説明

洗浄装置

【課題】置換気体を再利用することが可能な洗浄装置を提供する。
【解決手段】第1実施形態の洗浄システム1は、超臨界または液体状態の二酸化炭素によって被洗浄対象物600を洗浄する洗浄システム1において、洗浄槽310と、供給手段と、排出手段と、窒素分離装置420とを備える。洗浄槽310は、被洗浄対象物600を収容する。供給手段は、洗浄槽310内の気体と置換するための窒素を洗浄槽310に供給する。排出手段は、窒素と洗浄槽310内の気体とを含む混合気体を洗浄槽310から排出する。窒素分離装置420は、排出手段に配置され、混合気体から窒素を分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には洗浄装置に関し、特定的には、超臨界または液体状態の二酸化炭素を用いて、例えば繊維の洗浄を行なう洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、洗浄方法としては、水、有機溶剤、酸、アルカリなどの溶媒を利用する湿式洗浄があるが、このような湿式洗浄方式に変わって、超臨界流体を溶媒とする洗浄方式が環境配慮型の洗浄方式として普及しつつある。超臨界流体を溶媒とする洗浄方式では、例えば、超臨界状態の二酸化炭素が溶媒として用いられる。
【0003】
二酸化炭素は、ある温度以下で圧縮すると液体状態の二酸化炭素になり、また、31.1℃でかつ圧力が7.4MPa以上では超臨界状態の二酸化炭素となる。このような性質を有する超臨界状態の二酸化炭素は、1900年代初頭から抽出剤として使用されている。超臨界状態の二酸化炭素は、気体と液体の中間の粘度、拡散係数、密度、溶解力を持ち、微細機構に入り込みやすく、疎水性物質の溶解度が高い、といった特徴を持つ。また、洗浄溶媒として超臨界状態の二酸化炭素を用いることによって、水を溶媒とする場合と異なり、乾燥をする必要がなくなる。超臨界状態の二酸化炭素は、このような利点を有するので、高精度の洗浄が求められる半導体材料などの電子デバイス部品の洗浄に応用されている。
【0004】
近年では、超臨界流体を用いる洗浄方式は、半導体以外の被洗浄対象物として衣類洗浄にも応用されている。ドライクリーニング溶剤による環境汚染が深刻化する中、安全性の高い代替溶剤として超臨界状態の二酸化炭素が注目されている。また、ドライクリーニング溶剤を用いる洗浄では、ドライクリーニング溶剤が洗浄後の被洗浄対象物に残ることによって、健康に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0005】
超臨界状態の二酸化炭素を用いる洗浄においては、使用後の超臨界状態の二酸化炭素を回収して再利用することが可能であり、洗浄後に乾燥を必要としないなど環境面に対する利点がある。一方、超臨界状態の二酸化炭素を生成するためには二酸化炭素を高圧にする必要があるが、現在では高圧ガスに関する法規制が厳しく、また、超臨界状態の二酸化炭素を用いるドライクリーニング装置では、設備が大掛かりになるという課題がある。そのため、超臨界状態の二酸化炭素を用いる洗浄は主として業務用のクリーニング技術として普及している。しかしながら、環境面、健康面に対する利点を踏まえると、将来的には新しい洗濯スタイルとして家庭用に普及する可能性が考えられる。
【0006】
このような、超臨界または液体状態の二酸化炭素を用いて洗浄を行なう洗浄装置では、洗浄槽から被洗浄対象物を取り出すときに、洗浄槽の内部に残っている二酸化炭素が大気中に放出される。二酸化炭素が大気中に放出されることは、地球温暖化など環境面において好ましくない。
【0007】
例えば、特開2003−135891号公報(特許文献1)に記載の洗浄装置は、洗浄槽内の二酸化炭素を不活性ガスでパージ(掃気)した後、洗浄槽から被洗浄対象物を取り出すように構成されている。
【特許文献1】特開2003−135891号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特開2003−135891号公報(特許文献1)に記載の洗浄装置では、置換気体、すなわち、窒素等の不活性ガスを洗浄槽に供給するボンベが必要である。また、洗浄動作毎に洗浄槽に新たにパージ用の不活性ガスを供給する必要があるため、不活性ガスのボンベを頻繁に交換する必要がある。
【0009】
そこで、この発明の目的は、置換気体を再利用することが可能な洗浄装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に従った洗浄装置は、超臨界または液体状態の二酸化炭素によって被洗浄対象物を洗浄する洗浄装置において、洗浄槽と、供給手段と、排出手段と、置換気体分離手段とを備える。洗浄槽は、被洗浄対象物を収容する。供給手段は、洗浄槽内の気体と置換するための置換気体を洗浄槽に供給する。排出手段は、置換気体と洗浄槽内の気体とを含む混合気体を洗浄槽から排出する。置換気体分離手段は、排出手段に配置され、混合気体から置換気体を分離する。
【0011】
被洗浄対象物を超臨界または液体状態の二酸化炭素で洗浄した後は、洗浄槽の内部が二酸化炭素で満たされている。また、被洗浄対象物を外部から洗浄槽の内部に収容したときには、洗浄槽の内部が空気で満たされている。供給手段によって洗浄槽の内部に置換気体を供給することによって、洗浄槽内の二酸化炭素や空気と置換気体とが混合して混合気体になる。混合気体は排出手段によって洗浄槽から排出される。
【0012】
排出手段には、混合気体から置換気体を分離する置換気体分離手段が配置されている。置換気体分離手段によって混合気体から置換気体が分離される。
【0013】
このように、混合気体から置換気体を分離することによって、置換気体を再利用することが可能な洗浄装置を提供することができる。
【0014】
この発明に従った洗浄装置においては、置換気体分離手段は有機分離膜を含むことが好ましい。
【0015】
