説明

洗浄に使用した洗浄溶剤及び加工油の回収方法及びその装置

【課題】
洗浄溶剤を真空蒸留再生した後に洗浄溶剤及び加工油を簡易な方法で分離して回収して安全に再利用可能とすることにより、環境への負荷を軽減可能とする。

【解決手段】
被洗浄物の洗浄作業により加工油が混入した非水系で引火点が50℃以上の洗浄溶剤5を、耐圧製の減圧槽1に導入するとともに減圧状態で洗浄溶剤5の沸点以上で加工油の沸点未満に加熱して前記洗浄溶剤5を蒸留分離し、この蒸留分離した洗浄溶剤5及び前記加工油を回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品、機械部品、医療機器等の加工製造時に加工油が付着した被洗浄物の洗浄後に、洗浄溶剤を蒸留して洗浄溶剤に混入した加工油を洗浄溶剤と分離することにより、洗浄溶剤及び加工油を別個に回収して再利用するための方法及びその方法に使用する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属や樹脂等の切削、研削、研磨等を行う場合に、摩擦抑制や冷却等の目的で加工油が使用されている。この加工作業に於いて使用された加工油は、上記加工処理後の金属や樹脂等の表面に残留し、また、切り粉、バリ、汚泥等の固形物も、加工油とともに残留する場合もある。
【0003】
このような加工油が付着した加工作業後の金属や樹脂等(以下、「被洗浄物」という。)を洗浄するためのものとして、特許文献1に示す如き洗浄装置が公知となっている。この従来技術は、上記加工作業後の被洗浄物を洗浄溶剤と接触させて洗浄作業を行うことにより、加工作業により被洗浄物の表面に付着した加工油や汚物を除去しようとするものである。
【0004】
また、特許文献1に示す如き発明に於いて被洗浄物の液洗浄や蒸気洗浄を行うと、その洗浄作業に伴って洗浄溶剤に加工油が混入し、また固形物が混入する場合もあり、洗浄溶剤が汚染されるものとなる。そこで、このような洗浄作業により汚染された洗浄溶剤を蒸留再生するためのものとして、特許文献2に示す如き発明が公知となっている。この発明に於いては、汚染された洗浄溶剤を減圧した減圧槽内に於いてその沸点以上まで加熱することにより、汚染洗浄溶剤の真空蒸留再生を可能としている。
【0005】
また、上記特許文献2に示す如き洗浄溶剤の蒸留回収装置に於いては、洗浄溶剤の真空蒸留再生後に減圧槽内に残留した残液中に、加工油が残留するものとなる。この残液中に残留した加工油は、一般的に廃液として捨てられていた。そのため、多量の加工油を廃液として処理することとなり、環境への負荷が高いものとなっていた。また、加工油の再利用もできないものとなっていた。
【0006】
これに対して、特許文献3に記載の発明は、研削屑の表面に付着した加工油(軽油)や水分を、親水性の洗浄溶剤であるアセトン又はイソプロピルアルコール(以下、「IPA」という)に溶解させて上記研削屑の表面から除去することを目的とし、このようにして研削屑の表面から除去した加工油を、上記洗浄溶剤及び水分と分離して再利用しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−99148号公報
【特許文献2】特開2001−162234号公報
【特許文献3】特開2003−55783号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献3に於いては、前述の如く研削屑の表面に付着した加工油を洗浄溶剤であるアセトン又はIPAに溶解させて除去するものであるから、一度洗浄溶剤に溶解させた加工油を再度洗浄溶剤と完全に分離させることは、後述の[実験1〜3]に於いて示す如く極めて困難である。即ち、再利用する加工油中には、後述する如く分離しきれなかった少量の洗浄溶剤(アセトン又はIPA)が、必然的に残留するものとなる。
