説明

泥水処理方法、泥水処理装置及び泥水処理用海藻ペースト

【課題】浚渫、土木工事等によって生じた泥水を環境中に化学物質を拡散させることなく低コストで処理する。
【解決手段】泥水に海藻ペースト液を注入する海藻ペースト液注入工程と、該海藻ペースト液注入工程を経た泥水を攪拌する海藻ペースト液混合工程と、該海藻ペースト液混合工程を経た泥水にカルシウム化合物水溶液を注入するカルシウム化合物水溶液注入工程と、該カルシウム化合物水溶液注入工程を経た泥水を攪拌するカルシウム化合物水溶液混合工程と、該カルシウム化合物水溶液混合工程を経た泥水を静置する泥水静置工程と、該泥水静置工程で分離した上澄み水と沈殿物を分離する分離工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境に悪影響を及ぼすおそれが無く且つ処理コストが低廉な泥水処理方法、この方法に使用する泥水処理装置及び泥水処理用海藻ペーストに関するものである。
【背景技術】
【0002】
港湾、運河、湖、湾等においては、航路や防波堤などの建設、埋め立て用の土砂の採取、水深の維持、環境対策としての汚泥除去のために、浚渫が行われている。浚渫は水底から土砂を浚う工事であり、通常は埋め立てと一体となって行われている。すなわち、浚渫によって水底から吸い上げられた泥又は泥水は近くに確保した処分場又は埋め立て地に流体輸送され、そこで土砂や汚濁物質が沈殿・除去させられ、余水は放流させられている。
【0003】
ここで、処分場又は埋め立て地から余水をそのまま放流させると未沈殿の微細な泥や汚濁物質が近くの海域等を再汚染するので、現在は、余水中にポリ塩化アルミニウム等の凝集剤を添加し、浄化した余水を放流している。しかし、ポリ塩化アルミニウム等の凝集剤は生分解性がないので、これを大量に使用することによる環境への影響が懸念される。また、ポリ塩化アルミニウム等の凝集剤によってアルカリ性に変化した余水を環境中に大量に放出させなければならないという問題もある。
【特許文献1】特開平8−1197号公報
【特許文献2】特開平6−182349号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
解決しようとする問題点は、浚渫、埋め立て、土木工事等によって生じた泥水を環境に悪影響を与えることなく低コストで処理できない点である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、浚渫、埋め立て、土木工事等によって生じた泥水を環境に悪影響を与えることなく低コストで処理するため、泥水に海藻ペーストを添加・混合し、ついでカルシウム化合物の水溶液を添加・混合することを最も主要な特徴とする。
【0006】
すなわち、本発明に係る泥水処理方法は、泥水に海藻ペースト液を注入する海藻ペースト液注入工程と、該海藻ペースト液注入工程を経た泥水を攪拌する海藻ペースト液混合工程と、該海藻ペースト液混合工程を経た泥水にカルシウム化合物水溶液を注入するカルシウム化合物水溶液注入工程と、該カルシウム化合物水溶液注入工程を経た泥水を攪拌するカルシウム化合物水溶液混合工程と、該カルシウム化合物水溶液混合工程を経た泥水を静置する泥水静置工程と、該泥水静置工程で分離した上澄み水と沈殿物を分離する分離工程とを備えたことを特徴とするものである。
【0007】
ここで、前記海藻ペースト液は海藻にナトリウム化合物又はカリウム化合物を含水下に添加・混合して得ることができる。前記海藻としては昆布、わかめ等の褐藻類の海藻を使用することができ、該褐藻類の海藻はコストの面から考えて水産加工工場から出る根、茎等の廃棄部分を使用するのが望ましい。水産加工工場から出る根、茎等の廃棄部分は一般廃棄物として処理されているので、廃棄物処理費がかかっているが、本発明の泥水処理方法に使用すればこれらの廃棄物処理費が不要になり、また、水産加工工場は海に近い地域に有るので、凝集剤の原料に用いても輸送コストがそれほどかからないからである。
【0008】
前記ナトリウム化合物としては、例えば炭酸ナトリウムを使用することができるが、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウムを使用してもよい。また、カリウム化合物としては例えば炭酸カリウム、水酸化カリウムを使用してもよい。前記カルシウム化合物としては、例えば塩化カルシウムを使用することができるが、乳酸カルシウム、硫酸カルシウム、クエン酸カルシウムを使用してもよい。
