説明

注射針挿入孔付き経皮吸収用パッチ

【課題】経皮吸収用パッチを装着した部位に、経皮吸収させた薬剤と、相乗効果を有する物質をパッチを剥がすことなく注射投入することを可能とする。
【解決手段】一方の表面を生体に貼付した状態で、薬剤を経皮吸収により体内へと導入するための経皮吸収用パッチであって、一方の表面から他方の表面へと貫通する注射針挿入孔12を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚や粘膜等の生物の体表面に貼付した状態で、薬剤等を経皮吸収により体内へと導入するための経皮吸収用パッチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、図5に示すように経皮的に薬剤などの特定の物質を体内へ導入することが行なわれている。特に近年、薬剤を経皮的に体内へ導入する投薬手段として経口による投薬及び注射による投薬と並んで脚光を浴びている。これは、経口による場合は、投入した薬剤が目的とする部位(血液中であることが多い)に到達する過程において、消化器等で分解されてしまうため効率が悪く、十分な薬効を発揮させるためには大量に投与しなければならず、又、注射による場合は効率自体は良いものの患者の痛み(苦痛)を伴うこと等があるのに対して、これらの問題点を解決するからである。
【0003】
一方で、経皮的な投与にも問題が無い訳ではなく、主としてリン脂質から構成される皮膚を効率的に通過浸透するためには、投与する物質が脂溶性物質であること及び、一定程度以下の分子量であることが望ましい。このような経皮吸収の特徴を活かすべく、特許文献1に記載されるように塩酸リドカイン等の比較的分子量の小さな物質を用いて、皮膚の表面的な麻酔に用いられることも多い。しかしながら、経皮吸収に適した物質を用いたとしても、吸収されるスピードが注射等に比べると比較に値しないほど緩やかなものである。このことは、例えば、それが麻酔薬であるならば、医師が本来の治療に取り掛かるまでに時間がかかることを意味している。このような場合には、医師の判断によりパッチから経皮吸収された麻酔薬がある程度効いた段階で一旦パッチを剥がし、その部分に注射による十分な麻酔薬を投与することがあった。このようにすることで早期に本来の治療に取り掛かることが可能となるからである。
【0004】
又、パッチにより経皮吸収される物質と相乗効果の期待できる物質であって、経皮吸収させるには向いていないような物質を投与したい場合もある。例えば、経皮吸収させた特定の物質の働きを飛躍的に向上させるようなアクチべータ(活性化物質)を投与したい場合等である。このような場合にも一旦パッチを剥がして注射等により投与されることがあった。
【0005】
なお、「パッチ」とは、主として薬剤や抗原などの物質を含んだ一方の面に粘着性を有する布切れ状の断片を意味するものであるが、構造上多少の厚みを有していてもよく、又粘着性がない場合もある。
【0006】
【特許文献1】特開平9−255565号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、一旦パッチを剥がしてしまうと、貼付していた部位を完全に特定できなくなる場合がある。特に、患者自身の目に見えないような部分に貼られていた場合等は患者自身に特定してもらうことも困難な場合も生じる。
【0008】
一方で、パッチを剥がした後の処置を直ぐに行なうことが可能となる準備を十分にした上でパッチを剥がし、注射等の処置を行なうことによりかなり改善されるものの完全ではなく、又、処置をする側の精神的負担も大きい。
【0009】
必ずしもパッチ貼付部に注射等の処置がされなくともよい場合もあると思われるが、確実に麻酔の効いている部分に処置を行なって患者の疼痛を防止する観点、又は、薬効の相乗効果を確実に発揮させる観点からすると、パッチ貼付部に、更に好ましくはその約中央部分に処置(注射)するのが好ましい。
【0010】