【0009】
そして、上記特許文献3に示す従来例に於いて加工油中に残留するアセトンの引火点は−18℃で、IPAの引火点は12〜13℃である。加工油は、加工部分の冷却等のために用いられるのが通常であり、加工部分との熱交換により、使用時にその温度が50℃近くまで上昇する場合もある。従って、上述の如く引火点が50℃未満の溶剤を洗浄溶剤として用いた場合には、加工油の再利用時に、上述の如く加工油中に残留した洗浄溶剤がその引火点以上まで加熱され、引火する危険性が高まるため、再生した加工油を安全に使用することが困難なものとなっていた。
【0010】
また、特許文献3においては前述の如く、親水性の洗浄溶剤であるIPA又はアセトンに水分を溶解させるものであり、このように可溶性の溶剤を一度水分と溶解させた後に、これを水分と分離して再利用することは蒸留作業を行っても極めて困難である。
【0011】
そこで本発明は、上述の如き課題を解決しようとするものであって、洗浄溶剤を真空蒸留再生した後に、洗浄溶剤及び加工油を効率的に回収して安全に再利用可能とすることにより、環境への負荷を軽減しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明は上述の如き課題を解決するため、被洗浄物の洗浄作業により加工油が混入した非水系で引火点が50℃以上の洗浄溶剤を、耐圧製の減圧槽に導入するとともに減圧状態で洗浄溶剤の沸点以上で加工油の沸点未満に加熱して前記洗浄溶剤を蒸留分離する。そして、この蒸留分離した洗浄溶剤及び前記加工油を別個に回収するものである。
【0013】
また、上記方法を実施するための装置は、被洗浄物の洗浄作業により加工油が混入した非水系で引火点が50℃以上の洗浄溶剤を導入し、減圧状態で前記洗浄溶剤の沸点以上で加工油の沸点未満に加熱して前記洗浄溶剤を蒸留分離し、この洗浄溶剤の蒸留分離後の加工油を回収可能とする減圧槽と、加工油から前述の如く蒸留分離した洗浄溶剤を回収可能とする溶剤回収槽と、前記洗浄溶剤をその沸点以上で加工油の沸点未満に加熱可能な加熱源と、前記減圧槽内を減圧可能な真空機構とを備えている。
【0014】
また、洗浄溶剤は、非水系の溶剤である炭化水素系溶剤、シリコーン系溶剤又は塩素系溶剤であっても良い。
【0015】
なお、本明細書及び特許請求の範囲に於いて、「減圧槽」とは「減圧可能な槽」をいい、「減圧した槽」をいうものではない。即ち、「減圧槽」は、加工油の回収時等に、必要に応じて常圧で使用することが可能なものある。また、本明細書中及び特許請求の範囲に於いて、「固形物」には、バリ、切削片等、一定の形状を有する固形物だけでなく、汚泥その他の一定の形状を有しない固形物、即ち、半固形物が含まれるものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明は上述の如く構成したものであって、被洗浄物の洗浄作業により加工油が混入した洗浄溶剤を蒸留し、この洗浄溶剤の蒸留後の加工油を回収し、この加工油を再利用可能としている。そのため、加工油の消耗を抑制して、ランニングコストを低くすることが可能となる。また、上述の如く、加工油を回収して再利用可能とすることにより、廃液として処理される加工油の量を減らすことが可能となるため、環境への負荷を軽減することが可能となる。
【0017】
また、加工油は、被加工物の切削、研磨等の加工時には、被加工物の冷却目的からも一般的に50℃未満の温度で使用されるものである。本発明に於いては、引火点が50℃以上の溶剤を洗浄溶剤として用いるため、再利用する加工油中に蒸留しきれなかった洗浄溶剤が残留していたとしても、再利用時に加工油の温度が50℃以上になることは通常の加工作業に於いてはないため、この加工油中に残留した洗浄溶剤の温度がその引火点以上となるおそれもないものとなる。そのため、加工油の再利用時に於ける洗浄溶剤への引火を困難なものとすることが可能となり、再生した加工油を安全に利用することが可能となる。
