説明

洗浄用組成物及びそれを用いる液晶性ポリエステル製造装置の洗浄方法

【課題】液晶性ポリエステル製造装置において、縮重合槽の内壁等にある残存液晶性ポリエステルのみならず、分縮器等に付着・残存している液晶性ポリエステル飛沫又は原料モノマーをも、有効に洗浄し得る洗浄用組成物及びこれを用いた洗浄方法を提供する。
【解決手段】グリコール類と、アミン類と、環状エステル類、アミド類及びスルホキシド類からなる群より選ばれる化合物とを混合して、洗浄用組成物とする。この洗浄用組成物中、アミン類の含有量は、5〜40質量%とし、環状エステル類、アミド類及びスルホキシド類からなる群より選ばれる化合物の含有量は、5〜30質量%とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶性ポリエステルの製造装置の洗浄に使用される洗浄用組成物及び該洗浄用組成物を用いる洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶性ポリエステルは、耐熱性、耐溶剤性に優れることから、各種電子部品や工業部品に用いられている。通常、液晶性ポリエステルは、製造用の原料モノマー類の一部をエステル形成性誘導体に転換してから、このエステル形成性誘導体を含む原料モノマー類を溶融重合させることで製造される。典型的な液晶性ポリエステルの製造方法について記すと、まず、該原料モノマーのうち、芳香族ヒドロキシカルボン酸のヒドロキシル基、あるいは芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジオールのヒドロキシル基を無水酢酸でアセチル化して、これらのアシル化物を得る。そして、該アシル化物を含む原料モノマー類を、製造装置(縮重合槽)内で溶融重合させることで液晶性ポリエステルは製造される(例えば、特許文献1参照)。製造後の液晶性ポリエステルは、その溶融状態を維持する程度に保温されたまま、縮重合槽から抜き出される。その際、抜き出しきれなかった液晶性ポリエステルの一部は、縮重合槽の内壁等に付着して残存することがあり、このような残存液晶性ポリエステルがある縮重合槽を用いて、次回の液晶性ポリエステルの製造を行おうとすると、該残存液晶性ポリエステルが異物(不純物)となって混入することになり、所望の品質の液晶性ポリエステルが得られなくなることがある。
【0003】
このような不都合を回避するため、液晶性ポリエステル抜出後の縮重合槽を洗浄することが必要になるが、液晶性ポリエステル自体は極めて耐溶剤性に優れることから、当該液晶性ポリエステルに対する分解性を有する洗浄用組成物及び該洗浄用組成物を用いた洗浄方法が必要である。たとえば、特許文献2には、グリコール類及びアミン類(一級アミン類又は二級アミン類)からなる洗浄用組成物を用いた洗浄方法が開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−331829号公報
【特許文献2】特開平5−295392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述の液晶性ポリエステルの製造装置において、溶融重合時に副生する酢酸等を留出させて重合効率を向上させたり、揮発し易い原料モノマーを還流させたりするために、縮重合槽に分縮器等が設けられることがある。本発明者等が検討したところ、特許文献2で開示されている洗浄用組成物では縮重合槽の内壁にある残存液晶性ポリエステルは十分除去できるものの、分縮器等が設けられた縮重合槽を洗浄しようとする場合には、分縮器に付着している液晶性ポリエステルの飛沫や原料モノマーの一部(以下、場合により「分縮器の付着物」という)は十分除去できない場合があることが判明した。分縮器の付着物の量が著しい場合には、製造装置を解体して、該付着物を物理的に除去することが必要となり、液晶性ポリエステルの生産性悪化に繋がる。
【0006】
本発明は前記事情に鑑みてなしたものであり、縮重合槽の内壁等にある残存液晶性ポリエステルのみならず、分縮器等に付着・残存している液晶性ポリエステル飛沫又は原料モノマー(分縮器の付着物)をも、有効に洗浄し得る洗浄用組成物及びこれを用いた洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の<1>を提供する。
<1>液晶性ポリエステルの製造装置の洗浄に用いられる洗浄用組成物であって、以下の成分(A)、成分(B)及び成分(C)を含み、前記洗浄用組成物の総質量に対して、成分(B)の含有量が5〜40質量%であり、成分(C)の含有量が5〜30質量%である洗浄用組成物。
(A)グリコール類。
(B)アミン類。
(C)環状エステル類、アミド類及びスルホキシド類からなる群より選ばれる化合物。
【0008】
また、本発明は前記<1>に対する具体的な実施態様として、以下の<2>〜<4>を提供する。
<2>1気圧下での沸点が190℃以上240℃以下である、<1>の洗浄用組成物。
<3>前記成分(A)が、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール及びテトラエチレングリコールからなる群より選ばれるグリコール類を含む、<1>又は<2>の洗浄用組成物。
<4>前記成分(B)が、アルカノールアミンを含む、<1>〜<3>のいずれかの洗浄用組成物。
【0009】
また、本発明は前記いずれかの洗浄用組成物を用いた以下の<5>の洗浄方法を提供する。
<5>以下の工程を備える液晶性ポリエステルの製造装置の洗浄方法。
(1)溶融重合後の液晶性ポリエステルを製造装置から抜き出す抜き出し工程。
(2)<1>〜<4>のいずれかに記載の洗浄用組成物を調製する調製工程。
(3)液晶性ポリエステル抜出後の前記製造装置内に、前記調製工程で調製した洗浄用組成物を投入する投入工程。
(4)前記洗浄用組成物を前記製造装置内で還流させることにより前記製造装置内を洗浄する洗浄工程。
【発明の効果】
【0010】
本発明の洗浄用組成物によれば、液晶性ポリエステル製造に使用された縮重合槽の内壁にある残存液晶性ポリエステルのみならず、分縮器等に付着・残存している液晶性ポリエステル飛沫又は原料モノマー(分縮器の付着物)をも有効に洗浄することができる。そして、本発明の洗浄用組成物を用いれば、製造装置解体等の煩雑な工程を必要としないため、生産性を著しく低下させることなく、液晶性ポリエステルを製造することが可能となり、工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の洗浄用組成物は、下記の成分(A)、成分(B)及び成分(C)(以下、場合により「成分(A)〜(C)」という)を含み、該洗浄用組成物の総質量に対して、成分(B)の含有量が5〜40質量%であり、成分(C)の含有量が5〜30質量%であることを特徴とする。