有機分離膜を用いて混合気体から置換気体を分離することによって、例えば蒸留によって置換気体を分離する場合よりも、洗浄装置の規模を小さくし、置換気体の分離に必要なエネルギーも小さくすることができる。
【0016】
このようにすることにより、効率よく置換気体を再利用することが可能な洗浄装置を提供することができる。
【0017】
この発明に従った洗浄装置は、置換気体分離手段によって置換気体を分離された混合気体を洗浄槽に戻すための返還流路を備え、返還流路は置換気体分離手段と洗浄槽とに接続されていることが好ましい。
【0018】
置換気体分離手段が排出手段に配置されていることによって、置換気体分離手段は、被洗浄対象物の洗浄に用いられた二酸化炭素と置換気体とを含む混合気体から置換気体を分離することになる。置換気体分離手段によって混合気体から置換気体が分離されると、主に二酸化炭素が残る。残った二酸化炭素を、返還流路によって洗浄槽に戻すことによって、二酸化炭素を被洗浄対象物の洗浄に再利用することができる。
【0019】
この発明に従った洗浄装置は、被洗浄対象物を洗浄するための超臨界または液体状態の二酸化炭素を加圧する加圧ポンプを備え、加圧ポンプは、返還流路に配置されていることが好ましい。
【0020】
加圧ポンプは、被洗浄対象物を洗浄するため超臨界または液体状態の二酸化炭素を加圧する。この加圧ポンプが返還流路に配置されていることによって、返還流路を通じて洗浄槽に戻される二酸化炭素を加圧して、液化することができる。
【0021】
このように、超臨界または液体状態の二酸化炭素を加圧するための加圧ポンプで、再利用される二酸化炭素を液化することができる。このようにすることにより、再利用される二酸化炭素を液化するための設備を追加する必要がなくなり、洗浄装置を製作するためのコストを低減し、装置サイズを小さくすることができる。
【0022】
この発明に従った洗浄装置においては、置換気体は窒素であり、供給手段に配置され、大気から窒素を分離する窒素分離手段を備えることが好ましい。大気から窒素を分離する窒素分離手段は、有機分離膜を含むことが好ましい。
【0023】
このようにすることにより、窒素ボンベ等、新たに窒素を供給するための窒素保持手段を備える必要がなくなる。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、この発明によれば、置換気体を再利用することが可能な洗浄装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0026】
図1は、この発明の第1実施形態として、洗浄システムの全体を概略的に示す図である。
【0027】
図1に示すように、洗浄装置として洗浄システム1は、主に、洗浄槽310と、液化二酸化炭素ボンベ110と、加圧ポンプとして供給ポンプ120と、窒素タンク200と、気液分離槽130と、吸着槽140と、コンプレッサ150と、冷却機160と、二酸化炭素貯留タンク170と、窒素分離装置420とを備える。
【0028】
洗浄槽310は、被洗浄対象物600を収容して洗浄する。液化二酸化炭素ボンベ110は、被洗浄対象物600の洗浄に用いられる二酸化炭素の供給源である。供給ポンプ120は、液化二酸化炭素を洗浄槽に供給する。窒素タンク200は、洗浄槽310の内部をパージ(掃気)するための置換気体として窒素を洗浄槽310に供給するためのタンクである。気液分離槽130は、洗浄に用いられた超臨界または液体状態の二酸化炭素を蒸発させて汚れ成分と二酸化炭素を分離する。コンプレッサ150は、流通路の加減圧をおこなう。冷却機160は、二酸化炭素の凝縮を行なう。二酸化炭素貯留タンク170は、二酸化炭素を液化して貯留する。窒素分離装置420は、混合気体と大気から窒素を分離する。窒素分離装置420は、有機分離膜を含む。窒素分離装置420は、混合気体から置換気体を分離する置換気体分離手段の一例であり、また、大気から窒素を分離する窒素分離手段の一例である。
【0029】
液化二酸化炭素ボンベ110には、ボンベ開閉弁111が配置されている。液化二酸化炭素ボンベ110は、供給ポンプ120を介して、切替弁181と開閉弁182が配置される二酸化炭素供給管320によって洗浄槽310に接続されている。
【0030】
洗浄槽310には、洗浄槽310の内部を加熱および冷却するための洗浄槽温度調節器350が配置されている。洗浄槽310には、二酸化炭素供給管320の他、窒素を洗浄槽310に供給するための窒素供給管330と、洗浄槽310の内部の気体を排出するための排出管340が接続されている。洗浄槽310は、排出管340によって気液分離槽130に接続されている。排出管340には、排出管340から洗浄システム1の外部に気体を放出するかどうかを調節するための切替弁183と開閉弁184と、流量を調整するための流量調整弁185が配置されている。
【0031】
洗浄槽310に接続される気液分離槽130には、気液分離槽130の内部を加熱するための加熱器131が配置されている。気液分離槽130の下部には、二酸化炭素から分離された汚れを排出するための汚れ成分排出弁132が配置されている。気液分離槽130は、開閉弁186が配置される配管によって吸着槽140に接続されている。
【0032】
気液分離槽130に接続される吸着槽140は、ろ過フィルタと活性炭によって構成されている。吸着槽140は、切替弁401と切替弁402が配置される配管によって、コンプレッサ150に接続されている。切替弁401には、大気導入管411が接続されている。大気導入管411は、大気に連通している。
【0033】
コンプレッサ150は、切換弁403が配置される配管によって、冷却機160に接続されている。冷却機160は、配管によって、二酸化炭素貯留タンク170に接続されている。
【0034】
二酸化炭素貯留タンク170には、二酸化炭素貯留タンク170内を加熱および冷却するためのタンク温度調節器171が配置されている。また、二酸化炭素貯留タンク170内の液体二酸化炭素の液位を検知するための液位センサ172が配置されている。