一方で、パッチを貼付した状態のままで、そのパッチを注射針で貫通させる態様で処置することも理論的には考えられるものの、この場合は、貫通した針の先端内部にパッチの構成成分が切り取られたまま体内に挿入されてしまったり、仮にそうでなくともパッチ表面に付着して存在する各種細菌類、ウィルス等を体内に運ぶこととなり、衛生上認められる行為ではない。
【0011】
本発明は、これらの問題点を解決するべくなされたものであって、医師等が確実に効果的な部位に処置(注射)を行なえるべくなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、一方の表面を生体に貼付した状態で、薬剤を経皮吸収により体内へと導入するための経皮吸収用パッチであって、一方から他方の表面へと貫通する注射針挿入孔が備わっているように構成することにより、上記課題を解決するものである。
【0013】
これにより、パッチ貼付部分に安全確実に相乗効果の期待できる物質を注射により投与することができる。
【0014】
又、前記注射針挿入孔は、前記一方及び他方の表面の略中央部に形成されるようにしてもよい。
【0015】
これにより、より効果的な位置に注射可能となる。
【0016】
又、前記注射針挿入孔の直径は、使用する注射針の直径よりも大であるようにしてもよい。
【0017】
これにより、注射針がパッチに接触することなく注射でき、衛生上の問題をクリアできる。
【0018】
又、前記注射針挿入孔の直径は、パッチ自体の直径比20%以下であるようにしてもよい。
【0019】
これにより、注射針以降のいずれの部分に処置しても、パッチによる経皮吸収された特定の物質が吸収浸透していることにより、相乗効果が十分に発揮できる。
【0020】
又、前記注射針挿入孔の直径は、0.5mm乃至10mmであるようにしてもよい。
【0021】
これにより、注射針の種類を選ばない。即ち、実際に使用されることのある太さの注射針全てに対応可能である。
【0022】
又、前記注射針挿入孔の直径は、2mm乃至8mmであるようにしてもよい。
【0023】
これにより、注射を打つ際の狙いが定めやすい。
【0024】
又、前記注射針挿入孔の直径は、3mm乃至6mmであるようにしてもよい。
【0025】
これにより、更に狙いが定めやすくなり、且つ、パッチの径を大きくせずに済む。
【0026】
又、更に、電源に接続される電極と、該電極に通電可能、且つ、前記薬剤が含まれる薬剤保持部とを少なくとも備え、前記電極に電気を印加することによって前記薬剤保持部の薬剤を生体内へと積極的に導入するようにしてもよい。
【0027】
これにより、より迅速に特定の物質を体内へと吸収浸透させることが可能となる。
【0028】
又、前記薬剤を、アンブカイン、アモラノン、アミルカイン、べノキシネート、ベンゾカイン、べトキシカイン、ビフェナミン、ブピバカイン、ブタカイン、ブタンベン、ブタニリカイン、ブテサミン、ブトキシカイン、カルチカイン、クロロプロカイン、コカエチレン、コカイン、シクロメチカイン、ジブカイン、ジメチソキン、ジメトカイン、ジぺロドン、ジクロニン、エコゴニジン、エコゴニン、ユープロシン、フェナルコミン、ホルモカイン、へキシルカイン、ヒドロキシテテラカイン、イソブチルp−アミノベンゾエート、ロキシノカイン、レボキサドロール、リドカイン、メピバカイン、メプリルカイン、メタブトキシカイン、塩化メチル、ミルテカイン、ナエパイン、オクタカイン、オルトカイン、オキセサゼイン、パレントキシカイン、フェナカイン、フェノール、ピペロカイン、ピリドカイン、ポリドカノール、プラモキシン、プリロカイン、プロカイン、プロパノカイン、プロパラカイン、プロピポカイン、プロポキシカイン、プソイドコカイン、ピロカイン、ロピバカイン、サリチルアルコール、テトラカイン、トリカイン、トリメカイン、ゾラミンのうちいずれか1以上のナトリウムチャネル遮断薬としてもよい。
【0029】
これにより、患者が痛みを伴わない局所麻酔薬を、貼付部位や患者に応じて種々構成することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明を適用することで、パッチ貼付部分の効果的な位置に、安全確実に相乗効果を期待できる物質を注射により投与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0032】