(A)グリコール類。
(B)アミン類。
(C)環状エステル類、アミド類及びスルホキシド類からなる群より選ばれる化合物。
【0012】
本発明者等は、液晶性ポリエステルの縮重合槽の洗浄において、該縮重合槽内で洗浄用組成物を適度に蒸発・還流させ、蒸発した気体状の洗浄用組成物が、分縮器の付着物を十分に溶解させることができれば、該縮重合槽に設けられた分縮器を良好に洗浄できると考えた。そして、前記成分(A)〜(C)を特定量含む洗浄用組成物が、縮重合槽の内壁に付着している残存液晶性ポリエステルの除去性も十分であり、該洗浄用組成物が気体状となった場合、分縮器に付着している分縮器の付着物に対する溶解性が良好になることを見出して、本発明に到達した。
【0013】
以下、本発明の洗浄用組成物、該洗浄組成物を使用するための液晶性ポリエステル及びその製造装置、該製造装置の洗浄方法に関し、順次説明する。
【0014】
<洗浄用組成物>
本発明の洗浄用組成物を構成する各成分に関し、具体例を挙げて説明する。
【0015】
成分(A)に使用するグリコール類とは、分子内に2個のアルコール性ヒドロキシル基を有する化合物を意味し、典型的には下記式(I)
【0016】
HO−R1−OH (I)
【0017】
(式中、R1は、酸素原子で中断されていてもよい炭素数2〜30のアルキレン基を表す。)
【0018】
で示される化合物である。具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。これらの中でも、後述する洗浄用組成物の好適な沸点や低コストであることを勘案すると、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール及びテトラエチレングリコールからなる群より選ばれるグリコール類が好ましく、トリエチレングリコールが特に好ましい。
【0019】
成分(B)に使用するアミン類は、分子内にアミノ基を有する化合物であり、該アミノ基は一級アミノ基であっても、二級アミノ基であってもよく、分子内に一級アミノ基及び二級アミノ基を組み合わせて有していてもよい。具体的には、ジエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、ヘキシルアミン等のアルキル基を有するアミン、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン等のジアミン、アニリン、ベンジルアミン等の芳香環を有するアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンが挙げられる。これらの中でも、後述する洗浄用組成物の好適な沸点や低コストであることを勘案すると、アルカノールアミン、とりわけモノエタノールアミン及び/又はジエタノールアミンが好ましく、さらに取扱性も考慮するとモノエタノールアミンが特に好ましい。
【0020】
成分(C)は、環状エステル類、アミド類及びスルホキシド類からなる群より選ばれる化合物である。
【0021】
環状エステル類とは、環内にエステル結合(−C(=O)−O−)を有する化合物を意味し、ラクトン類とも呼ばれ、典型的には炭素数4〜7のシクロアルカンの環を構成しているメチレン基のうち、一つがエステル結合に置き換わった化合物が挙げられる。後述する洗浄用組成物の好適な沸点を勘案し、市場から容易に入手し易いものを選択すると、γ−ブチロラクトンが好適である。
【0022】
アミド類とは分子内にアミド結合を有する化合物を意味し、鎖状(非環状)のものであってもよいし、環状のもの(ラクタム類)であってもよい。後述する洗浄用組成物の好適な沸点を勘案し、市場から容易に入手し易いものを選択すると、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド及びN−メチル−2−ピロリドンからなる群より選ばれるアミド類が好適である。
【0023】
スルホキシド類とは、分子内にスルフェニル基(−S(=O)−)を有する化合物を意味し、後述する洗浄用組成物の好適な沸点を勘案し、市場から容易に入手し易いものを選択すると、ジメチルスルホキシドが好適である。
【0024】
このような環状エステル類、アミド類あるいはスルホキシド類において、特に分縮器等の洗浄性が良好なものとしては、その双極子モーメントが3以上であると好ましい。双極子モーメントがあまり小さい化合物を成分(C)に用いると、分縮器の付着物の除去に比較的時間がかかることがある。このような双極子モーメントを考慮すると、N−メチルピロリドンが成分(C)として特に好ましい。
【0025】
本発明の洗浄用組成物は、1気圧下の沸点が190℃以上240℃以下の範囲であると好ましく、200℃以上240℃以下の範囲であると、より好ましく、210℃以上240℃以下の範囲であると、さらに好ましい。本発明の洗浄用組成物を用いた洗浄方法において、洗浄時の温度は高い方が、液晶性ポリエステルの分解性を大にするため、縮重合槽の内壁にある残存液晶性ポリエステルに対する洗浄効果は大きくなる。そのため、洗浄用組成物の沸点は190℃以上であることが好ましい。一方、上述のように分縮器を洗浄するためには、該洗浄用組成物を蒸発・還流させる必要がある。洗浄用組成物の沸点が高すぎると、蒸発・還流するうえで高温が必要となり、エネルギーコストの上昇を招く。そのため、該洗浄用組成物の沸点は、240℃以下であることが好ましい。具体的には、縮重合槽の内壁にある残存液晶性ポリエステルに対する除去性(縮重合槽の洗浄性)の観点から、洗浄温度は190℃以上であることが好ましく、より好ましくは200℃以上であり、さらに好ましくは210℃以上である。洗浄温度があまり低いと、縮重合槽の洗浄性が低下し、残存液晶性ポリエステルの除去に時間がかかる。なお、生産性の観点から、洗浄時間は短い方が好ましい。具体的には、洗浄時間は1〜12時間、好ましくは2〜8時間である。
【0026】
本発明の洗浄用組成物の総質量に対して、成分(B)は5〜40質量%の範囲で含有されており、7〜30質量%含有されていると、さらに好ましい。成分(B)の含有割合がこの範囲を下回ると、液晶性ポリエステルの分解性が小さくなるため、縮重合槽の内壁に付着している残存液晶性ポリエステルの除去性が低下する傾向がある。一方、成分(B)の含有割合がこの範囲を越えると、該洗浄用組成物の沸点が低くなり易く、著しい場合には上述した好適な沸点を下回る傾向がある。
【0027】
