説明

注入装置を備えるプラズマシステム

【課題】 プラズマと反応剤を十分に混合させて、電極に反応剤を堆積させないようにできるプラズマシステムを提供する。
【解決手段】 プラズマシステムであって、プラズマキャビティと注入装置200を含む。プラズマキャビティは、プラズマを発生するために、第1の電極と第2の電極を含む。注入装置は、プラズマ注入管210と少なくとも一つの反応剤注入管220を含む。プラズマ注入管はプラズマキャビティに接続される。プラズマ注入管は注入口H1、排出口H2、外部側壁S2を含む。プラズマ注入管は、注入口からプラズマを取り込み、排出口から出力する。外部側壁は注入口から排出口に向かって徐々に断面幅が小さくなる。反応剤注入管は、外部側壁の外側に配置される。反応剤注入管は、外部側壁へ反応剤を注入し、反応剤が外壁に沿って排出口に向かって流れ、プラズマと排出口で混合されるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、参照することにより本書に組み込まれる2009年11月2日に出願された台湾出願番号98137165の表題に係る出願の利益を主張するものである。
【0002】
本発明は概してプラズマシステム、特に注入装置を備えるプラズマシステム等に関する。
【背景技術】
【0003】
ここ数年発展し続けているプラズマ技術は、プラズマや活性種の高エネルギー粒子(電子とイオン)を用いることで、加工対象物に対して薄膜形成、エッチング加工、表面改善の効果を与える。プラズマ技術は、光電子および半導体産業、3C製品(コンピュータ、通信機器、コンシューマーエレクトロニクス)、自動車産業、民間の素材産業、医用材料の表面加工等に応用される。
【0004】
プラズマによる薄膜形成技術を例にとる。薄膜形成において、反応剤とプラズマを混合することは、反応剤を活性化させて基材表面の活量を増大させ得る。現在まで、プラズマによる薄膜形成技術において、プラズマと反応剤を混合するいくつかの方法が開発されてきた。例えば、日本の特許出願公開番号2000−121804の出願は、上部電極と下部電極の間でプラズマが発生する発明を開示する。基材は下部電極の上に配置される。反応剤は、上部電極と下部電極の間の空間に注入される。しかしながら、このプラズマと反応剤を混合する方法では、反応剤が上部電極の表面に容易に堆積し、プラズマの安定性に影響を与えてしまい、続く製造工程に悪影響を与えることとなる。
【0005】
さらに、欧州特許番号0617142の出願は、電極棒と円筒状電極を用いてプラズマを発生させる発明を開示する。電極棒は円筒状電極の中央に配置される。反応剤は、電極棒と円筒状電極の間の空間に注入される。この方法でも、反応剤は電極棒、又は円筒状電極の表面に堆積する。
【0006】
その上、定期刊行物である応用物理レター89.251504(2006年)において、「堆積手段としての大気圧マイクロプラズマジェット」という論文は小さな電極管と大きな電極管によってプラズマを発生することが報告されている。小さな電極管は大きな電極管の中央に配置され、反応剤は小さな電極管を経由して小さな電極管と大きな電極管の間の空間に注入される。この方法でも、反応剤は小さな電極管、又は大きな電極管の表面に堆積する。
【0007】
前記特許公報や前記定期刊行物に記載された方法は、プラズマと反応剤を十分に混合することを目的とするが、その結果反応剤を電極に堆積させてしまう。
【0008】
いくつかの方法によると電極に反応剤が堆積しないようにできるが、プラズマと反応剤が十分に混合しない可能性があり、その結果、製造効率を低下させる。プラズマ技術は現在発達途上にあるため、電極に反応剤を堆積させずにプラズマと反応剤を十分に混合させる方法は存在せず、このことはプラズマ技術の発達を著しく制限している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は注入装置を備えるプラズマシステム等に関する。適切な構造設計を用いることで、プラズマと反応剤を十分に混合させて、電極に反応剤を堆積させないようにできる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の態様によればプラズマシステムが提供される。当該プラズマシステムは、プラズマキャビティと注入装置を含む。プラズマキャビティは、プラズマを発生するために、第1の電極と第2の電極を含む。注入装置は、プラズマ注入管と少なくとも一つの反応剤注入管を含む。プラズマ注入管はプラズマキャビティに接続される。プラズマ注入管は注入口、排出口、外部側壁を含む。プラズマ注入管は、注入口からプラズマを取り込み、排出口から出力する。外部側壁は注入口から排出口に向かって徐々に断面幅が小さくなる。反応剤注入管は、外部側壁の外側に配置される。反応剤注入管は、外部側壁へ反応剤を注入し、反応剤が外部側壁に沿って排出口に向かって流れ、プラズマと排出口で混合されるようにする。