図1は、本発明に係る経皮吸収用パッチであり、(A)が斜視図、(B)が(A)におけるIB−IB線に沿う断面図である。
【0033】
経皮吸収用パッチ10は、一方の表面が、麻酔薬等の、経皮吸収させることを目的とした物質(薬剤)を保持している薬剤保持部18とされており、又、他方の表面が、この薬剤保持部18と密着して形成されるバッキング層20として構成されている。これらのうち薬剤保持部18側が生体への貼付面14であり、バッキング層20側が反貼付面16となる。
【0034】
この経皮吸収用パッチ10の略中央部には、貼付面(一方の表面)14から、反貼付面(他方の表面)16へと貫通した注射針挿入孔12が設けられている。
【0035】
(バッキング層)
バッキング層は、パッチの一次構造要素として機能し、パッチにその柔軟性、被覆性を与えている。バッキング層に使用される材料は、不活性で、パッチ内に含まれた薬剤組成物の薬物、安定剤等のその他の成分を吸収し得るべきではない。バッキング層は好ましくは保護カバーの役目を果たす軟質材料の1層以上のシート又はフィルムから作られ、パッチが皮膚の輪郭に追従することを許容する。又、通気性(即ち空気及び蒸気等の透過性)を有していることが更に好ましい。通気性を有するバッキング層により、皮膚貼付部位の呼吸(酸素と二酸化炭素の交換)が可能となり、且つ皮膚表面からの水蒸気を透過させることができる。より具体的に好適なバッキング層の材料例としては、コポリエステル、ポリエーテル/ポリアミドコポリマー、ポリウレタン及びポリエチレン誘導体等が挙げられる。勿論これらに限定されるものではない。好適なポリエーテル/ポリアミドコポリマーの例としては、PEBAX(登録商標)が挙げられる。好適なポリウレタンの例としては、ESTANEが挙げられる。好適なポリエチレン誘導体の例としては、SKYCARE AND SCYAIRフィルムが挙げられる。
【0036】
(薬剤保持層)
本発明における薬剤保持層18は例えばヒドロゲル等が好ましい。このヒドロゲルはγ線滅菌が可能であって、且つ、局所麻酔薬を含浸可能なヒドロゲルであれば全て本発明のパッチで使用するのに好適である。ヒドロゲルは、適用部位にパッチを付着させるために十分な粘着性を有するだけでなく、刺激又は創傷にダメージを与えることなく取り除くことができることが好ましい。
【0037】
好ましくは、ヒドロゲルは、電子ビーム架橋結合されており、平均分子量が約50万ダルトン〜約200万ダルトン、更に好ましくは約90万ダルトン〜約150万ダルトンのポリビニルピロリドン(PVP)である。好ましい実施形態では、ヒドロゲルは架橋結合されたポリビニルピロリドンと局所麻酔薬、水分とを含む。勿論安定剤等をこのヒドロゲル中に加えることもできる。
【0038】
本発明のパッチで使用するのに好適なヒドロゲルは市販されている。たとえば、好適なヒドロゲルは、Hydrogel Design Systems、又は、Tyco,Inc.から購入することができる。
【0039】
(特定の物質)
本発明による経皮吸収用パッチの使用に際しては、特定の物質として、患者に貼付して治療効果を上げたり、医療効果を上げたりすることが可能なあらゆる経皮吸収性薬剤を用いることが可能であるが、いくつかの具体例を挙げ、以下に列挙する。勿論以下のものに限定される趣旨のものではない。
【0040】
(A)ニトログリセリン、硝酸イソソルビド等の冠血管拡張剤
(B)塩酸クロニジン、ニフェジピン等の血圧降下剤
(C)塩酸モルヒネ、塩酸リドカイン、クエン酸フェンタニールのような麻酔性鎮痛剤
(D)ケトプロフェン、インドメタシン、ケトロラク、ロキソプロフェン、テニダップ、塩酸ブプレノルフェン等の消炎鎮痛剤
(E)硫酸イソプロテレノール、硫酸サリブタモール、塩酸ツロブテロール等の気管支拡張剤
(F)プロピオン酸テストステロン、フルオキシメステロン等の男性ホルモン