また、本発明の洗浄用組成物の総質量に対して、成分(C)は5〜30質量%の範囲で含有されており、8〜20質量%の範囲で含有されていると、より好ましい。成分(C)の含有割合がこの範囲を下回ると、分縮器の付着物に対する洗浄効果が小さくなる傾向がある。一方、成分(C)の含有割合がこの範囲を越えると、該洗浄用組成物の沸点が低くなり易く、著しい場合には上述した好適な沸点を下回る傾向がある。高沸点の化合物を成分(C)として使用すれば、洗浄用組成物の沸点を比較的高く保つことができるが、その場合、成分(C)が蒸発し難くなって、分縮器の付着物の洗浄に寄与することができないことを本発明者等は見出している。
【0028】
本発明の洗浄用組成物は、前記成分(B)と、前記成分(C)と、をそれぞれ上述の範囲で含有し、さらに前記成分(A)を含むが、好適には成分(B)及び成分(C)以外の残部が実質的に成分(A)であることが好ましい。ただし、本発明の洗浄用組成物には、企図しない不純物、たとえば水がわずかに混入することを妨げない。
【0029】
<液晶性ポリエステル>
次に、本発明の洗浄用組成物を用いる洗浄対象である液晶性ポリエステルに関して、簡単に説明する。液晶性ポリエステルとは、光学的異方性を有する溶融相を形成し、液晶特性を示すポリエステルであり、芳香環がエステル結合(−CO−O−又は−O−CO−)により連結してなる全芳香族ポリエステル、該全芳香族ポリエステルのエステル結合の一部がアミド結合(−CO−NH−又は−NH−CO−)に置き換わった全芳香族ポリ(エステル−アミド)、又は該全芳香族ポリエステルの芳香族基の一部が−(CH2n−(nは1以上の整数を表す。)の如きアルキレン基又はアルキリデン基に置き換わった半芳香族ポリエステル等が挙げられる。これらのうち、全芳香族ポリエステル、全芳香族ポリ(エステル−アミド)は、液晶性ポリエステルの中でも優れた耐熱性や機械的強度を有することから市場からの要求が大きい反面、耐溶剤性に極めて優れるので、これらの製造装置を洗浄することが比較的困難になり易い。したがって、このような全芳香族ポリエステルや全芳香族ポリ(エステル−アミド)の製造装置の洗浄において、本発明の洗浄用組成物の効果をより一層享受することができる。
【0030】
以下、本発明の洗浄用組成物の洗浄対象となる全芳香族ポリエステルを例にとり、液晶性ポリエステルに関し詳述することにする。該液晶性ポリエステルは、例えば、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ジカルボン酸からなる原料モノマーを重合させることで製造される。
【0031】
芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、パラヒドロキシ安息香酸、メタヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸、1−ヒドロキシ−4−ナフトエ酸、4−ヒドロキシ−4’−カルボキシジフェニルエーテル、2,6−ジクロロ−パラヒドロキシ安息香酸、2−クロロ−パラヒドロキシ安息香酸、2,6−ジフルオロ−パラヒドロキシ安息香酸、4−ヒドロキシ−4’−ビフェニルカルボン酸が挙げられ、これらは単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。これらのうち、得られた液晶性ポリエステルの耐溶剤性が比較的良好であることから、その洗浄性が低下し易い芳香族ヒドロキシカルボン酸として、パラヒドロキシ安息香酸及び/又は2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸を挙げることができる。このような芳香族ヒドロキシカルボン酸を原料モノマーとして用いて得られる液晶性ポリエステルの製造装置(縮重合槽)を洗浄するうえで、本発明の洗浄用組成物は特に有効である。
【0032】
芳香族ジオールとしては、例えば、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、メチルハイドロキノン、クロロハイドロキノン、アセトキシハイドロキノン、ニトロハイドロキノン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−クロロフェニル)プロパン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス−(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)メタン、ビス−(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)メタン、ビス−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)メタン、ビス−(4−ヒドロキシ−3−クロロフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)ケトン、ビス−(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)ケトン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)スルホンが挙げられ、これらは単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。これらのうち、得られた液晶性ポリエステルの耐溶剤性が比較的良好であることから、その洗浄性が低下し易いものとしては、4,4’−ジヒドロキシビフェニルを挙げることができる。また、蒸発し易いことから分縮器等に付着し易いものとして、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンを挙げることができる。このような芳香族ジオールを原料モノマーとして用いて得られる液晶性ポリエステルの製造装置(縮重合槽)を洗浄するうえで、本発明の洗浄用組成物は特に有効である。
【0033】
芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、メチルテレフタル酸、メチルイソフタル酸、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルケトン−4,4’−ジカルボン酸、2,2’−ジフェニルプロパン−4,4’−ジカルボン酸が挙げられ、これらは単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。これらのうち、得られた液晶性ポリエステルの耐溶剤性が比較的良好であることから、その洗浄性が低下し易いものとしては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸を挙げることができる。また、蒸発し易いことから分縮器等に付着し易いものとして、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸を挙げることができる。このような芳香族ジカルボン酸を用いて得られる液晶性ポリエステルの製造装置(縮重合槽)を洗浄するうえで、本発明の洗浄用組成物は特に有効である。