【0018】
また、被洗浄物の洗浄作業により加工油が混入した洗浄溶剤を、耐圧製の減圧槽に導入するとともに減圧状態で洗浄溶剤の沸点以上で加工油の沸点未満に加熱して前記洗浄溶剤を蒸留するものであり、減圧では常圧と比較して洗浄溶剤の沸点を低くすることが可能となるため、低い温度で洗浄溶剤を蒸留することが可能となる。そのため、洗浄溶剤の熱劣化を抑制し、洗浄溶剤の耐用期間を長くすることが可能となるため、洗浄溶剤の消耗を抑制することが可能となり、この面からもランニングコストを低くすることが可能となる。また、上述の如く洗浄溶剤の耐用期間を長くすることにより、廃液として排出される洗浄溶剤の量を抑制することが可能となるため、環境への負荷を抑制することが可能となる。
【0019】
また、洗浄溶剤として非水系の溶剤を用いるため、蒸留分離後の洗浄溶剤に水分が混入している場合に、水分と洗浄溶剤とを比重差を利用して、簡易な方法で分離することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1を示す概念図。
【実施例1】
【0021】
本発明の実施例1を図1において説明すると、(1)は耐圧製の減圧槽で、上端を蓋体(2)により気密的に被覆するとともに、この蓋体(2)に、減圧槽(1)内の減圧度を測定するための減圧センサー(3)を配置している。なお、本実施例に於いては説明の便のため、上端、下端等の用語は、図1を基準として用いるものとする。
【0022】
また、上記減圧槽(1)は、洗浄溶剤(4)を加熱する加熱源(5)を備えた溶剤収納部(6)を設けている。また、本発明に於いては、洗浄溶剤(4)として非水系で引火点が50℃以上の溶剤を用いる。例えば、C10ノルマルパラフィン等の炭化水素系溶剤、シリコーン系溶剤、パークロロエチレン、トリクロロエチレン等の塩素系溶剤を用いることができる。このように、引火点が50℃以上の溶剤を洗浄溶剤(4)として用いることにより、再利用する加工油中に蒸留しきれなかった洗浄溶剤(4)が残留していたとしても、再利用時に加工油の温度が50℃以上になることは、通常の加工作業に於いては無いか極めて少ないものであるから、この加工油中に残留した洗浄溶剤(4)に引火する虞れのないものとなる。
【0023】
また、減圧槽(1)は、前記溶剤収納部(6)に第1開閉バルブ(7)、汚液濾過器(8)を介して加工油回収槽(10)を接続している。そして、洗浄溶剤(4)の蒸留後に減圧槽(1)内に残留する残液から、汚液濾過器(8)で固形物を除去して、加工油を加工油回収槽(10)に回収する。また、汚液濾過器(8)は、汚液中に含まれる固形物の種類によって、濾過材を用いたもの、マグネット式のもの等を使用することが可能であるし、汚液の自重による落下を利用して濾過するものであっても良いし、遠心分離方式を用いたものであっても良い。
【0024】
また、前記溶剤収納部(6)には、洗浄溶剤(4)の過剰な導入を感知して防止するための第1液位センサー(11)を上部に配置するとともに、洗浄溶剤(4)の不足した状態での空炊きを防止するための第2液位センサー(12)を下部に配置している。また、前記溶剤収納部(6)の下部には温度センサー(13)を接続して、減圧槽(1)内の過熱化による洗浄溶剤(4)の熱劣化を防止可能としている。
【0025】
また、前記減圧槽(1)は、溶剤蒸気の凝縮部(14)、第2開閉バルブ(15)を介して真空機構(16)に接続して槽内を減圧可能としている。また、溶剤蒸気の凝縮部(14)は溶剤蒸気を流通する凝縮管(17)を内部にコイル状に設けるとともに、冷却媒体の導入路(18)及び導出路(20)を設けている。また、前記凝縮部(14)を、第2開閉バルブ(15)を介して真空機構(16)と接続している。また、図中(21)は真空解除弁である。