(G)安息香酸エストラジオール、エチニルエストラジオール、エストリオール等の卵胞ホルモン
(H)プロゲステロン、ノルエチステロン、レボノルゲストレル等の黄体ホルモン
(I)クロモゲリク酸ナトリウム、アゼラスチン、フマル酸ケトチフェン等の抗アレルギー剤
(J)塩酸エべリゾン、アフロクアロン等の筋弛緩剤
(K)ジフェンヒドラミン、d1−マレイン酸クロルフェニラミン等の抗ヒスタミン剤
(L)チオペンタールナトリウム、塩酸ケタミン等の全身麻酔剤
(M)リン酸コデイン、塩酸エフェドリン等の鎮咳去痰剤
(N)ニコチン等の禁煙補助剤
(O)アスコルビン酸等のビタミン剤
【0041】
上述した経皮吸収性薬剤は、必要に応じて2種類以上併用することも可能である。又、これらの薬剤は必要に応じてエステル体に誘導された化合物、アミノ体に誘導された化合物、あるいはアセタール体に誘導された化合物、あるいは医学的に許容される無機塩、有機塩の形態でもって薬剤保持層に封入することも可能である。
【0042】
本発明では、特に望ましくは、ナトリウムチャネル遮断薬及びその製薬上許容可能な塩を用いた局所麻酔薬として適用される。リドカイン等のナトリウムチャネル遮断薬は、興奮性膜におけるナトリウムプラスイオンの透過性の一時的な大幅上昇を減少又は防止することによって、神経インパルスの発生及び伝達を阻止する。ナトリウムチャネル遮断薬の例としては、アンブカイン、アモラノン、アミルカイン、べノキシネート、ベンゾカイン、べトキシカイン、ビフェナミン、ブピバカイン、ブタカイン、ブタンベン、ブタニリカイン、ブテサミン、ブトキシカイン、カルチカイン、クロロプロカイン、コカエチレン、コカイン、シクロメチカイン、ジブカイン、ジメチソキン、ジメトカイン、ジぺロドン、ジクロニン、エコゴニジン、エコゴニン、ユープロシン、フェナルコミン、ホルモカイン、へキシルカイン、ヒドロキシテテラカイン、イソブチルp−アミノベンゾエート、ロキシノカイン、レボキサドロール、リドカイン、メピバカイン、メプリルカイン、メタブトキシカイン、塩化メチル、ミルテカイン、ナエパイン、オクタカイン、オルトカイン、オキセサゼイン、パレントキシカイン、フェナカイン、フェノール、ピペロカイン、ピリドカイン、ポリドカノール、プラモキシン、プリロカイン、プロカイン、プロパノカイン、プロパラカイン、プロピポカイン、プロポキシカイン、プソイドコカイン、ピロカイン、ロピバカイン、サリチルアルコール、テトラカイン、トリカイン、トリメカイン、ゾラミン及びそれら製薬上許容可能な塩、並びにそれらの混合物が挙げられる。最も好ましい局所麻酔薬は、塩酸リドカイン及びその製薬上許容可能な塩である。
【0043】
(注射針挿入孔)
この経皮吸収用パッチ10における注射針挿入孔12の位置は、必ずしも経皮吸収用パッチ10の中心である必要はないが、中心付近に設けられている方が好ましい。
【0044】
この注射針挿入孔12の直径は、最低限注射針の直径以上である必要がある。そうしなければ、注射を打つ際に注射針の先端がパッチに接触することによって、注射針の先端内部にパッチの構成成分が切り取られたまま体内に挿入されてしまったり、仮にそうでなくともパッチ表面に付着して存在する各種細菌類、ウィルス等を体内に運ぶこととなり、衛生上認められないからである。この注射針挿入孔12の直径を最低限注射針の直径以上とすることで、衛生上の問題を解決できる。より具体的には、この注射針挿入孔12の直径は、0.5mm〜10mmとすることで、注射針を選ばずに使用できる。好ましくは2mm〜8mmとすることで、注射を打つ際の狙いが定めやすくなる。更に好ましくは3mm〜6mmとすることで、更に狙いが定めやすくなり、且つ、パッチの径を大きくせずに済む。
【0045】
この注射針挿入孔12を設けることで、パッチを剥がすことなく注射することが可能となる(図2参照)。
【0046】
更に、この注射針挿入孔12の直径dは、経皮吸収用パッチ10全体の直径Dの20%以下であるのが好ましい。
【0047】