【0034】
例示したような芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸及び芳香族ジオールの使用比率は、これらを用いて得られる液晶性ポリエステルが液晶性を発現できる範囲で決定される。好適には、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸及び芳香族ジオールの合計を100モル%としたとき、芳香族ヒドロキシカルボン酸が約30〜80モル%、芳香族ジカルボン酸が約10〜35モル%、芳香族ジオールが約10〜35モル%の範囲内から選択される。
【0035】
<液晶性ポリエステルの溶融重合方法及び製造装置>
次に、液晶性ポリエステルの製造方法について、工程ごとに説明する。この液晶性ポリエステルの製造装置の縮重合槽としては、攪拌槽型(縦型)反応器、濡壁塔型反応器、又は横型反応器を挙げることができる。このような縮重合槽には適当な攪拌手段が設けられている。縮重合槽として、縦型の撹拌槽を使用する場合には、多段のパドル翼、タービン翼、ダブルヘリカム翼、錨形翼、櫛形翼等の攪拌翼を備えた攪拌手段が好適である。
【0036】
アシル化工程
本発明の洗浄対象となる液晶性ポリエステルの製造では、エステル形成性誘導体としてアシル化物を用いる。該アシル化物は、ヒドロキシ基を有する化合物(芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジオール)に対し、無水酢酸を反応させることにより、これらの化合物のヒドロキシル基をアシルオキシル基に転換する(アシル化反応)。このようなアシル化反応は、特開2004−256673号公報に開示されているアシル化が、その操作が簡便であることから好適である。
【0037】
かかる公報には、予め、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ジカルボン酸を混合して混合物を得、該混合物に無水酢酸を混合することでアシル化することが記載されている。そして、該アシル化工程は、窒素雰囲気中、130〜180℃で実施させることにより、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジオールにあるヒドロキシル基がアシル化され、それぞれ相当するアシル化物(芳香族ヒドロキシカルボン酸アシル化物および芳香族ジオールアシル化物)となる。また、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ジカルボン酸の使用比率は、得られる液晶ポリエステルの目標特性に合わせて調整されるものであるが、これら原料モノマーからなる混合物中のヒドロキシル基とカルボキシル基とのモル比が、0.9〜1.1であることが好ましい。
【0038】
なお、無水酢酸の使用量は、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジオールのヒドロキシル基の合計モル量に対して、通常0.95〜1.2モル倍であり、1.00〜1.18モル倍がより好ましい。また、アシル化に係る反応時間は、使用する芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジオールの種類や使用量により調整されるが、工業生産の効率を勘案すると、15分〜3時間の範囲であることが望ましい。
【0039】
また、このアシル化工程の段階で、反応系中に芳香族ジカルボン酸を共存させていてもよい。これは、芳香族ジカルボン酸は、無水酢酸により何ら影響を受けないため、アシル化反応に対し何ら悪影響を及ぼさないためである。
【0040】
溶融重合工程
前記アシル化工程に続く溶融重合工程は、前記アシル化物のアシルオキシル基と、芳香族ヒドロキシカルボン酸アシル化物及び芳香族ジカルボン酸のカルボキシル基とを、エステル交換を生じさせて、重合させることにより、液晶性ポリエステルを製造する工程である。該溶融重合工程は、上述のように副生する酢酸等を留出させるため、分縮器を設けた縮重合槽中で実施される。また、この縮重合槽には、上述のとおり、適当な攪拌手段が備えられている。
【0041】
溶融重合は、130〜400℃の範囲で0.1〜50℃/分の割合で昇温させながら行うことが好ましく、150〜350℃の範囲で0.3〜5℃/分の割合で昇温しながら行うことがより好ましい
【0042】
また、この溶融重合は適当な触媒の存在下で行うこともできる。この触媒としてはポリエステル製造用として用いられる公知のものが使用可能であるが、得られる液晶性ポリエステルの着色を十分に防止する等の点では、該触媒として窒素原子を2原子以上含む複素環状有機塩基化合物が好適なことを本発明者等は見出している。このような複素環状有機塩基化合物を用いると、重合反応はより円滑に進行し易くなり、得られる液晶ポリエステルの着色を十分抑制できる。
【0043】
この窒素原子を2原子以上含む複素環状有機塩基化合物としては、例えば、イミダゾール化合物、トリアゾール化合物、ジピリジリル化合物、フェナントロリン化合物、ジアザフェナントレン化合物が挙げられる。これらの中で、反応性の観点からはイミダゾール化合物が好ましく使用され、入手が容易であることから1−メチルイミダゾール及び/又は1−エチルイミダゾールがより好ましく使用される。なお、該複素環状有機塩基化合物は、上述のアシル化工程の前に、原料モノマーとともに仕込むこともできるし、アシル化工程終了後、重合工程前に仕込むこともできるし、アシル化工程の前に、原料モノマーとともに仕込み、さらにアシル化工程終了後、重合工程前に追加することもできる。
【0044】
溶融重合後の液晶性ポリエステルは、その流動開始温度が200℃以上280℃以下であると機械強度や耐熱性等に優れる傾向があり、本分野で通常用いられる固相重合によって液晶性ポリエステルを高分子量化し、より高い耐熱性を有する液晶ポリエステルを得ることもできる。なお、ここでいう流動開始温度とは、内径1mm、長さ10mmのダイスを取り付けた毛細管型レオメーターを用い、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下において昇温速度4℃/分で液晶ポリエステルをノズルから押し出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポイズ)を示す温度を意味し、該流動開始温度は当技術分野で周知の液晶ポリエステルの分子量を表す指標である(小出直之編、「液晶性ポリマー合成・成形・応用−」、95〜105頁、シーエムシー、1987年6月5日発行を参照)。