【0035】
二酸化炭素貯留タンク170の上部に配置される配管は開閉弁173と切替弁404を介して、窒素分離装置420に接続される。二酸化炭素貯留タンク170の下部に配置される配管は開閉弁174と切替弁181と供給ポンプ120と開閉弁182とを介して二酸化炭素供給管320に接続される。
【0036】
窒素分離装置420には、混合気体から分離された窒素が流出する配管と、窒素が分離された混合気体の残り、すなわち、二酸化炭素が流出する配管とが接続されている。窒素分離装置420は、流量調整弁407を配置される配管によって、窒素タンク200に接続されている。また、窒素分離装置420は、流量調整弁405と切替弁406とが配置される配管414によって、切替弁402に接続されている。切替弁406は、配管414と配管413との間に配置されている。配管413は、大気に連通している。
【0037】
窒素タンク200は、開閉弁201が配置されている配管211を介して、窒素供給管330に接続されている。
【0038】
窒素分離装置420から窒素供給管330までの配管と、この配管に配置される流量調整弁407と窒素タンク200と開閉弁201は、供給手段の一例である。
【0039】
排出管340から窒素分離装置420までの配管と、この配管に配置される切替弁183、流量調整弁185、気液分離槽130、開閉弁186、吸着槽140、切替弁401、切替弁402、コンプレッサ150、切替弁403、冷却機160、二酸化炭素貯留タンク170、開閉弁173、切替弁404は、排出手段の一例である。
【0040】
窒素分離装置420から、流量調整弁405と切替弁406を通って切替弁402に接続される配管414と、コンプレッサ150と冷却機160と二酸化炭素貯留タンク170と供給ポンプ120とを通って二酸化炭素供給管320に接続される配管は、二酸化炭素の返還流路を構成している。
【0041】
被洗浄対象物600は、例えば、衣類など、繊維で構成されている繊維構造体である。繊維構造体は、衣類や、リネン、布団、枕、マット、ハンカチ、タオル、ぬいぐるみなど、繊維からできているものであればよい。また、被洗浄対象物600は、超臨界または液体状態の二酸化炭素で洗浄される物であればよく、繊維構造体に限られない。
【0042】
以上のように構成された洗浄システム1の洗浄時の運転行程について説明する。
【0043】
洗浄槽310内に被洗浄対象物600を収容した後、洗浄システム1の運転を開始する。まず、液化二酸化炭素ボンベ110から、ボンベ開閉弁111、切替弁181を経て供給ポンプ120に液体状態の二酸化炭素が導入される。供給ポンプ120は、液体状態の二酸化炭素を高圧にする。開閉弁182を開放すると、液体状態の二酸化炭素が洗浄槽310内に送出される。
【0044】
洗浄槽310内では、供給された液体状態の二酸化炭素が被洗浄対象物600の洗浄に適した圧力と温度の超臨界二酸化炭素になるように、供給ポンプ120と洗浄槽温度調節器350によって、洗浄槽310内の圧力と温度が調節される。この実施の形態においては、洗浄槽310内では二酸化炭素が10MPa、35℃の超臨界二酸化炭素になるように、洗浄槽温度調節器350が洗浄槽310内を加熱する。
【0045】
図2は、温度と圧力を変化させたときの二酸化炭素の状態を示す図である。
【0046】
図2に示すように、10MPa、35℃になるように洗浄槽310内の圧力と温度を調節すると、二酸化炭素はA点の状態になり、超臨界状態になる。
【0047】
洗浄槽310内では、被洗浄対象物600が超臨界状態の二酸化炭素と接触する。被洗浄対象物600の汚れは、超臨界状態の二酸化炭素中に溶解する。このようにして、被洗浄対象物600から汚れが除去される。被洗浄対象物600から除去された汚れを溶解した超臨界状態の二酸化炭素は、切替弁183と流量調整弁185を経て、気液分離槽130に流入する。
【0048】
洗浄槽310から気液分離槽130に流入する超臨界状態の二酸化炭素は、流量調整弁185で流量を調整される。超臨界状態の二酸化炭素は、気液分離槽130の内部においては、加熱器131で温度を調節されて、気体状態の二酸化炭素になる。この実施の形態においては、図2のB点の状態になるように、1.2MPa、5℃に調節される。超臨界状態の二酸化炭素が気体状態の二酸化炭素になると、超臨界状態の二酸化炭素に溶解していた汚れ成分の溶解度が大幅に低下する。汚れ成分は、二酸化炭素から分離して、気液分離槽130の底部に堆積する。気液分離槽130の底部に堆積する汚れ成分が所定量に達すると、汚れ成分排出弁132を開放して、汚れ成分を気液分離槽130から排出する。
【0049】
気液分離槽130で気体状態にされた二酸化炭素は、開閉弁186を経て、吸着槽140を通過する。吸着槽140では、ろ過フィルタと活性炭によって、気液分離槽130では分離しきれなかった汚れ成分や、弁の潤滑油などが除去される。
【0050】
吸着槽140で汚れを除去された気体状態の二酸化炭素は、切替弁401、切替弁402を経て、コンプレッサ150に送られる。コンプレッサ150は、二酸化炭素の圧力を上昇させられる。コンプレッサ150によって圧力を上昇させられた二酸化炭素は、切替弁403を経て冷却機160に送られて、温度を低下させられる。この実施の形態においては、二酸化炭素は図2のC点の状態になるように、気液平衡点の6.5MPa、25℃に調節されて、気液混合状態になる。
【0051】
気液混合状態の二酸化炭素は、二酸化炭素貯留タンク170に送られる。二酸化炭素は、洗浄システム1の運転中は、二酸化炭素貯留タンク170に一旦、貯留された後、二酸化炭素貯留タンク170の底部に接続された配管の開閉弁174、切替弁181を経て、供給ポンプ120に送られる。供給ポンプ120は、二酸化炭素貯留タンク170の二酸化炭素を、二酸化炭素供給管320を通して洗浄槽310内に送出する。
【0052】