【0011】
本発明は下記の実施形態についての詳細な説明から明らかとなるであろう。下記の記載は添付の図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るプラズマシステムを示す図。
【図2】図2は、図1の注入装置の断面を示す立体図。
【図3】図3は、図1の注入装置の断面を示す平面図。
【図4】図4は、図2又は図3のプラズマ注入管の立体図。
【図5】図5は、図2又は図3のプラズマ注入管の立体図。
【図6】図6は、図2又は図3のプラズマ注入管の立体図。
【図7】図7は、図6のプラズマ注入管の底面図。
【図8】図8は、非回転条件下におけるプラズマ注入管内でのプラズマと反応剤を示す図。
【図9】図9は、回転条件下におけるプラズマ注入管内でのプラズマと反応剤を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
下記において、いくつかの実施形態についての詳細な説明を行う。しかしながら、これらの実施形態は図に示された形態のみと理解されるべきでなく、本発明の範囲を限定するものではない。さらに、これらの実施形態における図面は、発明の特徴を明確に示すために不必要な要素を省略している。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係るプラズマシステム1000を示す。本実施形態に係るプラズマシステム1000は、表面活性化、クリアランス(間隙)、エッチング加工、薄膜形成に応用され得る。本実施形態では、プラズマシステム1000は薄膜堆積プロセスで利用されるものとして例示する。プラズマシステム1000はプラズマキャビティ100と注入装置200を含む。プラズマキャビティ100は例えば真空キャビティであってもよいし、大気圧キャビティであってもよい。本実施形態のプラズマシステム1000は、真空中のプロセスで応用されてもよいし、大気圧下のプロセスで応用されてもよい。本実施形態において、プラズマキャビティ100は図のように大気圧下のプロセスで応用されているものとして例示する。プラズマキャビティ100はプラズマEを発生させるために使われる。注入装置200は反応剤Rを注入するためにプラズマキャビティ100に接続される。プラズマシステム1000が薄膜堆積プロセスに応用される場合、反応剤は例えば薄膜素材を含む気体、又は霧状になった液体である。反応剤Rはキャリアガスによって注入装置200に至る。反応剤Rは薄膜形成モノマー又は前駆物質とも呼ばれ得る。注入装置200を経由することで、プラズマEは反応剤Rと混合される。
【0015】
プラズマキャビティ100は第1の電極110と第2の電極120を含む。第1の電極110と第2の電極120の間で生じた電圧降下によって、プラズマキャビティ100のガスがイオン化してプラズマEとなる。第1の電極110と第2の電極120はそれぞれ正電極と接地電極であってもよい。
【0016】
図2、図3はそれぞれ図1の注入装置200の断面を示す立体図、平面図である。注入装置200はプラズマ注入管210と少なくとも一つの反応剤注入管220とカバー230を含む。プラズマ注入管210は、図1のプラズマキャビティ100に接続される。プラズマ注入管210は、注入口H1、排出口H2、内部側壁S1、外部側壁S2を含む。プラズマ注入管210は、注入口H1からプラズマEを取り込み、排出口H2から出力する。反応剤注入管220は、外部側壁S2の外側に配置される。本実施形態では、2種類の反応剤Rを注入するために2つの反応剤注入管220が注入装置200内に配置されている。他の実施形態において、2種類より多い反応剤Rを注入するために、2つよりも多くの反応剤注入管220が使用されてもよい。カバー230は反応剤注入管220に接続されており、カバー230は排出口H2に対応する位置にある開口部H3を有する。
【0017】