【0045】
<洗浄方法>
本発明の洗浄用組成物を用いる洗浄方法は、以下の工程を備えている。
(1)溶融重合後の液晶性ポリエステルを製造装置(縮重合槽)から抜き出す抜出工程。
(2)本発明の洗浄用組成物を調製する調製工程。
(3)液晶性ポリエステル抜出後の前記製造装置(縮重合槽)内に、前記調製工程で調製した洗浄用組成物を投入する投入工程。
(4)前記洗浄用組成物を前記製造装置内で還流させることにより前記製造装置内を洗浄する洗浄工程。
【0046】
抜出工程(1)は、溶融重合後の液晶性ポリエステルを、その溶融状態を保持し得る程度に保温しつつ、縮重合槽から抜き出す工程である。この抜出工程においては、液晶ポリエステルの溶融状態を保持し易くするために、吐出口に適切な加熱手段を設けることもできるし、抜出速度を向上するために、窒素ガス等により縮重合槽内を加圧することもできる。ただし、このように適切な加熱手段を設けたり、抜出時に加圧したりしたとしても、縮重合槽の内壁には液晶性ポリエステルの一部が残存し、また分縮器等に付着した液晶性ポリエステル飛沫や原料モノマーは除去することはできない。したがって、本発明の洗浄用組成物を用いた洗浄が極めて有効である。
【0047】
調製工程(2)は、上述した成分(A)〜(C)を混合して、本発明の洗浄用組成物を調製する工程である。該洗浄用組成物は、成分(A)、成分(B)及び成分(C)を、液晶性ポリエステル抜出後の縮重合槽に投入し、該縮重合槽内で攪拌することで調製することもできるが、あらかじめ、縮重合槽以外に調製槽を準備し、該調製槽内に成分(A)〜(C)を投入して洗浄用組成物を得ることが好ましい。本発明の洗浄用組成物は成分(A)〜(C)を混合し、−10〜50℃の調製温度で攪拌することで得ることができる。攪拌時間は、たとえば10分程度の比較的短時間で十分であり、該攪拌時間は、該調製槽の容量等により適宜調整できる。
【0048】
前記調製工程(2)で得られた洗浄用組成物は、調製槽から、液晶性ポリエステル抜出後の縮重合槽へと送液される[投入工程(3)]。送液手段は特に限定されるものではなく、たとえば、該調製槽と該縮重合槽とを適当な送液配管で繋ぎ、この送液配管により該調製槽にある洗浄用組成物を該縮重合槽へと送液することができる。該縮重合槽に投入される洗浄用組成物の量(送液量)は、この縮重合槽の内容積を100容量%としたとき、50〜80容量%の範囲になるようにするのがよい。なお、該縮重合槽に洗浄用組成物を投入する際には、投入された洗浄用組成物の温度が0〜80℃の範囲になるように、該縮重合槽の加熱手段の温度を調節しておくことが好ましい。
【0049】
次に、前記縮重合槽に投入された洗浄用組成物が蒸発・還流するまで、該洗浄用組成物を加温することにより、該縮重合槽の内部を洗浄する[洗浄工程(4)]。このときの加温条件は、使用する洗浄用組成物の沸点により調節することができる。また、還流は、該縮重合槽に分縮器が備えられている場合は、洗浄用組成物の蒸気(気体状の洗浄用組成物)が分縮器によって十分液化できるように、該分縮器の冷媒温度等を調節する。
【0050】
洗浄工程における洗浄時間は通常1〜12時間、好ましくは2〜8時間である。なお、ここでいう洗浄時間は、洗浄用組成物の加温開始の時点から洗浄用組成物を該縮重合槽から抜出す時点までの時間を指すものである。
【0051】
続いて、縮重合槽にある洗浄用組成物を、該縮重合槽から抜き出す。なお、洗浄工程後の洗浄用組成物には、通常、原料モノマー、液晶性ポリエステルや液晶性ポリエステルの分解物が、溶解又は分散しているので、このような洗浄用組成物を該縮重合槽から抜き出すときは、十分冷却しておくことが好ましい。好適には、該洗浄用組成物の温度が80℃以下になるまで冷却した後、該縮重合槽から、洗浄後の洗浄用組成物を抜き出す。
【0052】
該洗浄用組成物を抜き出した後、そのまま加熱操作及び/又は通風操作により、縮重合槽の内部を乾燥させてもよいが、該縮重合槽に残存した洗浄用組成物を十分除去するため、該縮重合槽内部を十分、水洗することが好ましく、かかる水洗は、洗浄用組成物抜出後の縮重合槽に、水を投入し、この水を蒸発・還流させるといった方法により行うことが好ましい。そして、該縮重合槽中の水の蒸発・還流が停止する程度まで、十分冷却した後、縮重合槽から水を抜き出す。このような一連の操作による水洗は複数回行ってもよい。また、水洗後の縮重合槽は、上述したような操作により、その内部を十分に乾燥させることが好ましい。
【0053】
上述の(1)〜(4)、好ましくはさらに水洗を行うことにより、縮重合槽の内壁に付着していた残存液晶性ポリエステル及び分縮器の付着物は十分に除去される。このようにして洗浄された縮重合槽を用いて、次回の液晶性ポリエステル製造を行えば、残存液晶性ポリエステルに起因する不純物混入を十分回避することができ、所望の品質の液晶性ポリエステルを得ることが可能となることに加え、分縮器等を解体して洗浄するといった煩雑な工程を必要としないため、液晶性ポリエステルの生産性を著しく低下させないという優れた効果を発現する。
【実施例】
【0054】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明する。
【0055】
合成例1(液晶性ポリエステルの製造)