このようにして、被洗浄対象物600の洗浄に用いられる二酸化炭素は、図1に二点鎖線の矢印で示すように洗浄システム1内を循環する。洗浄システム1の運転停止時には、開閉弁174が閉じられて、二酸化炭素は二酸化炭素貯留タンク170内に貯留される。
【0053】
次に、洗浄システム1の洗浄槽310のパージ(掃気)行程について説明する。
【0054】
まず、洗浄が終了して、洗浄槽310から被洗浄対象物600を取り出すときのパージ行程について説明する。
【0055】
超臨界または液体状態の二酸化炭素を用いる洗浄の終了時には、洗浄槽310の内部は、高圧の二酸化炭素で満たされている。まず、開閉弁182を閉じて、コンプレッサ150を動作させて、洗浄槽310の内部の圧力を低下させる。
【0056】
それから、開閉弁201を開くと、窒素タンク200から窒素が窒素供給管330を通して洗浄槽310に供給される。洗浄槽310の内部の二酸化炭素は、洗浄槽310に供給された窒素と混合されて、排出管340に排出される。
【0057】
所定時間経過して、洗浄槽310内が窒素を含む混合気体で満たされた後、開閉弁201を閉じる。洗浄槽310の内部の圧力が大気圧以下に減圧されている状態で、コンプレッサ150の駆動を停止する。その後、洗浄槽310の内部を大気に開放して、被洗浄対象物600を取り出す。このようにすることにより、二酸化炭素の大気中への放出量を低減することができる。また、洗浄槽310の内部を大気圧以下に減圧してから洗浄槽310の内部を大気に開放しているので、洗浄槽310内の窒素を含む混合気体が急激に洗浄槽310外に放出されることがなく、使用者が窒息する危険性もない。
【0058】
次に、洗浄槽310内に被洗浄対象物600を収容して、洗浄を開始するときのパージ行程について説明する。
【0059】
洗浄槽310内を大気に開放して、被洗浄対象物600を洗浄槽310内に収容すると、洗浄槽310内は空気で満たされる。
【0060】
切替弁183を切り替えて、開閉弁184を開き、開閉弁201を開くと、洗浄槽310内は窒素タンク200内の窒素によってパージされる。所定時間経過して、洗浄槽310内が窒素によって満たされた後、開閉弁201を閉じる。その後、洗浄運転を開始する。
【0061】
このように、洗浄運転の開始前に洗浄槽310内の空気を窒素で置換することにより、洗浄運転中に、洗浄槽310内の空気に含まれていた酸素がコンプレッサ150などで圧縮されて爆発する危険性を回避することができる。
【0062】
上述のように、洗浄槽310のパージは、窒素タンク200に貯留されている置換気体として窒素を用いて行なわれる。ここで、洗浄システム1の窒素タンク200への窒素充填行程について説明する。
【0063】
第1実施形態の洗浄システム1では、窒素タンク200に充填される窒素は、(1)大気中から窒素を分離して得られる場合と、(2)二酸化炭素貯留タンク170内に貯留されている気体から窒素を分離して得られる場合とがある。
【0064】
まず、(1)について説明する。
【0065】
大気に連通している大気導入管411に接続されている切替弁401と、配管414に接続されている切替弁402とを切替えて、洗浄システム1の外部の大気が、大気導入管411を通ってコンプレッサ150に送り込まれるようにする。このように切替弁401と切替弁402とを切替えた後、コンプレッサ150を駆動すると、大気(空気)が圧縮される。圧縮された空気は、切替弁403と切替弁404が切替えられると、配管412を通って、窒素分離装置420に送られる。図1中に破線で示す矢印は、大気(空気)の流れる方向を示す。
【0066】
窒素分離装置420の有機分離膜としては、例えば、宇部興産製のポリイミド中空糸有機分離膜NM−B10Aが用いられる。この窒素分離装置420の有機分離膜に、空気(窒素〜80%、酸素〜20%)を流入させると、有機分離膜の透過側で酸素富化気体を得ることができ、有機分離膜の非透過側で窒素富化気体を得ることができる。例えば、有機分離膜圧0.7MPa、流量0.1m/hour、の条件では、純度99.9%以上の窒素が得られる。
【0067】
したがって、有機分離膜の透過側を流量調整弁405側の配管に接続し、有機分離膜の非透過側を流量調整弁407側の配管に接続して、コンプレッサ150と流量調整弁405と流量調整弁407によって有機分離膜の前後の圧力と流量を調整することによって、流量調整弁405側の配管には酸素富化気体が流れ、流量調整弁407側の配管には窒素富化気体が流れる。このとき切替弁406を配管413側に切替えることで、酸素富化気体は配管413を通って洗浄システム1の外部に放出される。流量調整弁407側の配管に流れた窒素富化気体は、窒素タンク200内に流入する。このようにして、窒素タンク200には、大気から分離された窒素富化気体が充填される。
【0068】
次に、上述の(2)の場合について説明する。
【0069】
二酸化炭素貯留タンク170内には、洗浄槽310から排出された二酸化炭素と窒素とが混合されて流入する。二酸化炭素貯留タンク170内は、混合気体の圧力が気液平衡点の6.5MPa、25℃になるように調整されているので、二酸化炭素に対する窒素のモル比率が小さいときは、液化部分の大半は二酸化炭素になり、気化部分は二酸化炭素と窒素の混合気体となる。しかし、窒素のモル比率が大きくなると、二酸化炭素の分圧が小さくなって、液化二酸化炭素は次第に気化し、ついには全ての二酸化炭素が気体となる。このように、全ての二酸化炭素が気体状態になると、供給ポンプ120によって洗浄槽310へ液化二酸化炭素を送り込むことができなくなり、二酸化炭素洗浄サイクルを継続することができなくなる。窒素比率が大きくなってきたときは、二酸化炭素洗浄サイクルを継続させるためには、二酸化炭素貯留タンク170内の窒素を窒素分離装置420で分離し、二酸化炭素の純度を元に戻すようにすればよい。さらに、この分離された窒素を洗浄槽310のパージに再利用できるようにすれば、運転効率の良いシステムが得られる。すなわち、被洗浄対象物の洗浄に用いられる二酸化炭素の純度を元に戻す行程と、窒素を分離する行程とを一度に行なうことができるので、同様の操作を繰り返す無駄をなくすことができる。