図3の通り、プラズマ注入管210がプラズマEを発生させるのに使われる内部空間を有するように、本実施形態のプラズマ注入管210は金属で作られており、図1の第2の電極120と電気的に接続されている。プラズマ注入管210の内部側壁S1は注入口H1から排出口H2に向かって徐々に断面幅が小さくなる。すなわち、注入口H1の直径D1は排出口H2の直径D2よりも大きい。そのため、プラズマEが排出口H2から出力されるとき、プラズマEの流速は加速される。さらに、プラズマ注入管210の外部側壁S2も注入口H1から排出口H2に向かって徐々に断面幅が小さくなる。そのため、プラズマ注入管210はまるで円錐構造のようになる。
【0018】
図3のように、反応剤注入管220は反応剤Rを外部側壁S2に注入するのに使用される。プラズマ注入管210の外部側壁S2は注入口H1から排出口H2に向かって徐々に断面幅が小さくなるので、反応剤Rが外部側壁S2に注入されると、反応剤Rは自然と外部側壁S2に沿って排出口H2へと流れる。
【0019】
さらに、本実施形態の反応剤注入管220は、注入口H1と排出口H2を結ぶ線L1に対してほぼ垂直に配置されている。外部側壁S2は、注入口H1と排出口H2を結ぶ線L1に対して傾いている。したがって、外部側壁S2は反応剤注入管220に対しても傾いている。そのため、反応剤注入管220は反応剤Rをスムーズに外部側壁S2に沿って排出口H2へと導くことができる。
【0020】
図3のように、カバー230はプラズマ注入管210の排出口H2に配置されて、排出口H2で混合用スペースSPを形成する。外部側壁S2に沿って排出口H2へと流れた後で、反応剤Rは混合用スペースSPにおいてプラズマEと十分に混ざることができる。さらに、カバー230の開口部H3がプラズマEと混ざった反応剤Rを噴出させられるように、本実施形態の開口部H3の直径D3は排出口H2の直径D2よりも大きく設計されている。カバー230と反応剤注入管220は、必要ならば2つの分離した部分からなる構造であってもよいし、一体化した構造であってもよい。
【0021】
本実施形態では、プラズマ注入管210の外側の混合用スペースSPでプラズマEと反応剤Rが混ざる。第1の電極110と第2の電極120は反応剤Rと接触しないようにプラズマキャビティ100内に配置される。したがって、反応剤Rは第1の電極110にも第2の電極120にも堆積することはない。このことにより、プラズマEは安定性を増すだけでなく、続く製造工程への悪影響も防ぐ。
【0022】
図4から図6は、図2又は図3のプラズマ注入管210の立体図である。本実施形態のプラズマ注入管210は、図1のプラズマキャビティ100に対して回転可能に接続されている。プラズマ注入管210の外部側壁S2は6つのフィン211を有する。図7は、図6のプラズマ注入管210の底面図である。フィン211はプラズマ注入管210の中心点Cからわずかに離れて配置されている。したがって、図3の反応剤Rが外部側壁S2に到達すると、フィン211を押してプラズマ注入管210が回転し、続いて注入される反応剤Rはプラズマ注入管210と共に回転できる。このように、反応剤Rは渦を巻きながら外部側壁S2に沿って排出口H2へと流れ込むことができる。
【0023】
図8、図9は、それぞれ非回転条件下、回転条件下におけるプラズマ注入管210内でのプラズマEと反応剤Rの混合を示す図である。図8のように、非回転条件下におけるプラズマ注入管210では、プラズマEと反応剤Rはほぼ平行に下方に噴出される。図9のように、回転条件下におけるプラズマ注入管210では、反応剤Rは中心部に向かって集められプラズマEの周りを回転する。図8と図9を比較すると、反応剤Rが中心部に向かって集められプラズマEの周りを回転する時に、プラズマEと反応剤Rはより長い反応時間とより良好な混合状態を有するので、その結果として堆積速度が増大することがわかる。
【0024】
前記の実施形態のプラズマ注入管210は、反応剤Rが外部側壁S2に到達するとフィン211を押すために、自動的に回転することができる。しかしながら、別の実施形態では、プラズマシステム1000はプラズマ注入管210を回転させるために、プラズマ注入管210に接続される例えばモーターのような電気的な動力源をさらに含んでいてもよい。これにより、プラズマ注入管210は、能動的に反応剤Rが渦を巻きながら排出口H2へと流れるようにすることができる。
【0025】