【0009】
前記泥水静置工程によって得られた沈殿物はそのまま除去してもよいし、前記海藻ペースト液注入工程前の泥水に戻す沈殿物戻し工程を設けてもよい。前記海藻ペースト液注入工程前の泥水に沈殿物を戻すようにした場合は、戻した沈殿物が泥水中の粒子を更に吸着するので、海藻ペースト液の使用量を少なくすることができる。
【0010】
また、前記静置工程の後に、該静置工程を経た泥水を再攪拌して静置する再攪拌静置工程を1又は2以上設けてもよい。再攪拌を繰り返すようにした場合は、余水中の汚濁成分の凝集・沈殿が促進され、余水がより清澄になる。
【0011】
また、本発明に係る泥水処理装置は、処理すべき泥水を導く排泥管と、処理すべき泥水を該排泥管に送給する泥水ポンプと、該排泥管内に海藻ペースト液を注入する海藻ペースト液注入装置と、該排泥管内にカルシウム化合物水溶液を注入するカルシウム化合物水溶液注入装置と、該排泥管を出た泥水を静置させる泥水静置装置とを備え、前記海藻ペースト液注入装置は前記カルシウム化合物水溶液注入装置より上流に設けられ、該排泥管内には泥水を攪乱させる攪乱手段が設けられていることを特徴とするものである。
【0012】
ここで、本発明に係る泥水処理装置は、前記各装置以外に、前記泥水静置装置内の沈殿物を排泥管の海藻ペースト液注入装置の注入位置より上流に戻す沈殿物戻し装置を設けてもよい。前記泥水静置装置内の沈殿物を排泥管の海藻ペースト液注入装置の注入位置より上流に戻す沈殿物戻し装置を設けた場合は、戻した沈殿物が泥水中の粒子を更に吸着するので、海藻ペースト液が凝集・沈殿に効率的に使用され、海藻ペースト液の使用量を少なくすることができる。
【0013】
また、本発明に係る泥水処理装置は、前記各装置以外に、前記泥水静置装置で静置された泥水を再度攪拌する再攪拌装置を更に設けてもよい。再攪拌装置を更に設けた場合は、余水中の汚濁成分の凝集・沈殿が促進され、余水がより清澄になる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、浚渫、埋め立て、土木工事等によって生じた泥水中の濁りを凝集・沈殿させる材料として海藻ペースト液を使うので、海を化学物質で汚染させなくて済み、海に住む生物を化学物質で汚染させなくて済み、人間への凝集剤の影響を心配しなくて済むという利点が有る。
【0015】
また、本発明は、海藻ペーストという、無料または処理費付の原料を使用するので、工業用のアルギン酸を凝集剤として使用した場合と比較して、浚渫、埋め立てによって生じた泥水を極めて安価に処理することができるという利点がある。
【0016】
また、本発明は、海藻ペーストの原料として、廃棄海藻を使用した場合は、廃棄海藻の処理が不要になるので、その処理コストが不要になるという利点がある。
【0017】
また、本発明は、海藻をすり潰して出来ている小さな粒子も濁りを凝集させているので、工業用の純粋なアルギン酸を使用した場合より泥水を凝集・団粒化させる能力が高いという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
浚渫、埋め立て、土木工事等によって生じた泥水を処理するという目的を、低コストで、環境中に化学物質を拡散させることなく実現した。
【実施例1】
【0019】
図1は本発明に係る泥水処理装置を含む泥水処理システムの説明図、図2は本発明に係る泥水処理装置の一実施例の説明図であり、これらの図において、10は浚渫船であり、浚渫船10には泥水吸い上げ装置12が設置されている。泥水吸い上げ装置12は、吸い上げポンプ14と、吸い上げパイプ16と、掻き混ぜ装置18とからなる。吸い上げパイプ16の上部には吸い上げポンプ14の吸い込み口が接続され、吸い上げパイプ16の下端部付近には掻き混ぜ装置18が取り付けられている。
【0020】
吸い上げポンプ14の吐出口には泥水送給パイプ20が接続され、泥水送給パイプ20は埋め立て地22まで敷設されている。埋め立て地22は海24との間に設けられた外仕切26と、埋め立て地22内を区画する内仕切28とからなる。内仕切28の一部には堰30が設けられている。
【0021】