【0070】
二酸化炭素貯留タンク170内の窒素比率が大きくなり、液化二酸化炭素の液面が低下したことを液位センサ172で検知したときには、二酸化炭素貯留タンク170の気化部分を窒素分離装置420に流入させる。二酸化炭素貯留タンク170の気化部分を窒素分離装置420に流入させるためには、二酸化炭素貯留タンク170の上部に接続された配管の開閉弁173を開いて、切替弁404を切替える。
【0071】
窒素分離装置420の有機分離膜としては、例えば、宇部興産製のポリイミド中空糸有機分離膜NM−B01Aが用いられるが、この有機分離膜は、二酸化炭素に対しても酸素と同等以上の選択透過性能を持つ。そのため、窒素と二酸化炭素の混合気体を所定の圧力、流量で有機分離膜に流入させると、有機分離膜の透過側で二酸化炭素富化気体を得ることができ、有機分離膜の非透過側で窒素富化気体を得ることができる。
【0072】
上述のように、有機分離膜の透過側は流量調整弁405側の配管に接続され、有機分離膜の非透過側は流量調整弁407側の配管に接続されているので、コンプレッサ150と流量調整弁405、流量調整弁407で有機分離膜の前後の圧力と流量を調整することで、流量調整弁405側の配管には二酸化炭素富化気体が流れ、流量調整弁407側の配管には窒素富化気体が流れる。このとき切替弁406は配管414側に切替え、二酸化炭素富化気体を、切替弁402を経てコンプレッサ150に流入させる。窒素と分離され、コンプレッサ150に流入された二酸化炭素富化気体は、圧縮されて二酸化炭素貯留タンク170に戻される。このようにして、二酸化炭素貯留タンク170の二酸化炭素の純度が高まる。
【0073】
一方、窒素タンク200には、混合気体から分離された窒素富化気体が充填される。
【0074】
このように、窒素タンク200内の窒素は、以下のように、図1中に一点鎖線の矢印で示すように洗浄システム1内を循環して再利用される。すなわち、洗浄槽310内をパージするときに、配管211と窒素供給管330を通って洗浄槽310に供給される。洗浄槽310内では、窒素と二酸化炭素とが混合されて、混合気体になり、排出管340を通って洗浄槽310から排出される。洗浄槽310から排出された混合気体は、コンプレッサ150によって圧縮されて、二酸化炭素貯留タンク170内に貯留される。二酸化炭素貯留タンク170内の温度と圧力とを調整することによって、気体状態の二酸化炭素と窒素とが二酸化炭素貯留タンク170内の上部に貯まる。二酸化炭素貯留タンク170内の上部に貯まった二酸化炭素と窒素は、窒素分離装置420の有機分離膜によって分離される。分離された窒素は流量調整弁407側に流され、窒素タンク200内に流入する。
【0075】
窒素分離装置420の有機分離膜によって分離された二酸化炭素は、流量調整弁405側に流されて、配管414を通って、コンプレッサ150に戻り、圧縮されて二酸化炭素貯留タンク170内に貯留され、再び供給ポンプ120で加圧されて、被洗浄対象物600の洗浄に再利用される。
【0076】
第1実施形態においては、主溶媒である二酸化炭素のみで被洗浄対象物600を洗浄しているが、超臨界または液体状態の二酸化炭素では、被洗浄対象物600からは、いわゆる油汚れしか除去することができない。そこで、水溶性汚れやタンパク質汚れを除去するために、各々の汚れの除去に適した添加剤が用いられることが多い。添加剤が用いられる場合には、例えば、添加剤を二酸化炭素供給管320内に混入させるためのポンプ等を洗浄システム1に追加する必要がある。このような部材は、置換気体の循環のための装置とは別体として、用途に応じて追加されることができる。
【0077】
また、第1実施形態においては、窒素分離装置420の有機分離膜としては、宇部興産製のポリイミド中空糸有機分離膜NM−B01Aを用いているが、他の有機分離膜であってもよい。有機分離膜は、窒素と窒素以外の気体(二酸化炭素、酸素)のいずれか一方を選択的に透過させるものであればよい。有機分離膜の形状、流量、有機分離膜への印加圧力は、適宜選択される。
【0078】
以上のように、第1実施形態の洗浄システム1は、超臨界または液体状態の二酸化炭素によって被洗浄対象物600を洗浄する洗浄システム1において、洗浄槽310と、供給手段と、排出手段と、窒素分離装置420とを備える。洗浄槽310は、被洗浄対象物600を収容する。供給手段は、洗浄槽310内の気体と置換するための窒素を洗浄槽310に供給する。排出手段は、窒素と洗浄槽310内の気体とを含む混合気体を洗浄槽310から排出する。窒素分離装置420は、排出手段に配置され、混合気体から窒素を分離する。
【0079】
被洗浄対象物600を超臨界または液体状態の二酸化炭素で洗浄した後は、洗浄槽310の内部が二酸化炭素で満たされている。また、被洗浄対象物600を外部から洗浄槽310の内部に収容したときには、洗浄槽310の内部が空気で満たされている。供給手段によって洗浄槽310の内部に窒素を供給することによって、洗浄槽310内の二酸化炭素や空気と窒素とが混合して混合気体になる。混合気体は排出手段によって洗浄槽310から排出される。
【0080】
排出手段には、混合気体から窒素を分離する窒素分離装置420が配置されている。窒素分離装置420によって混合気体から窒素が分離される。
【0081】
このように、混合気体から窒素を分離することによって、窒素を再利用することが可能な洗浄システム1を提供することができる。
【0082】
また、第1実施形態の洗浄システム1においては、窒素分離装置420は有機分離膜を含む。
【0083】
有機分離膜を用いて混合気体から窒素を分離することによって、例えば蒸留によって窒素を分離する場合よりも、洗浄システム1の規模を小さくし、窒素の分離に必要なエネルギーも小さくすることができる。
