゲル化泥水を供給することで、新たな設備を必要としない利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は、泥水シールド工法の概要を示している。
シールドマシン1のフード部2とガーダー部3の間は隔壁4で仕切られている。この隔壁4と切羽10の間の空間はチャンバー5であり、このチャンバー5には、加圧した泥水が満たされる。すなわち、前記切羽10は隔壁4によって完全に密閉され、チャンバー5に満たされる泥水は、地上の発進基地に設置した調整槽14に貯留されて送泥水管12を介して送られ、ポンプ7で加圧されチャンバー5内に供給される。この泥水による加圧により切羽10の安定が図られている。
【0018】
また、チャンバー5内の圧力を検出する圧力センサ18が設けられ、チャンバー5の圧力が適正に制御される。さらに、送泥水管12上には、供給される泥水の圧力を一定に保持する圧力保持バルブ16が設けられる。
さらに、掘削したトンネル内に組み立てられたセグメント28と地山の間の間隙には、公知の裏込材を注入して、地山の変形防止・トンネルの安定化を図る。本発明の泥水シールド装置では、このような裏込材を貯留するための裏込プラント及び裏込材を前記裏込プラントから切羽手前まで送る裏込材の注入ライン(裏込材の注入ライン22、供給パイプ23)が設けられている。
【0019】
切羽10は、回転式のカッターヘッド6で掘削され、掘削した土砂はチャンバー5内の泥水中に取り込まれ、泥水とともにポンプ8、9により排出される。このように、泥水シールド工法では、切羽10が完全に密閉され、排泥水管13を通して地上まで排泥できるため、安全性の高い施工が実現できる。
なお、排出された泥水は、発進基地の泥水処理プラント15において泥水と土砂に分離され、泥水は再び利用される。
【0020】
通常、上記のような泥水シールドでは、上述した掘削推進、切羽の安定、泥水供給、泥水処理の4つをシステム化して、これらはすべて中央制御室で集中コントロールされる。
ところで、前記泥水シールドの推進を、例えば1日以上、長期にわたって停止するときは、次のような手順に従う。
最初に、ジャッキ17によるシールドの推進を止め、かつカッターヘッド6による掘削を止める。次に、チャンバー5内等の土砂が排出されたら、送泥水管12及び排泥水管13による泥水の循環を停止する。
その後、前記チャンバー5内の泥水と、泥水に珪酸ソーダを配合することにより生成したゲル化泥水とを置換する。
【0021】
上記のゲル化泥水による置換は、具体的には以下のようにして実施される。
先ず、ベントナイト、粘土を含む泥水(A液)を調整し、裏込プラント20(図2)に
貯留する。
【0022】
次に、ゲル化剤である珪酸を含むB液をゲル化剤供給槽21に溜めておく。
泥水をゲル化させるとパイプを経由して圧送することが困難になるので、先ずA液を裏
込材を送る裏込注入ライン22を使用してチャンバー5の手前まで送る。
一方、B液は、裏込材の注入ライン22に合流する供給パイプ23を介して送られ、チ
ャンバー5の手前でA液に混合される。前記供給パイプ23は、裏込材のB液を供給するためのラインであり、既存のものである。
A液とB液は次第に反応してゲル化泥水となりゲル化泥水供給管30を経由し、図3に示すように、チャンバー5の底部の注入バルブ24からチャンバー5内に供給される。
【0023】
チャンバー5内にあった泥水は、ゲル化泥水が供給されるに伴い、チャンバー5の上部に設けたエアー抜き孔25から排出することができる。この排出は、例えば、バキュームによる吸引によって行うことができ、排出ライン27によりシールドマシン1の外部に排出される。
前記エアー抜き孔25からゲル化泥水が排出されるのを確認したら、ゲル化泥水の供給を停止する。その結果、前記チャンバー5内は、ゲル化泥水で満たされる。
【0024】
シールドの推進を再開するとき、送泥水管12によって通常の粘度の泥水をチャンバー5に供給する一方で、チャンバー内の高粘度の泥水を排泥水管13でシールドの外部へ取り出す。すなわち、切羽を安定に保った後、シールドマシン1の推進を再開するには、送泥水管12から通常の粘度の泥水を供給する一方で、チャンバー5内のゲル化泥水を排泥水管13によってシールドマシン1の外部へ排出し、チャンバー5内に通常の粘度の泥水を満たす。