32は泥水処理装置であり、泥水処理装置32は、図2に示すように、埋め立て地22に設置された泥水ポンプ34と、泥水ポンプ34の吐出口に接続された排泥管36と、排泥管36の途中に設けられた海藻ペースト液注入装置38及び塩化カルシウム水溶液注入装置40と、排泥管36の末端に設けられたフロック沈殿貯留槽42と、フロック沈殿貯留槽42から排泥管36の、海藻ペースト液注入装置38より上流部に至るフロックリターン管44とを備えている。
【0022】
排泥管36の内部には複数の攪拌翼46が設けられて、これらの攪拌翼46が泥水を攪拌するラインミキサーとなっている。海藻ペースト液注入装置38は海藻ペースト液を貯留している貯留タンク48と、海藻ペースト液を注入する注入装置50とからなる。塩化カルシウム水溶液注入装置40は、塩化カルシウム水溶液を貯留している貯留タンク52と、塩化カルシウム水溶液を注入する注入装置54とからなる。
【0023】
次に、上記泥水処理装置の作動について、図3を参照しながら説明する。
【0024】
まず、浚渫船10の泥水吸上げ装置12を作動させると、掻き混ぜ装置18が海底の泥を掻き混ぜ、掻き混ぜられて生成した泥水が吸い上げポンプ14により吸い上げられ、吸い上げられた泥水は泥水送給パイプ20により埋め立て地22に送給される。埋め立て地22では送給されてきた泥水が上流の区画に入れられ、含まれていた土砂等が沈殿させられる。
【0025】
土砂等が沈殿させられてきれいになった上澄み水は内仕切28の堰30を越えて下流の区画に順次入り、下流の各区画が沈殿池となり、ここで土砂を更に沈殿除去され、きれいになった水が海に放流される。
【0026】
各区画は陸に上流から順次埋め立てられて下流の区画が少なくなるが、下流の区画が少なくなった場合、泥水は下流の区画だけで処理できなくなる。そこで、この下流の区画に泥水ポンプ34を設置し、泥水ポンプ34により下流の区画の泥水を泥水処理装置32に送る。
【0027】
泥水処理装置32に送られてきた泥水は海藻ペースト液注入装置38から海藻ペースト溶液を注入される。海藻ペースト液を注入された泥水は排泥管36内の攪拌翼46によって流れを乱されながら流れ、海藻ペースト液と混合する。
【0028】
次に、海藻ペースト溶液を注入・混合された泥水は塩化カルシウム水溶液注入装置40から塩化カルシウム水溶液を注入される。塩化カルシウム水溶液を注入された泥水は排泥管36内の攪拌翼46によって流れを乱されながら流れ、塩化カルシウム水溶液と混合する。
【0029】
泥水に塩化カルシウム水溶液が混合すると、泥水中にすでに注入・混合されていた海藻ペースト中のアルギン酸とカルシウムイオンが反応してゲル状の物質を形成し、このゲル状の物質が泥水中の懸濁物質を取り込んでフロックを形成する。また、海藻ペースト中の固形分(潰されて小さな粒子になっている植物組織の部分)が泥水中の懸濁物質を吸着してフロックを形成する。
【0030】
塩化カルシウム水溶液を注入・混合された泥水は、上述のようにしてフロックを形成し、その後、フロック沈殿貯留槽42に入り、静置される。フロックは懸濁物質の砂粒を取り込んでいて水より比重が大きくなっているので、フロック沈殿貯留槽42内で下方に沈殿する。
【0031】
排泥管36内を泥水が流れることによってフロックリターン管44には負圧がかかっており、フロック沈殿貯留槽42内のフロックはフロックリターン管44によって一部が吸い出され、排泥管36の上流に運ばれ、排泥管36の上流から排泥管36内に混入される。
【0032】
排泥管36内に混入されたフロックは排泥管36内を流れる泥水中の懸濁物質に触れて懸濁物質を更に吸着し、フロック沈殿貯留槽42に戻る。
【0033】
フロック沈殿貯留槽42ではフロックが沈殿し、清澄な上澄み水は槽の壁を越えて海に放流される。フロック沈殿貯留槽42内に沈殿した沈殿物は埋め立て地の埋め立て区画に運んで堆積される。
【実施例2】
【0034】
前記実施例1では埋め立て地の堰を溢流した泥水の処理について説明したが、運河の底の泥を浚渫する場合のように、近くに埋め立て地や一時貯蔵場所が確保できない場合は、浚渫船で吸い上げた泥水を泥水処理装置で直接処理してもよい。この場合は海藻ペースト液を有る程度多目に使用せざるを得ない。ただし、海藻ペースト液で凝集・沈殿させて生成したフロックを処理すべき泥水に戻して混合すれば、海藻ペースト液の使用量をかなり減らすことができる。
【0035】