【0084】
このようにすることにより、効率よく洗浄槽310内の気体と置換するための窒素を再利用することが可能な洗浄システム1を提供することができる。
【0085】
また、第1実施形態の洗浄システム1は、窒素分離装置420によって窒素を分離された混合気体を洗浄槽310に戻すための返還流路を備え、返還流路は窒素分離装置420と洗浄槽310とに接続されている。
【0086】
窒素分離装置420が排出手段に配置されていることによって、窒素分離装置420は、被洗浄対象物600の洗浄に用いられた二酸化炭素と窒素とを含む混合気体から窒素を分離することになる。窒素分離装置420によって混合気体から窒素が分離されると、主に二酸化炭素が残る。残った二酸化炭素を、返還流路によって洗浄槽310に戻すことによって、二酸化炭素を被洗浄対象物600の洗浄に再利用することができる。
【0087】
また、第1実施形態の洗浄システム1は、被洗浄対象物600を洗浄するための超臨界または液体状態の二酸化炭素を加圧する供給ポンプ120を備え、供給ポンプ120は、返還流路に配置されている。
【0088】
供給ポンプ120は、被洗浄対象物600を洗浄するため超臨界または液体状態の二酸化炭素を加圧する。この供給ポンプ120が返還流路に配置されていることによって、返還流路によって供給手段を通じて洗浄槽310に戻される二酸化炭素を加圧して、液化することができる。
【0089】
このように、超臨界または液体状態の二酸化炭素を加圧するための供給ポンプ120で、再利用される二酸化炭素を液化することができる。このようにすることにより、再利用される二酸化炭素を液化するための設備を追加する必要がなくなり、洗浄システム1を製作するためのコストを低減し、装置サイズを小さくすることができる。
【0090】
また、第1実施形態の洗浄システム1は、供給手段に配置され、大気から窒素を分離する窒素分離装置420を備える。大気から窒素を分離する窒素分離装置420は、有機分離膜を含む。
【0091】
このようにすることにより、窒素ボンベ等、新たに窒素を供給するための窒素保持手段を備える必要がなくなる。
【0092】
また、混合気体から窒素を分離する有機分離膜と、大気から窒素を分離する有機分離膜としては同一の有機分離膜を用いることができるので、洗浄システム1を製作するためのコストを低減し、装置サイズを小さくすることができる。
【0093】
なお、第1実施形態においては、置換気体として窒素を用いたが、置換気体は窒素以外の不活性ガス、例えばヘリウム、ネオン、アルゴンなどであってもよい。
【0094】
また、第1実施形態においては、置換気体分離手段として、有機分離膜で置換気体(窒素)を混合気体から分離する窒素分離装置420を用いたが、置換気体分離手段は他の手段であってもよい。例えば、蒸留やガス吸収法によって、混合気体から置換気体を分離する手段であってもよい。
【0095】
(第2実施形態)
図3は、この発明の第2実施形態として、洗浄システムの全体を概略的に示す図である。
【0096】
図3に示すように、第2実施形態の洗浄システム2が第1実施形態の洗浄システム1(図1)と異なる点としては、第2実施形態の洗浄システム2では、窒素分離装置420と窒素タンク200とが配管によって接続されていない。
【0097】
洗浄システム2は、窒素タンク200に、コンプレッサ510と窒素分離装置520とが配管を介して接続されている。コンプレッサ510には、開閉弁501が配置される大気導入管504が接続されている。窒素分離装置520には、流量調整弁503が配置される配管と、流量調整弁502が配置される配管とが接続されている。窒素分離装置520は、大気から窒素を分離するための有機分離膜を含む。窒素分離装置520の有機分離膜は、窒素分離装置420の有機分離膜と同じ有機分離膜である。流量調整弁502が配置される配管は窒素タンク200に接続されている。流量調整弁503が配置される配管は、大気に連通している。
【0098】
また、窒素分離装置420には流量調整弁407が配置される配管が接続されている。流量調整弁407が配置される配管は、大気に連通している。
【0099】
第2実施形態においては、大気導入管504から窒素供給管330までの配管と、この配管に接続される開閉弁501、コンプレッサ510、流量調整弁502、窒素タンク200、開閉弁201は、供給手段の一例である。
【0100】
洗浄システム2のその他の構成は、洗浄システム1と同様である。
【0101】
洗浄システム2の開閉弁501を開き、コンプレッサ510を駆動させると、大気導入管504を通して、大気がコンプレッサ510に供給される。コンプレッサ510は、大気を圧縮しながら窒素分離装置520に供給する。窒素分離装置520では、有機分離膜によって大気から窒素が分離される。窒素分離装置520においては、第1実施形態と同様に温度と圧力とを調整することによって、有機分離膜の透過側で酸素富化気体を得ることができ、有機分離膜の非透過側で窒素富化気体を得ることができる。
【0102】
窒素分離装置520で得られた酸素富化気体は、流量調整弁503が配置される配管を通して、大気中に放出される。一方、窒素富化気体は、流量調整弁502が配置される配管を通して、窒素タンク200に供給されて貯留される。
【0103】
窒素タンク200に貯留される窒素は、開閉弁201が開かれると洗浄槽310に供給されて、洗浄槽310のパージに用いられる。
【0104】
洗浄槽310のパージに用いられた窒素は、第1実施形態と同様に、洗浄槽310内で二酸化炭素と混ざり合って混合気体になり、気液分離槽130、コンプレッサ150、冷却機160、二酸化炭素貯留タンク170を経由して、窒素分離装置420に流入する。窒素分離装置420では、第1実施形態と同様に温度と圧力とを調整することによって、有機分離膜の透過側で二酸化炭素富化気体を得ることができ、有機分離膜の非透過側で窒素富化気体を得ることができる。二酸化炭素富化気体は、配管414を通してコンプレッサ150に戻されて、冷却機160、二酸化炭素貯留タンク170、供給ポンプ120を通して再び洗浄槽310に供給される。窒素富化気体は、流量調整弁407が配置される配管から、例えば、窒素を一時、貯留しておく容器に供給され、洗浄槽310の次のパージに再利用される。