【0026】
また、前記減圧槽(1)は、図1に示す如く、第3開閉バルブ(22)を介して、被洗浄物(23)の液洗浄及び蒸気洗浄を行うための洗浄槽(24)と接続している。また、この減圧槽(1)は洗浄槽(24)の液面部分と第4開閉バルブ(25)を介して接続し、オーバーフロー液を導入可能としている。また、この洗浄槽(24)は、内部の減圧に耐える構成を採用せず、常圧型としている。このように、常圧型の洗浄槽(24)を用いることにより、耐圧製の洗浄槽(24)を用いる場合と比較して、装置の構成を簡易なものとし、装置の製造コストを廉価なものとすることが可能となる。
【0027】
なお、本実施例に於いてはこのように、常圧型の洗浄槽(24)を用いているが、他の異なる実施例に於いては、洗浄槽(24)を耐圧製とすることも可能である。このように被洗浄物(23)の液洗浄及び蒸気洗浄を減圧で行うことにより、減圧状態に於いては常圧と比較して酸素が少ないため、洗浄溶剤(4)の酸化劣化の進行を抑制することが可能となる。一方で、洗浄槽(24)を耐圧構成とする必要があるため、装置の製造コストが高くなる。
【0028】
また、上記洗浄槽(24)は、被洗浄物(23)を図1のaに示す如く洗浄溶剤(4)に浸漬して液洗浄を行うための液洗浄部(26)を、下部に形成している。この液洗浄部(26)は、その下端部を、前記汚液濾過器(8)とは別個の汚液濾過器(27)、第5開閉バルブ(28)を介して前記減圧槽(1)内の液面の上部と接続している。
【0029】
また、本実施例に於いては前述の如く、汚液濾過器(27)を洗浄槽(24)と減圧槽(1)との間に設けているから、洗浄溶剤(4)を濾過し、固形物を除去して減圧槽(1)に導入可能としている。この汚液濾過器(27)は、前記汚液濾過器(8)と同様に、濾過材を用いたもの、マグネット式のもの等を使用することが可能である。また、汚液の自重による落下を利用して濾過するものであっても良いし、遠心分離方式を用いたものであっても良い。
【0030】
また、上記液洗浄部(26)は、図1に示す如く、その下部一側を、前記凝縮部(14)と接続している。この接続は、第3液位センサー(30)を設けた水分分離槽(31)を介して行い、前記凝縮部(14)に於いて凝縮液化した洗浄溶剤(4)を、水分分離槽(31)に於いて比重差を利用して水分と分離した後、上記液洗浄部(26)に導入可能としている。また、液洗浄部(26)と凝縮部(14)の間には、水分分離槽(31)側から第6、第7開閉バルブ(32)(33)を設け、この第6開閉バルブ(32)と第7開閉バルブ(33)の間には、第8開閉バルブ(34)を介して、再生液回収部(35)を接続している。
【0031】
また、前記液洗浄部(26)の上方には、被洗浄物(23)の蒸気洗浄を行うための蒸気洗浄部(36)を設けており、被洗浄物(23)を液洗浄部(26)から図1のb位置に示す蒸気洗浄部(36)に移動させることにより、被洗浄物(23)の蒸気洗浄を前述の液洗浄と連続して行うことができる。この蒸気洗浄部(36)は、前記減圧槽(1)内の溶剤蒸気を、第3開閉バルブ(22)を介して導入可能としている。
【0032】
また、この蒸気洗浄部(36)の上方には、洗浄槽(24)の内面に冷却コイル(37)を配置することにより、溶剤蒸気を冷却凝縮して回収するための冷却乾燥部(38)を形成しており、被洗浄物(23)を蒸気洗浄部(36)から図1のc位置に示す冷却乾燥部(38)に移動させることにより、被洗浄物(23)の冷却乾燥を行う。この冷却乾燥の完了後に、被洗浄物(23)を洗浄槽(24)の上端から図1のd位置に示す外部に取り出し可能としている。また、上記冷却乾燥部(38)に於いて、上記冷却コイル(37)に凝縮回収した洗浄溶剤(4)は、水分分離器(40)を介して前記液洗浄部(26)に環流可能としている。