次に、泥水へ海藻ペースト液を添加する場合の具体的な条件を求めるための実験例について説明する。
【0036】
実験例1 この実験例ではコンブペーストによる土砂の凝集沈殿において、泥水中の土砂が沈殿した後、泥水を再度攪拌することによって、上清の透明度が増すことを確認するための実験を行った。
【0037】
まず、2%(w/v)の土砂を含む1リットルの泥水、10%(w/v)の塩化カルシウム水溶液、0.48%(w/v)コンブペースト懸濁液を準備した。コンブペースト懸濁液は、乾燥コンブ50gを450ミリリットルの水に30分間浸してペースト状にし、ここから200gをとって、300ミリリットルの1%炭酸ナトリウム水溶液に加え、この溶液を加熱し、5分間沸騰させ、さらに水で10倍に希釈して得た。このコンブペースト懸濁液の乾燥重量比は0.48%(w/v)であった。
【0038】
次に、1リットルの泥水に0.48%(w/v)コンブペースト懸濁液100ミリリットルと10%(w/v)の塩化カルシウム水溶液50ミリリットルを順次添加し、30秒間攪拌し、攪拌を止めて放置した(以下「1段目の攪拌」とする)。そして、塩化カルシウム水溶液添加から1分、2分、3分後の上清の濁度、および生じるフロックの高さを測定した。結果は図4に示す通りであった。
【0039】
次に、フロックが生じた泥水を30秒間再度攪拌し(以下「2段目の攪拌」とする)同様に1分、2分、3分後の上清の濁度、および生じるフロックの高さを測定した。結果は図4に示す通りであった。
【0040】
ここで、濁度は、分光光度計を用いて600nmの吸光度を測定し、これを濁度とした。また、比較のために、1リットル泥水に150ミリリットルの水を添加し、同様に上清の濁度と土砂の高さを測定した(これを「源泥」とする)。
【0041】
図4に示されているように、1段目の攪拌後、上清の濁度は徐々に低下し、3分後の吸光度は0.332であった。これに対し、源泥では土砂の界面が水面からほとんど下がらず、わずかに生じる上清の濁度は検出の上限を超えていたため測定不能であった。2段目の攪拌後、上清はさらに透明度を増し、3分後の濁度は0.078であった。フロックの高さも2分後以降は1段目と同じ高さに到達した。
【0042】
以上の結果から、攪拌によって泥水の凝集沈殿が促進されることがわかった。高分子凝集剤によって泥水より生じるフロックは、攪拌によってフロックが崩れ、沈殿物が再浮遊する場合があるが、本実験で用いたコンブペーストでは、攪拌を続けることによってフロックがより発達し、凝集沈殿が更に進行することがわかった。
【0043】
実験例2 この実験例では、コンブペースト中の不溶性成分が泥水の凝集沈殿を更に促進する効果を持つか否かを検討するための実験を行った。
【0044】
まず、2%(w/v)の土砂を含む1リットルの泥水、10%(w/v)の塩化カルシウム水溶液、0.48%(w/v)コンブペースト懸濁液を準備した。コンブペースト懸濁液は実験例1と同様にして準備した。
【0045】
次に、0.48%(w/v)コンブペースト懸濁液をさらしで濾し分け、ろ液を回収した(「ペーストろ液」とする)。1リットル泥水に100ミリリットルのペーストろ液と50ミリリットルの10%(w/v)の塩化カルシウム水溶液を順次添加し、30秒間攪拌した。5分間放置した後、上清の濁度、および生じるフロックの高さを測定した。結果は図5に示す通りであった。
【0046】
また、0.48%(w/v)コンブペースト懸濁液を濾し分けずに同様の試験を行った。結果は図5に示す通りであった。
【0047】
図5に示されているように、コンブペーストをそのまま用いた場合の方がわずかに濁度が低く、不溶性成分が凝集沈殿を促進することが示された。また、フロック高さはペーストろ液よりもコンブペースト添加時で幾分高いが、これは不溶性繊維が存在することによってフロックがかさ高くなったためと考えられる。
【0048】
実験例3 この実験例では、コンブペーストと泥水から生じたフロックを、泥水の凝集沈殿に再利用することで、新たに投入するコンブペーストの量を減じても充分な凝集沈殿効果を得ることが可能かどうかを検討する実験を行った。
【0049】
まず、2%(w/v)の土砂を含む1リットルの泥水、10%(w/v)の塩化カルシウム水溶液、0.48%(w/v)コンブペースト懸濁液、2%(w/v)の土砂を含む1リットルの泥水と100ミリリットルの0.48%(w/v)コンブペースト懸濁液から生じるフロック30gを準備した。コンブペースト懸濁液は実験例1と同様にして準備した。