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器(分縮器)を備えた反応器(縮重合槽)に、p−ヒドロキシ安息香酸995g(7.2モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル447g(2.4モル)、テレフタル酸299g(1.8モル)、イソフタル酸99.6g(0.60モル)及び無水酢酸1348g(13.2モル)を仕込み、これらを攪拌した。次に、攪拌後の混合物中に1−メチルイミダゾール0.18gを添加し、反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で、15分かけて150℃まで昇温し、同温度を保持して1時間還流させた。その後、1−メチルイミダゾール0.18gを添加した後、留出する副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて305℃まで昇温した。トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、溶融状態で内容物をバットの中に取り出して冷却した。室温程度まで冷却した液晶性ポリエステルを竪型粉砕機((株)セイシン企業製、オリエントVM−16)で、その平均粒径が300〜500μm程度になるまで粉砕して、液晶性ポリエステル粒子を得た。粉砕後の粉砕粒子の流動開始温度を測定したところ253℃であり、280℃以上の温度では光学異方性を呈する溶融状態を示した。また、用いた反応器から還流冷却器を取り外し、当該還流冷却器に付着している液晶性ポリエステル飛沫や原料モノマー(分縮器の付着物)を回収した。同様の合成を数回行い、液晶性ポリエステルの粒子と、分縮器の付着物と、を所定量回収した。なお、前記流動開始温度は以下のようにして求めた。
(流動開始温度測定方法)
【0056】
フローテスター((株)島津製作所製、CFT−500型)を用い、液晶ポリエステル約2gを、内径1mm、長さ10mmのダイスを取り付けた毛細管型レオメーターに充填した。そして、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重を加え、昇温速度4℃/分で液晶ポリエステルをノズルから押し出しながら、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポイズ)を示す温度を測定し、この温度を流動開始温度とした。
【0057】
実施例1
<液晶性ポリエステルの溶解性試験>
500ml筒型セパラブルフラスコにSUS製アンカー型撹拌翼、冷却管、温度計及び窒素導入管を取り付け、当該セパラブルフラスコをマントルヒーターにセットしたものをテスト用装置Aとした。トリエチレングリコール(以下、「TEG」という)256.3g、モノエタノールアミン(以下、「META」という)46.6g及びN−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」という)30.8gを混合して洗浄用組成物1を調製した(当該洗浄用組成物1の組成は表1に示す。)。なお、これらの化合物の双極子モーメントについて、溶剤ハンドブック(株式会社講談社出版1996年第14刷)に記載されている文献値を挙げると、TEG(双極子モーメント:5.58)、META(双極子モーメント:2.27)、NMP(双極子モーメント:4.09)であった。
【0058】
このようにして調製した洗浄用組成物1の全量と、合成例1で得られた液晶性ポリエステル粉末50gとを、前記テスト用装置Aに仕込み、窒素雰囲気下で221℃まで昇温し、同温度で2時間、保温した。なお、保温時は、内容物を攪拌速度150rpmで攪拌した。保温後、内温を80℃まで冷却し、用いた洗浄用組成物に対する不溶物を、80メッシュのステンレス製金網(目開き;0.18mm)でろ過した。さらに、この金網を大量のメタノールで洗浄した。洗浄後、この金網を十分乾燥させ、金網上に残った不溶物の質量を測定したところ、該不溶物の残存は認められなかった(不溶物量:ほぼ0g)。この結果は、液晶性ポリエステル又はその分解物が洗浄用組成物1に十分溶解したことを示しており、該洗浄用組成物1の残存液晶性ポリエステルに対する洗浄性が良好であることを示している。
【0059】
<分縮器の付着物に対する溶解性試験>
まず、前記と同様にして調製した洗浄用組成物1が蒸発還流する際に、蒸発して気体状になったときの洗浄用組成物1(気相洗浄用組成物1)の組成を以下のようにして求めた。単蒸留装置に洗浄用組成物1を入れ、該洗浄用組成物1の単蒸留を行った。そして、単蒸留により留出した留分の組成を、以下の条件のガスクロマトグラフィー(GC)で求めたところ、TEG3質量%、META76質量%及びNMP21質量%であった。
【0060】
(GC分析条件)
GC装置: Agilent Technologies社製、
ガスクロマトグラフ6890N型
分析カラム: Restek社製、Rtx−5Amine
(0.25mmID,30m,0.50μmdf)
キャリアガス: ヘリウム
流量: 1ml/分(定流量モード)
試料注入量: 1μl(溶液濃度5mg/ml)
注入口温度: 300℃
スプリット比: 50:1
昇温条件: 初期温度50℃(1分間保持)
昇温速度20℃/分
最終温度310℃(4分間保持)
検出: FID(315℃)
【0061】
このようにして求められた気相洗浄用組成物1の組成から、TEG10.1g、META252.9g及びNMP64.7gを混合して、当該気相洗浄用組成物1のモデル液1を調製した。次いで、モデル液1を全量と、合成例1で得られた分縮器の付着物15gとを、前記テスト用装置Aに仕込み、窒素雰囲気下で131℃まで昇温し、同温度で2時間、保温した。なお、保温時は、内容物を攪拌速度50rpmで攪拌した。保温後、内温を80℃まで冷却し、用いた洗浄用組成物に対する不溶物を、80メッシュのステンレス製金網(目開き;0.18mm)でろ過した。さらに、大量のメタノールで洗浄した。洗浄後、この金網を十分乾燥させ、金網上に残った不溶物の質量を測定したところ、不溶物の残存は認められなかった(不溶物量:ほぼ0g)。この結果は、分縮器の付着物がモデル液1に十分溶解したことを示しており、洗浄用組成物1が蒸発した気相洗浄用組成物1が、分縮器の付着物の洗浄に有効であることを示している。
【0062】
実施例2
<液晶性ポリエステルの溶解性試験>
洗浄用組成物1を、TEG239.4g、META46.6g及びNMP46.2gから調製された洗浄用組成物2(当該洗浄用組成物2の組成は表1に示す。)に置き換えた以外は、実施例1と同様の実験を行い、液晶性ポリエステルの溶解性試験を行った。その結果、金網上に残った不溶物量はほぼ0gであった。この結果は、液晶性ポリエステル又はその分解物が洗浄用組成物2に十分溶解したことを示しており、該洗浄用組成物2の残存液晶性ポリエステルに対する洗浄性が良好であることを示している。
【0063】
<分縮器の付着物に対する溶解性試験>
実施例1と同様にして、洗浄用組成物2の単蒸留実験を行い、気相洗浄用組成物2の組成を調べた。その結果、TEG2質量%、META72質量%及びNMP26質量%であった。この組成から、TEG6.7g、META239.5g及びNMP80.1gを混合して、モデル液2を調製し、このモデル液2全量と、合成例1で得られた分縮器の付着物15gとを用い、保温時の温度を214℃にした以外は、実施例1と同様の分縮器の付着物に対する溶解性試験を行った。この結果は、分縮器の付着物がモデル液2に十分溶解したことを示しており、洗浄用組成物2が蒸発した気相洗浄用組成物2が、分縮器の付着物の洗浄に有効であることを示している。