【0033】
そして、上述の如く構成したものに於いて、上述の被洗浄物(23)の液洗浄及び蒸気洗浄により加工油を含む汚液が混入した洗浄溶剤(4)の真空蒸留再生を行うには、まず、第1、第3〜第6開閉バルブ(7)(22)(25)(28)(32)及び真空解除弁(21)を閉止するとともに第2開閉バルブ(15)を開放した状態で、真空機構(16)を稼働して、減圧槽(1)内を一定の減圧度まで減圧する。そして、この減圧の後に、第2開閉バルブ(15)を閉止するとともに第5開閉バルブ(28)を開放し、減圧槽(1)内の負圧を利用して洗浄槽(24)内の汚染された洗浄溶剤(4)を減圧槽(1)内に急激に導入する。また、この導入の際に、汚液濾過器(8)を介して洗浄溶剤(4)から固形物を除去する。
【0034】
そして、この導入の完了後、第5開閉バルブ(28)を閉止するとともに第2開閉バルブ(15)を開放する。そして、真空機構(16)を稼働して再度減圧槽(1)内を減圧するとともに、加熱源(5)により溶剤収納部(6)内の洗浄溶剤(4)をその沸点以上まで加熱し、減圧状態で溶剤蒸気を発生させる。なお、この洗浄溶剤(4)の蒸留時に、汚染された洗浄溶剤(4)中に含まれる加工油が洗浄溶剤(4)とともに沸騰蒸発するのを防止するため、洗浄溶剤(4)の加熱温度は、前記加工油の沸点未満とする。そして、上述の如く発生させた溶剤蒸気を凝縮部(14)に導入して冷却し、凝縮液化させる。なお、上述の如く蒸留する溶剤収納部(6)内の洗浄溶剤(4)中に水分が混入している場合には、この水分も上記洗浄溶剤(4)とともに沸騰蒸発し、凝縮部(14)で凝縮液化される。
【0035】
本願発明に於いてはこのように、耐圧製の減圧槽(1)内に於いて減圧状態で溶剤蒸気を発生させて、洗浄溶剤(4)の真空蒸留再生を行うものである。そして、減圧では常圧と比較して洗浄溶剤(4)の沸点を低くすることが可能となるため、低い温度で洗浄溶剤(4)を蒸留することが可能となる。そのため、洗浄溶剤(4)の熱劣化を抑制し、洗浄溶剤(4)の耐用期間を長くすることが可能となるため、洗浄溶剤(4)の消耗を抑制することが可能となり、ランニングコストを低くすることが可能となる。また、上述の如く洗浄溶剤(4)の耐用期間を長くすることにより、廃液として排出される洗浄溶剤(4)の量を抑制することが可能となるため、環境への負荷を抑制することが可能となる。
【0036】
また、前述の如く凝縮部(14)に回収して凝縮液化した洗浄溶剤(4)を、水分分離槽(31)内に導入し、比重差を利用して水分と分離する。本発明に於いては前述の如く、洗浄溶剤(4)として非水系の溶剤を用いるため、このように比重差を利用して水分と洗浄溶剤(4)とを簡易な方法で分離することが可能となる。
【0037】
この水分と分離した洗浄溶剤(4)は、洗浄槽(24)への洗浄溶剤(4)の環流が必要な場合には、第6、第7開閉バルブ(32)(33)を開放するとともに第8開閉バルブ(34)を閉止して、洗浄槽(24)に環流する。また、洗浄槽(24)への洗浄溶剤(4)の環流が不要な場合には、第6、第8開閉バルブ(32)(34)を開放するとともに第7開閉バルブ(33)を閉止して、再生した洗浄溶剤(4)を再生液回収部(35)に導入する。このように、凝縮部(14)に於いて凝縮した洗浄溶剤(4)を、洗浄槽(24)又は再生液回収部(35)へ、選択的に導入することを可能としている。そのため、装置の使用性を高めることが可能となる。
【0038】