【0050】
次に、予め、1リットル泥水、0.48%(w/v)コンブペースト懸濁液100ミリリットル、および10%(w/v)の塩化カルシウム水溶液50ミリリットルを反応させ、フロックを生じさせた。このフロックを30g採取し、0.48%(w/v)コンブペースト懸濁液10ミリリットルとともに新たな泥水1リットルに添加し、さらに10%(w/v)の塩化カルシウム水溶液50ミリリットルを添加した。30秒間攪拌した後、攪拌を止めて放置した。塩化カルシウム水溶液添加から1分、2分、3分後の上清の濁度、および生じるフロックの高さを測定した。結果は図6に示す通りであった。
【0051】
また、フロックを添加せずに0.48%(w/v)コンブペースト懸濁液100ミリリットルを用いて同様の試験を行った。結果は図6に示す通りであった。
【0052】
図6に示されているように、フロック添加時において凝集沈殿がより早く、1分後の濁度はペーストで0.845に対してフロックでは0.48であった。3分後にはほぼ同等の濁度になった。また、フロック高さは3分後にはペースト添加時よりもフロック添加時で低くなった。以上のことから、わずかなフロックを添加することにより、新たに投入するコンブペースト量を10分の1に減らしても、同等の凝集沈殿効果が得られることがわかった。
【0053】
実験例4 この実験例では、泥水の温度が凝集沈殿効果に与える影響について検討する実験を行った。
【0054】
まず、2%(w/v)の土砂を含む1リットルの泥水、10%(w/v)の塩化カルシウム水溶液、0.48%(w/v)コンブペースト懸濁液を準備した。コンブペースト懸濁液は実験例1と同様にして準備した。
【0055】
次に、1リットル泥水の温度を室温、5℃、または37℃にそれぞれ調製し、これに0.48%(w/v)コンブペースト懸濁液100ミリリットルと10%(w/v)の塩化カルシウム水溶液50ミリリットルを順次添加し、30秒間攪拌した後、5分間放置した。塩化カルシウム水溶液添加から1分、2分、3分後の上清の濁度、および生じるフロックの高さを測定した。結果は図7に示す通りであった。
【0056】
図7に示されているように、いずれの場合も結果は良好で、同等の濁度およびフロック高さが得られた。このことから、水温の変化によって凝集沈殿効果はほとんど変動しないことがわかった。
【0057】
実験例5 この実験例ではコンブペーストが、褐藻から精製された工業用のアルギン酸と同等の凝集沈殿効果を示すことを確認するための実験を行った。
【0058】
まず、2%(w/v)の土砂を含む1リットルの泥水、10%(w/v)の塩化カルシウム水溶液、0.48%(w/v)コンブペースト懸濁液、0.48%(w/v)アルギン酸水溶液を準備した。コンブペースト懸濁液は実験例1と同様にして準備した。
【0059】
次に、1リットル泥水に0.48%(w/v)コンブペースト懸濁液100ミリリットルまたは0.48%(w/v)アルギン酸水溶液100ミリリットルを加えた。これに10%(w/v)の塩化カルシウム水溶液50ミリリットルを順次添加し、30秒間攪拌した。5分間放置した後、上清の濁度、および生じるフロックの高さを測定した。結果は図8に示す通りであった。
【0060】
図8に示されているように、上清の透明度は工業用アルギン酸の方が良い結果を示したが、ペースト添加時の濁度もほぼ同等の遜色ない値である。フロック高さはペースト添加時の方が低く、工業用アルギン酸よりもやや良好な結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明に係る泥水処理装置を含む泥水処理システムの説明図である。
【図2】本発明に係る泥水処理装置の一実施例の説明図である。
【図3】本発明の一実施例に係る泥水処理方法の工程図である。
【図4】コンブペーストによる泥水の凝集沈殿−攪拌の効果を示すグラフである。
【図5】コンブペーストによる泥水の業種沈殿−不溶性成分の影響を示すグラフである。
【図6】コンブペーストによる泥水の凝集沈殿−フロック再利用の効果を示すグラフである。
【図7】コンブペーストによる泥水の凝集沈殿−温度の影響を示すグラフである。
【図8】コンブペーストによる泥水の凝集沈殿−アルギン酸との比較を示すグラフである。