【0025】
(実施例)
泥水1m3あたり、水:ベントナイト:粘度=833kg:58kg:358kgとしてA液を調整した。
これを裏込注入剤と同様に、A液として裏込材プラントのタンクに貯留した。
一方、珪酸ソーダを含むB液を同じく裏込材プラントの別タンクに貯留した。
【0026】
上記A液とB液を別々に、裏込注入ラインを介してチャンバー手前まで圧送し、チャンバー手前で混合してチャンバー内に供給した。A液とB液の混合により生成されたゲル化泥水は、いわゆるシチュー状で流動性が低い。また、時間を経過しても泥分が沈殿するように分離することはほとんどない。
【0027】
シールド停止中におけるチャンバー内のゲル化泥水の逸水量は、一日あたり0.009m3であり、これを切羽保持のための補充量としてチャンバー内に供給した。
前記逸水量は、ゲル化泥水に置換する前の従来の泥水を使用する場合の逸水量(一日あたり0.684m3に比べて1/76であった。したがって、ゲル化泥水による切羽の保
持状態はきわめて安定していることがわかった。
【0028】
本発明では、ゲル化剤を、通常の流体輸送の経路を利用して切羽まで送る。そして、泥水がゲル化するのは、ゲル化剤を混合した切羽の直前である。したがって、調整槽14で粘性の高い泥水を調整し、これを切羽まで送る必要がなく効率がよい。
また、チャンバー内にゲル化剤を直接投入することなく、泥水とゲル化剤は切羽の直前で混合され、これをチャンバー内の通常の泥水と置換するので、均一にチャンバー内にゲル化泥水を充填することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る切羽崩落防止方法を実施するためのシールド装置の概要を示す図である。
【図2】裏込注入のラインを利用して泥水(A液)とゲル化剤(B液)をチャンバーに供給するラインを示す図である。
【図3】シールド装置のチャンバー付近の詳細を示す側面図であって、ゲル化泥水の供給と排出の経路を示す図である。
【符号の説明】
【0030】
1 シールドマシン
2 フード部
3 ガーダー部
4 隔壁
5 チャンバー
6 カッターヘッド
7、8、9 ポンプ
10 切羽
12 送泥水管
13 排泥水管
14 調整槽
15 泥水処理プラント
16 圧力保持バルブ
17 ジャッキ
18 圧力センサ
20 裏込プラント
21 ゲル化剤供給槽
22 裏込材の注入ライン
23 供給パイプ
24 注入バルブ
25 エアー抜き孔
27 排出ライン
28 セグメント
30 ゲル化泥水供給管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールド内に設けた隔壁前方のチャンバー内に泥水を供給し、切羽の崩壊を防止しつつ切羽を掘削して前記シールドを推進させる泥水シールドにおいて、
前記シールドの推進を長期間停止する際には前記チャンバー内の泥水を、泥水にゲル化剤を配合することで生成したゲル化泥水と置換し、前記切羽の崩壊を防止することを特徴とする泥水シールドにおける切羽崩落防止方法。
【請求項2】
前記ゲル化泥水は、水、ベントナイト、粘土を含むA液と、ゲル化剤を含むB液を注入直前で混合して生成し、チャンバー内に送り込むことを特徴とする請求項1に記載の泥水シールドにおける切羽崩落防止方法。
【請求項3】
前記ゲル化泥水は、裏込材を注入するために設けた裏込材注入ラインを経由してチャンバーの底部から注入し、チャンバー内にある泥水はチャンバー上部から排出することにより、泥水とゲル化泥水の置換をすることを特徴とする請求項1又は2に記載の泥水シールドにおける切羽崩落防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−243130(P2009−243130A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90370(P2008−90370)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000201478)前田建設工業株式会社 (358)
【Fターム(参考)】