これは、図3にも示すように、d/Dがあまりに大きいと、経皮吸収されるべき物質が十分に浸透していない薬剤未浸透部Sが存在するからである。パッチを貼付すると、浸透吸収される薬剤は、時間の経過と共に例えば図4に示すE1→E2→E3の領域へと徐々に広がっていく。このとき、注射針挿入孔12の直径があまりに大きいと、薬剤が十分浸透しない部分が生じる。そうすると、一定時間経過後に注射等の処置を行なっても、例えば未だ麻酔が効いておらず、患者が痛みを感じたり、又、経皮吸収させた薬剤との十分な相乗効果が期待できないこととなってしまう。厳密には、この注射針挿入孔12の直径dとDの比率は経皮吸収させる薬剤の経皮吸収性(分子量等の大きさに影響される)により異なるため、一概に言えるものではないが、分子量が大きくなるに従って反比例してd/Dを小さくする必要がある。なお、添付図面においては、説明の便宜上、誇張した表現としている。
【0048】
次に、図4及び図5を用いてその他の実施例について詳細に説明する。図4及び図5は本発明に係る経皮吸収用パッチをイオントフォレーシス用の電極用パッチとして応用したものである。
【0049】
イオントフォレーシスは、薬剤を保持する薬剤保持部を有する作用側パッチとこの対極として非作用側パッチを備え、両パッチを皮膚に当接させた状態で、作用側パッチに薬剤保持部中の薬剤イオンと同一導電型の電圧を作用させることで薬剤イオンを電気的に駆動して生体内に移行させるものである。このようなイオントフォレーシス装置は生体に痛みを与えない、初回通過効果無しに薬剤を投与できる、電気的に薬剤の投与量を制御可能である等の利点を有しており、優れた薬剤の投与方法と考えられている。
【0050】
図4は、イオントフォレーシス装置100を概念的に示した構成図である。
【0051】
イオントフォレーシス装置100は作用側パッチ100Aとグランド側パッチ(非作用側パッチ)100Bとが電源150にそれぞれ接続された構成とされている。本実施例では作用側パッチ100Aはプラス側(アノード)に接続され、グランド側パッチ100Bはマイナス極(カソード)に接続されている。なお、説明の便宜上、薬効成分がプラスの薬剤イオンに解離する薬剤(例えば、麻酔薬である塩酸リドカイン、麻酔薬である塩酸モルヒネ等)を投与するためのイオントフォーレス装置を例として説明するが、薬効成分がマイナスの薬剤イオンに解離する薬剤(例えばビタミン剤であるアスコルビン酸等)を投与するためのイオントフォレーシス装置の場合は、以下の実施例における電極に印加される電圧及びイオン交換膜乃至イオン交換樹脂に導入される交換基の極性(プラスとマイナス)を入れ替えることにより構成することができる。
【0052】
図4に示すように、作用側パッチ100Aは、電源150と接続される電極119A、当該電極119Aと接触して電極119Aから通電を受ける薬剤(特定の物質)を保持する薬剤保持部118A、及びこれらを収容する容器120Aから構成され、グランド側パッチ100Bは、電極119B、当該電極119Bと接触して電極119Bから通電を受ける電解液を保持する電解液保持部118B及びこれらを収容する容器120Bから構成されている。
【0053】
上記電極119A、119Bには任意の導電性材料よりなる電極が制限無く使用できるが、水等の電気分解によるHイオン、OHイオンの発生を抑制できる銀/塩化銀カップル電極等の活性電極を使用することも可能である。
【0054】
薬剤保持部118Aには溶解等によって薬効成分がプラスの薬剤イオンに解離する薬剤の溶液(薬液)が保持される。
【0055】
電界液保持部118Bは通電性を確保するための電解液を保持するものであり、この電解液としては、リン酸干渉食塩水や生理食塩水を使用することが可能であり、あるいは、水の電解反応(プラス極での酸化及びマイナス極での還元)よりも酸化又は還元され易い電解質、例えば、リン酸第1鉄、リン酸第2鉄等の無機化合物、アスコルビン酸(ビタミンC)やアスコルビン酸ナトリウム等の医薬剤、塩酸、シュウ酸、リンゴ酸、コハク酸、フマル酸等の有機酸及び/又はその塩、又はこれらの混合物を使用することにより、水の電解によるガスの発生及びこれによる導電抵抗の増大あるいはpH値の変動を防止することも可能である。