【0064】
実施例3
<液晶性ポリエステルの溶解性試験>
洗浄用組成物1を、TEG202.3g、META239.5g及びNMP80.1gから調製された洗浄用組成物3(当該洗浄用組成物3の組成は表1に示す。)に置き換えた以外は、実施例1と同様の実験を行い、液晶性ポリエステルの溶解性試験を行った。その結果、金網上に残った不溶物量はほぼ0gであった。この結果は、液晶性ポリエステル又はその分解物が洗浄用組成物3に十分溶解したことを示しており、該洗浄用組成物3の残存液晶性ポリエステルに対する洗浄性が良好であることを示している。
【0065】
<分縮器の付着物に対する溶解性試験>
実施例1と同様にして、洗浄用組成物3の単蒸留実験を行い、気相洗浄用組成物3の組成を調べた。その結果、TEG4質量%、META86質量%及びNMP10質量%であった。この組成から、TEG13.5g、META286.1g及びNMP30.8gを混合して、モデル液3を調製し、このモデル液3全量と、合成例1で得られた分縮器の付着物15gとを用いた以外は、実施例1と同様の分縮器の付着物に対する溶解性試験を行った。その結果、金網上に残った不溶物量はほぼ0gであった。この結果は、分縮器の付着物がモデル液3に十分溶解したことを示しており、洗浄用組成物3が蒸発した気相洗浄用組成物3が、分縮器の付着物の洗浄に有効であることを示している。
【0066】
実施例4
<液晶性ポリエステルの溶解性試験>
洗浄用組成物1を、TEG256.3g、META46.6g及びN、N−ジメチルアセトアミド(以下、「DMAc」という)30.8g(双極子モーメント:3.72)から調製された洗浄用組成物4(当該洗浄用組成物4の組成は表1に示す。)に置き換えた以外は、実施例1と同様の実験を行い、液晶性ポリエステルの溶解性試験を行った。その結果、金網上に残った不溶物量はほぼ0gであった。この結果は、液晶性ポリエステル又はその分解物が洗浄用組成物4に十分溶解したことを示しており、該洗浄用組成物4の残存液晶性ポリエステルに対する洗浄性が良好であることを示している。
【0067】
<分縮器の付着物に対する溶解性試験>
実施例1と同様にして、洗浄用組成物4の単蒸留実験を行い、気相洗浄用組成物4の組成を調べた。その結果、TEG2重量%、META70重量%及びDMAc28重量%であった。この組成から、TEG6.7g、META231.3g及びDMAc92.5gを混合して、モデル液4を調製し、このモデル液4全量と、合成例1で得られた分縮器の付着物15gとを用いた以外は、実施例1と同様の分縮器の付着物に対する溶解性試験を行った。その結果、金網上に残った不溶物量はほぼ0gであった。この結果は、分縮器の付着物がモデル液4に十分溶解したことを示しており、洗浄用組成物4が蒸発した気相洗浄用組成物4が、分縮器の付着物の洗浄に有効であることを示している。
【0068】
(実施例5)
<液晶性ポリエステルの溶解性試験>
洗浄用組成物1を、TEG256.3g、META46.6g及びN、N−ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」という)30.8g(双極子モーメント:3.86)から調製された洗浄用組成物5(当該洗浄用組成物5の組成は表1に示す。)に置き換えた以外は、実施例1と同様の実験を行い、液晶性ポリエステルの溶解性試験を行った。その結果、金網上に残った不溶物量はほぼ0gであった。この結果は、液晶性ポリエステル又はその分解物が洗浄用組成物5に十分溶解したことを示しており、該洗浄用組成物5の残存液晶性ポリエステルに対する洗浄性が良好であることを示している。
【0069】
<分縮器の付着物に対する溶解性試験>
実施例1と同様にして、洗浄用組成物5の単蒸留実験を行い、気相洗浄用組成物5の組成を調べた。その結果、TEG3重量%、META71重量%及びDMF26重量%であった。この組成から、TEG9.9g、META234.6g及びDMF85.9gを混合して、モデル液5を調製し、このモデル液5全量と、合成例1で得られた分縮器の付着物15gとを用いた以外は、実施例1と同様の分縮器の付着物に対する溶解性試験を行った。その結果、金網上に残った不溶物量はほぼ0gであった。この結果は、分縮器の付着物がモデル液5に十分溶解したことを示しており、洗浄用組成物5が蒸発した気相洗浄用組成物5が、分縮器の付着物の洗浄に有効であることを示している。
【0070】
比較例1
<液晶性ポリエステルの溶解性試験>
洗浄用組成物1を、TEG337.2gから調製された洗浄用組成物6(当該洗浄用組成物6の組成は表1に示す。)に置き換えた以外は、実施例1と同様の実験を行い、液晶性ポリエステルの溶解性試験を行った。その結果、金網上に残った不溶物量は3.0gであった。この結果は、液晶性ポリエステル又はその分解物に対し、洗浄用組成物6の溶解性が不十分であることを示しており、すなわち、該洗浄用組成物6の残存液晶性ポリエステルに対する洗浄性が不十分であることを示している。
【0071】
このように、該洗浄用組成物6は残存液晶性ポリエステルに対する洗浄性が不十分であることから、この洗浄用組成物6に対しては、分縮器の付着物に対する溶解性試験は実施しなかった。
【0072】
比較例2
<液晶性ポリエステルの溶解性試験>
洗浄用組成物1を、TEG290.0g及びMETA46.6gから調製された洗浄用組成物7(当該洗浄用組成物7の組成は表1に示す。)に置き換えた以外は、実施例1と同様の実験を行い、液晶性ポリエステルの溶解性試験を行った。その結果、金網上に残った不溶物量はほぼ0gであった。この結果は、液晶性ポリエステル又はその分解物が洗浄用組成物5に十分溶解したことを示しており、該洗浄用組成物5の残存液晶性ポリエステルに対する洗浄性が良好であることを示している。
【0073】
<分縮器の付着物に対する溶解性試験>
実施例1と同様にして、洗浄用組成物7の単蒸留実験を行い、気相洗浄用組成物7の組成を調べた。その結果、TEG2質量%及びMETA98質量%であった。この組成から、TEG6.7g及びMETA326.0gを混合して、モデル液5を調製し、このモデル液5全量と、合成例1で得られた分縮器の付着物15gとを用いた以外は、実施例1と同様の分縮器の付着物に対する溶解性試験を行った。その結果、金網上に残った不溶物量は1.0gであった。この結果は、分縮器の付着物に対するモデル液7の溶解性が不十分であることを示しており、すなわち、洗浄用組成物7が蒸発した気相洗浄用組成物7が、分縮器の付着物の洗浄には十分でないことを示している。