【0105】
以上のように、第2実施形態の洗浄システム2は、超臨界または液体状態の二酸化炭素によって被洗浄対象物600を洗浄する洗浄システム2において、洗浄槽310と、供給手段と、排出手段と、窒素分離装置420とを備える。洗浄槽310は、被洗浄対象物600を収容する。供給手段は、洗浄槽310内の気体と置換するための窒素を洗浄槽310に供給する。排出手段は、窒素と洗浄槽310内の気体とを含む混合気体を洗浄槽310から排出する。窒素分離装置420は、排出手段に配置され、混合気体から窒素を分離する。
【0106】
被洗浄対象物600を超臨界または液体状態の二酸化炭素で洗浄した後は、洗浄槽310の内部が二酸化炭素で満たされている。また、被洗浄対象物600を外部から洗浄槽310の内部に収容したときには、洗浄槽310の内部が空気で満たされている。供給手段によって洗浄槽310の内部に置換気体を供給することによって、洗浄槽310内の二酸化炭素や空気と置換気体とが混合して混合気体になる。混合気体は排出手段によって洗浄槽310から排出される。
【0107】
排出手段には、混合気体から窒素を分離する窒素分離装置420が配置されている。窒素分離装置420によって混合気体から窒素が分離される。
【0108】
このように、混合気体から窒素を分離することによって、窒素を再利用することが可能な洗浄システム2を提供することができる。
【0109】
また、第2実施形態の洗浄システム2においては、窒素分離装置420は有機分離膜を含む。
【0110】
有機分離膜を用いて混合気体から窒素を分離することによって、例えば蒸留によって窒素を分離する場合よりも、洗浄システム2の規模を小さくし、窒素の分離に必要なエネルギーも小さくすることができる。
【0111】
このようにすることにより、効率よく洗浄槽310内の気体と置換するための窒素を再利用することが可能な洗浄システム2を提供することができる。
【0112】
また、第2実施形態の洗浄システム2は、窒素分離装置420によって窒素を分離された混合気体を洗浄槽310に戻すための返還流路を備え、返還流路は窒素分離装置420と洗浄槽310とに接続されている。
【0113】
窒素分離装置420が排出手段に配置されていることによって、窒素分離装置420は、被洗浄対象物600の洗浄に用いられた二酸化炭素と窒素とを含む混合気体から窒素を分離することになる。窒素分離装置420によって混合気体から窒素が分離されると、主に二酸化炭素が残る。残った二酸化炭素を、返還流路によって洗浄槽310に戻すことによって、二酸化炭素を被洗浄対象物600の洗浄に再利用することができる。
【0114】
また、第2実施形態の洗浄システム2は、被洗浄対象物600を洗浄するための超臨界または液体状態の二酸化炭素を加圧する供給ポンプ120を備え、供給ポンプ120は、返還流路に配置されている。
【0115】
供給ポンプ120は、被洗浄対象物600を洗浄するため超臨界または液体状態の二酸化炭素を加圧する。この供給ポンプ120が返還流路に配置されていることによって、返還流路によって供給手段を通じて洗浄槽310に戻される二酸化炭素を加圧して、液化することができる。
【0116】
このように、超臨界または液体状態の二酸化炭素を加圧するための供給ポンプ120で、再利用される二酸化炭素を液化することができる。このようにすることにより、再利用される二酸化炭素を液化するための設備を追加する必要がなくなり、洗浄システム2を製作するためのコストを低減し、装置サイズを小さくすることができる。
【0117】
また、第2実施形態の洗浄システム2は、供給手段に配置され、大気から窒素を分離する窒素分離装置520を備える。大気から窒素を分離する窒素分離装置520は、有機分離膜を含む。
【0118】
このようにすることにより、窒素ボンベ等、新たに窒素を供給するための窒素保持手段を備える必要がなくなる。
【実施例】
【0119】
この発明に従った洗浄装置では、有機分離膜を用いて、二酸化炭素と置換気体の混合気体から置換気体を分離する。有機分離膜による置換気体と二酸化炭素の分離性能を以下のように検証した。置換気体としては窒素を用いた。
【0120】
まず、図1に示す洗浄システム1の二酸化炭素貯留タンク170内の気体部分における、窒素と二酸化炭素の比率について、相平衡計算を行なった。相平衡計算には、BWRS状態方程式(a modified Benedict-Webb-Rubin's equation of state)計算を行なうことができる定常プロセスシミュレータであるCHEMSTATIONS社のCHEMCADを使用した。
【0121】
相平衡計算の結果、二酸化炭素貯留タンク170(図1)内で、6.5MPa、25℃の条件において、二酸化炭素26.5モルに窒素1.44〜3.42モルを混合したとき、二酸化炭素貯留タンク170内の気体部分の窒素モル比率は約20〜17%となった。
【0122】
この結果から、二酸化炭素貯留タンク170の気体部分は、窒素よりも二酸化炭素の比率が充分高い場合があることがわかる。そのため、この混合ガスをそのまま用いて洗浄槽310(図1)内の二酸化炭素をパージしても、洗浄槽310内の二酸化炭素比率はあまり低下しないことになる。洗浄槽310内をパージして洗浄槽310内の二酸化炭素比率を低下させるためには、二酸化炭素貯留タンク170内の混合気体から窒素富化気体を得て、この窒素富化気体で洗浄槽310内をパージする必要がある。窒素富化気体は、二酸化炭素貯留タンク170内の気体を有機分離膜に供給することによって得られる。
【0123】
そこで、次に、二酸化炭素貯留タンク170内の混合気体から窒素富化気体を得るための有機分離膜の分離性能を検証するために、有機分離膜の非透過側で得られる窒素富化気体の窒素濃度を測定した。