また、上記の洗浄溶剤(4)の真空蒸留再生が完了すると、減圧槽(1)内には、被洗浄物(23)の洗浄作業に於いて洗浄溶剤(4)中に混入した加工油と固形物、または極めて少量の洗浄溶剤が残留するものとなる。この洗浄槽(24)内に残留した残留物から加工油を回収するには、第2開閉バルブ(15)を閉止するとともに真空解除弁(21)を開放して減圧槽(1)内の真空を解除し、第1開閉バルブ(7)を開放する。これにより、洗浄槽(24)内に残留する加工油及び固形物を含む残留物を、前記汚液濾過器(8)で濾過し、固形物を除去した残留物中の加工油を、加工油回収槽(10)に回収する。本実施例に於いては前述の如く、洗浄溶剤(4)の蒸留前には汚液濾過器(27)で、洗浄溶剤(4)の蒸留後には汚液濾過器(8)で、それぞれ固形物の除去作業を行うこととしている。そのため、洗浄溶剤(4)に多量の固形物が含まれるような場合にも、固形物を確実に除去することが可能となり、上述の如く加工油回収槽(10)に回収する加工油の純度を高めることが可能となる。
【0039】
また、上述の如く、加工油を回収し、この加工油を再利用することを可能としているため、加工油の消耗を抑制して、ランニングコストを低くすることが可能となる。また、上述の如く、加工油を再利用可能とすることにより、廃液として処理される加工油の量を減らすことが可能となるため、環境への負荷を軽減することが可能となる。
【0040】
なお、本実施例に於いては上述の如く、減圧槽(1)と洗浄槽(24)とを接続し、被洗浄物(23)の洗浄作業、溶剤の蒸留再生作業及び加工油の回収作業を一連に行うこととしている。しかしながら、他の異なる実施例に於いては、減圧槽(1)とは一連に接続することなく、別体に設けた洗浄槽(24)内で被洗浄物(23)の洗浄作業を行い、この洗浄作業により汚染された洗浄溶剤(4)を減圧槽(1)内に個別に導入して、洗浄溶剤(4)の真空蒸留再生作業及び加工油の回収作業を行うものであっても良い。
【0041】
そして、従来技術である特許文献3に記載の「洗浄に使用した洗浄溶剤及び加工油の回収方法」を用いた比較例の実験1〜3を行い、本願発明の実施例との技術的効果を対比した。
【0042】
特許文献3に記載の発明で用いているIPAと水、又はアセトンと水とを混合した場合に、蒸留液に水分がどの程度含まれるかについて下記の如く実験1、実験2を行った。
[実験1]
まず、親水性溶剤であるIPAと水との混合液を蒸留した場合に、蒸留液に水分がどの程度残留するかを測定する実験を行った。本実験に於いては、
(IPA):(水)=69.6[wt%]:30.4[wt%]=197.8g
の割合(実測値)で両者を混合させ、この混合液をガラス製単蒸留器(以下、「蒸留器」という。)に投入して蒸留し、蒸留回収液を得た。そして、蒸留前の混合液、蒸留回収液、蒸留後に蒸留器内に残った蒸留残液中の水分濃度をそれぞれ測定した。
【0043】
【表1】

【0044】
表1に示す通り、IPA69.6wt%と水30.4wt%との混合液を蒸留した結果、98.0g(49.5wt%)の蒸留回収液を得た。この蒸留回収液中の水分濃度は、19.5wt%であった。このことから親水性の溶剤であるIPAに水を混合した場合には、たとえ混合液の蒸留を行っても蒸留液中に多量の水分が残留してしまい、IPAと水分とを確実に分離することは困難であることが分かった。また、97.7g(49.4%)の蒸留残液が蒸留器中に残留した。この蒸留残液中の水分濃度は42.7wt%であった。尚、蒸留回収液及び蒸留残液の水分濃度は、ガスクロマトグラフィーを用いて測定した。
【0045】
[実験2]
次に、親水性溶剤であるアセトンと水との混合液を蒸留した場合に、蒸留液に水分がどの程度混入するかを測定する実験を行った。本実験に於いては、
(アセトン):(水)=68.0[wt%]:32.0[wt%]=216.2g
の割合(実測値)で両者を混合させ、前記実験1と同一の条件で測定を行った。実験2の実験結果を表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