【0056】
薬剤保持部118A及び電解液保持部118Bは、薬液又は電解液を液体状態で保持するものとしても構わないが、ガーゼや濾紙等の繊維質シート、あるいは、前述したヒドロゲル等の高分子ゲルシート等保水性を有する任意の素材よりなる単体に上記のような薬液又は電解液を含浸させて保持することにより、その取扱い性等を向上させることも可能である。
【0057】
又、作用側パッチ100Aの略中央部には注射針挿入孔112Aが設けられている。ここでも、注射針挿入孔112Aの直径d2は、作用側パッチの直径D2の20%以下とされている。このイオントフォレーシス装置100は、作用側パッチ100A及びグランド側パッチ100Bをそれぞれ生体表面に貼付して使用する。なお、グランド側パッチ100Bは作用側パッチ100Aとある一定の間隔で離した位置で生体表面(皮膚や粘膜等)上に配置される。
【0058】
電源150のスイッチが入れられると、電極119A及び119Bにそれぞれプラス及びマイナスの電圧が印加され、薬剤保持部118A中の薬剤イオンはこの電圧により生体に向けて駆動されることとなる。
【0059】
このように薬剤をイオントフォレーシス装置によって積極的に生体内に導入することで、より迅速に吸収浸透させることが可能となる。
【0060】
又、この状態(作用側パッチ100Aを貼り付けた状態)のままで、薬剤と相乗効果のある物質を生体内に注射等により投入したい場合には、作用側パッチ100Aに備わる注射針挿入孔112Aを利用することによって、作用側パッチ100Aを生体表面から剥がすことなく注射等を行なうことができる。
【0061】
なお、本実施例においては、作用側パッチ100Aにのみ注射針挿入孔112Aを設けているが、同時にグランド側パッチ100B側からも別の薬剤成分(マイナスイオンに解離する薬剤成分)を投入する場合には、グランド側パッチ100Bの略中央部に同様に注射針挿入孔を設けて構成してもよい。このことは、後述するイオントフォレーシス装置200においても同様である。
【0062】
続いて図5を用いて別のイオントフォレーシス装置200について説明する。
【0063】
このイオントフォレーシス装置200は、前述したイオントフォレーシス装置100を更に発展させたものである。なお、構造及び作用において前述のイオントフォレーシス装置100と同一又は類似する部分については数字下2桁が同一の番号を付することに止め、重複説明は省略する。
【0064】
このイオントフォレーシス装置200の作用側パッチ200A及びグランド側パッチ200Bは、複数のイオン交換膜を備えた構成とされている。作用側パッチ200Aは収容容器220Aの中に電源250と繋がる電極219A、緩衝液保持部226A、アニオン交換膜224A、薬剤保持部218A、カチオン交換膜222Aの順に生体表面へと向けた構成されている。一方、グランド側パッチ200Bは収容容器220Bの中に電極219B、緩衝液保持部226B、カチオン交換膜222A、電解液保持部218B、アニオン交換膜224Aの順で生体表面へと向けて構成されている。又、作用側パッチ200Aの略中央部には注射針挿入孔212Aが備わっている。ここでも、注射針挿入孔212Aの直径d3は、作用側パッチの直径D3の20%以下とされている。勿論、前述したイオントフォレーシス装置100と同様にグランド側パッチ200Bの側にも注射針挿入孔を設けてもよい。
【0065】
アニオン交換膜224A、224Bは、マイナスのイオンを選択的に透過させる機能を有するイオン交換膜であり、例えば、これに限定されるものではないが、(株)トクヤマ製ネオセプタ(NEOSEPTA)AM−1、AM−3、AMX、AHA、ACH、ACS等のアニオン交換膜を特に制限無く使用できる。又、ポリオレフィン樹脂、塩化ビニル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂等からなる多孔室フィルムの孔の一部又は全部に、陰イオン交換樹脂が充填されたタイプのアニオン交換膜を特に好ましく使用することができ、この場合の陰イオン交換樹脂の充填は、スチレン−ジビニルベンゼン、クロロメチルスチレン−ジビニルベンゼン等の架橋性単量体に重合開始剤を配合した溶液を上記多孔質フィルムの孔中に含浸させた後に重合させ、この重合体に1〜3級アミノ基、4級アンモニウム基、ピリジル基、インダゾール基、4級ピリジニウム基、4級イミダゾリウム基等の陰イオン交換基を導入することなどにより行なうことができる。