【0124】
図4は、有機分離膜の性能を測定するためのシステムの構成を模式的に示す図である。
【0125】
図4に示すように、分離性能測定システム700は、主に、窒素ボンベ701と、ボンベ開閉弁702と、液化二酸化炭素ボンベ703と、ボンベ開閉弁704と、ガスの混合比率と圧力を調節できるガス混合器705と、ガス混合器705の吐出ガスの圧力変動を抑制するバッファタンク706と、開閉弁707と、圧力計708と、有機分離膜709と、有機分離膜709の非透過側に接続された配管710と、配管710の圧力と流量を調整する調整弁711と、圧力計712と、流量計713と、配管710の二酸化炭素濃度を検知する検知部714と、有機分離膜709の透過側に接続された配管715とを備える。有機分離膜709としては、宇部興産製のポリイミド中空糸有機分離膜NM−B01Aを用いた。
【0126】
分離性能測定システム700の動作を説明する。
【0127】
まず、ボンベ開閉弁702を開くと、窒素が窒素ボンベ701からガス混合器705に供給される。ボンベ開閉弁704を開くと、二酸化炭素が液化二酸化炭素ボンベ703からガス混合器705に供給される。ガス混合器705は、PBI Dansensor社のMap Mix9001(N/COバッファタンク用 250L/min仕様)を用いており、精度±2%で窒素と二酸化炭素の混合ガスをバッファタンク706に吐出する。開閉弁707を開くと、混合ガスが有機分離膜709に流入する。
【0128】
有機分離膜709の非透過側の配管710の圧力と流量は調整弁711で調整される。配管710には窒素富化気体が流れる。この窒素富化気体の圧力は、圧力計712によって計測される。窒素富化気体の流量は、流量計713によって計測される。また、窒素富化気体の二酸化炭素濃度は検知部714で計測される。検知部714では、窒素富化気体をガステック製の二酸化炭素検知管2HT(二酸化炭素検出範囲:10〜100%、検知限度2%)に吸引させて濃度検出する。
【0129】
有機分離膜709の透過側は配管715に接続され大気圧力解放される。
【0130】
分離性能測定においては、ガス混合器705でガス比率設定をおこない、有機分離膜709に窒素濃度20%、二酸化炭素濃度80%の混合ガスを流入させた。ガス混合器705で流量設定をおこなうことで、圧力計708で検出される圧力(有機分離膜前圧力)が、0.65MPaおよび0.70MPaとなるようにした。また、調整弁711で流量を調整して、配管710の流量を1.5〜6.0L/分と変化させた。このとき、圧力計712で計測される圧力は、0.1MPa以下であった。以上の条件時に、検知部714で二酸化炭素濃度を計測した。
【0131】
図5は、検知部で測定した二酸化炭素の濃度を示す図である。
【0132】
図5に示すように、有機分離膜前圧力0.70MPa、流量1.5L/分、のときに、二酸化炭素濃度20%、窒素濃度80%、の気体が得られることがわかる。
【0133】
以上のように、有機分離膜分離を用いて、二酸化炭素濃度の高い気体から、充分に窒素濃度の高い気体を分離できることを確認することができた。
【0134】
以上に開示された実施の形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の実施の形態と実施例ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正と変形を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】この発明の第1実施形態として、洗浄システムの全体を概略的に示す図である。
【図2】温度と圧力を変化させたときの二酸化炭素の状態を示す図である。
【図3】この発明の第2実施形態として、洗浄システムの全体を概略的に示す図である。
【図4】有機分離膜の性能を測定するためのシステムの構成を模式的に示す図である。
【図5】検知部で測定した二酸化炭素の濃度を示す図である。
【符号の説明】
【0136】
1,2:洗浄システム、120:供給ポンプ、310:洗浄槽、420,520:窒素分離装置、600:被洗浄対象物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超臨界または液体状態の二酸化炭素によって被洗浄対象物を洗浄する洗浄装置において、
被洗浄対象物を収容するための洗浄槽と、
前記洗浄槽内の気体と置換するための置換気体を前記洗浄槽に供給する供給手段と、
置換気体と前記洗浄槽内の気体とを含む混合気体を前記洗浄槽から排出する排出手段と、
前記排出手段に配置され、混合気体から置換気体を分離する置換気体分離手段とを備える、洗浄装置。
【請求項2】
前記置換気体分離手段は有機分離膜を含む、請求項1に記載の洗浄装置。
【請求項3】
前記置換気体分離手段によって置換気体を分離された混合気体を前記洗浄槽に戻すための返還流路を備え、
前記返還流路は前記置換気体分離手段と前記洗浄槽とに接続されている、請求項1または請求項2に記載の洗浄装置。
【請求項4】
被洗浄対象物を洗浄するための超臨界または液体状態の二酸化炭素を加圧する加圧ポンプを備え、
前記加圧ポンプは、前記返還流路に配置されている、請求項3に記載の洗浄装置。
【請求項5】
置換気体は窒素であり、
前記供給手段に配置され、大気から窒素を分離する窒素分離手段を備え、
前記窒素分離手段は有機分離膜を含む、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−136860(P2010−136860A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−315482(P2008−315482)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】