表2に示す通り、アセトン68.0wt%と水32.0wt%との混合液を蒸留した結果、86.0g(39.8wt%)の蒸留回収液を得た。この蒸留回収液中の水分濃度は、5.0wt%であった。このことから親水性の溶剤であるアセトンに水を混合した場合には、たとえ混合液の蒸留を行っても蒸留液中に多量の水分が残留してしまい、アセトンと水分とを確実に分離することは困難であることが分かった。また、127.0g(58.7%)の蒸留残液が蒸留器中に残留した。この蒸留残液中の水分濃度は47.0wt%であった。尚、蒸留回収液及び蒸留残液の水分濃度は、ガスクロマトグラフィーを用いて測定した。
【0048】
以上実験1、実験2の実験結果から明らかな通り、親水性の溶剤に水分が混合した場合には、たとえ混合液の蒸留を行っても蒸留液中に水分が混入してしまい、洗浄溶剤と水分とを確実に分離することは困難であることが分かった。
【0049】
[実験3]
本実験に於いては、親水性の洗浄溶剤としてIPA(引火点12℃〜13℃)を用いるとともに、加工油として軽油を用いた。即ち、前記特許文献3に於いて開示されている洗浄溶剤及び加工油と、同一の組み合わせとした。そして、
(IPA):(軽油)=49.95[wt%] :50.05[wt%] =263.6g
の割合(実測値)で混合させた混合液をガラス製単蒸留器(以下、「蒸留器」という。)に投入し、蒸留した。尚、この蒸留実験に於ける初留点は84.0℃、終留点は94.0℃であった。
【0050】
【表3】

【0051】
また、表3に於いて、蒸留後に蒸留器に残留した残液(以下、単に「残液」という。)中のIPA含有率は、以下のようにして算出した。即ち、前記残液から採取した試料1[μl]と、IPAの新液(IPA含有率100%)から採取した試料1[μl]について、それぞれガスクロマトグラフィー分析を行った。その結果、各液についてのIPAのピークのカウント数は以下の通りであった。
IPAのピークのカウント数
IPAの新液 22,446,700カウント
本実験の残液 1,273,150カウント
【0052】
上記カウント数から、本実験の残液中のIPA含有率を算出すると、約5.7[%]であった。この実験結果から、IPAからなる洗浄溶剤と加工油との混合液を蒸留しても、両者を確実に分離することは困難であることが示された。従って、上記IPA(引火点12〜13℃)の如く引火点が50℃未満の洗浄溶剤を用いると、加工油の再利用時に加工油の温度が万一50℃近くまで上昇した場合に、蒸留後も加工油中に残留した洗浄溶剤に引火する危険性が高まり、再生した加工油を安全に利用することができないものとなる。
【0053】
[実験4]
また、非水系の溶剤を洗浄溶剤として用いる本願発明について、洗浄溶剤と水と加工油の混合液を蒸留した場合に、蒸留後の蒸留回収液と蒸留残液に、洗浄溶剤、水、加工油がそれぞれどの程度混入するかを測定する実験を行った。本実験に於いては、炭化水素系溶剤である「NSクリーン100(株式会社ジャパンエナジー製)」を洗浄溶剤として用いるとともに、「レータス150(株式会社ジャパンエナジー製)」を加工油として用いた。そして、
(洗浄溶剤):(水):(加工油)=79.2wt%:10.2wt%:10.6wt%
の割合で混合した混合液(316.1g)を、上記洗浄溶剤の沸点以上、且つ、加工油の沸点未満の温度条件(初留点100℃、終留点200℃)で蒸留した。本実験の実験結果を、表4に示す。
【0054】
【表4】

【0055】