【0066】
一方カチオン交換膜222A、222Bは、プラスのイオンを選択的に透過させる機能を有するイオン交換膜であり、例えば、これに限定されるものではないが、(株)トクヤマ製ネオセプタ(NEOSEPTA)CM−1、CM−2、CMX、CMS、CMB等のカチオン交換膜を特に制限無く使用できる。又、ポリオレフィン樹脂、塩化ビニル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂等からなる多孔質フィルムの孔の一部又は全部に陽イオン交換樹脂が充填されたタイプのカチオン交換膜を特に好ましく使用することができ、この場合の陽イオン交換樹脂の充填は、例えば、スチレン−ジビニルベンゼン、クロロメチルスチレン−ジビニルベンゼン等の架橋性単量体に重合開始剤を配合した溶液を上記多孔質フィルムの孔中に含浸させた後に重合させ、この重合体にスルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基等の陽イオン交換基を導入することにより行なうことができる。
【0067】
加えて、このイオントフォレーシス装置200では、アニオン交換膜224Aの作用(マイナスイオンを選択的に透過させる作用)により緩衝液保持部226Aから薬剤保持部218Aへの分子量の小さいプラスイオンの移動が阻止され、又、カチオン交換膜の作用(プラスイオンを選択的に透過させる作用)により、生体側から薬剤保持部218Aへの分子量の小さいマイナスイオンの移動が阻止される結果、薬剤の電極219Aにおける分解や皮膚界面におけるpH変動が抑制され、薬剤投与の安定性、安全性を向上させることができる。又、このイオントフォレーシス装置では、薬剤保持部218Aと緩衝液保持部226Aが分離されているために、緩衝液保持部226A、226Bの電解液に酸化還元電位が水よりも小さい物質を配合すると共に、複数のイオン種を存在させた緩衝液とすることでガスの発生やpH変動を抑制することが可能となり、この場合には、電極219A、219Bに炭素や白金等の不活性金属を支障なく使用することが可能となる。特に、高伝導性、柔軟性を備え、且つ、金属イオンが溶出して生体に移行する懸念を許さない高分子マトリクスに炭素粉を配合した炭子部材と、炭素繊維又は炭素繊維紙からなる導電シート、あるいは、これに高分子エラストマーを含浸させた導電シートから構成される複合炭素電極を使用することが可能となる。
【0068】
このイオントフォレーシス装置200においても、前述したとおり、パッチの略中央部には注射針挿入孔212Aが設けられているため、このイオントフォレーシス装置200を用いて特定の物質を生体内に導入しつつ、その特定の物質と相乗効果の期待できる物質をこの注射針挿入孔212Aを利用して、パッチを剥がすことなく生体内へと注射等することが可能となっている。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、医療分野において用いられる経皮吸収パッチに広く適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明に係る経皮吸収用パッチであり、(A)が斜視図、(B)が(A)におけるIB−IB線に沿う断面図
【図2】注射針挿入孔を有する経皮吸収用パッチを生体内に貼り付けた場合における、薬剤の浸透状況を模式的に表わした図
【図3】本発明に係る経皮吸収用パッチの使用例
【図4】本発明に係る経皮吸収用パッチをイオントフォレーシス装置のデバイス(パッチ)として適用した際の概念構成図
【図5】本発明に係る経皮吸収用パッチを他のイオントフォレーシス装置に適用した場合の概念構成図
【図6】従来より存在する経皮吸収用パッチの使用例を示す図