【符号の説明】
【0062】
10 浚渫船
12 泥水吸い上げ装置
14 吸い上げポンプ
16 吸い上げパイプ
18 掻き混ぜ装置
20 泥水送給パイプ
22 埋め立て地
24 海
26 外仕切
28 内仕切
30 堰
32 泥水処理装置
34 泥水ポンプ
36 排泥管
38 海藻ペースト液注入装置
40 塩化カルシウム水溶液注入装置
42 フロック沈殿貯留槽
44 フロックリターン管
46 攪拌翼
48 貯留タンク
50 注入装置
52 貯留タンク
54 注入装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
泥水に海藻ペースト液を注入する海藻ペースト液注入工程と、該海藻ペースト液注入工程を経た泥水を攪拌する海藻ペースト液混合工程と、該海藻ペースト液混合工程を経た泥水にカルシウム化合物水溶液を注入するカルシウム化合物水溶液注入工程と、該カルシウム化合物水溶液注入工程を経た泥水を攪拌するカルシウム化合物水溶液混合工程と、該カルシウム化合物水溶液混合工程を経た泥水を静置する泥水静置工程と、該泥水静置工程で分離した上澄み水と沈殿物を分離する分離工程とを備えたことを特徴とする泥水処理方法。
【請求項2】
前記海藻ペースト液が海藻にナトリウム化合物又はカリウム化合物を含水下に添加・混合して得られたものであることを特徴とする請求項1に記載の泥水処理方法。
【請求項3】
前記海藻が褐藻類の海藻であることを特徴とする請求項2に記載の泥水処理方法。
【請求項4】
前記褐藻類の海藻が根、茎等の廃棄物であることを特徴とする請求項3に記載の泥水処理方法。
【請求項5】
前記ナトリウム化合物が炭酸ナトリウムであることを特徴とする請求項2に記載の泥水処理方法。
【請求項6】
前記カルシウム化合物が塩化カルシウムであることを特徴とする請求項1に記載の泥水処理方法。
【請求項7】
前記泥水が、埋め立て地の溢流水、浚渫現場で吸い上げられた直後の泥水、工事現場で発生した泥水又は水害で発生した泥水であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の泥水処理方法。
【請求項8】
前記泥水静置工程によって得られた沈殿物を前記海藻ペースト液注入工程前の泥水に戻す沈殿物戻し工程を備えていることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の泥水処理方法。
【請求項9】
前記泥水静置工程を経て生成された上澄み水及び沈殿物を再度攪拌して静置する再攪拌静置工程を備えていることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の泥水処理方法。
【請求項10】
処理すべき泥水を導く排泥管と、処理すべき泥水を該排泥管に送給する泥水ポンプと、該排泥管内に海藻ペースト液を注入する海藻ペースト液注入装置と、該排泥管内にカルシウム化合物水溶液を注入するカルシウム化合物水溶液注入装置と、該排泥管を出た泥水を静置させる泥水静置装置とを備え、前記海藻ペースト液注入装置は前記カルシウム化合物水溶液注入装置より上流に設けられ、該排泥管内には泥水を攪乱させる攪乱手段が設けられていることを特徴とする泥水処理装置。
【請求項11】
前記泥水静置装置内の沈殿物を排泥管の海藻ペースト液注入装置の注入位置より上流に戻す沈殿物戻し装置が設けられていることを特徴とする請求項10に記載の泥水処理装置。
【請求項12】
前記泥水静置装置で静置されて生成した上澄み水と沈殿物を再攪拌する再攪拌装置を備えていることを特徴とする請求項10に記載の泥水処理装置。
【請求項13】
海藻にナトリウム化合物又はカリウム化合物を含水下に添加・混合して調製した泥水処理用海藻ペースト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−136296(P2007−136296A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−331195(P2005−331195)
【出願日】平成17年11月16日(2005.11.16)
【出願人】(504196300)国立大学法人東京海洋大学 (83)
【出願人】(000222668)東洋建設株式会社 (131)
【Fターム(参考)】