表4に示す通り、上記混合液(316.1g)を蒸留した結果、277.3gの蒸留回収液を得た。この蒸留回収液中には、洗浄溶剤、水が、それぞれ89.2wt%、10.8wt%の割合で含まれており、加工油は0.0wt%、即ち、含まれていなかった。また、表4に示す如く、上記混合液の蒸留の結果、蒸留器に残留した蒸留残液は36.5gであった。この蒸留残液中には、洗浄溶剤、加工油が、それぞれ8.2wt%、91.8wt%の割合で含まれており、水は0.0wt%、即ち、含まれていなかった。このように、本実施例に於いては蒸留残液中に高い割合で加工油が含まれるものであり、このことから、本願発明の目的たる加工油の回収を、効率的に行えることが示された。
【0056】
また、実験4の実験結果が示す通り、本願発明の実施例に於いても、比較例1〜3の場合と同様、蒸留後の蒸留残液中に加工油とともに洗浄溶剤が混入するものとなる。しかしながら、本願発明に於いては前述の如く、引火点が50℃以上の溶剤を洗浄溶剤として使用するものである。そのため、たとえ加工油を再利用する際に、加工油の温度が50℃近くまで上昇することは現実的にないから、上述の如く加工油中に残留する洗浄溶剤の引火点に達することがないため、上記洗浄溶剤への引火を困難なものとすることが可能となる。そのため、再生した加工油を安全に利用することが可能となる。
【0057】
また、上記従来技術の方法に於いて洗浄溶剤と加工油との蒸留を行うためには、上述の如く洗浄溶剤であるIPAをその引火点(12〜13℃)よりも遥かに高い温度である84.0℃〜94.0℃まで加熱しなければならないから、上記蒸留作業中に於けるIPAの引火の危険性が高いものとなり、この蒸留作業そのものが危険を伴うものとなる。これに対して、本願発明に於いては前述の如く、洗浄溶剤と加工油の蒸留分離作業を酸素量の少ない減圧状態で行うため、洗浄溶剤への引火の危険性を極めて少ないものとすることが可能となる。そのため、洗浄溶剤と加工油との分離作業を安全に行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0058】
1 減圧槽
5 洗浄溶剤
6 加熱源
7 被洗浄物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被洗浄物の洗浄作業により加工油が混入した非水系で引火点が50℃以上の洗浄溶剤を、耐圧製の減圧槽に導入するとともに減圧状態で洗浄溶剤の沸点以上で加工油の沸点未満に加熱して前記洗浄溶剤を蒸留分離し、この蒸留分離した洗浄溶剤及び前記加工油を回収することを特徴とする洗浄に使用した洗浄溶剤及び加工油の回収方法。
【請求項2】
被洗浄物の洗浄作業により加工油が混入した非水系で引火点が50℃以上の洗浄溶剤を導入し、減圧状態で前記洗浄溶剤の沸点以上で加工油の沸点未満に加熱して前記洗浄溶剤を蒸留分離し、この洗浄溶剤の蒸留分離後の加工油を回収可能とする減圧槽と、加工油から前述の如く蒸留分離した洗浄溶剤を回収可能とする溶剤回収槽と、前記洗浄溶剤をその沸点以上で加工油の沸点未満に加熱可能な加熱源と、前記減圧槽内を減圧可能な真空機構とを備えたことを特徴とする洗浄に使用した洗浄溶剤及び加工油の回収装置。
【請求項3】
洗浄溶剤は、炭化水素系溶剤、シリコーン系溶剤又は塩素系溶剤であることを特徴とする請求項1に記載の洗浄に使用した洗浄溶剤及び加工油の回収方法。
【請求項4】
洗浄溶剤は、炭化水素系溶剤、シリコーン系溶剤又は塩素系溶剤であることを特徴とする請求項2に記載の洗浄に使用した洗浄溶剤及び加工油の回収装置。


【図1】
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【公開番号】特開2010−221209(P2010−221209A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−217302(P2009−217302)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(390019884)ジャパン・フィールド株式会社 (28)
【Fターム(参考)】