【符号の説明】
【0071】
10…経皮吸収用パッチ
12…注射針挿入孔
14…貼付面
16…反貼付面
18…薬剤保持部
20…バッキング層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の表面を生体に貼付した状態で、薬剤を経皮吸収により体内へと導入するための経皮吸収用パッチであって、
一方の表面から他方の表面へと貫通する注射針挿入孔が備わっている
ことを特徴とする経皮吸収用パッチ。
【請求項2】
請求項1において、
前記注射針挿入孔は、前記一方及び他方の表面の略中央部に形成されている
ことを特徴とする経皮吸収用パッチ。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記注射針挿入孔の直径は、使用する注射針の直径よりも大である
ことを特徴とする経皮吸収用パッチ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
前記注射針挿入孔の直径は、パッチ自体の直径の20%以下である
ことを特徴とする経皮吸収用パッチ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、
前記注射針挿入孔の直径は、0.5mm乃至10mmである
ことを特徴とする経皮吸収用パッチ。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、
前記注射針挿入孔の直径は、2mm乃至8mmである
ことを特徴とする経皮吸収用パッチ。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、
前記注射針挿入孔の直径は、3mm乃至6mmである
ことを特徴とする経皮吸収用パッチ。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかにおいて、
更に、電源に接続される電極と、
該電極に通電可能、且つ、前記薬剤が含まれる薬剤保持部とを少なくとも備え、前記電極に電気を印加することによって前記薬剤保持部の薬剤を生体内へと積極的に導入する
ことを特徴とする経皮吸収用パッチ。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれかにおいて、
前記薬剤は、アンブカイン、アモラノン、アミルカイン、べノキシネート、ベンゾカイン、べトキシカイン、ビフェナミン、ブピバカイン、ブタカイン、ブタンベン、ブタニリカイン、ブテサミン、ブトキシカイン、カルチカイン、クロロプロカイン、コカエチレン、コカイン、シクロメチカイン、ジブカイン、ジメチソキン、ジメトカイン、ジぺロドン、ジクロニン、エコゴニジン、エコゴニン、ユープロシン、フェナルコミン、ホルモカイン、へキシルカイン、ヒドロキシテテラカイン、イソブチルp−アミノベンゾエート、ロキシノカイン、レボキサドロール、リドカイン、メピバカイン、メプリルカイン、メタブトキシカイン、塩化メチル、ミルテカイン、ナエパイン、オクタカイン、オルトカイン、オキセサゼイン、パレントキシカイン、フェナカイン、フェノール、ピペロカイン、ピリドカイン、ポリドカノール、プラモキシン、プリロカイン、プロカイン、プロパノカイン、プロパラカイン、プロピポカイン、プロポキシカイン、プソイドコカイン、ピロカイン、ロピバカイン、サリチルアルコール、テトラカイン、トリカイン、トリメカイン、ゾラミンのうちいずれか1以上のナトリウムチャネル遮断薬である
ことを特徴とする経皮吸収用パッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−44258(P2007−44258A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−231824(P2005−231824)
【出願日】平成17年8月10日(2005.8.10)
【出願人】(504153989)トランスキュー・テクノロジーズ 株式会社 (83)
【Fターム(参考)】