さらに、本実施形態の反応剤注入管220は、プラズマ注入管210に対して対称的に配置されている。この構造により、前記の動力源を要することなく、反応剤注入管220経由で反応剤Rを異なる流量又は流速で注入してフィン221を回転させることができる。別の実施形態において、反応剤Rがより容易にフィン211を押してプラズマ注入管210の回転速度を速められるように、反応剤注入管220はプラズマ注入管210に対して若干非対称に設計されていてもよい。
【0026】
いくつかの実施形態において、前記の動力源、異なる反応剤の流量、流速、非対称の反応剤注入管220といった設計のうち2つ又は3つが必要に応じて同時に選択されてもよい。
【0027】
本発明は例示により、そして適する実施形態の観点から記載されたが、本発明がこれらの形態に限定されるものでないことは理解されるであろう。それどころか、様々な変形、類似のアレンジや手順をも意図するものであり、そのような変形、類似のアレンジや手順の全てを包含するために、特許請求の範囲の補正可能な範囲は最も広義に解釈されるべきである。
【符号の説明】
【0028】
100…プラズマキャビティ、110…第1の電極、120…第2の電極、200…注入装置、210…プラズマ注入管、211…フィン、220…反応剤注入管、230…カバー、1000…プラズマシステム、H1…注入口、H2…排出口、H3…開口部、S1…内部側壁、S2…外部側壁、SP…混合用スペース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマシステムであって、
プラズマを発生するための第1の電極と第2の電極とを含むプラズマキャビティと、
前記プラズマキャビティに接続されるプラズマ注入管と、外部側壁の外側に配置される少なくとも一つの反応剤注入管とを含む注入装置と、
を含み、
前記プラズマ注入管は、
注入口と排出口と外部側壁とを含み、
前記注入口から前記プラズマを取り込み、前記排出口から前記プラズマを出力し、
前記外部側壁は前記注入口から前記排出口に向かって徐々に断面幅が小さくなり、
前記反応剤注入管は、
反応剤が前記外部側壁に沿って前記排出口に向かって流れ、前記プラズマと前記排出口で混合されるようにするために、前記反応剤を前記外部側壁へ注入する、プラズマシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のプラズマシステムにおいて、
前記外部側壁は、
前記反応剤を回転させるための複数のフィンを含む、プラズマシステム。
【請求項3】
請求項1乃至2のいずれかに記載のプラズマシステムにおいて、
前記プラズマ注入管は、
前記プラズマキャビティに対して回転可能に接続されている、プラズマシステム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のプラズマシステムにおいて、
前記注入口の直径は前記排出口の直径よりも大きい、プラズマシステム。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のプラズマシステムにおいて、
前記プラズマ注入管は、
前記第2の電極と電気的に接続されている、プラズマシステム。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載のプラズマシステムにおいて、
前記反応剤注入管は、
前記注入口と前記排出口を結ぶ線に対してほぼ垂直に配置されている、プラズマシステム。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載のプラズマシステムにおいて、
前記注入装置は、
前記反応剤注入管に接続され開口部を含むカバーを含み、
前記開口部は、
前記排出口に対応する位置に配置されている、プラズマシステム。
【請求項8】
請求項7に記載のプラズマシステムにおいて、
前記開口部は、
その直径が前記排出口の直径よりも大きい、プラズマシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−94225(P2011−94225A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14729(P2010−14729)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(507084073)インダストリアル テクノロジー リサーチ インスティテュート (22)
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
【Fターム(参考)】