【0074】
比較例3
<液晶性ポリエステルの溶解性試験>
洗浄用組成物1を、TEG290g及びNMP42.8gから調製された洗浄用組成物8(当該洗浄用組成物8の組成は表1に示す。)に置き換えた以外は、実施例1と同様の実験を行い、液晶性ポリエステルの溶解性試験を行った。その結果、金網上に残った不溶物量は21.9gであった。この結果は、液晶性ポリエステル又はその分解物に対し、洗浄用組成物8の溶解性が不十分であることを示しており、すなわち、該洗浄用組成物8の残存液晶性ポリエステルに対する洗浄性が不十分であることを示している。
【0075】
このように、該洗浄用組成物8は残存液晶性ポリエステルに対する洗浄性が不十分であることから、この洗浄用組成物8に対しては、分縮器の付着物に対する溶解性試験は実施しなかった。
【0076】
比較例4
<液晶性ポリエステルの溶解性試験>
洗浄用組成物1を、TEG290g及びDMAc42.8gから調製された洗浄用組成物9(当該洗浄用組成物6の組成は表1に示す。)に置き換えた以外は、実施例1と同様の実験を行い、液晶性ポリエステルの溶解性試験を行った。その結果、金網上に残った不溶物量は19.8gであった。この結果は、液晶性ポリエステル又はその分解物に対し、洗浄用組成物9の溶解性が不十分であることを示しており、すなわち、該洗浄用組成物9の残存液晶性ポリエステルに対する洗浄性が不十分であることを示している。
【0077】
このように、該洗浄用組成物9は残存液晶性ポリエステルに対する洗浄性が不十分であることから、この洗浄用組成物9に対しては、分縮器の付着物に対する溶解性試験は実施しなかった。
【0078】
比較例5
<液晶性ポリエステルの溶解性試験>
洗浄用組成物1を、TEG290g及びDMF42.8gから調製された洗浄用組成物10(当該洗浄用組成物10の組成は表1に示す。)に置き換えた以外は、実施例1と同様の実験を行い、液晶性ポリエステルの溶解性試験を行った。その結果、金網上に残った不溶物量は24.2gであった。この結果は、液晶性ポリエステル又はその分解物に対し、洗浄用組成物10の溶解性が不十分であることを示しており、すなわち、該洗浄用組成物10の残存液晶性ポリエステルに対する洗浄性が不十分であることを示している。
【0079】
このように、該洗浄用組成物10は残存液晶性ポリエステルに対する洗浄性が不十分であることから、この洗浄用組成物10に対しては、分縮器の付着物に対する溶解性試験は実施しなかった。
【0080】
【表1】

【0081】
(実施例6〜10)
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器(分縮器)を備えた反応器(縮重合槽)に、p−ヒドロキシ安息香酸995g(7.2モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル447g(2.4モル)、テレフタル酸299g(1.8モル)、イソフタル酸99.6g(0.60モル)及び無水酢酸1348g(13.2モル)を仕込み、これらを攪拌した。次に、攪拌後の混合物中に1−メチルイミダゾール0.18gを添加し、反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で、15分かけて150℃まで昇温し、同温度を保持して1時間還流させた。その後、1−メチルイミダゾール0.18gを添加した後、留出する副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて305℃まで昇温した。トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、生成した液晶性ポリエステルを縮重合槽から抜き出した。
【0082】
このようして液晶性ポリエステル抜出後の縮重合器を準備し、その内容積の70容量%になるように、実施例1〜5で用いた各洗浄用組成物(洗浄用組成物1〜5)を入れる。そして、この洗浄用組成物を加熱し、該洗浄用組成物が蒸発・還流するまで昇温させ、同温度で2時間程度保温する。冷却して、洗浄用組成物を抜き出し、その後、縮重合器の内容積の70容量%程度まで、水を入れて、この水も2時間程度、蒸発・還流し、さらに適度に冷却して水を抜き出す。さらに、縮重合槽内部を乾燥させる。このようにして、洗浄を行った縮重合器は、その内部(縮重合槽内壁)にある残存液晶性ポリエステルも十分除去され、分縮器にある付着物も十分に除去される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶性ポリエステルの製造装置の洗浄に用いられる洗浄用組成物であって、以下の成分(A)、成分(B)及び成分(C)を含み、前記洗浄用組成物の総質量に対して、成分(B)の含有量が5〜40質量%であり、成分(C)の含有量が5〜30質量%であることを特徴とする洗浄用組成物。
(A)グリコール類。
(B)アミン類。
(C)環状エステル類、アミド類及びスルホキシド類からなる群より選ばれる化合物。
【請求項2】
1気圧下での沸点が190℃以上240℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の洗浄用組成物。
【請求項3】
前記成分(A)が、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール及びテトラエチレングリコールからなる群より選ばれるグリコール類を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の洗浄用組成物。
【請求項4】
前記成分(B)が、アルカノールアミンを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の洗浄用組成物。
【請求項5】
以下の工程を備えることを特徴とする液晶性ポリエステルの製造装置の洗浄方法。
(1)溶融重合後の液晶性ポリエステルを製造装置から抜き出す抜出工程。
(2)請求項1〜4のいずれかに記載の洗浄用組成物を調製する調製工程。
(3)液晶性ポリエステル抜出後の前記製造装置内に、前記調製工程で調製した洗浄用組成物を投入する投入工程。
(4)前記洗浄用組成物を前記製造装置内で還流させることにより前記製造装置内を洗浄する洗浄工程。

【公開番号】特開2010−222552(P2010−222552A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−157529(P2009−157529)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】